(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】医用画像生成装置、医用画像生成方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/06 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
A61B8/06
(21)【出願番号】P 2021066432
(22)【出願日】2021-04-09
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國田 政志
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-276076(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0119736(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
A61B 1/00-1/32
A61B 6/00-6/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の内部構造に基づく内部信号を所定の離散時間でサンプリングしたサンプル値に対してフィルタリング処理をそれぞれ行い、第1から第3の処理信号を出力する第1から第3の信号処理部と、
前記第1から第3の処理信号を統合して統合信号を生成する統合部と、
前記統合信号に基づいて画像を生成する画像生成部と、
を備え、
第1の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間は、前記第2の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間より短く、前記第2の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間は、前記第3の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間以下である、
医用画像生成装置。
【請求項2】
前記統合部は、
前記内部信号、または、前記第1から第3の信号処理部が出力する第1から第3の処理信号のそれぞれに対して、付与する重みの大きさを決定する重み決定部と、
決定された重みの大きさに基づいて、第1から第3の信号処理部が出力する前記処理信号のそれぞれに対して重み付けを行い、前記統合信号を生成する重み付き統合部と、
を有する、
請求項1に記載の医用画像生成装置。
【請求項3】
前記重み決定部は、前記第1から第3の処理信号に対して、前記離散時間に対応するサンプリング周期毎に、前記重みの大きさを決定する、
請求項2に記載の医用画像生成装置。
【請求項4】
前記重み決定部は、前記サンプル値の大きさに応じて前記重みの大きさを決定する、
請求項2または3に記載の医用画像生成装置。
【請求項5】
前記第1から第3の信号処理部は、前記内部信号のフレーム毎に前記サンプル値をサンプリングする、
請求項1から4のいずれか一項に記載の医用画像生成装置。
【請求項6】
前記第2の信号処理部が有する第2の離散時間フィルターは、有限インパルス応答(Finite Impulse Response:FIR)型のフィルターであり、
前記第3の信号処理部が有する第3の離散時間フィルターは、無限インパルス応答(Infinite Impulse Response:IIR)型のフィルターである、
請求項1から5のいずれか一項に記載の医用画像生成装置。
【請求項7】
前記重み決定部は、特定のサンプリング周期における前記内部信号の大きさが所定値より小さい場合、当該内部信号に基づいて前記第1の信号処理部が生成した前記処理信号に対して付与する重みの大きさが、当該内部信号に基づいて前記第2の信号処理部が生成した前記処理信号に対して付与する重みの大きさよりも小さくなるように前記重みを決定する、
請求項3に記載の医用画像生成装置。
【請求項8】
前記統合信号に基づいて前記内部信号の補間を行う補間部をさらに備える、
請求項1から7のいずれか一項に記載の医用画像生成装置。
【請求項9】
前記第2および第3の信号処理部の少なくとも一方は、生成した前記処理信号を、他方の信号処理部に対して、処理の対象として出力する、
請求項1から8のいずれか一項に記載の医用画像生成装置。
【請求項10】
前記第2および第3の信号処理部の少なくとも一方は、特定のサンプリング周期における前記内部信号の大きさが所定の大きさより大きい場合に、当該サンプリング周期の前記内部信号の大きさを前記所定の大きさ以下に抑制する抑制部を有する、
請求項3に記載の医用画像生成装置。
【請求項11】
前記第1から第3の信号処理部は、前記内部信号が複素信号である場合、前記第1から第3の処理信号の複素平面の実部方向において所定のオフセットを加えるオフセット補正部をさらに有する、
請求項1から10のいずれか一項に記載の医用画像生成装置。
【請求項12】
前記第1から第3の信号処理部は、それぞれ第1から第3の空間フィルター部を有し、
第2または前記第3の空間フィルター部が有する空間周波数特性の内の高周波成分は、前記第1の空間フィルター部が有する前記空間周波数特性の前記高周波成分よりも小さい
請求項1から11のいずれか一項に記載の医用画像生成装置。
【請求項13】
前記被検体の動きに起因するモーションアーチファクトを評価するモーションアーチファクト評価部をさらに備え、
前記第1から第3の信号処理部の少なくとも1つは、前記モーションアーチファクト評価部の評価結果に基づいて、前記サンプル値毎に前記モーションアーチファクトを抑制するモーションアーチファクト抑制部を有する、
請求項1から12のいずれか一項に記載の医用画像生成装置。
【請求項14】
前記モーションアーチファクト評価部の評価結果に基づいて、前記統合信号に対して前記モーションアーチファクトを軽減する空間フィルタリング処理を行うモーションアーチファクト空間フィルター部をさらに備える、
請求項13に記載の医用画像生成装置。
【請求項15】
被検体の内部構造に基づく内部信号を所定の離散時間でサンプリングしたサンプル値に対してフィルタリング処理をそれぞれ行い、第1から第3の処理信号を出力し、
前記第1から第3の処理信号を統合して統合信号を生成し、
前記統合信号に基づいて画像を生成する、
画像生成方法であって、
前記第1の処理信号を生成する第1の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間は、前記第2の処理信号を生成する第2の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間より短く、前記第2の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間は、前記第3の処理信号を生成する第3の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間以下である、
医用画像生成方法。
【請求項16】
コンピューターに、
被検体の内部構造に基づく内部信号を所定の離散時間でサンプリングしたサンプル値に対してフィルタリング処理をそれぞれ行い、第1から第3の処理信号を出力する手順と、
前記第1から第3の処理信号を統合して統合信号を生成する手順と、
前記統合信号に基づいて画像を生成する手順と、
を実行させるプログラムであって、
前記第1の処理信号を生成する第1の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間は、前記第2の処理信号を生成する第2の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間より短く、前記第2の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間は、前記第3の処理信号を生成する第3の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間以下である、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
医用画像を生成する医用画像生成装置の一例として、超音波診断装置がある。超音波診断装置は、超音波を被検体に送信し、その反射エコーに含まれる情報を解析することにより、被検体内の画像を作成する。カラーフローマッピング(Color Flow Mapping、以下CFMと略す場合がある)と呼ばれる手法によって、被検体内の血流を画像化することが可能であり、医療分野全般において、血流状態を表示することのできる超音波診断装置が広く利用されている。
【0002】
血流から得られる反射エコーによる受信信号強度は、Bモード断層画像生成に用いる組織散乱体および組織境界から得られる反射エコーによる受信信号強度に比べ、かなり小さい。このため、カラーフローマッピングにおける信号処理によって得られる血流速度および血流パワー(移動する血流量)は不安定になりやすい。
【0003】
特に、観察したい部分の血流速度が遅い場合、あるいは、観察したい部分が末梢血管である場合、血流パワーが小さくなるため、本来、システムノイズおよび音響ノイズのみをカットするべきノイズカット処理において、血流速度あるいは血流パワーに関する情報が除去されてしまい易い。その結果、血流画像において本来血流として表示される部分が黒く抜けてしまう現象が発生する。この結果、断層画像中の血流部分が突然消滅し、画像が滑らかではなくなったり、違和感のあるものとなったりする。
【0004】
また、カラーフローマッピングでは、血流を検出するために多くの超音波送受信を繰り返す必要があり、その結果、一つのフレームを構成するために必要な時間が長くなる傾向がある。そのため、複数のフレームを時系列で更新して動画像にした際に、フレームレートが10FPS(FPS:Frame Per Second)を下回る等、操作に対する即応性が高い動画像や、滑らかな動画像が得られにくい場合がある。
【0005】
この問題を解決するために、従来のカラーフローマッピングを行う超音波診断装置において、パーシスタンス処理(残像処理)と呼ばれる時間方向補間処理が行われることがある(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-66396号公報
【文献】特開平11-276481号公報
【文献】特表平10-511588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
パーシスタンス処理によれば、前のフレームの信号と新たなフレームの信号とを用いることで、適度な残像効果を画像に持たせることにより、血流速度が遅く、あるいは、血流パワーが小さい場合でも、血流表示が不安定となることを防止できる。
【0008】
しかしながら、単純に残像効果が高くなるようにパーシスタンス係数を設定した場合、超音波を送信する超音波探触子の動きに対する画像の即応性(追従性)が低下してしまうことがある。これは、残像効果が高くなるように、表示される画像における前のフレームの影響を大きくすると、新たなフレームの影響が相対的に小さくなってしまうからである。
【0009】
また、パーシスタンス係数が適切な値に設定されない場合、画像においてノイズが増大し、S/N比が低下してしまうこともある。これらの事情に鑑み、カラーフローマッピング法のパーシスタンス処理において、超音波探触子の動きに対する即応性、画像におけるS/N比の改善、および適度な残像効果等の複数の画像効果を同時に奏することが要望されている。
【0010】
本開示は、複数の画像効果を同時に奏することができる医用画像生成装置、医用画像生成方法、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の医用画像生成装置は、被検体の内部構造に基づく内部信号を所定の離散時間でサンプリングしたサンプル値に対してフィルタリング処理をそれぞれ行い、第1から第3の処理信号を出力する第1から第3の信号処理部と、前記第1から第3の処理信号を統合して統合信号を生成する統合部と、前記統合信号に基づいて画像を生成する画像生成部と、を備え、前記第1の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間は、前記第2の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間より短く、前記第2の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間は、前記第3の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間以下である。
【0012】
本開示の医用画像生成方法は、被検体の内部構造に基づく内部信号を所定の離散時間でサンプリングしたサンプル値に対してフィルタリング処理をそれぞれ行い、第1から第3の処理信号を出力し、前記第1から第3の処理信号を統合して統合信号を生成し、前記統合信号に基づいて画像を生成する、画像生成方法であって、前記第1の処理信号を生成する第1の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間は、前記第2の処理信号を生成する第2の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間より短く、前記第2の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間は、前記第3の処理信号を生成する第3の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間以下である。
プログラム。
【0013】
本開示のプログラムは、コンピューターに、被検体の内部構造に基づく内部信号を所定の離散時間でサンプリングしたサンプル値に対してフィルタリング処理をそれぞれ行い、第1から第3の処理信号を出力する手順と、前記第1から第3の処理信号を統合して統合信号を生成する手順と、前記統合信号に基づいて画像を生成する手順と、を実行させるプログラムであって、前記第1の処理信号を生成する第1の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間は、前記第2の処理信号を生成する第2の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間より短く、前記第2の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間は、前記第3の処理信号を生成する第3の信号処理部が有するインパルス応答の継続時間以下である。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、複数の画像効果を同時に奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の実施の形態に係る医用画像生成装置を備える超音波診断装置の構成を示すブロック図
【
図2】Cモード画像生成部の構成について説明するためのブロック図
【
図3】第1の信号処理部、第2の信号処理部、および第3の信号処理部のそれぞれが有する離散時間フィルターの性質について説明するための図
【
図4】第1の処理信号に付与する重みと第2の処理信号に付与する重みとを決定する方法を説明するための図
【
図6】医用画像生成装置の変形例2における、信号処理部の構成を説明するための図
【
図7】医用画像生成装置の変形例3における、信号処理部の構成を説明するための図
【
図8】サンプル値抑制部が、所定以上の値を有するサンプル値を抑制する様子を示す図
【
図9】医用画像生成装置の変形例4における、信号処理部の構成を説明するための図
【
図10】複素信号に対する一般的なMTIフィルターの影響の例を複素平面上において示す図
【
図11】医用画像生成装置の変形例5における、信号処理部の構成を説明するための図
【
図12】医用画像生成装置の変形例6の構成の一部を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して説明する。ただし、発明の範囲は図示した例に限定されない。なお、以下の説明において、同一の機能および構成を有するものについては、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0017】
[全体の構成]
図1は、本開示の実施の形態に係る医用画像生成装置1を備える超音波診断装置100の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、超音波診断装置100は、医用画像生成装置1と、超音波探触子101と、表示部102と、を備える。
【0018】
医用画像生成装置1は、操作部2と、送信部3と、受信部4と、Bモード画像生成部5と、ROI(Region Of Interest:関心領域)設定部6と、Cモード画像生成部7と、表示処理部8と、制御部9と、フレームデータ記憶部10と、記憶部11と、を備える。
【0019】
超音波探触子101は、複数の振動子(圧電変換素子)101aを有し、振動子101aそれぞれが後述する送信部3からの駆動信号(送信電気信号)を超音波へと変換し、超音波ビームを生成する。従って、ユーザー(操作者)は、被計測物である被検体表面に超音波探触子101を配置することで、被検体内部に超音波ビームを照射することができる。超音波探触子101は、被検体内部からの反射超音波を受信し、複数の振動子101aでその反射超音波を受信電気信号へと変換して後述する受信部4に供給する。
【0020】
表示部102は、医用画像生成装置1(表示処理部8)から出力された画像データを表示する、いわゆるモニターである。なお、
図1に示す例では、表示部102が、超音波診断装置100に接続される構成である。しかしながら、例えば、表示部102と後述の操作部2が一体として構成され、操作部2の操作が表示部102をタッチ操作することにより行われる、いわゆるタッチパネルが採用されてもよい。この場合、医用画像生成装置1と表示部102とが一体に構成される。
【0021】
操作部2は、ユーザーから入力を受け取り、ユーザーの入力に基づく指令を制御部9に出力する。操作部2は、Bモード画像のみを表示させるモード(以下、「Bモード」とする。)か、Bモード画像上にCモード(カラーフローモード)画像を重畳表示させるモード(以下、「Cモード」とする。)を、ユーザーが選択することできる機能を備える。そして、操作部2は、ユーザーがBモード画像上のCモード画像を表示させるROIの位置を指定する機能も含まれる。
【0022】
送信部3は、振動子101aを駆動させる駆動信号を生成し、超音波探触子101に超音波ビームを送信させる送信処理を行う。一例として、送信部3は、振動子101aを有する超音波探触子101から超音波ビームを送信するための駆動信号を生成する送信処理を行い、この駆動信号に基づき超音波探触子101に対して所定のタイミングで発生する高圧の駆動電気信号を供給することで、超音波探触子101の振動子101aを駆動させる。これにより、超音波探触子101は、駆動電気信号を超音波へと変換することで、被計測物である被検体に超音波ビームを照射することができる。
【0023】
また、送信部3は、ユーザーが操作部2に対して行った操作に応じて、駆動信号に加えてユーザーの操作内容を示す付加情報を超音波探触子101に対して送信する。付加情報には、例えばBモードとCモードのいずれかを指定する情報が少なくとも含まれる。
【0024】
受信部4は、制御部9の制御に従い、反射超音波に基づく電気的なRF(Radio Frequency)信号としての受信信号を生成する受信処理を行う。受信信号は、被検体の内部構造(体内組織等)に反射した反射超音波の強度を示す信号であり、被検体の内部構造を示す信号である。受信信号は、本開示の「内部信号」に相当する。受信部4は、例えば、超音波探触子101で反射超音波を受信し、その反射超音波に基づき変換された受信電気信号に対し、受信電気信号を増幅してA/D変換、整相加算を行うことでフレーム毎の受信信号(音線データ)を生成する。また、受信部4の処理過程において検波を行い、受信信号を複素数の形態で生成することもある。
【0025】
また、受信部4は、送信部3から付加情報を取得し、取得した付加情報においてBモードが選択されていた場合、受信信号をBモード画像生成部5に供給し、Cモードが選択されていた場合、受信信号をCモード画像生成部7に供給する。
【0026】
Bモード画像生成部5は、制御部9の制御に従い、受信部4から入力された受信信号からBモード画像データを生成し、表示処理部8に出力する。Bモード画像生成部5は、受信信号に対して、包絡線検波処理、対数圧縮処理等を施し、ダイナミックレンジやゲインの調整を行って輝度変換することで、Bモード画像データを生成する。Bモード画像生成部5は、フレーム毎の受信信号に基づいて、フレーム毎のBモード画像データを生成し、出力する。
【0027】
ROI設定部6は、制御部9の制御に従い、操作部2を介してユーザーから入力されたROIの設定情報に応じて、ROIの設定情報を送信部3および表示処理部8に出力する。
【0028】
Cモード画像生成部7は、制御部9の制御に従い、受信部4から入力された受信信号に応じて、Cモード画像データを生成し、表示処理部8に出力する。Cモード画像生成部7は、フレーム毎の受信信号に基づいて、フレーム毎のCモード画像データを生成し、出力する。Cモード画像生成部7の詳細については、後述する。
【0029】
表示処理部8は、表示部102に表示させる表示画像データをフレーム毎に構築し、表示部102にその表示画像データを表示させる処理を行う。特に、Bモードが選択されている場合は、超音波画像として、Bモード画像生成部5で生成したBモード画像データに基づくBモード画像を表示画像データ中に含める処理を行う。また、Cモードが選択されている場合は、超音波画像として、Bモード画像生成部5で生成したBモード画像上に選択されたROIの位置に、Cモード画像生成部7で生成したCモード画像データに基づくCモード画像を重畳させた合成画像データを生成し、これを表示画像データ中に含める処理を行う。
【0030】
制御部9は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を備えて構成され、ROMに記憶されているシステムプログラム等の各種処理プログラムを読み出してRAMに展開し、展開したプログラムに従って超音波診断装置100の各部の動作を制御する。RAMは、CPUにより実行される各種プログラムおよびこれらプログラムに係るデータを一時的に記憶するワークエリアを形成する。ROMは、半導体等の不揮発メモリー等により構成され、超音波診断装置100に対するシステムプログラムおよび該システムプログラム上で実行可能な、初期設定プログラムや超音波診断プログラム等の各種処理プログラムや、各種データ等を記憶する。これらのプログラムは、コンピューターが読み取り可能なプログラムコードの形態で格納され、CPUは、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。特に、ROMには、Cモード画像表示プログラムが記憶されているものとする。
【0031】
記憶部11は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の大容量記録媒体によって構成されており、超音波画像データ(Bモード画像データ、Cモード画像データ、および、フレーム毎にこれらが合成された合成データ等)を記憶する。また、記憶部11において、患者IDに対応付けられた患者情報が、患者に対応する超音波画像データに関連付けられて記憶されていてもよい。
【0032】
超音波診断装置100が備える各部について、各々の機能ブロックの一部又は全部の機能は、集積回路等のハードウェア回路として実現することができる。集積回路とは、例えばLSI(Large Scale Integration)であり、LSIは集積度の違いにより、IC(Integrated Circuit)、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路又は汎用プロセッサーで実現してもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)やLSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサーを利用してもよい。また、各々の機能ブロックの一部又は全部の機能をソフトウェアにより実行するようにしてもよい。この場合、このソフトウェアは一つ又はそれ以上のROM等の記憶媒体、光ディスク、又はハードディスク等に記憶されており、このソフトウェアが演算処理器により実行される。
【0033】
[Cモード画像生成部7]
図2は、Cモード画像生成部7の構成について説明するためのブロック図である。
図2に示すように、Cモード画像生成部7は、信号取得部71と、信号処理部72と、統合部73と、画像生成部74と、を備える。
【0034】
信号取得部71は、受信部4(
図1参照)から、本開示の「内部信号」としての受信信号を取得する。
【0035】
信号処理部72は、受信信号に対してパーシスタンス処理を行う。本実施の形態において、パーシスタンス処理とは、受信信号を所定のサンプリング間隔でサンプリングし、特定の1フレームのサンプル値と、それより前(過去)のサンプル値との間で平均化を行うフィルタリング処理を意味する。本実施の形態の医用画像生成装置1では、信号処理部72のパーシスタンス処理によって、超音波探触子101の動きに対する超音波画像の即応性(追従性)、超音波画像におけるS/N比の改善、および適度な残像効果の3つの効果を実現することができる。信号処理部72のパーシスタンス処理の詳細については後述する。
【0036】
図2に示すように、信号処理部72は、第1の信号処理部721と、第2の信号処理部722と、第3の信号処理部723と、を備える。第1の信号処理部721と、第2の信号処理部722と、第3の信号処理部723とは、それぞれ異なる性質の離散時間フィルターを有する。第1の信号処理部721は、第1の処理信号を生成する。第2の信号処理部722は、第2の処理信号を生成する。第3の信号処理部723は、第3の処理信号を生成する。第1の信号処理部721、第2の信号処理部722、第3の信号処理部723それぞれの詳細な説明は、後述する。
【0037】
統合部73は、第1の処理信号、第2の処理信号、および第3の処理信号のそれぞれに対して重み付けを行い、統合して統合信号を生成する。
図2に示すように、統合部73は、重み決定部731と、重み付き統合部732と、を有する。重み決定部731および重み付き統合部732の詳細な説明は、後述する。
【0038】
画像生成部74は、統合信号に基づいて、Cモード画像データを生成する。画像生成部74が生成したCモード画像データは、上述したように表示処理部8に入力され、これにより表示部102への超音波画像の表示が行われる(
図1参照)。
【0039】
[信号処理部72の詳細]
信号処理部72の詳細について説明する。上述したように、信号処理部72は、それぞれ異なる性質の離散時間フィルターを有する第1の信号処理部721と、第2の信号処理部722と、第3の信号処理部723と、を備える。
【0040】
図3は、第1の信号処理部721、第2の信号処理部722、および第3の信号処理部723のそれぞれが有する離散時間フィルターの性質について説明するための図である。
図3Aから
図3Dでは、信号処理部72に入力される受信信号のサンプル値が、所定の時間幅(サンプリング間隔)を有するインパルス入力として示されている。このサンプリング間隔は、例えば1フレームに対応する。
【0041】
図3Aは、入力信号の一例を示す模式図である。
図3Aから
図3Dにおいて、横軸は時間の経過を、縦軸は入力値の大きさを示している。
図3Aはインパルス入力であり、
図3Bから
図3Dはその応答特性を例示したものである。以下の説明において、サンプリング間隔に相当する、入力信号の時間幅(時間的長さ)を、tとする。
【0042】
図3Bは、
図3Aに示す入力信号に対する、第1の信号処理部721が出力するインパルス応答信号(第1の処理信号)を示す模式図である。すなわち、
図3Bに示す例において、第1の信号処理部721は、入力信号をそのまま応答信号として出力する。
【0043】
なお、本明細書において、第1、第2、第3の信号処理部721、722、723のそれぞれが出力するインパルス応答信号(第1、第2、第3の処理信号)の時間的な長さを、各処理信号の継続時間と記載する。
図3Bに示す例では、第1の信号処理部721が出力する第1の処理信号の継続時間t1は、入力信号の時間幅tと等しい。
【0044】
図3Cは、
図3Aに示す入力信号に対する、第2の信号処理部722が出力するインパルス応答信号(第2の処理信号)を示す模式図である。
図3Cに示す例では、第2の信号処理部722は、入力信号より値が小さい応答信号を、入力信号の4倍の出力時間だけ出力している。すなわち、
図3Cに示す例では、第2の信号処理部722が出力する第2の処理信号の継続時間t2は、入力信号の時間幅tの4倍となっている(t2=4t)。
【0045】
このようなフィルタリング処理は、例えば有限インパルス応答(Finite Impulse Response:FIR)型のフィルターを用いて、互いに時間的に近い数フレーム分の信号の移動平均を取ることにより、行われる。すなわち、第2の信号処理部722が有する第2の離散時間フィルターは、FIR型のフィルターである。
【0046】
図3Dは、
図3Aに示す入力信号に対する、第3の信号処理部723が出力するインパルス応答信号(第3の処理信号)を示す模式図である。
図3Dに示す例では、第3の信号処理部723は、応答信号を、入力信号の12倍の出力時間だけ出力している。すなわち、
図3Dに示す例では、第3の信号処理部723が出力する第3の処理信号の継続時間t3は、入力信号の時間幅tの12倍となっている(t3=12t)。
【0047】
このようなフィルタリング処理は、例えば無限インパルス応答(Infinite Impulse Response:IIR)型のフィルターを用いて、過去フレームの信号を最新フレームの信号に重みを付けて重ねていくことにより、行われる。すなわち、第3の信号処理部723が有する第3の離散時間フィルターは、IIR型のフィルターである。
【0048】
図3B~
図3Dに示す例では、第1の信号処理部721が有するインパルス応答である第1の処理信号の継続時間t1は、第2の信号処理部722が有するインパルス応答である第2の処理信号の継続時間t2より短い。また、第2の信号処理部722が有するインパルス応答信号である第2の処理信号の継続時間t2は、第3の信号処理部723が有するインパルス応答信号である第3の処理信号の継続時間t3より短い。このような継続時間を有する第1、第2、第3の処理信号は、それぞれ以下のような性質を有する。
【0049】
第1の処理信号は、第1の信号処理部721が、入力された最新の受信信号をそのまま出力した信号である。従って、第1の処理信号は、過去のフレームの影響を受けず、入力信号の値の変化が即座に反映される応答信号である。従って、第1の処理信号は、入力信号に対する即応性(追従性)が高い信号である。
【0050】
第2の処理信号は、第2の信号処理部722が、FIR型の第2の離散時間フィルターを用いて、最新フレームを含む数フレーム分の移動平均を第2の処理信号として出力する信号である。このように、最新フレームを含む数フレーム分の移動平均を取った信号であるため、第2の処理信号は、各フレームのノイズ成分が除去された信号である。従って、第2の処理信号は、S/N比が高い信号であると言える。
【0051】
第3の処理信号は、第3の信号処理部723が、IIR型の第3の離散時間フィルターを用いて、過去の出力信号をフィードバックしながら生成された信号である。このため、第3の処理信号は、適度に過去のフレームの情報を内包する信号となり、第3の処理信号を用いて生成された画像は、自然な残像効果を有する画像となる。
【0052】
このように、第1、第2、第3の信号処理部721、722、723によれば、それぞれ異なる性質を持つ第1、第2、第3の処理信号が生成され、出力される。
【0053】
なお、
図3B~
図3Dに示す例では、第1の処理信号の継続時間t1は入力信号の時間的長さtと等しく、第2の処理信号の継続時間t2がtの4倍であり、第3の処理信号の継続時間t3がtの12倍である場合について説明した。しかしながら、第1、第2、第3の信号処理部721、722、723が出力する第1、第2、第3の処理信号の継続時間は、
図3B~
図3Dに示す例には限定されない。第1、第2、第3の信号処理部721、722、723が出力する第1、第2、第3の処理信号が上記説明したそれぞれの性質を有するためには、以下の式(1)の条件が必要となる。
【0054】
t1<t2≦t3・・・(1)
【0055】
式(1)の条件によれば、第1の処理信号の継続時間t1は即応性を得るため最も継続時間が短く、第2の処理信号の継続時間t2はノイズを除去するために近傍数フレーム分の平均を出力するのでt1より長くなっている。第3の処理信号の継続時間t3は適度な残像効果を得るため、t2よりも長くなっている。なお、式(1)ではt2とt3とが同じ継続時間である場合も含まれているが、これはFIR型の第2の離散時間フィルターにより出力される第2の処理信号は、数フレーム分の平均値の後も複数フレームに亘って減衰信号を含んでもよく、その場合、第2の処理信号の継続時間t2が第3の処理信号の継続時間t3と同等になることがあるからである。
【0056】
第1、第2、第3の信号処理部721、722、723は、サンプリング間隔毎に上記第1、第2、第3の処理信号を生成し、統合部73に対して出力する。
【0057】
[統合部73の詳細]
次に、統合部73の詳細について説明する。
【0058】
(1)重み決定部731
重み決定部731には、上述した第1、第2、第3の信号処理部721、722、723が出力する第1、第2、第3の処理信号が入力される。重み決定部731は、サンプリング間隔毎の第1、第2、第3の処理信号に基づいて、処理信号に付与する重みの大きさに関する重み情報を、処理信号毎に生成する。
【0059】
上述したように、第1、第2、第3の処理信号は、それぞれ異なる性質を有する。重み決定部731は、例えば受信信号のサンプル値の大きさに基づいて、第1、第2、第3の処理信号に付与する重みの大きさを決定する。
【0060】
以下では、簡単のため、第1の処理信号と第2の処理信号とに付与する重みの大きさを、受信信号のサンプル値に基づいて決定する方法について説明する。
図4は、第1の処理信号に付与する重みと第2の処理信号に付与する重みとを決定する方法を説明するための図である。
【0061】
図4の横軸はサンプル値の大きさを、縦軸は重みの大きさをそれぞれ示している。
図4に示すノイズレベル上限値は、あらかじめ設定された設定値である。ノイズレベル上限値は、医用画像生成装置の外部から入力されてもよいし、例えば医用画像生成装置1が有する図示しない記憶部にあらかじめ記憶されていてもよい。
図4は、サンプル値の大きさがノイズレベル上限値より大きいか否かによって、第1の処理信号および第2の処理信号に付与する重みの大きさが変化する様子を示している。
【0062】
サンプル値の大きさがノイズレベル上限値より小さい場合、第1の処理信号に付与する重みよりも、第2の処理信号に付与する重みの方が大きくなるように、重みが決定される。このように、サンプル値の大きさが小さい場合、言い換えると受信信号の信号強度が小さい場合、受信信号におけるノイズ成分の寄与が比較的大きい。このため、S/N比が高い信号である第2の処理信号に付与する重みを第1の処理信号よりも大きく設定することにより、処理信号を用いて生成される画像のS/N比を改善し、画質が比較的よい画像とすることができる。
【0063】
一方、サンプル値の大きさが大きい場合、言い換えると受信信号の信号強度が大きい場合、受信信号におけるノイズ成分の寄与が比較的小さい。このため、第1の処理信号に付与する重みを第2の処理信号よりも大きく設定しても、処理信号を用いて生成される画像のS/N比はそれほど低下しない。この場合には、受信信号そのままの信号である第1の処理信号に付与する重みを大きくすることにより、処理信号を用いて生成される画像の、超音波探触子101の動きに対する即応性(追従性)を向上させることができる。
【0064】
なお、
図4に示す例では、簡単のため、第3の処理信号に付与する重みは省略して説明したが、実際には第3の処理信号に付与する重みについても、同様の考え方により決定されればよい。
【0065】
図4に示す例では、各処理信号に付与する重みの大きさを、受信信号のサンプル値の大きさに基づいて決定することについて説明したが、本開示の医用画像生成装置は必ずしもサンプル値の大きさのみに基づいて重みの大きさを決定しなくともよい。例えば医用画像生成装置1のユーザーが操作部2を介して入力した、ユーザーが希望する超音波画像の画質情報に基づいて、第1、第2、第3の処理信号に付与する重みの大きさを適宜調整可能としてもよい。
【0066】
なお、上述したように受信信号は複素数の形態を取るため、サンプル値の大きさは、複素信号の実部と虚部とを用いてL2ノルムで算出してもよいが、L1ノルムやL∞ノルムを用いた計算式で算出してもよい。これらの算出方法により、重みの大きさを決定する際の演算負荷を低減することができる。
【0067】
(2)重み付き統合部732
重み付き統合部732は、重み決定部731が処理信号毎に決定した重みの大きさに基づいて、第1の処理信号、第2の処理信号、第3の処理信号のそれぞれに重みを付与し、統合する。統合の結果生成される統合信号は、画像生成部74に入力される。統合信号は、超音波探触子101の動きに対する即応性が高い第1の処理信号、S/N比が高い第2の処理信号、および適度な残像効果を与える第3の処理信号が好適な重みで統合されて生成される。これにより、画像生成部74が生成するCモード画像データは、超音波探触子101の動きに対する即応性と、S/N比と、適度な残像効果とを、適度に併せ持つ画像となる。このため、超音波探触子101の動きに対する即応性と、S/N比と、適度な残像効果の3つの画像効果を同時に奏する画像を生成することができる。
【0068】
以上、本開示の実施の形態に係る医用画像生成装置1の構成および動作について説明した。以下では、医用画像生成装置1が取りうる変形例について説明する。
【0069】
<変形例1>
図5は、医用画像生成装置1の変形例1の構成を示す図である。
図5に示す変形例1では、医用画像生成装置1は、統合部73と画像生成部74との間にフレーム補間部75を有する。
【0070】
フレーム補間部75は、統合部73が出力した統合信号に対してフレーム補間を行う。これにより、画像生成部74が生成するCモード画像データのフレームレートを向上させることができる。統合信号は複素数の形態をとるため、フレーム補間により高い効果が得られやすい。
【0071】
なお、統合信号は、統合部73において複数の処理信号(第1から第3の処理信号)が統合された信号であるため、フレーム間で不連続性が生じる可能性がある。フレーム補間部75によれば、このような不連続性も補間することができるので、不連続性により生じうる画像の不自然さを解消することができる。
【0072】
<変形例2>
図6は、医用画像生成装置1の変形例2における、信号処理部72の構成を説明するための図である。変形例2では、第2の信号処理部722と第3の信号処理部723とが直列接続(カスケード接続)されており、第2の信号処理部722が出力した第2の処理信号が第3の信号処理部723に入力される。
【0073】
上述したように、第2の信号処理部722は、FIR型の第2の離散時間フィルターを用いてS/N比が高い第2の処理信号を生成する。第3の信号処理部723は、IIR型の第3の離散時間フィルターを用いて、最新フレームの入力信号に続いて、過去の複数フレームを、新しいフレームから順に、新しいフレームほど大きい重みを付けて可算した第3の処理信号を生成する。変形例2では、第3の信号処理部723が用いる入力信号を第2の処理信号とすることにより、例えば残像がノイズの中に消え入るような自然な画像を生成することができる。
【0074】
なお、
図6に示す変形例2では、第2の信号処理部722の後段に第3の信号処理部723を直列接続しているが、例えば第3の信号処理部723の後段に第2の信号処理部722を配置してもよい。この場合でも、変形例2と同様の効果が得られる。
【0075】
<変形例3>
図7は、医用画像生成装置1の変形例3における、信号処理部72の構成を説明するための図である。
図7に示す変形例3では、第3の信号処理部723が、サンプル値抑制部724を有する。サンプル値抑制部724は、第3の信号処理部723に入力された受信信号の、あるサンプル値の大きさが所定以上の値であったとき、当該サンプル値の大きさを抑制する構成である。なお、
図7では、第2、第3の信号処理部722、723がそれぞれ有する離散時間フィルターをそれぞれ第2のフィルター部、第3のフィルター部として示している。
【0076】
図8は、サンプル値抑制部724が、所定以上の値を有するサンプル値を抑制する様子を示す図である。
図8において、実線は入力されるサンプル値を、破線はサンプル値抑制部724によって抑制される前の出力値を、一点鎖線はサンプル値抑制部724によって抑制された後の出力値を、それぞれ示している。
図8に示すように、サンプル値抑制部724は、所定以上の大きさを持つサンプル値を、所定の大きさまで抑制する。
【0077】
このように、表現したい血流のS/N比に比べて、血流信号のダイナミックレンジが数十倍を超える広さになることもあり、そのように大きなサンプル値が入力された場合、例えば残像が残りすぎる等、不自然な画像が生成されることがある。サンプル値抑制部724によって一部の大きいサンプル値を抑制することで、このような不自然な画像が生成されることを防止することができる。
【0078】
なお、第3の信号処理部723において、最新のフレームに重畳させる過去フレームの減衰率(パーシスタンス係数)を制御することによっても、不自然な残像効果を有する画像の生成を防止することが可能である。しかしながら、減衰率を制御した場合、画像全体に影響が及んでしまうため、画像全体として不自然さが生じることがある。一方、医用画像生成装置1のサンプル値抑制部724によれば、値が大きい一部のサンプル値のみ抑制することができるので、不自然な残像効果をより適切に抑制することができる。
【0079】
なお、変形例3では、第3の信号処理部723がサンプル値抑制部724を有する場合について説明したが、例えば変形例2のように第2の信号処理部722と第3の信号処理部723とが直列接続される場合には、第2の信号処理部722がサンプル値抑制部724を有していてもよい。
【0080】
<変形例4>
図9は、医用画像生成装置1の変形例4における、信号処理部72の構成を説明するための図である。
図9に示す変形例4では、第2の信号処理部722が、MTIフィルター処理によって生じるオフセットを解消するオフセット補正部725を有する。
【0081】
MTI(Moving Target Indication)フィルター処理は、Cモード画像生成部7が血流速度や血流パワー等の情報を生成する際に行われる処理である。MTIフィルター処理は、例えば血流の動きと臓器等の動きとを区別するため、速度が速い信号を抽出する処理である。
【0082】
図10は、MTIフィルターの影響を受けた背景ノイズの領域(斜線部)を複素平面上に示した図である。MTIフィルターの影響により、
図10に示すように、本来原点の位置にあるべきノイズ成分に対応する複素信号実部方向の信号の重心が、負の方向に偏ることがある。以下の説明では、この偏り(ずれ)をオフセットと記載する。
【0083】
MTIフィルターにおいて処理される受信信号に含まれるノイズ成分が、
図9に示すようなMTIフィルターの影響を受けて実部の負の方向にずれた場合、ずれていない場合と比較して、画像生成部74において生成される画像にノイズ成分が多くなることがある。
【0084】
変形例4では、オフセット補正部725がこのオフセットを解消する(複素平面上で実部方向の正の方向にオフセットと等しい値を加算する)ことにより、第2の信号処理部722が出力する第2の処理信号におけるS/N比をより高めることができる。なお、オフセット補正部725によるオフセットの補正処理については、既知の技術を適用することができる。
【0085】
なお、変形例4では、第2の信号処理部722がオフセット補正部725を有する場合について説明したが、例えば変形例2のように第2の信号処理部722と第3の信号処理部723とが直列接続される場合には、第3の信号処理部723がオフセット補正部725を有していてもよい。
【0086】
<変形例5>
図11は、医用画像生成装置1の変形例5における、信号処理部72の構成を説明するための図である。
図11に示す変形例5では、第1の信号処理部721が第1の空間フィルター部726を有し、第2の信号処理部722が第2の空間フィルター部727を有する。
【0087】
第1の空間フィルター部726は、第1の信号処理部721への入力信号に対して空間フィルタリング処理を行う。また、第2の空間フィルター部727は、第2の離散時間フィルターが出力する信号に対して空間フィルタリング処理を行う。空間フィルタリング処理は、入力信号の隣接画素の画素値を考慮することで、特定画素の画素値を算出する手法である。ここで、第1の空間フィルター部726が有する空間周波数特性のうちの高周波成分より、第2の空間フィルター部727が有する空間周波数特性の高周波成分の方が小さくなるように設定されている。
【0088】
このような構成により、S/N比が高い第2の処理信号に対しては、超音波探触子101の動きに対する即応性が高い第1の処理信号に対してよりも、より強い空間平均処理を施すことになる。このような処理により、受信信号のサンプル値の大きさが比較的小さい場合でも、高周波成分をより強くフィルタリングすることにより、S/N比の向上を期待することができる。
【0089】
なお、変形例5では、第2の信号処理部722が第2の空間フィルター部727を有する場合について説明したが、例えば変形例2のように第2の信号処理部722と第3の信号処理部723とが直列接続される場合には、第3の信号処理部723が第3の空間フィルター部を有していてもよい。
【0090】
<変形例6>
図12は、医用画像生成装置1の変形例6の構成の一部を示す図である。変形例6では、信号処理部72の前段にモーションアーチファクト評価部76が追加されるとともに、第1、第2、第3の信号処理部721、722、723がそれぞれモーションアーチファクト抑制部728を有する。
図12では、信号取得部71、モーションアーチファクト評価部76、信号処理部72のみ図示し、それより後段の構成(統合部73、画像生成部74)については図示を省略している。
【0091】
モーションアーチファクトとは、例えば被検体の動き等によって画像上に生じるノイズである。モーションアーチファクトが生じると、血流情報に重畳して血流ではない信号成分が画像に反映されてしまうことがあるため、対策が要望されている。
【0092】
モーションアーチファクト評価部76は、受信信号のサンプル値毎に、モーションアーチファクトの影響を評価する。モーションアーチファクト評価部76によるモーションアーチファクトの評価方法については、既知の方法を適宜採用することができる。例えば、MTIフィルターの特定に対してサンプル値(複素信号)の位相角が小さすぎる場合には、モーションアーチファクトが多く生じていることを示すモーションアーチファクト情報を生成する。
【0093】
モーションアーチファクト評価部76は、サンプル値毎にモーションアーチファクトの評価結果を示すモーションアーチファクト情報を生成し、モーションアーチファクト抑制部728に出力する。
【0094】
モーションアーチファクト抑制部728は、モーションアーチファクト情報に基づいて、サンプル値毎にモーションアーチファクトを抑制する処理を行う。モーションアーチファクト抑制部728によるモーションアーチファクトを抑制する処理についても、既知の方法を適宜採用することができる。モーションアーチファクトを抑制する方法としては、例えばモーションアーチファクトの評価が高いサンプル値を対象サンプルとして抽出し、対象サンプルに対して選択的にサンプル値を抑制する係数を乗じることで、モーションアーチファクトを抑制する方法等が挙げられる。
【0095】
モーションアーチファクトが生じた場合、モーションアーチファクトの影響により、第1、第2、第3の信号処理部721、722、723による、上述した効果が得られなくなることがある。変形例6では、モーションアーチファクトを抑制する処理を行うことにより、信号処理部72が出力する処理信号が、上述した効果を十分に発揮することができるようになる。
【0096】
また、変形例6において、統合部73と画像生成部74との間に、モーションアーチファクト情報に基づいて、選択的な空間フィルタリング処理を行うモーションアーチファクト空間フィルター部をさらに配置してもよい。モーションアーチファクト抑制部728によりサンプル値の一部が抑制された場合に、画素の一部から情報が欠落し、画像に不自然さが生じることがあるが、モーションアーチファクト空間フィルター部によれば、欠落した画素を周囲の画素から補間することにより、視認性を向上させる効果が得られる。
【0097】
なお、モーションアーチファクト空間フィルター部は統合部73と画像生成部74の間ではなく、第1、第2、第3の信号処理部721、722、723にそれぞれ設けられてもよい。
【0098】
<その他の変形例>
上述した実施の形態では、本開示に係る医用画像生成装置の一例として、超音波探触子101と接続されて超音波診断装置100を構成する医用画像生成装置1について説明した。しかしながら、本開示に係る医用画像生成装置は、必ずしも超音波探触子101と接続されていなくてもよい。例えば、超音波探触子が生成した受信信号がHDD等の外部記憶装置にあらかじめ記憶されており、本開示に係る医用画像生成装置1は、受信部4を介して、このような外部記憶装置から有線または無線での通信により受信信号を取得してもよい。
【0099】
また、上述した実施の形態では、被検体の内部の構造を示す内部信号として、反射超音波の受信信号を例示したが、本開示はこれに限定されない。反射超音波による受信信号以外にも、被検体の内部の構造を示す信号であれば適宜採用することができる。
【0100】
また、上述した実施の形態において、本開示に係る医用画像生成装置はソフトウェア単体で構成されていてもよいことについて説明したが、このような場合、本開示に係る医用画像生成装置は例えばPC(Personal Computer)やタブレット端末、スマートフォン等の携帯端末上で動作するように構成されてもよい。
【0101】
また、上述した実施の形態においては、第1の信号処理部721は入力信号をそのまま出力する例について説明した。しかしながら、例えば第1の信号処理部も第2の信号処理部と同様に、FIRフィルターによるフィルタリング処理を行うようにしてもよい。なお、この場合でも、第1の信号処理部が出力する第1の処理信号の継続時間が、第2の信号処理部が出力する第2の処理信号よりも短くなるようにすることで、上記実施の形態と同様に、超音波探触子の動きに対する即応性が高い第1の処理信号を出力することができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、入力信号に基づいて画像を生成する医用画像生成装置に好適である。
【符号の説明】
【0103】
1 医用画像生成装置
2 操作部
3 送信部
4 受信部
5 Bモード画像生成部
6 ROI設定部
7 Cモード画像生成部
71 信号取得部
72 信号処理部
721 第1の信号処理部
722 第2の信号処理部
723 第3の信号処理部
724 サンプル値抑制部
725 オフセット補正部
726 第1の空間フィルター部
727 第2の空間フィルター部
728 モーションアーチファクト抑制部
73 統合部
731 重み決定部
732 重み付き統合部
74 画像生成部
75 フレーム補間部
76 モーションアーチファクト評価部
8 表示処理部
9 制御部
10 フレームデータ記憶部
100 超音波診断装置
101 超音波探触子
101a 振動子
102 表示部