(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】基板保持盤、基板保持盤の製造方法、露光方法および露光装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240729BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20240729BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
H01L21/68 N
G02B1/115
G03F7/20 501
(21)【出願番号】P 2023099100
(22)【出願日】2023-06-16
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2022101149
(32)【優先日】2022-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 英生
(72)【発明者】
【氏名】福井 慎次
(72)【発明者】
【氏名】龍野 俊直
(72)【発明者】
【氏名】平林 敬二
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-239088(JP,A)
【文献】登録実用新案第3198796(JP,U)
【文献】特開2022-085816(JP,A)
【文献】特表2019-522236(JP,A)
【文献】特表2015-507367(JP,A)
【文献】特開2019-099906(JP,A)
【文献】特開2021-060573(JP,A)
【文献】特表2009-539240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
G02B 1/115
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を備えた基板保持盤であって、
少なくとも前記基材のうち、前記基板保持盤の最上面の側に設けられた、ダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第1層と、
前記第1層の直上に設けられ、前記第1層よりも窒素濃度が高いダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第2層と、を備え、
前記第2層の厚さが、5nm以上200nm以下であることを特徴とする基板保持盤。
【請求項2】
前記第2層の厚さは、5nm以上60nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の基板保持盤。
【請求項3】
前記第2層の厚さは、5nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の基板保持盤。
【請求項4】
前記第1層の窒素濃度は0.2at%以下であり、前記第2層の窒素濃度は0.2at%より大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の基板保持盤。
【請求項5】
前記第2層の窒素濃度は3at%以上であることを特徴とする請求項4に記載の基板保持盤。
【請求項6】
前記第2層の窒素濃度は、前記第2層のうち前記第1層とは反対の側から、前記第1層の側に向かって低くなることを特徴とする請求項1または2に記載の基板保持盤。
【請求項7】
基材を備えた基板保持盤であって、
少なくとも前記基材のうち、前記基板保持盤の最上面の側に設けられた、ダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第1層と、
前記第1層の直上に設けられ、前記材料より窒素濃度が高いダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第2層と、
前記第2層の直上に設けられたダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第3層と、
を備え、
前記第2層の窒素濃度は、前記第2層のうち前記第1層とは反対の側から、前記第1層の側に向かって低く
、
前記第3層の屈折率は、前記第2層の屈折率よりも低いことを特徴とする基板保持盤。
【請求項8】
前記第2層は、窒素濃度が5at%以上30at%以下の部分と、窒素濃度が3%以下の部分を有していることを特徴とする請求
項7に記載の基板保持盤。
【請求項9】
前記第3層の厚さは、30nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項
7に記載の基板保持盤。
【請求項10】
前記第3層は、水素濃度が5at%以上50at%未満であることを特徴とする請求項
7に記載の基板保持盤。
【請求項11】
前記第3層は、a-C:Hであることを特徴とする請求項
7に記載の基板保持盤。
【請求項12】
前記基板保持盤の最上面は、前記第3層によって形成されていることを特徴とする請求項
7に記載の基板保持盤。
【請求項13】
基材を備えた基板保持盤であって、
少なくとも前記基材のうち、前記基板保持盤の最上面の側に設けられた、ダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第1層と、
前記第1層の直上に設けられ、前記材料より窒素濃度が高いダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第2層と、を備え、
前記第2層の窒素濃度は、前記第2層のうち前記第1層とは反対の側から、前記第1層の側に向かって低く、
前記第2層の前記第1層の側とは反対の側に第3層を備え、前記第3層の屈折率は、前記第2層の屈折率より低く、
前記第3層は、水素濃度が5at%以上50at%未満であることを特徴とする基板保持盤。
【請求項14】
前記第1層および前記第2層は水素濃度が5at%以上50at%未満であることを特徴とする請求項1または7に記載の基板保持盤。
【請求項15】
前記第1層は、a-C:Hであることを特徴とする請求項1または7に記載の基板保持盤。
【請求項16】
前記第1層の厚さは、0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする請求項1または7に記載の基板保持盤。
【請求項17】
基材を備えた基板保持盤であって、
少なくとも前記基材のうち、前記基板保持盤の最上面の側に設けられ、窒素を含むダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第1層と、
前記第1層の直上に設けられたダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第2層と、
前記第2層の直上に設けられたダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第3層
と、を備え、
前記第3層は前記第2層よりも水素濃度が低いことを特徴とする基板保持盤。
【請求項18】
前記第2層と第3層の厚さの合計は、5nm以上250nm以下であることを特徴とする請求項17に記載の基板保持盤。
【請求項19】
前記第3層の水素濃度が25at%以下であることを特徴とする請求項17に記載の基板保持盤。
【請求項20】
前記第3層の厚さは3nm以上20nm以下であることを特徴とする請求項17に記載の基板保持盤。
【請求項21】
基材を備えた基板保持盤であって、
少なくとも前記基材のうち、前記基板保持盤の最上面の側に設けられ、窒素を含むダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第1層と、
第1層の直上に設けられたダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第2層を備え、
前記第2層の水素濃度は25at%以下であることを特徴とする基板保持盤。
【請求項22】
前記第1層の窒素濃度は、前記第2層の窒素濃度より高いことを特徴とする請求項17または21に記載の基板保持盤。
【請求項23】
前記基板保持盤の最上面は、算術平均粗さRaが0.4μm以上4μm以下の粗面であることを特徴とする請求項1または7または17または21に記載の基板保持盤。
【請求項24】
請求項1または7または17または21に記載の基板保持盤に基板を載置し、前記基板を露光することを特徴とする露光方法。
【請求項25】
前記基板を露光する光の波長は、300nm以上400nm以下であることを特徴とする請求項24に記載の露光方法。
【請求項26】
請求項1または
7に記載の基板保持盤を製造する方法であって、ダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる層に、窒素イオンを注入し、前記第2層を形成することを特徴とする製造方法。
【請求項27】
前記窒素イオンは、プラズマイオン注入法で注入することを特徴とする請求項26に記載の製造方法。
【請求項28】
請求項1または7または17または21に記載の基板保持盤と、
光源と、前記光源から発せられた光を基板に照射する光学系と、前記基板保持盤を移動させる移動手段と、を備えていることを特徴とする露光装置。
【請求項29】
前記光学系は、透過型レンズを含むことを特徴とする請求項2
8に記載の露光装置。
【請求項30】
前記光学系は、ミラーを含む反射型であることを特徴とする請求項2
8に記載の露光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板保持盤、基板保持盤の製造方法、露光方法および露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置ではシリコンやガラス、SiCなどからなる基板を対象として露光処理を行う。露光処理を行う際には、基板保持盤で基板を保持するが、基板保持盤は、経年的な使用によって接触面が摩耗してしまうため、基板保持盤の表面をDLC(ダイヤモンドライクカーボン)で被覆する形態が知られている。
【0003】
しかしDLCは誘電体であり電気抵抗率が高く、基板や基板保持盤が帯電し易い。基板や基板保持盤が帯電すると、溜まった電荷の放電により基板上にパターニングした回路が破壊されてしまう虞があった。
【0004】
そこで特許文献1では、基板を支持する部品に、伝導性を有する、窒素がドープされたDLC被覆を設ける構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の形態では、基板保持盤の表面を紫外線等の光で露光した場合に、DLCが酸化してしまう虞があった。
【0007】
そこで本発明は、基板保持盤のDLCの酸化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1の手段は、基材と、前記基材の少なくとも基板を保持する面側に設けられた、ダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第1層と、前記第1層の直上に設けられ、前記第1層よりも窒素濃度が高いダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第2層と、を備え、前記第2層の厚さが、5nm以上200nm以下であることを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するための第2の手段は、基材と、前記基材の少なくとも基板を保持する面側に設けられた、ダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第1層と、前記第1層の直上に設けられ、前記材料より窒素濃度が高いダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第2層と、を備え、前記第2層の窒素濃度は、前記第2層のうち前記第1層とは反対の側から、前記第1層の側に向かって低くなることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するための第3の手段は、基材と、前記基材の最上面の側に設けられ、窒素を含むダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる層(第1層)と、前記第1層の直上に設けられたダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第2層と、前記2層の直上に設けられたダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第3層からなり、前記第3層は前記2層よりも水素濃度が低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
基板保持盤のDLCの酸化を抑制する上で有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】(a)は、第1実施形態に係る基板保持盤を説明する模式図であり、(b)は円11で囲んだ部分を拡大した図であり、(c)は(b)の円12で囲んだ部分を拡大した図である。
【
図3】(a)は、第2実施形態に係る基板保持盤を説明する模式図であり、(b)は円11で囲んだ部分を拡大した図であり、(c)は(b)の円12で囲んだ部分を拡大した図である。
【
図4】(a)は、第3実施形態に係る基板保持盤を説明する模式図であり、(b)は円11で囲んだ部分を拡大した図であり、(c)は(b)の円12で囲んだ部分を拡大した図である。
【
図5】(a)は、第4実施形態に係る基板保持盤を説明する模式図であり、(b)は円11で囲んだ部分を拡大した図であり、(c)は(b)の円12で囲んだ部分を拡大した図である。
【
図6】(a)は、第5実施形態に係る基板保持盤を説明する模式図であり、(b)は円11で囲んだ部分を拡大した図であり、(c)は(b)の円12で囲んだ部分を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態を説明する。ただし、以下に説明する形態は、発明の1つの実施形態であって、これに限定されるものではない。そして、共通する構成を複数の図面を相互に参照して説明し、共通の符号を付した構成については適宜説明を省略する。同じ名称で別々の事項については、それぞれ、第一の事項、第二の事項というように、「第〇」を付けて区別することができる。
【0014】
図1(a)に、本実施形態に係る第1例の基板保持盤の斜視図を示す。本実施形態における基板保持盤1は、基部2と、基部2の上に設けられた突部3とを有している。基板保持盤1の2つの主面(表面と裏面)のうちの一方の面(便宜的に表面とする)が、最上面32であり、基部2に対して最上面32側に突部3が設けられているが、突部3は省略可能である。最上面32は、基板7を載置する側の面のうち、基板保持盤1の周囲の雰囲気と接触する面であり、必ずしも基板7と接触する面ではない。
【0015】
図1(b)に、
図1(a)の基板保持盤1に基板7を載置する際の斜視図を示す。基部2と、基部2の上に設けられた突部3が、基板7の保持を行う。突部3で基板7を支持することで、基板保持盤1と基板7との接触面積が小さくなり、突部3が設けられていない場合に比べて、基板7の損傷を抑制することができる。第1例の基板保持盤1に載置する基板7は、電子デバイスの製造に用いられる基板7である。この基板7は、電子デバイスの一部を構成しうるが、電子デバイスの製造の途中で除去されて、電子デバイスを構成しない場合もある。基板7は、例えば有機ELディスプレイや液晶ディスプレイ、太陽電池パネルなどの製造に用いられるガラス基板や樹脂基板、サファイア基板でありうる。
【0016】
本例の基板保持盤1には吸引孔部4が設けられており、吸引孔部4を介して基板7の真空吸着を行うが、真空吸着を行わない基板保持盤にも適用でき、その場合には、吸引孔部4は省略しても良い。
【0017】
図1(c)に、本実施形態に係る第2例の基板保持盤の斜視図を示す。
図1(d)に、
図1(c)の基板保持盤1に基板7を載置する際の斜視図を示す。第2例の基板保持盤1は、その外形が円形である点で、
図1(a)と異なるが、その他の構成は同じである。第2例の基板保持盤1に載置する基板7は、例えばSiウェーハやSiCウェーハなどの半導体基板、ガラスウェーハやプラスチックウェーハやサファイアなどの絶縁体基板でありうる。
【0018】
図1(a)~(d)に示した基板保持盤1は、様々な電子デバイスの製造装置に用いることができる。例えば、基板7の上に塗布されたフォトレジストを露光する露光装置において、基板7を保持する際に用いることができる。露光装置用だけではなく、成膜装置用やエッチング装置用などにも用いることができる。
図1(e)に示すように複数個の基板保持盤1を並べて、基板保持具111として使用することができる。
【0019】
<第1実施形態>
次に、
図2を用いて、第1実施形態の説明を行う。
図2(a)は、
図1(a)の円10で囲んだ範囲を拡大した断面図であり、
図2(b)は、
図2(a)の円11で囲んだ範囲を拡大した図であり、
図2(c)は、
図2(b)の円12で囲んだ範囲を拡大した図である。
【0020】
本実施形態の基板保持盤1は、
図1(a)あるいは
図1(c)で説明したように、基部2と、突部3とを有している。突部3の上面には、突部3と界面をなす被覆層51と、被覆層51よりも窒素濃度が高い被覆層52を有しており、被覆層51と被覆層52はどちらもDLC(ダイヤモンドライクカーボン)で構成される。DLCとは、炭素を主成分としたダイヤモンドとグラファイトに対して、それぞれの特徴の中間的な特性を示す材料である。DLCにはいくつかの種類があり、水素を5at%以上50at%以下だけ含んだ水素化アモルファスカーボン(a-C:H)や、水素濃度が5at%未満のテトラヘドラルアモルファスカーボン(ta-C)などが挙げられる。ここで、水素濃度は、被覆層全体を100%とした場合の水素が含有されている割合(水素含有量)を示す。最上面32は、突部3の上面および基部2の上面に設けられた被覆層52によって形成されている。突部3は省略可能であり、突部3を省略した場合、基部2の上面に被覆層51が設けられ、被覆層51の直上に被覆層52が設けられる。すなわち本実施形態においては、基部2と被覆層51は界面をなし、被覆層52は被覆層51の直上に設けられる。本実施形態においては、被覆層51と被覆層52の2層が積層されているが、被覆層51と被覆層52が密着していればよく、被覆層51の下に別の層を設け、3層以上としてもよい。
【0021】
基部2について説明する。基部2は、構成部21、構成部22、構成部23から構成されている。構成部21、構成部22、構成部23のそれぞれは、互いに同じ材料からなる。少なくとも共通の材料で構成されている構成部21、22、23を基材と呼び、前記材料と共通の材料で構成されている部分も基材と呼ぶ。構成部21、22、23はそれぞれ、同一平面上に位置している。また、構成部21、22,23の下面もそれぞれ、同一平面上に位置しており、最上面32の反対側である裏面24を構成している。構成部22は、構成部21と構成部23の間に位置している。構成部21、構成部23の上には被覆層51と被覆層52があることが好ましく、表面抵抗率を低減することができる。
【0022】
基材を構成する材料はセラミックス、ガラス、プラスチック、金属などでもよいが、特にセラミックスが好ましい。セラミックスの例としては、アルミナ、ブラックアルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化珪素、コージライトなどが挙げられる。さらには、被覆層51、被覆層52を付けた状態で基板保持盤として適度な抵抗率とするためには基材の表面抵抗率は1.0E7Ω/sq以上1.0E10Ω/sq以下の範囲であることが好ましい。基板保持盤として適度な表面抵抗率とは1.0E6Ω/sq以上5.0E9Ω/sq以下の範囲である。これは、表面抵抗率が高すぎると帯電しやすくなってしまう一方で、低すぎると、帯電した電荷が放電(スパーク)しやすくなるからである。
【0023】
突部3について説明する。突部3は、基部2のうち構成部22の上に存在しており、構成部21、構成部23の上には、突部3は存在しておらず、空間が設けられている。突部3は、構成部21の上の空間と、構成部23の上の空間との間に存在しており、空間は2つの突部3の間に存在している。
【0024】
突部3は、基部2と同じ材料からなる構成部31を有しており、突部3の上面に突部3と界面をなす被覆層51と、被覆層51と界面をなす被覆層52が設けられている。構成部31は、構成部21~23と共通の材料で形成され、構成部31も基材の一部である。
【0025】
突部3の形状および配列ピッチは、基板7の支持が可能であればよく、例えば、円錐台形状又は円柱形状に形成される。突部3のピッチは、例えば1mm以上100mm以下であり、1mm以上10mm以下が好ましい。また突部3の高さは、例えば10μm以上1mm以下であり、0.1mm以上0.8mm以下が好ましい。
【0026】
吸引孔部4について説明する。吸引孔部4は、突部3上に載置した基板7を吸着保持するため、吸引孔部4の下側開口部が真空ポンプ(図示略)に接続され、突部3の周辺の空気を吸引減圧できるように構成されている。突部3を設けることで、設けない場合に比べて、より多くの空気を吸引することができる。吸引孔部4の側面は、本例では被覆層51によってコーティングされているが、基板7と対向する面ではないため、被覆層51でコーティングされていなくても良い。同様に、被覆層51は、基部2の裏面24、基部2の側面240にコーティングされている必要はない。
【0027】
次に、被覆層51と被覆層52について説明する。本実施形態においては、被覆層51と被覆層52はDLCを含む材料からなり、被覆層52の窒素濃度を被覆層51の窒素濃度よりも高くすること、および被覆層52の厚さを5nm以上200nm以下とすることで高い耐摩耗性、低い表面抵抗率を達成する。また同様にして、(特に紫外線照射時の)酸化の被覆に及ぼす影響を低減する効果が得られる。その理由を順に説明する。
【0028】
まず被覆層51および被覆層52はDLCであり、摩擦係数が基材のセラミックスに比べて低いため、セラミックスより低摩擦である。そのため、基板7との摺動時に基板保持盤1の最上面32にかかるせん断応力が小さいので耐摩耗性が高くなる。また、基材の材料によっては、基材よりもDLCの方が硬くなり、耐摩耗性が向上する効果も加味される。
【0029】
次に、DLCに不純物として窒素を含ませるとバンドギャップが小さくなるため、DLCの抵抗率が下がる。発明者らは、窒素を含んだDLCが5nm以上であれば基板保持盤1の帯電を抑えられる程度の表面抵抗率にまで下げられることを見出した。
【0030】
最後に耐酸化性について説明する。DLC中の窒素濃度が高いほど膜中の結合力が弱くなり耐酸化性が劣る。従って、被覆層52は被覆層51よりも耐酸化性が低い。また、紫外線による酸化は膜の表面部から徐々に内部にまで進行していく。ここで、被覆層52が紫外線の侵入深さよりも厚い場合は、紫外線照射による酸化の影響を受けて被覆層52の深い位置まで酸化されてしまう。一方で、被覆層52が十分に薄い場合は、紫外線によって被覆層52が一番底の部分まで酸化したとしても、その下にある被覆層51によってさらに膜内部へ酸化が進行することを抑制できる。両者を比較した場合、後者の方が酸化される厚さを少なくすることができる。すなわち、紫外線照射による酸化の影響を低減する効果が得られる。例えば波長365nmの紫外線が消衰係数0.33のDLCに侵入する際、光のエネルギー(光の振幅の2乗)が1/10に減衰するのは深さ200nm程度のところである。従って、被覆層52の厚さを200nm以下にすれば、被覆層51および52を一体に考えた場合に、紫外線を照射した時の耐酸化性を向上させることができる。すなわち、被覆層52の厚さは、光のエネルギーが1/10に減衰する深さであることが好ましい。また、光のエネルギーが1/2に減衰する深さ、すなわち60nmであればより好ましい。被覆層52が酸化することで、耐摩耗性の低減、膜厚の減少、反射率ムラの発生などの悪影響が起こる。反射率ムラが発生した状態とは、被覆層52の一部が酸化することで反射率が変化し、基板保持盤1における反射率が均一でない状態であり、反射率が均一でない場合、基板7の露光結果にもムラができてしまう虞がある。そのため、紫外線照射前と照射後で光の反射率が変化しづらい被覆層であることが好ましい。
【0031】
また、DLC中の酸素濃度が増加すると、C-C結合の数が減少し、DLCが脆くなってしまう。すなわち酸化した層は、酸素濃度が増加し、DLCの強度が低減する虞があるが、被覆層52が200nm以下であれば、十分な強度を確保することができる。さらに、実際に酸化したDLCを分析すると、紫外線を照射する前より酸素濃度が1at%以上増えているのは、表面から深さ30nmの範囲であった。従って、被覆層52の厚さが30nm以下であれば、被覆層51および52を合わせた強度を保持する上で、より大きな効果を得ることができる。
【0032】
被覆層51に含まれる窒素の濃度は0.2at%以下、被覆層52に含まれる窒素の濃度は1at%以上であることが好ましいが被覆層52に含まれる窒素の濃度は0.2at%より大きければよい。「被覆層52が被覆層51よりも窒素濃度が高い」とは被覆層51に窒素が含まれていない場合を含む。被覆層51では窒素濃度が低いほど高い耐酸化性が得られる。また、被覆層52においては薄くても低い抵抗率を得るために窒素濃度が1at%以上必要である。そして、より好ましくは被覆層52に含まれる窒素は3at%以上あるとよい。
【0033】
被覆層51は耐摩耗性を確保する観点から0.1μm以上の厚さであることが好ましく、逆に膜応力による剥離が起きないように5μm以下の厚さであることが好ましい。
【0034】
被覆層52は平坦な面でなく、粗面であることが好ましい。粗面とはここでは算術平均粗さRaが0.4μm以上4μm以下の粗さの面のことを言う。被覆層52が基板保持盤1の最上面32を形成する場合、最上面32が粗面であることで、基板保持盤1における反射率を低減することができる。被覆層52だけでなく被覆層51の被覆層52側の面および凸部3の上面が粗面でも良い。基板保持盤1における反射率の観点から、被覆層52の厚さは、使用する光の波長の1/4とは異なることが好ましく、光の波長の1/4より小さいことが好ましい。
【0035】
<第2実施形態>
次に
図3を用いて、第2実施形態に係る基板保持盤1を説明する。本実施形態は、被覆層の構成が第1実施態様と異なるだけで、基板保持盤1の外観は第1実施態様と変わらない。そのため、本実施形態の説明にも、
図1を参照する。
図3(a)は、
図1(a)あるいは
図1(c)の円10で囲んだ範囲を拡大した断面図であり、
図3(b)は、
図3(a)の円11で囲んだ範囲を拡大した図であり、
図3(c)は、
図3(b)の円12で囲んだ範囲を拡大した図である。
【0036】
本実施形態の基板保持盤1は、被覆層51の最上面32側に被覆層54を設けている点で第1実施形態と異なる。本実施形態では、被覆層51と被覆層52との間には、界面が存在しないが、便宜的に別の層として表現する。被覆層54は、窒素濃度が厚さ方向に対して傾斜したDLCからなる層である。窒素濃度が傾斜とは、被覆層54のうち最上面32側の窒素濃度が高く、被覆層51側に向かうに従って窒素濃度が低くなっていくことを表している。本実施形態においては、被覆層52は、窒素濃度が0.2at%以上の部分と規定し、被覆層51は窒素濃度が0.2at%未満と規定する。このように窒素濃度を傾斜させることで第1実施形態よりもさらに抵抗率を下げることができる。その理由を次のように考えている。
【0037】
第1実施形態では被覆層51と被覆層52とで膜の組成が異なるので、両者の間に界面が形成される。界面が形成された後に被覆層52が成長する際、成長初期の段階では、膜はXY方向に対して完全に連続な膜として成長するのではなく島状に成長すると推測される。一方で、第2実施形態の被覆層54は窒素濃度が連続的に変化しており、被覆層51と被覆層54の間でも窒素濃度が極端に変化するものではない。従って第2実施形態では明確な界面は形成されず、被覆層54の膜成長は、その初期段階から被覆層51の延長線上で進行すると考えられる。すなわち、被覆層54は初期段階からXY方向に対して連続な膜として成長すると考えられる。XY方向に対して連続な膜は、島状な膜よりもXY方向に電気を流しやすいことから、第2実施形態の方が第1実施形態よりも表面抵抗率が低くなる。
【0038】
被覆層54は、窒素濃度が5at%以上30at%以下の部分を有していることが好ましく、8at%以上20at%以下の窒素濃度であればより好ましい。同時に、窒素濃度が3at%以下の部分を有していることが好ましく、2at%以下の窒素濃度であればより好ましい。
【0039】
<第3実施形態>
次に
図4を用いて、第3実施形態に係る基板保持盤1を説明する。本実施形態は、被覆層の構成が第1実施態様と異なるだけで、基板保持盤1の外観は第1実施態様と変わらない。そのため、本実施形態の説明にも、
図1を参照する。
図4(a)は、
図1(a)あるいは
図1(c)の円10で囲んだ範囲を拡大した断面図であり、
図4(b)は、
図4(a)の円11で囲んだ範囲を拡大した図であり、
図4(c)は、
図4(b)の円12で囲んだ範囲を拡大した図である。
【0040】
本実施形態の基板保持盤1は、被覆層52の上に被覆層53を設けている点で第1実施形態と異なる。被覆層53は、被覆層52に比べて屈折率が低いDLCからなることが好ましく、被覆層53を設けることで基板保持盤1における反射率を低減することができる。被覆層53に限らず、被覆層52の上に設けられる層は、透光性がある材質であれば好ましい。被覆層53の厚さは、30nm以上200nm以下が好ましく、50nm以上150nm以下であればより好ましい。
【0041】
被覆層53の表面は、粗面とされていることが好ましい。最上面32を形成する被覆層53が粗面であることで、基板保持盤1の反射率を低減することができる。粗面の算術平均粗さRaはたとえば0.4μm以上4μm以下である。また被覆層52の層は、第2実施形態で説明した被覆層54でも良い。
【0042】
<第4実施形態>
次に
図5を用いて、第4実施形態に係る基板保持盤1を説明する。本実施形態は、被覆層の構成が第1実施態様と異なるだけで、基板保持盤1の外観は第1実施態様と変わらない。そのため、本実施形態の説明にも、
図1を参照する。
図5(a)は、
図1(a)あるいは
図1(c)の円10で囲んだ範囲を拡大した断面図であり、
図5(b)は、
図5(a)の円11で囲んだ範囲を拡大した図であり、
図5(c)は、
図5(b)の円12で囲んだ範囲を拡大した図である。
【0043】
本実施形態の基板保持盤1は、被覆層52の上に被覆層55と、被覆層55の上に被覆層56を設けている点で第1実施形態と異なる。被覆層55と被覆層56はDLCを含む材料からなり、被覆層56は被覆層55よりも水素濃度が低いことが望ましく、被覆層55と被覆層56を設けることで、紫外線照射時の酸化の影響をさらに低減するとともに、基板保持盤1における反射率も低減することができる。その理由を順に説明する。
【0044】
DLCは水素組成が増加すると、自由体積(原子レベルの余計な隙間)が増えて密度が低下し、屈折率が低下する傾向がある。しかし、DLCは水素組成が増加すると紫外線照射時に酸化されやすくなってしまう。想定されるメカニズムは、紫外線の吸収によりDLCに含有される水素原子が切断され、水素原子が切断されたDLCが酸素と反応すると言うものである。そのため、水素含有量が多いDLCは紫外線照射時に酸化されやすくなってしまうと考えられる。
【0045】
そこで、基板保持盤1における反射率を低減するためには、最表被覆層に屈折率の低い水素濃度が高いDLC(被覆層55)を設けると良いが、紫外線照射時の酸化の影響を低減するために、被覆層55の上に、さらに被覆層55よりも水素濃度が低い被覆層56を設けることが望ましい。被覆層56は、紫外線照射時の酸化の影響を低減するために、水素濃度は25at%以下に、膜厚は3nm以上することが望ましい。また、被覆層56は、基板保持盤1における反射率を低減するために、膜厚を20nm以下にすることが望ましい。
【0046】
被覆層52は、表面抵抗率が低減する効果とともに、膜の応力を緩和する効果もある。被覆層55と被覆層52の間には、ダイヤモンドライクカーボンを含む材料の層が単層または多層構成で挿入されていても構わない。また基板保持盤1と被覆層52の間には、ダイヤモンドライクカーボンを含む材料の層(被覆層51)が挿入されていて、かつ被覆層51は単層または多層でも構わない。
【0047】
<第5実施形態>
次に
図6を用いて、第5実施形態に係る基板保持盤1を説明する。本実施形態は、被覆層の構成が第1実施態様と異なるだけで、基板保持盤1の外観は第1実施態様と変わらない。そのため、本実施形態の説明にも、
図1を参照する。
図6(a)は、
図1(a)あるいは
図1(c)の円10で囲んだ範囲を拡大した断面図であり、
図6(b)は、
図6(a)の円11で囲んだ範囲を拡大した図であり、
図6(c)は、
図6(b)の円12で囲んだ範囲を拡大した図である。
【0048】
本実施形態の基板保持盤1は、被覆層52の上に被覆層57を設けている点で第1実施形態と異なる。被覆層57はDLCを含む材料からなり、水素濃度は25at%以下であることが好ましい。また基板保持盤1と被覆層52の間には、ダイヤモンドライクカーボンを含む材料の層(被覆層51)が挿入されていて、かつ被覆層51は単層または多層でも構わない。
【0049】
<露光装置>
図7は、先に説明した第1~第3実施形態のいずれかの基板保持盤を用いた露光装置の模式図を示している。露光装置である光学機器EQPは、光源14と、照明光学系を構成するミラー16、17を備える。また、光学機器EQPは、パターン形成手段であるレチクル18を支持するレチクルステージ19と、レチクル18に形成されたパターンを投影する投影光学系25と、基板7を支持する基板保持盤1とを備える。ここで、基板保持盤1は、第1~第3実施形態のいずれかの構成を有する。
【0050】
光源14からの露光光15は照明光学系のミラー16、17で反射されてレチクル18へ導かれる。レチクル18を透過した露光光15は投影光学系25で集光され、レチクルに形成されたパターンを基板7へ投影する。基板7、基板保持盤1は、基板移動手段26によって移動される。基板7にはフォトレジストが塗布されており、露光光15によってフォトレジストが露光される。基板7は半導体ウェーハであってもよいし、FPD(フラットパネルディスプレイ)用のガラス基板であってもよい。露光装置の露光光は典型的には紫外光である。露光光の波長は、g線光源であれば436nmであり、i線光源であれば約365nmである。KrFエキシマレーザー光源であれば約248nmであり、ArFエキシマレーザー光源であれば約193nmであり、EUV(極端紫外線)光源であれば10~20nmである。しかし、露光光の波長は上記のいずれも選択可能であるが、300nm以上400nm以下であることが好ましい。投影光学系は縮小投影型であってもよいし、等倍投影型であってもよいし、拡大投影型であってもよい。ここでは透過型のレチクル18を例示したが、反射型のレチクルを用いてもよい。投影光学系は透過型レンズを用いた屈折型であってもよいし、ミラーを用いた反射型であってもよい。
【0051】
<実施例>
次に、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。評価方法としては以下の(1)~(4)を用いた。
【0052】
(1)表面抵抗率の測定
作製した基板保持盤1の表面抵抗率を、ハイレスタ(日東精工アナリテック製、MCP-HT450)により測定した。使用したプローブはリングプローブ(MCP-HTP12)で、測定時の印加電圧は500Vとした。
【0053】
(2)DLC中の元素濃度分析
作製した基板保持盤1の被覆層51、被覆層52もしくは被覆層54の元素分析をX線光電子分光装置(XPS)(アルバック・ファイ製、QuanteraII)により行った。本文中の「窒素の含有率」は、Cの原子含有率とNの原子含有率とOの原子含有率の合計を100とした場合のNの原子含有率を用いている。
【0054】
(3)反射率の測定
作製した基板保持盤1の、波長365nmの光に対する反射率を分光測色計(コニカミノルタ製CM-26d)により測定した。
【0055】
(4)屈折率の測定
作製した基板保持盤1をエリプソメトリー(ジェー・エー・ウーラム製、EC―400)によって測定し、波長365nmの光に対する屈折率を求めた。
【0056】
(実施例1~3)
図2を用いて、実施例1~3で作製した基板保持盤1を説明する。基板保持盤1の基部2は厚さ60mmのブラックアルミナを用いた。突部3の形状は、直径0.8mm、高さ0.5mmの円柱形状とした。また、隣接する突部3のピッチは20mmとした。ブラックアルミナから成る基板保持盤1の表面抵抗率は1.1E9Ω/sqであった。
【0057】
被覆層51はプラズマCVDの1種であるイオン化蒸着法により成膜した水素化アモルファスカーボン(a-C:H)で、厚さ1μmとした。被覆層51の波長365nmの光に対する屈折率は2.09であった。イオン化蒸着による被覆層51の成膜条件は、材料ガスとしてメタン(CH4)とアセチレン(C2H2)の混合ガスを用い、基板バイアスとして-6kVをかけて成膜した。被覆層52は、イオン化蒸着法により成膜した窒素ドープ水素化アモルファスカーボン(Nドープa-C:H)であり、実施例1では厚さ10nm、実施例2では厚さ5nm、実施例3では厚さ20nmとした。被覆層52の波長365nmの光に対する屈折率は2.12であった。被覆層52の窒素濃度をXPSでデプス分析したところ、3.5~4.5%の範囲内であった。イオン化蒸着による被覆層52の成膜条件は、材料ガスとしてメタン(CH4)とアセチレン(C2H2)に窒素(N2)を混合したガスを用い、基板バイアスとして-6kVをかけて成膜した。
【0058】
実施例1~3の表面抵抗率の測定結果は以下のようになった。
実施例1:2.0E9Ω/sq
実施例2:3.5E9Ω/sq
実施例3:1.2E9Ω/sq
【0059】
実施例1~3の基板保持盤へ波長290nm~385nmの紫外線を50mW/cm2で24時間、大気中で照射し、照射前及び照射後の反射率を測定した。照射後の反射率から照射前の反射率を引いた結果は以下のようになった。
実施例1:-0.2%
実施例2:-0.1%
実施例3:-0.3%
【0060】
(実施例4~6)
図3を用いて、実施例4~6で作製した基板保持盤1を説明する。被覆層51の上に設けられた層が、被覆層54であること以外は実施例1と同様である。被覆層54は窒素濃度が傾斜したDLCを含んだ水素化アモルファスカーボンである。被覆層54の窒素濃度を膜厚方向に分析した結果を
図8に示した。
図8からわかるように、実施例4~6における被覆層54の厚さはそれぞれ7nm、8.5nm、9.5nmであった。
【0061】
被覆層54の表面の窒素濃度は8at%以上11at%以下であった。被覆層54の波長365nmの光に対する屈折率は2.11であった。被覆層54は、被覆層51の表面に対してイオン化蒸着の装置を使って、プラズマイオン注入法で窒素イオンを注入することで形成した。窒素ガスのみでプラズマを生起し、基板バイアスによってプラズマ中の窒素イオンを加速して基板保持盤1の表面へ入射させた。実施例4は基板バイアスを-8kV、実施例5は基板バイアスを-6kV、実施例6は基板バイアスを-4kVとした。
【0062】
実施例4~6の表面抵抗率の測定結果は以下のようになった。
実施例4:5.9E8Ω/sq
実施例5:7.0E8Ω/sq
実施例6:8.5E8Ω/sq
【0063】
実施例4~6の基板保持盤1へ波長290nm~385nmの紫外線を50mW/cm2で24時間、大気中で照射し、照射前及び照射後の反射率を測定した。照射後の反射率から照射前の反射率を引いた結果は以下のようになった。
実施例4:-0.1%
実施例5:-0.2%
実施例6:-0.2%
【0064】
(実施例7)
図4を用いて、実施例7で作製した基板保持盤1を説明する。被覆層52の上に被覆層53があること以外は実施例1と同様である。被覆層53はイオン化蒸着法により成膜した水素化アモルファスカーボン(a-C:H)で厚さ50nmとした。被覆層53の波長365nmの光に対する屈折率は1.98であった。イオン化蒸着による被覆層53の成膜条件は、材料ガスとしてメタン(CH
4)とアセチレン(C
2H
2)の混合ガスを用い、基板バイアスを-3kVとして成膜した。被覆層53の屈折率が被覆層51の屈折率よりも低い理由は、基板バイアスによる加速が弱いことによる。
【0065】
実施例7の反射率は6.3%であった。一方で実施例1の反射率は7.4%であり被覆層53によって反射率を1.1%低減する効果が得られた。なお、実施例7の表面抵抗率は4.5E9Ω/sqであった。そして、実施例7の基板保持盤へ波長290nm~385nmの紫外線を50mW/cm2で24時間、大気中で照射し、照射前及び照射後の反射率を測定した。照射後の反射率から照射前の反射率を引いた結果は-0.1%であった。
【0066】
(比較例1)
比較例1は、実施例1と同じ基材の上に、イオン化蒸着法により窒素ドープ水素化アモルファスカーボン(Nドープa-C:H)を厚さ1μmに成膜して作製した。その成膜方法は、実施例1で被覆層52を成膜した条件と同じで、厚さだけを変えたものである。
【0067】
比較例1の表面抵抗率は8.2E8Ω/sqであった。比較例1の基板保持盤へ波長290nm~385nmの紫外線を50mW/cm2で24時間、大気中で照射し、照射前及び照射後の反射率を測定した。照射後の反射率から照射前の反射率を引いた結果は-0.5%であった。
【0068】
(比較例2)
比較例2は、実施例1から被覆層52を無くしたものである。すなわち、基材の上にイオン化蒸着法により水素化アモルファスカーボン(a-C:H)を1μmの厚さで付けたものである。その成膜方法は実施例1の被覆層51のそれと同じである。
【0069】
比較例2の表面抵抗率は8.3E9Ω/sqであった。比較例2の基板保持盤へ波長290nm~385nmの紫外線を50mW/cm2で24時間、大気中で照射し、照射前及び照射後の反射率を測定した。照射後の反射率から照射前の反射率を引いた結果は-0.1%であった。
【0070】
各実施例、比較例で得られた基板保持盤について、表面抵抗率及び反射率の変化の測定結果を表1に示した。
【0071】
【0072】
(実施例および比較例の評価)
実施例1~7ではDLCによる高い耐摩耗性に加えて、低い表面抵抗率と紫外線を照射した時の反射率の変化量が小さい基板保持盤1を得ることができた。それに対して比較例1では、表面抵抗率は低いが、紫外線を照射した時の反射率の変化量が大きかった。また、比較例2では、紫外線を照射した時の反射率の変化量は小さかったが、表面抵抗率が高かった。
【0073】
本実施例および比較例では、水素化アモルファスカーボンを主に用いたが、テトラヘドラルアモルファスカーボン等の種々のDLCを用いることができる。
【0074】
(実施例8~11)
図5を用いて、実施例8~11で作製した基板保持盤1を説明する。被覆層52の上に被覆層55と、被覆層55の上に被覆層56を設けている点以外は実施例1と同様である。被覆層55及び被覆層56はイオン化蒸着法により成膜した水素化アモルファスカーボン(a-C:H)で、成膜条件は、材料ガスとしてメタン(CH
4)とアセチレン(C
2H
2)の混合ガスを用いて、基板バイアスを-3~-7kVとして成膜した。実施例8~11では、被覆層55の水素濃度28at%、膜厚20nm、被覆層56の水素濃度を25at%として、被覆層56の膜厚をそれぞれ、実施例8では5nm、実施例9では10nm、実施例10では20nm、実施例11では30nmとした。水素濃度が28at%のDLCの屈折率は1.94、水素濃度が25at%のDLCの屈折率は2.07であった。実施例8~11の基板保持盤へ波長290nm~385nmの紫外線を50mW/cm
2で24時間、大気中で照射し、照射前及び照射後の反射率を測定したところ、照射後の反射率から照射前の反射率を引いた結果は-0.1%未満であった。また、反射率は実施例8では5.8%、実施例9では6.0%、実施例10では6.5%、実施例11では7.3%であった。
【0075】
(実施例12~13)
実施例12では、被覆層55の水素濃度25at%、膜厚20nm、被覆層56の水素濃度を23at%、膜厚10nmとし、実施例13では、被覆層55の水素濃度29at%、膜厚20nm、被覆層56の水素濃度を26at%、膜厚10nmとした。実施例12~13の基板保持盤へ波長290nm~385nmの紫外線を50mW/cm2で24時間、大気中で照射し、照射前及び照射後の反射率を測定したところ、照射後の反射率から照射前の反射率を引いた結果は実施例12では-0.1%未満、実施例13では-0.1%であった。
【0076】
実施例8~13で得られた基板保持盤について、反射率の変化の測定結果を表2に示した。
【0077】
【0078】
(実施例14~17)
図6を用いて、実施例14~17で作製した基板保持盤1を説明する。被覆層52の上に被覆層57を設けている点以外は実施例1と同様である。被覆層57はイオン化蒸着法により成膜した水素化アモルファスカーボン(a-C:H)で、成膜条件は、材料ガスとしてメタン(CH
4)とアセチレン(C
2H
2)の混合ガスを用いて、基板バイアスを-2~-8kVとして成膜した。実施例14では、被覆層57の水素濃度21at%、膜厚20nm、実施例15では、被覆層57の水素濃度23at%、膜厚20nm、実施例16では、被覆層57の水素濃度24at%、膜厚20nm、実施例17では、被覆層57の水素濃度25at%、膜厚20nmとした。施例14~17の基板保持盤へ波長290nm~385nmの紫外線を50mW/cm
2で24時間、大気中で照射し、照射前及び照射後の反射率を測定したところ、照射後の反射率から照射前の反射率を引いた結果は、いずれの場合も-0.1%未満であった。
【0079】
(比較例3~4)
比較例3では、被覆層57の水素濃度27at%、膜厚20nm、比較例4では、被覆層57の水素濃度29at%とした。比較例3~4の基板保持盤へ波長290nm~385nmの紫外線を50mW/cm2で24時間、大気中で照射し、照射前及び照射後の反射率を測定したところ、照射後の反射率から照射前の反射率を引いた結果は比較例3では-0.2%、比較例4では-0.4%であった。
【0080】
実施例14~17及び比較例3~4で得られた基板保持盤について、反射率の変化の測定結果を表3に示した。
【0081】
【0082】
以下に本発明の開示内容を示す。
【0083】
(構成1)基材を備えた基板保持盤であって、少なくとも前記基材のうち、前記基板保持盤の最上面の側に設けられた、ダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第1層と、前記第1層の直上に設けられ、前記第1層よりも窒素濃度が高いダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第2層と、を備え、前記第2層の厚さが、5nm以上200nm以下であることを特徴とする基板保持盤。
【0084】
(構成2)前記第2層の厚さは、5nm以上60nm以下であることを特徴とする構成1に記載の基板保持盤。
【0085】
(構成3)前記第2層の厚さは、5nm以上30nm以下であることを特徴とする構成1または2に記載の基板保持盤。
【0086】
(構成4)前記第1層の窒素濃度は0.2at%以下であり、前記第2層の窒素濃度は1%以上であることを特徴とする構成1または2に記載の基板保持盤。
【0087】
(構成5)前記第2層の窒素濃度は3at%以上であることを特徴とする構成1乃至4のいずれか1項に記載の基板保持盤。
【0088】
(構成6)前記第2層の窒素濃度は、前記第2層のうち前記第1層とは反対の側から、前記第1層の側に向かって低くなることを特徴とする構成1乃至5のいずれか1項に記載の基板保持盤。
【0089】
(構成7)基材を備えた基板保持盤であって、
少なくとも前記基材のうち、前記基板保持盤の最上面の側に設けられた、ダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第1層と、前記第1層の直上に設けられ、前記材料より窒素濃度が高いダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第2層と、を備え、前記第2層の窒素濃度は、前記第2層のうち前記第1層とは反対の側から、前記第1層の側に向かって低くなることを特徴とする基板保持盤。
【0090】
(構成8)前記第2層は、窒素濃度が5at%以上30at%以下の部分と、窒素濃度が3%以下の部分を有していることを特徴とする構成6または7に記載の基板保持盤。
【0091】
(構成9)前記第2層の前記第1層の側とは反対の側に第3層を備え、前記第3層の屈折率は、前記第2層の屈折率より低いことを特徴とする構成1乃至8のいずれか1項に記載の基板保持盤。
【0092】
(構成10)前記第3層の厚さは、30nm以上200nm以下であることを特徴とする構成9に記載の基板保持盤。
【0093】
(構成11)前記第3層は、水素濃度が5at%以上50at%未満であることを特徴とする構成9または10に記載の基板保持盤。
【0094】
(構成12)前記第3層は、a-C:Hであることを特徴とする構成9乃至11のいずれか1項に記載の基板保持盤。
【0095】
(構成13)前記基板保持盤の最上面は、前記第3層によって形成されていることを特徴とする構成9乃至12のいずれか1項に記載の基板保持盤。
【0096】
(構成14)前記第1層および前記第2層は水素濃度が5at%以上50at%未満であることを特徴とする構成1乃至13のいずれか1項に記載の基板保持盤。
【0097】
(構成15)前記第1層はa-C:Hであることを特徴とする構成1乃至14のいずれか1項に記載の基板保持盤。
【0098】
(構成16)前記第1層の厚さは、0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする構成1乃至15のいずれか1項に記載の基板保持盤。
【0099】
(構成17)基材を備えた基板保持盤であって、少なくとも前記基材のうち、前記基板保持盤の最上面の側に設けられ、窒素を含むダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第1層と、前記第1層の直上に設けられたダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第2層と、前記第2層の直上に設けられたダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第3層からなり、前記第3層は前記第2層よりも水素濃度が低いことを特徴とする基板保持盤。
【0100】
(構成18)前記第2層と第3層の合計厚さは、5nm以上250nm以下であることを特徴とする構成17に記載の基板保持盤。
【0101】
(構成19)前記第3層の水素濃度が25at%以下であることを特徴とする構成17または18に記載の基板保持盤。
【0102】
(構成20)前記第3層の厚さは3nm以上20nm以下であることを特徴とする構成17乃至19のいずれか1項に記載の基板保持盤。
【0103】
(構成21)基材を備えた基板保持盤であって、少なくとも前記基材のうち、前記基板保持盤の最上面の側に設けられ、窒素を含むダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第1層と、第1層の直上に設けられたダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる第2層を備え、前記第2層の水素濃度は25at%以下であることを特徴とする基板保持盤。
【0104】
(構成22)前記第1層の窒素濃度は、前記第2層の窒素濃度より高いことを特徴とする構成17乃至21のいずれか1項に記載の基板保持盤。
【0105】
(構成23)前記基板保持盤の最上面の算術平均粗さRaが0.4μm以上4μm以下の粗面であることを特徴とする構成1乃至22のいずれか1項に記載の基板保持盤。
【0106】
(露光方法1)構成1乃至23のいずれか1項に記載の基板保持盤に基板を載置し、前記基板を露光することを特徴とする露光方法。
【0107】
(露光方法2)前記基板を露光する光の波長は、300nm以上400nm以下であることを特徴とする露光方法1に記載の露光方法。
【0108】
(製造方法1)構成1乃至17のいずれか1項に記載の基板保持盤を製造する方法であって、ダイヤモンドライクカーボンを含む材料からなる層に、窒素イオンを注入し、前記第2層を形成することを特徴とする製造方法。
【0109】
(製造方法2)前記窒素イオンは、プラズマイオン注入法で注入することを特徴とする製造方法1に記載の製造方法。
【0110】
(装置1)構成1乃至23のいずれか1項に記載の基板保持盤と、光源と、前記光源から発せられた光を基板に照射する光学系と、前記基板保持盤を移動させる移動手段と、を備えていることを特徴とする露光装置。
【0111】
(装置2)前記光学系は、透過型レンズを含むことを特徴とする装置1に記載の露光装置。
【0112】
(装置3)前記光学系は、ミラーを含む反射型であることを特徴とする装置1に記載の露光装置。
【0113】
以上、説明した実施形態は、技術思想を逸脱しない範囲において適宜変更が可能である。たとえば複数の実施形態を組み合わせることができる。また、少なくとも1つの実施形態の一部の事項の削除あるいは置換を行うことができる。
【0114】
また、少なくとも1つの実施形態に新たな事項の追加を行うことができる。なお、本明細書の開示内容は、本明細書に明示的に記載したことのみならず、本明細書および本明細書に添付した図面から把握可能な全ての事項を含む。
【0115】
また本明細書の開示内容は、本明細書に記載した個別の概念の補集合を含んでいる。すなわち、本明細書に例えば「AはBよりも大きい」旨の記載があれば、たとえ「AはBよりも大きくない」旨の記載を省略していたとしても、本明細書は「AはBよりも大きくない」旨を開示していると云える。なぜなら、「AはBよりも大きい」旨を記載している場合には、「AはBよりも大きくない」場合を考慮していることが前提だからである。
【符号の説明】
【0116】
1 基板保持盤
51 第1層
52 第2層