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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】可塑性材料の混練シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/28 20060101AFI20240806BHJP
   B29B 7/20 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B29B7/28
B29B7/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020136432
(22)【出願日】2020-08-12
(65)【公開番号】P2022032555
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】本田 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】角田 昌也
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-180494(JP,A)
【文献】特開2016-049739(JP,A)
【文献】特開2017-024359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/10
B29B 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑性材料の混練状態を計算するための方法であって、
前記可塑性材料が収容される混練空間を有限個の要素でモデリングした混練空間モデルを、コンピュータに入力するステップと、
前記混練空間モデルの各要素に、前記混練空間に対する前記可塑性材料の体積分率を定義して、前記可塑性材料と前記混練空間に含まれる空気との2相を平均化したVOF法に基づく流体モデルを定義するステップと、
複数個の仮想粒子モデルを、前記流体モデルに配置するステップと、
前記コンピュータが、予め定められた混練条件に基づいて、前記複数個の仮想粒子モデルを含む前記流体モデルの流動計算を行う混練計算ステップと、
前記コンピュータが、前記可塑性材料の反応促進度を評価する評価ステップと、を含み、
前記混練計算ステップは、前記流体モデルの前記要素のうち、前記体積分率が予め定められた閾値以下の要素に含まれる仮想粒子モデルを消去する消去ステップを含み、
前記評価ステップは、前記混練計算ステップが終了した後に前記流体モデルに残存している前記仮想粒子モデルの合計数T1と、前記混練計算ステップが開始される前の前記仮想粒子モデルの合計数T2との比T1/T2に基づいて、前記反応促進度を評価する、
可塑性材料の混練シミュレーション方法。
【請求項2】
前記可塑性材料は、ガス又は揮発性物質を生成するか又は含有するものであり、
前記複数個の仮想粒子モデルは、前記ガス又は前記揮発性物質をモデリングしたものである、請求項1に記載の可塑性材料の混練シミュレーション方法。
【請求項3】
前記評価ステップは、前記比T1/T2が小さいほど、前記反応促進度が高いと評価する、請求項1又は2に記載の可塑性材料の混練シミュレーション方法。
【請求項4】
前記混練計算ステップは、互いに異なる複数の混練条件毎に、前記流動計算を行い、
前記評価ステップは、各混練条件の前記比T1/T2に基づいて、各混練条件による前記反応促進度を評価する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の可塑性材料の混練シミュレーション方法。
【請求項5】
前記評価ステップは、前記仮想粒子モデルの個数の推移に基づいて、前記反応促進度を評価する、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の可塑性材料の混練シミュレーション方法。
【請求項6】
前記混練条件は、前記可塑性材料の材料特性を含む、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の可塑性材料の混練シミュレーション方法。
【請求項7】
前記可塑性材料は、前記混練空間の内部で回転する少なくとも一つのロータによって混練され、
前記混練条件は、前記ロータの回転数、及び、前記ロータの形状の少なくとも一つを含む、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の可塑性材料の混練シミュレーション方法。
【請求項8】
前記可塑性材料は、前記混練空間の内部で回転する複数のロータによって混練され、
前記混練条件は、前記複数のロータの回転数の比、及び、前記複数のロータの位相状態の少なくとも一つを含む、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の可塑性材料の混練シミュレーション方法。
【請求項9】
前記消去ステップは、消去されたときの仮想粒子モデルの位置情報を、前記コンピュータに記憶する、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の可塑性材料の混練シミュレーション方法。
【請求項10】
前記閾値は、0.5以下である、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の可塑性材料の混練シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑性材料の混練シミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、流体の混練状態をコンピュータで評価するための解析方法が記載されている。この方法には、混練空間を有限個の要素で分割した混練空間モデルを設定するステップと、流体をモデル化した流体モデルを設定するステップと、流体モデルの流動計算を行うステップとが含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5514244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
可塑性材料には、ゴムや樹脂などのポリマーに、各種の添加剤が配合されることがある。可塑性材料は、混練が進むとガスや揮発性物質等が生成されることがある。このような可塑性材料については、上述のようなガスや揮発性物質等が可塑性材料の外部へ排出される状態になるまで、十分に混練することが求められる。しかしながら、上記の方法では、このような混練状態を確認することができないという課題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、可塑性材料の混練状態を評価することが可能な方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、可塑性材料の混練状態を計算するための方法であって、前記可塑性材料が収容される混練空間を有限個の要素でモデリングした混練空間モデルを、コンピュータに入力するステップと、前記混練空間モデルの各要素に、前記混練空間に対する前記可塑性材料の体積分率を定義して、前記可塑性材料と前記混練空間に含まれる空気との2相を平均化したVOF法に基づく流体モデルを定義するステップと、複数個の仮想粒子モデルを、前記流体モデルに配置するステップと、前記コンピュータが、予め定められた混練条件に基づいて、前記複数個の仮想粒子モデルを含む前記流体モデルの流動計算を行う混練計算ステップとを含み、前記混練計算ステップは、前記流体モデルの前記要素のうち、前記体積分率が予め定められた閾値以下の要素に含まれる仮想粒子モデルを消去する消去ステップを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記可塑性材料の混練シミュレーション方法において、前記可塑性材料は、ガス又は揮発性物質を生成するか又は含有するものであり、前記複数個の仮想粒子モデルは、前記ガス又は前記揮発性物質をモデリングしたものであってもよい。
【0008】
本発明に係る前記可塑性材料の混練シミュレーション方法において、前記コンピュータが、前記消去ステップの後の仮想粒子モデルの個数T1と、前記消去ステップの前の仮想粒子モデルの個数T2との比T1/T2に基づいて、前記可塑性材料の反応促進度を評価する評価ステップをさらに含んでもよい。
【0009】
本発明に係る前記可塑性材料の混練シミュレーション方法において、前記評価ステップは、前記比T1/T2が小さいほど、前記反応促進度が高いと評価してもよい。
【0010】
本発明に係る前記可塑性材料の混練シミュレーション方法において、前記混練計算ステップは、互いに異なる複数の混練条件毎に、前記流動計算を行い、前記評価ステップは、各混練条件の前記比T1/T2に基づいて、各混練条件による前記反応促進度を評価してもよい。
【0011】
本発明に係る前記可塑性材料の混練シミュレーション方法において、前記評価ステップは、前記仮想粒子モデルの個数の推移に基づいて、前記反応促進度を評価してもよい。
【0012】
本発明に係る前記可塑性材料の混練シミュレーション方法において、前記混練条件は、前記可塑性材料の材料特性を含んでもよい。
【0013】
本発明に係る前記可塑性材料の混練シミュレーション方法において、前記可塑性材料は、前記混練空間の内部で回転する少なくとも一つのロータによって混練され、前記混練条件は、前記ロータの回転数、及び、前記ロータの形状の少なくとも一つを含んでもよい。
【0014】
本発明に係る前記可塑性材料の混練シミュレーション方法において、前記可塑性材料は、前記混練空間の内部で回転する複数のロータによって混練され、前記混練条件は、前記複数のロータの回転数の比、及び、前記複数のロータの位相状態の少なくとも一つを含んでもよい。
【0015】
本発明に係る前記可塑性材料の混練シミュレーション方法において、前記消去ステップは、消去されたときの仮想粒子モデルの位置情報を、前記コンピュータに記憶してもよい。
【0016】
本発明に係る前記可塑性材料の混練シミュレーション方法において、前記閾値は、0.5以下であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の可塑性材料の混練シミュレーション方法は、上記のステップを採用したことにより、仮想粒子モデルの消失状態等を確認することにより、可塑性材料の混練状態を具体的に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】混練機の一例を示す部分断面図である。
図2】可塑性材料の混練シミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。
図3】可塑性材料の混練シミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図4】混練空間モデル及びロータモデルの一例を示す斜視図である。
図5】(a)は、混練空間モデルの断面図である。(b)は、(a)のB部拡大図である。
図6】混練空間モデルを分解して示す断面図である。
図7】ロータモデルの一例を示す断面図である。
図8】可塑性材料モデルと気体モデルとを含む流体モデルが定義された混練空間モデルの一例を示す断面図である。
図9】混練計算ステップの処理手順の一例を示すフローチャートである。
図10】仮想粒子モデルの個数の推移の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の可塑性材料の混練シミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)は、可塑性材料の混練状態が、コンピュータを用いて計算される。ここで、「混練」とは、例えば、未加硫のゴム又は樹脂が含まれる可塑性材料の成形時の前処理として、各種の添加剤(原材料の薬品、粉体など)と液状バインダを分散させながら互いに濡らし、それらを均質にする作用ないし操作として定義される。代表的な混練工程は、混練機(バンバリーミキサー)を用いて行われている。
【0020】
[可塑性材料]
本実施形態の可塑性材料は、未加硫のゴム材料である。この可塑性材料は、ポリマーと、ポリマーに配合される各種の添加剤とを含んで構成されている。
【0021】
[ポリマー]
ポリマーは、未加硫のゴム又は樹脂である。本実施形態のポリマーは、未加硫のゴムである。ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、又は、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が例示される。
【0022】
[添加剤]
本実施形態の添加剤には、例えば、シリカ及びカップリング剤が含まれる。なお、添加剤は、このような態様に限定されるわけではない。本実施形態のカップリング剤は、シランカップリング剤(TESPD)が採用されている。なお、カップリング剤には、シランカップリング剤(TESPT)、シランカップリング剤(TESPD)のアルキル基の鎖長を変更したもの、及び、シランカップリング剤NXT又はNXT-Z等が採用されてもよい。
【0023】
[混練機]
図1は、混練機1の一例を示す部分断面図である。混練機1は、ケーシング2と、少なくとも一つのロータ3とを含んで構成されている。ケーシング2は、筒状に形成されている。
【0024】
本実施形態の混練機1には、複数(本例では、一対)のロータ3、3が含まれている。各ロータ3、3には、円筒状の基部3aと、基部3aからケーシング2の内周面2iに向かってのびる少なくとも一つの翼部3bとが設けられている。
【0025】
ケーシング2とロータ3、3との間には、可塑性材料(図示省略)を混練するための混練空間4が区画される。この混練空間4の内部で、ロータ3、3が回転する。本実施形態の混練空間4は、断面横向きの略8の字状に形成されている。なお、混練空間4は、このような形状に限定されるものではない。
【0026】
混練機1では、混練空間4の内部に可塑性材料(図示省略)が収容された後に、ロータ3、3を回転させることで、可塑性材料が混練される。この可塑性材料の混練により、可塑性材料に含まれるポリマー、シリカ及びカップリング剤等が分散(撹拌)される。
【0027】
可塑性材料の混練が進むと、可塑性材料には、ガス又は揮発性物質等が生成されることがある。本実施形態の可塑性材料のように、ポリマー、シリカ及びカップリング剤が含まれる場合には、例えば、カップリング剤の加水分解により、例えば、アルコール等の揮発性物質が生成される。このようなガス又は揮発性物質の少なくとも一部は、可塑性材料の内部に含有される。
【0028】
上記のようなガスや揮発性物質等が、可塑性材料の内部に閉じ込められていると、可塑性材料(本例では、ポリマー、シリカ及びカップリング剤)の反応が阻害される。このため、ガスや揮発性物質等が可塑性材料の外部に排出される状態になるまで、十分に混練されることが求められる。しかしながら、実際の混練機1では、混練空間4が密閉された状態で可塑性材料が混練されるため、ガスや揮発性物質等が、可塑性材料の外部に排出された否かを確認して、可塑性材料の混練状態を評価することは困難である。本実施形態のシミュレーション方法では、ガス又は揮発性物質等が、可塑性材料の外部に排出されたか否かを確認しつつ、可塑性材料の混練状態が具体的に評価される。
【0029】
[コンピュータ]
図2は、可塑性材料の混練シミュレーション方法を実行するためのコンピュータ10の一例を示す斜視図である。コンピュータ10は、本体10a、キーボード10b、マウス10c、及び、ディスプレイ装置10dを含んでいる。本体10aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置10a1、10a2が設けられている。また、記憶装置には、シミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
【0030】
[可塑性材料の混練シミュレーション方法(第1実施形態)]
次に、本実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例が説明される。図3は、可塑性材料の混練シミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0031】
[混練条件入力ステップ]
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、可塑性材料の混練条件が、コンピュータ10に入力される(ステップS1)。混練条件は、解析対象の可塑性材料の混練状態を、コンピュータ10で計算するためのものである。混練条件は、複数の混練するための条件(例えば、後述の材料特性やロータ3の回転数など)の組み合わせであり、適宜設定されうる。
【0032】
本実施形態の混練条件には、可塑性材料の材料特性が含まれる。材料特性には、解析対象となる可塑性材料のせん断粘度、比熱、熱伝導率、比重及び粘度等が含まれる。これらの物性値は、文献(特許第5564074号公報)に記載の材料モデルに基づいて定義することができる。
【0033】
本実施形態の混練条件には、図1に示したロータ3、3の回転数、及び、ロータ3、3の形状の少なくとも一つが含まれるのが望ましい。ロータ3の回転数(rpm)は、例えば、可塑性材料の材料特定等を考慮して、適宜設定される。また、ロータ3の形状は、既存のロータ3の形状で定義されてもよいし、既存のロータ3の形状から基部3aや翼部3bの形状を異ならせたものが定義されてもよい。このようなロータ3の形状は、設計データ(CADデータ)等で特定されうる。
【0034】
本実施形態の混練条件には、複数のロータ3、3の回転数の比、及び、複数のロータ3、3の位相状態の少なくとも一つが含まれてもよい。本実施形態の回転数の比は、一方のロータ3の回転数を1としたときの他方のロータ3の回転数の比である(例えば、1.16:1)。このような回転数の比は、例えば、上述の回転数と同様の観点に基づいて、適宜設定される。
【0035】
ロータ3、3の位相状態は、各ロータ3、3の各翼部3b、3bについて、一方の翼部3bに対する他方の翼部3bの相対位置(回転方向の相対角度)である。なお、1つのロータ3に、形状の異なる複数の翼部3bが含まれる場合には、予め定められた翼部3b(各ロータ3、3で互いに同一形状の翼部3b、3b)に基づいて、位相状態が特定される。例えば、図1に示されるように、左側の翼部3bの半径方向の外端3tと、二点鎖線で示される右側の翼部3bの外端3tの双方向が、回転方向の同一位置(例えば、垂直方向で最も高い位置)に位置する場合、位相状態は0°となる。一方、実線で示される右側の翼部3bの外端3tが、左側の翼部3bの外端3tに対して位置ずれしている場合、位相状態は、左側の翼部3bの外端3tに対する右側の翼部3bの外端3tの相対角度(例えば、40°)となる。このような位相状態は、各ロータ3、3の回転開始前に特定される。
【0036】
これらの混練条件を構成する条件(例えば、ロータ3、3の回転数など)は、いずれも、可塑性材料の混練状態に影響を及ぼすものである。混練条件は、コンピュータ10に記憶される。
【0037】
[混練空間モデル入力ステップ]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、混練空間モデルが、コンピュータ10に入力される(ステップS2)。図4は、混練空間モデル14及びロータモデル13の一例を示す斜視図である。図5(a)は、混練空間モデル14の断面図である。図5(b)は、図5(a)のB部拡大図である。図6は、混練空間モデル14を分解して示す断面図である。
【0038】
図4及び図5に示されるように、混練空間モデル14は、可塑性材料が収容される混練空間4(図1に示す)を、有限個の要素e(図5(b)に示す)でモデリングしたものである。本実施形態の混練空間モデル14は、図1に示したケーシング2の内周面2iをなす外周面14oと、一対のロータ3、3の外周面をなす内周面14iと、ロータ3の軸方向の両端側で外周面14oを閉じる両端面14sとで閉じられた三次元空間を有している。
【0039】
混練空間モデル14の外周面14o及び両端面14sは変形しない。一方、混練空間モデル14の内周面14iは、後述のロータモデル13、13の回転に対応して回転する。このため、混練空間モデル14の容積形状は変化する。
【0040】
図6に分解して示されるように、本実施形態の混練空間モデル14は、一対の回転部14A、14Bと、これらが収容される外枠部14Cとの4つの部分に分けて構成される。これらの一対の回転部14A、14B、及び、外枠部14Cは、例えば、特許文献(特許第5564074号公報)に記載のチャンバーモデルの一対の回転部、継ぎ部、及び、外枠部と同様に定義される。
【0041】
図5(b)に示されるように、混練空間モデル14は、要素(オイラー要素)eで分割(離散化)されている。要素分割は、四面体、六面体などの他、多面体セル(ポリヘドラルグリッド)といった三次元要素で行われる。そして、各要素eについて、可塑性材料(材料モデル)の圧力、温度、及び、速度等の物理量が計算される。混練空間モデル14は、コンピュータ10に記憶される。
【0042】
[ロータモデル入力ステップ]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、ロータ3、3(図1に示す)を有限個の要素で離散化したロータモデル13、13が、コンピュータ10に入力される(ステップS3)。図7は、ロータモデル13、13の一例を示す断面図である。なお、図7において、混練空間モデル14が2点鎖線で示されている。
【0043】
ロータモデル13、13は、各ロータ3、3(図1に示す)の設計データ(例えば、CADデータ等)に基づいて、基部3a及び翼部3bの輪郭が、有限個の要素F(i)(i=1、2、…)でモデル化(離散化)されることによって定義される。この設計データは、ステップS1において、混練条件として入力されたものである。一対のロータモデル13、13は、基部モデル13a及び翼部モデル13bをそれぞれ含んでいる。ロータモデル13、13は、その中心13e、13fの周りで回転可能に定義される。
【0044】
要素F(i)としては、例えば、三次元のソリッド要素が採用されている。ソリッド要素は、精度がよく、接触面の設定が容易な6面体が好ましいが、複雑な形状を表現するのに適した4面体要素でもよい。なお、要素F(i)には、これらの要素以外にも、ソフトウェアで使用可能な三次元ソリッド要素が採用されてもよい。各要素F(i)には、要素番号、節点(図示省略)の番号、及び、節点の座標値等の数値データが定義される。また、本実施形態の各要素F(i)は、外力が作用しても変形不能な剛性に定義される。ロータモデル13は、コンピュータ10に入力される。
【0045】
[流体モデル定義ステップ]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、混練空間モデル14の各要素e(図5(b)に示す)に、流体モデル17が定義される(ステップS4)。図8は、可塑性材料モデル19と気体モデル20とを含む流体モデル17が定義された混練空間モデル14の一例を示す断面図である。
【0046】
本実施形態の流体モデル17は、混練空間4(図1に示す)に収容される可塑性材料と、混練空間4に含まれる空気との2相を平均化したVOF(Volume of Fluid)法に基づいて定義される。本実施形態の混練空間モデル14の各要素e(図5(b)に示す)には、後述の境界条件を入力するステップS5において、混練空間4に対する可塑性材料の体積分率が定義される。これにより、図8に示されるように、混練空間モデル14には、可塑性材料をモデリングした可塑性材料モデル19と、空気をモデリングした気体モデル20とを含む流体モデル17が定義される。
【0047】
例えば、図5(b)に示した要素eでの可塑性材料の体積分率(F値)が1(=100%)の場合、その要素eは、全てが可塑性材料モデル19(図8に示す)で満たされた流体モデル17として定義される。一方、要素eでの可塑性材料の体積分率が0(=0%)の場合、その要素eは、全てが気体モデル20(図8に示す)で満たされた流体モデル17として定義される。なお、要素eでの可塑性材料の体積分率が0.5(=50%)の場合、その要素eの50%が可塑性材料モデル19で満たされ、かつ、要素eの50%が気体モデル20で満たされた流体モデル17として定義される。可塑性材料モデル19には、ステップS1で入力された混練条件に含まれる可塑性材料の材料特性が定義される。
【0048】
可塑性材料モデル19には、ステップS1で入力された可塑性材料の材料特性が定義される。一方、気体モデル20には、空気の比重及び粘度等の物理量が定義される。このような気体モデル20の物理量は、たとえば、文献(特許第5564074号公報)記載の気相モデルに基づいて定義されうる。
【0049】
ステップS4において、流体モデル17の定義は、例えば、オペレータによって行われても良いし、オペレータが入力したパラメータ(例えば、体積分率など)に基づいて、コンピュータ10によって行われてもよい。流体モデル17(可塑性材料モデル19及び気体モデル20)は、コンピュータ10に記憶される。
【0050】
[境界条件設定ステップ]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、流体モデル17の流動計算に必要な境界条件等が、コンピュータ10に入力される(ステップS5)。境界条件としては、混練空間モデル14の壁面での流速境界条件、及び、温度境界条件が挙げられる。これらの境界条件は、文献(特許第5564074号公報)の記載に基づいて定義することができる。
【0051】
本実施形態の境界条件には、流動計算の初期状態、タイムステップ、内部処理でのイタレーションの反復回数、及び、計算終了時刻が含まれる。初期状態は、例えば、図8に示されるように、混練空間モデル14を横切る水平な境界面Sを基準として、それよりも上部が、気体モデル20の領域Aとして定義される。すなわち、境界面Sよりも上部の要素e(図5(b)に示す)について、それらの可塑性材料の体積分率が0(=0%)に設定される。一方、境界面Sよりも下部が、可塑性材料モデル19の領域Mとして定義される。すなわち、境界面Sよりも下部の要素eについて、それらの可塑性材料の体積分率が1(=100%)に設定される。このように、境界面Sのレベルを変えることにより、可塑性材料モデル19の充填率が調節される。これらの条件(即ち、初期状態、タイムステップ、反復回数、及び、計算終了時刻)は、シミュレーションの目的等に応じて任意に定められる。
【0052】
本実施形態の境界条件には、ロータ3(図1に示す)の回転数、ロータ3、3の回転数の比、及び、複数のロータ3、3の位相状態が含まれる。これらの境界条件は、ステップS1で入力された混練条件に基づいて、それぞれ設定される。境界条件は、コンピュータ10に記憶される。
【0053】
[仮想粒子モデル配置ステップ]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、図8に示されるように、複数個の仮想粒子モデル21が、流体モデル17に配置される(ステップS6)。図8では、仮想粒子モデル21の一部が代表して示されている。
【0054】
本実施形態の仮想粒子モデル21は、後述の流体モデル17の流動計算において、大きさ及び質量を有しない仮想の粒子として定義される。したがって、仮想粒子モデル21は、流体モデル17の流動計算には影響を与えないが、流体モデル17の流れに従って移動するものである。このような仮想粒子モデル21は、特許文献1の仮想粒子と同様に定義されうる。
【0055】
本実施形態の仮想粒子モデル21は、可塑性材料で生成又は含有されるガス又は揮発性物質をモデリングしたものとして取り扱われる。このような仮想粒子モデル21の位置情報が追跡されることにより、可塑性材料の混練状態(混練によるガス又は揮発性物質の移動状態)が評価されうる。
【0056】
仮想粒子モデル21の個数は、適宜設定されうる。本実施形態では、可塑性材料の混練状態を評価するために、100~1000個の仮想粒子モデル21が、流体モデル17の内部に配置されている。
【0057】
仮想粒子モデル21の配置は、流体モデル17の内部であれば、任意に設定することができる。本実施形態の仮想粒子モデル21は、流体モデル17のうち、可塑性材料モデル19の内部に配置されている。なお、ガス又は揮発性物質は、可塑性材料に満遍なく生成される。このため、本実施形態では、可塑性材料モデル19の内部の広範囲に、複数個の仮想粒子モデル21が満遍なく(本例では、可塑性材料モデル19での単位体積あたりの仮想粒子モデル21の個数が一定になるように)配置されている。
【0058】
複数個の仮想粒子モデル21の配置は、オペレータによって行われてもよいし、オペレータが入力したパラメータ(例えば、仮想粒子モデル21の個数など)に基づいて、コンピュータ10によって行われてもよい。流体モデル17(可塑性材料モデル19)に配置された仮想粒子モデル21は、コンピュータ10に記憶される。
【0059】
[混練計算ステップ]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ10が、予め定められた混練条件に基づいて、複数個の仮想粒子モデル21を含む流体モデル17の流動計算を行う(混練計算ステップS7)。図9は、混練計算ステップS7の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0060】
本実施形態の混練計算ステップS7は、先ず、図4に示したロータモデル13、13を回転させて、図8に示した複数個の仮想粒子モデル21を含む流体モデル17の流動計算が行われる(ステップS71)。本実施形態のステップS71では、先ず、ステップS1で入力された上述の混練条件(ステップS5で入力された境界条件を含む)に基づいて、ロータモデル13、13の回転が開始される。混練条件には、例えば、ロータ3、3の回転数や回転数の比などの各種条件が含まれる。これにより、ステップS71では、流体モデル17(可塑性材料モデル19及び気体モデル20)の流動が計算される。
【0061】
流体モデル17の流動計算には、自由界面の流れの計算で用いられるVOF法が用いられる。このような流動計算は、例えば、文献(特許第5564074号公報)記載の手順に基づいて適宜実施されうる。これにより、ステップS71では、シミュレーションの単位時間Tx毎に、流体モデル17(すなわち、可塑性材料モデル19及び気体モデル20)の流動が計算される。さらに、流体モデル17の流動に従って、仮想粒子モデル21の移動が計算される。本実施形態のステップS71では、流体モデル17の物理量、及び、仮想粒子モデル21の位置情報が、単位時間Txごとにコンピュータ10に記憶される。
【0062】
次に、本実施形態の混練計算ステップS7は、流体モデル17の要素e(図5(b)に示す)のうち、可塑性材料の体積分率が予め定められた閾値以下の要素に含まれる仮想粒子モデル21が消去される(消去ステップS72)。本実施形態の閾値は、流体モデル17の要素eのうち、可塑性材料モデル19と気体モデル20との界面(図8では、混練前の境界面S)を示す要素eを特定するためのものである。このような体積分率が閾値以下の要素eは、気体モデル20に対する可塑性材料モデル19の割合が小さくなっており、可塑性材料モデル19と気体モデル20との界面を構成するものとして取り扱われる。そして、その界面(すなわち、閾値以下の要素e)に到達した仮想粒子モデル21は、混練空間4(図1に示す)において、空気に触れて露出し、かつ、可塑性材料の外部へと排出されたガスや揮発性物質とみなされて消去される。
【0063】
閾値については、可塑性材料モデル19と気体モデル20との界面を特定できれば、適宜設定することができる。閾値は、0.5以下(本例では、0.5)に設定されるのが望ましい。なお、閾値が小さすぎても、仮想粒子モデル21の消去に時間を要する傾向がある。このため、閾値は、0.3以上が望ましい。
【0064】
消去ステップS72は、消去されたときの仮想粒子モデル21の位置情報が、コンピュータ10に記憶されるのが望ましい。これにより、後述の評価ステップS8において、ガスや揮発性物質が、可塑性材料の外部に排出されるタイミング、及び、排出された位置を特定及び評価することが可能となる。
【0065】
次に、本実施形態の混練計算ステップS7では、計算終了時刻が経過したか否かが判断される(ステップS73)。計算終了時刻は、ステップS5において、境界条件として入力されている。
【0066】
ステップS73において、計算終了時刻が経過したと判断された場合(ステップS73で、「Y」)、混練計算ステップS7の一連の処理が終了し、次の評価ステップS8(図3に示す)が実行される。一方、ステップS73において、計算終了時刻が経過していないと判断された場合、単位時間を一つ進めて(ステップS74)、ステップS71~ステップS73が再度実施される。
【0067】
これにより、混練計算ステップS7では、計算終了時刻が経過するまで、流体モデル17の流動計算を行うことができる。そして、流体モデル17の流動計算によって、可塑性材料モデル19と気体モデル20との界面に到達した仮想粒子モデル21が、可塑性材料の外部へ排出されたガスや揮発性物質とみなされて消去される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、仮想粒子モデル21の消失状態等が確認されることにより、可塑性材料の混練状態(可塑性材料(ポリマー、シリカ及びカップリング剤)の反応促進度)が、具体的に評価されうる。
【0068】
[評価ステップ]
次に、図3に示されるように、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ10が、可塑性材料の反応促進度を評価する(評価ステップS8)。反応促進度の評価は、適宜実施される。上述したように、本実施形態の可塑性材料(ポリマー、シリカ及びカップリング剤)の反応は、ガスや揮発性物質等が外部に排出されることによって促進される。このため、本実施形態の評価ステップS8では、消去された仮想粒子モデル21(図8に示す)の個数に基づいて、可塑性材料の反応促進度が評価される。
【0069】
本実施形態の評価ステップS8では、消去ステップS72(図9に示す)の後の仮想粒子モデル21の個数T1と、消去ステップS72の前の仮想粒子モデルの個数T2との比T1/T2に基づいて、可塑性材料の反応促進度が評価される。本実施形態の個数T1は、混練計算ステップS7が終了した後に、流体モデル17(可塑性材料モデル19)に残存している仮想粒子モデル21の合計数である。一方、個数T2は、ステップS6で配置された(消去前の)仮想粒子モデル21合計数である。したがって、比T1/T2は、流体モデル17に残存している仮想粒子モデル21について、消去される前の仮想粒子モデル21の合計数に対する割合であり、ガスや揮発性物質の残存率(可塑性材料の内部に閉じ込めたままの揮発性物質等の割合)が示される。
【0070】
比T1/T2が小さいほど、仮想粒子モデル21の残存数が少なく、消去された仮想粒子モデル21の割合が大きい。これは、ステップS1で入力された混練条件に基づく流体モデル17の流動計算により、可塑性材料モデル19と気体モデル20との界面に、多くの仮想粒子モデル21を移動させることができ、それらが消去されていることを示している。これにより、混練計算ステップS7において、ガスや揮発性物質等が、可塑性材料の外部へ効率よく排出されていることが再現されている。したがって、評価ステップS8では、比T1/T2が小さいほど、反応促進度が高いと評価される。
【0071】
一方、比T1/T2が大きいほど、仮想粒子モデル21の残存数が多く、消去された仮想粒子モデル21の割合が小さい。これは、ステップS1で入力された混練条件に基づく流体モデル17の流動計算により、可塑性材料モデル19と気体モデル20との界面に、多くの仮想粒子モデル21を移動させることができず、流体モデル17の内部に残存していることを示している。これにより、混練計算ステップS7において、ガスや揮発性物質等の排出が十分でないことが再現されている。したがって、評価ステップS8では、比T1/T2が大きいほど、反応促進度が低いと評価される。
【0072】
評価ステップS8では、比T1/T2が、予め定められた閾値以下である場合に、反応促進度が高いと評価されるのが望ましい。これにより、可塑性材料の混練状態を具体的に評価することが可能となる。閾値は、可塑性材料の混練状態を評価できれば、適宜設定されうる。本実施形態の閾値は、例えば、0%~40%に設定されうる。
【0073】
評価ステップS8において、可塑性材料の反応促進度が良好(高い)と判断された場合(評価ステップS8で、「Y」)、ステップS1で入力された混練条件(例えば、可塑性材料の材料特性)に基づいて、可塑性材料の混練が行われる(ステップS9)。なお、混練条件として、ロータ3の形状等が含まれる場合には、その形状等に基づいて、混練機1の設計及び製造が行われる。そして、本実施形態では、混練された可塑性材料が用いられて、タイヤなどのゴム製品が製造される。
【0074】
一方、評価ステップS8において、可塑性材料の反応促進度が良好でない(低い)と判断された場合(評価ステップS8で、「N」)、混練条件を構成する条件の少なくとも一部が変更されて(ステップS10)、ステップS2~評価ステップS8が再度実施される。なお、混練条件の変更は、オペレータによって行われてもよいし、オペレータが入力したパラメータ(例えば、ロータ3、3の回転数の範囲など)に基づいて、コンピュータ10によって行われてもよい。
【0075】
本実施形態のシミュレーション方法では、可塑性材料の反応促進度が高いと判断されるまで、ステップS10において混練条件が変更される。これにより、シミュレーション方法では、可塑性材料の混練状態が良好な混練条件を特定でき、実際の混練機1(図1に示す)において、良好な混練状態で、可塑性材料を混練することが可能となる。
【0076】
また、評価ステップS8では、消去されたときの仮想粒子モデル21の位置情報に基づいて、ガスや揮発性物質が、可塑性材料の外部に排出されるタイミングや、排出された位置が特定されてもよい。このようなタイミングや位置が特定されることにより、ロータ3の回転数、ロータ3の形状、及び、ロータ3、3の位相状態等と混練状態との関係を把握することが可能となる。これにより、本実施形態では、混練条件を変更するステップS10において、可塑性材料の反応促進度がより確実に高く(良好)なるように、混練条件を変更することが可能となる。
【0077】
[可塑性材料の混練シミュレーション方法(第2実施形態)]
これまでの実施形態の評価ステップS8では、一つの混練条件(すなわち、可塑性材料の材料特性、及び、ロータ3の回転数等を含む条件の組み合わせ)に基づいて、流動計算が実施されたが、このような態様に限定されない。例えば、互いに異なる複数の混練条件毎に、流動計算が行われてもよい。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0078】
この実施形態のシミュレーション方法では、先ず、ステップS1において、互いに異なる複数の混練条件が、コンピュータ10に入力される。この実施形態のステップS1では、例えば、混練条件を構成するの条件(例えば、可塑性材料の材料特性や、ロータ3の回転数等)のうち、少なくとも一つの条件が互いに異なるように、複数の混練条件が設定される。これにより、この実施形態では、混練計算ステップS7において、互いに異なる複数の混練条件毎に、流体モデルの流動計算が行われる。この実施形態の流動計算は、これまでの実施形態と同一の手順(図9に示した混練計算ステップS7)で、各混練条件ごとに実施される。
【0079】
この実施形態の評価ステップS8は、各混練条件の比T1/T2に基づいて、各混練条件による反応促進度が評価される。この実施形態の評価ステップS8では、各混練条件に基づく流動計算で求められた比T1/T2を比較することで、各混練条件の良否が評価される。
【0080】
この実施形態の評価ステップS8では、先ず、各混練条件の比T1/T2のうち、最も小さい比T1/T2が選択される。そして、選択された比T1/T2が、予め定められた閾値以下である場合に(評価ステップS8で、「Y」)、選択された比T1/T2の混練条件に基づいて、可塑性材料の混練が行われる(ステップS9)。一方、選択された比T1/T2が、予め定められた閾値よりも大きい場合(評価ステップS8で、「N」)、ステップS10において、各混練条件の少なくとも一部が変更されて、ステップS2~評価ステップS8が再度実施される。
【0081】
このように、この実施形態のシミュレーション方法では、互いに異なる複数の混練条件に基づく流動計算でそれぞれ求められた比T1/T2に基づいて、各混練条件による反応促進度を評価することができる。さらに、各混練条件と、それらの比T1/T2との関係を比較することで、ステップS10において、改善すべき混練条件の特定が可能となる。したがって、この実施形態では、混練条件の最適解を早期に求めることができる。
【0082】
なお、各混練条件の比T1/T2に差異がほとんど無い場合には、流動計算の時間が短いことや、仮想粒子モデル21の個数が少ないことが原因と考えられる。この場合、混練条件を変更せず、混練計算ステップS7での計算終了時刻が大きく設定されても良いし、仮想粒子モデル21の個数が大きく設定されても良い。
【0083】
[可塑性材料の混練シミュレーション方法(第3実施形態)]
これまでの実施形態の評価ステップS8では、比T1/T2に基づいて、可塑性材料の反応促進度が評価されたが、このような態様に限定されない。評価ステップS8では、例えば、仮想粒子モデル21の個数の推移に基づいて、反応促進度が評価されてもよい。図10は、仮想粒子モデル21の個数の推移の一例を示すグラフである。図10には、互いに異なる混練条件1-4毎に、仮想粒子モデル21の個数(残存率)の推移が示されている。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0084】
この実施形態の混練計算ステップS7では、シミュレーションの単位時間Txごとに、仮想粒子モデル21の個数(残存数)が、コンピュータ10に記憶される。これらの仮想粒子モデル21の個数に基づいて、この実施形態の評価ステップS8では、仮想粒子モデル21の残存率と、混練時間(流動計算時間)との関係が求められる。なお、残存率は、消去ステップS72の後の仮想粒子モデルの個数T1と、消去ステップS72の前の仮想粒子モデルの個数T2との比T1/T2である。図10では、互いに異なる複数の混練条件1-4毎に、比T1/T2(%)と、流動計算時間(練り時間(秒))との関係(すなわち、仮想粒子モデルの個数の推移)が示されている。
【0085】
このように、この実施形態では、図10に示した仮想粒子モデル21の個数の推移に基づいて、流動計算が開始してから時間の経過とともに消失していく仮想粒子モデル21の個数を確認することができる。これにより、この実施形態では、可塑性材料の混練状態をより具体的に評価することが可能となる。
【0086】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例
【0087】
図3及び図9に示した処理手順に従って、可塑性材料の混練状態が、コンピュータを用いて計算された(実施例)。実施例では、互いに異なる複数の混練条件1~4毎に、複数個の仮想粒子モデルを含む流体モデルの流動計算を行う混練計算ステップが実施された。混練計算ステップでは、流体モデルの要素のうち、体積分率が予め定められた閾値以下の要素に含まれる仮想粒子モデルを消去する消去ステップが実施された。そして、消去ステップの後の仮想粒子モデルの個数T1と、消去ステップの前の仮想粒子モデルの個数T2との比T1/T2に基づいて、可塑性材料の反応促進度を評価する評価ステップが実施された。
【0088】
比較のために、上記の混練条件1-4毎に、実際の混練機を用いて、可塑性材料の混練が実施された(実験例)。そして、混練された可塑性材料に残留している揮発性物質(アルコール)の残存率が測定された。共通仕様は、次のとおりであり、混練条件1-4は、表1に示されるとおりである。
可塑性材料:ポリマー(天然ゴム)・シリカ・カップリング剤(TESPT)
可塑性材料モデルの充填率:70%
ロータモデルの回転数の比(1:1):
各ロータモデルの回転数:40rpm
ロータモデルの回転数の比(1.16:1):
一方のロータモデルの回転数:43rpm
他方のロータモデルの回転数:37rpm
単位時間Tx:1.973×10-3秒
混練時間(実時間):10秒
壁面スリップ条件:特許6405160号公報の条件を定義
温度:383K
【0089】
【表1】
【0090】
図10には、互いに異なる混練条件1-4毎に、仮想粒子モデルの個数の推移が示されている。表1では、可塑性材料の反応促進度として、実施例の比T1/T2の逆数を100とする指数で示している。数値が高いほど、反応促進度が高いことが示されている。
【0091】
テストの結果、実施例では、混練条件1-4毎に、仮想粒子モデルの残存率の推移を求めることができており、可塑性材料の反応促進度が最も高い混練条件として、混練条件1であることが確認できた。一方、可塑性材料を実際に混練した実験例では、可塑性材料に残留している揮発性物質の残存率が最も低いのは、混練条件1であった。さらに、実施例の残存率と、実験例の残存率とは相関があることが確認できた。したがって、実施例は、仮想粒子モデルの消失状態等を確認することにより、可塑性材料の混練状態を具体的に評価することができた。
【符号の説明】
【0092】
S2 混練空間モデルを入力するステップ
S4 流体モデルを定義するステップ
S6 複数個の仮想粒子モデルを配置するステップ
S7 混練計算ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10