(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】露光装置、露光方法および製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
G03F7/20 521
G03F7/20 501
(21)【出願番号】P 2021138254
(22)【出願日】2021-08-26
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2020147085
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和弘
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-245270(JP,A)
【文献】特開2011-077422(JP,A)
【文献】特開2000-082663(JP,A)
【文献】特開2006-324664(JP,A)
【文献】特開2008-262997(JP,A)
【文献】特開平06-252021(JP,A)
【文献】特開平07-029807(JP,A)
【文献】特開2011-082253(JP,A)
【文献】特表2015-518975(JP,A)
【文献】特開2008-153401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期パターンを有する原版を照明する照明光学系と、
前記原版の像を基板に
投影する投影光学系と、
前記基板に対する露光を制御する制御部と、を備え、
前記照明光学系からの光は前記原版に斜入射し、
前記周期パターンからの2次以上の回折光を含む複数の回折光
は、前記投影光学系の瞳領域に、前記瞳領域の原点を通り前記周期パターンの周期方向と直交する直線に対して線対称な4つの高光強度部を含む光強度分布を形成
し、
前記4つの高光強度部からの4つの光束のうち
2つの光束は、フォーカス状態によって周期的に位相差が変化
し、
前記制御部は、前記2つの光束
のフォーカス状態と位相差との関係に基づいた2以上のフォーカス状態で、
前記基板のショット領域の各点を露光
するよう
に制御する
、
ことを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記投影光学系の前記瞳領域に前記光強度分布が形成されるように前記照明光学系を調整する調整部を更に備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記調整部は、前記
照明光学系
の瞳領域に形成され
る光強度分布が、
前記照明光学系の光軸上に配置された極を含むよう
に前記照明光学系を調整する、
ことを特徴とする請求項2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記調整部は、前記照明光学系の瞳領域に、前記周期方向と直交する方向に平行な線について線対称かつ互いに離隔して配置された少なくとも2つの第2高光強度部を含む第2光強度分布が形成されるように前記照明光学系を調整し、前記少なくとも2つの第2高光強度部は、前記第2光強度分布における他の部分よりも光強度が高い、
ことを特徴とする請求項2に記載の露光装置。
【請求項5】
前記照明光学系
の瞳領域の半径をrとしたときに、前記調整部は、前記照明光学系
の瞳領域に形成され
る光強度分布に含まれる前記少なくとも2つの第2高光強度部のそれぞれの中心位置
が、前記照明光学系の瞳領域の中心位置からr/3以下
の範囲に位置するように、前記照明光学系を調整する、
ことを特徴とする請求項4に記載の露光装置。
【請求項6】
前記照明光学系の前記瞳領域に形成される前記光強度分布の全体の光量に対する、前記照明光学系の前記瞳領域の前記少なくとも2つの第2高光強度部の光量の比率が50%以上である、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の露光装置。
【請求項7】
前記投影光学系の前記瞳領域に形成される前記光強度分布に含まれる前記4つの高光強度部のそれぞれの前記周期方向における幅をσ値に換算した値が0.3以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項8】
前記周期方向における前記周期パターンのピッチをP、露光光の波長をλ、前記投影光学系の開口数をNAとしたときに、前記照明光学系は、P>(3/2)×(λ/NA)を満たす場合に、前記複数の回折光が、前記投影光学系の前記瞳領域に前記4つの高光強度部を含む前記光強度分布を形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記基板の表面の法線方向を前記投影光学系の光軸方向に対して傾けた状態で前記基板の走査露光がなされるように前記基板の露光を制御する、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項10】
前記走査露光では、前記ショット領域の任意点が第1フォーカス状態から第2フォーカス状態に至るように前記ショット領域が露光され、前記第1フォーカス状態での前記任意点と前記第2フォーカス状態での前記任意点との間の前記光軸方向における距離をZ1、前記周期方向における前記周期パターンのピッチをP、露光光の波長をλとしたときに、Z1=λ/[(1-λ
2/P
2/4)
1/2-(1-9×λ
2/P
2/4)
1/2]を満たす、
ことを特徴とする請求項9に記載の露光装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記ショット領域が第1フォーカス状態と第2フォーカス状態とのそれぞれで露光されるように、前記基板の露光を制御する、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項12】
前記第1フォーカス状態における前記投影光学系の光軸方向における前記基板の位置と前記第2フォーカス状態における前記光軸方向における前記基板の位置との距離をZ2、前記周期方向における前記周期パターンのピッチをP、露光光の波長をλとしたときに、Z2=λ/[(1-λ
2/P
2/4)
1/2-(1-9×λ
2/P
2/4)
1/2]/2を満たす、
ことを特徴とする請求項11に記載の露光装置。
【請求項13】
露光光の中心波長が2つの波長の間で連続的に変更され、
前記2つの波長をλ0-Δλ/2、λ0+Δλ/2、前記投影光学系の軸上色収差の値をC、前記周期方向における前記周期パターンのピッチをPとしたときに、Δλ=λ0/[(1-λ0
2/P
2/4)
1/2-(1-9×λ0
2/P
2/4)
1/2]/Cを満たす、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項14】
前記投影光学系の軸上色収差の値をC、前記周期方向における前記周期パターンのピッチをP、露光光の半値全幅をΔλ、前記露光光のピークをλ0としたときに、Δλ=λ0/[(1-λ0
2/P
2/4)
1/2-(1-9×λ0
2/P
2/4)
1/2]/Cを満たす、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項15】
中心波長が互いに異なる2つの波長の露光光が使用され、
前記2つの波長をλ0-Δλ/2、λ0+Δλ/2、前記投影光学系の軸上色収差の値をC、前記周期方向における前記周期パターンのピッチをPとしたときに、Δλ=λ0/[(1-λ0
2/P
2/4)
1/2-(1-9×λ0
2/P
2/4)
1/2]/2/Cを満たす、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項16】
前記制御部は、前記基板のショット領域の各点が2以上のフォーカス状態で露光されるように、前記基板を駆動する動作、および、露光光の波長を変更する動作を実行する、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項17】
前記基板を駆動する動作は、前記基板の位置を連続的に変更する動作を含む、
ことを特徴とする請求項16に記載の露光装置。
【請求項18】
前記制御部は、前記ショット領域の各点が2以上のフォーカス状態で露光されるように、前記投影光学系の光軸方向における前記基板の位置を第1位置とし、露光光の波長を第1波長として前記ショット領域を露光する動作、および、前記投影光学系の光軸方向における前記基板の位置を前記第1位置と異なる第2位置とし、前記露光光の波長を前記第1波長と異なる第2波長として前記ショット領域を露光する動作を実行する、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項19】
原版を照明する照明光学系と、前記原版の像を基板に形成する投影光学系とを備える露光装置であって、
前記照明光学系の瞳領域には、前記瞳領域の原点を通り前記照明光学系の光軸に直交する線に対して線対称に配置された、他の部分よりも光強度が高い高光強度部を少なくとも2つ含む光強度分布が形成され、
前記瞳領域の半径をrとしたとき、前記高光強度部の中心位置は、前記瞳領域の原点からr/3以下の範囲に位置することを特徴とする露光装置。
【請求項20】
周期パターンを有する原版を照明する照明光学系と、前記原版の像を基板に形成する投影光学系とを使って前記基板を露光する露光方法であって、
前記周期パターンからの2次以上の回折光を含む複数の回折光が、前記投影光学系の瞳領域に、前記瞳領域の原点を通り前記周期パターンの周期方向と直交する直線に対して線対称な4つの高光強度部を含む光強度分布を形成するように、前記照明光学系からの光を前記原版に斜入射させ、前記基板のショット領域の各点が前記4つの高光強度部からの4つの光束のうちフォーカス状態によって周期的に位相差が変化する2つの光束におけるフォーカス状態と位相差との関係に基づいた2以上のフォーカス状態で露光されるように前記基板の露光を制御することを含む、
ことを特徴とする露光方法。
【請求項21】
基板に溝を形成する第1形成工程と、前記溝の中に画素分離部を形成する第2形成工程と、を含む半導体装置の製造方法であって、
前記第1形成工程は、原版の周期パターンからの2次以上の回折光を含む複数の回折光によって、投影光学系の瞳領域に、前記瞳領域の原点を通り前記周期パターンの周期方向と直交する直線に対して線対称な4つの高光強度部を含む光強度分布を形成するように、照明光学系からの光を前記原版に斜入射させ、前記基板のショット領域の各点が前記4つの高光強度部からの4つの光束のうちフォーカス状態によって周期的に位相差が変化する2つの光束におけるフォーカス状態と位相差との関係に基づいた2以上のフォーカス状態で前記基板を露光する露光工程を含む、
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項22】
基板に溝を形成する第1形成工程と、前記溝の中に画素分離部を形成する第2形成工程と、を含む半導体装置の製造方法であって、
前記第1形成工程は、請求項20に記載の露光方法によって前記基板を露光する動作を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置、露光方法、および、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置の焦点深度を拡大する方法として、FLEX(Focus Latitude Enhancement Exposur
e)法が知られている。FLEX法は、基板を複数のデフォーカス状態で露光する方法、あるいは、原版によって投影光学系の像面近傍に形成される光強度が光軸方向について重ね合わされるように基板を露光する方法として定義されうる。特許文献1には、ホールパターンのような孤立パターンあるいは微細パターンを良好に解像するための露光方法が記載されている。この露光方法では、合焦点および複数のデフォーカス点のそれぞれで基板を露光する多段階露光が行われ、合焦点の露光では複数のデフォーカス点での露光よりもコヒーレンシファクタ(σ)の値が小さくされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、露光装置の焦点深度の向上に有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの側面は、露光装置に係り、前記露光装置は、周期パターンを有する原版を照明する照明光学系と、前記原版の像を基板に投影する投影光学系と、前記基板に対する露光を制御する制御部と、を備え、前記照明光学系からの光は前記原版に斜入射し、前記周期パターンからの2次以上の回折光を含む複数の回折光は、前記投影光学系の瞳領域に、前記瞳領域の原点を通り前記周期パターンの周期方向と直交する直線に対して線対称な4つの高光強度部を含む光強度分布を形成し、前記4つの高光強度部からの4つの光束のうち2つの光束は、フォーカス状態によって周期的に位相差が変化し、前記制御部は、前記2つの光束のフォーカス状態と位相差との関係に基づいた2以上のフォーカス状態で、前記基板のショット領域の各点を露光するように制御する。
【0006】
明細書に記載された発明の1つの側面は、周期パターンを有する原版を照明する照明光学系と、前記原版の像を基板に形成する投影光学系とを備える露光装置に係り、前記露光装置は、前記周期パターンからの2次以上の回折光を含む複数の回折光が、前記投影光学系の瞳領域に、前記周期パターンの周期方向と直交する方向に平行な線について線対称に配置された少なくとも2つの高光強度部を含む光強度分布を形成するように、前記照明光学系を調整する調整部と、前記基板のショット領域の各点が2以上のデフォーカス状態で露光されるように前記基板の露光を制御する制御部と、を備え、前記少なくとも2つの高光強度部は、前記光強度分布における他の部分よりも光強度が高い。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、露光装置の焦点深度の向上に有利な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の露光装置の構成を模式的に示す図。
【
図2】第1実施形態の露光装置におけるFLEX露光を説明する図。
【
図3】原版に設けられうる周期パターンを例示する図。
【
図4】実施例1における照明光学系の瞳領域の光強度分布(a)および投影光学系の瞳領域の光強度分布(b)を例示する図。
【
図5】投影光学系の像面近傍に形成される光強度分布を例示する図。
【
図6】シングル露光におけるデフォーカス量と光強度分布との関係を例示する図。
【
図7】実施例2における照明光学系の瞳領域の光強度分布(a)および投影光学系の瞳領域の光強度分布(b)を例示する図。
【
図8】原版に設けられうる2次元の周期パターンを例示する図。
【
図9】実施例3における照明光学系の瞳領域の光強度分布(a)および投影光学系の瞳領域の光強度分布(b)を例示する図。
【
図10】実施例4における照明光学系の瞳領域の光強度分布(a)および投影光学系の瞳領域の光強度分布(b)を例示する図。
【
図11】照明光学系の瞳領域における光強度分布と投影光学系の像面近傍に形成される光強度分布との関係を例示する図。
【
図12】照明光学系の瞳領域における光強度分布と投影光学系の像面近傍に形成される光強度分布との関係を例示する図。
【
図13】第2実施形態の露光装置におけるFLEX露光を説明する図。
【
図14】第3実施形態の露光装置におけるFLEX露光を説明する図。
【
図15】第3実施形態の露光装置において投影光学系の像面近傍に形成される光強度分布を例示する図。
【
図16】第4実施形態の露光装置の構成を模式的に示す図。
【
図21】第7実施形態の露光装置の構成(a)および露光方法を説明する図。
【
図22】照明光学系の瞳領域の光強度分布(a)および投影光学系の瞳領域の光強度分布(b)を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
以下では、XYZ座標系によって方向が示される。XYZ座標系は、基板の表面に平行な面をXY平面、基板の表面の法線方向に平行な軸をZ軸とするように定義される。X方向、Y方向、Z方向は、それぞれXYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸に平行な方向である。
【0011】
図1には、第1実施形態の露光装置EXPの構成が模式的に示されている。露光装置EXPは、原版2のパターンを基板7に投影することによって基板7を露光する投影露光装置として構成される。また、露光装置EXPは、原版2および基板7を走査しながら基板7を走査露光する走査露光装置として構成されうる。露光装置EXPは、照明光学系1と、原版駆動機構3と、投影光学系4と、基板駆動機構8と、調整部ADと、制御部CNとを備えうる。原版2は、周期パターンを有しうる。原版駆動機構3は、原版2を保持し走査方向(Y方向)に駆動する。照明光学系1は、原版駆動機構3によって保持された原版2を照明する。調整部ADは、制御部CNによって制御されるように構成されうる。調整部ADは、制御部CNに組み込まれてもよい。
【0012】
投影光学系4は、照明光光学系1によって照明された原版2のパターンの像を基板7に形成する。あるいは、投影光学系4は、照明光光学系1によって照明された原版2のパターンを基板7に投影する。照明光光学系1によって照明された原版2のパターンは、複数の回折光を発生する。原版2のパターンからの複数の回折光は、投影光学系4の像面近傍に原版2のパターンの像(原版2のパターンに対応する光強度分布)を形成する。ここで、像面近傍は、像面およびその近傍を含むものとする。基板駆動機構8は、基板7を保持し走査方向(Y方向)に駆動する。基板駆動機構8は、基板7を非走査方向(X方向)にも駆動可能である。
【0013】
基板7は、複数のショット領域を有しうる。ショット領域は、リソグラフィー工程において既に形成されたパターン(層)を有する場合もあるし、そのようなパターン(層)を有しない場合もある。基板7は、特に言及しない限り、半導体または非半導体で構成された部材(例えば、ウエハ)の上にフォトレジスト層を有するものとする。該部材と該フォトレジスト層との間には、1又は複数の層が配置されてもよい。
【0014】
照明光学系1は、瞳領域を有する。照明光学系1の瞳領域は、照明光学系1の瞳面のうち不図示の光源からの光が入射しうる領域である。投影光学系4は、瞳領域を有する。投影光学系4の瞳領域は、投影光学系4の瞳面のうち照明光学系1からの光が入射しうる領域である。露光装置EXPのコヒーレンスファクタをσ、原版2から見た照明光学系1の開口数をNA1、原版2から見た投影光学系4の開口数をNA2とすると、σは以下の式で定義される。
【0015】
σ=NA1/NA2
調整部ADあるいは制御部CNは、原版2の周期パターンからの複数の回折光が、投影光学系4の瞳領域に、少なくとも2つの高光強度部を含む光強度分布を形成するように、照明光学系1を調整しうる。ここで、該複数の回折光は、2次以上の回折光を含む。ここで、高光強度部は、光強度分布における他の部分(高光強度部以外の部分)よりも光強度が高い部分を意味する。高光強度部の形状は、円形等の特定の形状に限定されず、例えば、矩形でもよい。高光強度部は、該高光強度部よりも光強度が低い領域によって全周的に囲まれるか、高光強度部よりも光強度が低い領域および瞳領域の境界によって全周的に囲まれた領域でありうる。また、該少なくとも2つの高光強度部は、該周期パターンの周期方向と直交する方向に平行な線(直線)について線対称に配置される。調整部ADは、例えば、原版2の周期パターンの情報に応じて、投影光学系4の瞳領域に該周期パターンの周期方向と直交する方向に平行な線について線対称に配置された少なくとも2つの高光強度部を含む光強度分布が形成されるように照明光学系1を調整しうる。原版2の周期パターンの情報は、例えば、周期パターンのピッチ、および、周期パターンの周期方向等の情報を含みうる。
【0016】
他の観点において、調整部ADあるいは制御部CNは、原版2の周期パターンからの2次以上の回折光を含む複数の回折光が、投影光学系4の瞳領域に所定の光強度分布を形成するように、照明光学系1からの光を原版2に斜入射させうる。該所定の光強度分布は、投影光学系4の瞳領域の原点を通り原版2の周期パターンの周期方向と直交する直線に対して線対称な光強度分布でありうる。
【0017】
調整部ADは、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)、又は、プログラムが組み込まれた汎用又は専用のコンピュータ、又は、これらの全部または一部の組み合わせによって構成されうる。以下では、高光強度部のことを極とも呼ぶ。極という用語が用いられる場合においても、その形状は、円形等の特定の形状に限定されず、例えば、矩形でもよい。
【0018】
調整部ADは、例えば、原版2の周期パターンの情報(例えば、周期パターンのピッチ、周期パターンの周期方向等に)応じて、複数の照明モードから1つの照明モードを選択し、該選択した照明モードが設定されるように照明光学系1を制御しうる。調整部ADは、例えば、予め設定されたテーブルを参照することにより、原版2の周期パターンの情報に応じた照明モードを選択することができる。該テーブルは、原版2の周期パターンの情報と照明モードとの対応関係を規定しうる。照明モードは、照明光学系1の瞳領域に形成される光強度分布を規定する。複数の照明モードには、例えば、通常照明(円形照明)、小σ照明、極照明(2重極、4重極等)、輪帯照明等が含まれうる。照明モードの設定あるいは選択は、例えば、複数の開口絞りが配置されたターレットの回転、または、複数のCGH(計算機生成ホログラム)が配置されたターレットの回転によってなされうる。調整部ADは、例えば、ユーザによる指令に基づいて照明モードを決定してもよい。
【0019】
制御部CNは、基板7のショット領域の各点が2以上のフォーカス状態(あるいは、2以上のデフォーカス状態)で露光されるように基板7の露光を制御しうる。より具体的には、制御部CNは、投影光学系4の瞳領域に上記のような所定の光強度分布が形成された状態で、基板7のショット領域の各点が2以上のデフォーカス状態(あるいは、2以上のデフォーカス状態)で露光されるように基板7の露光を制御しうる。このような露光方法を以下では、FLEX法と呼ぶ。制御部CNは、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)、又は、プログラムが組み込まれた汎用又は専用のコンピュータ、又は、これらの全部または一部の組み合わせによって構成されうる。制御部CNの全部または一部は、調整部ADの全部または一部と共通化あるいは一体化されてもよい。
【0020】
FLEX法は、種々の具現化方法によって具現化されうる。第1実施形態では、制御部CNは、基板7の表面の法線方向を投影光学系4の光軸(Z軸に平行)に対して傾けた状態で基板7の走査露光がなされるように基板7の露光を制御する。
図2には、第1実施形態の露光方法が模式的に示されている。基板7に入射する露光光(スリットによって規定された露光光)の範囲は、点線10a、10bで示されている。走査露光において、基板7は、XY平面に対してX軸周りに関して傾斜した平面に沿って走査方向(Y方向)に走査される。基板7のショット領域の1つの点が点線10bから点線10aまで移動すると、該1つの点は、投影光学系4のベストフォーカス面9を挟む2つの面の間の距離Z1を移動しながら露光されることになる。
【0021】
換言すると、FLEX法が適用された走査露光では、基板7のショット領域の任意点が第1フォーカス状態(あるいは、第1デフォーカス状態)から第2フォーカス状態(あるいは、第2デフォーカス状態)に至るように露光される。該第1フォーカス状態(第1デフォーカス状態)での該任意点の位置と該第2フォーカス状態(第2デフォーカス状態)での該任意点の位置との間の投影光学系4の光軸方向における距離Z1は、該任意点におけるデフォーカス量の範囲である。距離Z1は、FLEX法による焦点深度の拡大に寄与する距離あるいは量であり、以下では、これをFLEX量ともいう。
【0022】
図2では、基板7の表面の法線方向を投影光学系4の光軸方向(Z軸に平行)に対して傾けた状態で基板7の走査露光がなされるが、原版2の表面の法線方向を投影光学系4の光軸方向(Z軸に平行)に対して傾けた状態で基板7の走査露光がなされてもよい。
【0023】
図3には、原版2に設けられた周期パターン11が例示されている。Pは周期パターン11のピッチ(周期)、Sは透過部の線幅、Lは遮光部の線幅である。この例では、周期パターン11の周期方向はX方向である。
【0024】
図4(a)には、第1実施形態の露光装置EXPの照明光学系1の瞳領域21における実施例1の露光光の光強度分布(有効光源分布)が模式的に示されている。σx、σyは、瞳領域21における位置を示す瞳座標であり、2つの座標軸は、それぞれX軸、Y軸に平行である。瞳座標の原点は、照明光学系1の光軸と一致する。
図4(a)は、2重極(ダイポール)照明の例であり、D1、D2は、極を示している。極D1、D2は、σy軸(Y軸)について線対称な位置に配置されている。
【0025】
図4(b)には、
図4(a)の光強度分布によって原版2に設けられた
図3の周期パターン11を照明した時に周期パターン11からの複数の回折光によって投影光学系4の瞳領域31に形成される光強度分布(回折光分布)が模式的に示されている。POx、POyは、瞳領域31における位置を示す瞳座標であり、2つの座標軸は、それぞれX軸、Y軸に平行である。瞳座標の原点は、投影光学系4の光軸と一致する。D10は、極D1からの0次回折光である。D11、D1-1は、それぞれ、極D1からの+1次回折光、-1次回折光である。D1-2は、極D1からの-2次回折光である。この例では、+2次回折光と3次以上の回折光は、投影光学系4の瞳領域31に入射しない。
【0026】
図4(b)には示されていないが、投影光学系4の瞳領域31には、極D2からの回折光も入射する。具体的には、極D2からの0次回折光D20がD1-1の位置に入射する。また、極D2からの+1次回折光D21、-1次回折光D2-1が、それぞれ、D10、D1-2の位置に入射する。また、極D2からの+2次回折光D22がD11の位置に入射する。基板7には、回折光D10、D11、D1-1、D1-2、D20、D21、D2-1、D22によって周期パターン11の像が形成される。
【0027】
投影光学系4の瞳領域31に形成される光強度分布は、周期パターン11の周期方向と直交する方向(Y方向)に平行な線(POy軸)について線対称に配置された少なくとも2つの極、具体的には4つの極を含む。該4つの極の位置および領域は、D10、D11、D1-1、D1-2、D20で示されている。
【0028】
ここで、
図3の周期パターン11のピッチPと、
図4(a)の瞳領域21における極D1、D2と、
図4(b)の瞳領域31における回折光D10、D1-1、D11、D1-2との関係を説明する。投影光学系4の開口数をNA、露光光の波長をλとする。まず、
図4(a)の極D1、D2の中心の座標(位置)は、
D1:σx= λ/(2×P×NA)
D2:σx= -λ/(2×P×NA)
である。
【0029】
同様に、
図4(b)の瞳領域31における回折光D10、D1-1、D11、D12の中心の座標(位置)は、
D10:POx=λ/(2×P×NA)
D11:POx=3λ/(2×P×NA)
D1-1:POx=-λ/(2×P×NA)
D1-2:POx=-3λ/(2×P×NA)
である。
【0030】
例えば、周期パターン11の像面上でのピッチPが800nm、NA=0.55、λ=248nmの場合、σx=0.282である。
【0031】
図5(a)には、周期パターン11の透過部の像面上での線幅Sを200nm、遮光部の幅Lを600nmとして、
図4(a)の有効光源分布を使用して、
図2のようなFLEX露光を行った場合の光学像が示さされている。
図4(a)の有効光源分布における極D1、D2の中心の位置をσ=±0.282として、極D1、D2の半径をσ値に換算した値を0.05に設定した。また、基板7の露光における設定フォーカス面の位置(Z方向)に対してFLEX法においてデフォーカスさせる量(FLEX量)を±1.2μmの範囲とした(Z1=2.4μm)。
【0032】
図5(a)の横軸は、周期パターン11の透過部Sの中心を0として、周期パターン11の一周期に相当する±400nmの範囲の光強度分布を示している。中心の±100nmがパターン11の透過部Sに相当する。投影光学系4のベストフォーカス面9に対する設定フォーカス面のずれ量(デフォーカス量)を0μmから2.7μmまで0.3μm間隔で変化させた。
図5(a)から分かるように、ベストフォーカス面9に対する設定フォーカス面のずれ量(デフォーカス量)を2.7μmとした場合でも光強度分布がほとんど変化しておらず、焦点深度が大幅に拡大されることが分かる。
【0033】
図5(b)、(c)には比較例が示されている。
図5(b)には、σ=0.7の円形照明で通常の走査露光を行った結果が示されている。
図5(c)には、σ=0.7の円形照明で、設定フォーカス面の位置(Z方向)に対してFLEX法においてデフォーカスさせる量(FLEX量)を±1.2μmの範囲(Z1=2.4μm)としてFLEX露光を行った結果が示されている。
【0034】
図5(b)の比較例では、ベストフォーカス面9に対する設定フォーカス面のずれ量(デフォーカス量)が0.9μmを超える条件では光強度分布はほぼフラットになることから、焦点深度は±1μm以下である。
図5(c)の比較例では、ベストフォーカスでの光強度は平均化によって低下するものの、デフォーカスによる光強度分布の変化の仕方が緩やかになり、±1.2μm以上まで焦点深度を拡大できる。
【0035】
図5(a)、(b)はともにFLEX露光の結果であるが、
図4(a)、(b)に示される照明条件で照明を行うことによる焦点深度の拡大の効果が絶大であることが分かる。このような焦点深度の拡大は、例えば、厚膜レジストを使用するプロセス等において有利である。
【0036】
ここで、周期パターン11のピッチPと、投影光学系4のNAと、露光光の波長λとの関係を説明する。
図4(a)、(b)の例では、周期パターン11からの2次以上の回折光を含む複数の回折光が投影光学系4の瞳領域31に周期パターン11の周期方向と直交する方向に平行な線について線対称に配置された少なくとも2つの極を含む光強度分布を形成する。したがって、D11およびD1-2の瞳座標上での位置は1以内である必要がある。
図4(b)においてD1-2のPOx座標が-1になる条件でのD10の中心は、瞳座標上では(1/3,0)であるので、周期パターン11のピッチPは、P=(3/
2)×(λ/NA)である。したがって、周期パターン11のピッチPは、式(1)を満たす必要がある。
【0037】
P>(3/
2)×(λ/NA) ・・・(1)
また、
図4(a)、(b)の例では、調整部ADは、照明光学系1の瞳領域21に形成される光強度分布に含まれる極D1、D2のそれぞれの中心位置のσ値が1/3以下であるように、照明光学系1を調整する。他の観点において、調整部ADは、照明光学系1の瞳領域21の半径をrとしたとき、光強度分布に含まれる極D1、D2のそれぞれの中心位置が瞳領域21原点からr/3以下の範囲に位置するように、照明光学系1を調整するように構成されうる。
【0038】
図22(a)には、第1実施形態の露光装置EXPの照明光学系1の瞳領域21における露光光の光強度分布(有効光源分布)の他の例が模式的に示されている。σx、σyは、瞳領域21における位置を示す瞳座標であり、2つの座標軸は、それぞれX軸、Y軸に平行である。瞳座標の原点は、照明光学系1の光軸と一致する。
図22(a)は、2重極(ダイポール)照明の例であり、D1、D2は、極を示している。極D1、D2は、σy軸(Y軸)について線対称な位置に配置されている。
【0039】
図22(b)には、
図22(a)の光強度分布(2重極照明)によって原版2に設けられた
図3の周期パターン11を照明した時に、周期パターン11からの複数の回折光によって投影光学系4の瞳領域31に形成される光強度分布が模式的に示されている。POx、POyは、瞳領域31における位置を示す瞳座標であり、2つの座標軸は、それぞれX軸、Y軸に平行である。瞳座標の原点は、投影光学系4の光軸と一致する。D10は、極D1からの0次回折光である。D1-1は、極D1からの-1次回折光である。D1-2は、極D1からの-2次回折光である。D1-3は、極D1からの-3次回折光である。
【0040】
図22(b)には示されていないが、投影光学系4の瞳領域31には、極D2からの回折光も入射する。具体的には、極D2からの0次回折光D20がD1-3の位置に入射する。また、極D2からの+1次回折光D21が、D1-2の位置に入射する。また、極D2からの+2次回折光D22がD1-1の位置に入射する。また、極D2からの+3次回折光D23がD10の位置に入射する。
【0041】
次に、2次以上の回折光を含む複数の回折光が投影光学系4の瞳領域に線対称な光強度分布を形成する照明条件とFLEX露光との組合せによって、焦点深度が拡大する理由を説明する。
図6には、
図5(a)の計算で使用した周期パターンおよび有効光源を使用し、FLEX露光ではない通常露光を行った時に形成される光強度分布が示されている。
図6において、Fの値はデフォーカス量を示している。例えば、F=0は、デフォーカス量が0の位置(つまり、ベストフォーカス面)における光強度分布を示している。また、F=3.6は、デフォーカス量3.6μmの位置における光強度分布を示している。
図6には、デフォーカス量を0.6μmピッチで変化させた結果が示されている。
図6の各グラフの横軸は、
図5(a)の横軸と同じであり、周期パターン11の透過部Sの中心を0として、パターンの一周期に相当する±400nmの範囲の光強度分布を示している。
【0042】
図6から分かるように、2.4μmを一周期として、同様な光強度分布が周期的に現れる。したがって、デフォーカス量の変化に対して周期的に変化する光強度分布を、その周期の整数倍のデフォーカス量の範囲で平均化することによって、
図5(a)に示したような、デフォーカスによってほとんど光強度分布が変化しない光学像が得られる。ここで、このような平均化は、第1実施形態では、FLEX法による走査露光によって実現される。
図6において、F=0.6とF=3.0とでは光強度分布がわずかに異なり、また、F=1.2とF=3.6とでも光強度分布がわずかに異なる。このように同位相における2つの光強度分布は、互いにわずかに異なる。これは、
図4(a)のような有効光源における極が点でなく、相応の半径(例えば、σ値に換算した値で0.05)を有するからである。
【0043】
次に、周期パターン11のピッチPと、露光光の波長λと、FLEX露光によって平均化すべき最適なデフォーカス量範囲(FLEX量)との関係を説明する。
図6を参照して説明したように、周期パターン11の光学像はデフォーカス量に対して周期的に変化する。そこで、
図4(b)の様な投影光学系4の瞳領域31における線対称な回折光分布によって形成される光学像がデフォーカス量の変化に応じて変化する周期を計算する。
【0044】
投影光学系4の瞳領域31における線対称な位置からの2つの回折光は、デフォーカスによって位相差が生じない為、該2つの回折光のよる光強度分布は、デフォーカス量の変化によっては変化しない。
図4(b)の例では、D10とD1-1との組み合わせ、および、D11とD1-2との組み合わせは、この条件に相当する。一方で、D10とD11との組み合わせ、および、D11とD1-1との組み合わせは、瞳領域31における線対称な位置の組み合わせではないので、デフォーカス量の変化によって位相差が発生するので、デフォーカス量の変化によって光強度分布が変化する。これらの回折光間の位相差は、デフォーカスによって変化するので、所定のデフォーカス量で位相差がゼロになる。位相差がゼロになるデフォーカス量の間隔が周期PPであり、光強度分布の形状は、デフォーカス量の変化によって周期的に変化する。
【0045】
図4(b)の例では、D10とD1-1とは瞳領域31における線対称な位置に配置され、D11とD1-2とは瞳領域31における線対称な位置に配置されている。よって、D10とD11との位相差を計算すればよい。D10とD11の光軸方向の波長成分をλ
D10、λ
D11とすると、
λ
D10=λ/(1-λ
2/P
2/4)
1/2
λ
D11=λ/(1-9×λ
2/P
2/4)
1/2
ここで、周期PPは、式(2)で与えられる。
【0046】
PP=λ
D10×λ
D11/(λ
D11-λ
D10)
=λ/[(1-λ
2/P
2/4)
1/2-(1-9×λ
2/P
2/4)
1/2]
・・・(2)
P=800nm、波長λ=248nmを式(2)に代入すると、PP=2417nmとなり、
図6で説明したように、デフォーカス量=約2.4μmの周期で光強度分布が変化する。そこで、式(2)で定義される周期PPの整数倍の範囲で光強度分布の平均化を行うことで、デフォーカス量の変化に対して変化が小さい像が形成される。
【0047】
焦点深度の拡大においては、式(2)に従って周期パターンのピッチPと露光光の波長λから計算された周期PPの整数倍の範囲(FLEX量)でデフォーカス量を変化させるFLEX露光を行えば、焦点深度の拡大が最大化される。
【0048】
一方、FLEX法におけるデフォーカス量の範囲である距離Z1(FLEX量)が小さい方が露光装置EXPの構成の単純化において有利である。したがって、距離Z1は、式(2’)で与えられることが好ましい。
【0049】
Z1=λ/[(1-λ2/P2/4)1/2-(1-9×λ2/P2/4)1/2]
・・・(2’)
式(2’)で与えられる距離Z1の70%であっても焦点深度は拡大するため、距離Z1は、必ずしも周期PPでなくてもよい。
【0050】
図7(a)には、第1実施形態の露光装置EXPの照明光学系1の瞳領域22における実施例2の露光光の光強度分布(有効光源分布)が模式的に示されている。
図7(a)の例では、σx軸方向については、FLEX露光による平均化効果を得るために幅が小さく設定されているが、σy軸方向の位置については周期方向への結像への影響が無いので、σy軸方向に長い矩形の極D3、D4が規定されている。
図3に示された周期パターン11のピッチをPとすると、D3、D4のそれぞれの中心のσx軸方向の座標は、±λ/(2×P×NA)である。
図7(b)には、
図7(a)の極D3で周期パターン11を照明した場合に投影光学系4の瞳領域32に形成される光強度分布(回折光分布)が模式的に示されている。
図7(b)には示されていないが、投影光学系4の瞳領域32には、極D4からの回折光も入射する。具体的には、極D4からの0次回折光D40がD3-1の位置に入射する。また、極D4からの+1次回折光D41、-1次回折光D4-1が、それぞれ、D30、D3-2の位置に入射する。また、極D4からの+2次回折光D42がD31の位置に入射する。これにより、実施例1と同様に、FLEX露光による焦点深度の拡大の効果が得られる。
【0051】
実施例2は、0次回折光であるD30と-1次回折光D3-1はそれらの全てが瞳領域32に入射するが、+1次回折光D31と-2次回折光D3-2はそれらの一部が瞳領域32に入射せず、像形成に寄与しない点で実施例1と異なる。そのため、実施例2において像面近傍に形成される光強度分布は実施例1と異なるが、実施例2は、FLEX露光による焦点深度の拡大の効果については実施例1と同等である。実施例2は、照明光学系の瞳領域における極(有効光源)の面積が実施例1よりも大きいので、照度の向上および照度の均一性の向上に有利である。
【0052】
図8(a)には、第1実施形態の露光装置EXPの照明光学系1の瞳領域22における実施例3で使用される周期パターン12が示されている。実施例3で使用される原版2は、2次元の周期パターン12を有する。2次元の周期パターン12は、X方向にピッチP2の周期性を有するとともに、Y方向にもピッチP2の周期性を有する。
【0053】
図9には、第1実施形態の露光装置EXPの照明光学系1の瞳領域23における実施例3の露光光の光強度分布(有効光源分布)が模式的に示されている。
図9に示された光強度分布は、
図8に示された周期パターン12を使った基板の露光において使用されうる。調整部ADは、
図8に例示される周期パターン12を有する原版2を使って基板7を露光する場合に、周期パターン12の情報に基づいて
図9に例示される光強度分布が照明光学系1の瞳領域23に形成されるように照明光学系1を調整しうる。
【0054】
瞳領域23に形成される光強度分布は、極D5、D6、D7、D8を含む。極D5、D6、D7、D8の中心のσx、σyの絶対値(σx=σy)は、λ/(2×P2×NA)でありうる。このような光強度分布が瞳領域23に形成されるように照明光学系1を調整し、式(2)のPにP2を代入して得られた光軸方向の距離Z1をFLEX量としてFLEX露光を行うことができる。これにより、2次元の周期パターンを使用する場合においても、1次元の周期パターンを使用する場合と同様に、焦点深度の拡大の効果が得られる。
【0055】
図10には、第1実施形態の露光装置EXPの照明光学系1の瞳領域24における実施例4の露光光の光強度分布(有効光源分布)が模式的に示されている。実施例4では、実施例2における極D3、D4を有する光強度分布に対して極D9が追加された光強度分布が照明光学系1の瞳領域24に形成される。極D3、D4は、周期パターンの周期方向と直交する方向に平行な線について線対称かつ互いに離隔して配置されていて、焦点深度の拡大に寄与る。一方、極D9は、照明光学系1の光軸上に配置されていて、焦点深度の拡大に寄与しないが、ベストフォーカス面およびその近傍における像質の改善に寄与しうる。
【0056】
図11には、
図10に示された照明光学系1の瞳領域24における光強度分布の全体の光量に対する極D9の光量の比率を変化させたときの像面近傍における光強度分布の変化が示されている。ここで、
図11の光強度分布は、
図3に示された周期パターン11を使って、透過部の線幅Sを200nm、ピッチPを800nmとして計算された。
図11(a)は瞳領域24における光強度分布の全体の光量に対する極D9の光量の比率が0の場合の例、
図11(b)は該比率が15%の場合の例、
図11(c)は該比率が30%の場合の例である。
図11(a)に示されるように、極D9の光量の比率がゼロの場合は、デフォーカス量を0μmから2.7μmまで変化させたときの像面近傍に形成される光強度分布はほとんど変化しない。一方、
図11(b)に示されるように、極D9の光量の比率を15%にすると、ベストフォーカス(デフォーカス量=0μm)での中心部分の光量が増加するが、デフォーカス量の変化に伴って像性能が変化する。更に、
図11(c)に示されるように、極D9の光量の比率を30%にすると、ベストフォーカス(デフォーカス量=0μm)での中心部分の光量は更に改善するが、デフォーカス量の変化に伴う像性能の変化量が更に大きくなる。
【0057】
ここで、瞳領域24における光強度分布の全体の光量に対する極D9の光量を増加させることは、瞳領域24における光強度分布の全体の光量に対する極D3、D4の光量の比率を減少させることを意味する。逆に、瞳領域24における光強度分布の全体の光量に対する極D9の光量を減少させることは、瞳領域24における光強度分布の全体の光量に対する極D3、D4の光量の比率を増加させることを意味する。瞳領域24における光強度分布の全体の光量に対する極D3、D4の光量の比率を増加させることは、焦点深度の拡大に寄与する。一方、瞳領域24における光強度分布の全体の光量に対する極D3、D4の光量の比率を減少させることは、ベストフォーカスにおける像性能の向上に寄与する。瞳領域24における光強度分布の全体の光量に対する極D3、D4(周期方向と直交する方向に平行な線について線対称かつ互いに離隔して配置された少なくとも2つの極)の光量の比率は、焦点深度の向上の観点において、50%以上であることが好ましい。
図10に示された例では、極D9の中心が光軸に一致しているが、極D9の中心は、例えばσy軸上のσy≠0の位置に配置されてもよい。
【0058】
図12には、
図4に示された照明光学系1の瞳領域21における光強度分布に含まれる極D1、D2の大きさを変化させたときの像面近傍における光強度分布の変化が示されている。ここで、
図12の光強度分布は、
図3に示された周期パターン11を使って、透過部の線幅Sを200nm、ピッチPを800nmとして計算された。投影光学系4のベストフォーカス面9に対する設定フォーカス面のずれ量(デフォーカス量)を0μmから2.7μmまで0.3μm間隔で変化させた。極D1、D2の半径を、σ値に換算した値(瞳座標)において、0.05、0.10、0.15とした。
図12(a)は極D1、D2の半径が0.05の結果、
図12(b)は極D1、D2の半径が0.10の結果、
図12(c)は極D1、D2の半径が0.15の結果である。極D1、D2の半径を変化させることは、周期パターンの周期方向における極D1、D2の幅(直径)を変化させることと等価である。
【0059】
焦点深度の拡大させる観点では、極D1、D2の半径が小さいことが好ましく、基板における照度の均一性を向上させる観点では、極D1、D2の半径が大きいことが好ましい。換言すると、焦点深度の拡大させる観点では、周期パターンの周期方向における極D1、D2の幅が小さいことが好ましく、基板における照度の均一性を向上させる観点では、周期パターンの周期方向における極D1、D2の幅が大きいことが好ましい。周期パターンの周期方向における極D1、D2の幅は、例えば、σ値に換算した値において0.3以下であることが好ましい。
【0060】
以下の実施形態では、FLEX法の他の具体化方法を説明する。なお、以下の各実施形態で言及しない事項は、第1実施形態に従いうる。
【0061】
図13には、第2実施形態の露光装置EXPのFLEX露光時の基板の動きが示されている。第2実施形態の露光装置EXPは、
図1で示された第1実施形態の露光装置EXPと同様の構成を有しうるが、露光方法が第1実施形態と異なる。
図13に示された第2実施形態の露光装置EXPは、ステップアンドリピート方式の逐次移動型露光装置である。
【0062】
第2実施形態の露光装置EXPでは、基板7の露光は、原版2および基板7が静止した状態で行われる。そこで、第2実施形態の露光装置EXPでは、FLEX露光は、
図13に模式的に示されるように、Z方向の第1位置P1からZ方向の第2位置P2まで、距離Z1の範囲で、基板7を等速で移動させながら基板7を露光することによってなされる。
【0063】
第1実施形態と第2実施形態との違いは、基板7のFLEX露光の方法だけであり、焦点深度を拡大するための照明条件の設定や焦点深度の拡大の効果は全く同じである。原版の周期パターンのピッチPが同じであれば、第1実施形態と第2実施形態とでは、基板7の光軸方向の移動量Z1は同じ値である。
【0064】
図14には、第3実施形態の露光装置EXPのFLEX露光時の基板の動きが示されている。第3実施形態の露光装置EXPにおけるFLEX露光時の基板の動きは、第2実施形態の露光装置EXPと同様である。第3実施形態では、制御部CNは、基板7のショット領域が第1フォーカス状態(あるいは、第1デフォーカス状態)と第2フォーカス状態(あるいは、第2デフォーカス状態)とのそれぞれで露光されるように、基板7の露光を制御する。第1デフォーカス状態では、通常の露光量の半分の露光量でショット領域が露光される。その後、第1フォーカス状態(第1デフォーカス状態)から第2フォーカス状態(第2デフォーカス)状態に変更され、通常の露光量の半分の露光量で該ショット領域が更に露光される。
【0065】
第1フォーカス状態(第1デフォーカス状態)での投影光学系4の光軸方向(Z方向)における基板7の位置P1’と第2フォーカス状態(第2デフォーカス状態)での投影光学系4の光軸方向における基板7の位置P2’との距離(FLEX量)をZ2とする。このとき、Z2=Z1/2の関係がある。つまり、距離Z2は、式(3)で与えられうる。
【0066】
Z2=λ/[(1-λ
2/P
2/4)
1/2-(1-9×λ
2/P
2/4)
1/2]/2
・・・(3)
以下、第3実施形態の露光装置EXPによるFLEX法によって焦点深度が拡大されることを説明する。ここでは、
図3に示された周期パターン11および
図4(a)に示された有効光源を使用した例を説明する。FLEX露光を行わない場合に像面近傍に形成される光強度分布は、既に説明した
図6に示されたものとなる。第1実施形態では、
図6の光強度分布をZ方向(光軸方向)に2.4μmの幅で平均化(積算)した。これは、第1実施形態では、基板7を傾斜させてFLEX露光が行われるので、設定フォーカス面の位置を中心として±1.2μmの範囲の光強度分布が平均されるためである。これに対し、第3実施形態では、Z方向(光軸方向)に距離Z2離れた2つのZ方向位置で露光される。周期的に変化する光強度分布の平均は、周期PPの半分の距離だけ離れた2つのZ方向位置での光強度分布の平均を求めることによって得られ、これは周期全域で平均した結果を同様の結果となる。
【0067】
図15には、
図6に示された複数の光強度分布からデフォーカス量が1.2μm離れた2つの光強度分布を選択し、選択された2つの光強度分布を平均化して得られる光強度分布が示されている。例えば、デフォーカス量=0μmにおける光強度分布は、デフォーカス量=-0.6μmおよびデフォーカス量=0.6μmにおける光強度分布を平均化することで得られる。また、デフォーカス量=6μmにおける光強度分布は、デフォーカス量=0μmおよびデフォーカス量=1.2μmにおける光強度分布を平均化することで得られる。
図15の光強度分布は、
図5(a)の光強度分布と同様の光強度分布であり、焦点深度の拡大の効果が得られることが分かる。
【0068】
図16には、第4実施形態の露光装置EXPの構成が模式的に示されている。第4実施形態では、露光光の中心波長を変更することによってデフォーカス量を変化させ、これによってFLEX露光が行われる。
【0069】
第4実施形態の露光装置EXPには、照明光学系1に露光光を供給する光源41を備えうる。一般的には、露光装置の光源としては、水銀のg線(436nm)またはi線(365nm)の光を使用する水銀ランプと、KrF(248nm)またはArF(193nm)の光を使用するエキシマレーザとを挙げることができる。水銀ランプを光源とする露光装置では、一般に、光源は照明光学系の内部に配置されうる。エキシマレーザを光源とする露光装置では、一般に、光源は照明光学系の外に配置されうる。
【0070】
第4実施形態では、露光光の波長を変化させる機能が必要であるため、光源41として、エキシマレーザが採用される。エキシマレーザの発光スペクトルは、通常は、半値幅が100~300nmのレーザであるが、光源41のレーザ共振器内にスペクトルの狭帯化ユニットを有することで、半値幅が1pm以下に狭帯化されうる。また、光源41は、投影光学系の露光履歴による光学特性の変化や、気圧による光学特性の変化を補正する目的で、中心波長を制御する機能も有している。制御部CNは、光源41が発生する露光光の波長を制御する機能を有する。
【0071】
図17には、第4実施形態の露光装置EXPにおけるFLEX露光の方法が例示されている。
図17において、横軸は時間を示し、縦軸は光源41が発生する露光光の中心波長を示している。「1ショット露光期間」は、1つのショット領域が走査露光される期間である。走査露光装置では、
図2の点線10aと点線10bとの間の区間を基板7のショット領域の1点が通過する間に該1点が露光されるので、該区間を該1点が通過する期間において、波長λ0+Δλ/2からλ0-Δλ/2まで波長を変化させる必要がある。光源41としてのエキシマレーザは、パルスレーザであるので、露光光の中心波長は、λ0+Δλ/2および0-Δλ/2の2つの波長の間で、パルス毎に等間隔で変更されうる。λ0は、FLEX露光を行わない場合に光源41が発生する露光光の中心波長である。
【0072】
投影光学系4の軸上色収差をCとすると、FLEX露光時に基板7のショット領域の各点をZ方向に駆動する際の駆動量Z1に相当する中心波長の変化量Δλは、Δλ=Z1/Cである。ここで、周期パターン11のピッチをPとして、波長変化に対する光強度分布の変化を、1周期分の波長変化による平均化で焦点深度を拡大させるとすると、式(2’)から、Δλを規定する式(4)が得られる。ここで、λ0は、露光光のピーク波長であり、λはλ0で近似される。
【0073】
Δλ=λ0/[(1-λ0
2/P
2/4)
1/2-(1-9×λ0
2/P
2/4)
1/2]/C
・・・(4)
図18を参照して第5実施形態の露光装置EXPにおけるFLEX露光を説明する。第5実施形態の露光装置EXPは、
図16に示された第4実施形態の露光装置EXPと同様の構成を有しうる。第5実施形態では、光源41が発生する露光光の中心波長を時間的に変化させるのではなく、露光光の発光スペクトルの半値全幅(FWHM)が大きくされる。
図18(a)には、第5実施形態の露光装置EXPが通常の露光を行う場合に光源41が発生する露光光の発光スペクトルが示されている。
図18(b)には、第5実施形態の露光装置EXPがFLEX露光を行う場合に光源41が発生する露光光の発光スペクトルの例が示されている。
図18(a)、(b)において、横軸は波長を示し、縦軸はスペクトル強度を示している。FLEX露光においては、発光スペクトルのFWHMがΔλになるように制御部CNによって光源41が制御される。発光スペクトルのFWHMをΔλの値に設定することで、波長を変化させることなく、第5実施形態のFLEX露光と同等の効果を得ることができる。Δλは、最も焦点深度を拡大する条件を満たすように、式(4)で与えられることが望ましい。
【0074】
図19を参照して第6実施形態の露光装置EXPにおけるFLEX露光を説明する。第6実施形態の露光装置EXPは、
図16に示された第4実施形態の露光装置EXPと同様の構成を有しうる。第6実施形態では、光源41が発生する露光光の中心波長の変化の仕方が異なっている。
図19において、横軸は時間を示し、縦軸は光源41が発生する露光光の中心波長を示している。光源41が発生する露光光として、λ0+Δλ2/2およびλ0-Δλ2/2の2つの中心波長の光を交互に使用される。λ0は、FLEX露光を行わない場合に光源41が発生する露光光の中心波長である。Δλ2は、第3実施形態で説明したFLEX量を距離Z2とするFLEX露光と同等の効果を得るための2つの中心波長の差である。
【0075】
投影光学系4の軸上色収差をCとすると、波長差Δλ2は、式(3)から式(5)が得られる。
【0076】
Δλ2=Z2/C
=λ0/[(1-λ0
2/P
2/4)
1/2-(1-9×λ0
2/P
2/4)
1/2] /2/C
・・・(5)
図19の例では、2つの波長の露光光をパルス毎に交互に発振させているが、ステップアンドリピート方式の露光装置の場合は、露光の前半と後半で波長を分けて基板を露光してもよい。
【0077】
図20には、第6実施形態の変形例が示されている。
図19で説明した方式では、光源41は、λ0+Δλ2/2およびλ0-Δλ2/2の2つの中心波長の露光光を交互に発生するが、
図20のように、2つの中心波長の露光光を同時に発生させてもよい。2つの中心波長の間隔はΔλ2で、2つの中心波長の中心がλ0である。
【0078】
第1乃至第3実施形態では、基板のショット領域の各点が2以上のデフォーカス状態(あるいは、2以上のデフォーカス状態)で露光されるように基板を駆動することでFLEX露光が実現される。第4乃至第6実施形態では、基板のショット領域の各点が2以上のデフォーカス状態(あるいは、2以上のデフォーカス状態)で露光されるように露光光の波長を変化させることでFLEX露光が実現される。第7実施形態では、制御部CNは、基板のショット領域の各点が2以上のデフォーカス状態(あるいは、2以上のデフォーカス状態)で露光されるように、基板を駆動する動作、および、露光光の波長を変更する動作を実行する。
【0079】
基板を駆動する動作は、基板の位置を連続的に変更する動作を含みうる。あるいは、基板を駆動する動作は、第1フォーカス状態(あるいは、第1デフォーカス状態)での露光の後に第2デフォーカス状態での露光のために、第1デフォーカス状態から第2フォーカス状態(あるいは、第2デフォーカス状態)に変更する動作を含みうる。
【0080】
制御部CNは、基板のショット領域の各点が2以上のデフォーカス状態(あるいは、2以上のデフォーカス状態)で露光されるように、1つのショット領域に対して第1動作および第2動作を実行してもよい。該第1動作は、投影光学系4の光軸方向における基板7の位置を第1位置とし、露光光の波長を第1波長としてショット領域を露光する動作でありうる。該第2動作は、投影光学系4の光軸方向における基板7の位置を該第1位置と異なる第2位置とし、露光光の波長を該第1波長と異なる第2波長として該ショット領域を露光する動作でありうる。
【0081】
光源41の中心波長を変化させる方法では、パルス間での中心波長の変更量がΔλである。現在主流のエキシマレーザの発振周波数は、4KHzであるので、パルス間隔は0.25m秒である。中心波長の精度を維持しながら0.25m秒の間に変更可能な波長には限界がある。
【0082】
図21を参照しながら第7実施形態を説明する。
図21(a)は、第7実施形態の露光装置EXPによるFLEX法における基板7の駆動量(距離Z3)が模式的に示されている。
図21(b)には、第7実施形態の露光装置EXPによるFLEX法における露光光の波長の変更量(Δλ3)が示されている。光軸方向の2つの位置(第1位置P1”、第2位置P2”)で基板7を露光する場合に焦点深度拡大を最大化する条件は、式(3)で与えられうる。2つの波長で基板7を露光する場合に焦点深度拡大を最大化する条件は、式(5)で与えられうる。FLEX法における露光光の波長の最大変更量がΔλ3であり、Δλ3<Z2/Cである場合には、焦点深度を最大化することができない。
【0083】
投影光学系4が屈折系である場合、軸上色収差によって、長波長(つまりλ0+Δλ3/2)の場合は像面がZ軸のマイナス方向に移動し、短波長(つまりλ0-Δλ3/2)の場合は像面がZ軸のプラス方向に移動する。基板7に対する像面の移動量を大きくするために、投影光学系4に近い第1位置P1”では波長をλ0+Δλ3/2とし、投影光学系4から遠い第2位置P2”では波長をλ0-Δλ3/2とすることが有利である。この場合、投影光学系4の軸上色収差の値をCとすると、式(6)を満たす場合に、焦点深度が最大化されうる。
【0084】
Z3+Δλ3×C=Z2 ・・・(6)
上記の各実施形態において、1つのショット領域を所定デフォーカス範囲でFLEX露光する場合において、該所定デフォーカス範囲を複数の小範囲に分割し、各小範囲についてFLEX露光を行ってもよい。
【0085】
(物品の製造方法)
本実施形態に代表される露光装置を利用して半導体装置(メモリや撮像素子等の光電変換装置)を製造する方法について説明する。本実施形態の露光装置は、厚膜プロセスを含む半導体装置の製造方法に好適に用いられる。厚膜プロセスは、必要なレジスト膜の厚さが厚いプロセスのことであり、厚膜プロセスの一例として、撮像素子(光電変換装置)における画素分離部の形成工程が挙げられる。
【0086】
以下、
図23を用いて、撮像素子の製造工程における画素分離部の形成工程について説明する。工程S101において、互いに反対側の面である第1面S1および第2面S2を有する半導体基板101を準備する。半導体基板101は、典型的には、シリコン基板あるいはシリコン層である。次いで、工程S102において、半導体基板101の第1面S1の上に絶縁膜(例えば、シリコン酸化膜)102を形成する。
【0087】
次いで、工程S103において、半導体基板101の第1面S1の上、より具体的には、半導体基板101の第1面S1の上の絶縁膜102の上に、レジスト103を塗布する。また、工程S104において、上記実施形態のように、投影光学系の瞳面に所定の光強度分布が形成された状態で半導体基板101のショット領域の各点が2以上のデフォーカス状態(あるいは、2以上のデフォーカス状態)で露光されるように露光動作を行う。これにより、レジスト103に対してパターン像を形成し、エッチング処理等を経て溝(トレンチ)104を形成する。焦点深度を拡大した状態で露光動作を行うことで、レジスト103に対して所望の形状のパターン像を形成することができる。
【0088】
次に、工程S105において、半導体基板101をドライエッチング法等によりエッチングすることにより、半導体基板101の第1面S1の側に溝105を形成する。このエッチングにおいて半導体基板101の第1面S1を保護するために、レジスト103を厚く塗布することが求められる。
【0089】
続いて、工程S106では、レジスト103を除去した上で、溝105を通して半導体基板101にイオンを注入することによってゲッタリング領域106を形成する。即ち、工程S106では、半導体基板101の第1面S1のうち溝105が存在する領域以外が絶縁膜102でマスクされた状態で溝105を通して半導体基板101にイオンを注入する。ゲッタリング領域106は、溝105の底の下に位置する第1部分と、溝105の側方に位置する第2部分とを含み得る。一例において、該第1部分における第14族元素の濃度が、該第2部分における第14族元素の濃度よりも高い。イオンは、半導体基板101がシリコン基板である場合、シリコン以外の第14族元素のイオンでありうる。イオンの注入には、イオン注入装置が使用されうる。イオンを注入するための加速エネルギーは、ハードマスクとしての絶縁膜102をイオンが突き抜けて半導体基板101に到達しないように決定されうる。例えば、イオンを注入する際の絶縁膜102の厚さが300nmであり、加速エネルギーが20keV程度であれば、イオンが絶縁膜102を突き抜けることは殆どない。
【0090】
半導体基板101がシリコン基板である場合、工程S106において半導体基板101に注入されるイオンを構成する材料は、炭素が好適であるが、炭素を含む分子である炭化水素が採用されてもよい。半導体基板101がシリコン基板である場合、工程S106において半導体基板101に注入されるイオンを構成する材料は、ゲルマニウム、スズまたは鉛であってもよい。半導体基板101としてのシリコン基板に炭素、ゲルマニウム、スズまたは鉛のイオンを注入することによって、シリコン基板に局所的なひずみを与え、ゲッタリングサイトとして機能させることができる。溝105を通して半導体基板101にイオンを注入することによって、比較的低い加速エネルギーであっても、半導体基板101の深い位置にゲッタリング領域106を形成することができる。
【0091】
次いで、工程S107において、絶縁膜102が除去される。工程S108において、溝105の中に絶縁体が配置あるいは充填されるように、例えば、減圧CVD法等の膜形成方法によって、溝105の中および半導体基板101の第1面S1の上に絶縁膜(例えば、シリコン窒化膜)107を形成する。次いで、工程S109において、絶縁膜107のうち半導体基板101の第1面S1の上に存在する部分をCMP法等によって除去する。これにより、絶縁膜107のうち溝105の中に存在する部分が、溝105に配置あるいは充填された画素分離部108として残る。
【0092】
なお、工程S108および工程S109は、必ずしも必要ではなく、工程S108および工程S109が実施されない場合には、溝105が空隙として残り、これが画素分離部として機能しうる。溝105の中に配置される画素分離部108は、溝105を完全に充填する必要はなく、溝105の中に空隙が存在してもよい。画素分離部108は絶縁体のみで構成することができるが、絶縁体と非絶縁体(半導体あるいは導電体)とを組み合わせた構造とすることができる。この場合、非絶縁体と半導体基板101との接触を避けるため、絶縁体が非絶縁体と半導体基板101との間に配置されうる。
【0093】
以上説明したように、半導体基板101に溝105を形成する第1形成工程と、溝105の中に画素分離部108を形成する第2形成工程を経て、画素分離部108が形成される。その後、複数の画素分離部の間の領域に電荷蓄積領域、ゲート電極等が形成されることで撮像素子が構成される。本実施形態における物品の製造方法は、従来に比べて、物品の性能、品質、生産性及び生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0094】
以下、実施形態の物品製造方法を説明する。物品製造方法は、例えば、デバイス(半導体素子、磁気記憶媒体、液晶表示素子など)、カラーフィルターなどの物品を製造するのに好適である。かかる製造方法は、上記の露光装置を用いて、感光剤が塗布された基板を露光する工程と、露光された基板を現像する工程を含む。また、該製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージングなど)を含みうる。本実施形態における物品の製造方法は、従来に比べて、物品の性能、品質、生産性及び生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0095】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0096】
EXP:露光装置、1:照明光学系、2:原版、4:投影光学系、7:基板、AD:調整部、CN:制御部、11:周期パターン