(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】記録素子基板、記録ヘッドおよび記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
B41J2/14 205
B41J2/14 611
(21)【出願番号】P 2020094906
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 宏康
(72)【発明者】
【氏名】下津佐 峰生
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-501063(JP,A)
【文献】特開2019-072999(JP,A)
【文献】特開2017-001393(JP,A)
【文献】特開2014-200982(JP,A)
【文献】特開2009-196265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電されることにより、インクを吐出するための熱を発生するヒータを備える記録素子基板であって、
前記ヒータの熱が付与されるようにインクを供給するインク流路であって、該熱によりインクを発泡させる発泡室を含むインク流路と、
前記発泡室の温度を検知可能な温度センサと、を備え、
前記温度センサは、前記ヒータの一側方とその反対側の他側方とに配される一対の温度センサとして第1の温度センサおよび第2の温度センサを含み、
前記第1及び第2の温度センサは、平面視において前記発泡室と重なる位置に配されるとともに、前記ヒータと同一材料で構成され且つ前記ヒータと同層に設けられている
ことを特徴とする記録素子基板。
【請求項2】
前記ヒータの上層に設けられた耐キャビテーション膜を更に備え、
前記耐キャビテーション膜は、平面視において前記ヒータと前記温度センサとの双方と重なるように配されている
ことを特徴とする請求項1に記載の記録素子基板。
【請求項3】
前記ヒータおよび前記温度センサのそれぞれは、導電プラグを介して、その下層に設けられた配線パターンに接続される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の記録素子基板。
【請求項4】
前記ヒータは通電により駆動され、前記温度センサは、前記ヒータの通電の方向に沿って延設され且つ平面視において前記ヒータに近接している
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の記録素子基板。
【請求項5】
請求項1から請求項
4の何れか1項に記載の記録素子基板と、
前記ヒータに対応するノズルと、を備える
ことを特徴とする記録ヘッド。
【請求項6】
請求項1から請求項
4の何れか1項に記載の記録素子基板と、
前記ヒータに対応するノズルと、を備える
ことを特徴とする記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に記録素子基板に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置のなかには、ヒータ(電気熱変換素子)により発生した熱エネルギーによりノズルからインクを吐出するサーマル方式のものがある。特許文献1には、サーマル方式のインクジェット記録装置において、ヒータの直下に設けられた温度センサの端子部に導電プラグを設け、該温度センサを下層の配線層に接続した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
温度センサには、ヒータの駆動態様というよりはインクの吐出態様に基づく温度の変化を検出することが求められる。そのため、特許文献1のインクジェット記録装置には構造上の改善の余地があった。
【0005】
本発明は、ヒータを駆動した後におけるインクの吐出態様に基づく温度の変化を適切に検出可能とすることを比較的簡素な構造で実現することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの側面は記録素子基板にかかり、前記記録素子基板は、
通電されることにより、インクを吐出するための熱を発生するヒータを備える記録素子基板であって、
前記ヒータの熱が付与されるようにインクを供給するインク流路であって、該熱によりインクを発泡させる発泡室を含むインク流路と、
前記発泡室の温度を検知可能な温度センサと、を備え、
前記温度センサは、前記ヒータの一側方とその反対側の他側方とに配される一対の温度センサとして第1の温度センサおよび第2の温度センサを含み、
前記第1及び第2の温度センサは、平面視において前記発泡室と重なる位置に配されるとともに、前記ヒータと同一材料で構成され且つ前記ヒータと同層に設けられている
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インクの吐出態様に基づく温度の変化を適切に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】実施形態に係る記録素子基板の平面模式図である。
【
図1B】実施形態に係る記録素子基板の平面模式図である。
【
図2A】実施形態に係る記録素子基板の断面模式図である。
【
図2B】実施形態に係る記録素子基板の断面模式図である。
【
図4】検知温度のシミュレーション結果を示す図である。
【
図5A】インク滴を吐出する際の記録素子基板の断面模式図である。
【
図5B】インク滴を吐出する際の記録素子基板の断面模式図である。
【
図6A】実施形態に係る記録素子基板の平面模式図である。
【
図6B】実施形態に係る記録素子基板の平面模式図である。
【
図7】実施形態に係る記録素子基板の平面模式図である。
【
図8】実施形態に係る記録素子基板の平面模式図である。
【
図9】実施形態に係る記録素子基板の平面模式図である。
【
図10A】実施形態に係る記録素子基板の断面模式図である。
【
図10B】実施形態に係る記録素子基板の断面模式図である。
【
図11】実施形態に係る記録素子基板の平面模式図である。
【
図12】実施形態に係る記録素子基板の平面模式図である。
【
図13A】実施形態に係る記録素子基板の断面模式図である。
【
図13B】実施形態に係る記録素子基板の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
以下、インクジェット記録装置の記録ヘッドが備える記録素子基板を例示しながら実施形態を説明するが、吐出されるものはインクに限られるものではなく、他の液体であってもよい。即ち、以下の実施形態で例示されるインクジェット記録装置は液体吐出装置の一例であり、記録ヘッドは液体吐出ヘッドの一例であり、また、記録素子基板はヘッド用基板の一例である。
【0011】
(第1実施形態)
図1Bは、第1実施形態に係る記録素子基板1の構成の一部を示す平面模式図である。記録素子基板1は、インクをそれぞれ吐出可能な複数のノズルを駆動可能に構成され、
図1Bは、該複数のノズルのうちの1つに対応する部分を示す。
図2Aは、
図1B中の切断線d1-d1についての断面模式図を示し、また、
図2Bは、
図1B中の切断線d2-d2についての断面模式図を示す。
【0012】
図2A及び
図2Bに示されるように、記録素子基板1の上には、保護膜201及び耐キャビテーション膜107を介してオリフィスプレート212が配される。オリフィスプレート212にはインク流路108および吐出口(オリフィス)111が設けられる。吐出口111は、個々のノズルに対応してインク流路108の上方に設けられる。また、インク流路108に連通するように、記録素子基板1にはインク供給口109およびインク排出口110が設けられる。オリフィスプレート212は記録素子基板1の一部であってもよい。
【0013】
尚、説明の容易化のため、本明細書に記載の上/下は
図2A及び
図2Bの上/下に対応するものとし、即ち、インクが吐出される側(吐出口111側)を上側とし、その反対側を下側とする。
【0014】
記録素子基板1は、ヒータ101、並びに、一対の温度センサ102及び112を備える。ヒータ101は、駆動(通電)されることにより発熱する電気熱変換素子であり、吐出口111の下方に(平面視において吐出口111と重なるように)設けられる。ヒータ101には、例えばTaSiN等、大きな電気抵抗を形成するのが比較的容易な材料が用いられ、ヒータ101は、典型的には平面視で矩形形状となるように、薄膜で構成される。
【0015】
尚、本実施形態では、ヒータ101は、平面視において長方形形状の外形を有するものとし、即ち、一方辺としての長辺および他方辺としての短辺を有するものとする。また、本実施形態では、
図1B、
図2A及び
図2Bから分かるように、ヒータ101の通電の方向と、インク流路108の延びる方向とは互いに並行とする。
【0016】
温度センサ102及び112は、平面視においてヒータ101の長辺側中央部に近接するように配され、ヒータ101と同層に薄膜で設けられる。即ち、ヒータ101、並びに、温度センサ102及び112(或いは其れらを構成する薄膜)は、公知の半導体製造プロセスを用いた所定工程、例えば堆積工程、パターニング工程等、により略同時に形成され、よって、同一材料で構成される。
【0017】
保護膜201は、ヒータ101並びに温度センサ102及び112を覆い且つ其れらを絶縁するように設けられる。保護膜201には、例えばSiN等の絶縁部材が用いられる。
【0018】
耐キャビテーション膜107は、保護膜201上に配され、インク流路108に対して露出している。耐キャビテーション膜107は、平面視においてヒータ101並びに温度センサ102及び112と重なるように(
図1B参照)、インク流路108の幅方向においてオリフィスプレート212の壁部と保護膜201との間に(
図2A参照)、設けられる。耐キャビテーション膜107には、例えばTa等、キャビテーションに対する所望の耐性を実現可能な材料が用いられればよい。
【0019】
図1Bから分かるように、平面視において、温度センサ102及び112は、ヒータ101両側方かつ耐キャビテーション膜107及びインク流路108と重なる位置に設けられる。
【0020】
インク流路108のうちヒータ101の上方に位置する部分およびその周辺部は、ヒータ101の熱が付与されることにより該インクを発泡させる発泡室として機能し、温度センサ102及び112は該発泡室の温度を検知可能である。この発泡室は、例えば、インク流路108のうち平面視において耐キャビテーション膜107と重なる部分として特定されうる。
【0021】
尚、本実施形態では一対の温度センサ102及び112が配された構造とするが、其れらの一方は省略されてもよく、例えば、
図1Aに示されるように単一の温度センサ102(又は112)がヒータ101の一側方に配されてもよい。
【0022】
記録素子基板1は、基板211上の絶縁部材202に対して複数の配線層(金属層、導電層等とも称される。)が設けられて構成される。絶縁部材202は、複数の層間絶縁膜が積層されて構成され、上記配線層の個々は層間絶縁膜の間に設けられうる。基板211にはシリコン等の半導体材料が用いられ、絶縁部材202にはシリコン酸化物等の絶縁材料が用いられうる。
【0023】
上述のヒータ101、並びに、温度センサ102及び112は、上記複数の配線層に設けられた配線パターン(ラインパターン或いは単にパターン等とも称される。)および導電プラグ(コンタクトプラグ、ビア等とも称される。)を介して電気接続されることにより、記録機能を実現可能な回路を形成する。本実施形態では、基板211に最も近い第1層と、その上方の第2層と、最上層として絶縁部材202上に設けられる第3層と、の計3つの配線層が設けられるものとする。
【0024】
ヒータ101は、短辺側の一端部において導電プラグ103を介して第2層の配線パターン203aに接続され、他端部において導電プラグ104を介して第2層の配線パターン203bに接続される。尚、配線パターン203aは、後述のスイッチ素子303(
図3参照)を介して接地され、配線パターン203bは電源線に接続されるものとする。
【0025】
温度センサ102は、
図1Bに示されるように、長辺方向の両端部に設けられた導電プラグ105及び106を介して所定の配線パターンに接続される。例えば、
図2Aに示されるように、温度センサ102は、一端部に設けられた導電プラグ106を介して第2層の配線パターン203cに接続され、更に導電プラグ206を介して第1層の配線パターン204aに接続される。
【0026】
温度センサ112は、温度センサ102同様、長辺方向の両端部に設けられた導電プラグ113及び114を介して所定の配線パターンに接続される。例えば、
図2Aに示されるように、温度センサ112は、一端部に設けられた導電プラグ114を介して第2層の配線層203dに接続され、更に導電プラグ205を介して第1層の配線パターン204bに接続される。
【0027】
また、ヒータ101下方において、第2層には放熱用パターン207が配され、該パターン207は、プラグ209を介して第1層の放熱用パターン208に接続され、該パターン208は、プラグ210を介して基板211に接続される。このような構成によれば、ヒータ101が駆動されて熱を発生した後において該駆動が抑制された場合には、該熱は基板211に速やかに放出されることとなる。
【0028】
尚、パターン207及び208はパターン203a等同様に構成されればよく、また、プラグ209及び210はプラグ205等同様に構成されればよい。よって、これらには、電気抵抗が比較的小さく且つ熱導電性が比較的大きい材料、例えば銅等、が用いられればよい。
【0029】
図3は、駆動信号HTを用いてヒータ101を駆動するヒータ駆動回路、及び、制御信号SEを用いて温度センサ102の信号を処理する処理回路についての回路図である。
【0030】
電圧源301は、ヒータ101に定電圧VHを供給してヒータ101を駆動するための定電圧源である。駆動信号HTがONレベル(Highレベル、活性化レベル等とも称されうる。)になるとスイッチ素子303が導通状態となり、電圧VHが導電プラグ103(
図2B参照)を通じてヒータ101に印加される。また、駆動信号HTがOFFレベル(Lowレベル、非活性化レベル等とも称されうる。)になるとスイッチ素子303が非導通状態となり、電圧VHのヒータ101への印加が抑制される。
【0031】
このようにして、駆動信号HTのON/OFFレベルによって電圧VHがヒータ101に対して矩形パルス状に印加され、ヒータ101が駆動される。詳細については後述とするが、それにより、後述のインク滴501(
図5A及び
図5B参照)が吐出口111から吐出される。
【0032】
電流源302は、温度センサ102に定電流Irefを供給するための定電流源である。制御信号SEがONレベル(Highレベル、活性化レベル等とも称されうる。)になるとスイッチ素子304が導通状態となり、電流Irefが導電プラグ105(
図1参照)を介して温度センサ102に供給される。また、スイッチ素子305及び306が導通状態となり、温度センサ102の両端部の電圧(一端部の電圧をVSSとし、他端部の電圧をVS+VSSとする。)が差動アンプ307に入力される。また、制御信号SEがOFFレベル(Lowレベル、非活性化レベル等とも称されうる。)になると、スイッチ素子304が非導通状態となり、電流Irefの温度センサ102への供給が抑制されるとともに、温度センサ102の両端部の電圧の差動アンプ307への入力も抑制される。
【0033】
温度センサ102が検知する温度は、ヒータ101の駆動に伴って上昇し、また、放熱用パターン207等を介した熱の放出、インク流路108への熱の放出等により降下する。
【0034】
ここで、温度センサ102の温度をTとし、温度センサの電気抵抗値をRSとし、常温をT0とし、温度T0のときの温度センサの電気抵抗値をRS0とし、抵抗温度係数をTCRとしたとき、
式(1):
RS=RS0×{1+TCR×(T-T0)}
と表される。
【0035】
温度センサ102に電流Irefが供給されると、温度センサ102の両端部には電位差VSが発生し、この電位差VSは、
式(2):
VS=Iref×RS
=Iref×RS0{1+TCR×(T-T0)}
と表される。
【0036】
上記電位差VSは差動アンプ307に入力され、差動アンプ307は、上記電位差VSに応じた電圧Vdifを出力する。差動アンプ307には、所望の回路動作を実現可能とするオフセット電圧として電圧Vrefが加えられる。差動アンプ307の増幅率をGdifとしたとき、差動アンプ307の出力電圧Vdifは、
式(3):
Vdif=Vref-Gdif×VS
と表される。
【0037】
図4は、パルス幅0.3μsの駆動信号HTでヒータ101を駆動したときの温度センサ102により検知された温度(以下、単に検知温度という。)のシミュレーション結果を示す。波形406は、駆動信号HTを示す。波形401は、参考例として、温度センサ102がヒータ101下方に絶縁部材202の層間絶縁膜を介して設けられた場合の検知温度を示す。波形402、403及び404は、本実施形態における温度センサ102の検知温度を示し、それぞれ、ヒータ101と温度センサ102との間隔が0.5μm、1.0μm及び1.5μmの場合に対応する。
【0038】
図5A及び
図5Bは、吐出口111からインク滴501が吐出されたときの状態を示す切断線d1-d1の断面模式図である。該吐出の際、インク滴501の一部は、ヒータの駆動により発泡した泡の負圧により、いわゆる尾引としてインク流路108(の発泡室)内に戻ることとなる(戻りインク滴502とする。)。
図5Aは、インク滴501がオリフィスプレート212の表面に対して略垂直な方向に吐出された状態を示しており、
図5Bは、インク滴501がオリフィスプレート212の表面に対して傾斜した方向に吐出された状態を示す。
【0039】
図4に示されるように、参考例である波形401の場合(温度センサ102がヒータ101下方に絶縁部材202の層間絶縁膜を介して設けられた場合)、駆動信号HTが加わった直後における検知温度は、実施形態に係る波形402~404の場合よりも高い。この理由としては、参考例の構造においては、温度センサ102をヒータ101に対向させて配置可能であることが挙げられる。他の理由としては、ヒータ101と温度センサ102とを、其れらの間の上記層間絶縁膜を薄膜化すること(例えば0.35μm程度の膜厚にすること)等により近接させ易いことが挙げられる。これらの理由により、参考例の構造においては、ヒータ101‐温度センサ102間の熱抵抗が小さく、ヒータ101が発生した熱が温度センサ102に伝搬し易い。
【0040】
本実施形態(波形402~404の場合)においては、温度センサ102をヒータ101の側方にヒータ101と近接させて設けることで、温度センサ102の検知精度を向上可能となる。また、温度センサ102をヒータ101の長辺側中央部に隣接させることで、ヒータ101から温度センサ102に伝搬し易くなると共に、温度センサ102を細長い形状で設けることも可能となり、温度センサ102の検知精度を更に向上可能となる。
【0041】
また、本実施形態では、
図1B、
図2A及び
図2Bに示されるように、耐キャビテーション膜107は平面視においてヒータ101及び温度センサ102の双方と重なっている。これにより、ヒータ101が発生した熱は、ヒータ101から絶縁部材202の層間絶縁膜を介して耐キャビテーション膜107に伝搬し、その後、該層間絶縁膜を介して耐キャビテーション膜107から温度センサ102に伝搬することとなる。
【0042】
一方、ヒータ101の駆動に伴い吐出口111からインク滴501が吐出された後(例えば約2μs後)、部分的にインク流路108内に戻る戻りインク滴502により、耐キャビテーション膜107は冷却されることとなる。
【0043】
ここで、
図4に特徴点Kで示されるように、ヒータ101を駆動してから約2μs後、上記戻りインク滴502により、保護膜201、ヒータ101、及び、絶縁部材202の層間絶縁膜を介して、温度センサ102が冷却され、検知温度が比較的急峻に低下する。本実施形態(波形402~404)によれば、検知温度は、参考例(波形401の場合)に比べて更に急峻に低下する。この理由としては、本実施形態における温度センサ102‐戻りインク滴502間の距離が参考例に比べて短いことが挙げられる。
【0044】
これにより、本実施形態では、温度センサ102‐戻りインク滴502間の熱抵抗が参考例の場合よりも小さく、温度センサ102が戻りインク滴502により冷却され易い。よって、本実施形態によれば、温度センサ102は戻りインク滴502を適切に検知可能と云える。換言すると、本実施形態においては、温度センサ102は、ヒータ101の温度変化の検知以上に、戻りインク滴502によるインク流路108の発泡室内の温度変化を検知するのに適している。
【0045】
ここで、
図5Aに示されるように、インク滴501が適切に吐出された場合、一点鎖線で示されるように、戻りインク滴502はヒータ101の中央部に生じうる。一方、
図5Bに示されるように、インク滴501が適切に吐出されなかった場合、戻りインク滴502はヒータ101の中心部からズレた位置に生じうる。この場合に特徴点K以降に生じうる影響は、参考例の波形401については比較的小さいが、本実施形態の波形402~404については参考例(波形401)に比べて大きい。
【0046】
より詳細には、戻りインク滴502が温度センサ102に近い程、特徴点K以降の検知温度は急峻に降下し、戻りインク滴502が温度センサ102から遠い程、特徴点K以降の検知温度は緩やかに降下する。よって、
図5Bの場合、特徴点K以降の検知温度は比較的緩やかに低下することとなる。
【0047】
本実施形態では、
図1Bに示されるように、ヒータ101に対して温度センサ102の反対側に温度センサ112が配され、即ち、一対の温度センサ102及び112は、ヒータ101に対して対称性を有するように配される。温度センサ112は、温度センサ102同様、ヒータ101の駆動後における戻りインク滴502に基づいてインク流路108の発泡室内の温度の変化を適切に検知可能である。戻りインク滴502がヒータ101の中央部から一端部側に偏った場合、一対の温度センサ102及び112の検知結果は互いに異なることとなる。よって、それら温度センサ102及び112の検知結果によれば、インク滴501が適切に吐出されたか否か(インク滴501がオリフィスプレート212の表面に対して垂直な方向に吐出されたか否か)を判定可能となる。
【0048】
また、本実施形態によれば、温度センサ102及び112の其々の検知温度の降下態様(即ち、特徴点K以降の検知温度の変化量の差)に基づいてインク滴501の吐出の方向を算出することも可能となる。
【0049】
また、ヒータ101、並びに、温度センサ102及び112は、同層に配され、本実施形態では、インク流路108に最も近い第3層である絶縁部材202上面に配される。そのため、ヒータ101によるインクの加熱と、温度センサ102及び112による戻りインク滴502による温度の変化の検知と、の双方を適切に実現可能である。
【0050】
図6A及び
図6Bは、他の例としての記録素子基板1の平面模式図を、
図1A同様に示す。区別のため、
図6Aの例においては温度センサ601が用いられ、また、
図6Bの例においては温度センサ604が用いられるものとする。
【0051】
図6Aの例においては、ヒータ101の電気抵抗値が
図1Aの場合に比べて低いものとする。この場合、温度センサ601に電流Irefを供給したときに温度センサ601に発生する電圧が、温度センサ102の場合同様となるように(電圧VSとなるように)、温度センサ601の長さを設定する。即ち、温度センサ601の長さは、温度センサ601の電気抵抗値が温度センサ102の電気抵抗値と等しくなるように設定されればよい。よって、
図6Aの例においては、温度センサ601は温度センサ102よりも長い。
【0052】
図6Bの例においては、ヒータ101の電気抵抗値が
図1Aの場合に比べて高いものとする。この場合においても
図6A同様、温度センサ604に電流Irefを供給したときに温度センサ604に発生する電圧が、温度センサ102の場合同様となるように(電圧VSとなるように)、温度センサ604の長さが設定されればよい。よって、
図6Bの例においては、温度センサ604は温度センサ102よりも短い。
【0053】
尚、
図6Bの例において、温度センサ102よりも短い温度センサ604の電気抵抗値を更に小さくする必要がある場合には、温度センサ604を幅広化すればよい。その際、温度センサ604は、平面視においてインク流路108(の発泡室)と重なるように配されればよい。また、温度センサ604の幅広化に際して、図中に示されるように、導電プラグ105及び106の数を増やしてもよい。
【0054】
(第2実施形態)
前述の第1実施形態では、一対の温度センサ102及び112がそれぞれヒータ101の短辺方向の両側方に隣接して配された構造を例示したが、この態様に限られるものではない。
【0055】
図7は、第2実施形態に係る記録素子基板1の構成の一部を示す平面模式図である。本実施形態では、温度センサ102及び112が配されることに加え、温度センサ701及び702がそれぞれヒータ101の長辺方向の両側方に隣接して配される。即ち、温度センサ102、112、701及び702は、平面視においてヒータ101を取り囲むように4辺の個々に沿って配される。
【0056】
尚、温度センサ701は、両端部に設けられた導電プラグ703及び704を介して所定の配線パターンに接続され、また、温度センサ702は、両端部に設けられた導電プラグ705及び706を介して所定の配線パターンに接続される。
【0057】
第1実施形態の構成(
図1B参照)によれば、平面視において戻りインク滴502がヒータ101の長辺側に偏った場合に、そのことを検知可能であったが、本実施形態によれば、更に、戻りインク滴502がヒータ101の短辺側に偏ったことも検知可能となる。
【0058】
また、本実施形態によれば、温度センサ102及び112の他、更に温度センサ701及び702の其々の検知温度の降下態様に基づいてインク滴501の吐出の方向を算出することも可能となり、該算出を第1実施形態よりも高精度に行うことが可能となる。
【0059】
(第3実施形態)
図8は、第3実施形態に係る記録素子基板1の構成の一部を示す平面模式図である。本実施形態では、ヒータ101の長辺側の両側方のそれぞれに2つの温度センサ、計4つの温度センサ807~810、が配される。温度センサ807は、両端部に設けられた導電プラグ811及び812を介して所定の配線パターンに接続される。温度センサ808は、両端部に設けられた導電プラグ813及び814を介して所定の配線パターンに接続される。温度センサ809は、両端部に設けられた導電プラグ815及び816を介して所定の配線パターンに接続される。また、温度センサ810は、両端部に設けられた導電プラグ817及び818を介して所定の配線パターンに接続される。
【0060】
このような構成によっても前述の第2実施形態同様の効果が得られる。すなわち、温度センサ807~810のうち少なくとも1つの検知結果において特徴点K(
図4参照)が発生した場合、戻りインク滴502があったものと判定可能である。また、其々の検知温度の降下態様に基づいてインク滴501の吐出の方向を算出することも可能である。
【0061】
(第4実施形態)
図9は、第4実施形態に係る記録素子基板1の構成の一部を示す平面模式図である。
図10Aは、
図9中の切断線d3-d3についての断面模式図を示し、
図10Bは、
図9中の切断線d4-d4についての断面模式図を示す。
【0062】
本実施形態では、平面視におけるヒータ(区別のため、ヒータ901とする。)の中央部に開口が設けられ、該開口内に温度センサ(区別のため、温度センサ902とする。)が配される。ヒータ901は、ヒータ101同様、両端部に設けられた導電プラグ103及び104を介して所定の配線パターンに接続される。また、温度センサ902は、両端部に設けられた導電プラグ903及び904を介して所定の配線パターンに接続される。
【0063】
ヒータ901の中央部に温度センサ902を配置可能に設けられた開口に対応するように、放熱用パターン207には、該パターン207が配線パターン203c及び203dから電気分離されるように、開口が設けられればよい(
図10A及び
図10B参照)。すなわち、放熱用パターン207は、配線パターン203c及び203dを取り囲むように配される。
【0064】
放熱用パターン207同様、放熱用パターン208には、配線パターン204a及び204bから電気分離されるように開口が設けられ、即ち、該パターン208は、配線パターン204a及び204bを挟み込むように配される。
【0065】
本実施形態によれば、ヒータ901の中心部に開口を設け、該開口内に温度センサ902を設けることにより、温度センサ902は、その全周においてヒータ901に取り囲まれることとなる。そのため、ヒータ901から温度センサ902への熱の伝搬効率が向上し、温度センサ902の検知精度を更に向上可能となる。
【0066】
(第5実施形態)
図11は、第5実施形態に係る記録素子基板1の構成の一部を示す平面模式図である。本実施形態では、記録素子基板1は、一対のヒータ(区別のため、ヒータ1101及び1102とする。)及び温度センサ(区別のため、温度センサ1103とする。)を備える。ヒータ1101及び1102は、並列に電気接続されており、インク滴501を吐出する際、略同時に駆動されればよい。ヒータ1101及び1102、並びに、温度センサ1103は、インク流路108の延びる方向(インクが流れる方向)に沿って延設され、温度センサ1103は、ヒータ1101及び1102間に配される。
【0067】
ヒータ1101は、両端部に設けられた導電プラグ1104及び1105を介して所定の配線パターンに接続される。ヒータ1102は、両端部に設けられた導電プラグ1106及び1107を介して所定の配線パターンに接続される。温度センサ1103は、両端部に設けられた導電プラグ1108及び1109を介して所定の配線パターンに接続される。
【0068】
本実施形態では、ヒータ1101及び1102、並びに、温度センサ1103が一方向に沿って延設されている。そのため、前述の第1実施形態同様(
図1B、
図2A及び
図2B参照)、放熱用パターン207及び208は、配線パターン203a~203d及び204a~204bから適切に電気分離されるように配置可能である。
【0069】
本実施形態によれば、温度センサ1103の両側方にはヒータ1101及び1102が配される。そのため、ヒータ1101及び1102から温度センサ1103への熱の伝搬効率が向上し、温度センサ1103の検知精度を更に向上可能となる。
【0070】
(第6実施形態)
図12は、第6実施形態に係る記録素子基板1の構成の一部を示す平面模式図である。
図13Aは、
図12中の切断線d5-d5についての断面模式図を示し、また、
図13Bは、
図12中の切断線d6-d6についての断面模式図を示す。
【0071】
本実施形態では、記録素子基板1は、一対のヒータ(区別のため、ヒータ1201及び1202とする。)及び温度センサ(区別のため、温度センサ1203とする。)を備える。ヒータ1201及び1202は、インク流路108の延びる方向(インクが流れる方向)に並設されると共に直列に電気接続されており、インク滴501を吐出する際、略同時に駆動される。温度センサ1203は、ヒータ1201及び1202間に配され、インク流路108の幅方向に延設される。
【0072】
ヒータ1201は、インク流路108の延びる方向の両端部に設けられた導電プラグ1204及び1205を介して所定の配線パターンに接続される。ヒータ1202は、同方向の両端部に設けられた導電プラグ1206及び1207を介して所定の配線パターンに接続される。ヒータ1201及び1202は、第2層の配線パターン1301を介して直列に電気接続される。配線パターン1301は、一端部において導電プラグ1205を介してヒータ1201に接続され且つ他端部において導電プラグ1206を介してヒータ1202に接続される。また、温度センサ1203は、インク流路108の幅方向の両端部に設けられた導電プラグ1208及び1209を介して所定の配線パターンに接続される。
【0073】
配線パターン1301は、温度センサ1203下方に配されることとなるため、放熱用パターン207は、この配線パターン1301から電気分離されるように、また、ヒータ1201及び1202に対応して、一対設けられる。すなわち、
図13Bに示されるように、配線パターン1301は、一対の放熱用パターン207の間に配される。これら一対の放熱用パターン207は、一対のヒータ1201及び1202の下方にそれぞれ位置することとなる。
【0074】
本実施形態によれば、温度センサ1203には、一対のヒータ1201及び1202の双方から熱が伝搬することとなる。そのため、ヒータ1201及び1202から温度センサ1203への熱の伝搬効率が向上し、前述の第5実施形態同様、温度センサ1203の検知精度を更に向上可能となる。
【0075】
(その他)
上述の説明においては、インクジェット記録方式を用いた記録装置を例に挙げて説明したが、記録方式は上述の態様に限られるものではない。また、記録装置は、記録機能のみを有するシングルファンクションプリンタであっても良いし、記録機能、FAX機能、スキャナ機能等の複数の機能を有するマルチファンクションプリンタであっても良い。また、例えば、カラーフィルタ、電子デバイス、光学デバイス、微小構造物等を所定の記録方式で製造するための製造装置であっても良い。
【0076】
また、上記「記録」は広く解釈されるべきものである。従って、「記録」の態様は、記録媒体上に形成される対象が文字、図形等の有意の情報であるか否かを問わないし、また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かも問わない。
【0077】
また、上記「記録媒体」は、上記「記録」同様広く解釈されるべきものである。従って、「記録媒体」の概念は、一般的に用いられる紙の他、布、プラスチックフィルム、金属板、ガラス、セラミックス、樹脂、木材、皮革等、インクを受容可能な如何なる部材をも含みうる。
【0078】
更に、「インク」は、上記「記録」同様広く解釈されるべきものである。従って、「インク」の概念は、記録媒体上に付与されることによって画像、模様、パターン等を形成する液体の他、記録媒体の加工、インクの処理(例えば、記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)等に供され得る付随的な液体をも含みうる。
【0079】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0080】
1:記録素子基板、101:ヒータ、102:温度センサ、108:インク流路。