(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】画像形成システム
(51)【国際特許分類】
G03G 21/00 20060101AFI20240729BHJP
G03G 15/20 20060101ALI20240729BHJP
B41J 29/38 20060101ALI20240729BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G03G21/00 370
G03G21/00 396
G03G21/00 388
G03G15/20 510
B41J29/38 401
B41J29/38 350
B41J29/38 204
G03G15/00 445
(21)【出願番号】P 2020118453
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】藤本 徹一郎
(72)【発明者】
【氏名】海老原 俊一
【審査官】市川 勝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-083703(JP,A)
【文献】特開2018-087878(JP,A)
【文献】特開2017-083702(JP,A)
【文献】特開2017-083704(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0157357(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 21/00
G03G 15/20
B41J 29/38
G03G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の記録媒体が積載された第1の積載部と、前記第1の記録媒体を搬送する搬送回転体と、前記搬送回転体の劣化の度合いを求める演算手段と、前記第1の積載部と関連付けて他の積載部を設定可能な設定手段と、を有する第1の画像形成装置と、
第2の記録媒体が積載された第2の積載部と、前記第2の記録媒体の特性を検知する検知手段と、を有する第2の画像形成装置と、
前記第1の画像形成装置と前記第2の画像形成装置とが接続されたネットワーク回線と、
を備える画像形成システムであって、
前記設定手段によって前記第2の積載部が前記第1の積載部と関連付けて設定された場合、前記演算手段は、前記ネットワーク回線を介して前記検知手段によって検知された前記第2の記録媒体の特性に関する情報を取得し、取得した前記第2の記録媒体の特性に関する情報に基づいて前記搬送回転体の劣化の度合いを求め
、
前記検知手段は、記録媒体に関し、前記第1の画像形成装置が検知することができない所定の特性を検知することが可能であり、前記第2の記録媒体の特性に関する情報は、前記所定の特性に関する情報を含む、
ことを特徴とする画像形成システム。
【請求項2】
前記演算手段は、前記搬送回転体が記録媒体を搬送する際の1枚当たりの前記搬送回転体の摩耗量、又は、前記搬送回転体が前記記録媒体を搬送する際の1回転当たりの前記搬送回転体の摩耗量と、
前記第2の記録媒体の特性に関する情報に応じた補正係数と、に基づいて前記劣化の度合いを求めることを特徴とする請求項
1に記載の画像形成システム。
【請求項3】
前記第2の記録媒体の特性に関する情報は、記録媒体の表面平滑度及び厚み
に関する情報であることを特徴とする請求項
2に記載の画像形成システム。
【請求項4】
前記補正係数は、前記表面平滑度が小さいほど小さい、又は、前記厚みが薄いほど小さいことを特徴とする請求項
3に記載の画像形成システム。
【請求項5】
前記第2の画像形成装置は、記録媒体の剛度及び填料の配合量
を記憶する記憶手段を有することを特徴とする請求項
4に記載の画像形成システム。
【請求項6】
前記補正係数は、前記剛度が低いほど小さい、又は、前記填料の配合量が少ないほど小さいことを特徴とする請求項
5に記載の画像形成システム。
【請求項7】
前記設定手段は、前記第2の画像形成装置を特定する情報と、前記第2の積載部を特定する情報と、によって前記第1の積載部に前記第2の積載部を関連付けて設定することを特徴とする請求項
1から請求項
6のいずれか1項に記載の画像形成システム。
【請求項8】
前記検知手段を第1の検知手段としたときに、
前記第1の画像形成装置は、前記第1の積載部から搬送された前記第1の記録媒体の特
性を検知する第2の検知手段であって、前記第1の検知手段により検知される特
性の数よりも少ない数の特
性を検知する前記第2の検知手段を備えることを特徴とする請求項
1から請求項
7のいずれか1項に記載の画像形成システム。
【請求項9】
前記第2の検知手段は、記録媒体の厚みを検知することを特徴とする請求項
8に記載の画像形成システム。
【請求項10】
前記設定手段は、前記第2の画像形成装置を特定する情報によって前記第1の積載部に前記第2の積載部を関連付けて設定することを特徴とする請求項
8又は請求項
9に記載の画像形成システム。
【請求項11】
加熱フィルムと、加圧ローラと、を有し、記録媒体上の未定着のトナーを定着する定着部を備え、
前記搬送回転体は、前記加熱フィルムであり、
前記演算手段は、前記劣化の度合いとして前記加熱フィルムの摩耗量を求めることを特徴とする請求項
1から請求項
10のいずれか1項に記載の画像形成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成システムに関し、特に、電子写真方式を利用した複写機、プリンタ、ファクシミリ装置等の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式の画像形成装置は、一般的に、複写機、プリンタ、ファクシミリ等に適用され構成される。これらの画像形成装置では、ユーザが設定した記録媒体の種別(以下、紙種という)情報を利用したり、画像形成装置に厚みセンサを設けたりして記録媒体の特性を把握し、記録媒体の特性に応じた画像形成条件の適切化を図る。これにより、様々な記録媒体に対して所望の品質の画像を形成することができる。また、電子写真方式の画像形成装置は、画像形成装置に装着されるトナー補給容器などの消耗品や、感光ドラム、現像装置、定着装置、転写装置など画像形成装置本体の寿命に比べて短い寿命である装置を有している。このような装置は、それぞれがユニット化され、寿命に達するとユニット単位で新品に交換される。以降、交換可能なユニットを交換ユニットという。これにより、画像形成装置の継続的な使用に対応している。
【0003】
交換ユニットに対しても寿命を精度よく検知又は予測してユーザに報知し、可能な限り交換ユニットの寿命まで使用することで交換頻度を低下させ、管理コストを低減させることが望まれている。交換ユニットの寿命報知を正確に行うためには、それぞれの交換ユニットの劣化の度合い(以下、劣化度合いという)を精度良く見積もる必要がある。このような交換ユニットのうち、記録媒体の搬送に関わる回転搬送手段の劣化度合いを精度良く見積もる方法としては、記録媒体を搬送した枚数(以下、通紙枚数という)や回転搬送手段の回転数をモニターする方法が一般的で容易である。この方法では、所定の通紙枚数又は回転数を超えた時点でユーザへの寿命予告や寿命到達等のメッセージが画像形成装置本体や画像形成装置に接続されているパーソナルコンピュータ(以下、PCとする)側に示される。ユーザが使用する記録媒体やその特性が把握できれば、画像形成装置が記録媒体に応じて所定の演算を行い、交換ユニットの劣化度合いを精度良く見積もることができる。例えば特許文献1では、次のような寿命演算を行う方法が提案されている。例えば、画像形成装置は、記録媒体の特性として記録媒体の厚さを検知する検知手段と、記録媒体の厚さから判断される記録媒体の種類と、その種類に対応する厚さ以外の特性値(記録媒体の剛度、記録媒体に含まれる填料の配合量など)を記憶する記憶手段と、を有している。この画像形成装置では、検知手段による検知結果に基づいて記録媒体の種類を判断し、記憶手段に記憶された厚さ以外の特性値を用いて回転搬送手段の寿命演算を行っている。これにより、実際に使用される記録媒体の特性値に応じて、精度よく寿命を見積もることが可能となる。
【0004】
一方、近年は、オフィスにおけるドキュメント出力環境であるマルチ・ファンクション・プリンタ(以下、MFPとする)などの画像形成装置の集中管理、最適配置を行うマネージド・プリント・サービス(以下、MPSとする)が提供され始めている。MPS環境においては、サービスを提供する「管理ユーザ」が記録媒体を含めて管理する場合もある等、一般的な印刷環境と比較すると、使用される記録媒体の特性を把握しやすい環境にある。また、各画像形成装置の給紙トレイ毎に使用される記録媒体を管理ユーザが管理し、それに応じた設定をネットワーク回線など介して一括して行うことも可能であり、交換ユニットの劣化度合いの見積もり精度を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなMPS環境においては、サービス性の更なる向上が求められており、交換ユニットの劣化度合いの見積もり精度を更に向上させることが求められている。しかしながら、管理ユーザが管理する複数の画像形成装置のすべてが、記録媒体の特性を検知する検知手段を有しているとは限らない。したがって、管理ユーザが記録媒体を含めて管理している場合でも、記録媒体の特性を検知できない画像形成装置においては、寿命を精度よく見積もることができないという課題がある。また、複数の画像形成装置のすべてを、記録媒体の特性を検知する検知手段を有した画像形成装置とすることは、画像形成装置の価格が高くなるため、ユーザにとっては好ましくない。
【0007】
本発明は、このような状況のもとでなされたもので、記録媒体の特性を検知する手段を有していない画像形成装置においても、交換ユニットの寿命を精度よく予測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、以下の構成を備える。
【0010】
(1)第1の記録媒体が積載された第1の積載部と、前記第1の記録媒体を搬送する搬送回転体と、前記搬送回転体の劣化の度合いを求める演算手段と、前記第1の積載部と関連付けて他の積載部を設定可能な設定手段と、を有する第1の画像形成装置と、第2の記録媒体が積載された第2の積載部と、前記第2の記録媒体の特性を検知する検知手段と、を有する第2の画像形成装置と、前記第1の画像形成装置と前記第2の画像形成装置とが接続されたネットワーク回線と、を備える画像形成システムであって、前記設定手段によって前記第2の積載部が前記第1の積載部と関連付けて設定された場合、前記演算手段は、前記ネットワーク回線を介して前記検知手段によって検知された前記第2の記録媒体の特性に関する情報を取得し、取得した前記第2の記録媒体の特性に関する情報に基づいて前記搬送回転体の劣化の度合いを求め、前記検知手段は、記録媒体に関し、前記第1の画像形成装置が検知することができない所定の特性を検知することが可能であり、前記第2の記録媒体の特性に関する情報は、前記所定の特性に関する情報を含む、ことを特徴とする画像形成システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、記録媒体の特性を検知する手段を有していない画像形成装置においても、交換ユニットの寿命を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1のネットワーク回線に接続された複数の画像形成装置を示す図
【
図3】実施例1の定着部及び表面平滑度/厚みセンサを示す概略断面図
【
図4】実施例1の補正係数マトリクスを示す図、設定画面を示す図
【
図6】実施例3のネットワーク回線に接続された複数の画像形成装置を示す図
【
図8】実施例3の厚みセンサを示す概略断面図、設定画面を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0014】
[ネットワークに接続された複数の画像形成装置]
実施例1では、複数の画像形成装置がネットワーク回線に接続されて画像形成システムを構成している。実施例1では、所定の画像形成装置が、ネットワーク回線を介して接続された他の画像形成装置から、第2の情報である記録媒体の特性値を取得して、交換ユニット、例えば記録媒体の搬送に関わる搬送回転体の寿命を演算する手法について説明する。
図1は、実施例1のネットワーク接続部55(以下、接続部55という)を介してLAN等のネットワーク回線に接続された複数の画像形成装置を示す。ネットワーク回線には、例えば画像形成装置100A、画像形成装置100B、・・・等の複数の画像形成装置が接続されている。複数の画像形成装置100A、100B、・・・等は、制御演算部10、接続部55、用紙Pを積載する給紙トレイ15(15A、15B、15C)を有している。このうち、画像形成装置100Aは、記録媒体の特性値を検知する検知手段である、後述する表面平滑度/厚みセンサ60を有しており、画像形成装置100Bは、記録媒体の特性値を検知する検知手段であるセンサを有していない。
【0015】
[画像形成装置の構成]
図2は実施例1の画像形成装置100Aの概略断面図である。実施例1では、画像形成装置100Aの一例として中間転写ベルトを採用したカラー画像形成装置を用いた例について説明するが、他の構成の画像形成装置であってもよい。なお、画像形成装置100Bの構成は、検知手段を有していない以外は画像形成装置100Aと同じ構成であるため、検知手段を有した画像形成装置100Aについて構成を説明する。
【0016】
実施例1の画像形成装置100Aは、例えば4ドラムフルカラー方式のプリンタである。画像形成装置100Aは、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)のステーション毎に設けられた像担持体である感光ドラム1Y、1M、1C、1Kを備えている。なお、色を表す符号の添え字Y、M、C、Kは、特定の色について説明する場合を除き、以降省略する。また、画像形成装置100Aは、帯電手段としての帯電ローラ2、露光スキャナ部11、現像手段である現像器8、トナー補給手段であるトナー容器7、ドラムクリーナ16、回転体である中間転写ベルト24、2次転写ローラ25を備えている。更に、画像形成装置100Aは、中間転写ベルト24を駆動しつつ2次転写ローラ25の対向ローラとして機能する駆動ローラ26、張架ローラ13、補助ローラ23、1次転写ローラ4、定着手段である定着部21を備えている。そして画像形成装置100Aは、上述した各部材を制御し動作させる制御手段である制御演算部10を備えている。画像形成装置100Aは、少なくとも1つの第2の積載部である給紙トレイ15を備えており、例えば
図2では、給紙トレイ15A、給紙トレイ15B、給紙トレイ15Cの3つの給紙トレイを有している。
【0017】
感光ドラム1は、アルミシリンダの外周に有機光導伝層を塗布して構成され、駆動モータ(不図示)の駆動力が伝達されて回転する。駆動モータは感光ドラム1を画像形成動作に応じて例えば時計周り方向に回転させる。制御演算部10が画像信号を受け取ると、記録媒体である用紙Pは、例えば給紙トレイ15Aからピックアップローラ14、給紙ローラ17、18によって画像形成装置100A内に送り出される。用紙Pは、後述する画像形成動作と用紙Pの搬送との同期をとるためのローラ状同期回転体、すなわち、搬送ローラ19aと搬送対向ローラ19b(以下、搬送ローラ対19a、19bとする)とに一旦挟持され、停止して待機する。搬送ローラ対19a、19bはレジストレーションローラ対とも呼ばれる。
【0018】
一方、制御演算部10は、帯電ローラ2の作用により一定電位に帯電した感光ドラム1の表面に、受け取った画像信号に応じた静電潜像を露光スキャナ部11によって形成する。現像器8は静電潜像を可視化する手段であり、ステーション毎にYMCK各色の現像を行う。各現像器8には、現像ローラ5が設けられており、静電潜像を可視化するための現像電圧が印加されている。このように、感光ドラム1の表面に形成された静電潜像は、現像器8の作用により単色のトナー像(以下、単色トナー像という)として現像される。
【0019】
中間転写ベルト24は、感光ドラム1Y、1M、1C、1Kに接触しており、カラーの画像形成を行うときに反時計周り方向に感光ドラム1Y、1M、1C、1Kの回転と同期して回転する。現像された単色トナー像は1次転写ローラ4に印加された1次転写電圧の作用により、順次、中間転写ベルト24に転写され、中間転写ベルト24上で多色のトナー像(以下、多色トナー像という)となる。ここで、中間転写ベルト24上に転写されず各感光ドラム1上に残留したトナーは、感光ドラム1に当接して設置されたドラムクリーナ16にて回収される。ドラムクリーナ16は、クリーナブレード161とトナー回収容器162とを有している。
【0020】
中間転写ベルト24上に形成された多色トナー像は2次転写ローラ25とで形成される2次転写ニップ部に搬送される。これと略同時に、搬送ローラ対19a、19bに挟持された状態で待機していた用紙Pが搬送ローラ対19a、19bの作用により中間転写ベルト24上の多色トナー像と同期を取りながら2次転写ニップ部に搬送される。2次転写ニップ部に搬送された用紙P上(記録媒体上)には、2次転写ローラ25に印加された2次転写電圧の作用により多色トナー像が一括して転写される。定着部21は大別して、弾性層を有し回転する加圧ローラ21aと、加圧ローラ21aに圧接し定着ニップ部Nを形成し、また定着ニップ部Nを加熱する加熱手段を有する加熱回転体21bと、を有している。
【0021】
(定着部)
図3(a)に画像形成装置100Aの定着部21の概略構成断面図を示す。加熱回転体21bを構成する耐熱性を有する円筒状の加熱フィルム211は、加熱フィルム211を円筒状に保持する支持ホルダー212と、支持ホルダー212を保持する金属製の定着ステー213の外周に緩やかに嵌合されている。さらに支持ホルダー212の長手方向(紙面に略直交する方向)には加熱手段である板状発熱体214が保持され、加圧手段(不図示)により、板状発熱体214は、加熱フィルム211を介して加圧ローラ21aと加圧力Fで定着ニップ部Nを形成している。
【0022】
加圧ローラ21aと板状発熱体214に挟持された加熱フィルム211は、加圧ローラ21aに対して支持ホルダー212及び定着ステー213の周りを従動回転する。加熱フィルム211の内面には温度検知手段である温度センサ215が当接され、加熱フィルム211の内面温度が検知される。制御演算部10は、温度センサ215の検知結果に基づいて、加熱フィルム211の温度が所望の値となるように制御する。実施例1の加熱フィルム211は、例えば厚さ35μmのステンレス材を基層としたフィルム211Bを有している。加熱フィルム211は、フィルム211Bに、熱伝導性を付与したシリコーンゴムからなる厚さ300μmの弾性層211R、及びPFA材料からなる厚さ25μmの離型性層211Sを順次形成したものである。
【0023】
図2の説明に戻る。未定着の多色トナー像を保持した用紙Pは加圧ローラ21aにより搬送されるとともに、定着ニップ部Nにて熱及び圧力を加えられ、トナーが表面に定着される。トナー像が定着された後の用紙Pは、排出ローラ対20a、20bによって排出トレイ30に排出され、画像形成動作が終了する。ベルトクリーナ28は、中間転写ベルト24上に残ったトナーをクリーナブレード281の作用によってクリーニングするものであり、ここで回収されたトナーはクリーナ容器282に蓄えられる。なお、実施例1の画像形成装置100Aは、画像形成装置100A本体に備え付けられた給紙トレイ15Aと、オプションとして装着される給紙トレイ15B及び給紙トレイ15Cとを備えている。
【0024】
以上説明したような一連の画像形成動作は画像形成装置100A内に設けられた制御演算部10によって制御される。画像形成装置100Aは、ユーザが情報を入力する入力手段とユーザへの情報を出力する出力手段とを兼ねるコントロールパネル35を備えている。制御演算部10は、コントロールパネル35や、接続部55を介してホストコンピュータ(不図示)に接続されている。制御演算部10は、それらから入力されたコマンドに応じて画像形成装置100Aを制御する。また制御演算部10は、画像形成装置100Aや各ユニットの状態をアラート音及びメッセージ表示でユーザに伝える通知機能や、後述する画像形成装置100Aの交換ユニットの寿命を演算する機能を有しており、演算手段としても機能する。更に制御演算部10は、演算に必要な各種特性値を記憶保持する記憶手段としても機能する。
【0025】
[表面平滑度/厚みセンサ60]
図3(b)は、用紙Pの特性値を検知する検知手段である、表面平滑度センサと厚みセンサとを一体構成とした、第1の検知手段である表面平滑度/厚みセンサ60の構成を示す概略断面図である。表面平滑度/厚みセンサ60は、第1の光照射手段である照射用発光ダイオード(以下、LEDとする)621、第2の光照射手段である照射用LED622、撮像手段であるCMOSエリアセンサ63A及び結像手段である結像レンズ64Aを備えている。更に表面平滑度/厚みセンサ60は、フィルタリング手段を構成するフィルタリング部65A及び駆動・演算部61を備えている。照射用LED621を光源とする光は、460nm付近に極大波長を持つ青色光であり、用紙Pの表面(被撮像部)に向けて照射される。青色の照射用LED621は用紙Pの紙面から45度の角度をもって光を照射させるように配置されており、用紙Pの表面の凹凸に応じた陰影を持つ反射光を生じさせる。この反射光は、結像レンズ64Aを介し集光され、このうちフィルタリング部65Aを透過した波長成分がCMOSエリアセンサ63Aに反射光像として結像する。CMOSエリアセンサ63Aは、結像したエリア毎に反射光量に応じて変化する電気信号として映像電圧信号を駆動・演算部61に出力する。駆動・演算部61は、CMOSエリアセンサ63Aの出力する映像電圧信号を受信すると、受信した映像電圧信号をアナログ・デジタル(以下、A/Dとする)変換し、変換後の例えば256階調のデジタル信号を制御演算部10へ出力する。
【0026】
一方、照射用LED622を光源とする光は、例えば640nm付近に極大波長を持つ赤色光であり、照射用LED621が照射した用紙Pの面とは反対側の面(被撮像部)に向けて照射される。赤色の照射用LED622は、用紙Pの紙面の法線方向から光を照射させるよう配置されており、用紙Pの厚みに応じた減衰量で光が透過する。この透過光も結像レンズ64Aを介し集光され、フィルタリング部65Aを透過した波長成分がCMOSエリアセンサ63Aに透過光像として結像され、透過光量に応じて変化する電気信号としての映像電圧信号を駆動・演算部61に出力する。そして、同様の作用で、駆動・演算部61は、映像電圧信号を256階調のデジタル信号に変換し、制御演算部10へ出力する。制御演算部10は、以上のようにして、後述する
図4(a)で用いる表面平滑度の値及び厚みの値を求めることができる。
【0027】
図2に示すように、実施例1の表面平滑度/厚みセンサ60は、搬送ローラ対19a、19bと2次転写部との間の搬送路上に設置されている。なお、表面平滑度/厚みセンサ60が設置される位置は、用紙Pの特性を検知することができる場所であればよい。そして、表面平滑度/厚みセンサ60は、用紙Pが2次転写部に送られるタイミングで、言い換えれば用紙Pにトナー像が転写される前に、用紙Pの表面の凹凸性(以下、表面平滑度という)に関する情報と厚みに関する情報とを検知する。そして、表面平滑度/厚みセンサ60は、制御演算部10に検知結果を出力する。制御演算部10は、表面平滑度/厚みセンサ60により検知された結果を各給紙トレイ15に積載された用紙P毎の特性値として記憶する。すなわち、各給紙トレイ15と、各給紙トレイ15に積載された用紙Pの特性値とが、関連付けられて記憶される。制御演算部10は記憶した用紙P毎の特性値に基づき、交換ユニットの寿命演算を行う。交換ユニットの寿命の演算方法については後述する。
【0028】
しかしながら、表面平滑度/厚みセンサ60が測定した測定値は用紙Pが持つムラ、ロット差や測定器の検知ばらつき等の影響を受ける。実施例1では、制御演算部10は、用紙Pが給紙トレイ15に積載されたことを検知した後、10枚に渡り表面平滑度/厚みセンサ60による測定を行い、用紙P10枚の測定結果の平均値を得て、平均値を特性値として記憶する構成とする。
【0029】
[交換ユニットの寿命演算]
実施例1の交換ユニットの一例である定着部21について劣化の度合い(以下、劣化度合いという)を予測演算し、予測した値に基づいて定着部21の寿命演算を行う方法について説明する。定着部21の寿命は、搬送回転体である加熱フィルム211の離型性層211Sの摩耗が律速となっており、定着部21が寿命に近づくにつれ画像不良が発生する。画像形成装置100Aは、制御演算部10において、用紙Pを搬送すること(以下、通紙という)による離型性層211Sの摩耗量の標準値Wpsを1ページ当たり(1枚当たり)0.84×10-4μmとし、1枚の通紙毎に摩耗量を積算して保持している。また、耐久試験ではなくユーザの実使用環境においては、上述した単位ページ当たりの摩耗量よりも、加熱フィルム211の単位回転数当たりの摩耗量を基準にする方が、予測演算の精度を向上できる場合もある。そこで、実施例1では、実測した加熱フィルム211の回転数も計測しておき、1回転当たりの摩耗量の標準値Wrsを0.17×10-5μmとして摩耗量を演算し、積算して保持することとする。なお、積算した摩耗量を積算摩耗量Wという。また、加熱フィルム211の回転数は、例えばエンコーダを用いた検知や、回転速度と駆動時間とに基づき求める方法等、公知の検知方法により検知する。
【0030】
制御演算部10は、積算摩耗量Wが予め定められた加熱フィルム211の寿命値にどれだけ近づいたかを百分率で示す残寿命を求めるための寿命演算を行う。前述した通り、実施例1に用いた加熱フィルム211の離型性層211Sの厚みは25μmである。画像形成装置100Aの使用によって、加熱フィルム211の離型性層211Sの摩耗が進行して厚みが極端に薄くなると、離型性層211Sに微小な亀裂が発生して離型性効果が充分に発揮されず画像品質が低下してしまうことがある。したがって、実施例1では、積算摩耗量Wの寿命値Wmを23μmとし、制御演算部10は、以下の式(1)によって寿命演算を行う。
残寿命(%)=(1-(積算摩耗量W[μm]/寿命値Wm[μm])
×100 式(1)
式(1)によれば、積算摩耗量Wが0のとき残寿命は100%であり、このときの加熱フィルム211(又は定着部21)の状態を新品という。また、積算摩耗量Wが寿命値Wmとなったとき残寿命は0%であり、このときの加熱フィルム211(又は定着部21)の状態を寿命という。残寿命(%)の演算結果はコントロールパネル35に表示されユーザに通知される。
【0031】
ところで、加熱フィルム211の離型性層211Sの摩耗量は、通紙される用紙Pの表面平滑度や厚みによって差が生じることが知られている。本発明者らが検討を行ったところ、用紙Pの表面平滑度や厚みを考慮することで、離型性層211Sの摩耗量を精度良く予測できることが判明した。用紙Pの表面平滑度が粗いほど、また用紙Pの厚みが厚いほど、単位ページ当たりの摩耗量が大きくなる。そこで実施例1では、交換ユニット、具体的には加熱フィルム211の離型性層の劣化度合いを予測演算する際に、用紙Pの表面平滑度及び厚みを特性値として用いることとした。
【0032】
制御演算部10は、劣化度合いの予測演算値として加熱フィルム211の離型性層211Sの摩耗量を演算し、これを表面平滑度/厚みセンサ60で検知した用紙Pの表面平滑度及び厚みに応じて補正する。すなわち、制御演算部10は、1枚の通紙毎及び加熱フィルム211の1回転毎に摩耗量を積算して保持しておく。ここで、上述したように、通紙による離型性層211Sの摩耗量の標準値Wpsは1ページ当たり0.84×10-4μm、摩耗量の標準値Wrsは加熱フィルム211の1回転転当たり0.17×10-5μmとする。
【0033】
(補正係数マトリクス)
実施例1の画像形成装置100Aは、
図4(a)に示す、用紙Pの特性値に応じた補正係数のマトリクス(以下、補正マトリクスという)を制御演算部10内に有している。
図4(a)は縦に表面平滑度、横に厚みを示している。制御演算部10は、前述の方法により特定した各給紙トレイ15A~15Cに積載された用紙Pの表面平滑度と厚みとに基づき、補正係数マトリクスから0.6~1.4の補正係数P(S)を求める。例えば、表面平滑度/厚みセンサ60により、表面平滑度が30、厚みが0.1と検知された場合、制御演算部10は
図4(a)から補正係数P(S)を0.9と求める。制御演算部10は、次の式(2)に示すように、1ページ当たりの摩耗量を、前述の標準値(0.84×10
-4μm)に補正係数P(S)を乗算して求めたうえで、ページ毎に積算する。
積算摩耗量W(μm)=Σ(標準値×P(S)) 式(2)
図4(a)に示す補正係数P(S)は、用紙Pの表面平滑度が小さいほど、また厚みが薄いほど小さい値である。これにより、用紙Pの表面平滑度及び厚みを考慮して、加熱フィルム211の離型性層211Sの摩耗量を求めることができる。
【0034】
各給紙トレイ15A~15Cからの通紙に伴う摩耗量は式(2)に従って摩耗量Wa、Wb、Wcとして個別に算出される。ここで、摩耗量Waは給紙トレイ15Aから給紙された用紙Pによる摩耗量、摩耗量Wbは給紙トレイ15Bから給紙された用紙Pによる摩耗量、摩耗量Wcは給紙トレイ15Cから給紙された用紙Pによる摩耗量である。そして、積算摩耗量Wは、以下の式(3)に従って算出することができる。
W=Wa+Wb+Wc 式(3)
【0035】
実施例1では、
図3(b)に示すような反射光と透過光とをCMOSエリアセンサ63Aによって撮像することによって、それぞれ用紙Pの表面平滑度及び厚みの情報を検知する。しかしながら、本発明に適用できる検知手段はこれらに限定されるものではない。例えば、記録媒体に超音波を照射し、その反射率や透過率を検出することにより、記録媒体の表面状態や厚さを認識する超音波センサ等、各方式のセンサを単独又は組合せて使用することができる。
【0036】
[検知手段を有しない画像形成装置による用紙の特性値の取得]
実施例1では、第1の画像形成装置である画像形成装置100Bは、検知手段を有していない。画像形成装置100Bが、ネットワーク回線を介して接続された複数の画像形成装置のうち検知手段を有した他の画像形成装置(又は第2の画像形成装置)である画像形成装置100Aから、寿命演算する際に用いる用紙Pの特性値を取得する。なお、画像形成装置100Bについて、画像形成装置100Aと共通する部材については同じ符号を用い、画像形成装置100Aの部材と区別するために符号の末尾に「’」を付す。
【0037】
【表1】
表1に、画像形成装置100Aと画像形成装置100Bの各給紙トレイ15に積載されている用紙Pの紙種の例を示す。表1は、1列目にトレイ名を示し、2列目に紙種を示す。例えば、画像形成装置100Aの給紙トレイ15Aには記録材Aが積載され、給紙トレイ15Bには記録材Bが積載され、給紙トレイ15Cには記録材Cが積載されている。一方、画像形成装置100Bの給紙トレイ15A’、15B’には画像形成装置100Aの給紙トレイ15Aと同じ記録材Aが積載され、給紙トレイ15C’には画像形成装置100Aの給紙トレイ15Bと同じ記録材Bが積載されている。なお、画像形成装置100Aの給紙トレイ15Aに積載された記録材A、給紙トレイ15Bに積載された記録材B、給紙トレイ15Cに積載された記録材Cは、第2の記録媒体に相当する。画像形成装置100Bの給紙トレイ15A’、15B’に積載された記録材A、給紙トレイ15C’に積載された記録材Bは、第1の記録媒体に相当する。
【0038】
(設定について)
MPS環境においては、管理ユーザが用紙Pを含めて複数の画像形成装置を管理し、それらの画像形成装置では同一の紙種を使用している場合が一般的である。表1に示すように、例えば記録材A及び記録材Bは画像形成装置100Aでも画像形成装置100Bでも使用されている。管理ユーザは、画像形成装置100Aに積載されている紙種を把握している。このため、画像形成装置100Bをネットワーク回線に接続する際に、管理ユーザは、画像形成装置100Bのコントロールパネル35’から
図4(b)に示す設定メニューを用いて次のように設定する。ここで、
図4(b)は、用紙Pに関するパラメータを管理し設定するためのメニューが表示された画面を示す図である。
【0039】
上述したように、画像形成装置100Aでは、各給紙トレイ15と、各給紙トレイ15に積載された用紙Pの特性値とが、関連付けられて制御演算部10に記憶されている。管理ユーザは、画像形成装置100Aが記憶している給紙トレイ15Aに積載された用紙P(記録材A)の特性値を給紙トレイ15A’に積載された用紙Pの特性値として取得するように設定する。同様にして、管理ユーザは、給紙トレイ15B’には画像形成装置100Aの給紙トレイ15Aの記録材Aの特性値を、給紙トレイ15C’には画像形成装置100Aの給紙トレイ15Bの記録材Bの特性値をそれぞれ取得するように設定する。その結果、制御演算部10は、ネットワーク回線に接続された他の画像形成装置(ここでは、画像形成装置100A)に関する第1の情報であるプリンタ名及びトレイ番号を、給紙トレイ15A’~15C’にそれぞれ関連付けて設定する。プリンタ名は、ネットワーク回線に接続された他の画像形成装置を特定する情報の一例であり、トレイ番号は、給紙トレイ15を特定する情報の一例であり、これらは例えば識別番号等であってもよい。このように、制御演算部10は設定手段としても機能する。
【0040】
図4(b)は、画像形成装置100Bのコントロールパネル35’に表示された設定メニューと設定値について示す図である。また、給紙トレイ15A’、15B’、15C’の各トレイに、それぞれ参照するプリンタ名(画像形成装置100A)と、参照するプリンタのトレイ番号(給紙トレイ15A等)がそれぞれ関連付けられて設定された様子を示す。ここで、OKボタンが押下されると、設定メニューで設定された情報が、例えば制御演算部10’に記憶される。以上のように、画像形成装置100Bの第1の積載部である各給紙トレイ15’と、画像形成装置100Aの各給紙トレイ15とが、関連付けられて記憶される。このように、制御演算部10は、第1の積載部と関連付けて他の積載部を設定可能である。
【0041】
そして、画像形成装置100Bにおいても、制御演算部10’は、前述した画像形成装置100Aと同様にして定着部21’(具体的には加熱フィルム211’の離型性層211S’)の寿命を演算する。この際、制御演算部10’が検知手段を有した画像形成装置100Aから取得した用紙Pの特性値を使用することで、精度の良い寿命演算を行うことができる。実施例1では、ネットワーク回線を介して接続された画像形成装置2台について説明を行ったが、それ以上の台数の画像形成装置が接続されている場合にも適用可能である。複数台の画像形成装置が接続されていた場合、検知手段を有していない各画像形成装置のコントロールパネルから、特性値を取得する画像形成装置及び給紙トレイの情報を設定すればよい。
【0042】
実施例1によれば、ネットワーク回線を介して接続されたすべての画像形成装置が、記録媒体の特性値を検知する検知手段を有する必要がない。また、管理ユーザが提供する紙種を変更した場合も、紙種そのものを設定しているわけではないので、管理ユーザは、検知手段を有していない複数の画像形成装置の設定を変更する必要がなく、管理にかかる負担を低減することが可能である。また、実施例1では、画像形成装置100Aと画像形成装置100Bを、同じ構成として説明した。しかし、構成が異なる画像形成装置である場合には、寿命を演算する式(1)、式(2)に用いる積算摩耗量Wの寿命値Wmや各標準値Wps、Wrsに、各画像形成装置の構成に応じた値を用いることで、精度よく寿命演算を行うことができる。更に、実施例1では、寿命演算を行う際の特性値として表面平滑度及び厚みを用いたが、特性値はこれらに限られるものではない。また、検知手段が検知した結果を特性値とするのではなく、例えば、式(2)で用いたような補正係数P(S)を記録媒体の特性値としてもよい。
【0043】
以上述べてきたように、実施例1によれば、記録媒体の特性を検知する検知手段を有していない画像形成装置でも、寿命演算を精度よく行うことができ、また、画像形成装置の価格上昇を抑制し、管理ユーザの管理の負担を低減することが可能である。以上、実施例1によれば、記録媒体の特性を検知する手段を有していない画像形成装置においても、交換ユニットの寿命を精度よく予測することができる。
【実施例2】
【0044】
実施例2では、検知手段を有する画像形成装置が記録媒体の検知結果に基づき記録媒体の銘柄を予め用意されたリストの中から特定する。実施例2の画像形成装置がその銘柄に紐づけられた、検知手段では検知できない記録媒体の特性値を、ネットワーク回線を介して取得し、寿命演算を行う手法について説明する。
【0045】
[填料配合量及び剛度について]
本発明者らが検討を行ったところ、記録媒体の剛度と記録媒体に含まれる填料の配合量(以下、填料配合量という)とを考慮することで、加熱フィルム211の離型性層211Sの摩耗量を更に精度良く予測できることが判明した。記録媒体の剛度が高いほど、また記録媒体に含まれる填料の配合量が多いほど、単位ページ当たりの摩耗量が大きくなる。一般的なコピー用紙の場合、填料の主成分は炭酸カルシウムであるが、それ以外にもシリカ、酸化チタン、タルク、クレーなどが含まれる。そこで実施例2では、搬送回転体の劣化度合いを予測演算する際に、記録媒体の剛度及び記録媒体に含まれる填料の配合量を特性値として用いることとする。
【0046】
しかしながら、一般に画像形成装置が有するセンサでは、記録媒体の剛度及び填料配合量の測定は困難であり、検知できないおそれがある。実施例2の画像形成装置は、表2に示すような管理ユーザが提供する記録媒体について、その銘柄、特性値及び検知手段による検知結果の代表値のリストの情報を制御演算部10内に有している。
【0047】
【表2】
ここで、表2は、1列目に用紙Pの銘柄(記録媒体A等)、2列目に用紙Pの厚み、3列目に表面平滑度、4列目に剛度(mN)、5列目に填料配合量(%)をそれぞれ示している。例えば、用紙Pの銘柄が記録媒体Dであるとき、厚みは0.108、表面平滑度は29.29、剛度は106.19mN、填料配合量は19.41%である。表2のように、用紙Pの銘柄と、厚み、表面平滑度、剛度及び填料配合量とが関連付けられた情報を、以下、記録媒体リストという。
【0048】
[交換ユニットの寿命演算]
制御演算部10は、検知手段による検知結果と表2の情報とに基づいて、使用している用紙Pの銘柄を特定し、特性値である剛度及び填料配合量を用いて実施例1と同様に定着部21の寿命演算を行う。なお、その他の構成については、実施例1の画像形成装置と同じである。
【0049】
表2に示す記録媒体リストには、用紙Pの検知手段による検知結果の代表値として表面平滑度/厚みセンサ60で検知した表面平滑度及び厚みの情報が保存されている。記録媒体リストには、更に、画像形成装置100の表面平滑度/厚みセンサ60では検知できない特性値である剛度及び填料配合量が保存されている。実施例2において填料配合量は、JIS P8251記載の灰分量試験方法を用いて求めた。これ以外にも例えば蛍光X線を用いた定量分析手法により、前述した各種填料の配合量を成分ごとに算出し、それらの総和を配合量として用いてもよい。また、特定の成分に着目して配合量として用いるなどしてもよい。そして、この検討における用紙Pの剛度の測定方法としてはJIS P8143記載のクラークこわさ試験機法を採用した。しかし、例えばJAPAN TAPPI No.40のガーレ法やJIS P8125のテーバーこわさ試験機法、又はTAPPI UM409の簡便法など、クラーク剛度と相関性のある他の手法を用いて測定してもよい。これら他の手法を用いて測定しても、加熱フィルム211の離型性層211Sの摩耗量と同様の相関関係が得られると考えられる。
【0050】
実施例2の画像形成装置100Aは、前述した表面平滑度/厚みセンサ60によって、用紙Pの表面平滑度及び厚みの検知結果を制御演算部10に出力する。制御演算部10は、表面平滑度/厚みセンサ60の検知結果と表2の記録媒体リストとに基づいて用紙Pの剛度及び填料配合量を特定し、寿命演算を行う。
【0051】
実施例2の画像形成装置100Aの制御演算部10は、前述した積算摩耗量Wを計算する際に、
図5に示す補正係数マトリクスから0.5~1.6の補正係数P’(S)を求める。
図5は縦に填料の配合量(%)、横にクラーク剛度を示している。例えば、表面平滑度/厚みセンサ60の検知結果及び表2の記録媒体リストにより、填料配合量が20%、クラーク剛度が130と求められた場合、制御演算部10は
図5から補正係数P’(S)を1.1と求める。そして、制御演算部10は、次の式(4)に示すように、1ページ当たりの摩耗量を前述の標準値に乗算したうえでページ毎に積算する。
積算摩耗量W(μm)=Σ(標準値×P’(S)) 式(4)
補正係数P’(S)は用紙Pの剛度が低いほど、また填料配合量が少ないほど小さい。
【0052】
実施例2において、管理ユーザがユーザに提供する紙種を変更した場合には、制御演算部10は、用紙Pが変更されたと判別し、検知結果と記録媒体リストとを照合して、記録媒体リストより寿命演算に必要な剛度及び填料配合量を得る。そして制御演算部10は、
図5の補正係数マトリクスより、紙種を変更した後の新たな補正係数P’(S)(新たな補正係数をP(Snew)ともいう)を求め、精度の良い寿命演算を行うことができる。なお、その他については実施例1と同様である。
【0053】
[検知手段を有しない画像形成装置による用紙の特性値の取得]
実施例2でも、画像形成装置100Bをネットワーク回線に接続する際には、管理ユーザは、以下の動作を行う。すなわち、画像形成装置100Bのコントロールパネル35’から実施例1と同様に、画像形成装置100Bの各給紙トレイ15’に対して、画像形成装置100Aのどの給紙トレイ15に積載された用紙Pの特性値を取得するかを設定する(
図4(b)参照)。実施例2では、取得する特性値は、画像形成装置100Aが各給紙トレイ15に積載された用紙Pを検知した結果と表2の記録媒体リストとから特定した寿命演算に用いる特性値(例えば、填料配合量やクラーク剛度等)となる。
【0054】
実施例2によれば、画像形成装置100Bは、前述した寿命を演算する際に、画像形成装置100Aから取得した記録媒体の特性値を使用することで、精度の良い寿命演算を行うことができる。画像形成装置100Bは、記録媒体の特性値を検知する検知手段と記録媒体の記録媒体リストを記憶する記憶手段とを有する必要がないため、価格上昇を抑制できる。また、管理ユーザは、記録媒体の記録媒体リストを更新する場合に、画像形成装置100Aの記録媒体リストのみを更新するだけでよく、管理にかかる負担を低減することが可能である。
【0055】
以上述べてきたように、実施例2によれば、記録媒体の特性を検知する検知手段を有していない画像形成装置でも、寿命演算を精度よく行うことができ、また、画像形成装置の価格上昇を抑制し、管理ユーザの管理の負担を低減することが可能である。以上、実施例2によれば、記録媒体の特性を検知する手段を有していない画像形成装置においても、交換ユニットの寿命を精度よく予測することができる。
【実施例3】
【0056】
実施例3では、ネットワーク回線を介して接続された複数の画像形成装置の中に、検知手段により検知することができる特性値の数が異なる画像形成装置が存在する構成について説明する。複数の画像形成装置の中で、検知手段により検知することができる特性値の数が少ない検知手段を有する画像形成装置は、検知することができる特性値の数が多い検知手段を有する画像形成装置から記録媒体の特性値を取得する。
【0057】
[ネットワークに接続された複数の画像形成装置]
図6は、実施例3の接続部55を介してネットワーク回線に接続された複数の画像形成装置を示す図である。このうち、画像形成装置100Aは用紙Pの特性値を検知する第1の検知手段として表面平滑度/厚みセンサ60を有している。一方、画像形成装置100Cは、用紙Pの特性を検知する第2の検知手段として、表面平滑度/厚みセンサ60よりも検知することができる特性値が少ない厚みセンサ60’を有している。
【0058】
[画像形成装置の構成]
図7は、実施例3の画像形成装置100Cの概略断面図である。画像形成装置100Cは、厚みセンサ60’を有する点と、給紙トレイが給紙トレイ15A’の1つである点を除き、実施例1で説明した画像形成装置100Aの構成と同様である。なお、画像形成装置100Cについて、画像形成装置100Aと共通する部材については同じ符号を用い、以下の説明においては画像形成装置100Aの部材と区別するために符号の末尾に「’」を付す。また、実施例1と同様に用紙Pの表面平滑度及び厚みを特性値として、寿命演算する際に用いている。
【0059】
[厚みセンサ60]
図8(a)は、厚みセンサ60’の構成を示す概略断面図である。厚みセンサ60’は、
図3(b)に示した表面平滑度/厚みセンサ60から、表面平滑度センサを削除することで、センサの小型化とコストダウンを図ったセンサである。すなわち、厚みセンサ60’は、第1の光照射手段である照射用LED621を有していない。厚みセンサ60’の測定原理は、前述した表面平滑度/厚みセンサ60における厚み測定の原理と同様である。例えば、個人の卓上で使用することを前提とした小型の画像形成装置には、小型の厚みセンサ60’であれば搭載が可能である。
【0060】
画像形成装置100Cは、厚みセンサ60’によって、用紙Pの厚みの情報を制御演算部10に出力する。制御演算部10は、用紙Pの厚みを特性値として、1つの特性値に基づいて寿命演算を行うことができる。しかしながら、実施例1の様に表面平滑度及び厚みの2つの特性値を用いて寿命演算を行った場合と比較して、精度よく寿命演算を行うことができない。
【0061】
[画像形成装置100Cによる用紙の特性値の取得]
実施例3の特徴である、検知できる特性値の数が少ない厚みセンサ60を有する画像形成装置100Cが、検知できる特性値の数が多い表面平滑度/厚みセンサ60を有する画像形成装置100Aから用紙Pの特性値を取得する手法について説明する。管理ユーザは、画像形成装置100Cをネットワーク回線に接続する際に、次の操作を行う。すなわち、画像形成装置100Cの給紙トレイ15A’に積載される用紙Pの特性値を、ネットワーク回線を介して接続された画像形成装置100Aから取得するように、画像形成装置100Cのコントロールパネル35’から設定メニューを用いて設定する。なお、設定メニューについては後述する。
【0062】
【表3】
表3は、画像形成装置100Aの各給紙トレイ15と画像形成装置100Cの給紙トレイ15A’に積載されている用紙の紙種の例を示す。例えば、画像形成装置100Aの給紙トレイ15Aには記録材Aが積載され、給紙トレイ15Bには記録材Bが積載され、給紙トレイ15Cには記録材Cが積載されている。一方、画像形成装置100Cの給紙トレイ15A’には記録材Aが積載されている。このような場合、管理ユーザは、
図8(b)に示すように、画像形成装置100Cのコントロールパネル35’から、給紙トレイ15A’の用紙Pの特性値を画像形成装置100Aから取得するように設定する。ここで、
図8(b)は、用紙Pに関するパラメータを管理し設定するためのメニューが表示された画面を示す図である。
【0063】
図8(b)は、画像形成装置100Cについて、給紙トレイ15A’のトレイの設定に、参照するプリンタ名(画像形成装置100A)が設定された様子を示す。ここで、OKボタンが押下されると、設定メニューで設定された情報が、例えば制御演算部10’に記憶される。以上のように、画像形成装置100Cの給紙トレイ15A’と、画像形成装置100Aとが、関連付けられて記憶される。
【0064】
画像形成装置100Cの制御演算部10’は、厚みセンサ60’によって検知した給紙トレイ15’に積載された記録材Aの厚み情報を、コントロールパネル35’で設定された画像形成装置100Aに接続部55’を介して送信する。上述したように、画像形成装置100Aでは、制御演算部10に各給紙トレイ15と、各給紙トレイ15に積載された用紙Pの特性値とが、関連付けられて記憶されている。画像形成装置100Aの制御演算部10は、画像形成装置100Cから受信した用紙Pの厚みの情報と、制御演算部10に保存された画像形成装置100Aの各給紙トレイ15Aに積載されている用紙の厚みの情報とを比較する。そして、制御演算部10は、それらの情報の中から同じ厚みである記録材Aを特定する。制御演算部10は、記録材Aを特定したのち、保存されている記録材Aの表面平滑度の情報を、接続部55を介して画像形成装置100Cに送信する。画像形成装置100Cの制御演算部10’は、画像形成装置100Aから受信した記録材Aの表面平滑度の情報を給紙トレイ15A’と紐づけて保存する。
【0065】
画像形成装置100Cは、前述した寿命を演算する際に、画像形成装置100Aから取得した記録材Aの表面平滑度の情報と厚みセンサ60’により検知した記録材Aの厚みの情報とを特性値として寿命演算に使用する。これにより、精度良く寿命演算を行うことができる。また、画像形成装置100Cは厚みセンサ60’を有している。例えば、用紙Pを補給する際に、ユーザが給紙トレイ15A’に積載されていた用紙Pとは異なる紙種の用紙Pを補給してしまう場合(以下、誤積載という)がある。このような誤積載が発生した場合には、制御演算部10’は、厚みセンサ60’によって用紙Pの厚みを検知した結果から、補給の前後で用紙Pの紙種が異なることを検知することができる。また、誤積載を検知した場合、制御演算部10’は、コントロールパネル35’に異なる紙種が積載されたことを表示し、ユーザに正しい紙種を積載するように促す。これとともに制御演算部10’は、前述した方法により画像形成装置100Aから用紙Pの表面平滑度の情報を取得し、寿命演算を行う。
【0066】
以上述べてきたように、実施例3によれば、検知する特性値の数が少ない検知手段を有する画像形成装置でも、寿命演算を精度よく行うことができる。また、誤積載を検知しユーザに通知するとともに、誤積載された用紙Pの紙種の特性値を新たに取得して、取得した特性値に基づいて寿命演算を行うことができる。
【0067】
実施例3では、画像形成装置100Cは、画像形成装置100Aから用紙Pの表面平滑度の情報を取得するものとした。しかし、画像形成装置100Aが実施例2と同様に記録媒体リストを有しており、画像形成装置100Aから剛度及び填料配合量の情報を取得して、寿命演算を行うことでもよい。また、画像形成装置100Aで求められた補正係数P(S)を特性値の情報として取得して寿命演算を行う構成としてもよい。また、画像形成装置100Cが複数の給紙トレイ15’を有しており、表面平滑度/厚みセンサ60を有した複数の画像形成装置がネットワーク回線に接続されている場合には、次のようにすることが可能である。例えば、画像形成装置100Cのコントロールパネル35’から給紙トレイ15’毎に異なる画像形成装置から用紙Pの特性値を取得するように設定することが可能である。すなわち、
図8(b)のトレイ設定及びプリンタ名の空欄となっている箇所に、給紙トレイ15B’、給紙トレイ15C’・・・を追加し、それぞれの給紙トレイに対して画像形成装置を設定すればよい。
【0068】
更に、これまで説明した各実施例では、劣化度合いの予測演算を行う対象としての搬送回転体として加熱フィルム211を用いた。しかし、本発明はこれに限定されるものでなく、例えば加熱フィルム211以外に、定着部21を構成する部品である加圧ローラ21aに適用してもよい。また、定着部21の寿命演算には加熱フィルム211の摩耗量の予測演算値のみを用いたが、前述した定着部21を構成する他の部品の劣化度合いなどを総合的に考慮して寿命演算を行うようにしてもよい。更に、定着部21以外にも2次転写ローラや給紙ローラなど、用紙Pの表面に当接して用紙Pの搬送に寄与する搬送回転体全般に適用することが可能である。
【0069】
以上、実施例3によれば、記録媒体の特性を検知する手段を有していない画像形成装置においても、交換ユニットの寿命を精度よく予測することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 制御演算部
15 給紙トレイ
55 ネットワーク接続部
60 表面平滑度/厚みセンサ
211 加熱フィルム