(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】制御装置、レンズ装置、撮像装置、制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G02B 7/08 20210101AFI20240805BHJP
G02B 7/28 20210101ALI20240805BHJP
H04N 23/67 20230101ALI20240805BHJP
【FI】
G02B7/08 C
G02B7/28 Z
H04N23/67
(21)【出願番号】P 2020182003
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】因 紘生
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-122861(JP,A)
【文献】特開2019-074671(JP,A)
【文献】国際公開第2012/090348(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/051730(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02 - 7/16
G02B 7/28 - 7/40
H04N 5/222- 5/257
H04N 23/00
H04N 23/40 -23/76
H04N 23/90 -23/959
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸方向に移動可能な複数のフォーカスレンズ群の駆動を制御する制御装置であって、
収差可変手段により設定された収差量を取得する取得手段と、
前記複数のフォーカスレンズ群のそれぞれが上限速度を超えないように前記複数のフォーカスレンズ群の駆動を制御する制御手段と、を有し、
前記上限速度は、前記収差量に応じて異なることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記上限速度を記憶する記憶手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記記憶手段は、前記収差量と前記上限速度との関係を示すテーブルデータを記憶していることを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記上限速度は、前記収差量および被写体距離に応じて異なることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記複数のフォーカスレンズ
群は、フォーカシングに際して互いの間隔が変化する第1フォーカスレンズ群と第2フォーカスレンズ群とからなり、
前記制御手段は、前記第1フォーカスレンズ群および前記第2フォーカスレンズ群のそれぞれの速度が前記上限速度を超えないように、前記第1フォーカスレンズ群および前記第2フォーカスレンズ群の駆動を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
光軸方向に移動可能な複数のフォーカスレンズ群と、
前記複数のフォーカスレンズ群を駆動する駆動手段と、
ユーザの操作により収差量を変更可能な収差可変手段と、
前記収差可変手段により設定された収差量を取得する取得手段と、
前記複数のフォーカスレンズ群のそれぞれが上限速度を超えないように前記複数のフォーカスレンズ群の駆動を制御する制御手段と、を有し、
前記上限速度は、前記収差量に応じて異なることを特徴とするレンズ装置。
【請求項7】
撮像素子と、
請求項6に記載のレンズ装置と、を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項8】
光軸方向に移動可能な複数のフォーカスレンズ群の駆動を制御する制御方法であって、
収差可変手段により設定された収差量を取得する取得ステップと、
前記複数のフォーカスレンズ群のそれぞれが上限速度を超えないように前記複数のフォーカスレンズ群の駆動を制御する制御ステップと、を有し、
前記上限速度は、前記収差量に応じて異なることを特徴とする制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の制御方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のフォーカスレンズ群の駆動を制御する制御装置およびレンズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のフォーカスレンズ群を駆動してオートフォーカス制御(AF制御)を行う撮像装置が知られている。このようなオートフォーカス制御では、主群としてのフォーカスレンズ群でピント調整を行い、副群としてのフォーカスレンズ群で収差を補正することにより、合焦状態であるとともに良好な光学特性を実現する。
【0003】
特許文献1には、変倍のためのズームレンズを移動した際の主群レンズと副群レンズの2つのレンズの目標位置の算出方法が開示されている。特許文献1に開示された方法では、主群レンズと副群レンズの位置と焦点距離と被写体距離との関係を示す位置特性データから、主群レンズと副群レンズの位置が同一焦点距離かつ同一被写体距離になるような目標位置(同期位置)を算出する。このとき、副群レンズの動きが急峻にならないように、副群レンズの目標位置が補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された方法では、副群レンズの目標位置のみが補正されるため、主群レンズと副群レンズの同期位置に大きなずれが発生する。その結果、球面収差や歪曲収差などの収差が発生し、被写体距離の算出精度に誤差が生じて合焦精度が劣化してしまう。また、ユーザが収差量を設定することが可能な収差可変機構が設けられている場合、2つのレンズの同期位置のずれ(位置ずれ)の許容量は、ユーザにより設定された収差量に応じて異なる。
【0006】
そこで本発明は、ユーザにより設定された収差量に応じて複数のフォーカスレンズ群の駆動を適切に制御することが可能な制御装置、レンズ装置、撮像装置、制御方法、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての制御装置は、光軸方向に移動可能な複数のフォーカスレンズ群の駆動を制御する制御装置であって、収差可変手段により設定された収差量を取得する取得手段と、前記複数のフォーカスレンズ群のそれぞれが上限速度を超えないように前記複数のフォーカスレンズ群の駆動を制御する制御手段とを有し、前記上限速度は前記収差量に応じて異なる。
【0008】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ユーザにより設定された収差量に応じて複数のフォーカスレンズ群の駆動を適切に制御することが可能な制御装置、レンズ装置、撮像装置、制御方法、およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1における撮像装置のブロック図である。
【
図2】実施例1におけるレンズ制御部のブロック図である。
【
図3】実施例1における収差可変値と被写体距離と複数のフォーカスレンズ群の合焦位置との関係を示す図である。
【
図4】実施例1における同期制御時の時系列速度データを示す図である。
【
図5】実施例1における収差可変値および被写体距離と合成フォーカス上限速度との関係を示すテーブルデータである。
【
図6】実施例1における同期制御時の時系列速度データの比較を示す図である。
【
図7】実施例2における合成フォーカス上限速度の算出方法を示す図である。
【
図8】実施例2における収差可変値および被写体距離と合成フォーカス上限速度との関係を示すテーブルデータである。
【
図9】実施例2における同期制御時の時系列速度データの比較を示す図である。
【
図10】実施例3における合成フォーカス上限速度の切替え方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【実施例1】
【0012】
まず、本発明の実施例1における撮像装置について説明する。
図1は、本実施例における撮像装置10のブロック図である。撮像装置10は、カメラ本体(撮像装置本体)200と、カメラ本体200に着脱可能なレンズ装置(交換レンズ)100とを備えて構成されるレンズ交換式カメラシステムである。ただし本発明は、これに限定されるものではなく、カメラ本体とレンズ装置とが一体的に構成された撮像装置にも適用可能である。本実施例の撮像装置10は、光軸方向に移動可能な複数のフォーカスレンズ群の駆動を制御する制御装置を有する。
【0013】
カメラ本体200とレンズ装置100は、不図示のマウントを介して機械的および電気的に接続されている。カメラ本体200は、マウントに設けられた電源端子部を介してレンズ装置100に電源を供給し、またマウントに設けられた通信端子部を介してレンズ装置100と通信を行う。
【0014】
レンズ装置100は、撮像光学系101を有する。撮像光学系101は、不図示の被写体からの光を結像させて、カメラ本体200内の撮像素子201上に光学像(被写体像)を結像する。レンズ装置100は、後述するレンズ制御部(制御手段)106を含む。撮像光学系101は、被写体側から順に、フィールドレンズ102、絞りユニット103、第1フォーカスレンズ群104、および第2フォーカスレンズ群105を有する。絞りユニット103は、絞り駆動部107のアクチュエータにより不図示の絞り羽根を開閉駆動して開口径を変化させることで、光量調節を行う。
【0015】
第1フォーカスレンズ群104および第2フォーカスレンズ群105は、光軸方向に移動可能な複数のフォーカスレンズ群を構成する。第1フォーカスレンズ群104は、主として被写体に対する焦点調節を行うために撮像光学系101の光軸OAに沿った方向(光軸方向)に移動可能であり、第1フォーカス駆動部(駆動手段)108のアクチュエータによって駆動される。第2フォーカスレンズ群105は、第1フォーカスレンズ群104の移動により生じる収差を低減するための収差補正を行うために光軸方向に移動可能であり、第2フォーカス駆動部(駆動手段)110のアクチュエータによって駆動される。第1フォーカスレンズ群104と第2フォーカスレンズ群105は、フォーカシングに際して互いの間隔が変化する。第1フォーカスレンズ群104と第2フォーカスレンズ群105のそれぞれの位置は、第1フォーカス位置検出部109と第2フォーカス位置検出部111により検出される。なお本実施例では、第2フォーカスレンズ群105が収差補正を行うが、第1フォーカスレンズ群104が収差補正を行ってもよい。また本実施例において、第1フォーカスレンズ群104および第2フォーカスレンズ群はそれぞれ、複数または一枚のレンズからなる。
【0016】
収差操作部(収差可変手段)113は、ユーザの操作に応じて、第1フォーカスレンズ群104および第2フォーカスレンズ群105を光軸方向に移動させて収差量(収差値)を設定可能(変更可能)である。収差操作部113は、ズーム環などの手動で操作可能な機構や、アクチュエータにより電動で操作可能な機構のいずれでもよい。収差可変値検出部114は、収差操作部(収差可変手段)113により設定された収差量を取得する取得手段であり、収差操作部113の操作量を検出してレンズ制御部106に収差可変値を送信する。
【0017】
レンズ制御部106は、CPUや内部メモリなどを有するコンピュータである。レンズ制御部106は、絞り駆動部107、第1フォーカス駆動部108、および第2フォーカス駆動部110を制御する。後述のように、レンズ制御部106は、複数のフォーカスレンズ群のそれぞれが上限速度を超えないように複数のフォーカスレンズ群の駆動を制御する。すなわちレンズ制御部106は、第1フォーカスレンズ群104および第2フォーカスレンズ群105のそれぞれの速度が上限速度を超えないように、第1フォーカスレンズ群104および第2フォーカスレンズ群105の駆動を制御する。
【0018】
メモリ112は、ROMやRAMなどにより構成された記憶部であり、各種データを記憶する。メモリ112に記憶されるデータには、収差可変値(収差量)および被写体距離と、合焦状態が得られる第1フォーカスレンズ群104と第2フォーカスレンズ群105のそれぞれの位置との関係を示すデータが含まれている。またメモリ112には、収差可変値および被写体距離と、第1フォーカスレンズ群104と第2フォーカスレンズ群105のそれぞれの単位移動量に対する像面の移動量の比率を示すフォーカス敏感度との関係を示すデータが含まれている。またメモリ112には、収差可変値および被写体距離と、後述の合成敏感度との関係を示すデータが含まれている。またメモリ112には、収差可変値および被写体距離と、後述の合成フォーカス上限速度との関係を示すデータが含まれている。なお本実施例では、収差可変レンズである場合について説明するが、焦点距離が一定である単焦点レンズや焦点距離を変更可能な変倍レンズであってもよい。
【0019】
カメラ本体200は、撮像素子201、信号処理部202、記録処理部203、デフォーカス検出部204、カメラ制御部205、メモリ206、操作部207、および表示部208を有する。撮像素子201は、撮像光学系101により形成された被写体像(光学像)を光電変換して電気信号(アナログ撮像信号)を生成し、信号処理部202に出力する。撮像素子201は、画像データを生成するための撮像用画素に加えて、撮像光学系101の焦点状態を検出するための焦点検出用画素を有する。信号処理部202は、撮像素子201からのアナログ撮像信号をデジタル撮像信号に変換し、デジタル撮像信号に対してノイズ除去や色補正等の各種画像処理を行って画像データを生成する。信号処理部202は、画像データを記録処理部203に出力して記録媒体に記録させ、また、画像データを表示部208に出力して表示させる。
【0020】
デフォーカス検出部204は、焦点検出用画素からの信号を用いて撮像光学系101の焦点状態(デフォーカス量)を検出する。具体的には、デフォーカス検出部204は、焦点検出用画素からデフォーカス量に応じた位相差を有する対の像信号を取得し、対の像信号に対して相関演算を行うことで位相差を算出し、位相差からデフォーカス量を算出する。デフォーカス検出部204は、検出したデフォーカス量をカメラ制御部205に出力する。
【0021】
カメラ制御部205は、CPUや内部メモリなどを有するコンピュータであり、記録処理部203、デフォーカス検出部204、およびメモリ206と電気的に接続されている。カメラ制御部205は、メモリ206に記録されたコンピュータプログラムを読み出して実行し、また、オートフォーカス(AF)制御に必要な情報をレンズ制御部106との間で通信する。またカメラ制御部205は、不図示の撮像スイッチや各種設定スイッチを含む操作部207からの入力に応じて、カメラ本体200およびレンズ装置100を制御する。例えば、カメラ制御部205は、撮像スイッチの半押し操作に応じてデフォーカス検出部204にデフォーカス量を検出させる。そしてカメラ制御部205は、デフォーカス量に応じて第1フォーカスレンズ群104と第2フォーカスレンズ群105をレンズ制御部106から取得したそれらの現在位置から合焦状態が得られる位置(合焦位置)へ移動させるためのフォーカス駆動量を算出する。そしてカメラ制御部205は、フォーカス駆動量を含むフォーカス駆動指令をレンズ制御部106に送信する。
【0022】
ここで、カメラ本体200から、レンズ装置100に対して、像面速度Vでフォーカスレンズ群を移動させる命令が送信されたときの、レンズ制御部106の動作について、順に説明する。カメラ本体200から駆動命令を受けると、レンズ制御部106は、まず第1フォーカスレンズ群104および第2フォーカスレンズ群105の駆動量を算出する。
【0023】
図3(a)は、収差可変値と被写体距離と第1フォーカスレンズ群104の合焦位置との関係を示すグラフである。
図3(b)は、収差可変値と被写体距離と第2フォーカスレンズ群105の合焦位置との関係を示すグラフである。
図3(a)において、横軸は収差可変値、縦軸は第1フォーカスレンズ群104の合焦位置(第1フォーカス位置)をそれぞれ示す。
図3(b)において、横軸は収差可変値、縦軸は第2フォーカスレンズ群105の合焦位置(第2フォーカス位置)をそれぞれ示す。以下、
図3(a)、(b)に示されるデータを位置特性データと定義する。なお、収差可変値の符号は、収差操作部113により被写体側に収差を生じさせた場合を正符号(+側)、撮像素子側に収差を生じさせた場合を負符号とする。例えば、現在は、至近位置(MOD)で収差可変値fの状態において、無限位置(INF)まで駆動させるような命令を受けた場合を考える。第1フォーカスレンズ群104は、位置a
0から位置a
1まで移動させる必要がある。このため、第1フォーカスレンズ群104の駆動量は、a
1-a
0として算出することができる。同様に、第2フォーカスレンズ群105の駆動量は、b
1-b
0として算出することができる。
【0024】
図3の位置特性データは、代表として、被写体距離がMOD、1.0m、3.0m、INFの4種のデータを図示している。メモリ112には、限られたデータ量の範囲内で位置特性データを保存する必要がある。レンズ制御部106は、2.0mの位置まで移動するような命令が受けた場合、1.0mと3.0mの位置特性データのデータから補間演算を行い、2.0mにおけるフォーカスレンズ群の合焦位置を求める。これによりレンズ制御部106は、第1フォーカスレンズ群104および第2フォーカスレンズ群105のそれぞれの駆動量を算出することができる。収差可変値においては、連続的なデータのようにグラフ化されているが、メモリ112に保存できるデータ量には限りがあることから、収差可変値に関しても有限個のデータとして保存されている。収差可変値に関しても、被写体距離とレンズ位置との関係と同様に、隣接したデータから補間演算により対応する収差可変値のレンズ位置を求めることができる。
【0025】
次に、
図2を参照して、第1フォーカスレンズ群104および第2フォーカスレンズ群105の駆動の制御方法について説明する。
図2は、レンズ制御部106のブロック図であり、レンズ制御部106のうち第1フォーカスレンズ群104および第2フォーカスレンズ群105の駆動を制御する制御部を示す。
【0026】
レンズ制御部106は、第1フォーカス位置プロファイル生成部1061、第1フォーカス制御部1064、第2フォーカス位置プロファイル生成部1065、および第2フォーカス制御部1068を有する。第1フォーカス位置プロファイル生成部1061は、第1フォーカス目標位置生成部1062および第1フォーカス目標速度生成部1063を有する。第2フォーカス位置プロファイル生成部1065は、第2フォーカス目標位置生成部1066、第2フォーカス目標速度生成部1067を有する。
【0027】
第1フォーカスレンズ群104および第2フォーカスレンズ群105の駆動量が定まると、それぞれの駆動量が、第1フォーカス目標位置生成部1062および第2フォーカス目標位置生成部1066に対して設定される。また、カメラ本体200から指定された像面速度Vは、第1フォーカス目標速度生成部1063に対して設定される。
【0028】
第1フォーカス目標速度生成部1063は、カメラ本体200から指定された像面速度Vで駆動するため、以下の式(1)に従って、像面速度Vを被写体距離ごとの合成敏感度で割り、第1フォーカス目標速度Vaを所定の周期で算出する。
【0029】
V
a=V/合成敏感度 … (1)
被写体距離は、第1フォーカス目標位置生成部1062から受信した第1フォーカスレンズ群104の目標位置と、収差可変値検出部114から取得した収差可変値と、
図3(a)の位置特性データとに基づいて、所定の周期で算出される。なお、合成敏感度は、以下の式(2)のように定義される。
【0030】
合成敏感度=第1フォーカス敏感度±第2フォーカス敏感度×第2フォーカス駆動量/第1フォーカス駆動量 … (2)
第1フォーカスレンズ群104の移動に伴う像面の移動方向と、第2フォーカスレンズ群105の移動に伴う像面の移動方向とが同一方向の場合は正符号、逆方向の場合は負符号となる。第1フォーカス敏感度および第2フォーカス敏感度は、第1フォーカスレンズ群104と第2フォーカスレンズ群105のそれぞれの単位移動量に対する像面の移動量の比率である。また本実施例では、所定の被写体距離範囲と、収差可変値範囲ごとに、式(2)で合成敏感度を算出し、テーブルデータとしてメモリ112に保存している。また、第1フォーカス駆動量および第2フォーカス駆動量に関しては、
図3(a)の位置特性データに基づいて、所定の被写体距離範囲と、収差可変値範囲ごとに算出した駆動量を用いている。
【0031】
また。第1フォーカス目標速度生成部1063は、メモリ112に記憶された合成フォーカス上限速度VLに基づいて、算出した第1フォーカス目標速度Vaに対して制限を掛ける。なお、合成フォーカス上限速度VLの算出方法については後述する。また、第1フォーカス目標速度Vaが第1フォーカス上限速度VaLを超えている場合、第1フォーカス上限速度VaLに制限する。第1フォーカス上限速度VaLは、モータ性能で駆動可能となる限界速度、または、動画撮影モードなどの撮影モードによって制限される速度である。
【0032】
図4(a)は、同期制御時の時系列速度データを示す図であり、横軸は時間、縦軸は第1フォーカス目標位置をそれぞれ示す。第1フォーカス目標位置生成部1062は、所定の周期で、第1フォーカス目標速度生成部1063で生成される第1フォーカス目標速度V
aに対して、予め定められた加速度または減速度で加減速を行い、位置a
1で止まるような位置プロファイルを生成する。
【0033】
第2フォーカス目標速度生成部1067は、第1フォーカスレンズ群104の目標位置に対して、第2フォーカスレンズ群105が同期位置に駆動するような目標速度を算出する。具体的には、まず、第1フォーカス目標位置生成部1062から受信した第1フォーカスレンズ群104の目標位置と、
図3(a)の位置特性データとに基づいて、被写体距離を算出する。得られた被写体距離と
図3(b)の位置特性データの関係より、第2フォーカスレンズ群105の同期位置を求めることができる。また、同期位置と第2フォーカス目標位置生成部1066で生成された第2目標位置との差分を位置制御演算周期で割ることで、第2フォーカス目標速度V
bを算出する。算出された第2フォーカス目標速度V
bによって、第1フォーカスレンズ群104に対する第2フォーカスレンズ群105の同期位置に、第2フォーカスレンズ群105を追従させるように制御を行う。このとき、第2フォーカス目標速度V
bが第2フォーカス上限速度V
bLを超えている場合、第2フォーカス上限速度V
bLに制限する。第2フォーカス上限速度V
bLは、モータ性能で駆動可能となる限界速度、または、動画撮影時など撮影モードによって制限される速度である。
【0034】
図4(b)は、同期制御時の時系列速度データを示す図であり、横軸は時間、縦軸は第2フォーカス目標位置をそれぞれ示す。第2フォーカス目標位置生成部1066は、所定の周期で、第2フォーカス目標速度生成部1067で生成された第2フォーカス目標速度V
bに対して予め定められた加速度または減速度で加減速を行い、位置b
1で止まるような位置プロファイルを生成する。
【0035】
第1フォーカス位置プロファイル生成部1061で生成された位置プロファイルは、位置制御演算周期ごとに第1フォーカス制御部1064に送信される。第1フォーカス制御部1064は、第1フォーカス位置偏差を算出する。第1フォーカス位置偏差とは、第1フォーカス目標位置生成部1062から取得した第1フォーカス目標位置と第1フォーカス位置検出部109から取得した第1フォーカスレンズ群104の実際の位置(第1フォーカス実位置)との差分(位置差)である。また第1フォーカス制御部1064は、算出した第1フォーカス位置偏差に対して例えばPID制御器などを用いて制御演算を行うことで、第1フォーカスレンズ群104を目標位置に追従させるための操作量を第1フォーカス駆動部108に対し出力する。第1フォーカスレンズ群104は、前述のような演算が制御周期ごとに繰り返されることにより、第1フォーカス目標位置生成部1062の目標位置に従い、位置a0~a1へ移動する。
【0036】
複数のフォーカスレンズ群が存在する場合、互いの位置関係がずれると撮像素子201に入射する光学像に収差が発生するため、互いの位置関係を保ちつつ駆動することが必要である。本実施例では、第1フォーカス目標速度生成部1063において、合成フォーカス上限速度による制限をかけている。合成フォーカス上限速度は、第1フォーカス目標速度および第2フォーカス目標速度がそれぞれ第1フォーカス上限速度および第2フォーカス上限速度を超過しないように設定されているため、同期を保ちつつ駆動することが可能となる。
【0037】
次に、
図5を参照して、第1フォーカス目標速度生成部1063による合成フォーカス上限速度V
Lの算出方法について説明する。
図5は、メモリ112に記録されている収差可変値および被写体距離と、合成フォーカス上限速度V
Lとの関係を示すテーブルデータである。
図5において、横軸は所定の範囲に区切られた被写体距離、縦軸は所定の範囲に区切られた収差可変値をそれぞれ示す。テーブルデータは、各収差可変値範囲i(i=1~N)と、各被写体距離範囲j(j=1~N)における合成フォーカス上限速度V
Lijを示している。合成フォーカス上限速度V
Lijは、第1フォーカス上限速度V
aLと第2フォーカス上限速度V
bLと第1フォーカス駆動量x
aijと第2フォーカス駆動量x
bijとを用いて、以下の式(3)、(4)により導出される。
【0038】
(i)VaL<VbLの場合(第1フォーカス上限速度<第2フォーカス上限速度の場合)
【0039】
【0040】
(ii)VaL≧VbLの場合(第1フォーカス上限速度≧第2フォーカス上限速度の場合)
【0041】
【0042】
なお第1フォーカス駆動量x
aijは、
図3の収差可変値-フォーカス位置データより算出される、所定の範囲で区切られた収差可変値範囲iと被写体距離範囲jにおける第1フォーカス位置の変位量を示している。同様に、第2フォーカス駆動量x
bijは、
図3の収差可変値-フォーカス位置データより算出される、所定の範囲で区切られた収差可変値範囲iと被写体距離範囲jにおける第2フォーカスの変位量を示している。
【0043】
まず、条件(i)において、駆動量比xbij/xaijが上限速度比VbL/VaLよりも大きい場合、第1のフォーカス目標速度Vaijが第1フォーカス上限速度VaLとなると、第2フォーカス目標速度Vbijが第2フォーカス上限速度VbLを超過する。したがって、第2フォーカス上限速度VbLに逆駆動量比xaij/xbijを乗じた結果を合成フォーカス上限速度VLijとすると、第1フォーカス目標速度Vaijと、第2フォーカス目標速度Vbijが共に、上限速度を超過しない速度で駆動可能となる。次に、駆動量比xbij/xaijが、上限速度比VbL/VaL以下の場合、第1フォーカス目標速度Vaijが第1フォーカス上限速度VaLで駆動したとしても、第2フォーカス目標速度Vbijが第2フォーカス上限速度VbLを超過することはない。したがって、第1フォーカス上限速度VaLが合成フォーカス上限速度VLijとなる。
【0044】
次に、
図6(a)、(b)を参照して、合成フォーカス上限速度V
Lijに基づいて第1フォーカス目標速度V
aおよび第2フォーカス目標速度V
bを生成した場合について説明する。
図6(a)、(b)は、カメラ本体200からある像面速度で駆動命令が発行されたときの、第1フォーカス目標速度V
aおよび第2フォーカス目標速度V
bのそれぞれの時系列データを示している。
図6(a)、(b)において、横軸は時間、縦軸は第1フォーカス目標速度V
aおよび第2フォーカス目標速度V
bをそれぞれ示している。また
図6(a)、(b)において、実線は、合成フォーカス上限速度V
Lで制限をした場合の第1フォーカス目標速度V
aおよび第2フォーカス目標速度V
bを示す。一方、点線は、合成フォーカス上限速度V
Lで制限されていない場合の第1フォーカス目標速度V
aおよび第2フォーカス目標速度V
bを示す。
【0045】
図6(b)中の破線は、合成フォーカス上限速度V
Lで制限されていないが、第2フォーカス上限速度V
bLで制限されている場合の第2フォーカス目標速度V
bを示している。説明を簡易化するため、第1フォーカス上限速度V
aLと第2フォーカス上限速度V
bLとを同じにしている。
図6(b)より、合成フォーカス上限速度V
Lで制限していない場合、第1フォーカスレンズ群104と同期するための第2フォーカスレンズ群105の目標速度が第2フォーカス上限速度V
bLを超過していることが分かる。この速度で第2フォーカスレンズ群105を駆動させると、騒音などの影響が生じる可能性がある。また、合成フォーカス上限速度V
Lijで制限していない場合で、第2フォーカス上限速度V
bLで制限を掛けた場合、第1フォーカスレンズ群104に対する第2フォーカスレンズ群105の同期位置が大きくずれ、収差が発生し、合焦精度の劣化が生じる。
【0046】
本実施例では、前述のように、第1フォーカス上限速度VaLと、第2フォーカス上限速度VbLと、第1フォーカス駆動量xaと第2フォーカス駆動量xbとの比率とを考慮して、合成フォーカス上限速度VLijを決定している。このため、合成フォーカス上限速度VLijで制限を掛けた場合、第1フォーカス目標速度Vaが下がるとともに、相対的に第2フォーカス目標速度Vbが下がり、第2フォーカス上限速度VbL以下に収まる。したがって、第1フォーカスレンズ群104と第2フォーカスレンズ群105の同期位置が大きくずれることなく、移動させることができる。
【実施例2】
【0047】
次に、本発明の実施例2について説明する。実施例1では、第1フォーカスレンズ群104と第2フォーカスレンズ群105との位置ずれが大きく生じないような合成フォーカス上限速度の算出方法を説明した。しかしながら、位置ずれが大きく生じないように第1フォーカスレンズ群104および第2フォーカスレンズ群105の目標速度を制限すると、駆動時間が伸びることが想定される。そこで本実施例では、合成フォーカス上限速度の算出方法に、位置ずれの許容量を導入することで、位置ずれの許容量内で、より短い駆動時間で第1フォーカスレンズ群104および第2フォーカスレンズ群105を駆動させる方法を説明する。
【0048】
図7(a)、(b)は、合成フォーカス上限速度の算出方法を示す図であり、第1フォーカス目標速度V
aおよび第2フォーカス目標速度V
bの時系列データをそれぞれ示している。
図7(a)の第1フォーカス目標速度V
a1~V
a4は、前述の式(2)により第1フォーカス目標速度生成部1063で生成された第1フォーカス目標速度である。
図7(b)の第2フォーカス目標速度V
b1~V
b4は、第1フォーカスレンズ群104の位置に対して第2フォーカスレンズ群105が同期位置を保てるように、第2フォーカス目標速度生成部1067で算出された速度(理想同期速度)である。
図7(b)より、第2フォーカス目標速度V
bは第2フォーカス上限速度V
bLで制限されるため、時間範囲t
1~t
4で同期位置のずれが生じる。同期位置のずれ量(位置ずれ量δT)は、理想同期速度V
b1~V
b4と、第2フォーカス上限速度V
bLとの差分を、時間範囲t
1~t
4で時間積分した値として概算することができる(
図7(b)中の斜線部)。
【0049】
したがって、位置ずれ量δTは、第1フォーカス目標速度Va、第2フォーカス上限速度VbL、第1フォーカス駆動量xam、第2フォーカス駆動量xbm、および合成敏感度Smを用いて、以下の式(5)により導出される。なお、式(5)において、mは区切られた被写体距離および収差可変値の所定範囲を示す添え字である。
【0050】
【0051】
このとき、第1フォーカス目標速度Vamは、像面速度Vと合成敏感度Smとを用いて、以下の式(6)で算出される。
【0052】
【0053】
したがって、像面速度Vに応じて位置ずれ量δTが一意に決まるため、位置ずれ量δTが位置ずれ許容量Tとなる像面速度Vを合成フォーカス上限速度とすればよい。また合成フォーカス上限速度は、式(5)、(6)に基づいて事前に算出可能である。このため、
図8に示されるように、収差可変値および被写体距離ごとに、テーブルデータとして保存すればよい。
図8は、収差可変値および被写体距離と合成フォーカス上限速度との関係を示すテーブルデータである。
【0054】
次に、
図9(a)、(b)を参照して、本実施例で算出した合成フォーカス上限速度に基づいて第1フォーカス目標速度および第2目標速度を生成した場合について説明する。
図9(a)、(b)は、カメラ本体200からある像面速度で駆動命令が発行されたときの、第1フォーカス目標速度および第2フォーカス目標速度のそれぞれの時系列データである。
図9(a)、(b)において、横軸は時間、縦軸は第1フォーカス目標速度および第2フォーカス目標速度をそれぞれ示す。また
図9(a)、(b)において、点線は、実施例1で算出した合成フォーカス上限速度で制限をした場合の第1フォーカス目標速度および第2フォーカス目標速度をそれぞれ示す。一方、実線は、本実施例で算出した合成フォーカス上限速度で制限をした場合の第1フォーカス目標速度および第2フォーカス目標速度をそれぞれ示す。
図9(b)の破線は、本実施例で算出した合成フォーカス上限速度で制限されており、かつ第2フォーカス上限速度V
bLで制限されている場合の第2フォーカス目標速度を示す。説明を簡易化するため、第1フォーカス上限速度V
aLと第2フォーカス上限速度V
bLを同じにしている。
【0055】
図9(b)より、本実施例の方法の場合、第2フォーカス目標速度V
aは第2フォーカス上限速度V
bLで律速され、第1フォーカスレンズ群104に対する第2フォーカスレンズ群105の同期位置にずれが生じる。しかしながら、同期ずれが許容量となるように合成フォーカス上限速度V
Lを算出しているため、問題とはならない。また本実施例の方法では、同期ずれを許容するため、実施例1の方法と比較して合成フォーカス上限速度V
Lが大きくなり、第1フォーカス目標速度V
aおよび第2フォーカス目標速度V
bが増加する。したがって、本実施例では、実施例1の場合よりも駆動時間が短くなる。その結果、本実施例によれば、第1フォーカスレンズ群104と第2フォーカスレンズ群105との同期位置が許容量に収まり、かつ実施例1よりも短い駆動時間で各フォーカスレンズを移動させることができる。
【実施例3】
【0056】
次に、本発明の実施例3について説明する。実施例1では、収差が発生しないように複数のフォーカスレンズ群を駆動する代わりに、駆動時間が長くなる。一方、実施例2では、駆動時間が短くなる代わりに、許容範囲内の収差が発生する。したがって、実施例1と実施例2とはトレードオフの関係にあり、状況に応じて使い分ける方法が考えられる。例えば、動画撮影時など、像面変化がユーザによって視認される場合、実施例1のように、収差が発生しないように駆動させることが望ましい。一方、静止画撮影時など、駆動時間短縮が必要とされる場合、実施例2のように、駆動時間を短くするように駆動させることが望ましい。
【0057】
また、収差操作部113で収差無し状態に設定されている場合、実施例1のように、収差が発生しないように駆動させることが望ましい。一方、収差操作部113で収差を生じさせる状態に設定されている場合は、実施例2のように、駆動時間を短くするように駆動させることが望ましい。
【0058】
次に、
図10を参照して、第1フォーカス目標速度生成部1063で参照される合成フォーカス上限速度テーブルを切替える方法について説明する。
図10は、合成フォーカス上限速度の切替え方法を示すフローチャートである。
図10の各ステップは、レンズ制御部106によりコンピュータプログラムに従って実行される。
【0059】
まずステップS301において、レンズ制御部106は、カメラ本体200から現在の撮影モードを取得し、撮影モードが動画撮影モードであるか否かを判定する。撮影モードが動画撮影モードである場合、ステップS302に進む。一方、撮影モードが静止画撮影モードである場合、ステップS303に進む。
【0060】
ステップS302において、レンズ制御部106は、実施例1の方法で算出された合成フォーカス上限速度テーブル(
図5)から、合成フォーカス上限速度を取得する。一方、ステップS303において、レンズ制御部106は、実施例2の方法で算出された合成フォーカス上限速度テーブル(
図8)から、合成フォーカス上限速度を取得する。続いてステップS304において、レンズ制御部106は、ステップS302またはステップS303にて取得した合成フォーカス上限速度で、第1フォーカス目標速度を制限する。
【0061】
本実施例によれば、撮影モードに応じて適切な第1フォーカス目標速度を設定することができる。
【0062】
(その他の実施例)
本発明は、上述の実施例の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0063】
このように各実施例において、レンズ制御部106は、複数のフォーカスレンズ群のそれぞれが収差操作部113により設定された収差量に応じて異なる上限速度を超えないように、複数のフォーカスレンズ群の駆動を制御する。このため各実施例によれば、ユーザにより設定された収差量に応じて複数のフォーカスレンズ群の駆動を適切に制御することが可能な制御装置、レンズ装置、撮像装置、制御方法、およびプログラムを提供することができる。
【0064】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
106 レンズ制御部(制御手段)
113 収差操作部(収差可変手段)
114 収差可変値検出部(取得手段)