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特許7532875樹脂成形物の離型性の評価方法、離型層の厚さの測定方法、及び樹脂成形材料の製造方法
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  • 特許-樹脂成形物の離型性の評価方法、離型層の厚さの測定方法、及び樹脂成形材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】樹脂成形物の離型性の評価方法、離型層の厚さの測定方法、及び樹脂成形材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/56 20060101AFI20240806BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B29C33/56
C08L101/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020081458
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2021175778
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 智雄
(72)【発明者】
【氏名】金 貴和
(72)【発明者】
【氏名】濱田 光祥
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-107783(JP,A)
【文献】特開2013-039757(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107526(WO,A1)
【文献】特開2008-037072(JP,A)
【文献】特開2016-169382(JP,A)
【文献】特開2020-001328(JP,A)
【文献】特開2004-162048(JP,A)
【文献】国際公開第2016/093178(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/188020(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/56
B29C 33/60
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型剤を含有する樹脂成形物を金属板から剥離することと、
前記剥離後に、前記樹脂成形物から染み出した前記離型剤により前記金属板上に形成される離型層の厚さを測定することと、
前記金属板上で、前記樹脂成形物の剥離及び前記離型層の厚さの測定を繰り返すことと、
を含む、樹脂成形物の離型性の評価方法。
【請求項2】
前記離型層の厚さの測定が、前記剥離後の前記金属板をエリプソメーターに供することにより行われる、請求項1に記載の樹脂成形物の離型性の評価方法。
【請求項3】
前記離型層の厚さの測定が、前記離型層の厚さの平面分布を得ることを含む、請求項1又は請求項2に記載の樹脂成形物の離型性の評価方法。
【請求項4】
前記樹脂成形物の離型性の評価が、前記離型層の厚さが予め設定された範囲内であるか否かを判定することを含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の樹脂成形物の離型性の評価方法。
【請求項5】
前記離型剤が、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、グリセリン脂肪酸エステル、モンタン酸エステル、部分ケン化モンタン酸エステル、及びカルナバワックスからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の樹脂成形物の離型性の評価方法。
【請求項6】
前記金属板が、フェロ板、及びクロムめっきした金属板からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の樹脂成形物の離型性の評価方法。
【請求項7】
離型剤を含有する樹脂成形物が剥離されることにより、前記樹脂成形物から染み出した前記離型剤により形成される離型層を有する金属板を準備することと、
前記金属板をエリプソメーターに供して、前記金属板上の前記離型層の厚さを測定することと、
を含む、離型層の厚さの測定方法。
【請求項8】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の樹脂成形物の離型性の評価方法、又は請求項7に記載の離型層の厚さの測定方法を用いて樹脂成形物の離型性を評価することと、
前記評価に基づいて、前記樹脂成形物の材料である樹脂成形材料の組成を決定することと、
を含む、樹脂成形材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂成形物の離型性の評価方法、離型層の厚さの測定方法、及び樹脂成形材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形材料は、一般的に、トランスファー成形、圧縮成形、射出成形等、金型を用いた成形方法によって連続的に成形され、製品に加工される。したがって、樹脂成形材料には、成形品としての所望の特性に加えて、金型からの良好な離型性が望まれる。
【0003】
樹脂成形品の離型性を向上させる方法として、樹脂成形材料に各種離型剤を配合する方法が知られている。例えば、特許文献1には、離型剤として、酸化ポリエチレン、天然カルナバワックス、並びにヒドロキシステアリン酸アミド及びモンタン酸ビスアミドのうち少なくとも1種を配合し、各成分の配合割合を調整した半導体封止用エポキシ樹脂組成物が提案されている。また、特許文献2には、離型剤として、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、及び高級アルコール脂肪酸エステルの混合物を用いた光半導体素子封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-189490号公報
【文献】特開2016-023250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂成形材料の組成設計においては、一般的に、成形物としたときに所望の物性を満たす樹脂組成を設計後、離型性を付与するための離型システムの検討がなされる。従来、離型性を評価する方法としては、成形物自体の特性を評価したり、離型後の成形物の表面状態を観察したりする方法が主流であった。例えば、熱硬化性樹脂をベースとする樹脂成形材料の場合、硬化物の硬化時間、硬度等を離型性の指標として、離型性に優れる組成を決定する等の手法が採られていた。
【0006】
一方、良好な離型性を有する樹脂組成をより簡便に評価することができれば、迅速な製品開発、量産品のばらつきの評価等に有用となりうる。かかる事情に鑑み、本開示は、簡便な樹脂成形物の離型性の評価方法、当該評価方法に用いられる離型層の厚さの測定方法、及び当該評価方法又は測定方法に基づく樹脂成形材料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
<1> 離型剤を含有する樹脂成形物を金属板から剥離することと、
前記剥離後に前記金属板上に形成される離型層の厚さを測定することと、
前記金属板上で、前記樹脂成形物の剥離及び前記離型層の厚さの測定を繰り返すことと、
を含む、樹脂成形物の離型性の評価方法。
<2> 前記離型層の厚さの測定が、前記剥離後の前記金属板をエリプソメーターに供することにより行われる、<1>に記載の樹脂成形物の離型性の評価方法。
<3> 前記離型層の厚さの測定が、前記離型層の厚さの平面分布を得ることを含む、<1>又は<2>に記載の樹脂成形物の離型性の評価方法。
<4> 前記樹脂成形物の離型性の評価が、前記離型層の厚さが予め設定された範囲内であるか否かを判定することを含む、<1>~<3>のいずれか1項に記載の樹脂成形物の離型性の評価方法。
<5> 前記離型剤が、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、グリセリン脂肪酸エステル、モンタン酸エステル、部分ケン化モンタン酸エステル、及びカルナバワックスからなる群より選択される少なくとも1つを含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の樹脂成形物の離型性の評価方法。
<6> 前記金属板が、フェロ板、及びクロムめっきした金属板からなる群より選択される少なくとも1つである、<1>~<5>のいずれか1項に記載の樹脂成形物の離型性の評価方法。
<7> 離型剤を含有する樹脂成形物が剥離されることにより形成される離型層を有する金属板を準備することと、
前記金属板をエリプソメーターに供して、前記金属板上の前記離型層の厚さを測定することと、
を含む、離型層の厚さの測定方法。
<8> <1>~<6>のいずれか1項に記載の樹脂成形物の離型性の評価方法、又は<7>に記載の離型層の厚さの測定方法を用いて樹脂成形物の離型性を評価することと、
前記評価に基づいて、前記樹脂成形物の材料である樹脂成形材料の組成を決定することと、
を含む、樹脂成形材料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、簡便な樹脂成形物の離型性の評価方法、当該評価方法に用いられる離型層の厚さの測定方法、及び当該評価方法又は測定方法に基づく樹脂成形材料の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】エリプソメーターによる離型層の厚さの平面分布の一例を表す。図の凸凹は離型後の金属板上に形成された離型層の高低差を示す。
図2】実施例の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0011】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含まれていてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
【0012】
≪樹脂成形物の離型性の評価方法≫
本開示の樹脂成形物の離型性の評価方法は、離型剤を含有する樹脂成形物を金属板から剥離することと、前記剥離後に前記金属板上に形成される離型層の厚さを測定することと、前記金属板上で、前記樹脂成形物の剥離及び前記離型層の厚さの測定を繰り返すことと、を含む。本開示の離型性の評価方法によれば、金属板を観察することによって簡便に離型性を評価することが可能となるため、例えば離型性に優れる樹脂成形材料の設計に有用である。
【0013】
本開示の離型性の評価方法においては、樹脂成形物が成形されている金属板を用いる。当該樹脂成形物の成形方法は特に制限されず、圧縮成形、射出成形、プレス成形、注入成形等が挙げられる。
【0014】
樹脂成形物を金属板から剥離する方法は特に制限されない。一実施形態において、金属板上に成形された樹脂成形物に対して、当該金属板と樹脂成形物との界面に平行な方向にせん断応力を付加することによって金属板から剥離させる。せん断応力を付加する方法としては、シェア強度試験機、引張り試験機に治具を組み合わせた試験等が挙げられる。
【0015】
金属板の材質は特に制限されず、製品製造上の離型性を適切に評価する観点から、製品製造の際に用いられる金型を模した材質であることが好ましい。また、金属板は繰り返しの成形及び剥離に際して変形しない程、強度に優れることが好ましい。金属板としては、例えば、鉄、鋼等の鉄鋼材料が挙げられる。これらの鉄鋼材料にクロム等のめっきを施した金属板であってもよい。なかでも、金属板としては、フェロ板、及びクロムめっきした金属板からなる群より選択される少なくとも1つが好ましく、フェロ板がより好ましい。
【0016】
金属板の大きさは特に制限されず、簡便に離型層の厚さを測定しうる大きさであることが好ましい。例えば、金属板が矩形の板状である場合には、金属板の幅及び長さは、それぞれ10mm~200mmの範囲であってもよく、15mm~150mmの範囲であってもよく、20mm~100mmの範囲であってもよい。また、金属板の厚さは、1mm~30mmの範囲であってもよく、2mm~20mmの範囲であってもよく、3mm~10mmの範囲であってもよい。金属板の厚さは、任意の5点における厚さの算術平均値とする。金属板の形状は矩形の板状に限定されず、任意の形状であってよい。
【0017】
離型剤を含む樹脂成形物を金属板から剥離すると、樹脂成形物から染み出した離型剤が一部金属板上に残存して離型層を形成する。本開示の離型性の評価方法では、当該金属板上の離型層の厚さを測定する。離型層とは、樹脂成形物の剥離後に金属板に離型剤が残留することにより形成される層を示す。離型層は、樹脂組成物又はその硬化物を含有してもよい。離型層に樹脂組成物又はその硬化物が含まれる場合には、その量は離型層の厚みの測定に影響しない程度であることが好ましい。
【0018】
離型層の厚さを評価する手法は特に制限されない。離型層の厚さを評価する手法としては、電子顕微鏡を用いた断面観察、触針式段差計、分光反射式膜厚計(光干渉式膜厚計)、エリプソメーター等による評価が挙げられる。なかでもエリプソメーターによる評価(エリプソメトリー)が好ましく、分光エリプソメーターによる評価がより好ましい。
【0019】
電子顕微鏡を用いた断面観察では、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)等の電子顕微鏡を用い、金属板上の離型層の断面観察を行うことによって離型層の厚さを求めることができる。
【0020】
触針式段差計による評価では、先の尖った針で表面をなぞり、離型層が形成されている部分と形成されていない部分との段差を測定することで、膜厚を求めることが可能になる。
【0021】
分光反射式膜厚計(光干渉式膜厚計)による評価では、金属板に対して垂直方向から光を照射して、入射光と反射光の強度比(すなわち反射率)Rを測定し、測定データに見られる干渉の間隔から膜厚を求める。
【0022】
エリプソメトリーによる評価は、測定対象物に照射した光の偏光状態の変化を測定し、光学モデルを作成し、シミュレーションデータを測定データに当てはめてフィッティング計算を行う、非破壊かつ非接触な方式で膜厚と光学定数を測定する分析手法である。エリプソメトリーは、数Åの膜厚でも測定可能であるため、分光反射式膜厚計等と比べて感度は非常に高い。このため、反射強度が弱い、又は表面ラフネスが大きい離型層の厚さでも良好に測定できる傾向にある。また、非破壊であるため、繰り返し離型層を形成する系における離型性の評価方法として特に好ましい。さらに、二次元の測定も可能であり、離型層厚さの分布も測定できるという利点がある。加えて、長時間の測定を要さず、簡便に測定することもできる点で有用である。
【0023】
離型層の厚さの測定にエリプソメーターを用いる場合、金属板上の離型層の表面に光を照射し、入射光と反射光の偏向の変化量(位相差Δ及び振幅比ψ)を計測する。得られた計測データに基づき離型層の光学定数(屈折率(n)及び消衰係数(k))並びに厚さ(d)を算出することができる。離型層の屈折率(n)が既知である場合、事前に当該屈折率(n)を設定値として与えておいてもよい。事前に離型層の屈折率(n)を設定値として与えておくことによって、より正確な厚さを測定できる傾向にある。
【0024】
エリプソメーターによる離型層の厚さの測定は、例えば以下の手順で行う。樹脂成形物を剥離した後の金属板をエリプソメーター(例えば、ファイブラボ株式会社製 レーザーエリプソメータ(商品名:MARY102))に供し、金属板上の離型層の表面に光を照射して、各波長における位相差Δ及び振幅比ψを得る。設定値として、以下の情報を与えることにより、離型層の厚さ(d1)を得る。
・離型層の屈折率(n1)
・金属板の最上層の屈折率(n2)
ここで、金属板の最上層とは、剥離前の樹脂成形物が接していた層(例えば金属板にクロムめっきが施されている場合には、当該クロムめっき層)を意味する。
【0025】
エリプソメーターを用いて金属板上の離型層の厚さを測定する場合、なるべく平坦な金属板上に形成された離型層の厚さを測定することが好ましい。また、当該金属板は、繰り返しの成形及び離型によって変形しにくいように、強度に優れることが好ましい。フェロ板は強度及び離型性に優れるため、樹脂成形物の離型性を評価するための金属板として特に優れている。
【0026】
したがって、本開示の一実施形態において、離型層の厚さの測定は、離型剤を含有する樹脂成形物が剥離されることにより形成される離型層を有する金属板を準備することと、前記金属板をエリプソメーターに供して、前記金属板上の前記離型層の厚さを測定することと、を含む。エリプソメーターを用いて、樹脂成形物の剥離後の金属板上の離型層の厚さ、及び必要に応じて離型層の平面分布を観察することによって、樹脂成形物の離型性を簡便に評価することができる。エリプソメーターによる離型層の厚さの測定は、非接触方式により透明材料の厚さを高精度で測定することが可能である点でも有用性が高い。また、非接触方式であるため、離型層を破壊することなく繰り返し測定が可能となる点でも有用である。
【0027】
エリプソメーターを用いて金属板上の離型層の厚さを測定する方法のより具体的な例を以下に説明する。ただし、本開示に係る離型性の評価方法は以下の方法に制限されない。
離型剤を含有する樹脂成形材料を準備する。表面に硬質クロムメッキが施されたフェロ板(35mm×50mm×0.5mm)上に、樹脂成形材料を円板状に圧縮成形して、樹脂成形物を作製する(円板面積3.14cm)。表面吸着機を用いて、樹脂成形物を固定しておき、当該樹脂成形物と金属板との界面に対して水平に金属板を引き抜くことによって、樹脂成形物を金属板から剥離させる。剥離後の金属板上には樹脂成形物から染み出た離型剤が一部残存して離型層が形成される。金属板をエリプソメーター(例えば、ファイブラボ製レーザーエリプソメータ(MARY102))に供し、離型層の表面に光を照射し、各波長における位相差Δ及び振幅比ψを得る。設定値として、以下の情報を与えることにより、離型層の厚さ(d1)を得る。
・離型層の屈折率(n1)
・金属板のクロムめっきの屈折率(n2)
必要に応じて、樹脂成形物の成形から離型層の厚さの測定までの工程を所望の回数繰り返す。
【0028】
一実施形態において、離型層の厚さの測定は、離型層の厚さの平面分布を得ることを含んでいてもよい。平面分布は、例えばエリプソメーターを用いた二次元マッピングにより得ることができる。離型層の厚さの平面分布を得ることによって、樹脂成形物から染み出した離型層の厚みムラを簡便に評価することができる。
【0029】
本開示の離型性の評価方法では、同一の金属板上で、樹脂成形物の剥離及び離型層の厚さの測定を繰り返す。樹脂成形物の剥離及び離型層の厚さの測定を繰り返すことにより、連続成形性を評価することができる。繰り返しの回数は特に制限されない。例えば、同一の金属板上における剥離及び厚さの測定の回数は合計2回であってもよく、2回~100回であってもよく、2回~20回であってもよく、2回~10回であってもよい。
例えば、金属板上で、離型剤を含有する樹脂成形材料を用いて樹脂成形物を成形した後、当該樹脂成形物を剥離する。このとき、金属板上の樹脂成形物が剥離された部位に離型剤が残存し、離型層が形成される。この離型層の厚さを測定する。続いて、同一の金属板の、上記樹脂成形物を剥離した部位において、再度樹脂成形物の成形及び剥離を行い、離型層の厚さを測定する。これを所望の回数繰り返すことによって、連続成形性を評価することができる。
一般的に、同一の金属板上で樹脂成形物の成形及び剥離を繰り返すにしたがい、樹脂成形物からの離型剤の染み出し量が増えて離型層の厚さが厚くなったり、厚みムラが大きくなったりする傾向にある。望ましい離型性を担保するための離型層の厚さ及び必要に応じて得られる平面分布を特定し、樹脂成形材料の組成検討に用いてもよい。
【0030】
図1に、本開示の離型性の評価方法における離型層の厚さの平面分布の一例を示す。図1における各図の上に、成形回数(すなわち、樹脂成形物の成形及び剥離の回数)が示されている。また、図1に示される離型層の厚さは、任意の400箇所における平均厚さを表す。図1に示される例において、成形回数と離型層の厚さとを比較すると、成形回数が少ないうちは離型層の厚さが少ないが、成形回数が増えるにつれて徐々に染み出す離型剤が堆積し、離型層の厚さが増加していることがわかる。なお、図1に示される例では、傾向として、成形回数10回目以降の離型層の厚さはほとんど変わらない。離型層の厚さを測定することで、離型性を判定することができる。
【0031】
一実施形態において、樹脂成形材料の各成分の種類及び含有率を様々に変更して、金属板に残存した離型層の厚さ及び必要に応じて平面分布を観察することによって、樹脂成形物からの離型剤の染み出しの状態を評価する。離型層の厚さが薄すぎたり厚すぎたりすることなく、特定の許容範囲内であることを、良好な離型性の指標としてもよい。すなわち、離型性の評価は、離型層の厚さが予め設定された許容範囲内であるか否かを判定することを含んでもよい。また、離型層の厚みムラが少なく、均一に近い状態であることを良好な離型性の指標としてもよい。このようにして、良好な離型性を得られる樹脂成形材料の組成を決定することにより、離型性に優れる樹脂成形材料を得ることができる。離型層の厚みの許容範囲は、樹脂成形物の材料等に応じて適宜設定することができる。同様に、離型層の高低差(厚みムラ)の許容範囲は、樹脂成形物の材料等に応じて適宜設定することができる。
【0032】
樹脂成形物は、離型剤を含有する樹脂成形材料の成形物である。上述のように測定された離型層の厚さと、樹脂成形材料の組成と、の関係を調べることによって、離型性に優れる樹脂成形物を得るための樹脂成形材料の組成を決定してもよい。例えば、樹脂成形材料に含まれる樹脂成分、離型剤等の種類、含有量等と、上述のように測定された離型層の厚さと、の関係を調べて、樹脂成形材料の組成を決定してもよい。
【0033】
<樹脂成形材料>
樹脂成形物の成形に用いられる樹脂成形材料は、樹脂及び離型剤を含有している限り特に制限されず、所望により各種添加剤を含有していてもよい。
【0034】
(樹脂)
樹脂の種類は特に制限されず、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂、熱硬化性エラストマー等が挙げられる。樹脂は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂等が挙げられる。
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等が挙げられる。
熱硬化性エラストマーとしては、例えば天然ゴム及び合成ゴムが挙げられる。合成ゴムとしてはイソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0035】
(離型剤)
離型剤の種類は特に制限されず、合成品であっても天然物であってもよい。離型剤としては、具体的には、モンタン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸;高級脂肪酸金属塩;グリセリン脂肪酸エステル、モンタン酸エステル、部分ケン価モンタン酸エステル等のエステル系ワックス;ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、非酸化ポリエチレンワックス等のポリオレフィン系ワックス;カルナバワックス;シリコーンオイル等が挙げられる。離型剤は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。なかでも、本開示の離型性の評価方法に有用な離型剤として、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、グリセリン脂肪酸エステル、モンタン酸エステル、部分ケン化モンタン酸エステル、及びカルナバワックスからなる群より選択される少なくとも1つが好ましい。
【0036】
(添加剤)
樹脂成形材料は各種添加剤を含有してもよい。添加剤としては、硬化剤、充填材、硬化促進剤、可塑剤、安定剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、帯電防止剤等が挙げられ、樹脂成形材料又は樹脂成形物の所望の特性に応じて適宜配合される。
【0037】
〔樹脂成形材料の用途〕
樹脂成形材料の用途は成形材料であれば特に制限されない。一例として、電子部品装置の素子の封止用途が挙げられる。樹脂成形材料の成形方法は特に制限されず、目的及び用途に応じて適宜選択してよい。成形方法としては、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等、公知の各種手法を適用しうる。
【0038】
≪樹脂成形材料の製造方法≫
本開示の樹脂成形材料の製造方法は、前述の樹脂成形物の離型性の評価方法又は前述の離型層の厚さの測定方法を用いて樹脂成形物の離型性を評価することと、前記評価に基づいて、前記樹脂成形物の材料である樹脂成形材料の組成を決定することと、を含む。樹脂成形材料、樹脂成形物の離型性の評価方法、及び離型層の厚さの測定方法の詳細は、前述の事項を適用することができる。
【0039】
樹脂成形材料の調製方法は特に制限されず、樹脂成形材料の組成に応じて適宜決定することができる。一例として、電子部品装置の素子の封止用途に用いられるエポキシ樹脂成形材料の場合、各成分をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、押出機等によって溶融混練し、その後冷却し、粉砕する方法によって調製してもよい。エポキシ樹脂成形材料は、パッケージの成形条件に合うような寸法及び重量でタブレット化してもよい。
【実施例
【0040】
以下、実施例により本発明の例をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例には制限されない。
【0041】
[樹脂成形材料の調製]
表1に示す成分を同表に示す分量(質量部)で用意した。表1において、「-」は成分が配合されていないことを表す。
まず無機充填材をシランカップリング剤で表面処理してから、処理後の無機充填材と残りの成分とを、ミキサーで十分混合することで混合物を得た。この混合物を2軸ロールを用いて100℃の設定温度で5分間加熱しながら溶融混練し、冷却後、粉砕機で粉砕してから打錠することで、タブレット状の樹脂成形材料を得た。
【0042】
なお、表1に示す成分の詳細は、次の通りである。
・エポキシ樹脂1:ビフェニル型エポキシ樹脂(エポキシ当量:240g/eq)
・エポキシ樹脂2:チオエーテル型エポキシ樹脂(エポキシ当量:245g/eq)
・エポキシ樹脂3:ビフェニル型エポキシ樹脂(エポキシ当量:186g/eq)
・硬化剤1:ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂(水酸基当量:175g/eq)
・硬化剤2:ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂(水酸基当量:168g/eq)
・硬化剤3:ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂(水酸基当量:205g/eq)
・無機充填材:球状溶融シリカ
・カップリング剤:3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン
・離型剤:セラリカ野田株式会社製、カルナウバNo.1
・顔料:カーボンブラック
・硬化促進剤:トリフェニルホスフィン
【0043】
[ICI粘度の測定]
硬化剤の150℃におけるICI粘度を以下のように測定した。なお硬化剤のICI粘度は表1に示される硬化剤の混合物のICI粘度を表す。
ICI粘度計(東亜工業株式会社製のコーンプレート粘度計(モデル:CV‐1S、コーン:10ポアズ))において、150℃に設定した熱盤上に測定試料を載置し、粘度測定用のコーンを下げ、測定試料を熱盤とコーンで挟み込む。そして、上記コーンを750回毎分(rpm)で回転させた際の粘性抵抗を測定し、これをICI粘度とする。なお、ICI粘度計の詳細は、例えば、ASTM D4287(2019)に記載されている。硬化剤のICI粘度の測定結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
[樹脂組成物の特性評価]
次に、得られた樹脂成形材料の特性を、以下に示す各種試験によって評価した。評価結果を図2に示す。
【0046】
(1)離型性
表面に硬質クロムメッキが施されたフェロ板(35mm×50mm×0.5mm)上に、樹脂成形材料を円板状に成形し(円板面積3.14cm)、成形直後のせん断離型力(せん断離型強度)をプッシュプルゲージ(株式会社イマダ製、最大目盛500(N))で読み取る作業を合計4回行い、4回目の離型時のせん断離型力を離型性の指標とした。
なお、樹脂成形材料の成形は、成形温度180℃、成形時間90sec、成形圧力10MPaで行った。
【0047】
(2)離型層の厚さ
上記の離型性の評価において、4回目のせん断離型後における金型に残った離型層の厚さをエリプソメーター(ファイブラボ製レーザーエリプソメータ(MARY102))を用いて測定した。フェロ板表面の10mm×10mmの領域にて、離型層の厚さは、任意の441点における平均値とした。また、同様にエリプソメーターにより離型層の平面分布を得た。
【0048】
上記評価では、フェロ板上の各樹脂成形物を剥離後、離型層の厚さを好適に測定することができた。図2に示されるように、離型層の厚さが103nmであった組成1では、他の組成に比べて離型性に劣っていた。一方、離型層の厚さがより大きい組成2~4では、離型性に優れていた。なかでも、離型層の厚さが比較的大きく、厚さムラが少ない組成3では、離型性に特に優れていた。
【0049】
また、上記評価では、硬化剤の150℃におけるICI粘度が0.16Pa・s未満である組成2~4において、特に優れた離型性が得られることがわかった。これにより、150℃におけるICI粘度が0.16Pa・s未満である硬化剤をエポキシ樹脂成形材料に用いることによって離型性を向上させうることが示唆される。
図1
図2