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特許7535591コロナウイルス感染の処置のためのC5aのインヒビター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】コロナウイルス感染の処置のためのC5aのインヒビター
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240808BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
A61K39/395 U ZNA
A61P11/00
A61P29/00
A61P31/14
A61P1/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022558062
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-08
(86)【国際出願番号】 EP2020058878
(87)【国際公開番号】W WO2021190770
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】519356870
【氏名又は名称】インフラルクス・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】InflaRx GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】リーデマン,ニールス ツェー
(72)【発明者】
【氏名】グオ,レンフォン
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/234118(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/140304(WO,A1)
【文献】Emerg. Microbes Infect.,2018年,Vol.7, No.1 [77],pp.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/08
A61K 39/00-39/44
A61K 31/00-33/44
A61K 48/00
A61P 11/00
A61P 29/00
A61P 31/00
C07K 16/00-16/49
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルスでの感染によって引き起こされるか、またはコロナウイルスでの感染と関連する医学的状態の処置における使用のための、C5a活性のインヒビターを含む組成物であって、医学的状態が(i)肺炎、および/または(ii)発熱であり、前記C5a活性のインヒビターが、C5aに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであり、前記抗体またはその抗原結合フラグメントが、軽鎖および重鎖CDR1からCDR3の配列番号:6、8、10、12、14および16によるアミノ酸配列を含み;そして
前記コロナウイルスが、SARS-CoV-2である、
組成物。
【請求項2】
コロナウイルス感染に罹患している対象において炎症性応答の低下における使用のための、C5a活性のインヒビターを含む組成物であって、前記C5a活性のインヒビターが、C5aに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであり、前記抗体またはその抗原結合フラグメントが、軽鎖および重鎖CDR1からCDR3の配列番号:6、8、10、12、14および16によるアミノ酸配列を含み;そして
前記コロナウイルスが、SARS-CoV-2である、
組成物。
【請求項3】
コロナウイルス感染に罹患している対象において、肺機能および/または肝機能の改善における使用のための、C5a活性のインヒビターを含む組成物であって、前記C5a活性のインヒビターが、C5aに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであり、前記抗体またはその抗原結合フラグメントが、軽鎖および重鎖CDR1からCDR3の配列番号:6、8、10、12、14および16によるアミノ酸配列を含み;そして
前記コロナウイルスが、SARS-CoV-2である、
組成物。
【請求項4】
対象がCOVID-19に罹患している、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
処置が、以下の1つ以上:
-C反応性タンパク質の低下;
-発熱の低下;
-血液中のリンパ球数の増加;
-ALT/ASTの低下;および/または
-酸素指数の増加(PaO/FiO
をもたらす、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
該C5aのインヒビターが、ヒトC5aのアミノ酸配列NDETCEQRA(配列番号:2)およびSHKDMQL(配列番号:3)により形成される立体構造エピトープに特異的に結合し、そして
C5aのインヒビターが、配列番号:2によるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸および配列番号:3によるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸に結合する、
請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナウイルスでの感染によって引き起こされるか、またはコロナウイルスでの感染と関連するC5a活性医学的状態のインヒビターであって、医学的状態が好ましくは(i)肺炎、および/または(ii)発熱である、C5a活性医学的状態のインヒビターに関する。本発明は、また、コロナウイルス感染に罹患している対象において炎症性応答の低下におけるC5a活性のインヒビターの使用に関する。本発明は、さらに、コロナウイルス感染に罹患している対象において臓器機能、特に肺機能および/または肝機能の改善における使用のためのC5a活性のインヒビターに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
C5a
C5aは、補体活性化時にC5から切断される。補体活性化産物の中で、C5aは、最も強力な炎症性ペプチドの1つであり、広範囲の機能を有する(Guo RF, and Ward PA. 2005. Annu. Rev. Immunol. 23:821-852)。C5aは、11.2kDaの分子量を有する、健常ヒトの血液中に存在する糖タンパク質である。C5aのポリペプチド部分は、8.2kDaの分子量を構成する74アミノ酸を含み、一方、炭水化物部分は約3kDaを構成する。C5aは、高親和性C5a受容体(C5aRおよびC5L2)を介してその効果を発揮する(Ward PA. 2009. J. Mol. Med. 87(4):375-378)。C5aRは、7回膜貫通セグメントを有するG-タンパク質-共役受容体のロドプシン型ファミリーに属する;C5L2は、類似であるが、G-タンパク質-共役ではない。現在、生物学的応答がほとんどC5a-C5L2相互作用に対して見られないため、C5aはC5a-C5aR相互作用を主に介してその生物学的機能を発揮すると考えられている。C5aRは、好中球、好酸球、好塩基球、および単球を含む骨髄細胞、および多くの臓器、とりわけ肺および肝臓における非骨髄細胞上に広範に発現され、C5a/C5aRシグナル伝達の重要性を示す。C5aは、種々の生物学的機能を有する(Guo and Ward, 2005, 上記)。C5aは、好中球に対する強力な化学誘引物質であり、また単球およびマクロファージに対する走化性活性を有する。C5aは、好中球において酸化的破壊(O消費)を引き起こし、食作用および粒状酵素の放出を増強する。C5aはまた、血管拡張薬であることが見いだされている。C5aは、種々の細胞型からのサイトカイン発現の調節に関与し、好中球における接着分子発現を増強することが示されている。C5aは、炎症性応答連鎖の上流において機能する炎症性応答に対する強力なインデューサーおよびエンハンサーであるため、疾患背景において過剰に産生されるとき、高度に有害となることが見いだされている。高用量のC5aは、好中球についての非特異的走化性「脱感作」を引き起こし、それにより広範な機能障害を引き起こすことができる(Huber-Lang M et al. 2001. J. Immunol. 166(2):1193-1199)。
【0003】
C5aは、多くの炎症性応答を引き起こすことが報告されている。例えば、C5aは、ヒト白血球からの、炎症性サイトカイン、例えばTNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8、およびマクロファージ遊走阻止因子(MIF)の合成および放出を刺激する(Hopken U et al. 1996. Eur J Immunol 26(5):1103-1109; Riedemann NC et al. 2004. J Immunol 173(2):1355-1359; Strieter RM et al. 1992. Am J Pathol 141(2):397-407)。C5aは、肺胞上皮性細胞において、TNF-α、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)-2、サイトカイン誘発好中球走化性因子(CINC)-1、およびIL-1βの生産においてLPSと強い相乗効果を産生する(Riedemann NC et al. 2002. J. Immunol. 168(4):1919-1925; Rittirsch D et al. 2008. Nat Rev Immunol 8(10):776-787)。
【0004】
C5aの遮断はまた、敗血症の実験モデルおよびKlos A. et al(Klos A. et al. 2009. Mol Immunol 46(14):2753-2766)およびAllegretti M. et al(Allegretti M et al. 2005. Curr Med Chem 12(2):217-236)に部分的にレビューされている様々な種において炎症、例えば虚血/再潅流障害、腎臓疾患、移植片拒絶反応、マラリア、リウマチ性関節炎、感染性腸疾患、炎症性肺疾患、狼瘡様自己免疫疾患、神経変性疾患などの他の多くのモデルにおいて保護することが証明されている。さらに、最近、C5aの遮断がマウスの腫瘍モデルにおいて強い治療利益を示すことを見いだされている(Markiewski MM et al. 2008. Nat Immunol 9(11):1225-1235)。
【0005】
コロナウイルス感染
過去数十年間に世界中で様々なコロナウイルスが発生し、その中でも特に3種類のウイルスが高い死亡率を有する疾患を引き起こした。重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、および最近のコロナウイルス疾患2019(COVID-19)。これらの流行の原因となったコロナウイルスは、それぞれSARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2であった。
【0006】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)としても知られる2019年新型コロナウイルスによって引き起こされるコロナウイルス疾患2019(COVID-19)の集団発生が2019年12月に中国湖北省武漢市で初めて確認され、そして以来、公衆衛生上の重大な脅威となっている[Chen et al. 2020; medRxiv, 2020: p. 2020.02.16.20023903; Chen et al [2] 2020, The Lancet, 2020. 395(10223): p. 507-513; Yu et al 2020, Microbes and Infection, 2020. 22(2): p. 74-79]。2020年3月23日時点の中国における症例致死率は4.02%であり、湖北省での致死率4.66%と湖北省以外での致死率0.89%の両方を占めている。湖北省以外での致死率が大幅に低いのは、主に早期診断やタイムリーな改善された医療を含む、医療面での改善に起因すると考えられる[Zhao et al, medRxiv, 2020: p. 2020.03.17.20037572]。中国以外の国においても持続的な感染が起きている。COVID-19の感染が広がり続けると、様々なレベルの医療に対する要求が急増する。したがって、致死率を効果的に下げるために、重症化への一般的な(軽症の)ウイルス性肺炎の発達の予防および重症状態またはARDSへの重症肺炎の発達の予防が医療の焦点となるはずである。
【0007】
COVID-19は、以前に発生した他の致死性コロナウイルス感染症、重症急性呼吸器症候群(SARS)および中東呼吸器症候群(MERS)と比較して比較的高い伝達性を有する主な要因である可能性がある、長い非症状潜伏期間の特徴を示すことができる。COVID-19患者は、典型的に、インフルエンザのような症状、例えば発熱または乾いた咳および息切れを含む下気道疾患の徴候を示す[Chen et al [2] supra; Chang et al JAMA, 2020; Wang et al. AMA, 2020; Xiao et al Journal of Medical Virology, 2020]。米国疾病対策予防センター(CDC)の分析によると、症状が出るまでの潜伏期間は、およそウイルス暴露後から2~14日と推定されている。重症型への疾患の進行について、それは、しばしば、肺、心臓、肝臓および凝固系などを含む複数の臓器の機能に影響を及ぼす[Liu et al medRxiv, 2020: p. 2020.02.10.20021584; Fan et al. medRxiv, 2020: p. 2020.02.26.20026971; Tang et al Journal of Thrombosis and Haemostasis, 2020.]。そのため、典型的に、他のウイルス性肺炎による敗血症と同様に、呼吸不全および多臓器機能障害によって死が引き起こされる[Zhang et al medRxiv, 2020: p. 2020.02.26.20028191]。敗血症およびARDSは、発症から2週間において発症することが多く;重症化すると3週間において生命を賭けた戦いになることが多い[Zhou et al The Lancet, 2020]。
【0008】
蓄積されたデータは、高齢、基礎的な健康状態(例えば、心血管問題)および低下した免疫系が、より重症型の疾患およびより悪い結果の発生の可能性についての重要な危険因子であることを示している[Huang et al The Lancet, 2020. 395(10223): p. 497-506]。COVID-19と並んで高い死亡率と関連する上位3つの併存疾患は、高血圧、糖尿病および冠動脈性心臓疾患である[Zhou et al supra]。COVID-19患者、とりわけ上記危険因子または併存疾患を有する患者に対する安全で効果的な処置戦略を開発することが急務となっている。
【0009】
COVID-19は人類、とりわけ高齢者にとって深刻な健康上の脅威となっている。COVID-19は、ウイルス性炎症および免疫介在性傷害のデュアルの作用によって特徴づけることができる。ここに開示される前臨床および臨床の知見に基づき、我々はコロナウイルス感染、特にCOVID-19の進行に伴う病原性「補体嵐(complement storm)」現象を提唱している。抗C5a療法による遮断は、動物モデルにおいて有効な治療効果およびCOVID-19患者において予備的試験を提供する。抗-C5aアプローチは、疾患の進行/悪化する軽症型ならびに重症型を有する患者においてCOVID-19と闘うことにおいて生存可能である戦略である。
【0010】
本発明の根底にある技術的問題
本発明の根底にある問題の一つは、新規なSARS-CoV2ウイルスによって引き起こされる肺炎の処置のための治療アプローチの提供であった。
【0011】
これまで、コロナウイルス、ましてや高い死亡率の株SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2によって引き起こされる肺炎の処置において抗-C5a処置が有効であるか否かは検討されていなかった。
【0012】
本願の発明者らは、H7N9ウイルス誘導性の重度の肺炎の処置における補体阻害の治療的可能性を探るために、ヒトC5aに対する高度に強力な中和mAbであるIFX-1を適用した。我々の知る限り、コロナウイルス感染に罹患している対象における肺炎および関連症状の抗-C5a処置が試験されたのは、これが初めてである。
【0013】
以下の実験セクションに開示されているデータは、過剰な補体活性化が、SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2を含む様々なコロナウイルス型の感染において起こることを実証している。
【0014】
本発明者らは、SARS-CoV-2感染ヒト患者における抗-C5a処置が、COVID-19の主要症状を実質的に減じた、すなわち発熱の低下、リンパ球数の改善、CRP値の低下、および血液酸素化およびALT/AST値の正常化によって見られるように、臓器機能、特に肺および肝機能の改善。これらの効果はすべて、抗-C5a処置の適用により速やかに解消されたことが確認された。
【0015】
さらに、本発明者らは、異なるコロナウイルス株への感染がどのように大規模な補体活性化をもたらすかについての機構的洞察を提供する多くの実験を開示する。
【0016】
これらの結果は、補体阻害、特にC5a阻害が、コロナウイルスによる疾患、特にコロナウイルスによる呼吸器症候群の処置のための非常に有望な戦略であることを示唆する。
【0017】
上記概観は、本発明と関連する全ての利点および本発明によって解決される全ての課題を必ずしも記載しない。
【発明の概要】
【0018】
発明の概要
第1の局面において、本発明は、コロナウイルスでの感染によって引き起こされるか、またはコロナウイルスでの感染と関連する医学的状態の処置における使用のためのC5a活性のインヒビターであって、医学的状態が好ましくは(i)肺炎、および/または(ii)発熱である、C5a活性のインヒビターに関する。
【0019】
第2の局面において、本発明は、コロナウイルス感染に罹患している対象において炎症性応答の低下における使用のためのC5a活性のインヒビターに関する。
【0020】
第3の局面において、本発明は、コロナウイルス感染に罹患している対象において、臓器機能、特に肺機能および/または肝機能の改善における使用のためのC5a活性のインヒビターに関する。
【0021】
発明の詳細な説明
定義
本発明を以下に詳細に説明する前に、本発明が、変化できるとき本願明細書に記載されている特定の方法論、プロトコールおよび試薬に限定されないことを理解されたい。本願明細書において使用される用語が、特定の態様のみを説明する目的のためであり、添付の特許請求の範囲のみによって限定される本発明の範囲を限定することを意図しないことも理解されたい。他に定義されていない限り、本願明細書において使用される全ての専門および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0022】
好ましくは、本願明細書において使用される用語は、“A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)”, Leuenberger, H.G.W, Nagel, B. and Kolbl, H. eds. (1995), Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland)に記載されているとおりに定義される。本願明細書および添付の特許請求の範囲を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、用語「含む」、および「含み」および「含むこと」などの変形は、記載されている整数もしくは工程または整数もしくは工程の群の包含を意味するが、あらゆる他の整数もしくは工程または整数もしくは工程の群の除外をされないと理解される。
【0023】
いくつかの文書(例えば:特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の説明書、指示書、GenBank受入番号配列寄託など)は、本願明細書の本文を通して引用されている。本願明細書において、本発明が以前の発明の理由でかかる記載に先立つ権利がないという承認として解釈されるべきでない。本願明細書に引用される文書のいくつかは、「出典明示により包含させる」として特徴付けられる。かかる組み込まれた文献の定義または教示と本願明細書に引用される定義または教示間で矛盾がある場合、本願明細書の本文が優先される。
【0024】
配列:本願明細書において言及される全ての配列は、添付の配列表に記載されており、その全体の内容および記載と共に、本願明細書の一部である。
【0025】
本発明の文脈において、C5aは、特にヒトC5aを指す。ヒトC5aは、以下のアミノ酸配列を有する74個のアミノ酸ペプチドである:
【化1】
(配列番号:1)
【0026】
ヒトC5のアミノ酸配列は、受入番号UniProtKB P01031(CO5_HUMAN)の下に見ることができる。
【0027】
本願明細書において使用されるとき、「C5a活性のインヒビター」なる用語は、C5aの活性を何らかの形で減少させるあらゆる化合物を指す。この活性減少は、C5aの濃度を直接的または間接的に低下させることによって、またはC5aの活性を減少させることによって、またはその受容体の1つ以上に対する(例えばC5aRまたはC5L2に対する)その効果を発揮することからC5aを防止することによって、またはC5aの1つ以上の受容体の濃度または活性を減少させることによって、なし遂げることができる。
【0028】
本発明の文脈において、「C5a受容体」なる表現は、細胞表面上のあらゆる可能性のあるC5a結合リガンド、とりわけC5aが該受容体に結合し、反応(例えば受容体の活性化または阻害)を引き起こす可能性があるあらゆる受容体タンパク質を指す。「C5a受容体」なる用語は、特に、2つの受容体C5aRおよびC5L2を含む。C5aRの代替名は、C5aR1およびCD88である。C5L2の代替名は、C5aR2である。
【0029】
本発明の特定の態様は、(例えばC5a受容体に結合することによって、またはC5a受容体の発現を遮断することによって)C5a受容体を妨げるC5aのインヒビターを指す。これらの文脈において、「C5a受容体」なる用語は、(i)C5aRまたは(ii)C5L2または(iii)C5aRおよびC5L2の両方を指すことができる。これは、C5aのいくつかのインヒビターはC5a受容体の1つのみ(すなわちC5aRまたはC5L2のいずれか)を妨げるが、一方、C5aの他のインヒビターはC5a受容体の両方(すなわちC5aRおよびC5L2の両方)を妨げるということを意味する。
【0030】
本発明の文脈において、「タンパク質リガンド」なる表現は、別の分子に特異的に結合することができる、分子の総サイズにかかわりなく、ペプチド結合によって連結されるアミノ酸から構成されるあらゆる分子を指す。したがって、「タンパク質リガンド」なる表現は、オリゴペプチド(100アミノ酸)およびポリペプチド(>100アミノ酸)を含む。「タンパク質リガンド」なる表現はまた、それらのサイズにかかわりなく、環状ペプチドを含む。「タンパク質リガンド」なる表現は、特に、抗体、抗体の抗原結合フラグメント、抗体様タンパク質、およびペプチド模倣物を含む。
【0031】
本願明細書において使用されるとき、第1の化合物(例えばタンパク質リガンドまたは核酸アプタマー)は、1mM以下、好ましくは100μM以下、好ましくは50μM以下、好ましくは30μM以下、好ましくは20μM以下、好ましくは10μM以下、好ましくは5μM以下、さらに好ましくは1μM以下、さらに好ましくは900nM以下、さらに好ましくは800nM以下、さらに好ましくは700nM以下、さらに好ましくは600nM以下、さらに好ましくは500nM以下、さらに好ましくは400nM以下、さらに好ましくは300nM以下、さらに好ましくは200nM以下、よりさらに好ましくは100nM以下、よりさらに好ましくは90nM以下、よりさらに好ましくは80nM以下、よりさらに好ましくは70nM以下、よりさらに好ましくは60nM以下、よりさらに好ましくは50nM以下、よりさらに好ましくは40nM以下、よりさらに好ましくは30nM以下、よりさらに好ましくは20nM以下、およびよりさらに好ましくは10nM以下の第2の化合物への解離定数Kを有するとき、第2の化合物(例えば標的タンパク質)に「結合する」と考えられる。
【0032】
本発明による「結合」なる用語は、好ましくは、特異的結合に関する。「特異的結合」は、化合物(例えばタンパク質リガンドまたは核酸アプタマー)が、別の標的への結合と比較して特異的である標的、例えばエピトープにより強く結合することを意味する。化合物は、第2の標的に対する解離定数よりも低い解離定数(K)を有する第1の標的に結合するとき、第2の標的と比較して第1の標的により強く結合する。好ましくは、化合物が特異的に結合する標的に対する解離定数(K)は、化合物が特異的に結合しない標的に対する解離定数(K)よりも、10倍以上、好ましくは20倍以上、さらに好ましくは50倍以上、よりさらに好ましくは100倍、200倍、500倍または1000倍以上低い。
【0033】
本願明細書において使用されるとき、「K」(通常「mol/L」において測定される、ときどき「M」として略される)なる用語は、化合物(例えばタンパク質リガンド)と標的分子間の特定の相互作用の解離平衡定数を指すことを意図される。
【0034】
化合物の結合親和性を決定するための、すなわち解離定数Kを決定するための方法は、当業者に知られており、例えば当分野で知られている以下の方法から選択することができる:表面プラズモン共鳴(SPR)ベースの技術、バイオレイヤー干渉法(BLI)、酵素免疫吸着法アッセイ(ELISA)、フローサイトメトリー、等温滴定熱量計(ITC)、分析超遠心分離、放射免疫測定法(RIAまたはIRMA)および増強化学発光(ECL)。典型的に、解離定数Kは、20℃、25℃、30℃、または37℃で決定される。他に具体的に示されていないとき、本願明細書に記載されるK値は、ELISAによって20℃で決定される。
【0035】
抗原性決定因子としても知られている「エピトープ」は、免疫系により、具体的には抗体、B細胞、またはT細胞により認識される高分子の一部である。本願明細書において使用されるとき、「エピトープ」は、本願明細書に記載されている化合物(例えば抗体またはその抗原結合フラグメント)に結合することができる高分子の一部である。この文脈において、「結合」なる用語は、好ましくは特異的結合に関する。エピトープは、通常、分子、例えばアミノ酸または糖側鎖の化学的に活性な表面グループからなり、通常、特定の三次元構造的特性、ならびに特定の電荷特性を有する。立体および非立体構造エピトープは、後者ではなく前者への結合は変性溶媒の存在下で喪失されることにおいて区別することができる。
【0036】
「パラトープ」は、エピトープに結合する抗体の一部である。本発明の文脈において、「パラトープ」は、エピトープに結合する本願明細書に記載されている化合物(例えばタンパク質リガンド)の一部である。
【0037】
「抗体」なる用語は、一般的に、ジスルフィド結合によって相互連結された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質、またはその抗原結合部分を指す。「抗体」なる用語はまた、抗体の、特に本願明細書に記載されている抗体、例えば原核生物において発現される抗体、非グリコシル化抗体、真核生物(例えばCHO細胞)において発現される抗体、グリコシル化抗体、および以下に記載されるあらゆる抗原結合抗体フラグメントおよび誘導体の全ての組換え形態を含む。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(本願明細書においてVHまたはVと省略される)および重鎖定常領域で構成される。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(本願明細書においてVLまたはVと省略される)および軽鎖定常領域で構成される。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存されている領域で散在される相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分化することができる。それぞれのVHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRで構成され、アミノ-末端からカルボキシ-末端に以下の順番において配置される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の種々の細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の最初の成分(C1q)を含む宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0038】
本願明細書において使用されるとき、抗体の「抗原結合フラグメント」なる用語(または単に「結合部分」)は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上のフラグメントを指す。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体のフラグメントによって行うことができることが示されている。抗体の「抗原結合部分」なる用語内に包含される結合フラグメントの例は、(i)VL、VH、CLおよびCHドメインからなる一価のフラグメントであるFabフラグメント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結される2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメントであるF(ab’)フラグメント;(iii)VHおよびCHドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al., (1989) Nature 341: 544-546);(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、および(vii)所望により合成リンカーによって連結されてもよい2つまたはそれ以上の単離されたCDRの組合せを含む。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインであるVLおよびVHが別々の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換え方法を使用して、VLおよびVH領域が対になって一価の分子を形成する単一のタンパク質鎖として作ることが可能である合成リンカーによって連結することができる(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えば、Bird et al. (1988) Science 242: 423-426;およびHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883参照)。かかる一本鎖抗体はまた、抗体の「抗原結合フラグメント」なる用語内に包含されることを意図される。さらなる例は、(i)免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドに融合される結合ドメインポリペプチド、(ii)ヒンジ領域に融合される免疫グロブリン重鎖CH2定常領域、および(iii)CH2定常領域に融合される免疫グロブリン重鎖CH3定常領域、を含む結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質である。結合ドメインポリペプチドは、重鎖可変領域または軽鎖可変領域であってよい。結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質は、US 2003/0118592およびUS 2003/0133939にさらに記載されている。これらの抗体フラグメントは、当業者に知られている慣用の技術を使用して得られ、フラグメントは、無傷な抗体と同じ様式において有用性についてスクリーニングされる。「抗原結合フラグメント」のさらなる例は、単一のCDRに由来する、いわゆるマイクロ抗体である。例えば、Heap et al., 2005は、HIV-1のgp120エンベロープ糖タンパク質に対する抗体の重鎖CDR3に由来する17アミノ酸残基マイクロ抗体を記載している(Heap C.J. et al. (2005) Analysis of a 17-amino acid residue, virus-neutralizing microantibody. J. Gen. Virol. 86:1791-1800)。他の例は、好ましくはコグネイトフレームワーク領域によって、互いに融合される2つまたはそれ以上のCDR領域を含む小さい抗体模倣物を含む。コグネイトV FR2によって連結されるV CDR1およびV CDR3を含むかかる小さい抗体模倣物は、Qiu et al., 2007によって記載されている(Qiu X.-Q. et al. (2007) Small antibody mimetics comprising two complementary-determining regions and a framework region for tumor targeting. Nature biotechnology 25(8):921-929)。
【0039】
したがって、本願明細書において使用されるとき、「抗体またはその抗原結合フラグメント」なる用語は、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む分子を指す。例えば、標的分子または標的エピトープに特異的に結合するファージディスプレイを含む、技術を介して選択される免疫グロブリン様タンパク質も包含される。本発明の免疫グロブリン分子は、免疫グロブリン分子のあらゆるタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、好ましくはIgG2aおよびIgG2b、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスであってよい。
【0040】
本発明において使用可能な抗体およびその抗原結合フラグメントは、鳥および哺乳動物を含むあらゆる動物起源由来であってよい。好ましくは、抗体またはフラグメントは、ヒト、チンパンジー、齧歯動物(例えばマウス、ラット、モルモット、またはウサギ)、ニワトリ、シチメンチョウ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ウシ、ウマ、ロバ、ネコ、またはイヌ起源からのものである。抗体がヒトまたはマウス起源であることが特に好ましい。本発明における使用のための抗体はまた、1つの種、好ましくはヒトに由来する抗体定常領域が、別の種、例えばマウスに由来する抗原結合部位と組み合わせられているキメラ分子を含む。さらに、本発明の抗体は、非ヒト種に由来する(例えばマウスに由来する)抗体の抗原結合部位が、ヒト起源の定常およびフレームワーク領域と組み合わせられているヒト化分子を含む。
【0041】
本願明細書に例示されるとき、本発明の抗体は、抗体を発現するハイブリドーマから直接的に得ることができるか、または宿主細胞(例えば、CHO細胞、またはリンパ球細胞)においてクローニングさせるおよび組換え的に発現させることができる。宿主細胞のさらなる例は、微生物、例えば大腸菌、および真菌、例えば酵母である。あるいは、それらは、トランスジェニック非ヒト動物または植物において組換え的に生産することができる。
【0042】
「キメラ抗体」なる用語は、重鎖および軽鎖のアミノ酸配列のそれぞれの1つの部分が特定の種に由来するかまたは特定のクラスに属する抗体において対応する配列と同種であるが、鎖の残りのセグメントが別の種またはクラスにおいて対応する配列と同種である抗体を指す。一般的には、軽鎖および重鎖の両方の可変領域は哺乳動物の1つの種に由来する抗体の可変領域を模倣するが、定常部分は別の種に由来する抗体の配列と同種である。かかるキメラ形態の1つの明確な利点は、例えばヒト細胞調製物に由来する定常領域と組み合わせて、非ヒト宿主生物からの容易に利用できるB細胞またはハイブリドーマを使用して、可変領域が現在知られている供給源に便利に由来することができることである。可変領域が調製の容易さの利点を有し、特異性が供給源によって影響されないが、ヒトである定常領域は、非ヒト供給源からの定常領域よりも、抗体が注射されるときヒト対象から免疫応答を引き起こす可能性が低い。しかしながら、定義は、この特定の例に限定されない。
【0043】
「ヒト化抗体」なる用語は、非ヒト種からの免疫グロブリンに実質的に由来する抗原結合部位を有し、分子の残りの免疫グロブリン構造がヒト免疫グロブリンの構造および/または配列に基づく、分子を指す。抗原結合部位は、定常ドメイン上に融合される完全な可変ドメインまたは可変ドメインにおいて適当なフレームワーク領域上にグラフトされる相補性決定領域(CDR)のみのいずれかを含んでよい。抗原結合部位は、野生型であってもよく、または1つ以上のアミノ酸置換によって修飾されてもよく、例えばより密接にヒト免疫グロブリンに似るように修飾されてもよい。ヒト化抗体のいくつかの形態は、全てのCDR配列(例えばマウス抗体からの全ての6つのCDRを含むヒト化マウス抗体)を保存している。他の形態は、起源抗体に対して変化されている1つ以上のCDRを有する。
【0044】
抗体をヒト化するための種々の方法は、Almagro & Fransson, 2008, Frontiers in Bioscience, 13:1619-1633(その内容を出典明示によりその全体において本願明細書に包含させる)により説明されるとおり、当業者に知られている。Almagro & Franssonによるレビュー記事は、国際特許出願WO 2011/063980 A1の国内段階事項であるUS 2012/0231008 A1において簡潔に要約される。US 2012/0231008 A1およびWO 2011/063980 A1の内容を出典明示によりそれら全体において本願明細書に包含させる。
【0045】
本願明細書において使用されるとき、「ヒト抗体」は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する抗体を含む。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでランダムまたは部位特異的突然変異誘発またはインビボで体細胞突然変異によって導入される突然変異)を含んでよい。本発明のヒト抗体は、例えばKucherlapati & Jakobovitsによる米国特許第5,939,598号に記載されているように、ヒト免疫グロブリンライブラリーまたは1つ以上のヒト免疫グロブリンに対してトランスジェニック動物から単離され、内因性免疫グロブリンを発現しない、抗体を含む。
【0046】
本願明細書において使用される「モノクローナル抗体」なる用語は、単一の分子組成物の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す。1つの態様において、モノクローナル抗体は、不死化細胞に融合された非ヒト動物、例えばマウスから得られるB細胞を含むハイブリドーマにより生産される。
【0047】
本願明細書において使用されるとき、「組換え抗体」なる用語は、組換え手段によって調製、発現、作成または単離される全ての抗体、例えば、(a)免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックまたはトランス染色体である動物(例えば、マウス)またはそこから調製されるハイブリドーマから単離される抗体、(b)例えばトランスフェクトーマから、抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から単離される抗体、(c)組み換えコンビナトリアル抗体ライブラリーから単離される抗体、および(d)免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む他の手段によって調製、発現、作成または単離される抗体を含む。
【0048】
本願明細書において使用されるとき、「トランスフェクトーマ」なる用語は、抗体を発現する組換え真核宿主細胞、例えばCHO細胞、NS/0細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、植物細胞、または酵母細胞を含む真菌を含む。
【0049】
本願明細書において使用されるとき、「異種抗体」は、かかる抗体を生産するトランスジェニック生物に関して定義される。この用語は、トランスジェニック生物からならない生物体において見いだされたものに対応し、一般的にトランスジェニック生物以外の種に由来するアミノ酸配列を有する抗体またはコードする核酸配列を指す。
【0050】
本願明細書において使用されるとき、「ヘテロハイブリッド抗体」は、異なる生物起源の軽鎖および重鎖を有する抗体を指す。例えば、マウス軽鎖を伴うヒト重鎖を有する抗体は、ヘテロハイブリッド抗体である。
【0051】
したがって、本発明における使用のための適当な「抗体およびその抗原結合フラグメント」は、限定はしないが、ポリクローナル、モノクローナル、一価、二重特異性、ヘテロコンジュゲート、多特異的、組換え、異種、ヘテロハイブリッド、キメラ、ヒト化(特にCDRグラフト化)、脱免疫化、またはヒト抗体、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)フラグメント、Fab発現ライブラリーによって生産されるフラグメント、Fd、Fv、ジスルフィド連結Fv(dsFv)、一本鎖抗体(例えばscFv)、ダイアボディまたはテトラボディ(Holliger P. et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90(14), 6444-6448)、ナノボディ(単一ドメイン抗体としても知られている)、抗-イディオタイプ(抗-Id)抗体(例えば、本願明細書に記載されている抗体に対する抗-Id抗体を含む)、および上記のいずれかのエピトープ結合フラグメントを含む。
【0052】
本願明細書に記載されている抗体は、好ましくは、単離されている。本願明細書において使用される「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない(例えば、C5aに特異的に結合する単離された抗体は、C5a以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)抗体を指すことを意図する。しかしながら、ヒトC5aのエピトープ、アイソフォームまたは変異体に特異的に結合する単離された抗体は、他の関連抗原、例えば他の種からの抗原(例えばC5a種ホモログ、例えばラットC5a)に対して交差反応性を有してもよい。さらに、単離された抗体は、他の細胞物質および/または化学物質を実質的に含まなくてもよい。本発明の1つの態様において、「単離された」モノクローナル抗体の組合せは、異なる特異性を有し、明確な組成物において組み合わせられている抗体に関する。
【0053】
物体に適用されるとき、本願明細書において使用されるとき、「天然」なる用語は、物体が自然界で見つけることができるという事実を指す。例えば、自然界で供給源から単離することができる生物体(ウイルスを含む)において存在する、および研究室においてヒトによって意図的に修飾されていない、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は、天然である。
【0054】
本願明細書において使用されるとき、「核酸アプタマー」なる用語は、標的分子に結合するように、インビトロ選択またはSELEX(指数関数的増加によるリガンドの系統的展開)の繰り返し処理を介して操作されている核酸分子を指す(説明のために、参照:Brody E.N. and Gold L. (2000), Aptamers as therapeutic and diagnostic agents. J. Biotechnol. 74(1):5-13)。核酸アプタマーは、DNAまたはRNA分子であってよい。アプタマーは、修飾、例えば修飾ヌクレオチド、例えば2’-フッ素-置換ピリミジンを含んでよく、および/または標準D-リボース単位(またはD-デオキシリボース単位)の代わりにL-リボース単位(またはL-デオキシリボース)を有する1つ以上のヌクレオチドを含んでよい。
【0055】
本願明細書において使用されるとき、「抗体様タンパク質」なる用語は、標的分子に特異的に結合するように、(例えばループの突然変異誘発により)操作されているタンパク質を指す。一般的に、かかる抗体様タンパク質は、タンパク質スカフォールドに両末端で付着された少なくとも1つの可変ペプチドループを含む。この二重構造の制限は、抗体に匹敵するレベルに抗体様タンパク質の結合親和性を顕著に増加させる。可変ペプチドループの長さは、一般的に、10から20アミノ酸からなる。スカフォールドタンパク質は、良い溶解度特性を有するあらゆるタンパク質であってよい。好ましくは、スカフォールドタンパク質は、小さい球状のタンパク質である。抗体様タンパク質は、限定されないが、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アンチカリン、アビマー、DARPins(設計されたアンキリン反復タンパク質)、ファイノマー、クニッツドメインペプチド、およびモノボディを含む(説明のために、参照:Binz H.K. et al. (2005) Engineering novel binding proteins from nonimmunoglobulin domains. Nat. Biotechnol. 23(10):1257-1268)。抗体様タンパク質は、突然変異体の大型ライブラリーから得ることができ、例えば大型ファージディスプレイライブラリーからパニングすることができ、および、通常の抗体と同様に単離することができる。また、抗体様結合タンパク質は、球状のタンパク質における表面に暴露された残基のコンビナトリアル突然変異誘発により得ることができる。抗体様タンパク質は、ときどき、「ペプチドアプタマー」または「抗体模倣物」として称される。
【0056】
本願明細書において使用されるとき、「ペプチド模倣物」は、ペプチドを模倣するように設計された小さいタンパク質様鎖である。ペプチド模倣物は、一般的に、分子の特性を変更するために既存のペプチドの修飾から生じる。例えば、それらは、分子の安定性または生物学的活性を変化させるように修飾から生じ得る。これは、既存のペプチドからの薬物様化合物の開発において役割を有することができる。これらの修飾は、天然に起こらないペプチドへの変化を含む(例えば変更された骨格および非天然アミノ酸の取り込み)。
【0057】
本発明の文脈において、「小分子」なる用語は、2kDa以下の分子量、好ましくは1kDa以下の分子量を有する分子を指す。「小分子」なる用語は、特に、オリゴペプチドでもオリゴヌクレオチドでもない分子を指す。
【0058】
本発明の文脈において、(例えば、「該抗体またはその抗原結合フラグメントは、C5aへの結合について(a)の下に示される抗体の1つと競合する」なる表現において)、「Aは、Cへの結合についてBと競合する」なる一般的な表現は、位置Aに列挙された化合物の結合特性を定義するために使用される。該化合物AはCに結合し、化合物BもまたCに結合するが、化合物Aおよび化合物Bは同時にCに結合することができない;すなわち、AおよびBはC上の同じエピトープに(または少なくとも重複エピトープに)結合する。結合においてかかる競合は、競合ELISAまたは表面プラズモン共鳴(SPR)ベースの技術または結合親和性の決定の文脈において上記他の技術のいずれかによって決定することができる。他に明記しない限り、化合物の競合結合特性は、2つの競合する化合物の等モル濃度を使用して20℃でELISAによって決定される。
【0059】
IFX-1(代替名:CaCP29; InflaRx GmbH、Germany)は、C5aに特異的に結合する抗体である。IFX-1のCDR配列およびFR配列は、WO 2015/140304 A1(表3)に記載されており、この内容をその全体において出典明示により本願明細書に包含させる。それは、配列番号:34による可変重鎖配列および配列番号:359による可変軽鎖配列を含む。
【0060】
INab708(InflaRx GmbH、Germany)は、C5aに特異的に結合する別の抗体である。INab708のCDR配列およびFR配列はまた、WO 2015/140304 A1(表3)に記載されており、この内容をその全体において出典明示により包含させる。それは、配列番号:36による可変重鎖配列および配列番号:37による可変軽鎖配列を含む。
【0061】
MEDI-7814(MedImmune)は、組換えヒト化抗-C5a抗体である。MEDI7814との複合体におけるヒトC5aの結晶構造は、4UU9の下にRCSB Protein Data Bank(DOI: 10.2210/pdb4uu9/pdb)で利用できる。
【0062】
ALXN-1007(Alexion)は、ヒト化抗-C5a抗体である。
【0063】
NOX-D21(Noxxon)は、配列40kDaPEG-アミノヘキシル-GCG AUG (dU)GG UGG UGA AGG GUU GUU GGG (dU)GU CGA CGC A(dC)G C(配列番号:34)を有するペグ化混合L-RNA/DNA-アプタマー(Spiegelmer TM)である。NOX-D21は、C5aを標的とする(Hyzewicz J, Tanihata J, Kuraoka M, Nitahara-Kasahara Y, Beylier T, Ruegg UT, Vater A, and Takeda S. 2017. Low-Intensity Training and the C5a Complement Antagonist NOX-D21 Rescue the mdx Phenotype through Modulation of Inflammation. Am. J. Pathol., 187(5):1147-1161;印刷物の前に電子的に発行された: March 18, 2017)。
【0064】
エクリズマブ(代替名:Soliris TM、5G1-1; h5G1.1; Alexion Pharmaceuticals)は、マウス骨髄腫細胞培養によって生産され、標準バイオプロセス技術によって精製される組換えヒト化モノクローナルIgG2/4κ抗体である。エクリズマブは、ヒトC5に特異的に結合する。エクリズマブは、ヒトIgG2配列およびヒトIgG4配列からのヒト定常領域およびヒトフレームワーク軽鎖および重鎖可変領域上にグラフトされたマウス相補性決定領域を含む。エクリズマブは、2つの448アミノ酸重鎖および2つの214アミノ酸軽鎖から構成され、約148kDaの分子量を有する。エクリズマブの重鎖および軽鎖は、例えばWO 2016/061066 A1においてそれぞれ配列番号:1および配列番号:34として、記載されている。エクリズマブの重鎖および軽鎖をコードする核酸は、例えば米国特許第6,355,245号において、記載されている。
【0065】
ALXN1210(代替名:BNJ441; Alexion Pharmaceuticals)は、抗-C5抗体である。ALXN1210の重鎖および軽鎖は、WO 2016/209956 A1においてそれぞれ配列番号:14および11として記載されている。
【0066】
ALXN5500(Alexion)は、ヒト化抗-C5抗体である。それは、次世代のエクリズマブ候補物である。
【0067】
LFG316(代替名:Tesidolumab、NOV-4; Morphosys、Novartis)は、抗-C5抗体である。
【0068】
CoversinTM(代替名:EV 576; PAS-coversin; rEV 576; Tissue targeted CoversinTM - Akari; Akari Therapeutics、Evolutec)は、宿主免疫学的応答を引き起こすことなく寄生生物の給餌を手助けする、Ornithodros moubataダニからの唾液分子に由来する組換えタンパク質分子(16.7kDa)である。EV576タンパク質(すなわちCoversin)のアミノ酸配列ならびにそのコードヌクレオチド配列は、WO 2008/029167の図2に示されている。CoversinTMは、C5に結合する。
【0069】
RA101495(Ra Pharma)は、C5の大環状合成ペプチドインヒビターである(Ricardo A, Arata M, DeMarco S, Dhamnaskar K, Hammer R, Fridkis-Hareli M, Rajagopal V, Seyb K, Tang G-Q, Tobe S and Treco D. 2015. Preclinical Evaluation of RA101495, a Potent Cyclic Peptide Inhibitor of C5 for the Treatment of Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria. Blood 126:939)。
【0070】
Zimura(登録商標)(代替名:抗-C5アプタマー; ARC-187; ARC-1905; Avacincaptad pegol sodium; OphthoTech Corporation、Archemix Corporation)は、補体因子C5を阻害するペグ化RNAアプタマーである。ARC1905(すなわちZimura)のヌクレオチド配列は、例えばWO 2005/079363 A2において配列番号:67として、示されており、その構造は、WO 2005/079363 A2の図22において示されている。
【0071】
AMY-201(Amyndas Pharmaceuticals)は、調節および表面認識ドメインに直接的に連結するH因子の操作された形態である;したがって、それは、ミニFH分子の一種である。
【0072】
Mirococept(代替名:APT070およびAPT 070C;発案者:Adprotech;開発者:Inflazyme Pharmaceuticals)は、組換え細菌において製造され、天然膜結合ミリストイル静電スイッチペプチドに基づく膜標的両親媒性ペプチドで修飾される、ヒト補体受容体1の最初の3つの短いコンセンサスドメインからなる(Souza DG, Esser D, Bradford R, Vieira AT, and Teixeira MM. 2005. APT070 (Mirococept), a membrane-localised complement inhibitor, inhibits inflammatory responses that follow intestinal ischaemia and reperfusion injury. Br J Pharmacol 145(8):1027-1034)。
【0073】
BikacioMab(Novelmed)は、NM001と称される抗-Bb因子抗体のF(ab)フラグメントである。抗体NM001は、ATCC受入番号PTA-8543の下に寄託されたハイブリドーマ細胞系1D3によって生産される。
【0074】
Lampalizumab(代替名:抗-D因子Fab; FCFD4514S; RG7417; TNX-234;発案者:Tanox、開発者:Genentech)は、D因子上のエキソサイトへの結合を介して、D因子および代替補体経路を阻害するヒト化抗-D因子Fabフラグメントである。
【0075】
ALN-CC5(Alnylam)は、ヒト、霊長類および齧歯動物C5を標的とするRNAi治療物である。C5遺伝子を標的とする例示的なiRNA組成物は、WO 2016/044419に記載されている。
【0076】
Avacopan(名前CCX168; Chemocentryxによっても知られる)は、式I:
【化2】
による構造を有する小分子(MW=581.66g/mol)である。
【0077】
avacopanのIUPAC/化学名は、(2R,3S)-2-[4-(シクロペンチルアミノ)フェニル]-1-(2-フルオロ-6-メチルベンゾイル)-N-[4-メチル-3-(トリフルオロメチル)フェニル]ピペリジン-3-カルボキサミドである。Avacopanは、C5aRの選択的インヒビターである。本発明の文脈において、「avacopan」なる用語は、式Iによる化合物ならびにその生理学的に許容される塩を指す。
【0078】
本発明を実施するために適当でもあるAvacopanと類似の化合物は、国際特許出願WO 2010/075257 A1およびWO 2011/163640 A1に記載されており、これらの内容をそれら全体において出典明示により本願明細書に包含させる。したがって、いくつかの態様において、C5a活性のインヒビターは、式II
【化3】
[式中、
は、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択され、ヘテロアリール基は、N、OおよびSから選択される環員として1-3つのヘテロ原子を有し;該アリールおよびヘテロアリール基は、所望により1から3つのR置換基で置換されており;
は、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択され、ヘテロアリール基は、N、OおよびSから選択される環員として1-3つのヘテロ原子を有し;該アリールおよびヘテロアリール基は、所望により1から3つのR置換基で置換されており;
は、C1-8アルキルまたはヘテロアルキル、C3-8シクロアルキル、C3-8シクロアルキル-C1-4アルキル、アリール、アリール-C1-4アルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリール-C1-4アルキル、ヘテロシクロアルキルまたはヘテロシクロアルキル-C1-4アルキルからなる群から選択され、ヘテロシクロアルキル基または部分は、N、OおよびSから選択される1-3つのヘテロ原子を有し、ヘテロアリール基は、N、OおよびSから選択される環員として1-3つのヘテロ原子を有し、それぞれのCは、所望により1-3つのR置換基で置換されており;
それぞれのRは、独立して、ハロゲン、-CN、-R、-CO、-CONR、-C(O)R、-OC(O)NR、-NRC(O)R、-NRC(O)2R、-NR-C(O)NR、-NRC(O)NR、-NR、-OR、および-S(O)NRからなる群から選択され;それぞれのRおよびRは、独立して、水素、C1-8アルキル、およびC1-8ハロアルキルから選択され、または同じ窒素原子に結合されるとき、N、OまたはSから選択される環員として0から2つのさらなるヘテロ原子を有する5または6-員環を形成するように窒素原子と結合されてよく、所望により1または2つのオキソで置換されており;それぞれのRは、独立して、C1-8アルキルまたはヘテロアルキル、C1-8ハロアルキル、C3-6シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択され、R、RおよびRの脂肪族および環状部分は、所望により1から3つのハロゲン、ヒドロキシ、メチル、アミノ、アルキルアミノおよびジアルキルアミノ基でさらに置換されており;所望により2つのR置換基が隣接する原子であるとき、融合5または6-員炭素環式またはヘテロ環式環を形成するように結合され;
それぞれのRは、独立して、ハロゲン、-CN、-NO、-R、-CO、-CONR、-C(O)R、-OC(O)NR、-NRC(O)R、-NRC(O)、-NRC(O)NR、-NRC(O)NR、-NR、-OR、および-S(O)NRからなる群から選択され;それぞれのRおよびRは、独立して、水素、C1-8アルキル、およびC1-8ハロアルキルから選択され、または同じ窒素原子に結合されるとき、N、OまたはSから選択される環員として0から2つのさらなるヘテロ原子を有する5または6-員環を形成するように窒素原子と結合されてよく、所望により1または2つのオキソで置換されており;それぞれのRは、独立して、C1-8アルキルまたはヘテロアルキル、C1-8ハロアルキル、C3-6シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択され、R、RおよびRの脂肪族および環状部分は、所望により1から3つのハロゲン、ヒドロキシ、メチル、アミノ、アルキルアミノおよびジアルキルアミノ基でさらに置換されており、所望により2つのR基が隣接する原子であるとき、5または6-員環を形成するように結合され;
それぞれのRは、独立して、ハロゲン、-CN、-R、-CO、-CONR、-C(O)R、-C(O)R、-OC(O)NR、-NRC(O)R、-NRCO、-NRC(O)NR、-NR、-OR、-OR、-S(O)NR、-X-R、-NH-X-R、-O-X-R、-X-NR、-X-NHR、-X-CONR、-X-NRC(O)R、-X-CO、-O-X-CO、-NH-X-CO、-X-NRCO、-O-X-NRCO、-NHRおよび-NHCHからなる群から選択され、XはC1-4アルキレンであり;それぞれのRおよびRは、独立して、水素、C1-8アルキルまたはヘテロアルキル、C3-6シクロアルキルおよびC1-8ハロアルキルから選択され、または同じ窒素原子に結合されるとき、N、OまたはSから選択される環員として0から2つのさらなるヘテロ原子を有する4-、5-または6-員環を形成するように窒素原子と結合されてよく、所望により1または2つのオキソで置換されており;それぞれのRは、独立して、C1-8アルキルまたはヘテロアルキル、C1-8ハロアルキル、C3-6シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択され;それぞれのRは、C3-6シクロアルキル、イミダゾリル、ピリミジニル、ピロリニル、ピペリジニル、モルホリニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、およびS,S-ジオキソ-テトラヒドロチオピラニルからなる群から選択され、R、R、RおよびRの脂肪族および環状部分は、所望により1から3つのハロゲン、メチル、CF、ヒドロキシ、C1-4アルコキシ、C1-4アルコキシ-C1-4アルキル、-C(O)O-C1-8アルキル、アミノ、アルキルアミノおよびジアルキルアミノ基でさらに置換されており、所望により2つのR基が隣接する原子であるとき、5-または6-員環を形成するように結合され;そして
Xは、水素またはCHである]
を有する化合物およびその薬学的に許容される塩、水和物および回転異性体(rotomer)である。
【0079】
Avacopanと類似の化合物は、改善された溶解度プロフィールを有するが、WO 2017/176620 A2に記載されており、これらの内容をその全体において出典明示により本願明細書に包含させる。したがって、いくつかの他の態様において、C5a活性のインヒビターは、以下の式III:
【化4】
[式中、
は、H、-O-CH-O-P(O)OROR、-O-C(O)-C1-6アルキレン-L-X、O-P(O)OROR、および-O-C(O)-A-(C1-3アルキレン)-C4-7ヘテロシクリルからなる群から選択され、C4-7ヘテロシクリルは、所望により1から6つのR基で置換されており;
は、C6-10アリール、C3-10シクロアルキル、C5-10ヘテロアリールおよびC5-10ヘテロシクリルからなる群から選択され、これらのそれぞれは、所望により同じか、または異なっていてよい1から5つのRで置換されており;
n=0または1;
は、独立して、結合、-O-C(O)-C1-6アルキレン-、および-NR-C(O)-C1-6アルキレン-からなる群から選択され;
は、独立して、-NR、-P(O)OROR、-O-P(O)OROR、および-COHからなる群から選択され;
は、H、-L-C1-6アルキレン-L-X、-L-(C1-6アルキレン)-A-X、-P(O)OROC(O)-C1-6アルキル、-P(O)ORNRおよび-P(O)ORORからなる群から選択され;
は、独立して、-C(O)-O-、および-C(O)-からなる群から選択され;
は、独立して、結合、-O-C(O)-C2-6アルケニレン-、-O-C(O)-C1-6アルキレン-、および-NR-C(O)-C1-6アルキレン-からなる群から選択され、-NR-C(O)-C1-6アルキレン-および-O-C(O)-C1-6アルキレン-におけるC1-6アルキレンは、所望によりNRで置換されており;
は、独立して、-NR、-P(O)OROR、-O-P(O)OROR、および-COHからなる群から選択され;
m=0または1;
は、C6-10アリール、C3-10シクロアルキル、C5-10ヘテロアリールおよびC5-10ヘテロシクリルからなる群から選択され、これらのそれぞれは、所望により同じか、または異なっていてよい1から5つのRで置換されており;
は、Hまたは-L-P(O)ORORであり、Lは、独立して、結合および-CH-O-からなる群から選択され;
それぞれのRは、独立して、ハロゲン、C1-6アルキル、C1-6ハロアルキル、C1-6ヘテロアルキル、CN、NR、SRおよびORからなる群から選択され;
それぞれのRは、独立して、ハロゲン、C1-6アルキル、C1-6ハロアルキル、C1-6ヘテロアルキル、CN、NR、SRおよびORからなる群から選択され;
それぞれのR、R、R、R、R、R、R、R、RおよびRは、独立して、HおよびC1-6アルキルからなる群から選択され;
それぞれのRは、独立して、HおよびC1-6アルキルからなる群から選択され、C1-6アルキルは、所望により、独立してCOH、NR、C6-10アリール、C3-10シクロアルキル、C5-10ヘテロアリールおよびC5-10ヘテロシクリルから選択される1から5つの置換基で置換されており、それぞれのRおよびRは、独立して、HまたはC1-6アルキルであり;
、RおよびRの2つはHであり、そしてR、RおよびRの1つはH以外である]
の化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0080】
PMX-53は、C5aR(CD88)の強力なアンタゴニストである。それは、以下の配列:Orn-2およびArg-6間でラクタム橋を有するAc-Phe-環化(Orn-Pro-D-Cha-Trp-Arg)を有する、6つのアミノ酸から構成される環状ペプチドである。PMX-53が少なくとも1つのD-アミノ酸(すなわちD-Cha)を含むため、それは、本願の包含される配列表に含まれていない。PMX-53は、bio-techne GmbH (Wiesbaden-Nordenstadt, Germany), Cat. No. 5473によって市販されている。
【0081】
本発明を実施するために適当でもあるPMX-53と類似の化合物は、国際特許出願WO 99/00406 A1、WO 03/033528 A1、およびWO 2008/009062 A1に記載されており、これらをそれら全体において出典明示により本願明細書に包含させる。したがって、いくつかの態様において、C5a活性のインヒビターは、式IV
【化5】
[式中、
Aは、H、アルキル、アリール、NH、NH-アルキル、N(アルキル)、NH-アリール、NH-アシル、NH-ベンゾイル、NHSO、NHSO-アルキル、NHSO-アリール、OH、O-アルキル、またはO-アリールであり;
Bは、アルキル、アリール、フェニル、ベンジル、ナフチルまたはインドール基、またはD-またはL-アミノ酸の側鎖であるが、グリシン、D-フェニルアラニン、L-ホモフェニルアラニン、L-トリプトファン、L-ホモトリプトファン、L-チロシン、またはL-ホモチロシンの側鎖ではなく;
Cは、D-、L-またはホモ-アミノ酸の側鎖であるが、イソロイシン、フェニルアラニン、またはシクロヘキシルアラニンの側鎖ではなく;
Dは、中性D-アミノ酸の側鎖であるが、グリシンまたはD-アラニンの側鎖、大きな平面的(bulky planar)側鎖、または大きな荷電性(bulky charged)側鎖ではなく;
Eは、大きな(bulky)置換基であるが、D-トリプトファン、L-N-メチルトリプトファン、L-ホモフェニルアラニン、L-2-ナフチル L-テトラヒドロイソキノリン、L-シクロヘキシルアラニン、D-ロイシン、L-フルオレニルアラニン、またはL-ヒスチジンの側鎖ではなく;
Fは、L-アルギニン、L-ホモアルギニン、L-シトルリン、またはL-カナバニンの側鎖、またはその生物学的等価体(bioisostere)であり;そして
は、-(CHNH-または(CHS-(ここでnは1から4の整数である);-(CHO-;-(CHO;-(CH-;-(CH-、-CH-COCHRNH-:または-CH-CHCOCHRNH-(ここでRは任意の一般的なまたは非一般的なアミノ酸の側鎖である)である]
の環状ペプチドまたはペプチド模倣物化合物である。
【0082】
この文脈において、「一般的なアミノ酸」なる用語は、標準遺伝子コードにより定義される20のタンパク質構成アミノ酸を指す。「非一般的なアミノ酸」なる用語は、限定はしないが、D-アミノ酸、ホモ-アミノ酸、N-アルキルアミノ酸、デヒドロアミノ酸、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン以外の芳香族性アミノ酸、オルト-、メタ-またはパラ-アミノ安息香酸、オルニチン、シトルリン、カナバニン、ノルロイシン、δ-グルタミン酸、アミノ酪酸、L-フルオレニルアラニン、L-3-ベンゾチエニルアラニン、およびα,α-二置換アミノ酸を含む。
【0083】
本発明を実施するために適当なC5aR(CD88)の特定のアンタゴニストは、WO 2008/009062 A1に記載されている、PMX95、PMX218、PMX200、PMX273、PMX205、およびPMX201を含む。
【0084】
クローン(clone)S5/1は、C5aに対するヒト受容体(CD88)を認識するモノクローナル抗体である。クローンS5/1は、C5aRのN-末端ドメイン(Met1-Asn31)を含む合成ペプチドに対して生じた。抗体は、その受容体へのC5aの結合を阻害することが示されている。それは、Hycult Biotech (Uden, The Netherlands), Cat. No. HM2094を介して市販されている。
【0085】
クローン7H110は、C5aに対するヒト受容体(CD88)を認識するモノクローナルマウス抗体である。それは、Biomol GmbH (Hamburg, Germany); Cat. No. C2439-60Nを介して市販されている。
【0086】
本願明細書において使用されるとき、「患者」は、本願明細書に記載されている化合物での(すなわち本願明細書に記載されているC5a活性のインヒビターでの)処置から利益を得ることができるあらゆる哺乳動物または鳥を意味する。好ましくは、「患者」は、実験動物(例えばマウスまたはラット)、家畜動物(例えばモルモット、ウサギ、ニワトリ、シチメンチョウ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ウシ、ウマ、ロバ、ネコ、またはイヌを含む)、またはチンパンジーおよびヒトを含む霊長類からなる群から選択される。「患者」がヒトであることが特に好ましい。
【0087】
本願明細書において使用されるとき、疾患または障害の「処置する」、「処置すること」または「処置」は、以下のものの1つ以上を達成することを意味する:(a)障害の重症度および/または期間を減少させること;(b)処置される障害の症状特性の発現を限定または防止すること;(c)処置される障害の症状特性の悪化を阻害すること;(d)以前に障害を有していた患者において障害の再発を限定または防止すること;および(e)障害に対して以前に症候的であった患者において症状の再発を限定または防止すること。
【0088】
本願明細書において使用されるとき、疾患または障害の「防止する」、「防止すること」、「防止」、または「予防」は、障害が対象において起こることを防止することを意味する。
【0089】
「有効量」は、意図される目的をなし遂げるために十分な治療剤の量である。所定の治療剤の有効量は、薬剤の性質、投与経路、治療剤を受ける動物のサイズおよび種、および投与の目的などの要因で変化する。それぞれの個々の場合において有効量は、当分野で確立された方法によって当業者により経験的に決定することができる。
【0090】
「薬学的に許容される」は、連邦政府または州政府の監督官庁によって承認されているか、または動物、さらに特にヒトにおける使用のための米国薬局方または他の一般的に認識された薬局方に列挙されていることを意味する。
【0091】
本発明の態様
本発明は、ここにさらに説明される。以下の段落において、本発明の異なる局面は、さらに詳細に定義される。以下に定義されるそれぞれの局面は、明確に反対の指示がない限り、あらゆる他の1つの局面または複数の局面と組み合わせてよい。特に、好ましいまたは有利であると示されているあらゆる特徴は、好ましいまたは有利であると示されているあらゆる他の1つの特徴または複数の特徴と組み合わせてよい。
【0092】
第1の局面において、本発明は、コロナウイルスでの感染によって引き起こされるか、またはコロナウイルスでの感染と関連する医学的状態の処置における使用のためのC5a活性のインヒビターであって、医学的状態が好ましくは(i)肺炎、および/または(ii)発熱である、C5a活性のインヒビターに関する。
【0093】
第2の局面において、本発明は、コロナウイルス感染に罹患している対象において炎症性応答の低下における使用のためのC5a活性のインヒビターに関する。
【0094】
第3の局面において、本発明は、コロナウイルス感染に罹患している対象において、臓器機能、特に肺機能および/または肝機能の改善における使用のためのC5a活性のインヒビターに関する。
【0095】
コロナウイルスが、SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2を含む群から選択される、請求項1から3のいずれかの使用のためのC5a活性のインヒビター。
【0096】
コロナウイルスとは:ヒトに感染する一般的なウイルスの一種で、典型的に上気道感染症(URI)を引き起こす。ヒトのコロナウイルスには7つの異なるタイプが同定されている。ほとんどの人は、一生のうちに少なくとも1種類のコロナウイルスに感染する。ウイルスは、咳およびくしゃみによる空気感染、密接な個人接触、ウイルスに汚染された物体または表面への接触、まれに糞便による汚染によって広がる。ほとんどのコロナウイルスによって引き起こされる病気は、通常短期間で終息し、鼻水、喉の痛み、体調不良、咳、および発熱により特徴付けられる。
【0097】
重度の症状を引き起こすことが報告されているヒトコロナウイルスの非限定的な例としては、MERS-CoV(中東呼吸器症候群またはMERSを引き起こすベータコロナウイルス)、SARS-CoV(重症急性呼吸器症候群またはSARSを引き起こすベータコロナウイルス)、および中国の武漢で始まった2019年新型コロナウイルス(2019-nCoV)アウトブレイクを含む。
【0098】
本発明の第1から第3の局面の好ましい態様において、対象がSARS、MERSまたはCOVID-19、特にCOVID-19に罹患している。
【0099】
本発明の第1から第3の局面の好ましい態様において、処置が、以下の1つ以上:
-C反応性タンパク質の低下;
-発熱の低下;
-血液中のリンパ球数の増加;
-ALT/ASTの低下;および/または
-酸素指数の増加(PaO/FiO
をもたらす。
【0100】
C反応性タンパク質は、通常、健常ヒトにおいて0-5mg/Lの範囲にある。コロナウイルス感染(例えばCOVID-19)を有する患者は、約50mg/Lを有する(Chen et al. The Lancet 2020 oi.org/10.1016/S0140-6736を参照のこと)。したがって、C反応性タンパク質の低下は、40mg/L未満、好ましくは30mg/L未満、さらに好ましくは10mg/L未満、さらに好ましくは5mg/L未満に低減されるとき、達成される。
【0101】
血液中のリンパ球数は、通常、健常ヒトにおいて1.1から3.2x10/Lの範囲である。軽度のコロナウイルス感染(例えばCOVID-19)を有する患者は、0.6から1.2x10/Lの範囲であり、中央値は0.9x10/Lであるが、より重度の(例えばCOVID-19)感染は、0.5から0.9x10/Lの範囲をもたらし、中央値は0.8x10/Lである(Wang et al. JAMA doi:10.1001/jama.2020.1585を参照のこと)。したがって、血液中のリンパ球数の増加は、それぞれの患者においてリンパ球数が、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも100%増加されるとき、達成される。絶対的には、本発明の使用のためのC5aインヒビターは、患者のリンパ球数を少なくとも1.0x10/L、さらに好ましくは少なくとも1.3x10/Lに増加させる。
【0102】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)は、通常、健常ヒトにおいて9-50U/Lの範囲である。軽度のコロナウイルス感染(例えばCOVID-19)を有する患者は、15-36U/Lの範囲であり、中央値は23U/Lであるが、より重度の(例えばCOVID-19)感染は、19-57U/Lの範囲をもたらし、中央値は35U/Lである(Wang et al. JAMA doi:10.1001/jama.2020.1585を参照のこと)。したがって、ALTの低下は、それぞれの患者においてALTが、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも100%低下されるとき、達成される。
【0103】
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)は、通常、健常ヒトにおいて15-40U/Lの範囲である。軽度のコロナウイルス感染(例えばCOVID-19)を有する患者は、21-38U/Lの範囲であり、中央値は29U/Lであるが、より重度の(例えばCOVID-19)感染は、30-70U/Lの範囲をもたらし、中央値は52U/Lである(Wang et al. JAMA doi:10.1001/jama.2020.1585を参照のこと)。したがって、ASTの低下は、それぞれの患者においてASTが、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも100%低下されるとき、達成される。
【0104】
酸素指数PaO/FiOは、健常ヒトにおいて400-500mmHgの範囲である。コロナウイルス感染(例えばCOVID-19)を有する患者は、103-234mmHgの範囲であり、中央値は136mmHgである。したがって、酸素指数PaO/FiOの増加は、それぞれの患者において酸素指数PaO/FiOが、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも100%増加されるとき、達成される。絶対的には、本発明の使用のためのC5aインヒビターは、患者の酸素指数PaO/FiOを少なくとも250mmHg、さらに好ましくは少なくとも300mmHgに増加させる。
【0105】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、C5a活性のインヒビターは、
-C5の濃度を低下させる(例えば、C3転換酵素の形成および/または活性を阻害することにより;C5転換酵素の形成および/または活性を阻害することにより;C5遺伝子の転写を阻害することにより;C5 mRNAの翻訳を遮断することにより;C5 mRNAの分解を増加させることにより;C5タンパク質の分解を増加させることにより;または肝臓からのC5の分泌を防止することにより);
-C5のC5aおよびC5bへの開裂を阻害する(例えば、C5転換酵素を阻害することにより、またはC5上の切断部位に結合し、それにより開裂を遮断することにより);
-C5aの濃度を低下させる(例えば、C5aタンパク質の分解を増加させることにより);
-C5aおよびC5a受容体間の結合を阻害する(例えば、C5aに結合することにより、またはC5a受容体に結合することにより);
-C5a受容体の濃度を低下させる(例えば、C5a受容体遺伝子の転写を阻害することにより;C5a受容体 mRNAの翻訳を遮断することにより;C5a受容体 mRNAの分解を増加させることにより;C5a受容体タンパク質の分解を増加させることにより);および/または
-C5a受容体の活性を阻害する。
【0106】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、C5a活性のインヒビターは、タンパク質リガンド(上記定義のとおりの);オリゴヌクレオチド;および小分子(上記定義のとおりの)からなる群から選択される。C5a活性のインヒビターとして作用するオリゴヌクレオチドは、例えば核酸分子に結合することにより(それにより転写および/または翻訳を阻害する)またはタンパク質に結合することにより(例えばオリゴヌクレオチドが核酸アプタマーであるとき)、阻害効果をなし遂げることができる。
【0107】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、C5a活性のインヒビターは、C5タンパク質、またはC5aタンパク質、またはC5a受容体タンパク質に特異的に結合するタンパク質リガンドである。さらなる態様において、タンパク質リガンドは、
(i)抗体(例えば抗-C5抗体、抗-C5a抗体、抗-C5aR抗体、または抗-C5L2抗体)、
(ii)抗体の抗原結合フラグメント、
(iii)抗体様タンパク質、
(iv)C5aの阻害変異体、
(v)C5a受容体の阻害変異体(例えばデコイ受容体)、
(vi)補体経路に作用するタンパク質(例えばCoversin);および
(vii)ペプチド(例えばRA101495(Ra Pharma、Cambridge、MA));PMX-53(bio-techne GmbH (Wiesbaden-Nordenstadt、Germany))
からなる群から選択される。
【0108】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、C5a活性のインヒビターは、ヒトC5aのアミノ酸配列NDETCEQRA(配列番号:2)およびSHKDMQL(配列番号:3)によって形成される立体構造エピトープに特異的に結合する、タンパク質リガンドまたはオリゴヌクレオチド、好ましくはタンパク質リガンドである。配列番号:2および3によるアミノ酸配列によって形成される立体構造への結合は、タンパク質リガンドまたはオリゴヌクレオチドが、配列番号:2によるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸および配列番号:3によるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸に結合することを意味する。配列番号:2は、ヒトC5aのアミノ酸30-38に対応する。配列番号:3は、ヒトC5aのアミノ酸66-72に対応する。
【0109】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、タンパク質リガンドまたはオリゴヌクレオチド、好ましくはタンパク質リガンドは、DETCEQR(配列番号:4)によるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸に結合する。配列番号:4は、ヒトC5aのアミノ酸31-37に対応する。
【0110】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、タンパク質リガンドまたはオリゴヌクレオチド、好ましくはタンパク質リガンドは、HKDMQ(配列番号:5)によるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸、さらに好ましくはアミノ酸配列KDM内の少なくとも1つのアミノ酸に結合する。配列番号:5は、ヒトC5aのアミノ酸67-71に対応する;配列KDMは、ヒトC5aのアミノ酸68-70に対応する。
【0111】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、タンパク質リガンドまたはオリゴヌクレオチド、好ましくはタンパク質リガンドは、アミノ酸配列DETCEQR(配列番号:4)内の少なくとも1つのアミノ酸およびアミノ酸配列HKDMQ(配列番号:5)内の少なくとも1つのアミノ酸に結合する。
【0112】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、タンパク質リガンドまたはオリゴヌクレオチド、好ましくはタンパク質リガンドは、アミノ酸配列DETCEQR(配列番号:4)内の少なくとも1つのアミノ酸およびアミノ酸配列KDM内の少なくとも1つのアミノ酸に結合する。
【0113】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、C5aの立体構造エピトープを形成する2つの配列(例えば配列番号:2および3;配列番号:4および5;または配列番号:4および配列KDMによる配列対)は、本発明の結合部分への結合において参加しない1-50個の隣接するアミノ酸によって分離される。以下において、本発明の結合部分への結合において参加しないかかるアミノ酸は、「結合しないアミノ酸」と称される。立体構造エピトープを形成する2つの配列は、好ましくは6-45個の隣接する結合しないアミノ酸、さらに好ましくは12-40個の隣接する結合しないアミノ酸、さらに好ましくは18-35個の隣接する結合しないアミノ酸、さらに好ましくは24-30個の隣接する結合しないアミノ酸、さらに好ましくは25-29個の隣接する結合しないアミノ酸、よりさらに好ましくは26-28個の隣接する結合しないアミノ酸、およびより好ましくは27個の隣接する結合しないアミノ酸によって分離される。
【0114】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、C5aの立体構造エピトープに特異的に結合する、タンパク質リガンドまたはオリゴヌクレオチド、好ましくはタンパク質リガンドは、10nM以下、好ましくは9nM以下、さらに好ましくは8nM以下、さらに好ましくは7nM以下、さらに好ましくは6nM以下、さらに好ましくは5nM以下、さらに好ましくは4nM以下、さらに好ましくは3nM以下、さらに好ましくは2nM以下、およびよりさらに好ましくは1nM以下のK値でのヒトC5aへの結合定数を有する。本発明の任意の局面のいくつかの態様において、結合部分およびヒトC5a間の解離定数Kは、1pM(ピコモル)および5nM(ナノモル)間、さらに好ましくは2pMおよび4nM間、さらに好ましくは5pMおよび3nM間、さらに好ましくは10pMおよび2nM間、さらに好ましくは50pMおよび1nM間、さらに好ましくは100pMおよび900pM間、さらに好ましくは200pMおよび800pM間、さらに好ましくは300pMおよび700pM間、およびよりさらに好ましくは400pMおよび600pM間である。
【0115】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、C5aに特異的に結合する、タンパク質リガンドまたはオリゴヌクレオチド、好ましくはタンパク質リガンドは、1つの分子C5a、特にヒトC5aによって誘導される生物学的効果に対して少なくとも75%遮断活性、好ましくは少なくとも80%遮断活性、さらに好ましくは少なくとも85%遮断活性、さらに好ましくは少なくとも90%遮断活性、さらに好ましくは少なくとも95%遮断活性を示す。これらの特定の遮断活性は、結合部分がC5a、好ましくはヒトC5aに結合する単一のパラトープを含むこれらの態様に言及する。結合部分が2つまたはそれ以上のC5a特異的パラトープを含む態様において、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%などの該遮断活性は、1つの結合部分分子が結合部分に存在するC5a特異的パラトープの数と等しい多くのC5a分子と接触されるとき、なし遂げられる。言い換えれば、本願明細書に記載されている結合部分のパラトープおよびC5aが当モル濃度で存在するとき、結合部分は、C5aによって誘導される生物学的効果に対して少なくとも75%遮断活性、好ましくは少なくとも80%遮断活性、さらに好ましくは少なくとも85%遮断活性、さらに好ましくは少なくとも90%遮断活性、およびさらに好ましくは少なくとも95%遮断活性を示す。遮断される好ましい生物学的効果は、ヒト全血細胞からのC5a誘導リゾチーム放出である。このC5a誘導リゾチーム放出およびその遮断を決定するためのアッセイは、例えばWO 2011/063980 A1および対応するUS国内段階出願US 2012/0231008 A1において記載されている。
【0116】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、タンパク質リガンドは、抗体またはその抗原結合フラグメントであり、該抗体またはその抗原結合フラグメントは、
(i)配列番号:6に示されている重鎖CDR3配列;または
(ii)配列番号:7に示されている重鎖CDR3配列;
を含み、重鎖CDR3配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含む。
【0117】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、タンパク質リガンドは、抗体またはその抗原結合フラグメントであり、該抗体またはその抗原結合フラグメントは、
(iii)配列番号:8に示されている軽鎖CDR3配列;または
(iv)配列番号:9に示されている軽鎖CDR3配列;
を含み、軽鎖CDR3配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含む。
【0118】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、タンパク質リガンドは、抗体またはその抗原結合フラグメントであり、該抗体またはその抗原結合フラグメントは、
(i)配列番号:6に示されている重鎖CDR3配列および配列番号:8に示されている軽鎖CDR3配列;または
(ii)配列番号:7に示されている重鎖CDR3配列および配列番号:9に示されている軽鎖CDR3配列;
を含み、重鎖CDR3配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含み;および
軽鎖CDR3配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含む。
【0119】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、タンパク質リガンドは、抗体またはその抗原結合フラグメントであり、該抗体またはその抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの以下の配列:
(v)配列番号:10による重鎖CDR2配列;
(vi)配列番号:11による重鎖CDR2配列;
(vii)配列番号:12による軽鎖CDR2配列;
(viii)配列番号:13による軽鎖CDR2配列;
(ix)配列番号:14による重鎖CDR1配列;
(x)配列番号:15による重鎖CDR1配列;
(xi)配列番号:16による軽鎖CDR1配列;または
(xii)配列番号:17による軽鎖CDR1配列;
を含み、重鎖CDR2配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含み;
軽鎖CDR2配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含み;
重鎖CDR1配列は、所望により、1、2または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含み;および
軽鎖CDR1配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含む。
【0120】
特定の態様において、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:13、配列番号:14、配列番号:15、配列番号:16、および配列番号:17によるアミノ酸配列のそれぞれ1つにおいて上記列挙されたこれらの所望の変化の総数、すなわちそれぞれの配列において交換、欠失および付加の総数は、1または2である。
【0121】
特定の態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントにおいて存在する全てのCDRについて合計された交換、欠失および付加の総数は、1から5つの間(例えば1、2、3、4、または5つ)である。
【0122】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、タンパク質リガンドは、抗体またはその抗原結合フラグメントであり、以下の表1に列挙された重鎖CDR3、重鎖CDR2、および重鎖CDR1配列のセットAからHの1つを含み、
それぞれの重鎖CDR3配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含み;
それぞれの重鎖CDR2配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含み;および
それぞれの重鎖CDR1配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含む。
表1:本発明の抗体またはそれらのフラグメントにおける使用のために適当な重鎖CDR配列のセット
【表1】


【0123】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、タンパク質リガンドは、抗体またはその抗原結合フラグメントであり、表2に列挙された軽鎖CDR3、軽鎖CDR2、および軽鎖CDR1配列の以下のセットIからIVの1つを含み、
それぞれの軽鎖CDR3配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含み;
それぞれの軽鎖CDR2配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含み;および
それぞれの軽鎖CDR1配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含む。
表2:本発明の抗体またはそれらのフラグメントにおける使用のために適当な軽鎖CDR配列のセット
抗体IFX-1のCDR2軽鎖配列(配列番号:12)が抗体INab708のCDR2軽鎖配列(配列番号:13)と同一であるため、配列番号:13を含むセットは、配列番号:12を含むセットと冗長であるはずである。したがって、表は、軽鎖CDR配列の4つのセットのみを列挙する。
【表2】


【0124】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、タンパク質リガンドは、抗体またはその抗原結合フラグメントであり、上記表1に列挙された重鎖CDRセットA-Hの1つおよび上記表2に列挙された軽鎖CDRセットI-IVの1つ、すなわちセットの以下の組合せの1つ:A-I、A-II、A-III、A-IV、B-I、B-II、B-III、B-IV、C-I、C-II、C-III、C-IV、D-I、D-II、D-III、D-IV、E-I、E-II、E-III、E-IV、F-I、F-II、F-III、F-IV、G-I、G-II、G-III、G-IV、H-I、H-II、H-III、またはH-IV(ここで、組合せA-IおよびH-IVがとりわけ好ましい)を含み、
それぞれの重鎖CDR3配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含み;
それぞれの重鎖CDR2配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含み;
それぞれの重鎖CDR1配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含み;
それぞれの軽鎖CDR3配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、特に保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含み;
それぞれの軽鎖CDR2配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失、および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含み;および
それぞれの軽鎖CDR1配列は、所望により、1、2、または3つのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1、2、または3つのアミノ酸欠失および/または1、2、または3つのアミノ酸付加を含む。
【0125】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、タンパク質リガンドは、抗体またはその抗原結合フラグメントであり、(i)IFX-1のVHドメインまたは(ii)INab708のVHドメインを含む、本質的にからなる、またはからなるVHドメインを含む。
【0126】
IFX-1およびINab708のVHドメインを定義するFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4配列は、以下の表3に示される。
【0127】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、タンパク質リガンドは、抗体またはその抗原結合フラグメントであり、(i)IFX-1のVLドメインまたは(ii)INab708のVLドメインを含む、本質的にからなる、またはからなるVLドメインを含む。
【0128】
IFX-1およびINab708のVLドメインを定義するFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4配列は、以下の表3に示される。
表3:抗体IFX-1およびINab708のCDRおよびFR配列(Chothia分類モード)
【表3】

【0129】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体またはその抗原結合フラグメントは、
(i)配列番号:34によるアミノ酸配列を有する可変重鎖および配列番号:35によるアミノ酸配列を有する可変軽鎖配列または軽鎖および重鎖CDR1からCDR3の配列番号:6、8、10、12、14および16によるアミノ酸配列を含む配列番号:34および35と少なくとも90%、少なくとも93%または少なくとも95%アミノ酸配列同一性を有する変異体または上記に規定されるそれらの変異体;
(ii)配列番号:36のアミノ酸配列を有する可変重鎖配列および配列番号:37によるアミノ酸配列を有する可変軽鎖配列または軽鎖および重鎖CDR1からCDR3の配列番号:7、9、11、13、15および17によるアミノ酸配列を含む配列番号:36および37と少なくとも90%アミノ酸配列同一性を有する変異体または上記に規定されるそれらの変異体
を含む。
【0130】
上記局面において、CDRは、上記で概説されているとおり、変異なしまたは最小限、すなわち1、2、または3つのアミノ酸の変異を有し、そしてアミノ酸修飾の大部分はフレームワーク領域においてである。
【0131】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、C5a活性のインヒビターは、C5、またはC5a、またはC5a受容体に特異的に結合するオリゴヌクレオチドである。さらなる態様において、オリゴヌクレオチドは、核酸アプタマーである。核酸アプタマーは、DNA-アプタマー、D-RNAアプタマー、およびL-RNAアプタマー(例えば、SpiegelmersTM)からなる群から選択されてよい。
【0132】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、C5a活性のインヒビターは、C5タンパク質またはC5a受容体タンパク質の発現を減少させる。さらなる態様において、C5タンパク質またはC5a受容体タンパク質の発現を減少させる該C5a活性のインヒビターは、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA、およびmiRNAからなる群から選択されるオリゴヌクレオチドである。
【0133】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、C5a受容体は、C5aRおよび/またはC5L2である。本発明の任意の局面の好ましい態様において、C5a受容体は、C5aR(CD88またはC5aR1としても知られている)である。
【0134】
本発明の任意の局面のいくつかの態様において、C5a活性のインヒビターは、
(a)IFX-1、INab708、MEDI-7814、ALXN-1007、またはNOX-D21、またはそれらの抗原結合フラグメント;
(b)C5aへの結合について(a)の下に示される抗体の1つと競合する、抗体またはその抗原結合フラグメント;
(c)エクリズマブ、ALXN1210、ALXN5500、またはLFG316、またはそれらの抗原結合フラグメント;
(d)C5への結合について(c)の下に示される抗体の1つと競合する、抗体またはその抗原結合フラグメント;
(e)CoversinまたはRA101495;
(f)C5への結合について(e)の下に示されるタンパク質またはペプチドの1つと競合する、抗体またはその抗原結合フラグメントまたはタンパク質または大環状ペプチド;
(g)Zimura;
(h)C5への結合についてZimuraと競合する、抗体またはその抗原結合フラグメントまたはアプタマー;
(i)AMY-201またはMirococept;
(j)C3bへの結合について(i)の下に示されるタンパク質の1つと競合する、抗体またはその抗原結合フラグメントまたはタンパク質;
(k)Bikaciomab;
(l)Factor Bへの結合についてBikaciomabと競合する、抗体またはその抗原結合フラグメント;
(m)Lampalizumab;
(n)Factor Dへの結合についてLampalizumabと競合する、抗体またはその抗原結合フラグメント;
(o)ALN-CC5;
(p)Avacopanまたは式IIまたは式IIIに記載の化合物またはPMX-53または式IVに記載の化合物;
(q)C5aRへの結合についてavacopanまたはPMX-53と競合する、抗体またはその抗原結合フラグメント;
(r)クローン S5/1またはクローン 7H110、またはその抗原結合フラグメント;および
(s)C5aRへの結合について(r)の下に示される抗体の1つと競合する、抗体またはその抗原結合フラグメント
からなる群から選択される。
【0135】
医薬組成物および投与様式
本発明の任意の局面の実施において、化合物(例えば本願明細書に記載されているC5a活性のインヒビター)または該化合物を含む医薬組成物は、患者において化合物の十分なレベルを提供する当分野で確立されたあらゆる経路によって、患者に投与されてよい。全身的または局所的に投与することができる。かかる投与は、非経腸的、経粘膜的、例えば、経口、経鼻、経直腸、膣内、舌下、粘膜下的、経皮、または吸入的であってよい。好ましくは、投与は、例えば、静脈内または腹腔内注射を介する、限定はしないが、動脈内、筋肉内、皮内および皮下投与も含む、非経口である。本願明細書に記載されている化合物(例えば本願明細書に記載されているC5a活性のインヒビター)または該化合物を含む医薬組成物が局所的に投与されるとき、処置される臓器または組織に直接的に注射することができる。
【0136】
経口投与のために適合される医薬組成物は、カプセルまたは錠剤;粉末または顆粒;溶液、シロップまたは懸濁液(水性または非水性液体中);食用のフォーム(foam)またはホイップ;またはエマルジョンとして提供されてよい。錠剤または硬ゼラチンカプセルは、ラクトース、デンプンまたはその誘導体、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン酸ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、ステアリン酸またはその塩を含んでよい。軟ゼラチンカプセルは、植物油、ワックス、脂肪、半固体、または液体ポリオールなどを含んでよい。溶液およびシロップ剤は、水、ポリオールおよび糖を含んでよい。
【0137】
経口投与のために意図される活性剤は、胃腸管において活性剤の分解および/または吸収を遅延させる物質(例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルが使用され得る)でコーティングまたはと混合されてよい。したがって、活性剤の持続放出は、数時間にわたってなし遂げられることができ、必要な時、活性剤は、胃内で破壊されることから保護されることができる。経口投与のための医薬組成物は、特定のpHまたは酵素条件によって特定の消化器位置で活性剤の放出を容易にするように製剤化されてもよい。
【0138】
経皮投与のために適合される医薬組成物は、長期間、レシピエントの表皮との密接な接触でとどまることを意図される別々のパッチとして提供されてよい。局所投与のために適合される医薬組成物は、軟膏、クリーム、懸濁液、ローション、粉末、溶液、ペースト、ゲル、スプレー、エアロゾルまたはオイルとして提供されてよい。皮膚、口、眼または他の外部組織への局所投与のために、局所軟膏またはクリームが好ましくは使用される。軟膏において製剤化されるとき、活性成分は、パラフィンまたは水混和性軟膏ベースのいずれかで使用されてよい。あるいは、活性成分は、水中油型ベースまたは油中水型ベースでクリームにおいて製剤化されてもよい。眼への局所投与のために適合される医薬組成物は、点眼薬を含む。これらの組成物において、活性成分は、適当な担体、例えば、水性溶媒において溶解または懸濁させることができる。口において局所投与のために適合される医薬組成物は、ドロップ、トローチおよび口内洗浄液を含む。
【0139】
経鼻投与のために適合される医薬組成物は、固体担体、例えば粉末(好ましくは20から500ミクロンの範囲の粒径を有する)を含んでよい。粉末は、嗅ぎ薬を取る様式において、すなわち、鼻の近くに保持された粉末の容器から鼻を介する迅速な吸入により、投与することができる。あるいは、経鼻投与のために採用される組成物は、液体担体、例えば、鼻腔用スプレーまたは点鼻薬を含んでよい。これらの組成物は、活性成分の水性または油性溶液を含んでよい。吸入による投与のための組成物は、活性成分のあらかじめ決められた用量を提供するように構築することができる、限定はしないが、加圧エアロゾル、噴霧器または吸入器を含む、特別に適合されるデバイスにおいて供給されてよい。医薬組成物はまた、鼻腔を介して肺へ投与されてよい。
【0140】
経直腸投与のために適合される医薬組成物は、坐薬またはかん腸剤として提供されてよい。膣内投与のために適合される医薬組成物は、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレー製剤として提供されてよい。
【0141】
非経口投与のために適合される医薬組成物は、抗酸化剤、バッファー、静菌剤および組成物を意図されるレシピエントの血液と実質的に等張にさせる溶質を含んでよい、水性および非水性滅菌注射可能な溶液または懸濁液を含む。このような組成物において存在してもよい他の成分は、例えば、水、アルコール、ポリオール、グリセリンおよび植物油を含む。非経口投与のために適合される組成物は、単位用量または複数用量の容器、例えば密封アンプルおよびバイアルにおいて提供されてよく、および使用の直前に、注射のための滅菌液体担体、例えば滅菌塩水の付加のみを必要とするフリーズドライされた(凍結乾燥された)状態において保存されてよい。即時注射溶液および懸濁液は、滅菌粉末、顆粒および錠剤から調製されてよい。
【0142】
好ましい態様において、本願明細書に記載されている化合物(例えば本願明細書に記載されているC5a活性のインヒビター)は、ヒトへの静脈内投与のために適合される医薬組成物として日常的な処理にしたがって製剤化される。一般的には、静脈内投与のための組成物は、滅菌等張水性バッファーの溶液である。必要なとき、組成物はまた、注射の部位に痛みを和らげるために、可溶化剤および局所麻酔、例えばリドカインを含んでよい。一般的には、成分は、例えば、活性剤の量を示すアンプルまたは小袋(sachette)などの密封容器において凍結乾燥粉末または無水濃縮物として、単位投与形態において別々にまたは互いに混合されてのいずれかで提供される。組成物が注入により投与される場合、滅菌医薬品グレード水または塩水を含む注入ボトルで分配することができる。組成物が注入により投与される場合、投与前に成分を混合することができるように、滅菌塩水のアンプルが提供されてもよい。
【0143】
他の態様において、例えば、化合物(例えば本願明細書に記載されているC5a活性のインヒビター)または該化合物を含む医薬組成物は、制御放出システムで送達することができる。例えば、化合物は、静脈内注入、移植可能な浸透圧ポンプ、経皮パッチ、リポソーム、または他の投与様式を使用して、投与されてもよい。1つの態様において、ポンプを使用してもよい(Sefton (1987) CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14: 201; Buchwald et al. (1980) Surgery 88:507; Saudek et al. (1989) N. Eng. J. Med. 321: 574参照)。他の態様において、化合物は、小胞、特にリポソームにおいて送達することができる(Langer (1990) Science 249:1527-1533; Treat et al. (1989) in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer, Lopez-Berestein and Fidler (eds.), Liss, N.Y., 353-365; WO 91/04014; U.S. 4,704,355参照)。他の態様において、ポリマー物質を使用することができる(Medical Applications of Controlled Release (1974) Langer and Wise (eds.), CRC Press: Boca Raton, Fla.; Controlled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance, (1984) Smolen and Ball (eds.), Wiley: N.Y.; Ranger and Peppas (1953) J. Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23: 61参照; Levy et al. (1985) Science 228:190; During et al. (1989) Ann. Neurol. 25: 351; Howard et al. (1989) J. Neurosurg. 71: 105も参照)。
【0144】
さらに他の態様において、制御放出システムは、治療標的、すなわち、標的細胞、組織または臓器の近接に置くことができ、したがって全身用量の一部のみを必要とする(例えば、Goodson (1984) 115-138 in Medical Applications of Controlled Release, vol. 2参照)。他の制御放出システムは、Langer (1990, Science 249: 1527-1533)によるレビューにおいて説明される。
【0145】
特定の態様において、処置を必要とする領域に局所的に、本願明細書に記載されている化合物(例えば本願明細書に記載されているC5a活性のインヒビター)または該化合物を含む医薬組成物を投与することが望ましい可能性がある。このことは、例えば、限定ではなく、手術中の局所注入、例えば、手術後の創傷被覆材と共に、局所適用、注射により、カテーテルの手段により、坐薬の手段により、またはインプラントの手段によりによってなし遂げられてよく、該インプラントは、シラスティック膜などの膜、または繊維を含む、多孔性、非多孔性、またはゼラチン状物質である。
【0146】
好ましい有効用量の選択は、当業者に知られるいくつかの因子を考慮することに基づいて当業者によって決定される。かかる因子は、医薬組成物の特定の形態、例えばポリペプチドまたはベクター、およびその薬物動態パラメーター、例えばバイオアベイラビリティ、代謝、半減期などを含み、医薬化合物について規制当局の承認を得ることにおいて一般的に使用される通常の開発処理中に確立される。用量を考慮することにおけるさらなる因子は、防止およびまたは処置される状態または疾患または正常個体においてなし遂げられる利益、患者の体重、投与経路、投与が急性または慢性であるか、併用投薬、および投与される医薬品の有効性に影響することがよく知られている他の因子を含む。したがって、正確な用量は、標準臨床技術によって、例えば個々の患者の状態および免疫状態に依存して、開業医の判断およびそれぞれの患者の状況にしたがって決定されるべきである。
【0147】
本発明のC5a活性のインヒビター、特にIFX-1の好ましい投与量は、1日あたり200mgから500mg、好ましくは1日あたり250mgから350mg、さらに好ましくは1日あたり300mgの投与量である。投与量は、好ましくは1日1回で、さらに好ましくはC5a活性のインヒビター、特にIFX-1を1日目、2日目、3日目、5日目、7日目、9日目、11日目、および13日目に投与する投与レジメンで適用される。
【0148】
好ましくは、C5a活性のインヒビター、特にIFX-1は、非経口適用、さらに好ましくは静脈内投与により投与される。
【図面の簡単な説明】
【0149】
図1】SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV2のヌクレオカプシドタンパク質は、MASP-2に結合する。(A)GFP-NおよびGFP-ベクターでトランスフェクトされた293T細胞からの溶解物を、2mM CaClまたは1mM EDTAの存在下でアガロースビーズにコンジュゲートされたFlag-タグ付き全長(FL)MASP-2または切断された突然変異体(CUB1-EGF-CUB2およびCCP1-CCP2-SP)での免疫沈降に付した。免疫ブロット法を、抗-GFPおよび抗-Flag抗体で行った。インキュベートされるIgGビーズおよびFlagビーズを、ネガティブコントロールとして使用した。(B)Flag-NまたはFlag-ベクターでトランスフェクトされた293T細胞からの溶解物を、ヒト血清(HS)およびマウス血清(MS)と混合し、そして抗-Flagアガロースビーズでの免疫沈降に付した。吸着物を、抗-Flagおよび抗-MASP-2抗体でプローブした。精製された組み換えMASP-2をマーカーとして負荷した。(C)全長GFP-Nおよびその突然変異体Δ321-323およびΔ116-124でトランスフェクトされた293T細胞からの溶解物を、2mM CaCl2の存在下でMASP-2-Flag-コンジュゲートアガロースビーズでの免疫沈降に付し、そして抗-GFPおよび抗-Flag抗体での免疫ブロット法により分析した。(D)GFP-MERS-CoV Nおよびその切断された突然変異体Δ104-112を発現する293T細胞からの溶解物を、2mM CaClの存在下でMASP-2-Flagコンジュゲートアガロースビーズでの免疫沈降に付し、そして上記のとおり分析した。(E)SARS-CoV-2のHA-タグ付き Nを発現する293T細胞からの溶解物を、2mM CaClの存在下でMASP-2-Flag-コンジュゲートアガロースビーズでの免疫沈降に付し、吸着物を、抗-HAおよび抗-Flag抗体でプローブした。
【0150】
図2】ヌクレオカプシドタンパク質は、MASP-2自己活性化およびC4開裂を誘導する。(A)MASP-2-Mycを発現する細胞からの溶解物を、精製されたNまたはMBLと混合し、そして2mM CaClの存在下でMASP-2-Flag-コンジュゲートアガロースビーズでの免疫沈降に付した。免疫ブロット法を、抗-Myc抗体で行った。(B)精製されたMASP-2-Flagを、37℃で12時間、N、MBL、およびマンナン有/無でインキュベートした。切断されたMASP-2を、抗-Flag抗体でプローブした。(C)精製されたMASP-2およびNタンパク質を、抗-Nモノクローナル抗体有/無で、4℃でマンナン-被覆プレートにおいて、プレコンジュゲートMBLとインキュベートした。MASP-2の結合を、抗-MASP-2抗体で検出した。対応のない両側スチューデントt検定による、*P<0.05および**P<0.01 vs. HSA。(D)C4を、37℃で1時間、6時間、12時間、および24時間、MASP-2、MBL、マンナン、Nタンパク質、およびHSAとインキュベートした。C4および開裂され切断されたC4フラグメントを抗-C4α鎖抗体で検出した。(E)C4を、37℃で1時間、MASP-2、MBL、マンナン、Nタンパク質、C1INH、またはMASP-2モノクローナル抗体とインキュベートした。C4および切断されたC4を、C4α-鎖抗体で検出した。(F-H)SARS-CoV、HCoV-229E、SARS-CoV-2、およびMERS-CoVのNタンパク質の濃度に関してC4b沈着。
【0151】
図3】Nタンパク質は、LPS誘導性肺炎をインビボで強化する。(A)BALB/cマウス(10/グループ)を、尾静脈を介して1×10 PFU Ad-SARS N/Ad-nullまたは塩水コントロールに感染させ、そしてLPS(5mg/kg)を6日目に尾静脈を介して与えた。抗-MASP-2抗体(200μg/kg)またはC1INH(4mg/kg)を、LPS注射の30分前に尾静脈を介して注射した。マウスの死亡率は、Gehan-Breslow-Wilcoxon試験により、*P<0.05および**P<0.01と記した。肺のパラフィン切片を、HE染色により分析した(B)。マウスを、尾静脈を介して1×10 PFU Ad-SARS N/Ad-nullに感染させ、そしてLPS(5mg/kg)を6日目に点鼻によりおよび尾静脈を介して与えた。LPS抗原投与6時間後にマウスを殺した。凍結された肺切片を抗-C4b抗体で染色した(C)。凍結された肺切片におけるSARS-CoV NおよびMASP-2複合体形成を、赤色シグナルにより示されるように、in situ PLAにより測定した。沈着したC3フラグメントを、FITC-標識抗-C3c抗体で染色した(緑色)、スケールバー=50μm(D)。(E)マウスを、1×10 PFU Ad-MERS N/Ad-nullに前感染させ、そして上記のとおりLPS、抗体またはC1INHで処理し、生存マウスを観察した。(F)Masp2-/-およびMasp2+/+C57BL/6Nマウスを、N発現アデノウイルスに感染させ、そして上記のとおりLPSを注入し、生存マウスを観察した。
【0152】
図4】COVID-19患者における補体活性化(A-E)死後剖検からのパラホルムアルデヒド固定肺組織を、パラフィン組織切片、および抗-MBL、抗-MASP-2、抗-C4α鎖、抗C3またはC5b-9での免疫組織化学的染色のために使用した。顕微鏡写真を、10×対物の下でOlympus BX52 顕微鏡により行った。(F)健常人、軽度または重度のCOVID-19患者からの血清C5aを、ELISAにより分析した。
【0153】
図5】抗-C5a抗体でのCOVID-19患者の処置(A)2人の患者の発症、SARS-CoV-2 RNA検出および入院のタイムライン。(B)患者#1(左)および患者#2(右)における流量、高流経鼻酸素(FiO)の吸気の画分、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO)および酸素化指数(PaO/FiO)またはSpO/FiO。(C)患者#1(左)および患者#2)における体温(TEMP)、C反応性タンパク質(CRP)レベルおよび血中リンパ球数(LYM)変化。(D)患者#1(左)および患者#2(右)における肝機能変化。ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ;TP:全タンパク質;ALB:アルブミン。
【0154】
図6】SARS/MERS-CoVまたはSARS-CoV-2のNタンパク質によって過剰に活性化されたMBL経路の略図(A)ウイルスは細胞表面に結合し、そしてSタンパク質はMBLを活性化する。(B)ウイルスは細胞に侵入し、Nタンパク質を含むウイルスタンパク質を発現する。(C)ウイルス複製および免疫系攻撃による細胞溶解後に、Nタンパク質が放出される。(D)細胞外の可溶性Nタンパク質二量体は、MASP-2と相互作用し、MASP-2の自己活性化およびMBLへの結合を誘導する。(E)MASP-2の促進された活性化は、MBL経路の下流にある補体カスケードの過剰活性化を誘導し、そして、分泌または補体を介した細胞毒性による細胞溶解およびNタンパク質放出を促進し、制御できない組織損傷および炎症を引き起こす可能性がある。
【0155】
図7】MASP-2との相互作用に関与するNタンパク質の重要なモチーフの特定。(A)MASP-2およびSARS-CoVのNタンパク質のドメインおよび突然変異体。(B)全長GFP-N(1-422)およびその切断された突然変異体1-176、176-251、252-361、および362-422でトランスフェクトされた293T細胞からの溶解物を、2mM CaClの存在下でMASP-2-Flag-コンジュゲートアガロースビーズでの免疫沈降に付し、そして抗-GFPおよび抗-Flag抗体での免疫ブロット法により分析した。Flag-ベクター(pCDNA3-Flag)でトランスフェクトされた細胞からの溶解物とインキュベートしたFlagビーズを、ネガティブコントロールとして使用した。(C)Nタンパク質二量化の免疫沈降分析。Flag-タグ付きSARS-CoV N、HCoV-229E N、またはSARS-CoV Nの突然変異体(Δ281-322、Δ321-323)を発現する293T細胞からの溶解物を、抗-Flagアガロースビーズとインキュベーションし、そしてN-コンジュゲートされたアガロースビーズを平衡させ(balanced)、対応するGFP-タグ付きNタンパク質を発現する293T細胞からの溶解物での免疫沈降に付し、そして抗-GFPで免疫ブロット法により分析した。(D)SARS-CoV N、MERS-CoV N、HKU5-CoV N、SARS-CoV-2 NおよびBat-SARS様-CoV N配列の比較。二次構造エレメントは、ESPriptアルゴリズムに基づいて定義されている。線はコイルを示し、そして矢印はβ鎖を示す。
【0156】
図8】SARS-CoVおよびMERS-CoVのNタンパク質は、補体レクチン経路のカスケードを促進する。(A)図2Dに記載のC4開裂率を、デンシトメトリー分析後に、切断されたC4/(切断されたC4+残っているC4)×100%の式から計算し、プロットした。データは、3回の試験の平均±S.D.として示される。対応のない両側スチューデントt検定により、*P<0.05および**P<0.01。(B)図2Eで述べたC4開裂率のデンシトメトリー分析。(C)C4を、MASP-2、MBL、マンナン、MERS-CoV Nタンパク質、または突然変異体Nタンパク質と、37℃で1時間または2時間インキュベートした。C4および開裂されたC4フラグメントを、抗C4α鎖抗体で測定した。(D)Nタンパク質濃度に対する、Ca-Mg(LP+AP)またはMg-EGTAバッファ(APのみ)で希釈したC1q枯渇血清中の活性化C3沈着量。(E)Nタンパク質濃度に対する活性化C3沈着量。(F)Nタンパク質濃度に対するC5b-9沈着量。(G)SARS-CoVヌクレオカプシドタンパク質の存在下または非存在下での血清中のマウスマクロファージのオプソニン食菌試験。HSAを、ネガティブコントロールとして使用した。点は、2回の繰り返し実験からの平均値を表す。エラーバー、平均±S.D.。対応のない両側スチューデントt検定による*P<0.05および**P<0.01。
【0157】
図9】SARS-CoVヌクレオカプシドタンパク質は、インビボで補体レクチン経路のカスケードを促進する。(A)マウスを、尾静脈を介して1×10 PFU Ad-N/Ad-nullに3回(1日、2日、3日)感染させ、そしてLPS(5mg/kg)を6日目に点鼻によりおよび尾静脈を介して与えた。LPS抗原投与6時間後にマウスを殺した。凍結された肺切片におけるSARS-CoV NおよびMASP-2複合体形成を、赤色シグナルにより示されるように、ヤギ抗-MASP-2抗体、マウス抗-N抗体、および対応する二次試薬を使用するin situ PLAにより測定した。沈着したC3cフラグメントを、FITC-標識抗-C3c抗体で染色した(緑色)。核(青色)を、DAPIで対比染色した。LPS+Ad-nullは、図3Dに示されるLPS+Ad-Nのネガティブコントロールマウスであった。(B)マウスMasp2遺伝子ノックアウトの図。CRISPR/Casを介したゲノム操作によりMasp2ノックアウトマウスモデル(C57BL/6N)を作成するために、マウスMasp2遺伝子のExon9からExon11を、標的部位として選択した。
【0158】
図10】2人の患者の胸部コンピュータートモグラフィー。最も重度の重症の平面を示した。患者#1についてのCTスキャンは、抗C5a投与の6日前と比較して、重度の肺炎が異なる肺領域に発生していることが示された。
【実施例
【0159】
実施例
アブストラクト:
過剰な免疫応答は、SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2の病因および致死性に寄与するが、そのメカニズムは不明なままである。この試験において、SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2のNタンパク質が、補体活性化のレクチン経路において重要なセリンプロテアーゼであるMASP-2に結合し、構成的補体活性化および炎症性肺傷害の悪化を引き起こすことが明らかになった。Nタンパク質-MASP-2の相互作用をブロックすること、または補体活性化を抑制することのいずれかが、Nタンパク質誘発性の補体過剰活性化および肺傷害をインビトロおよびインビボで有意に緩和することができる。補体過剰活性化がCOVID-19患者においても観察され、そして、悪化している患者が抗-C5aモノクローナル抗体で処置されたとき、有望な抑制効果が観察された。補体抑制は、これらの高病原性ベータ-コロナウイルスによって誘導される肺炎に対する共通の治療アプローチを示す可能性がある。補体活性化のレクチン経路は、高病原性コロナウイルス誘発性肺炎の処置のためのターゲットである。
【0160】
イントロダクション
2002年11月に中国広東省で最初に報告された重度の急性呼吸器症候群(SARS)は、感染力が強く、死に至る呼吸器疾患である(1、2)。重度の急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)は、この疾患の新たな病因として同定された。SARSの発生から約10年後、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)である新たな動物原性感染症コロナウイルスが、中東呼吸器症候群の病因として同定された(3)。最近、新型コロナウイルスのSARS-CoV-2が中国武漢で最初に発見され、中国の他の省、そして世界中に急速に広まった。2020年3月18日現在、SARS-CoV-2は18万人以上に感染し、致死率は3.9%である。このウイルスの感染は、SARS-CoV感染と同様の重度の非典型的な肺炎を引き起こした(4)。これらの疾患の病因は積極的に研究されているが、なぜウイルス感染によって高い致死率を伴う呼吸不全に至るのかは、まだ十分に解明されていない(5)。SARS-CoVのヌクレオキャプシド(N)タンパク質は、既知の他のコロナウイルスのNタンパク質とわずか20-30%の相同性を共有する46kDaのウイルスRNA結合タンパク質であるが(6)、高度に病原性のコロナウイルスのNタンパク質は、BLASTPによってSARS-CoV-2(91%)およびMERS-CoV(51%)を含む、非常に類似である(5、7)(8)。Nタンパク質は、SARS-CoV感染中に患者の血清サンプル中に最も豊富なウイルス構造タンパク質の一つである(9)。他のウイルスタンパク質ではなく、組換えワクシニアウイルス(10)またはベネズエラウマ脳炎ウイルスレプリコン粒子(11)を介するNタンパク質の前投与が、SARS-CoVで抗原投与された高齢のマウスにおいて重度の肺炎を引き起こしたため、Nタンパク質がウイルス病因において役割を果たす可能性がある。
【0161】
補体系は、感染に迅速に応答する免疫監視システムとして機能する。補体系の活性化は、病原体除去、炎症性制御、適応免疫応答をもたらした。しかし、無調節な補体活性化は、高病原性ウイルスによって引き起こされる急性肺疾患の発症に関与している(12、13)。補体系は、古典経路(CP)、レクチン経路(LP)、または代替経路(AP)を介して活性化することができる(14)。LPにおいて、マンナン結合レクチン(MBL)(あるいはフィコリン)が、ウイルスの表面またはウイルス感染細胞の表面上のマンナンおよびN-アセチルグルコサミン残基の糖鎖アレイに結合し、補体カスケードを直接的に開始することができることが知られている唯一のMBL関連プロテアーゼであるMBL関連セリンプロテアーゼ-2(MASP-2)の活性化を引き起こす(15、16)。MBLは、インビトロで用量依存的、カルシウム依存的、およびマンナン阻害可能な様式においてSARS-CoV-感染細胞に結合し、SARS-CoV上の補体C4の沈着を増強させる(17)。SARS-CoVスパイク(S)タンパク質上のN連結グリコシル化部位N330は、MBLとの特異的相互作用に重要である(18)。活性化された補体C3およびC4フラグメントの高いレベルがSARS患者において見られ、補体経路の活性化を示したが(19、20)、SARS-CoV-誘導補体活性化のメカニズムは、よくわかっていない。同様の病因がSARS-CoV-2感染においても生じるか否かも不明である。
【0162】
以前に、我々は、Nタンパク質が、MBL関連セリンプロテアーゼ-2(MASP-2)の代替スプライシング産物であるMAP19を含む多くの宿主タンパク質と相互作用することを証明した(22)。したがって、この試験において、SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2 Nタンパク質とMASP-2との相互作用を集中的に研究し、そして宿主免疫および炎症に対するこれらの相互作用の病理学的効果も解明し、これは現在流行中のCOVID-19に対する免疫調節に基づく療法についてのメカニズムサポートを提供する。
【0163】
結果
SARS-CoV、SARS-CoV-2およびMERS-CoVのNタンパク質はMASP-2と相互作用する
SARS-CoVのNタンパク質およびMASP-2間の結合を研究し、そして2つのタンパク質の相互作用するドメインを明確にするために、Flag-タグ付き全長MASP-2、N-末端CUB1-EGF-CUB2領域、またはC-末端CCP1-CCP1-SP領域(図7A)を発現するヒト293T細胞の溶解物を、抗-Flag抗体-コンジュゲートされたアガロースビーズを使用して抗-Flag免疫沈降に付した。免疫沈降物を、次に、2mM CaClまたは1mM EDTAの存在下で、GFP-タグ付きSARS-CoV Nタンパク質(GFP-SARS N)または切断された突然変異体を発現する293T細胞溶解物とインキュベートした。吸着物を、免疫ブロット法により抗-Flagまたは抗-GFP抗体でプローブした。Flag-MASP-2およびGFP-SARS N間の結合が、CaClの存在下でのみ観察され(図1A)、MASP-2-MBL結合およびMASP-2自己活性化のためにCa2+の必要性と一致する。MASP-2のCCP1-CCP2-SP領域(図1A)およびNタンパク質のN-末端ドメイン(残基1-175)(図7Aおよび図7B)は結合に重要であったが、ネガティブコントロールまたは他の切断された領域は結合せず、そしてGFP-タグ付き全長または切断されたNタンパク質はマウスIgGコンジュゲートされたビーズと共免疫沈降しなかった(図1Aおよび図7B)。
【0164】
SARS-CoV Nタンパク質を、早ければ症状発症後1日目から患者の血清中に検出することができる(24)。血清中のSARS-CoV Nタンパク質結合をシミュレートするために、Flag-タグ付きNタンパク質(1ng/ml)をヒトまたはマウス血清に加え、そして抗-Flag抗体コンジュゲートアガロースビーズで沈殿させた。SARS-CoV Nタンパク質は、ヒトおよびマウスの両方の血清から得られたMASP-2と相互作用した(図1B)。さらなる切断および欠失分析は、SARS-CoV Nタンパク質のコイルモチーフ(残基115-130)に位置するアミノ酸残基116-124が、MASP-2との相互作用に不可欠であったことを示した(図1C)。しかしながら、MASP-2とNタンパク質ダイマーを形成しない突然変異体であるSARS-CoV NΔ321-323(図7C)との結合は、大きく影響しなかった(図1C)。
【0165】
MASP2相互作用のためにSARS-CoV Nタンパク質において重要なモチーフ(残基116-124)は、SARS-CoV-2 N(115-123)およびMERS-CoV N(104-112)における対応するモチーフと高い同一性を共有し(図7D)、SARS-CoV2およびMERS CoVのNタンパク質がまたMASP2と相互作用することを示唆する。予期されるとおり、外因性に発現されるMERS-CoV NおよびSARS-CoV-2 Nの両方はMASP-2と関連し(図1Dおよび1E)、そしてMERS-CoV NのΔ104-112欠失突然変異体は予期される低下した結合を示した(図1D)。したがって、コロナウイルスのNタンパク質にわたって共通するモチーフが、MASP-2結合に重要である。
【0166】
SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2のNタンパク質はMASP-2-依存補体活性化を強化する
MASP-2のCCP1-CCP2-SPドメインは、自己活性化および基質結合活性に関与し、これが次に補体レクチン経路活性化を仲介する(25)。上記で証明されたMASP-2:SARS-CoV Nタンパク質結合は、Nタンパク質が二量体化のために必要とされるMASP-2活性化および開裂を制御している可能性があることを示唆する。MASP-2:MASP-2結合を実証するために、Flag-タグ付き-MASP-2-コンジュゲートされたビーズを、Nタンパク質およびMBLの存在/非存在下でMyc-タグ付きMASP-2を発現する293T細胞の溶解物とインキュベートした。MASP-2-FlagへのMASP-2-Mycの結合は、SARS-CoV Nタンパク質によって、ほぼ等モルの化学量論的に強化された(図2A)。次に、精製されたMASP-2-Flagを、SARS-CoV Nタンパク質有または無でマンナンおよびMBLとインキュベートした。MASP-2自己活性化によって生じる開裂されたMASP-2フラグメント(残基445-686)の高いレベルは、SARS-CoV Nタンパク質の存在下で生成された(図2B)。
【0167】
MASP-2のMBL結合能力に対するSARS-CoV Nタンパク質の効果を研究するために、精製されたMBLおよびMASP-2(26)を、MASP2活性化を回避するために4℃でマンナン被覆マイクロプレートウェルにおいてインキュベートし、そして、MASP-2:MBL結合の動態を抗-MASP2抗体を使用して評価した。Nタンパク質に対してネガティブコントロールとして使用される結合バッファーにおける高い濃度成分であるヒト血清アルブミン(HSA)と比較して、MBLへのMASP-2の結合は、比較的低い濃度(1%~0.1%のMASP2)でのSARS-CoV Nタンパク質およびCa2+の存在下で有意に増強され、そして増強が抗-Nタンパク質抗体によって効果的に逆転した(図2C)。さらに、Δ116-124またはΔ321-323欠失を有するSARS-CoV Nタンパク質または低い病原性のヒトコロナウイルス229E-CoVからのNタンパク質は、全長SARS-CoV Nタンパク質と比較して、MASP-2:MBL結合についてほとんどあるいは全く影響を与えなかった(図2C)。これらの結果は、SARS-CoV Nタンパク質が強化したMASP-2活性化がMASP-2結合だけでなく、Nタンパク質二量化にも依存していることを示した。
【0168】
MASP2が、補体成分C2およびC4を開裂し、活性化されると補体系のレクチン経路においてC3転換酵素を生成する。次に、LP補体活性化に対するSARS-CoV Nタンパク質の効果を、C4開裂により評価した。精製されたC4を、当モルのNタンパク質の存在/非存在下でMASP-2、マンナン、MBLとインキュベートし、そしてC4開裂は、マンナンおよびMBLの存在下でSARS-CoV Nタンパク質により有意に強化されることを観察した(図2Dおよび図8A)。したがって、SARS-CoV Nタンパク質(Δ116-124およびΔ321-323)の突然変異体ならびにH229E-CoVからのNタンパク質は、MASP-2-介在C4加水分解を促進しなかった(図2Eおよび図8B)。注目すべきは、抗-MASP-2モノクローナル抗体またはMASP-2のインヒビターであるC1INH(27)は、SARS-CoVを強化したC4加水分解をブロックし、Nタンパク質を強化したC4開裂がMASP-2活性化に依存したことを示唆する(図2Eおよび図8B)。さらに、MERS-CoV Nはまた、C4開裂を強化することを見出した(図8C)。これらの結果は、Nタンパク質がC4開裂およびしたがってMASP-2結合および活性化による補体活性化を促進することを示している。
【0169】
レクチン経路を介する補体活性化に対するSARS-CoV Nタンパク質の影響を、補体沈着アッセイによりさらに研究した。精製されたC4を、示されたNタンパク質の存在下で固定化されたMBL MASP-2複合体とインキュベートした。H229E-CoV Nではなく、SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV2のNタンパク質は、用量依存的に、MASP2の活性に依存するC4b沈着を強化した(図2F図2Gおよび図2H)。次に、固定されたマンナンを、SARS-CoV Nタンパク質の存在/非存在下でC1qを枯渇させた血清(古典的経路除去するために)(28)とインキュベートし、そして沈着したC3フラグメント(C3b、iC3bおよびC3dg)を抗活性化C3抗体により検出した。C4b沈着と共に、活性化C3の沈着が、~40nMまでのSARS-CoV Nタンパク質レベルの増加と共に明らかに増加し(図8D)、C3転換酵素の増強された活性を示唆した。恐らく、表面が高密度のC3bでコーティングされているとき、血清中の可溶性インヒビター(例えばファクターHおよびファクターI)によるC3bのさらなる開裂のために(29、30)、C3b沈着は、高い濃度のNタンパク質の存在下で減少した(図8Dおよび8E)。加えて、SARS CoV Nタンパク質は、EGTAを含むカルシウムフリーバッファーにおいて活性化C3沈着についてほとんどあるいは全く影響を与えず、これは、SARS CoV Nタンパク質が強化したC3活性化が、C3活性化がCa2+独立である、代替経路(AP)ではなくレクチン経路(LP)を介して起こるということを示唆する(図8E)。我々は、さらに、C5b 9複合体の沈着を試験した。増幅された補体カスケードの結果として、複合体の有意に増加した沈着が、患者血清で観察されるのと同様にはるかに低濃度で、SARS-CoV Nタンパク質によって誘導された(図8F)(24)。
【0170】
活性化された補体は、C3bまたはC5b介在オプソニン化により、病原体および細胞残屑の効率的な食作用において重要な役割を果たす(31)。補体依存性食作用を研究するために、大腸菌およびマウス腹膜マクロファージを、SARS-CoV Nタンパク質有または無で希釈したC1q枯渇血清中で一緒にインキュベートした。結合したC3またはC3開裂後の生成物であるその大型フラグメントC3bを、FITC標識化抗C3c抗体で染色し、そしてC3コンジュゲートされた大腸菌を含むFITC陽性マクロファージを顕微鏡下で計測した。補体活性化と共に、MASP-2を含む補体成分を含むマウス血清の存在下でマウス腹膜マクロファージによる補体依存性食作用を、HSAコントロールと比較してSARS-CoV Nタンパク質によって増強した(図8G)。これらの見出したことは、SARS-CoV Nタンパク質が非古典的経路を介する補体系の活性化およびオプソニン効果を効果的に刺激することを示唆した。
【0171】
SARS-CoVおよびMERS-CoV Nタンパク質は、MASP-2関与補体活性化によるLPS誘発肺炎を悪化させる
補体の持続的な活性化は、制御されていない炎症を引き起こす。炎症に対するNタンパク質が強化したMASP-2活性化の効果を研究するために、マウスを、SARS-CoV N(Ad-SARS N)またはその突然変異体を発現するアデノウイルス(1×10 PFU)またはアデノウイルスビヒクルのみ(Ad-null)に前感染させた。次に、マウスにMBL結合モチーフを含むLPSを抗原投与し、LPを活性化し、そして炎症を誘発させた(32)。アデノウイルスビヒクルに前暴露されたマウス10匹のうち8匹は5mg/kg LPSを抗原投与されたとき生存したが(図3A)、Ad-SARS Nに前暴露された全10匹のマウスは同じ投与量でのLPS投与後12時間以内に死亡した(図3A)。重度の肺障害および大量の炎症性細胞の浸潤がまた、死亡したマウスにおいて観察された(図3B)。これまでの知見と一致して、Nタンパク質におけるΔ116-124またはΔ321-323欠失をそれぞれ有するAd-229E NおよびAd-SARS Nの前感染は、マウス死亡率に対する効果を著しく減少させた。重要なことには、抗MASP-2抗体またはC1INHをAd-SARS N前感染マウスにLPS投与と同時に投与すると、LPSによって誘導される死亡率が有意に減少した(図3A)。重度の肺障害および炎症性細胞の大量浸潤がまた、これらのマウスにおいて観察された(図3B)。これらの結果は集合的に、SARS-CoV Nタンパク質がMASP-2活性化を介してLPS誘発炎症を大幅に強化し、それによってLP関与補体カスケード応答を開始させることを証明する。
【0172】
LPSおよびNタンパク質によって誘導されるマウスにおいて補体活性化を研究するために、Ad-SARS N(1×10 PFU)をあらかじめ感染させたマウスにLPS(5mg/kg)を抗原投与した。LPS投与後6時間で、マウスを殺し、そしてパラホルムアルデヒドで固定した肺組織を抗-C4b抗体での免疫組織化学的染色(図3C)またはFITC-標識抗-C3c抗体での免疫蛍光分析(図3D)に付した。肺におけるC4bおよび活性化C3沈着は、LPSおよびAd-nullで処置したマウスの肺における弱い染色と比較して、SARS-CoV Nタンパク質を発現するマウスにおいて著しく増加した(図3CおよびD)。
【0173】
MASP-2とNタンパク質とのインビボ結合を、さらに、抗-N抗体および抗-MASP-2抗体でin situ近接ライゲーションアッセイ(PLA)により評価し(図3D図9A)、SARS-CoV NおよびMASP-2が互いに結合した時にのみ検出可能である赤いスポットが、SARS-CoV Nを発現するマウスからの肺細胞に豊富に観察されたが、ネガティブコントロール動物において観察されなかった。これらの結果は、マウス肺組織において、SARS-CoV NによるMASP-2のin situ直接結合および活性化を確認した。
【0174】
同様に、LPSを抗原投与されたマウスは、Δ104-112突然変異体(Ad-MERS NΔ104-112)ではなく、MERS-CoV Nタンパク質(Ad-MERS N)を発現するアデノウイルスを7日間で前感染させたとき、重度の肺炎を起こし、24時間以内に100%死に、これは、C1INHおよび抗-MASP-2抗体により部分的に救済された(図3E)。これらの結果は、Nタンパク質がSARS-CoVおよびMERS-CoVの両方によって使用され、MASP-2介在レクチン経路を介した補体活性化を促進することを示す。
【0175】
Nタンパク質の病原性を、さらに、MASP-2プロテアーゼ活性欠損を有するmasp2ノックアウトマウスを用いて、同様に研究した(図9b)。マウスにAd-SARS NまたはAd-MERS N(1×10PFU)を5日間で前感染させ、次にLPSで抗原投与した。野生型マウスと比較して、masp2ノックアウトマウスはより長く生存し、より高い生存率を有し(図3F)、これは、MASP-2欠損のために欠陥のある補体活性化に起因し得る。
【0176】
補体カスケードは、COVID-19患者の肺において過剰活性化される
SARS-CoVおよびSARS-CoV-2はマウスにおいて軽度の肺障害を引き起こすだけであり、そしてマウス適応SARS-CoVを含む生きたSARS-CoVによる研究は制御により許可されていないため、補体LP経路の過剰活性化がCOVID-19患者において起こるという臨床証拠が得られた。COVID-19で死亡した患者のパラホルムアルデヒドで固定された肺組織を採取し、MBL、MASP-2、C4α、C3およびC5b---9抗体で免疫組織化学的染色に付した。患者肺組織におけるMBL、MASP-2、C4、C3およびC5b-9は強く陽性染色であり(図4)、これは、補体成分がI型およびII型肺胞上皮細胞ならびに炎症性細胞、一部の過形成肺細胞、および壊死した細胞残屑を含む肺胞腔内の滲出物に沈着していたことを示唆する。さらに、COVID-19患者、特に重症患者において、血清C5aレベルの有意な増加もまた観察された。これらの結果は、補体経路がCOVID-19患者の肺において積極的に活性化されていたことを示唆している。
【0177】
補体標的療法はCOVID-19に対して有望な治癒効果を示す
過剰炎症性およびサイトカイン・ストームは、補体経路の無制限の活性化に帰する可能性がある、COVID-19の重症度および致死率の一因となり得る。したがって、MASP-2およびその下流のシグナル分子、例えば強力なアナフィラトキシンC5aの下方調節は、SARS-CoV-2によって誘導される肺炎を制御するための新しいアプローチを提供し得る。
【0178】
COVID-19治療における我々の知見およびその可能性および適用に基づき、汗腺膿瘍についての第II相臨床試験中であった、配列番号34の可変重鎖配列および配列番号35の可変軽鎖配列を含む組み換えC5a抗体(同じ細胞株から生じたこれらの可変領域を有するIgG抗体は、互換的にIFX-1またはBDB-001と呼ばれる)は、COVID-19の処置のための第II相臨床試験について国家医療製品管理局(NMDA)により迅速に承認された(2020L0003)。患者からのインフォームドコンセントを得て霍山病院倫理委員会の承認のもと、「軽度のCOVID-19患者における多施設無作為二重盲検プラセボ対照試験」およびオープンラベルの「重度および重症のCOVID-19を有する患者における2コホート臨床試験」が、同時に実施された。COVID-19コホートにおける多くの患者からの大規模なデータセットは、試験が終了した時に別の場所で報告されるが、ここで我々は、オープンラベル試験における抗C5a療法を投与された最初の2人の患者について報告する。
【0179】
武漢市在住の54歳男性である患者#1は、発熱を有する症状の発生後4日目(発病5日目)に東西湖区(Dongxihu)病院に入院した。SARS-CoV-2の感染がSARS-CoV-2用のrRT-PCRにより確認され、胸部CTスキャンが両側混濁を示した。疾患は、高熱(38.7℃~39.8℃)、室内空気にてSpO<93%、CTスキャンにて肺炎進行、および重度の肝障害と、発症9日目から病状は悪化していった。プレドニゾン(4日間40mg/日)を病気の10から13日目に投与したが、状態が悪化したため、病気の14日目に、患者を重度のCOVID-19患者のために緊急に設立された新たな病院である武漢火神山(Wuhan Huoshenshan)医院に移し(図5A)、中程度のARDS(酸素化指数<150)、呼吸速度30/分および1分間室内空気に暴露したとき77%への経皮的動脈血酸素飽和度(SpO)下落を有する重大な状態における重度のケースと考えられた。SpO>95%を目標に高流量経鼻酸素(HFNO)を含む対症療法を提供した(図5B、左)。彼はまた、抗生物質(モキシフロキサシン)およびヒト血清アルブミンを投与され、プレドニゾンを中止した。抗-C5aモノクローナル抗体(BDB001)での処置を、発病15日目の朝に開始した。抗体を、1、2、3、5、7、9、11および13日目に300mg/dの投与量で250ml塩水中で静脈内に与えた。有害事象は観察されず、臨床状態が翌日に改善し、同じ日の夜に正常体温(図5C、左)、増加した酸素化指数(PaO/FiO)(図5B、左)およびリンパ球細胞数(図5C、左)、減少したC反応性タンパク質(CRP)濃度(図5C、左)、および有意に改善した肝機能(減少したALT、AST、および増加した総血清タンパク質および血清アルブミン濃度により示される、図5D、左)であった。吸気Oの割合および高流量経鼻酸素(HFNO)のガス流速は、結局は、最高(80%、40L/分から30%、20L/分)から目標SpO>95%に減少した(図5B、左)。重大な状態における患者を仮設病院におけるCTスキャンに連れていくリスクが高いため(距離および雨天)、抗-C5a投与直前のCTスキャンは評価のために利用できなかった。それにもかかわらず、肺炎は、1回目の投与後10日間と比較して1回目の投与後20日間にて有意に改善していた(図10)。
【0180】
患者#2は、発熱および咳を有する症状の発症後5日目(病気の6日目)に第6病院に入院した67歳男性であった。CTスキャンは、左肺の上葉に混濁を示した(図10)。SARS-CoV-2の感染もまた、病気の11日目にrRT-PCRにより確認した。抗ウイルス(アルビドール)および抗生物質(モキシフロキサシン)を、他の支持療法と共に投与した。状態は、重度の咳および高熱で8日目まで悪化した(39.7℃、図5C、右)。メチルプレドニゾロン(40mg/日、病気後8日目から7日間)は、症状の改善はほとんど示さなかった。患者を、10日目に武漢火神山医院に移し(図5A)、病気は、病気の11日目にSpO(14日目に室内空気にて<90%)、高熱(10---13日目に>39℃、図5C、右)および胸部CTにて肺炎によって示されるとおり悪化し続けた(図10)。患者は、重度の咳、胸部圧迫感および呼吸困難を報告した。HFNOを、SpO>95%を維持するために与えなければならなかった。抗-C5aを病気14日目の朝に投与し、患者#1と同様に続けた。次に、平熱が同じ日に観察された(図5C、右)。咳、呼吸困難および胸部圧迫感が、次の日(病気の15日目)により良くなっていることが報告された。有意な減少したC反応性タンパク質(CRP)レベル、有意に増加した白血球およびリンパ球数もまた、数日に観察された(図5C、右)。肝機能は徐々に改善された(図5D、右、15日目のデータは利用できない)。SpO>95%を維持するために必要な吸気Oの流速および割合は、SpO/FiOの増加に伴い、徐々に減少した(図5B、右)。26日目(1回目の投与後12日)の胸部CTはまた、低下した肺炎を示した(図5B)。
【0181】
これらのデータは、2名の患者が抗C5aモノクローナル抗体治療から有意に利益を得たことを示唆した。
【0182】
議論
過去17年間、連続的に発生したSARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2は、種の壁を越えて、新たな感染症および社会的パニックをヒトに持ち込んだ。これら全ての高度に病原性のコロナウイルスは、急性肺傷害および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こし、したがって増加した重症度および致死率を引き起こす。ウイルスに感染した患者は、重度の免疫傷害に起因する非典型的な肺炎を発症し得る。「サイトカイン・ストーム」(5)と呼ばれる炎症性サイトカインおよびケモカインの大量放出により特徴付けられた過剰なヒト免疫応答は、最新のSARS-CoV-2を含む高度に病原性のコロナウイルスによって引き起こされる重度の肺炎の主なイニシエーターであると考えられる(4)。免疫病原性がSARSまたはMERSにおいて部分的に関与されているが、宿主免疫系のウイルス誘導性過活性化に関与するメカニズムが十分に理解されていないままである。
【0183】
ここで、本発明者らは、SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2が、補体カスケードの制御されていない活性化、補体沈着、およびC4の増強された開裂に至る、ウイルスのNタンパク質がMBLの結合および強化、MASP-2のCa2+-依存性自己活性化につながる、共通のメカニズムを共有することを開示する(図1-2および6)。MASP-2へのNタンパク質の結合が、MASP-2-介在-レクチン経路活性化の効果を増幅する。Nタンパク質突然変異体は、MASP-2と相互作用しないか、またはNダイマーを形成せず、そしてMASP-2介在レクチン経路活性化に対してほとんどあるいは全く効果を有さず(図1CおよびD)、Nタンパク質の効果が結合および二量化に依存することを示唆する。
【0184】
「両刃の剣」として、補体は、病原体に対する先天免疫に重要である。アナフィラトキシン、例えばC3aおよびC5aは、免疫細胞を活性化し、したがって種々のサイトカインの放出を誘導することができる。活性化された補体カスケードは、細胞溶解性の末端補体複合体C5b-9とC3bおよびC5bフラグメントを生成する(31、33)。これらのペプチドは、プロスタグランジン(PG)E2、トロンボキサンB2およびロイコトリエンを含むアラキドン酸代謝産物の合成を誘導し(32、34)、これはさらに好中球、単球および好酸球の補充および活性化を誘導し、そして多くの炎症性サイトカインおよびメディエーターの生産を刺激する(35)。これらのサイトカインは、炎症プロセスを誘発および維持し、そして先天免疫によるウイルスとの闘いを助ける。それにもかかわらず、無制御な補体活性化は常に播種性血管内凝固(DIC)、炎症、細胞死、および免疫まひに寄与し、そして最後に多臓器不全および死に至るため、補体関与先天免疫活性化は、微調整されなければならない。コロナウイルスNタンパク質が補体活性化を強化するという驚くべき知見は、SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2感染により誘導される肺炎の原因への新たな見識を提供する。さらに、我々はまた、Ad-SARS NまたはAd-MERS Nの前感染が、LPS誘発肺炎の致死率を明らかに増加させることを見いだした(図3)。それはまた、恐らく、二次細菌感染から放出される大量のLPSによって引き起こされる組織損傷を悪化させる(37、38)。
【0185】
コロナウイルスの病因におけるNタンパク質介在MASP-2およびしたがって補体カスケード過剰活性化の関与は、C5a/C5aR経路の既知のインヒビターの使用に対する、およびしたがってSARS、MERSまたは最新のCOVID-19を処置するための新たな方法に対する戦略を提供する。第一に、抗体による血清中のNタンパク質の中和は、LPS/Ad-SARS NまたはLPS/Ad-MERS Nの抗原投与されたマウスにおいて、効果的に肺傷害を緩和し、そして致死率を低下させた。偶然に一致して、スパイク特異的抗体ではなくNタンパク質特異的抗体のより高いレベルを産生するSARS患者がより容易に回復する傾向にあり、N抗体のレベルがSARSの結果と相関していることを示唆する(39)。我々の見出したことによると、同様のメカニズムは、MERS-CoVまたはSARS-CoV-2感染において存在し得る。
【0186】
第二に、Masp2ノックアウトマウスは、有意に穏やかな症状を示し、そして、疾患のより短い経過は、LPS誘発のNタンパク質をブーストされたマウス肺炎モデルにおいて、この重度の肺炎におけるMASP-2の有害な役割を確認した。したがって、抗-MASP-2抗体またはMASP-2インヒビターC1INHの投与は、有望な処置効果を示した(図3)。より高いアフィニティーおよび中和活性を有する改善されたMASP-2抗体、例えばOMS721(40)(これは血栓性微小血管症に有望な効果を示した)、または注射可能なC1INH薬物、例えばHAEGARDAは、効果的な保護を提供する可能性がある。さらなる臨床的な評価は、SARS-CoV 2誘発肺炎処置の処置のために行われる価値がある。
【0187】
第三に、我々は、Ad-SARS N前感染およびLPSプライムされたマウスモデルにおける観察と一致している、死亡した患者の肺組織において補体カスケードの過剰活性化が観察された。高レベルのC5aは、穏やかなCOVID-19患者ではなく重度の患者の血清において蓄積された。よって、補体カスケード産物標的化免疫調節が、病原性コロナウイルス関連疾患において炎症コントロールに対して有効であり得ることを理解できる。この経路において、C5aは、炎症を引き起こす最も強力な補体タンパク質である。Staidson(BDB001)およびinflaRx GmbH(IFX-1、同じ操作された細胞株によって生産される)による他の疾患において第2相試験における我々の観察および安全性記録に基づいて、組換え抗-C5a抗体BDB001は、重度のおよび重大なCOVID-19患者の処置のための臨床試験についてNMDAによって承認された。両者とも悪化している状態であった少なくとも最初の2人の患者において、抗-C5a抗体は臨床医の期待値を超える迅速なおよび有望な効果を示した。臨床試験が終了するまで、最終的な有効性が公開されないが、抗-C5a抗体がCOVID-19の処置のための新たなアプローチを提供するであろうことを予期させる。
【0188】
材料および方法
細胞培養およびトランスフェクション
293T細胞株を、Peking Union Medical CollegeのCell Resource Centerから得た。細胞を、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)(HyClone)、2mM L-グルタミン、100 ユニット/ml ペニシリン、および100μg/ml ストレプトマイシンを補ったダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Invitrogen)において培養した。細胞を、製造業者のプロトコールによってLipofectamine 2000(Invitrogen)を使用してプラスミドDNAでトランスフェクトした。
【0189】
ベクターおよびタンパク質のエピトープタグ付け
SARS-CoV(GenBank Accession #AY274119)のN遺伝子を、患者血清サンプルのSARS-CoV RNAからRT-PCRにより増幅し(上流プライマー:5’-CGGAATTCCATATGTCTGATAATGGACCCCAA-3’;下流プライマー:5’-CGGGATCCTTATGCCTGAGTTGAATCAGC-3’)、pcDNA3ベースのFlagベクター(Invitrogen)、pCMV-Myc(Clontech)、pGEX-4T-2(GE Health care)、およびpEGFPC1(Clontech)のBglIIおよびEcoRI部位にクローニングした。MERS-CoVのN遺伝子を化学的に合成し(Huaxinrcomm Technology Co.、Ltd)、BamHIおよびEcoRI部位でpcDNA3ベースのFlagベクターにクローニングした。SARSCoV-2のN遺伝子を化学的に合成し(General Biosystems (Anhui) Co. Ltd)、KpnIおよびXbaI部位でpcDNA3.1-ベースのHAベクターにクローニングした。
【0190】
免疫沈降および免疫ブロット法
細胞溶解物を、1% Nonidet P-40を含む溶解バッファー(50mM Tris-HCl、pH7.5、1mM フッ化フェニルメチルスルホニル、1mM ジチオスレイトール、10mM フッ化ナトリウム、10μg/ml アプロチニン、10μg/ml ロイペプチン、および10μg/ml ペプスタチンA)中に作製した。可溶性タンパク質を、抗-Flag M2 アガロース(Sigma)での免疫沈降に付した。次に、吸着物をSDS-PAGEにより分離し、セミドライトランスブロット(Biorad)によりImmobilon-P移動膜(Millipore)上に移動させた。膜を、5% Western-Blocker(Biorad)によりブロックした。免疫ブロット分析を、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)-コンジュゲートされた抗-Flag(Sigma)、抗-β-アクチン(Sigma)、抗-緑色蛍光タンパク質(GFP)(Clontech)、抗-MASP-2(Santa Cruz)、抗-C4α(Santa Cruz)、HRP-コンジュゲートされた抗-Myc(Santa Cruz)、およびヤギ抗-マウス免疫グロブリンG(IgG)(Amersham/Pharmacia)抗体で行った。抗原抗体複合体を化学発光(GE Health Care)によって可視化した。
【0191】
SARS-CoVおよびMERS-CoV Nタンパク質の精製
以前に記載されているとおり(1)、pET22b-SARS/MERS-CoV Nを発現株BL21(DE3)に形質転換した。8時間1mM IPTGで誘導後、細菌を遠心分離により回収し、buffer A (25mM NaHPO/NaHPO (pH8.0)、1mM EDTA、および1mM DTT)に再懸濁し、超音波処理した。溶解物中の可溶性Nタンパク質を、SP-セファロース高速流(25mM NaHPO/NaHPO(pH8.0)、1mM EDTA、1mM DTT、および0.35-0.5M NaCl)でのイオン交換クロマトグラフィーで精製し、次にSuperdex 200 ゲル濾過(GE Healthcare)し、そしてバッファーAで溶出した。ベクターpET22bで形質転換された大腸菌を上記のように溶解し、溶出液を精製されたNタンパク質に対するネガティブコントロールとして使用した。精製されたSARS-CoV-2 N-HisをGeneral Biosystems(Anhui) Co. Ltdから得た。
【0192】
MASP-2の精製および復元
組換えタンパク質発現および復元を記載されているように行った(2、3)。簡潔には、pET22b-MASP-2を発現宿主株BL21(DE3)に形質転換した。1mM IPTGでの誘導後、細胞を採取し、超音波処理した。封入体を、6M GuHCl、0.1M Tris-HCl(pH8.3)、および100mM DTTに室温で可溶化した;次に、可溶化したタンパク質を、50mM Tris-HCl、3mM 還元グルタチオン(Sigma)、1mM 酸化グルタチオン(Sigma)、5mM EDTA、および0.5M アルギニンを含むリフォールディングバッファーに希釈した。次に、タンパク質サンプルを4℃に冷却した。復元したタンパク質を、20mM Tris、140mM NaCl、pH7.4に対して4℃で透析し、PEG8000で濃縮し、アリコートし、-70℃で貯蔵した。高活性MASP-2を得るために、Flagタグ付きMASP-2を293T細胞で発現させ、抗FLAG磁気ビーズで沈殿させ、Flagペプチド(Sigma)で溶出させた。標準コントロールとして精製された原核生物発現MASP-2を使用して、MASP-2の濃度を、BCAキットおよび免疫ブロット分析を使用して評価した。
【0193】
MASP-2自己活性化およびC4開裂アッセイ
精製されたMASP-2(8nM)を、20mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl、および2mM CaCl2中、37℃で、それぞれ50nM、30nM、15ng/ml、および10nMの濃度で精製されたC4(Calbiochem)、組換えMBL(Calbiochem)、マンナン(Sigma)、およびSARS-CoV Nタンパク質と、インキュベートした。開裂を還元条件下でSDS-PAGEに付し、C4フラグメントおよびMASP-2を、抗-C4α鎖抗体(Santa Cruz)または抗-Flag抗体(Sigma)を用いて免疫ブロット分析により検出した。
【0194】
補体沈着アッセイ
C4b沈着アッセイを、ヒトMBL/MASP-2アッセイキット(Hycult biotech)を用いて行った(4)。簡潔には、希釈した血清をマンナン被覆プレートで高塩結合バッファーを用いて4℃で一晩インキュベートし、洗浄により除去し、MBL-MASP-2複合体を捕捉した。精製されたC4およびNタンパク質を加えて、1.5時間インキュベートし、沈着したC4bを標準プロトコールにしたがって検出した。LPおよびAPの機能活性を、以前に記載されているようにELISAにより評価した(5)。Nunc Maxisorbプレートを、100mM NaCO/NaHCO(pH9.6)中、ウェル当たり10μg マンナンで、室温で一晩コーティングした。各ステップ後、プレートをPBST(300μl/ウェル)で3回洗浄した。残存する結合部位を、10mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl、および2% HSAと室温で2-3時間インキュベーションすることによりブロックした。血清サンプルを、2mM CaClおよびNタンパク質を有するか、または有さない、150mM NaCl、0.5mM MgCl、0.05% Tween-20、および0.1% ゼラチンを含む10mM Tris-HCl(pH7.4)で1:80希釈した。全てのサンプルおよびバッファーを氷上で調製した。次に、プレートを4℃で1時間および37℃で1.5時間連続してインキュベートし、その後洗浄した。すべてのインキュベーション量は100μlであった。補体結合を、抗体を用いて検出し、その後洗浄した。C4、活性化C3、およびC5b-9の検出を、それぞれ抗C4α鎖抗体(Santa Cruz)、抗活性化C3抗体(Santa Cruz)、および抗C5b-9抗体(Calbiochem)を用いて実施した。抗体結合を、HRP-コンジュゲートされたヒツジ抗マウス抗体またはロバ抗ウサギ抗体(R&D)を用いて検出した。HRPの酵素活性をRTで30-60分間のTMBインキュベーションを用いて検出し、反応を2M HSOで停止させた。ODをマイクロプレートリーダーを用いて450nmで測定した。
【0195】
MASP-2:MBL結合アッセイ
MBLへのMASP-2の結合をELISAにより評価した。上記のとおり、Nunc Maxisorbプレートを、100mM NaCO/NaHCO(pH9.6)中、ウェル当たり10μg マンナンで、室温で一晩コーティングし、2% HSAでブロックした。MBLタンパク質(1μg/ml)を、10mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl、5mM CaCl、100μg/ml HSA、および0.5% TritonX-100と4℃で2時間インキュベーションした。精製されたMASP-2およびN(またはコントロール)タンパク質を異なる時間でウェルに加え、それぞれ0.2mg/mlおよび200ng/mlの最終濃度を得た。プレートを4℃での32時間のインキュベーション後洗浄し、MASP-2の結合を抗-MASP-2抗体、次にHRP-コンジュゲートされたウサギ抗ヤギ抗体で検出した。HRPの酵素活性をRTで30-60分間のTMBインキュベーションを用いて検出し、反応を2M HSOで停止させた。ODをマイクロプレートリーダーを用いて450nmで測定した。
【0196】
オプソニン食菌アッセイ
腹腔から単離されたマウス細胞を洗浄し、37℃で2時間96ウェルプレートにおいてRPMI 1640 Media(10% FBS)に植菌した。血清を、1×PBS、1mM CaCl、および2mM MgClで0.781%、1.562%、3.125%、6.25%、12.5%、25%、50%および100%に希釈した。希釈した血清、SARS-CoV Nタンパク質(100ng/ml)および大腸菌(細胞に対する比率は10:1であった)をそれぞれのウェルに加え、37℃で30分間インキュベートした。pET22b形質転換した大腸菌からの溶出物を、精製されたNタンパク質のためのネガティブコントロールとして使用して、補体を活性化する可能性のある菌体成分による効果を除外した。反応を停止し、細胞を10%中性ホルマリンで固定した。補体C3c沈殿をFITC-C3c抗体で検出し、染色細胞をカウントした。点は、2つの繰り返しウェルからの平均値を表す。エラーバー、平均±S.D. 対応のない両側スチューデントt検定による*P<0.05および**P<0.01。マウス。
【0197】
masp nullマウスの生成およびLPS抗原投与
BALB/cマウスのグループは、Military Medical Sciencesのアカデミーの実験動物センターから提供された。MASP-2-/-(KO)マウスおよびネガティブコントロール野生型(WT)マウスは、Cyagen Biosciences Incから提供された。全てのマウスを、Military Medical Sciences(China)のアカデミーの実験動物センターにおいて維持した。マウス(8-10/グループ)に1×108-9PFU Ad-N/Ad-null(Beijing BAC Biological Technologies)または塩水コントロールを尾静脈を介して3回(1、2、3日)注入し、LPS(5mg/kg)を5-6日目に尾静脈を介して与えた。抗-MASP-2モノクローナル抗体(200μg/kg、HBT)、抗-Nモノクローナル抗体(200μg/kg、Sino Biolgical)またはC1INH(4mg/kg、Calbiochem)を、LPS注射の30分前に、尾静脈を介して注射した。
【0198】
免疫組織化学
火神山(Huoshenshan)医院において死亡した4人の患者からの死後剖検を、病院倫理委員会および死亡者の家族の承認のもとDr. Xiuwu Bianにより行われた。詳細な結果は、別の場所で公表される予定である。パラホルムアルデヒド固定肺組織をパラフィン組織切片のために使用し、MBL(Santa Cruz)、MASP-2(Santa Cruz)、C4α鎖(Santa Cruz)、C3(Santa Cruz)またはC5b-9(Calbiochem)抗体での免疫組織化学的染色を前記のように行った。
【0199】
COVID-19患者におけるC5aの検出
軽度または重度のCOVID-19患者からの血清を、病院倫理委員会の承認のもと、回収した。深刻な患者を、発熱または呼吸器感染の疑い、プラス 呼吸速度>30息/分、重度の呼吸困難、または室内空気にてSpO<90%の1つとして定義した。肺炎を有し、深刻な肺炎の兆候がない患者を、軽度のケースとして定義する。平均56±12.1歳および病気の平均26.3±9.1日数を有する10人の軽度の患者(男性5人、女性5人)からの血清をアッセイした。健常人からの血清を臨床検査室から回収した。血清C5aレベルを二重抗体サンドイッチELISA(R&D)により検出した。
【0200】
C5a抗体治療
ヒトC5aに対するマウス-ヒト(IgG4)抗体(Bdb-001 注射)は、Staidson Biopharmaceutical Co.Ltdにより提供され、これはGood Manufacture Protocolにしたがって製造された。注射は、2019年に健常対象において第I相臨床試験について中国の国家医療製品管理局(NMDA)により承認された。SARS-CoV-2コロナウイルス誘導肺炎(COVID-19)アウトブレイク後、抗体は、2020年2月7日にCOVID-19の処置のための第2相臨床試験についてNMDAにより承認された(2020L00003)。ヒトへの抗体の投与もまた、武漢火神山医院(Wuhan Huoshenshan Hospital)の倫理委員会により承認された。250ml 塩水中の300mg 抗-C5a抗体を、1、2、3、5、7、9および11日目にi.v.投与した。動脈血ガス(ABG)試験、C反応タンパク質(CRP)、血液ルーチン(血液RT)および肝機能を定期的に決定した。SaO、血圧、心拍を必要に応じてモニターした。
【0201】
参考文献
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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