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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びそれを用いた多層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20240805BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240805BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240805BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20240805BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C08L29/04 Z
B32B27/30 102
B32B27/34
C08K3/00
C08L77/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017559127
(86)(22)【出願日】2017-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2017039890
(87)【国際公開番号】W WO2018088347
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-07-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2016218500
(32)【優先日】2016-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109793
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 惠理子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 穂果
(72)【発明者】
【氏名】中西 伸次
(72)【発明者】
【氏名】古川 和也
【合議体】
【審判長】磯貝 香苗
【審判官】加藤 友也
【審判官】天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-226553(JP,A)
【文献】特開平2-245043(JP,A)
【文献】特開昭53-49050(JP,A)
【文献】特開2001-151972(JP,A)
【文献】特開2009-191255(JP,A)
【文献】国際公開第2015/053176(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163370(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08LL29/04
B32B27/00-27/34
C08K3/00
C08L77/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、水和物形成性の金属塩(B)、およびポリアミド系樹脂(C)を含有する樹脂組成物であって、
前記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)の前記ポリアミド系樹脂(C)に対する含有重量比(A/C)は99/1~70/30であり、
前記ポリアミド系樹脂(C)として、主鎖に芳香環を有する構造単位を含む芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と主鎖に炭素数5以上の脂肪族炭化水素鎖を有する構造単位を含む脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)とを用い、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)との含有重量比(C1)/(C2)が、55/45~99/1であり、
前記芳香族ポリアミド系樹脂(C1)はポリメタキシリレンアジパミドで、且つ前記脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)はナイロン6であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族ポリアミド系樹脂(C1)の芳香族含有構造単位の含有率が30~60モル%である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記水和物形成性の金属塩(B)は、下記吸水特性(I),(II),(III)の少なくともいずれか1つを充足する請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
吸水特性(I):前記金属塩(B)の最大水和物中の結晶水含有量(Y)と、前記金属塩(B)を40℃、90%相対湿度環境下、放置した際の5日間の吸水量(X)との比(X/Y)が0.2以上である。
吸水特性(II):前記金属塩(B)を40℃、90%相対湿度環境下に放置した際の24時間後の100gあたりの吸水量(Z)が10g以上である。
吸水特性(III):前記金属塩(B)を40℃、90%相対湿度下に放置した場合に吸水量の極大点を有する。
【請求項4】
前記水和物形成性の金属塩(B)は、前記吸水特性(I),(II)及び(III)を充足する請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに(D)分散剤を含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する多層構造体。
【請求項7】
ガスバリア層として、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、水和物形成性の金属塩(B)、およびポリアミド系樹脂(C)を含有する樹脂組成物層を使用した多層構造体の高熱処理時の異臭を抑制する方法であって、
前記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)の前記ポリアミド系樹脂(C)に対する含有重量比(A/C)は99/1~70/30であり、
前記ポリアミド系樹脂(C)として、主鎖に芳香環を有する構造単位を含む芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と主鎖に炭素数5以上の脂肪族炭化水素鎖を有する構造単位を含む脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)とを使用し、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)との含有重量比(C1)/(C2)が、55/45~99/1であり、
前記芳香族ポリアミド系樹脂(C1)はポリメタキシリレンアジパミドで、且つ前記脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)はナイロン6であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH樹脂」と称することがある)を含む樹脂組成物、およびそれを用いた多層構造体に関し、さらに詳しくは、溶融成形時の臭気が抑制され、かつ当該樹脂組成物層を含む多層構造体を熱水殺菌処理に供したときのEVOH樹脂の溶出を防止できる樹脂組成物およびそれを用いた多層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
EVOH樹脂は、分子鎖に含まれる水酸基が強固に水素結合して結晶部を形成し、かかる結晶部が外部からの酸素の侵入を防止するため、酸素バリア性をはじめとして、優れたガスバリア性を示すことができる。このため、EVOH樹脂層をガスバリア層として用いた多層フィルムが食品等の包装用フィルムとして利用されている。しかしながら、EVOH樹脂フィルムをガスバリア層として用いた多層フィルムで包装した包装物を、レトルト殺菌処理やボイル殺菌処理等の熱水殺菌処理、すなわち長時間、熱水にさらされる処理に供すると、ガスバリア性能が低下することが知られている。かかるガスバリア性の低下は、熱水殺菌処理により、多層フィルムの端縁等からEVOH樹脂層内に水分が入り込み、EVOH樹脂の分子間の水素結合が崩れ、外部から酸素分子が侵入しやすくなったためと考えられている。
【0003】
熱水殺菌処理によるガスバリア性能の低下を抑制する方法としては、EVOH樹脂に、乾燥剤として、多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物を配合することが知られている(例えば、特許文献1参照)。かかる多価金属硫酸塩水和物の部分脱水物または完全脱水物は、水分子を結晶水として取り込む性質を有する。かかる性質に基づき、熱水殺菌処理によりEVOH樹脂層に侵入した水分を、結晶水として吸収することにより、分子間の水素結合の崩れを防止することができる。このような乾燥剤の作用により、熱水殺菌処理によるガスバリア性能の低下を抑制している。
【0004】
ところが、乾燥剤として多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物を用いた樹脂組成物の層を含む多層構造体について、長期間、高温高湿下で保存すると、EVOH樹脂組成物層と隣接層との間にブリスタが発生するという新たな問題が起こった。前記ブリスタは、多価金属硫酸塩が潮解性を有するために、高温高湿下で長期間保存されると、湿分を吸収しすぎて、やがて自ら溶解したものであることが判明した。このような事情から、特許文献2では、ブリスタの発生を回避しつつ、熱水殺菌処理後のガスバリア性能の低下を抑制する技術として、中程度の吸水性能を有する水和物形成性のアルカリ土類金属塩を配合することを提案している。
前記水和物形成性のアルカリ土類金属塩として、具体的には、乳酸、ケイ酸、リン酸、及びクエン酸からなる群より選ばれるアルカリ土類金属塩の完全脱水物又は部分脱水物が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2011/027741号
【文献】国際公開第2015/053176号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1,2には、熱水殺菌処理時のEVOH樹脂の溶出を防止する目的で、ポリアミド系樹脂を添加混合することが提案されている。
【0007】
しかしながら、EVOH樹脂及び水和物形成性の金属塩を含有すると、溶融混練時、溶融成形時に、特異な臭気が発生するという新たな問題が認められた。特異な臭気とは、ポリアミド系樹脂を配合していない樹脂組成物には認められない異臭で、作業者にとって不快な臭気であり、改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
問題の異臭は、ポリアミド系樹脂を配合したときに生じることから、異臭の原因はポリアミド系樹脂に関係すると考え、ポリアミド系樹脂の種類について、種々検討した。
検討の結果、ポリアミド系樹脂として、主鎖に芳香環を有する構造単位を含むポリアミド系樹脂を用いることで、特異な臭気が抑制されることを見出した。一方、主鎖に芳香環を有する構造単位を含むポリアミド系樹脂を用いた場合、当該樹脂組成物層を含む多層構造体の熱水殺菌処理時にEVOH樹脂が溶出し、本来のポリアミド樹脂の配合効果が得られないことがわかった。
さらなる検討の結果、ポリアミド系樹脂として、芳香族ポリアミド系樹脂と脂肪族ポリアミド系樹脂を特定割合で混合したポリアミド系樹脂混合物を用いることで、溶融成形時の異臭発生抑制と、熱水殺菌処理時EVOH樹脂の溶出防止の双方を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち本発明の樹脂組成物は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、水和物形成性の金属塩(B)、およびポリアミド系樹脂(C)を含有する樹脂組成物であって、前記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)の前記ポリアミド系樹脂(C)に対する含有重量比(A/C)は99/1~70/30である。
前記ポリアミド系樹脂(C)として、主鎖に芳香環を有する構造単位を含む芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と主鎖に炭素数5以上の脂肪族炭化水素鎖を有する構造単位を含む脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)とを用い、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)との含有重量比(C1)/(C2)が55/45~99/1である。
また、前記芳香族ポリアミド系樹脂(C1)はポリメタキシリレンアジパミドで、且つ前記脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)はナイロン6である。
【0010】
前記樹脂組成物は、さらに分散剤(D)を含有することが好ましい。
また本発明は、上記本発明の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する多層構造体をも提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、溶融成形時の臭気が抑制され、かつ当該樹脂組成物層を含む多層構造体を、熱水殺菌処理に供してもガスバリア性の低下を抑制し、EVOH樹脂の溶出を防止できるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
【0013】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、水和物形成性の金属塩(B)及びポリアミド系樹脂(C)を含有する樹脂組成物であって、前記ポリアミド系樹脂(C)として、主鎖に芳香環を有する構造単位を含む芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と主鎖に炭素数5以上の脂肪族炭化水素鎖を有する構造単位を含む脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)とを用い、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)との含有重量比(C1)/(C2)が55/45~99/1である。
以下、各成分について、説明する。
【0014】
[(A)EVOH樹脂]
本発明で用いるエチレン-ビニルアルコール系共重合体(EVOH樹脂)は、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物とも称される。通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体(エチレン-ビニルエステル系共重合体)をケン化させることにより得られる、非水溶性の熱可塑性樹脂である。
【0015】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。他のビニルエステル系モノマーとしては、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を用いてもよい。
【0016】
エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いて行うことができ、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
このようにして製造されるEVOH樹脂は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含む。
【0017】
EVOH樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定した値で、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が不足する傾向がある。
【0018】
EVOH樹脂におけるビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて測定した値で、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0019】
EVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜性が不安定となる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
【0020】
本発明で用いられるEVOH樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば10モル%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。
前記コモノマーとしては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類;3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類;これらのエステル化物である、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン;1,3-ヒドロキシ-2-メチレンプロパン、1,5-ヒドロキシ-3-メチレンペンタン等のヒドロキシメチルビニリデン類;これらのエステル化物である1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のメチルビニリデンジアセテート類;グリセリンモノアリルエーテル、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル等のグリセリンモノ不飽和アルキルエーテル類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1~18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド等のコモノマーが挙げられる。
【0021】
さらに、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOH系樹脂を用いることもできる。
【0022】
変性EVOH樹脂としては、共重合により一級水酸基が側鎖に導入されたEVOH樹脂、とりわけ1,2-ジオール構造を側鎖に有するEVOH樹脂が、延伸処理や真空・圧空成形などの二次成形性が良好という点から好ましく用いられる。
【0023】
本発明で使用されるEVOH樹脂は、構造(ケン化度、重合度、共重合成分など)が異なるEVOH樹脂の混合物であってもよい。
【0024】
本発明で用いられるEVOH樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤などが含有されていてもよい。
【0025】
[(B)水和物形成性の金属塩]
本発明で用いる水和物形成性の金属塩(B)とは、水分子を結晶水として取り込む性質を有する金属塩である。
【0026】
金属塩を構成する金属としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属;アルミニウム、亜鉛、ニッケル、鉄、マンガン等の遷移金属があげられる。
金属塩を構成するアニオン種としてはリン酸、炭酸、硫酸、塩酸、ホウ酸、硝酸、ケイ酸などの無機酸;シュウ酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、シクロプロパンジカルボン酸等のカルボン酸類、スルホン酸などの有機酸が挙げられる。かかるカルボン酸類としては、通常、炭素数2~15のカルボン酸類が好ましく、経済性の点から炭素数2~6の脂肪族カルボン酸類が特に好ましい。
以上のような金属及び酸の組合せである金属塩のうち、水和物を形成することができる金属塩であればよい。
【0027】
具体的には、無機酸塩としては、硫酸塩(例えば硫酸マグネシウム[7水和物]など)、ケイ酸塩(例えばケイ酸マグネシウム[5水和物])、リン酸塩(例えばリン酸三マグネシウム[8水和物])、炭酸塩(例えば塩基性炭酸マグネシウム[7水和物]、炭酸ナトリウム[10水和物])などが挙げられる。有機酸塩としては、コハク酸塩(例えばコハク酸2ナトリウム[6水和物])、乳酸塩(乳酸カルシウム[5水和物])、クエン酸塩(例えばクエン酸3ナトリウム[2水和物]、クエン酸カルシウム[4水和物]、ジクエン酸三マグネシウム[14水和物]、クエン酸水素マグネシウム[5水和物])等のカルボン酸塩などが挙げられる。[ ]内は、最大水和物の最大水和数を示している。これらの金属塩(又は金属塩水和物の完全又は部分脱水物)は、水分子を取り込む性質を有する。
【0028】
本発明で用いる水和物形成性の金属塩は、安定水和物が、通常1~20水和物となる金属塩であり、好ましくは3~18水和物となる金属塩であり、特に好ましくは5~15水和物となる金属塩である。安定水和物が含有する結晶水含有量が小さいと、進入した水分の捕捉能が小さくなる傾向にある。
【0029】
このような金属塩の最大水和物の無水物(結晶水が0の場合)又は部分水和物(安定水和物の水和数未満の結晶水を含有する金属塩)を、水和物形成性金属塩(B)として用いることができる。部分脱水物(又は部分水和物)の場合、一般に、結晶水量が最大水和量の70%未満(好ましくは50%以下、さらに好ましくは10%以下)である部分水和物が好ましい。
【0030】
水和物形成性金属塩(B)として用いられる無水物または部分水和物は、水和物を完全脱水又は部分脱水することにより製造してもよいし、市販されている無水物又は部分水和物結晶を用いてもよい。
【0031】
尚、水和物形成性の金属塩は、1種又は2種以上混合しても用いてもよく、無水物と部分水和物の混合物、異なる種類の金属塩の混合物であってもよい。
【0032】
水和物形成性金属塩(B)としては、以下の吸水特性(I)、(II)、(III)の少なくともいずれか1つ、好ましくは全てを充足するものが好ましい。
【0033】
吸水特性(I):最大水和物中の結晶水含有量(Y)と、使用する水和物形成性の金属塩(B)を40℃、90%相対湿度環境下に5日間、放置した際の、当該金属塩(B)100gあたりの吸水量(X)との比(X/Y)が通常0.2以上、好ましくは0.2~10、より好ましくは0.5~5、特に好ましくは0.75~2である。
【0034】
最大水和物中の結晶水含有量Y(g)とは、結晶水を含まない無水物の状態にある水和物形成性の金属塩100gが取り込むことができる結晶水の量をいう。かかる結晶水含有量(Y)は、下記式により求められる値で、金属塩の種類に固有の値である。
Y=〔(最大水和物の水和数×18)/(無水物の分子量)〕×100
【0035】
最大水和物中の結晶水含有量Yは、水和物形成性の金属塩が最大水和物として存在するときの含水量に該当することから、B成分として用いる金属塩(無水物)が吸水できる最大量の指標となり、EVOH樹脂に入り込んだ水分捕捉量に関する指標となる。本発明の樹脂組成物中に浸入した水分の捕捉量が大きいほど、多層構造体における熱水殺菌処理後の酸素透過量の低下を防止できると考えられることから、Yは大きいほど好ましい。従って、Yは、通常10g以上、さらには30g以上、特には50g以上を満たすことが好ましい。一方、水和物形成性の金属塩が最大水和物で最も安定しているとは限らない。最も安定して存在できる水和物(安定水和物)に含まれる結晶水の数は、最大水和物よりも少ない場合がある。例えば、ジクエン酸三マグネシウムでは、最も安定的に存在できる水和物としては、9水和物があるが、最大水和物は14水和物である。
【0036】
吸水量(X)とは、対象とする水和物形成性のアルカリ土類金属塩の脱水物(無水物)100gを、40℃、90%相対湿度環境下に5日間放置した後の吸水量(g)であり、下記式により求められる。
=〔(5日間の吸水重量)/(初期重量)〕×100
【0037】
式中の「5日間の吸水重量」は、(放置5日後の重量-初期重量)より算出できる。「初期重量」及び「放置5日後の重量」は、実際に使用する金属塩の放置前の重量で、実際の測定値である。これらは電子天秤などの重量測定器を用いて測定できる。当該値は、金属塩の化合物の種類だけでなく、当該化合物の製造方法、含有結晶水の有無、性状などによっても異なる値である。
また、B成分として、水和物形成性の金属塩の無水物を用いる場合、理論的には含水量0gのはずであるが、ここで用いる初期重量は、例えば、熱重量測定装置(パーキンエルマー社製、熱重量測定装置「Pyris 1 TGA」)を用いて、重量が平衡に達した状態(完全脱水物の状態)の重量を採用することから、若干量の水分が含まれた重量となる。
【0038】
尚、実際の含水量については、例えば、熱重量測定装置(パーキンエルマー社製、熱重量測定装置「Pyris 1 TGA」)を用いて測定することができる。測定値としての含水率は、化合物全体に対する水分量の割合であり、測定開始時から重量平衡に到達した時点で含まれている水分量の割合(含水率)を算出した値である。
【0039】
前記100gあたりの吸水量Xは、通常10~400(g)、好ましくは20~200(g)、特に好ましくは30~75(g)である。当該吸水量(X)が大きい水和物形成性金属塩では、安定水和物を形成する量を超える水分を取り込む傾向があるため、高湿度条件下にて多層構造体を放置した場合に外観不良が発生する傾向がある。一方、前記吸水量(X)が小さい水和物形成性金属塩では、樹脂組成物中に進入した水分の捕捉容量が小さいことになるので、ガスバリア層を有する多層構造体における熱水殺菌処理後のガスバリア性が不足する傾向にある。
【0040】
以上のようにして定義される結晶水含有量Yに対する吸水量Xの比(X/Y)は、B成分として用いた水和物形成性の金属塩が、安定的に捕捉できる水分量に対して、5日間で吸水する水分量の割合を示している。かかる値が小さすぎる場合、水和物形成力が弱く、水分捕捉が不十分であるために、熱水殺菌処理後のガスバリア性が不足する傾向があることから、0.2以上、好ましくは0.2~10である。一方、X/Yの値は、高湿度条件下にて多層構造体を放置した場合のブリスタの発生に関する指標となる。すなわち、X/Yの値が大きい金属塩は、吸水性能が高く、水分浸入によるガリバリア性の低下抑制効果に優れるが、水和物形成性の金属塩が安定的に吸水できる容量以上の水分を取り込み、過度の吸水でブリスタが発生しやすい傾向にある。高温高湿度下で長期保存した場合のブリスタ発生を抑制する観点から、X/Y)が0.5~5.0未満、好ましくは0.75~2である。
【0041】
吸水特性(II):40℃、90%相対湿度環境での24時間放置後の吸水量に対応する初期吸水速度(Z)が10g以上、好ましくは50g以上、より好ましくは80g以上、特に好ましくは100g以上である。
Zは、使用する水和物形成性の金属塩(B)100gを、40℃、90%相対湿度環境下で24時間放置したときの吸水量(g)であらわされる。
初期吸水速度Zが小さい金属塩では、樹脂組成物中に進入した水分の捕捉能が不十分で、熱水殺菌処理後のガスバリア性が不足する傾向にある。
【0042】
吸水特性(III):40℃、90%相対湿度下で放置された場合に吸水量の極大点を有する。
吸水量の極大点とは、高温高湿度下(例えば40℃、90%相対湿度下)で放置したときの6日間の吸水量変化において、吸水後重量が減少傾向に転じる場合をいう。具体的には、放置24時間単位で測定される吸水量(X、n日後の吸水量はX)が、さらに24時間後(n+1日後)の吸水量(Xn+1)よりも少なくなっている場合をいう。ここで、n日目の「吸水量」は、(n日後の重量-初期重量)により算出される。
従って、吸水特性(III)は、吸水量が極大に達した後、吸水した水分の一部を放出する特性であるといえ、化合物が所定量を吸水した後は、過度の吸水が抑制されることを意味する。吸水特性(III)を有する水和物形成性の金属塩(B)は、自身が吸水した水分により溶解してしまうことを回避できる。また、最大水和物よりも水和数が少ない安定水和物が存在する場合、最大水和物にまで吸水した後、安定水和物に近づくように、含水量を調整しているとも考えられる。
【0043】
以上のような、吸水特性(I)、(II)、(III)の少なくともいずれか1つ、好ましくは全てを充足する水和物形成性金属塩(B)は、本発明の樹脂組成物層を、疎水性樹脂層でサンドイッチした多層構造体として用いた場合に、積層界面で発生するブリスタの発生を抑制できるという効果がある。
したがって、吸水特性(I),(II),(III)を充足する水和物形成性金属塩を乾燥剤として用いることで、熱水殺菌処理によるガスバリア性の低下を防止するだけでなく、高温高湿度下で長期間保存されても、捕捉能を超える過剰量の吸水を回避、あるいは過剰量の吸水をした後でも安定水和物として存在できるように過剰に捕捉した水分を再び放出することで、外観不良の発生を抑制し、優れた外観を保持できる多層構造体を提供することができる。
【0044】
吸水特性(I),(II),(III)を充足する水和物形成性金属塩としては、クエン酸マグネシウム、ジクエン酸三マグネシウム等のクエン酸のアルカリ土類金属塩の完全脱水物(無水物)又は部分脱水物、ケイ酸マグネシウム、リン酸三マグネシウムの完全脱水物(無水物)又は部分脱水物などが挙げられる。部分脱水物の場合、既に述べたように、含まれている結晶水量が最大水和量の70%未満、好ましくは50%以下、より好ましくは10%以下である。これらのうち、クエン酸マグネシウム、ジクエン酸三マグネシウム等のクエン酸のマグネシウム塩の完全脱水物が好ましく用いられる。
【0045】
水和物形成性金属塩(B)は、通常粉体である。その粒子分布としてはASTM E11-04に基づいて測定した値で、通常120メッシュパスが50体積%以上であり、好ましくは120メッシュパスが80体積%以上、特に好ましくは120メッシュパスが95体積%以上である。かかる粒子分布は、EVOH樹脂への分散性が良好となる点から、120メッシュパスの粒子割合が多いことが好ましい。120メッシュパスの粒子割合が少なすぎる場合、多層構造体の外観が悪化する傾向がある。
【0046】
〔(C)ポリアミド系樹脂〕
ポリアミド系樹脂は、アミド結合がEVOH樹脂のOH基及び/又はエステル基との相互作用によりネットワーク構造を形成することが可能であり、熱水殺菌処理時のEVOH樹脂の溶出を防止することができる。
【0047】
本発明の樹脂組成物は、ポリアミド系樹脂(C)として、主鎖に芳香環を有する構造単位を含む芳香族ポリアミド系樹脂(C1)(以下、単に「芳香族ポリアミド系樹脂(C1)」と称することがある。)と、主鎖に炭素数5以上の脂肪族炭化水素鎖を有する構造単位を含む脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)(以下、単に「脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)」と称することがある。)を、芳香族ポリアミド樹脂(C1)が過半量となる割合で用いるところに特徴がある。すなわち、ポリアミド系樹脂(C)は、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)の併用物である。
【0048】
(C1)芳香族系ポリアミド系樹脂
芳香族系ポリアミド系樹脂(C1)とは、主鎖に芳香環を有する構造単位を含む芳香族ポリアミド系樹脂をいう。かかる主鎖に芳香環を有する構造単位は、ポリマーを構成するジアミンユニットまたはジカルボン酸ユニットのいずれであってもよい。
【0049】
上記ジアミンユニットを供与する芳香族ジアミンとしては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンジジン、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,5-ジアミノナフタレン、3,3’-ジメトキシベンチジン、1,4-ビス(3-メチル-5-アミノフェニル)ベンゼンなどを用いることができ、これらのうち好ましくはオルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンであり、より好ましくは、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンである。
【0050】
上記ジカルボン酸ユニットを供与する芳香族ジカルボン酸としては、オルトフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸等のフタル酸類;ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸、ジヒドロキシイソフタル酸、ジヒドロキシテレフタル酸などのヒドロキシフタル酸類;ビフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の多芳香環カルボン酸類;ベンゼン二酢酸、ベンゼンジプロピオン酸等の芳香族アルキルカルボン酸類;オキシジ安息香酸、チオジ安息香酸、ジチオジ安息香酸、ジチオビス(ニトロ安息香酸)、カルボニルジ安息香酸、スルホニルジ安息香酸メチレンジ安息香酸、イソプロピリデンジ安息香酸等を用いることができ、これらのうち好ましくはフタル酸類、特に好ましくはテレフタル酸、イソフタル酸である。
【0051】
芳香族ジカルボン酸ユニットは、上記芳香族ジカルボン酸に代えて、クロライド化合物を用いてもよい。芳香族ジカルボン酸ジクロライドとしては、例えば、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、1,4-ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’-ビフェニルジカルボン酸クロライド、5-クロルイソフタル酸クロライド、5-メトキシイソフタル酸クロライド、ビス(クロロカルボニルフェニル)エーテルなどが挙げられる
【0052】
本発明で用いる芳香族ポリアミド系樹脂(C1)は、主鎖に脂肪族炭化水素鎖を有する構造単位を有してもよい。
【0053】
前記脂肪族炭化水素鎖の構造単位を供与する脂肪族ジアミンとしては、メチレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等の炭素数2~18の直鎖脂肪族ジアミン;1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン等の脂環族ジアミン;N-メチルエチレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン等の直鎖脂肪族ジアミン以外の脂肪族ジアミンが挙げられる。これらのうち、異臭防止効果の観点から、炭素数5以下の脂肪族ジアミンが好ましい
【0054】
前記脂肪族炭化水素鎖の構造単位を供与する脂肪族ジカルボン酸としては、直鎖脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、分岐脂肪族ジカルボン酸のいずれでもよく、例えば、シュウ酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸等が挙げられる。これらのうち、異臭防止効果の観点から、脂肪族炭化水素鎖の炭素数4以下の直鎖脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0055】
本発明で用いる芳香族ポリアミド系樹脂(C1)は、ポリアミド系樹脂(C1)を構成する全構造単位(すなわち全モノマーユニット)の30モル%以上が芳香族含有ユニットであればよい。従って、本発明で用いる芳香族ポリアミド系樹脂(C1)としては、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とから合成される全芳香族ポリアミドの他、芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸との組み合わせ、又は芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとの組み合わせから合成される半芳香族ポリアミドも含む概念であり、EVOH樹脂(A)との相溶性の点から、半芳香族ポリアミドが好ましく用いられる。
半芳香族ポリアミド系樹脂は、通常、主鎖における芳香環を有する構造単位の含有率は、ポリアミド系樹脂を構成する全構造単位(全モノマーユニット)の50モル%であるが、芳香族ジカルボン酸又は芳香族ジアミンの一部が、それぞれ脂肪族ジカルボン酸又は脂肪族ジアミンに置換されていてもよい。
従って、本発明の好ましく用いられる芳香族ポリアミド系樹脂(C1)を構成する全構造単位(全モノマーユニット)の主鎖に芳香環を有する構造単位の含有率は、通常30~60モル%、好ましくは40~55モル%である。
【0056】
本発明で用いる芳香族ポリアミド系樹脂(C1)としては、例えばフェニレンジアミンとフタル酸との共重合体である全芳香族ポリアミド;ポリメタキシリレンアジパミド、ポリメタキシリレンセバカミド、ポリメタキシリレンドデカナミド、ポリパラキシリレンセバカミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドや、ポリ-p-フェニレン・3-4’ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の半芳香族ポリアミドが挙げられる。異臭発生抑制の点から、主鎖を構成する脂肪族炭化水素構造単位(アミド結合(-CONH-)を構成する炭素を除く単位。以下同様)が炭素数4以下であることが好ましく、特に好ましくはポリメタキシリレンアジパミドである。
【0057】
(C2)脂肪族ポリアミド系樹脂
脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)とは、ポリマー主鎖を構成する構造単位の70モル%以上が、主鎖に炭素数5以上の脂肪族炭化水素鎖を有する構造単位で構成されているポリアミド系樹脂をいう。
【0058】
上記主鎖に炭素数5以上の脂肪族炭化水素鎖を有する構造単位を供与する化合物としては、例えば、主鎖に炭素数5以上の脂肪族炭化水素鎖を含む構造単位を供与できるラクタム類(例えば、カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタムなど)、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)で含まれてもよいとして列挙した脂肪族ジアミン、脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
さらに、脂環族ジアミン(例えば、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン)、脂環族ジカルボン酸(例えば、シクロペンタンジカルボン酸)が用いられてもよい。
【0059】
脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)としては、具体的には、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーが挙げられる。また共重合ポリアミド系樹脂としては、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等が挙げられる。
特に、主鎖を構成する構造単位の脂肪族炭化水素鎖の炭素数が少ないことが臭気抑制に有効と推測されることから、ナイロン6が好ましい。
【0060】
以上のような芳香族ポリアミド系樹脂(C1)の融点は、示差走査熱量計(DSC)で測定した値で、通常220~270℃、好ましくは220~250℃である。当該融点が高すぎる場合、高温で成形する必要があるため、EVOH樹脂の劣化の原因となる。一方、当該融点が低すぎる場合、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)の熱安定性が低下する傾向にある。
脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)の融点は、示差走査熱量計(DSC)で測定した値で、通常200~250℃、好ましくは200~240℃である。当該融点が高すぎる場合、高温で成形する必要があるため、EVOH樹脂の劣化の原因となる。一方、当該融点が低すぎる場合、EVOH樹脂との相溶性が低下する傾向にある。
【0061】
上記ポリアミド系樹脂(C1)(C2)のいずれか一方、または双方について、カルボキシル末端あるいはアミン末端が変性された末端変性ポリアミド系樹脂であってもよい。カルボキシル基が溶融成形時にEVOH樹脂と反応してゲルなどを発生し、得られたフィルムの外観が不良となりやすい傾向があるが、末端変性により、かかる不良発生を抑制できる。
【0062】
末端変性ポリアミド系樹脂は、通常の未変性ポリアミド系樹脂のカルボキシル基を末端調整剤によりN-置換アミド変性したものであり、変性前のポリアミド系樹脂が含有していたカルボキシル基の総数に対して5%以上変性されたポリアミド系樹脂である。かかる末端変性ポリアミド系樹脂は、例えば特公平8-19302に記載の方法にて製造することができる。
【0063】
〔(C1)と(C2)の含有量比率〕
本発明の樹脂組成物に含有される(C)成分は、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と脂肪族系ポリアミド系樹脂(C2)とが、(C1)/(C2)(重量比)で、55/45~99/1、好ましくは65/35~90/10、特に好ましくは70/30~85/15の割合で用いた併用物である。芳香族ポリアミド系樹脂(C1)を過半量用いるところに特徴がある。
【0064】
芳香族ポリアミド系樹脂(C1)は、溶融成形時の異臭の発生を抑制できる。
樹脂組成物の溶融成形時に発生する特異な臭気の原因は明らかではないが、ポリアミド系樹脂を配合しない樹脂組成物では発生しなかった現象であり、また、水和物形成性のアルカリ土類金属塩を含有していない樹脂組成物では発生しなかった現象である。異臭の原因は、溶融成形のような高温下では、水和物形成性の金属塩がなんらかの作用をして、ポリアミド系樹脂を分解し、分解物のアミンが環化してなる環状化合物が原因と推測される。
この点、芳香族系ポリアミド系樹脂を用いた場合、主鎖に芳香族が含まれているため、分解生成物として芳香族含有モノマーが生成されることになるが、この芳香族含有モノマーは、環化しないため、特異な臭気を発生せずに済んだのではないかと考えられる。
【0065】
一方、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)を用いた場合、EVOH樹脂に一般に配合される脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)を用いた場合と比べて、熱水殺菌処理時に樹脂組成物層が溶出しやすい傾向にあることがわかった。EVOH樹脂が、熱水不溶性のポリアミド系樹脂との間で水素結合等により結合形成することにより、EVOH樹脂の溶出を防止できると考えられているが、一般に芳香族ポリアミド系樹脂は、EVOH樹脂との相溶性が劣り、あるいは嵩高い芳香族構造単位が立体障害となって、EVOH樹脂との水素結合形成、ネットワーク構造の形成が脂肪族ポリアミドと比べて低いためと考えられる。
熱水殺菌処理時のEVOH樹脂溶出防止と溶融成形等の高温処理時の異臭発生防止という双方の目的達成の点から、芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとを併用することになる。ここで、異臭の原因と考えられる脂肪族ポリアミドの分解は、高温に暴露されることにより生じるため、樹脂組成物の調製時、成形材料としてのペレットの製造時、ユーザーにおける溶融混錬時、溶融成形時、さらには樹脂組成物を含む多層構造体のリサイクル時のように、樹脂組成物は繰り返し高温に暴露される環境にあり、脂肪族ポリアミドがその度に分解され得る。このため、脂肪族ポリアミドの含有割合が高くなると、ユーザーによる溶融成形、高熱下での加工処理が一次、二次と進むにしたがって異臭が発生しやすくなる。したがって、脂肪族ポリアミド系樹脂は、熱水殺菌処理時のEVOH樹脂の溶出防止に必要な量、換言すると、芳香族ポリアミド系樹脂とEVOH樹脂との間の結合形成可能なように相溶させることができる程度の量だけ存在すれば足りる。
【0066】
以上の観点から、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)を過半量、好ましくは芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と脂肪族系ポリアミド系樹脂(C2)とが、(C1)/(C2)(重量比)で65/35~90/10、特に好ましくは70/30~85/15の割合で使用することが好ましい。
脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)は、EVOH樹脂(A)の溶出防止の役割というよりはむしろ、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)とEVOH樹脂(A)との相溶化剤としての役割のために配合されるからである。
【0067】
かかる配合比は一般に樹脂組成物をDSCにて測定した融点ピークの位置及びその強度比から求めることができる。
【0068】
本発明において、EVOH樹脂/ポリアミド系樹脂の含有重量比(A/C)は、通常99/1~70/30であり、好ましくは97/3~75/25、特に好ましくは95/5~85/15である。ポリアミド系樹脂の比率が大きすぎる場合には、ロングラン成形性およびガスバリア性が不足する傾向がある。ポリアミド系樹脂の含有量比率が小さすぎる場合には、熱水殺菌処理後の樹脂組成物層の溶出抑制効果が不十分となる傾向にある。
【0069】
なお、水和物形成性の金属塩(B)のポリアミド系樹脂(C)に対する含有重量比としては、該金属塩完全脱水物としての含有重量比(B/C)にて通常95/5~5/95であり、好ましくは70/30~30/70、特に好ましくは60/40~40/60である。ポリアミド系樹脂の比率が大きすぎる場合には、熱水殺菌処理後のガスバリア性が不十分となる傾向がある。ポリアミド系樹脂の比率が小さすぎる場合には、熱水殺菌処理時にEVOH樹脂が溶出しやすくなる傾向がある。
【0070】
〔(D)分散剤〕
さらに、本発明の樹脂組成物には、分散剤(D)を含有することが好ましい。
本発明で用いられる分散剤(D)は、従来より樹脂組成物に用いられていた分散剤で、例えば、炭素数16~30の高級脂肪酸類が挙げられる。具体的には、高級脂肪酸(例えばステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸金属塩(ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸などの高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩、マグネシウム塩)、アルミニウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、バリウム塩等)、高級脂肪酸エステル(高級脂肪酸のグリセリンエステル、メチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス脂肪酸アミド)、好適には高級脂肪酸および/またはその金属塩、エステル、アミドが、更に好適にはステアリン酸アルカリ土類金属塩および/または高級脂肪酸グリセリンエステルが挙げられる。
【0071】
水和物形成性の金属塩(B)の配合により、樹脂組成物の混練時のトルク値が増大する傾向にあり、ポリアミド系樹脂(C)の添加も、EVOH樹脂の混練時のトルク値を増大させる傾向がある。分散剤(D)の添加により、これらによる増粘傾向の抑制が可能となるので、ペレット製造やフィルムの押出成形のようにロングラン性の点から好ましい。また分散剤(D)は、これら組成物内において、水和物形成性金属塩(B)に対して、滑剤としても作用しているのではないかと考えられ、優れた増粘抑制を発揮することができる。
【0072】
分散剤(D)として好ましくは高級脂肪酸類であり、より好ましくは高級脂肪酸の金属塩であり、さらに好ましくは炭素数16~24の脂肪酸の金属塩であり、特に好ましくは炭素数16~20のアルカリ土類金属塩である。
なお、分散剤として用いられる高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩は、水和物形成性を有しない(結晶水を有する化合物が存在する場合には、すでに安定水和物となっている)という点で、(B)成分の水和物形成性のアルカリ土類金属塩と区別される。
【0073】
このような分散剤の配合量は特に限定しないが、樹脂組成物中、0.01~5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~5重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5~3重量%である。
【0074】
かかる分散剤は、樹脂組成物ペレットの内部に均一に含有されてもよいし、樹脂組成物をペレットとした際、該ペレット表面に付着させて含有させてもよい。
【0075】
〔他の成分〕
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分として、EVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(C)以外の熱可塑性樹脂(以下、「他の熱可塑性樹脂」と表記することがある)を、EVOH樹脂(A)に対して、通常10重量%以下にて含有してもよい。
【0076】
上記「他の熱可塑性樹脂」の原料としては、例えば具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、アイオノマー、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、エチレン-アクリル酸エステル共重合体ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー等のエラストマー等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0077】
さらに必要に応じて、本発明の効果を損なわない限り(例えば、樹脂組成物全体の5重量%未満)、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等の可塑剤;飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン)等の滑剤;アンチブロッキング剤;酸化防止剤;着色剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;抗菌剤;不溶性無機塩(例えば、ハイドロタルサイト等);充填材(例えば上記F-1に記載した以外の無機フィラー等);界面活性剤、ワックス;共役ポリエン化合物、エンジオール基含有物質(例えば、没食子酸プロピルなどのフェノール類など)、アルデヒド化合物(例えば、クロトンアルデヒド等の不飽和アルデヒド類など)などの公知の添加剤を適宜含有してもよい。
【0078】
<樹脂組成物の調製方法>
上記のEVOH樹脂(A)、水和物形成性の金属塩(B)、およびポリアミド系樹脂(C)、さらに必要に応じて配合される分散剤(D)の混合は、通常溶融混錬または機械的混合法(ドライブレンド)を行ない、好ましくは溶融混錬法により行う。
【0079】
混合順序は、特に限定しない。ポリアミド系樹脂(C1)、(C2)についても、予め混合ポリアミド系樹脂(C)を調製し、これをEVOH樹脂(A)と混合してもよいし、ポリアミド系樹脂(C1)、(C2)及びEVOH樹脂(A)を一括混合してもよい。必要に応じて、水和物形成性の金属塩(B)をEVOH樹脂(A)及び/又はポリアミド系樹脂(C)に過剰割合で配合したマスターバッチ、ポリアミド樹脂(C)をEVOH樹脂(A)に対して過剰割合で配合した高濃度組成物を製造した後、この高濃度組成物にEVOH樹脂で希釈することで、目的の組成としてもよい。
【0080】
混合方法は、例えばバンバリーミキサー等でドライブレンドする方法や単軸または二軸の押出機等で溶融混練し、ペレット化する方法等任意のブレンド方法が採用され得る。かかる溶融混錬温度は、通常150~300℃、好ましくは170~250℃である。
【0081】
本発明の樹脂組成物は、原料を溶融混練した後に直接溶融成形品を得ることも可能であるが、工業上の取り扱い性の点から、上記溶融混練後に樹脂組成物ペレットを得、これを溶融成形法に供し、溶融成形品を得ることが好ましい。経済性の点から、一般に、押出機を用いて溶融混練し、得られたペレットが成形材料として提供される。
【0082】
<溶融成形品>
本発明の樹脂組成物は、溶融成形法により例えばフィルム、シート、カップやボトルなどに成形することができる。かかる溶融成形方法としては、押出成形法(T-ダイ押出、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法等が挙げられる。溶融成形温度は、通常150~300℃の範囲から選ぶことが多い。
【0083】
本発明の樹脂組成物を用いた溶融成形品は、樹脂組成物の主成分であるEVOH樹脂(A)の優れたガスバリア性に基づき、食品等の包装材料として好ましく用いられる。特に本発明の樹脂組成物をガスバリア層とし、ガスバリア層を疎水性樹脂フィルムでサンドイッチしたり、強度付与のための基材を積層した多層構造体は、包装材料として好ましく用いられる。
【0084】
<多層構造体>
多層構造体の層構成は、本発明の樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等の任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品当等を再溶融成形して得られる、本発明の樹脂組成物と熱可塑性樹脂の混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10層である。上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂層を設けてもよい。
【0085】
基材樹脂層bを構成する基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および/または側鎖に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。
【0086】
また、接着剤樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂層bに用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体を挙げることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等であり、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0087】
上記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を含んでいても良い。
【0088】
本発明の樹脂組成物を上記基材樹脂との積層(接着性樹脂層を設ける場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本発明の樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本発明の樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、樹脂組成物(層)と基材樹脂(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上に樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等が挙げられる。これらの中でも、コストや環境の観点から考慮して共押出しする方法が好ましい。
【0089】
上記の如き多層構造体は、次いで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、次いで熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを緊張状態に保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。
【0090】
これらの多層構造体は、必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液又は溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等の二次加工が行われてもよい。
【0091】
上記の如く得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等の成形品は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
特に、本発明の樹脂組成物からなる層は、熱水殺菌処理後のガスバリア性が優れるため、熱水殺菌処理を行なう食品の包装材料として特に有用である。
【0092】
ここで熱水殺菌処理とは、包装後に内部の食品等の殺菌を目的として行われる水を用いた加熱処理で、食品等の包装物を水(水蒸気を含む)の存在下で70~140℃の条件下で3~40分程度処理することにより行われる。処理温度、処理時間は内部の食品等の種類により設定される。細菌の種類によっては100℃でも死なない耐熱菌が存在することから、必要に応じて加圧しながら行う場合もある。熱水殺菌処理としては、代表的にはボイル殺菌処理、レトルト殺菌処理が挙げられる。
【0093】
本発明の樹脂組成物の溶融成形品、多層構造体は、リサイクルに供されてもよい。リサイクルに供した場合であっても、問題とされる異臭の発生を抑制できる。溶融混錬時、ペレット製造、フィルム等の溶融成形、さらには多層構造体の成形時、さらにはリサイクルのための熱溶融で繰り返し、熱履歴を受けることになる。しかしながら、本発明の樹脂組成物では熱処理時のポリアミド系樹脂の分解が抑制されているので、熱処理時に作業者に不快感をもたらすような異臭の発生を防止できる。
芳香族ポリアミド系樹脂の耐熱性は、脂肪族ポリアミド系樹脂の耐熱性よりも優れることから、複数回の熱処理を経てもポリアミド系樹脂添加の効果を保持することを期待できる。よって、熱水処理が繰り返された場合であっても、EVOH樹脂の溶出防止に寄与することが可能である。
【実施例
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0095】
〔樹脂組成物No.1~5の製造〕
EVOH樹脂(A)として、エチレン-ビニルアルコール共重合体(エチレン構造単位の含有量29モル%、MFR3.8g/10分(210℃、荷重2160g))を用いた。
【0096】
水和物形成性の金属塩(B)として、ジクエン酸三マグネシウム無水物(Jungbunzlauer製)を用いた。このジクエン酸三マグネシウム無水物の吸水特性は下記のとおりである。
吸水特性(I):X/Y=0.9
吸水特性(II):Z=50.1g
吸水特性(III):極大点が存在
(6日目の吸水量が5日目の吸水量よりも減少)
【0097】
芳香族ポリアミド系樹脂(C1)として、三菱瓦斯化学製のMXナイロンS6011を用いた、このMXナイロン(S6011)は、メタキシリレンジアミンとアジピン酸から得られる結晶性ポリアミド(芳香族構造単位含有率50モル%、融点237℃、水に不溶)である。脂肪族系ポリアミド系樹脂(C2)として、ナイロン6(DSM製 Novamid1028EN)を用いた。このナイロン6の融点は225℃である。
【0098】
EVOH樹脂(A)80部、水和物形成性の金属塩(B)9.5部、ポリアミド(C)10部、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム0.5部を含有する樹脂組成物No.1~5を調製した。
樹脂組成物No.1~5は、表1に示すように、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)との混合比率が相違する。
樹脂組成物の調製は、上記成分を所定割合でブレンドした後、フィーダーに仕込み、下記条件で20mm径の二軸押出機で溶融混練した。
押出機条件スクリュー内径 20m
D 25
クリュー回転数 110rpm
ダイス 2穴ストランドダイス
押出温度(℃) C1/C2/C3/C4=180/240/240/240
【0099】
このようにして調製したEVOH樹脂組成物を、ストランド状に押出してドラム型ペレタイザーで切断し、円柱状ペレット(ペレット径:1.1mm、ペレット長さ:3.2mm)を得た。得られたペレットについて、臭気性、耐熱水溶出性を以下のようにして評価した。結果を表1に示す。
【0100】
〔樹脂組成物No.6の製造〕
EVOH樹脂(A)の配合量を90部とし、ポリアミド樹脂を配合しなかった以外は、No.1と同様にして樹脂組成物を調製し、円柱状ペレットを製造た。得られたペレットについて、臭気性、耐熱水溶出性を以下のようにして評価した。結果を表1に示す。
【0101】
<臭気>
上記ペレットを用いてリサイクルモデル樹脂組成物を調製し、当該リサイクルモデル樹脂組成物のペレット(リサイクルモデルペレット)について、臭気を評価した。
リサイクルモデルペレットは、樹脂組成物の実用化において最も熱履歴がかかるリサイクル層の作成時を想定したものである。複数回の熱履歴が掛かった厳しい条件での臭気評価を行うことで、より高レベルの臭気抑制効果を評価することが可能である。
【0102】
(1)リサイクルモデルペレット製造
上記で得られた樹脂組成物ペレット5部、ポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製 ノバテックPP EA7AD[MFR1.4g/10分(230℃、荷重2160g)])90部、接着性樹脂(lyondellbasell製Plexar PX6002[MFR2.7g/10分(230℃、荷重2160g)])5部、LDPE(日本ポリエチレン社製ノバテックLDLF320H[MFR1.1g/10分(190℃、荷重2160g)])4.2部、ZHT-4A(MgZnAl(OH)12・CO・mHO/ハイドロタルサイト固溶体)0.5部、塩基性ステアリン酸カルシウム0.3部配合し、下記に示す二軸押出機で溶融混練し、リサイクルモデルペレットを作成した。
【0103】
押出機条件スクリュー内径 20m
D 25
クリュー回転数 110rpm
ダイス 2穴 ストランドダイス
押出温度(℃) C1/C2/C3/C4=180/240/240/240
【0104】
(2)臭気評価
上記で製造したリサイクルモデルペレットについて、EVOH樹脂単独のペレット(参考例)との臭気を比較することにより評価した。
【0105】
蓋付ガラス瓶に上記参考ペレットおよび上記リサイクルモデルペレットを5gずつ入れ、タバイエスペック株式会社製ギヤーオーブンGPHH-200を用いて100℃で10分加熱した。
上記参考ペレットのサンプルを2つ、リサイクルモデルペレットのサンプルを1つ用意し、かかる3つのサンプルを3人のパネラーが順不同でペレットの臭いをかぎ、特異臭のするサンプルを選出した。
【0106】
パネラーがリサイクルモデルペレットサンプルを選択した場合、異臭ありと判定した。パネラーが参考ペレットサンプルを選択した場合又は選択できなかった場合を異臭なしと判定した。異臭と判定したパネラー数にしたがい、下記基準に基づきA~Cの3段階で評価した。
A:異臭を感じたパネラーなし
B:過半数のパネラーが異臭なしと判定
C:過半数のパネラーが異臭ありと判定
【0107】
<耐熱水溶出性>
樹脂組成物ペレットNo.1~5及び参考ペレットを、自動高圧蒸気滅菌装置(Yamato製オートクレーブSN200)を用いて、120℃、90分間、蒸気滅菌処理した後、取り出し、目視でペレットの状態を観察した。下記B,Cの場合は、上記オートクレーブ処理により樹脂組成物ペレットが溶解したものと推測される。
A:ペレットの輪郭が明確に確認できた
B:ペレットの輪郭が丸くなっていた。
C:ペレットの形状を保持していなかった。
【0108】
【表1】
【0109】
ポリアミド系樹脂を全く含有しない組成物No.6及び参考例では、特異臭はないが、耐熱水溶出性が劣り、熱水殺菌処理に不適であった。
No.5は、ポリアミド系樹脂(C)として、脂肪族ポリアミド樹脂(C2)のみを用いた場合である。参考例と比べて、耐熱水溶出性についてポリアミド系樹脂添加の効果を有するが、異臭の問題があった。
一方、No.1は、ポリアミド系樹脂(C)として、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)のみを用いた場合である。ポリアミド系樹脂の配合による異臭の問題が発生しなかったが、熱水溶出が認められ、熱水殺菌処理に対するポリアミド系樹脂の本来の添加効果が得られなかった。
【0110】
No.2は、ポリアミド系樹脂(C)として、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)の混合物を使用し、C1/C2の混合比率を8/2とした場合である。脂肪族ポリアミド(C2)添加による異臭の発生がなく、且つ熱水溶出が抑制されていた。
一方、No.3,4は、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)の混合物において、脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)の含有割合を等量以上とした場合である。耐熱水溶出性に対してはポリアミド添加効果が認められたが、脂肪族ポリアミドの含有比率が増大するにしたがって、異臭の発生が問題となった。
【0111】
以上の結果から、耐熱水溶出性に対するポリアミド系樹脂の配合効果を損なうことなく、高熱処理時の異臭の発生を抑制するためには、ポリアミド系樹脂(C)として、芳香族ポリアミド系樹脂(C1)と脂肪族ポリアミド系樹脂(C2)の混合物を使用し、且つ芳香族ポリアミド(C2)を過半量用いることが必要であることがわかる。
【0112】
〔多層構造体の作製〕
上記樹脂組成物ペレットNo.2及びNo.5を、Tダイを備えた押出機に供給して、ダイを230℃とし、厚さ320μmの3種5層多層フィルムを製膜した。
4種5層型フィードブロック、多層フィルム成形用ダイおよび引取機を有する共押出多層フィルム成形装置を用いて下記条件で共押出を実施し、冷却水の循環するチルロールにより冷却して多層構造体(ポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社”ノバテックPP EA7AD”)/接着性樹脂(lyondellbasell製Plexar PX6002)/本発明の樹脂組成物/接着性樹脂/ポリプロピレン(厚さ(μm):120/20/40/20/120))を得た。
・中間層押出機(EVOH):32mmφ単軸押出機(バレル温度:230℃)
・上層押出機(PP):40mmφ単軸押出機(バレル温度:230℃)
・下層押出機(PP):40mmφ単軸押出機(バレル温度:230℃)
・中内外層押出機(接着性樹脂):32mmφ単軸押出機(バレル温度:230℃)
・ダイ:4種5層型フィードブロックダイ(ダイ温度:230℃)
・冷却ロール温度:80℃
【0113】
<熱水殺菌処理後のガスバリア性>
ペレットNo.2,5を用いて製造した多層構造体のサンプル片(10cm×10cm)2S,5Sについて、熱水浸漬式レトルト装置(日阪製作所)を用いて123℃で33分間熱水殺菌処理を実施した後に取り出し、酸素ガス透過量測定装置(モコン社製OX-TRAN 2/21)を用いて、1日後の酸素透過速度(23℃、内部90%相対湿度、外部50%相対湿度)を評価した。
2Sの酸素透過速度は、7.2cc/m・days・atm、5Sの酸素透過速度は11.7cc/m・days・atmであった。熱水殺菌処理後も優れたガスバリア性が保持されていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の樹脂組成物は、溶融成形時、さらにはリサイクルに用いられた場合の溶融成形時であっても異臭の問題がなく、しかも当該樹脂組成物層を含む多層構造体の熱水殺菌処理時のEVOH樹脂の溶出が防止され、ガスバリア性の低下も抑制されているので、工業的に極めて有用である。