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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】振動波モータ及びそれを備える電子機器
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/04 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
H02N2/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020071690
(22)【出願日】2020-04-13
(65)【公開番号】P2021168580
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】島田 亮
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-033627(JP,A)
【文献】特開2015-106927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気-機械エネルギー変換素子と、前記電気-機械エネルギー変換素子が固定された弾性体と、を有する振動子と、
前記弾性体と加圧接触する接触体と、を有し、
前記振動子に励起された振動により、前記振動子と前記接触体とを相対的に移動させる振動波モータであって、
前記弾性体は、
前記電気-機械エネルギー変換素子が固定された平板部と、
前記平板部から突出した突起部と、を備え、
前記突起部は、
前記接触体と加圧接触する接触面を有する接触部と、前記加圧接触する方向である加圧方向に突出し中空構造を形成する側壁部と、前記接触部と前記側壁部とを連結し、前記加圧方向に可撓性を有する連結部と、を備え、
前記側壁部の、前記加圧方向と直交する方向の厚みをt1、前記電気-機械エネルギー変換素子が固定された前記平板部の第1の面と対向する前記平板部の第2の面から、前記連結部までの、前記加圧方向の距離をh1とし、前記平板部の、前記加圧方向の厚みをt2、前記第1の面から前記接触面までの前記加圧方向の距離をh2としたときに、以下の関係式を満たすことを特徴とする振動波モータ。
0.5<h1/t1≦1.2
h2/t2≦3.0
【請求項2】
以下の関係式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の振動波モータ。
0.4≦t1/t2≦0.8
【請求項3】
以下の関係式を満たすことを特徴とする請求項に記載の振動波モータ。
0.03mm≦t1≦0.7mm
0.05mm≦t2≦1.0mm
【請求項4】
前記振動子に励起された振動は、前記電気-機械エネルギー変換素子に対する、互いに位相の異なる複数の交流電圧の印加により励起した複数の定在波の合成により前記振動子に発生した楕円運動であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の振動波モータ。
【請求項5】
前記突起部が、プレス加工により形成されていることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の振動波モータ。
【請求項6】
前記平板部の、前記突起部を囲繞し且つ前記突起部と隣接する第1の領域における、前記加圧方向の厚みをt21、前記平板部の、前記第1の領域を囲繞し且つ前記第1の領域と隣接する第2の領域における、前記加圧方向の厚みをt22、前記弾性体の、前記突起部を形成する前の体積をv1、前記弾性体の、前記突起部を形成した後の体積をv2としたときに、以下の関係式を満たすことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の振動波モータ。
t21/t22=1
v1=v2
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の振動波モータと、
前記振動波モータにより駆動されるレンズと、を備えることを特徴とする光学機器
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の振動波モータと、
前記振動波モータにより駆動される撮像素子と、を備えることを特徴とする撮像装置。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の振動波モータと、
前記振動波モータにより駆動される被駆動部材と、を備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動波モータ及びそれを備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
振動発生源として電気-機械エネルギー変換素子を用いた振動波モータには、特許文献1に記載されたものがある。特許文献1には、平板状の弾性体の表面に2つの突起部が設けられると共に、弾性体の裏面に圧電素子が固定された振動子と、突起部と加圧接触する接触体と、を有する振動波モータが記載されている。
【0003】
この振動波モータでは、電気-機械エネルギー変換素子に所定の交流電圧を印加する。そして、これにより、2つの曲げ振動(定在波)が励起され、2つの突起部を結ぶ方向と突起部の突出方向とを含む面内で、(接触体と加圧接触する接触面を含む)突起部の先端に楕円運動または円運動が発生する。そして、突起部と加圧接触する接触体が2つの突起部から摩擦駆動力(推力)を受けることで、2つの突起部を結ぶ方向に、振動子と接触体とを相対的に移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5930595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この振動波モータでは、曲げ振動の中立面(曲げ振動により引張も圧縮も生じない面)からの距離に比例して、2つの突起部を結ぶ方向(振動子と接触体とを相対的に移動させる方向)における振幅が拡大される。言い換えると、突起部の高さに比例して、振動子と接触体とを相対的に移動させる方向における突起部の先端の振幅が拡大される。したがって、突起部の高さに比例して、振動子と接触体とを相対的に移動させる速度が速くなる。
【0006】
しかし、突起部の高さが高くなるにつれて、接触体が振動体から受ける推力が小さくなるので、より重い接触体を駆動する用途では、推力を増加するために、印加電圧を増加させる必要があった。そして、それにより、印加電圧の増加に伴う、消費電力の増加や回路コストの増加などの課題が発生していた。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、印加電圧の増加を抑制しつつ、推力を増加可能な振動波モータ及びそれを備える電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、電気-機械エネルギー変換素子と、前記電気-機械エネルギー変換素子が固定された弾性体と、を有する振動子と、前記弾性体と加圧接触する接触体と、を有し、前記振動子に励起された振動により、前記振動子と前記接触体とを相対的に移動させる振動波モータであって、前記弾性体は、前記電気-機械エネルギー変換素子が固定された平板部と、前記平板部から突出した突起部と、を備え、前記突起部は、前記接触体と加圧接触する接触面を有する接触部と、前記加圧接触する方向である加圧方向に突出し中空構造を形成する側壁部と、前記接触部と前記側壁部とを連結し、前記加圧方向に可撓性を有する連結部と、を備え、前記側壁部の、前記加圧方向と直交する方向の厚みをt1、前記電気-機械エネルギー変換素子が固定された前記平板部の第1の面と対向する前記平板部の第2の面から、前記連結部までの、前記加圧方向の距離をh1とし、前記平板部の、前記加圧方向の厚みをt2、前記第1の面から前記接触面までの前記加圧方向の距離をh2としたときに、以下の関係式を満たすことを特徴とする振動波モータ。
0.5<h1/t1≦1.2
h2/t2≦3.0
【発明の効果】
【0009】
印加電圧の増加を抑制しつつ、推力を増加可能な振動波モータ及びそれを備える電子機器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例1における振動波モータの分解斜視図である。
図2】本発明の実施例1における振動波モータの組立斜視図である。
図3】本発明の実施例1における振動モードを説明する斜視図である。
図4】本発明の実施例1における振動子の(a)上面図、(b)断面図、(c)拡大断面図である。
図5】(a)突起部3aの高さh2とモードBの力係数の関係、(b)に突起部3aの高さh2とモードAの力係数の関係、(c)側壁部3cのアスペクト比(=h1/t1)と、モードAの力係数の関係を表すグラフである。
図6】突起部3aの高さh2とΔf2の関係を表すグラフである。
図7】本発明の実施例2における振動子の(a)上面図、(b)断面図、(c)拡大断面図である。
図8】本発明の実施例3における振動子の(a)上面図、(b)断面図、(c)拡大断面図である。
図9】本発明の実施例4における振動子の(a)上面図、(b)断面図、(c)拡大断面図である。
図10】本発明の実施例5における振動子の上面図である。
図11】本発明の実施例6における振動波モータを用いた撮像装置(電子機器)の概略構成を示す上面図とブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施例1]
本実施例は、リニア型の振動波モータに本発明を適用した例であり、その詳細を図1図5を用いて説明する。まず、図1は本発明の実施例1における振動波モータ1の分解斜視図であり。図2は組立斜視図である。ここで、接触体であるスライダ9の駆動方向(後述する振動子2と、スライダ9と、を相対的に移動させる方向)を「X方向」(又は単に「X」)とする。また、スライダ9が振動体9と加圧接触する方向(加圧方向)を「Z方向」(又は単に「Y」)とする。また、X方向及びZ方向と直交する方向を「Y方向」(又は単に「Y」)と定義する。
【0012】
弾性体3には、電気-機械エネルギー変換素子である圧電素子4が接着剤等で固定され、さらに、弾性体3との反対面の圧電素子4には、フレキシブルプリント基板5が固定され、これらで振動子2を構成している。フレキシブルプリント基板5は、Z方向のみへの通電を可能にする異方性導電ペーストや異方性導電フィルムで圧電素子3に固定される。弾性体3には、圧電素子4と反対側に突出した、2か所の突起部3aが形成されている。
【0013】
圧電素子4はチタン酸ジルコン酸鉛を用いる。または、チタン酸バリウムや、チタン酸ビスマスナトリウムなどの鉛を含有しない圧電材料を主成分としたものでもよい。圧電素子4の両面には不図示の電極パターンが形成されており、フレキシブルプリント基板5からの給電が行われる。
【0014】
振動子2の下方には、振動子2を加圧及び支持する加圧部材6が設けられている。加圧部材は、加圧バネ7によりZ方向に加圧力が付与され、その反力を加圧受け部材である基台8で受けている。加圧ばね7は、振動波モータ1をZ方向に小型化するために、円錐コイルばねを採用している。なお、コイル形状は簡略化して図示している。
【0015】
振動子2の上方にはスライダ9が設けられ、弾性体3と加圧接触している。スライダ9はスライダホルダ10に固定され、一体となってX方向に駆動される。なお、スライダ9とスライダホルダ10の間に振動減衰のためのゴムを設けてもよい。スライダ9は耐摩耗性の高い金属やセラミック、樹脂、またはその複合材で構成される。特にSUS420J2などのステンレスを窒化した材料が耐摩耗性や量産性の観点から好ましい。
【0016】
スライダホルダ10及びボールレール12に設けられた上下3対のレールで3つのボール11を挟み込み、ボールレール12を基台8に固定することで、スライダ9とスライダホルダ10がその他の部品に対してX方向に移動できるようにしている。スライダホルダ10に所望の形状の出力伝達部を取り付けることにより、外部に出力を伝達する。本実施例では振動子2を固定し、スライダ9が移動する例を示しているが、逆にスライダ9を固定し、振動子2を移動させることも可能である。
【0017】
次に、図3を用いて振動子2に励起される振動モードについて説明する。本実施例では圧電素子3に、フレキシブルプリント基板5を通じて、位相の異なる2つの交流電圧を印加して、振動子2に2つの異なる面外曲げ振動を励振し、これらの振動を合成した振動を生じさせる。
【0018】
第1の振動モードであるモードAは、振動子2の長手方向であるX方向に平行に2つの節が現れる一次の面外曲げ振動モードである。突起部3aはモードAのZ方向の振動振幅が最大になる位置、つまり腹位置に配置されているため、モードAの振動により、2か所の突起部3aが加圧方向であるZ方向に変位する。第2の振動モードであるモードBは、振動子2の短手方向であるY方向におおよそ平行な3つの節が現れる二次の面外曲げ振動モードである。突起部3aはモードBのZ方向の振動振幅が最小の位置、つまり節位置に配置されているため、モードBの振動により、2か所の突起部3aがX方向に変位する。
【0019】
これらのモードA,Bの振動を合成することにより、2か所の突起部3aがZX面内で楕円運動あるいは円運動を発生させる。この2か所の突起部3aにスライダ9を加圧接触させることにより、X方向に摩擦力が発生し、振動子2とスライダ9とを相対的に移動させる駆動力(推力)が発生する。本実施例では、振動子2が後述の手法で保持されているため、スライダ9がX方向に駆動される。
【0020】
振動波モータ1を効率よく駆動するためには、振動子2に励振させる2つの振動モードの振動(変位)を阻害することなく振動子2を加圧することが必要となり、このためには、これら2つの振動モードの節近傍を支持することが望ましい。このような理由から、加圧部材6に2つの凸部6aを設け、2つの振動モードの共通の節を加圧・保持することで、より効率的に振動子2を加圧している。
【0021】
さらに凸部6aは振動子2をX方向及びY方向に保持する役割も担っている。本実施例では振動子2の中でもフレキシブルプリント基板5と凸部6aが接触しているが、この最大静止摩擦力が、スライダ9に発生する推力よりも常に大きい値になるように加圧力と摩擦係数を調整している。つまり振動波モータ1の駆動中に、振動子2が加圧部材6に対して移動することはない。
【0022】
一方、加圧部材6には4つの遊嵌部6bが設けられており、振動子2の外周面に対して、がたを有した状態で支持(遊嵌)している。この遊嵌部6bは振動子2の組立時の位置決めや、スライダ9に何らかの外力が働いた場合にストッパーとしての機能を果たす。
【0023】
また、遊嵌部6bは、振動子2の外周面の振動の節とは異なる2か所で接触している可能性がある。しかし、上述したように、フレキシブルプリント基板5と凸部6aの最大摩擦力が、スライダ9に発生する推力より大きくなる。そのため、遊嵌部6bと振動子2との接触部には、X方向及びY方向の力が働かない。そのため、ここでの損失は無視できる程度であり、駆動上の問題は生じない。
【0024】
このように、加圧部材6の凸部6aと振動子2の節近傍、遊嵌部6bと振動子2との外周面とが直接接触するので、加圧部材6の材料については、異音の発生を防ぐため振動絶縁性が高い樹脂であることが望ましい。凸部6aに関しては上述した理由で振動子2の保持力を高めるために摩擦係数が高いほうが好ましいが、一方で遊嵌部6bは振動子2との摩擦損失をより低減するために、摩擦係数が小さいほうが好ましい。このような理由から、凸部6aに摩擦係数を高めるコーティングを、逆に遊嵌部6bに対しては摩擦係数を下げるコーティングを別々に施すことも可能である。また、それぞれに適した摩擦係数の別部品を接着や圧入で構成することも可能である。
【0025】
次に、弾性体3についての説明を、図4を用いて行う。図4(a)は、弾性体3の上面図である。図4(b)は、図4(a)におけるA-A断面の断面図(A-A断面図)である。図4(c)は、図4(b)におけるC部分の拡大図である。弾性体3は金属やセラミックスなど振動の減衰が小さい材料が好ましい。特に好ましいのがマルテンサイト系ステンレスで、振動の減衰が特に小さく、また加工後に焼入れすることにより硬度を高め、耐摩耗性を上げることができるので都合がよい。焼入れ方法については、通常の焼入れで弾性体3の全体に焼入れしてもよいし、レーザー焼入れにより突起3aの先端のみに焼入れすることも可能である。このように部分的に焼入れすることで弾性体3の変形を小さくし、圧電素子4との接着状態を良好にすることが可能である。ここでいう良好な状態とは、接着剤層が薄く均一な状態である。
【0026】
上述のように、弾性体3には2つの突起部3aが設けられており、さらに突起部3aは、中空構造を形成する、円筒状の側壁部3c、スライダ9と加圧接触する接触面を有する接触部3b、接触部3bと側壁部3cとを連結する連結部3dから構成される。連結部3dの上面は接触面3bより低くなるよう段差が設けられており、スライダが連結部511と接触しないようになっている。また連結部3dは、接触部3bに比べて薄くなっており、Z方向(加圧方向)の剛性を下げて、加圧方向にバネ性(可撓性)を持たせている。このバネ性により振動子2とスライダ9はなめらかな接触となり、異音の発生を防止できる。
【0027】
弾性体3の製造に関しては、プレス加工や切削などで突起部3aを一体で設けてもよいし、突起部3aを別に製造して、後から溶接や接着などで固定することも可能である。また突起部3aは本実施例のように複数設けてもよいし、1つでもよい。その中で絞り加工により板金から加工する方法がコストと形状の安定性の観点から最も望ましい。ここで突起部3aの各寸法を次のように定義する。側壁部3cの厚みt1は、側壁部3cの、Z方向(加圧方向)と直交する方向の厚み、又は、側壁部3cの内径と外径の差分、と定義する。側壁部3cの高さh1は、圧電素子4が固定された平板部3fの第1の面S1と対向する平板部3fの第2の面S2から、連結部3dまでの、Z方向(加圧方向)の距離と定義する。平板部3fの厚みt2は、平板部3fの加圧方向の厚みと定義する。突起部3aの高さh2を、圧電素子4が固定された平板部3fの第1の面S1と対向する平板部3fの第2の面S2から、連結部3dまでの、Z方向(加圧方向)の距離と定義する。
【0028】
図5(a)に突起部3aの高さh2とモードBの力係数との関係を、3種類の側壁部3cの厚みt1(0.09、0,18、0.30mm)別に表すグラフを示す。ここで力係数とは、単位印加電圧あたりに発生する力であり、単位はN/Vである。つまり同じ印加電圧の場合、力係数が高いほど、振動子2が発生できる推力が大きくなる。力係数は、圧電素子に流れる電流から容量成分に流れる電流を減じた値Amを、接触体に作用する点の振動速度Va(本実施例では接触部3b先端の振動速度)で除することにより算出可能である。つまり、力係数をAとすると、A=Am/Vaとなる。力係数はそれぞれ振動モードごとに算出可能である。
【0029】
図5から、突起部3aの高さh2が小さいほどモードBの力係数が大きくなることが分かる。これは前述のとおり突起部3aがモードBの振動の節位置に配置されていることにより、モードBの曲げの中立面からの距離が小さいほどテコの原理が働き、大きな力を発生することが可能となるためである。
【0030】
次に、図5(b)に突起部3aの高さh2とモードAの力係数との関係を、3種類の側壁部3cの厚みt1(0.09、0,18、0.30mm)別に表すグラフを示す。モードBとは異なり、モードAでは力係数に極大値が表れており、さらに側壁部3cの厚みt1ごとに力係数の極大値が表れる突起部3aの高さh2が異なっていることが分かる。この原因について、側壁部3cの高さh1を側壁部3cの厚みt1で除した値である側壁部3cのアスペクト比(h1/t1)と、モードAとの力係数の関係を示した図5(c)を用いて考察する。なお、負の値のアスペクト比は、連結部3dの底面が、弾性体3圧電素子4との接着面と対向する面よりも、圧電素子4側にあることを意味している。このグラフからどの側壁部3cの厚みt1でも、側壁部3cのアスペクト比が1付近で力係数が極大となっていることが分かった。この原因について段階を追って説明していく。まずモードBとは異なり、モードAでは突起部3aが振動の腹に位置しているため、テコの原理では力係数は変動しない。しかしこの要素以外にも、力係数は曲げ剛性に比例して大きくなることが既に分かっている。ここではアスペクト比(h1/t1)が1より大きいと、突起が高いため、突起自体の剛性が低下し、結果として弾性体3全体の剛性も低下する。逆にアスペクト比が1より小さいと接触部3b及び連結部3dの厚みが弾性体3の厚みよりも小さいことの効果の寄与が大きくなり、これもまた突起自体の剛性とともに弾性体3全体の剛性も低下する原因となる。
【0031】
以上のように、筆者は弾性体3の側壁部3cの形状について着目し、そのアスペクト比(h1/t1)を1近傍とすることにより力係数を高められることを発見し、振動子2の推力をより大きくすることに成功した。モードAの力係数を大きくする観点から、アスペクト比(h1/t1)は、0より大きく、2.0以下(0<h1/t1≦2.0)が好ましい。この範囲に設定することで、突起部3aの周囲に凹部を形成することなく突起部3aを形成することが可能となる。従来は特許文献1のように、突起部の周辺につぶし加工により薄肉部を形成し、その体積分を突起側部に流すことにより突起高さを高くしている。このつぶし加工により、圧電素子との接着面にショックラインが形成される。このまま接着すると接着層厚みが不均一かつ厚い箇所ができ、駆動効率が低下する。これを避けるため、接着面をフラットにするラップ加工が必須となっている。それに対して上記の範囲アスペクト比(h1/t1)を設定することで突起部3aが必然的に低くなるため、つぶし加工による薄肉部形成が不要となる。これにより、つぶし加工自体が不要となる他、接着面の平面度が良好となるため、ラップ工程が削減可能となる。
【0032】
さらに、安定して製造可能な範囲で、モードBの力係数も大きくする観点から、アスペクト比(h1/t1)は、0.5以上、1.2以下(0.5≦h1/t1≦1.2)がより好ましい。これは、モードBの力係数を上げるという意味では、側壁部3cの高さh1を側壁部3cの厚みt1に対して小さくすることが好ましいものの、h1/t1<0.5にすると、絞り加工時に体積が余り、接触部が所望のバネ定数とならないためである。また、1.2<h1/t1にすると、絞り加工時に割れが生じ易くなるためである。
【0033】
モードBの力係数を大きくする観点から、突起高さh2と平板部3fの厚みt2の比率(h2/t2)は、3.0以下(h2/t2≦3.0)が好ましい。これは、上述のように、突起部3a周辺に凹部を形成しないために必要なためである。
【0034】
次に、平板部3fの厚みt2について述べる。t2が大きいと共振周波数が高くなり、それに対応する駆動回路のコストが上がってしまう。反対にt2が小さいと曲げの中立面が圧電素子4に入り、駆動効率を低下させることになる。よって、t2は、0.05mm以上、1.0mm以下(0.05mm≦t2≦1.0mm)が好ましい。
【0035】
次に、側壁部3cの厚みt1について述べる。t1は、絞り加工で形成することを想定した場合、t2よりも小さくすることで突起部3aの高さを出しているが、t1がt2よりも小さくなり過ぎると前述したように割れが生じ易くなる。よって、t1は、0.03mm以上、0.7mm以下(0.03mm≦t1≦0.7mm)が好ましい。
【0036】
また、側壁部3cの厚みt1と平板部3fの厚みt2の比率(t1/t2)は、小さすぎると割れが生じ易くなり、大きすぎると突起部3aを形成するための体積が不足する。そのため、t1/t2は、0.4以上、0.8以下(0.4≦t1/t2≦0.8)が好ましい。
【0037】
モードA及びモードBの力係数を増加させている反動で、振動振幅が低下する。しかし、前述のように加圧部材6で駆動効率を損なうことなく支持しているので、特許文献1のような従来構造(アスペクト比が3.4)と同等の振動振幅、言い換えると接触体の移動速度を達成することが可能である。
【0038】
以上のように、本実施例によれば、主たる第1の効果として、従来と同等の印加電圧でありながら、大きな推力を発生可能な振動波モータを提供することが可能となる。
【0039】
これに加えて、副次的な第2の効果として、振動波モータ1の小型化がある。アスペクト比が1に近いと、必然的に突起高さ3aが小さくなり、振動子2の厚みを小さくすることが可能となる。
【0040】
第3の効果は、既に述べたように、突起部3aの周囲に凹部を形成しないため、ラップ工程が削減可能となる。
【0041】
第4の効果は、不要振動の低減である。図3に示すモードCはモードA及びモードBよりも高い共振周波数を有する不要なモードである。このモードCが駆動周波数に近いと、駆動周波数とモードCの共振周波数に一致する異音や、電力の増加が発生する。このため、モードAの共振周波数とモードCの共振周波数の差分Δf2を大きくする設計が必要となる。圧電素子4の厚みや振動板3の形状変更等、数々の手法が提案されているが、本実施例によれば図6に示すように、突起部3aの高さh2を小さくすることでΔf2を大きくすることが可能となる。これは突起高さ変化による剛性変化を論じたが、モードCにおいては突起部3a近傍のひずみが大きいため、モードCの共振周波数のみ特異的に増加しているためと考えられる。
【0042】
なお、本発明のリニア型の振動波モータにおいて、接触面に楕円運動または円運動を生成する方法は上記方法に限られない。例えば、上記とは異なる曲げ振動モードの振動同士を組み合わせてもよいし、弾性体を長手方向に伸縮させる縦の振動モードの振動と曲げ振動モードの振動とを組み合わせてもよい。また、本発明はリニア型の振動波モータだけに限られるものではなく、例えば振動子2をリング型の接触体に対して円周状に配置することで、回転型の振動波モータにすることも可能である。
【0043】
[実施例2]
図7は、本実施例における弾性体の図である。図7(a)は、弾性体3の上面図である。図7(b)は、図7(a)におけるA-A断面の断面図(A-A断面図)である。図7(c)は、図7(b)におけるC部分の拡大図である。実施例1とは突起部3aの構造のみ異なり、その他部品は同じため、説明は省略する。
【0044】
図7(c)に示す通り、接触部3bのスライダ9との接触面が、実施例1とは異なり、フラットな形状となっている。フラット形状の場合、スライダ9と安定して全面接触させるために、プレス加工後にラップ処理などで平面度を高める必要がある。しかし、初期状態から面圧が一定のため耐摩耗性の観点では曲面形状よりも優れている。
【0045】
[実施例3]
図8は、本実施例における弾性体の図である。図8(a)は、弾性体3の上面図である。図8(b)は、図8(a)におけるA-A断面の断面図(A-A断面図)である。図8(c)は、図8(b)におけるC部分の拡大図である。実施例1とは突起部3aの構造のみ異なり、その他部品は同じため、説明は省略する。
【0046】
図8(c)に示す通り、接触部3bの底面と、連結部3dの底面とが同一面となっている。このような構造とすることで、接触部3bにおいて、摩耗可能な体積を増すことが可能であり、振動波モータ1の寿命向上に寄与する。
【0047】
[実施例4]
図9は、本実施例における弾性体の図である。図9(a)は、弾性体3の上面図である。図9(b)は、図9(a)におけるA-A断面の断面図(A-A断面図)である。図9(c)は、図9(b)におけるC部分の拡大図である。実施例1とは突起部3aの構造のみ異なり、その他部品は同じため、説明は省略する。
【0048】
図9(c)に示す通り、連結部3dの底面がX方向と非平行となっている。この場合、側壁部3cの高さh1は、圧電素子4が固定された平板部3fの第1の面S1と対向する平板部3fの第2の面S2から、連結部3dの底面の延長線(図9(c)の破線)と側壁部3cの内径の延長線の交点までの、Z方向の距離と定義する。仮に、連結部3dの底面が曲面である場合、加工上生じる角Rを除いた場合の曲面の延長線と、振動板3の圧電素子4との接着面と対向する面までの距離がh1となる。
【0049】
[実施例5]
なお、本発明の振動波モータにおいて、被駆動部材は、第2レンズ群320,第4レンズ群340のようなレンズに限られない。例えば、撮像素子710のような撮像素子が被駆動部材として駆動されてもよい。
【0050】
なお、図10は実施例1~4における弾性体3の上面図である。
【0051】
図11に示す通り、平板部3fの、突起部3aを囲繞し且つ突起部3aと隣接する第1の領域3gとし、平板部3fの、第1の領域3gを囲繞し且つ第1の領域3gと隣接する第2の領域3hとする。また、第1の領域3gにおける、Z方向(加圧方向)の厚みをt21とする。また、第2の領域3hにおける、Z方向(加圧方向)の厚みをt22とする。また、弾性体3の、突起部3aを形成する前の体積をv1とする。また、弾性体3の、突起部3aを形成した後の体積をv2とする。このときに、実施例1~4においては、以下の関係式を満たすのが好ましい。
【0052】
t21/t22=1
v1=v2
【0053】
[実施例6]
振動波モータは、例えば、撮像装置(光学機器、電子機器)のレンズ駆動用途等に用いることができる。そこで、一例として、レンズ鏡筒に配置されたレンズの駆動に振動波モータを用いた撮像装置について説明する。
【0054】
図11(a)は、撮像装置700の概略構成を示す上面図である。撮像装置700は、撮像素子710及び電源ボタン720を搭載したカメラ本体730を備える。また、撮像装置700は、第1レンズ群(不図示)、第2レンズ群320、第3レンズ群(不図示)、第4レンズ群340、振動型駆動装置620,640(振動波モータ)を有するレンズ鏡筒740を備える。レンズ鏡筒740は、交換レンズとして取り換え可能であり、撮影対象に合わせて適したレンズ鏡筒740をカメラ本体730に取り付けることができる。撮像装置700では、2つの振動型駆動装置620,640によりそれぞれ、第2レンズ群320(被駆動部材),第4レンズ群340(被駆動部材)の駆動が行われる。
【0055】
振動型駆動装置620の詳細な構成は不図示であるが、振動型駆動装置620は、振動波モータと、振動波モータの駆動回路を有する。ロータ211は、ラジアル方向が光軸と略直交するように、レンズ鏡筒740内に配置される。振動型駆動装置620では、ロータ211を光軸回りに回転させ、不図示のギア等を介して接触体の回転出力を光軸方向での直進運動に変換することにより、第2レンズ群320を光軸方向に移動させる。振動型駆動装置640は、振動型駆動装置620と同様の構成を有することにより、第4レンズ群340を光軸方向に移動させる。
【0056】
図11(b)は、撮像装置700の概略構成を示すブロック図である。第1レンズ群310、第2レンズ群320、第3レンズ群330、第4レンズ群340及び光量調節ユニット350が、レンズ鏡筒740内部の光軸上の所定位置に配置される。第1レンズ群310~第4レンズ群340と光量調節ユニット350とを通過した光は、撮像素子710に結像する。撮像素子710は、光学像を電気信号に変換して出力し、その出力は、カメラ処理回路750へ送られる。
【0057】
カメラ処理回路750は、撮像素子710からの出力信号に対して増幅やガンマ補正等を施す。カメラ処理回路750は、AEゲート755を介してCPU790に接続されると共に、AFゲート760とAF信号処理回路765とを介してCPU790に接続されている。カメラ処理回路750において所定の処理が施された映像信号は、AEゲート755と、AFゲート760及びAF信号処理回路765を通じてCPU790へ送られる。なお、AF信号処理回路765は、映像信号の高周波成分を抽出して、オートフォーカス(AF)のための評価値信号を生成し、生成した評価値をCPU790へ供給する。
【0058】
CPU790は、撮像装置700の全体的な動作を制御する制御回路であり、取得した映像信号から、露出決定やピント合わせのための制御信号を生成する。CPU790は、決定した露出と適切なフォーカス状態が得られるように、振動型駆動装置620,640及びメータ630の駆動を制御することにより、第2レンズ群320、第4レンズ群340及び光量調節ユニット350の光軸方向位置を調整する。CPU790による制御下において、振動型駆動装置620は第2レンズ群320を光軸方向に移動させ、振動型駆動装置640は第4レンズ群340を光軸方向に移動させ、光量調節ユニット350はメータ630により駆動制御される。
【0059】
振動型駆動装置620により駆動される第2レンズ群320の光軸方向位置は第1リニアエンコーダ770により検出され、検出結果がCPU790に通知されることで、振動型駆動装置620の駆動にフィードバックされる。同様に、振動型駆動装置640により駆動される第4レンズ群340の光軸方向位置は第2リニアエンコーダ775により検出され、検出結果がCPU790に通知されることで、振動型駆動装置640の駆動にフィードバックされる。光量調節ユニット350の光軸方向位置は、絞りエンコーダ780により検出され、検出結果がCPU790へ通知されることで、メータ630の駆動にフィードバックされる。
【符号の説明】
【0060】
1 振動波モータ
2 振動子
3 弾性体
3a 突起部
3b 接触部
3c 側壁部
3d 連結部
3f 平板部
4 圧電素子(電気-機械エネルギー変換素子)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11