(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】二次電池、電子機器及び電動工具
(51)【国際特許分類】
H01M 10/04 20060101AFI20240827BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20240827BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20240827BHJP
H01M 50/531 20210101ALI20240827BHJP
H01M 50/586 20210101ALI20240827BHJP
H01M 50/591 20210101ALI20240827BHJP
H01M 4/13 20100101ALN20240827BHJP
H01M 4/66 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
H01M10/04 W
H01M10/0587
H01M50/107
H01M50/531
H01M50/586
H01M50/591 101
H01M4/13
H01M4/66 A
(21)【出願番号】P 2022578297
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2022001898
(87)【国際公開番号】W WO2022163479
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】P 2021011605
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003236
【氏名又は名称】弁理士法人杉浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【氏名又は名称】杉浦 正知
(72)【発明者】
【氏名】新川 輝
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-090958(JP,A)
【文献】特開2007-095656(JP,A)
【文献】特開2003-132935(JP,A)
【文献】国際公開第2018/084162(WO,A1)
【文献】特開2001-093583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04
H01M 10/05
H01M 50/50
H01M 50/10
H01M 4/13
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して帯状の正極と帯状の負極とが積層された電極巻回体と、正極集電板及び負極集電板とが、電池缶に収容された二次電池であって、
前記正極は、帯状の正極箔上に、正極活物質層が被覆された正極活物質被覆部と、正極活物質非被覆部とを有し、
前記負極は、帯状の負極箔上に、負極活物質層が被覆された負極活物質被覆部と、少なくとも前記負極箔の長手方向に延在する負極活物質非被覆部と、前記負極活物質被覆部と前記負極活物質非被覆部との間に設けられる絶縁層と、を有し、
前記正極活物質非被覆部は、前記電極巻回体の端部の一方において、前記正極集電板と接合され、
前記負極活物質非被覆部は、前記電極巻回体の端部の他方において、前記負極集電板と接合されており、
前記絶縁層は、前記負極箔を構成する金属よりもX線遮蔽効果が高い金属、又は、前記負極箔を構成する金属よりもX線遮蔽効果が高い金属を含む金属化合物を含有する
二次電池。
【請求項2】
前記金属は、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、及び、金(Au)からなる群より選ばれる1つ以上であり、
前記金属化合物は、金属酸化物、金属硫酸塩化合物、及び、金属炭酸塩化合物からなる群より選ばれる1つ以上である
請求項
1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記金属酸化物は、酸化イットリウム、酸化ハフニウム、五酸化タンタル、及び、酸化タングステンからなる群より選ばれる1つ以上であり、
前記金属硫酸塩化合物は、硫酸バリウム、及び、硫酸ストロンチウムからなる群より選ばれる1つ以上であり、
前記金属炭酸塩化合物は、炭酸ストロンチウムである
請求項
2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記負極箔を構成する金属は銅である
請求項
1から
3までの何れかに記載の二次電池。
【請求項5】
前記電極巻回体は、前記正極活物質非被覆部及び前記負極活物質非被覆部の何れか一方又は両方が、前記巻回された構造の中心軸に向かって曲折し、重なり合うことによって形成された平坦面と、前記平坦面に形成された溝とを有する
請求項1から
4までの何れかに記載の二次電池。
【請求項6】
前記負極は、更に、長手方向の巻回開始側及び巻回終止側のそれぞれの端部に、負極活物質非被覆部を有する
請求項1から
5までの何れかに記載の二次電池。
【請求項7】
請求項1から
6までの何れかに記載の二次電池を有する電子機器。
【請求項8】
請求項1から
6までの何れかに記載の二次電池を有する電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池、電子機器及び電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、電動工具や自動車といった高出力を要する用途に向けても開発されるようになってきている。高出力を行う一つの方法としては、電池から比較的大電流を流すハイレート放電が挙げられる。ハイレート放電では、大電流を流すことから、電池の内部抵抗を低くすることが望まれる。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、電池の電力を外部に導出するためのタブを有しない、所謂、タブレス構造の円筒型電池が記載されている。また、特許文献2には、巻回してなる検査対象物の巻きズレ状態を画像処理で検査する検査装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、リチウムイオン電池の作製工程では、リチウムイオン電池に対して巻きズレの有無を検査する検査工程が行われる。例えば、タブレス構造のリチウムイオン電池の場合には、巻きズレとして、正極活物質が被覆された正極活物質被覆部が、負極活物質が被覆された負極活物質被覆部の範囲を超えた状態、換言すれば、正極活物質被覆部と負極活物質被覆部とが対向していない状態を検出する検査工程が行われる。係る検査を行う場合に、特許文献1及び特許文献2に記載の技術では、負極活物質被覆部の端部が検出できないため、巻きズレの検査を行うことができないという問題があった。
【0007】
従って、本発明は、巻きズレの検査を行うことが可能な構成を有する二次電池、及び、当該二次電池を有する電子機器及び電動工具を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
セパレータを介して帯状の正極と帯状の負極とが積層された電極巻回体と、正極集電板及び負極集電板とが、電池缶に収容された二次電池であって、
正極は、帯状の正極箔上に、正極活物質層が被覆された正極活物質被覆部と、正極活物質非被覆部とを有し、
負極は、帯状の負極箔上に、負極活物質層が被覆された負極活物質被覆部と、少なくとも負極箔の長手方向に延在する負極活物質非被覆部と、負極活物質被覆部と負極活物質非被覆部との間に設けられる絶縁層と、を有し、
正極活物質非被覆部は、電極巻回体の端部の一方において、正極集電板と接合され、
負極活物質非被覆部は、電極巻回体の端部の他方において、負極集電板と接合されており、
絶縁層は、負極箔を構成する金属よりもX線遮蔽効果が高い金属、又は、負極箔を構成する金属よりもX線遮蔽効果が高い金属を含む金属化合物を含有する
二次電池である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の少なくとも実施形態によれば、巻きズレの検査を行うことが可能な構成を有する二次電池を実現できる。なお、本明細書で例示された効果により本発明の内容が限定して解釈されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るリチウムイオン電池の断面図である。
【
図4】
図4は、巻回前の正極、負極、及び、セパレータを示す図である。
【
図5】
図5Aは一実施形態に係る正極集電板の平面図であり、
図5Bは一実施形態に係る負極集電板の平面図である。
【
図6】
図6Aから
図6Fは、一実施形態に係るリチウムイオン電池の組み立て工程を説明する図である。
【
図7】
図7は、一実施形態に係る絶縁層の作用及び絶縁層を設けることにより得られる効果を説明するための図である。
【
図8】
図8は、比較例1を説明するための図である。
【
図9】
図9は、比較例1を説明するための図である。
【
図10】
図10は、本発明の応用例としての電池パックの説明に使用する接続図である。
【
図11】
図11は、本発明の応用例としての電動工具の説明に使用する接続図である。
【
図12】
図12は、本発明の応用例としての電動車両の説明に使用する接続図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態等について図面を参照しながら説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
<一実施形態>
<変形例>
<応用例>
以下に説明する実施形態等は本発明の好適な具体例であり、本発明の内容がこれらの実施形態等に限定されるものではない。なお、説明の理解を容易とするために、各図における一部の構成を拡大したり、若しくは縮小したり、一部の図示を簡略化する場合もある。
【0012】
<一実施形態>
[リチウムイオン電池の全体構成例]
本発明の一実施形態では、二次電池として、円筒形状のリチウムイオン電池を例にして説明する。
図1から
図5を参照しつつ、本実施形態に係るリチウムイオン電池(リチウムイオン電池1)の全体構成に関して説明する。
図1は、リチウムイオン電池1の概略断面図である。リチウムイオン電池1は、例えば、
図1に示すように、電池缶11の内部に電極巻回体20が収納されている円筒型のリチウムイオン電池1である。
【0013】
リチウムイオン電池1は、概略的には円筒状の電池缶11を有し、電池缶11の内部に、一対の絶縁板12,13と、電極巻回体20とを備えている。なお、リチウムイオン電池1は、電池缶11の内部に、例えば、熱感抵抗(PTC)素子及び補強部材などのうちのいずれか1種類又は2種類以上をさらに備えていてもよい。
【0014】
(電池缶)
電池缶11は、主に、電極巻回体20を収納する部材である。この電池缶11は、例えば、一端面が開放されると共に他端面が閉塞された円筒状の容器である。即ち、電池缶11は、開放された一端面(開放端面11N)を有している。この電池缶11は、例えば、鉄、アルミニウム及びそれらの合金などの金属材料のうちのいずれか1種類又は2種類以上を含んでいる。電池缶11の表面に、例えば、ニッケルなどの金属材料のうちのいずれか1種類又は2種類以上が鍍金されていてもよい。
【0015】
(絶縁板)
絶縁板12,13は、電極巻回体20の中心軸(電極巻回体20の端面の略中心を通り
図1のZ軸と平行な方向)に対して略垂直な面を有する円板状の板である。また、絶縁板12,13は、例えば、互いに電極巻回体20を挟むように配置されている。
【0016】
(かしめ構造)
電池缶11の開放端面11Nには、電池蓋14及び安全弁機構30がガスケット15を介してかしめられており、かしめ構造11R(クリンプ構造)が形成されている。これにより、電池缶11の内部に電極巻回体20などが収納された状態において、その電池缶11は密閉されている。
【0017】
(電池蓋)
電池蓋14は、主に、電池缶11の内部に電極巻回体20などが収納された状態において、その電池缶11の開放端面11Nを閉塞する部材である。この電池蓋14は、例えば、電池缶11の形成材料と同様の材料を含んでいる。電池蓋14のうちの中央領域は、例えば、+Z方向に突出している。これにより、電池蓋14のうちの中央領域以外の領域(周辺領域)は、例えば、安全弁機構30に接触している。
【0018】
(ガスケット)
ガスケット15は、主に、電池缶11(折り曲げ部11P)と電池蓋14との間に介在することにより、その折り曲げ部11Pと電池蓋14との間の隙間を封止する部材である。ガスケット15の表面に、例えば、アスファルトなどが塗布されていてもよい。
【0019】
ガスケット15は、例えば、絶縁性材料のうちのいずれか1種類又は2種類以上を含んでいる。絶縁性材料の種類は、特に限定されないが、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリプロピレン(PP)などの高分子材料を用いることができる。中でも、絶縁性材料としては、ポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。電池缶11と電池蓋14とを互いに電気的に分離しながら、折り曲げ部11Pと電池蓋14との間の隙間を十分に封止することができるからである。
【0020】
(安全弁機構)
安全弁機構30は、主に、電池缶11の内部の圧力(内圧)が上昇した際に、必要に応じて電池缶11の密閉状態を解除することにより、その内圧を開放する。電池缶11の内圧が上昇する原因は、例えば、充放電時において電解液の分解反応に起因して発生するガスなどである。
【0021】
(電極巻回体)
円筒形状のリチウムイオン電池1では、帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を挟んで積層され、且つ、渦巻き状に巻回されて電解液に含浸された状態で、電池缶11に収まっている。正極21は正極箔21Aの片面又は両面に正極活物質層21Bを形成したものであり、正極箔21Aの材料は例えば、アルミニウムやアルミニウム合金でできた金属箔である。負極22は負極箔22Aの片面又は両面に負極活物質層22Bを形成したものであり、負極箔22Aの材料は例えば、ニッケル、ニッケル合金、銅や銅合金でできた金属箔である。セパレータ23は多孔質で絶縁性のあるフィルムであり、正極21と負極22とを電気的に絶縁しながら、イオンや電解液等の物質の移動を可能にしている。
【0022】
図2Aは巻回前の正極21を正面から視た図であり、
図2Bは
図2Aの正極21を側面から視た図である。正極21は、正極箔21Aの一方の主面及び他方の主面に正極活物質層21Bで被覆した部分(ドットを付した部分)を有するとともに、正極活物質層21Bで被覆していない部分である正極活物質非被覆部21Cを有する。なお、以下の説明において、正極活物質層21Bで被覆した部分を正極活物質被覆部21Bと適宜、称する。また、正極箔21Aの一方の主面に、正極活物質被覆部21Bが設けられる構成でもよい。
【0023】
図3Aは巻回前の負極22を正面から視た図であり、
図3Bは
図3Aの負極22を側面から視た図である。負極22は、負極箔22Aの一方の主面及び他方の主面に負極活物質層22Bで被覆した部分(ドットを付した部分)を有するとともに、負極活物質層22Bで被覆していない部分である負極活物質非被覆部22Cを有する。なお、以下の説明において、負極活物質層22Bで被覆した部分を負極活物質被覆部22Bと適宜、称する。また、負極箔22Aの一方の主面に、負極活物質被覆部22Bが設けられる構成でもよい。
【0024】
図3Aに示すように、負極活物質非被覆部22Cは、例えば、負極22の長手方向(
図3におけるX軸方向)に延在している第1の負極活物質非被覆部221Aと、負極22の巻回開始側において負極22の短手方向(
図3におけるY軸方向。幅方向とも適宜、称する)に延在している第2の負極活物質非被覆部221Bと、負極22の巻回終止側において負極22の短手方向(
図3におけるY軸方向)に延在している第3の負極活物質非被覆部221Cとを有している。なお、
図3Aにおいて、第1の負極活物質非被覆部221Aと第2の負極活物質非被覆部221Bとの境界、及び、第1の負極活物質非被覆部221Aと第3の負極活物質非被覆部221Cとの境界のそれぞれには点線を付している。
【0025】
負極22は、更に、絶縁層22D(
図3における灰色の部分)を有している。絶縁層22Dは、負極活物質被覆部22Bと第1の負極活物質非被覆部221Aとの間に設けられている。絶縁層22Dの詳細については後述する。
【0026】
本実施形態に係る円筒形状のリチウムイオン電池1では、電極巻回体20は正極活物質非被覆部21Cと第1の負極活物質非被覆部221Aとが互いに逆方向を向くようにしてセパレータ23を介して重ねられて巻回されている。
【0027】
電極巻回体20の中心には貫通孔26が設けられている。具体的には、貫通孔26は、正極21、負極22及びセパレータ23が積層した積層物の略中心にできる孔部である。貫通孔26はリチウムイオン電池1の組み立て工程で、棒状の溶接器具(以下、溶接棒と適宜、称する)等を挿入する孔として使用される。
【0028】
電極巻回体20の詳細について説明する。
図4に正極21、負極22とセパレータ23を積層した巻回前の構造の一例を示す。正極21は、正極活物質被覆部21B(
図4においてドットが疎に付された部分)と正極活物質非被覆部21Cとの境界を被覆する絶縁層101(
図4における灰色の領域部分)とを更に有している。絶縁層101の幅方向の長さは、例えば、3mm程度である。セパレータ23を介して負極活物質被覆部22Bに対向する正極活物質非被覆部21Cの全ての領域が絶縁層101で覆われている。絶縁層101は、負極活物質被覆部22Bと正極活物質非被覆部21Cとの間に異物が侵入したときのリチウムイオン電池1の内部短絡を確実に防ぐ効果がある。また、絶縁層101は、リチウムイオン電池1に衝撃が加わったときに衝撃を吸収し、正極活物質非被覆部21Cの折れ曲がりや、負極22との短絡を確実に防ぐ効果がある。
【0029】
ここで、
図4に示すように、正極活物質非被覆部21Cの幅方向の長さをD5とし、第1の負極活物質非被覆部221Aの幅方向の長さをD6とする。一実施形態ではD5>D6であることが好ましく、例えばD5=7(mm)、D6=4(mm)である。正極活物質非被覆部21Cがセパレータ23の幅方向の一端から突出した部分の長さをD7とし、絶縁層22E及び第1の負極活物質非被覆部221Aがセパレータ23の幅方向の他端から突出した部分の長さをD8とした場合に、一実施形態ではD7>D8であることが好ましく、例えば、D7=4.5(mm)、D8=3(mm)である。
【0030】
正極箔21Aと正極活物質非被覆部21Cとは例えばアルミニウムなどからなり、負極箔22Aと負極活物質非被覆部22Cとは例えば銅などからなる。このように、一般的に正極活物質非被覆部21Cの方が負極活物質非被覆部22Cよりも柔らかい(ヤング率が低い)。このため、一実施形態では、D5>D6且つD7>D8であることがより好ましく、この場合、両極側から同時に同じ圧力で正極活物質非被覆部21Cと負極活物質非被覆部22C(本例では、第1の負極活物質非被覆部221A)とが折り曲げられるとき、折り曲げられた部分のセパレータ23の先端から測った高さは正極21と負極22とで同じくらいになることがある。このとき、正極活物質非被覆部21Cが折り曲げられて適度に重なり合うので、リチウムイオン電池1の作製工程(詳細は後述)において、正極活物質非被覆部21Cと正極集電板24とのレーザ溶接による接合を容易に行うことができる。また、第1の負極活物質非被覆部221Aが折り曲げられて適度に重なり合うので、リチウムイオン電池1の作製工程において、第1の負極活物質非被覆部221Aと負極集電板25とのレーザ溶接による接合を容易に行うことができる。
【0031】
(集電板)
通常のリチウムイオン電池では例えば、正極と負極との一か所ずつに電流取出し用のリードが溶接されているが、これでは電池の内部抵抗が大きく、放電時にリチウムイオン電池が発熱し高温になるため、ハイレート放電には適さない。そこで、本実施形態のリチウムイオン電池1では、電極巻回体20の一方の端面である端面41に正極集電板24を配置し、電極巻回体20の他方の端面である端面42に負極集電板25を配置する。そして、正極集電板24と端面41に存在する正極活物質非被覆部21Cとを多点で溶接し、また、負極集電板25と端面42に存在する第1の負極活物質非被覆部221Aとを多点で溶接することで、リチウムイオン電池1の内部抵抗を低く抑え、ハイレート放電を可能としている。
【0032】
図5A及び
図5Bに、集電板の一例を示す。
図5Aが正極集電板24であり、
図5Bは負極集電板25である。正極集電板24及び負極集電板25は電池缶11に収容される(
図1参照)。正極集電板24の材料は、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金の単体若しくは複合材でできた金属板であり、負極集電板25の材料は、例えば、ニッケル、ニッケル合金、銅や銅合金の単体若しくは複合材でできた金属板である。
図5Aに示すように、正極集電板24の形状は平坦な扇形をした扇状部31に、矩形の帯状部32が付いた形状になっている。扇状部31の中央付近に孔35があいていて、孔35の位置は貫通孔26に対応する位置である。
【0033】
図5Aのドットで示す部分は帯状部32に絶縁テープが貼付されているか絶縁材料が塗布された絶縁部32Aであり、図面のドット部より下側の部分は外部端子を兼ねた封口板への接続部32Bである。なお、貫通孔26に金属製のセンターピン(図示せず)を備えていない電池構造の場合には帯状部32が負極電位の部位と接触する可能性が低いため、絶縁部32Aが無くても良い。その場合には、正極21と負極22との幅を絶縁部32Aの厚さに相当する分だけ大きくして充放電容量を大きくすることができる。
【0034】
負極集電板25の形状は正極集電板24と殆ど同じ形状だが、帯状部の形状が異なっている。
図5Bの負極集電板の帯状部34は、正極集電板24の帯状部32より短く、絶縁部32Aに相当する部分がない。帯状部34には、複数の丸印で示される丸型の突起部(プロジェクション)37が設けられている。抵抗溶接時には、電流が突起部37に集中し、突起部37が溶けて帯状部34が電池缶11の底に溶接される。正極集電板24と同様に、負極集電板25には扇状部33の中央付近に孔36があいていて、孔36の位置は貫通孔26に対応する位置である。正極集電板24の扇状部31と負極集電板25の扇状部33は扇形の形状をしているため、端面41,42の一部を覆うようになっている。全部を覆わないことにより、リチウムイオン電池1を組み立てる際に電極巻回体20へ電解液を円滑に浸透させることができ、且つ、リチウムイオン電池1が異常な高温状態や過充電状態になったときに発生したガスをリチウムイオン電池1外へ放出しやすくすることができる。
【0035】
(正極)
正極活物質層21Bは、リチウムを吸蔵及び放出することが可能である正極材料(正極活物質)を少なくとも含み、さらに、正極結着剤及び正極導電剤などを含んでいてもよい。正極材料は、リチウム含有複合酸化物又はリチウム含有リン酸化合物が好ましい。リチウム含有複合酸化物は、例えば、層状岩塩型又はスピネル型の結晶構造を有している。リチウム含有リン酸化合物は、例えば、オリビン型の結晶構造を有している。
【0036】
正極結着剤は、合成ゴム又は高分子化合物を含んでいる。合成ゴムは、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム及びエチレンプロピレンジエンなどである。高分子化合物は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリイミドなどである。
【0037】
正極導電剤は、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック又はケッチェンブラックなどの炭素材料である。ただし、正極導電剤は、金属材料及び導電性高分子でもよい。
【0038】
(負極)
負極22を構成する負極箔22Aの表面は、負極活物質層22Bとの密着性向上のために粗面化されていることが好ましい。負極活物質層22Bは、リチウムを吸蔵及び放出することが可能である負極材料(負極活物質)を少なくとも含み、さらに、負極結着剤及び負極導電剤などを含んでいてもよい。
【0039】
負極材料は、例えば、炭素材料を含む。炭素材料は、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、黒鉛、低結晶性炭素、又は非晶質炭素である。炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状又は鱗片状を有している。
【0040】
また、負極材料は、例えば金属系材料を含む。金属系材料の例としては、Li(リチウム)、Si(ケイ素)、Sn(スズ)、Al(アルミニウム)、Zr(亜鉛)、Ti(チタン)が挙げられる。金属系元素は、他の元素と化合物、混合物又は合金を形成しており、その例としては、酸化ケイ素(SiOx(0<x≦2))、炭化ケイ素(SiC)又は炭素とケイ素の合金、チタン酸リチウム(LTO)が挙げられる。
【0041】
(セパレータ)
セパレータ23は、樹脂を含む多孔質膜であり、2種類以上の多孔質膜の積層膜でもよい。樹脂は、ポリプロピレン及びポリエチレンなどである。セパレータ23は、多孔質膜を基材層として、その片面又は両面に樹脂層を含んでいてもよい。正極21及び負極22のそれぞれに対するセパレータ23の密着性が向上するため、電極巻回体20の歪みが抑制されるからである。
【0042】
樹脂層は、PVDFなどの樹脂を含んでいる。この樹脂層を形成する場合には、有機溶剤に樹脂が溶解された溶液を基材層に塗布したのち、その基材層を乾燥させる。なお、溶液中に基材層を浸漬させたのち、その基材層を乾燥させてもよい。樹脂層は、無機粒子又は有機粒子を含んでいることが、耐熱性、電池の安全性向上の観点で好ましい。無機粒子の種類は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ベーマイト、タルク、シリカ、雲母などである。また、樹脂層に代えて、スパッタ法、ALD(原子層堆積)法などで形成された、無機粒子を主成分とする表面層を用いてもよい。
【0043】
(電解液)
電解液は、溶媒及び電解質塩を含み、必要に応じてさらに添加剤などを含んでいてもよい。溶媒は、有機溶媒などの非水溶媒、又は水である。非水溶媒を含む電解液を非水電解液という。非水溶媒は、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、ラクトン、鎖状カルボン酸エステル又はニトリル(モノニトリル)などである。
【0044】
電解質塩の代表例はリチウム塩であるが、リチウム塩以外の塩を含んでいてもよい。リチウム塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3SO3)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2SF6)などである。これらの塩を混合して用いることもでき、中でも、LiPF6、LiBF4を混合して用いることが、電池特性向上の観点で好ましい。電解質塩の含有量は特に限定されないが、溶媒に対して0.3mol/kgから3mol/kgであることが好ましい。
【0045】
[絶縁層の詳細]
次に、上述した絶縁層22Dの詳細について説明する。絶縁層22Dは、例えば、PVDF等の樹脂を含む。絶縁層22Dは、更に無機粒子または有機粒子を含んでも良い。無機粒子の例としては例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ベーマイト、タルク、シリカ、雲母などの何れか1種、または2種以上を含むものが挙げられる。
【0046】
図3Bに示したように、本実施形態では、負極箔22Aの両面に、負極活物質被覆部22B及び絶縁層22Dが設けられている。絶縁層22Dは、負極22の長手方向(X軸方向)に延在している第1の負極活物質非被覆部221Aと負極活物質被覆部22Dとの間に存在している。さらに詳しく言えば、絶縁層22Dは、負極22の長手方向(X軸方向)に延在している第1の負極活物質非被覆部221Aと負極活物質被覆部22Dとの境界に沿って存在している。絶縁層22Dの厚みは、負極活物質被覆部22Bの厚み以下である。なお、負極箔22Aの一方の主面に、負極活物質被覆部22B及び絶縁層22Dが設けられる構成でもよい。負極活物質被覆部22Bが負極箔22Aの両面に設けられ、絶縁層22Dのみが負極箔22Aの一方の主面に設けられる構成でもよい。
【0047】
更に、絶縁層22Dは、X線遮蔽効果が所定より高い金属又は金属化合物を含有する。具体的には、絶縁層22Dは、負極箔22Aを構成する金属(主成分の金属)よりもX線遮蔽効果が高い金属、又は、負極箔22Aを構成する金属(主成分の金属)よりもX線遮蔽効果が高い金属を含む金属化合物を含有する。さらに具体的には、絶縁層22Dは上記の金属の粒子、又は上記金属化合物の粒子を含有する。
【0048】
負極箔22Aを構成する金属よりもX線遮蔽効果が高い金属は、例えば、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、及び、金(Au)からなる群より選ばれる1つ以上である。負極箔22Aを構成する金属よりもX線遮蔽効果が高い金属を含む金属化合物は、金属酸化物、金属硫酸塩化合物、及び、金属炭酸塩化合物からなる群より選ばれる1つ以上である。金属酸化物は、例えば、酸化イットリウム、酸化ハフニウム、五酸化タンタル、及び、酸化タングステンからなる群より選ばれる1つ以上である。また、金属硫酸塩化合物は、硫酸バリウム、及び、硫酸ストロンチウムからなる群より選ばれる1つ以上である。また、金属炭酸塩化合物は、炭酸ストロンチウムである。
【0049】
[リチウムイオン電池の作製方法]
次に、
図6Aから
図6Fを参照して、一実施形態に係るリチウムイオン電池1の作製方法について説明する。まず、正極活物質を、帯状の正極箔21Aの表面に塗着させ、これを正極活物質被覆部21Bとし、負極活物質を、帯状の負極箔22Aの表面に塗着させ、これを負極活物質被覆部22Bとした。このとき、正極箔21Aの幅方向の一端側に正極活物質が塗着されていない正極活物質非被覆部21Cを設け、負極箔22Aに、負極活物質が塗着されていない負極活物質非被覆部22C(第1の負極活物質非被覆部221A、第2の負極活物質非被覆部221B及び第3の負極活物質非被覆部221C)を設けた。また、負極活物質被覆部22Bを設ける際に絶縁層22Dを設けた。次に、正極21と負極22とに対して乾燥等の工程を行った。そして、正極活物質非被覆部21Cと負極活物質非被覆部22Cとが逆方向となるようにセパレータ23を介して重ね、中心軸に貫通孔26ができるように渦巻き状に巻回して、
図6Aのような電極巻回体20を作製した。
【0050】
次に、薄い平板(例えば厚さ0.5mm)等の端を端面41,42に対して垂直に押し付けることで、
図6Bに示すように、端面41の一部と端面42の一部とに溝43を作製した。この方法により、貫通孔26から放射状に延びる溝43を作製した。溝43は、例えば、端面41,42のそれぞれの外縁部27,28から貫通孔26まで延在している。なお、
図6Bに示される、溝43の数や配置はあくまでも一例であって図示した例に限定されるものではない。
【0051】
そして、
図6Cのように、両極側から同時に同じ圧力を端面41,42に対して略垂直方向に加え、正極活物質非被覆部21C及び負極活物質非被覆部22C(本例では、第1の負極活物質非被覆部221A)を巻回構造の中心軸に向かって折り曲げ、端面41,42が平坦面となるように形成した。このとき、端面41にある正極活物質非被覆部21C及び端面42にある第1の負極活物質非被覆部221Aのそれぞれが、中心軸に向かって重なり合うように、平板の板面などで荷重を加えた。その後、端面41に正極集電板24の扇状部31をレーザ溶接し、端面42に負極集電板25の扇状部33をレーザ溶接し、接合した。
【0052】
続いて、
図6Dに示すように、正極集電板24の帯状部32及び負極集電板25の帯状部34を折り曲げ、正極集電板24に絶縁板12、負極集電板25に絶縁板13を貼り付け、
図6Eに示される電池缶11内に上記のように組立てを行った電極巻回体20を挿入し、溶接棒を使用して負極集電板25を電池缶11の缶底に溶接した。電解液を電池缶11内に注入後、
図6Fに示すように、ガスケット15及び電池蓋14にて封止を行った。以上のようにして、リチウムイオン電池1を作製した。
【0053】
なお、図示はしていないが、作製したリチウムイオン電池1に対して、巻きズレを検査する検査工程を行った。検査工程は、例えば、X線照射装置が、リチウムイオン電池1に対してX線を照射し、その結果得られるX線画像を解析することで行った。具体的には、X線照射装置を用いて、リチウムイオン電池1の正極側及び負極側のそれぞれに対してX線を順次、照射することで検査工程を行った。これにより得られるX線画像(X線透過画像)のコントラストの変化に基づいて、巻きズレの有無を検査した。巻きズレの有無とは、正極活物質被覆部21Bが、負極活物質が被覆された負極活物質被覆部22Bの範囲を超えた状態の有無、換言すれば、正極活物質被覆部21Bが負極活物質被覆部22Bに対向していない状態の有無を意味する。巻きズレが確認された場合には、不良のリチウムイオン電池1として扱った。なお、リチウムイオン電池1の正極側とは略円筒状を有する電極巻回体20の両端面のうち端面41を含む領域を意味する。電極巻回体20の負極側とは略円筒状を有する電極巻回体20の両端面のうち端面42を含む領域を意味する。
【0054】
なお、絶縁板12及び絶縁板13は、絶縁テープであってもよい。また、接合方法は、レーザ溶接以外の他の方法であってもよい。また、溝43は、正極活物質非被覆部21C及び負極活物質非被覆部22Cを曲折した後も平坦面内に残っており、溝43の無い部分が、正極集電板24又は負極集電板25と接合されるが、溝43が正極集電板24や負極集電板25の一部と接合されていてもよい。
【0055】
なお、本明細書における「平坦面」とは、完全に平坦な面のみならず、正極活物質非被覆部21Cと正極集電板24、及び、負極活物質非被覆部22Cの所定の箇所(例えば、第1の負極活物質非被覆部221A)と負極集電板25とが接合可能な程度において、多少の凹凸や表面粗さを有する表面も含む意味である。
【0056】
[本実施形態により得られる効果]
(絶縁層の作用及び効果)
図7を参照し絶縁層22Dの作用、及び、絶縁層22Dを設けることにより得られる効果について説明する。
図7は、
図4における切断線XA-XAで電極巻回体20を切断した場合の断面を示す図である。説明の便宜を考慮して、
図7では、正極21、負極22、及び、セパレータ23を1層ずつ示している。また、
図7では、リチウムイオン電池1の正極側にX線を照射した場合に得られるX線画像のコントラストを、断面図に対して左上側に模式的に示し、また、リチウムイオン電池1の負極側にX線を照射した場合に得られるX線画像のコントラストを、断面図に対して左下側に模式的に示している。
【0057】
リチウムイオン電池1の正極側における負極活物質被覆部22Bの端部(負極箔22Aの端部)を境界B1とし、正極側における正極活物質被覆部21Bの端部(正極活物質被覆部21Bと絶縁層101との境界)を境界B2とする。境界B1及び境界B2は、X線を照射することによるX線画像のコントラストの変化(
図7における参照符号AAを付した箇所)に基づいて検出可能である。境界B1は、X線遮蔽効果のある銅により構成される負極箔22Aの端部でもあることから、負極箔22AのX線遮蔽効果によるコントラストの変化に基づいて検出することができる。また、境界B2は、正極活物質被覆部21Bの端部であることから、正極活物質被覆部21Bに含まれるリチウム含有複合酸化物等のX線遮蔽効果によるコントラストの変化に基づいて検出することができる。
【0058】
リチウムイオン電池1の負極側における正極活物質被覆部21Bの端部(正極箔21Aの端部)を境界B3とし、負極側における負極活物質被覆部22Bの端部(負極活物質被覆部22Bと絶縁層22Dとの境界)を境界B4とする。境界B3及び境界B4は、X線を照射することによるX線画像のコントラストの変化(
図7における参照符号BBを付した箇所)に基づいて検出可能である。境界B3は、正極活物質被覆部21Bの端部であることから、正極活物質被覆部21Bに含まれるリチウム含有複合酸化物等のX線遮蔽効果によるコントラストの変化に基づいて検出することができる。境界B4は、X線遮蔽効果のある絶縁層22Dの端部でもあることから、絶縁層22DのX線遮蔽効果によるコントラストの変化に基づいて検出することができる。これらのコントラストの変化に基づいて、境界B1~B4の検出が可能となる。
【0059】
タブレス構造のリチウムイオン電池1の巻きズレの有無を検出するためには、上述した境界B1~境界B4を検出することが必要となる。従来(例えば、特許文献1や特許文献2に記載の技術)では、X線遮蔽効果を有する絶縁層が負極活物質被覆部22Bの端部(負極活物質被覆部22Bと絶縁層22Dとの境界)にないため、境界B4を検出することができず巻きズレの検査を行うことができなかった。具体的には、負極活物質被覆部22Bの主成分は黒鉛(C)の場合、例えば第1の負極活物質非被覆部221Aと負極活物質被覆部22Bとの境界、即ち、負極活物質被覆部22Bの端部を、X線画像で検出することはできない。この理由は、主成分が銅(Cu)である負極箔22Aを透過する強度のX線を照射したとき、負極活物質被覆部22Bの主成分である黒鉛は負極箔22AよりもX線遮蔽効果が小さいので、上述した境界がX線画像におけるコントラストの変化として現れないからである。
【0060】
このように、従来は、X線検査による巻きズレの検査が不可能であった。一方で、リチウムイオン電池の品質を確保する必要がある。このため、負極活物質被覆部22Bに対して正極活物質被覆部21Bを確実に対向させるために、正極活物質被覆部21Bの幅方向の長さを小さくする必要があった。具体的には、正極活物質被覆部21Bの端部と負極活物質被覆部22Bの端部との間の距離D10(
図4及び
図7参照)を、余裕をもって大きく設定することで、巻きズレが極力生じないリチウムイオン電池の構成としていた。係る構成では、正極活物質被覆部21Bの幅方向の長さを小さくする制約があるため、電池容量を増やせないという問題があった。
【0061】
本実施形態によれば、上述したように、各構成の位置関係が明確になり境界B1~B4を検出できるようになったので巻きズレの検査を行うことができる。これにより、リチウムイオン電池1の品質を担保することができ、安全性も向上させることができる。また、巻きズレの検査が可能となるため、正極活物質被覆部21Bの幅方向の長さを、余裕をもって小さく設定する必要がなくなり、従来に比べて正極活物質被覆部21Bの幅方向の長さを大きくすることができる。これにより、リチウムイオン電池1の電池容量を増加させることができる。
【0062】
なお、本実施形態では、負極箔22Aの主成分が銅である、そこで、絶縁層22Dとして、銅よりも原子量が充分に大きい(X線遮蔽効果が大きい)金属(元素単体)又は金属化合物を含んだ層を、負極活物質被覆部22Bの端部(塗工端)に接するように形成する。これによって、X線の遮蔽によるコントラストの変化で負極活物質被覆部22Bの端部を検出することができるようになる。
【0063】
例えば、銅の原子量は63.55であるので、これより大きい原子量を有する元素、例えば原子量88.91であるイットリウム(Y)の酸化物である酸化イットリウム(Y2O3)の粒子をポリフッ化ビニリデンとNMPを含む塗料に混合して負極活物質被覆部22Bの端部に接するように塗工し乾燥することで絶縁層22Dを形成する。これにより負極活物質被覆部22Bの端部をX線透過画像のコントラストで検出することができるようになる。
【0064】
なお、酸化イットリウムの代わりに原子量137.3であるバリウム(Ba)を含む硫酸バリウム(BaSO4)を適用することもできる。或いは、酸化イットリウムの代わりに原子量183.8であるタングステン(W)の単体を適用することもできる。或いは、酸化イットリウムの代わりに原子量87.62であるストロンチウム(Sr)を含む炭酸ストロンチウム(SrCO3)を適用することもできる。
【0065】
(その他の効果)
リチウムイオン電池1の作製時において、薄い平板(例えば厚さ0.5mm)などの端を端面41,42に対して垂直に押し付ける際に(
図6Bに示す工程を行う際に)、電極巻回体20の巻回開始側(電極巻回体20の最内周にある正極又は負極の長手方向の端側)において、負極活物質被覆部22Bから負極活物質が剥離することがある。この剥離は端面42に対して押し付ける際に発生するストレスが原因と考えられる。剥離した負極活物質が電極巻回体20内部に侵入し、これにより内部ショートが発生する虞がある。本実施形態では、第2の負極活物質非被覆部221B及び第3の負極活物質非被覆部221Cを設けているので負極活物質の剥離を防ぐことができ、内部ショートの発生を防止できる。係る効果は、第2の負極活物質非被覆部221B及び第3の負極活物質非被覆部221Cの一方のみを設ける構成によっても得られるが、両方設けることがより好ましい。
【0066】
電極巻回体20の巻回終止側において、負極22は、正極活物質被覆部21Bに対向しない側の主面で、負極活物質非被覆部22Cの領域を有することができる。正極活物質被覆部21Bに対向しない主面に負極活物質被覆部22Bを有したとしても、それは充放電への寄与が低いと考えられるからである。負極活物質非被覆部22Cの領域は、電極巻回体20の3/4周以上5/4周以下であることが好ましい。このとき、充放電への寄与が低い負極活物質被覆部22Bを設けていないため、同じ電極巻回体20の容積に対して、初期容量を高くすることができる。
【0067】
本実施形態では、電極巻回体20は、正極活物質非被覆部21Cと負極活物質非被覆部22Cとが逆方向を向くように重ねて巻回してあるので、端面41には、正極活物質非被覆部21Cが集まり、電極巻回体20の端面42には、負極活物質非被覆部22Cが集まる。係る正極活物質非被覆部21C及び第1の負極活物質非被覆部221Aが曲折されて、端面41,42が平坦面となっている。曲折する方向は端面41,42のそれぞれの外縁部27,28から貫通孔26に向かう方向であり、巻回された状態で隣接する周の活物質非被覆部同士が重なって曲折している。端面41が平坦面となることで、正極活物質非被覆部21Cと正極集電板24との接触を良好とすることができ、且つ、第1の負極活物質非被覆部221Aと負極集電板25との接触を良好とすることができる。また、端面41,42が曲折して平坦面となっていることで、リチウムイオン電池1の低抵抗化を実現することができる。
【0068】
また、正極活物質非被覆部21C及び第1の負極活物質非被覆部221Aを曲折することで、一見、端面41,42を平坦面にすることが可能に思われるが、曲折する前に何らの加工もないと、曲折するときに端面41,42にシワやボイド(空隙、空間)が発生して、端面41,42が平坦面とならない虞がある。ここで、「シワ」や「ボイド」とは曲折した正極活物質非被覆部21Cや第1の負極活物質非被覆部221Aに偏りが生じ、端面41,42が平坦面とはならない部分を意味する。本実施形態では、端面41及び端面42側のそれぞれに貫通孔26から放射方向に予め溝43が形成されるようにしている。溝43が形成されていることで、このシワやボイドの発生を抑制することができ、端面41,42をより平坦とすることができる。なお、正極活物質非被覆部21C及び第1の負極活物質非被覆部221Aの何れか一方を曲折してもよいが、好ましくは、両方が曲折される。
【実施例】
【0069】
以下、上記のようにして作製したリチウムイオン電池1を用い、リチウムイオン電池1の放電容量について評価した実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0070】
以下の全ての実施例及び比較例において、電池サイズを21700(直径21mm,高さ70mm)とし、正極活物質被覆部21Bの長手方向の長さを1320mmとし、負極活物質被覆部22Bの長手方向の長さを1400mmとし、負極活物質被覆部22Bの幅方向の長さを63mmとし、セパレータ23の幅方向の長さを64mmとした。セパレータ23を正極活物質被覆部21Bと負極活物質被覆部22Bの全範囲を覆うように重ねた。また、溝43の数を8とし略等角間隔となるように配置した。
図3は実施例1に、
図8及び
図9は比較例1にそれぞれ対応する図である。
【0071】
[実施例1]
リチウムイオン電池1を上述した工程により作製した。この際、
図3に示すように、負極箔22Aの両面に、負極活物質被覆部22B及び負極活物質非被覆部22Cを設け、負極活物質非被覆部22Cの箇所で負極箔22Aをカットすることで、第1の負極活物質非被覆部221A、第2の負極活物質非被覆部221B、及び、第3の負極活物質非被覆部221Cを設けた。また、負極活物質被覆部22Bと第1の負極活物質非被覆部221Aとの間に絶縁層22Dを設けた。絶縁層22Dの幅方向の長さは3(mm)とした。PVDFと硫酸バリウム粒子とNMPを含む塗料を塗布し、塗膜を乾燥することによって絶縁層22Dを形成した。
【0072】
[比較例1]
図8Aに示すように、負極箔22Aの両面に、負極活物質被覆部22B及び負極活物質非被覆部22Cを設け、負極活物質非被覆部22Cの箇所で負極箔22Aをカットすることで、第1の負極活物質非被覆部221A、第2の負極活物質非被覆部221B、及び、第3の負極活物質非被覆部221Cを設けた。また、負極活物質被覆部22Bと第1の負極活物質非被覆部221Aとの間に絶縁層22Eを設けた。絶縁層22Eの幅方向の長さは3(mm)とした。絶縁層22Eは、X線遮蔽効果を有する金属や金属酸化物を含有しない塗料を用いることで形成した。その他は、実施例1と同様にリチウムイオン電池1を作製した。
【0073】
[評価]
放電容量は、以下のように測定した。23℃±2℃の雰囲気下で4.20Vを終止電圧とし、2000mAでの定電圧・定電流充電を3.5時間行った。その後、同じ雰囲気で0.2ItA(800mA)、2.0Vを終止電圧とした放電を行った場合の容量値を放電容量とした。結果を表1に示す。
【0074】
【0075】
実施例1では巻きズレの検査が可能となったため正極活物質被覆部21Bの端部と負極活物質被覆部22Bの端部との間の距離D10を小さくすることができた。一方、比較例1では、絶縁層22EがX線遮蔽効果を有する金属等を含有しないため、
図9における参照符号CCの箇所で模式的に示すように、X線画像におけるコントラストの変化が表れず境界B4を検出することができなかった。このため、巻きズレの検査ができず、正極活物質被覆部21Bの端部と負極活物質被覆部22Bの端部との間の距離D10を、余裕をもって大きくする必要が生じた。この結果、実施例1では、正極活物質被覆部21Bの幅方向の長さを比較例1より2mm大きくすることができた。正極活物質被覆部21Bの幅方向の長さを大きくできたことから、実施例1では放電容量が4304mAhとなり、比較例1の放電容量(4166mAh)より放電容量を約3%増加させることができた。
以上から、実施例1に対応する構成がリチウムイオン電池1の好ましい構成と言える。
【0076】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明の内容は上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0077】
本発明は、正極活物質非被覆部21Cや第1の負極活物質非被覆部221Aが折り曲げられていないタブレス構造の電池にも適用可能である。また、第2の負極活物質非被覆部221B及び第3の負極活物質非被覆部221Cが設けられる構成が好ましいが、これらが無いリチウムイオン電池に対しても本発明を適用することができる。
実施例及び比較例では、溝43の数を8としていたが、これ以外の数であってもよい。電池サイズを21700(直径21mm,高さ70mm)としていたが、18650(直径18mm,高さ65mm)やこれら以外のサイズであってもよい。
扇状部31,33の形状は、扇形の形状以外の形状であってもよい。
【0078】
本発明の趣旨を逸脱しない限り、本発明は、リチウムイオン電池以外の他の電池や、円筒形状以外の電池(例えば、ラミネート型電池、角型電池、コイン型電池、ボタン型電池)に適用することも可能である。この場合において、「電極巻回体の端面」の形状は、円筒形状のみならず、楕円形状や扁平形状なども採り得る。
【0079】
<応用例>
(1)電池パック
図10は、本発明の実施形態又は実施例に係る二次電池を電池パック300に適用した場合の回路構成例を示すブロック図である。電池パック300は、組電池301、充電制御スイッチ302aと、放電制御スイッチ303a、を備えるスイッチ部304、電流検出抵抗307、温度検出素子308、制御部310を備えている。制御部310は各デバイスの制御を行い、さらに異常発熱時に充放電制御を行ったり、電池パック300の残容量の算出や補正を行ったりすることが可能である。電池パック300の正極端子321及び負極端子322は、充電器や電子機器に接続され、充放電が行われる。
【0080】
組電池301は、複数の二次電池301aを直列及び/又は並列に接続してなる。
図10では、6つの二次電池301aが、2並列3直列(2P3S)に接続された場合が例として示されている。二次電池301aに対して本発明の二次電池を適用可能である。
【0081】
温度検出部318は、温度検出素子308(例えばサーミスタ)と接続されており、組電池301又は電池パック300の温度を測定して、測定温度を制御部310に供給する。電圧検出部311は、組電池301及びそれを構成する各二次電池301aの電圧を測定し、この測定電圧をA/D変換して、制御部310に供給する。電流測定部313は、電流検出抵抗307を用いて電流を測定し、この測定電流を制御部310に供給する。
【0082】
スイッチ制御部314は、電圧検出部311及び電流測定部313から入力された電圧及び電流をもとに、スイッチ部304の充電制御スイッチ302a及び放電制御スイッチ303aを制御する。スイッチ制御部314は、二次電池301aが過充電検出電圧(例えば4.20V±0.05V)以上若しくは過放電検出電圧(2.4V±0.1V)以下になったときに、スイッチ部304にOFFの制御信号を送ることにより、過充電又は過放電を防止する。
【0083】
充電制御スイッチ302a又は放電制御スイッチ303aがOFFした後は、ダイオード302b又はダイオード303bを介することによってのみ、充電又は放電が可能となる。これらの充放電スイッチは、MOSFETなどの半導体スイッチを使用することができる。なお、
図10では+側にスイッチ部304を設けているが、-側に設けても良い。
【0084】
メモリ317は、RAMやROMからなり、制御部310で演算された電池特性の値や、満充電容量、残容量などが記憶され、書き換えられる。
【0085】
(2)電子機器
上述した本発明の実施形態又は実施例に係る二次電池は、電子機器や電動輸送機器、蓄電装置などの機器に搭載され、電力を供給するために使用することができる。
【0086】
電子機器としては、例えばノート型パソコン、スマートフォン、タブレット端末、PDA(携帯情報端末)、携帯電話、ウェアラブル端末、デジタルスチルカメラ、電子書籍、音楽プレイヤー、ゲーム機、補聴器、電動工具、テレビ、照明機器、玩具、医療機器、ロボットが挙げられる。また、後述する電動輸送機器、蓄電装置、電動工具、電動式無人航空機も、広義では電子機器に含まれ得る。
【0087】
電動輸送機器としては電気自動車(ハイブリッド自動車を含む。)、電動バイク、電動アシスト自転車、電動バス、電動カート、無人搬送車(AGV)、鉄道車両などが挙げられる。また、電動旅客航空機や輸送用の電動式無人航空機も含まれる。本発明に係る二次電池は、これらの駆動用電源のみならず、補助用電源、エネルギー回生用電源などとしても用いられる。
【0088】
蓄電装置としては、商業用又は家庭用の蓄電モジュールや、住宅、ビル、オフィスなどの建築物用又は発電設備用の電力貯蔵用電源などが挙げられる。
【0089】
(3)電動工具
図11を参照して、本発明が適用可能な電動工具として電動ドライバの例について概略的に説明する。電動ドライバ431には、シャフト434に回転動力を伝達するモータ433と、ユーザが操作するトリガースイッチ432が設けられている。電動ドライバ431の把手の下部筐体内に、電池パック430及びモータ制御部435が収納されている。電池パック430は、電動ドライバ431に対して内蔵されているか、又は着脱自在とされている。電池パック430を構成する電池に対して、本発明の二次電池を適用可能である。
【0090】
電池パック430及びモータ制御部435のそれぞれには、マイクロコンピュータ(図示せず)が備えられており、電池パック430の充放電情報が相互に通信できるようにしてもよい。モータ制御部435は、モータ433の動作を制御すると共に、過放電などの異常時にモータ433への電源供給を遮断することができる。
【0091】
(4)電動車両用蓄電システム
本発明を電動車両用の蓄電システムに適用した例として、
図12に、シリーズハイブリッドシステムを採用したハイブリッド車両(HV)の構成例を概略的に示す。シリーズハイブリッドシステムはエンジンを動力とする発電機で発電された電力、あるいはそれをバッテリに一旦貯めておいた電力を用いて、電力駆動力変換装置で走行する車である。
【0092】
このハイブリッド車両600には、エンジン601、発電機602、電力駆動力変換装置(直流モータ又は交流モータ。以下単に「モータ603」という。)、駆動輪604a、駆動輪604b、車輪605a、車輪605b、バッテリ608、車両制御装置609、各種センサ610、充電口611が搭載されている。バッテリ608としては、本発明の二次電池、又は、本発明の二次電池を複数搭載した蓄電モジュールが適用され得る。
【0093】
バッテリ608の電力によってモータ603が作動し、モータ603の回転力が駆動輪604a、604bに伝達される。エンジン601によって産み出された回転力によって、発電機602で生成された電力をバッテリ608に蓄積することが可能である。各種センサ610は、車両制御装置609を介してエンジン回転数を制御したり、図示しないスロットルバルブの開度を制御したりする。
【0094】
図示しない制動機構によりハイブリッド車両600が減速すると、その減速時の抵抗力がモータ603に回転力として加わり、この回転力によって生成された回生電力がバッテリ608に蓄積される。また、バッテリ608は、ハイブリッド車両600の充電口611を介して外部の電源に接続されることで充電することが可能である。このようなHV車両を、プラグインハイブリッド車(PHV又はPHEV)という。
【0095】
なお、本発明に係る二次電池を小型化された一次電池に応用して、車輪604、605に内蔵された空気圧センサシステム(TPMS: Tire Pressure Monitoring system)の電源として用いることも可能である。
【0096】
以上では、シリーズハイブリッド車を例として説明したが、エンジンとモータを併用するパラレル方式、又は、シリーズ方式とパラレル方式を組み合わせたハイブリッド車に対しても本発明は適用可能である。さらに、エンジンを用いない駆動モータのみで走行する電気自動車(EV又はBEV)や、燃料電池車(FCV)に対しても本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0097】
1・・・リチウムイオン電池、12・・・絶縁板、21・・・正極、21A・・・正極箔、21B・・・正極活物質層、21C・・・正極活物質非被覆部、22・・・負極、22A・・・負極箔、22B・・・負極活物質層、22C・・・負極活物質非被覆部、23・・・セパレータ、22D・・・絶縁層、24・・・正極集電板、25・・・負極集電板、26・・・貫通孔、41、42・・・端面、43・・・溝、221A・・・第1の負極活物質非被覆部、221B・・・第2の負極活物質非被覆部、221C・・・第3の負極活物質非被覆部