(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】物体把持装置
(51)【国際特許分類】
B25J 15/08 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
B25J15/08 P
(21)【出願番号】P 2020026302
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田所 明典
(72)【発明者】
【氏名】吉川 彰一
(72)【発明者】
【氏名】十都 善行
(72)【発明者】
【氏名】樋口 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】植村 英生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大地
【審査官】渡邊 捷太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-062788(JP,A)
【文献】特開2009-006460(JP,A)
【文献】特開昭60-062492(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0077028(US,A1)
【文献】多田隈建二郎ほか Kenjiro TADAKUMA, et al. ,全方向駆動ローラ付指機構-駆動ユニットの試作と基本動作実験- Finger Mechanism Equipped Omnidirectional Driving Roller with Two Active Rotational Axes,ロボティクス・メカトロニクス講演会 ’11 講演論文集 Proceedings of the 2011 JSME Conference on Robotics and Mechatronics ,一般社団法人日本機械学会
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の位置及び姿勢を制御する物体把持装置であって、
前記対象物を把持する把持モジュールと、
前記把持モジュールの動作を制御する制御部と、を備え、
前記把持モジュールは、前記対象物に接触する球状の把持体と、
前記球状の把持体の内部を貫通する第1軸及び前記第1軸と直交する
前記球状の把持体の内部を貫通する第2軸の周りに前記把持体を回転させる駆動部と、を有し、
前記第1軸及び/又は第2軸の方向が可変である、物体把持装置。
【請求項2】
前記把持体の前記第1軸周りの回転に伴い、前記第2軸の方向が変化する、請求項1に記載の物体把持装置。
【請求項3】
複数の前記把持モジュールが、それぞれの
前記把持体が対向するように配置され、
前記把持モジュール間に前記対象物を挟持する、請求項1に記載の物体把持装置。
【請求項4】
複数の前記把持モジュールは、それぞれ、前記対象物の把持面と前記第1軸が平行となるように配置されている、請求項3に記載の物体把持装置。
【請求項5】
複数の前記把持モジュールは、それぞれ、前記対象物の把持面と前記第1軸が直交するように配置されている、請求項3に記載の物体把持装置。
【請求項6】
複数の前記把持モジュールは、独立して駆動可能である、請求項3から5のいずれか一項に記載の物体把持装置。
【請求項7】
前記把持モジュールは、位置及び姿勢を変化可能である、請求項1から6のいずれか一項に記載の物体把持装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記対象物の物体情報を取得する物体情報取得部と、
前記対象物の目的姿勢を取得する目的姿勢取得部と、
前記物体情報及び前記目的姿勢に基づいて、前記把持モジュールの行動計画を生成する行動計画生成部と、
前記行動計画に基づいて、前記把持モジュールの動作を制御する行動計画実行部と、を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の物体把持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、マニピュレーターの先端に設けられ、物体を把持する物体把持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業用ロボットの一つとして、人間の上肢と同等の機能を実現するマニピュレーターが知られている。マニピュレーターの先端には、用途に応じて様々なエンドエフェクターが装着される。例えば、特許文献1には、エンドファクター(以下、「物体把持装置」と称する)の一例として、複数の把持モジュール(指機構)により対象物を把持するロボットハンドが開示されている。特許文献1に開示の物体把持装置によれば、関節を有する屈伸可能な複数の指機構を用いて、物体に作用する力を調節しながら指機構を制御することで、物体の姿勢を変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の物体把持装置では、把持した後の物体の姿勢変化の自由度が一方向であるため、物体の姿勢を変化させるためには物体の持ち替えが必要であり、生産性が低下する虞がある。また、関節を有する指機構の構造が複雑である上、複数の指機構の動作を個別に制御する必要があり、制御処理も複雑である。
【0005】
本発明の目的は、対象物を把持したまま生産性を落とさずに、当該対象物の位置及び姿勢を自在に制御可能な物体把持装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る物体把持装置は、
対象物の位置及び姿勢を制御する物体把持装置であって、
前記対象物を把持する把持モジュールと、
前記把持モジュールの動作を制御する制御部と、を備え、
前記把持モジュールは、前記対象物に接触する球状の把持体と、前記球状の把持体の内部を貫通する第1軸及び前記第1軸と直交する前記球状の把持体の内部を貫通する第2軸の周りに前記把持体を回転させる駆動部と、を有し、
前記第1軸及び/又は第2軸の方向が可変である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、対象物を把持したまま生産性を落とさずに、当該対象物の位置及び姿勢を自在に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1A、
図1Bは、本発明の一実施の形態に係る物体把持装置を示す図である。
【
図2】
図2は、制御部の機能的な構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、把持モジュールの全体構成を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、把持モジュールの把持部の内部構造を示す分解斜視図である。
【
図9】
図9A、
図9Bは、物体把持装置における把持モジュールの移動動作の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1A、
図1Bは、本発明の一実施の形態に係る物体把持装置Aを示す図である。
図1Bは、物体把持装置Aを上方(装置ベース2側)から見た状態を示す。物体把持装置Aは、例えば、マニピュレーターの先端に取り付けられるエンドエフェクターとして使用される。
【0011】
図1A、
図1Bに示すように、物体把持装置Aは、把持モジュール1、装置ベース2、及び制御部3を備える。物体把持装置Aは、それぞれの把持体10が対向するように配置された複数の把持モジュール1を有し、複数の把持モジュール1の間に対象物Wを把持して、把持した対象物Wの位置及び姿勢を変化させることができる。なお、物体把持装置Aは、少なくとも1つの把持モジュール1を有し、把持モジュール1と固定体との間に対象物Wを把持してもよい。
【0012】
装置ベース2は、把持モジュール1が取り付けられるモジュール取付部(符号略)を有する。モジュール取付部は、例えば、把持モジュール1の位置を変化させるモジュール移動部(例えば、レールユニット等)や把持モジュール1の姿勢を変化(傾斜)させる姿勢変換部(例えば、関節ユニット等)を有し、把持モジュール1を全体的に移動させたり、姿勢を変化させたりできるように構成されている。
【0013】
制御部3は、個々の把持モジュール1、モジュール移動部及び姿勢変換部を制御し、把持モジュール1によって把持された対象物Wの位置及び姿勢を変化させる。複数の把持モジュール1は、互いに独立して駆動可能である。制御部3は、例えば、演算/制御装置としてのCPU(Central Processing Unit)、主記憶装置としてのROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備える。CPUが、ROM等から処理内容に応じたプログラムを読み出してRAMに展開し、展開したプログラムを実行することにより、個々の把持モジュール1の動作が独立して制御される。
【0014】
制御部3は、例えば、装置ベース2に内蔵され、物体把持装置Aが装着されるマニピュレーターの制御部(図示略)と協働して、把持モジュール1の動作を制御する。
図2に示すように、制御部3は、例えば、対象物Wの物体情報を取得する物体情報取得部3A、目的姿勢を取得する目的姿勢取得部3B、取得した初期姿勢及び目的姿勢に基づいて把持モジュール1の行動計画を生成する行動計画生成部3C、及び行動計画に基づいて把持モジュール1の動作を制御する行動計画実行部3Dとして機能する。
【0015】
物体情報取得部3Aは、例えば、物体把持装置1に設けられたカメラCによって撮像された画像を解析することにより、対象物Wの形状、大きさ及び初期姿勢(位置を含む)を取得する。
目的姿勢取得部3Bは、例えば、マニピュレーターの操作部Mを用いて、対象物Wを目的姿勢(位置を含む)とするための入力操作が行われた場合に、操作情報に基づいて当該入力操作を解析して、対象物Wの目的姿勢を取得する。操作情報は、対象物Wの目的の位置又は姿勢を示す情報で与えられてもよいし、対象物Wを目的の位置又は姿勢に移行させるための相対的な情報(例えば、移動距離や回転角度)で与えられてもよい。
【0016】
行動計画生成部3Cは、対象物Wの姿勢を、初期姿勢から目的姿勢に移行させるために必要な把持モジュール1の動作を演算し、行動計画を生成する。行動計画は、例えば、対象物Wを把持するときの把持モジュール1の初期姿勢(対象物Wの把持面との当接状態)、並びに対象物Wを把持した後の把持体10の回転方向、回転量、回転速度等を含む。行動計画は、それぞれの把持モジュール1ごとに生成される。
行動計画実行部3Dは、生成された行動計画に基づく操作信号を把持モジュール1に出力し、把持モジュール1の動作を制御する。なお、行動計画には、把持モジュール1自体の行動計画だけでなく、把持モジュール1の位置及び姿勢を変化させるためのモジュール移動部や姿勢変換部の行動計画が含まれてもよい。
【0017】
把持モジュール1は、対象物Wを把持(固定体に押し付けて把持する場合を含む)しながら対象物Wの位置及び姿勢を制御するためのモジュールであり、2自由度を有する。具体的には、把持モジュール1は、互いに直交するロール軸R(第1軸)及びピッチ軸P(第2軸)周りに把持体10を回転させることにより、対象物Wの位置及び姿勢を自在に変化させることができる。
【0018】
図3は、把持モジュール1の全体構成を示す斜視図である。
図4A、
図4Bは、把持モジュール1の把持部の内部構造を示す断面図である。
図5は、把持モジュール1の把持部の内部構造を示す分解斜視図である。
【0019】
図3~5に示すように、把持モジュール1は、把持体10、第1駆動部20、第2駆動部30、及び把持補助部50等を備える。把持モジュール1は、把持体10のロール軸R周りの回転に伴い、ピッチ軸Pの方向が変化するようになっている。
【0020】
把持体10は、対象物Wに接触する部分であり、全体として略球形状を有する。把持体10が略球形状を有することにより、把持する対象物Wとの接触面積を最大限に確保することができる。
【0021】
把持体10は、把持する対象物Wとの間で、対象物Wの姿勢等を変化させることができる程度の摩擦力が生じる材料(例えば、ゴム、プラスチック又はエラストマー)で形成される。把持体10の内部は中空であり、内部に把持体10をピッチ軸P周りに回転させるための機構(第2駆動部30の一部)を配置できるようになっている。
【0022】
すなわち、把持体10は、内部において、ピッチ軸P周りに回転可能に支持されている。これにより、把持体10の支持機構が対象物Wと干渉することはなく、把持体10のほぼ全面で対象物を把持することができる。また、把持体10の支持機構は、把持体10によって外力から保護されるので、異物の侵入等によって把持体10の動作が不安定となるのを防止でき、安定性が向上する。
【0023】
本実施の形態では、把持体10は、ロール軸Rに平行な平面により二分割された第1把持体11及び第2把持体12で構成されている。第1把持体11及び第2把持体12は、後述する支持フレーム22の把持体保持部222を挟み込むように取り付けられる。
把持体10が把持体保持部222を挟み込んだ状態でピッチ軸P周りに回転できるように、第1把持体11及び第2把持体12は、対向面11a、12a(
図6A、
図6B参照)が離間するように配置される。対向面11a、12aによって形成される離間部分13(以下、「オフセット部13」と称する)には、支持フレーム22の把持体保持部222の周面が、把持体10の周面よりも凹んだ状態で位置する。このオフセット部13に、把持補助部50のベルト51が配置される。
【0024】
第1把持体11及び第2把持体12は、ロール軸Rを通る平面に関して、対称的な形状を有することが好ましい。この場合、支持フレーム22の中心軸上に把持補助部50のベルト51が配置されることになる。これにより、ベルト51で対象物Wを把持する際にかかる力は、直接、支持フレーム22(把持体保持部222)に伝達されるので、ベルト51にねじれやせん断が発生することを抑制でき、安定した把持と姿勢制御が可能となる。
【0025】
また、第1把持体11及び第2把持体12は、支持フレーム22に取り付けた状態で把持体10の周面が真球形状を呈するように形成されてもよいし(
図6A参照)、対向面11a、12aを当接させたときに把持体10の周面が真球形状を呈するように形成されてもよい(
図6B参照)。
特に、
図6Aに示すように、把持体10が全体として真球形状を有するようにした場合、ロール軸Rとピッチ軸Pの交点Oから把持体10の周面までの距離が一定になるので、把持体10をロール軸R周り及び/又はピッチ軸P周りに回転させたときに対象物Wにかかる圧力は変化しない。したがって、対象物Wの把持状態が安定する。また、把持体10の周面における周速度は一定となるので、把持体10に所望の動作を行わせるための演算処理を軽減することができる。
【0026】
第1駆動部20は、ロール軸R(第1軸)の周りに把持体10を回転させるための駆動機構である。第1駆動部20は、第1駆動源21及び第1駆動源21からの動力を受けてロール軸R周りに回転する支持フレーム22を有する。第1駆動源21は、例えば、電動モーターで構成され、モーターベルト23を介して支持フレーム22に動力が伝達されるようになっている。
【0027】
第2駆動部30は、ピッチ軸P(第2軸)の周りに把持体10を回転させるための駆動機構である。第2駆動部30は、第2駆動源31、第2駆動源31からの動力を受けてロール軸R周りに回転する駆動シャフト32、駆動シャフト32のロール軸R周りの回転をピッチ軸P周りの回転に変換して把持体10に伝達する動力伝達方向変換部33、及び把持体10に固定され把持体10とともにピッチ軸P周りに回転する従動シャフト34を有する。第2駆動源31は、例えば、電動モーターで構成され、歯車伝達機構35を介して駆動シャフト32に動力が伝達されるようになっている。
【0028】
支持フレーム22は、ロール軸Rに沿って延在する支持本体部221、及び支持本体部221の一方の端部に連設され把持体10が取り付けられる把持体保持部222を有する。支持本体部221は、筒形状を有し、ロール軸Rに沿って貫通孔221aが形成されている。
【0029】
駆動シャフト32は、支持本体部221の貫通孔221aに挿通される。駆動シャフト32の一方の端部は、例えば、支持フレーム22に設けられた軸受け部42によって軸支され、他方の端部は、例えば、第1駆動源21及び第2駆動源31が配置されるモーターケースの軸受け部(図示略)によって軸支される。また、駆動シャフト32は、支持本体部221の貫通孔221aに配置されたベアリング41によって支持される。すなわち、駆動シャフト32は、支持フレーム22の動作に干渉せず、支持フレーム22のロール軸R周りの回転位置を保持したまま、回転可能となっている。
【0030】
支持フレーム22の把持体保持部222は、略円板形状を有する。把持体保持部222の一方の面には、従動シャフト34を安定した姿勢で支持できるように、突出部(符号略)が設けられる。また、把持体保持部222には、ピッチ軸Pに沿って貫通孔222aが形成されている。
【0031】
従動シャフト34は、把持体保持部222の貫通孔222aに挿通される。従動シャフト34の両端部は、例えば、第1把持体11及び第2把持体12の内面に設けられたボス(符号略)に挿入され、固定される。また、従動シャフト34は、把持体保持部222の貫通孔222aに配置されたベアリング43によって支持される。すなわち、従動シャフト34は、把持体10とともにピッチ軸P周りに回転可能となっている。
【0032】
動力伝達方向変換部33は、例えば、ピニオンギア331(駆動側歯車要素)とクラウンギア332(従動側歯車要素)を有する。ピニオンギア331は、駆動シャフト32に固定され、駆動シャフト32とともに回転する。クラウンギア332は、把持体10(第1把持体11)に固定され、ピニオンギア331と噛合する。本実施の形態では、動力伝達方向変換部33は、把持体10の内部に配置されている。
【0033】
把持モジュール1において、第2駆動源31が駆動され、駆動シャフト32が回転すると、駆動シャフト32とともにピニオンギア331がロール軸R周りに回転し、これに伴い、クラウンギア332がピッチ軸P周りに回転する。これにより、クラウンギア332が固定された把持体10がピッチ軸P周りに回転する。このとき、支持フレーム22のロール軸R周りの回転位置は保持されるので、把持体10はロール軸R周りには回転せず、ピッチ軸P周りにのみ回転する。すなわち、制御部3は、把持体10をピッチ軸P周りに回転させる場合には、第2駆動源31のみを制御する。
【0034】
一方、第1駆動源21が駆動され、支持フレーム22が回転すると、把持体10も支持フレーム22とともにロール軸R周りに回転する。すなわち、把持体10のロール軸周り10の回転に伴い、ピッチ軸Pの方向が変化する。このとき、駆動シャフト32が回転していなければ、静止状態のピニオンギア331に対してクラウンギア332がロール軸R周りに回転することになるため、クラウンギア332がピッチ軸P周りに回転し、把持体10がピッチ軸P周りに回転してしまう。そこで、把持体10をロール軸R周りに回転させる際には、第2駆動源31は、ピニオンギア331とクラウンギア332のロール軸R周りの相対位置が保持されるように、駆動シャフト32を回転させる。すなわち、制御部3は、把持体10をロール軸R周りに回転させる場合には、第1駆動源21だけでなく、第2駆動源31も制御する。これにより、把持体10を、ピッチ軸P周りの回転位置を保持したまま、ロール軸R周りに回転させることができる。
【0035】
上述したように、把持モジュール1において、把持体10は、オフセット部13を有する構成であり、把持体10の把持面(対象物Wと接触する面)の一部は不連続となっている。そのため、把持体10のロール軸R周りの回転によって、対象物Wを把持するための加圧力線上に、対象物Wとの把持接点が存在しなくなる場合が生じうる。この場合、対象物Wの姿勢等を安定して制御することが困難になる。本実施の形態では、把持補助部50を設けることにより、かかる問題が解消されている。
【0036】
把持補助部50は、把持体10のオフセット部13における対象物Wの把持を補助する。把持補助部50は、ベルト51、駆動ローラー52、従動ローラー53、及び動力分岐部54等を有する。駆動ローラー52及び従動ローラー53は、例えば、支持フレーム22に設けられたローラー支持部55に、回転可能に取り付けられる。
【0037】
ベルト51は、把持体10に形成されたオフセット部13に、ベルト51の把持面と把持体10の周面とが略面一となるように、支持フレーム22の把持体保持部222の円弧状の周面に沿って配置される。これにより、把持体10の把持面の不連続が解消される。なお、ベルト51の把持面は、オフセット部13から若干膨出してもよい。
【0038】
本実施の形態では、ベルト51は、無端ベルトで構成され、駆動ローラー52及び従動ローラー53に巻回され、把持体保持部222の周面に二重にして配置されている。ベルト51は、駆動ローラー52の回転に追従して、支持フレーム22(把持体保持部222)の周面に沿って走行する。すなわち、把持補助部50に無限軌道が適用されており、駆動ローラー52が、ベルト51を走行させるベルト駆動部を構成している。
【0039】
動力分岐部54は、駆動シャフト32と駆動ローラー52を連結し、第2駆動源31の動力を分岐して駆動ローラー52に伝達するための動力伝達部であり、例えば、複数の歯車要素を有する。駆動シャフト32の回転に伴い、駆動ローラー52が回転し、ベルト51が走行することとなる。ベルト51は、把持体10のピッチ軸P周りの回転に対して、駆動タイミング、駆動方向、周速度が同じとなるように制御される。つまり、ベルト51は、駆動シャフト32の回転に伴う把持体10のピッチ軸P周りの回転に同調するように、走行する。これにより、把持体10とベルト51が同時に駆動される際の差動成分がほぼゼロになるので、対象物Wの姿勢制御中に、把持接点が把持体10とベルト51を跨いで横断することとなっても、スムーズに横断させることができ、予期せぬ姿勢変動や対象物Wの損傷を抑制することができる。
【0040】
なお、ベルト51は、ベルト51の把持面が対象物Wとの把持接点となる場合にだけ、走行するように制御されてもよい。これにより、対象物Wの姿勢等を制御する際の消費電力を低減することができる。
【0041】
本実施の形態では、第2駆動源31は、ベルト51を走行させるベルト駆動部の駆動源を兼用している。これにより、簡単な構成でベルト51を駆動することが可能となり、また、駆動用の給電経路や制御用の信号経路を確保する必要がないので、把持モジュール1の構成を簡素化できるとともに、小型化を図ることができる。
【0042】
ここで、ベルト51は、動摩擦係数及び静摩擦係数が把持体10と同等であることが好ましい。これにより、対象物Wと接触する把持接点の不連続を解消でき、対象物Wの姿勢等を制御する際に、把持体10からベルト51にかけて把持接点が横断しても、摩擦力が急激に変化することはなく、対象物Wの滑落や姿勢等の想定外の変化を防止することができる。
【0043】
物体把持装置Aは、以上のような構成を有することにより、対象物Wの位置及び姿勢を様々な態様で変化させることができる。物体把持装置Aは、例えば、把持モジュール1で把持した対象物Wを水平方向に移動させる第1の動作、対象物Wを鉛直方向に移動させる第2の動作、対象物Wをその場で回転させる第3の動作を行うことができる。また、物体把持装置Aは、第1~第3の動作を組み合わせることにより、対象物Wを回転させながら移動させるなど、対象物Wの位置及び姿勢を自在に制御することができる。
【0044】
図7A~
図7Cは、物体把持装置Aの動作の一例を示す図である。
図7A~
図7Cでは、それぞれの把持モジュール1のロール軸Rと対象物Wの把持面とが平行となるように、2つの把持モジュール1が鉛直に配置されている場合について示している。
【0045】
図7Aは、物体把持装置Aによる第1の動作を示している。すなわち、物体把持装置Aは、対象物Wを把持している把持モジュール1において、第1駆動部20を駆動させて、ロール軸Rの周りに把持体10(本実施の形態では把持モジュール1の全体)を回転させる。これにより、対象物Wをロール軸Rと直交する水平方向に移動させることができる。
【0046】
図7Bは、物体把持装置Aによる第2の動作を示している。すなわち、物体把持装置Aは、対象物Wを把持している把持モジュール1において、ピッチ軸Pも対象物Wの把持面と平行となるように把持モジュール1の姿勢を調整した状態で、第2駆動部30を駆動させて、ピッチ軸Pの周りに把持体10を回転させる。これにより、対象物Wをピッチ軸Pと直交する鉛直方向に移動させることができる。
【0047】
図7Cは、物体把持装置Aによる第3の動作を示している。すなわち、物体把持装置Aは、対象物Wを把持している把持モジュール1において、ピッチ軸Pが対象物Wの把持面と直交するように把持モジュール1の姿勢を調整した状態で、第2駆動部30を駆動させて、ピッチ軸Pの周りに把持体10を回転させる。これにより、位置を保持したままピッチ軸P周りに対象物Wを回転させることができる。
【0048】
また、上述した物体把持装置Aによる第1~第3の動作は、
図8A~
図8Cに示す態様でも実現可能である。
図8A~
図8Cでは、それぞれの把持モジュール1のロール軸Rと対象物Wの把持面とが直交するように、2つの把持モジュール1が水平に配置されている場合について示している。
【0049】
図8Aは、物体把持装置Aによる第1の動作を示している。すなわち、物体把持装置Aは、対象物Wを把持している把持モジュール1において、ピッチ軸Pが鉛直になるように把持モジュール1の姿勢を調整した状態で、第2駆動部30を駆動させて、ピッチ軸Pの周りに把持体10を回転させる。これにより、対象物Wをピッチ軸Pに直交する水平方向に移動させることができる。
【0050】
図8Bは、物体把持装置Aによる第2の動作を示している。すなわち、物体把持装置Aは、対象物Wを把持している把持モジュール1において、ピッチ軸Pが水平になるように把持モジュール1の姿勢を調整した状態で、第2駆動部30を駆動させて、ピッチ軸Pの周りに把持体10を回転させる。これにより、対象物Wをピッチ軸Pに直交する鉛直方向に移動させることができる。
【0051】
図8Cは、物体把持装置Aによる第3の動作を示している。すなわち、物体把持装置Aは、対象物Wを把持している把持モジュール1において、第1駆動部20を駆動させて、ロール軸Rの周りに把持体10(本実施の形態では把持モジュール1の全体)を回転させる。これにより、位置を保持したままロール軸R周りに対象物Wを回転させることができる。
【0052】
また、物体把持装置Aにおいて、把持モジュール1は、全体的に移動させたり、姿勢を変化させたりできるように構成されているので、様々な形状や大きさの対象物Wに対応でき、把持したまま対象物Wの位置及び姿勢を変化させることができる。
【0053】
例えば、
図9Aに示すように、3つの把持モジュール1で対象物Wを把持する場合に、同じ把持面に当接する把持モジュール1を接近又は離間させることにより、様々な長さの対象物Wに対応することができる。
また、
図9Bに示すように、3つの把持モジュール1で対象物Wを把持する場合に、対象物Wを挟んで対向する把持モジュール1を接近又は離間させることにより、様々な幅の対象物Wに対応することができる。
【0054】
また例えば、
図10A、
図10Bに示すように、2つの把持モジュール1で把持面が傾斜した対象物Wを把持する場合にも対応することができる。
図10A、
図10Bでは、上方に向けて幅が狭くなる対象物Wを、鉛直下方に移動させる場合について示している。この場合、対象物Wを鉛直下方に移動させるに伴い、把持モジュール1同士を接近させることで、把持状態を保持したまま、対象部Wを適切に移動させることができる。
【0055】
このように、本実施の形態に係る物体把持装置Aは、対象物Wの位置及び姿勢を制御する物体把持装置であって、対象物Wを把持する把持モジュール1と、把持モジュール1の動作を制御する制御部3と、を備える。把持モジュール1は、対象物Wに接触する球状の把持体10と、ロール軸R(第1軸)及びロール軸Rと直交するピッチ軸P(第2軸)の周りに把持体10を回転させる第1駆動部20及び第2駆動部30(駆動部)と、を有し、ロール軸R及びピッチ軸Pの方向が可変となっている。
【0056】
これにより、把持体10によって対象物Wを把持したまま生産性を落とさずに、把持体10と対象物Wとが接触する接平面上において、自在に対象物Wの姿勢等を制御することができる。例えば、物体把持装置Aに設けられる複数の把持モジュール1の姿勢を制御するとともに、それぞれの把持モジュール1の把持体10の回転方向、回転量及び回転速度を制御することで、対象物Wを移動させたり、姿勢を変化させることができる。
【0057】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0058】
例えば、把持モジュール1の具体的な構成は、実施の形態で説明した構成に限定されない。すなわち、把持モジュール1が、ロール軸(第1軸)及びピッチ軸(第2軸)の周りに回転可能な把持体10を有し、ロール軸の方向及び/又はピッチ軸の方向が可変であればよい。
【0059】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0060】
1 把持モジュール
2 装置ベース
3 制御部
3A 物体情報取得部
3B 目的姿勢取得部
3C 行動計画生成部
3D 行動計画実行部
10 把持体
20 第1駆動部(駆動部)
30 第2駆動部(駆動部)
A 物体把持装置
R ロール軸(第1軸)
P ピッチ軸(第2軸)