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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-25
(45)【発行日】2024-08-02
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240726BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240726BHJP
   G06F 11/14 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/14 201
G06F11/14 602Z
B41J2/01 401
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020173539
(22)【出願日】2020-10-14
(65)【公開番号】P2022064736
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲 寛徳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】新澤津 祐太
(72)【発明者】
【氏名】石川 真也
(72)【発明者】
【氏名】植木 秀行
(72)【発明者】
【氏名】木元 鴻太郎
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-064174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
G06F 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置であって、
コントローラと、
前記コントローラと前記記録ヘッドの間に位置し、前記コントローラからの指示により、前記記録ヘッドを制御する記録ヘッド制御手段と、を備え、
前記コントローラは、
前記記録ヘッド制御手段への指示の送信が失敗した場合、該指示が前記記録ヘッドを制御するために前記記録ヘッド制御手段との間で周期的に行われる第1通信シーケンスに含まれる指示である場合には、該失敗した指示のリトライを実行せず、該指示が前記記録ヘッドを制御するために前記記録ヘッド制御手段との間で非周期的に行われる第2通信シーケンスに含まれる指示である場合には、該失敗した指示のリトライを実行する制御手段、
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記失敗した指示のリトライを、前記第1通信シーケンスにおける指示のタイミングと重ならないタイミングで実行することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第1通信シーケンスは、前記記録ヘッド制御手段に記憶されたデータを繰り返し取得するシーケンスであることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記記録ヘッド制御手段に記憶されたデータは、前記記録ヘッドの温度データであることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録ヘッド制御手段は、
前記記録ヘッドからの温度情報を示すアナログ信号をデジタル信号に変換する変換手段と、
前記変換手段により変換されたデジタル信号のデータを記憶する記憶手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項3または4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記記録ヘッド制御手段は、
前記変換手段で変換を開始させるためのトリガ信号を生成する生成手段、をさらに備え、
前記変換手段は、前記トリガ信号に基づいて、前記記録ヘッドからの温度情報を示すアナログ信号をデジタル信号に変換する、
ことを特徴とする請求項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記生成手段は、前記コントローラからの指示によらず、前記トリガ信号を周期的に生成することを特徴とする請求項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記生成手段は、前記コントローラからの指示により、前記トリガ信号を周期的に生成することを特徴とする請求項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記生成手段が前記トリガ信号を生成する周期は、前記第1通信シーケンスが行われる所定の周期よりも短いことを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記第1通信シーケンスが行われる所定の周期は、前記記録ヘッド制御手段から取得したデータを用いて行われる前記記録ヘッドの制御の周期より短いことを特徴とする請求項3乃至のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記記録ヘッド制御手段は、
前記記録ヘッドに対する電源制御を行う電源制御手段、をさらに備え、
前記第2通信シーケンスに含まれる前記指示は、前記電源制御手段に対する指示である、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、多数のインクジェットノズルを備えた記録ヘッドの制御が行われる。記録ヘッドの制御は、CPUを含むコントローラだけで行われるのではなく、外部の記録ヘッド制御ICを用いたハードウェアによる制御が行われる。記録ヘッドの制御には、例えば温度検出制御と電圧供給制御があり、CPUの指示により、記録ヘッド制御ICがそれらの制御を実行する。CPUを含むコントローラと記録ヘッド制御ICとの間は、シリアルインタフェースで接続され、シリアルインタフェース上での通信が失敗した場合、再度の通信(リトライ)が行われる。記録ヘッド制御ICで温度検出制御と電圧供給制御が実行される場合、それぞれに適したリトライ制御が必要となる。
【0003】
特許文献1には、CPUと外部デバイスとの間の通信エラーをECCなどのエラー訂正の構成により検出し、その検出されたエラーをエラー検出メモリに記憶することが記載されている。なお、ECCは、Error-Correcting Codeの略称である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018―77679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているECCなどのエラー訂正の構成をハードウェアとして搭載する場合には、そのためのコストがかかってしまう。また、記録ヘッド制御には様々な通信シーケンスがあり、ECCなどのエラー訂正の構成を各記録ヘッド制御に対して一律に適用することは適切ではない。
【0006】
上記の点に鑑み、本発明は、簡易な構成により、各記録ヘッド制御に応じたリトライ制御を行うインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るインクジェット記録装置は、記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置であって、コントローラと、前記コントローラと前記記録ヘッドの間に位置し、前記コントローラからの指示により、前記記録ヘッドを制御する記録ヘッド制御手段と、を備え、前記コントローラは、前記記録ヘッド制御手段への指示の送信が失敗した場合、該指示が前記記録ヘッドを制御するために前記記録ヘッド制御手段との間で周期的に行われる第1通信シーケンスに含まれる指示である場合には、該失敗した指示のリトライを実行せず、該指示が前記記録ヘッドを制御するために前記記録ヘッド制御手段との間で非周期的に行われる第2通信シーケンスに含まれる指示である場合には、該失敗した指示のリトライを実行する制御手段、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡易な構成により、各記録ヘッド制御に応じたリトライ制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】画像形成装置の記録部周辺の概略構成を示す斜視図である。
図2】記録ヘッドを説明するための図である。
図3】記録ヘッドを駆動するためのブロック構成を示す図である。
図4】制御シーケンスを示す図である。
図5】非周期的な通信が失敗した場合のシーケンスを示す図である。
図6】周期的な通信が失敗した場合のシーケンスを示す図である。
図7】記録ヘッドを駆動するための他のブロック構成を示す図である。
図8】本実施形態と比較するためのブロック構成を示す図である。
図9図8の構成における制御シーケンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には、複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
図1は、本実施形態における画像形成装置の記録部周辺の概略構成を示す斜視図である。本実施形態では、画像形成装置として、インクジェット記録方式により記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置を説明する。図1において、インクジェット記録装置100は、自動給送部101と、搬送部103と、回復部108とを含む。自動給送部101は、印刷用紙などの記録媒体を装置本体内部へと自動的に給送するユニットであり、給送ローラやモータを含む。搬送部103は、自動給送部101から1枚ずつ分離されて送出される記録媒体を所定の記録位置へと導くとともに、記録媒体を記録位置から排出部102へと導くユニットであり、搬送ローラやモータを含む。回復部108は、記録位置に搬送された記録媒体に記録を行う記録部に対して回復処理を行うユニットであり、ノズルの吐出口の残存インクを吸引するための吸引機構やブレード機構を含む。記録部は、キャリッジ軸104によって矢印Xの主走査方向に移動可能に支持されたキャリッジ105と、キャリッジ105に着脱可能に搭載される記録ヘッド201(図2で後述)とを含む。なお、図1では、主走査方向と直交する記録媒体の搬送方向を副走査方向ともいう。
【0012】
キャリッジ105には、キャリッジ105と係合して、記録ヘッド201をキャリッジ105上の所定の装着位置に案内するためのキャリッジカバー106と、ヘッドセットレバー107とが設けられている。ヘッドセットレバー107は、記録ヘッド201のタンクホルダーと係合して、記録ヘッド201を所定の装着位置にセットして押圧するために用いられる。キャリッジ105の上部に、ヘッドセットレバー軸に対して回動可能に設けられるとともに、記録ヘッド201との係合部にばね付勢されるヘッドセットプレート(不図示)が設けられている。そのばね力によって、ヘッドセットレバー107は、記録ヘッド201を押圧しながらキャリッジ105に装着する。
【0013】
本実施形態では、主走査方向にキャリッジ105が往復移動することにより記録媒体に記録を行う、いわゆるシリアル型の記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置を説明する。しかしながら、他の種類の記録ヘッド、例えば、記録ヘッドのノズル列が記録媒体の幅に渡って設けられた、いわゆるライン型記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置であっても良い。
【0014】
図2は、記録ヘッド201を説明するための図である。記録ヘッド201は、キャリッジ105と係合して記録を行う。記録ヘッド201は、インクカートリッジ202に貯留された各色インクに対応した記録素子列が設けられたユニットとして構成されている。インクカートリッジ202は、例えば、ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のインクを個別に貯留するものであり、各貯留室は一体的に構成されている。
【0015】
記録ヘッド201には、記録素子列(ノズル列)203が設けられている。図2では、図示上、1列(A列)のみ示されている。図中のX方向は主走査方向に対応し、Y方向は副走査方向に対応する。記録素子列203は、複数の記録素子(ノズル)204を備えている。記録素子204は電気熱変換体であり、Y方向に沿って配列されており、記録素子204に対応するノズルからインク滴が吐出される。本実施形態では、インクジェット記録方式の一例としてヒータを用いてインク滴を吐出する構成が採用されている。記録ヘッド201に設けられた記録素子列203は、1つの色成分の記録に用いられる。記録ヘッド201は、キャリッジ軸104に沿ったX方向への移動中に、所定の吐出タイミングでインク滴を吐出することで、記録媒体への記録を行う。また、記録ヘッド201は、温度検出ダイオード205を備えており、記録ヘッド201の周囲温度を検出可能である。温度検出ダイオード205は、記録ヘッド1つあたりに1つだけ設けられている場合や、ノズル列ごとに1つずつ設けられている場合がある。また、温度検出ダイオード205は、各記録素子列203の上部と下部にそれぞれ設けられて、記録ヘッドの位置に応じて温度が取得されるようにしても良い。
【0016】
図3は、本実施形態における記録ヘッド201を駆動するためのブロック構成を示す図である。図3には、メインコントローラ300と記録ヘッド制御部310と記録ヘッド201とが示されている。
【0017】
メインコントローラ300は、CPU301、RAM302、ROM303、I2C(Inter-Integrated Circuit)インタフェース304を含む。CPU301は、インクジェット記録装置100を統括的に制御するプロセッサである。RAM302は、適宜必要に応じてデータを格納するデータ領域であり、例えば、CPU301のワーキングメモリとして動作する。ROM303は、インクジェット記録装置100の機能を実現するための制御プログラムやデータを記憶する。インクジェット記録装置100の機能は、例えば、CPU301がROM303に記憶されたプログラムをRAM302に読み出して実行することにより実現される。
【0018】
記録ヘッド制御部310は、I2Cインタフェース311、電源制御部312、信号増幅部(AMP)313、アナログ・デジタル(AD)変換部(ADC)314、タイマ制御部(TCU)315を含む。信号増幅部313は、記録ヘッド201の温度検出ダイオード205から出力される電圧信号を増幅する。AD変換部314は、信号増幅部313により増幅されたアナログ信号(電圧信号)をデジタル信号に変換する。タイマ制御部315は、AD変換部314でAD変換を行わせるためのトリガ信号を周期的に生成する。タイマ制御部315は、メインコントローラ300からの指示によらず、例えば内部クロックを用いて周期的なトリガ信号を自律的に生成可能である。電源制御部312は、記録ヘッド201の電源制御を実行する。
【0019】
図3に示すように、本実施形態では、メインコントローラ300と記録ヘッド制御部310との間は、シリアルインタフェースとしてのI2Cインタフェース304及び311を介したI2Cバスにより接続されている。記録ヘッド制御部310の電源制御部312は、メインコントローラ300からI2Cバスを介して制御される。記録ヘッド201は、ヒータを駆動するための電源、ロジックIC等を駆動するための電源など、複数の電源系統を有している。そのような複数の電源系統それぞれについての電源供給は、メインコントローラ300からの指示によって、電源制御部312により開始される。
【0020】
信号増幅部313で増幅された温度検出ダイオード205から出力された電圧信号は、記録ヘッド制御部310のAD変換部314によりデジタル信号に変換される。本実施形態では、AD変換部314は、タイマ制御部315で生成されたトリガ信号に応じて、電圧信号に対するAD変換を実行する。CPU301は、I2Cバスを介して記録ヘッド制御部310と通信することにより、記録ヘッド制御部310のAD変換部314から、デジタル信号に変換された記録ヘッド201の温度データを取得する。このように、本実施形態では、電源制御信号と温度制御信号は、メインコントローラ300と記録ヘッド制御部310との間のI2Cバス上を伝達される。
【0021】
図4は、図3の構成において実行される制御シーケンスを示す図である。以下、説明するように、メインコントローラ300のCPU301は、I2Cバスを介して記録ヘッド制御部310のAD変換部314と周期的に通信を行い、AD変換部314のADCレジスタに書き込まれたレジスタ値を取得する。
【0022】
記録ヘッド制御部310のAD変換部314は、タイマ制御部315で生成されるAD変換開始のトリガ信号を受信する(ステップ401)。すると、AD変換部314は、信号増幅部313で増幅された記録ヘッド201の温度検出ダイオード205の電圧信号に対してAD変換を実行する。そして、AD変換部314は、その変換結果である温度データをAD変換部314のADCレジスタに格納する(ステップ402)。一方、メインコントローラ300のCPU301は、温度取得命令をI2Cバスを介して記録ヘッド制御部310に送信する。そして、CPU301は、記録ヘッド制御部310のAD変換部314のADCレジスタに格納された温度データをI2Cバスを介して読み出す(ステップ403、404、405)。このようにして、メインコントローラ300のCPU301は、I2Cバスを介して、記録ヘッド201の温度データを取得する。CPU301は、取得した温度データをRAM302に格納する。
【0023】
図4は、温度データ取得命令の送信から温度データ取得までの通信シーケンスが繰り返し行われていることを示している。即ち、ステップ403~405と同様の通信シーケンスが、ステップ406~408、ステップ409~411、ステップ412~414において行われている。記録ヘッド201から取得した温度データが示す温度情報の正確性は、一度のデータ取得のみでは判断できない。そのため、CPU301は、図4に示すように複数回に渡って温度データを取得し、RAM302等の記憶領域に格納された温度データの履歴に基づいて正確性を判定する。正確性の判定は、例えば、データの連続性が条件を満たしているかに基づいて行われる。
【0024】
CPU301からの要求により記録ヘッド201から取得された温度データは、記録ヘッド201の温度制御に用いられる。記録ヘッド201の温度制御は、例えば、インクの粘性制御である。本実施形態では、CPU301による温度データの取得周期420は、記録ヘッド201の温度制御に必要な温度情報の更新周期よりも十分短い周期で行われる。また、タイマ制御部315がAD変換部314にトリガ信号を送信する周期430は、CPU301が温度データ取得命令を発信する周期440よりも短い。このような構成により、メインコントローラ300と記録ヘッド制御部310の間のI2Cバス上の通信量の増大を防ぎ、且つ、記録ヘッド201の温度制御を行う際にはリアルタイム性の高い温度データを用いることができる。
【0025】
一方、記録ヘッド制御部310の電源制御部312は、CPU301からの電源制御指令をI2Cバス経由で受信すると(ステップ451~453)、記録ヘッド201に電源を供給する。電源制御指令は、インクジェット記録装置100の記録動作に基づいて実行されるので、上記の温度データの取得と異なり、非周期的な通信である。例えば、プリンタは、情報処理装置から印刷データを受信したタイミングで電源制御指令を実行することになる。印刷データは、非周期的な任意のタイミングで受信されるため、電源制御指令の通信も非周期的に行われることになる。図4では、ステップ451~453と同様の通信シーケンスが、ステップ454~456において行われている。
【0026】
以下、本実施形態において、メインコントローラ300と記録ヘッド制御部310との間の非周期的な通信、および周期的な通信が失敗した場合の動作について説明する。
【0027】
図5は、非周期的な通信が失敗した場合のシーケンスを示す図である。本実施形態では、CPU301は、電源制御指令を発信した後、I2Cバス通信が成功したか失敗したかの判定を行っている。図5は、記録ヘッド201の電源制御のI2Cバス通信が外乱などの要因により、通信が失敗したと判定されたケースを示している。記録ヘッド201の電源制御は記録ヘッド201による記録が行われるタイミングで実行されるので、電源制御が正常に実行できない状況であれば、記録ヘッド201が使用できなくなってしまう。そのため、記録ヘッド201の電源制御に関するI2Cバス通信は、その通信が失敗したと判定された場合には、極力早く通信を再開させる必要がある。
【0028】
本実施形態では、CPU301からの電源制御指令451の発信後、I2Cインタフェース304とI2Cインタフェース311の間のI2Cバス通信が失敗したと判定された場合、CPU301は、電源制御指令501を発信して通信リトライを実行する。そして、I2Cバス通信が成功したと判定された場合には、電源制御部312が電源制御指令503を受信することにより、記録ヘッド201に電源が供給される。
【0029】
CPU301は、I2Cバス通信が成功したか失敗したかの判定の際、I2Cインタフェース311にライトしたデータをリードバックする構成や、記録ヘッド201の電源状態をモニタする構成を用いても良い。例えば、CPU301は、I2Cインタフェース311からリードバックしたデータが所定の条件を満たさない場合には、I2Cバス通信が失敗したと判定する。その所定の条件としては、例えば、ライトデータとの比較の結果、ライトデータとリードバックしたデータとの一致であっても良い。また、例えば、CPU301は、記録ヘッド201の電源状態をモニタし、電源制御指令の発信後の記録ヘッド201の電源状態が所定の条件を満たさない場合には、I2Cバス通信が失敗したと判定する。その所定の条件としては、例えば、電源制御指令の発信の前後における比較の結果、記録ヘッド201の電源状態が所定の状態に遷移していることであっても良い。CPU301は、I2Cバス通信が失敗したと判定した場合、電源制御指令の通信リトライを実行する。ここで、通信リトライの結果が失敗した場合には、所定回数に至るまで、通信リトライを繰り返しても良い。その際、所定回数に至った場合や、温度データ取得命令の発信タイミングに重なる場合には、通信リトライを中止し、エラーとして処理しても良い。
【0030】
このように、本実施形態では、メインコントローラ300と記録ヘッド制御部310の間において電源制御指令のような非周期的な通信が失敗した場合には、直ちに通信リトライが実行される。そのような構成により、記録ヘッド201の駆動への影響を最小限に留めることができる。また、電源制御指令のリトライが温度データ取得の周期的な通信の間で実行されることで、このリトライ処理が周期的な通信に影響が及ぶことを防ぐことができる。
【0031】
図6は、周期的な通信が失敗した場合のシーケンスを示す図である。本実施形態では、CPU301は、温度データ取得命令を発信した後、I2Cバス通信が成功したか失敗したかの判定を行っている。図6は、例えば、ステップ406における温度データ取得命令の発信後、記録ヘッド201の温度データ取得のI2Cバス通信が外乱などの要因により、通信が失敗したと判定されたケースを示している。但し、図5の場合と異なり、CPU301は、I2Cバス通信が失敗したと判定した場合、通信リトライを実行せずに、温度データ取得命令から温度データ取得までの通信シーケンスの周期を維持する。即ち、ステップ406における温度データ取得命令の発信後のI2Cバス通信の成功/失敗に関わらず、ステップ408における温度データ取得を行う。その際、ステップ408で取得される温度データは、前回の通信シーケンスのステップ405で得られたデータであり、データの連続性が欠如してデータの正確性に影響を及ぼす可能性がある。そのため、I2Cバス通信の失敗の後、ステップ408で取得された温度データを補正するようにしても良い。例えば、CPU301は、現在までの温度データの値の傾きや分布から連続性を分析し、I2Cバス通信が成功していた場合に得られるであろう値に温度データを補正しても良い。そのような構成により、I2Cバスに対する外乱が直ちに解消されるような場合には、エラー処理として周期的な通信を中止することを防ぐことができる。
【0032】
上述したように、記録ヘッド201の温度データの取得周期420は、記録ヘッド201の温度制御に必要な温度情報の更新周期よりも十分短い周期で行われる。そのため、I2C通信エラーが生じた際に、直ちに通信リトライを実行する必要はない。但し、CPU301は、周期的な通信においてI2Cバス通信が所定回数連続して失敗と判定された場合には、I2Cバスで接続されたデバイスとの間の通信不可と判定してエラー処理を実行する。例えば、メインコントローラ300内のI2Cインタフェース304がNACK応答を検出してCPU301にNACK応答通知を所定回数送出した場合、CPU301は、I2Cバス通信不可と判定してエラー処理を実行する。そのような構成により、例えばI2Cバスが物理的に切断されている場合には、周期的な通信を中止してエラー処理に移行することができる。なお、エラー処理とは、例えば温度情報が適切に取得できないことを示すメッセージを画像形成装置の表示部に表示する処理である。または、別の方法でもよく、例えば画像形成装置と通信可能な情報処理装置にメッセージを表示させても良い。
【0033】
CPU301は、I2Cバス通信が成功したか失敗したかの判定の際、I2Cインタフェース311にライトしたデータをリードバックする構成を用いても良い。また、他の構成を用いて、I2Cバス通信が成功したか失敗したかの判定を行うようにしても良い。上述したように、記録ヘッド201の温度データは、記録ヘッド201内の温度検出ダイオード205からの電圧信号に基づいて取得される。温度検出ダイオード205の電圧信号は、記録ヘッド制御部310のAD変換部314でAD変換されるが、その電圧信号のレベルは、外乱などの要因によって変動し得る。温度検出ダイオード205の電圧信号のレベルに変動が生じると、AD変換部314でAD変換されたデジタル信号の値は、想定されている記録ヘッド201の温度データから大きく外れた温度データとなることがある。従って、CPU301は、所定範囲外の温度データが取得されたことに基づいて、I2Cバス通信が失敗したと判定するようにしても良い。いずれの場合においても、CPU501は、I2Cバス通信が失敗したと判定した場合、通信リトライを実行せずに、温度データ取得命令から温度データ取得までの通信シーケンスの周期を維持する。
【0034】
このように、本実施形態では、メインコントローラ300と記録ヘッド制御部310の間において温度データ取得のような周期的な通信が失敗した場合には、通信リトライを実行しない。そのような構成により、I2Cバス上の通信量を低減させることができる。
【0035】
以下、本実施形態の効果についてさらに説明する。そのために、まず、図8の構成を説明する。図8は、本実施形態の構成と比較するために、メインコントローラがAD変換部を備えた構成を示している。図8には、メインコントローラ800と記録ヘッド制御部810と記録ヘッド820とが示されている。
【0036】
メインコントローラ800は、CPU801、RAM802、ROM803、GPIO(General-purpose Input/Output)ポート805、AD変換部(ADC)804を含む。RAM802は、適宜必要に応じてデータを格納する領域であり、例えば、CPU801のワーキングメモリとして動作する。ROM803は、インクジェット記録装置の機能を実現するための制御プログラムやデータを記憶する。AD変換部804は、記録ヘッド制御部810の信号増幅部(AMP)813により増幅されたアナログ信号(電圧信号)をデジタル信号に変換する。
【0037】
記録ヘッド制御部810は、GPIOポート811、電源制御部812、信号増幅部(AMP)813を含む。信号増幅部813は、記録ヘッド820の温度検出ダイオード821から出力される電圧信号を増幅する。電源制御部812は、記録ヘッド821の電源制御を実行する。記録ヘッド820、温度検出ダイオード821はそれぞれ、記録ヘッド201、温度検出ダイオード205に対応する。
【0038】
図8の構成では、メインコントローラ800と記録ヘッド制御部810との間は、GPIOポート805及び811を介して接続されている。記録ヘッド制御部810の電源制御部812は、メインコントローラ800からGPIOポート805及び811を介して制御される。記録ヘッド820は、記録ヘッド201と同様に複数の電源系統を有しており、記録ヘッド820への電源供給は、メインコントローラ800からの指示によって、電源制御部812により開始される。
【0039】
信号増幅部813で増幅された温度検出ダイオード821から出力された電圧信号は、メインコントローラ800のAD変換部804によりデジタル信号に変換される。図8に示す構成では、CPU801は、その変換されたデジタル信号に基づいて、記録ヘッド820の温度データを取得する。図8に示すように、AD変換部804と信号増幅部813との間の信号線は、GPIOポート805及び811とは別に構成されている。
【0040】
図9は、図8の構成において実行される制御シーケンスを示す図である。以下、説明するように、メインコントローラ800のCPU801は、ADCレジスタを介してAD変換部804と周期的に通信を行い、AD変換部804のADCレジスタに格納されたレジスタ値を取得する。
【0041】
CPU801は、温度データ取得命令をADCレジスタに書き込むと(ステップ901)、ADCレジスタからAD変換部804に対してAD変換開始トリガが送出される(ステップ902)。すると、AD変換部804は、記録ヘッド制御部810の信号増幅部813で増幅された記録ヘッド820の温度検出ダイオード821の電圧信号に対してAD変換を実行する。そして、AD変換部804は、その変換結果である温度データをAD変換部804のADCレジスタにレジスタ値として格納する(ステップ903)。メインコントローラ800のCPU801は、ADCレジスタに格納されたレジスタ値を読み出すことで記録ヘッド820の温度データを取得し、取得した温度データをRAM802に格納する(ステップ904)。
【0042】
図9は、温度データ取得命令の送信から温度データ取得までの通信シーケンスが繰り返し行われていることを示している。即ち、ステップ901~904と同様の通信シーケンスが、ステップ905~908、ステップ909~912、ステップ913~916、ステップ917~920において行われている。
【0043】
一方、記録ヘッド制御部810の電源制御部812は、CPU801からの電源制御指令をGPIOポート経由で受信すると(ステップ921、922)、記録ヘッド820に電源を供給する。電源制御指令は、インクジェット記録装置の記録動作に基づいて実行されるので、温度データの取得と異なり、非周期的な通信である。図9では、ステップ921、922と同様の通信シーケンスが、ステップ923、924において行われている。
【0044】
図8及び図9の構成においても、温度データの取得周期930は、記録ヘッド820の温度制御に必要な温度情報の更新周期よりも十分短い周期で行われる。しかしながら、図8及び図9の構成の場合、よりリアルタイム性の高い温度データを取得するためには、温度データの取得周期930をより短くする必要があり、CPU801の通信負荷およびメインコントローラ800内の通信量の増大を招いてしまう。一方、図3及び図4に示す本実施形態の構成であれば、記録ヘッド制御部310におけるタイマ制御部315がAD変換部314にトリガ信号を送信する周期430を調整すればよい。その結果、本実施形態では、CPU301の通信負荷およびメインコントローラ300内の通信量の増大を防ぐことができるとともに、よりリアルタイム性の高い温度データを取得することができる。
【0045】
本実施形態では、AD変換部314でAD変換を行わせるためのトリガ信号を周期的に生成する構成としてタイマ制御部315を説明した。上述したように、タイマ制御部315は、メインコントローラ300からの指示によらず、例えば内部クロックを用いて周期的なトリガ信号を自律的に生成可能である。しかしながら、タイマ制御部315の代わりに、図7に示すように、CPU301からの指示を受信することにより、トリガ信号を生成するトリガ信号生成部(TRGGEN)701が構成されても良い。図7の構成によれば、トリガ信号の生成タイミング、即ち、AD変換部314のAD変換の開始タイミングをCPU301から制御可能となる。
【0046】
以上のように、本実施形態によれば、記録ヘッド201の各制御におけるメインコントローラ300と記録ヘッド制御部310との間の通信シーケンスに応じて、適切なリトライ制御を行うことができる。
【0047】
なお、本実施形態では、温度データを取得するための周期的な通信と、電源制御指令のための非周期的な通信を例に挙げて説明した。しかし、本実施形態の処理が、他の目的で実行される周期的な通信と、非周期的な通信に適用されても良い。例えば、記録ヘッド内のメモリにインク残量が保持されているとする。この場合、記録ヘッドの状態を取得するための周期的な通信と、印刷が終了する非周期的なタイミングで記録ヘッドからインク残量を取得する非周期的な通信とに対して、本実施形態の処理が適用されても良い。
【0048】
また、本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0049】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0050】
100 インクジェット記録装置: 201 記録ヘッド: 205 温度検出ダイオード: 300 メインコントローラ: 301 CPU: 310 記録ヘッド制御部: 313 信号増幅部: 314 AD変換部: 315 タイマ制御部: 701 トリガ信号生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9