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  • 特許-接合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 5/06 20060101AFI20240827BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C09J5/06
C09J163/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022202528
(22)【出願日】2022-12-19
(65)【公開番号】P2024087610
(43)【公開日】2024-07-01
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信行
(72)【発明者】
【氏名】森 優俊
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/172863(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/209116(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/014503(WO,A1)
【文献】特開昭55-12147(JP,A)
【文献】特開2019-73663(JP,A)
【文献】特開2013-256037(JP,A)
【文献】特開2011-195794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体基材である基材Aと、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂から選択される少なくとも一種である非晶性熱可塑性樹脂を含むフィルムと、非磁性体基材である基材Bを、この順で接合してなる接合体の製造方法であって、
前記非晶性熱可塑性樹脂の含有量は、前記フィルム中の樹脂成分のうち、80質量%以上であり、
前記フィルム中における樹脂成分の含有量は、20質量%以上であり、
前記熱可塑性エポキシ樹脂が、(a)2官能エポキシ樹脂モノマーもしくはオリゴマーと(b)フェノール性水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、イソシアネート基及びシアネートエステル基からなる群より選ばれる同一の又は異なる2つの官能基を有する2官能性化合物との重合体であり(ただし、ビスフェノール類と、エピクロルヒドリンより合成されるポリヒドロキシポリエーテルは除く)、
フェノキシ樹脂が、ビスフェノール類と、エピクロルヒドリンより合成されるポリヒドロキシポリエーテルであり、
前記フィルム、前記磁性体基材A及び前記非磁性体基材Bを、各々別々に準備し、
ここで準備された前記フィルムは、厚さが10μm~1mmであり、次いで、
前記フィルムを前記基材Aに接面させた状態で、前記フィルムを溶融後固化させることにより前記基材Aと前記フィルムを接合する、又は、前記フィルムを前記基材Bに接面させた状態で、前記フィルムを溶融後固化させることにより前記基材Bと前記フィルムを接合する、第1の接合工程と、
前記基材Aに接合した前記フィルムを基材Bに接面させた状態で、前記フィルムを溶融後固化させることにより、前記基材Aと前記基材Bを接合する、又は、前記基材Bに接合した前記フィルムを基材Aに接面させた状態で、前記フィルムを溶融後固化させることにより、前記基材Aと前記基材Bを接合する、第2の接合工程を有し、
前記樹脂成分が、エポキシ当量1,600g/eq.以上もしくはエポキシ基を含まず、かつ、融解熱が15J/g以下である、接合体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の接合工程において、前記フィルムの溶融を、加熱条件100~300℃で行う、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項3】
前記第2の接合工程において、前記フィルムの溶融を、接触加熱、温風加熱、熱プレス、赤外線加熱、熱板溶着、超音波溶着、振動溶着及び高周波誘導溶着からなる群より選ばれる少なくとも1種により行う、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項4】
前記第2の接合工程において、前記フィルムの溶融を、加熱条件100~400℃、及び加圧条件0.01~20MPaで行う、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種材を容易にかつ強固に接合する用途に好適な、接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の軽量化及び高性能化等の観点より、自動車部品、医療機器、家電製品等、各種分野で部品のマルチマテリアル化が進んでいる。マルチマテリアル化とは、機能や材質の異なる材料(以下、異種材という)を併用することで材料の軽量化や高強度化を図る手法である。マルチマテリアル化の実現には、異種材を強固に接合する技術が不可欠である。
【0003】
異種材を強固に接合する手段として、液状型接着剤である熱硬化型エポキシ樹脂系接着剤(特許文献1等)が広く使用されている。
液状型接着剤を用いた接合は、液状の樹脂組成物を塗布する塗布工程と、塗布後に前記樹脂組成物を重合反応させて硬化させる硬化工程が必要となる。
このため、液状型接着剤を用いて接合を行う場合、塗布工程においては樹脂組成物の塗布に時間がかかり、硬化工程においては重合反応に時間がかかり(すなわち、接合プロセス時間が長く)、利便性に欠けるという問題がある。
本明細書において、接合プロセス時間とは、接合体を構成する少なくとも一種の基材と接合剤の接触時を始点、接合体の作製の完了時を終点として、始点から終点までの時間を意味する。例えば基材に対して液状接着剤を塗布する工程や乾燥工程、もしくは固形接合剤を載せる工程、基材同士を接着する(例えば、接着層を硬化させる)のに要する時間を含む。
【0004】
エポキシ樹脂組成物を基材に含浸または塗工後、半硬化(Bステージ化)させ、Bステージ状の接着剤層付き積層体として、接合体の製造に用いる技術も開示されている(特許文献2等)。
しかし、Bステージ状の接着剤を用いた接合も、半硬化状態の接着剤層を重合反応させて硬化させる硬化工程が必要となり、接合プロセス時間が長いという問題がある。
また、Bステージ状の接着剤は、貯蔵安定性が悪く、常温での長期保管ができず、低温での保管が必要であり、オープンタイムが短く利便性に欠けるという問題がある。
本明細書においてオープンタイムとは、基材Aの上に接合剤を塗布もしくは載せた後、基材Bを載せ終えるまでの制限時間を意味する。オープンタイム内であれば、接合剤の接着力が低下せず、十分な接着力で基材Aと基材Bを貼り合わせることができる。オープンタイムが長いほど、基材Aの上に接合剤を塗布もしくは載せた後、基材Bを載せ終えるまでの制限時間が長くなり、利便性が高い。
【0005】
異種材を接合する手段として、熱可塑性接着剤組成物(以下、ホットメルト接着剤)も使用されている(特許文献3等)。ホットメルト接着剤を用いることにより、具体的には、ホットメルト接着剤は重合反応を伴わない相変化を利用して接着を行うものであるため、塗布工程は不要であって、硬化時間が早く(すなわち、接合プロセス時間が短く)、利便性に優れる。また、常温での長期保管も可能であって、オープンタイムが長い点においても利便性に優れる。
【0006】
しかし、従来のホットメルト接着剤は、溶融粘度を低くするために、結晶性の樹脂からなるか、もしくは、結晶性の樹脂を含む樹脂からなるため、接着樹脂内の凝集力が高く、基材への十分な相互作用を持つことができない。また、溶融して接着する際に、高温においては低粘度になり、接着面から流出しやすく、また粘度の制御がしにくいので膜厚が安定しない。これらの要因により、従来のホットメルト接着剤では高い接着力を安定して得ることができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-157018号公報
【文献】特開平10-17685号公報
【文献】特開平10-168417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、従来技術のうち、接着性に優れる熱硬化型エポキシ樹脂系接着剤では、液状型及びBステージ状の何れの形態でも、接合プロセス時間が長いという問題及びオープンタイムが短いという問題の少なくとも一種の問題があり、接合プロセス時間が短く、かつ、オープンタイムが長いホットメルト接着剤は高い接着力を安定して得ることができないという問題があった。
【0009】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、磁性体基材である基材Aと、非磁性体基材である基材Bを接合する技術であって、接合プロセス時間が短く、オープンタイムが長く、かつ、接着性に優れた接合技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記目的を達成するために、以下の手段を提供する。
なお、本明細書において、接合とは、物と物を繋合わせることを意味し、接着及び溶着はその下位概念である。接着とは、テープや接着剤の様な有機材(熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等)を介して、2つの被着材(接着しようとするもの)を接合状態とすることを意味し、溶着とは、熱可塑性樹脂等の表面を熱によって溶融し、接触加圧と冷却により分子拡散による絡み合いと結晶化で接合状態とすることを意味する。
【0011】
<接合体の製造方法_実施形態1>
[1]
磁性体基材である基材Aと、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂から選択される少なくとも一種である非晶性熱可塑性樹脂を含む固形接合剤と、非磁性体基材である基材Bを、この順に配置して積層体を準備する接合前工程と、
前記積層体を加熱及び加圧して前記固形接合剤を溶融させ、前記基材Aと前記基材Bを接合する接合工程を有し、
前記非晶性熱可塑性樹脂のエポキシ当量が1,600以上もしくはエポキシ基を含まず、融解熱が15J/g以下である、接合体の製造方法。
[2]
前記加熱及び加圧を、100~400℃及び0.01~20MPaの条件で行う、[1]に記載の接合体の製造方法。
[3]
溶融前の固形接合剤が、フィルムの形状を有する、[1]又は[2]に記載の接合体の製造方法。
【0012】
<接合体の製造方法_実施形態2>
[4]
磁性体基材である基材Aと、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂から選択される少なくとも一種である非晶性熱可塑性樹脂を含む固形接合剤と、非磁性体基材である基材Bを、この順で接合してなる接合体の製造方法であって、
前記固形接合剤を前記基材Aに接面させた状態で、前記固形接合剤を溶融後固化させることにより前記基材Aと前記固形接合剤を接合する、又は、前記固形接合剤を前記基材Bに接面させた状態で、前記固形接合剤を溶融後固化させることにより前記基材Bと前記固形接合剤を接合する、第1の接合工程と、
前記基材Aに接合した前固形接合剤を基材Bに接面させた状態で、前記固形接合剤を溶融後固化させることにより、前記基材Aと前記基材Bを接合する、又は、前記基材Bに接合した前固形接合剤を基材Aに接面させた状態で、前記固形接合剤を溶融後固化させることにより、前記基材Aと前記基材Bを接合する、第2の接合工程を有し、
前記非晶性熱可塑性樹脂が、エポキシ当量1,600g/eq.以上もしくはエポキシ基を含まず、かつ、融解熱が15J/g以下である、接合体の製造方法。
[5]
前記第1の接合工程において、前記固形接合剤の溶融を、加熱条件100~300℃で行う、[4]に記載の接合体の製造方法。
[6]
前記第2の接合工程において、前記固形接合剤の溶融を、接触加熱、温風加熱、熱プレス、赤外線加熱、熱板溶着、超音波溶着、振動溶着及び高周波誘導溶着からなる群より選ばれる少なくとも1種により行う、[4]又は[5]に記載の接合体の製造方法。
[7]
前記第2の接合工程において、前記固形接合剤の溶融を、加熱条件100~400℃、及び加圧条件0.01~20MPaで行う、[4]~[6]の何れかに記載の接合体の製造方法。
[8]
溶融前の固形接合剤が、フィルムの形状を有する、[1]~[7]の何れかに記載の接合体の製造方法。
【0013】
<接合体>
[9]
磁性体基材である基材Aと、非磁性体基材である基材Bを、接着層を介して接合してなる接合体であって、
前記接着層が、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂から選択される少なくとも一種であって、エポキシ当量が1,600以上であり、融解熱が15J/g以下である、非晶性熱可塑性樹脂を含む固形接合剤を、前記基材Aと前記基材Bの間に配置し、加熱及び加圧して溶融させ、前記固形接合剤を固化させて形成されてなる、接合体。
[10]
前記加熱及び加圧を、100~400℃及び0.01~20MPaの条件で行う、[9]に記載の接合体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁性体基材である基材Aと、非磁性体基材である基材Bを接合する技術に関し、接合プロセス時間が短く、オープンタイムが長く、かつ、接着性に優れた接合技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態における接合体の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[接合体の製造方法_実施形態1]
実施形態1の接合体の製造方法は、磁性体基材である基材Aと、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂から選択される少なくとも一種である非晶性熱可塑性樹脂を含む固形接合剤と、非磁性体基材である基材Bを、この順に配置して積層体を準備する接合前工程と、前記積層体を加熱及び加圧して前記固形接合剤を溶融させ、前記基材Aと前記基材Bを接合する接合工程を有する。
前記接合前工程では、基材Aと固形接合剤および基材Bと固形接合剤との接合は行わず、次の接合工程にて接合を行う。固形接合剤はタック性を有していても良く、その場合は接合前工程で固形接合剤が基材に対して仮固定される。
【0017】
以下、各工程について説明する。
【0018】
<接合前工程>
接合前工程では、基材Aと、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂から選択される少なくとも一種である非晶性熱可塑性樹脂を含む固形接合剤と、基材Bを、この順に配置して積層体を準備する。
前記積層体は、基材Aと固形接合剤、固形接合剤と基材Bの何れも、接合しておらず、それぞれ独立した部材を重ね合わせてなる。
前記固形接合剤の「固形」とは、常温で固体、即ち23℃の加圧のない状態下において流動性が無いことを意味する。
前記固形接合剤は、23℃の加圧のない状態下において30日以上変形せずに外形を保持でき、さらに変質しない特性を備えることが望ましい。
【0019】
(固形接合剤)
固形接合剤は、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂から選択される少なくとも一種である非晶性熱可塑性樹脂であって、エポキシ当量が1,600以上であり、融解熱が15J/g以下である非晶性熱可塑性樹脂を含む。
本発明における非晶性樹脂とは、示差走査熱量計(DSC)を用いた測定において、融点(Tm)を有するが、明確な融解に伴う吸熱ピーク(融点)を有しないもしくは非常に小さい樹脂である。融解熱はDSCの吸熱ピークの面積と、熱可塑性樹脂成分の重量から算出される。無機充填剤などが固形接合剤に含まれる場合は、無機充填剤は除いた、樹脂成分の重量から算出する。具体的には、本発明における非晶性熱可塑性樹脂とは、以下のものを指す。試料を2-10mg秤量し、アルミ製パンに入れ、DSC(株式会社リガク製DSC8231)で23℃から10℃/minで200℃以上まで昇温し、DSCカーブを得る。次いでそのDSCカーブから求めた融解時の吸熱ピークの面積と、前記秤量値から融解熱を算出したときに、融解熱が15J/g以下となる樹脂である。
【0020】
固形接合剤に非晶性熱可塑性樹脂の特性を十分に付与する点から、前記非晶性熱可塑性樹脂の含有量は、固形接合剤中の樹脂成分のうち、好ましくは51質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。本開示において「固形熱伝導材料中の樹脂成分」とは、固形熱伝導材中におけるフィラー以外の成分を意味する。
【0021】
融解熱は、15J/g以下であり、11J/g以下であることが好ましく、7J/g以下であることがより好ましく、4J/g以下であることが更に好ましく、融解ピークが検出限界以下であることが最も好ましい。
エポキシ当量は、1,600以上であり、2,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましく、9,000以上であることが更に好ましく、検出限界以上であってエポキシ基が実質的に検出されないことが最も好ましい。
【0022】
エポキシ当量が1,600以上であり、融解熱が15J/g以下である非晶性熱可塑性樹脂を含む固形接合剤を用いることにより、加熱時に、従来のホットメルト接着剤で見られるような急激な粘度低下は起こらず、200℃を超える高温度領域においても低粘度(0.001~100Pa・s)状態には至らない。このため当該固形接合剤は溶融した状態でも積層体から流れ出すことはなく、接着層の厚みが安定して確保でき、高い接着力を安定して得ることができる。
ここで言うエポキシ当量(エポキシ基1モルが含まれる前記樹脂の重量)は、接合前の固形接合剤に含まれる熱可塑性エポキシ樹脂もしくはフェノキシ樹脂成分のエポキシ当量の値であり、JIS―K7236:2001に規定された方法で測定された値(単位「g/eq.」)である。具体的には、電位差滴定装置を用い、溶媒としてシクロヘキサノンを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸-酢酸溶液を用い、溶媒希釈品(樹脂ワニス)は、不揮発分から固形分換算値としての数値を算出した値である。なお、2種以上の樹脂の混合物の場合はそれぞれの含有量とエポキシ当量から算出することもできる。
【0023】
固形接合剤に含まれる非晶性熱可塑性樹脂の融点は50~400℃であることが好ましく、60℃~350℃であることがより好ましく、70℃~300℃であることが更に好ましい。50~400℃の範囲に融点があることにより、前記固形接合剤が加熱により効率よく変形、溶融し接着面に有効に濡れ広がるため高い接着力が得られる。
本明細書において、非晶性熱可塑性樹脂の融点とは、実質的に固体から軟化し、熱可塑性を帯び、溶融と接着が可能となる過程の温度範囲を意味する。
【0024】
従来の熱硬化性の接着剤では、接合体を解体することが困難であり、接合体を構成する異種材を分別してリサイクルすることが難しく(すなわち、リサイクル性に劣り)、また、接合体の製造工程において接合箇所のズレ等があった際や内容物や被着体に欠陥があり交換が必要な場合に貼り直しが難しく(すなわち、リペア性に劣り)、利便性に欠けるという問題があったが、前記固形接合剤は、熱で軟化・溶融させることができ、容易に剥離できるため、リサイクル性に優れる。また、前記固形接合剤は熱可塑性であるため、可逆的に軟化・溶融と硬化を繰り返すことができ、リペア性にも優れる。
【0025】
《熱可塑性エポキシ樹脂》
熱可塑性エポキシ樹脂は、(a)2官能エポキシ樹脂モノマーもしくはオリゴマーと(b)フェノール性水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、イソシアネート基及びシアネートエステル基からなる群より選ばれる同一の又は異なる2つの官能基を有する2官能性化合物との重合体であることが好ましい。
かかる化合物を使用することにより、直鎖状のポリマーを形成する重合反応が優先的に進行して、所望の特性を具備する熱可塑性エポキシ樹脂を得ることが可能となる。
【0026】
前記(a)2官能エポキシ樹脂モノマーもしくはオリゴマーとは、分子内にエポキシ基を2個有するエポキシ樹脂モノマーもしくはオリゴマーをいう。
前記(a)の具体例として、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、2官能のフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、2官能のナフタレン型エポキシ樹脂、2官能の脂環式エポキシ樹脂、2官能のグリシジルエステル型エポキシ樹脂(例えばジグリシジルフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ダイマー酸ジグリシジルエステルなど)、2官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂(例えばジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジンなど)、2官能の複素環式エポキシ樹脂、2官能のジアリールスルホン型エポキシ樹脂、ヒドロキノン型エポキシ樹脂(例えばヒドロキノンジグリシジルエーテル、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテルなど)、2官能のアルキレングリシジルエーテル系化合物(例えばブタンジオールジグリシジルエーテル、ブテンジオールジグリシジルエーテル、ブチンジオールジグリシジルエーテルなど)、2官能のグリシジル基含有ヒダントイン化合物(例えば1,3-ジグリシジル-5,5-ジアルキルヒダントイン、1-グリシジル-3-(グリシドキシアルキル)-5,5-ジアルキルヒダントインなど)、2官能のグリシジル基含有シロキサン(例えば1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、α,β-ビス(3-グリシドキシプロピル)ポリジメチルシロキサンなど)及びそれらの変性物などが挙げられる。これらのうち、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂が、反応性及び作業性の点から好ましい。
前記(b)のフェノール水酸基を持つ2官能性化合物としては、例えばカテコール、レゾルシン、ヒドロキノンなどのベンゼン環を1個有する一核体芳香族ジヒドロキシ化合物類、ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)などのビスフェノール類、ジヒドロキシナフタレンなどの縮合環を有する化合物、ジアリ
ルレゾルシン、ジアリルビスフェノールA、トリアリルジヒドロキシビフェニルなどのアリル基を導入した2官能フェノール化合物、ジブチルビスフェノールAなどが挙げられる。
前記(b)のカルボキシル基含有化合物の具体例としては、アジピン酸、コハク酸、マロン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、及びテレフタル酸などが挙げられる。
前記(b)のメルカプト基を持つ2官能性化合物としては、例えば、エチレングリコールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオプロピオネ
ートなどが挙げられる。
前記(b)のイソシアネート基含有の2官能性化合物の具体例としては、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、へキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、及びトリレンジイソシアネート(TDI)などが挙げられる。
前記(b)のシアネートエステル基含有の2官能性化合物の具体例としては、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、及びビス(4-シアナトフェニル)メタンなどが挙げられる。
前記(b)のなかでもフェノール水酸基を持つ2官能性化合物が熱可塑性の重合物を得る観点から好ましく、フェノール性水酸基を2つ持ち、ビスフェノール構造もしくはビフェニル構造を持つ2官能性化合物が耐熱性および接着性の観点から好ましく、ビスフェノールA、ビスフェノールFもしくはビスフェノールSが耐熱性およびコストの観点から好ましい。
【0027】
前記(a)がビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂であり、前記(b)がビスフェノールA、ビスフェノールFもしくはビスフェノールSである場合、前記(a)と(b)の重合により得られるポリマーは、パラフェニレン構造とエーテル結合を主骨格とし、それらをアルキレン基で連結した主鎖と、重付加により生成した水酸基が側鎖に配置された構造を有する。
パラフェニレン骨格からなる直鎖状の構造により、重合後のポリマーの機械的強度を高めることができるとともに、側鎖に配置された水酸基により、基材への密着性を向上させることができる。この結果、熱硬化性樹脂の作業性を維持しながら、高い接着強度を実現することができる。さらに、熱可塑性樹脂である場合は、熱で軟化・溶融させることによってリサイクルおよびリペアが可能となり、熱硬化性樹脂における問題点であるリサイクル性およびリペア性を改善することができる。
【0028】
《フェノキシ樹脂》
フェノキシ樹脂は、ビスフェノール類と、エピクロルヒドリンより合成されるポリヒドロキシポリエーテルであり、熱可塑性を有する。フェノキシ樹脂の製造には、二価フェノール類とエピクロルヒドリンの直接反応による方法、二価フェノール類のジグリシジルエーテルと二価フェノール類の付加重合反応による方法が知られているが、本発明に用いられるフェノキシ樹脂はいずれの製法により得られるものであっても良い。二価フェノール類とエピクロルヒドリンの直接反応の場合は、二価フェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール、ビフェニレンジオール、フルオレンジフェニル等のフェノール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等の脂肪族グリコールが挙げられる。中でも、コストや接着性、粘度、耐熱性の観点から、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSが好ましい。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂に類似の化学構造をもち、パラフェニレン構造とエーテル結合を主骨格とし、それらを連結した主鎖と、水酸基が側鎖に配置された構造を有する。
【0029】
《熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂の物性》
前記熱可塑性エポキシ樹脂およびフェノキシ樹脂は、GPC(ゲル・パーミエ―ション・クロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値である重量平均分子量が10,000~500,000であることが好ましく、18,000~300,000であることがより好ましく、20,000~200,000であることが更に好ましい。重量平均分子量はGPCによって検出される溶出ピーク位置から算出され、それぞれ標準ポリスチレン換算での分子量の値である。重量平均分子量がこの値の範囲であると熱可塑性と耐熱性のバランスが良く、効率よく溶融によって接合体が得られ、その耐熱性も高くなる。重量平均分子量が10,000以上であると耐熱性に優れ、500,000以下であると溶融時の粘度が低く、接着性が高くなる。
【0030】
《固形接合剤中における樹脂成分以外の成分》
必要に応じて、本発明の目的を阻害しない範囲で、固形接合剤は、樹脂成分以外の成分として、フィラーや添加剤を含有してもよい。
【0031】
フィラーとしては、無機フィラー及び有機フィラー(樹脂粉体)が挙げられる。
無機フィラーとしては、例えば、球状溶融シリカ、鉄などの金属の金属粉、珪砂、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、酸性白土、珪藻土、カオリン、石英、酸化チタン、シリカ、フェノール樹脂マイクロバルーン、ガラスバルーン等が挙げられる。
フィラーを含有する場合、固形接合剤の全量100体積%中におけるフィラーの含有量は、50体積%以下であることが好ましく、30体積%以下であることがより好ましく、20体積%以下であることが更に好ましく、10体積%以下であることが最も好ましい。
フィラーの含有量(体積%)は、25℃における仕込み量から求められ、具体的には、フィラーの質量%に対し、フィラー以外の成分の比重と、フィラーの真比重を基に、下記(式1)によりに算出される。
(式1)
X=(MF/DF)÷(MF/DF+(100-MF)/DR)×100%
(式1)において、
X:フィラーの含有量(体積%)
MF:フィラーの仕込み量(質量%)
DR:樹脂成分を硬化した際の比重
DF:フィラーの真比重
である。
【0032】
添加剤としては、例えば、消泡剤、シランカップリング剤等のカップリング剤、顔料等を挙げることができ、これらは1種又は2種以上含有していてもよい。
フィルム中における添加剤の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
フィルム中における樹脂成分の含有量は、好ましく10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上、一態様では80質量%以上、別の態様では90質量%以上、別の態様では99質量%以上である。
【0033】
《固形接合剤の製造方法》
固形接合剤の製造方法は特に限定されないが、例えば、2官能エポキシ化合物のモノマーもしくはオリゴマーを加熱して重合させることで得られる。重合の際に粘度を低減させて撹拌しやすくするために溶媒を加えても良い。溶媒を加える場合はその除去が必要であり、乾燥もしくは重合またはその両方を離型フィルムなどの上にて行うことで固形接合剤を得ても良い。
【0034】
上記添加剤としては、例えば、粘度調整剤、無機フィラー、有機フィラー(樹脂粉体)、消泡剤、シランカップリング剤等のカップリング剤、顔料等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
粘度調整剤としては、例えば、反応性希釈剤等を使用することができる。
無機フィラーとしては、例えば、球状溶融シリカ、鉄などの金属の金属粉、珪砂、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、酸性白土、珪藻土、カオリン、石英、酸化チタン、シリカ、フェノール樹脂マイクロバルーン、ガラスバルーン等が挙げられる。
このようにして得られた固形接合剤は、未反応のモノマーや末端エポキシ基含有量が少ないか実質的に含まれないため、貯蔵安定性に優れ、常温での長期保存も可能である。
【0035】
固形接合剤の形態は特に限定されないが、フィルム、棒、ペレット及び粉体からなる群から選択される何れかの形状を有することが好ましい。特に、少なくとも外形の少なくとも1辺が5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることが更に好ましく、0.5mm以下であることがより更に好ましく、0.3mm以下であることが最も好ましい。そのような範囲のサイズであると基材Aと基材Bの間に挟み、加熱加圧によって効率よく接着面に広がることができ、高い接着力が得られる。
【0036】
固形接合剤は、接着力やその耐熱性を阻害しない範囲で、タック性があっても良い。その場合、積層体準備工程においては基材に対して前記固形接合剤が仮固定される。
【0037】
<接合工程>
接合工程では、前記積層体を加熱及び加圧して前記固形接合剤を溶融させ、その後、温度を下げることにより前記固形接合剤を固化させ、前記基材Aと前記基材Bを接合する。
【0038】
前記加熱及び加圧における温度は、100~400℃が好ましく、120~350℃がより好ましく、150℃~300℃が更に好ましい。100~400℃で加熱することにより、前記固形接合剤が効率よく変形、溶融し接着面に有効に濡れ広がるため高い接着力が得られる。
前記加熱及び加圧における加圧力は0.01~20MPaが好ましく、0.1~10MPaがより好ましく、0.2~5MPaが更に好ましい。このような圧力範囲であると、前記固形接合剤が効率よく変形し接着面に有効に濡れ広がるため高い接着力が得られる。基材AもしくはBの少なくともどちらか一方が熱可塑性樹脂の場合、0.01~20MPaで加圧することにより、固形接合剤と基材を相溶化させ、強い接着力を得ることができる。
【0039】
固形接合剤に含まれる非晶性熱可塑性樹脂は、樹脂内の凝集力が低く、かつ水酸基を有しているため、基材との相互作用が強く、従来の結晶性のホットメルト接着剤よりも高い接着力で異種材を接合することができる。
【0040】
本実施形態における前記基材Aと前記基材Bの接合は、固形接合剤の相変化(固体~液体~固体)を利用したものであり、化学反応を伴わないため、従来の熱硬化型のエポキシ樹脂よりも短時間で接合を完了することができる。
【0041】
[接合体の製造方法_実施形態2]
本実施形態に係る接合体の製造方法は、磁性体基材である基材Aと、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂から選択される少なくとも一種である非晶性熱可塑性樹脂を含む固形接合剤と、非磁性体基材である基材Bを、この順で接合してなる接合体の製造方法であって、前記固形接合剤を前記基材Aに接面させた状態で、前記固形接合剤を溶融後固化させることにより前記基材Aと前記固形接合剤を接合する、又は、前記固形接合剤を前記基材Bに接面させた状態で、前記固形接合剤を溶融後固化させることにより前記基材Bと前記固形接合剤を接合する、第1の接合工程と、前記基材Aに接合した前固形接合剤を基材Bに接面させた状態で、前記固形接合剤を溶融後固化させることにより、前記基材Aと前記基材Bを接合する、又は、前記基材Bに接合した前固形接合剤を基材Aに接面させた状態で、前記固形接合剤を溶融後固化させることにより、前記基材Aと前記基材Bを接合する、第2の接合工程を有し、前記非晶性熱可塑性樹脂が、エポキシ当量1,600g/eq.以上もしくはエポキシ基を含まず、かつ、融解熱が15J/g以下である。
【0042】
本実施形態における前記基材Aと前記基材Bの接合も、実施形態1と同様に、固形接合剤の相変化(固体~液体~固体)を利用したものであり、化学反応を伴わないため、従来の熱硬化型のエポキシ樹脂よりも短時間で接合を完了することができ、また、オープンタイムも長い。また、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂は、樹脂内の凝集力が低く、かつ水酸基を有しているため、基材との相互作用が強く、従来の結晶性のホットメルト接着剤よりも高い接合力で異種材を接合することができる。
また、当該製造方法は、第1の接合工程と第2の接合工程に工程を分けて接合する。このように分けることで、接合界面に適した温度で加熱して接合することができ、接合性に優れる接合体を製造することができる。また、加熱温度制御も工程を分けない場合に比べて容易となる。さらに、予め基材Aもしくは基材Bにフィルムを接合することで、基材Aと基材Bを精度よく接合することができ、接合箇所にズレが生じることを抑制することができる。
【0043】
<第1の接合工程>
第1の接合工程は、前記固形接合剤を前記基材Aに接面させた状態で、前記固形接合剤を溶融後固化させることにより前記基材Aと前記固形接合剤を接合する工程、又は、前記固形接合剤を前記基材Bに接面させた状態で、前記固形接合剤を溶融後固化させることにより前記基材Bと前記固形接合剤を接合する工程である。
第1の接合工程で、基材Aもしくは基材Bと前記固形接合剤を予め接合することで、基材Aと基材Bを精度よく接合することができる。
なお、本明細書において、「固化」とは、常温で固体、即ち23℃の加圧のない状態下において流動性が無いことを意味する。ただし、第1の接合工程後のフィルムには、タック性があってもよい。
【0044】
前記固形接合剤を溶融させる方法としては、接触加熱、温風加熱、熱プレス、熱板溶着、赤外線加熱、超音波溶着、振動溶着及び高周波誘導溶着からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法が挙げられる。中でも、製造容易性及び接合プロセス短縮の観点から、赤外線加熱が好ましい。
【0045】
固形接合剤を加熱により溶融させる場合、基材Aもしくは基材Bの固形接合剤との接合面の温度を、100~300℃に加熱して溶融させることが好ましく、より好ましくは120~250℃、更に好ましくは150℃~220℃である。100~300℃で加熱することにより、前記フィルムが効率よく変形、溶融し接合面に有効に濡れ広がるため高い接合力が得られる。
溶融した固形接合剤を固化させる方法としては、常温で放冷する方法又は冷却装置を用いて放冷する方法が挙げられる。なお、「常温」とは、5~30℃の範囲内の一般的な室温を意味する。中でも、製造容易性の観点から、常温で放冷する方法が好ましい。
【0046】
(固形接合剤)
固形接合剤は、上記実施形態1と同様であるが、本実施形態における固形接合剤はフィルムであることが好ましい。本開示において、フィルムとは、厚さが10μm~3mmのシート状物を意味する。
【0047】
《フィルムの形態》
フィルムの厚さは、短い接合プロセス時間で接合性に優れた接合体を得る観点から、1mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましく、0.3mm以下であることが更に好ましく、0.2mm以下であることがより更に好ましく、0.1mm以下であることが最も好ましい。
そのような範囲のサイズであると基材Aと基材Bの間に挟み、加熱や加圧等によって効率よく接合面に広がることができ、高い接合力が得られる。
【0048】
当該フィルムは単層であってもよく複数層からなる積層体であってもよいが、製造容易性の観点及び接合力の向上の観点から単層であることが好ましい。
また、フィルムは、接合力やその耐熱性を阻害しない範囲で、タック性があってもよい。
【0049】
《フィルムの製造方法》
フィルムの製造方法は特に限定されないが、例えば、2官能エポキシ化合物のモノマーもしくはオリゴマーを加熱して重合させることで樹脂組成物を得、得られた樹脂組成物に必要に応じて溶媒を加え、離型フィルム等に塗布し、硬化・乾燥、必要に応じて加圧することによりフィルムを得てもよい。
【0050】
<第2の接合工程>
第2の接合工程は、前記基材Aに接合した前固形接合剤を基材Bに接面させた状態で、前記固形接合剤を溶融後固化させることにより、前記基材Aと前記基材Bを接合する工程、又は、前記基材Bに接合した前固形接合剤を基材Aに接面させた状態で、前記固形接合剤を溶融後固化させることにより、前記基材Aと前記基材Bを接合する工程である。
【0051】
高い接合力を得る観点から、第2の接合工程では、フィルムの融点以上の温度で加熱してフィルムを溶融後固化させることが好ましい。
【0052】
前記フィルムを溶融させる方法としては、接触加熱、温風加熱、熱プレス、赤外線加熱、熱板溶着、超音波溶着、振動溶着及び高周波誘導溶着からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法が挙げられる。中でも、熱プレス、超音波溶着、及び高周波誘導溶着が好ましい。
【0053】
熱プレスを行う場合の条件については特に限定はない。
例えば、温度は、100~400℃が好ましく、120~350℃がより好ましく、150℃~300℃が更に好ましい。100~400℃で加熱することにより、前記フィルムが効率よく変形、溶融し接合面に有効に濡れ広がるため高い接合力が得られる。
前記熱プレスにおける加圧力は0.01~20MPaが好ましく、0.1~10MPaがより好ましく、0.2~5MPaが更に好ましい。このような圧力範囲であると、前記フィルムが効率よく変形し接合面に有効に濡れ広がるため高い接合力が得られる。
高周波誘導溶着を行う場合の条件に付いては特に限定は無い。
例えば、発信周波数は、好ましくは0.1~3MHz、より好ましくは0.5~2MHzである。
高周波印可時間は、接着性と外観性の観点から、好ましくは0.1~120秒、より好ましくは1~60秒である。
高周波印可時に基材Aと基材Bとを加圧する場合、加圧力は0.01~20MPaが好ましく、0.1~10MPaがより好ましく、0.2~5MPaが更に好ましい。このような圧力範囲であると、前記固形接合剤が効率よく変形し接着面に有効に濡れ広がるため高い接着力が得られる。
【0054】
高周波誘導溶着を行う場合の条件に付いては特に限定は無い。
例えば、出力は、100~10000Wの範囲が挙げられる。
【0055】
超音波溶着を行う場合の条件に付いては特に限定は無い。
例えば、発信周波数は、好ましくは10~70kHz、より好ましくは15~40kHzである。
超音波印可時間は、接着性と外観性の観点から、好ましくは0.1~3秒、より好ましくは0.2~2秒である。
超音波印可時に基材Aと基材Bとを加圧する場合、加圧力は0.01~20MPaが好ましく、0.1~10MPaがより好ましく、0.2~5MPaが更に好ましい。このような圧力範囲であると、前記固形接合剤が効率よく変形し接着面に有効に濡れ広がるため高い接着力が得られる。
【0056】
超音波溶着を行う場合の条件に付いては特に限定は無い。
例えば、発振周波数は、1~1500kHzの範囲が挙げられる。基材A及び基材Bの大きさや種類に応じて、適切な発振周波数に調整すればよい。
出力は、100~5000Wの範囲が挙げられる。
発振時間は、基材A及び基材Bの大きさや種類に応じて調整すればよく、例えば、好ましくは1.0~10.0秒であり、より好ましくは1.5~8.0秒である。
【0057】
本実施形態における基材Aと基材Bの接合は、上述のとおり、固形接合剤の相変化(固体~液体~固体)を利用したものであり、化学反応を伴わないため、従来の熱硬化型のエポキシ樹脂よりも短時間で接合を完了することができる。
【0058】
[接合体]
図1に、本発明の接合体の一実施形態を示す。図1に示す接合体1は、熱可塑性エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂から選択される少なくとも一種である非晶性熱可塑性樹脂からなるフィルムが溶融後固化した接合層2を介して、磁性体基材である基材A(3)と非磁性体基材である基材B(4)が、接合一体化されたものである。本発明の接合体は、異種材の接合体でも、優れた接合強度を示す。接合強度は、接合層と基材A及び接合層と基材Bとの間に働く界面相互作用の強さの他に、接合層の厚さ、フィルムを構成するポリマーの分子量や化学構造、力学的特性、粘弾性的特性など数多くの因子に影響を受けるため、本発明の接合体が優れた接合強度を示す機構の詳細は明らかではないが、接合層2を構成する非晶性熱可塑性樹脂内の凝集力が低いことと、樹脂内に水酸基が存在し、接合層と基材A、及び、接合層と基材Bの界面で水素結合やファンデルワールス力などの化学結合や分子間力を形成することが主な要因であると推測される。しかしながら、前記接合体において、前記接合体の前記界面の状態又は特性はナノメーターレベル以下のごく薄い化学構造であり、分析が困難であり、それを特定することにより、フィルムの使用によらないものと区別すべく表現することは、現時点の技術において、不可能又は非実際的である。
【0059】
接合層が熱可塑性樹脂からなる本発明の接合体は、リサイクル性及びリペア性に優れ、接合体を加熱することで、容易に基材Aと基材Bに解体することができる。
【0060】
基材Aの磁性体としては、鉄等の磁性体金属の他、下記非磁性体よりも透磁率が大きい磁性セラミック、等が挙げられる。
基材Bの非磁性体としては、アルミニウム、セラミックスなどの他、非磁性フェライトセラミックスやアルミナおよびガラスを主成分とする絶縁性ガラスセラミックス等が挙げられる。本開示において、セラミックスは、陶器や磁器に限定されず、無機物を加熱処理し焼き固めた焼結体を意味する。
【0061】
基材Aと基材Bの形状は特に限定されない。
【0062】
基材Aと基材Bに各基材に適した前処理をすることで高い接着力が得られることがある。
前処理としては、基材の表面を洗浄する前処理または表面に凹凸を付ける前処理が挙げられる。具体的には、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、レーザー処理、エッチング処理、フレーム処理等が挙げられる。前処理は、1種のみであってもよく、2種以上を施してもよい。これらの前処理の具体的な方法としては、公知の方法を用いることができる。
【0063】
前記脱脂処理とは、基材表面の油脂などの汚れをアセトン、トルエン等の有機溶剤等で溶かして除去する方法である。
【0064】
前記UVオゾン処理とは、低圧水銀ランプから発光する短波長の紫外線の持つエネルギーとそれにより発生するオゾン(O)の力で、表面を洗浄したり改質する方法である。ガラスの場合、表面の有機系不純物の除去を行う表面洗浄法の一つとなる。一般に、低圧水銀ランプを用いた洗浄表面改質装置は、「UVオゾンクリーナー」、「UV洗浄装置」、「紫外線表面改質装置」などと呼ばれている。
【0065】
前記ブラスト処理としては、例えば、ウェットブラスト処理、ショットブラスト処理、サンドブラスト処理等が挙げられる。中でも、ウェットブラスト処理は、ドライブラスト処理と比べより緻密な面が得られるため、好ましい。
【0066】
前記研磨処理としては、例えば、研磨布を用いたバフ研磨や、研磨紙(サンドペーパー)を用いたロール研磨、電解研磨等が挙げられる。
【0067】
前記プラズマ処理とは、高圧電源とロッドでプラズマビームを作り素材表面にぶつけて分子を励起させて官能状態とするもので、素材表面に水酸基や極性基を付与できる大気圧プラズマ処理方法等が挙げられる。
【0068】
前記コロナ放電処理とは、高分子フィルムの表面改質に施される方法が挙げられ、電極から放出された電子が高分子表面層の高分子主鎖や側鎖を切断し発生したラジカルを起点に表面に水酸基や極性基を発生させる方法である。
【0069】
前記レーザー処理とは、レーザー照射によって基材の表面のみを急速に加熱、冷却して、表面の特性を改善する技術で表面の粗面化に有効な方法である。公知のレーザー処理技術を使用することができる。
【0070】
前記エッチング処理としては、例えば、アルカリ法、リン酸-硫酸法、フッ化物法、クロム酸-硫酸法、塩鉄法等の化学的エッチング処理、また、電解エッチング法等の電気化学的エッチング処理等が挙げられる。
【0071】
前記フレーム処理とは、燃焼ガスと空気の混合ガスを燃やすことで空気中の酸素をプラズマ化させ、酸素プラズマを処理対象物に付与することで表面の親水化を図る方法である。公知のフレーム処理技術を使用することができる。
【実施例
【0072】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。以下の実施例において、基材Aと基材Bをまとめて接合基材という。
【0073】
<接合基材>
以下の接合基材を使用した。
【0074】
基材A(磁性体):
《鉄》
SPCC-SDの表面をブラスト処理し、幅10mm、長さ45mm、厚さ2.3mmの試験片を得た。
【0075】
基材B(非磁性体):
《アルミニウム》
A6061-T6の表面をブラスト処理し、幅18mm、長さ45mm、厚さ1.5mmの試験片を得た。
《アルミナ》
アルミナ板(純度96%、焼放し)を切断し、幅18mm、長さ45mm、厚さ1.5mmの試験片を得た。表面処理はせずに使用した。
【0076】
<重量平均分子量、融解熱及びエポキシ当量>
固形接合剤の重量平均分子量、融解熱及びエポキシ当量を、それぞれ以下のように求めた。
【0077】
(重量平均分子量)
熱可塑性エポキシ樹脂およびフェノキシ樹脂をテトラヒドロフランに溶解し、Prominence 501(昭和サイエンス株式会社製、Detector:Shodex(登録商標) RI-501(昭和電工株式会社製))を用い、以下の条件で測定した。
カラム:昭和電工株式会社製 LF-804×2本
カラム温度:40℃
試料:樹脂の0.4質量%テトラヒドロフラン溶液
流量:1ml/分
溶離液:テトラヒドロフラン
較正法:標準ポリスチレンによる換算
【0078】
(融解熱)
熱可塑性エポキシ樹脂およびフェノキシ樹脂を2~10mg秤量し、アルミ製パンに入れ、DSC(株式会社リガク製DSC8231)で23℃から10℃/minで200℃まで昇温し、DSCカーブを得た。そのDSCカーブの融解時の吸熱ピークの面積と前記秤量値から融解熱を算出した。
【0079】
(エポキシ当量)
JIS K-7236:2001で測定し、樹脂固形分としての値に換算した。また、反応を伴わない単純混合物の場合はそれぞれのエポキシ当量と含有量から算出した。
【0080】
<実施例1-1>
(固形接合剤P-1)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、重量平均分子量約10,000)1.0等量(203g)、ビスフェノールS1.0等量(12.5g)、トリフェニルホスフィン2.4g、及びメチルエチルケトン1,000gを仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら100℃まで昇温した。目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分約20質量%の樹脂組成物を得た。これから溶剤を除去して固体を得た。プレス機の上板及び下板に非粘着フッ素樹脂フィルム(ニトフロン(登録商標)No.900UL、日東電工株式会社製)を設置し、下板の非粘着フッ素樹脂フィルム上に上記固体を配置した後、上記プレス機を160℃に加熱し、上記樹脂組成物を2時間加熱圧縮して固形分100質量%の厚さ100μmのフィルム状の固形接合剤(P-1)を得た。重量平均分子量は約37,000であった。エポキシ当量は検出限界以上であった。DSCにおいて融解熱ピークは検出されなかった。
(接合体)
接合体は下記2種類を作製した。
また、オープンタイム評価用に、前記アルミニウム(基材B)の上に固形接合剤を配置した後に3日間静置し、その後に前記鉄(基材A)を載せた以外は下記《鉄・アルミニウム》と同様にして、オープンタイム評価用接合体も作製した。
《鉄・アルミニウム》
基材Bである前記アルミニウム基材の上に、10×15mmの大きさに裁断した前記固形接合剤P-1を配置し、その後速やかに、その上に基材Aとして前記鉄基材を前記三角形の突起が載るように配置した。これらの基材同士の重なりは幅10mm、奥行き5mmとした。前記固形接合剤P-1は前記基材同士の重なり領域をすべて覆うように配置した。つまり、前記基材Aと基材B同士は、直接触れず、その間に前記固形接合剤が介在した状態として、未接合の積層体を準備した。本明細書において「その後速やかに」とは、30分以内程度を目途に、を意味する。高周波誘導溶着機(精電舎電子工業株式会社製、発振器UH-2.5K、プレスJIIP30S)を用いて高周波誘導により鉄及びアルミニウムを発熱させ、加熱・加圧により試験片同士を接合した。加圧力は110N(圧力2.2MPa)、発振周波数は900kHzとした。発振時間は5秒とした。
《鉄・アルミナ》
基材Bとして前記アルミニウムの代わりにアルミナを用いた以外は前記《鉄・アルミニウム》と同様にして、接合体を得た。
【0081】
<実施例1-2>
(接合体)
基材Aの上に前記固形接合剤P-1を配置し、200℃のホットプレート上に1分間置いて加熱することでフィルムを溶融させた後、常温にて1分放冷して、フィルムを固化し、金属基材Aとフィルムを接合した後に基材Bと接合材が接面するように積層させたたこと以外は、実施例1-1と同様にして《鉄・アルミニウム》と《鉄・アルミナ》の2種類の接合体を作製した。
【0082】
<実施例1-3>
(接合体)
基材Bの上に前記固形接合剤P-1を配置し、200℃のホットプレート上に1分間置いて加熱することでフィルムを溶融させた後、常温にて1分放冷して、フィルムを固化し、金属基材Bとフィルムを接合した後に基材Aと接合材が接面するように積層させたたこと以外は実施例1-1と同様にして《鉄・アルミニウム》と《鉄・アルミナ》の2種類の接合体を作製した。
【0083】
<実施例2>
(固形接合剤P-2)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、エノトート(登録商標)YP-50S(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、フェノキシ樹脂、重量平均分子量約50,000)20g、シクロヘキサノン80gを仕込み、撹拌しながら60℃まで昇温し、目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分20質量%の樹脂組成物を得た。これから溶剤を除去して固形分100質量%の厚さ100μmのフィルム状の固形接合剤(P-2)を得た。重量平均分子量は50,000、エポキシ当量は検出限界以上であった。DSCにおいて融解熱ピークは検出されなかった。
(接合体)
固形接合剤としてP-2を用いること以外は実施例1-1と同様にして《鉄・アルミニウム》と《鉄・アルミナ》の2種類の接合体及びオープンタイム評価用接合体を作製した。
【0084】
<実施例3>
(固形接合剤P-3)
前記樹脂組成物P-2と結晶性エポキシ樹脂YSLV-80XY(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)を98対2の質量比で混合し、固形接合剤(P-3)を得た。重量平均分子量は36,000、エポキシ当量は9600g/eq、融解熱は2J/gであった。
(接合体)
固形接合剤としてP-3を用いること以外は実施例1-1と同様にして《鉄・アルミニウム》と《鉄・アルミナ》の2種類の接合体及びオープンタイム評価用接合体を作製した。
【0085】
<実施例4>
(固形接合剤P-4)
前記樹脂組成物P-2と結晶性エポキシ樹脂YSLV-80XY(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)を94対6の質量比で混合し、固形接合剤(P-4)を得た。重量平均分子量は35,000、エポキシ当量は2100g/eq、融解熱は4J/gであった。
(接合体)
固形接合剤としてP-4を用いること以外は実施例1-1と同様にして《鉄・アルミニウム》と《鉄・アルミナ》の2種類の接合体及びオープンタイム評価用接合体を作製した。
【0086】
<実施例5>
(固形接合剤P-5)
前記樹脂組成物P-2と結晶性エポキシ樹脂YSLV-80XY(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)を89対11の質量比で混合し、固形接合剤(P-5)を得た。重量平均分子量は33,000、エポキシ当量は1700g/eq、融解熱は11J/gであった。
(接合体)
固形接合剤としてP-5を用いること以外は実施例1-1と同様にして《鉄・アルミニウム》と《鉄・アルミナ》の2種類の接合体及びオープンタイム評価用接合体を作製した。
【0087】
<実施例6>
(固形接合剤P-6)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約4060)1.0等量(203g)、ビスフェノールS(分子量250)0.6等量(12.5g)、トリフェニルホスフィン2.4g、及びメチルエチルケトン1,000gを仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら100℃まで昇温した。目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分約20質量%の樹脂組成物を得た。これから溶剤を除去して固体を得た。プレス機の上板及び下板に非粘着フッ素樹脂フィルム(ニトフロン(登録商標)No.900UL、日東電工株式会社製)を設置し、下板の非粘着フッ素樹脂フィルム上に上記固体を配置した後、上記プレス機を160℃に加熱し、上記樹脂組成物を2時間加熱圧縮して固形分100質量%の厚さ100μmのフィルム状の固形接合剤(P-6)を得た。重量平均分子量は約30,000、エポキシ当量は検出限界以上であった。DSCにおいて融解熱ピークは検出されなかった。
(接合体)
接合体の作成方法は、固形接合剤としてP-6を用いること以外は実施例1-1と同様にして《鉄・アルミニウム》と《鉄・アルミナ》の2種類の接合体及びオープンタイム評価用接合体を作製した。
【0088】
<比較例1>
(固形接合剤Q-1)
熱硬化性液状エポキシ接着剤E-250(コニシ株式会社製、ビスフェノール型エポキシ樹脂とアミン硬化剤の2液タイプ)の2液を混合し、離型フィルムに塗布し、100℃で1時間硬化させたあと、冷却し、離型フィルムから剥がして厚さ100μmのフィルム状の固形接合剤(Q-1)を得た。DSCにおいて融解熱ピークは検出されなかった。エポキシ当量および重量平均分子量は溶媒に不溶の為測定できなかった。
(接合体)
固形接合剤としてQ-1を用いること以外は実施例1-1と同様にして《鉄・アルミニウム》と《鉄・アルミナ》の2種類の接合体及びオープンタイム評価用接合体を作製した。
【0089】
<比較例2>
(固形接合剤Q-2)
非晶性のポリカーボネートフィルム(ユーピロン(登録商標)FE2000、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、厚さ100μm)を固形接合体Q-2として用いた。DSCにおいて融解熱ピークは検出されなかった。
(接合体)
固形接合剤としてQ-2を用いること以外は実施例1-1と同様にして《鉄・アルミニウム》と《鉄・アルミナ》の2種類の接合体及びオープンタイム評価用接合体を作製した。
【0090】
<比較例3>
(固形接合剤Q-3)
結晶性エポキシ樹脂YSLV-80XY(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)を固形接合剤(Q-3)として用いた。エポキシ当量は192g/eqであった。重量平均分子量は340であった。融解熱は70J/gであった。
(接合体)
固形接合剤としてQ-3を用いること以外は実施例1-1と同様にして《鉄・アルミニウム》と《鉄・アルミナ》の2種類の接合体及びオープンタイム評価用接合体を作製した。
【0091】
<比較例4>
(接合体)
熱硬化性液状エポキシ接着剤E-250(コニシ株式会社製、ビスフェノール型エポキシ樹脂とアミン硬化剤の2液タイプ)の2液を混合し、前記実施例1と同様のそれぞれ2種の基材Aと基材Bに塗布し、1分以内に貼り合わせをし、その後、クリップにて固定した状態で100℃のオーブン内に1時間静置することで接着成分を硬化させ、その後、室温まで冷却することで《鉄・アルミニウム》と《鉄・アルミナ》の2種類の接合体を作製した。
また、前記熱硬化性液状エポキシ接着剤E-250を基材Aと基材Bに塗布した後、3日間静置した後に貼り合わせをしたこと以外は上記と同様にして、オープンタイム評価用接合体も作製した。
【0092】
<比較例5>
フラスコに、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、重量平均分子量約10,000)1.0等量(203g)、ビスフェノールS1.0等量(12.5g)、トリフェニルホスフィン2.4g、及びメチルエチルケトン1,000gを仕込み、常温で撹拌することで固形分約20質量%の液状樹脂組成物を得た。前記実施例1と同様のそれぞれ2種の基材Bの上に、前記液状樹脂組成物をバーコート塗布し、室温で30分乾燥させた後に、160℃のオーブンに2時間静置することで、厚さ100μmの固形の熱可塑性エポキシ樹脂重合物コーティング層を基材Bの表面上に形成した。コーティング層の重量平均分子量は約40,000であった。エポキシ当量は検出限界以上であった。DSCにおいて融解熱ピークは検出されなかった。
(接合体)
前記コーティング層を持つ基材Bの上に基材Aを直接配置したこと以外は実施例1-1と同様にして《鉄・アルミニウム》と《鉄・アルミナ》の2種類の接合体を作製した。
また、オープンタイム評価用に、熱可塑性エポキシ樹脂重合物コーティング層を基材Bの表面上に形成した後、3日間静置し、その後に基材Aと積層した以外は上記と同様にして、オープンタイム評価用接合体も作製した。
【0093】
<比較例6>
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、フエノトート(登録商標)YP-50S(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、フェノキシ樹脂、重量平均分子量約50,000)20g、シクロヘキサノン80gを仕込み、撹拌しながら60℃まで昇温し、目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分20質量%の液状樹脂組成物を得た。前記実施例1と同様のそれぞれ2種の基材Bの上に、前記液状樹脂組成物をバーコート塗布し、70℃のオーブンに30分静置することで、厚さ100μmのフェノキシ樹脂コーティング層を基材Bの表面上に形成した。前記コーティング層の重量平均分子量は約50,000であった。エポキシ当量は検出限界以上であった。DSCにおいて融解熱ピークは検出されなかった。
(接合体)
前記フェノキシ樹脂コーティング層を持つ基材Bの上に基材Aを直接配置したこと以外は実施例1-1と同様にして《鉄・アルミニウム》と《鉄・アルミナ》の2種類の接合体を作製した。
また、オープンタイム評価用に、フェノキシ樹脂コーティング層を基材Bの表面上に形成した後、3日間静置し、その後に基材Aと積層した以外は上記と同様にして、オープンタイム評価用接合体も作製した。
【0094】
<比較例7>
(接合体)
固形接合剤として結晶性のポリアミド系ホットメルト接着剤フィルムNT-120(日本マタイ株式会社製、厚さ100μm)を用いたこと実施例1-1と同様にして《鉄・アルミニウム》と《鉄・アルミナ》の2種類の接合体及びオープンタイム評価用接合体を作製した。融解熱は60J/gであった。
【0095】
[せん断接着力]
実施例1-1~実施例6、比較例1~比較例7で得られた接合体を測定温度(23℃もしくは80℃)で30分以上静置後、ISO19095に準拠して、引張試験機(万能試験機オートグラフ「AG-X plus」(株式会社島津製作所製);ロードセル10kN、引張速度10mm/min)にて、23℃および80℃雰囲気での引張りせん断接着強度試験を行い、接合強度を測定した。測定結果を表1-1及び表1-2に示す。
【0096】
[接合プロセス時間]
接合プロセス時間は下記のように測定した。
接合体を構成する少なくとも一種の基材と接合剤の接触時を始点、接合体の作製の完了時を終点として、始点から終点までの時間を測定した。加熱・加圧時間については、2種の接合体でのそれぞれ加熱・加圧時間を平均した。測定結果を表1-1及び表1-2に示す。
【0097】
[リサイクル性]
接合体を200℃のホットプレートに置いて1分加熱した後、1N以下の力で容易に剥離できるかで判断した。剥離できれば良好(A)で、剥離できなければ不適(B)とした。評価結果を表1-1及び表1-2に示す。
【0098】
[リペア性]
前記引張りせん断強度試験の23℃での試験後の接着面が破断したそれぞれの試験片(基材AもしくはBまたはその両方の表面に接合固体の層が残存している)のうち基材Bの上に基材Aを配置し、前記実施例1と同様に接合体を作成することでリペア接合体を得た。前記リペア接合体の23℃のせん断接着力を前記試験方法と同様に測定し、1回目のせん断接着力の80%以上であれば良好(A)で、80%未満ならば不適(B)とした。評価結果を表1-1及び表1-2に示す。
【0099】
[オープンタイム評価]
オープンタイム評価用接合体を用いて、前記引張りせん断接着強度試験を23℃で実施した。前記実施例及び比較例の方法で作成した試験片と比べてせん断接着力が80%以上であれば良好(A)で、80%未満であれば不適(B)とした。オープンタイム評価が良好(A)とは、オープンタイムが長く、利便性に優れることを意味する。評価結果を表1-1及び表1-2に示す。
【0100】
【表1-1】
【0101】
【表1-2】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の方製造法で得た接合体は、例えば、ドアサイドパネル、ボンネットルーフ、テールゲート、ステアリングハンガー、Aピラー、Bピラー、Cピラー、Dピラー、クラッシュボックス、パワーコントロールユニット(PCU)ハウジング、電動コンプレッサー部材(内壁部、吸入ポート部、エキゾーストコントロールバルブ(ECV)挿入部、マウントボス部等)、リチウムイオン電池(LIB)スペーサー、電池ケース、LEDヘッドランプ等の自動車用部品や、スマートフォン、ノートパソコン、タブレットパソコン、スマートウォッチ、大型液晶テレビ(LCD-TV)、屋外LED照明の構造体等として用いられるが、特にこれら例示の用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0103】
1 接合体
2 接着層
3 基材A
4 基材B
図1