(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】量子ドット、それを有する光電変換素子、受光素子、光電変換装置、移動体、量子ドットの製造方法、光電変換素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 30/60 20230101AFI20240729BHJP
H01L 31/10 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
H10K30/60
H01L31/10 A
(21)【出願番号】P 2019210867
(22)【出願日】2019-11-21
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2019044266
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】矢島 孝博
(72)【発明者】
【氏名】深谷 庸一
(72)【発明者】
【氏名】島津 晃
(72)【発明者】
【氏名】角田 隆行
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-524820(JP,A)
【文献】特表2016-532301(JP,A)
【文献】特表2017-516320(JP,A)
【文献】特開2015-052495(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150297(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/018082(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0033536(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0346031(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/119
H01L 31/18-31/20
H10K 30/00-99/00
H02S 10/00-10/40
H02S 30/00-99/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一電極を用意する工程と、前記第一電極の上に、無機配位子のモル比が有機配位子のモル比よりも大きくなるように製造された量子ドットを付与することで光電変換層を形成する工程と、前記光電変換層の上に第二電極を形成する工程とを有し、
前記量子ドットの表面を酸化する酸化工程をさらに有し、
前記無機配位子の添加量と前記有機配位子の添加量との合計に対する前記無機配位子の添加量が、25%以上99.8%以下であることを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記無機配位子の付与は、液相で行われ、前記有機配位子の付与は前記第一電極の上に付与された量子ドットの上に、前記有機配位子を付与することで行われることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記無機配位子の添加量と前記有機配位子の添加量との合計に対する前記無機配位子の添加量が、75%以上98%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
前記無機配位子と、前記有機配位子との合計に対する前記無機配位子のモル比が、75%以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
前記無機配位子が、ハロゲン原子を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記有機配位子が、少なくとも2つの架橋構造を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記架橋構造は、チオール基、水酸基から選ばれることを特徴とする請求項6に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記有機配位子が、1,3-ベンゼンジチオール、1,4-ベンゼンジチオール、3-メルカプト安息香酸、4-メルカプト安息香酸から選ばれることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項9】
前記
量子ドットを構成する無機粒子は、Pbを有する粒子であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項10】
前記光電変換層は、
前記量子ドットと前記
量子ドットと異なる第二の量子ドットとを有し、
前記量子ドットと前記第二の量子ドットとが、前記有機配位子により架橋されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット、それを有する光電変換素子、光電変換素子、受光素子、光電変換装置、移動体、量子ドットの製造方法、光電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機粒子からなり、受光した光を電気に変換する量子ドットが注目されている。量子ドットは、近赤外領域にも光感度を有し、暗視野でも高感度の画像を得られるため、防犯カメラ等のセキュリティ用途の画像センサ(撮像センサ)に利用できる。
【0003】
量子ドット材料は、化合物半導体からなる複数の無機粒子で構成されることが知られている。ナノ粒子の表面に設けられ、共有結合で結合する分子は配位子と呼ばれている。
【0004】
量子ドットは、その表面に有機化合物からなる配位子や無機物の配位子を設けることが知られており、配位子の種類により、量子ドットの性質を制御できることが知られている。一例として、ベンゼン環を含むベンゼンジチオールなどの有機配位子は、無機粒子の電気導電性を向上させることが知られている。しかし、有機配位子は、立体的な構造のため、配位子のかさが大きい場合があり、かさが大きい配位子は無機粒子を十分に覆うことができない。その結果、無機粒子の表面欠陥が十分に抑制できない場合がある。
【0005】
一方、ハロゲン系の無機系配位子は、ハロゲン原子の大きさが小さいため、有機配位子よりも無機粒子の表面を覆うことができるので、無機粒子の表面欠陥を抑制することができる。しかしながら、無機系配位子だけでは、隣接する無機粒子間の距離がハロゲン原子程度にまで短くなる。すなわちスペーサとしての役割が十分でないために、耐熱性が低い場合がある。
【0006】
また量子ドット膜を形成した後に、大気中で酸化された場合、無機粒子のコア部分にまで酸化が進行し、無機粒子の粒径が小さくなる。ナノ粒子の粒径が小さくなると、電気伝導性に変化が現れ、特に光感度の分光スペクトルが短波長側にシフトすることで、所望の波長域の光感度が低下することが知られている。
【0007】
特許文献1には、量子ドットの表面に結合している有機物をハロゲンを有する無機物で置換することで、量子ドットの安定性を向上させることが記載されている。
【0008】
非特許文献1には、量子ドットの表面に有機配位子を設ける場合に、ハロゲン系の無機配位子を添加することが記載されている。無機配位子を添加することにより合成時に付加したオレイン酸のような比較的分子長が長い配位子と結合していないナノ粒子の表面欠陥が修復されて、量子ドット膜の電気伝導性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Ruili Wang,et.al、 “Colloidal quantum dot ligand engineering for high performance solar cells”,Energy & Environmental Science, 2016, 4, 1117-1516
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1及び非特許文献1には、無機粒子の表面に無機配位子及び有機配位子を有する量子ドットが記載されている。しかし、これらの量子ドットの作製条件から見積もられる配位子のモル比は、有機配位子のモル比が無機配位子のモル比よりも大きいので、光電流密度が小さい量子ドットであると見積もられる。そのため、光電流密度の改善が求められていた。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、光電流密度が高い光電変換素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態は、第一電極を用意する工程と、前記第一電極の上に、無機配位子のモル比が有機配位子のモル比よりも大きくなるように製造された量子ドットを付与することで光電変換層を形成する工程と、前記光電変換層の上に第二電極を形成する工程とを有し、前記量子ドットの表面を酸化する酸化工程をさらに有し、前記無機配位子の添加量と前記有機配位子の添加量との合計に対する前記無機配位子の添加量が、25%以上99.8%以下であることを特徴とする光電変換素子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光電流密度が高い光電変換素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(A)本発明の一実施形態に係る光電変換素子を示す断面模式図である。(B)本発明の一実施形態に係る光電変換素子の光電変換層が積層されている例を示す断面模式図である。
【
図2】(A)本発明の一実施形態に係る量子ドットの無機配位子および有機配位子の一例を表す模式図である。(B)乃至(E)量子ドットの表面を模式的に表した図である。
【
図3】本発明の実施例の量子ドットのTOF-SIMS分析結果である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る量子ドットのTOF-SIMS分析(正2次イオン)の結果である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る量子ドットTOF-SIMS分析(負2次イオン)の結果である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る光電変換素子を用いた撮像システムの一例を示す図である。
【
図7】(A)車載カメラに関する撮像システムの一例を示したものである。(B)車載カメラを含む移動体の一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態の量子ドットは、複数の無機粒子を有する量子ドットであって、前記量子ドットは、その表面に有機配位子及び無機配位子を有し、前記無機配位子と前記有機配位子との合計に対する前記無機配位子のモル比が、25%以上99.8%以下であることを特徴とする量子ドットである。無機配位子と有機配位子との合計に対して、無機配位子のモル比が75%以上98%以下であってよい。また、無機配位子に起因するTOF-SIMSの最大ピークの高さが、有機配位子に起因するTOF-SIMSの最大ピークの高さの3倍以上であってよい。TOF-SIMSを測定する場合は、無機粒子の主成分を基準としてよい。基準にする場合は、当該無機粒子のピークが測定レンジの90%以上であってよい。また、当該無機粒子のピークが測定レンジの限界と一致してもよい。
【0017】
量子ドットの酸化等による変性に起因する光感度の低下を無機配位子が抑制することで、導電性に優れた量子ドットとすることができる。
【0018】
量子ドットの表面に設けられる配位子のモル比は、配位子を量子ドットに付与する際の条件により調整することができる。
【0019】
無機配位子のモル比が有機配位子のモル比よりも高くなるように配位子を添加してよい。より具体的には無機配位子の添加量と有機配位子の添加量との合計に対する無機配位子の添加量が、有機配位子よりも大きくてよく、25%以上99.8%以下であってよい。
【0020】
[量子ドットの材料]
量子ドットは、無機粒子である。粒子は、完全な球体でなくてもよい。量子ドットに用いられる無機粒子はその大きさからナノ粒子と呼ばれることもある。量子ドットの材料としては、例えば、半導体結晶である、IV族半導体、III-V族、II-VI族の化合物半導体、II族、III族、IV族、V族、および、VI族元素の内3つ以上の組み合わせからなる化合物半導体、などのナノ粒子が挙げられる。具体的には、PbS、PbSe、InN、InAs、Ge、InAs、InGaAs、CuInS、CuInSe、CuInGaSe、InSb、Si、InP、などの比較的バンドギャップの狭い半導体材料が挙げられる。量子ドット材料は、以上の中でも、合成のし易さや赤外線領域までの光感度から、Pbを有するナノ粒子、より具体的には、PbSまたはPbSeであることが好ましい。これらを量子ドットの核(コア)とし、量子ドット材料を被覆化合物で覆ったコアシェル構造であってもよい。この場合、シェル部に配位子が設けられる。
【0021】
量子ドットの平均粒径は、2nm以上15nm以下であることが好ましい。量子ドットでは内在する励起子のボーア半径以下の大きさまで量子ドットの粒径を小さくすると、量子サイズ効果により量子ドットのバンドギャップが変化する現象が生じる。例えば、II-VI族半導体では、比較的ボーア半径が大きく、PbSでは18nm程度であると言われている。またIII-V族半導体であるInPでは、ボーア半径は10nm~14nm程度であると言われている。すなわち、量子ドットの平均粒径が、15nm以下であれば、PbSであっても、InPであっても、量子サイズ効果によるバンドギャップの制御が可能となる。量子ドットの平均粒径を2nm以上とすることで、量子ドットの合成において、量子ドットの結晶成長を制御し易くすることができる。
【0022】
[量子ドット表面の配位子]
[有機配位子]
量子ドットは、表面に配位子を有している。配位子は無機配位子、有機配位子に大別される。有機配位子は、第一の量子ドットと第二の量子ドットとを有する場合に、両者を架橋する架橋構造を有してよい。架橋とは1分子が第一の量子ドットおよび第二の量子ドットに結合することである。有機配位子により架橋される場合、有機配位子の分子長により量子ドット間の距離を制御することができる。架橋する構造は具体的には、水酸基、チオール基、カルボキシル基であってよい。ここで、水酸基で架橋された量子ドットは、エーテル結合を介して結ばれ、チオール基で架橋された量子ドットは、硫黄原子を介して結ばれ、カルボキシル基で架橋された量子ドットは、エステル結合を介して結ばれている。量子ドットを有機配位子で架橋することで一定の距離を保つことができる。
【0023】
量子ドット間には、少なくとも1個以上の有機分子を有することが好ましい。量子ドットが隙間なく整列すると仮定した場合、一つの量子ドットに隣接する他の量子ドット数は、面心立方格子では12個となり、体心立方格子では8個、となる。つまり、一つの量子ドットにおいて、少なくとも8~12個の有機配位子を有して、他の量子ドットとの間で架橋させることが好ましい。
【0024】
有機分子で構成される有機配位子が多いと、有機分子の両端が量子ドット表面と強く結合するため、耐熱性が向上し、電気的特性の安定性が増す。しかしながら、有機配位子に対して、無機配位子のモル比が減ると、量子ドットの表面欠陥を覆う無機配位子が少なくなるので好ましくない。
【0025】
[無機配位子]
無機配位子は、量子ドット表面に結合していてよい。量子ドット表面に、無機配位子が加わることで、キャリア移動度が向上する。無機配位子は量子ドットの表面欠陥を低減する。量子ドット膜中で発生した光キャリアが遅滞することなく、電界に従って移動することができる。したがって、光キャリアを外部電極に有効に取り出すことができる。すなわち、無機配位子を設けることで外部量子効率が改善される。
【0026】
一方で、無機配位子が過多の場合は好ましくない。液相で付与された無機配位子が多い場合、加熱時に量子ドットの表面で無機配位子が比較的、自由に動き回ることができる。量子ドットの表面の無機配位子が動いてしまうと、隣接する量子ドットとの間隔が短くなり、量子ドットの融着(ネッキング)が起こり、電気的特性などが大きく変化する。例えば、ヨウ素などのハロゲン原子が多過ぎた場合、光電変換膜を140℃以上に加熱することで量子ドット同士が融着し、一部の量子ドットのサイズが大きくなる部分が発生し、デバイス特性が変化する。量子ドットのサイズが大きくなると、光学吸収や電子状態が変化するため、デバイス特性の安定性が低下する。
【0027】
ハロゲン原子であるヨウ素の直径は0.28nmであるので、投影面積は0.06nm2となる。ここでは、量子ドットを球体と仮定する。量子ドットの粒径(直径)が3nmの場合、量子ドットの表面積は28.26nm2となる。
【0028】
量子ドットの表面積とヨウ素の投影面積から、表面を覆うヨウ素の数は471個となる。最密充填では、立方体に対する球の充填率(フィルファクター)が74%であるため、ヨウ素の数はおおよそ349個となる。
【0029】
[無機配位子と有機配位子との比率]
ベンゼン環の直径は0.28nmであり、ヨウ素イオンとベンゼン環の投影面積はほぼ同じである。有機配位子の一例である1,3-BDTなどの大きさは、ほぼベンゼン環の大きさと等しいため、投影面積0.06nm2とする。最密構造の量子ドットのそれぞれの間に有機配位子を設けると、その数は8または12個であった。
【0030】
無機配位子であるヨウ素が量子ドット表面を覆う数349個と比較すると、有機配位子と無機配位子とのモル比は、96.6~97.7%と導くことができる。すなわち、無機配位子のモル比は98%となる。
【0031】
[無機配位子と有機配位子との合計に対する無機配位子の最小モル比率]
図2(B)は、量子ドットの表面を模式的に表した図である。破線内が量子ドットの一部を表している。
図4を用いて、無機配位子と有機配位子の最小モル比率について、説明する。
【0032】
図2(B)は、量子ドット表面に、隙間なく無機配位子を配置したものである。一方、
図2(C)は、量子ドット表面に、隙間なく有機配位子を配置したものである。
【0033】
有機配位子を構成する炭素原子一つ分の厚さは約0.08nmであり、無機配位子であるハロゲン原子0.26nmと比較して、小さいため、有機配位子の投影面積は、無機配位子と比較して、小さいと言える。
【0034】
有機配位子が直立した場合の投影面積は、0.02nm2となり、ハロゲン原子の投影面積0.06nm2の1/3となる。
【0035】
量子ドット表面において、欠陥低減およびキャリア輸送のためには、有機配位子1つに対して、少なくともハロゲン原子1つを配置することが好ましい。すなわち、有機配位子に対して、無機配位子のモル比は、50%以上であることが望ましい。
【0036】
図2(D)は、量子ドット表面に、無機配位子と有機配位子を1:1で配置したものである。無機配位子と有機配位子を、同じモル比で配置すると、有機配位子の周りには隙間ができてしまう。この隙間を埋めるために、有機配位子を多めに配置することが有効である。
【0037】
図2(E)は、量子ドット表面に、無機配位子と有機配位子を1:3の比率で配置したものである。無機配位子1つに対して、3倍の有機配位子を配置することが、隙間なく配置するためには有効である。すなわち、有機配位子と無機配位子との合計に対して無機配位子のモル比が25%以上で大きな効果を得ることができる。
【0038】
[量子ドットの合成]
量子ドットの一例であるPbS粒子の製造方法は、一例として以下のように製造することができる。三口フラスコに、鉛(Pb)前駆体溶液として酸化鉛(II)、有機配位子としてオレイン酸、溶媒としてオクタデセン、を入れる。三口フラスコ内を窒素置換し、オイルバスにおいてPb前駆体溶液を90℃に加熱し、酸化鉛とオレイン酸とを反応させる。その後に、120℃まで加熱し、PbS量子ドットを生成、成長させる。硫黄(S)前駆体溶液としてビストリメチルシリルスルフィドのオクタデセン溶液を別途調製する。120℃に加熱されたPb前躯体溶液中にS前駆体溶液を急速注入し、反応させる。反応終了後、室温まで自然冷却し、極性溶媒として、メタノールもしくはアセトンを加えて遠心分離を行い、PbS粒子を沈殿させる。この上澄みを除去した後に、トルエンを添加しPbS粒子を再分散する洗浄を行う。この遠心分離と再分散の工程を複数回繰り返すことで過剰なオレイン酸や未反応物を除去し、最終的にオクタンなどの溶媒を加えることで、量子ドットが分散した量子ドット分散液とすることができる。
【0039】
非特許文献1に記載される方法等を用いて、量子ドットの一例であるPbS粒子に、ハロゲン原子を含むハロゲン無機配位子を添加することができる。ハロゲン配位子として、具体的には、テトラブチルアンモニウムヨージドC16H36NI:TBAIが用いられる。上記の120℃に加熱されたPb前躯体溶液中にS前駆体溶液を急速注入し、反応させた後に、ハロゲン配位子TBAIを用いて作成された前駆体溶液を添加した。反応温度とハロゲン配位子の添加量を調整することで、オレイン酸とハロゲン原子の比率を調整することができる。
【0040】
無機配位子の付与は、液相で行われ、有機配位子の付与は固体相で行われてよい。
【0041】
[分子鎖長が長い有機配位子]
有機化合物からなる配位子である。有機配位子は沸点が200℃以上の有機化合物から構成されてよい。量子ドット分散液が含有する配位子は、量子ドットに配位する配位子として働くと共に、立体障害となり易い分子構造を有しているので、溶媒中に量子ドットを分散させる分散剤としての役割も果たす。配位子は、より分子鎖長が長い配位子と、より分子鎖長が短い配位子がある。ここで、分子鎖長の長短は、分子中に枝分かれ構造がある場合は、主鎖の長さで判断する。分子鎖長の短い配位子は、そもそも有機溶媒系への分散が困難である。ここで、分散とは、粒子の沈降や濁りがない状態であることを言う。分子鎖長が長い配位子は、量子ドットの分散を向上する観点から、主鎖の炭素数が少なくとも6以上の配位子であることが望ましく、主鎖の炭素数が10以上の配位子であることがより好ましい。具体的には、飽和化合物でも、不飽和化合物のいずれでもよく、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エルカ酸、オレイルアミン、ドデシルアミン、ドデカンチオール、1,2-ヘキサデカンチオール、トリオクチルホスフィンオキシド、臭化セトリモニウム等が挙げられる。分子鎖長が長い配位子は、光電変換膜の形成時に、膜中に残存し難いものが好ましく、量子ドットに分散安定性を持たせつつ、光電変換膜に残存し難い観点から、以上の中でも、オレイン酸およびオレイルアミンの少なくとも一方が好ましい。
【0042】
量子ドット分散液が含有する量子ドット溶媒は、特に制限されないが、量子ドットを溶解し難く、分子鎖長が長い配位子を溶解し易い溶媒であることが好ましい。量子ドット溶媒は、有機溶剤が好ましく、具体的には、アルカン〔n-ヘキサン、n-オクタン等〕、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。
【0043】
[分子鎖長が相対的に短い有機配位子]
有機化合物からなる配位子である。有機配位子は沸点が200℃以上の有機化合物から構成されてよい。分子鎖長が相対的に短い有機配位子は、分子鎖長が短い配位子は、分子鎖長が長い配位子よりも分子鎖長が短く、エタンジチオール、ベンゼンジチオール、ジベンゼンジチオール、メルカプト安息香酸、ジカルボキシベンゼン、ベンゼンジアミンおよびジベンゼンジアミンを含む有機化合物などの配位子から選択される少なくとも1種の配位子である。より具体的には、1,3-ベンゼンジチオール、1,4-ベンゼンジチオール、3-メルカプト安息香酸、4-メルカプト安息香酸から選ばれてよい。特に、ベンゼン環を含むベンゼンジチオールなどの配位子の沸点が200℃を超えるため好ましい。140℃以上の高温となっても配位子の蒸発が抑制されるため、量子ドット膜としての耐熱性が高い。配位子溶液が含有する配位子溶媒は、特に制限されないが、誘電率が高い有機溶媒が好ましく、エタノール、アセトン、メタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ブタノール、プロパノールなどが特に好ましい。
【0044】
[無機配位子]
無機化合物からなる配位子である。好ましくは、ハロゲン原子を含む。ハロゲン原子を含む無機配位子として、フッ化鉛PbF、塩化鉛(II)PbCl2、ヨウ化鉛(II)PbI2、臭化鉛(II)PbBr2、などの配位子から選択される少なくとも1種の配位子である。ハロゲン系の無機材料からなる無機配位子を多く含むことにより、量子ドットの表面を十分に覆うことができる。ハロゲン原子は粒径が小さいので、より多くの表面欠陥を封止することができる。
【0045】
[光電変換素子]
図1は、本発明の一実施形態に係る光電変換素子の断面模式図の一例である。基板1の上に第一電極層2、第一界面層3、光電変換層4、第二界面層5、第二電極6を有する。第一電極と第二電極とをまとめて一対の電極と呼んでもよい。
【0046】
本発明の一実施形態に係る光電変換素子は、第一電極と、第二電極と、第一電極と第二電極との間に配置されている光電変換層を有する素子である。光電変換層は受光した光を電荷に変換する層である。変換された電荷は、分極され、一対の電極のいずれかに捕集される。光電変換層は、第一電極及び第二電極から電界を印加される構成であってよい。一対の電極は、正孔を捕集する電極、電子を捕集する電極である。正孔を捕集する電極は、正極またはカソードとも呼ばれる。電子を捕集する電極は、負極またはアノードとも呼ばれる。一対の電極のうち、少なくとも一方は透明であってよい。
【0047】
光電変換素子は、光電変換層と一対の電極の少なくともいずれかと、の間に界面層を設けてよい。界面層は、光電変換層からカソードへ電子が移動することを低減する層である電子ブロック層、または光電変換層からアノードへ正孔が移動することを低減する層である正孔ブロック層であってよい。
【0048】
[光電変換層]
量子ドットを電極、基板等の上に付与することで光電変換層とすることができる。量子ドットとしてナノ粒子の集合体を含んで構成される光電変換層の製造方法は特に限定されない。オレイン酸のように分子鎖長が長い配位子で修飾された状態で溶媒中に分散されていると、量子ドットは凝集したバルク状となりにくい。量子ドット分散液を基板上に付与する手法は、特に限定はなく、量子ドット分散液を基板上に塗布する方法、基板を量子ドット分散液に浸漬する方法等が挙げられる。量子ドット分散液を基板上に塗布する方法としては、より具体的には、スピンコート法、キャット法、ディップコート法、ブレードコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ディスペンサー法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、等の液相法を用いることができる。特に、インクジェット法、ディスペンサー法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、及び、凹版印刷法は、基板上の任意の位置に塗布膜をパターニングすることができる。
【0049】
量子ドット分散液を基板上に付与した後、さらにその上に配位子溶液を付与することで配位子交換され、光電変換層を形成することができる。量子ドット分散液を基板上に付与することで、量子ドットの集合体は、量子ドット1つ1つが配列した構成となる。量子ドットの集合体を形成した後、分子鎖長が相対的に短い有機配位子に交換する配位子交換によって、量子ドット同士の間隔を短くすることもできる。ただし、量子ドットのドット間距離(間隔)が大きい場合、電気伝導性が低下する場合がある。間隔を小さくすることで、量子ドットを緻密に配置することが可能となる。また、間隔を小さくすることで、電気伝導性が向上し、大きな光電流の光電変換膜を得ることができる。しかしながら、間隔が短いほど量子ドット同士の融着(ネッキングと呼ばれる)が起こり易いので、一定の距離を設けてよい。量子ドット同士が融着すると量子ドットのサイズが大きくなり、バンドギャップが小さくなる。そのために抵抗値が低くなり、暗電流が著しく増大する。
【0050】
量子ドット集合体形成と、配位子交換とを繰り返し行うことで、量子ドットの集合体を有する光電変換膜のひびやクラックの発生を抑制し、電気伝導度を高め、光電変換膜の厚みを厚くすることができる。過剰な配位子および量子ドットから脱離した配位子、残存した溶媒、その他不純物、などを除去するために、洗浄工程を有してもよい。具体的には、量子ドット集合体または光電変換層が形成された基板を、量子ドット溶媒および配位子溶媒の少なくとも一方に、塗布するか浸漬する。
【0051】
光電変換層の形成には、量子ドット分散液を乾燥する分散液乾燥工程、配位子溶液を乾燥する溶液乾燥工程等を有してよい。乾燥は、光電変換膜として量子ドット集合体を形成した後に、量子ドット集合体に残存する溶媒を乾燥する温度まで加熱をする。また、配位子交換工程の後に、配位子溶液を乾燥する溶液乾燥温度まで加熱をする。あるいは、室温で放置してもよい。窒素雰囲気においても、わずかに酸素が含まれる環境で加熱することが、より好適である。具体的には、酸素が1%以下含まれる環境で加熱することで、量子ドットの表面が酸化される。また、光電変換膜の最表面に水分がわずかに残存した状態で、加熱しても量子ドットの表面が酸化される。さらには、量子ドット分散液あるいは配位子溶液に、わずかに水分を含むことも、表面が酸化するためには好ましい手段である。表面の酸化が発生させる酸素の濃度は0.1ppm以上であってよい。
【0052】
量子ドットの表面は、半導体材料の最表面であり、配位子と結合していない結合手は、ダングリングボンド(原子における未結合手)となり、電気伝導性に影響を与えるキャリアトラップの原因となる欠陥準位を形成する。量子ドットの表面を酸化することで、表面の未結合手を封止することができ、欠陥準位を低減できる。欠陥準位を低減することで、暗電流を減らし、光電流密度を向上させ、光感度を向上させることができる。
【0053】
しかしながら、量子ドットの表面酸化が進み過ぎると、量子ドットとして量子閉じ込め効果に寄与する実質的なナノ粒子の粒径が小さくなる。ナノ粒子の粒径が小さくなると、電気伝導性に変化が現れ、とくに光感度の分光スペクトルが短波長側にシフトすることで、光感度に影響を及ぼす。
【0054】
光電変換層の厚さは、特に制限されないが、高い電気伝導性を得る観点から、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。また、キャリア濃度が過剰になるおそれがあること、製造し易さの観点から、光電変換層の厚みは、600nm以下であることが好ましい。
【0055】
また、量子ドット膜を構成するナノ粒子の表面を、無機系配位子が優先的に被覆することで、有機配位子だけでは被覆しきれない量子ドットの表面欠陥を低減することができる。ナノ粒子の表面欠陥が減ることで、暗電流の増加と光電流の低減を抑制し、高い光感度の光検出素子を実現することができる。
【0056】
沸点が200℃以上の配位子で構成することにより、高い耐熱性を有することができる。
【0057】
また、前記複数のナノ粒子が、核と表面層で構成され、前記ナノ粒子の表面層が、ハロゲンが含まれる酸化層と、有機物が含まれる有機層と、で構成されている材料から成ることを特徴とする光検出素子である。有機物とハロゲンが含まれる酸化層があることで、素子の外部から侵入してきた酸素分子を捕獲し、自ら酸化されることでナノ粒子の表面酸化を抑制することができる。
【0058】
前記量子ドット膜には、少なくとも、酸化したベンゼン環、酸化した炭化水素、酸化した有機物、のいずれかが含まれる。有機系配位子は、酸素分子を捕獲し、酸化したベンゼン環あるいは酸化した炭化水素となり、ベンゼン環で構成されるキャリアのホッピングサイトを無効化し、暗電流を抑制する効果がある。
【0059】
また、前記複数のナノ粒子が、鉛を含むPbS、PbSeから選択される光検出素子である。鉛を含むPbSやPbSeで構成することにより、赤外線領域にも光感度がある光検出素子を実現することができる。
【0060】
光電変換素子、発光ダイオード、光検出素子、受光素子アレイ、イメージセンサ、画像センサ、撮像装置などの電子デバイスは、プリント基板などに、はんだ実装されることで実用に供する。はんだ実装工程では、200℃程度の加熱プロセスが用いられる。また、イメージセンサ、画像センサ、撮像装置などの電子デバイスは、樹脂やセラミックで作られたパッケージに収められ、耐水性や防塵のためにガラス封止される。パッケージ実装工程として、接着剤で固定された後、金細線によるワイヤーボンドなどでパッケージの取り出し配線と電気的に接続される。接着剤硬化とワイヤーボンドのために、少なくとも145℃以上の加熱プロセスが用いられる。
【0061】
さらには、イメージセンサ、画像センサ、撮像装置として可視光領域で使用する場合、RGBの分光ができるカラーフィルタと、集光のためのマイクロレンズが用いられる。カラーフィルタおよびマイクロレンズは樹脂で構成されることが多く、樹脂硬化のために少なくとも150℃以上の加熱プロセスが用いられる。イメージセンサ、画像センサ、撮像装置として使うための量子ドット材料は、上記の実装工程、カラーフィルタ工程およびマイクロレンズ工程の加熱プロセスの温度に耐える耐熱性が求められる。
【0062】
したがって、高い沸点を有する配位子を設けることで、耐熱性に優れた量子ドットを構成することができ、耐熱性に優れた量子ドットは、様々な装置に用いることができる。
【0063】
[界面層]
光電変換層と電極(上部電極層、下地電極層)との間には、電気特性の改良のために上部界面層および下部界面層を設けてよい。正孔を捕集する電極(正極)には、電子をブロックして正孔のみ伝導する層(電子ブロック層)を、電子を捕集する電極(負極)には、正孔をブロックして電子のみ伝導する層(ホールブロック層)を形成してよい。
【0064】
電子ブロック層の材料としては、光電変換層で生成した正孔を効率よく正極へ輸送できるものが好ましい。そのためには、正極界面層材料は、正孔移動度が高いこと、導電率が高いこと、正極との間の正孔注入障壁が小さいこと、光電変換層からp型半導体層への正孔注入障壁が小さいこと、などの性質を有することが好ましい。さらに、電子ブロック界面層を通して光電変換層に光を取り込む場合、電子ブロック界面層の材料として、透明性の高い材料を用いることが好ましい。通常は光のうちでも可視光を光電変換層に取り込むことになるため、透明な電子ブロック界面層材料としては、透過する可視光の透過率が、通常60%以上、中でも80%以上となるものを用いることが好ましい。このような観点から、電子ブロック界面層材料の好適な例を挙げると、酸化モリブデンMoO3、酸化ニッケルNiO等の無機半導体などのp型半導体材料が挙げられる。
【0065】
一方、ホールブロック層に求められる機能は、光電変換層から分離された正孔をブロックし、電子を負極に輸送することであるので、上記ホールブロック界面層の記載において、正極を負極に、p型半導体をn型半導体に、正孔を電子に置き換えたものである。また、負極側から光を照射する構成や負極側から反射した光を有効に利用することも考えられ、その場合には透過率も高い必要がある。このような観点から、ホールブロック界面層材料の好適な例を挙げると、酸化チタンTiO2等の無機半導体あるいはフラーレンやフラーレン誘導体などの有機半導体から選択されるn型半導体材料が挙げられる。
【0066】
[電極]
電極は、上部電極層及び下地電極層、第一電極及び第二電極等、一対の電極であってよい。電極は導電性を有する任意の材料により形成することが可能である。電極の構成材料の例を挙げると、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属あるいはそれらの合金、酸化インジウムや酸化錫等の金属酸化物、あるいはその複合酸化物(例えばITO、IZO)、ポリアセチレン等の導電性高分子、金属粒子、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ等の導電性粒子をポリマーバインダー等のマトリクスに分散した導電性の複合材料などが挙げられる。なお、電極の構成材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0067】
電極は、光電変換層の内部に生じた電子および正孔を捕集する機能を有するものである。したがって、電極の構成材料としては、上述した材料のうち、電子および正孔を捕集するのに適した構成材料を用いることが好ましい。正孔の捕集に適した電極の材料は、例えば、Au、ITO等の高い仕事関数を有する材料が挙げられる。一方、電子の捕集に適した電極の材料は、例えば、Alのような低い仕事関数を有する材料が挙げられる。電極の厚さには特に制限はなく、電極材料と、導電性、透明性等を考慮して適宜決定され、10nm以上100μm以下であってよい。
【0068】
[基板]
量子ドット分散液は、基板上に付与される。基板の形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択する。基板の構造は単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。基板としては、例えば、ガラス、シリコン、ステンレス等の無機材料、樹脂や樹脂複合材料等からなる基板を用いることができる。シリコン基板である場合、集積回路が形成されていてもよい。また基板上に、下部電極、絶縁膜等を備えていてもよく、その場合には基板上の下部電極や下地絶縁膜上に量子ドット分散液が付与される。
【0069】
基板は、シリコン等の基板上に配線層が形成された場合、それら配線層を含めて基板と呼ぶ。光電変換素子の電極に接する、層間絶縁層がある場合、層間絶縁層を含めて基板と呼ぶ。
【0070】
[光電変換素子の用途例]
本発明の一実施形態に係る光電変換素子は、受光素子に用いられてよい。受光素子は光電変換素子と、光電変換素子から電荷を読み出す読み出し回路と、読み出し回路から電荷を受け取り、信号処理する信号処理回路とを有する。
【0071】
本発明の一実施形態に係る光電変換素子は、光電変換装置に用いられてよい。光電変換装置は、複数のレンズを有する光学系と、光学系を透過した光を受光する受光素子と、を有し、受光素子が光電変換素子を有する受光素子である。光電変換装置は、具体的には、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラであってよい。
【0072】
図6は、本発明の一実施形態に係る光電変換素子を用いた撮像システムの一例を示す図である。撮像システム500は、
図6に示すように、光電変換装置100、撮像光学系502、CPU510、レンズ制御部512、撮像装置制御部514、画像処理部516、絞りシャッタ制御部518、表示部520、操作スイッチ522、記録媒体524を備える。
【0073】
撮像光学系502は、被写体の光学像を形成するための光学系であり、レンズ群、絞り504等を含む。絞り504は、その開口径を調節することで撮影時の光量調節を行なう機能を備えるほか、静止画撮影時には露光秒時調節用シャッタとしての機能も備える。レンズ群及び絞り504は、光軸方向に沿って進退可能に保持されており、これらの連動した動作によって変倍機能(ズーム機能)や焦点調節機能を実現する。撮像光学系502は、撮像システムに一体化されていてもよいし、撮像システムへの装着が可能な撮像レンズでもよい。
【0074】
撮像光学系502の像空間には、その撮像面が位置するように光電変換装置100が配置されている。光電変換装置100は、本発明の一実施形態に係る光電変換装置であり、CMOSセンサ(画素部)とその周辺回路(周辺回路領域)とを含んで構成される。光電変換装置100は、複数の光電変換部を有する画素が2次元配置され、これらの画素に対してカラーフィルタが配置されることで、2次元単板カラーセンサを構成している。光電変換装置100は、撮像光学系502により結像された被写体像を光電変換し、画像信号や焦点検出信号として出力する。
【0075】
レンズ制御部512は、撮像光学系502のレンズ群の進退駆動を制御して変倍操作や焦点調節を行うためのものであり、その機能を実現するように構成された回路や処理装置により構成されている。絞りシャッタ制御部518は、絞り504の開口径を変化して(絞り値を可変として)撮影光量を調節するためのものであり、その機能を実現するように構成された回路や処理装置により構成される。
【0076】
CPU510は、カメラ本体の種々の制御を司るカメラ内の制御装置であり、演算部、ROM、RAM、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、通信インターフェイス回路等を含む。CPU510は、ROM等に記憶されたコンピュータプログラムに従ってカメラ内の各部の動作を制御し、撮像光学系502の焦点状態の検出(焦点検出)を含むAF、撮像、画像処理、記録等の一連の撮影動作を実行する。CPU510は、信号処理部でもある。
【0077】
撮像装置制御部514は、光電変換装置100の動作を制御するとともに、光電変換装置100から出力された信号をA/D変換してCPU510に送信するためのものであり、それら機能を実現するように構成された回路や制御装置により構成される。A/D変換機能は、光電変換装置100が備えていてもかまわない。画像処理部516は、A/D変換された信号に対してγ変換やカラー補間等の画像処理を行って画像信号を生成するためのものであり、その機能を実現するように構成された回路や制御装置により構成される。表示部520は、液晶表示装置(LCD)等の表示装置であり、カメラの撮影モードに関する情報、撮影前のプレビュー画像、撮影後の確認用画像、焦点検出時の合焦状態等を表示する。操作スイッチ522は、電源スイッチ、レリーズ(撮影トリガ)スイッチ、ズーム操作スイッチ、撮影モード選択スイッチ等で構成される。記録媒体524は、撮影済み画像等を記録するためのものであり、撮像システムに内蔵されたものでもよいし、メモリカード等の着脱可能なものでもよい。
【0078】
このようにして、本発明の一実施形態に係る実施形態による光電変換装置100を適用した撮像システム500を構成することにより、高性能の撮像システムを実現することができる。
【0079】
本発明の一実施形態に係る光電変換装置は、移動体に用いられてよい。移動体は光電変換装置が設けられた機体と、機体を移動させる移動手段を有する。具体的には自動車、航空機、船舶、ドローンなどがあげられる。移動体に設けることで周囲の状況を撮像して、移動体の操作のサポートを行ってよい。機体は金属や炭素繊維で形成することができる。炭素繊維としてはポリカーボネート等を用いてよい。移動手段は、タイヤ、磁気による浮遊、燃料を気化させ噴射する機構等があげられる。
【0080】
図7A及び
図7Bは、本実施形態による撮像システム及び移動体の構成を示す図である。
【0081】
図7Aは、車載カメラに関する撮像システム400の一例を示したものである。撮像システム400は、光電変換装置410を有する。光電変換装置410は、上述の第1乃至第4実施形態に記載の光電変換装置のいずれかである。撮像システム400は、光電変換装置410により取得された複数の画像データに対し、画像処理を行う処理装置である画像処理部412と、光電変換装置410により取得された複数の画像データから視差(視差画像の位相差)の算出を行う処理装置である視差取得部414を有する。また、撮像システム400は、算出された視差に基づいて対象物までの距離を算出する処理装置である距離取得部416と、算出された距離に基づいて衝突可能性があるか否かを判定する処理装置である衝突判定部418と、を有する。ここで、視差取得部414や距離取得部416は、対象物までの距離情報等の情報を取得する情報取得手段の一例である。すなわち、距離情報とは、視差、デフォーカス量、対象物までの距離等に関する情報である。衝突判定部418はこれらの距離情報のいずれかを用いて、衝突可能性を判定してもよい。上述した各種の処理装置は、専用に設計されたハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアモジュールに基づいて演算を行う汎用のハードウェアによって実現されてもよい。また、処理装置は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって実現されてもよいし、これらの組合せによって実現されてもよい。
【0082】
撮像システム400は、車両情報取得装置420と接続されており、車速、ヨーレート、舵角などの車両情報を取得することができる。また、撮像システム400は、衝突判定部418での判定結果に基づいて、車両に対して制動力を発生させる制御信号を出力する制御装置である制御ECU430が接続されている。すなわち、制御ECU430は、距離情報に基づいて移動体を制御する移動体制御手段の一例である。また、撮像システム400は、衝突判定部418での判定結果に基づいて、ドライバーへ警報を発する警報装置440とも接続されている。例えば、衝突判定部418の判定結果として衝突可能性が高い場合、制御ECU430はブレーキをかける、アクセルを戻す、エンジン出力を抑制するなどして衝突を回避、被害を軽減する車両制御を行う。警報装置440は音等の警報を鳴らす、カーナビゲーションシステムなどの画面に警報情報を表示する、シートベルトやステアリングに振動を与えるなどしてユーザに警告を行う。
【0083】
本実施形態では、車両の周囲、例えば前方又は後方を撮像システム400で撮像する。
図7Bに、車両前方(撮像範囲450)を撮像する場合の撮像システム400を示した。車両情報取得装置420は、撮像システム400を動作させ撮像を実行させるように指示を送る。上述の第1乃至第4実施形態の光電変換装置を光電変換装置410として用いることにより、本実施形態の撮像システム400は、測距の精度をより向上させることができる。
【0084】
以上の説明では、他の車両と衝突しないように制御する例を述べたが、他の車両に追従して自動運転する制御、車線からはみ出さないように自動運転する制御等にも適用可能である。更に、撮像システムは、自動車等の車両に限らず、例えば、船舶、航空機あるいは産業用ロボットなどの移動体(輸送機器)に適用することができる。移動体(輸送機器)における移動装置はエンジン、モーター、車輪、プロペラなどの各種の移動手段である。加えて、移動体に限らず、高度道路交通システム(ITS)等、広く物体認識を利用する機器に適用することができる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
[実施例1及び比較例1]
本実施例においては、
図1に記載された光電変換素子を以下のように作製した。第一電極側の表面がシリコン酸化膜で絶縁された基板1を用意し、第一電極2としてTiN膜を、第一界面層3として酸化チタンTiO2膜を、それぞれスパッタ法で形成した。第一界面層3の上に、あらかじめ調製したPbS量子ドット分散液をスピンコート法で塗布し、その後、分子鎖長が短い有機配位子ベンゼンジチオール(1,4-BDT)を含む配位子溶液を同様にして塗布して、光電変換層4を形成した。すなわち、無機配位子の付与は、あらかじめ液相で行われ、有機配位子の付与は固体相で行われた。作製した光電変換層4を窒素雰囲気下(酸素濃度1ppm以下、水分濃度1ppm以下)のグローブボックス中で終夜放置して乾燥した。光電変換層4の上に、第二界面層5として酸化モリブデンMoO
3を真空蒸着法で形成した。第二界面層5の上に、第二電極6として透明導電膜である錫を含む酸化インジウムITOをスパッタ法で形成した。
【0087】
実施例1では、上記の工程において、PbS量子ドット分散液の調製時に、無機配位子を添加する条件を調整し、有機系配位子のモル比と比べて無機配位子のモル比が大きくなるよう作製した量子ドットを用いた。実施例1で作製した素子を光電変換素子1とする。
【0088】
一方、比較例1では、有機系配位子のモル比と比べて無機配位子のモル比が小さくなるよう作製した量子ドットを用いた。比較例1で作製した素子を光電変換素子2とする。
【0089】
量子ドット表面のハロゲン原子と有機配位子の比率測定は、TOF-SIMS分析を用いて測定した。具体的には、TOF-SIMS分析装置は、アルバックファイ社製PHI nano TOF IIを用い、1次イオンとして、Bi3
++、1次イオン加速電圧は30kV、2次イオン極性は正および負を評価した。
【0090】
図3は、光電変換素子1に用いられた量子ドットの表面をTOF-SIMSにて分析した結果である。
【0091】
光電変換素子1においては、ヨウ素イオンI-が6.2に対し、有機化合物イオンC6H4S2
-が1.8となっていた。すなわち、無機配位子のモル比は、77.5%と見積もられる。また、ピークの強度は、無機粒子に起因するピークのうち最大ピーク、すなわちヨウ素イオンのピークは、有機化合物イオンに起因するピーク、すなわち、C6H4S2
-の3倍以上であった。
【0092】
光電変換素子2は、ヨウ素イオンI-が1.6に対し、有機化合物イオンC6H4S2
-が6.0となっていた。すなわち、無機配位子のモル比は、21.1%と見積もられる。
【0093】
[電気特性]
作製した光電変換素子について半導体パラメータアナライザーを用いることで、光電変換素子の電気伝導性の評価を行った。まず、光電変換素子に光を照射しない状態で電極への印加電圧を-5~5Vの間で掃引し、暗状態でのI-V特性を取得した。+2Vのバイアスを印加した状態での電流値を暗電流の値Idとして採用した。
【0094】
光電変換素子に、モノクロ光(照射強度5μW/cm2)を照射した状態での光電流の値を評価した。モノクロ光の波長は300nm~1200nmの間で5nmずつに変化させて測定した。600nmの波長の光を照射した場合の暗電流からの電流の増加分を光電流Ipとした。光電変換素子の耐熱性を調べるために、光電変換素子が完成した後に、大気中で150℃、1時間加熱した。表1に、光電変換素子の完成後の初期値と、大気中で加熱した状態の値を示す。光電変換素子1は、高い外部量子効率が得られ、大気中で加熱した後も大きな変化は見られなかった。
【0095】
光電変換素子1は、量子ドット表面の有機配位子のモル比よりも無機配位子のモル比が大きいので、量子ドット表面の欠陥を十分に無機配位子が覆っているためである。量子ドットの表面欠陥をハロゲン原子であるヨウ素Iで十分に封止することにより、量子ドットの表面欠陥による光電流密度が向上し、光感度が高い光電変換素子を実現することができた。
【0096】
【0097】
[実施例2および比較例2]
実施例2では、光電変換層の形成後に乾燥工程を設けた以外は、実施例1と同様に光電変換素子を作製した。光電変換膜4を形成した後の乾燥工程として、量子ドット集合体に残存する溶媒を乾燥する温度、あるいは、配位子交換工程の後に、配位子溶液を乾燥する溶液乾燥温度として150℃で30分間加熱した。加熱は、酸素が含まれる窒素雰囲気の環境で実施した。具体的には、グローブボックス内の酸素濃度0.1ppm以上1%以下の環境下で、乾燥工程を実施した。量子ドットの表面は、半導体材料の最表面であり、配位子と結合していない結合手は、に未結合手(ダングリングボンド)となる。未結合手は、光電変換膜の電気伝導性に影響を与えるキャリアトラップの原因となる欠陥準位を形成するが、量子ドットの表面をわずかに酸化することで、この未結合手を封止することができ、欠陥準位を低減することができる。
【0098】
量子ドット表面の酸化状態の測定は、実施例1と同様のTOF-SIMS分析を用いた。
図4は、TOF-SIMS分析(正2次イオン)の結果である。量子ドット表面には、ヨウ素Iが含まれるPb
3SI
+とともに、Pb
3SOI
+およびPb
4SOI
+が同時に含まれている。量子ドットを構成するPbSナノ粒子の表面が酸化されている部分にヨウ素Iが含まれることによって、酸化しても残留していた表面欠陥をハロゲンが修復している。なお、Pb
3SI
+とPb
3SOI
+の比率は、2.0と0.7であった。
図5にはTOF-SIMS分析(負2次イオン)の結果である。量子ドット表面には、ヨウ素Iが含まれるPbSI
-とともに、PbC
6H
4SI
-およびPbC
6H
3S
2O
3
-などのベンゼン環が同時に含まれている。
【0099】
また、不図示のピークとして、C6H4S2O-、C6H4S2O3
-、C6H4S2O4
-が多く含まれている。これらのピーク群は有機配位子1,4-BDTに由来するものであり、チオール基の一部が酸化されたことを示している。この酸化は、外部環境由来の酸素によるものであるため、1,4-BDTが酸素を捕獲する酸化犠牲剤としての作用で量子ドットのコアであるナノ粒子の表面の酸化を低減する役割を果たしている。また、ベンゼン環は、キャリアの受け渡しをするホッピングサイトとして働くため、ベンゼン環を酸化することで暗電流も低減することができる。
【0100】
なお、上記の各実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。即ち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0101】
1 基板
2 第一電極
3 第一界面層
4 光電変換層
5 第二界面層
6 第二電極
7 量子ドット
8 有機配位子
9 無機配位子