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特許7524889珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法及び樹脂組成物の製造方法
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  • 特許-珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法及び樹脂組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法及び樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20240723BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20240723BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240723BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C01B21/072 R
C08K9/02
C08L101/00
H01B3/12 337
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021214749
(22)【出願日】2021-12-28
(65)【公開番号】P2023098163
(43)【公開日】2023-07-10
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 郁恵
(72)【発明者】
【氏名】御法川 直樹
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/040309(WO,A1)
【文献】特開2005-104765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/072
C08K 9/02
C08L 101/00
H01B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法であって、
反応場の単位容積当たりの水分量を1.5g/m以上40.0g/m 以下に制御する第1工程と、
前記水分量が制御された後の反応場にて、前記窒化アルミニウム粒子の表面を前記下記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆う第2工程と、
前記有機シリコーン化合物により覆われた前記窒化アルミニウム粒子を300℃以上1000℃以下の温度で加熱する第3工程と、を含む、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数が1以上4以下のアルキル基である。)
【請求項2】
前記第3工程の加熱温度は300℃以上900℃以下であり、
前記珪素含有酸化物被膜がシリカ被膜であり、前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子がシリカ被覆窒化アルミニウム粒子である、請求項1に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程において、前記反応場の単位容積当たりの水分量を4.2g/m以上に制御する、請求項1又は2に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程において、前記反応場の単位容積当たりの水分量を2.3g/m 以上に制御する、請求項1~3のいずれかに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程が、気相吸着法によって行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程において、前記反応場における気相中の酸素ガス濃度を8体積%以下に制御する、請求項1~5のいずれか1項に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項7】
前記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物が、下記式(2)で示される化合物および下記式(3)で示される化合物の少なくとも一方を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【化2】

(式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基であり、R1およびR2の少なくとも一方は水素原子であり、mは0~10の整数である。)
【化3】

(式(3)中、nは3~6の整数である。)
【請求項8】
前記第2工程は、10℃以上200℃以下の温度条件下で行われる、請求項1~7のいずれか1項に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項9】
前記窒化アルミニウム粒子は、BET比表面積が0.15m/g以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項10】
前記窒化アルミニウム粒子は、体積累積粒径D50が20μm以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項11】
前記窒化アルミニウム粒子のBET比表面積(BET)に対する前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi)の比(ΔSi/BET)が520質量ppm・g/m以上である、請求項1~10のいずれか1項に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法により珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造する製造工程と、前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子と樹脂とを混合する混合工程とを含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法及び樹脂組成物の製造方法に関し、特に、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法、及び、該製造方法により製造された珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を含む樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは、熱伝導性が高く、優れた電気絶縁性を備えている。そのため、窒化アルミニウムは、放熱シートおよび電子部品の封止材などの製品に使用される樹脂組成物の充填剤として有望である。しかしながら、窒化アルミニウムは、水分との反応で加水分解を引き起こし、熱伝導性の低い水酸化アルミニウムに変性する。また、窒化アルミニウムは、加水分解の際に腐食性を持つアンモニアも発生する。
【0003】
窒化アルミニウムの加水分解は、大気中の水分によっても進行する。そのため、窒化アルミニウムを添加した製品は、高温、高湿の条件下において、耐湿性、熱伝導性の低下を引き起こすだけでなく、窒化アルミニウムの加水分解によって発生したアンモニアによる腐食を招くなど、性能の劣化が懸念される。
【0004】
窒化アルミニウムの耐湿性の向上を図る技術は、窒化アルミニウム粉末の表面にSi-Al-O-Nからなる層を形成する方法(例えば、特許文献1参照)、窒化アルミニウム粉末の表面にシリケート処理剤とカップリング剤とで被覆層を形成する方法(例えば、特許文献2参照)、シリケート処理剤で処理し窒化アルミニウム粉末の表面に有機基を残す方法(例えば、特許文献3参照)、窒化アルミニウム粒子の表面を特定の酸性リン酸エステルを用いて表面修飾する方法(例えば、特許文献4参照)などが、それぞれ提案されている。
【0005】
特許文献1の防湿性窒化アルミニウム粉末は、窒化アルミニウム粉末表面にケイ酸エステル層を塗布した後、350~1000℃の高温で焼成することにより、Si-Al-O-Nからなる層を表面に形成している。特許文献2の窒化アルミニウム系粉末は、シリケート処理剤とカップリング剤で表面処理後に高温加熱処理を行うことで、表面に被覆層を形成している。特許文献3の窒化アルミニウム粉末は、シリケート処理剤で表面処理後に90℃を超えない温度で加熱処理することにより、有機基を残すことで樹脂との馴染性を向上させている。特許文献4の表面修飾粒子は、特定の酸性リン酸エステルを用いて表面修飾した窒化アルミニウム粒子により耐湿性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表平07-507760号公報
【文献】特開2004-083334号公報
【文献】特開2006-290667号公報
【文献】特開2015-71730号公報
【文献】国際公開第2020/040309号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
上述した窒化アルミニウム粉末は、耐湿性の向上を図るため、Si-Al-O-Nの反応層、シリケート処理剤とカップリング剤とで形成する被覆層、表面修飾層などを有している。その結果、耐湿性の改善は、認められるが、まだ十分なレベルではなく、逆に耐湿の向上を図る手段として用いた被膜が、本来の窒化アルミニウムの熱伝導性を低下させる場合が多い。さらに、フィラーとして各種材料に高い充填率で配合することも困難になるという課題があった。
上述した課題を解決するために、特許文献5の製造方法では、特定の有機シリコーン化合物を用いて特定の方法により窒化アルミニウム粒子を被覆している。その結果、耐湿性の改善が認められるが、耐湿性のさらなる向上が求められている。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、少なくとも1回の被覆により耐湿性に優れた珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造することができる製造方法、及び、該製造方法により製造される珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を含む樹脂組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の有機シリコーン化合物を用いて特定の方法により窒化アルミニウム粒子を被覆することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成を有するものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔11〕を提供するものである。
[1]窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法であって、反応場の単位容積当たりの水分量を1.5g/m以上に制御する第1工程と、前記水分量が制御された後の反応場にて、前記窒化アルミニウム粒子の表面を前記下記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆う第2工程と、前記有機シリコーン化合物により覆われた前記窒化アルミニウム粒子を300℃以上1000℃以下の温度で加熱する第3工程と、を含む、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数が1以上4以下のアルキル基である。)
[2]前記第3工程の加熱温度は300℃以上900℃以下であり、前記珪素含有酸化物被膜がシリカ被膜であり、前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子がシリカ被覆窒化アルミニウム粒子である、上記[1]に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
[3]前記第1工程において、前記反応場の単位容積当たりの水分量を4.2g/m以上に制御する、上記[1]又は[2]に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
[4]前記第1工程において、前記反応場の単位容積当たりの水分量を40.0g/m以下に制御する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
[5]前記第2工程が、気相吸着法によって行われる、上記[1]~[4]のいずれかに記載の珪素含有酸化物被覆6窒化アルミニウム粒子の製造方法。
[6]前記第1工程において、前記反応場における気相中の酸素ガス濃度を8体積%以下に制御する、上記[1]~[5]のいずれかに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
[7]前記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物が、下記式(2)で示される化合物および下記式(3)で示される化合物の少なくとも一方を含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【化2】

(式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基であり、R1およびR2の少なくとも一方は水素原子であり、mは0~10の整数である。)
【化3】

(式(3)中、nは3~6の整数である。)
[8]前記第2工程は、10℃以上200℃以下の温度条件下で行われる、上記[1]~[7]のいずれかに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
[9]前記窒化アルミニウム粒子は、BET比表面積が0.15m/g以下である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
[10]前記窒化アルミニウム粒子は、体積累積粒径D50が20μm以上である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
[11]前記窒化アルミニウム粒子のBET比表面積(BET)に対する前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi)の比(ΔSi/BET)が520質量ppm・g/m以上である、上記[1]~[10]のいずれかに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
[12]上記[1]~[11]のいずれかに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法により珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造する製造工程と、前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子と樹脂とを混合する混合工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、少なくとも1回の被覆により耐湿性に優れた珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造することができる製造方法、及び、該製造方法により製造される珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を含む樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のシリカ被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本明細書における記載事項を任意に選択した態様又は任意に組み合わせた態様も本発明に含まれる。
本明細書において、好ましいとする規定は任意に選択でき、好ましいとする規定同士の組み合わせはより好ましいといえる。
本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
【0014】
本発明書において、「BET比表面積」は、JIS R 1626:1996に準じて、吸着質としてNガスを用いたBET流動法(1点法)で測定した値である。このBET比表面積は、前記AlN粒子の微細性を示す指標であり、このBET比表面積の値が大きいほど、該AlN粒子は微細であると言える。
なお、評価装置としては、Mountech社製Macsorb HM model-1210を用いることができる。
【0015】
本明細書において、「体積累積粒径D50」とは、ある粒度分布に対して体積累計の積算値が50%となる粒径を示している。体積累積粒径D50は、レーザー回折散乱法による粒度分布から求められ、具体的には、体積累積粒径D50は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX2:マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用することにより、測定することができる。
【0016】
本明細書において、「反応場」とは、「窒化アルミニウム粒子と式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物とが反応する空間」を意味する。例えば、後述する実施例において、「反応場」は「反応槽内の空間」である。
【0017】
本明細書において、「単位容積当たりの水分量」とは、「25℃における窒化アルミニウム粒子と式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物とが反応する空間1mに含まれる水分の質量」を意味し、例えば、実施例では、「反応槽内の空間1mに含まれる水分の質量」を意味する。「反応場の単位容積当たりの水分量」は、予め水分量が調整されたガスの流入量から算出することができ、また、デジタル温湿度計(株式会社佐藤計量器製作所製SK-110TRH2 TYPE-5)を用いて測定することができる。
本明細書において、「反応場における単位容積当たりの上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の含有量(有機シリコーン化合物濃度)」とは、「窒化アルミニウム粒子と式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物とが反応する空間1mに含まれる式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の質量」を意味し、例えば、実施例では、「反応槽内の空間1mに含まれる式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の質量」を意味し、有機シリコーン化合物の蒸気飽和量で代用される。
【0018】
[珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法]
本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法は、窒化アルミニウム粒子と、この窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造するものである。珪素含有酸化物被膜や珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の「珪素含有酸化物」として、詳しくは後述するが、シリカや、珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物が挙げられる。酸化物としては、酸化物、酸窒化物や、酸炭窒化物等が含まれる。
そして、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法は、反応場の単位容積当たりの水分量を所定量に制御する第1工程と、前記水分量が制御された後の反応場にて、窒化アルミニウム粒子の表面を下記式(1)で示される構造を含む所定の有機シリコーン化合物により覆う第2工程と、該有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を所定温度で加熱する第3工程とを含む、ことを特徴とする。
【化4】

(式(1)中、Rは炭素数が1以上4以下のアルキル基である。)
【0019】
このような本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法について、図1を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法の一例として、本発明のシリカ被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法を示すフローチャートである。
【0020】
<窒化アルミニウム粒子>
本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法において、原料として用いられる窒化アルミニウム粒子は、市販品など公知のものを使用することができる。窒化アルミニウム粒子の製法は、特に制限がなく、例えば、金属アルミニウム粉と窒素またはアンモニアとを直接反応させる直接窒化法、アルミナを炭素還元しながら窒素またはアンモニア雰囲気下で加熱して同時に窒化反応を行う還元窒化法などがある。
【0021】
また、窒化アルミニウム粒子として、窒化アルミニウム微粒子の凝集体を焼結により顆粒状にした粒子を用いることができ、例えば、高純度窒化アルミニウム微粒子を原料とした焼結顆粒を好適に用いることができる。
【0022】
ここで、高純度窒化アルミニウム微粒子とは、酸素の含有量が低く、金属不純物も少ない粒子のことである。具体的には、例えば、酸素の含有量が1質量%以下であり、金属不純物(すなわち、アルミニウム以外の金属原子)の総含有量が1000質量ppm以下である高純度窒化アルミニウムが、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に含まれる窒化アルミニウム粒子のより高い熱伝導性を得るためには好適である。
窒化アルミニウム粒子は、単独または組み合わせて使用することができる。
【0023】
なお、上述した酸素の含有量は、酸素検出用赤外線検出器を付帯する、無機分析装置などで測定できる。具体的には、酸素の含有量は、酸素・窒素・水素分析装置(ONH836:LECOジャパン合同会社製)を使用することにより、測定することができる。
【0024】
また、アルミニウム以外の金属原子の総含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)質量分析装置などで測定できる。具体的には、アルミニウム以外の金属原子の総含有量は、ICP質量分析計(ICPMS-2030:株式会社島津製作所製)を使用することにより、測定することができる。
【0025】
本発明で用いられる窒化アルミニウム粒子の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、無定形(破砕状)、球形、楕円状、板状(鱗片状)などが挙げられる。また、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を、フィラーとして樹脂組成物中に分散させて含有させる場合は、窒化アルミニウム粒子としては、同一の形状、構造を有する同じ種類の窒化アルミニウム粒子(単一物)のみを用いてもよいが、異なる形状、構造を持つ2種類以上の異種の窒化アルミニウム粒子を種々の割合で混合した窒化アルミニウム粒子の混合物の形で用いることもできる。
【0026】
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を、樹脂組成物中に分散させて含有させる場合は、樹脂組成物に対する、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を構成する窒化アルミニウム粒子の体積比(充填量)が大きいほど、樹脂組成物の熱伝導率が高くなる。したがって、窒化アルミニウム粒子の形状は、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の添加による樹脂組成物の粘度上昇の少ない球形に近いことが好ましい。
【0027】
本発明で用いる窒化アルミニウム粒子の体積累積粒径D50としては、特に制限はないが、好ましくは20μm以上、より好ましくは20μm以上200μm以下、さらに好ましくは25μm以上100μm以下、特に好ましくは30μm以上80μm以下である。
【0028】
窒化アルミニウム粒子の体積累積粒径D50が、上述した範囲内であると、電力系電子部品を搭載する放熱材料に、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を含有させた樹脂組成物を用いる場合でも、最小の厚みの薄い放熱材料の供給が可能になるとともに、被膜が窒化アルミニウム粒子の表面を均一に被覆しやすいためか、窒化アルミニウム粒子の耐湿性がより向上する。
【0029】
本発明で用いる窒化アルミニウム粒子のBET比表面積としては、特に制限はないが、好ましくは0.15m/g以下であり、より好ましくは0.03m/g以上0.12m/g以下であり、さらに好ましくは0.06m/g以上0.11m/g以下である。
窒化アルミニウム粒子のBET比表面積が前記上限値以下であると、有機シリコーン化合物の付着量が過剰になるのを抑制して、凝集等が発生するのを抑制することができる。
【0030】
<被覆に用いる有機シリコーン化合物>
本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法において、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を構成する珪素含有酸化物被膜の原料として用いられる有機シリコーン化合物は、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物であれば、直鎖状、環状または分岐鎖状の形態にかかわらず、特に制限なく使用できる。式(1)で表される構造は、珪素原子に直接水素が結合した、ハイドロジェンシロキサン単位である。
【0031】
上記式(1)において、炭素数が1以上4以下のアルキル基であるRとしては、第二工程における有機シリコーン化合物の蒸気濃度の確保の観点から、メチル基、エチル基、プロピル基、t-ブチル基などが好ましく、特に好ましいのはメチル基である。本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法において、原料として用いられる有機シリコーン化合物は、例えば、式(1)で示される構造を含むオリゴマまたはポリマーである。
【0032】
有機シリコーン化合物として、例えば、下記式(2)で示される化合物および下記式(3)で示される化合物の少なくとも一方が好適である。
【化5】

(式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基であり、R1およびR2の少なくとも一方は水素原子であり、mは0~10の整数である。)
なお、mが前記下限値以上前記上限値以下であると、第二工程における有機シリコーン化合物の蒸気濃度を確保することができる。
【化6】

(式(3)中、nは3~6の整数である。)
なお、nが前記下限値以上前記上限値以下であると、第二工程における有機シリコーン化合物の蒸気濃度を確保することができる。
【0033】
特に、上記式(3)においてnが4の環状ハイドロジェンシロキサンオリゴマーが、窒化アルミニウム粒子表面に均一な被膜を形成できる点で優れている。式(1)で示す構造を含む有機シリコーン化合物の重量平均分子量は、好ましくは100以上2000以下であり、より好ましくは150以上1000以下であり、さらに好ましくは180以上500以下である。この範囲の重量平均分子量の、式(1)で示す構造を含む有機シリコーン化合物を用いることで、窒化アルミニウム粒子表面に薄くて均一な被膜を形成しやすいと推測される。なお、式(2)において、mが1であることが好ましい。
前記式(1)で示す構造を含む有機シリコーン化合物の重量平均分子量は、前記下限値以上であると、反応時における安全性を確保することができ、また、前記上限値以下であると、第二工程における有機シリコーン化合物の蒸気濃度を確保することができる。
【0034】
本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いたポリスチレン換算重量平均分子量であり、具体的には、カラム(Shodex (登録商標)LF-804:昭和電工株式会社製)と示差屈折率検出器(Shodex(登録商標) RI-71S:昭和電工株式会社製)との組み合わせで測定することができる。
【0035】
<第1工程>
第1工程では、反応場の単位容積当たりの水分量を制御する。
第1工程では、反応場の単位容積当たりの水分量を1.5g/m以上に制御することができる限り、特に方法は限定されない。
反応場における単位容積当たりの水分量としては、1.5g/m以上である限り、特に制限はないが、好ましくは2.3g/m以上40.0g/m以下、より好ましくは4.2g/m以上30.0g/m以下、さらに好ましくは4.5g/m以上23.0g/m以下である。反応場における単位容積当たりの水分量が、好ましい範囲の下限値以上であると、得られる珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の表面に積層するケイ素含有酸化物層の厚膜化により、少なくとも1回の被覆で耐湿性を向上させることができる。また、反応場における単位容積当たりの水分量が、好ましい範囲の上限値以下であれば、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により窒化アルミニウム表面を覆う反応をする前に水と窒化アルミニウム表面で劣化反応が起きてしまうのを抑制することができる。
反応場における単位容積当たりの窒化アルミニウム粒子の含有量としては、特に制限はないが、好ましくは3.0kg/m以下、より好ましくは2.0kg/m以下、さらに好ましくは1.5kg/m以下である。反応場における単位容積当たりの窒化アルミニウム粒子の含有量が、好ましい範囲の上限値以下であれば、反応場内の有機シリコーン樹脂の揮発ガスの拡散を維持することができる。
第1工程における反応場の温度としては、特に制限はないが、好ましくは10~50℃、より好ましくは15~40℃、さらに好ましくは20~35℃である。
【0036】
第1工程における水分量制御方法(水分導入方法)としては、例えば、(i)反応場を真空引きして減圧し、ドライ窒素ガス及び加湿窒素ガスを導入して反応場を常圧(0.1MPa)に戻して、反応場の単位容積当たりの水分量を調整する方法、(ii)常圧(0.1MPa)にて水蒸気を段階的に導入する方法、(iii)減圧した状態で必要量の水を液体にて導入する方法、などが挙げられる。
なお、「ドライ窒素ガス」とは、露点が-60℃以下である窒素ガスを意味し、「加湿窒素ガス」とは、単位体積当たりの水分量が常温(25℃)にて18.5g/m以上である窒素ガスを意味する。加湿窒素ガスは、常温下にてドライ窒素ガスを常温水にバブリングさせて水分を含ませることによりを調製することができる。
上述の水分量制御方法(水分導入方法)によって単位容積当たりの水分量が所定量に制御された後の反応場にて、後述する第2工程では、窒化アルミニウム粒子の表面を上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆うべく、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の蒸気単独もしくは窒素ガス等の不活性ガスとの混合ガスが導入される。ここで、第2工程が密閉系での工程である場合、第1工程における水分量制御により制御された反応場の水分量が、第2工程における反応初期から反応終了まで維持される。
【0037】
第1工程において制御される反応場における気相中の酸素ガス濃度としては、特に制限はないが、製造における安全性確保の観点で、好ましく8体積%以下であり、より好ましくは4体積%以下であり、さらに好ましくは2体積%以下である。
【0038】
<第2工程>
第2工程では、上記窒化アルミニウム粒子の表面を、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆う。
第2工程では、第1工程で水分量が制御された後の反応場にて、窒化アルミニウム粒子の表面を上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆うことができる限り、特に方法は限定されない。
なお、反応場における単位容積当たりの上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の含有量(有機シリコーン化合物濃度)としては、特に制限はないが、被覆効率の観点から、好ましくは7.5g/m以上、より好ましくは10g/m以上、さらに好ましくは12.5g/m以上である。また、有機シリコーン化合物濃度の上限値は、飽和濃度であり、後述する実施例では、有機シリコーン化合物濃度が飽和濃度となっている。
【0039】
第2工程における被覆の方法として、後述する実施例では、反応槽内に上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物が入ったシャーレを静置し、その後、所定温度に加熱することで、シャーレ内の有機シリコーン化合物が蒸発することで得られる蒸気単独を、静置した窒化アルミニウム粒子表面に付着または蒸着させる気相吸着法を用いているが、これに限定されるものではなく、式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の蒸気と窒素ガス等の不活性ガスとの混合ガスを、静置した窒化アルミニウム粒子表面に付着または蒸着させる気相吸着法を用いることもできる。この場合の反応場の温度条件としては、式(1)で示される構造を含むシリコーン化合物の沸点、蒸気圧にも依存するため、特に限定されないが、好ましい温度は10℃以上200℃以下であり、より好ましくは20℃以上150℃以下であり、さらに好ましくは40℃以上100℃以下である。さらに必要な場合には、系内を加圧あるいは減圧させることもできる。この場合に使用できる装置としては、密閉系、かつ、系内の気体を容易に置換できる装置が好ましく、例えば、ガラス容器、デシケーター、CVD装置などを使用できる。窒化アルミニウム粒子を攪拌せずに有機シリコーン化合物で被覆する場合の処理時間は、長めに取る必要がある。しかしながら、処理容器を間歇的にバイブレーター上に置くことで、粉体同士が接触して陰になっている場所や、上の空気層部から遠い粉体に対しても、位置を動かすことにより効率よく処理できる。
また、後述する実施例では、第1工程において、反応槽内に上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物が入ったシャーレを静置しているが、反応場の単位容積当たりの水分量に影響がない限り、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の導入のタイミングは、第1工程及び第2工程のいずれで行ってもよい。但し、第1工程で、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物を導入する場合は、加熱(昇温)する前に導入する必要があり、また、第1工程の後に、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物を導入する場合は、反応場の単位容積当たりの水分量及び反応場における気相中の酸素ガス濃度を管理する必要がある。
【0040】
<第3工程>
第3工程では、第2工程で得られた有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を、300℃以上1000℃以下、好ましくは300℃以上950℃以下、より好ましくは300℃以上900℃以下、さらに好ましくは500℃以上880℃以下の温度で加熱する。これにより、窒化アルミニウム粒子表面に珪素含有酸化物被膜を形成することができる。
この第3工程での加熱が低温の場合は、窒化アルミニウム粒子表面に、シリカ被膜が形成され、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子が製造できる。また、この第3工程での加熱が高温の場合は、窒化アルミニウム粒子表面に、珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物の被膜が形成され、珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物被覆窒化アルミニウム粒子が製造できる。第3工程での温度が高くなると、窒化アルミニウム粒子を構成するアルミニウムが窒化アルミニウム粒子表面に出てくることで有機シリコーン化合物に由来する珪素とともに複合酸化物を形成して、珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物の被膜が形成されると推測される。
第3工程では、第2工程で得られた有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を、300℃以上1000℃以下、好ましくは300℃以上950℃以下、より好ましくは300℃以上900℃以下、さらに好ましくは500℃以上880℃以下の温度で加熱することができれば、すなわち、第2工程で得られた有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を、300℃以上1000℃以下、好ましくは300℃以上950℃以下、より好ましくは300℃以上900℃以下、さらに好ましくは500℃以上880℃以下の温度範囲に保持できるものであれば、一般の加熱炉を使用することができる。
【0041】
なお、シリカ被覆とは、シリカを主成分とする薄膜でコートされていることを意味する。ただし、コートされたシリカと窒化アルミニウム粒子との界面には、複数の無機複合物が存在する可能性があるので、ToF-SIMS(Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:飛行時間二次イオン質量分析、ION-TOF社、TOF.SIMS5)で分析した場合には、二次イオン同士の再結合やイオン化の際の分解なども重なり、AlSiOイオン、SiNOイオンなどのセグメントが副成分として同時に検出される場合もある。このToF-SIMS分析で分析される複合セグメントも、窒化アルミニウムをシリカ化した場合の部分検出物と定義することができる。目安としては、シリカの2次電子量が、その他のフラクションより多い状態であれば、シリカが主成分であると見なすことができる。
【0042】
さらに精度を上げてシリカの純度を確認する実験として、窒化アルミニウム多結晶基板上に同様の方法でシリカ被膜を形成させた試料表面を、光電子分光測定装置(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy、アルバック・ファイ社、Quantera II)で測定し、検出されるSi由来の光電子の運動エネルギーがシリカの標準ピーク103.7eVとほぼ一致することから、ほとんどがSiO構造になっていると推測される。なお、加熱温度によっては、有機成分が残るケースもありうる。本発明の効果を損なわない範囲であれば、有機シロキサン成分が混在することは十分ありうる。
【0043】
炭素原子の含有量は、管状電気炉方式による非分散赤外吸収法を用いた炭素・硫黄分析装置などで測定できる。具体的には、炭素・硫黄分析装置(Carbon Anlyzer EMIA-821:株式会社堀場製作所製)を使用することにより測定することができる。
【0044】
第3工程の加熱温度(熱処理温度)は、300℃以上1000℃以下、好ましくは300℃以上950℃以下、より好ましくは300℃以上900℃以下、さらに好ましくは500℃以上880℃以下である。この温度範囲で行うことで、耐湿性および熱伝導性の良好な珪素含有酸化物被膜が形成される。具体的には、300℃以上で加熱すると、珪素含有酸化物被膜が緻密化し水分を透過し難くなるためか、耐湿性が良好になる。また、1000℃以下、好ましくは950℃以下、より好ましくは900℃以下、さらに好ましくは880℃以下で加熱すると熱伝導性が良好になる。他方、1000℃超であると、耐湿性や熱伝導性が悪くなる。また、加熱温度が、300℃以上1000℃以下、好ましくは300℃以上950℃以下、より好ましくは300℃以上900℃以下、さらに好ましくは500℃以上880℃以下であれば窒化アルミニウム粒子の表面に均一に珪素含有酸化物被膜が形成される。また、加熱温度が300℃以上であれば、珪素含有酸化物被膜は絶縁性に優れたものになり、1000℃以下、好ましくは950℃以下、より好ましくは900℃以下、さらに好ましくは880℃以下であれば、エネルギーコスト的にも有効である。加熱温度は、好ましくは500℃以上である。
【0045】
加熱時間としては、30分間以上12時間以下が好ましく、2時間以上10時間以下がより好ましく、さらに好ましくは4時間以上8時間以下である。熱処理時間は、30分間以上であれば有機シリコーン化合物の有機基(炭素数4以下のアルキル基)の分解物の残存がなく、窒化アルミニウム粒子表面に炭素原子の含有量の非常に少ない珪素含有酸化物被膜が得られる点で好ましい。また、加熱時間を6時間以下とすることが、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を生産効率よく製造することができる点で好ましい。
【0046】
第3工程の熱処理の雰囲気は特に限定されず、例えば、N、Ar、He等の不活性ガス雰囲気下や、H、CO、CH等の還元ガスを含む雰囲気下でもよく、酸素ガスを含む雰囲気下、例えば大気中(空気中)で行ってもよい。
【0047】
第3工程の熱処理後に、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子同士が、部分的に融着することがある。その場合には、これを解砕することで、固着・凝集のない珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を得ることができる。なお、解砕に使用する装置は、特に限定されるものではないが、ローラーミル、ハンマーミル、ジェットミル、ボールミルなどの一般的な粉砕機を使用することができる。
【0048】
また、第1工程で水分量を制御することにより、第2工程及び第3工程を経ることで十分な耐湿性を得られるが、さらに耐湿性を高めるために、第3工程終了後に、さらに、第1工程~第3工程を順に行ってもよい。すなわち、第1工程~第3工程を順に行う工程を、繰り返し実行してもよい。
【0049】
第2工程において気相吸着法により窒化アルミニウム粒子の表面を有機シリコーン化合物により覆う被覆方法は、液体処理で行う被覆方法と比較して、均一で薄い珪素含有酸化物被膜を形成することが可能である。したがって、第1工程~第3工程を順に行う工程を複数回、例えば2~5回程度繰り返しても、窒化アルミニウム粒子の良好な熱伝導率を発揮させることができる。
【0050】
一方、耐湿性に関しては、第1工程~第3工程を順に行う工程の回数と耐湿性との間には、正の相関が認められる。したがって、実際の用途で求められる耐湿性のレベルに応じて、第1工程~第3工程を順に行う工程の回数を自由に選択することができる。
【0051】
上記本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法で得られた、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子本来の高熱伝導性を維持し、かつ、耐湿性にも優れているため、電気・電子分野などで使用される放熱材料用途のフィラーとして広く適用できる。
【0052】
<珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子>
上記本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法によって、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子、すなわち、窒化アルミニウム粒子と窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を得ることができる。珪素含有酸化物被膜や珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の「珪素含有酸化物」として、上記シリカや、珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物が挙げられる。酸化物としては、酸化物、酸窒化物や、酸炭窒化物等が含まれる。
【0053】
このような本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、後述する実施例に示すように、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、少なくとも1回の被覆により耐湿性に優れたものとなる。
例えば、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、pH4に調整した塩酸水溶液に投入し、100℃又は120℃で2時間の処理(すなわち、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を、pH4に調整した塩酸水溶液に100℃又は120℃で2時間浸漬)したとき、塩酸水溶液中に抽出されたアンモニアの濃度が20mg/L以下とすることができ、極めて耐湿性に優れる。なお、酸性溶液中では加水分解反応が空気中よりも促進されるため、粒子をpH4に調整した塩酸水溶液に晒すことで、耐湿性の加速試験ができる。したがって、pH4の塩酸水溶液を用いることで、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の耐湿性を評価することができ、上記アンモニアの濃度が20mg/L以下であれば、耐湿性が良いと言える。また、pH4の塩酸水溶液を用いることで合わせて耐薬品性の比較もできる。
上記抽出されたアンモニアの濃度は、好ましくは10mg/L以下、より好ましくは6mg/L以下、さらに好ましくは7mg/L以下、さらにより好ましくは6mg/L以下、特に好ましくは5mg/L以下、最も好ましくは3mg/L以下である。
耐湿性の観点から、炭素原子の含有量は低いほど好ましい。ここで、上記本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法では原料として式(1)で示される構造を有する有機シリコーン化合物を用いているため、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は炭素原子を含有する場合が多く、例えば50質量ppm以上、さらには60質量ppm以上含む場合がある。
【0054】
また、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子のBET比表面積をx(m/g)とし、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi量)をy(質量ppm)としたとき、下記式(4)および(5)を満たすことが好ましく、下記式(6)を満たすことがより好ましい。
y≦1000x+2000 ・・・(4)
y≧10 ・・・(5)
0.03≦x≦10 ・・・(6)
上記式(4)において、切片は、2000となっているが、過剰付着による熱伝導率低下を防ぐ観点で、好ましくは1900、より好ましくは1700、さらに好ましくは1500である。
上記式(5)について、下限値は、10となっているが、加湿効果によるΔSi量を一定以上にして耐湿性向上を担保する観点で、好ましくは100、より好ましくは115、さらに好ましくは130である。
上記式(6)について、上限値は、10となっているが、粉体の取り扱いの観点で、好ましくは9、より好ましくは7、さらに好ましくは5である。
【0055】
なお、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi量)は、ICP法で測定することができる。また、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子のBET比表面積xは、上述の窒化アルミニウム粒子のBET比表面積と同様に測定することができる。
【0056】
また、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi量)は、特に限定されないが、好ましくは10000質量ppm以下、より好ましくは8000質量ppm以下、さらに好ましくは7800質量ppm以下、特に好ましくは7500質量ppm以下である。珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi量)は、例えば50質量ppm以上である。
なお、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi量)は、後述の実施例に記載の方法により算出することができる。
【0057】
また、窒化アルミニウム粒子のBET比表面積(BET)に対する珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi)の比(ΔSi/BET)は、特に限定されないが、好ましくは520質量ppm・g/m以上であり、より好ましくは550質量ppm・g/m以上、さらに好ましくは600質量ppm・g/m以上、さらに好ましくは1000質量ppm・g/m以上である。
なお、窒化アルミニウム粒子のBET比表面積(BET)に対する珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi)の比(ΔSi/BET)は、後述の実施例に記載の方法により算出することができる。
【0058】
〔樹脂組成物の製造方法〕
上記本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を用いて、樹脂組成物を製造することができる。すなわち、本発明の樹脂組成物の製造方法は、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法により珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造する製造工程と、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子と樹脂とを混合する混合工程と、を含む。珪素含有酸化物被膜や珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の「珪素含有酸化物」として、上記シリカや、珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物が挙げられる。酸化物としては、酸化物、酸窒化物や、酸炭窒化物等が含まれる。
上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法によって製造された珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、少なくとも1回の被覆により耐湿性が向上するため、本発明の樹脂組成物の製造方法で得られる樹脂組成物は、耐湿性および熱伝導性に優れる。
【0059】
混合工程では、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法によって製造された珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子と、樹脂とを混合する。
【0060】
混合工程で混合する樹脂は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の混合物であることが、得られる樹脂組成物が耐熱性に優れる点で好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニールアルコールアセタール樹脂などが挙げられ、単独または二種類以上を混ぜ合わせて使用することができる。さらに、熱硬化性樹脂に硬化剤や、硬化促進剤を加えた混合物を使用してもよい。特に、硬化後の耐熱性、接着性、電気特性の良い点でエポキシ樹脂が好ましく、柔軟密着性を重視する用途ではシリコーン樹脂が好ましい。
【0061】
なお、シリコーン樹脂には、付加反応硬化型シリコーン樹脂、縮合反応硬化型シリコーン樹脂、有機過酸化物硬化型シリコーン樹脂などがあり、単独または粘度の異なる2種類以上を組み合わせても使用することができる。特に、得られる樹脂組成物が柔軟密着性を重視する用途において使用される場合には、シリコーン樹脂として、例えば、気泡などの原因物質となり得る副生成物の生成がない付加反応硬化型液状シリコーン樹脂が挙げられ、ベースポリマーであるアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと架橋剤であるSi-H基を有するオルガノポリシロキサンとを硬化剤の存在下で、常温または加熱により反応させることでシリコーン樹脂硬化物を得ることができる。なお、ベースポリマーであるオルガノポリシロキサンの具体例としては、例えば、アルケニル基として、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ヘキセニル基などを有するものがある。特に、ビニル基は、オルガノポリシロキサンとして好ましい。また、硬化触媒は、例えば、白金金属系の硬化触媒を用いることができ、目的とする樹脂硬化物の硬さを実現するため、添加量を調整して使用することもできる。
【0062】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等の2官能グルシジルエーテル型エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグルシジルエステル型エポキシ樹脂;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の線状脂肪族エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環型エポキシ樹脂;N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-1,3-ベンゼンジ(メタンアミン)、4-(グリシジロキシ)-N,N-ジグリシジルアニリン、3-(グリシジロキシ)-N,N-ジグリシジルアニリン等のグルシジルアミン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂、4官能ナフタレン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂等の多官能グリシジルエーテル型エポキシ樹脂;などが挙げられる。上述したエポキシ樹脂は、単独でまたは二種類以上を混合して使用することができる。
【0063】
上述したエポキシ樹脂を使用した場合には、硬化剤、硬化促進剤を配合していてもよい。硬化剤としては、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸等の脂環式酸無水物;ドデセニル無水コハク酸等の脂肪族酸無水物;無水フタル酸、無水トリメリット酸等の芳香族酸無水物;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール類;フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、フェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂、フェノール-ジシクロペンタジエン共重合体樹脂等のフェノール樹脂類;ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジド等の有機ジヒドラジド;などが挙げられ、硬化触媒としては、例えば、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン、およびその誘導体等のアミン類;2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、およびその誘導体等のイミダゾール類;などが挙げられる。これらは、単独または二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
混合工程では、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子以外に通常使用される窒化硼素、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛などのフィラーを併用してもよい。
【0065】
混合工程において、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子や上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子以外のフィラーは、所望の樹脂組成物になる量を混合すればよい。
得られる樹脂組成物における上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子および上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子以外のフィラーの総含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、より好ましくは60質量%以上97質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以上95質量%以下である。総含有量が、50質量%以上であれば良好な放熱性を発揮でき、99質量%以下であれば樹脂組成物の使用時に良好な作業性が得られる。
【0066】
また、得られる樹脂組成物における珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の含有量は、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子および上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子以外のフィラーの総含有量の30質量%以上100質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上100質量%以下である。総含有量は、30質量%以上で良好な放熱性を発揮できる。
【0067】
混合工程では、さらに、必要に応じてシリコーン、ウレタンアクリレート、ブチラール樹脂、アクリルゴム、ジエン系ゴムおよびその共重合体などの可撓性付与剤、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、無機イオン補足剤、顔料、染料、希釈剤、溶剤などを適宜添加することができる。
【0068】
混合工程における混合方法は、特に限定されず、例えば珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子、樹脂、その他添加剤などを、一括または分割して、らいかい器、プラネタリーミキサー、自転・公転ミキサー、ニーダー、ロールミルなどの分散・溶解装置を単独または適宜組み合わせ、必要に応じて加熱して混合、溶解、混練する方法が挙げられる。
【0069】
また、得られた樹脂組成物は、シート状に成形、必要に応じて反応させて、放熱シートとすることもできる。上述した樹脂組成物および放熱シートは、半導体パワーデバイス、パワーモジュールなどの接着用途などに好適に使用することができる。
【0070】
放熱シートの製造方法としては、基材フィルムで両面を挟む形で樹脂組成物を圧縮プレスなどで成形する方法、基材フィルム上に樹脂組成物をバーコーター、スクリーン印刷、ブレードコーター、ダイコーター、コンマコーターなどの装置を用いて塗布する方法などが挙げられる。さらに、成形・塗布後の放熱シートは、溶剤を除去する工程、加熱などによるBステージ化、完全硬化などの処理工程を追加することもできる。上述したように、工程により様々な形態の放熱シートを得ることができ、対象となる用途分野、使用方法に広く対応することが可能となる。
【0071】
樹脂組成物を基材フィルム上に塗布または形成する際に、作業性をよくするために溶剤を用いることができる。溶剤としては、特に限定するものではないが、ケトン系溶剤のアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン;エーテル系溶剤の1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム;グリコールエーテル系溶剤のメチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル;その他ベンジルアルコール;N-メチルピロリドン;γ-ブチロラクトン;酢酸エチル;N,N-ジメチルホルムアミド;などを単独あるいは二種類以上混合して使用することができる。
【0072】
樹脂組成物をシート状に形成するためには、シート形状を保持するシート形成性が必要になる。シート形成性を得るために、樹脂組成物に、高分子量成分を添加することができる。例えば、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ウレタン樹脂、アクリルゴム等が挙げられ、その中でも、耐熱性およびフィルム形成性に優れる観点から、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、アクリルゴム、シアネートエステル樹脂、ポリカルボジイミド樹脂などが好ましく、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、アクリルゴムがより好ましい。それらは、単独または二種類以上の混合物、共重合体として使用することができる。
【0073】
高分子量成分の重量平均分子量としては、好ましくは10000以上100000以下、より好ましくは20000以上50000以下である。
【0074】
なお、取扱い性のよい良好なシート形状は、上述したような範囲の重量平均分子量成分を添加することで、保持することができる。
【0075】
高分子量成分の添加量は、特に限定されないが、シート性状を保持するためには、樹脂組成物に対し、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上10質量%以下である。なお、0.1質量%以上20質量%以下の添加量で、取り扱い性もよく、良好なシート、膜の形成が図られる。
【0076】
放熱シートの製造時に使用する基材フィルムは、製造時の加熱、乾燥などの工程条件に耐えるものであれば、特に限定するものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの芳香環を有するポリエステルからなるフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルムなどが挙げられる。上述したフィルムは、二種類以上を組み合わせた多層フィルムであってもよく、表面がシリコーン系などの離型剤処理されたものであってもよい。なお、基材フィルムの厚さは、10μm以上100μm以下が好ましい。
【0077】
基材フィルム上に形成された放熱シートの厚さは、20μm以上500μm以下が好ましく、さらに好ましくは50μm以上200μm以下である。放熱シートの厚さは、20μm以上では均一な組成の放熱シートを得ることができ、500μm以下では良好な放熱性を得ることができる。
【実施例
【0078】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。
【0079】
<物性の測定算出方法>
(珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量(Si量)の算出方法)
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量(Si量)は、以下の手順で算出した。
(1)20mLのテフロン(登録商標)容器に、97質量%の硫酸(超特級、和光純薬工業株式会社製)とイオン交換水とを1:2(体積比)で混合した溶液10mLと、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子サンプル0.5gとを投入した。
(2)テフロン(登録商標)容器ごとステンレスの耐圧容器に入れ、230℃で15時間維持し、投入した珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子サンプルを溶解させた。
(3)(1)で混合した溶液を取り出し、ICP(株式会社島津製作所製、ICPS-7510)を用いて珪素原子の濃度を測定し、この測定した珪素原子の濃度から、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量(Si量)(単位:質量ppm)を算出した。
【0080】
(珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi量)の算出方法)
上記算出方法にて算出した珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量(Si量)から、同方法にて算出した窒化アルミニウム原料のみのケイ素含有量を差し引くことにより、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi量)(単位:質量ppm)を算出した。
【0081】
(窒化アルミニウム粒子のBET比表面積(BET)に対する珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量の比(ΔSi量/BET)の算出方法)
上記算出方法にて算出した珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi量)を窒化アルミニウム粒子のBET比表面積(BET)で除することにより、窒化アルミニウム粒子のBET比表面積(BET)に対する珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi)の比(ΔSi/BET)(単位:質量ppm・g/m)を算出した。
【0082】
(樹脂成形体の熱伝導率の測定)
熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製、商品名:TPS2500S)を用いたホットディスク法により、ISO22007-2に準拠して、以下の方法で作成した樹脂成型体試験片の熱伝導率(単位:W/m・K)を測定した。
-樹脂成形体の製造-
ポリジメチルシロキサンゲル(商品名:DOWSIL(登録商標)EG-3100、東レ株式会社製)のA液とB液を合計100質量部に対してそれぞれ50質量%ずつ容器に計量し、表1に記載の組成(質量部)となるようにフィラー各種を計量し、自転・公転混合ミキサー(株式会社シンキー製、商品名:ARV-310P)にて、回転数1000rpmで30秒間、減圧をしながら撹拌混合した。一旦、室温(25℃)まで冷却した。PET基材上に組成物1~5をそれぞれ載せてPET基材で挟み、圧延ロールにて2mm厚みに延伸後、100℃15分間の熱処理で硬化させ、樹脂成型体試験片1~5を得た。
但し、表1中の各成分の詳細を以下に表す。
AA-3:アドバンストアルミナ(商品名:スミコランダム(登録商標)、住友化学株式会社製、体積累積粒径D50=3μm)
AKP-30:高純度アルミナ(商品名:AKP-30、住友化学株式会社製、体積累積粒径D50=0.3μm)
EG-3100(A):ポリジメチルシロキサンゲル(商品名:DOWSIL(登録商標)EG-3100、東レ株式会社製)のA液(粘度420mPa・s、ビニルオイルと白金触媒の混合物)
EG-3100(B):ポリジメチルシロキサンゲル(商品名:DOWSIL(登録商標)EG-3100、東レ株式会社製)のB液(粘度320mPa・s、ビニルオイルと架橋剤の混合物)
【0083】
【表1】
【0084】
(粒子の耐湿性の評価)
(1)50mLのテフロン(登録商標)容器に、pH4に調整した塩酸水溶液を17gと珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子3gとを投入した。
(2)テフロン(登録商標)容器ごとステンレスの耐圧容器に入れ、所定温度(窒化アルミニウム粒子Aについては120℃、窒化アルミニウム粒子B~Eについては100℃)で2時間維持したのち、取り出し後1時間常温にて徐冷し、上澄み液中のアンモニア濃度(単位:mg/L)を、25℃の温度条件でアンモニア電極(アンモニア電極5002A:株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。
なお、「反応場における単位容積当たりの窒化アルミニウム粒子の含有量」は、1.25kg/mである(サンプル:50g×5、反応器:250L)。
【0085】
(実施例1)
容積250Lの反応槽を有する大型オーブンを用いて作製した反応装置を使用して、窒化アルミニウム粒子の表面被覆を行った。反応装置の反応槽内に、体積累積粒径D50が3μm、BET比表面積が2.4m/gの窒化アルミニウム粒子A(JM:東洋アルミニウム株式会社製)、体積累積粒径D50が16μm、BET比表面積が0.35m/gの窒化アルミニウム粒子B(TFZ-N15P:東洋アルミニウム社製)、体積累積粒径D50が33μm、BET比表面積が0.11m/gの窒化アルミニウム粒子C(FAN-f30-A1:古河電子株式会社製)、体積累積粒径D50が48μm、BET比表面積が0.09m/gの窒化アルミニウム粒子D(FAN-f50-A1:古河電子株式会社製)、体積累積粒径D50が77μm、BET比表面積が0.06m/gの窒化アルミニウム粒子E(FAN-f80-A1:古河電子社製)各50gをそれぞれ別の240mm×180mm×30mmのアルミ角トレーに均一に広げて静置した。次に、反応装置の反応槽内に式(3)においてn=4である有機シリコーン化合物A(表2における「D4H」:環状メチルハイドロジェンシロキサン4量体:東京化成工業株式会社製)400gのうちの100gずつを4つのガラス製シャーレ(内径150mm×高さ20mm)に分けて入れて静置した。なおここで、真空引き時に多少の揮発が発生しても最初から最後まで飽和条件下を保つために、有機シリコーン化合物Aを想定必要量より過剰に投入した。その後、反応装置の反応槽を閉じた。反応により水素ガスが発生するため事前に反応槽内を真空引きした後、ドライ窒素ガスと加湿窒素ガスを反応槽へと流入させて、内部圧を常圧(0.1MPa)に戻した。内部の気相中の酸素ガス濃度が2体積%以下であり、且つ、単位容積当たりの水分量が2.3g/mとなるように調整した(第1工程)。ここで、水分量は、デジタル温湿度計(株式会社佐藤計量器製作所製SK-110TRH2 TYPE-5)を用いて測定した湿度より算出した。なお、第1工程における反応場の温度は25℃であった。その後、反応槽を80℃へ加熱し、温度が安定してから7.5時間反応を行った(第2工程)。第2工程を終了した後、反応槽から取り出したA~Eのサンプルをそれぞれアルミナ製のるつぼに入れ、大気中で、サンプルA及びBは700℃、3時間、サンプルC~Eは800℃、6時間の条件で第3工程の熱処理を行うことで、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を得た。得られたシリカ被覆窒化アルミニウム粒子について、上述した方法により、「Si量の算出」、「ΔSi量の算出」、「樹脂成形体の熱伝導率の測定」、及び「粒子の耐湿性の評価」を行った。結果を表2に示す。
なお、「想定必要量」とは、「反応場を有機シリコーン化合物Aの飽和蒸気圧で満たすために必要とされる量」を意味し、反応場の容積と有機シリコーン化合物Aの飽和蒸気圧に基づいて算出することができる。
【0086】
(実施例2)
実施例1において、単位容積当たりの水分量が2.3g/mとなるように調整する代わりに、単位容積当たりの水分量が4.6g/mとなるようにドライ窒素と加湿窒素の体積比を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を得て、さらに、得られたシリカ被覆窒化アルミニウム粒子について、「Si量の算出」、「ΔSi量の算出」、「樹脂成形体の熱伝導率の測定」、及び「粒子の耐湿性の評価」を行った。結果を表2に示す。
【0087】
(実施例3)
実施例1において、単位容積当たりの水分量が2.3g/mとなるように調整する代わりに、単位容積当たりの水分量が11.5g/mとなるようにドライ窒素と加湿窒素の体積比を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を得て、さらに、得られたシリカ被覆窒化アルミニウム粒子について、「Si量の算出」、「ΔSi量の算出」、「樹脂成形体の熱伝導率の測定」、及び「粒子の耐湿性の評価」を行った。結果を表2に示す。
【0088】
(実施例4)
実施例1において、単位容積当たりの水分量が2.3g/mとなるように調整する代わりに、単位容積当たりの水分量が16.1g/mとなるようにドライ窒素と加湿窒素の体積比を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を得て、さらに、得られたシリカ被覆窒化アルミニウム粒子について、「Si量の算出」、「ΔSi量の算出」、「樹脂成形体の熱伝導率の測定」、及び「粒子の耐湿性の評価」を行った。結果を表2に示す。
【0089】
(実施例5)
実施例1において、単位容積当たりの水分量が2.3g/mとなるように調整する代わりに、単位容積当たりの水分量が23.0g/mとなるようにドライ窒素と加湿窒素の体積比を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を得て、さらに、得られたシリカ被覆窒化アルミニウム粒子について、「Si量の算出」、「ΔSi量の算出」、「樹脂成形体の熱伝導率の測定」、及び「粒子の耐湿性の評価」を行った。結果を表2に示す。
【0090】
(比較例1)
実施例1において、単位容積当たりの水分量が2.3g/mとなるように調整する代わりに、単位容積当たりの水分量が0.0g/mとなるようにドライ窒素と加湿窒素の体積比を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を得て、さらに、得られたシリカ被覆窒化アルミニウム粒子について、「Si量の算出」、「ΔSi量の算出」、「樹脂成形体の熱伝導率の測定」、及び「粒子の耐湿性の評価」を行った。結果を表2に示す。
【0091】
(比較例2)
実施例1において、単位容積当たりの水分量が2.3g/mとなるように調整する代わりに、単位容積当たりの水分量が1.2g/mとなるようにドライ窒素と加湿窒素の体積比を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を得て、さらに、得られたシリカ被覆窒化アルミニウム粒子について、「Si量の算出」、「ΔSi量の算出」、「樹脂成形体の熱伝導率の測定」、及び「粒子の耐湿性の評価」を行った。結果を表2に示す。
【0092】
(比較例3)
比較例1において、式(3)においてn=4である有機シリコーン化合物A(表2における「D4H」:環状メチルハイドロジェンシロキサン4量体:東京化成工業株式会社製)を用いる代わりに、下記構造式(X)の有機シリコーン化合物B(表2における「D3」:ヘキサメチルシクロトリシロキサン:東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を得て、さらに、得られたシリカ被覆窒化アルミニウム粒子について、「Si量の算出」、「ΔSi量の算出」、「樹脂成形体の熱伝導率の測定」、及び「粒子の耐湿性の評価」を行った。結果を表2に示す。
【化7】

・・・構造式(X)
【0093】
(比較例4)
実施例3において、式(3)においてn=4である有機シリコーン化合物A(表2における「D4H」:環状メチルハイドロジェンシロキサン4量体:東京化成工業株式会社製)を用いる代わりに、上記構造式(X)の有機シリコーン化合物B(表2における「D3」:ヘキサメチルシクロトリシロキサン:東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を得て、さらに、得られたシリカ被覆窒化アルミニウム粒子について、「Si量の算出」、「ΔSi量の算出」、「樹脂成形体の熱伝導率の測定」、及び「粒子の耐湿性の評価」を行った。結果を表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
従来の方法(例えば、特許文献5に記載の方法)では、比較例1及び2のように、反応場の単位容積当たりの水分量が1.5g/m未満に制御し、その後、その反応場でシリカ被覆することで、比較例3,4で得られたシリカ被覆窒化アルミニウム粒子よりも耐湿性が高いシリカ被覆窒化アルミニウム粒子を得た。本願発明の方法では、実施例1~5のように、反応場の単位容積当たりの水分量が1.5g/m以上に制御し、その後、その反応場でシリカ被覆しているので、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、少なくとも1回の被覆により耐湿性により優れたシリカ被覆窒化アルミニウム粒子を得ることができる。
なお、比較例3及び4では、式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物Aではなく、構造式(X)の有機シリコーン化合物Bを用いているので、耐湿性が低いシリカ被覆窒化アルミニウム粒子しか得ることができない。
図1