(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-24
(45)【発行日】2024-08-01
(54)【発明の名称】頭皮組織由来の毛乳頭細胞の分離及び大量増殖方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240725BHJP
C12N 5/02 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/02
(21)【出願番号】P 2022577397
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(86)【国際出願番号】 KR2021002736
(87)【国際公開番号】W WO2021256663
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】10-2020-0073493
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522486612
【氏名又は名称】ハンモバイオ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HANMOBIO CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】#1201,2,Nongsim-ro,Gunpo-si,Gyeonggi-do 15845,Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】522486623
【氏名又は名称】ハンバイオ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HANBIO CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】2F,8,Teheran-ro 2-gil,Gangnam-gu,Seoul 06232,Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】522486634
【氏名又は名称】カン、ダ ウィット
【氏名又は名称原語表記】KANG,Da Witt
【住所又は居所原語表記】#101-910,25,Irwon-ro 14-gil,Gangnam-gu,Seoul 06356,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】カン、ダ ウィット
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ジョン イン
(72)【発明者】
【氏名】ノ、ジョン ウォン
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-180878(JP,A)
【文献】国際公開第2012/115079(WO,A1)
【文献】J. Dermatol. Sci.,2005年,Vol. 37,pp.58-60
【文献】Korean J. Physiol. Pharmacol.,2018年,Vol. 22, No. 5,pp.555-566
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)頭皮組織
から分離された毛球を処理するステップと、
(B)毛球から毛乳頭細胞を分離するステップと、
(C)継代培養するステップと、
を含む毛乳頭細胞の分離及び大量増殖方法であって、
前記(B)毛球から毛乳頭細胞を分離するステップは、
(b1)細胞培養ディッシュに剥離培地及び毛球を入れた後、精密微細ハサミにて毛球をチョッピング
のみ行うステップと、
(b2)チョッピングされた毛球をチューブに集め、遠心分離するステップと、を含
み、
前記ステップ(b1)においてチョッピングされた毛球の大きさは、15μm~120μmであり、
前記(C)継代培養するステップは、
(c1)細胞数に応じて継代培養すべき培養ディッシュを決定した後、培養ディッシュに入れられていた培地を捨て、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて清浄するステップと、
(c2)トリプシン/エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を処理し、大量増殖機にかけてインキュベーションするステップと、
(c3)ウシ胎児血清(FBS)入り最小必須培地(MEM)アルファを入れ、遠心管に集めた後、遠心分離するステップと、
(c4)上澄み液は捨て、底に沈殿しているペレットをタッピングした後、最小必須培地(MEM)アルファ、塩基性線維芽細胞成長因子、ウシ胎児血清、ペニシリン-ストレプトマイシン及びアムホテリシンBを含む拡大培養用培地を入れ、細胞数を確認するステップと、
(c5)計数された細胞数に応じて、所定数になるように次のステップの培養ディッシュに接種した後、大量増殖機において所定時間おきに培地を交換しながら、増殖するステップと、を含み、
前記(C)継代培養するステップは、ステップ(c1)~(c5)を3回繰り返し行う
ことを特徴とする毛乳頭細胞の分離及び大量増殖方法。
【請求項2】
前記(A)頭皮組織
から分離された毛球を処理するステップは、
(a1)滅菌されたペトリディッシュに最小必須培地(MEM)アルファを被験者から採取
された頭皮組織が沈漬されるように充填するステップと、
(a2)ペトリディッシュの蓋体に最小必須培地(MEM)アルファを用いてドロップを形成し、微細手術用のハサミと鉗子(forcep)を用いて、真皮層の毛球を一つずつ分離して、用意したドロップに移動させるステップと、
(a3)ドロップに移動された毛球を実体顕微鏡にて観察しながら、シリンジと微細手術用の鉗子を用いて、毛球の末端に付着されている脂肪組織及び毛幹(hair shaft)を取り除くステップと、を含む
請求項1に記載の毛乳頭細胞の分離及び大量増殖方法。
【請求項3】
前記(C)継代培養するステップは、
(c1)細胞数に応じて継代培養すべき培養ディッシュを決定した後、培養ディッシュに入れられていた培地を捨て、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて清浄するステップと、
(c2)0.25% トリプシン/エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を処理し、37℃、5% CO
2 大量増殖機において5分間かけてインキュベーションするステップと、
(c3)1% ウシ胎児血清(FBS)入り最小必須培地(MEM)アルファを入れ、50mlの遠心管に集めた後、遠心分離するステップと、
(c4)上澄み液は捨て、底に沈殿しているペレットをタッピングした後、最小必須培地(MEM)アルファ、塩基性線維芽細胞成長因子、10% ウシ胎児血清、ペニシリン-ストレプトマイシン及びアムホテリシンBを含む拡大培養用培
地を入れ、細胞数を確認するステップと、
(c5)計数された細胞数に応じて、1,500個/cm
2になるように次のステップの培養ディッシュに接種した後、37℃、5% CO
2の大量増殖機において3日おきに培地を交換しながら、培養ディッシュが細胞によりいっぱいになるまで増殖するステップと、を含む
請求項1に記載の毛乳頭細胞の分離及び大量増殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭皮組織由来の毛乳頭細胞の分離及び大量増殖方法に関する発明であり、さらに詳しくは、チョッピングを通じて頭皮組織から分離された毛球から毛乳頭細胞を分離した後、継代培養して大量に毛乳頭細胞を増殖する方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
脱毛症(alopecia)は、疾病、栄養不足、老化、ホルモンの不均衡などにより発症すると言われている。多くの研究が行われてきたにも拘わらず、根本的な脱毛に関わる機序はまだはっきりとは判明されていないものの、一般に、毛髪は、一定の毛周期(ヘアサイクル)を経ることになり、毛乳頭(dermal papilla)の刺激を受けた毛母細胞(keratinocyte)が盛んに分裂・増殖をして毛髪が成長する成長期(anagen)、毛球(hair bulb)への血液の供給が絶たれ、毛乳頭が毛包から分離される退行期(catagen)及び細胞の増殖が止まって毛髪が成長しない休止期(telogen)を経て再び成長期に移行したり、毛髪が頭皮から抜ける脱落期(exogen)に移行したりすることになる。人間の毛髪は、それぞれ独立した成長周期を有して、一部は脱落期に、一部は成長期に移行し、全体的に同じレベルの毛髪の本数を保つことになるが、このようなバランスが崩れて、脱落期に移行して正常に毛髪が存在すべき個所に毛髪がなくなる状態を脱毛症(alopecia)と称する。
【0003】
また、脱毛を治療するための努力も絶えず注がれてきた。それにも拘わらず、これまでただ二種類の薬物(フィナステリド(finasteride)及びミノキシジル(minoxidil))のみが脱毛の治療のためにアメリカ食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)(U.S.A)から認可された。
【0004】
人体の毛髪は、約10万~15万本ほどであり、毛包(hair follicle)において形成される。毛包には乳頭があるが、この部位には、小さな血管が分布されて毛髪の成長に必要な栄養分を供給し、乳頭の上の側方には毛髪に潤いを与える油を供給する脂腺がある。毛包は、色々な異なる上皮細胞(epithelial cells)及び毛乳頭細胞からなる。毛乳頭細胞は、毛包の基底部に位置している間葉由来の繊維芽細胞(mesenchymally-derived fibroblasts)であり、育毛に重要な役割を果たす。特に、ミノキシジル(minoxidil)は、毛乳頭細胞の増殖及び抗細胞の死滅効果を有することが報告されている。しかしながら、育毛に重要な役割を果たす毛乳頭細胞は、頭皮からの分離及び培養が行われ難く、大量培養に際して毛髪の再生能が低下するという不都合があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、頭皮組織から分離された毛球からチョッピングを通じて毛乳頭細胞を分離し、かつ継代培養して、毛乳頭細胞を大量増殖する方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような不都合を解決するために、本発明は、(A)頭皮組織から毛球を分離するステップと、(B)毛球から毛乳頭細胞を分離するステップと、(C)継代培養するステップと、を含む毛乳頭細胞の分離及び大量増殖方法を提供する。
【0007】
本発明において、(A)頭皮組織から毛球を分離するステップは、(a1)滅菌されたペトリディッシュに最小必須培地(MEM)アルファを被験者から採取した頭皮組織(表皮から真皮層まで)が沈漬されるように充填するステップと、(a2)ペトリディッシュの蓋体に最小必須培地(MEM)アルファを用いてドロップを形成し、微細手術用のハサミと鉗子(forcep)を用いて、真皮層の毛球を一つずつ分離して、用意したドロップに移動させるステップと、(a3)ドロップに移動された毛球を実体顕微鏡にて観察しながら、シリンジと微細手術用の鉗子を用いて、毛球の末端に付着されている脂肪組織及び毛幹(hair shaft)を取り除くステップと、を含んでいてもよい。
【0008】
また、本発明において、(B)毛球から毛乳頭細胞を分離するステップは、(b1)細胞培養ディッシュに剥離培地及び毛球を入れた後、精密微細ハサミにて毛球をチョッピングするステップと、(b2)チョッピングされた毛球をチューブに集め、遠心分離するステップと、を含んでいてもよい。
【0009】
さらに、本発明において、ステップ(b1)においてチョッピングされた毛球の大きさは、15μm~120μmであってもよい。
【0010】
さらにまた、本発明において、遠心分離は、2200rpmにて5分間かけて行われてもよい。
【0011】
さらにまた、本発明において、(C)継代培養するステップは、(c1)細胞数に応じて継代培養すべき培養ディッシュを決定した後、培養ディッシュに入れられていた培地を捨て、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて清浄するステップと、(c2)0.25% トリプシン/エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を処理し、37℃、5% CO2 大量増殖機において5分間かけてインキュベーションするステップと、(c3)1% ウシ胎児血清(FBS)入り最小必須培地(MEM)アルファを入れ、50mlの遠心管に集めた後、遠心分離するステップと、(c4)上澄み液は捨て、底に沈殿しているペレットをタッピングした後、最小必須培地(MEM)アルファ、塩基性線維芽細胞成長因子、10% ウシ胎児血清、ペニシリン-ストレプトマイシン及びアムホテリシンBを含む拡大培養用培地2を入れ、細胞数を確認するステップと、(c5)計数された細胞数に応じて、1,500個/cm2になるように次のステップの培養ディッシュに接種した後、37℃、5% CO2の大量増殖機において3日おきに培地を交換しながら、培養ディッシュが細胞によりいっぱいになるまで増殖するステップと、を含んでいてもよい。
【0012】
これらに加えて、本発明において、継代培養は、ステップ(c1)~(c5)を3回繰り返し行うことにより行われてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により大量に増殖された毛乳頭細胞は、育毛に重要な役割を果たせることから、毛乳頭細胞を大量増殖する方法に関する本発明は、医療分野、美容分野など様々な産業分野において活用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】毛球から毛乳頭細胞を分離する方法に応じた細胞取得率の差を比較して示すものである。
【
図2】毛乳頭細胞の分離方法と培地の組成に応じた大量増殖結果の差を比較して示すものである。
【
図3】caseごとの継代培養に応じた細胞取得率の差を比較して示すものである。
【
図4】caseごとの継代培養に応じた、毛乳頭細胞と関わる成長因子の分泌量の差を比較して示すものである。
【
図5】チョッピングの段階に応じた毛球の大きさの変化を示すものである。
【
図6】チョッピングの段階に応じた細胞増殖の差を比較して示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による一実施形態においては、(A)頭皮組織から毛球を分離するステップと、(B)毛球から毛乳頭細胞を分離するステップと、(C)継代培養するステップと、を含む毛乳頭細胞の分離及び大量増殖方法を提供する。
【0016】
本発明において、「毛球」は、毛包により包まれている毛根の下部に形成されている厚い棍棒状構造のものであって、毛細血管、毛乳頭細胞、毛母細胞などが位置する組織を意味する。
【0017】
本発明による別の実施形態において、(A)頭皮組織から毛球を分離するステップは、(a1)滅菌されたペトリディッシュに最小必須培地(MEM)アルファを被験者から採取した頭皮組織(表皮から真皮層まで)が沈漬されるように充填するステップと、(a2)ペトリディッシュの蓋体に最小必須培地(MEM)アルファを用いてドロップを形成し、微細手術用のハサミと鉗子(forcep)を用いて、真皮層の毛球を一つずつ分離して、用意したドロップに移動させるステップと、(a3)ドロップに移動された毛球を実体顕微鏡にて観察しながら、シリンジと微細手術用の鉗子を用いて、毛球の末端に付着されている脂肪組織及び毛幹(hair shaft)を取り除くステップと、を含んでいてもよい。
【0018】
本発明によるさらに別の実施形態において、(B)毛球から毛乳頭細胞を分離するステップは、(b1)細胞培養ディッシュに剥離培地及び毛球を入れた後、精密微細ハサミにて毛球をチョッピングするステップと、(b2)チョッピングされた毛球をチューブに集め、遠心分離するステップと、を含んでいてもよい。
【0019】
本発明によるさらに別の実施形態において、ステップ(b1)においてチョッピングされた毛球の大きさは、15μm~120μmであってもよい。
【0020】
本発明によるさらに別の実施形態において、遠心分離は、2200rpmにて5分間かけて行われてもよい。
【0021】
本発明によるさらに別の実施形態において、(C)継代培養するステップは、(c1)細胞数に応じて継代培養すべき培養ディッシュを決定した後、培養ディッシュに入れられていた培地を捨て、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて清浄するステップと、(c2)0.25% トリプシン/エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を処理し、37℃、5% CO2 大量増殖機において5分間かけてインキュベーションするステップと、(c3)1% ウシ胎児血清(FBS)入り最小必須培地(MEM)アルファを入れ、50mlの遠心管に集めた後、遠心分離するステップと、(c4)上澄み液は捨て、底に沈殿しているペレットをタッピングした後、最小必須培地(MEM)アルファ、塩基性線維芽細胞成長因子、10% ウシ胎児血清、ペニシリン-ストレプトマイシン及びアムホテリシンBを含む拡大培養用培地2を入れ、細胞数を確認するステップと、(c5)計数された細胞数に応じて、1,500個/cm2になるように次のステップの培養ディッシュに接種した後、37℃、5% CO2の大量増殖機において3日おきに培地を交換しながら、培養ディッシュが細胞によりいっぱいになるまで増殖するステップと、を含んでいてもよい。
【0022】
本発明によるさらに別の実施形態において、継代培養は、ステップ(c1)~(c5)を3回繰り返し行うことにより行われてもよい。
【0023】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明についてさらに詳しく説明する。しかし、これらの実施例は本発明についての理解への一助となるために例示の目的で提供されたものにすぎず、本発明の範囲がこれらの実施例により制限されるものと解釈されないということは、当業界において通常の知識を有する者にとって自明である。
【0024】
実施例1.頭皮組織からの毛球の分離
【0025】
滅菌された90mmのペトリディッシュに最小必須培地(MEM)アルファを被験者から採取した頭皮組織(表皮から真皮層まで)が沈漬されるように充填した後、90mmのペトリディッシュ蓋体に最小必須培地(MEM)アルファを用いて多数のドロップを形成し、微細手術用のハサミと鉗子(フォーセップ)を用いて、真皮層の毛球を一つずつ分離して、用意したドロップに移した。次いで、ドロップに移された毛球を実体顕微鏡にて観察しながら、26Gシリンジと微細手術用の鉗子を用いて、毛球の末端に付着されている脂肪組織及び毛幹(hair shaft)などを取り除いて、頭皮組織から毛球を分離した。
【0026】
実施例2.毛球からの毛乳頭細胞の分離
【0027】
毛球から毛乳頭細胞を分離する最適な方法を選択するために、下記のような比較実験を行った。
【0028】
まず、分離方法1は、35mmの細胞培養ディッシュに1mlの剥離培地を入れ、毛球約50個を入れた後、精密微細ハサミにてチョッピングした後にチューブに集め、2200rpmにて5分間かけて遠心分離する方法である。
【0029】
次いで、分離方法2は、約50個の毛球が入れられている35mmの細胞培養ディッシュに0.025%のコラゲナーゼタイプI試薬を入れた後、37℃、シェイキングインキュベーターにおいて2時間30分間かけてインキュベーションし、チューブに集めて2200rpmにて5分間遠心分離する方法である。
【0030】
前記分離方法1と分離方法2の結果を比較するために、それぞれのペレットをタッピングし、下記の表1の組成を有する接着培地2mlにてピペッティングを十分に行った後、35mmの細胞培養ディッシュに接種し、37℃、5% CO2の大量増殖機において三日おきに培地を交換しながら、培養ディッシュが細胞によりいっぱいになるまで増殖した。
【0031】
【0032】
上記の比較実験を行った結果、0.025%のコラゲナーゼタイプI試薬を入れた分離方法2と比較して、毛球それ自体に他の処理を施さず、チョッピングのみを行った分離方法1の方において、細胞の大きさがさらに小さく、かつ、細胞の大きさが揃っており、しかも、細胞取得率もまた高く得られるということを確認することができた(
図1)。
【0033】
実施例3.継代培養ステップ
【0034】
初代細胞(Passage 0)から第一継代細胞(Passage 1)へと継代培養するステップは、次のようにして行った。まず、35mmの細胞培養ディッシュにおいて集められた細胞数に応じて、継代培養すべき培養ディッシュを決定した後、35mmの細胞培養ディッシュに入れられていた培地を捨て、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて1回清浄した。次いで、0.25%のトリプシン/エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を処理し、37℃、5% CO2の大量増殖機において5分間かけてインキュベーションした。次いで、不活性化のために1% ウシ胎児血清(FBS)入り最小必須培地(MEM)アルファを入れ、50mlの遠心管に集めた後、2200rpmにて5分間遠心分離した後、上澄み液は捨て、底に沈殿しているペレットを十分にタッピングした後、表2に示す適量の拡大培養用培地1または2を入れ、細胞数を確認した。
【0035】
【0036】
計数された細胞数に応じて、1,500個/cm2になるように次のステップの培養ディッシュに接種した後、37℃、5% CO2の大量増殖機において三日おきに培地を交換しながら、培養ディッシュが細胞によりいっぱいになるまで増殖した。
【0037】
次いで、初代細胞(Passage 0)から第四継代細胞(Passage 4)へと継代培養するステップは、上記の順序と同様にして行われ、計数される細胞数に応じて培養ディッシュの大きさを揃えて、第四継代細胞(Passage 4)まで継代培養し、中間の継代段階において凍結してから解凍する場合には、3,000個/cm2になるように培養ディッシュに接種した。
【0038】
実施例4.毛乳頭細胞の分離及び大量増殖の条件に応じた結果の導出
【0039】
実施例4-1.細胞の分離方法と培地の組成に応じた違い
【0040】
毛乳頭細胞の分離方法と培地の組成に応じた大量増殖の結果を
図2に示す。
図2において、case 1は、チョッピングにより毛球から毛乳頭細胞を分離した後、増殖培地1において大量増殖を行った結果であり、case 2は、チョッピングにより毛球から毛乳頭細胞を分離した後、拡大培養用培地2において大量増殖を行った結果であり、case 3は、0.025%のコラゲナーゼタイプI試薬処理により毛球から毛乳頭細胞を分離した後、増殖培地1において大量増殖を行った結果であり、case 4は、0.025%のコラゲナーゼタイプI試薬処理により毛球から毛乳頭細胞を分離した後、増殖培地1において大量増殖を行った結果を示すものである。各caseごとに細胞のモルフォロジーを確認してみたところ、チョッピングにより毛球から毛乳頭細胞を分離した後、拡大培養用培地2を用いた場合であるcase 2において細胞の形状が良好に保持され、毛乳頭細胞の大量増殖増殖率が著しく向上するということを確認することができた。
【0041】
また、caseごとに継代大量増殖に応じた細胞の大きさの変化を下記の表3に示す。
【0042】
【0043】
上記の表3によれば、case 2の細胞の大きさが最も小さく、かつ、最も均一に保持されており、case 1を除いた残りの群においては、継代培養数が増えることにつれて、細胞の大きさもまた大きくなるという傾向を示している。さらに、case 2の場合には、P1からP4まではこれといった大きな変化なしに細胞の大きさが保持されることから、細胞の取得率もまた高いことを予想してみることができ、これを確認した結果を
図3に示す。
図3によれば、細胞の取得率もまた、全体の継代にわたってcase 2が最も高いということを確認することができ、特に、P3において最も多い量の細胞が集められたということが確認された。
【0044】
次いで、caseごとに継代培養に応じた、毛乳頭細胞と関わる成長因子の分泌量を
図4に示す。
図4によれば、人体の毛乳頭細胞を刺激して上皮小嚢細胞の増殖を促す肝細胞増殖因子(HGF)、血管の拡張に与って毛髪の成長を誘導する血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、毛包組織の成長を促す線維芽細胞増殖因子(FGF)((表皮細胞増殖因子(KGF))など毛乳頭細胞の成長因子であると知られている様々な成長因子の分泌量を測定してみたところ、全般的にcase 2のP3において最も多い量の成長因子が分泌されるということを確認することができた。
【0045】
実施例4-2.チョッピング範囲に伴う違い
【0046】
上記の実験結果を踏まえて、最適なチョッピング範囲を決定するための実験を行った。まず、頭皮組織から打ち抜かれてきた毛球をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)または基礎培地が充填されているペトリディッシュに集め、35mmの細胞培養ディッシュに1mlの剥離培地と毛球を入れ、精密微細ハサミにて毛球をチョッピングした後、チョッピングの度合いに応じた毛球の大きさの変化を顕微鏡にて観察した。チョッピングの段階に応じた毛球の大きさを測定したところ、チョッピング前には750μm~900μm、チョッピング第1段階においては490μm~630μm、第2段階においては300μm~410μm、第3段階においては180μm~260μm、第4段階においては15μm~120μmの大きさの毛球を確認することができた(
図5)。
【0047】
次いで、チョッピングされた毛球をチューブに集め、2200rpmにて5分間遠心分離した後、上澄み液は捨て、ペレットを集めて35mmの細胞培養ディッシュに1mlの接着培地を入れ、37℃、5% CO
2 大量増殖機において細胞の増殖を確認し、その結果は
図6に示す。
【0048】
図6によれば、チョッピング範囲に応じて計4つの段階に分けて細胞の増殖及び付着の形態を確認してみたところ、チョッピングの度合いに応じて細胞の付着の形態が異なるということを確認することができた。
図6の左側は、チョッピング後に付着してから三日目の細胞の写真であり、右側は、チョッピング後に付着してから五日目の細胞の写真である。培養三日目に観察したところ、チョッピングの段階が低い場合、細胞培養ディッシュの底面に細胞が均一に付着できずに塊状になって成長するという現象が起きた。これに対し、チョッピングの段階が高くなるにつれて、細胞培養ディッシュの底面に細胞が一定の間隔をあけて均一に付着されて成長し、両端が尖った方錐状に増殖された。さらに、培養五日目に観察したところ、チョッピングの段階が低い状態の場合、塊状になって成長した個所と塊状になっていない個所における細胞の増殖に著しく差が出ており、細胞が処々に散らばって成長する傾向を示したが、チョッピングの段階が高くなるにつれて、細胞培養ディッシュの底面の全体にわたって均一に細胞がいっぱいに詰まっているということを確認することができた。
【0049】
また、チョッピングの段階に応じた細胞取得率にも差が出たため、これを下記の表4に示す。
【0050】
【0051】
上記の表4によれば、チョッピングの度合いに応じて、細胞の付着の形態だけではなく、取得率にも差が出るということを確認することができた。チョッピングの度合いに応じて、細胞が細胞培養ディッシュに付着される形態が異なってき、細胞同士の間隔及び増殖される形状に応じて取得率に大きく影響を及ぼすと認められる。概ね第1段階から第2段階のチョッピングの度合いにおいては、コロニー(colony)を形成して増殖され、それにより、細胞が散らばって成長する傾向にあるため、1.0E+05~1.3E+05レベルの細胞取得率を示し、第3段階のチョッピングの度合いにおいては、細胞の集塊化は、第1段階から第2段階のチョッピングよりもあまり観察されないとはいえ、僅かな集塊化により初期の付着時に細胞の散在が観察され、第4段階のチョッピングにおいて、細胞が初期からシングルの状態でしっかりと付着されて細胞の散在や集塊化は全く観察されず、培養の日数が増えるにつれて、細胞培養ディッシュの底面の全体にわたって均一に付着されて増殖されるということを観察することができ、これにより、チョッピング第1段階と比較したとき、取得率に約2倍ほど差が出るということを確認することができた。しかしながら、15μm以下にチョッピングを行った場合には、毛球の内部の毛乳頭細胞が損なわれて細胞取得率が格段に低くなるという不都合があり、120μm以上にチョッピングを行った場合には、上記の実験から確認したように、細胞の集塊化が起きて細胞が培養ディッシュの底面の全体にわたって均一に分布されない結果、細胞の増殖が格段に低下してしまうという不都合があったが、これは、均一に分布される細胞に比べて、集塊化した細胞は栄養分の吸収率が低下し、細胞の密度の上昇に起因する外部のストレスの増加の結果であると認められる。