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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240729BHJP
   H05B 3/00 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G03G15/20 505
H05B3/00 310C
H05B3/00 335
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020112789
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022011570
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥隅 亮
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-127809(JP,A)
【文献】特開2020-086234(JP,A)
【文献】特開2018-072512(JP,A)
【文献】特開2002-049259(JP,A)
【文献】特開2012-252063(JP,A)
【文献】特開2006-195003(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0082492(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する筒状のフィルムと、
金属で形成された板状の基板と、前記基板上に絶縁材料で形成された絶縁層と、前記絶縁層の上に設けられ且つ通電により発熱する発熱抵抗体と、前記発熱抵抗体を覆う絶縁体と、を含み、前記フィルムの内側に配置されたヒータと、
前記ヒータと前記フィルムとの間に配置されて前記フィルムの内面に摺動される摺動部材であって、導電性を有する摺動部材と、
前記フィルムを挟んで前記摺動部材と圧接され、前記摺動部材との間にニップ部を形成する加圧部材と、
有し、前記ニップ部で記録材を挟持して搬送しながら記録材上のトナー画像を加熱して記録材に定着させる定着装置であって、
前記基板は、少なくとも1つのインピーダンス素子を介して接地電位に接続されており、
前記摺動部材は、前記基板と電気的に接続されている、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つのインピーダンス素子は、抵抗器を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つのインピーダンス素子は、キャパシタを含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つのインピーダンス素子は、直列に接続された抵抗器及びキャパシタを含む、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
回転する像担持体と、
転写電圧を印加されることで、前記像担持体の表面に担持されたトナー画像を記録材に転写する転写手段と、
前記転写手段によって記録材に転写されたトナー画像を記録材に定着させる請求項1乃至のいずれか1項に記載の定着装置と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式画像形成装置等に用いられる定着装置、及びこの定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式のプリンタや複写機に搭載される熱定着方式の定着装置として、セラミックス製等の基板上に発熱抵抗体を有するヒータと、ヒータに接触しつつ移動する定着フィルムと、定着フィルムを介してヒータに対向する加圧ローラを有するものがある。未定着トナー画像を担持する記録材は、定着フィルムと加圧ローラの間のニップ部(定着ニップ部)で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上のトナー画像は記録材に加熱定着される。
【0003】
ところで、上述した熱定着方式の定着装置においては、高温高湿環境に長時間放置されることで吸湿し電気抵抗が低下した記録材を用いた場合等に、ACバンディングと呼ばれる現象が発生する可能性がある。トナー画像の転写が行われている状態で記録材が定着ニップ部に挟持されると、ヒータを発熱させるために商用電源等から供給される交流電圧が記録材を介して転写ニップ部に伝わり、転写部材に印加されている直流電圧に重畳してしまう。ACバンディングとは、転写部材と像担持体との間に流れる転写電流が記録材を介して伝播する交流電圧の波形成分によって振れてしまい、転写性にムラが生じ、結果として画像の副走査方向に濃淡ムラの画像不良が現れることを指す。特許文献1では、ヒータ表面のコーティングガラス内に導電層を形成し、この導電層を接地することで、発熱体に印加される交流電圧の転写プロセスへの影響を低減する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-253072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記技術をさらに発展させたものであり、ACバンディングの発生を抑制可能な定着装置の新たな構成を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、回転する筒状のフィルムと、金属で形成された板状の基板と、前記基板上に絶縁材料で形成された絶縁層と、前記絶縁層の上に設けられ且つ通電により発熱する発熱抵抗体と、前記発熱抵抗体を覆う絶縁体と、を含み、前記フィルムの内側に配置されたヒータと、前記ヒータと前記フィルムとの間に配置されて前記フィルムの内面に摺動される摺動部材であって、導電性を有する摺動部材と、前記フィルムを挟んで前記摺動部材と圧接され、前記摺動部材との間にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部で記録材を挟持して搬送しながら記録材上のトナー画像を加熱して記録材に定着させる定着装置であって、前記基板は、少なくとも1つのインピーダンス素子を介して接地電位に接続されており、前記摺動部材は、前記基板と電気的に接続されている、ことを特徴とする定着装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ACバンディングの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1に係る画像形成装置の概略図。
図2】参考例に係る転写-定着間の詳細を説明するための模式図。
図3】参考例に係る定着装置の一部を切断した断面図。
図4】参考例に係る画像形成装置の等価回路図。
図5】参考例に係る転写ニップ部における電圧波形を表す図。
図6】実施例1に係る定着装置の一部を短手方向に沿って切断した断面図。
図7】実施例1に係る定着装置の一部を長手方向に沿って切断した断面図。
図8】実施例1に係る画像形成装置の等価回路図。
図9】実施例2に係る定着装置の一部を短手方向に沿って切断した断面図。
図10】実施例2に係る定着装置の一部を長手方向に沿って切断した断面図。
図11】実施例2に係る画像形成装置の等価回路図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための例示的な形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0010】
図1に、実施例1に係る画像形成装置としてのレーザビームプリンタ(以下、プリンタ118とする)の構成例を示す。プリンタ118は、例えば外部の情報端末からネットワークを介して入力される画像情報に基づいて、記録材(記録媒体とも呼ばれる)に画像を形成するプリント動作(画像形成動作、通紙動作とも呼ばれる)を実行する。なお、「画像形成装置」には、単機能のプリンタ以外にも、複写機能を有する複写機や、複数の機能を併せ持つ複合機が含まれる。
【0011】
プリンタ118は、プリント動作を開始すると給送部116から給送ローラ102により記録材101を1枚ずつピックアップし、搬送ローラ103,104により搬送する。記録材101の搬送が開始されると、記録材101に接触して揺動する通紙検知フラグ120の位置を光学センサ等によって検出することで、記録材101の先端及び後端の通過が検知される。記録材101の先端を検知することにより、プリンタ118の制御部は、次に説明する各電子写真プロセスの開始タイミングを決定することが可能である。
【0012】
プロセスカートリッジ109には像担持体である感光ドラム105、帯電ローラ106、及び現像ローラ107が設けられ、カートリッジ容器内に現像剤としてのトナー108が収容されている。プリント動作の開始と共に帯電ローラ106には高電圧が印加され、感光ドラム105の表面は均一に帯電させられる。続いて、感光ドラム105上に走査光学装置110から画像情報に基づいて変調されたレーザ光111が照射され、画像形成範囲が走査露光されることで、画像情報に応じた帯電パターン(静電潜像と呼ばれる)が感光ドラム105の表面に形成される。感光ドラム105の表面の電位分布と、現像ローラ107に印加された高電圧とによって、現像ローラ107に担持されているトナーが感光ドラム105へと転移し、静電潜像が現像されてトナー画像として可視化される。
【0013】
感光ドラム105の表面上に形成されたトナー画像は、転写手段としての転写ローラ112に高電圧が印加されることで、記録材101に転写される。トナー画像が転写された記録材1は、加熱装置113及び加圧部材114を含む定着装置125により画像の定着処理を受ける。定着装置125を通過した記録材101は、排出ローラ115により装置外に排出されることで画像形成が完了する。複数枚の記録材101に対して連続的に画像形成する場合、通紙検知フラグ120によって記録材101の後端を検知することにより、次の記録材101の搬送開始タイミングを決定することが可能である。また、プリンタ118にはファン117が備え付けられている。ファン117は加熱装置113の発熱によるプロセスカートリッジ109内のトナー108の固着の防止、電源装置など電装部品の発熱抑制のために備え付けられている。
【0014】
なお、記録材101としては、普通紙及び厚紙等の紙、プラスチックフィルム、布、コート紙のような表面処理が施されたシート、封筒やインデックス紙等の特殊形状のシート等、サイズ及び材質の異なる多様なシート材を使用可能である。また、ここでは感光ドラム105から記録材101にトナー像を直接転写する方式を挙げたが、感光体に形成したトナー像を中間転写ベルト等の中間転写体を介して記録材に転写する方式の画像形成装置に対して以下で説明する技術を適用してもよい。
【0015】
以下、図2図5を用いて、参考例の画像形成装置の詳細及びACバンディングの発生原理について説明する。なお、参考例の定着装置と実施例1に係る定着装置とは、大部分の構成が共通である。
【0016】
(参考例における転写―定着間の詳細)
まず、図2の模式図を用いて、画像形成過程における転写工程から定着工程までの詳細を説明する。前述したように、感光ドラム105上に形成されたトナー画像は転写ローラ112に印加された高電圧により、記録材101に転写される。転写ローラ112は感光ドラム105に対して押圧されており、記録材101と転写ローラ112の間に転写ニップNtを形成している。また、転写ローラ112には転写用電源205により直流の高電圧が印加されている。転写ローラ112に印加される高電圧(転写電圧とも呼ばれる)は、現像剤であるトナーの正規帯電極性とは逆極性の直流電圧である。
【0017】
記録材101上に転写されたトナー画像は、図2の右方向に搬送され定着装置125に到達する。定着装置125の加熱装置113は、ヒータ202、摺動板203及びフィルム204と、これらを保持する保持部材306(図3参照)とによって構成されている。定着装置125の加圧部材114は、加熱装置113に対して押圧されており、記録材101と加圧部材114の間に定着ニップNfを形成する。
【0018】
ヒータ202には、商用電源201及び制御回路206が接続されている。ヒータ202は、商用電源201から供給される交流電圧に駆動されて発熱する。CPU207は、加熱装置113内に設けられた温度検知素子の温度結果に基づいて制御回路206を動作させ、ヒータ202への通電/遮断を制御することで加熱装置113を所定温度に保つように温度制御を行う。温度検知素子は、例えばヒータ202と保持部材306との間に配置されたサーミスタである。
【0019】
フィルム204は可撓性及び耐熱性を有する材料を筒状に形成したものであり、例えばポリイミドを主材とし、導電性カーボンからなる高熱伝導フィラーを添加することで熱伝導率を向上させるとともに導電性を付与したものを用いることができる。フィルム204としては、他に絶縁性の樹脂材料で形成したものや薄膜状に形成した金属を用いることもできる。
【0020】
図中に示すように、プリント動作の実行中に、記録材101は転写ニップNtと定着ニップNfの両方に挟持された状態となる。この状態では、記録材101のインピーダンスを介して、転写用電源205と定着ニップNfは電気的に接続された状態と等価になる。
【0021】
(参考例に係る定着装置の断面構成)
次に、参考例における定着装置の断面構成について、図3を用いて説明する。以下の説明において、部材の形状や部材間の位置関係等に関して、X,Y,Zの軸方向は図1に示すものと共通である。即ち、定着ニップNfの長手方向(定着ニップNfにおける記録材の搬送方向に垂直な方向、画像形成時の主走査方向)を「X軸方向」とする。また、X軸方向に垂直な平面において互いに垂直な方向を、Y軸方向及びZ軸方向とする。
【0022】
図3は、X軸方向に垂直な仮想平面(YZ平面)で切断した参考例に係る定着装置125の断面(短手断面)をX軸方向から見た図である。ヒータ202は、X軸方向に細長い薄板状の基板302上に、通電により発熱する発熱抵抗体301と、発熱抵抗体301に電圧を印加するための導電体(不図示)とがX軸方向に形成されたものを用いている。基板302には、アルミナ等のセラミック材料を用いたものやステンレス等の金属材料を用いたものがある。以下、基板302の主面に沿った方向であって長手方向(X軸方向)に垂直な方向を、ヒータ202の短手方向とする。
【0023】
基板302を厚さ方向に見たときに発熱抵抗体301が形成される領域には、基板302の表面にコーティングガラス303がコーティングされ、コーティングガラス303の上に発熱抵抗体301が形成されている。コーティングガラス303は、基板302と商用電源電圧が印加される発熱抵抗体301とを絶縁する絶縁層として機能する。また、発熱抵抗体301の上にさらにコーティングガラス304がコーティングされている。コーティングガラス304は、発熱抵抗体301と導電性の摺動板203とを絶縁する絶縁体であって、発熱抵抗体301を保護する保護層としても機能する。なお、コーティングガラス303,304は、ガラス以外の絶縁材料を用いて形成してもよい。
【0024】
保持部材306は、ヒータ202及び摺動板203を保持すると共に、フィルム204の内側においてフィルム204を回転可能に保持している。本実施例の摺動部材である摺動板203は、保持部材306によって保持されてフィルム204の内面に接触した状態で、ヒータ202とフィルム204の間に配置されている。そのため、フィルム204は、内面(内周面)において摺動板203に摺動しながら回転することが可能である。
【0025】
摺動板203は、ヒータ202のX軸方向(長手方向)の均熱化(温度分布の均一化)やフィルム204との摺動耐久性向上のために配置され、例えば金属材料で形成される。耐熱性のフィルム204は、弾性層を有する加圧部材114によって、摺動板203の露呈面に加圧密着されながら摺動する。加圧部材114は、例えば金属製の円柱状の芯金の外周部にシリコンゴム等の耐熱性及び弾性を有する弾性層を形成したローラ部材を用いることができる。
【0026】
このような加圧構成により、フィルム204を介して摺動板203と加圧部材114とが圧接され、摺動板203と加圧部材114との間に定着ニップNfが形成されている。定着ニップNfに未定着のトナー画像が形成された記録材101が搬入されると、記録材101上のトナー画像には発熱抵抗体301の熱が摺動板203及びフィルム204を介して記録材101に付与される。これによりトナーが溶融し、その後トナーが冷えて固まることで、記録材101の表面に定着した定着画像が得られる。
【0027】
ここで、図3に仮想のコンデンサ(破線)として示すように、発熱抵抗体301と基板302、発熱抵抗体301と摺動板203はそれぞれ容量結合される。Cg1はコーティングガラス304を介して発熱抵抗体301と摺動板203との間に形成される容量成分を表す。Cg2はコーティングガラス303を介して発熱抵抗体301と基板302との間に形成される容量成分を表す。
【0028】
(参考例の等価回路)
図4は、参考例において、転写ニップNtと定着ニップNfに記録材101が挟持された状態の画像形成装置と電気的に等価な等価回路図を示す。転写ニップNtには、転写用電源205で生成された直流電圧が転写ローラ112のインピーダンス401を介して伝わることで、転写ニップ電圧VNtが印加されている。
【0029】
定着ニップNfには、発熱抵抗体301に印加される商用電源201の交流電圧が、コーティングガラス304による容量Cg1を介して摺動板203に伝わり、摺動板203から定着ニップ電圧VNfとして印加されることとなる。このとき、記録材101のインピーダンスにより、転写ニップ電圧VNtは定着ニップ電圧VNfの影響を受ける。高湿環境においては、記録材101は吸湿し、インピーダンスが低下する。インピーダンスが低下した状態において、転写ニップNtと定着ニップNfの両方に記録材101が挟持されると、定着ニップ電圧VNfが転写ニップ電圧VNtに重畳される。
【0030】
図5は、転写ニップNtにおける電圧値の測定結果を表す図である。図5の期間T1は、記録材Pの先端が転写ニップNtに突入してから記録材Pの先端が定着ニップNfに突入するまでの期間である。期間T2は、記録材Pの先端が定着ニップNfに突入した後、記録材Pの後端が転写ニップNtを抜ける前の期間である。上述したように、振動する定着ニップ電圧VNfが転写ニップ電圧VNtに重畳すると、期間T2で、転写ニップNtから感光ドラム105に流れる電流(転写電流)が商用電源周波数で周期的に振動してしまう。このような転写電流の振幅が許容範囲を超えて大きくなると、転写されたトナー画像には商用電源201の電源周波数周期に相当する間隔で濃度ムラが現れる。このような商用電源201の電源周波数周期に相当する間隔で画像の濃度ムラが生じる現象をACバンディングと呼ぶ。
【0031】
(実施例1に係る定着装置の断面構成)
ACバンディングに対処するため、本実施例では図6及び図7に示すように、摺動板605を少なくとも1つのインピーダンス素子を介して接地した構成を採用する。「インピーダンス素子」とは、例えば、抵抗器、キャパシタ(コンデンサ)、インダクタ、あるいはそれらの組み合わせで構成されたものを総称する。本実施例では、インピーダンス素子として抵抗器を使用する。以下、参考例と共通の符号を付した要素は参考例と同様の構成及び作用を有する者とし、参考例と異なる部分を主に説明する。
【0032】
図6に示すように、本実施例のヒータ202は、X軸方向に細長い薄板状の基板602上に、通電により発熱する発熱抵抗体301と、発熱抵抗体301に電圧を印加するための導電体(不図示)とがX軸方向に形成されたものを用いている。基板602には、アルミナ等のセラミック材料を用いたものやステンレス等の金属材料を用いたものがあるが、本実施例では金属材料を用いたものを例に説明する。
【0033】
本実施例では、参考例と異なり、摺動板605と基板602とを接触させて、電気的に導通した状態としている。基板602は、摺動板605との接触部を設けるため、コーティングガラス303の範囲よりも広くしている。言い換えると、絶縁層の形成範囲を基板602の表面の一部に制限している。本実施例の摺動板605は、基板602と接続するため、X軸方向に見た断面(短手断面)においてコ字状(角ばったC字状)としている。つまり、摺動板605は、フィルム204の内面と接する面605a(定着ニップNfにおける記録材の搬送方向に延びる面)の両端部から、定着ニップNfから離れる方向に延出部605b,605cが延びた形状である。そして、延出部605b,605cと、コーティングガラス303の範囲外で露出している基板602とが接触することで、摺動板605と基板602とが導通している。基板602は金属材料で形成されているため、基板602と摺動板605は電気的に同電位となる。
【0034】
なお、上述の摺動板605と基板602の接続構成は一例であり、例えば基板602に設けた突起部が平板状の摺動板605に当接するようにしてもよい。基板602と接触する上記延出部605b,605cは、X軸方向における摺動板605の全域に亘って設けてもよく、X軸方向の一部にのみ設けてもよい。また、摺動板605と基板602を電気的に接続できる手段は短手断面において摺動板605と基板602とを接触させる構成に限らない。
【0035】
図7は、本実施例の定着装置125の一部をX軸方向に沿った仮想平面(XZ平面)で切断した断面(長手断面)をY軸方向に見た図であり、基板602の接地構成を示している。基板602のX軸方向(長手方向)の端面602aには、導体701が当接している。基板602の端面602aは、発熱抵抗体301やコーティングガラス303、304の焼成後にカットされるため、ステンレス等にみられる表面の絶縁被膜が薄い。そのため、導体701との電気的接続を確保しやすい。導体701は、バネ性を持つ形状(例えば板状やコイル状)の金属部材が望ましい。
【0036】
導体701は、抵抗体606の一端と接続されている。抵抗体606の他端は、プリンタ118の本体フレームに固定される定着装置125の金属フレーム等の、接地された導体702と接続される。導体701,702と抵抗体606の接続方法は、例えば導体701,702に切り欠きを設けて抵抗体606の端子を挟持させたり、ビス等で固定して導通させると良い。これらの構成により、基板602は、抵抗体606を介して接地電位と電気的に接続される。
【0037】
(実施例1の等価回路)
図8に、図6及び図7に示す実施例1の構成を採用した場合の等価回路図を示す。図5に示した参考例の場合と異なり、摺動板605と基板602は接続されて電気的に同電位になっている。そして、摺動板605から基板602及び抵抗体606を介して電流を流入出されることが可能である。そのため、発熱抵抗体301からコーティングガラス304の容量成分であるCg1を介して発熱抵抗体301に印加される交流電圧は、定着ニップNfに影響を与えにくくなっている。
【0038】
抵抗体606は、記録材101が吸湿した際の抵抗値より低いものを用いると好適である。例えば、吸湿した記録材101のインピーダンスが100MΩ程度であれば、数MΩ~数十MΩにすればよい。これによって、記録材101のインピーダンスが吸湿の影響を受けて下がったとしても、転写ニップ電圧VNtに重畳される影響を少なくすることができ、ACバンディングの発生を抑制することが可能である。
【0039】
ところで、摺動板605に抵抗体606を直接接続して接地させようとすると、何かしらの接続部を設ける必要がある。そうした場合、接続用の形状などを設ける必要があるが、摺動板605はヒータ202からの熱を記録材101へ伝熱する役割を持つため、部品が大きくなると、熱容量が増えることによる伝熱効率の悪化や、熱分布のバランス(均一性)が崩れてしまう虞がある。また、摺動板605はヒータ202とフィルム204の間に配置されている都合上、摺動板605に接続部を設けることは難しい場合がある。一方で、基板602は保持部材306に保持されており、非コーティングガラス側の面(定着ニップNfに対向する面とは異なる面)から基板602に接触することは比較的容易である。そこで、本実施例では、摺動板605を金属製の基板602を介して抵抗体606に接続することで上記の配置上の懸念を解消している。
【0040】
なお、ACバンディングに対する他の対処方法として、特許文献1のように、ヒータのガラスコーティング内に導電層を形成して、この導電層を接地させるというものがある。しかし、ガラスコーティング内に導電層を形成するために製造工程が増え、ヒータの部品単価が上昇してしまう。また、導電層との接触部をヒータ上に形成するため、長手方向における発熱量のムラや基板面積の増大が懸念される。これに対し、本実施例では導電性の摺動板605を接地させることでこれらの懸念を解消している。
【0041】
(変形例)
上記の実施例1では、基板602のX軸方向(長手方向)の端面602aに導体701を接触させて抵抗体606と接続としているが、基板602の他の側面(例えば、定着ニップNfに対向する面とは反対側の面)に導体701を接触させてもよい。また、基板602上のコーティングガラス303,304に開口部を設けておいて、摺動板605に設けた突起が開口部を介して基板602に接するようにしてもよい。
【0042】
また、実施例1では配置上の理由も考慮して摺動板605を金属製の基板602を介して抵抗体606に接続しているが、接続部を設けても熱容量の増大が許容範囲に収まる場合等には、摺動板605を基板602を介さずに接地電位に接続してもよい。その場合、基板602をセラミック等の絶縁性材料を形成してもよい。また、基板602を介して抵抗体606に接続する場合でも、例えば基板602の本体を絶縁性材料で形成し、本体表面に金属薄膜等の導電層を形成してもよい。
【実施例2】
【0043】
実施例2として、接地構成の詳細が実施例1と異なる実施形態を、図9図11を用いて説明する。以下、実施例1と共通の参照符号を付した要素は、実施例1と実質的に同様の構成及び作用を有するものとし、実施例1と異なる部分を中心に説明する。
【0044】
(実施例2に係る定着装置の断面構成)
図9は、本実施例に係る定着装置125の断面図を示す。定着装置125の加熱装置113は、ヒータ808、摺動板805及び均熱部材807及びフィルム204と、これらを保持する保持部材806と、を有している。ヒータ808は、X軸方向に細長い薄板状の基板802上に、通電により発熱する発熱抵抗体801と、発熱抵抗体801に電圧を印加するための導電体(不図示)とがX軸方向に形成されたものを用いている。本実施例では、基板802にアルミナ等のセラミック材料を用いたものを例に説明する。
【0045】
基板802を厚さ方向に見たときに発熱抵抗体801が形成される領域には、基板802の表面にコーティングガラス804がコーティングされている。コーティングガラス804は、商用電源電圧が印加される発熱抵抗体801と導電性の摺動板203とを絶縁する絶縁層、かつ、発熱抵抗体801を保護する保護層として機能する。
【0046】
均熱部材807は、定着ニップNfの長手方向における温度分布を均一化する機能を有する。均熱部材807は、アルミニウム等の高熱伝導性材料を用いた板状部材であり、ヒータ808と保持部材806の間に配置される。均熱部材807は、非通紙領域(X軸方向に関して、プリント動作時に記録材が通過する領域である通紙領域よりも外側の領域)の昇温や、検知温度のムラの改善等を目的に配置される高熱伝導性の導電材料である。均熱部材807は、例えば、X軸方向に関して発熱抵抗体801と略同じ範囲又はそれを含む範囲に亘ってX軸方向に延びたものを用いることができる。
【0047】
ここで、図9に仮想のコンデンサ(破線)として示すように、発熱抵抗体801と摺動板805、発熱抵抗体801と均熱部材807はそれぞれ容量結合される。Cg3はコーティングガラス804を介して発熱抵抗体801と摺動板805との間に形成される容量成分を表す。Ccは基板802を介して発熱抵抗体801と均熱部材807との間に形成される容量成分を表す。
【0048】
本実施例では、基板802の短手方向に関して、均熱部材807の幅が基板802の幅より広く構成されており、摺動板805は短手方向における基板802の両側を介して均熱部材807と接触している。言い換えると、摺動板805は、均熱部材807と接続するため、X軸方向に見た断面(短手断面)においてコ字状(角ばったC字状)としている。つまり、摺動板805は、フィルム204の内面と接する面805a(定着ニップNfにおける記録材の搬送方向に延びる面)の両端部から、定着ニップNfから離れる方向に延出部805b,805cが延びた形状である。そして、延出部805b,805cが均熱部材807に接することで、摺動板805と均熱部材807とが導通している。均熱部材807は導電材料で形成されているため、均熱部材807と摺動板805は電気的に同電位となる。
【0049】
図10は、本実施例の定着装置125の一部をX軸方向に沿った仮想平面(XZ平面)で切断した断面(長手断面)をY軸方向に見た図であり、均熱部材807の接地構成を示している。均熱部材807の基板802との接触面(定着ニップNf側の面)とは反対側の面807aは、保持部材806に保持されている導体1001と接触している。導体1001は、バネ性を持つような形状の金属部材が望ましい。導体1001は、一方の端部で均熱部材807と接しており、他方の端部は保持部材806の外部に露出している。上記の構成により、保持部材806の内部で摺動板805を接地するための導通経路を確保することが可能であり、小型にすることが可能である。
【0050】
本実施例では、インピーダンス素子として、容量性インピーダンス1003(キャパシタ)を使用する。導体1001は、容量性インピーダンス1003の一端と接続されている。容量性インピーダンス1003の他端は、プリンタ118の本体フレームに固定される定着装置125のフレーム等の、接地された導体1002と接続される。導体1001,1002と容量性インピーダンス1003の接続方法は、例えば導体1001,1002に切り欠きを設けて容量性インピーダンス1003の端子を挟持させたり、ビス等で固定して導通させると良い。これらの構成により、均熱部材807は容量性インピーダンス1003を介して接地電位と電気的に接続される。
【0051】
(実施例2の等価回路)
図11に、図9及び図10に示す実施例2の構成を採用した場合の等価回路図を示す。図5に示した参考例の場合と異なり、摺動板805と均熱部材807は接続されて電気的に同電位になっている。そして、摺動板805から均熱部材807及び容量性インピーダンス1003介して電流を流入出させることが可能である。そのため、発熱抵抗体801からコーティングガラス804の容量成分であるCg3を介して発熱抵抗体801に印加される交流電圧は、定着ニップNfに影響を与えにくくなっている。
【0052】
容量性インピーダンス1003は、商用電源周波数におけるインピーダンスを、記録材101が吸湿した際の抵抗値より低くする。例えば、商用電源周波数が50Hz、記録材101のインピーダンスが100MΩだとすると、容量性インピーダンス1003は、数百pF程度あれば良い。また、容量性インピーダンスの場合、周波数特性を持つため、転写用電源205の直流電圧に対しては高インピーダンス、商用電源201に対しては低インピーダンスとなるように、各電源に対する影響を選択することが可能である。
【0053】
なお、実施例1のような抵抗体と容量性インピーダンスとを直列接続した回路を介して均熱部材807を接地してもよい。これによって、記録材101のインピーダンスが吸湿の影響を受けて下がったとしても、転写ニップ電圧VNtに重畳される影響を少なくすることができ、画像ムラの発生をさらに抑制することが可能である。
【0054】
(変形例)
実施例1で説明した金属製のヒータ基板や実施例2で説明した均熱部材807に限らず、摺動部材を定着装置が有する他の導電部材を介して接地させてもよい。例えば、実施例1,2における保持部材306,806を補強する補強部材として、定着装置の枠体に固定された金属製のステーを有する場合、摺動部材をこのステーと接続して、ステーをインピーダンス素子を介して接地させてもよい。
【0055】
また、実施例1、2では摺動部材の例として板状の摺動板を例示したが、より薄く柔軟性を有するシート状の部材(例えば、鉄合金又はアルミのシート材)であってもよい。また、実施例1、2ではヒータを商用電源に接続する簡易な構成を採用しているが、ヒータが商用電源とは異なる交流電源から給電されて発熱する構成でも本技術の構成は適用可能である。
【0056】
(その他の実施形態)
以上、例示的な実施形態により本開示に係る技術を説明したが、ここに挙げた実施形態は例示に過ぎない。即ち、実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、配置並びに装置の動作態様等は、本技術が適用される条件により適宜変更されるべきものであり、特許請求の範囲に記載された内容は実施形態に限定して解釈すべきものではない。
【符号の説明】
【0057】
114:加圧部材/125:定着装置/202,808:ヒータ/203,605,805:摺動部材(摺動板)/204:フィルム/301:発熱抵抗体/302,802:基板/304,804:絶縁体/606:インピーダンス素子、抵抗器/807:導電部材、均熱部材/1003:インピーダンス素子、キャパシタ
図1
図2
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図4
図5
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図9
図10
図11