(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】撮像装置および撮像装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
G02B 7/28 20210101AFI20240729BHJP
G02B 7/08 20210101ALI20240729BHJP
G03B 13/36 20210101ALI20240729BHJP
H04N 23/67 20230101ALI20240729BHJP
H04N 23/69 20230101ALI20240729BHJP
【FI】
G02B7/28 N
G02B7/08 C
G03B13/36
H04N23/67
H04N23/69
(21)【出願番号】P 2020008774
(22)【出願日】2020-01-22
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2019034281
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】神羽 将樹
【審査官】▲うし▼田 真悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-161741(JP,A)
【文献】特開2018-124527(JP,A)
【文献】特開2012-103635(JP,A)
【文献】特開2010-164680(JP,A)
【文献】特開2017-037103(JP,A)
【文献】特開2005-128107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/28
G03B 13/36
H04N 23/67
H04N 23/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ズームレンズとフォーカスレンズとを有する撮像光学系による被写体像を光電変換する撮像素子と、
前記撮像光学系が所定の被写体距離に合焦するときの、前記ズームレンズと前記フォーカスレンズとの位置関係を示す軌跡データを記憶する記憶手段と、
前記軌跡データを調整するための調整値を取得する調整値取得手段と、
ズーム動作時に、前記軌跡データと前記調整値取得手段により取得された前記調整値とに基づいて前記フォーカスレンズを駆動させる制御を行うフォーカス制御手段と、を備え、
前記調整値取得手段は、
前記軌跡データにおける前記ズームレンズの位置が第1の位置である場合の第1の合焦度と、前記軌跡データにおける前記ズームレンズの位置が第2の位置である場合の第2の合焦度とを取得し、
前記第1の位置は前記軌跡データにおける中間位置であって、前記第2の位置は前記第1の位置よりもWIDE側の位置であり、
前記第1の合焦度と前記第2の合焦度とに基づいて、前記調整値を取得するための複数の取得処理から実行する取得処理を決定し、
前記決定された取得処理に基づいて、前記調整値を取得することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記第2の位置は前記軌跡データにおけるWIDE端であることを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記調整値取得手段は、
前記ズームレンズと前記フォーカスレンズとの位置が、前記軌跡データにおける前記撮像光学系の合焦位置を示すときの前記撮像光学系の合焦度に基づいて前記調整値の取得処理を決定することを特徴とする請求項1または2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記調整値取得手段は、
前記ズームレンズが前記第1の位置で合焦した状態から、
前記ズームレンズをWIDE方向に駆動させることにより、前記第1の合焦度と前記第2の合焦度を取得し、
検出データとして蓄積する事を特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項5】
ズームレンズとフォーカスレンズとを有する撮像光学系による被写体像を光電変換する撮像素子と、
前記撮像光学系が所定の被写体距離に合焦するときの、前記ズームレンズと前記フォーカスレンズとの位置関係を示す軌跡データを記憶する記憶手段と、
前記軌跡データを調整するための調整値を取得する調整値取得手段と、
ズーム動作時に、前記軌跡データと前記調整値取得手段により取得された前記調整値とに基づいて前記フォーカスレンズを駆動させる制御を行うフォーカス制御手段と、
距離情報を取得する距離情報取得手段と、を有し、
前記調整値取得手段は、
前記撮像光学系が合焦状態であるとして前記ズームレンズと前記フォーカスレンズとの位置と前記軌跡データとに基づいて取得した距離情報と、前記距離情報取得手段により取得された距離情報との差分を、前記軌跡データにおける前記ズームレンズの位置が第1の位置と前記軌跡データにおける前記ズームレンズの位置が第2の位置とのそれぞれにおいて取得し、
前記第1の位置において取得された差分と、前記第2の位置において取得された差分とに基づいて、前記調整値を取得するための複数の取得処理から実行する取得処理を決定することを特徴とする撮像装置。
【請求項6】
前記第2の位置は前記軌跡データにおけるWIDE端であることを特徴とする請求項5に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記複数の取得処理は、第1の取得処理と、第2の取得処理とを含み、
前記ズームレンズの位置に応じた前記調整値の変化は、前記第2の取得処理の方が前記第1の取得処理よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項8】
前記第2の取得処理は、前記軌跡データのオフセット値を取得する処理であり、
前記オフセット値を前記調整値として取得することを特徴とする請求項7に記載の撮像装置。
【請求項9】
前記第2の取得処理は
前記ズームレンズと前記フォーカスレンズとが第3の位置をとるときの前記撮像光学系の合焦度と、前記軌跡データとに基づいて前記調整値を取得する処理であることを特徴とする請求項7又は8に記載の撮像装置。
【請求項10】
前記ズームレンズと前記フォーカスレンズとの基準位置を調整する基準位置調整手段を備え、
前記基準位置調整手段は、
前記ズームレンズと前記フォーカスレンズとが指定された位置に駆動した後に撮影された画像である現在の画角情報と、予め記憶された画像である基準画角情報との差に基づいて、前記ズームレンズの基準位置を調整するための調整値を取得し、
予め記憶された前記フォーカスレンズの位置と、前記指定された位置に駆動した後の現在のフォーカスレンズの位置との差に基づいて前記フォーカスレンズの基準位置を調整することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項11】
前記基準位置調整手段は、
前記フォーカスレンズの基準位置の調整は、前記前記ズームレンズの基準位置を調整した後に行うことを特徴とする請求項10に記載の撮像装置。
【請求項12】
予め記憶された前記
フォーカスレンズの位置と前記基準画角情報とを取得するタイミングは、
前記ズームレンズと前記フォーカスレンズを所定の位置で固定するモードの際の前記所定の位置を設定するタイミング、または、ユーザーによる指示を受けたタイミングの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項10または11に記載の撮像装置。
【請求項13】
前記基準画角と現在の画角との差と
、予め記憶された前記
フォーカスレンズの位置と現在のフォーカス合焦情報との差
と、を取得するタイミングは、前記ズームレンズと前記フォーカスレンズを所定の位置で固定するモードが設定されたたときと、ユーザーによる指示を受けたときとの少なくともいずれかであること特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項14】
前記基準位置調整手段は、
前記基準画角情報と前記現在の画角情報との差を、
前記撮像素子により取得される画像の特徴点情報と前記画像の類似度の少なくとも1つを用いて取得する事を特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項15】
前記基準位置調整手段は、
予め記憶された前記
フォーカスレンズの位置と現在のフォーカス合焦情報との差を、
前記撮像素子により取得される画像のフォーカスの評価値と前記画像の複数の領域の評価値の比率、前記複数の領域の合焦度の比率の少なくとも1つを用いて取得することを特徴とする請求項10乃至14のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項16】
距離情報を取得する距離情報取得手段を有し、
前記距離情報取得手段は、
予め記憶された前記
フォーカスレンズの位置と前記基準画角情報を取得するタイミングの距離情報と、
現在の距離情報が一致する場合に、前記画角情報からズームずれ量を算出し、前記フォーカス合焦情報からフォーカスずれ量を算出する事を特徴とする請求項10乃至15のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項17】
前記記憶手段は、初期調整前の軌跡情報と初期調整値とを記憶し、
前記フォーカス制御手段は、前記初期調整前の軌跡情報と、前記初期調整値と、前記調整値取得手段により取得された前記調整値と、に基づいて前記フォーカスレンズを制御することを特徴とする請求項1乃至16のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項18】
撮像装置の撮影を行うための第1モードと、
ユーザーからの指示に基づいてメンテナンスを行うための第2モードと、を有し、
前記調整値取得手段は、
前記第1モードが設定されている場合は、前記調整値の取得を自動で行い、
前記第2モードが設定されている場合は、前記調整値の取得をユーザーからの指示に基づくタイミングで行う事を特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項19】
前記撮像光学系およびパン方向またはチルト方向に駆動する駆動部を制御することにより撮影範囲を変更する変更手段と、
前記撮影範囲に応じた合焦時のフォーカス評価値と被写体距離とを記憶する手段と、
前記第2モードが設定されている場合に、記憶した前記フォーカス評価値および前記被写体距離から撮影範囲を決定する撮影範囲の決定手段と、を有し、
前記調整値取得手段は、前記撮影範囲の決定手段により決定された撮影範囲で前記調整値の取得を行うことを特徴とする請求項18に記載の撮像装置。
【請求項20】
前記撮影範囲の決定手段は、
前記記憶した被写体距離が所定の距離以上の撮影範囲の中から、
前記記憶したフォーカス評価値に基づいて前記撮影範囲を決定することを特徴とする請求項19に記載の撮像装置。
【請求項21】
前記第2モードの制御方法を決定する手段を有し、
前記調整値の取得が必要な状態か否かを判定してから前記調整値の取得を実行する方法と、
前記調整値の取得が必要な状態か否かを判定しないで前記調整値の取得を実行する方法と、
前記調整値の取得を指定した日時に実行する制御方法と、のいずれかの方法を決定可能なことを特徴とする請求項19または20に記載の撮像装置。
【請求項22】
前記調整値の取得が必要な状態か否かの判定は、
撮像装置の稼働時間、温度変化、レンズの駆動回数、の少なくともいずれかの値を所定値と比較することで行い、
比較した値が前記所定値以上の場合に、前記調整値の取得が必要と判定することを特徴とする請求項21に記載の撮像装置。
【請求項23】
ズームレンズとフォーカスレンズとを有する撮像光学系による被写体像を光電変換する撮像素子を備える撮像装置の制御方法であって、
前記撮像光学系が所定の被写体距離に合焦するときの、前記ズームレンズと前記フォーカスレンズとの位置関係を示す軌跡データを調整するための調整値を取得する調整値取得工程と、
ズーム動作時に、前記軌跡データと前記調整値取得工程により取得された前記調整値とに基づいて前記フォーカスレンズを駆動させる制御を行うフォーカス制御工程と、を備え、
前記調整値取得工程において、
前記軌跡データにおける前記ズームレンズの位置が第1の位置である場合の第1の合焦度と、前記軌跡データにおける前記ズームレンズの位置が第2の位置である場合の第2の合焦度とを取得し、
前記第1の位置は前記軌跡データにおける中間位置であって、前記第2の位置は前記第1の位置よりもWIDE側の位置であり、
前記第1の合焦度と前記第2の合焦度とに基づいて、前記調整値を取得するための複数の取得処理から実行する取得処理を決定し、
前記決定された取得処理に基づいて、前記調整値を取得することを特徴とする撮像装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置および撮像装置の制御方法に関し、特にズームレンズの移動に伴ってフォーカスレンズを移動させる撮像装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビデオカメラ等においては、ズームレンズを用いたズーミング動作時において、ズームレンズの移動に伴う像面移動を補正するためにフォーカスレンズを移動させ、合焦状態を維持する、所謂、ズームトラッキング動作が行われるものが多い。ズームトラッキング動作は、メモリに記憶されたカム軌跡曲線(軌跡データ)に沿ってフォーカスレンズの位置を移動させて行われる。
【0003】
また、上述のような軌跡データを用いるだけでは、レンズ鏡筒の個体バラつきによって、カム軌跡の設計値と実動作時の合焦位置に誤差が生じてしまうため、工場出荷時に個体毎に誤差を調整するためのトラッキング調整が行われている。トラッキング調整では、軌跡データにおけるズームレンズとフォーカスレンズの各基準位置を調整値として保存する。
【0004】
ここで、レンズ鏡筒に衝撃、振動、経年劣化、急激な温度変化等が加わると、撮像光学系、撮像素子、ズームレンズやフォーカスレンズの位置を検出する検出センサ(フォトインタラプタ(PI))などの位置の変化が生じる。これらの変化により、実際にピントが合うズームレンズとフォーカスレンズとの位置関係が、調整した軌跡データから変化してしまうことがある。これにより、ズーミング動作時のフォーカス精度の低下が生じ得る。
【0005】
特許文献1には、所定の条件が揃った場合、基準のフォーカスレンズ位置からの変化量に基づいて、バックフォーカス調整値を補正する提案がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、実際の合焦位置と軌跡データが示す合焦位置の差が生じる要因によっては、ズーミング中のフォーカス精度の低下に対応できないことがあった。特許文献1に開示されている方法はバックフォーカス調整であるため、撮像素子の位置やフォーカスレンズの基準位置に影響するレンズ鏡筒の変化は補正できる。しかしながら、軌跡データの形に影響する撮像光学系の変化やズームレンズの基準位置に影響する場合に適切な補正を行うことができない。撮像光学系やズームレンズの基準位置が変化した事で合焦するフォーカスレンズの位置が変わった場合、フォーカスレンズの基準位置を補正しても、ズーム位置を変えると再度ピントがずれる。よって、正しくズームトラッキングができず、画角もずれた状態になってしまう。
【0008】
そこで本発明は、種々の要因で記憶された軌跡データが実際の合焦位置からずれた場合であっても、ズーミング中のフォーカス精度の低下を軽減可能な撮像装置を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に関する撮像装置は、ズームレンズとフォーカスレンズとを有する撮像光学系による被写体像を光電変換する撮像素子と、前記撮像光学系が所定の被写体距離に合焦するときの、前記ズームレンズと前記フォーカスレンズとの位置関係を示す軌跡データを記憶する記憶手段と、前記軌跡データを調整するための調整値を取得する調整値取得手段と、ズーム動作時に、前記軌跡データと前記調整値取得手段により取得された前記調整値とに基づいて前記フォーカスレンズを駆動させる制御を行うフォーカス制御手段と、を備え、
前記調整値取得手段は、前記軌跡データにおける前記ズームレンズの位置が第1の位置である場合の第1の合焦度と、前記軌跡データにおける前記ズームレンズの位置が第2の位置である場合の第2の合焦度とを取得し、前記第1の位置は前記軌跡データにおける中間位置であって、前記第2の位置は前記第1の位置よりもWIDE側の位置であり、前記第1の合焦度と前記第2の合焦度とに基づいて、前記調整値を取得するための複数の取得処理から実行する取得処理を決定し、前記決定された取得処理に基づいて、前記調整値を取得することを特徴とする撮像装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ズーミング中のフォーカス精度の低下を軽減可能な撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明実施例1における撮像装置の構成図である。
【
図2】被写体距離に応じたズーム位置とフォーカス位置の関係を示す概念図である。
【
図3】フォーカス合焦情報の一例を示す概念図である。
【
図4】本発明実施例1における撮像光学系が変化した時のトラッキング軌跡の一例を示す概念図である。
【
図5】本発明実施例1における撮像素子が変化した時のトラッキング軌跡の一例を示す概念図である。
【
図6】本発明実施例1における検出制御および補正制御のフローチャートである。
【
図7】本発明実施例1における変化要因解析のフローチャートである。
【
図8】本発明実施例2における撮像装置の構成図である。
【
図9】フォーカスレンズの基準位置がずれた場合の軌跡データの変化を示す概念図である。
【
図10】ズームレンズの基準位置がずれた場合の軌跡データの変化を示す概念図である。
【
図11】本発明実施例2における画角差分情報の一例を示す概念図である。
【
図12】本発明実施例2における画角特徴量情報の一例を示す概念図である。
【
図13】本発明実施例2における基準データ登録時のフローチャートである。
【
図14】本発明実施例2におけるフォーカス・ズーム位置のずれ補正制御のフローチャートである。
【
図15】本発明実施例2におけるズーム位置ずれ量検出のフローチャートである。
【
図16】本発明実施例2におけるフォーカス位置ずれ量検出のフローチャートである。
【
図17】本発明実施例3におけるトラッキング補正アプリケーション例である。
【
図18】本発明実施例4における撮像装置の構成図である。
【
図19】本発明実施例4における画角自動設定の一例を示す概念図である。
【
図20】本発明実施例4における画角自動設定で扱うデータテーブル例である。
【
図21】本発明実施例4におけるメンテナンスモードの制御フローチャートである。
【
図22】本発明実施例4における画角調整制御のフローチャートである。
【
図23】本発明実施例5におけるメンテナンス設定アプリケーション例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施例を添付の図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【実施例1】
【0013】
本実施例は、記憶されている軌跡データ、ズームレンズとフォーカスレンズとの位置、及び当該位置における実際の合焦度、に基づいて、実際の合焦位置が記憶している軌跡データからどのように変化しているかを推定する。そして、推定結果に基づいて、調整値の取得方法を選択する。例えば、実際の合焦位置を軌跡データと同様にズームレンズ位置とフォーカスレンズ位置とでプロットした曲線が、軌跡データに対してオフセットした曲線になるのか、または、軌跡データが示す曲線と形状(曲率や傾き)が異なる曲線になるのか、を推定する。オフセットした曲線になると推定された場合は、そのオフセット値に基づいて調整値を取得する方法を選択し、形状が異なる曲線になると推定された場合は、ズームレンズの位置毎に異なる調整値が設定されるよう方法を選択する。また、合焦度の代わりに、被写体距離を用いる例についても説明する。
【0014】
図1は、本実施例かかる撮像装置100の構成図である。本実施例の撮像装置100は、撮像光学系110を備える。
【0015】
撮像光学系110は、複数の光学素子により構成され、物体(被写体)の光学像を形成する。本実施例の撮像光学系110は、光軸方向に移動されて焦点距離を変更するズームレンズ(変倍レンズ)1、光軸方向に移動されて焦点調節を行うフォーカスレンズ2、光量を調整する絞りユニット3を有する。
図1には、ズームレンズ1とフォーカスレンズ2をそれぞれ1つずつ示したが、それぞれは、2群以上の複数構成でも可能である。
【0016】
撮像光学系110により形成された光学像は、バンドパスフィルタ4(以下、BPF)、カラーフィルタ5を介して撮像素子6により光電変換される。なお、
図1では図示していないが、BPF4等の光学素子が撮像光学系110の光路に対し退避可能に構成されている。
【0017】
撮像素子6から出力される電気信号(映像信号)は、AGC(自動利得制御部)7でゲイン調整され、A/D変換器8においてA/D変換された後、カメラ信号処理部9に入力される。カメラ信号処理部9では各種画像処理を行い、通信部10に映像信号として出力するとともに、映像信号からオートフォーカス動作に必要な評価値を算出する。
【0018】
カム軌跡・深度データ保持部11は、複数の被写体距離に対応する軌跡データを記憶するメモリを備え、記憶されている軌跡データと、現在のフォーカスレンズとズームレンズとの位置とに基づいて、ズームトラッキング動作に用いる軌跡データを取得する。ズームトラッキング動作に用いる軌跡データは、現在の、被写体距離、フォーカスレンズとズームレンズとの位置に対応したカム軌跡データである。また、カム軌跡・深度データ保持部11は、ズーム位置に応じた被写界深度情報も合わせて取得する。
【0019】
メモリに記憶されている軌跡データが示すカム軌跡の例を
図2に示す。横軸はズームレンズの位置を示し、縦軸はフォーカスレンズの位置を示している。図中の各曲線は、同一の被写体距離にある被写体像を撮像素子に合焦させるためのズームレンズとフォーカスレンズの位置関係をプロットしたカム軌跡を示している。ズーム動作時に、このカム軌跡に沿うようにズームレンズとフォーカスの位置を制御することで、ピント位置を固定したままズーミング制御を行うことができる。メモリは、このようなカム軌跡をテーブルデータとして記憶する。
【0020】
しかしながら、細かい粒度の被写体距離毎のカム軌跡を示すテーブルをメモリ上に保持するためには、膨大なメモリ容量が必要となってしまう。そのため、基準となるいくつかの被写体距離のカム軌跡に対応するテーブルデータのみメモリ上に保持する。そして、基準以外の被写体距離のカム軌跡に関しては、基準となるカム軌跡データとフォーカスレンズとズームレンズの位置情報を使用して、至近側と無限側のカム軌跡情報の内分比率から取得し、これを一時的に記憶する。このように、カム軌跡・深度データ保持部11は、被写体距離とズームレンズの位置とに応じて合焦位置となるフォーカスレンズの位置の変化を示した軌跡データを記憶する記憶手段として機能する。
【0021】
初期調整データ保持部12は、工場から出荷される前に調整(初期調整)されたズームレンズとフォーカスレンズの各基準位置および調整値を保持する。調整値は、カム軌跡・深度データ保持部11に記憶されている軌跡データと、出荷前に実際に計測された軌跡との差分である。カム軌跡・深度データ保持部11に記憶されている軌跡データは初期調整前の軌跡データであり、これに初期調整により取得された調整値を適用することで、初期調整後の軌跡データを取得することができる。初期調整値は工場の工程ラインにて、監視モニタ装置20から通信コマンドを発行し、通信部10からズーム/フォーカス制御部16を経由して初期調整データ保持部12に書き込まれる。撮像装置は電源が投入された後のレンズ初期化処理において、各レンズPIのHIGH/LOW切り替わり位置を基準位置とする。基準位置が確定すると、ズームレンズはWIDE端とTELE端までの距離がわかり、フォーカスレンズはNEAR端とFAR端までの距離がわかるため、
図2に示したカム軌跡に従った制御を行う事ができる。
【0022】
距離測定装置19は被写体との距離を測定するものであり、通信部10を経由してズーム/フォーカス制御部16に距離情報を渡している。
図1では距離測定装置19を外付け装置として配置しているが、距離測定手段をレンズ鏡筒等の撮像装置に組み込んでもよい。この撮像装置が距離測定手段を備える場合は距離測定手段が、外付け装置から通信部10を介して距離情報を取得する場合は通信部10が、距離情報取得手段として機能する。尚、距離測定装置19から取得した距離情報を用いたカム軌跡の調整については本実施例の変形例で説明をするが、距離情報を用いない場合、距離測定装置は不要である。
【0023】
軌跡変化検出部13は、カム軌跡データ、ズームレンズとフォーカスレンズとの制御情報、合焦度を取得し、これらのデータを基に軌跡変化の検出及び、どのように軌跡が変化したかの推定を行う。軌跡変化検出部13が軌跡変化の検出に用いるデータは、検出データ蓄積部14に格納する。この検出に用いるデータとして、各レンズ位置と合焦度を紐付けたデータや、距離測定装置19から取得した距離情報を扱う事ができる。これ以外にも温度情報や駆動時間等のデータを保持しても良い。
図3はフォーカスの合焦枠を示したイメージ図である。W1、W2、W3はフォーカスのAF枠であり、枠内の領域の輝度信号の輝度差(コントラスト)からフォーカスの評価値を算出する。評価値はエリア内のピーク値や積算値を活用する場合がある。いずれの場合もコントラストが大きいほど評価値は高くなり、画像としてもフォーカスが合焦状態に近づく。コントラストが小さいほど評価値は低くなり、画像としてもフォーカスがぼやける方向になる。この評価値を使って合焦度を算出する。評価値が高いとき合焦度が高く、評価値が低い時に合焦度が低くなれば、算出方法は特に問わないが、ここでは一例として輝度差を0~100の範囲に正規化したものを合焦率とする事で、検出データとして活用する。この、AF枠で得られたフォーカスの評価値や合焦度をフォーカスの合焦情報として用いることができる。また、軌跡変化検出部13は軌跡データの変化を検出した場合は変化要因に合わせた調整値の取得方法で調整値を取得し、取得した調整値を軌跡調整データ記憶部15に格納する。ここで
図4、
図5を用いて、軌跡の変化要因別の軌跡の変化の仕方について説明をする。
図4は、撮像素子の位置が変化した場合の軌跡の変化を、
図5は、撮像光学系を構成するレンズの位置が変化した場合の軌跡の変化を示す。
図4、
図5中、R1で示すカム軌跡が調整直後のカム軌跡を示す。
図4のR2は撮像光学系を構成するレンズの位置が変化した場合のカム軌跡であり、R1に対してWIDEとTELEで合焦位置の差分が大きく、WIDEとTELEの中間地点周辺では差分が小さくなるように変化しており、曲線の傾きがR1と異なる。なお、この差分の大きさはレンズ敏感度に関係するため、全てがR2のようになるわけではない。
図5のR3は撮像素子の位置が変化した場合のカム軌跡であり、ズームレンズの位置によらず全体的にフォーカス合焦位置がオフセットしたような形になる。このように、カム軌跡が調整直後のカム軌跡から変化した場合、変化した要因によって、変化後のカム軌跡の形状が異なるため、本実施例では、変化した要因、または、変化後のカム軌跡の形状を推定し、その推定結果に基づいて調整値の取得方法を選択する。
【0024】
図4において、R4は、TELE端で合焦したときのレンズ制御に用いるカム軌跡である。TELE端で合焦した状態からWIDE方向にズームレンズ位置を駆動させた場合、フォーカスレンズ位置はR4に沿って駆動する。しかしながら、実際の合焦位置はR2の曲線上にあるため、d1が示す中間位置までは合焦状態を保てるが、さらにWIDE方向に駆動すると徐々に実際に合焦を示すフォーカスレンズの位置との差分が大きくなり、WIDE端ではd2の差が出てしまう。同様に
図5において、R5はTELE端で合焦したときのレンズ制御に用いるカム軌跡であり、TELE端で合焦した状態からWIDE方向にズームレンズ位置を駆動させた場合、フォーカスレンズ位置はR5に沿って駆動する。実際の合焦位置はR3の曲線上のため、中間位置の時点でd3の差ができ、WIDE端ではd4の差が生じる。実際に合焦を示すフォーカスレンズの位置とカム軌跡上のフォーカスレンズの位置との差が、d1のように小さい場合は合焦度が高く、d2からd4のように差が大きい場合は合焦度が低い。よって、TELE~中間位置にかけては合焦度が高く、WIDE端に近づくにつれて合焦度が低くなっていくのか、TELE~WIDE全体で合焦度が低いのか、を検出することで、軌跡の変化要因または変化後のカム軌跡の形状を推定することができる。そして、軌跡変化検出部13は、推定結果に基づいて調整値を取得することで調整値取得手段として機能する。これにより、記憶されている軌跡データを変化要因に合わせて適切に調整することができる。調整値の取得方法の詳細は後述する。
【0025】
ズーム/フォーカス制御部16は、カム軌跡・深度データ保持部11に格納してあるデータに、初期調整データ保持部12に記憶されている初期調整値と軌跡調整データ記憶部15に記憶されている調整値を適用する。これにより、適切な軌跡データに沿った制御情報をフォーカス駆動部17およびズーム駆動部18に送る。
【0026】
次に、軌跡データを検出して変化要因に合わせたカム軌跡の調整を行うまでのフローについて、
図6を用いて説明する。
図6に示すフローは、特に断りがない場合は撮像装置100が備えるプロセッサ及びメモリにより実行されるものとし、これらを実行するプロセッサとメモリが
図1のカム軌跡・深度データ保持部11~ズーム/フォーカス制御部16を構成する。
【0027】
はじめに、撮像装置のズームレンズが所定の倍率以上で合焦状態にあるかをチェックする(S801)。所定の倍率とは、
図5のd3が示す中間位置(フォーカスレンズの位置が、最もNEAR側で合焦を示す位置)における差分がわかる開始位置であれば良く、中間位置よりもTELE側の倍率である必要がある。ズーム/フォーカス制御部16はフォーカスの合焦動作が発生したタイミングで、合焦状態と判定した場合にズームレンズの倍率を確認し、制御を進めるか決める。所定のズーム倍率以上で合焦していると判定するとS802へ進む。一方、ズームレンズが所定の倍率未満または非合焦状態の場合は、S801へ戻り、次の合焦動作まで待つ。
【0028】
次に、軌跡変化検出部13は合焦度および軌跡情報を取得し、検出データ蓄積部14にデータを格納する(S802)。ここでいう軌跡情報とは、合焦した時点のズームレンズ位置やフォーカスレンズ位置、基準となる軌跡データのどこの位置にいるか、基準となる軌跡データから補間した補正量、といったようなカム軌跡に関する情報を指す。続いて、ズームレンズがWIDE方向に駆動するまで待つ(S803)。WIDE方向への駆動が開始すると、カム軌跡に沿ってフォーカスレンズを移動させてズームトラッキングを行いながら、軌跡変化検出部13は各ズーム位置での合焦度および軌跡情報を取得する。そして、取得したデータを検出データ蓄積部14に検出用データとして格納する(S804)。そして、蓄積した検出用データ(蓄積データと呼ぶ)を基にカム軌跡の変化の有無を検出する(S805)。現在のズームレンズ位置及びフォーカスレンズの位置が、初期調整値で調整された後の現在の被写体距離に対応するカム軌跡に沿っているにもかかわらず、合焦度が所定値よりも低い場合、カム軌跡に変化が生じたと判定され、カム軌跡の変化が検出される。
【0029】
ズームトラッキングによりズームレンズがWIDE端に位置すると、再度AF動作を行う。そして、ズームレンズがWIDE端に位置し、且つ、合焦状態であるか否かを判定する(S806)。ズームレンズがWIDE端で、且つ、合焦状態にある場合はS807へ進み、そうでない場合はS803へ戻る。つまり、S803~S805を、ズームレンズがWIDE端に駆動するまで繰り返す。WIDE端で合焦状態となった時点で、軌跡変化検出部13は合焦度および軌跡情報を取得し、検出データ蓄積部14にデータを格納する(S807)。軌跡変化検出部13は検出データ蓄積部14のデータからカム軌跡の変化有無を検出し、変化要因を推定する(S808)。変化要因そのものを推定する代わりに、カム軌跡の変化情報を推定してもよい。カム軌跡の変化情報とは、変化後のカム軌跡の形状、カム軌跡の形状(各ズーム位置における傾き)そのものが変化したのか、形状そのものの変化は小さく、全体として値が変化した(つまりオフセットされた)のか、といった、変化の仕方に関する情報である。次に、軌跡変化検出部13は、複数の調整量取得処理の中から、S808で推定した変化要因に基づいて調整量取得処理を選択し、選択した調整量取得処理を行うことで、調整量を取得する。更に、軌跡調整データ記憶部15に取得した調整量のデータを格納する(S809)。
【0030】
ここで、S808、S809の具体的なフローについて、
図7を用いて説明する。軌跡変化検出部13は検出データ蓄積部14から検出データを取得する(S901)。この検出データは1回の制御分を採用、複数回の制御分を採用するなど、撮像装置や環境に合わせて変えても良い。基本的には複数回の制御データを用いた方が誤補正を抑制できる。次に、ズームトラッキング中の、中間位置(MIDDLE位置)における合焦度が所定値(第1の値)以上であるかを判定する(S902)。中間位置における合焦度が所定値以上である場合はS903に進み、所定値未満の場合はS904に進む。
【0031】
S903に進むと、軌跡変化検出部13は、ズームトラッキングによりWIDE位置までズームレンズとフォーカスレンズが移動したときの合焦度(WIDE位置での合焦度)が所定値(第2の値)以上であるかを判定する。また、S904に進んだ場合も、軌跡変化検出部13はWIDE位置での合焦度が所定値(第3の値)以上であるかを判定する。尚、第2の値と第3の値は同じ値でもよい。S902、S903、S904による、MIDDLE位置とWIDE位置の合焦度が所定値以上であるか否かの判定結果の組み合わせにより、カム軌跡が変化した要因を推定し、要因(カム軌跡の変化の仕方)に合わせた調整値の取得処理を選択する。
【0032】
S905に進むパターンでは、WIDE位置および中間位置の合焦度が所定以上であるため、カム軌跡の変化が無く調整不要と判定する。
【0033】
次に、S906に進むパターンではWIDE位置のみ合焦度が低い事から、変化要因が撮像光学系を構成するレンズの位置変動によるものと判定し、ズームレンズの位置に応じて異なる調整値を設定する調整値の取得処理(第1の調整値の取得処理)を選択する。
【0034】
ズームレンズの位置に応じて異なる調整値を設定する調整値の取得処理の具体例として、合焦度の劣化度合いにレンズ敏感度を積算したものを調整値とする取得処理方法について説明をする。まずカム軌跡に従ってWIDE端まで駆動させた時のフォーカスレンズ位置(
図4のp1)と、WIDE端到達後にAF動作によって合焦した後のフォーカスレンズ位置(
図4のp2)の差を取得する。ここで取得した差分量(d2)がWIDE端の調整量となり、WIDE端以外の調整量はレンズ敏感度の比を積算して取得する。例えば、WIDE端におけるレンズ敏感度を1としたとき、TELE端におけるレンズ敏感度が2、中間位置の敏感度が1/5であり、WIDE端の調整量を10とした場合、TELE端の調整量は20、中間位置の調整量は2となる。尚、レンズ敏感度の比はレンズ鏡筒依存となる。
【0035】
続いて、S907に進むパターンでは中間位置のみ合焦度が低い事から、撮像光学系を構成するレンズの位置の変化および撮像素子の位置の変化以外の要因により、カム軌跡が変化したものと判定できる。しかしながら、複合的な要因である可能性があるため、本実施例では調整値の取得は行わずに、ズーム/フォーカス制御部16はエラー情報をセットし、通信部10から監視モニタ装置20に警告ログを出力する。なお、S804で取得した中間位置の合焦情報およびカム軌跡情報に基づいて、カム軌跡に従った合焦位置を取得し、同じ中間位置で実際に合焦した位置の差分を中間位置における調整値として取得する取得処理を行ってもよい。他のズームレンズ位置の調整値は現在のカム軌跡曲線に合わせこむように調整値を取得する。
【0036】
最後に、S908に進むパターンではWIDE位置と中間位置の合焦度が低い事から、変化要因が撮像素子の位置の変化によるものと判定し、カム軌跡のオフセット値を取得する取得処理(第2の調整値の取得処理)を選択する。本実施例では、S906と同様に、カム軌跡に従ってWIDE端まで駆動させた時のフォーカスレンズ位置と、WIDE端到達後にAF動作によって合焦した後のフォーカスレンズ位置の差分(d4)を調整値として取得する処理を行う。その後はレンズ敏感度を考慮せずにWIDE端からTELE端まで同じ値の調整値とする。例えば、WIDE端の調整値を10とした場合、TELE端および中間位置の調整値も10となる。尚、WIDE端における差分(d4)の代わりに中間位置やTELE端における差分を調整値として取得してもよい。
【0037】
図6のフローに戻る。最後に、ズーム/フォーカス制御部16が、カム軌跡・深度データ保持部11に格納してあるカム軌跡データを、初期調整データ保持部12に格納された初期調整値と、軌跡調整データ記憶部15に格納された(S809の)調整値とで調整する(S810)。これにより、ズームトラッキング動作に適切なカム軌跡データを維持する事ができる。これにより、衝撃・振動・経年劣化・温度変化等によって、工場調整時に調整されたカム軌跡から実際のカム軌跡が変化してしまった場合でも、高精度なフォーカス精度を維持する事ができる。なお、軌跡調整データ記憶部15に格納する調整値は、WIDE端からTELE端を複数分割したズームレンズ位置の数だけ保持し、間は線形補間を行えばよい。
【0038】
また、本実施例の変形例として、合焦度の代わりに距離測定装置19から取得した距離情報を用いて、カム軌跡の変化を検出することもできる。通信部10は、距離測定装置19から距離情報を取得し、ズーム/フォーカス制御部16を介して軌跡変化検出部13に距離情報を送信する。軌跡変化検出部13は距離測定装置19から取得した被写体距離情報と、ズームレンズおよびフォーカスレンズ位置と現在のカム軌跡から算出した被写体距離の差分を合焦度の代わりに用いればよい。軌跡データから前記2種類の被写体距離に基づいた各フォーカスレンズ位置が分かるため、その差分を補正量とすることができる。中間位置とWIDE端とのそれぞれにおける差分が所定値(第4の値、第5の値)より大きければS908に、中間位置における差分が所定値(第4の値)よりも小さく、且つ、WIDE端における差分が所定値(第5の値)以上である場合はS906に進めばよい。尚、現在のカム軌跡とは、軌跡調整データ記憶部15に調整値が格納されていない場合は工場調整後のカム軌跡、格納されている場合は格納されている調整値と初期調整値とにより調整した後のカム軌跡のことを指す。例えば、距離測定装置19が被写体までの距離を5mと検出したとして、撮像装置が合焦した時のズームレンズおよびフォーカスレンズ位置が3mのカム軌跡上に位置していた場合、2mの差分が発生している事になる。カム軌跡データから差分(2m)に対応する調整値を線形補間等で取得し、取得した調整値を軌跡調整データ記憶部15に格納することで、合焦度を用いた場合と同様に適切に軌跡データを調整する事ができる。尚、被写体や撮影シーンによって、評価値の精度は低下することがあるため、距離測定を行うことができれば距離情報を用いる方が精度よくカム軌跡の変化を検出できると考えられるが、評価値を用いると距離測定装置19が不要である点で有利である。尚、距離測定装置は距離が測定できれば距離の測定方式は特に問わないが、例えば、光学式の測距センサ、超音波式の測距センサ、位相差情報から算出した距離情報等を用いることができる。
【実施例2】
【0039】
本実施例では、実施例1に示した調整値の取得に加え、ズームレンズの基準位置とフォーカスレンズの基準位置とが変化することによるカム軌跡の変化に対応した調整値の取得を行う撮像装置について説明する。実施例1と重複する内容については説明を割愛する。尚、本実施例では、画像情報を用いて画角の変化を検出するため、いわゆる監視カメラ、雲台に取り付けられる放送用のカメラ等、固定した状態で撮影に用いられる撮像装置に適用される。車載カメラの様に移動体に固定されるものであっても、移動体そのものが撮影範囲内にあれば、適用可能である。
【0040】
図8は、本実施例にかかる撮像装置の構成図である。本実施例の撮像装置は、画角ズレ検出部21とフォーカスズレ検出部22と基準位置調整データ記憶部23と、フォーカス・画角基準データ記憶部24とを備える点で実施例1の撮像装置と異なる。各構成は、カム軌跡・深度データ保持部11~ズーム/フォーカス制御部16と同様に、撮像装置100が備えるプロセッサ及びメモリによって構成することができる。各構成について説明をする。
【0041】
画角ズレ検出部21は、フォーカス・画角基準データ記憶部24に記憶されている基準画角情報が示す基準画角と現在の画角とを比較し、ずれ量を検出する。この検出は、例えば、ズームレンズとフォーカスレンズが初期設定位置(ホームポジション)またはプリセット位置に駆動して合焦したタイミングで行われる。初期設定位置やプリセット位置はユーザーが任意の位置を設定することができる。画角ズレ検出部21はズームレンズとフォーカスレンズが指定の位置まで駆動した後、現在の画角と基準画角とを比較し、両者の画角に差があるか否かを判定する。但し、画角そのものを比較するのではなく、画像情報に基づいて画角に差があるか否かを判定する。
図11は基準画角情報として記憶する画角の情報のイメージ図である。基準画角情報として記憶する画角の情報は画面全体の画像データでもよいし、メモリ都合に応じて部分的な画像データでもよい。画像情報に基づいて画角を比較する代表的な技術としてテンプレートマッチング技術がある。
【0042】
図11に示した基準データとして記憶した画像と同じパターンが、現在撮影している画像内に存在するかを見つける。テンプレートマッチングの場合は画像の類似度を計算する事になるため、類似度が一定以上であれば画角がずれていないと言える。また、特徴点情報を用いる場合は、特徴点の座標情報を活用する。あらかじめ記憶している特徴点(
図12中の丸)の座標と、現在撮影している画像から算出した特徴点の座標を比較し、差分が所定値未満であれば画角がずれていないと言える。尚、画角が変化すると、特徴点の座標が画面中心に寄る場合と、画面中心から広がる場合がある。
【0043】
画角に差分があると判定した場合、ズームレンズを動かしながら現在の画角と基準データとして記憶されている画角との差を比較し、画角が一致する位置をサーチして、画角のずれ量を検出する。
【0044】
フォーカスズレ検出部22は、現在の合焦位置とフォーカス・画角基準データ記憶部24に基準情報として記憶されている合焦位置情報(基準合焦情報)とを比較し、両者の差分からフォーカスレンズのズレ量を検出する。
【0045】
基準位置調整データ記憶部23は、画角ズレ検出部21及びフォーカスズレ検出部22により検出された画角のずれ量及びフォーカスレンズのずれ量を調整値として記憶する。
【0046】
フォーカス・画角基準データ記憶部24は、特定のタイミングで取得した合焦位置の情報および画角の情報を記憶する。この合焦位置と画角の情報は、基準位置がずれる前の状態を覚えておくものである。特定のタイミングとは、設置時(固定時)に設定する初期設定位置(ホームポジション)の登録時や、任意の位置でフォーカスレンズやズームレンズを固定するプリセットモードの際に固定される、任意の位置(プリセット位置)の登録時である。これ以外に温度情報や時間情報をトリガーにしても良い。フォーカス基準データとしては、
図3で示したフォーカス合焦枠のようなAF枠それぞれの評価値や合焦位置・合焦度、枠間での評価値の比率、または枠間での合焦度の比率を用いてもよい。
【0047】
図9、
図10を用いて各レンズの基準位置がずれた時のカム軌跡に対する影響を説明する。
図9、
図10中のR1は調整直後のカム軌跡を示す。
図9のR6はフォーカスレンズの基準位置がずれた場合のカム軌跡であり、
図5と類似した、ズームレンズの位置によらず全体的にフォーカス合焦位置がオフセットされる形になる。
図10のR7はズームレンズの基準位置がずれた場合のカム軌跡であり、ズームレンズの位置によってフォーカス合焦位置変化の影響が異なる。また、R1とR7を同じズームレンズ位置で比べると、画角の差も大きくなる。図からは割愛しているが、TELE端で合焦した時のカム軌跡を辿った場合、
図9と
図10共に中間位置での合焦度は低くなる。つまり、実施例1の撮像素子の位置が変化した場合にも、各レンズの基準位置がずれた場合にも、中間位置の合焦度が低くなるため、要因(またはどのように変化したか)の切り分けが必要となるケースがある。特に、温度変動が大きい、衝撃を受ける回数が多いなど、過酷な環境下で使われる撮像装置で必要となる可能性がある。実施例1でセンサ要因と判断され、S908へ進んだ後、本実施例のフローを実行することで、この切り分けを可能とすることができる。
【0048】
ユーザーがカメラの設定を更新して、フォーカスと画角の基準データがフォーカス・画角基準データ記憶部24に保存されるまでのフローについて、
図13を用いて説明する。はじめに、ユーザーが監視モニタ装置20から通信部10に対してカメラの接続を行う(S1501)。続いて、ユーザーが監視モニタ装置20から通信部10を通じて、ズーム/フォーカス制御部16にズーム/フォーカス駆動の指示を送る。ズーム/フォーカス制御部16はレンズを駆動させるための制御指示を、フォーカス駆動部17とズーム駆動部18に送る。ユーザーが画角およびフォーカス合焦位置を確定させると、現在のズームレンズの位置で撮像される画像情報とフォーカスレンズの位置(合焦位置)とを保存する(S1502、S1503)。ここまでは初期設定位置(ホームポジション)の登録と、任意の位置で固定するプリセットの登録で同じである。
【0049】
S1503で画像情報とフォーカスレンズ位置の保存が完了した後、ズーム/フォーカス制御部16はS1503で保存した情報を、基準合焦情報および基準画角情報として、フォーカス・画角基準データ記憶部24に書き込んでフローを終了する(S1504)。この時、フォーカス・画角基準データ記憶部24は、初期設定位置(ホームポジション)の登録時と、任意の位置で固定するプリセットの登録時で保存領域を分けて記憶しておく。なお、画角の基準データとなる画像情報は動体が含まれない背景画像が理想であるため、ズーム/フォーカス制御部16はカメラ信号から動体が含まれていない事を確認してからS1504の制御を行っても良い。また、フォーカス基準データは合焦情報以外にも距離情報があると誤補正を抑制しやすくなる。距離測定装置19は一定時間毎に距離情報を通信部10経由でズーム/フォーカス制御部16に送り、に距離情報を含めても良い。
図8の構成図では距離測定装置が外付けにように示されているが、実施例1と同様、撮像素子と一体型になっているようなものでも良い。
【0050】
次に、カメラが初期設定位置またはプリセット位置に駆動してから、フォーカス・画角ずれの調整値が適用されるまでのフローについて、
図14を用いて説明する。このフローは、ユーザーが監視モニタ装置20から通信部10に設定位置への駆動命令を出すか、通信部10が外部イベントやタイマー等の内部イベントをトリガーにスタートする。
【0051】
はじめに、ズーム/フォーカス制御部16は画角ズレ検出部21に、現在のカメラ信号情報とフォーカス・画角基準データ記憶部24に記憶されている基準データとを送り、ズーム位置のずれ量を算出させる(S1601)。同様に、ズーム/フォーカス制御部16はフォーカスズレ検出部22に、現在のカメラ信号情報と基準データ情報を送り、フォーカス位置のずれ量を算出させる(S1602)。ずれ量の検出を画角から先に行うのは、ズームレンズによる画角合わせを行った際の合焦状態に対する影響が大きいためである。
【0052】
S1601とS1602で取得した各レンズのずれ量は、ズーム/フォーカス制御部16により基準位置調整データ記憶部23に書き込まれる(S1603)。尚、ズーム/フォーカス制御部16は、フォーカスズレ検出部22から取得したずれ量と、カム軌跡・深度データ保持部11から取得した深度データを比較し、ずれ量が被写界深度を超えている場合のみずれ量を書き込んでも良い。
【0053】
以降、ズームレンズやフォーカスレンズを駆動する場合、初期調整データ保持部12とカム軌跡・深度データ保持部11のデータに基準位置調整データ記憶部23に記憶されている調整値を適用し、トラッキング制御や登録位置への駆動制御を行う(S1604)。
【0054】
続いて、ズーム位置のずれ量を算出する制御(S1601)とフォーカス位置のずれ量を算出する制御(S1602)について、
図15と
図16を用いて詳細なフローを説明する。
【0055】
画角ズレ検出部21はズーム/フォーカス制御部16からのINPUT情報を基に、
図15のフローを実行する。まずズーム/フォーカス制御部16は、登録位置までズームレンズ及びフォーカスレンズが駆動しているか確認する(S1701)。駆動中でまだ登録位置にいない場合はS1701を繰り返し、登録位置まで駆動したら次のステップへ進み、フォーカスの合焦枠内に動体がいないか確認する(S1702)。動体が検出された場合はS1701に戻り、動体が検出されなければフォーカスの合焦状態を確認する(S1703)。動体が検出されなくなったタイミングでオートフォーカスが再起動するケースがあるため、合焦しておらず、フォーカスが駆動している場合はS1701に戻り、合焦している状態が確認できたら現在の画角情報を取得する(S1704)。本ステップでは、画角ズレ検出部21は現在のカメラ情報から
図11、
図12に示したような画像情報を画角情報として取得する。
【0056】
画角情報を取得すると、現在の画角情報と基準データの画角情報を比較する(S1705)。基準データとの差が閾値よりも大きい場合は、画角を基準データに合わせるためにズームレンズを細かく動かし、得られる現在の画角情報を基準データの画角情報と比較しながら、画角が一致するレンズ位置を探索して検出する。そして、画角が一致したズーム位置と、ズームレンズを動かす前のズーム位置の差であるずれ量の情報をズーム/フォーカス制御部16に情報を渡す(S1706)。一方、差が小さい場合は調整量を更新せずにフローを終わる。
【0057】
続いて、フォーカスズレ検出部22はズーム/フォーカス制御部16からのINPUT情報を基に、
図16のフローを実行する。このフローはズーム位置のずれ量を取得した後、つまり、現在の画角と基準データの画角が一致する位置にズームレンズを駆動させた後に行われる。よって、まずは、基準データの画角情報と現在の画角情報とを比較し、現在の画角が基準データの画角と一致しているかを確認する(S1801)。画角が一致していない場合、画角ズレ検出部21によるS1601のフローが未完了または調整不要と判断して初めに戻り、画角ズレ検出部21によるS1706が完了するまで待機する。現在の画角と基準データの画角が一致すると判断されたた場合のみ次のフローに進み、S1702と同様にフォーカスの合焦枠内に動体がいないか確認する(S1802)。動体が検出された場合はS1801に戻る。動体が検出されなければ、S1703と同様に、フォーカスの合焦状態を確認する(S1803)。合焦しておらずフォーカスが駆動している場合はS1801に戻る。合焦している状態が確認できたら現在のカメラ情報から
図3に示したようなフォーカス合焦情報を取得する(S1804)。続いて、現在のフォーカス合焦情報と基準データのフォーカス合焦情報を比較してフォーカスレンズ位置の差分をずれ量として取得し、ずれ量の情報をズーム/フォーカス制御部16に渡し(S1805)、フローを終了する。
【0058】
本実施例により、衝撃・振動・経年劣化・温度変化等によって、フォーカスレンズ位置とズームレンズ位置との基準位置が、初期調整時に調整された基準位置から変化し、レンズ制御の軌跡データが変化してしまった場合でも、軌跡データを調整することができる。
【実施例3】
【0059】
図17は、本発明による実施例3にかかるアプリケーション画面の一例で、実施例1および実施例2で説明した制御に関して、ユーザーが制御有無の切り替えおよび、実行トリガーを任意のタイミングで可能にしたものである。構成図は実施例1および実施例2と同様で、重複する内容については説明を割愛する。また、フローチャートについても、実施例1および実施例2と同内容のものは説明を割愛する。
【0060】
ユーザーは監視モニタ装置20上からトラッキング調整設定アプリケーションウインドウM1901を表示して操作することができる。トラッキング調整設定アプリケーションウインドウM1901上では、ズームレンズ・フォーカスレンズ基準位置を調整する制御の切り替えと、ユーザーが任意のトリガーで基準登録と調整を実行できるようになっている。
【0061】
調整制御に関して、ここでは「自動調整(M1902)」、「調整しない(M1903)」の2パターンが選択できるように想定したメニューになっている。各項目の説明をすると、「自動調整(M1902)」は実施例1および実施例2で説明している制御を行うもので、「調整しない(M1903)」は調整を行わないものである。これ以外にも、例えば実施例1の調整のみ、実施例2の調整で初期設定位置に駆動した場合のみ、プリセット位置に駆動した場合のみ選択可能としても良い。
【0062】
マニュアル制御については、「基準データ登録(M1904)」と「調整実行(M1905)」の2種類のボタンを配置した例となっている。各項目の説明をすると、「基準データ登録(M1904)」は実施例2で説明している
図13のフローを実行するもので、「調整実行(M1905)」は実施例2で説明している
図14のフローを実行するものである。
【0063】
M1906のOKボタンを押すと、調整制御の状態を保存してアプリケーション画面を閉じ、M1907のCancelボタンを押すと、調整制御の状態を保存しないでアプリケーション画面を閉じる。M1904とM1905のマニュアル制御に関しては即時反映である。
【0064】
これにより、衝撃・振動・経年劣化・温度変化等によって、工場調整時に調整されたレンズ制御の軌跡データが変化してしまった場合でも、高精度なフォーカス精度を維持する事ができる。
【実施例4】
【0065】
実施例1及び実施例2では撮影中にカム軌跡の調整を行う例について説明をした。本実施例では、実施例1および実施例2に示したカム軌跡の調整制御を、メンテナンスモードとして任意のタイミングで実行する。さらに調整制御に適した撮影範囲を自動で決定し、撮影方向を決定した撮影範囲が撮影される撮影方向に変更してから調整値を取得する撮像装置について説明する。実施例1および実施例2と重複する内容については説明を割愛する。
【0066】
図18は、本実施例にかかる撮像装置の構成図である。本実施例の撮像装置は、PAN駆動部25とTILT駆動部26、フォーカス評価値・被写体距離記憶部27を備える点で実施例2の撮像装置と異なる。各構成は、カム軌跡・深度データ保持部11~フォーカス・画角基準データ記憶部24と同様に、撮像装置100が備えるプロセッサ及びメモリによって構成することができる。各構成について説明をする。
【0067】
PAN駆動部25は、通信部10からの指示に従って、撮像装置の撮影方向を水平方向に駆動させる。TILT駆動部26は、通信部10からの指示に従って、撮像装置の撮影方向を垂直方向に駆動させる。本実施例では撮像装置にPAN・TILT機構を備えているが、撮像装置を雲台に載せて外部から撮影方向を変更する構成でも良い。フォーカス評価値・被写体距離記憶部27は、調整制御に適した撮影範囲を自動で設定するために、PAN・TILT位置に応じたフォーカス評価値と、合焦時の被写体距離情報を記憶する。PAN・TILT位置情報は、通信部10からズーム/フォーカス制御部16に渡され、ズーム/フォーカス制御部16は合焦時の被写体距離をカム軌跡データから算出し、フォーカス評価値・被写体距離記憶部27に格納する。
【0068】
図19は、撮影範囲自動設定におけるPAN・TILT位置の考え方を示すイメージ図である。イメージ図の全体は各PAN・TILT位置で撮影した画像を繋ぎ合わせた、パノラマ映像のようなものである。監視モニタ装置20から通信部10を経由して、ズーム/フォーカス制御部16とPAN駆動部25、TILT駆動部26に駆動指示が出され、P0やP1のような撮影範囲に設定される。
図20は、フォーカス評価値・被写体距離記憶部27が記憶するPAN・TILT位置に応じたフォーカス評価値と、合焦時の被写体距離情報のデータテーブル例である。
図19のP0撮影範囲でフォーカス合焦した際に、フォーカス評価値およびカム軌跡データから算出した被写体距離情報を、横軸がPAN 0、縦軸がTILT 0のデータテーブルに記憶させる。パノラマ撮影では画像データを記憶して繋げるが、本実施例では画像では無く、フォーカス評価値および被写体距離を記憶して撮影範囲の自動設定に用いる。
【0069】
続いて、撮像装置がメンテナンスモードに入り、撮影範囲自動調整制御を行い、カム軌跡の補正制御を行うまでのフローについて、
図21を用いて説明する。はじめに、ユーザーが監視モニタ装置20から通信部10に対して、メンテナンスモードの開始指示を出すまで待つ(S2101)。メンテナンスモードの開始指示が出たらS2102に進み、通信部10はズーム/フォーカス制御部16に対して、ズームレンズ位置をメンテナンスモード用の位置に駆動させるよう指示する。この時のズームレンズ位置については、撮像光学系の構成に合わせて決めても良いし、ユーザーが運用する際のズームレンズ位置を活用しても良い。S2103では、
図19と
図20でも説明したような撮影範囲自動調整を行う。通信部10からPAN駆動部25、TILT駆動部26を制御して、
図20のようなデータテーブルを作成し、被写体距離が所定の距離以上であり、フォーカス評価値の高いPAN・TILT位置を、メンテナンス時の撮影範囲として決定する。撮影範囲の自動調整のより詳細な処理については後述する。
【0070】
なお、本フローではS2102で決めたズームレンズ位置を使ってS2103の撮影範囲自動調整を行っているが、これを複数回行うような制御でも良い。例えば、最初にWIDE端で撮影範囲自動調整を行って撮影範囲を決めた後、ズームレンズをTELE端に移動させ、その撮影範囲内をTELE端で撮影範囲自動調整を実施する事で、より高精度にメンテナンスに適した撮影範囲を決定できる。決定した画角を基に、S2104でカム軌跡の変化検出・要因推定、S2105でカム軌跡の補正を実施してフローを終了する。なお、S2104とS2105の処理は実施例1で説明した
図6・
図7のフローをメンテナンスモードとして強制的に実行する処理であるため、詳細な内容は割愛する。また、S2104とS2105の内容に加えて、実施例2の制御を組み込む事も可能である。
【0071】
次に、撮影範囲自動調整制御の詳細なフローについて、
図22を用いて説明する。はじめに、通信部10からPAN駆動部25、TILT駆動部26に対して、PAN・TILTの初期位置まで駆動するように指示を出す(S2201)。ここでは一例として、
図19のP0を初期位置とする。続いて、通信部10からズーム/フォーカス制御部16に指示を送り、オートフォーカス制御を開始する(S2202)。フォーカスが合焦状態になるまで待つ(S2203)。フォーカスが合焦したらS2204に進み、ズーム/フォーカス制御部16は、フォーカス評価値およびカム軌跡データから算出した被写体距離情報を、フォーカス評価値・被写体距離記憶部27のデータテーブルに記憶させる。このデータテーブルはPAN・TILT位置に応じた値を記憶する必要があるため、通信部10はPAN駆動部25、TILT駆動部26の位置情報をズーム/フォーカス制御部16に渡すように制御する。その後、PAN・TILT位置を次の位置へ進める(S2205)。ここでは一例として、
図19のP1まで駆動させる。このように、P0からP1と順番に回り、全てのPAN・TILT位置を回ったか確認する(S2206)。まだ回っていない位置であれば、S2202の制御まで戻り、S2206までのフローを繰り返す。全てのPAN・TILT位置を回った場合はS2207に進み、被写体距離が遠く、フォーカス評価値の高いPAN・TILT位置を最適な位置として判定する。通信部10からPAN駆動部25、TILT駆動部26に駆動指示を出し、S2207で判定した最適な位置まで駆動させ、フローを終了する(S2208)。
【0072】
本実施例により、衝撃・振動・経年劣化・温度変化等によって、工場調整時に調整されたカム軌跡から実際のカム軌跡が変化してしまった場合でも、ユーザーがメンテナンスを実行し、高精度なフォーカス精度を維持する事ができる。
【実施例5】
【0073】
本実施例では、実施例4で説明したメンテナンスモードについて、ユーザーが画面上から実行・設定できる例について説明をする。構成図は実施例4と同様で、重複する内容については説明を割愛する。また、フローチャートについても、実施例4と同内容のものは説明を割愛する。
【0074】
図23は、本発明による実施例5にかかるアプリケーション画面の一例である。
【0075】
ユーザーは監視モニタ装置20上からメンテナンス設定アプリケーションウインドウM2301を表示して操作することができる。メンテナンス設定アプリケーションウインドウM2301上では、メンテナンスの即時実行および指定した日時の実行ができるようになっている。また、メンテナンス実行前の状態検査や、画角自動調整の有無を選択することができる。
【0076】
メンテナンス制御を「すぐに実行(M2302)」する場合では、「状態を検査して実行(M2303)」ボタンと「状態を検査しないで実行(M2304)」ボタンの2パターンが実行できるように想定したメニューになっている。「状態を検査して実行(M2303)」ボタンを押した場合、監視モニタ装置20から通信部10に検査指示が通知され、通信部10が撮像装置の状態をチェックする。この時にチェックする内容としては、撮像装置の稼働時間および温度変化、レンズの駆動回数が挙げられる。例えば、稼働時間が所定の期間(例えば3ヶ月以上)の場合や、撮像装置内の温度が何度も保証温度上限に近付いている場合、レンズ駆動回数が製品耐久の1/10を超えた場合に、メンテナンス未実施であれば実施例4のメンテナンス制御を実行する。なお、撮像装置の構成に合わせて、これ以外の情報を活用しても良い。メンテナンスが不要と判定された場合は、メンテナンスを実行せずに処理を終了する。「状態を検査しないで実行(M2304)」ボタンを押した場合は、前述した検査を行わず、実施例4のメンテナンス制御を実行する。
【0077】
メンテナンス制御を「指定した日時に実行(M2305)」する場合では、「実行日(M2306)」と「実行時間(M2307)」を指定してメンテナンスを実行する事ができる。この設定を行った状態で「OKボタン(M2310)」を押すと、監視モニタ装置20から通信部10に情報が送信し、メンテナンス設定アプリケーションウインドウを閉じる。撮像装置は指定された日時にメンテナンスを実行する。「Cancelボタン(M2311)」を押すと、設定した情報を通信部10に送らず、メンテナンス設定アプリケーションウインドウを閉じる。
【0078】
撮影範囲の自動調整については、「する(M2308)」と「しない(M2309)」を選択できるように想定したメニューになっている。各項目の説明をすると、「する(M2308)」は実施例4の撮影範囲の自動調整制御を行うもので、「しない(M2309)」は撮影範囲の自動調整制御をスキップするものである。この設定は「すぐに実行(M2302)」と「指定した日時に実行(M2305)」の制御に反映される。
【0079】
本実施例により、衝撃・振動・経年劣化・温度変化等によって、工場調整時に調整されたカム軌跡から実際のカム軌跡が変化してしまった場合でも、ユーザーが任意のタイミングでメンテナンスを実行し、高精度なフォーカス精度を維持する事ができる。
【0080】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0081】
また、実施例1~3では、撮像光学系(撮影レンズ)と撮像装置本体が一体となったレンズ一体型の撮像装置に本発明適用した例を説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、撮像装置本体と、該撮像装置本体に着脱可能な撮像光学系を有する交換レンズと、から構成される撮像システム(光学機器)に適用することもできる。
【符号の説明】
【0082】
1 ズームレンズ
2 フォーカスレンズ
6 撮像素子
11 記憶手段
13 調整値取得手段
100 撮像装置
110 撮像光学系