(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】細胞培養プロセスに使用するための溶液処理デバイス
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240723BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240723BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240723BHJP
C12N 1/02 20060101ALI20240723BHJP
C12P 1/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12M3/00 Z
C12N1/00 B
C12N1/02
C12P1/00 Z
(21)【出願番号】P 2021104556
(22)【出願日】2021-06-24
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生田目 哲志
(72)【発明者】
【氏名】橋本 凌
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/089661(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/189417(WO,A1)
【文献】特表平06-510205(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0333815(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104195187(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00 - 3/10
C12N 1/00
C12N 1/02
C12P 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養プロセスに使用するための溶液処理デバイスであって、
培養槽からの培養液を貯留する沈殿槽と、
前記培養槽と前記沈殿槽とを連通する管と、
前記沈殿槽に接続する、細胞濃縮液を排出する第1の排出管と、
前記沈殿槽に接続する、上澄み液を排出する第2の排出管と、
ポンプと、
制御部と
を備え、
前記制御部が、前記沈殿槽内での重力沈降による前記培養液の上澄み液と細胞濃縮液への分離後、
(a)前記上澄み液を前記連通する管から前記培養槽に返送し、前記細胞濃縮液を第1の排出管から回収する
、および/または
(b)前記上澄み液を第2の排出管から回収し、前記細胞濃縮液を前記培養槽に返送する、
ように前記ポンプを制御することを特徴とする溶液処理デバイス。
【請求項2】
第1の排出管と第2の排出管とを接続する流路切替弁をさらに備え、
前記制御部が、前記流路切替弁の弁の切替えと、前記ポンプの正動作および逆動作を制御し、前記上澄み液および前記細胞濃縮液の移動を制御する、請求項
1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記連通する管が前記沈殿槽の上部に接続され、
第1の排出管が前記沈殿槽の下部または底部に接続され、ならびに/あるいは
第2の排出管が前記沈殿槽の上部かつ前記連通する管と近接しない位置に接続される、請求項1
又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記沈殿槽が、培養槽の内部に設置されるものである、請求項1~
3のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記沈殿槽が温度調整機構を備えるものである、請求項1~
4のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記制御部が、前記上澄み液を前記培養槽に返送する際に、前記細胞濃縮液中の細胞の浮上を抑制するように返送の送液速度を制御する、請求項1~5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項7】
細胞を含む培養液を収容する培養槽と、
攪拌デバイスと、
請求項1~
6のいずれか1項に記載のデバイスと
を備えることを特徴とする細胞培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養プロセスにおいて、細胞を分離および/または濃縮する方法、ならびにそのための溶液処理デバイスに関する。また本発明は、細胞培養により目的生産物を生産する方法、および細胞培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ医薬品の生産は、生物反応により目的生産物を生産する培養工程と、そこで発生した夾雑物を取り除き、目的生産物の純度を上げる精製工程から構成される。バイオ医薬品を代表する抗体医薬品の培養工程では、主にCHO細胞などの動物細胞が多く用いられるが、動物細胞は培養環境の影響を受けやすく、環境が適切に維持されないと目的生産物の収量および品質に影響を及ぼす。培養環境の悪化の要因には、攪拌・ガス通気による力学的応力、栄養素や酸素の枯渇、細胞により産生される乳酸やアンモニアといった老廃物の蓄積などが挙げられる。従って、培養液中の溶存酸素(DO)濃度、pH、温度、攪拌速度などの基本的な環境因子の制御を行いつつ、培養中に細胞が要求する物質を補填する製造方法が用いられている。培養中の補填物質としては、培地中に含まれる栄養成分や、増強剤と呼ばれる細胞の増殖速度または生産速度を向上させる物質などである。
【0003】
培養中に物質を補填する培養方法には、連続培養(Continuous Culture)、灌流培養(Perfusion Culture)、流加培養(Fed-Bach Culture)がある。連続培養は、培養中に細胞を含む培養液の一部を抜き取り、抜き取った量に相当する培養液を新たに投入しながら培養する方法である。灌流培養は、培養中に細胞を分離した液体成分のみを一部抜き取り、抜き取った量に相当する培養液を新たに投入しながら培養する方法である。連続培養および灌流培養はいずれも培養環境を一定に保ちやすく、安定した生産が行えることが特徴であり、近年、研究開発や製造への適用が盛んに行われている。特に抗体医薬品の生産においては、
図1のAおよびBに示すような灌流培養は細胞を高密度に維持し易いため、時間あたりの生産速度を高く保つことができることから、多くの研究報告がなされている(例えば、特許文献1~3)。
【0004】
灌流培養の培養開始時には、培養槽に培地と細胞が入れられ(初期密度2×105~1×106 cells/mL程度)、培養槽の温度、pH、DOが適切に維持されることで細胞増殖が進行する。細胞がある程度増殖した段階(2日目~3日目)で培地が培養槽に連続的に供給され、供給量と同量のハーベスト液(除細胞液)が回収される。供給量と回収量が同量のため、培養槽内の培養液体積は一定に保たれる。また、細胞はTFF(タンジェンシャルフローフィルトレーション)やATF(交互タンジェンシャルフローフィルトレーション)と呼ばれる徐細胞装置の中空糸フィルタの作用により培養槽内に留まるため、灌流が開始された後も培養槽内で増殖を続ける。細胞の数が一定の密度(1×107~1×108 cells/mL程度)以上に増殖すると、上述したようなDO制御や栄養成分の調整が難しくなり、培養環境を悪化させることに繋がる。そのため、一般的には細胞密度を適切な範囲に抑えるために、目標値以上に増殖した時点から、培養液を抜き取ることで増え過ぎた分の細胞を培養槽外に排出する手段(ブリード処理)を講じる。通常、灌流率(1日あたりに培養液体積に対する培地投入量の割合)は1~3 VVD程度、排出されるブリード液量は0.2~0.5 VVD程度であり、4週間~12週間程度運転される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-213497号公報
【文献】国際公開WO2018/159847号
【文献】国際公開WO2015/012174号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
灌流培養などの細胞培養プロセスには以下のような課題があった。すなわち、上述したような細胞を排出するブリード処理を行う際に、排出されるブリード溶液には抗体などの目的生産物が含まれるため、ブリード処理を多く行うと生産物の回収効率が低下する。あるいは、排出されるブリード溶液から細胞を除去し、目的生産物を回収することもできるが、操作や装置構成が複雑となる。従って、排出するブリード溶液量はできる限り低く抑えることが求められており、理想的には、目標の細胞密度に達した後は細胞の生産速度を維持したまま細胞増殖を停止させることが望ましい。現状、そのような手段はなく、培養液量に対して2~3割の培養液がブリード処理により培養槽外に排出されている。増殖の速い細胞では培養液量に対し6割程の培養液をブリード処理しなければ細胞密度を制御することができない。
【0007】
また、別の課題として、死細胞由来の細胞片(デブリ)や凝集細胞の増加により培養槽内の培養環境が悪化することがあった。すなわち、培養槽の環境を適切に維持できたとしても、一定の割合で細胞死は発生する。それら死細胞のみを分離し排出する手段がないため、時間の経過と共に死細胞は増えていく。また、死細胞はネクローシスやアポトーシスなどの死滅形式により分解の速さや程度は異なるが、時間と共に分解してデブリとなる。除細胞フィルタは通常0.2μm程度の孔径が採用されることが多く、それよりも大きな粒子はハーベスト液として排出されないため培養槽内にデブリが増加する。ブリード処理により一定量のデブリは排出されるが、多くは培養槽内に留まるため、培養が進むにつれて死細胞由来のデブリが増え培養環境が悪化する。さらに、細胞凝集や細胞肥大化についても同様の問題があり、それら異常な細胞を分離し排出する手段がないため、培養経過と共に培養槽の環境は徐々に悪化していき、特に増殖の速い細胞については1ヵ月以上の長期に渡って培養を安定的に運転することが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は研究を重ねた結果、細胞培養プロセスのブリード処理として培養液を培養槽から取り出す管の経路中に沈殿槽を設けることで、沈殿槽内での重力沈降により細胞濃縮液と上澄み液を分離し、そのどちらか一方を回収し、残りを培養槽に戻すことによって、簡便かつ効率的に細胞を分離および/または濃縮することができることを見出した。このような細胞の分離および/または濃縮により、ブリード処理溶液の量を低減し、またはデブリを選択的に排出できるという知見に至った。また、このような処理および手段を細胞培養プロセスにおける細胞の分離処理および/または細胞の単離処理に適用できることを見出した。本発明は、上記知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は次の[1]~[15]を提供するものである。
[1]細胞培養プロセスに使用するための溶液処理デバイスであって、
培養槽からの培養液を貯留する沈殿槽と、
前記培養槽と前記沈殿槽とを連通する管と、
前記沈殿槽に接続する、細胞濃縮液を排出する第1の排出管と、
ポンプと、
制御部と
を備え、前記制御部が、前記沈殿槽内での重力沈降による前記培養液の上澄み液と細胞濃縮液への分離後、前記上澄み液を前記連通する管から前記培養槽に返送し、前記細胞濃縮液を第1の排出管から回収するように前記ポンプを制御することを特徴とする溶液処理デバイス。
[2]前記沈殿槽に接続する、前記上澄み液を排出する第2の排出管をさらに備え、
前記制御部が、前記上澄み液を第2の排出管から回収し、前記細胞濃縮液を前記連通する管から前記培養槽に返送するように前記ポンプをさらに制御する、[1]に記載のデバイス。
[3]細胞培養プロセスに使用するための溶液処理デバイスであって、
培養槽からの培養液を貯留する沈殿槽と、
前記培養槽と前記沈殿槽とを連通する管と、
前記沈殿槽に接続する、上澄み液を排出する第2の排出管と、
ポンプと、
制御部と
を備え、前記制御部が、前記沈殿槽内での重力沈降による前記培養液の上澄み液と細胞濃縮液への分離後、前記上澄み液を第2の排出管から回収し、前記細胞濃縮液を前記連通する管から前記培養槽に返送するように前記ポンプを制御することを特徴とする溶液処理デバイス。
[4]前記沈殿槽に接続する、前記細胞濃縮液を排出する第1の排出管をさらに備え、
前記制御部が、前記上澄み液を前記連通する管から前記培養槽に返送し、前記細胞濃縮液を第1の排出管から回収するように前記ポンプをさらに制御する、[3]に記載のデバイス。
[5]第1の排出管と第2の排出管とを接続する流路切替弁をさらに備え、
前記制御部が、前記流路切替弁の弁の切替えと、前記ポンプの正動作および逆動作を制御し、前記上澄み液および前記細胞濃縮液の移動を制御する、[2]または[4]に記載のデバイス。
[6]前記連通する管が前記沈殿槽の上部に接続され、
第1の排出管が前記沈殿槽の下部または底部に接続され、ならびに/あるいは
第2の排出管が前記沈殿槽の上部かつ前記連通する管と近接しない位置に接続される、[1]~[5]のいずれかに記載のデバイス。
[7]前記沈殿槽が、培養槽の内部に設置されるものである、[1]~[6]のいずれかに記載のデバイス。
[7-1]前記沈殿槽が傾斜板を備えるものである、[1]~[7]のいずれかに記載のデバイス。
[8]前記沈殿槽が温度調整機構を備えるものである、[1]~[7]のいずれかに記載のデバイス。
[8-1]前記沈殿槽が酸素取り込み手段を備えるものである、[1]~[7]のいずれかに記載のデバイス。
[8-2]前記沈殿槽の下部または底部に第3の排出管およびチェックバルブをさらに備えるものである、[1]~[7]のいずれかに記載のデバイス。
[8-3]前記連通する管がチェックバルブを備えるものである、[1]~[7]のいずれかに記載のデバイス。
【0010】
[9]細胞を含む培養液を収容する培養槽と、
攪拌デバイスと、
[1]~[8]のいずれかに記載のデバイスと
を備えることを特徴とする細胞培養システム。
[9-1]前記培養液から回収される目的生産物を格納する槽をさらに備える、[9]に記載のシステム。
【0011】
[10]細胞培養プロセスにおいて細胞を分離および/または細胞を濃縮する方法であって、
培養槽から培養液を沈殿槽に取り出す工程、
前記沈殿槽内で重力沈降により前記培養液を上澄み液と細胞濃縮液に分離する工程、
前記上澄み液を前記培養槽に返送し、前記細胞濃縮液を回収する工程
を含む細胞の分離および/または細胞の濃縮方法。
[11]1シーケンスの時間、および単位時間あたりの培養液の取り出し量または単位時間あたりの回収する細胞数に基づいて、前記重力沈降の待ち時間、前記培養液の送液時間、前記上澄み液および/または前記細胞濃縮液の送液時間、前記細胞濃縮液の回収量、ならびに前記上澄み液の返送量からなる群より選択される少なくとも1つを計算する、[10]に記載の方法。
[12]前記上澄み液を前記培養槽に返送する際に、前記細胞濃縮液中の細胞の浮上を抑制するように返送の送液速度を制御する、[10]または[11]に記載の方法。
[13]細胞培養プロセスにおいて細胞を分離および/または細胞を濃縮する方法であって、
培養槽から培養液を沈殿槽に取り出す工程、
前記沈殿槽内で重力沈降により前記培養液を上澄み液と細胞濃縮液に分離する工程、
前記上澄み液を回収し、前記細胞濃縮液を前記培養槽に返送する工程
を含む細胞の分離および/または細胞の濃縮方法。
[14]1シーケンスの時間、および単位時間あたりの培養液の取り出し量または単位時間あたりの回収する細胞数に基づいて、前記重力沈降の待ち時間、前記培養液の送液時間、前記上澄み液および/または前記細胞濃縮液の送液時間、前記上澄み液の回収量、ならびに前記細胞濃縮液の返送量からなる群より選択される少なくとも1つを計算する、[13]に記載の方法。
【0012】
[15]培養槽において、目的生産物を生産する細胞を培養する工程、
[10]~[14]のいずれかに記載の方法を実施する工程、
前記培養槽の培養液から前記目的生産物を回収する工程
を含む、細胞培養により目的生産物を生産する方法。
[15-1]前記細胞が哺乳動物細胞である、[15]に記載の方法。
[15-2]前記目的生産物が目的タンパク質を含む、[15]に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、細胞培養プロセスにおける過剰な細胞を簡便かつ効率的に分離および/または濃縮することにより正常な細胞の廃棄を低減でき、またデブリなどの不要な物質を効率的に除去することができる。そのため、本発明は、細胞培養、細胞培養によるバイオ医薬品の生産などの分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】慣用的な灌流培養の概略図(A)および慣用的な灌流培養の細胞培養システムの構成例(B)を示す。
【
図2】溶液処理デバイスの一実施形態を示す概略図である。
【
図3】溶液処理デバイスの培養槽への設置例を示す概略図である。
【
図4】細胞の分離および/または濃縮方法の濃縮シーケンス(A)および清澄化シーケンス(B)のフロー例を示す。
【
図5】濃縮シーケンスおよび清澄化シーケンスのST1のフロー例(A)と、溶液処理デバイスの動作例の概略図(B)を示す。
【
図6】濃縮シーケンスおよび清澄化シーケンスのST2のフロー例(A)と、溶液処理デバイスの動作例の概略図(B)を示す。
【
図7】沈殿槽内での重力沈降による培養液の分離において、待ち時間と沈殿する細胞数との関係を示すグラフである。
【
図8】濃縮シーケンスのST3のフロー例(A)と、溶液処理デバイスの動作例の概略図(B)を示す。
【
図9】濃縮シーケンスのST4のフロー例(A)と、溶液処理デバイスの動作例の概略図(B)を示す。
【
図10】清澄化シーケンスのST3'のフロー例(A)と、溶液処理デバイスの動作例の概略図(B)を示す。
【
図11】清澄化シーケンスのST4'のフロー例(A)と、溶液処理デバイスの動作例の概略図(B)を示す。
【
図14】沈殿槽内の清澄液層における細胞沈降後の細胞分布変化のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、細胞培養プロセスにおいて、好ましくはブリード処理を行う際に、細胞を分離するおよび/または細胞を濃縮する方法、ならびにそのための溶液処理デバイスに関する。本明細書中、ブリード処理とは、細胞培養プロセス、特に灌流培養プロセスにおいて、培養槽内で増加した細胞の一部を含む培養液を抜き取ることで、余分な細胞を培養槽外に排出することを指し、その抜き取られた培養液をブリード処理溶液という。
【0016】
本発明においては、培養液を培養槽から取り出す管(例えば、ブリード処理として培養液を培養槽から取り出す管)の経路中に沈殿槽を設けることで、沈殿槽内での重力沈降により細胞濃縮液と上澄み液を分離し、そのどちらか一方を回収し、残りを培養槽に戻すことによって、細胞を分離し、および/または細胞を濃縮する。これにより、正常細胞と異常細胞(肥大化細胞、凝集した細胞)およびデブリとを分離し、異常細胞とデブリを回収し、および/または正常細胞のみを培養槽に返送する。
【0017】
細胞濃縮液を排出する場合(濃縮シーケンス)は、凝集した細胞や肥大化した細胞を選択的に除去可能であり、かつ濃縮によって排出する細胞培養液の量を低減できる。例えば、本発明をブリード処理に適用する場合には、ブリード溶液の濃縮によってブリード量を低減することができる。具体的には、ブリード処理により排出される培養液の細胞密度を濃縮することができ、細胞密度を一定に保つためのブリード量を抑制できる。また、その際に細胞凝集体や肥大化した細胞を優先的に除去できるため、培養環境をより長期間にわたり良好に保つ効果も同時に得られる。
【0018】
また、上澄み液を排出する場合(清澄化シーケンス)は、細胞培養液からデブリを選択的に除去可能である。例えば、本発明をブリード処理に適用する場合には、ブリード溶液の清澄化によりデブリを選択的に排出し、培養環境を長期間にわたり良好に保つことができる。
【0019】
以下、図面を参照して本発明の具体的な態様および実施形態について説明するが、本発明はそのような具体的な態様および実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0020】
(溶液処理デバイス)
一態様において、本発明は、
培養槽からの培養液を貯留する沈殿槽と、
前記培養槽と前記沈殿槽とを連通する管と、
前記沈殿槽に接続する、細胞濃縮液を排出する第1の排出管と、
ポンプと、
制御部と
を備える細胞培養プロセスに使用するための溶液処理デバイスを提供する。ここで、前記制御部は、前記沈殿槽内での重力沈降による前記培養液の上澄み液と細胞濃縮液への分離後、
(a)前記上澄み液を前記連通する管から前記培養槽に返送し、前記細胞濃縮液を第1の排出管から回収する、
ように前記ポンプを制御する。一実施形態において、溶液処理デバイスは、前記沈殿槽に接続する、上澄み液を排出する第2の排出管をさらに備えてもよく、前記制御部は、(b)前記上澄み液を第2の排出管から回収し、前記細胞濃縮液を前記連通する管から前記培養槽に返送するように前記ポンプをさらに制御する。
【0021】
別の態様において、本発明は、
培養槽からの培養液を貯留する沈殿槽と、
前記培養槽と前記沈殿槽とを連通する管と、
前記沈殿槽に接続する、上澄み液を排出する第2の排出管と、
ポンプと、
制御部と
を備える細胞培養プロセスに使用するための溶液処理デバイスを提供する。ここで、前記制御部は、前記沈殿槽内での重力沈降による前記培養液の上澄み液と細胞濃縮液への分離後、
(b)前記上澄み液を第2の排出管から回収し、前記細胞濃縮液を前記連通する管から前記培養槽に返送する、
ように前記ポンプを制御する。一実施形態において、溶液処理デバイスは、前記沈殿槽に接続する、細胞濃縮液を排出する第1の排出管をさらに備えてもよく、前記制御部は、(a)前記上澄み液を前記連通する管から前記培養槽に返送し、前記細胞濃縮液を第1の排出管から回収するように前記ポンプをさらに制御する。
【0022】
さらなる態様において、本発明は、
培養槽からの培養液を貯留する沈殿槽と、
前記培養槽と前記沈殿槽とを連通する管と、
前記沈殿槽に接続する、細胞濃縮液を排出する第1の排出管と、
前記沈殿槽に接続する、上澄み液を排出する第2の排出管と、
ポンプと、
制御部と
を備える細胞培養プロセスに使用するための溶液処理デバイスを提供する。ここで、前記制御部は、前記沈殿槽内での重力沈降による前記培養液の上澄み液と細胞濃縮液への分離後、
(a)前記上澄み液を前記連通する管から前記培養槽に返送し、前記細胞濃縮液を第1の排出管から回収する、および/または
(b)前記上澄み液を第2の排出管から回収し、前記細胞濃縮液を前記連通する管から前記培養槽に返送する、
ように前記ポンプを制御する。一実施形態において、前記制御部は、(a)前記上澄み液を前記連通する管から前記培養槽に返送し、前記細胞濃縮液を第1の排出管から回収する、および(b)前記上澄み液を第2の排出管から回収し、前記細胞濃縮液を前記連通する管から前記培養槽に返送する、ように前記ポンプを制御する。
【0023】
本発明に係る溶液処理デバイスは、細胞培養プロセスにおいて、例えばブリード処理、細胞分離処理、細胞単離処理、細胞回収処理などにおいて使用することができる。
【0024】
例えば、制御部は、ポンプの正動作および逆動作を制御して、前記上澄み液および前記細胞濃縮液の移動を制御する。また、溶液処理デバイスは、少なくとも1つのポンプを備えるが、複数のポンプを備えてもよい。例えば、1つのポンプが、前記連通する管(本明細書中、連通管ともいう)、および/または第1の排出管、および/または第2の排出管の全てにおける上澄み液および細胞濃縮液の移動を制御するものであってもよいし、複数のポンプが、連通管、および/または第1の排出管、および/または第2の排出管のうちの1つまたは2つにおける液の移動を制御するものであってもよい。1つのポンプが2つ以上の管における液の移動を制御する場合には、流路切替弁を使用して、それぞれの管における液の移動を制御できるようにする。
【0025】
したがって、一実施形態において、溶液処理デバイスは、流路切替弁をさらに備えてもよい。例えば、溶液処理デバイスは、第1の排出管と第2の排出管とを接続する流路切替弁を備える。これにより、設置するポンプの数を少なくすることができ、簡潔な構成とすることができる。灌流培養プロセスは、
図1のBに示すように培養液の流入/流出ラインが複数あり、流量を調整するポンプを同時に複数台コントロールする必要がある。そのため、流路切替弁を使用してポンプの数を減らすことにより、デバイスおよびシステムの運転を簡略化できる。また、流路切替弁の動作により、沈殿槽内への気泡の残留を抑制することができる。流路切替弁が存在する場合、制御部は、流路切替弁の弁の切替えと、ポンプの正動作および逆動作を制御し、前記上澄み液および前記細胞濃縮液の移動を制御する。
【0026】
沈殿槽は、培養液を貯留し、重力沈降により上澄み液と細胞濃縮液に分離するために適した形状、大きさおよび材質で形成される。沈殿槽の形状は、円筒形または多角柱などの形態とすることができ、底部は細胞濃縮液が沈降して集積しやすいように錐体形状となっていることが好ましい。沈殿槽の大きさ(容量)は、培養槽の大きさ、貯留する培養液量(例えば、ブリード処理溶液量)、処理(例えばブリード処理)の速度、培養する細胞の種類、大きさおよび増殖速度などに応じて、適宜設定することができる。沈殿槽の材質は、細胞培養容器に慣用的に使用されている材質であれば特に限定されるものではない。
【0027】
連通管、第1の排出管および第2の排出管、ならびにポンプは、細胞培養において慣用的に使用されているものを使用することができ、当業者であれば適宜選択することができる。制御部は、溶液処理デバイスに関して、培養液、上澄み液および細胞濃縮液の移動のうちの少なくとも1つを制御する。例えば、制御部は、培養槽から沈殿槽への適当な量の培養液の流入、細胞濃縮液の回収または培養槽への返送、ならびに/あるいは上澄み液の回収または培養槽への返送を制御するように構成される。制御部は、当技術分野で公知の任意の制御手段を使用することができ、例えばコンピュータとすることができる。
【0028】
好ましい実施形態において、連通管は、沈殿槽の上部に接続される。好ましい実施形態において、第1の排出管は、沈殿槽の下部または底部、好ましくは底部に接続される。好ましい実施形態において、第2の排出管は、沈殿槽の上部かつ連通管と近接しない位置に接続される。
【0029】
以下において、本発明に係る溶液処理デバイスの構成について、具体的な実施形態を参照して説明する。
図2は、溶液処理デバイスの一実施形態を示す概略図であり、
図3は、溶液処理デバイスの培養槽への設置例を示す概略図である。
【0030】
図2に示す溶液処理デバイス20は、培養槽と沈殿槽2とを連通する管1、沈殿槽2、濃縮液用の排出管3、上澄み液用の排出管4、流路切替弁5、送液ポンプ6、およびコントローラ7を備える。
図3は、デバイス20を、攪拌棒31を備えた培養槽30の内部に設置している設置例を示す。
【0031】
この実施形態において、溶液処理デバイス20は、培養槽30から連通管1を通って培養液を沈殿槽2に貯留し、沈殿槽2内での重力沈降による培養液の上澄み液と細胞濃縮液への分離後、(a)上澄み液を連通管1から培養槽30に返送し、細胞濃縮液を排出管3から回収する。ならびに/あるいは、溶液処理デバイス20は、沈殿槽2内での重力沈降による培養液の上澄み液と細胞濃縮液への分離後、(b)上澄み液を排出管4から回収し、細胞濃縮液を連通管1から培養槽30に返送する。本実施形態では、(a)および(b)の両方の操作を行うことが可能な構成としたが、(a)のみまたは(b)のみの操作を行う構成としてもよい。ポンプ6は、各管および沈殿槽内の液体を移動させるための送液ポンプであり、コントローラ7は少なくともポンプ6を制御し、図示するように1つのポンプが複数の管に接続する場合には流路切替弁5も制御する。一方、複数のポンプが存在する場合には、コントローラ7は、それぞれのポンプを制御する。
【0032】
溶液処理デバイス20のそれぞれの構成要素は、例えば、ブリードライン(ブリード処理、すなわち細胞の排出を行うライン)に沈殿槽を設けることで、ブリード溶液の細胞密度を調整できるように設計する。
【0033】
沈殿槽2の容量(サイズ)は、例えば、沈殿槽2内での細胞の沈降速度を考慮して設定することができる。細胞の沈降速度は、細胞の大きさ、形態、密度などに応じて異なる。例えば、細胞の沈降速度は、以下のストークスの式(1)により近似することができる(水浄化フォーラム-科学と技術-沈殿池の基礎(インターネットサイトhttp://water-solutions.jp/commentary/solid-liquid_separation/settling-pond_basics/))。沈降速度は粒子径dの2乗に比例するため、大きな細胞や凝集体は早く沈降し、逆にデブリ等の小さな粒子の沈降速度は遅い。
【0034】
【数1】
[式中、
v:沈降速度[m/s]
ρ
s:粒子の密度[kg/m
3]
ρ
w:溶液の密度[kg/m
3]
g:重力加速度[m/s
2]
η:溶液の粘度[Pa・s]
d:粒子径
である。]
【0035】
ここで、培地の物性はほぼ水と同等と仮定して、溶液の密度ρwを997.8 kg/m3、溶液の粘度ηを0.89 mPa・s、細胞の密度ρsを1.05 g/mL、細胞の直径dを15μmとすると、沈降速度vは0.43 mm/minとなる。
【0036】
一方、沈殿槽として容量15mLの遠心用チューブにCHO細胞の培養液を入れ、T=0(初期状態)およびT=2時間の清澄液層(遠心用チューブの容量15mLのうち上から10mLの領域)の細胞数をカウントした。
図14に、沈殿槽内の清澄液層における細胞沈降後の細胞分布変化のグラフを示す。縦軸は一定量の培養液中にカウントされた細胞の数を示し、横軸は細胞直径を示す。
図14中、「計算」とは、各細胞径に対してストークスの式から計算した沈降速度に基づき、チューブの底に達した細胞と達していない細胞の割合を算出することで、図に示した細胞分布を導出した。実際のT=2時間の細胞分布と計算結果の分布の概形はよく一致しており、ストークスの式で概算できることがわかる。
【0037】
実際には、培養経過時間により培養液の粘性等は変化し、また温度変化の影響も受ける。さらに、培養する細胞種により細胞径の分布も異なるため、重力沈降の待ち時間に対する沈殿槽内の細胞数の分布は、
図14に示したように予め実験的に求めておくことが好ましい。
【0038】
なお、ブリード処理を行う際、培養槽内の細胞密度の変化は、例えば以下の式(2)で与えられる。ここで、細胞密度を一定に制御する場合、ブリード流量Fbは以下の式(3)となり(細胞の増殖速度に対し死滅速度が十分小さい場合)、比増殖速度μと培養液量VWにより決定される。
【0039】
【数2】
[式中、
Xv:生細胞密度[cells/mL]
μ:比増殖速度[/day]
k:比死滅速度[/day]
Fb:ブリード流量[L/day]
Vw:培養液量[L]
である。]
【0040】
【0041】
一般的なCHO細胞の倍加時間は約20~30時間であるため、比増殖速度μは1日あたり0.55~0.83である。しかし、定常期の高密度状態においては栄養枯渇や増殖阻害物質の増加など様々な要因により細胞の増殖速度が低下することが多く、多くの場合には比増殖速度μは1日あたり0.2~0.6の範囲になる。従って、1日あたりのブリード流量Fbは0.2~0.6 Vwとなり、1日あたりに培養液量Vwの2割から6割程度がブリード溶液として培養槽外に排出される。
【0042】
本発明では、培養槽から沈殿槽への培養液の通液(流入/流出)操作を繰り返し実施する。仮に、1シーケンスあたり30分と設定すると、沈殿槽への1日あたりの流入回数は48回(24時間/0.5時間)となる。沈殿槽に流入した細胞のうち仮に60%を回収できるとすると、1日あたりのブリード流量は上述のとおり~0.6 Vwであり、1日あたり48回流入を行うことから、このブリード流量の培養液を貯留するために必要な沈殿槽の容量は0.021 Vwとなる(0.6 Vw/0.6/48)。したがって、沈殿槽の容量は、培養槽の培養液量Vwの2%程度の容量があればよいことになる。
【0043】
ここで、Jar培養として広く利用されているWorking Volume 1L程度の培養槽を想定した場合、沈殿槽の容量は約20 mLとなる。ストークスの式(1)より想定される細胞の沈降速度は0.43 mm/minであり、1シーケンス30分のうち沈降待ち時間を20分とすると、細胞は8.6 mm沈降することになる。従って、容量20 mLの沈殿槽のサイズとして、高さ10 mm、半径25 mm程度の円筒形を想定すると、20分の待ち時間のうちに、直径15μmの細胞については、高さ10mmのうち8.6mm沈降することから、細胞の大部分が底面から高さ2割の領域に沈降することになる。
【0044】
沈殿槽2の配置は、培養槽における培養および細胞の分離・濃縮処理(例えばブリード処理)に影響を及ぼすものでなければ特に限定されるものではない。例えば、上述したように設定した沈殿槽のサイズであれば、培養槽内の上部スペースに配置することも可能である(例えば、
図3)。沈殿槽に温度調整機構を付加しない場合、培養槽内に設置した方が温度変化が少なく細胞へのダメージは小さいと想定される。また、培養槽と連通する管の長さを短くできるため、管の中に残る細胞への影響も小さくなる。一方、培養槽外に配置した場合、ヒーター等を利用した温度調整機構を付加しやすく、また沈殿槽の半径も大きくできるため、濃縮効率を上げることができる。
図3は、沈殿槽2を培養槽30内に配置した構成例を示しているが、設置位置を限定するものではない。
【0045】
各管(1、3および4)は、培養液等の液体の移動のための空間も含め、細胞および液体を通液するために十分な管径を有している。各管は必ずしも管径が一様でなくてもよい。
【0046】
各管(1、3および4)と沈殿槽2との接続位置は濃縮効率に影響する。後述する濃縮シーケンスにおいては、管3は細胞が沈降する沈殿槽の下部、好ましくは底部に配置する。連通管1からは新たな培養液が沈殿槽2に流入してくるため、管3の回収位置とは近接しない上部に連通管の接続位置を設けることで、培養液が沈殿槽に流入した後そのまま回収されないようにすることが好ましい(
図2の構成)。また、後述する清澄化シーケンスにおいては、連通管1と管4はそれぞれ沈殿槽の上部に近接しない位置で配置することで(
図2の構成)、管4から上澄み液を回収する際、新たに流入してくる培養液の細胞は管4に達するまでに沈降する。あるいは、以下の変形例の(5)で例示したような横流式の沈殿槽の構造を利用することも可能である。
【0047】
管1、3および4、沈殿槽2、切替弁5、ポンプ6、コントローラ7、培養槽30および攪拌棒31は、細胞培養において慣用的に使用されているものを使用することができ、当業者であれば適宜選択することができる。例えば、構成例として、上述したようなWorking Volume 1L程度の培養槽(幅120 mm、高さ220 mm)および約20mL容量の沈殿槽(高さ10 mm、半径25 mm)を使用した場合、管として、内径2 mm、外径4 mmの、素材がガラスやSUS316などの管を使用することができる。
【0048】
以下において、溶液処理用デバイスの変形例について説明する。
(1)傾斜板の導入
図12のAに示すように、沈殿槽2に傾斜板1201を設けることにより、沈殿槽内での濃縮効率を高める。傾斜板は、特に限定されるものではなく、例えば水浄化フォーラム-科学と技術-沈殿池の基礎(前掲)に記載されているようなものを使用することができる。
【0049】
(2)排出管の増加
図12のBに示すように、追加的な排出管1202を沈殿槽2の下部または底部に設置することにより、排出管1202から細胞を培養槽に効率よく返送することができる。排出管を増加することにより清澄化シーケンスの効率が向上する。この時、培養液の連通管1および/または排出管1202にはチェックバルブ1203を設けることが好ましい。
【0050】
(3)沈殿槽の温度制御
沈殿槽2内の温度を適切に管理するため、
図13のAに示すように、ヒーター1301などによる温度制御機構を沈殿槽2に追加する。この構成は、特に沈殿槽2を培養槽内に配置しない場合に好ましい構成である。
【0051】
(4)酸素の効率的取り込み
細胞の酸素欠乏を防ぐため、
図13のBに示すように、酸素透過膜1302などのような酸素取り込み手段を使用して沈殿槽2内に酸素を効率的に取り込める構造とする。例えば、沈殿槽2の全面を酸素透過膜1302が覆ってもよいし、あるいは沈殿槽2を構成する面自体が酸素透過膜1302で作製されていてもよい。
【0052】
(5)ポンプの追加による機能向上
図13のCに示すように、管1303、1304および1305を設け、それぞれにポンプを追加することで、管1304を介して正常細胞のみを選択的に培養槽に戻し、デブリや凝集細胞、肥大化した細胞を管1303および管1305を通して培養槽外に排出(回収)する。これにより、正常細胞の分離をさらに効率的に行うことができる。
【0053】
(6)培養槽と沈殿槽の一体化
培養槽の上蓋と沈殿槽を一体化することにより、培養槽の周囲のスペースを取らずに沈殿槽の寸法をより自由に設定可能となる。特に、シングルユースの容器として培養槽を構成した場合には、洗浄の必要性もなく操作を簡便化できる。
【0054】
(細胞培養システム)
別の態様において、本発明は、細胞培養システムを提供する。本発明に係る細胞培養システムは、
細胞を含む培養液を収容する培養槽と、
攪拌デバイスと、
本発明に係る溶液処理デバイスと
を備える。
【0055】
細胞培養システムの培養部は、少なくとも培養槽を備え、細胞を培養可能なものであれば特に限定されるものではなく、当業者であれば目的の細胞の種類、培養目的、必要な培養規模などに応じて適当な培養部を構成することができる。一実施形態において、培養部は、培養槽と、培養槽に接続され培地を供給する培地ボトルとを備えるものとすることができる。攪拌デバイスは、細胞を損傷しない適切な速度で培養液を攪拌することができるデバイスであれば特に限定されるものではなく、使用する培養槽の形状および大きさ、培養する細胞の種類などに応じて適宜選択される。例えば、攪拌デバイスとしては、攪拌翼もしくは攪拌棒を有する攪拌機、培養槽を振動、回転もしくは振とうして培養液を攪拌する装置(例えばWAVE式の振動攪拌装置)、培養液を攪拌もしくは循環させるポンプなどを用いることができる。
【0056】
一実施形態では、本発明に係る細胞培養システムは、培養液から回収される目的生産物を格納する回収(ハーベスト)槽をさらに備えるものであってもよい。また別の実施形態では、培養槽に接続され培養槽に必要な栄養素を供給するボトル、培養槽に接続され培養槽から廃棄される培地を格納する廃液ボトルを備えてもよい。
【0057】
細胞培養システムは、構成の一部として制御部を備えていてもよく、溶液処理デバイスと共通の制御部であってもよいし、独立した制御部であってもよい。制御部は、細胞の供給、培地の供給、ブリード処理、培地の廃棄、細胞の培養、および細胞状態の解析のうちの少なくとも1つを制御する。例えば、制御部は、培養槽における細胞増殖の速度情報に基づいて、溶液処理デバイスに供する培養液容量(例えばブリード溶液容量)を制御するように構成される。制御部は、当技術分野で公知の任意の制御手段を使用することができ、例えばコンピュータとすることができる。
【0058】
例えば、一実施形態である溶液処理デバイス20は、
図1のBに示すような細胞培養システムにおいて、培養槽とブリードとの間に組み込むことができる。
【0059】
(細胞の分離および/または細胞の濃縮方法)
さらなる態様において、本発明は、細胞培養プロセスにおいて細胞を分離するおよび/または細胞を濃縮する方法であって、
培養槽から培養液を沈殿槽に取り出す工程、
前記沈殿槽内で重力沈降により前記培養液を上澄み液と細胞濃縮液に分離する工程、
前記上澄み液を前記培養槽に返送し、前記細胞濃縮液を回収する(濃縮シーケンス)工程
を含む細胞の分離および/または細胞の濃縮方法を提供する。
【0060】
別のさらなる態様において、本発明は、細胞培養プロセスにおいて細胞を分離するおよび/または細胞を濃縮する方法であって、
培養槽から培養液を沈殿槽に取り出す工程、
前記沈殿槽内で重力沈降により前記培養液を上澄み液と細胞濃縮液に分離する工程、
前記上澄み液を回収し、前記細胞濃縮液を前記培養槽に返送する(清澄化シーケンス)工程
を含む細胞の分離および/または細胞の濃縮方法を提供する。
【0061】
一実施形態において、「1シーケンスあたりの時間」および「処理溶液量(例えばブリード量)」に基づいて、重力沈降の待ち時間(沈降待ち時間ともいう)、培養液の送液時間、上澄み液および/または細胞濃縮液の送液時間、上澄み液および/または細胞濃縮液の回収量、ならびに上澄み液および/または細胞濃縮液の返送量からなる群より選択される少なくとも1つを計算する。ここで、「1シーケンスあたりの時間」(1シーケンスの時間)は、ユーザーが指定してもよいしまたは培養制御装置が指定するものであってもよい。「処理溶液量(例えばブリード量)」とは、単位時間あたりの培養液の取り出し量または単位時間あたりの回収する細胞数を意味する。
【0062】
一実施形態において、上澄み液を培養槽に返送する際に、細胞濃縮液中の細胞の浮上を抑制するように返送の送液速度を制御する。
【0063】
細胞培養プロセスにおける細胞の分離および/または細胞の濃縮方法のフロー例を説明する。本発明に係る細胞の分離および/または細胞の濃縮方法では、培養槽から取り出した培養液の細胞密度を濃縮する濃縮シーケンス、および/または培養槽から取り出した培養液を清澄化する清澄化シーケンスを行う。
【0064】
なお、本発明では、濃縮シーケンスおよび清澄化シーケンスの両方を実施してもよいし、いずれか一方を実施してもよい。また濃縮シーケンスおよび清澄化シーケンスは、同時に実施してもよいし、細胞培養プロセスの任意の時点において一方のシーケンスを実施し、別の時点において他方のシーケンスを実施してもよい。
【0065】
(1)濃縮シーケンス
図4のAに濃縮シーケンスのフロー例を示す。また、一実施形態である溶液処理デバイス20(
図2)の濃縮シーケンスにおける動作例の概略図を、
図5、6、8および9に示す。本フローは、細胞培養プロセスにおいてブリード処理を行う場合のフローであるが、他の処理に適用することも可能である。
濃縮シーケンスは、主に、培養液を沈殿槽へ流入する(ST1)、沈殿槽内の細胞の沈降を待つ(ST2)、培養槽の上澄みを培養槽に戻す(ST3)、および沈殿槽の濃縮液を回収する(ST4)ステップを含む。
【0066】
・ST1(
図4のA、
図5):培養液を沈殿槽へ流入する。
初回は沈殿槽2内に空気が入っているため、沈殿槽2上部に接続されている管4を利用して沈殿槽2内に培養液を吸引する。この時、管4の中の空気も抜けるように多めに吸引を行う。具体的な操作としては、切替弁5を管4側にセットし(ST1-1)、ポンプ6の正動作により沈殿槽2を培養液で満たす(ST1-2)。
【0067】
・ST2(
図4のA、
図6):沈殿槽内の細胞の沈降を待つ。
上位のシステムから算出されたまたはユーザーにより予め入力された1シーケンスあたりの時間Tt(ST1の時間は除く)を読み込む(ST2-1)。沈殿槽内に温度や酸素などの制御機構がない場合には、沈殿槽内の温度や酸素などの変化を考慮しながら、宿主細胞の種類や細胞株毎に適切な時間Ttを設定しておくことが好ましい。同様に、単位時間あたりのブリード量(ブリード流量F
b)を読み込む(ST2-2)。ブリード流量F
bは、その時々の細胞の増殖状態に合わせて上位のシステムが算出するか、またはユーザーが必要に応じて更新する。
【0068】
次に1シーケンスあたりの時間Ttおよびブリード流量F
b、培養槽内の細胞密度Xvから1シーケンスあたりに回収する細胞数Nを算出する(ST2-3)。ここで、沈降待ち時間T
dに対応する沈殿槽内の細胞数分布については、予め実験的に求めておくか、同様の分布を示す細胞種を参考に求めることが望ましい(例えば、上述した
図14についての説明、後述する
図7についての説明を参照)。その分布(正確な沈降待ち時間T
dはこの時点では導出されていないため、例えば0.7Ttなどおおよその待ち時間T
d’を設定し、その際の分布を利用する)と細胞数Nを利用して回収する濃縮液量V
Hと返送する上澄み液量V
Rを算出する(ST2-4)。さらに、それらV
HとV
Rに基づき各送液時間T
HとT
Rを算出することで、沈降待ち時間T
dを求める(T
t=T
d+T
H+T
R)(ST2-5)。上澄み液を培養槽に戻す際の送液時間T
Rについては、短い時間を設定すると沈降した細胞を上昇させてしまうため、適宜設定する必要がある。例えば、細胞が上昇する速度は以下の式(4)で近似できる(水浄化フォーラム-科学と技術-沈殿池の基礎(前掲))。
【0069】
【数4】
[式中、
v
u:粒子の上昇速度
F
in:培養槽への流入速度
A:沈殿槽の面積
である。]
【0070】
ここで、沈降した細胞の上昇速度vuが沈降速度vより小さければよいため、vu<vとすると、培養槽への流入速度Finは沈殿槽の面積Aに沈降速度vを乗じたものよりも小さくなる(Fin<A×v)。溶液処理デバイスに関して上述した培養液1Lスケールにおける沈殿槽サイズの例では、沈殿槽の面積A=1963 mm2、沈降速度v=0.43 mm/minであるため、培養槽への流入速度Finは0.85 mL/min以下であればよいことになり、仮に沈殿槽容量20mLの50%を培養槽に戻す場合、送液時間TRは約12分となる。
【0071】
算出された沈降待ち時間Tdの間ポンプ6を停止することで、沈殿槽2内の細胞が沈降する(ST2-6)。
【0072】
図7は、沈殿槽内での重力沈降による培養液の分離において、沈降待ち時間と沈殿する細胞数との関係を示すグラフである。時間経過と共に細胞が沈降する様子を、沈殿槽の高さh(縦軸)と細胞数(横軸)で表している。待ち時間Tdが進むにつれ、沈殿槽内で上部の細胞は下部に移動する。またこの時、大きな細胞から先に沈むため、
図7の右側のグラフに示すように、沈降待ち時間Td経過後は、清澄液層(上部)の細胞径分布はTd=0と比べてマイナス側にシフトし(すなわち清澄液層には大きな細胞が少なく)、反対に濃縮液層(下部)はプラス側にシフトする(すなわち濃縮液層には大きな細胞が多い)。このように、沈降待ち時間T
dに対応する沈殿槽内の細胞数分布を予め実験的に求めておくかまたは同様の分布を示す細胞種を参考に算出しておくことにより、回収する細胞数Nに必要な、沈降待ち時間T
d、回収する濃縮液量V
H、返送する上澄み液量V
Rなどを算出することができる。
【0073】
・ST3(
図4のA、
図8):培養槽の上澄みを培養槽に戻す。
上昇速度を考慮し、予め定められた送液速度でポンプ6を逆動作することにより沈殿槽2内の上澄み液をV
R分培養槽に戻す(ST3-3)。初回シーケンスの場合には、管3の中は気泡のため、管4を使って上澄み液を戻す(ST3-1)。初回以外のシーケンスでは、切替弁5を管3側にセットする(ST3-2)。なお、この操作により、一度回収した濃縮液がV
R分沈殿槽に戻ることになる。
【0074】
・ST4(
図4のA、
図9):沈殿槽の濃縮液を回収する。
ポンプ6の正動作により、沈殿槽2から沈殿槽容量V分の濃縮液を管3から回収する(ST4-3)。初回シーケンスの場合には(ST4-1)、ST3-1の操作により切替弁5は管4側にセットされているため、切替弁5を管3側にセットする(ST4-2)。
ST3の操作により、沈殿槽2内には今回のシーケンスで濃縮されたV
Hとそれより以前に回収されたV
Rの濃縮液が混在している状態であるため、2つを合計した容量V分(V
H+V
R=V)を回収すれば(ST4-3)、今回のシーケンスで回収すべき濃縮液V
Hが回収されることになる。さらに、ST4-3を回収する際のポンプ操作によって、培養槽から沈殿槽2内に新たに培養液がV分吸引されることになる。
【0075】
・ST5(
図4のA):処理を継続するか否か判断する。
処理を継続する場合は、培養液を吸引する操作まで済んでいるため、ST2の操作に戻る。処理を継続しない場合は、濃縮シーケンスを終了する。
【0076】
以上の濃縮シーケンスにより、処理する溶液量(例えばブリード溶液量)を低減することで、細胞培養による細胞生産物の回収効率が改善される。仮に、ブリード処理によって、沈殿槽の容器の下部2割に相当する領域に、沈殿槽に流入した細胞のうちの8割を沈降できる場合(すなわち回収量が0.2 Vで回収率が8割の場合)、ブリード溶液内の細胞密度は、培養液中の細胞密度Xvの4倍(0.8/0.2×Xv=4)となることから、ブリード量を通常の1/4に低減する、すなわち濃縮することが可能となる。
【0077】
また濃縮シーケンスにより、細胞凝集体や肥大化した細胞を効率的に排出することができ、培養環境を良好に保つことができる。凝集体は、酸素や栄養が内部に行き渡らないこともあり、一定のサイズを超えると細胞死に繋がる。死んだ細胞は分解され、細胞内からタンパク質分解酵素や核酸などが溶出すると共にデブリが増加する。それらにより培養環境は悪化し更なる細胞死を引き起こす。肥大化した異常な細胞にも同様のことが言える。このため初期の段階で凝集体などの異常な細胞を除去できれば培養の環境を安定に保つことができる。
【0078】
(2)清澄化シーケンス
図4のBに清澄化シーケンスのフロー例を示す。また、一実施形態である溶液処理デバイス20(
図2)の清澄化シーケンスにおける動作例の概略図を、
図5、6、10および11に示す。本フローもまた、細胞培養プロセスにおいてブリード処理を行う場合のフローであるが、他の処理に適用することも可能である。
清澄化シーケンスは、主に、培養液を沈殿槽へ流入する(ST1)、沈殿槽内の細胞の沈降を待つ(ST2)、培養槽の上澄みを回収する(ST3’)、および培養槽の濃縮液を培養槽に戻す(ST4’)ステップを含む。
【0079】
・ST1(
図4のB、
図5):培養液を沈殿槽へ流入する。
・ST2(
図4のB、
図6):沈殿槽内の細胞の沈降を待つ。
ST1およびST2は、濃縮シーケンスと同じである。なお、ST2-4において回収量V
Hを算出する際、濃縮シーケンスでは濃縮液の細胞密度から計算するが、清澄化シーケンスでは上澄み液の細胞密度から計算する。
【0080】
・ST3’(
図4のB、
図10):培養槽の上澄みを回収する。
予め定められた送液速度でポンプ6の正動作により管4から上澄み液を沈殿槽2の全容量V分回収する(ST3'-1)。この時、沈殿槽2内には、ST2で沈降した細胞と、ST3’で沈降した細胞が沈殿槽に濃縮された状態になる。
【0081】
・ST4’(
図4のB、
図11):培養槽の濃縮液を培養槽に戻す。
切替弁5を管3側にセットする(ST4'-1)。ポンプ6を逆動作させることによりV
R分の濃縮液を培養槽に戻す(ST4'-2)。このとき、ST2とST3’で沈殿槽2下部に濃縮された細胞を沈殿槽2から培養槽に戻すため、送液速度は細胞へのシェアストレスが許容できる範囲でなるべく速い速度にすることで、細胞の上昇速度v
uを増加させ、沈降した細胞を沈殿槽2内に混和させるようにする。
【0082】
・ST5(
図4のB):処理を継続するか否か判断する。
ST5は、濃縮シーケンスと同じである。
【0083】
なお、清澄化シーケンスでは、処理する溶液(例えばブリード溶液)の細胞密度は培養液よりも小さくなるため、処理溶液量(例えばブリード量)は通常と比較して多くなる。そのため、沈殿槽2の容量は、上述のように溶液処理デバイスについて算出した見積り(培養液量の2%程度)では不足し、より大きなサイズの沈殿槽が必要となることがある。従って、清澄化シーケンスは細胞増殖が比較的少ないプロセスのデブリ除去の手段として用いるか、または濃縮シーケンスとの併用により断続的にデブリを除去する手段としての利用が特に有効である。
【0084】
以上の清澄化シーケンスにより、培養液中のデブリを低減することで、培養環境を良好に保つことができる。特にバイオ医薬品の製造プロセスにおいては、細胞が産生するタンパク質等が目的生産物となるため、増え過ぎた細胞は除去することが望ましいが、再生医療分野においては細胞自身が生産物となるため、そのような場合に、本発明の方法は細胞の効率的な回収方法として使用し得る。
【0085】
(細胞培養による目的生産物の生産方法)
また別の態様において、本発明は、細胞培養により目的生産物を生産する方法を提供する。かかる方法は、
培養槽において、目的生産物を生産する細胞を培養する工程、
前記細胞の分離および/または細胞の濃縮方法を実施する工程、
前記培養槽の培養液から前記目的生産物を回収する工程
を含む。
【0086】
細胞培養による有用物質の生産は、当技術分野で公知であり、慣用的な方法において本発明に係る細胞の分離および/または細胞の濃縮方法を実施することにより、目的生産物を効率的に生産することができる。
【0087】
細胞培養に使用する細胞は、慣用的に使用されている細胞であれば特に限定されるものではなく、例えば以下が挙げられる:
細菌細胞:エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属など;
動物細胞:特に、哺乳動物細胞、例えばCOS、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)など;
昆虫細胞:Sf9、Sf21など;
真菌細胞:メタノール資化性酵母細胞(コマガタエラ属、オガタエア属等)、分裂酵母細胞(シゾサッカロマイセス属等)、もしくは出芽酵母細胞(サッカロマイセス属等)、またはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリザ(Aspergillus oryzae)等のアスペルギルス属;
植物細胞:トマト、タバコなどの植物の細胞。
【0088】
本発明において「目的生産物」とは、細胞培養による生産が望まれる有用生産物であり、細胞の内在性物質であってもよいし、異種物質であってもよい。例えば、目的生産物には、タンパク質、糖、脂質、アルコール、ステロイドなどが含まれ、さらには細胞そのものも含まれる。特に目的生産物はタンパク質であることが好ましい。目的タンパク質の例として、例えば、抗体、酵素(フィターゼ、アミラーゼ、グルコシダーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、グルタミナーゼ、ペプチダーゼ、ヌクレアーゼ、オキシダーゼ、ラクターゼ、キシラナーゼ、トリプシン、ペクチナーゼ、イソメラーゼ等)、プロテインA、プロテインG、プロテインL、フィブロイン、アルブミン、ペプチドおよび蛍光タンパク質等が挙げられるが、これらに限定はされるものではない。特に、ヒトおよび/または動物治療用タンパク質が好ましい。ヒトおよび/または動物治療用タンパク質として、具体的には、B型肝炎ウイルス表面抗原、ヒルジン、抗体またはその断片(例えばヒト抗体、ヒト化抗体、Fab抗体、単鎖抗体など)、血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、上皮成長因子、ヒト上皮成長因子、インシュリン、成長ホルモン、エリスロポエチン、インターフェロン、血液凝固因子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トロンボポエチン、インターロイキン(IL-1、IL-6等)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、レプチン、および幹細胞成長因子(SCF)等が挙げられる。
【0089】
目的生産物(特にタンパク質)は、細胞において元々発現されるものであってもよいし、細胞において遺伝子組み換え法により発現されるものであってもよい。細胞において目的タンパク質を発現させる方法は、当技術分野で公知の方法により行うことができる。例えば、目的タンパク質をコードする遺伝子を含む組み換えベクターを構築し、その組み換えベクターを用いて細胞を形質転換することにより、目的タンパク質を発現する細胞を得ることができる。
【0090】
細胞を培養する工程は、使用する細胞の培養に適用される通常の方法に従って、目的生産物が生産される条件で行われる。ここで「目的生産物が生産される条件」は、目的生産物の生産に適した培地、培養温度、培養形式、培養期間を含む条件を指し、使用する細胞の種類に応じて適宜選択される。培養においては、細胞が資化しうる栄養源を含む培地であればいずれの培地も使用できる。また、本発明では、培養は灌流培養により行うことが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0091】
細胞を培養する培地としては、細胞が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、細胞の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等が用いられる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0092】
培養は、通常、振盪培養または通気攪拌培養等の好気的条件下、32~37℃で適当な期間にわたり行う。培養期間中、pHは4.0~7.0に保持する。pHの調整は、無機または有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。
【0093】
本発明においては、細胞培養プロセスにおいて、細胞の分離および/または細胞の濃縮方法を実施する。実施する操作(濃縮シーケンスおよび/または清澄化シーケンス)、実施する時点および回数は、使用する細胞の種類や培養の規模などに応じて適宜決定することができる。
【0094】
目的生産物(特にタンパク質)は、上述のようにして細胞を培養して得られる培養液から回収および/または精製することにより得られる。「培養液」とは、培養上清のほか、培養細胞もしくは培養菌体、または細胞もしくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。
【0095】
培養液からの目的生産物(特にタンパク質)の回収および/または精製には、慣用的な精製手段等を用いることができる。例えば、目的生産物がタンパク質である場合には、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法を単独でまたは適宜組み合わせて用いることにより、培養液中から目的タンパク質を回収および/または精製することができる。タンパク質の単離精製に使用される方法として、例えば、セファデックス、ウルトロゲルもしくはバイオゲル等を用いるゲル濾過、イオン交換体クロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル等を用いる電気泳動法、アフィニティクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等を用いる分画法を適宜選択して、またはこれらを組み合わせて使用することができる。
【符号の説明】
【0096】
1:培養槽と沈殿槽2とを連通する管
2:沈殿槽
3:濃縮液用の排出管
4:上澄み液用の排出管
5:流路切替弁
6:送液ポンプ
7:コントローラ
20:溶液処理デバイス
30:培養槽
31:攪拌棒
1201:傾斜板
1202:排出管
1203:チェックバルブ
1301:ヒーター
1302:酸素透過膜
1303:排出管
1304:排出管
1305:排出管