IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7527797半導体装置、表示装置、撮像システム及び移動体
<>
  • 特許-半導体装置、表示装置、撮像システム及び移動体 図1
  • 特許-半導体装置、表示装置、撮像システム及び移動体 図2
  • 特許-半導体装置、表示装置、撮像システム及び移動体 図3
  • 特許-半導体装置、表示装置、撮像システム及び移動体 図4
  • 特許-半導体装置、表示装置、撮像システム及び移動体 図5
  • 特許-半導体装置、表示装置、撮像システム及び移動体 図6
  • 特許-半導体装置、表示装置、撮像システム及び移動体 図7
  • 特許-半導体装置、表示装置、撮像システム及び移動体 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】半導体装置、表示装置、撮像システム及び移動体
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/60 20230101AFI20240729BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20240729BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20240729BHJP
   H01L 33/16 20100101ALI20240729BHJP
   H01L 33/26 20100101ALI20240729BHJP
   H01L 33/38 20100101ALI20240729BHJP
【FI】
H10K30/60
G01J1/02 B
H01L27/146 E
H01L33/16
H01L33/26
H01L33/38
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020015879
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021125492
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】角田 隆行
(72)【発明者】
【氏名】島津 晃
(72)【発明者】
【氏名】矢島 孝博
(72)【発明者】
【氏名】山口 智奈
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/056750(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0254421(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109935721(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106398680(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104733180(CN,A)
【文献】特開2019-186738(JP,A)
【文献】特表2006-513458(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163929(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/037041(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/037042(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0133463(US,A1)
【文献】特開2019-165006(JP,A)
【文献】国際公開第2011/074492(WO,A1)
【文献】特開2019-012639(JP,A)
【文献】特表2019-506815(JP,A)
【文献】特開2018-107725(JP,A)
【文献】特開2008-214363(JP,A)
【文献】特表2017-516320(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102925138(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードとカソードと前記アノードと前記カソードとの間に配置されている第一機能層と、前記第一機能層と前記カソードとの間に配置されている第二機能層と、を有し、
前記第一機能層は、第一の配位子を有する第一の量子ドットを含み、前記第二機能層は、前記第一の配位子とは異なる第二の配位子を有する第二の量子ドットを含み、
前記第一の量子ドット及び前記第二の量子ドットは、PbS、PbSe、PbTe、InN、InAs、InP、InSb、InAs、InGaAs、CdS、CdSe、CdTe、Ge、CuInS、CuInSe、CuInGaSe、Siのいずれかを含み、
前記第二の配位子は、1,4-メルカプト安息香酸、1,3-メルカプト安息香酸及び1,2-メルカプト安息香酸から選ばれることを特徴とする光電変換装置
【請求項2】
前記第一の配位子は、ベンゼンジチオールであることを特徴とする請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項3】
前記アノードと前記カソードとの間の距離に対する前記第二機能層の膜厚が、25%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換装置
【請求項4】
前記アノードと前記カソードとの間の距離に対する前記第二機能層の膜厚が、1.5%以上25%以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の光電変換装置
【請求項5】
前記第二機能層の膜厚が、50nm以上150nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光電変換装置
【請求項6】
前記第一機能層の膜厚が、150nm以上350nm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光電変換装置
【請求項7】
前記第一機能層及び前記第二機能層はコロイダル量子ドットの集合体からなる量子ドット膜であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の光電変換装置
【請求項8】
前記第一機能層及び前記第二機能層の少なくともいずれかに、ヨウ素、塩素、臭素、フッ素の少なくとも一つから選択されるハロゲンを含むことを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の光電変換装置
【請求項9】
前記第一機能層及び前記第二機能層が、光電変換層であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の光電変換装置
【請求項10】
前記第一機能層及び前記第二機能層が有する量子ドットは、PbSまたはPbSeを有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の光電変換装置
【請求項11】
前記第一機能層及び前記第二機能層が有する量子ドットは、PbSまたはPbSeであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光電変換装置
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光電変換装置と、
前記光電変換装置から出力される信号を処理する処理装置と、を有することを特徴とする撮像システム。
【請求項13】
移動体であって、
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の光電変換装置と、
移動装置と、
前記光電変換装置から出力される信号から情報を取得する処理装置と、
前記情報に基づいて前記移動装置を制御する制御装置と、
を有することを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、表示装置、撮像システム及び移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ等の撮像システムの光電変換部には、単結晶シリコン基板に形成された不純物拡散層を含むフォトダイオードが広く用いられている。これに対し、近年、有機材料またはコロイダル量子ドットを用いた光電変換層を有する光変換素子が提案されている。これらの材料は、長波長領域においてシリコンに比べて高い光感度を有することが知られている。特許文献1には、コロイダル量子ドットの光電変換層を用いた光感度の高い光電変換素子が記載されており、コロイダル量子ドットは1,3-ベンゼンジチオールや1,4-メルカプト安息香酸を配位子として有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2016/0133463号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の光電変換素子は、受光時に発生した電荷が光電変換素子に残留してしまい、その結果、光の照射直後に、照射された光により発生する以上の電流値が観測され、電流値が安定しない場合があった。これは、半導体装置、特に光電変換素子においてはノイズになりうるものであり、低減され、光に起因する電流値が安定することが望まれていた。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、光を照射した場合に、安定した電流値が得られる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一実施形態は、アノードとカソードと前記アノードと前記カソードとの間に配置されている第一機能層と、前記第一機能層と前記カソードとの間に配置されている第二機能層と、を有し、前記第一機能層は、第一の配位子を有する第一の量子ドットを含み、前記第二機能層は、前記第一の配位子とは異なる第二の配位子を有する第二の量子ドットを含み、前記第一の量子ドット及び前記第二の量子ドットは、PbS、PbSe、PbTe、InN、InAs、InP、InSb、InAs、InGaAs、CdS、CdSe、CdTe、Ge、CuInS、CuInSe、CuInGaSe、Siのいずれかを含み、前記第二の配位子は、1,4-メルカプト安息香酸、1,3-メルカプト安息香酸及び1,2-メルカプト安息香酸から選ばれることを特徴とする光電変換装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、半導体装置に光を照射した場合に、安定した電流値が得られる半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】量子ドットの伝導帯の下端(Conduction Band Minimum;CBM)と量子ドットが有する配位子の三重項励起状態レベル(T1)のエネルギー差を表す図である。
図2図2Aは、本実施形態に係る半導体装置の断面模式図である。図2Bは、図2Aにおける半導体装置の第一電極から第二電極までの断面模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る半導体装置の複数の第一電極と中間層の配置を示す平面模式図である。
図4図4A乃至図4Cは、本発明の一実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面模式図である。
図5図5Aは、本発明の一実施形態に係る表示装置を備えた撮像装置の一例である。図5Bは、表示装置を備えた電子機器の一例である。図5C及び図5Dは、本発明の一実施形態に係る発光装置を備えた表示装置の一例である。
図6図6(A)及び図6(B)は、本発明の一実施形態に係る撮像システム及び移動体の構成を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る撮像システムの概略構成を示すブロック図である。
図8】本発明の一実施形態に係る発生電子の残留、電流変動の測定例を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る半導体装置は、アノードとカソードとの間に第一機能層及び第二機能層を有し、当該第一機能層及び当該第二機能層は量子ドットを有している。本明細書において、アノードは装置が駆動する場合に、カソードよりも電位が高い電極である。カソードは装置が駆動する場合にアノードよりも電位が低い。カソードは接地されていてもよい。第二機能層の量子ドットは第一機能層の量子ドットとは異なる配位子の量子ドットを有している。第一機能層の量子ドットは、第二機能層の量子ドットよりも、光電変換効率が高くてよい。第二機能層の量子ドットは、スルフィド結合及びエステル結合を有する芳香族化合物の配位子を有する。第二機能層が当該配位子を有することで、第一機能層に意図せず残る電子が低減される。その結果、半導体装置に光を照射した場合に、安定した電流値が得られる。ここで、スルフィド結合を有するとは、硫黄原子を介して結合していればよく、チオール基に起因してよい。またスルフィド結合は、チオラートイオンの形で存在してもよい。エステル結合は、炭素と、当該炭素原子と二重結合を有する酸素と、当該炭素原子と単結合を有する酸素原子と、を有する。ここでエステル結合は、カルボキシル基に起因してよい。また、カルボキシル基はカルボキシラートの形で存在してもよい。スルフィド結合とエステル結合とを有する芳香族基としては、具体的には、メルカプト安息香酸(MBA)、メルカプトナフタレンカルボン酸、メルカプトフェナンスレンカルボン酸等が挙げられ、メルカプト安息香酸、メルカプトナフタレンカルボン酸であってよい。
【0010】
光照射時に電流が安定しない例としては、残像、光電流変動があげられる。残像とは、光電変換層の電荷が1回の走査で完全転送できずに、次の走査時にも前回の走査で生成された電子が、残存する現象である。この場合、入射光強度が急変した際に追随できず、実際の動画撮影時には、尾を引いたような画となるため、残像はできる限り低減すべきである。光電流変動とは、入射光強度を一定に保持した際にも光電流が変動する現象である。実際の画像撮影時には、同一光強度であるにも関わらず明度が高い画となるため、光電流変動は低減することが好ましい。
【0011】
一方、残像や光電流変動が発光装置において起こる場合には、所望の輝度よりも高い輝度が発光する可能性がある。発光装置の場合にも同様に原因を低減することが好ましい。
【0012】
[MBAを用いることによる残像低減の作用]
本発明の一実施形態に係る半導体装置で用いられているMBAは、隣接層への電子移動の低減により、光を照射した場合の光電流安定性を高め、残像を低減している。
【0013】
残像はバイアス印加時、光照射で発生したキャリアや電極からの注入キャリアが光電変換素子中に残存し、光照射中断後の暗時にも信号として検出されるために起こる。光電流変動は光照射中の正孔もしくは電子が経時で蓄積することによって起きると考えられる。本発明の一実施形態では、機能層133CにMBAを用いることで主に負バイアスをかける第二電極から機能層133Bへの電子注入が低減されることで残像が低減できる。
【0014】
すなわち、MBAを有する量子ドット膜を第一電極131と機能層133Bとの間に有する半導体装置は、主たる光吸収層として機能する機能層133Bで発生した電子が、正孔捕集側の第二電極134に到達することを低減する。また機能層133Bで発生した電子を効率的に電子捕集側の第一電極131に到達させる。一方、MBAを有する量子ドット膜を第一電極131と機能層133Bの間に有する半導体装置は、機能層133Bで発生した電子が、正孔捕集側の第二電極134に到達することを低減できない。
【0015】
MBAを有することで層間の電子移動が低減するのは、エネルギー準位差ではなく、電子移動の性質が低いためと考えられている。残像の低減効果のない材料であるメルカプトプロピオン酸(MPA)が、MBAと同等のエネルギーレベルを有するためである。これを確認するため、1,4-MBA、1,3-MBA、1,2-MBA、1,3-BDT、MPA、PbIを配位させた量子ドット膜のHOMOレベルを大気中光電子分光装置(理研計器株式会社製AC-3)にてそれぞれ測定した。
【0016】
この結果、1,4-MBA配位量子ドット膜は5.3eV、1,3-MBA配位量子ドット膜は5.2eV、1,2-MBA配位量子ドット膜は5.2eV、1,3-BDT配位量子ドット膜は5.2eV、MPAを配位子とした量子ドット膜は5.3eV、PbIを配位子とした量子ドット膜は5.6eVであった。MBAとMPAとのHOMOレベルの差は大きくないので、いずれの配位子を用いても、エネルギー準位の差による電荷のブロック性能に差はない。すなわち、MPAとMBAとの残像低減の効果は、エネルギー準位差によるものではない。本発明者らの検討によれば、MBAの電子移動性の小ささによるものと考えられる。つまり、第一機能層と、カソードと第一機能層との間に配置されている第二機能層がある場合は、第二機能層の電子移動性が、第一機能層の電子移動性よりも低いことが好ましい。
【0017】
本発明者らの検討によれば、MBAのように電子移動を低減する量子ドット膜を形成するには、量子ドットの伝導帯の下端(Conduction Band Minimum;CBM)と量子ドットが有する配位子の三重項励起状態レベル(T1)のエネルギー差が小さいことが好ましい。または、量子ドットのCBMと量子ドットが有する配位子の一重項励起状態レベル(S1)のエネルギー差が小さいことが好ましい。言い換えると、第二機能層における量子ドットのT1と量子ドットのCBMとの差が、第一機能層における量子ドットのT1と量子ドットのCBMとの差よりも小さいことが好ましい。または、第二機能層における量子ドットのS1と量子ドットのCBMとの差が、第一機能層における量子ドットのS1と量子ドットのCBMとの差よりも小さいことが好ましい。
【0018】
より具体的には、量子ドットのCBMと量子ドットが有する配位子のT1エネルギーとの差が0.8eV以下であってよい。さらには、量子ドットのCBMと量子ドットが有する配位子のT1エネルギーとの差が0.3eV以下であってよい。また、量子ドットのCBMと量子ドットが有する配位子のS1エネルギーの差が0.3eV以下であってよい。なお、S1エネルギーは最低励起一重項エネルギーまたは一重項励起エネルギー、T1エネルギーは最低励起三重項エネルギーまたは三重項励起エネルギーとも呼ばれる。
【0019】
図1は、各配位子におけるCBMとT1とのエネルギー差を表した概略図である。なお、CBMはPbSを想定している、図の縦軸は、CBMとT1とのエネルギー差をおおよそ表したものである。図の横軸は、各配位子として、MBA、BDT、MPAが記載されている。MBAが3つの配位子の中では最も小さく、CBMとT1とのエネルギー差は0.3eV未満である。BDTは3つの配位子の中では真ん中の大きさで、0.9eV程度である。MPAは3つの中では最も大きく、1.0eV以上である。図中の実線が、1.0eVの大きさを表し、破線が0.8eVの大きさを表している。CBMとT1とのエネルギー差が0.8eV以下であれば、MBAと同様の効果がある。
【0020】
一方、電子移動を低減することと、CBMとT1と差と、の関係は、以下のように考えられている。例えば、MBAとMPAとは、芳香環を有すること以外は、同様の化学構造である。前述の通り、HOMOレベルの差も大きくない。しかし、MBAはEQEが低く、MPAはMBAに比べてEQEが高いことが知られている。このEQEの差は、電荷輸送性に起因すると考えられている。この電荷輸送性は、有機配位子の電子状態である基底状態(S0)、一重項励起状態(S1)、及び三重項励起状態(T1)のエネルギーレベルを用いて説明される。
【0021】
MPA及びMBAともにS1レベルは、量子ドットのCBMよりも高い位置にある。この2つを比べると、MBAは芳香環を有するためS1レベルが芳香環をもたないMPAよりも低い。そして、MBAのT1レベルはMPAよりも低いため、MBAのT1レベルは、MPAのT1レベルと比べて量子ドットのCBMレベルに近い位置にある。さらに、芳香環を有しているMBAはMPAと異なり、量子ドットとMBA間の軌道間相互作用による安定化を有する。そのため、さらにS1レベル及びT1レベルが低下し、量子ドットと有機配位子間のエネルギー共鳴を促進しうる。
【0022】
上記の通り、MPAは量子ドットのCBMとT1レベルのエネルギー差がMBAよりも大きい。そのため、量子ドットで発生した電子は、MPAを励起することなく隣接量子ドットに移動する。
【0023】
一方で、MBAを有する量子ドットにおいては、量子ドットで発生した電子がMBAを励起する確率がMPAよりも高いので、隣接量子ドットへの電子移動が低減される。結果として、MPAを有する量子ドット膜は高いEQEを示し、MBAを有する量子ドット膜は低いEQEになる。
【0024】
したがって、MBAを有する量子ドット膜を第一電極と機能層133Bの間に有する半導体装置は、機能層133Bで発生した電子が単位時間に第一電極131に到達できる数が減少するためEQEを大きく損なうと考えられる。
【0025】
ここでは、ベンゼン骨格を有する配位子としてMBAを一例としてあげたが、ベンゼン環を複数有する例えばナフタレン骨格やアントラセン骨格などを用いてもよい。なぜなら、これら分子はベンゼン骨格よりもS0-S1状態間のエネルギーギャップが狭小化、S1レベル及びT1レベルが低下するため量子ドットの配位子への電子移動が起きやすく、層間の電子移動が低減される、すなわち上記と同様の効果が得られるためである。
【0026】
また、CBMは量子ドットの粒径によっても変わるため、CBMとT1エネルギー差を量子ドットの粒径を選択することで適宜調節してもよい。例えば、量子ドットの所望波長の光吸収特性が許す限り粒径を3.0nmより小さくすればCBMを高くすることができる。CBMが高いとは、CBMが浅いということもできる。また、CBMレベルがT1レベルより高い方が、より好ましい。
【0027】
このように、本発明の一実施形態においては、残像改善のために、チオール基とカルボキシル基を官能基とする芳香環をもつ有機配位子例としてMBAを用いた積層素子が有効であることを見出した。特に1,4-MBA配位量子ドット膜は、単膜構成で光電変換層の主たる光吸収層として使用することは、低EQEで特性が他に比して劣るため光電変換素子としては一般には好ましくないことが知られている。しかし、積層素子中の構成要素である機能層133Cとして用いた場合は、EQEのみならず残像及び光電流変動に対して改善効果も示した。
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、いずれも本発明の一構成例を示すものであり、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置、構成要素間の接続関係等は、本発明を限定するものではない。例えば、以下の実施形態では、本発明が適用され得る半導体装置の一例として主に光電変換素子が示されているが、本発明は発光装置にも適用可能である。また、以下の実施形態において示されているトランジスタ、半導体領域等の導電型は適宜変更可能である。
【0029】
また、複数の図面にわたって同一の構成には共通の符号が付されており、その説明は省略または簡略化されることがある。また、図中において、同一の構成が複数個配置されている場合には符号の付与及びその説明が省略される場合がある。
【0030】
[半導体装置の構成]
図2Aは、本実施形態に係る半導体装置の断面模式図である。図2Aは、Z方向(図の上方向)とX方向(図の右方向)を含む面における半導体装置の断面を示している。本実施形態の半導体装置は、入射光を光電変換して入射光の光量に応じた電荷を生成する光電変換装置である。図1には、半導体装置の3つの単位セル120が図示されている。単位セル120は、副画素とも称される。3つの単位セル120の各々は、同様の回路構成を有してよい。単位セル120は少なくとも1つの光電変換素子を有する。
【0031】
なお、半導体装置が発光装置である場合には、単位セル120は、少なくとも1つの発光素子を有する。半導体装置は、単位セル120に含まれる機能層の材料に応じて光電変換装置または発光装置として機能する。
【0032】
半導体装置は、基板100を有する。基板100は、本実施形態においてはシリコン単結晶等の半導体基板であるものとするが、ガラス、セラミック等の絶縁体基板であってもよい。基板100は、主面P1を有する。基板100は、主面P1の近傍に、トランジスタ101及び素子分離部113を有する。近傍にトランジスタを有するとは、半導体基板に不純物領域を形成して、基板表面にチャネル形成が可能な領域を設けることである。
【0033】
トランジスタ101は、例えばN型のMOSトランジスタであり、ソース・ドレイン領域102と、ゲート絶縁膜103と、ゲート電極104と、ソース・ドレイン領域105と、を含む。ゲート絶縁膜103及びゲート電極104は、主面P1の上に配されている。ゲート絶縁膜103は、ゲート電極104と主面P1との間に配されている。ソース・ドレイン領域102とソース・ドレイン領域105は、基板100の内部に配されている。ソース・ドレイン領域102、105は、トランジスタ101がN型のMOSトランジスタである場合には、N型の半導体領域である。素子分離部113は、例えば、STI構造(Shallow Trench Isolation)を有する。
【0034】
基板100の主面P1の上には、配線構造体106が配されている。配線構造体106は、コンタクトプラグ107と、配線層108と、ビアプラグ109と、配線層110と、ビアプラグ111と、絶縁層112とを有する。絶縁層112は、単層であっても複数層であってもよい。これらの部材は、半導体プロセスにおいて一般的に用いられている金属、絶縁体等の材料を用いて形成することができる。
【0035】
コンタクトプラグ107、ビアプラグ109、111は、例えば、アルミニウム、銅、タングステン、チタン、窒化チタン等から選択された材料であり得る。典型的には、コンタクトプラグ107、ビアプラグ109、111は、チタン、窒化チタン及びタングステンの積層構造であり得る。配線層108、110は、例えば、アルミニウム、銅、タングステン、チタン、窒化チタン、タンタル等から選択された材料であり得る。
【0036】
典型的には、配線層108、110は、タンタル及び銅の積層構造であり得る。絶縁層112は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン等であり得る。
【0037】
配線構造体106は、さらに、互いに間隙を隔てて配された複数の第一電極131を有する。複数の第一電極131の各々は、対応する単位セル120に配されている。複数の第一電極131の間の間は、分離領域130を構成している。分離領域130は、配線構造体106の絶縁層112であってもよい。複数の第一電極131の各々は対応するビアプラグ111に接続されている。第一電極131は、銅、アルミニウム等から選択された材料であり得る。
【0038】
半導体装置は、中間層132と、機能層133と、第二電極134とを有する。中間層132と、機能層133と、第二電極134とは、配線構造体106の上に、この順に配されている。第二電極134は、3つの単位セル120にわたって連続して設けられてよい。本実施形態においては、第二電極134の上面と下面は平坦である。複数の第一電極と、機能層と、第二電極と、が配されており、機能層は複数の第一電極おいて共通で配置されている。半導体装置が1つの機能層、1つの第二電極、複数の第一電極を有するといってもよい。第一電極がアノードであってよく、第二電極がカソードであってよい。アノードとは、駆動時にカソードよりも電位が高い電極である。またアノードは電子を捕集する電極であり、陽極とも呼ばれる。
【0039】
機能層133は、複数の第一電極131と第二電極134との間に配されている。機能層133は、光電変換層であり、光検出の機能を有する。第一電極131は光電変換によって生じた電荷に基づく信号の読み出しに用いられ得る。
【0040】
なお、半導体装置が発光装置である場合には、機能層133は、発光の機能を有する。この場合には、第一電極131は、発光または非発光の制御及び発光強度の制御のための制御信号を機能層133に供給するために用いられ得る。
【0041】
中間層132は、複数の第一電極131の各々と機能層133との間に配されている。中間層132は、複数の第一電極131の各々と機能層133との間で正孔または電子の一方のキャリアについては電気的絶縁を確保し、他方については導通を確保する層である。したがって、中間層132は、キャリア注入阻止層であるともいえる。中間層132は、複数の第一電極131が正孔を捕集する電極(陰極)である場合には、電子をブロックして正孔を伝導する層(電子ブロック層)であり得る。また、中間層132は、複数の第一電極131が電子を捕集する電極(陽極)である場合には、正孔をブロックして電子を伝導する層(正孔ブロック層)であり得る。なお、中間層132が電子ブロック層である場合には、機能層133と第二電極134の間には不図示の正孔ブロック層が配され得る。また、中間層132が正孔ブロック層である場合には、機能層133と第二電極134の間には不図示の電子ブロック層が配され得る。
【0042】
また、中間層132は、複数の第一電極131の各々と機能層133との間の密着層としても機能することが可能である。中間層132を第一電極131と機能層133との間に配することにより、第一電極131と機能層133との間の濡れ性の低さに起因する膜剥がれを低減し得る。中間層132は、全面に形成されていることが好ましい。この場合、中間層132と機能層133との間の接触面積を大きくすることができ、膜剥がれをより低減することができる。第一電極から第二電極まで構成をまとめて光電変換素子と呼ぶ。光電変換素子は、光電変換層、光電変換層と電極の間に配されている中間層、具体的には電子ブロック層、正孔ブロック層を含んでよい。
【0043】
半導体装置は、絶縁層136と、カラーフィルタ層137と、平坦化層138と、マイクロレンズ層139とを有する。絶縁層136と、カラーフィルタ層137と、平坦化層138と、マイクロレンズ層139とは、第二電極134の上にこの順に配されている。絶縁層136は、保護層及び封止層として機能し得る。カラーフィルタ層137は、複数の色のうちのいずれかの色のカラーフィルタを有する。複数の単位セル120の各々は、対応する色のカラーフィルタを含む。平坦化層138は、マイクロレンズ層139の形成に適した平坦な上面を有する。マイクロレンズ層139は、複数のマイクロレンズを有する。1つの単位セル120は、1つのマイクロレンズを含む。また、カラーフィルタはベイヤー配列で設けられていてよい。
【0044】
図2Bは、図2Aにおける半導体装置の第一電極から第二電極までの断面模式図である。前述の通り、第一電極131(アノード)、中間層132、機能層133A(第三機能層)、機能層133B(第一機能層)、機能層133C(第二機能層)、第二電極134(カソード)がこの順で配されている。第一電極は図2Aの通り、半導体装置に複数配されている。これに対して、複数の第一電極に共通に他の構成が配されている。具体的には、複数の第一電極に対して、機能層が1つ、第二電極が1つ配されている。共通で配されているのは一例であり、複数の第一電極に対して、それぞれの機能層、第二電極が設けられてもよい。
【0045】
図3は、本実施形態に係る半導体装置の複数の第一電極131と中間層132の配置を示す平面模式図である。平面模式図は、半導体装置のP1に垂直な方向からの平面視を表している。第一電極131の領域には、光電変換装置においては、単位セル120が複数の行及び複数の列をなすマトリクス状に配される。中間層132は、第一電極131の上部と分離領域130の上部にわたって連続して形成されている。そのため、上述のように中間層132と機能層133との間の接触面積を大きくすることができ、膜剥がれの低減の効果を向上させることができる。
【0046】
[半導体装置の機能層、中間層を構成する材料]
次に、本実施形態の半導体装置に適用され得る機能層133の材料等について説明する。上述のように、機能層133は、光電変換層として機能するものであればよく、その材料及び製造方法は特に限定されるものではない。機能層133は、例えば、化合物半導体等のナノ粒子の集合体であるコロイダル量子ドット膜を有してよい。
【0047】
[量子ドットが有する配位子]
本実施形態で用いられ得るチオールを有する配位子としては、1,3-ベンゼンジチオール(BDT)に限定されるものではない。特に、1,4-BDT、1,2-BDT等のベンゼン環を含む配位子は沸点が200℃以上である。そのため、140℃以上の条件下においても量子ドット表面からの配位子の脱離分解及び揮発が低減されるため、量子ドットの耐熱性が向上する効果が得られる。チオールを有する配位子として、例えば、4-メチル-1,2-ベンゼンジチオール、1,3,5-ベンゼントリチオール、5-ブロモ-1,3-ベンゼンジチオール、4-クロロ-1,3-ベンゼンジチオール、3,6-ジクロロ-1,2-ベンゼンジチオール、4,6-ジクロロ-1,3-ベンゼンジチオール、2,5-ジアミノ-1,4-ベンゼンジチオール、4,6-ジアミノ-1,3-ベンゼンジチオール、1,2,4,5-ベンゼンテトラチオール、3,4,5,6-テトラクロロ-1,2-ベンゼンジチオール、3,4,5,6-テトラフルオロ-1,2-ベンゼンジチオール、3-メチル-1,2-ベンゼンジチオール、4,5-ジメルカプト-1,2-ベンゼンジカルボニトリル、4-フルオロ-1,2-ベンゼンジチオール, また、ナフタレン骨格を有してもよく、例えば、2,6-ナフタレンジチオール、1,5-ナフタレンジチオール、2,7-ナフタレンジチオール、1,8-ナフタレンジチオール、1,4-ナフタレンジチオールなどである。ただし、光電変換効率EQE(External Quantum Efficiency)は使用する配位子によって変化する個々のコロイダル量子ドット間の距離に依存するため、なるべくサイズの小さい配位子が好ましい。
【0048】
また、チオール基とカルボキシル基とを有する芳香環を有する配位子としては、1,4-メルカプト安息香酸(1,4-MBA)の他にも選択することができる。例えば、5-ブロモ-2-メルカプト-安息香酸、4-フルオロ-2-メルカプト-安息香酸、4-アミノ-3-メルカプト-安息香酸、5-クロロ-2-メルカプト-安息香酸、5-フルオロ-2-メルカプト-安息香酸、4-ブロモ-2-メルカプト-安息香酸、2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メルカプト-安息香酸、4-アミノ-5-メルカプト-2-メトキシ-安息香酸、2-ブロモ-4-メルカプト-安息香酸、4-クロロ-2-メルカプト-安息香酸、4-フルオロ-3-メルカプト-安息香酸、2-クロロ-4-メルカプト-安息香酸、2-クロロ-5-メルカプト-安息香酸、2-メルカプト-3-メチル-安息香酸、4-メルカプト-2-メトキシ-安息香酸、2-メルカプト-5-メトキシ-安息香酸、5-メルカプト-2-メトキシ-4-メチル-安息香酸、5-メルカプト-2-ニトロ-安息香酸、3-クロロ-4-メルカプト-安息香酸、4-アミノ-3-メルカプト-5-メトキシ-安息香酸、2-フルオロ-5-メルカプト-安息香酸、2-メルカプト-5-メチル-安息香酸、2-メルカプト-5-ニトロ-安息香酸、2-ブロモ-5-メルカプト-安息香酸、4-メルカプト-1,3-ベンゼンジカルボン酸、2-クロロ-6-メルカプト-安息香酸、2-フルオロ-4-メルカプト-安息香酸、2-メルカプト-4-メチル-安息香酸、3,5-ジクロロ-2-メルカプト-安息香酸、3-メルカプト-4-ニトロ-安息香酸、2-メルカプト-4-メトキシ-安息香酸、5-アミノ-2-メルカプト-安息香酸、4-メルカプト-1,2-ベンゼンジカルボン酸、3,5-ジメルカプト-安息香酸、2-メルカプト-3,5-ジメチル-安息香酸、2-メルカプト-4,5-ジメトキシ-安息香酸、4-メルカプト-3-ニトロ-安息香酸、3-ヒドロキシ-5-メルカプト-4-メトキシ-安息香酸、3-クロロ-2-メルカプト-安息香酸、2,5-ジメルカプト-1,4-ベンゼンジカルボン酸、2-メルカプト-1,4-ベンゼンジカルボン酸、4-アミノ-2-メルカプト-安息香酸、5-メルカプト-2-メトキシ-安息香酸、2-フルオロ-6-メルカプト-安息香酸、5-メルカプト-1,3-ベンゼンジカルボン酸、4-ブロモ-3-メルカプト-安息香酸、4-メルカプト-3-メチル-安息香酸、2-メルカプト-6-メチル-安息香酸、4-クロロ-3-メルカプト-安息香酸、3,5-ジブロモ-2-メルカプト-安息香酸、3-メルカプト-4-メトキシ-安息香酸、5-メルカプト-2-メチル-安息香酸、5-アセチル-2-メルカプト-安息香酸、5-クロロ-2-メルカプト-3-メチル-安息香酸、3-メルカプト-2-メチル-安息香酸、5-メルカプト-,1-メチルエステルー1,3-ベンゼンジカルボン酸、3-メルカプト-4-メチル-5-ニトロ-安息香酸、3-フルオロ-2-メルカプト-安息香酸、3-アミノ-4-メルカプト-安息香酸、2-メルカプト-5-(トリフルオロメチル)-安息香酸、2,4-ジクロロ-5-メルカプト-安息香酸、4-アミノ-2-エトキシ-5-メルカプト-安息香酸、4-ヒドロキシ-3-メルカプト-安息香酸、2-メルカプト-3,6-ジメチル-安息香酸、3-フルオロ-4-メルカプト-安息香酸、5-ヒドロキシ-2-メルカプト-安息香酸、5-メルカプト-2,4-ジメチル-安息香酸、5-ヨード-2-メルカプト-安息香酸、5-メルカプト-2,3-ジメトキシ-安息香酸、4-フルオロ-5-メルカプト-2-ニトロ-安息香酸、2-アミノ-3-メルカプト-安息香酸、4-クロロ-3-メルカプト-5-メチル-安息香酸、2,3-ジフルオロ-5-メルカプト-安息香酸、3-クロロ-2-フルオロ-5-メルカプト-安息香酸、5-シアノ-2-メルカプト-4-メチル-安息香酸、2-(アミノメチル)-4-シアノ-6-メルカプト-安息香酸、2-シアノ-6-メルカプト-4-メチル-安息香酸、4-(ブロモメチル)-2-シアノ-6-メルカプト-安息香酸、5-クロロ-2-シアノ-4-メルカプト-安息香酸、2-シアノ-6-エチル-4-メルカプト-安息香酸、4-シアノ-5-エチル-2-メルカプト-安息香酸、2-(ブロモメチル)-4-シアノ-3-メルカプト-安息香酸、6-(ブロモメチル)-3-シアノ-2-メルカプト-安息香酸、6-クロロ-2-シアノ-3-メルカプト-安息香酸、2-シアノ-5-エチル-3-メルカプト-安息香酸、4-(アミノメチル)-2-シアノ-3-メルカプト-安息香酸、5-(アミノメチル)-2-シアノ-4-メルカプト-安息香酸、2-シアノ-3-エチル-6-メルカプト-安息香酸、3-シアノ-4-エチル-5-メルカプト-安息香酸、6-シアノ-2-エチル-3-メルカプト-安息香酸、2-(アミノメチル)-5-シアノ-4-メルカプト-安息香酸、2-(ブロモメチル)-5-シアノ-4-メルカプト-安息香酸、2-(ブロモメチル)-3-シアノ-6-メルカプト-安息香酸、5-(ブロモメチル)-2-シアノ-3-メルカプト-安息香酸、4-(ブロモメチル)-3-シアノ-5-メルカプト-安息香酸、5-クロロ-4-シアノ-2-メルカプト-安息香酸、3-(クロロメチル)-2-シアノ-6-メルカプト-安息香酸、4-(クロロメチル)-5-シアノ-2-メルカプト-安息香酸、2-(ブロモメチル)-6-シアノ-3-メルカプト-安息香酸、2-(クロロメチル)-3-シアノ-4-メルカプト-安息香酸、3-(クロロメチル)-2-シアノ-5-メルカプト-安息香酸、3-クロロ-2-シアノ-5-メルカプト-安息香酸、3-シアノ-5-メルカプト-2-メチル-安息香酸、2-(アミノメチル)-6-シアノ-3-メルカプト-安息香酸、3-シアノ-2-エチル-6-メルカプト-安息香酸、3-(ブロモメチル)-2-シアノ-5-メルカプト-安息香酸、2-クロロ-3-シアノ-5-メルカプト-安息香酸、3-クロロ-6-シアノ-2-メルカプト-安息香酸、2-(アミノメチル)-5-シアノ-3-メルカプト-安息香酸、5-(ブロモメチル)-3-シアノ-2-メルカプト-安息香酸、3-クロロ-2-シアノ-4-メルカプト-安息香酸、4-シアノ-3-エチル-2-メルカプト-安息香酸、2-(クロロメチル)-3-シアノ-5-メルカプト-安息香酸、3-(クロロメチル)-4-シアノ-2-メルカプト-安息香酸、4-クロロ-3-シアノ-5-メルカプト-安息香酸、2-(クロロメチル)-5-シアノ-3-メルカプト-安息香酸、2-シアノ-4-メルカプト-5-メチル-安息香酸、5-シアノ-3-メルカプト-2-メチル-安息香酸、2-シアノ-4-エチル-5-メルカプト-安息香酸、3-シアノ-5-エチル-4-メルカプト-安息香酸、4-シアノ-3-メルカプト-2-メチル-安息香酸、2-(アミノメチル)-6-シアノ-4-メルカプト-安息香酸、2-(ブロモメチル)-3-シアノ-4-メルカプト-安息香酸、6-(ブロモメチル)-2-シアノ-3-メルカプト-安息香酸、4-(クロロメチル)-3-シアノ-2-メルカプト-安息香酸、3-(ブロモメチル)-6-シアノ-2-メルカプト-安息香酸、3-(ブロモメチル)-4-シアノ-5-メルカプト-安息香酸、5-(ブロモメチル)-4-シアノ-2-メルカプト-安息香酸、6-(クロロメチル)-3-シアノ-2-メルカプト-安息香酸、5-シアノ-2-エチル-3-メルカプト-安息香酸、2-クロロ-3-シアノ-6-メルカプト-安息香酸、3-クロロ-4-シアノ-2-メルカプト-安息香酸、6-シアノ-2-メルカプト-3-メチル-安息香酸、3-(クロロメチル)-4-シアノ-5-メルカプト-安息香酸、2-シアノ-4-エチル-6-メルカプト-安息香酸、6-シアノ-3-エチル-2-メルカプト-安息香酸、2-クロロ-3-フルオロ-4-メルカプト-安息香酸、5-メルカプト-2,4-ジメトキシ-安息香酸、2-メルカプト-6-メチル-3-(1-メチルエチル)-安息香酸、2-メルカプト-3-メトキシ-安息香酸、2-ヒドロキシ-4-メルカプト-安息香酸、2-メルカプト-3,6-ジメトキシ-安息香酸、4,5-ジエトキシ-2-メルカプト-安息香酸、3-メルカプト-2-ニトロ-安息香酸、3,5-ジフルオロ-4-メルカプト-安息香酸、3-メルカプト-4-メチル-安息香酸、4-エチル-3-メルカプト-安息香酸、4-メルカプト-3-メトキシ-安息香酸、4,5-ジフルオロ-2-メルカプト-安息香酸、2,5-ジクロロ-3-メルカプト-安息香酸、2-ブロモ-3-メルカプト-5-メチル-安息香酸、5-クロロ-2-ヨード-3-メルカプト-安息香酸、3-フルオロ-5-メルカプト-4-メトキシ-安息香酸、3-クロロ-4-フルオロ-5-メルカプト-安息香酸、2-ブロモ-5-フルオロ-3-メルカプト-安息香酸、2,6-ジフルオロ-3-メルカプト-安息香酸、3,4-ジクロロ-5-メルカプト-安息香酸、3-フルオロ-5-メルカプト-4-メチル-安息香酸、3-ブロモ-5-メルカプト-4-メチル-安息香酸、2,3-ジクロロ-5-メルカプト-安息香酸、3-クロロ-4-ヨード-5-メルカプト-安息香酸、3-クロロ-5-メルカプト-2-メチル-安息香酸、5-メルカプト-4-メチル-2-ニトロ-安息香酸、2-メルカプト-4-(トリフルオロメチル)-安息香酸、2,3-ジクロロ-4-メルカプト-安息香酸、2-ヒドロキシ-5-メルカプト-安息香酸、5-(1,1-ジメチルエチル)-2-メルカプト-1,3-ベンゼンジカルボン酸、5-(アミノスルフォニル)-2-メルカプト-安息香酸、3-アミノ-2-メルカプト-安息香酸、4-メルカプト-2-ニトロ-安息香酸、3-メルカプト-4-メチル-2-ニトロ-安息香酸、2-メルカプト-6-(メチルチオ)-安息香酸、5-メルカプト-2,3-ジメチル-安息香酸、2-メルカプト-4,6-ジメチル-安息香酸、3-メルカプト-4,5-ジメチル-安息香酸、3-(1,1-ジメチルエチル)-4-メルカプト-安息香酸、4-クロロ-3-メルカプト-2-メチル-安息香酸である。また、ナフタレン骨格を有してもよく、例えば、3-メルカプト-2-ナフタレンカルボン酸、6-メルカプト-1-ナフタレンカルボン酸などである。ただし、光電変換効率EQEは使用する配位子によって変化する個々のコロイダル量子ドット間の距離に依存するため、なるべく分子サイズの小さい配位子が好ましい。
【0049】
機能層133が半導体のナノ粒子を含むコロイダル量子ドットである場合の構成例を説明する。コロイダル量子ドットは、平均粒子径が0.5nm以上、かつ100nm未満であるナノ粒子を含む。ナノ粒子の材料には、単元素半導体(IV族半導体)または化合物半導体が用いられ得る。化合物半導体は、III-V族半導体であってもよく、II-VI族半導体であってもよく、II族、III族、IV族、V族及びVI族の元素のうちの3つ以上の組み合わせからなる半導体であってもよい。具体的には、PbS、PbSe、PbTe、InN、InAs、InP、InSb、InAs、InGaAs、CdS、CdSe、CdTe、Ge、CuInS、CuInSe、CuInGaSe、Si等の半導体が挙げられる。これらは、比較的バンドギャップが狭い半導体材料である。コロイダル量子ドットは、上述の材料のうちの1種類のナノ粒子のみを含んでいてもよく、2種類以上のナノ粒子を含んでいてもよい。これらの材料を含むコロイダル量子ドットは、半導体量子ドットとも呼ばれる。ナノ粒子の構造は、上述の半導体を含む核(コア)と、核を被覆する被覆材料とを含むコアシェル構造であってもよい。
【0050】
ナノ粒子のサイズは、各半導体材料に固有の励起子ボーア半径と同程度のサイズ以下に設定され得る。この場合、量子サイズ効果が発現することにより、サイズに応じた所望のバンドギャップが得られる。すなわち、ナノ粒子のサイズを所定の値に制御して製造することにより光吸収波長または発光波長が制御される。
【0051】
ナノ粒子に用いられる材料は、合成の容易性の観点からPbSまたはPbSeであることが好ましい。PbSの励起子ボーア半径はおよそ18nmであるため、結晶成長の制御及び量子サイズ効果の発現の観点からナノ粒子の平均粒径は2nm乃至15nmの範囲であることが好ましい。ナノ粒子の平均粒径を2nm以上とすることにより、ナノ粒子の合成において、結晶成長の制御が容易になる。なお、ナノ粒子の粒径の測定には、透過型電子顕微鏡が用いられ得る。
【0052】
機能層133の膜厚は、特に限定されるものではないが、高い光吸収特性を得る観点から、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。また、製造の容易性の観点から、機能層133の膜厚は、800nm以下であることが好ましい。
【0053】
次に、本実施形態の半導体装置に適用され得る中間層132の材料等について説明する。中間層132は、上述のように、第一電極131が捕集するキャリアの種類に応じて電子ブロック層または正孔ブロック層であり得る。また、中間層132は、機能層133の膜剥がれを低減するための密着層としての機能を有する。
【0054】
まず、中間層132が電子ブロック層である場合について説明する。電子ブロック層の材料は、光電変換層である機能層133で生成された正孔が効率よく陰極に輸送でき、機能層で生成された電子が陰極へ移動することを低減するものであることが好ましい。その材料は、正孔移動度が高いこと、電気伝導率が高いこと、陰極との間の正孔注入障壁が小さいこと、光電変換層から電子ブロック層への正孔注入障壁が小さいこと、などの性質を有することが好ましい。さらに、電子ブロック層を介して光電変換層に光が取り込まれる場合には、電子ブロック層の材料には透明性の高い材料が用いられることが好ましい。透明な電子ブロック層における可視光の透過率は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。このような観点から、電子ブロック層の材料の具体例としては、酸化モリブデン(MoO)、酸化ニッケル(NiO)等のP型の無機半導体またはPEDOT:PSS等のP型の有機半導体が挙げられる。
【0055】
半導体装置が、発光装置である場合には、電子ブロック層は、陽極と機能層との間に配されてよい。この場合電子ブロック層は、機能層から電子が陽極側へ移動することを低減する層である。
【0056】
次に、中間層132が正孔ブロック層である場合について説明する。正孔ブロック層に求められる機能は、電子ブロック層とは逆に、機能層で生成された正孔をブロックし、電子を陽極に輸送するというものである。したがって、上述の電子ブロック層の記載において、陽極を陰極に置き換え、P型半導体をN型半導体に置き換えたものが正孔ブロック層における好ましい性質である。陽極側から光を照射される場合、あるいは陽極側で反射された光を活用する場合には、正孔ブロック層の材料には透明性の高い材料が用いられることが好ましい。このような観点から、正孔ブロック層の材料の具体例としては、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)等のN型のワイドギャップ半導体、あるいはフラーレン(C60)等のN型の半導体が挙げられる。特に酸化物系の無機半導体は、量子ドット分散液を塗布する工程において、その分散液に対する溶解度が低いため好ましい。
【0057】
半導体装置が、発光装置である場合には、正孔ブロック層は、陰極と機能層との間に配されてよい。この場合正孔ブロック層は、機能層から正孔が陽極側へ移動することを低減する層である。
【0058】
中間層132の膜厚は、特に限定されるものではないが、例えば1nmから100nm程度である。中間層132の膜厚が薄い場合には、機能層133に印加される電圧を下げることができる。これに対し、中間層132の膜厚が厚い場合には、トンネル効果によって電子または正孔が中間層132を通過する可能性を低減できる。また、中間層132の膜厚が厚い場合には、ピンホール等による膜欠陥の発生を低減することができる。例えば、中間層132の膜厚が第一電極131の表面の凹凸よりも厚い場合には、膜欠陥が低減され得る。これらの観点を考慮して、中間層132の膜厚が適宜設定され得る。
【0059】
[半導体装置のその他の構成]
次に、本実施形態の半導体装置に適用され得る第一電極131及び第二電極134の材料等について説明する。第一電極131及び第二電極134は、導電性を有する任意の材料により形成することが可能である。第一電極131及び第二電極134の材料の具体例としては、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム等の金属及びこれらの金属を含む合金が挙げられる。あるいは、第一電極131及び第二電極134の材料は、酸化インジウム、酸化錫等の金属酸化物であってもよく、これらを含む複合酸化物(例えば、ITOまたはIZO)であってもよい。また、第一電極131及び第二電極134の材料は、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン等の導電性粒子を用いたものであってもよく、それらがポリマーバインダー等のマトリクスに分散された複合材料であってもよい。第一電極131及び第二電極134の材料は、上述の例示のうちの1種を単独で用いたものであってもよく、2種以上を所定の組み合わせ及び比率で用いたものであってもよい。
【0060】
ここで、第一電極131及び第二電極134のうちの、少なくとも一方は透明であることが好ましい。この場合、透明な電極は、機能層133により吸収される光を透過させることができる。半導体装置が発光装置である場合には、透明な電極は、機能層133から発せられた光を透過させることができる。
【0061】
第一電極131及び第二電極134は、機能層133の内部で生じた電子または正孔を捕集する機能を有する。したがって、第一電極131及び第二電極134の材料は、電子または正孔の捕集に適しているものを用いることがより好ましい。正孔の捕集に適している電極の材料の例としては、金、ITO等の高い仕事関数を有する材料が挙げられる。電子の捕集に適している材料の例としては、アルミニウム等の低い仕事関数を有する材料が挙げられる。
【0062】
第一電極131及び第二電極134の膜厚は特に限定されるものではないが、必要な電気伝導率、透明性等を考慮して適宜決定され得る。典型的には、これらの膜厚は、10nmから10μm程度である。
【0063】
[半導体装置の製造工程]
図4A乃至図4Cは、本実施形態の半導体装置の製造方法を示す断面模式図である。
【0064】
まず、図4Aを参照して配線構造体106を形成する工程を説明する。まず、基板100を準備する。次に、基板100に素子分離部113及びトランジスタ101が形成される。次に、基板100の上に配線構造体106が形成される。配線構造体106は、酸化シリコン等で形成されてよい。次に、ビアプラグ111の上に、第一電極131が形成される。第一電極131が形成された後に、絶縁層112を再度形成する工程が行われてもよい。その際には、絶縁層112の上面高さと第一電極131の上面高さとが一致するように平坦化処理が行われる。平坦化処理は、エッチングまたはCMP(Chemical Mechanical Polishing)法により行われ得る。上述の各層の製造には、一般的な半導体プロセスが適用され得る。
【0065】
次に、図4Bを参照して中間層132を形成する工程を説明する。絶縁層112及び第一電極131の上に中間層132を蒸着法、スパッタ法等により成膜して、図4Bの構造が完成する。中間層132の材料が酸化チタンである場合を例として成膜条件の一例を説明する。酸化チタンは、TiOターゲットを用いたスパッタリング装置によって成膜され得る。このときの成膜条件は、例えば、RFパワーが500W、導入されるガスはアルゴンガスの流量が100sccmに酸素ガスが流量5sccm乃至15sccm混合されたガスであり、チャンバー内の圧力が0.5Paであってよい。
【0066】
次に、図4Cを参照して機能層133を形成する工程を説明する。図4Bの構造の完成後に、量子ドット等を形成することにより機能層133が形成される。以下、機能層133の形成方法の一例として、硫化鉛(PbS)の量子ドットの作成例を説明する。なお、以下に示されている具体的な作成条件は例示であり、特に限定されるものではない。
【0067】
まず、硫化鉛(PbS)の量子ドットの合成工程の一例について説明する。まず、三口フラスコに酸化鉛(PbO)を892mg、オクタデセンを40mL、オレイン酸を4mL投入し、三口フラスコをオイルバスにセットする。オイルバスの設定温度は90℃である。このとき、反応時における量子ドットの酸化を低減するために0.5L/minの流量で窒素フローを行うことにより三口フラスコ内を窒素雰囲気にする。オイルバスへの投入時において薄黄色の溶液が透明に変わるまで30分以上、溶液の撹拌を行う。
【0068】
これと並行して、窒素雰囲気のグローブボックス内に1.9mMのビストリメチルシリルスルフィドを溶解したオクタデセン溶液を20mL用意し、シリンジに準備しておく。この溶液は硫黄源である。この硫黄源の溶液を三口フラスコ内の透明になった溶液に急速添加する。添加してから1分後に三口フラスコをオイルバスから取り出し、2時間の自然放冷を行う。溶液が室温に到達したあと、次の精製工程に移る。なお、合成工程の処理後の溶液は黒色であり、オレイン酸によって表面保護された硫化鉛(PbS)の量子ドットの生成が確認できる。
【0069】
次に精製工程について説明する。合成工程で得られた量子ドットのオクタデセン分散液を三口フラスコから遠沈管に移す。これに極性溶媒であるアセトンを添加すると、量子ドットはオクタデセン溶液中での安定分散が困難な状態となる。アセトンを添加した遠沈管を遠心分離機に設置して遠心分離を行うことで量子ドットを沈殿させる。なお、このときの遠心分離の条件は、例えば、17000rpmで20分間である。
【0070】
その後、遠心分離機から遠沈管を取り出し、上澄みの透明なアセトンを廃棄して遠沈管の底部に沈殿した量子ドットに対して非極性溶媒であるトルエンを添加する。トルエンの添加後、遠沈管を振とうすることで、量子ドットをトルエンに再分散させる。このトルエン分散液にアセトンを再び添加して遠心分離機に設置し、15000rpmで5分間の条件で遠心分離を行うことで、量子ドットを再び沈殿させる。
【0071】
このアセトンによる沈殿とトルエンによる再分散とを3回繰り返すことで、量子ドット分散液を精製することができ、量子ドットのトルエン分散液が得られる。なお、量子ドットの沈殿に用いられる極性溶媒はアセトンではなくメタノール、エタノール等でもよいが、量子ドットを保護しているオレイン酸への影響、すなわち量子ドット表面からのオレイン酸の脱離が少ないものであることが好ましい。
【0072】
次に基板上に量子ドット膜を形成するための塗布に用いられる量子ドット塗布液の作成工程について説明する。上述の精製工程で得られた量子ドットのトルエン分散液にアセトンを添加して、遠心分離を行い、量子ドットを沈殿させる。その後、最終的に、量子ドットをトルエンではなくオクタンに再分散させて濃度が80mg/mLとなるようにしたものを作製して、後述の工程での量子ドット塗布液として使用する。
【0073】
次に、量子ドット膜の形成工程について説明する。まず、上述の量子ドット塗布液をスピンコート装置に設置された基板の中央に滴下してスピンコートする。このときのスピンコート条件は、例えば、2500rpmで30秒である。スピンコート後の量子ドット膜は分子長の長いオレイン酸で保護された量子ドットの集合体であるため、粒子の間隔が大きい。そのため、この量子ドットは、光が照射されたときに生成されるフォトキャリアの伝導性が乏しく、光電変換の機能が低い。ここでは、この膜をオレイン酸保護量子ドット膜と呼ぶ。
【0074】
オレイン酸保護量子ドット膜は、光電変換の機能が低いので、量子ドットに配位している分子を交換することが知られている。具体的には、オレイン酸をより分子長の短い物質に置換する。以下では、この処理を配位子交換と呼び、配位子交換に用いられる物質のことを単に配位子と呼ぶこともある。また、配位子交換に用いられる物質を含有する溶液を配位子溶液と呼ぶこともある。ここでは、有機配位子として1,3-ベンゼンジチオール(1,3-BDT)や1,4-メルカプト安息香酸(1,4-MBA)を用いる例を説明する。1,3-ベンゼンジチオールは官能基としてチオール基のみを有するのに対して1,4-MBAはチオール基とカルボキシル基を有する。配位子交換のための配位子溶液としては、3mM 1,3-BDTのアセトニトリル溶液や10mM 1,4-MBAのメタノール溶液等が用いられる。また、これらの有機配位子による配位子交換の後に無機配位子としてハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)を添加することもできる。ヨウ素であれば、例えば、10mM ヨウ化鉛のN,N-ジメチルホルムアミド溶液を用いることができる。これにより、有機配位子のみではその立体障害によりパッシベーションが困難な量子ドット表面の鉛や硫黄の欠陥サイトにハロゲンが無機配位子として配位し、パッシベーションすることができる。
【0075】
配位子交換工程は上述の配位子溶液を基板上に形成されたオレイン酸保護量子ドット膜の上に塗布することにより行われる。具体的には、配位子溶液をオレイン酸保護量子ドット膜の上の全面に塗布し、所定の時間、配位子交換反応を行う。1,3-BDT及び1,4-MBAのいずれの配位子交換反応においても反応時間は30秒でよい。しかしながら、この反応時間は配位子溶液の濃度等を考慮して適宜変更してもよい。所定の反応時間の経過後、基板を200rpmで60秒間の条件で回転させることにより、余剰な配位子溶液を基板上から除去する。その後、量子ドットに残留する過剰な配位子を除去するため、配位子の溶解に使用される溶媒であるアセトニトリルまたはメタノールを用いて基板をリンスする。その後、オクタンを用いて基板をリンスすることで、量子ドットから離脱したオレイン酸を除去する。
【0076】
この配位子交換後の量子ドット膜の上に、再びオレイン酸保護量子ドット膜を形成し、配位子交換を行い、リンスする工程を繰り返して量子ドット膜を複数回形成することで量子ドット膜が複数層積層されてよい。このようにして、所望の膜厚の1,3-BDT量子ドット膜または1,4-MBA量子ドット膜を機能層133として形成することができる。この際、機能層133の内部の各層で配位子交換処理に用いる配位子を変えることで配位子の異なる量子ドット膜を積層できる。例えば機能層133A及び機能層133Bを1,3-BDT量子ドット膜として、機能層133Cを1,4-MBA量子ドット膜のように配位子の異なる量子ドット膜を積層できる。本発明の一実施形態はこの機能層の内部層構成の選択により残像や光電流変動を低減できる。
【0077】
その後、第二電極134を形成する。上述のように、機能層133と第二電極134の間に電子ブロック層を形成してもよく、電子ブロック層が酸化モリブデンである場合には、この工程は、真空蒸着であり得る。その後、絶縁層136、カラーフィルタ層137、平坦化層138及びマイクロレンズ層139を順次形成する。これらの製造には、一般的な半導体装置の製造方法が適用できるため製造方法の詳細についての説明を省略する。以上のようにして、図1に示す半導体装置を製造することができる。
【0078】
以上の工程により、オレイン酸保護量子ドット膜のナノ粒子の表面付近の原子に結合しているオレイン酸が脱離し、所定の配位子に交換されて1,3-BDT量子ドット膜または1,4-MBA量子ドット膜が形成される。なお、配位子交換後の1,3-BDT量子ドット膜及び1,4-MBA量子ドット膜の膜厚は40nm乃至60nmである。また、これらの有機配位子での配位子交換後に上述と同様の配位子交換手順により無機配位子としてハロゲンを添加することもできる。ハロゲン添加の具体例としては、ヨウ化鉛溶液を用いたヨウ素添加が挙げられる。このヨウ素添加における反応時間は3分でよい。反応時間は条件によって適宜変更されてよい。あるいは、有機配位子での交換なしに無機配位子のみで配位子交換することも可能である。
【0079】
[半導体装置を用いた表示装置]
本発明の一実施形態に係る発光装置は、表示装置に用いられてよい。表示装置は、本発明に係る機能層を有する発光素子を有し、当該発光素子は、トランジスタ等の能動素子に接続され、発光期間、発光輝度を制御される。
【0080】
図5は、本実施形態に係る表示装置の例である。図5Aは、本実施形態に係る表示装置を備えた撮像装置の一例を表す模式図である。撮像装置300は、ビューファインダ301、背面ディスプレイ302、操作部303、筐体304を有してよい。ビューファインダ301は、本実施形態に係る表示装置を有してよい。その場合、表示装置は、撮像する画像のみならず、環境情報、撮像指示等を表示してよい。環境情報には、外光の強度、外光の向き、被写体の動く速度、被写体が遮蔽物に遮蔽される可能性等であってよい。また、本実施形態に係る表示装置は、背面ディスプレイ302に用いられてもよい。
【0081】
撮像装置300は、不図示の光学部を有する。光学部は複数のレンズを有し、筐体304内に収容されている撮像素子に結像する。複数のレンズは、その相対位置を調整することで、焦点を調整することができる。この操作を自動で行うこともできる。撮像装置は光電変換装置と呼ばれてもよい。光電変換装置は逐次撮像するのではなく、前画像からの差分を検出する方法、常に記録されている画像から切り出す方法等を撮像の方法として含むことができる。
【0082】
図5Bは、本実施形態に係る表示装置を備えた電子機器の一例を表す模式図である。電子機器307は、表示部305と、操作部308と、筐体306を有する。筐体306には、回路、当該回路を有するプリント基板、バッテリー、通信部、を有してよい。操作部308は、ボタンであってもよいし、タッチパネル方式の反応部であってもよい。反応部は超音波等を発生受信し、指紋等の生体認証を判別してよい。操作部は、指紋を認識してロックの解除等を行う、生体認識部であってもよい。通信部を有する電子機器は通信機器ということもできる。電子機器は、レンズと、撮像素子とを備えることでカメラ機能をさらに有してよい。カメラ機能により撮像された画像が表示部に映される。電子機器としては、スマートフォン、ノートパソコン等があげられる。
【0083】
図5Cは、本実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。図5Cは、テレビモニタやPCモニタ等の表示装置である。表示装置309は、額縁310を有し表示部312を有する。表示部312には、本実施形態に係る発光装置が用いられてよい。
【0084】
額縁312と、表示部310を支える土台311を有している。土台311は、図5Cの形態に限られない。額縁312の下辺が土台を兼ねてもよいし、土台311が存在しない、壁掛けタイプであっても、巻取りタイプであってもよい。
【0085】
また、額縁312および表示部310は、曲がっていてもよい。その曲率半径は、5000mm以上6000mm以下であってよい。
【0086】
図5Dは本実施形態に係る表示装置の他の例を表す模式図である。図5Dの表示装置313は、折り曲げ可能に構成されており、いわゆるフォルダブルな表示装置である。表示装置313は、第一表示部317、第二表示部314、筐体315、屈曲点316を有する。第一表示部317と第二表示部314とは、本実施形態に係る発光装置を有してよい。第一表示部317と第二表示部314とは、つなぎ目のない1枚の表示装置であってよい。第一表示部317と第二表示部314とは、屈曲点で分けることができる。第一表示部317、第二表示部314は、それぞれ異なる画像を表示してもよいし、第一および第二表示部とで一つの画像を表示してもよい。
【0087】
[半導体装置を用いた撮像システム]
本発明の一実施形態に係る撮像システム及び移動体について、図6(A)及び図6(B)を用いて説明する。
【0088】
図6(A)及び図6(B)は、本実施形態による撮像システム及び移動体の構成を示す図である。図6(A)は、車載カメラに関する撮像システム400の一例を示したものである。撮像システム400は、撮像装置410を有する。撮像装置410は、他の実施形態に係る撮像装置であってよい。撮像システム400は、撮像装置410により取得された複数の画像データに対し、画像処理を行う処理装置である画像処理部412と、撮像装置410により取得された複数の画像データから視差(視差画像の位相差)の算出を行う処理装置である視差取得部414を有する。また、撮像システム400は、算出された視差に基づいて対象物までの距離を算出する処理装置である距離取得部416と、算出された距離に基づいて衝突可能性があるか否かを判定する処理装置である衝突判定部418と、を有する。ここで、視差取得部414や距離取得部416は、対象物までの距離情報等の情報を取得する情報取得手段の一例である。すなわち、距離情報とは、視差、デフォーカス量、対象物までの距離等に関する情報である。衝突判定部418はこれらの距離情報のいずれかを用いて、衝突可能性を判定してもよい。上述した各種の処理装置は、専用に設計されたハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアモジュールに基づいて演算を行う汎用のハードウェアによって実現されてもよい。また、処理装置は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって実現されてもよいし、これらの組合せによって実現されてもよい。
【0089】
撮像システム400は、車両情報取得装置420と接続されており、車速、ヨーレート、舵角などの車両情報を取得することができる。また、撮像システム400は、衝突判定部418での判定結果に基づいて、車両に対して制動力を発生させる制御信号を出力する制御装置である制御ECU430が接続されている。すなわち、制御ECU430は、距離情報に基づいて移動体を制御する移動体制御手段の一例である。また、撮像システム400は、衝突判定部418での判定結果に基づいて、ドライバーへ警報を発する警報装置440とも接続されている。例えば、衝突判定部418の判定結果として衝突可能性が高い場合、制御ECU430はブレーキをかける、アクセルを戻す、エンジン出力を低減するなどして衝突を回避、被害を軽減する車両制御を行う。警報装置440は音等の警報を鳴らす、カーナビゲーションシステムなどの画面に警報情報を表示する、シートベルトやステアリングに振動を与えるなどしてユーザに警告を行う。
【0090】
本実施形態では、車両の周囲、例えば前方または後方を撮像システム400で撮像する。図6(B)に、車両前方(撮像範囲450)を撮像する場合の撮像システム400を示した。車両情報取得装置420は、撮像システム400を動作させ撮像を実行させるように指示を送る。他の実施形態に係る撮像装置を撮像装置410として用いることにより、本実施形態の撮像システム400は、測距の精度をより向上させることができる。
【0091】
以上の説明では、他の車両と衝突しないように制御する例を述べたが、他の車両に追従して自動運転する制御、車線からはみ出さないように自動運転する制御等にも適用可能である。更に、撮像システムは、自動車等の車両に限らず、例えば、船舶、航空機あるいは産業用ロボットなどの移動体(輸送機器)に適用することができる。移動体(輸送機器)における移動装置はエンジン、モーター、車輪、プロペラなどの各種の移動手段である。加えて、移動体に限らず、高度道路交通システム(ITS)等、広く物体認識を利用する機器に適用することができる。
【0092】
本発明の一実施形態に係る光電変換装置は、撮像装置、撮像システムに用いられてよい。以下では撮像システムについて、図7を用いて説明する。
【0093】
図7は、本発明の一実施形態に係る撮像システムの概略構成を示すブロック図である。
【0094】
他の実施形態に係る光電変換装置は、種々の撮像システムに適用可能である。適用可能な撮像システムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、デジタルスチルカメラ、デジタルカムコーダ、監視カメラ、複写機、ファックス、携帯電話、車載カメラ、観測衛星、医療用カメラなどの各種の機器が挙げられる。また、レンズなどの光学系と光電変換装置とを備えるカメラモジュールも、撮像システムに含まれる。図7にはこれらのうちの一例として、デジタルスチルカメラのブロック図を例示している。
【0095】
撮像システム500は、光電変換装置200、撮像光学系502、CPU510、レンズ制御部512、撮像装置制御部514、画像処理部516、絞りシャッタ制御部518、表示部520、操作スイッチ522、記録媒体524を備える。
【0096】
撮像光学系502は、被写体の光学像を形成するための光学系であり、レンズ群、絞り504等を含む。絞り504は、その開口径を調節することで撮影時の光量調節を行なう機能を備えるほか、静止画撮影時には露光秒時調節用シャッタとしての機能も備える。レンズ群及び絞り504は、光軸方向に沿って進退可能に保持されており、これらの連動した動作によって変倍機能(ズーム機能)や焦点調節機能を実現する。撮像光学系502は、撮像システムに一体化されていてもよいし、撮像システムへの装着が可能な撮像レンズでもよい。
【0097】
撮像光学系502の像空間には、その撮像面が位置するように光電変換装置200が配置されている。光電変換装置200は、他の実施形態で説明した光電変換装置であり、CMOSセンサ(画素部)とその周辺回路(周辺回路領域)とを含んで構成される。光電変換装置200は、複数の光電変換部を有する画素が2次元配置され、これらの画素に対してカラーフィルタが配置されることで、2次元単板カラーセンサを構成している。光電変換装置100は、撮像光学系502により結像された被写体像を光電変換し、画像信号や焦点検出信号として出力する。
【0098】
レンズ制御部512は、撮像光学系502のレンズ群の進退駆動を制御して変倍操作や焦点調節を行うためのものであり、その機能を実現するように構成された回路や処理装置により構成されている。絞りシャッタ制御部518は、絞り504の開口径を変化して(絞り値を可変として)撮影光量を調節するためのものであり、その機能を実現するように構成された回路や処理装置により構成される。
【0099】
CPU510は、カメラ本体の種々の制御を司るカメラ内の制御装置であり、演算部、ROM、RAM、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、通信インターフェイス回路等を含む。CPU510は、ROM等に記憶されたコンピュータプログラムに従ってカメラ内の各部の動作を制御し、撮像光学系502の焦点状態の検出(焦点検出)を含むAF、撮像、画像処理、記録等の一連の撮影動作を実行する。CPU510は、信号処理部でもある。
【0100】
撮像装置制御部514は、光電変換装置200の動作を制御するとともに、光電変換装置200から出力された信号をA/D変換してCPU510に送信するためのものであり、それら機能を実現するように構成された回路や制御装置により構成される。A/D変換機能は、光電変換装置100が備えていてもかまわない。画像処理部516は、A/D変換された信号に対してγ変換やカラー補間等の画像処理を行って画像信号を生成するためのものであり、その機能を実現するように構成された回路や制御装置により構成される。表示部520は、液晶表示装置(LCD)等の表示装置であり、カメラの撮影モードに関する情報、撮影前のプレビュー画像、撮影後の確認用画像、焦点検出時の合焦状態等を表示する。操作スイッチ522は、電源スイッチ、レリーズ(撮影トリガ)スイッチ、ズーム操作スイッチ、撮影モード選択スイッチ等で構成される。記録媒体524は、撮影済み画像等を記録するためのものであり、撮像システムに内蔵されたものでもよいし、メモリカード等の着脱可能なものでもよい。
【0101】
このようにして、他の実施形態に係る光電変換装置200を適用した撮像システム500を構成することにより、高性能の撮像システムを実現することができる。
【0102】
光電変換装置は、表面照射型であってもよいし、裏面照射型であってもよい。光電変換装置は、複数の光電変換部が設けられた第1半導体チップと、周辺回路が設けられた第2半導体チップとを積層した構造(チップ積層構造)を有していてもよい。第2半導体チップにおける周辺回路は、ぞれぞれ、第1半導体チップの画素列に対応した列回路とすることができる。また、第2半導体チップにおける周辺回路は、それぞれ、第1半導体チップの画素あるいは画素ブロックに対応したマトリックス回路とすることもできる。第1半導体チップと第2半導体チップとの接続は、貫通電極(TSV)、銅等の導電体の直接接合によるチップ間配線、チップ間のマイクロバンプによる接続、ワイヤボンディングによる接続などを採用することができる。
【0103】
以上述べた実施形態は本発明の一具体例を述べたものにすぎず、本発明の範囲は上記実施形態の構成に限られるものではない。
【実施例
【0104】
以下、本発明の実施例について説明する。実施例は、種々の配位子の異なる積層構成の素子の特性を評価することで残像及び光電流変動の低減効果を示すためのものである。
【0105】
[残像及び光電流変動の評価について]
残像とは、電荷が1回の走査で完全転送できずに次の走査時にも残存する現象である。入射光強度が急変した際に追随できず、実際の動画撮影時には、尾を引いたような画となるため、残像はできる限り低減すべきである。光電流変動とは、入射光強度を一定に保持した際にも光電流が変動する現象である。実際の画像撮影時には、同一光強度であるにも関わらず明度の異なる画となるため、光電流変動はできる限り低減すべきである。残像及び光電流変動は、画像センサの第一電極131と第二電極134に挟まれた光電変換素子に対する光照射有りの明時と光照射無しの暗時の電流過渡応答を測定することにより評価可能である。
【0106】
図8は、本発明の一実施形態に係る光電変換素子において、発生電子の残留、電流変動の測定例を示したグラフである。図8Aでは、機能層133Cに相当する層に、MBAを配位子として用いた例である。図8Bは、機能層133Cに相当する層にMBAではない配位子を用いた例である。
【0107】
測定値の評価は以下のようにして行うことができる。光照射の無い状態で、暗電流が安定するまで一定時間通電したときの初期暗電流の値をAとする。次に光照射を行い、一定時間経過した後の光電流の値をBとする。その後、光を消灯し、1分経過後の暗電流の値をC、光照射直後の値をDとする。なお、過渡応答測定時の印加電圧は、4.8Vである。
【0108】
本明細書においては以下の式1により残像を数値化する。
式1:残像(%)=|(C-A)|/|(B-A)|
【0109】
本明細書においては以下の式2により光電流変動を数値化する。
式2:光電流変動(%)=(D/B)
【0110】
図8において「⇔」で示されている電流値差分が、観測される残像に相当する。残像には、図6(A)で示されるような、光照射終了後の暗電流が、初期暗電流より増えている「白浮き」と、図6(B)で示されるような、光照射終了後の暗電流が、初期暗電流より減っている「黒沈み」の2種類がある。
【0111】
以下に示す電極材料や配位子材料、素子内の各層の膜厚、層構成は一例であり、本発明はここで開示された実施例に限定されない。第一電極131は窒化チタン(膜厚60nm)、中間層132は密着層及び正孔ブロック層として酸化チタン(膜厚50nm)である。機能層133として使用した量子ドットはPbS量子ドットである。平均粒径3.0nm程度であり、バンドギャップエネルギーは約1.34eVである。またハロゲン添加は、ヨウ化鉛溶液を用いて行った。第二電極134は透明電極としてITO電極(膜厚40nm)を使用した。なお、素子の作成手順は上述の通りである。作製した素子を用い、上述のようにして過渡応答を測定した。測定条件は、電圧印加開始から光を消灯した状態で5分間通電した後に、4分間光照射を行い、再び消灯して1分間、とした。印加電圧は4.8Vに設定した。電圧印加及び電流測定には、半導体パラメータアナライザー(4156B、Agilent社製)を用いた。光照射には、面発光白色LED(TH-100X100SW、シーシーエス株式会社製)を用いた。
【0112】
表1に実施例及び比較例をまとめた。実施例1乃至5、比較例1乃至5は、機能層の配位子を表1に記載の通り、作製されたこと以外は、同じ条件で作製した。表1中の表記について説明する。配位子処理の異なる種々の膜厚で各機能層を構成している。EQE(500nm)は可視光領域の代表として入射光波長500nmにおける外部量子効率(%)である。EQE(940nm)は近赤外光領域の代表として入射光波長940nmにおける外部量子効率(%)である。暗電子数(60℃)は個/sec・μmを単位とする暗電子数である。これらの数値は別途印加電圧2Vでの評価としている。残像(%)及び光電流変動(%)は上述の式の通りの定義である。暗電子数、残像、光電流変動については下記の評価基準に基づいて分類した。ここでは、A>B>Cの順で優れた評価とした。
【0113】
(暗電子数)
A:5000個/sec・μm未満
B:5000個/sec・μm以上、10000個/sec・μm未満
C:10000個/sec・μm以上
(残像)
A:0.01%未満
B:0.01%以上、0.1%未満
C:0.1%以上
(光電流変動率)
A:5%未満
B:5%以上、10%未満
C:10%以上
【0114】
【表1】
【0115】
表1中の機能層133A、機能層133B、機能層133Cには配位子処理の異なる種々の膜厚で機能層を構成している。表1中の配位子名は1,3-BDTが1,3-ベンゼンチオール、1,4-MBAが1,4-メルカプト安息香酸、1,3-MBAが1,3-メルカプト安息香酸、1,2-MBAが1,2-メルカプト安息香酸、MPAが3-メルカプトプロピオン酸、PbIがヨウ化鉛をそれぞれ表す。それぞれの有機材料の構造式を下記に示す。比較例1で説明すると量子ドット膜1層あたり約50nmの厚みであり、これを4層積層することで合計200nm厚の機能層133としている。機能層133Aと機能層133Cで「なし」と記載のある部分は、機能層133A、機能層133Cに相当する、機能層133Bとは異なる量子ドット膜がないことを表す。すなわち比較例5は、1種類の配位子を有する機能層のみで構成され、機能層133Bが、中間層または電極と接している。
【0116】
【化1】
【0117】
比較例1は1,3-BDTとPbIを配位子として使用した量子ドット膜だけを機能層133とした例である。残像、光電流変動ともに低い評価であった。
【0118】
比較例2は1,3-BDTとPbIを有する量子ドット膜を機能層133Bとし、機能層133Aとして1,4-MBAとPbIを有する量子ドット膜を積層した例である。その他の構成は比較例1と同じである。暗電子数の評価は優れていたものの、残像、光電流変動ともに低い評価であった。
【0119】
比較例3及び比較例4は特許文献1で例示される量子ドットを用いた素子構成ある。比較例3及び4における光電変換素子では、安定性の観点からアニールを行わずに作製した。
【0120】
比較例3はPbIの量子ドットのみで機能層を構成した例である。その他の構成は比較例1と同じである。PbIには、有機配位子を設けずに作製した。残像は、やや高い評価になったが、光電流変動は低い評価であった。
【0121】
比較例4は機能層133BとしてPbIを用い、機能層133CとしてMPAを有する量子ドット膜を積層した例である。暗電子数の評価は低いが、EQE(500nm)が66%、EQE(940nm)が43%とEQEは高い値を示した。しかしながら、残像、光電流変動は低い評価であった。
【0122】
比較例5は1,4-MBAを有する量子ドット膜だけを機能層133とした例である。その他の構成は比較例1と同じである。この素子構成も、1,4-MBA自体がベンゼン環を含む高沸点の配位子であるため、暗電子数の評価は高いが、EQE(500nm)が3%、EQE(940nm)が4%、と低い評価であった。また、残像、光電流変動は低い評価であった。
【0123】
実施例1は1,3-BDTとPbIを有する量子ドット膜を機能層133Bとし、機能層133Cとして1,4-MBAとPbIを有する量子ドット膜を積層した例である。170℃、1時間のアニール後でもEQE(500nm)が70%、EQE(940nm)が29%、暗電子数(60℃)がA判定であり、光電変換特性にも優れていた。さらに、比較例1から比較例5のいずれと比較しても、残像、光電流変動の評価が高かった。
【0124】
また、実施例1は、比較例2と比べると、1,4-MBAを配位子として有する機能層の配置の位置が異なるのみである。具体的には、実施例1においては、1,4-MBAを有する層は、機能層とカソードとの間に配置されている。一方、比較例2においては、1,4-MBAを有する層は、機能層とアノードとの間に配置されている。したがって、1,4-MBAを有する機能層Cは機能層Bとカソードとの間に配置されていることが好ましい。具体的には機能層Bは主に光電変換を行う、光電変換層であるといえる。機能層Bは機能層AまたはCに比して光電変換効率が高くてよい。
【0125】
実施例2と実施例3は、1,4-MBAに変えて、1,3-MBA、1,2-MBAをそれぞれ用いた実施例である。1,3-MBA、1,2-MBAは、チオール基、カルボキシル基のベンゼン環における置換位置が、1,4-MBAとそれぞれ異なる。
【0126】
実施例2は1,3-BDTとPbIを有する量子ドット膜を機能層133Bとし、機能層133Cとして1,3-MBAとPbIを有する量子ドット膜を積層した例である。その他の構成は実施例1と同じである。170℃、1時間のアニール後でもEQE(500nm)が42%、EQE(940nm)が14%、暗電子数(60℃)がA判定であった。また、光電流変動は評価が低いものの、残像の評価は高かった。
【0127】
実施例3は1,3-BDTとPbIを有する量子ドット膜を機能層133Bとし、機能層133Cとして1,2-MBAとPbIを有する量子ドット膜を積層した例である。その他の構成は実施例1と同じである。170℃、1時間のアニール後でもEQE(500nm)が38%、EQE(940nm)が17%、暗電子数(60℃)がA判定であった。また、光電流変動は評価が低いものの、残像の評価は高かった。
【0128】
実施例1乃至3の結果より、機能層133Cとして置換基の位置によらず芳香環にチオール基とカルボキシル基が結合したMBAを設けることで残像改善効果を得ることができた。
【0129】
一方、比較例4では機能層133Cにチオール基とカルボキシル基は有するが芳香環を有さないMPAを用いていたが残像の低減効果がなかった。したがって、残像改善にはチオール基とカルボキシル基を有する芳香族化合物が好ましい。とりわけ、1,4-MBAはこれらの配位子の中でも残像改善効果だけでなく光電流変動の低減効果もあるため、光電変換素子としての素子構成に適用するに好ましい材料である。
【0130】
さらに光電流変動を実施例1乃至3で比較した。MBAは量子ドット表面の鉛に配位するチオール基とカルボキシル基を有している。これら置換基位置は1,4-MBAはパラ位であるのに対して、1,3-MBA及び1,2-MBAはメタ、オルト位置にある。このため量子ドット間をクロスリンクできる1,4-MBAよりも1,3-MBA及び1,2-MBAは量子ドット間距離が大きくなると考えられる。量子ドット間距離が離れればキャリア輸送特性は低下する。機能層133Bとして1,3-BDTを用い、機能層133Cとして1,3-MBAまたは1,2-MBAを用いた場合、これら機能層の界面で正孔が蓄積され、機能層で生成した電子に基づく電流を阻害するので、照射中に光電流が減少していくと考えられる。よって、チオール基とカルボキシル基を官能基とする芳香環をもつ有機配位子のなかでも、置換基位置はパラ位が、より好ましい。
【0131】
次に実施例4及び実施例5は、1,3-BDTとPbIを配位子とした機能層133Bと1,4-MBAとPbIを有する機能層133Cの膜厚を変更した以外は実施例1と同様に作製した。実施例1では機能層133B(膜厚150nm)、機能層133C(膜厚50nm)の合計膜厚200nmであった。一方、実施例4及び実施例5では合計厚400nmとした。この光電変換層133は第一電極と第二電極に挟まれているため合計膜厚は電極間距離に対応する。また、中間層132や図示しない電子ブロック層などの界面層がある場合は、電極間距離からそれらの膜厚を減じたものが光電変換層133の合計膜厚となる。
【0132】
これら積層膜間の境界は断面透過型電子顕微鏡(断面TEM)やTOF-SIMSによる膜厚方法の組成分析などにより決定することができる。合計膜厚に対する機能層133Cの膜厚比を機能層133C膜厚/合計膜厚×100(%)と定義すれば、この膜厚比は第二電極から第一電極の方向に向かって機能層133Cの占める割合を示す。
【0133】
実施例4は膜厚比12.5%の例である。170℃、1時間のアニール後でもEQE(500nm)が73%、EQE(940nm)が44%、暗電子数(60℃)がA判定であった。残像、光電流変動ともに高い評価であった。実施例4の膜厚比は、膜厚比25%の実施例1と比べて12.5%と小さいが、残像及び光電流変動に対して同様の効果が確認された。さらにEQE(940nm)の改善も見られた。これは、光電変換において主に光吸収を担う機能層133Bの膜厚を厚くすることにより光吸収量が増加したことに起因する。
【0134】
実施例5は膜厚比37.5%の例である。170℃、1時間のアニール後でもEQE(500nm)が53%、EQE(940nm)が33%、暗電子数(60℃)がA判定であった。残像の評価は高かったが、光電流変動の評価は、実施例1、実施例4に比べると低い評価だった。これは、実施例4に比べて、機能層Bの膜厚が小さく、機能層Cの膜厚が大きくなっていることに起因する。
【0135】
実施例1(膜厚比25%)、実施例4(膜厚比12.5%)、実施例5(膜厚比37.5%)の結果より、機能層Bと、カソードとの間に1,4-MBAを有する機能層133Cを設けることで、残像が低減された。MBAを有する機能層の機能層全体に対する膜厚比が25%以下であることで、残像の低減に加えて、電流特性が優れているのでさらに好ましい。また、機能層133Cとして少なくとも1,4-MBA配位量子ドット膜があればよく、膜厚としては量子ドットの粒径相当の3nm、膜厚比でいえば1.5%の単粒子層膜厚が設けられればよい。つまり、カソードと光電変換効率が高い第一機能層との間に配されている第二機能層がある場合、電極間の距離に対する第二機能層の膜厚は、1.5%以上25%以下であってよい。
【0136】
以上の通り、本発明によれば、光を照射した場合に電流が安定した半導体装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0137】
100 基板
101 トランジスタ
102 ソース・ドレイン領域
103 ゲート絶縁膜
104 ゲート電極
105 ソース・ドレイン領域
106 配線構造体
107 コンタクトプラグ
108 配線層
109 ビアプラグ
110 配線層
111 ビアプラグ
112 絶縁膜
113 素子分離部
120 単位セル
130 分離領域
131 第一電極
132 中間層
133 機能層
133A 機能層(ボトムバッファ領域)
133B 機能層(吸収領域)
133C 機能層(トップバッファ領域)
134 第二電極
136 絶縁層
137 カラーフィルタ層
138 平坦化層
139 マイクロレンズ層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8