(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】高温酸化物超電導テープ線材の接合方法
(51)【国際特許分類】
H01R 4/68 20060101AFI20240802BHJP
B23K 20/10 20060101ALI20240802BHJP
H01B 12/06 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
H01R4/68
B23K20/10
H01B12/06
(21)【出願番号】P 2020078867
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2022-11-17
【審判番号】
【審判請求日】2024-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2019090745
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・集 会 名:第98回 2019年度春季 低温工学・超電導学会 開 催 日:2019年(令和1年)5月28日~30日 ・集 会 名:14th European Conference on Applied Superconductivity (EUCAS 2019) 開 催 日:2019年(令和1年)9月1日~5日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 未来社会創造事業「エネルギー損失の革新的な低減化につながる高温超電導線材接合技術」領域、研究課題「高温超電導線材接合技術の超高磁場NMRと鉄道き電線への社会実装」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悟
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 秀利
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕
【合議体】
【審判長】中屋 裕一郎
【審判官】小川 恭司
【審判官】内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-65116(JP,A)
【文献】特開平11-317118(JP,A)
【文献】特開昭64-50595(JP,A)
【文献】特開2016-78093(JP,A)
【文献】特開平2-252664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/68
H01R 43/00
B23K 20/10
H01B 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅酸化物超電導体と安定化材とを有する高温酸化物超電導テープ線材同士を接合する高温酸化物超電導テープ線材の接合方法であって、
室温、大気環境において、超音波接合に用いるアンビルと前記高温酸化物超電導テープ線材との間に平板を設置して、2本の高温酸化物超電導テープ線材の重なった部分を、インジウムを介して超音波接合することを特徴とする高温酸化物超電導テープ線材の接合方法。
【請求項2】
超音波接合に用いるホーンと前記高温酸化物超電導テープ線材との間に平板を設置して、前記超音波接合を行うことを特徴とする請求項1記載の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法。
【請求項3】
前記平板は、材質がアルミニウム系合金、あるいはオーステナイト系ステンレス鋼で構成された金属板から成ることを特徴とする請求項1または2記載の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法。
【請求項4】
前記インジウムは、20μm乃至100μmの厚みを有するインジウム箔から成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法。
【請求項5】
前記銅酸化物超電導体が、主としてRE-Ba-Cu-O系酸化物(ここで、REは1種類または2種類以上の希土類元素)、あるいはBi-Sr-Ca-Cu-O系酸化物で構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導特性を劣化させることなく、高温酸化物超電導テープ線材同士を接合する、高温酸化物超電導テープ線材の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
臨界温度が液体窒素温度を超える銅酸化物超電導体が発見されて以降、ケーブル、コイル、マグネットおよびマグネットシステム等への応用に用いることができる高温酸化物超電導テープ線材の開発が進められている。このような高温酸化物超電導テープ線材は、銅酸化物超電導体と安定化材金属との複合構造によって形成される。中でも希土類系銅酸化物超電導テープ線材およびビスマス系銅酸化物超電導テープ線材は、実用線材として販売されている実績を持つ。
【0003】
電流リード、ケイ素単結晶引き上げ装置用超電導コイルなど、上記のような高温酸化物超電導テープ線材を用いて、すでに実用化されているものも少なくない。このような実用事例も含めて、高温超電導ケーブル、コイル、マグネットおよびマグネットシステム等の製造には、長尺の高温酸化物超電導テープ線材が必要とされる。
【0004】
しかしながら、長尺で品質の安定した高温酸化物超電導テープ線材を製作することは困難であり、現状の実績としては、1000m程度にとどまっている。数km~数10kmの高温酸化物超電導テープ線材を必要とする応用もあり、この場合、複数の高温酸化物超電導テープ線材を接続して長尺化する工程が必要である。また、高温超電導ケーブルや高温超電導コイル等の製作現場においても、高温酸化物超電導テープ線材を接続する工程が含まれることが多い。このような接続には、一般的に、はんだ接合が用いられる。
【0005】
はんだ接合により高温酸化物超電導テープ線材を良好に接続するためには、同線材の温度をはんだ材料の融点よりも十分に高い温度にし、濡れ性を確保しなければならない。しかしながら、大気環境においては、銅酸化物超電導体から酸素が抜け、臨界電流が低下する200~250℃以上の温度にすることができない。熱伝導を考えると、構造が大型化するほど、均一な温度にすることは難しくなり、はんだ材料の融点よりも十分に高い温度にしようとした場合、200℃を超える箇所が出て、高温酸化物超電導テープ線材の超電導特性が劣化するリスクがある。
【0006】
また、高温酸化物超電導テープ線材の接続工程において、銅酸化物超電導体から酸素が抜けることを防止するためには、酸化性環境にしてやればよいが、このような環境を導入するためには装置が大掛かりになり、製作コストがかかるという問題がある。
【0007】
また、はんだ接合により高温酸化物超電導テープ線材を良好に接続するためには、接合領域を加圧するとよいが、はんだ材料が十分に溶融する前に加圧すると、不均一に分布した固体のはんだ材料により過剰な応力が発生し、高温酸化物超電導テープ線材に塑性ひずみが発生して超電導特性を劣化させるリスクがある。加えて、はんだ材料の融点よりも十分に高い温度にしてから、高温酸化物超電導テープ線材を正確に重ね合わせ加圧するためには、大掛かりな装置導入、あるいは作業者の高い熟練度が必要である。
【0008】
このような理由から、はんだ接合によって接続された高温酸化物超電導テープ線材の接合部の抵抗、および接合部の超電導特性は、大きくばらつくことが報告されている。例えば、はんだ接合によって良好な接合が得られた場合、接合部の抵抗と接合面積との積で表される接合抵抗率として、30nΩcm2程度が達成されるが、良好な接合が得られない場合には、1000nΩcm2程度になってしまうことがあることも報告されている。したがって、簡易的な接合工程で、超電導特性の劣化を最小限に抑制し、かつ安定的に低抵抗を得ることができる高温酸化物超電導テープ線材の接合方法が求められる。
【0009】
ここで、大気環境かつ室温環境で高温酸化物超電導テープ線材を接続する方法として、超音波接合を用いて希土類系銅酸化物超電導テープ線材を直接接合する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、接合面積90mm2に対して、30~70nΩが得られたとの記載があり、これは接合抵抗率27~63nΩcm2に相当し、良好なはんだ接合と同等の接合抵抗率が達成できることが示されている。
【0010】
また、はんだ接合と超音波接合とを組み合わせて、希土類系銅酸化物超電導テープ線材を直接接合する方法も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。この方法でも、接合抵抗率として47~74nΩcm2が得られており、良好なはんだ接合と同等の接合抵抗率が達成できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Hyung-Seop Shin, Jong-min Kim and Marlon J Dedicatoria, “Pursuing low joint resistivity in Cu-stabilized REBa2Cu3Oδ coated conductor tapes by the ultrasonic weld-solder hybrid method”, Supercond. Sci. Technol., 2016, 29, 015005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述の通り、数km以上の長尺で品質の安定した高温酸化物超電導テープ線材を製作することは困難であり、また、高温超電導ケーブルや高温超電導コイル等の製作現場においても、高温酸化物超電導テープ線材を接続する工程が含まれることが多いため、大気環境下において、簡易的な接続工程で、超電導特性の劣化を最小限に抑制し、かつ安定的に低抵抗を得ることができる高温酸化物超電導テープ線材の接合方法が求められている。
【0014】
しかしながら、前述の通り、一般的に用いられる高温酸化物超電導テープ線材のはんだ接合の場合、酸素抜けを防止するための温度制約がある中で、濡れ性を確保するための温度調整が必要であり、また、良好な接合を得るための加圧についても課題があるため、超電導特性の劣化や接合抵抗のばらつきが問題となっていた。
【0015】
特許文献1に記載の接合方法は、超音波接合を用いることにより、比較的良好な接合抵抗率を得ることができるが、大きい接合圧力が必要であり、また接合時間も長くなるため、接合エネルギーが大きくなり、接合後の超電導特性が劣化するリスクが高いという課題があった。また、非特許文献1に記載の接合方法は、はんだ接合と超音波接合とを組み合わせることにより、比較的低い接合圧力で接合可能で、比較的良好な接合抵抗率を得ることができるが、接合時間が長くなるため、接合エネルギーが大きくなり、接合後の超電導特性が劣化するリスクが高いという課題があった。
【0016】
また、特許文献1および非特許文献1に記載の接合方法は、希土類系銅酸化物超電導テープ線材への適用にとどまっており、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材へ適用できるか否かについては記載がない。しかし、実際には、高温超電導ケーブルや高温超電導コイル等においては、希土類系銅酸化物超電導テープ線材同士を接続するだけでなく、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材同士を接続する、あるいは希土類系銅酸化物超電導テープ線材とビスマス系銅酸化物超電導テープ線材とを接続する必要がある場合もある。
【0017】
特許文献1および非特許文献1に記載のように、超音波接合を用いてビスマス系銅酸化物超電導テープ線材を直接接合しようとした場合、超音波接合に用いるホーンおよびアンビルの先端の凹凸により、同線材に過剰なひずみが発生する。また、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材の断面形状は、厳密な平板ではなく楕円形状をしているため、直接接合で接触面積を確保するためには、同線材を変形させる必要がある。これらの原因により、特許文献1および非特許文献1に記載の接合方法をビスマス系銅酸化物超電導テープ線材に適用すると、超電導特性は著しく劣化する可能性が高いという課題もあった。このため、接合後に、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材を使用する際の一般的な電流値を流した場合でも、接合部の抵抗は著しく大きなものになってしまう。
【0018】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、超電導特性の劣化を抑制可能で、同種あるいは異種の高温酸化物超電導テープ線材同士を接合することができる高温酸化物超電導テープ線材の接合方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明に係る高温酸化物超電導テープ線材の接合方法は、銅酸化物超電導体と安定化材とを有する高温酸化物超電導テープ線材同士を接合する高温酸化物超電導テープ線材の接合方法であって、室温、大気環境において、超音波接合に用いるアンビルと前記高温酸化物超電導テープ線材との間に平板を設置して、2本の高温酸化物超電導テープ線材の重なった部分を、インジウムを介して超音波接合することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る高温酸化物超電導テープ線材の接合方法によれば、室温で重ね合わせおよび接合を行うため、銅酸化物超電導体からの酸素抜けは発生せず、超電導特性の劣化を抑制して、簡便に高温酸化物超電導テープ線材同士を接合することが可能である。
【0021】
また、金属の中でも硬度が低いインジウムを介して超音波接合を行うため、加圧する場合でも、ホーンやアンビルによって接合部に与えられる圧力は均一化され、局所的に過剰なひずみが発生することを抑制することができる。また、高温酸化物超電導テープ線材の断面形状が厳密な平板形状でなくとも、インジウムが変形して接触面積を増やすことができ、高温酸化物超電導テープ線材自体を変形させなくても、接触面積を十分に確保することが可能となる。このため、本発明に係る高温酸化物超電導テープ線材の接合方法は、例えば、希土類系銅酸化物超電導テープ線材だけでなく、断面が楕円形状のビスマス系銅酸化物超電導テープ線材にも適用することができ、同種あるいは異種の高温酸化物超電導テープ線材同士を接合することができる。
【0022】
また、本発明に係る高温酸化物超電導テープ線材の接合方法は、高温酸化物超電導テープ線材の安定化材として使用される銅や銀を直接接合するのではなく、融点が銅や銀のそれよりも遥かに低いインジウムと安定化材との接合となるため、比較的低い接合圧力および比較的短い接合時間で、インジウムの溶融あるいは固相拡散によって、高温酸化物超電導テープ線材同士の接合を行うことができる。これにより、接合エネルギーを小さくすることができ、接合後の超電導特性の劣化を抑制することができる。
【0023】
本発明に係る高温酸化物超電導テープ線材の接合方法は、超音波接合に用いるホーンと前記高温酸化物超電導テープ線材との間に平板を設置して、前記超音波接合を行ってもよい。本発明に係る高温酸化物超電導テープ線材の接合方法は、平板により、ホーンやアンビルの先端の凹凸によって高温酸化物超電導テープ線材に局所的に発生する過剰なひずみを抑制することができる。また、平板は金属板であることが好ましく、この場合、金属板が超音波によって振動して発熱するため、安定化材とインジウムとの接合を促進する効果がある。このため、より短い接合時間、低い超音波エネルギーで接合を行うことができ、超電導特性の劣化をさらに抑制することができる。
【0024】
本発明に係る高温酸化物超電導テープ線材の接合方法で、金属板は、高温酸化物超電導テープ線材の種類によって変更することが好ましく、例えば、金属板としてアルミニウム系合金を用いた場合には、発熱量が大きく変形量も大きくなり、金属板としてオーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合には、発熱量が小さく変形量も小さくなる。
【0025】
本発明に係る高温酸化物超電導テープ線材の接合方法で、前記インジウムは、20μm乃至100μmの厚みを有するインジウム箔から成ることが好ましい。この場合、接合後の超電導特性の劣化を効果的に抑制することができる。また、インジウム箔は、インジウムのみから成り、他の元素を含んでいないことが好ましい。
【0026】
本発明に係る高温酸化物超電導テープ線材の接合方法で、前記銅酸化物超電導体は、例えば、主としてRE-Ba-Cu-O系酸化物(ここで、REは1種類または2種類以上の希土類元素)から成る希土類系銅酸化物超電導テープ線材、あるいは、主としてBi-Sr-Ca-Cu-O系酸化物から成るビスマス系銅酸化物超電導テープ線材で構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、超電導特性の劣化を抑制可能で、同種あるいは異種の高温酸化物超電導テープ線材同士を接合することができる本発明に係る高温酸化物超電導テープ線材の接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法で使用する希土類系銅酸化物超電導テープ線材を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法で使用するビスマス系銅酸化物超電導テープ線材を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法の、希土類系銅酸化物超電導テープ線材の接合形態を示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法の、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材の接合形態を示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法の、希土類系銅酸化物超電導テープ線材同士を超音波接合する場合の接合部構成を示す斜視図である。
【
図6】本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法の、希土類系銅酸化物超電導テープ線材同士を超音波接合する場合の、他の接合部構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
図1乃至
図6は、本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法を示している。
【0030】
図1は、主としてRE-Ba-Cu-O系酸化物で構成される希土類系銅酸化物超電導体を用いた高温酸化物超電導テープ線材、すなわち希土類系銅酸化物超電導テープ線材の構造の例を示したものである。
図1に示すように、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1は、基材1dの上に、中間層1cを介して希土類系銅酸化物高温超電導体1bの薄膜が配置された構造を有している。さらに、
図1に示すように、希土類系銅酸化物高温超電導体1bの上に、主に銀、銅などで構成される安定化材1aが配置されている。なお、安定化材1aは、
図1の事例とは異なり、基材1d、中間層1c、希土類系銅酸化物高温超電導体1bからなるテープ状構造体の周囲全面に配置される場合もある。
【0031】
図2は、主としてBi-Sr-Ca-Cu-O系酸化物で構成されるビスマス系銅酸化物超電導体を用いた高温酸化物超電導テープ線材、すなわちビスマス系銅酸化物超電導テープ線材の構造の例を示したものである。
図2に示すように、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2は、主に銀で構成される安定化材2aの中に複数のビスマス系銅酸化物高温超電導体のフィラメント2bを配置した構造になっている。ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2は、丸線をテープ状に引き延ばすことで製作する工程を含むため、断面形状は厳密な平板形状ではなく、平板形状に近い楕円形状となっている。なお、
図2の事例とは異なり、安定化材2a、ビスマス系銅酸化物高温超電導体のフィラメント2bからなるテープ状構造体の上下面に、テープ状の補強金属がはんだ付けされる場合もある。
【0032】
図3に示すように、本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法では、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1同士を接合する際には、希土類系銅酸化物高温超電導体1bと接する安定化材1a同士が対向するように、2本の希土類系銅酸化物超電導テープ線材1を、インジウム箔3を介して重ね合わせ、接合する。
【0033】
図4に示すように、本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法では、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2同士を接合する際には、2本のビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2を、インジウム箔3を介して重ね合わせ、接合する。
【0034】
なお、本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法では、例えば、
図3に示される希土類系銅酸化物超電導テープ線材1の片方を、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2に入れ替えて、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1とビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2とを、インジウム箔3を介して接合してもよい。
【0035】
図5および
図6に示すように、本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法は、ホーン4とアンビル6とを有する超音波接合機を用いて、室温、大気環境において、超音波接合によって希土類系銅酸化物超電導テープ線材1同士が重なった部分を、インジウム箔3を介して接合する。なお、
図5および
図6に示す希土類系銅酸化物超電導テープ線材1の双方、あるいはいずれかを、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2に入れ替えてもよい。
【0036】
ホーン4は、発振器が接続された金属製のブロックであり、発振器の動作によって、所定の振幅および周波数での超音波振動5を発生させるようになっている。
図5および
図6では、超音波振動5の方向は、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1の幅方向となっているが、超音波振動5の方向はこれに限られるものではなく、接合面および希土類系銅酸化物超電導テープ線材1に平行であれば、どの方向でもよい。
【0037】
アンビル6は、金属製のブロックであり、かつ被接合物を固定する台である。ホーン4は、接合面に垂直な方向に移動可能であり、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1同士が重なった部分をホーン4とアンビル6とで挟むことにより、所定の圧力を加えることができるようになっている。
【0038】
接合する際には、ホーン4とアンビル6とを直接、各希土類系銅酸化物超電導テープ線材1に接触させてもよいが、
図5に示すように、アンビル6と希土類系銅酸化物超電導テープ線材1との間に、金属板7を設置してもよく、ホーン4と希土類系銅酸化物超電導テープ線材1との間に、金属板7を設置してもよく、
図6に示すように、アンビル6と希土類系銅酸化物超電導テープ線材1との間、およびホーン4と希土類系銅酸化物超電導テープ線材1との間に、金属板7を設置してもよい。金属板7は、ホーン4およびアンビル6の先端の凹凸形状、あるいは端部によって発生する応力集中を緩和して、高温酸化物超電導テープ線材に局所的に発生する過剰なひずみを抑制することができ、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1の超電導特性の劣化を抑制することができる。なお、本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法は、
図5や
図6の金属板の配置に制限されるものではない。
【0039】
また、ホーン4によって発生する超音波振動5によって、金属板7にも超音波振動が伝わり、これによる発熱が起こる。この発熱により、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1とインジウム箔3との固相拡散、あるいはインジウム箔3の溶融を促進する効果が得られ、安定化材1aとインジウム箔3との接合を促進することができる。金属板7の種類は、高温酸化物超電導テープ線材の種類によって変更しても良い。例えば、金属板7としてアルミニウム系合金を用いた場合には、発熱量が大きいが変形量が大きくなり、金属板7としてオーステナイトステンレス鋼を用いた場合には、発熱量が小さいが変形量も小さくなる。なお、本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法は、ホーン4、アンビル6、金属板7のサイズに制限を設けるものではない。
【0040】
本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法によれば、室温で重ね合わせおよび接合を行うため、銅酸化物超電導体からの酸素抜けは発生せず、超電導特性の劣化を抑制して、簡便に高温酸化物超電導テープ線材同士を接合することができる。
【0041】
また、金属の中でも硬度が低いインジウム箔3を介して超音波接合を行うため、加圧する場合でも、ホーン4やアンビル6によって接合部に与えられる圧力は均一化され、局所的に過剰なひずみが発生することを抑制することができる。また、高温酸化物超電導テープ線材の断面形状が厳密な平板形状でなくとも、インジウム箔3が変形して接触面積を増やすことができ、高温酸化物超電導テープ線材自体を変形させなくても、接触面積を十分に確保することが可能となる。このため、本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法は、
図5および
図6に示すような、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1だけでなく、断面が楕円形状のビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2にも適用することができ、同種あるいは異種の高温酸化物超電導テープ線材同士を接合することができる。
【0042】
また、本発明の実施の形態の高温酸化物超電導テープ線材の接合方法は、高温酸化物超電導テープ線材の安定化材1a、2aとして使用される銅や銀を直接接合するのではなく、融点が銅や銀のそれよりも遥かに低いインジウムと安定化材1a、2aとの接合となるため、比較的低い接合圧力および比較的短い接合時間で、インジウムの溶融あるいは固相拡散によって、高温酸化物超電導テープ線材同士の接合を行うことができる。これにより、接合エネルギーを小さくすることができ、接合後の超電導特性の劣化を抑制することができる。
【実施例1】
【0043】
表1は、
図5に示す実施形態を用いて、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1同士を、インジウム箔3を介して接合したもの、および、
図5に示す実施形態において、2つの希土類系銅酸化物超電導テープ線材1をビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2に変更して、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2同士を、インジウム箔3を介して接合したものを、液体窒素冷却および自己磁場体系で、接合抵抗率と臨界電流とを評価した結果を示したものである。
【0044】
【0045】
この試験で用いた希土類系銅酸化物超電導テープ線材1は、SuperPower社製(型番:SCS4050-AP)のものであり、幅4mm、厚さ100μm程度で、安定化材1aの厚さは約20μmである。なお、この希土類系銅酸化物超電導テープ線材1としては、製造番号の異なる2種類を用いており、それぞれの臨界電流は、液体窒素温度、自己磁場において、100Aおよび128Aである。また、この試験で用いたビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2は、住友電気工業社製(型番:DI-BSCCO Type H)のものであり、幅4.3mm、厚さ230μmのものである。なお、このビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2の臨界電流は、液体窒素温度、自己磁場において、180Aである。なお、表1中においては、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1のうち臨界電流が100Aのものを「希土類系1」、臨界電流が128Aのものを「希土類系2」、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2を「ビスマス系1」、と表記している。
【0046】
この試験では、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1あるいはビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2を重ね合わせる前に、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1あるいはビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2の重ね合わせる面を、#240の研磨紙で研磨し、エタノールで洗浄している。さらに、厚さ100μmのインジウム箔3を、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1あるいはビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2の重ね合わせた部分に挿入している。また、超音波接合において、荷重589N、超音波周波数19.15kHz、超音波振幅51μmを固定条件とした。
【0047】
この試験では、高温酸化物超電導テープ線材、ホーン4、金属板7、接合時間をパラメータにして、接合サンプルを製作し、液体窒素浸漬冷却体系、自己磁場下において電流-電圧特性を取得した。各条件におけるサンプル数は、2または3である。
【0048】
この試験では、2種類のホーン4(ホーンAあるいはホーンB)を使用している。希土類系銅酸化物超電導テープ線材1あるいはビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2に触れるホーン4の下面のサイズは、6mm四方である。ホーンAの下面には、0.2mm間隔でピラミッド形状の突起が配置されている。一方、ホーンBの先端は、平坦な形状をしている。また、使用した金属板7は、厚さ1mmのアルミニウム合金(A1050)あるいは厚さ0.5mmのオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)である。この試験での接合サンプルの接合面積は、12.6mm2~26.0mm2の範囲である。これは、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1あるいはビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2が重なった領域とホーン4の下面とが触れる領域が完全に一致するように、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1あるいはビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2を設置していなかったためである。
【0049】
臨界電流については、各条件において、すべての接合サンプルで、元の臨界電流から25%の低下がなかった場合を〇、すべての接合サンプルで、元の臨界電流から25%以上低下した場合を×、元の臨界電流から25%以上の低下がなかった接合サンプルと、25%以上低下した接合サンプルとが混在する場合を△と記載している。また、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1については、この試験では臨界電流の低下がなかったため、臨界電流以下の電流-電圧特性の傾きから求めた接合抵抗に接合面積をかけることで、接合抵抗率を求めている。一方、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2については、大幅な臨界電流の低下がみられる接合サンプルもあったため、統一的に、100A通電時の電圧から求めた接合抵抗に接合面積をかけることで、接合抵抗率を求めている。
【0050】
表1で示される条件で、25%以上の臨界電流の低下がなかったのは、No.1、No.2、No.8、No.10、およびNo.11である。希土類系銅酸化物超電導テープ線材1のうち臨界電流が100Aのものでは、31.6~33.7nΩcm2、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2では、25.8~39.8nΩcm2が得られており、はんだ接合と同等の接合抵抗率が安定的に得られている。また、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1のうち臨界電流が128Aのものでは、臨界電流が100Aのものに比べて接合抵抗率が高くなっているが、これは希土類系高温超電導体1bと安定化材1aとの界面の抵抗が、希土類系高温超電導テープ線材1の製造番号によってばらつくためである。
【実施例2】
【0051】
表2は、
図6に示す実施形態を用いて、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1同士を、インジウム箔3を介して接合したものを、液体窒素冷却および自己磁場体系で、接合抵抗率と臨界電流とを評価した結果を示したものである。
【0052】
【0053】
この試験で用いた希土類系銅酸化物超電導テープ線材1としては、製造メーカーの異なる2種類を用いている。1つは、SuperPower社製(型番:SCS4050-AP)のものであり、幅4mm、厚さ100μm程度で、安定化材1aの厚さは約20μmである。もう1つは、日本国SuperOx Japan合同会社製(型番:なし)のものであり、幅4mm、厚さ110μm程度で、安定化材1aの厚さは約20μmである。それぞれの臨界電流は、液体窒素温度、自己磁場において、128Aおよび150Aである。なお、表2中においては、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1のうち臨界電流が128Aのものを「希土類系2」、臨界電流が150Aのものを「希土類系3」と表記している。ここで示す「希土類系2」は、表1で示した「希土類系2」と同じ希土類系銅酸化物超電導テープ線材1である。
【0054】
この試験では、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1を重ね合わせる前に、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1の重ね合わせる面を、#240の研磨紙で研磨し、エタノールで洗浄している。さらに、インジウム箔3を、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1の重ね合わせた部分に挿入している。また、超音波接合において、荷重589N、超音波周波数19.15kHz、超音波振幅51μmを固定条件とした。さらに、ホーン4を、前述のホーンA、金属板7を厚さ1mmのアルミニウム合金(A1050)とした。
【0055】
この試験では、高温酸化物超電導テープ線材、挿入するインジウム箔3の厚さ、接合時間をパラメータにして、接合サンプルを製作し、液体窒素浸漬冷却体系、自己磁場下において電流-電圧特性を取得した。各条件におけるサンプル数は2である。また、この試験での接合サンプルの接合面積は、22.0mm2~28.0mm2の範囲である。
【0056】
臨界電流については、各条件において、表1と同様の基準で〇、△、×を示した。また、同様にして、臨界電流以下の電流-電圧特性の傾きから求めた接合抵抗に接合面積をかけることで、接合抵抗率を求めている。
【0057】
表2で示される全ての条件において、臨界電流の低下は確認できなかった。接合時間を120ms以上とすることで、希土類系2では36.1~42.1nΩcm
2、希土類系3では37.1~53.0nΩcm
2が得られており、はんだ接合と同等の接合抵抗率が安定的に得られている。表1に示すように、
図5に示す実施形態では、120ms以上の接合時間で臨界電流の低下がみられたが、表2に示すように、
図6に示す実施形態では、120ms以上の接合時間でも臨界電流の低下を抑えることが可能となっている。また、接合時間が増加すると、超音波接合によって接合部に与えられるエネルギーが増加するが、接合部単位面積あたり15J/cm
2以上のエネルギーが与えられると、接合抵抗率が安定的に低下することがわかっている。
【実施例3】
【0058】
表3は、
図6に示す実施形態を用いて、2つの希土類系銅酸化物超電導テープ線材1をビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2に変更して、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2同士を、インジウム箔3を介して接合したものを、液体窒素冷却および自己磁場体系で、接合抵抗率と臨界電流とを評価した結果を示したものである。
【0059】
【0060】
この試験で用いたビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2は、住友電気工業社製(型番:DI-BSCCO Type H)のものであり、幅4.3mm、厚さ230μmである。なお、このビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2は、液体窒素温度、自己磁場において、臨界電流が170Aであり、表1に示した「ビスマス系1」と同じ製品ではあるものの、臨界電流が異なるものである。
【0061】
この試験では、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2を重ね合わせる前に、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2の重ね合わせる面を、#240の研磨紙で研磨し、エタノールで洗浄している。さらに、インジウム箔3を、ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2の重ね合わせた部分に挿入している。また、超音波接合において、超音波周波数19.15kHzを固定条件とし、ホーン4を前述のホーンAとした。
【0062】
この試験では、金属板7、挿入するインジウム箔3の厚さ、超音波接合における荷重、超音波振幅、接合時間をパラメータにして、接合サンプルを製作し、液体窒素浸漬冷却体系、自己磁場下において電流-電圧特性を取得した。各条件におけるサンプル数は、2または3である。また、この試験での接合サンプルの接合面積は、16.5mm2~30.1mm2の範囲である。
【0063】
臨界電流については、各条件において、表1と同様の基準で〇、△、×を示した。また、同様にして、臨界電流以下の電流-電圧特性の傾きから求めた接合抵抗に接合面積をかけることで、接合抵抗率を求めている。
【0064】
表3で示される多くの条件で、臨界電流の25%以上の低下を防いでいることが示された。表1に示すように、
図5に示す実施形態では、限られた条件でのみ臨界電流の低下を抑えることができたが、表3に示すように、
図6に示す実施形態では、多くの条件で臨界電流の低下を抑えることが可能となっている。接合時間を120msとしたNo.27およびNo.32では、14.0~21.8nΩcm
2が得られており、はんだ接合と同等、または、はんだ接合より低い抵抗が安定的に得られている。また、荷重、振幅、接合時間が大きいほど、接合抵抗率は低くなる傾向にある。これら3つのパラメータが増加すると、超音波接合によって接合部に与えられるエネルギーが増加するが、接合部単位面積あたり3J/cm
2以上のエネルギーが与えられると、接合抵抗率が安定的に低下することがわかっている。また、インジウム箔3を薄くすることにより、接合抵抗率は低下する傾向にあるが、一方で臨界電流を低下させるリスクがある。
【0065】
以上の実施例では、同種の高温酸化物超電導テープ線材の接合の事例を示したが、異種の高温酸化物超電導テープ線材、すなわち希土類系銅酸化物超電導テープ線材1とビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2とを、インジウム箔3を介して接合することも可能である。また、各実施例では、ホーン4で各線材の1ヶ所のみを接合しているが、ホーン4をずらしたり、ローラー状のホーン4を用いたりすることにより、より広い範囲を接合することもできる。
【0066】
また、希土類系銅酸化物超電導テープ線材1あるいはビスマス系銅酸化物超電導テープ線材2を重ね合わせたに部分おいて、インジウム箔3を各線材の先端部に至らないように配置することによって、各線材の先端部を原因とする応力集中を回避することができ、臨界電流の低下のリスクをより下げることが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 希土類系銅酸化物超電導テープ線材
1a 安定化材
1b 希土類系銅酸化物高温超電導体
1c 中間層
1d 基材
2 ビスマス系銅酸化物超電導テープ線材
2a 安定化材
2b ビスマス系銅酸化物高温超電導体のフィラメント
3 インジウム箔
4 ホーン
5 超音波振動
6 アンビル
7 金属板