(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 5/08 20060101AFI20240806BHJP
B60C 5/00 20060101ALI20240806BHJP
B60C 19/12 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B60C5/08 A
B60C5/00 F
B60C19/12 Z
(21)【出願番号】P 2020078524
(22)【出願日】2020-04-27
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】湯川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松波 翔
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-509528(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059482(WO,A1)
【文献】再公表特許第2018/163825(JP,A1)
【文献】特表2019-515824(JP,A)
【文献】再公表特許第2016/060239(JP,A1)
【文献】特開2018-075897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部の内周面にパンク防止用のシーラント層が配され、
かつ前記シーラント層の内周面に制音体が配された空気入りタイヤであって、
前記制音体は、独立気泡を有するスポンジ材からなり、かつ空気透過量が20mL/cm
2/s以下であ
り、
硬度が10~300N/314cm
2
であり、
かつ引張強さが20kPa以上である、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記制音体は、
厚さが20mm以上である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンクシール性能を向上させた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、パンクシール性能とロードノイズ低減性能とを兼ね具えた空気入りタイヤが提案されている。この提案の空気入りタイヤは、インナーライナーのタイヤ半径方向内側に、シーラント材からなるパンク防止用のシーラント層を有し、かつ前記シーラント層のタイヤ半径方向内側に、スポンジ材などからなる吸音層を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記提案の空気入りタイヤにおいては、例えば太い釘などを踏んだときなどパンク穴が大きい場合、シーラント材によってパンク穴を充分に塞ぐことが難しく、パンクシール性能が充分に発揮されないという問題がある。
【0005】
本発明は、パンク穴が大きい場合にも、パンクシール性能を充分に発揮しうる空気入りタイヤを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部の内周面にパンク防止用のシーラント層が配され、
かつ前記シーラント層の内周面に制音体が配された空気入りタイヤであって、
前記制音体は、独立気泡を有するスポンジ材からなり、かつ空気透過量が20mL/cm2/s以下である。
【0007】
本発明に係る空気入りタイヤにおいて、前記制音体は、硬度が300N/314cm2以下であるのが好ましい。
【0008】
本発明に係る空気入りタイヤにおいて、前記制音体は、引張強さが20kPa以上であるのが好ましい。
【0009】
本発明に係る空気入りタイヤにおいて、前記制音体は、厚さが20mm以上であるのが好ましい。
【0010】
本発明において、スポンジ材の「空気透過量」は、下記の測定方法に基づいて測定される。
図5(a)、(b)に示されるように、幅Wが60mm、奥行Lが60mm、厚さTが30mmのスポンジ材のサンプルAを、直径1mmの穴H(開口面積は0.00785cm
2に相当)の開いた厚さ10mmの平板Bに密着させる。このときサンプルAの幅W×奥行Lの面の中心が、穴Hの位置となるように密着させる。そして、サンプルA(スポンジ材)の側の圧力P2を上げて、平板Bの側の圧力P1との圧力差(P2-P1)を200 kPaに設定し、そのとき穴Hから漏れる空気の1秒(s)当たりの流量(mL)を測定する。この流量を開口面積1.0cm
2に換算したものが空気透過量(mL/cm
2/s)となる。
【0011】
本発明において、スポンジ材の硬度は、JIS-K6400-2の「軟質発泡材料-物理特性-第2部:硬さ及び圧縮応力-歪み特性の求め方」に規定される第6項の硬さ試験のD法に準拠して測定されるものである。具体的には、スポンジ材を平らに置き、直径200mmの円形状の加圧板を乗せ、スポンジ材の無負荷状態での厚さ(元の厚さ)の75%の距離まで押し込んだ後、元に戻し、再び元の厚さの25%の距離まで押し込み、20秒間静止させた時の荷重値をN(ニュートン)で表わしている。
【0012】
本発明において、スポンジ材の引っ張り強さは、JIS-K6400-5の「軟質発泡材料-物理特性-第5部:引張強さ、伸び及び引裂強さの求め方」に規定される第5項の「引張強さ及び伸び」に準拠し、1号形のダンベル状試験片に対して測定された値とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は叙上の如く、制音体が、独立気泡を有するスポンジ材からなり、空気透過量が20mL/cm2/s以下である。空気透過量は、上述した測定方法に基づいて測定される。
【0014】
本発明では、パンク穴が大きく、シーラント材によるパンクシールが充分に行われない場合にも、制音体は、その空気透過量が20mL/cm2/s以下と気密性に優れるため、制音体自体が、パンク穴からの空気の流出を抑える。
【0015】
しかも制音体は、気密性が高いため、パンク穴周辺のシーラント材を押さえる動きをする。そのため、パンク穴内にシーラント材が押し込まれやすくなり、シーラント材によってパンク穴を塞ぐ効果をも高める。そしてこれらの相互作用によりパンクシール性能を向上させパンクシールの成功率を高める。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの一実施例を示す断面図である。
【
図2】制音体による作用効果を説明する概念図である。
【
図3】シーラント材押し込み効果を誇張して説明する部分断面図である。
【
図4】(a)、(b)は制音体の引張強さが小さい場合の問題点を示す断面図である。
【
図5】(a)、(b)は制音体の空気透過性の測定方法を説明する斜視図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、チューブレスタイヤであって、トレッド部2の内周面2sに配されるパンク防止用のシーラント層11と、このシーラント層11の内周面11sに配される制音体12とを具える。
【0018】
空気入りタイヤ1の内部には、本例では、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6の半径方向外側かつトレッド部2の内部に位置するベルト層7とが配される。
【0019】
カーカス6は、カーカスコードを配列させた1枚以上、本例では1枚のカーカスプライ6Aから形成される。カーカスプライ6Aは、ビードコア5、5間を跨る本体部6aの両端に、ビードコア5の周りで折り返された折返し部6bを具える。本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外方にのびるビード補強用のビードエーペックスゴム8が設けられる。
【0020】
ベルト層7は、ベルトコードを配列させた複数枚、例えば2枚のベルトプライ7A、7Bから形成される。タイヤの高速耐久性を高める目的で、ベルト層7の半径方向外側に、バンドコードを螺旋状に巻回させたバンド層(図示省略)を設けることもできる。
【0021】
カーカス6の内側には、インナーライナゴム層10が配される。このインナーライナゴム層10は、ブチルゴム等の耐空気不透過性のゴムからなり、タイヤ内圧を気密に保持する。
【0022】
トレッド部2の内周面2sにはシーラント層11が配される。シーラント層11をなすシーラント材13として、特許文献1に記載されたものが好適に採用される。具体的には、本例のシーラント材13は、ゴム成分と、液状ポリマーと、架橋剤等とを含有する。
【0023】
ゴム成分として、ブチルゴム及びハロゲン化ブチルゴム等のブチル系ゴムが採用される。ゴム成分として、前記ブチル系ゴムと、ジエン系ゴムとを混用するのも好ましい。
【0024】
液状ポリマーとして、液状ポリブテン、液状ポリイソブテン、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエン、液状ポリα-オレフィン、液状イソブチレン、液状エチレンα-オレフィン共重合体、液状エチレンプロピレン共重合体、液状エチレンブチレン共重合体等が挙げられる。なかでも、粘着性付与等の観点から、液状ポリブテンが好ましい。
【0025】
架橋剤として、周知の化合物を使用できるが、有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物架橋系において、ブチル系ゴムや液状ポリマーを用いることで、粘着性、シール性、流動性、加工性が改善される。
【0026】
シーラント材13には、架橋助剤(加硫促進剤)、無機充填剤、可塑剤等を適宜添加することができる。
【0027】
シーラント層11は、前述の各材料を調整、混合して作製されたシーラント材13を、予め加硫成形されたタイヤのトレッド部2の内周面2sに塗布することにより形成される。好ましくは、特許文献1に記載されたように、例えば二軸混練押出機から連続的に押し出されるシーラント材13を、回転するタイヤのトレッド部2の内周面2sに螺旋状に粘着させる。シーラント材13が塗布されたタイヤを加熱し、シーラント材13を加硫することでシール性に優れたシーラント層11が形成される。
【0028】
シーラント層11のタイヤ軸方向の幅11Wは、特に規制されないが、トレッド接地幅TWの80%~120%であるのが好ましい。なお幅11Wの下限は、トレッド接地幅TWの85%以上、さらには90%以上がより好ましい。また上限は、トレッド接地幅TWの115%以下、さらには110%以下がより好ましい。
【0029】
トレッド接地幅TWとは、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した状態のタイヤに正規荷重を負荷した時に接地する接地面のタイヤ軸方向の最大巾を意味する。前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、或いはETRTOであれば"Measuring Rim"を意味する。前記「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE"を意味するが、乗用車用タイヤの場合には180kPaとする。前記「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
【0030】
本明細書では、特に断りがない限り、タイヤの各部の寸法等は、前記正規内圧を充填した無負荷の状態にて特定される値とする。
【0031】
シーラント層11の厚さ11tは、1.0mm以上、さらには2.0mm以上、さらには3.0mm以上が好ましい。又上限は、10.0mm以下、さらには8.0mm以下、さらには5.0mm以下が好ましい。厚さ11tが1.0mm未満の場合、パンク穴を確実に塞ぐことが難しくなる。逆に10.0mmを超えても、パンク穴を塞ぐ効果はあまり変わらず、むしろタイヤの質量増加という不利を招く。
【0032】
シーラント層11の内周面11sには、スポンジ材からなる制音体12が配される。この制音体12は、シーラント材13の粘着力によって、シーラント層11に粘着されている。
【0033】
制音体12は、タイヤ周方向にのびる。特には、制音体12のタイヤ周方向の両端が互いに突き合わされた円環状をなすのが好ましい。なお制音体12は、タイヤ周方向の両端が離間していても良く、この場合、その離間距離は80mm以下、さらには70mm以下、さらには60mm以下であるのが好ましい。
【0034】
制音体12をなすスポンジ材として、ゴム及び合成樹脂を発泡させた独立気泡を有する発泡体が採用される。例えばゴム発泡体として、クロロプレンゴムスポンジ、エチレンプロピレンゴムスポンジ、ニトリルゴムスポンジなどが挙げられる。又合成樹脂発泡体として、ポリウレタン系スポンジ(例えばエーテル系ポリウレタンスポンジ、エステル系ポリウレタンスポンジ、及びエーテル/エステル系ポリウレタンスポンジ等)、及びポリエチレン系スポンジ(例えばポリエチレンスポンジ等)などが挙げられる。
【0035】
前記スポンジ材としては、制音性能を発揮させるために、密度が60kg/m3以下、さらには55kg/m3以下、さらには50kg/m3以下が好ましい。また密度の下限は、10kg/m3以上、さらには15kg/m3以上、さらには20kg/m3以上が好ましい。
【0036】
また制音体12は、空気透過量が20mL/cm2/s以下である。
【0037】
「空気透過量」については、上述した測定方法に基づいて測定される。この空気透過量20mL/cm2/s以下である値は、例えば200 kPaの空気が充填された乗用車用のタイヤにおいて、1日当たり10~15 kPaの圧力が低下する空気の漏れ量(直径1mmの孔から漏れる量)を想定している。
【0038】
このような制音体12は、空気透過量が低く、気密性に優れる。そのため、
図2(a)、(b)に示されるように、例えばパンク穴Hが大きく、シーラント材13によるパンクシールが充分に行われない場合にも、制音体12自体がパンク穴Hを塞いで空気の流出を抑えうる。この効果を「制音体シール効果」という場合がある。
【0039】
さらに制音体12は、気密性に優れるため、パンク穴Hの周辺のシーラント材13を押さえる動きをする。そのため、パンク穴H内にシーラント材13が押し込まれやすくなり、シーラント材13によってパンク穴Hを塞ぐ効果を高める。この効果を「シーラント材押し込み効果」という場合がある。そして、制音体シール効果とシーラント材押し込み効果との相互作用によりパンクシール性能が向上し、パンクシールの成功率を高めうる。
【0040】
また制音体12は厚さ12tが20mm以上であるのが好ましい。そのため、制音体12は、釘等の異物20による貫通が起こり難く、上記効果をより確実に発揮させることが可能となる。市場調査の結果、市場においてタイヤに刺さる異物の長さは、ほとんどが25mm以下である。従って、タイヤ厚みを考慮すると、制音体12の厚さ12tが20mm以上あれば、異物20による制音体12の貫通を、ほぼ確実に防ぐことが可能である。
【0041】
空気透過量が20mL/cm2/sを越える場合、制音体12が空気を通過させやすくなるため、制音体シール効果が充分に発揮されなくなる。またシーラント材押し込み効果も充分に期待できなくなる。このような観点から、空気透過量の上限は、15mL/cm2/s以下、さらには10mL/cm2/s以下、さらには5mL/cm2/s以下がより好ましい。なお空気透過量の下限は特になく、低ければ低いほど好ましい。
【0042】
制音体12の厚さ12tが20mmを下回ると、釘等の異物20が貫通してその貫通孔から空気が漏れるなど、制音体シール効果が充分に発揮されなくなる。そのため厚さ12tの下限は、25mm以上、さらには30mm以上がより好ましい。しかし、厚さ12tが大きすぎると、質量増となり、遠心力によって制音体12がシーラント層11から外れるという問題を招く。又リムの組外しの際の作業性への悪影響も考えられる。そのために、厚さ12tの上限は50mm以下、さらには45mm以下、さらには40mm以下がより好ましい。
【0043】
なお、走行時は遠心力により制音体12には厚さ12tが減る方向に力がかかる。しかし、空気透過量の低いスポンジ材によって形成される制音体12は、独立気泡内の気体に支えられることで、体積減少が小であり、制音性能を安定して発揮しうる。
【0044】
制音体12のタイヤ軸方向の幅12Wは、シーラント層11の幅11Wより小であっても、同じであっても、また大であっても良い。小の場合(12W<11W)、シーラント層11のみの箇所でも、シーラント層11の本来の性能によって、パンクシール性能が発揮できる。又幅12Wが、幅11Wと同じあるいは大の場合(12W≧11W)にも、シーラント層11の全面に亘って制音体シール効果とシーラント材押し込み効果とが発揮できる。しかし、制音性能、重量、リム組み作業性等のバランスの観点から、幅12Wは、幅11Wの40%以上、さらには45%以上、さらには50%以上が望ましい。また上限は、幅11Wの100%以下、さらには95%以下、さらには90%以下がより好ましい。ただし、幅の狭いタイヤに適用する場合で、上記範囲内であっても制音体12の幅12Wが狭すぎると、制音体12が倒れる恐れがある。そのため、幅12Wは、厚さ12t以上であるのも望ましい。
【0045】
制音体12が、シーラント材押し込み効果をより高く発揮するためには、制音体12の硬度が300N/314cm
2以下であるのが好ましい。これにより、
図3に誇張して示されるように、制音体12が曲がってパンク穴H周辺のシーラント材13を集中的に押さえ、パンク穴H内へのシーラント材13の押し込み、流動を高めうる。これに対して、制音体12の硬度が300N/314cm
2を越えて硬い場合、押し付ける力が広範囲に分散されてしまい、パンク穴周辺のシーラント材13を集中的に押さえることが難しくなる。このような観点から、制音体12の硬度は、100 N/314cm
2以下、さらには80 N/314cm
2以下がより好ましい。しかし、硬度が低くすぎてもシーラント材13の流動が悪くなる。そのために、硬度の下限は、10N/314cm
2以上、さらには20N/314cm
2、さらには30N/314cm
2以上が好ましい。
【0046】
制音体12では、引張強さが20kPa以上であるのも好ましい。引張強さが20kPaを下回ると、
図4(a)に示されるように、異物20が制音体12に刺さったとき、シーラント材13が付着した異物20により、スポンジ材(制音体12)の一部が引きちぎられ易くなる。そして、異物20がタイヤから抜ける際、
図4(b)に示されるように、引きちぎられたスポンジ片15がパンク穴H内に残り、シーラント材13による、パンクシールを阻害する傾向を招く。このような観点から、制音体12の引張強さは、100kPa以上、さらには120kPa以上が好ましい。引張強さの上限は特になく、高ければ高いほど好ましい。
【0047】
なおスポンジ材が引きちぎられるのを防止する観点から、制音体12がシーラント材から剥がれ易いことが好ましい。これにより、異物が刺さって引き抜く際に、スポンジ材が引っ張られてちぎれにくくなるため、パンクシールが阻害されなくなる。
【0048】
そのため、以下の測定方法で規定される制音体12とシーラント材との接着力が、5.0N /cm2以下であるのが好ましい。測定方法は、まず、制音体12から、接着面が30mm×30mmの正方形とされ、厚さが10mmとされた直方体状の試験片を切り出し、その試験片の接着面を平坦なシーラント層11に密着させる。試験片の接着面とは反対の面は治具に強固に接着される。次に、前記治具を用いて、試験片をシーラント層11に対して垂直に引っ張り、試験片がシーラント層11から剥がれたときの力が測定され、この力を試験片の接着面の面積で除すことにより、接着力が求められる。なお、治具の引張速度は300mm/分とされる。前記接着力は、さらには4.5N /cm2以下、さらには4.0N /cm2以下が好ましい。なお接着力の下限は、0.1N /cm2以上、さらには0.5N /cm2以上、さらには1.0N /cm2以上が好ましい。
【0049】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0050】
図1に示す基本構造を有し、かつ表1の仕様の制音体が貼着された空気入りタイヤ(タイヤサイズ:215/55R17)を試作し、各試作タイヤのパンクシール成功率(パンクシール性能)が評価された。
【0051】
制音体として、それぞれエーテル/エステル系ポリウレタンスポンジ(密度31kg/m3)が使用された。制音体以外は、各試作タイヤとも実質的に同仕様である。
【0052】
<パンクシール成功率>
内圧(250 kPa)が充填された試作タイヤのトレッド部におけるタイヤ赤道上の溝底部分に、50本の釘(JIS N150の釘:直径5.2mm、長さ40mm)を周方向に分散させて打ち込んだ。そして、室温25℃の環境下において1時間放置した後、釘を抜き取り、パンク穴に石鹸水を付けてエアー漏れの有無を確認した。エアー漏れの無いパンク穴の数からパンクシール成功率を求め評価した。数値が大きい程、パンクシール性能に優れている。
【0053】
【0054】
表に示されるように、実施例品は、パンクシールの成功率を高めうるのが確認できる。
【0055】
シーラント層は厚さ3.0mmであり、表2に記載の組成のシーラント材が使用された。表2に示される各種薬品は以下の通りである。
・ブチルゴム:IIR065、JSR株式会社製
・ポリブテン:HV-1900、JX日鉱日エネルギー株式会社製、数平均分子量2900
・カーボンブラック:N330、キャボットジャパン株式会社製
・オイル:DOS(セバシン酸ジオクチル)、田岡化学工業株式会社製
・架橋剤:ナイパーNS(BPO40%、DBP48%)、日油株式会社製
・架橋助剤:QO(キノンジオキシム)、大内新興化学工業株式会社製
【0056】
【符号の説明】
【0057】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
2s 内周面
11 シーラント層
11s 内周面
12 制音体