(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】貯留装置および液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
B41J2/175 113
(21)【出願番号】P 2020116901
(22)【出願日】2020-07-07
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】矢部 和宣
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-175275(JP,A)
【文献】特開2012-179894(JP,A)
【文献】特開2013-158995(JP,A)
【文献】特表2001-510752(JP,A)
【文献】特開2013-202848(JP,A)
【文献】特開2014-058087(JP,A)
【文献】特開2017-071095(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0036825(US,A1)
【文献】中国実用新案第211138625(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体または粉体を収容する収容室を有する容器と、前記容器に接合されて前記収容室の開口部を覆う可撓性のフィルムと、前記フィルムが接合された前記容器がネジによって固定されるタンクホルダと、を有し、
前記ネジは、前記フィルムを貫通して前記容器を前記タンクホルダに固定し、
前記フィルムと前記容器との接合部の一部が、前記フィルムの前記ネジが貫通する部分を囲んで
おり、
前記ネジは、前記フィルムと、前記容器に設けられ前記タンクホルダに向かって窪んだ凹部の内部に設けられている穴とを通って、前記タンクホルダに設けられ前記容器に接合された前記フィルムに向かって突出する円筒部の先端に設けられているネジ穴にねじ込まれていることを特徴とする、貯留装置。
【請求項2】
前記フィルムの前記ネジが貫通する部分を囲んでいる前記接合部の平面形状は、直線状の部分と曲線状の部分の一方または両方を含み、前記直線状の部分または前記曲線状の部分は直角または鈍角の角度で接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の貯留装置。
【請求項3】
前記フィルムの前記ネジが貫通する部分を囲んでいる前記接合部の平面形状は、円形または楕円形である、請求項1に記載の貯留装置。
【請求項4】
前記フィルムの前記ネジが貫通する部分を囲んでいる前記接合部は、鋭角的な部分を含まない平面形状を有している、請求項1から3のいずれか1項に記載の貯留装置。
【請求項5】
前記フィルムの前記ネジが貫通する部分を囲んでいる前記接合部の平面形状は、前記フィルムの前記ネジが貫通する部分を連続的に囲む閉じた形状である、請求項1から4のいずれか1項に記載の貯留装置。
【請求項6】
前記フィルムと前記容器との接合部は、前記フィルムの前記ネジが貫通する部分を囲む第1の接合部と、前記開口部を囲う第2の接合部と、を含み、
前記第1の接合部と前記第2の接合部とは互いに異なる部分である、請求項1に記載の貯留装置。
【請求項7】
流体または粉体を収容する収容室を有する容器と、前記容器に接合されて前記収容室の開口部を覆う可撓性のフィルムと、前記フィルムが接合された前記容器がネジによって固定されるタンクホルダと、を有し、
前記ネジは、前記フィルムを貫通して前記容器を前記タンクホルダに固定し、
前記フィルムには、前記フィルムの前記ネジが貫通する部分を含む孔部である貫通穴が設けられて
おり、
前記ネジは、前記フィルムと、前記容器に設けられ前記タンクホルダに向かって窪んだ凹部の内部に設けられている穴とを通って、前記タンクホルダに設けられ前記容器に接合された前記フィルムに向かって突出する円筒部の先端に設けられているネジ穴にねじ込まれていることを特徴とする、貯留装置。
【請求項8】
前記貫通穴は円孔または楕円孔である、請求項
7に記載の貯留装置。
【請求項9】
前記貫通穴は鋭角的な部分を含まない平面形状を有している、請求項
7または8に記載
の貯留装置。
【請求項10】
流体または粉体を収容する収容室を有する容器と、前記容器に接合されて前記収容室の開口部を覆う可撓性のフィルムと、前記フィルムが接合された前記容器がネジによって固定されるタンクホルダと、を有し、
前記ネジは、前記フィルムを貫通して前記容器を前記タンクホルダに固定し、
前記フィルムには、前記フィルムの前記ネジが貫通する部分を囲むミシン目が設けられて
おり、
前記ネジは、前記フィルムと、前記容器に設けられ前記タンクホルダに向かって窪んだ凹部の内部に設けられている穴とを通って、前記タンクホルダに設けられ前記容器に接合された前記フィルムに向かって突出する円筒部の先端に設けられているネジ穴にねじ込まれていることを特徴とする、貯留装置。
【請求項11】
前記ミシン目は円形または楕円形の平面形状を有している、請求項
10に記載の貯留装置。
【請求項12】
前記ミシン目は半円形または半楕円形の平面形状を有している、請求項
10に記載の貯留装置。
【請求項13】
流体または粉体を収容する収容室を有する容器と、前記容器に接合されて前記収容室の開口部を覆う可撓性のフィルムと、前記フィルムが接合された前記容器がネジによって固定されるタンクホルダと、を有し、
前記ネジは、前記フィルムを貫通して前記容器を前記タンクホルダに固定し、
前記フィルムの前記ネジが貫通する部分を通る十字型のミシン目が設けられて
おり、
前記ネジは、前記フィルムと、前記容器に設けられ前記タンクホルダに向かって窪んだ凹部の内部に設けられている穴とを通って、前記タンクホルダに設けられ前記容器に接合された前記フィルムに向かって突出する円筒部の先端に設けられているネジ穴にねじ込まれていることを特徴とする、貯留装置。
【請求項14】
前記十字型のミシン目の中心に目印が設けられていることを特徴とする、請求項
13に記載の貯留装置。
【請求項15】
前記ミシン目は鋭角的な部分を含まない平面形状を有している、請求項
10から14のいずれか1項に記載の貯留装置。
【請求項16】
前記容器は複数の収容室を有し、前記フィルムは複数の前記収容室のそれぞれの前記開口部を一括して覆う、請求項1から
15のいずれか1項に記載の貯留装置。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1項に記載の貯留装置と、前記貯留装置から液体が供給されて前記液体を吐出する液体吐出ヘッドと、を有することを特徴とする液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は貯留装置および液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドからインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置等の液体吐出装置では、通常、液体を貯留している貯留装置から液体吐出ヘッドへ液体が供給される。貯留装置としては、収容室の容積を可変にすることと複雑な形状の流路を形成することを主な目的として、樹脂製の容器(タンク)の一面が開口しており、この開口部を覆うように可撓性のフィルムが接合された構成のものがある。このような構成の貯留装置では、例えば製造中に鋭利な部材がフィルムに接触するなど、フィルムに外力が加わることによって裂傷することがある。また、例えば液体吐出ヘッドが液体吐出とともに往復移動する際に、それに伴う振動で、接合されたフィルムと周囲の部品とが接触して擦れ、フィルムが変形させられて接合部に隙間が生じ、液体が漏れることがある。そこで、特許文献1には、部品同士の摩擦によるフィルムの破れを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、貯留装置を液体吐出装置本体に固定するときなどには、固定用のネジを用いて貯留装置と液体吐出装置本体とをねじ止めすることがある。特許文献1に記載された構成と同様に、開口部がフィルムで覆われている容器を液体吐出装置本体に固定する場合、固定用のネジがフィルムを貫通して液体吐出装置本体にねじ込まれることがある。このように固定用のネジがフィルムを貫通する際に大きな力がフィルムに加わり、フィルムが破損したり、容器の開口部の端面からフィルムの一部が剥がれたりして隙間が生じ、液体が漏れ出る可能性がある。なお、液体以外の気体などの流体や粉体を貯蔵する貯留装置においても同様の課題がある。
【0005】
本発明の目的は、開口部がフィルムで覆われている容器がネジによって固定される構成において、フィルムの破損を抑えることができる貯留装置および液体吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の貯留装置は、流体または粉体を収容する収容室を有する容器と、容器に接合されて収容室の開口部を覆う可撓性のフィルムと、フィルムが接合された容器がネジによって固定されるタンクホルダと、を有し、ネジは、フィルムを貫通して容器をタンクホルダに固定し、フィルムと容器との接合部の一部が、フィルムのネジが貫通する部分を囲んでおり、前記ネジは、前記フィルムと、前記容器に設けられ前記タンクホルダに向かって窪んだ凹部の内部に設けられている穴とを通って、前記タンクホルダに設けられ前記容器に接合された前記フィルムに向かって突出する円筒部の先端に設けられているネジ穴にねじ込まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、開口部がフィルムで覆われている容器がネジによって固定される構成において、フィルムの破損を抑えることができる貯留装置および液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る貯留装置を含む液体吐出装置を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す液体吐出装置の内部の要部を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態の貯留装置の上面図と断面図である。
【
図4】
図3に示す貯留装置のねじ止め部分を拡大して示す上面図である。
【
図5】参考例の貯留装置のねじ止め部分を拡大して示す上面図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態の貯留装置の上面図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態の貯留装置のねじ止め部分を拡大して示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下に記載する実施の形態の各構成部品の寸法、材質、形状や、それらの相対配置などは、本発明が適用される貯留装置および液体吐出装置の構成や各種条件により適宜変更され得るものである。本発明の範囲は以下に記載する実施の形態に限定されない。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る貯留装置を含む液体吐出装置の一例であるインクジェット記録装置(記録装置)10の概略構成を示す斜視図である。
図2は、記録装置10の内部の要部を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、記録装置10は、紙などの記録媒体を投入する記録媒体投入部11と、記録後の記録物を排出する記録物排出部12と、流体または粉体を貯留する貯留装置13と、記録動作を行うために使用者が操作する操作パネル14と、を有する。
【0010】
図2に示すように、記録装置10の内部には、カセット24と、給紙ローラー25と、排出ローラー26と、位置決めローラー27と、液体吐出ヘッド23と、チューブ22と、が設けられている。カセット24は、記録媒体投入部11の一部を構成するものであり、積層された複数の記録媒体を保持可能な箱状の容器である。カセット24は、液体吐出装置本体(記録装置本体)に対して水平方向に出し入れ可能なスライド機構を有している。記録媒体を収容する際にはカセット24を記録装置本体から引き出し、記録媒体を収容した後にカセット24を記録装置本体に押し入れてセットする。図示しないが、カセット24の内側には、幅方向に移動可能なガイドと、奥行き方向に移動可能なガイドが設けられている。これらのガイドを用いることによって、カセット24の内部において、様々なサイズ(例えばA4サイズやはがきサイズなど)の記録媒体を少なくとも大まかにセンタリング(中心合わせ)することができる。
【0011】
給紙ローラー25と排出ローラー26と位置決めローラー27は、記録媒体の搬送機構を構成する。給紙ローラー25の記録媒体との接触面には、波模様形状が形成されたゴムが巻き付けられている。この給紙ローラー25は、カセット24に保持された記録媒体を1枚ずつピックアップするように、調整された速度で回転する。位置決めローラー27の表面は、例えばセラミック粒子を含む塗料で覆われている。位置決めローラー27は、その表面と記録媒体との間の摩擦を利用して、液体吐出ヘッド23と記録媒体との距離を一定の範囲内に保ちながら記録媒体を高精度に搬送する。排出ローラー26は、記録後の記録物を記録物排出部12から排出するためのローラーである。
【0012】
液体吐出ヘッド23は記録部を構成し、不図示のコンピュータなどから文書データもしくは画像データを受信して、記録媒体の送り方向D(
図2参照)と直交する幅方向に移動しながら、液滴を高精度に噴射して記録媒体に付着させて、記録媒体に記録を行う。チューブ22は、前述したように移動する液体吐出ヘッド23と、記録装置本体に固定されている貯留装置13とを接続し、液体を液体吐出ヘッド23に供給する。
【0013】
本実施形態の記録装置10は、色の異なる複数の液体インクをそれぞれ吐出することによってカラー記録が可能である。貯留装置13は、各色の液体インクを別々に収容できるように仕切られた複数の収容室34を有し、各収容室34には、各色の液体がそれぞれ不図示のインクボトル等から個別に補充される。貯留装置13の構成について、
図3を参照して以下に説明する。
図3(a)は貯留装置13の上面図であり、
図3(b)は
図3(a)のA-A線断面図である。貯留装置13は、タンクホルダ32と、タンク(容器)31と、フィルム40と、固定用のネジ33とを有する。タンクホルダ32は、記録装置本体にタンク31を固定するための構造体であり、タンク31をタンクホルダ32に固定するためのネジ穴が設けられている。タンク31は、樹脂製の中空構造体であり、内部が仕切られることによって、異なる色(例えばイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの4色)の液体を個別に貯留する複数の収容室34を有している。各収容室34には、流路35がそれぞれ接続されている。中空のタンク31の一部は外部に開放されており、換言すれば、各収容室34はそれぞれ開口部を有している。そして、これらの収容室34の開口部を一括して覆うように、可撓性のフィルム40が貼り付けられている。本実施形態のフィルム40は透明である。フィルム40の、開口部の端面への接合部50は、
図3(a)に太線で示されている。このように開口部がフィルム40で塞がれることにより、各収容室34は、流路35を除いて密封され、液体の漏れが防止されている。各収容室34はそれぞれ流路35を介してチューブ22に接続されている。
【0014】
次に、貯留装置13の組み立て方法について説明する。まず、互いに仕切られた複数の収容室34を有する中空の樹脂成形品であるタンク31が成形される。この時、各収容室34がそれぞれ開口部を有し、各開口部が実質的に一平面上に位置するように、タンク31は一部が開口した形状に形成される。そして、ロール状に巻かれた1枚のシートからカッターで打ち抜かれた可撓性のフィルム40が、各収容室34の開口部を一括して覆うように、各開口部の端面に熱溶着される。こうして、タンク31とフィルム40は、
図3(a)に太線で示されている接合部50において接合される。次に、フィルム40が接合されたタンク31を、タンクホルダ32の上に載せる。タンクホルダ32の穴(ネジ穴であってもよい)とタンク31のネジ穴との位置を合わせ、固定用のネジ33を、フィルム40の上方からフィルム40を貫通させ、タンク31の穴を通過させて、タンクホルダ32のネジ穴にねじ込む。
図3(b)に示すように、タンク31の穴は、タンク31からタンクホルダ32に向かって窪んだ凹部36の内部に設けられている。そして、タンクホルダ32のネジ穴は、タンク31に接合されたフィルム40に向かって突出する円筒部37の先端に設けられている。このようにして、開口部がフィルム40で覆われたタンク31がタンクホルダ32に取り付けられて、貯留装置13が構成される。なお、図示しないが、タンクホルダ32にネジ穴の代わりに単純な貫通穴を設けて、貫通穴を貫通したネジ33にナット等を係合させることにより固定する構成にすることもできる。
【0015】
フィルム40およびタンク31とタンクホルダ32とのねじ止め部分が、
図4(a)に拡大して示されている。
図3(a)に太線で示されている接合部50は、収容室34および流路35の輪郭にあたる位置に加えて、ネジ33が貫通する穴が設けられた凹部36の端面にあたる位置にも設けられている。すなわち、フィルム40とタンク31との接合部50の一部が、フィルム40のネジ33が貫通する部分を囲んでいる。このように、ネジ33が貫通する穴が設けられた凹部36の端面にあたる位置にあり、フィルム40のネジ33が貫通する部分を囲んでいる接合部は、符号50aによって示されている。ここで、フィルム40のネジ33が貫通する部分を囲むとは、ネジ33が貫通する部分の形状に沿って接合部50aが形成されていることをいう。また、囲むとは、ネジ33が貫通する部分の周りの全周を取り囲んでいる場合はもちろんのこと、部分的に囲んでいる場合、即ち、全周に亘っては接合部50aが形成されてない場合も含むものとする。この接合部50aの平面形状は、鋭角的な部分を含んでいない。ここでいう平面形状とは、ネジ33が挿入される方向(
図3(b)に示す矢印Bの方向)からフィルム40を見たときの平面形状のことである。このように、本実施形態によると、収容室34および流路35の輪郭にあたる位置に加えて、ネジ33が貫通する穴が設けられた凹部36の端面にあたる位置にも接合部50aが存在する。
このように、ネジ33が貫通する穴を囲むように接合部50aが設けられることにより、ネジ33がフィルム40を貫通する際に、ねじれなどの外力によりフィルム40が剥がれることを抑えることができる。仮にフィルム40の一部が剥がれたとしても、その剥離部分を、凹部36の端面の接合部50aの内側に留めることが可能である。また、ネジ33が貫通する部分を囲む接合部50aは、鋭角的な部分を含まない平面形状を有しているため、フィルム40の破れの起点となり易い部分が存在せず、フィルム40の破損を抑えることができる。従って、本実施形態によると、フィルム40の剥がれや破損に起因する液体の漏れを抑制することができる。なお、ネジ33が貫通する部分を囲むように形成される接合部50aの平面形状は、
図4(b)に示す変形例のような円形や、図示しないが楕円形であってもよい。また、
図4(c)に示す変形例のように、内周が円形で外周が略四角形である凹部36の端面全体が大面積の接合部50a(ドット模様にて図示)になっていてもよい。いずれの場合であっても、接合部50aの平面形状は鋭角的な部分を含んでおらず、例えば直線状の部分と曲線状の部分の一方または両方を含み、直線状の部分または曲線状の部分は直角または鈍角の角度で接続されている。それにより、ネジ33が貫通する際のフィルム40の破れを抑制することができる。
【0016】
また、収容室34および流路35の輪郭にあたる位置に加えて、ネジ33が貫通する穴が設けられた凹部36の端面にあたる位置にも接合部50aが存在することにより、フィルム40とタンク31との接合面積が増加する。これにより、フィルム40がタンク31に強固に固着されて剥がれにくいという効果もある。凹部36の端面はタンク31の開口部の端面と同等の高さに位置し、段差無くフィルム40が円滑に貼り付けられる。また、凹部36の端面の面積が大きいほどさらにフィルム40とタンク31との接合面積を大きくすることができ、フィルム40の接合強度を高めることができる。この凹部36がタンクホルダ32の円筒部37によって支持されることにより、凹部36の端面の接合部50aがより剥がれにくいという利点がある。
【0017】
本実施形態の構成の技術的意義についてさらに詳細に説明する。液体吐出装置において、小型化と流体貯留量の増大とを両立するために、大容量の貯留装置13が液体吐出装置本体に固定され、可撓性のチューブ22によって液体吐出ヘッド23に接続されている。それにより、液体吐出装置本体の内部の限られたスペースの有効活用が図られている。そして、カラー記録可能な記録装置10では、色の異なる複数の液体が取り扱われる。各色の液体を収容するためにそれぞれ別個のタンクを設けるよりも、1つの大きなタンク31に複数の収容室34を形成する方が、スペース効率の点でも製造コストの点でも好ましい。収容室34の一面が可撓性のフィルム40で形成される場合には、複数の収容室34の開口部を1枚のフィルム40で一括して覆うと効率的である。各収容室34を一括して覆い、かつ各収容室34を密封するのに十分な接合面積を確保するために、大面積のフィルム40が用いられる。このような構成の貯留装置において、タンク31をタンクホルダ32に強固に固定するために、固定用のネジ33を用いてねじ止めする場合、ネジ33がフィルム40を貫通して固定される。仮に、ネジ33を、フィルム40と重なる位置を避けて配置しようとすると、ねじ止め位置の分だけ液体吐出装置本体の内部において広いスペースが必要になるか、またはフィルム40を小面積にするために接合強度が低下する可能性がある。十分な接合強度を確保しつつ、良好なスペース効率を実現するために、タンク31をタンクホルダ32に固定するためのネジ33がフィルム40を貫通する構成にすることが考えられる。
【0018】
前述したように、ネジ33がフィルム40を貫通する際に、大きな外力がフィルム40に加わってフィルム40を破損させる可能性がある。フィルム40の破れ方によっては、
図5に模式的に示す参考例のように、亀裂Cが接合部50に到達して接合部50を破壊し、隙間を生じて流体の漏れの原因になるおそれがある。特に、ネジ33の周囲の接合部50の平面形状に、鋭角的な部分が含まれていると、ネジ33を締める際の力が接合部50の鋭角的な部分に集中して、その部分からフィルム40が破れ易くなる。また、仮に、フィルム40のネジ33が貫通する部分に、ネジ33を挿通させる切り込みを予め刃物で形成しておくと、接合部50の一部まで切り込まれてしまい、その部分から接合部50が破壊されて、流体の漏れの原因になる隙間が生じる可能性がある。
【0019】
これに対し、
図4(a)~(c)に示す本実施形態では、フィルム40の、ネジ33が貫通する部分を取り囲むように接合部50aが設けられている。それにより、仮に、フィルム40が部分的に剥がれても、剥がれるのは接合部50aの内側のみであって、接合部50aの外側まで剥がれることが抑えられる。すなわち、フィルム40の剥がれや亀裂が、ネジ33が貫通する部分を取り囲む接合部50aの外側の収容室34および流路35の輪郭にあたる位置の接合部50にまで到達する可能性が小さい。従って、収容室34や流路35からの流体の漏れが抑制される。特に、接合部50aの平面形状が、連続した円形や楕円形や多角形等の閉じた形状であると、フィルム40の剥離や亀裂を接合部50aの内側に留める上で効果的である。また、接合部50aの平面形状が、鋭角的な部分を含まず、例えば直線状の部分と曲線状の部分の一方または両方を含み、直線状の部分または曲線状の部分は直角または鈍角の角度で接続されている。そのような構成によると、外力が集中しやすい部分がなく、フィルム40の破損を抑制する上で効果的である。
【0020】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について
図6を参照して説明する。
図6は本実施形態の貯留装置13の上面図である。本実施形態の第1の実施形態との相違点について主に説明し、第1の実施形態と同様の部分については説明を省略する。本実施形態では、フィルム40をタンク31に接合する前に、フィルム40のネジ33が貫通する部分を含む孔部である貫通穴60をパンチなどでフィルム40に予め形成しておく。この貫通穴60は、鋭角的な部分を含まない平面形状を有しており、好ましくは円孔または楕円孔である。そして、フィルム40を皺なくぴんと張った状態で、フィルム40とタンク31とを熱溶着させ、タンク31の開口部をフィルム40で塞いで各収容室34を密封する。貫通穴60の平面形状は、角部を含まない円形または楕円形であって、フィルム40の接合前に皺やよじれが生じないようにフィルム40を張る際に加わる外力を分散することができる。その結果、フィルム40の皺やよじれによって接合部50に隙間が発生することが抑えられ、さらに、フィルム40が裂ける起点となる角部が存在しないためフィルム40の破損が抑えられる。フィルム40の貫通穴60の切断面において、例えば切り口のエッジにラウンド加工を施すことで、外部からの引張力に対するフィルム40の強度をさらに高めることができる。また、ネジ33の締結に際して、フィルム40に接することなくネジ33が貫通穴60を通過することができるため、ネジ33と接触して引っ張られることによりフィルム40が破れることはない。
【0021】
なお、例えばロール状に巻かれているシートからフィルム40を切り出す際に、貫通穴60を同時にフィルム40に形成してもよい。また、例えばプラスチック溶接機の熱によってフィルム40に円孔または楕円孔である貫通穴60を形成してもよい。その場合、貫通穴60の切断面において、フィルム40の一部が溶けた樹脂によって切り口のエッジが肉厚になることで、フィルム40の破れに対する強度をさらに高めることができる。また、フィルム40をタンク31に熱溶着する際に、同時に熱によって円孔である貫通穴60をフィルム40に形成することもできる。
【0022】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について
図7を参照して説明する。
図7は本実施形態の貯留装置13のねじ止め部分を拡大して示す上面図である。本実施形態の第1~2の実施形態との相違点について主に説明し、第1~2の実施形態と同様の部分については説明を省略する。
図7(a)に示す構成では、フィルム40をタンク31に接合する前に、フィルム40のネジが貫通する部分を囲むミシン目70を、パンチ等でフィルム40に予め形成しておく。このミシン目70は、角部のない円形または楕円形の平面形状を有している。ミシン目70を有することで、ネジ33がフィルム40を貫通する際に、フィルム40が一様に破れるように制御できる。このように、ネジ33が貫通する際のフィルム40の挙動を制御することにより、フィルム40の破れや剥がれが広がって収容室34からの流体の漏れを引き起こすことが抑えられる。
【0023】
なお、
図7(b)に示す変形例のように、平面形状が角部のない半円形または半楕円形であるミシン目70を形成して、フィルム40が破れる方向を定めてもよい。また、
図7(c)に示す変形例のように、フィルム40のネジ33が貫通する部分を通る十字型である平面形状を有するミシン目70を形成しても、前述したのと同様の効果が得られる。さらに、
図7(d)に示す変形例のように、十字型のミシン目70の中心(交点)に目印65を設けてもよい。この変形例によると、前述したのと同様の効果に加えて、ネジ33の挿入位置が容易に判るという効果がある。いずれの構成であっても、ミシン目70は鋭角的な部分を含まない平面形状を有していることが好ましい。
【0024】
本発明に係る貯留装置13は、前述した各実施形態およびそれらの変形例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を行ってもよい。本発明はインクのような液体だけでなく、気体等の流体や紛体を収容する貯留装置13に広く適用可能である。また、前述した各実施形態では、貯留装置13が、異なる液体をそれぞれ収容する複数の収容室34を有しているが、そのような構成に限定されず、貯留装置13が単一の収容室34のみを有する構成にも、本発明を適用可能である。フィルム40とタンク31との接合部50は、熱溶着に限らず、例えば接着剤を用いた接着によって接合された部分であってもよい。
【0025】
本発明によれば、フィルム40のネジ33が貫通する部分の周囲に、フィルム40の破れの起点となるおそれがある鋭角的な部分が存在しないようにする。本発明の第1の実施形態では、ネジ33が貫通する部分を囲むように接合部50aが設けられる。この接合部50aの平面形状は、鋭角的な部分を含まず、例えば直線状の部分と曲線状の部分の一方または両方を含み、直線状の部分または曲線状の部分は直角または鈍角の角度で接続されている。さらに、この接合部50aの平面形状は、連続的であって閉じた形状であることが好ましい。この構成によると、タンク31をタンクホルダ32に固定するために、固定用のネジ33または工具を刺し入れてフィルム40を破る際に、接合されたフィルム40が剥がれることを抑制できる。
【0026】
本発明の第2の実施形態によれば、フィルム40のネジ33が貫通する部分に、円孔または楕円孔である貫通穴60がフィルム40に予め形成されている。貫通穴60は、鋭角的な部分や角部を有していない。ネジ33はフィルム40に接触せずに貫通穴60を通過してタンク31をタンクホルダ32に固定するため、ネジ33がフィルム40に外力を加えて破損させることがない。仮に、ネジ33がフィルム40に接触しつつ貫通したとしても、フィルム40の貫通穴60の内周部は鋭角的な部分を有していないので、ネジ33から引っ張り力を受けてもフィルム40は変形しにくく破損しにくい。また、フィルム40とタンク31とを容易に高精度に接合することができる。
【0027】
本発明の第3の実施形態によれば、フィルム40のネジ33が貫通する部分にミシン目70を形成することにより、フィルム40の破れ方をコントロールすることができる。それにより、ネジ33を貫通させる際のフィルム40の破れ方が規定され、意図せずにフィルム40が破損して収容室34の密封性を損なうことが抑えられる。
【0028】
以上説明したように、本発明の各実施形態において、タンク31をタンクホルダ32に固定する際に、固定用のネジ33によるフィルム40の破損を防止または抑制できる。その結果、収容室34からの流体または粉体の漏れを抑えることができ、しかも、液体吐出装置等の本体の内部のスペースの有効活用が可能であるとともに、製造コストおよび製造の煩雑さを抑えることができる。
【符号の説明】
【0029】
13 貯留装置
31 タンク(容器)
32 タンクホルダ
33 ネジ
34 収容室
40 フィルム
50a 接合部