(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 21/00 20060101AFI20240731BHJP
B41J 29/38 20060101ALI20240731BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240731BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240731BHJP
【FI】
G03G21/00 510
B41J29/38 301
G01H17/00 Z
G01M99/00 Z
(21)【出願番号】P 2019206349
(22)【出願日】2019-11-14
【審査請求日】2022-10-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 星児
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】阿佐見 純弥
(72)【発明者】
【氏名】森 厚伸
(72)【発明者】
【氏名】門出 昌文
(72)【発明者】
【氏名】補伽 達也
(72)【発明者】
【氏名】塩道 寛貴
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-014818(JP,A)
【文献】特開2015-172598(JP,A)
【文献】特開2019-184750(JP,A)
【文献】特開2010-206714(JP,A)
【文献】特開2001-304954(JP,A)
【文献】特開2015-184075(JP,A)
【文献】特開2004-226482(JP,A)
【文献】特開2021-043011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 29/00-29/70
G01H 1/00-17/00
G03G 13/00
13/34-15/00
15/36
21/00-21/02
21/14-21/20
H04N 1/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置であって、
音を検知し、検知した音に応じた検知信号を出力する検知手段と、
前記検知信号において所定の極性の信号値が生じないように前記所定の極性と異なる極性の直流成分が重畳された前記検知信号に基づいて生成されたデジタル信号から、前記直流成分の重畳による成分が除去されるように補正値を減算する処理手段と、
前記処理手段による前記デジタル信号の処理結果に基づいて、前記画像形成装置において異常音が発生しているか否かを判定する判定手段と、
前記検知手段から出力される前記検知信号の振幅が、記録材への画像形成時よりも小さくなる条件下で得られた前記検知信号に基づいて、前記補正値を設定する設定手段と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記処理手段は、前記デジタル信号から前記補正値を減算した後の信号を自乗演算する自乗演算部を有することを特徴とする請求項
1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記設定手段は、前記画像形成装置において記録材の搬送が行われていない間に前記検知手段から出力される前記検知信号に基づいて、前記補正値を設定する
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記設定手段は、記録材の給紙の開始前に前回転動作が行われている間に前記検知手段から出力される前記検知信号に基づいて、前記補正値を設定する
ことを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記設定手段は、前記検知手段から出力される前記検知信号のレベルが所定の閾値以下である場合の当該検知信号に基づいて、前記補正値を設定する
ことを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記設定手段は、前記条件下で得られた前記検知信号の平均値を、前記補正値として設定する
ことを特徴とする請求項1から
5のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記処理手段は、前記デジタル信号から前記補正値を減算することで、当該デジタル信号に含まれる変動成分を抽出する
ことを特徴とする請求項1から
6のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記判定手段は、前記処理結果として得られた信号レベルと閾値との比較により、前記画像形成装置において異常音が発生しているか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1から
7のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記判定手段は、予め選択された異常音が発生しうるタイミングに前記検知手段から出力された前記検知信号に基づいて生成された前記デジタル信号に対する前記処理手段による処理結果に基づいて、当該異常音が発生しているか否かを判定する
ことを特徴とする請求項
8に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記所定の極性は負であることを特徴とする請求項
1に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置内で発生する音に基づき画像形成装置を診断する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザプリンタ等の画像形成装置では、寿命に達した部品が交換されずに使用され続けると、そのような部品から異常音が発生することがある。特許文献1では、画像形成装置において発生する音を検知し、検知された音に基づいて音を発している部品を特定し、当該部品が発する音が騒音限界に達するまでの時間を推定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
画像形成装置において発生する音を検知するために用いられる集音器は、一般に、気圧の変動を音圧として検知し、検知した音圧に応じた信号を出力する。集音器から出力される信号は、負の信号値が生じないように、ある大きさの直流(DC)成分が重畳された状態で出力されうる。この場合、集音器の出力信号に基づいて異常音についての診断を行うには、当該出力信号に重畳されているDC成分に対応する基準値を用いて、発生した音の大きさを示す信号レベルを当該出力信号から抽出する必要がある。
【0005】
しかし、集音器の出力信号に重畳されるDC成分の大きさは、例えば、画像形成装置全体の電気的な負荷状況等に起因して時間的に変化することがある。その結果、ある基準値を用いて集音器の出力信号から得られる信号レベルが変化してしまい、異常音についての診断を精度良く行うことができなくなりうる。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、画像形成装置内における異常音の発生の有無についての診断をより精度良く行うことを実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る画像形成装置は、音を検知し、検知した音に応じた検知信号を出力する検知手段と、前記検知信号において所定の極性の信号値が生じないように前記所定の極性と異なる極性の直流成分が重畳された前記検知信号に基づいて生成されたデジタル信号から、前記直流成分の重畳による成分が除去されるように補正値を減算する処理手段と、前記処理手段による前記デジタル信号の処理結果に基づいて、前記画像形成装置において異常音が発生しているか否かを判定する判定手段と、前記検知手段から出力される前記検知信号の振幅が、記録材への画像形成時よりも小さくなる条件下で得られた前記検知信号に基づいて、前記補正値を設定する設定手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、画像形成装置内における異常音の発生の有無についての診断をより精度良く行うことが実現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】画像形成装置の概略的なハードウェア構成例を示す断面図
【
図2】異常音診断に関連する機能構成例を示すブロック図
【
図3】集音器を用いて得られた音信号の処理結果の例を示す図
【
図4】集音器を用いて得られた音信号の処理結果の例を示す図
【
図5】基準値の設定処理の手順の例を示すフローチャート
【
図6】集音器を用いて得られた音信号の処理結果の例を示す図
【
図7】基準値に対する集音器の出力信号に基づく信号レベルの変化の例を示す図
【
図8】集音器を用いて得られた音信号の処理結果の例を示す図
【
図9】異常音診断に関連する機能構成例を示すブロック図
【
図10】集音器を用いて得られた音信号の処理結果の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0015】
[実施例1]
<画像形成装置>
図1は、実施例1~4の画像形成装置の概略的な構成例を示す断面図である。画像形成装置1は、電子写真方式の画像形成装置であり、中間転写ベルトを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置である。画像形成装置1は、後述するように、装置内で発生する音を検知して異常音診断を行う機能を有する。本明細書の各実施例において、画像形成装置1は、レーザプリンタとして構成されているが、例えば、複写機、複合機(MFP)又はファクシミリ装置として構成されてもよい。
【0016】
画像形成装置1は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、及びブラック(K)の現像剤を用いて画像を形成する画像形成部を備えている。なお、添付の図面及び以下の説明において、参照符号の末尾のY,M,C,Kは、それぞれ、対応する部品が対象とする現像剤(トナー)の色が、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックであることを示している。以下の説明では、色を区別する必要がない場合には、末尾のY,M,C,Kを省いた参照符号を使用する。例えば、感光ドラム11と表記した場合、感光ドラム11Y,11M,11C,11Kのそれぞれを示す。
【0017】
感光ドラム11(感光体)は、対応する色の現像剤(トナー)を担持する像担持体である。帯電ローラ12は、感光ドラム11の表面を一様に所定の電位に帯電させる。光学ユニット13は、対応する色の画像データ(画像信号)に基づくレーザビームを、帯電した感光ドラム11上に照射することで、感光ドラム11上に静電潜像を形成する。現像器14は、現像ローラ15を含み、感光ドラム11上に形成された静電潜像を、対応する色のトナーを用いて可視化する。現像ローラ15は、現像器14内に収納されたトナーを用いて感光ドラム11上の静電潜像を可視化することで、感光ドラム11上にトナー像を形成する。
【0018】
一次転写ローラ16は、感光ドラム11上に形成された画像(トナー像)を、中間転写ベルト17に転写(一次転写)する。中間転写ベルト17は、各感光ドラム11から転写された画像を担持する中間転写体である。中間転写ベルト17は、テンションローラ25によってテンションがかけられた状態で、駆動ローラ18によって駆動される。
【0019】
二次転写ローラ19は、中間転写ベルト17上に形成された画像を、給紙カセット2から搬送路を搬送されてきた記録材Pに転写(二次転写)する。二次転写対向ローラ20は、中間転写ベルト17を介して二次転写ローラ19に対向する位置に配置されている。定着器21は、定着ローラ等で構成されており、搬送路を搬送される記録材P上の画像(トナー像)に熱及び圧力を与えることで、当該画像を記録材Pに定着させる。排出ローラ対22は、定着器21による定着処理が行われた記録材Pを、排出トレイ26に排出する。
【0020】
給紙カセット2は、画像形成に使用される記録材Pを収納する。給紙ローラ4は、モータ(不図示)によって駆動されて、
図1において反時計回りの方向に回転することで、給紙カセット2から記録材Pを搬送路に給紙する。給紙ローラ4が給紙カセット2から記録材Pを給紙する際、分離ローラ5が記録材Pを1枚ずつ分離して給紙する。給紙カセット2から搬送路に給紙された記録材Pは、搬送ローラ対6によって搬送される。
【0021】
モータから給紙ローラ4へ駆動力の伝達は、電磁クラッチ(不図示)によって制御される。電磁クラッチがON状態に場合、モータから給紙ローラ4へ駆動力が伝達され、電磁クラッチがOFF状態に場合、モータから給紙ローラ4へ駆動力の伝達が遮断される。本実施例では、後述するように、電磁クラッチは、通電状態の場合にOFF状態となり、非通電状態の場合にON状態となる。なお、電磁クラッチは、搬送ローラ対6によって記録材Pが搬送された後にON状態からOFF状態に切り替えられる。その結果、モータから給紙ローラ4への駆動力の伝達が遮断され、給紙ローラ4の回転が停止する。
【0022】
<画像形成動作>
画像形成装置1は、CPU80(
図2)を含む制御部3を備えている。制御部3は、画像形成装置1の画像形成動作を統括的に制御する。印刷命令及び画像情報(画像データ)等を含む印刷データがホストコンピュータ等の外部装置(不図示)から入力されると、制御部3は、画像形成動作(印刷動作)を開始するよう、画像形成装置1内の各デバイスを制御する。
【0023】
まず制御部3は、記録材Pの給紙及び搬送機構を制御することで、記録紙Pの給紙を開始する。記録材Pは、給紙ローラ4によって給紙カセット2から給紙されることで搬送路に送り出され、搬送ローラ対6に狭持された状態で一旦停止する。制御部3は、1枚目の記録材に対する画像形成時には、中間転写ベルト17上に画像を形成する画像形成動作のタイミングに同期して、記録材Pの給紙及び搬送のタイミングを制御する。具体的には、中間転写ベルト17上に形成された画像が(中間転写ベルト17と二次転写ローラ19との間の)二次転写位置に到達するタイミング合わせて、搬送ローラ対6の位置で待機している記録材Pの搬送を再開する。なお、2枚目以降の記録紙Pは、搬送ローラ対6の位置で一旦停止せずに連続的に搬送されてもよい。
【0024】
制御部3は、上述のように記録材Pを給紙及び搬送する動作と同期して、以下の一連の画像形成動作を実行するように、各デバイスを制御する。まず、帯電ローラ12が、感光ドラム11の表面を所定の電位に帯電させる。光学ユニット13は、入力された印刷データに含まれる画像データに対応したレーザビームで、帯電した感光ドラム11を露光することで、感光ドラム11上に静電潜像を形成する。
【0025】
その後、現像器14は、対応する色のトナーを用いて、感光ドラム11上に形成された静電潜像を現像することで、感光ドラム11上にトナー像を形成する。感光ドラム11は、中間転写ベルト17と接触しており、中間転写ベルト17の回転に同期して回転する。これにより、感光ドラム11上に形成されたトナー像は、(中間転写ベルト17と感光ドラム11との間の)一次転写位置まで移動する。
【0026】
一次転写ローラ16Y,16M,16C,16Kは、それぞれ、感光ドラム11Y,11M,11C,11K上に形成された各色のトナー像を、中間転写ベルト17上に順に重ね合わせて転写する。これにより、中間転写ベルト17上に、Y,M,C,Kのトナーによるトナー像であるカラー画像が形成される。
【0027】
中間転写ベルト17上に形成されたカラー画像は、中間転写ベルト17の回転に従って二次転写位置まで移動し、二次転写ローラ19によって記録材P上に転写される。記録材Pに転写されたカラー画像は、定着器21から熱及び圧力を与えられることで、当該記録材上に定着させられる。定着器21による定着処理が行われた記録材Pは、排出ローラ対22によって排出トレイ26に排出される。これにより、1枚の記録材Pについての画像形成動作が終了する。
【0028】
また、記録紙Pへのカラー画像の転写後に中間転写ベルト17上に残ったトナーは、中間転写ベルト17の近傍に配置されたベルトクリーニング装置36によって回収される。ベルトクリーニング装置36は、中間転写ベルト17上に残ったトナーを掻き取るためのクリーニングブレード35を含む。
【0029】
<集音器>
図1が示すように、本実施例の画像形成装置1は、記録材Pを搬送するための搬送路の近傍に配置された集音器71を備えている。集音器71は、画像形成装置1の内部において発生する音を集音するマイクロフォン素子である。集音器71は、例えば、圧力による振動板の振動変位を電圧変化に変換して出力するMEMS(Micro Electro Mechanical System)マイクロフォン及び電極端子で構成される。
【0030】
集音器71は、画像形成装置1内で発生した音を検知し、検知した音に応じた音信号を出力する。より具体的には、集音器71は、気圧の変動を音の大きさ(音圧)として検知し、検知した音圧に応じた信号を出力する。集音器71から出力される音信号は、制御部3の診断制御部70(
図2)へ送られる。集音器71は、例えば、画像形成部を構成する各種のローラ及び各種のアクチュエータ(例えば、モータ、ソレノイド等)の駆動音、及び電気部品の共鳴音等を集音する。本実施例では、集音器71は、後述するように給紙ローラ4から発生した異常音を検知できるよう、給紙ローラ4の近傍に配置されている。
【0031】
<異常音診断に関連する機能構成>
図2は、画像形成装置1における異常音診断に関連する機能構成例を示すブロック図である。本実施例では、制御部3は、既知の異常音のみを対象として異常音診断を行う。異常音診断には集音器71が用いられる。制御部3は、異常音診断に関連する機能構成として、診断制御部70、CPU80、及び通信制御部801を含む。診断制御部70は、信号増幅部702、AD変換部703、変動抽出部704、フィルタ演算部705、自乗演算部706、平均演算部707、及び記憶部708を含む。なお、診断制御部70は、ASIC又はFPGA等のハードウェア回路により実現されてもよい。
【0032】
CPU80は、異常音診断を行う場合、診断対象とする異常音を予め選択し、選択した異常音が発生しうるタイミングに合わせて、集音器71から出力される音信号を処理する。集音器71から出力された音信号は、信号増幅部702に入力される。信号増幅部702は、入力された音信号を増幅し、増幅後の音信号をAD変換部703へ出力する。AD変換部703は、入力された音信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、変換後の音信号を変動抽出部704へ出力する。
【0033】
一般に、集音器は、気圧の変動を音圧として検知し、検知した音圧に応じた信号を出力するため、集音器の出力信号は正及び負の値を取りうる。そこで、集音器は、負の信号値を生じさせないために、予め定められた大きさのDC成分が重畳された音信号を出力するように構成される。その結果、集音器から出力される音信号は、常に正の値を有する信号となる。
【0034】
変動抽出部704は、本実施例の集音器71から出力される音信号(AD変換部703から出力される音信号)から上述のDC成分を除去することで、当該音信号の変動成分を抽出するように構成される。これにより、集音器71から出力される音信号に基づいて、発生した音の大きさを示す信号レベルを特定できるようになる。
【0035】
変動抽出部704は、CPU80から通信制御部801を介して設定される基準値Vrefを用いて、音信号の変動成分の抽出を行う。具体的には、変動抽出部704は、AD変換部703から出力された音信号から、CPU80から設定された基準値Vrefを減算することで、音信号に含まれるDC成分の除去(即ち、変動成分の抽出)を行う。
【0036】
フィルタ演算部705は、DC成分が除去された音信号に対して、特定の周波数成分を抽出するためのフィルタ処理(フィルタリング)を行う。CPU80は、フィルタ演算部705により適用されるフィルタのフィルタ特性を任意に変更可能である。CPU80は、選択した異常音に対応する周波数成分を抽出可能なフィルタ特性を、フィルタ演算部705に対して設定する。これにより、選択した異常音の診断精度を高めることが可能になる。
【0037】
自乗演算部706及び平均演算部707は、フィルタ演算部705の出力信号に対して、音信号のレベルの比較を容易にするために、それぞれ自乗演算及び区間平均演算を行う。なお、CPU80は、平均演算を行う区間を平均演算部707に対して設定可能である。平均演算部707の出力信号は、音信号の処理結果に相当するデータとして記憶部708に格納される。
【0038】
CPU80は、通信制御部801を介して記憶部708からデータを取得し、取得したデータに基づいて、予め選択していた診断対象の異常音が発生したか否かについての診断を行う。当該診断の実行後、CPU80は、異常音の発生の有無に応じて、例えば、異常音の発生を抑えるための制御、表示部(図示せず)による異常音の発生個所の表示、又はネットワークを介しての外部装置(サービスセンタ等)への診断結果の通知を行う。
【0039】
<異常音診断の例>
次に
図3(A)を参照して、異常音診断の例について説明する。
図3(A)は、給紙ローラ4及び分離ローラ5を含む給紙部における異常音の発生時に集音器71を用いて取得された音信号の時間変化の例を示す図である。
図3(A)に示すグラフにおいて、左の縦軸(第1軸)は、音信号のレベル[dB]、右の縦軸(第2軸)は、上述の電磁クラッチ(給紙クラッチ)への印加電圧[V]、横軸は、時間[ms(ミリ秒)]である。なお、
図3(A)は、記憶部708に格納された音信号の処理結果の例を示している。本例では、カットオフ周波数が500Hzであるフィルタ特性を有するローパスフィルタがフィルタ演算部705により用いられ、100msの区間ごとの平均演算(区間平均)が平均演算部707により行われている。また、CPU80から変動抽出部704に対して、集音器71からの出力信号の処理用の基準値として適切な基準値Vrefが設定されている。
【0040】
電磁クラッチへの印加電圧がハイレベル(通電状態)の場合、電磁クラッチはOFF状態となり、印加電圧がローレベル(非通電状態)の場合、電磁クラッチはON状態となる。電磁クラッチがON状態である場合、給紙ローラ4は、モータによって駆動されて回転し、記録材Pが給紙カセット2から給紙される。電磁クラッチがON状態からOFF状態に切り替わると、給紙ローラ4の回転が停止する。
図3(A)の例では、電磁クラッチのON状態とOFF状態との切り替えにより、複数の記録材Pが1枚ずつ給紙されている。
【0041】
給紙部の異常音は、記録材Pとの摩擦により給紙ローラ4及び分離ローラ5の表面の摩耗が進むことで発生しやすくなる。給紙ローラ4の回転が停止した状態で、記録材Pが搬送方向における下流にある搬送ローラ対6によって下流側へ引かれると、記録材Pと接触している分離ローラ5が振動することがある。その結果、分離ローラ5及び記録材Pが振動して異常音が発生する。このように給紙部の異常音は、電磁クラッチがOFF状態である間に発生する。このため、
図3(A)の例では、このような異常音の発生タイミングに合わせて、電磁クラッチがOFF状態である間に取得される音信号に基づいて、異常音の診断が行われている。具体的には、電磁クラッチがOFF状態である期間内の、矢印A及びBで示すタイミングにおける音信号(平均演算部707の出力信号)に基づいて異常音診断が行われる。
【0042】
閾値L_limitは、診断対象の異常音が発生したか否かを音信号に基づいて判定するために用いられる閾値である。本例では、給紙部で発生する異常音を診断対象として、閾値L_limitは40dBに設定されている。CPU80によって実行される異常音診断では、診断制御部70における処理結果として得られた音信号のレベルと、閾値L_limitとを比較することで、異常音の発生の有無が判定される。具体的には、信号レベルが閾値L_limitを上回った場合、異常音が発生していると判定され、信号レベルが閾値L_limitを上回っていない場合、異常音は発生していないと判定される。
【0043】
図3(A)の例では、矢印Aで示すタイミングでは、音信号のレベルは閾値L_limitを下回っているため、診断対象の異常音は発生していないと判定される。一方、矢印Bで示すタイミングでは、音信号のレベルは閾値L_limitを上回っているため、診断対象の異常音が発生していると判定される。
【0044】
CPU80は、音信号に基づいて診断対象の異常音が発生していると判定した場合、予め定められた制御を実行する。例えば、CPU80は、給紙部(給紙ローラ4)から異常音が発生した場合には、給紙ローラ4からの異常音の発生時間が短くなるように、電磁クラッチのON状態の継続時間を長くする制御を行ってもよい。また、CPU80は、異常音の発生源である給紙ローラ4の交換を促す通知を、画像形成装置1の表示部及び画像形成装置1の管理元(サービスセンター等)に対して行ってもよい。
【0045】
<異常音診断における誤判定の例>
上述のように、本実施例の診断制御部70では、集音器71から出力された音信号から変動成分を抽出するために、変動抽出部704は、CPU80から設定される基準値Vrefを用いて、音信号に含まれるDC成分を除去する処理を行う。この基準値Vrefは、集音器71において重畳されるDC成分の大きさに等しい必要がある。
【0046】
しかし、集音器71において音信号に重畳されるDC成分の大きさ(電圧)は、画像形成装置を構成する電気部品の個体差等に起因して、画像形成装置ごとに異なることがある。また、このDC成分の大きさは、画像形成装置全体の電気的な負荷状況等に起因して、同じ画像形成装置であっても時間的に変化することがある。その結果、CPU80によって設定される基準値Vrefと、集音器71において重畳されるDC成分の大きさとの間でずれが生じ(即ち、基準値に誤差が生じ)、診断制御部70において音信号の変動成分を適切に抽出することができなくなりうる。即ち、診断制御部70における処理結果として得られる音信号のレベルに誤差が生じうる。これは、異常音診断における異常音の発生の有無についての判定に誤りを生じさせうる。また、異常音診断における誤判定は、例えば、正常な状態の部品の交換をユーザに促すことや、部品の交換のために余分なダウンタイムが発生することにつながりうる。
【0047】
図3(B)は、
図3(A)の例においてCPU80から変動抽出部704に対して設定される基準値Vrefに誤差が生じた場合の、音信号の時間変化の例を示している。本例では、矢印Aで示すタイミングにおいて、給紙部で異常音は発生しておらず、矢印Bで示すタイミングにおいて、給紙部で実際に異常音は発生している。なお、同図に示す基準値Vrefの誤差は、AD変換前の電圧値に換算した値に相当する。
【0048】
図3(B)の例では、基準値Vrefの誤差が0Vである(基準値に誤差が無い)場合には、
図3(A)の例と同様、矢印Aで示すタイミングにおいて、音信号のレベルは閾値L_limitを下回っている。その結果、診断対象の異常音は発生していないと判定される。一方、矢印Bで示すタイミングでは、音信号のレベルは閾値L_limitを上回っているため、診断対象の異常音が発生していると判定される。このように、基準値Vrefに誤差が無い場合、異常音診断(異常音の有無の判定)が正確に行われる。
【0049】
一方、
図3(B)に示すように、基準値Vrefの誤差が0.05V及び0.1Vである(基準値に誤差が生じた)場合には、診断制御部70における処理結果として得られる音信号のレベルが全体的に高くなる。その結果、異常音診断において、(異常音が発生していない)矢印Aで示すタイミングに、音信号のレベルが閾値L_limitを上回ることにより、異常音が発生していると判定されてしまう。
【0050】
このように、CPU80によって設定される基準値Vrefと、集音器71において重畳されるDC成分の大きさとの間でずれがあると、診断制御部70における処理結果として得られる音信号のレベルに誤差が生じる。その結果、異常音診断における異常音の発生の有無についての判定に誤りが生じる。上述のように、集音器71において音信号に重畳されるDC成分の大きさは、画像形成装置ごとに異なりうるとともに時間的にも変化しうる。このため、音信号に重畳されるDC成分の大きさを特定し、その特定結果に基づいて、音信号の変動成分を抽出するための基準値Vrefを適切に設定する必要がある。
【0051】
<基準値Vrefの設定処理>
次に
図4を参照して、本実施例における基準値Vrefの設定処理として、上述のように集音器71において重畳されるDC成分に対応する基準値Vrefの設定誤差を低減するための設定処理について説明する。
図4(A)は、給紙部による記録材Pの給紙の開始前後における集音器71の出力信号の時間変化の例を示しており、信号増幅部702による増幅後の信号を示している。なお、
図4(A)に記載の前回転動作とは、給紙部による給紙の開始前に行われる、例えば画像形成部における各モータの回転速度及び定着器21の温度を安定させるための準備動作である。
【0052】
図4(A)に示すように、給紙開始後には、集音器71の出力信号の振幅が大きくなる。これは、画像形成装置1の給紙部の始動による音及び記録材Pから発せられる音が発生するためである。本実施例では、このような集音器71の出力信号に含まれるDC成分を特定するために、当該出力信号の平均値を取得する。なお、本明細書において振幅とは、信号の変動の大きさ(中心値からの最大変位量の絶対値)を表す。
【0053】
図4(B)は、
図4(A)に示す信号の移動平均を求めた結果を示しており、本例では、50msの区間を平均化処理の対象として当該区間をずらしながら平均化処理を行った結果を示している。このように求められる平均値が、音信号の変動成分を抽出するための基準値Vrefの設定処理において使用される。
【0054】
図4(B)の例では、集音器71の出力信号の平均値は、前回転動作時には0.01Vの振れ幅(振幅:0.005V)を有しているのに対して、給紙開始後には、その振れ幅が6倍程度の0.06Vの振れ幅(振幅:0.03V)に大きくなっている。このような集音器71の出力信号の平均値に基づいて設定される基準値Vrefには、当該平均値の振れ幅に応じた誤差が生じる。即ち、給紙開始後に得られる集音器71の出力信号を用いて基準値Vrefを設定した場合、設定される基準値には最大で0.06Vの誤差が生じる。これに対し、前回転動作時に得られる集音器71の出力信号を用いて基準値Vrefを設定した場合、その誤差が最大で0.01Vに抑えられる。
【0055】
本実施例では、集音器71の出力信号として、上述の前回転動作時(給紙開始前)のように、画像形成装置1内で発生する音が小さいタイミングに得られた出力信号を用いて、基準値Vrefの設定処理を行う。このように、画像形成装置1内で発生する音が小さいタイミングには、集音器71からの出力信号の振幅が相対的に小さくなる。このような条件下で得られた出力信号に基づいて基準値Vrefを設定することで、設定誤差を低減することが可能になる。即ち、CPU80は、集音器71(検知手段)からの出力信号の振幅が相対的に小さくなる(より具体的には、記録材Pへの画像形成時よりも小さくなる)条件下で得られた当該出力信号に基づいて、基準値Vrefを設定する。本実施例では、集音器71からの出力信号の振幅が相対的に小さくなる(記録材Pへの画像形成時よりも小さくなる)条件として、記録材Pの搬送が行われていないという条件を使用する。後述する処理手順では、とりわけ、記録材Pの搬送開始前に前回転動作が行われているという条件下で得られた、集音器71からの出力信号に基づいて、基準値Vrefの設定を行う例について説明する。
【0056】
なお、集音器71の出力信号に対する平均化処理の対象区間の長さ(時間長)は、画像形成装置1のダウンタイムが不必要に長くならない範囲内で調整されてもよい。平均化処理の対象区間を長くするほど、得られる平均値の振れ幅が小さくなり、基準値Vrefの設定誤差を低減できる。
【0057】
<処理手順>
次に
図5のフローチャートを参照して、基準値Vrefの設定処理の手順について説明する。
図5は、前回転動作の実行中に得られる音信号に基づく、基準値Vrefの設定処理の手順を示すフローチャートである。
【0058】
CPU80は、印刷ジョブの実行を開始すると、S101で、前回転動作の実行を開始し、S102で、前回転動作の実行中に集音器71から出力された音信号の平均値を取得する。その後、S103で、CPU80は、S102で取得した平均値に基づいて、変動抽出部704に使用させる基準値Vrefを設定する。具体的には、S102で取得した平均値をAD変換して得られた値が基準値Vrefとして設定される。
【0059】
基準値Vrefの設定が完了すると、CPU80は、S104で、異常音診断を開始する。その後、CPU80は、S105で、給紙部に記録材Pの給紙を開始させ、S106で、画像形成部に画像形成動作を行わせる。記録材Pへの画像形成が完了すると、CPU80は、印刷ジョブの実行を終了し、
図5の手順による処理を終了する。
【0060】
なお、本実施例では、前回転動作の実行中に得られた、集音器71の出力信号を用いて基準値Vrefを設定しているが、画像形成装置1内で発生する音が小さい期間における集音器71の出力信号を用いて基準値Vrefを設定してもよい。このような期間の一例は、画像形成動作の終了後の後回転動作の実行中の期間、又は印刷ジョブ間で画像調整を行う期間といった、画像形成装置1において記録材Pの搬送が行われていない期間である。即ち、CPU80は、画像形成装置1において記録材Pの搬送が行われていない期間内に得られた、集音器71の出力信号を用いて基準値Vrefを設定する。このように、画像形成装置1内で発生する音が小さい期間における集音器71の出力信号を用いて基準値Vrefを設定することで、設定誤差を小さくすることが可能である。
【0061】
また、集音器71の出力信号に基づいて(例えば、出力信号のレベルと所定の閾値との比較により)、画像形成装置1内が静かであるか否か(即ち、画像形成装置1内で発生する音が小さいか否か)を判定してもよい。その判定結果に基づいて、画像形成装置1内で発生する音が小さい期間に得られた集音器71の出力信号に基づいて、基準値Vrefを設定してもよい。例えば、集音器71の出力信号のレベルが所定の閾値以下である場合に、当該出力信号に基づいて基準値Vrefを設定してもよい。
【0062】
以上説明したように、本実施例では、集音器71は、音を検知し、検知した音に応じた音信号を出力する。CPU80は、集音器71からの出力信号の処理用の基準値Vrefを設定する。診断制御部70は、設定された基準値Vrefを用いて集音器71からの出力信号を処理する。CPU80は、診断制御部70による処理結果に基づいて、画像形成装置1において異常音が発生しているか否かを判定する。本実施例ではとりわけ、CPU80は、集音器71からの出力信号の振幅が記録材Pへの画像形成時よりも小さくなる条件下で得られた(一例として、記録材Pの搬送が行われていない間に得られた)当該出力信号に基づいて、異常音診断用の基準値Vrefを設定する。
【0063】
これにより、基準値Vrefの設定誤差を低減できる。その結果、例えば、集音器の出力信号に重畳されるDC成分の大きさが時間的に変化したとしても、設定した基準値Vrefを用いて当該出力信号を適切に処理することができ、異常音診断における演算誤差を低減できる。即ち、画像形成装置1内における異常音の発生の有無についての診断をより精度良く行うことが実現できる。
【0064】
[実施例2]
実施例2では、信号増幅部702による増幅処理における増幅率を変更することで、基準値Vrefの設定処理における設定誤差を低減する例について説明する。以下では、実施例1と共通する部分については説明を省略し、実施例1と異なる部分について主に説明する。
【0065】
本実施例の画像形成装置1における異常音診断に関連する機能構成例は、実施例1の構成(
図2)と同様である。ただし、本実施例では、
図2において破線で示すように、CPU80は、通信制御部801を介して信号増幅部702に対して増幅率の指令値を送ることが可能である。これにより、信号増幅部702による音信号の増幅処理における増幅率をCPU80が変更することが可能である。
【0066】
図6(A)は、信号増幅部702による増幅処理における増幅率を、
図4(A)の例における増幅率の1/10に設定した場合に得られる、集音器71の出力信号の時間波形の例を示している。また、
図6(B)は、
図6(A)に示す信号の移動平均を求めた結果を示しており、本例では、実施例1(
図4(B))と同様、50msの区間を平均化処理の対象として当該区間をずらしながら平均化処理を行った結果を示している。
【0067】
図6(A)は、信号増幅部702による増幅処理における増幅率を下げると、
図4(A)と比較して、集音器71の出力信号におけるDC成分は変化せずに振幅のみが小さくなることを示している。これに伴って、
図6(B)に示すように、集音器71の出力信号の平均値の振れ幅は、実施例1(
図4(B))と比較して、前回転動作時及び給紙開始後のいずれにおいても1/10程度に小さくなっている。
【0068】
そこで、本実施例では、基準値Vrefの設定処理に用いる、集音器71の出力信号(の平均値)を取得する際に、信号増幅部702による増幅処理における増幅率を、より小さい増幅率に変更する。これにより、得られる平均値の振れ幅が小さくなり、基準値Vrefの設定誤差を低減できる。この場合、記録材Pの搬送が行われていない期間内のタイミングだけでなく、給紙開始後のタイミング等の任意のタイミングに、基準値Vrefの設定処理を行ってもよい。例えば、異常音診断を行う直前のタイミングに、基準値Vrefの設定処理を行ってもよい。そのようなタイミングに基準値Vrefの設定処理を行っても、設定誤差を低減でき、異常音診断における診断精度を向上させることが可能になる。
【0069】
以上説明したように、本実施例では、集音器71の出力信号の平均値を求める際に、信号増幅部702による増幅率を、異常音診断(異常音の有無の判定)が行われる際の増幅率よりも小さい増幅率に変更することで、基準値Vrefの設定誤差を低減する。これにより、任意のタイミングに基準値Vrefの設定処理を行うことが可能になる。その結果、画像形成装置1において基準値Vrefの設定処理により生じるダウンタイムの低減が可能となる。また、異常音診断を行う直前に当該設定処理を行うことにより、異常音診断における診断精度を更に向上させることが可能になる。なお、本実施例に対して実施例1を組み合わせることも可能である。
【0070】
[実施例3]
実施例3では、変動抽出部704に設定される基準値を変化させ、集音器71の出力信号に対する処理結果として得られる信号レベルが最小となる場合の基準値を、異常音診断用に設定する基準値Vrefとして決定する例について説明する。以下では、実施例1と共通する部分については説明を省略し、実施例1と異なる部分について主に説明する。
【0071】
本実施例の画像形成装置1における異常音診断に関連する機能構成例は、実施例1の構成(
図2)と同様である。本実施例では、CPU80は、通信制御部801を介して変動抽出部704に対して設定する基準値Vrefを(例えば連続的に)変化させる。更に、CPU80は、異なる基準値に対して、診断制御部70における処理結果として得られる(記憶部708に格納される)音信号のレベルを比較する。CPU80は、その比較結果に基づいて、信号レベルが最小となる基準値を、異常音診断のために変動抽出部704に対して設定する基準値Vrefとして決定する。
【0072】
図7は、変動抽出部704に対して設定する基準値Vrefを変化させた場合の、集音器71の出力信号から得られる信号レベルの変化の例を示している。本例では、500msの期間に基準値Vref(AD変換前の電圧換算値)を1.25Vから1.85Vまで変化させている。
図7に示すように、変動抽出部704に対して設定する基準値Vrefを変化させると、集音器71の出力信号に対する処理結果として得られる信号レベルは変化し、ある値(本例では1.64V)のときに最小値となる。ここで、
図3(B)に示すように、基準値Vrefの設定誤差が小さくなるほど、集音器71の出力信号に対する処理結果として得られる信号レベルは小さくなる。このため、このような信号レベルが最小となる基準値を、変動抽出部704に対して設定する基準値Vrefとして採用することで、基準値Vrefの設定誤差を最小にすることが可能である。
【0073】
このように、本実施例では、集音器71の出力信号レベルに対する処理結果として得られる信号レベルが最小となるように基準値Vrefを設定する。これにより、上述の実施例よりも基準値Vrefの設定誤差を更に低減する(例えば最小にする)ことが可能である。
【0074】
なお、本実施例の設定処理は、集音器71の出力信号レベルが安定している期間(例えば、前回転動作又は後回転動作の実行中の期間等の、画像形成装置1において記録材Pの搬送が行われていない期間)に行われるのが望ましい。また、本実施例に対して実施例1及び2を組み合わせることも可能である。例えば、実施例1における設定処理により一時的な基準値を定め、その後に実施例3における設定処理により、より精度の高い基準値を定めてもよい。
【0075】
[実施例4]
実施例4では、集音器71から出力され、かつ、フィルタ演算部705によるフィルタ処理が行われた信号に基づいて基準値Vrefを設定する例について説明する。以下では、実施例1と共通する部分については説明を省略し、実施例1と異なる部分について主に説明する。
【0076】
フィルタ演算部705は、高周波数帯域の周波数成分(高周波数成分)を減衰させ、かつ、低周波数帯域の周波数成分(低周波数成分)を通過させるフィルタ特性を有するローパスフィルタとして設定されている。本実施例では、フィルタ演算部705によって集音器71の出力信号を平滑化処理し、当該出力信号の振れ幅が小さい状況で基準値Vrefを設定する。
【0077】
図8(A)は、フィルタ演算部705による平滑化処理が行われる前の集音器71の出力信号を示し、
図8(B)は、フィルタ演算部705による平滑化処理が行われた集音器71の出力信号を示している。本例では、フィルタ演算部705は、カットオフ周波数50Hzのローパスフィルタとして設定されている。集音器71の出力信号をローパスフィルタでフィルタ処理することによって、高周波成分をカットして、低周波成分を抽出する平滑化処理を行うことができる。
図8(A)と
図8(B)を比較すると、前回転動作中は平滑化処理が行われる前の集音器71の出力信号の振れ幅が0.81Vであるのに対して、平滑化処理が行われると当該振れ幅が0.11Vと小さくなっている。また、給紙開始後も平滑化処理が行われる前の集音器71の出力信号の振れ幅が2.84Vであるのに対して、平滑化処理が行われると当該振れ幅が0.57Vと小さくなっている。このように、前回転動作中であっても給紙開始後であっても、集音器71の出力信号に対してフィルタ演算部705による平滑化処理を行うことによって、当該出力信号の振れ幅が小さくなる。
【0078】
本実施例では、CPU80は、フィルタ演算部705によるフィルタ処理後の、集音器71の出力信号に基づいて、基準値Vrefを設定する。即ち、集音器71の出力信号の振れ幅が小さい状況で、実施例1に示した平均化処理を行って基準値Vrefを設定することで、更に精度良く基準値Vrefを算出し設定することができる。即ち、基準値Vrefの設定誤差を更に低減することが可能である。なお、本実施例に対して、実施例1だけでなく、実施例2、3を組み合わせて実施することも可能である。
【0079】
[実施例5]
実施例5では、集音器71を異常音診断と記録材Pの坪量検知とに併用し、集音器71から出力され、かつ、坪量検知用の超音波フィルタによるフィルタ処理が行われた信号に基づいて基準値Vrefを設定する例について説明する。以下では、実施例1と共通する部分については説明を省略し、実施例1と異なる部分について主に説明する。
【0080】
<画像形成装置の構成>
本実施例の画像形成装置1は、実施例1の構成において、(
図1において点線で示される)超音波発信器31を更に備えている。また、本実施例の画像形成装置1は、異常音診断に関連する機能構成として、
図9に示す構成例のように、記録材Pの坪量を検知する坪量検知部30を更に備えている。なお、本明細書において坪量とは、記録材Pの単位面積当たりの質量に相当し、単位は[g/m
2]で表わされる。
【0081】
超音波発信器31は、駆動信号に従って、予め定められた周波数の超音波を発信する。超音波発信器31が発信した超音波を、記録材Pを介して集音器71が受信できるように、超音波発信器31及び集音器71は、記録材Pの搬送路に対して互いに逆側に配置される。超音波発信器31が発信する超音波の周波数は、記録材Pの坪量の検知に使用可能な周波数であり、超音波発信器31及び集音器71の構成、並びに記録材Pの坪量の検知精度等に応じた適切な範囲内の周波数から予め選択され、例えば、32kHzである。
【0082】
集音器71は、実施例1~3と同様、MEMSマイクロフォンで構成されており、20kHz以下の可聴域の音波だけでなく、20kHz以上の周波数帯域の音波(超音波)も受信できるように構成される。即ち、集音器71は、記録材Pの坪量検知に用いられる周波数(例えば、32kHz)の超音波も受信できるように構成される。集音器71は、超音波発信器31発信された超音波を受信すると、受信した超音波の音圧に応じた信号を出力する。
【0083】
図9に示すように、坪量検知部30は、発信制御部33及び受信制御部34を含む。発信制御部33は、通信制御部801を介してCPU80から受信される指示に従って、超音波発信器31用の駆動信号を駆動信号生成部331により生成する。生成された駆動信号は、信号増幅部332によって増幅され、増幅後の駆動信号が超音波発信器31へ出力される。
【0084】
診断制御部70は、実施例1~3の構成において、Vref設定部710を更に含む。Vref設定部710は、後述のように、変動抽出部704に対して基準値Vrefを設定する。また、信号増幅部702は、集音器71の出力信号(音信号)を増幅し、増幅後の信号をAD変換部703及び坪量検知部30(受信制御部34)へ出力する。AD変換部703へ出力された信号は、実施例1~3と同様、異常音診断に用いられる。
【0085】
受信制御部34は、超音波フィルタ342、AD変換部343、ピーク検知部344、演算部345、及び記憶部346を含む。診断制御部70(信号増幅部702)から出力された信号は、受信制御部34において超音波フィルタ342へ入力される。坪量検知部30は、超音波フィルタ342によるフィルタ処理後の信号に基づいて、記録材Pの坪量検知を行う。
【0086】
本実施例において、超音波フィルタ342は、可聴域の周波数成分を減衰させる周波数特性を有している。このため、超音波フィルタ342によるフィルタ処理後の信号は、可聴域の周波数成分が減衰した信号となる。超音波フィルタ342によるフィルタ処理後の信号は、AD変換部343へ出力される。AD変換部343は、入力された信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、変換後の信号をピーク検知部344及びVref設定部710へ出力する。
【0087】
ピーク検知部344は、入力された信号のピーク値(極大値)を検知し、検知したピーク値を記憶部346に保存する。また、ピーク検知部344は、超音波発信器31と集音器71との間の検知位置200に記録材Pが存在しない状態と記録材Pが存在する状態とで、記憶部346の異なるアドレスにピーク値を格納する。なお、ピーク検知部344は、検知したピーク値が、記録材Pが存在する状態で得られたピーク値であるか否かを、通信制御部801を介して受信されるCPU80からの通知に基づいて判定可能である。
【0088】
演算部345は、記憶部346に格納された、検知位置200に記録材Pが存在しない状態に対応するピーク値と、検知位置200に記録材Pが存在する状態に対応するピーク値との比に基づいて、減衰係数を演算する。演算部345は、得られた減衰係数を記憶部346に格納する。この減衰係数は、記録材Pの坪量に相当する値である。
【0089】
CPU80は、通信制御部801を介して記憶部708からデータ(減衰係数)を取得し、取得したデータに基づいて、記録材Pの坪量を判定する。CPU80は、判定した坪量に基づいて、画像形成装置1の画像形成条件を制御する。ここで、画像形成条件とは、記録材Pの種類に応じて変更すべき条件であり、例えば、記録材Pの搬送速度、二次転写ローラ19への印加電圧、及び定着器21の定着温度である。
【0090】
このように、本実施例の超音波発信器31は、異常音診断用の集音器71と組み合わせて、記録材Pの坪量検知用の超音波センサを構成する。本実施例の集音器71は、異常音診断と記録材Pの坪量検知とに併用される。
【0091】
<基準値Vrefの設定処理>
次に
図10を参照して、本実施例における基準値Vrefの設定処理について説明する。本実施例では、超音波フィルタ342によるフィルタ処理後の、集音器71の出力信号に基づいて、変動抽出部704に対して基準値Vrefを設定する。具体的には、坪量検知部30内のAD変換部343によるAD変換後の、集音器71の出力信号に基づいて、診断制御部70内のVref設定部710が基準値Vrefを設定する。
【0092】
図10(A)は、超音波フィルタ342によるフィルタ処理後の、集音器71の出力信号の例を示す図である。超音波フィルタ342は、超音波の周波数帯域の周波数成分を通過させ、可聴域の周波数成分を減衰させるように構成される。本例では、超音波発信器31は、超音波を出力していない。このため、
図10(A)に示すように、集音器71の出力信号の振幅は非常に小さくなっている。
【0093】
図10(B)は、
図10(A)に示す信号の移動平均を求めた結果を示しており、本例では、50msの区間を平均化処理の対象として当該区間をずらしながら平均化処理を行った結果を示している。
図10(B)に示すように、集音器71の出力信号の平均値は、前回転動作の実行中及び給紙開始後のいずれにおいても、非常に小さい振れ幅(0.00003V程度)を有している。これは、いずれのタイミングの平均値を基準値Vrefとして用いても、当該基準値の設定誤差を小さくすることが可能であることを示している。
【0094】
Vref設定部710は、上述のように、超音波フィルタ342によるフィルタ処理後の集音器71の出力信号の平均値を求め、当該平均値を、音信号の変動成分を抽出するための基準値Vrefとして、変動抽出部704に対して設定する。本実施例では、Vref設定部710は、記録材Pの搬送が行われていない期間内のタイミングだけでなく、給紙開始後のタイミング等の任意のタイミングに、基準値Vrefの設定処理を行ってもよい。例えば、異常音診断を行う直前のタイミングに、基準値Vrefの設定処理を行ってもよい。そのようなタイミングに基準値Vrefの設定処理を行っても、設定誤差を低減でき、異常音診断における診断精度を向上させることが可能になる。
【0095】
以上説明したように、本実施例では、集音器71を異常音診断と記録材Pの坪量検知とに併用し、集音器71から出力され、かつ、坪量検知用の超音波フィルタ342によるフィルタ処理が行われた信号に基づいて、基準値Vrefを設定する。この場合、任意のタイミングに基準値Vrefを設定することが可能である。したがって、画像形成装置1において基準値Vrefの設定処理により生じるダウンタイムの低減が可能となる。また、異常音診断を行う直前に当該設定処理を行うことにより、異常音診断における診断精度を更に向上させることが可能になる。なお、本実施例に対して実施例1~3を組み合わせることも可能である。なお、本実施例に対して実施例1~3を適宜組み合わせることも可能である。
【0096】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0097】
1:画像形成装置、3:制御部、70:診断制御部、71:集音器、80:CPU、702:信号増幅部、703:AD変換部、704:変動抽出部