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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】ゴルフクラブセット
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/00 20150101AFI20240828BHJP
   A63B 53/04 20150101ALI20240828BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20240828BHJP
【FI】
A63B53/00 A
A63B53/04 F
A63B102:32
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018045864
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2019154810
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】植田 尚良
(72)【発明者】
【氏名】植田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】小山 心平
(72)【発明者】
【氏名】永野 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】花光 悟
(72)【発明者】
【氏名】平野 智哉
(72)【発明者】
【氏名】喜井 健二
(72)【発明者】
【氏名】阿部 浩史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 靖司
【合議体】
【審判長】川俣 洋史
【審判官】門 良成
【審判官】殿川 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-92468(JP,A)
【文献】特開平5-317463(JP,A)
【文献】特開2000-37481(JP,A)
【文献】特開昭61-272067(JP,A)
【文献】米国特許第9370699(US,B1)
【文献】米国特許第5110131(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00-53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロフト角が異なる複数本のアイアン型のゴルフクラブを含んだアイアン型のゴルフクラブセットであって、
前記ゴルフクラブは、前記ロフト角が34度未満である複数の第1ゴルフクラブと、前記ロフト角が34度以上の複数の第2ゴルフクラブとを含み、
前記複数の第1ゴルフクラブ及び前記複数の第2ゴルフクラブは、それぞれ、複数の溝が形成されたフェースを具えており、
全ての前記複数の第2ゴルフクラブの前記溝の深さは、全ての前記複数の第1ゴルフクラブの前記溝の深さよりも大きく、
前記複数の第1ゴルフクラブは、
前記溝の深さが0.3mm以上0.4mm以下であり、かつ、前記溝の幅が0.8mm以上0.9mm以下であるか、または、
前記溝の深さが0.2mm以上0.3mm以下であり、かつ、前記溝の幅が0.7mm以上0.8mm以下であり、
前記複数の第2ゴルフクラブは、前記溝の深さが0.4mm以上0.5mm以下であり、かつ、前記溝の幅が0.6mm以上0.9mm以下であり、
前記複数の第1ゴルフクラブ及び前記第2ゴルフクラブの前記溝のピッチは、それぞれの前記溝の幅の4倍以上である、
ゴルフクラブセット。
【請求項2】
前記複数の第1ゴルフクラブの前記溝の深さが0.35mm以下である、請求項1に記載のゴルフクラブセット。
【請求項3】
前記複数の第1ゴルフクラブ及び前記第2ゴルフクラブの前記溝のピッチは、それぞれの前記溝の幅の4倍に0.4mmを加えた値以下である、請求項1又は2に記載のゴルフクラブセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本のゴルフクラブを含むゴルフクラブセットに関する。
【背景技術】
【0002】
ロフト角が異なる複数本のゴルフクラブを含むゴルフクラブセットが種々提案されている。近年では、ゴルフクラブセットに含まれる各種のゴルフクラブのパラメータを、各ゴルフクラブヘッドのロフト角に応じて最適化する設計が試みられている(例えば、下記特許文献1ないし3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-158927号公報
【文献】特開2017-158920号公報
【文献】特開2017-158910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、ゴルフクラブヘッドのボールを打撃する面であるフェースには、ヘッドのトウ・ヒール方向に延びる複数の溝が形成されている。この溝は、ボール打撃時、フェースとボールとの間の摩擦力を高め、ボールに適切なバックスピンを与える働きをする。
【0005】
ところで、ゴルフ場でボールを打撃する状況は、ティーグランド、ラフ及びフェアウェイ等、様々である。例えば、ティーグランドからの打撃では、ボールがティーアップされるため、フェースとボールとの間に芝が介在することは殆どない。一方、フェアウェイやラフからの打撃では、フェースとボールとの間にいくつかの芝が介在するため、これらの打撃状況はティーグランドからのそれとは著しく異なる。さらに、雨天時では、フェースとボールとの間に水分も介在するため、さらに状況は複雑に変化する。しかしながら、これまでのゴルフクラブセットに含まれるゴルフクラブの前記溝は、上記のような様々な実打条件を考慮に入れて設計されたものではなかった。このため、従来のゴルフクラブセットでは、打撃状況によって打球のバックスピン量が大きく変わり、打球の飛距離を適切にコントロールすることが困難であった。
【0006】
図8には、ロフト角が異なる3種のゴルフクラブについて、様々な打撃状況での打球のバックスピン量を測定した結果が示されている。縦軸は打球のバックスピン量(N=8の平均値)を示し、横軸には、ゴルフクラブの種類と打撃状況とが示されている。フェースでのボールの打撃位置やヘッドスピードは、各ゴルフクラブにおいて同一である。3種のゴルフクラブは、左からピッチングウエッジPW(ロフト角46度)、8番アイアン#8(ロフト角36度)及び6番アイアン#6(ロフト角28度)である。
【0007】
また、図8において、打撃状況を表す各用語の意味は次のとおりである。
DRY:
ボールとフェースとの間にいかなる介在物も存在しない乾燥条件での打撃であり、これは、晴天時のティーグランドでの打撃に相当する。
WET:
ボールとフェースとの間に水分のみが介在する打撃状況であり、これは、雨天時のティーグランドでの打撃に相当する。
芝2~芝4:
ボールとフェースとの間に、フェースを上下方向に延びる芝が、トウ・ヒール方向に2~4本介在する乾燥条件での打撃状況である。「芝2」はフェアウェイでの打撃に、「芝3」はセミラフでの打撃に、「芝4」はラフでの打撃にそれぞれ相当する。
濡紙スリット:
デュポン社製ソンタラメンテナンスクロス厚手(サイズ:56mm×56mm)に5mm間隔で縦方向に延びるスリットを設け、これを予め水に浸漬したものフェースに貼り付けてボールを打撃したもので、雨天時のラフからの打撃に相当する。
【0008】
また、前記打撃状況において、フェースとボールとの間の摩擦は、以下の関係となっている。
DRY>WET>芝2>芝3>芝4>濡紙スリット
【0009】
図8から明らかなように、それぞれのゴルフクラブは、打撃状況によって打球のバックスピン量が大きく変わる(ばらつく)ことが分かる。
【0010】
例えば、ピッチングウエッジPW及び8番アイアン#8のようにロフト角が相対的に大きいゴルフクラブの場合、「DRY」、「WET」及び「芝2」の打撃状況の順に打球のバックスピン量が徐々に増える傾向がある。一方、これらのゴルフクラブでは、「芝3」、「芝4」及び「濡紙スリット」の打撃状況の順に、バックスピン量が著しく低下する。一般に、この種のゴルフクラブでは、打球のバックスピン量が低下すると、予想を超える大きな飛距離(いわゆる「フライヤー」)を招く他、アプローチショットではボールがグリーン上で止まりにくくなる。したがって、これらのゴルフクラブについては、ラフ等での打撃時等において、バックスピン量の著しい低下が抑制されるように、フェースの溝を改善する必要がある。
【0011】
一方、6番アイアン#6のように、ロフト角が相対的に小さいゴルフクラブは、「DRY」、「WET」、「芝2」及び「芝3」の打撃状況の順に打球のバックスピン量が徐々に増える。しかし、「芝4」及び「濡紙スリット」のような打撃状況でも、「芝3」の打撃状況から殆どバックスピン量は変わらない傾向がある。一般に、この種のゴルフクラブにおいて、バックスピン量が増加すると、打球が吹け上がり、意図された本来の飛距離が得られない傾向がある。したがって、この種のゴルフクラブでは、ロフト角が大きいゴルフクラブとは逆に、低摩擦状況での打撃時には、バックスピン量の増加が抑制されるようにフェースの溝を改善する必要がある。
【0012】
本発明は、以上のような知見に基づき案出なされたもので、ゴルフ場で想定される様々な打撃状況において、打球のバックスピン量を最適化し、ひいては打球の飛距離を安定させることができるゴルフクラブセットを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[前提となる知見]
発明者らは、図8に示したように、ロフト角が異なるゴルフクラブについて、様々な打撃状況(DRY~濡紙スリット)での打球のバックスピン量をさらに調べた。その結果、バックスピン量の変化の傾向は、あるロフト角を境として、大きく2つの傾向に区別することが可能である、という知見を得た。具体的には、ロフト角が34度未満である第1ゴルフクラブでは、打撃時の低摩擦化が進むと、打球のバックスピン量が増えいき、ほぼそのまま高いバックスピン量が維持される。これに対して、ロフト角が34度以上である第2ゴルフクラブでは、打撃時の低摩擦化が進むと、打球のバックスピン量が一旦増えた後に急激に減少する傾向を有する。
【0014】
[第1の発明]
第1の発明は、ロフト角が異なる複数本のゴルフクラブを含んだゴルフクラブセットであって、前記ゴルフクラブは、前記ロフト角が34度未満である少なくとも1本の第1ゴルフクラブと、前記ロフト角が34度以上の少なくとも1本の第2ゴルフクラブとを含み、前記少なくとも1本の第1ゴルフクラブ及び前記少なくとも1本の第2ゴルフクラブは、それぞれ、複数の溝が形成されたフェースを具えており、前記少なくとも1本の第2ゴルフクラブの前記溝の深さは、前記少なくとも1本の第1ゴルフクラブの前記溝の深さよりも大きい、ゴルフクラブセットである。
【0015】
第1の発明では、前記知見を前提として、第2ゴルフクラブの前記溝の深さを、第1ゴルフクラブの前記溝の深さよりも大きく形成している。これにより、第2ゴルフクラブの低摩擦打撃状況において、ボールが溝により深く係合し、バックスピン量の著しい低下が抑制される。また、第1ゴルフクラブの低摩擦打撃状況において、ボールが溝により浅く係合し、バックスピン量の増加を抑制することができる。したがって、第1の発明のゴルフクラブセットは、ゴルフ場で想定される様々な打撃状況において、打球のバックスピン量のばらつきを抑え、ひいては打球の飛距離を安定させることができる。
【0016】
第1の発明の他の態様では、前記少なくとも1本の第1ゴルフクラブの前記溝の深さは0.38mm未満とされても良く、前記少なくとも1本の第2ゴルフクラブの前記溝の深さは、0.38mm以上とされても良い。
【0017】
[第2の発明]
第2の発明では、ロフト角が異なる複数本のゴルフクラブを含んだゴルフクラブセットであって、前記ゴルフクラブは、前記ロフト角が34度未満である少なくとも1本の第1ゴルフクラブと、前記ロフト角が34度以上の少なくとも1本の第2ゴルフクラブとを含み、前記少なくとも1本の第1ゴルフクラブ及び前記少なくとも1本の第2ゴルフクラブは、それぞれ、複数の溝が形成されたフェースを具えており、前記少なくとも1本の第2ゴルフクラブの前記溝のピッチが、前記少なくとも1本の第1ゴルフクラブの前記溝のピッチよりも小さい、ゴルフクラブセットである。
【0018】
第2の発明では、上記の知見を前提として、第2ゴルフクラブの前記溝のピッチを、第1ゴルフクラブの前記溝のピッチよりも小さく形成している。これにより、第2ゴルフクラブの低摩擦打撃状況において、ボールがより多くの前記溝と接触し、バックスピン量の著しい低下を抑制することができる。また、第1ゴルフクラブの低摩擦打撃状況において、ボールがより少ない前記溝と接触し、バックスピン量の増加を抑制することができる。したがって、第2の発明のゴルフクラブセットは、ゴルフ場で想定される様々な打撃状況において、打球のバックスピン量のばらつきを抑え、ひいては打球の飛距離を安定させることができる。
【0019】
第2の発明の他の態様では、前記少なくとも1本の第1ゴルフクラブの前記溝のピッチが3.35mm以上とされても良く、前記少なくとも1本の第2ゴルフクラブの前記溝のピッチが3.35mm未満とされても良い。
【0020】
[第3の発明]
第3の発明は、ロフト角が異なる複数本のゴルフクラブを含んだゴルフクラブセットであって、前記ゴルフクラブは、前記ロフト角が26度未満である少なくとも1本の低番手ゴルフクラブと、前記ロフト角が26度以上かつ39度未満である少なくとも1本の中番手ゴルフクラブと、前記ロフト角が39度以上の少なくとも1本の高番手ゴルフクラブとを含み、前記少なくとも1本の低番手ゴルフクラブ、前記少なくとも1本の中番手ゴルフクラブ及び前記少なくとも1本の高番手ゴルフクラブは、それぞれ、複数の溝が形成されたフェースを具えており、前記少なくとも1本の高番手ゴルフクラブの前記溝の深さは、前記少なくとも1本の中番手ゴルフクラブの前記溝の深さよりも大きく、前記少なくとも1本の中番手ゴルフクラブの前記溝の深さは、前記少なくとも1本の低番手ゴルフクラブの前記溝の深さよりも大きい、ゴルフクラブセットである。
【0021】
発明者らは、図8に示したように、ゴルフクラブセット内の各ゴルフクラブについて、ボール打撃時の様々な状況(DRY~濡紙スリット)での打球のバックスピン量をさらに詳細に調べた。その結果、バックスピン量の変化は、より詳細には、3つの傾向に区別することが可能である、という知見を得た。すなわち、
(1)低番手ゴルフクラブでは、打撃時の低摩擦化が進むと、打球のバックスピン量が増加した後もそのまま高いバックスピン量が維持されること、
(2)高番手ゴルフクラブでは、打撃時の低摩擦化が進むと、打球のバックスピン量が一旦増加するものの、その後、著しく減少すること、及び、
(3)ロフト角が26度以上かつ39度未満である中番手ゴルフクラブでは、ロフト角の増加につれて、低番手ゴルフクラブの前記傾向から高番手ゴルフクラブの前記傾向に徐々に変化すること、が分かった。
【0022】
そこで、第3の発明では、前記知見を前提として、高番手ゴルフクラブの前記溝の深さを中番手ゴルフクラブの前記溝の深さよりも大きくし、かつ、中番手ゴルフクラブの前記溝の深さを低番手ゴルフクラブの前記溝の深さよりも大きく形成している。これにより、高番手ゴルフクラブの低摩擦打撃状況において、ボールが溝により深く係合し、バックスピン量の著しい低下が抑制される。また、低番手ゴルフクラブの低摩擦打撃状況において、ボールが溝により浅く係合し、バックスピン量の増加を抑制することができる。さらに、中番手ゴルフクラブの溝には、低番手ゴルフクラブ及び高番手ゴルフクラブの溝の中間的な特性が与えられるので、バックスピン量が安定する。したがって、第3の発明のゴルフクラブセットは、ゴルフ場で想定される様々な打撃状況において、打球のバックスピン量のばらつきを抑え、ひいては打球の飛距離を安定させることができる。
【0023】
第3の発明の他の態様では、前記少なくとも1本の低番手ゴルフクラブの前記溝の深さが0.30mm以下とされても良く、前記少なくとも1本の高番手ゴルフクラブの前記溝の深さが0.40mm以上とされても良い。
【0024】
[第4の発明]
第4の発明は、ロフト角が異なる複数本のゴルフクラブを含んだゴルフクラブセットであって、前記ゴルフクラブは、前記ロフト角が26度未満である少なくとも1本の低番手ゴルフクラブと、前記ロフト角が26度以上かつ39度未満である少なくとも1本の中番手ゴルフクラブと、前記ロフト角が39度以上の少なくとも1本の高番手ゴルフクラブとを含み、前記少なくとも1本の低番手ゴルフクラブ、前記少なくとも1本の中番手ゴルフクラブ及び前記少なくとも1本の高番手ゴルフクラブは、それぞれ、複数の溝が形成されたフェースを具えており、前記少なくとも1本の高番手ゴルフクラブの前記溝のピッチが、前記少なくとも1本の中番手ゴルフクラブの前記溝のピッチよりも小さく、前記少なくとも1本の中番手ゴルフクラブの前記溝のピッチが、前記少なくとも1本の低番手ゴルフクラブの前記溝のピッチよりも小さい、ゴルフクラブセットである。
【0025】
第4の発明では、前記知見(1)ないし(3)を前提として、高番手ゴルフクラブの前記溝のピッチを中番手ゴルフクラブの前記溝のピッチよりも小さくし、かつ、中番手ゴルフクラブの前記溝のピッチを低番手ゴルフクラブの前記溝のピッチよりも小さく形成している。これにより、高番手ゴルフクラブの低摩擦打撃状況において、ボールがより多くの溝と接触し、バックスピン量の著しい低下を抑制することができる。また、低番手ゴルフクラブの低摩擦打撃状況において、ボールがより少ない溝と接触し、バックスピン量の増加を抑制することができる。さらに、中番手ゴルフクラブの溝には、低番手ゴルフクラブ及び高番手ゴルフクラブの溝の中間的な特性が与えられるので、バックスピン量が安定する。したがって、第4の発明のゴルフクラブセットは、ゴルフ場で想定される様々な打撃状況において、打球のバックスピン量のばらつきを抑え、ひいては打球の飛距離を安定させることができる。
【0026】
第4の発明の他の態様では、前記少なくとも1本の低番手ゴルフクラブの前記溝のピッチが3.40mm以上とされても良く、前記少なくとも1本の高番手ゴルフクラブの前記溝のピッチが3.30mm以下とされても良い。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、ゴルフ場で想定されるような様々な打撃状況において、打球のバックスピン量を最適化し、ひいては打球の飛距離を安定させ得るゴルフクラブセットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1~第3実施形態のゴルフクラブセットに含まれるゴルフクラブの正面図である。
図2図1のゴルフクラブの側面図である。
図3図1のA-A線の部分断面図である。
図4】第1実施形態のゴルフクラブセットを構成するゴルフクラブの溝の断面図である。
図5】第2実施形態のゴルフクラブセットに含まれるゴルフクラブの溝の断面図である。
図6】本発明の第3~第5実施形態のゴルフクラブセットに含まれるゴルフクラブの正面図である。
図7図6のゴルフクラブの側面図である。
図8】ロフト角が異なる3種のゴルフクラブの様々な打撃状況での打球のバックスピン量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のいくつかの実施形態が図面に基づき説明される。以下に詳述される実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容を理解するためのものであって、本発明は、それらの具体的な構成に限定されるものではない。
【0030】
本実施形態のゴルフクラブセット(以下、単に「セット」ということがある。)は、ロフト角が異なる複数本のゴルフクラブを含んでいる。図1及び図2には、セット(全体図示せず)に含まれる1本のゴルフクラブ1の部分的な正面図及びトウ側から見た側面図がそれぞれ示されている。
【0031】
図1及び図2に示されるように、ゴルフクラブ1は、ボールを打撃するためのゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」ということがある。)2と、一端がヘッド2に固着されたシャフトSとを含んでおり、典型的には、アイアン型のゴルフクラブとして構成されている。本実施形態では、アイアン型のゴルフクラブのセットに基づき説明が行われる。好ましい態様のアイアン型のゴルフクラブのセットでは、例えば、3番アイアン~9番アイアン、ピッチングウエッジ、アプローチウエッジ及びサンドウエッジ等から選択される複数本で構成される。
【0032】
[基準状態等の定義]
図1及び図2には、ゴルフクラブ1の基準状態が示されている。本明細書において、ゴルフクラブ1の「基準状態」とは、ヘッド2のフェース3に形成された溝8と水平面HPとが平行とされた状態で、ヘッド2が水平面HP上に置かれた状態である。基準状態では、シャフトSの中心線CLが基準垂直面VP内に配されている。基準垂直面VPは、水平面HPに対して垂直な平面である。
【0033】
基準状態において、溝8は、水平面HPに平行であり、かつ、基準垂直面VPに平行とされる。
【0034】
前記「ロフト角」とは、基準状態において、フェース3と基準垂直面VPとの間の角度であり、図2において符号αで表されている。なお、図1に符号βで表されているのが、ライ角であり、水平面HPとシャフトSの中心線CLとのなす角度である。
【0035】
本明細書において、基準垂直面VPに沿った水平方向はヘッド2のトウ・ヒール方向とされ、基準垂直面VPと直交する方向はヘッド2の前後方向とされ、基準垂直面VPに沿った上下方向はヘッド2の上下方向とされる。
【0036】
[ヘッドの基本構成]
ヘッド2は、典型的なアイアン型の形状を有し、フェース3、トップ4、ソール5、トウ6及びホーゼル7を含んでおり、金属材料で構成されている。
【0037】
フェース3は、ボールを打撃するための実質的に平坦な面である。フェース3には、ボールとの摩擦等を高めるために、複数本の溝8が設けられている。複数の溝8は、いずれもトウ・ヒール方向に沿って延びており、互いに平行である。
【0038】
トップ4は、フェース3の上縁から後方にのびているヘッド2の上面部分である。ソール5は、フェース3の下縁から後方にのびているヘッド2の底面部分である。トウ6は、ホーゼル7から最も離れた部分である。ホーゼル7は、シャフトSの一端を固着するためのもので、例えば筒状に構成されている。
【0039】
[溝の基本構成]
図3には、溝8の横断面図として、図1のA-A線の部分断面図が示される。図3に示されるように、溝8は、溝底8aと、一対の溝壁8bとを有する。溝底8aは、例えば、フェース3と平行な平面で形成されている。一対の溝壁8bは、それぞれ、溝底8aからフェース3に向かって溝幅が広がる向きに傾斜している。本実施形態の溝壁8bは、本質的に平面で構成されている。一対の溝壁8bは、溝8の中心線GCに対して、互いに対称形状とされている。なお、前記「平行」や前記「対称形状」は、いずれも、溝8をフェース3に加工する際の加工精度を考慮して理解されなければならず、実質的な「平行」及び、実質的な「対称形状」を含むことが意図されている。
【0040】
溝壁8bとフェース3とが交差するコーナ部は、円弧で面取りされている。この円弧の曲率半径rは、例えば、ゴルフ規則に従って、少なくとも0.010インチ(0.254mm)の有効半径を有するように定められる。なお、本明細書において、「ゴルフ規則」とは、R&Aに定められた「ゴルフ規則」を意味する。
【0041】
各溝8は、深さD、幅W、溝壁の角度θ及びピッチPで特定される。
【0042】
溝8の深さDは、フェース3から溝底8aまでのフェース3と垂直方向の最大距離である。溝8の幅Wは、R&Aが定める「溝の幅を測定するための30度測定法」に準拠して測定される。溝壁8bの角度θは、フェース3の法線と溝壁8bとがなす鋭角側の角度である。溝8のピッチPは、隣接する溝8の中心線GC間の距離である。本実施形態の好ましいセットにおいて、溝8の深さD、幅W、溝壁8bの角度θ、ピッチP及び前記円弧の曲率半径などは、ゴルフ規則を満たす範囲内で設計することが意図されている。
【0043】
[第1実施形態のセット]
第1実施形態のセットは、図4に部分的に示されるように、ロフト角αが34度未満である少なくとも1本の第1ゴルフクラブ1Aと、ロフト角αが34度以上である少なくとも1本の第2ゴルフクラブ1Bとを含み、前記少なくとも1本の第2ゴルフクラブ1Bの溝8の深さDは、前記少なくとも1本の第1ゴルフクラブ1Aの溝8の深さDよりも大きく構成されている。
【0044】
発明者らは、図8に示したように、セット内の各ゴルフクラブについて、様々な打撃状況での打球のバックスピン量を分析したところ、概ね、ロフト角が34度のところを境として、大きく2つの傾向に区別することが可能である、という知見を得た。すなわち、ロフト角が34度未満である第1ゴルフクラブ1Aにおいて、打撃状況が低摩擦へ変化すると、打球のバックスピン量は増加した後もそのまま高いバックスピン量が維持されることが分かった。これに対して、ロフト角が34度以上である第2ゴルフクラブ1Bにおいて、打撃状況が低摩擦へ変化すると、打球のバックスピン量は一旦増加した後、著しく減少する傾向を示すことが分かった。
【0045】
そして、発明者らは、バックスピン量の変化の傾向の違いに着目し、セットに含まれるゴルフクラブを、第1ゴルフクラブ1A及び第2ゴルフクラブ1Bの2つのグループに分類し、それぞれのゴルフクラブについて、バックスピン量を安定させるための最適な溝8の構成を適用した。
【0046】
下記表1~3は、溝8の深さD及び幅Wを異ならせた種々の第1ゴルフクラブ1A及び第2ゴルフクラブ1Bについての打撃試験の結果が示されている。この打撃試験では、フェース3の溝8の深さD及び幅Wを異ならせ、上記と同様の様々な打撃状況でボールを打撃したときの打球のバックスピン量が測定された。また、溝8の深さDは、0.2~0.5mmの範囲を0.1mm刻みで変化させた(4種類)。溝8の幅Wは、0.6~0.9mmの範囲を0.1mm刻みで変化させた(4種類)。したがって、深さD及び幅Wの組合せで合計16種類の溝8について、様々な打撃条件で打球のバックスピン量が測定された。また、第1ゴルフクラブ1Aとして6番アイアン(α=28°)が、第2ゴルフクラブ1Bとして8番アイアン(α=36°)及びピッチングウエッジ(α=46°)がそれぞれ採用された。
【0047】
いずれのゴルフクラブも、溝8の溝壁8bの角度θについては20度とされている。一般に、ゴルフ規則に従った典型的なアイアン型のゴルフクラブセットで用いられている溝壁の角度は、概ね0~40度程度である。発明者らは上記の打撃試験に関し、溝壁8bの角度θをこれらの範囲で変えてみたが、その影響は非常に小さかった。これらの知見を踏まえて、この打撃試験では、溝8の溝壁8bの角度θが、一般的な角度である20度とされた。
【0048】
また、いずれのゴルフクラブにおいても、溝8のピッチPについては、溝8の幅Wに応じて異ならせた。具体的には、溝8のピッチPは、以下のように、当該溝8の幅Wを4倍したものに0.1mmを加えた値(すなわち、4×W+0.1mm)に設定されている。
溝の幅W=0.9mmの場合:ピッチP=3.7mm
溝の幅W=0.8mmの場合:ピッチP=3.3mm
溝の幅W=0.7mmの場合:ピッチP=2.9mm
溝の幅W=0.6mmの場合:ピッチP=2.5mm
溝8のピッチPをこのように設定した理由は、ゴルフ規則に基づいている。ゴルフ規則によれば、図3に示されるように、一対の溝8の間隔S(フェースのランド部分)は、一対の溝8の幅W(最大幅)の3倍以上必要とされている。この規則に従うならば、本明細書で定義される溝8の「ピッチP」は、溝8の幅Wの4倍(すなわち、3W+1W)と等しい値に設定することもできる。前記打撃試験では、加工精度等を考慮して、ゴルフ規則から外れないように、4×W+0.1mmとしたものである。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
表2及び表3に示されるように、第2ゴルフクラブ1Bでは、打撃状況が低摩擦になると、溝8の深さDが大きいほど、打球のバックスピン量が増加する傾向を示す。ここで、代表的な溝8として、幅W=0.8mmかつ深さD=0.4mmを基準とした場合、これとの差分評価では、溝8の深さDの0.1mm当たりのバックスピン量への影響は、次のとおりである。
<8番アイアン>
「芝3」の場合、ほぼゼロ
「芝4」の場合、約150rpm
「濡紙スリット」の場合、約900rpm
<ピッチングウエッジ>
「芝3」の場合、約400rpm
「芝4」の場合、約800rpm
「濡紙スリット」の場合、800rpm
【0053】
以上の解析結果より、第2ゴルフクラブ1Bについては、打球のバックスピン量に関して、溝8の深さDを大きくすることで、低摩擦の打撃状況でも、バックスピン量の減少を抑え、様々な摩擦条件でも飛距離を安定させ得ることが分かる。上述のとおり、溝8の溝壁8bの角度θを異ならせて同様の試験が行われたが、バックスピン量を安定させる効果への影響は小さかった。
【0054】
一方、ロフト角が小さい第1ゴルフクラブ1Aでは、意外にも、打撃状況が低摩擦になっても、殆どバックスピン量は低下しないという特徴がある。したがって、このような第1ゴルフクラブ1Aに、深さDの大きい溝8を採用すると、低摩擦の打撃状況では、さらにバックスピン量が増加して打球が吹け上がり、意図された本来の飛距離が得られない傾向がある。そこで、本実施形態では、第1ゴルフクラブ1Aについては、第2ゴルフクラブ1Bよりも深さDの小さい溝8が採用されている。第1ゴルフクラブ1Aでは、前記特徴に鑑みれば、DRYと濡紙スロットとにおけるバックスピン量の差を小さくすることが重要であるが、溝8の深さDを小さくした場合、前記2条件でのバックスピン量の差を減じ、飛距離を安定させることができる。
【0055】
好ましい態様では、第1ゴルフクラブ1Aの溝8の深さDは、例えば、0.38mm未満、より好ましくは0.35mm以下とされる。これにより、前記2条件での打球のバックスピン量の変化を抑制し、さらに打球の飛距離を安定させることができる。なお、第1ゴルフクラブ1Aの溝8の深さDの下限値は、必要最小限のバックスピン量を得るために、例えば、0.15mm以上とされるのが望ましい。
【0056】
同様に、好ましい態様では、第2ゴルフクラブ1Bの溝8の深さDは、例えば、0.38mm以上、より好ましくは0.40mm以上とされる。これにより、打球条件が異なっていても打球のバックスピン量の変化を抑制し、さらに打球の飛距離を安定させることができる。なお、第2ゴルフクラブ1Bの溝8の深さDの上限値は、ゴルフ規則に従って制約を受けるが、例えば、0.50mm以下であるのが望ましい。
【0057】
第1実施形態のセットにおいて、各ゴルフクラブ1の溝8のピッチPについては、特に限定されるものではなく、慣例に従って適宜定めることができる。好ましい態様では、溝8のピッチPは、ゴルフ規則に従うよう、下限値は、当該溝8の幅Wの4倍(以下、「4W」と表記する場合がある)以上とされるのが良い。また、ピッチPの上限値については、特に限定されるものではないが、好ましくは、4W+0.4(mm)以下、より好ましくは4W+0.3(mm)以下とされる。
【0058】
第1実施形態のセットにおいて、各ゴルフクラブ1の溝8の幅Wについては、特に限定されるものではなく、慣例に従って適宜定めることができる。好ましい態様では、溝8の幅Wは、0.5~0.9mmの範囲、より好ましくは0.6~0.9mmの範囲から適宜選択される。また、溝8の幅Wは、例えば、各クラブ内では一定とされる。また、溝8の幅Wは、セットの中で一定であっても良いし、変化しても良い。
【0059】
好ましい態様では、セットは、複数の第1ゴルフクラブ1Aと、複数の第2ゴルフクラブ1Bとを含むことができる。この場合、全ての第2ゴルフクラブ1Bの溝8の深さDは、全ての第1ゴルフクラブ1Aの溝8の深さDよりも大きく構成される。
【0060】
表4には、前記好ましい態様を満たすセットの例1及び2が示される。
【0061】
【表4】
【0062】
[第2実施形態のセット]
第2実施形態のセットは、図5に部分的に示されるように、ロフト角αが34度未満である少なくとも1本の第1ゴルフクラブ1Aと、ロフト角αが34度以上である少なくとも1本の第2ゴルフクラブ1Bとを含み、前記少なくとも1本の第2ゴルフクラブ1Bの溝8のピッチをPは、前記少なくとも1本の第1ゴルフクラブ1Aの溝8のピッチPよりも小さく構成されている。
【0063】
上述のとおり、ロフト角が34度未満である第1ゴルフクラブ1Aでは、打撃状況の低摩擦化が進むと、打球のバックスピン量が増加した以後もそのまま高いバックスピン量が維持されるのに対して、ロフト角が34度以上である第2ゴルフクラブ1Bでは、打撃時の低摩擦化が進むと、打球のバックスピン量が一旦増加するものの、その後、著しく減少する傾向を有する。
【0064】
そこで、第2実施形態では、上記の知見を前提として、第2ゴルフクラブ1Bの溝8のピッチPを、第1ゴルフクラブ1Aの溝8のピッチPよりも小さく形成している。これにより、第2ゴルフクラブ1Bの低摩擦打撃状況において、ボールがより多くの溝8と接触し、バックスピン量の著しい低下を抑制することができる。また、第1ゴルフクラブ1Aの低摩擦打撃状況において、ボールがより少ない溝8と接触し、バックスピン量の増加を抑制することができる。したがって、第2実施形態セットは、ゴルフ場で想定される様々な打撃状況において、打球のバックスピン量のばらつきを抑え、ひいては打球の飛距離を安定させることができる。
【0065】
好ましい態様では、第1ゴルフクラブ1Aの溝8のピッチPは、3.35mm以上とされ、第2ゴルフクラブ1Bの溝8のピッチPが3.35mm未満とされる。
【0066】
第2実施形態のセットにおいて、溝8の深さDについては、特に限定されるものではなく、慣例に従って適宜定めることができる。好ましい態様では、溝8の深さDは、0.15~0.50mmの範囲、より好ましくは0.20~0.50mmの範囲から適宜選択される。また、溝8の深さDは、例えば、各クラブ内では一定とされる。また、溝8の深さDは、セットの中で一定であっても良いし、変化しても良い。後者の場合、前述の第1実施形態に従って、変化させることが望ましい。
【0067】
第2実施形態のセットにおいて、各ゴルフクラブ1の溝8の幅Wについては、特に限定されるものではなく、上述のゴルフ規則と慣例に従って適宜定めることができる。好ましい態様では、溝8の幅Wは、0.5~0.9mmの範囲、より好ましくは0.6~0.9mmの範囲から適宜選択される。また、溝8の幅Wは、例えば、各クラブ内では一定とされる。また、溝8の幅Wは、セットの中で一定であっても良いし、変化しても良い。後者の場合、後述する第3実施形態の態様に従って、変化させることが望ましい。
【0068】
好ましい態様では、セットは、複数の第1ゴルフクラブ1Aと、複数の第2ゴルフクラブ1Bとを含むことができる。この場合、全ての第2ゴルフクラブ1Bの溝8のピッチPは、全ての第1ゴルフクラブ1Aの溝8のピッチPよりも小さく構成される。
【0069】
表5には、前記好ましい態様を満たすセットの例3が示される。
【0070】
【表5】
【0071】
[第3~5実施形態のセット]
図6及び図7には、第3~第5実施形態のセット(全体図示せず)に含まれる1本のゴルフクラブ1の部分的な正面図及びトウ側から見た側面図がそれぞれ示されている。セットは、ロフト角αが異なる複数本のゴルフクラブ1を含み、典型的には、アイアン型のゴルフクラブとして構成されている。好ましい態様のアイアン型のゴルフクラブのセットでは、例えば、3番アイアン~9番アイアン、ピッチングウエッジ、アプローチウエッジ及びサンドウエッジ等から選択される複数本で構成される。
【0072】
ゴルフクラブ1は、ロフト角αが26度未満である少なくとも1本の低番手ゴルフクラブ1Lと、ロフト角αが26度以上かつ39度未満である少なくとも1本の中番手ゴルフクラブ1Mと、ロフト角αが39度以上の少なくとも1本の高番手ゴルフクラブ1Sとを含む。
【0073】
低番手ゴルフクラブ1L、中番手ゴルフクラブ1M及び高番手ゴルフクラブ1Sは、それぞれ、複数の溝8が形成されたフェース3を具えている。溝8は、図3に示したような横断面形状及びピッチを具えている。
【0074】
[第3実施形態のセット]
本実施形態のセットでは、前記少なくとも1本の高番手ゴルフクラブ1Sのフェース3の溝8の深さDは、前記少なくとも1本の中番手ゴルフクラブのフェース3の溝8の深さDよりも大きく、前記少なくとも1本の中番手ゴルフクラブ1Mのフェース3の溝8の深さDは、前記少なくとも1本の低番手ゴルフクラブ1Lのフェース3の溝8の深さDよりも大きく構成されている。
【0075】
発明者らは、図8に示したように、ロフト角が異なるゴルフクラブについて、ボール打撃時の様々な打撃状況(DRY~濡紙スリット)での打球のバックスピン量をさらに詳細に調べた。その結果、バックスピン量の変化は、より詳細には、3つの傾向に区別することが可能である、という知見を得た。
【0076】
すなわち、(1)ロフト角αが26度未満である低番手ゴルフクラブ1Lでは、打撃時の低摩擦化が進むと、打球のバックスピン量が増加した後もそのまま高いバックスピン量が維持されること、(2)ロフト角αが39度以上である高番手ゴルフクラブ1Sでは、打撃時の低摩擦化が進むと、打球のバックスピン量が一旦増加するものの、その後、著しく減少すること、及び、(3)ロフト角αが26度以上かつ39度未満である中番手ゴルフクラブ1Mでは、ロフト角αの増加につれて、低番手ゴルフクラブ1Lの前記傾向から高番手ゴルフクラブ1Sの前記傾向に徐々に変化すること、が分かった。
【0077】
そこで、第3実施形態では、前記知見を前提として、高番手ゴルフクラブ1Sの溝8の深さDを中番手ゴルフクラブ1Mの溝8の深さDよりも大きくし、かつ、中番手ゴルフクラブ1Mの溝8の深さDを低番手ゴルフクラブ1Lの溝8の深さDよりも大きく形成している。
【0078】
これにより、高番手ゴルフクラブ1Sの低摩擦打撃状況において、ボールが溝8により深く係合し、バックスピン量の著しい低下が抑制される。また、低番手ゴルフクラブ1Lの低摩擦打撃状況において、ボールが溝8により浅く係合し、バックスピン量の増加を抑制することができる。さらに、中番手ゴルフクラブ1Mの溝8には、低番手ゴルフクラブ1L及び高番手ゴルフクラブ1Sの溝8の中間的な特性が与えられるので、バックスピン量が安定する。したがって、第3実施形態のセットは、溝8の深さDをロフト角αに応じてより細かく異ならせることで、ゴルフ場で想定される様々な打撃状況において、打球のバックスピン量のばらつきをさらに抑え、ひいては打球の飛距離をより一層安定させることができる。
【0079】
好ましい態様では、低番手ゴルフクラブ1Lの溝8の深さDが0.30mm以下とされても良い。これにより、低番手ゴルフクラブ1Lにおいて、打撃状況が異なっていても打球のバックスピン量の変化をより小さく抑制し、さらに打球の飛距離を安定させることができる。なお、低番手ゴルフクラブ1Lの溝8の深さDの下限値は、必要最小限のバックスピン量を得るために、例えば、0.15mm以上とされる。
【0080】
好ましい態様では、高番手ゴルフクラブ1Sの溝8の深さは、0.40mm以上とされても良い。これにより、高番手ゴルフクラブ1Sにおいて、打撃状況が異なっていても打球のバックスピン量の変化をより小さく抑制し、さらに打球の飛距離を安定させることができる。なお、高番手ゴルフクラブ1Sの溝8の深さDの上限値は、ゴルフ規則に従って制約を受けるが、例えば、0.50mm以下とされる。
【0081】
好ましい態様では、中番手ゴルフクラブ1Mの溝8の深さDは、前記の低番手ゴルフクラブ1L及び高番手ゴルフクラブ1Sの溝8の深さDの間の寸法として、0.30mmよりも大きく、かつ、0.40mmよりも小さく構成される。
【0082】
第3実施形態のセットにおいて、各ゴルフクラブ1の溝8のピッチPについては、特に限定されるものではなく、慣例に従って適宜定めることができる。好ましい態様では、溝8のピッチPは、ゴルフ規則に従うよう、下限値は、4W(mm)以上とされるのが良い。また、ピッチPの上限値については、特に限定されるものではないが、好ましくは、4W+0.4(mm)以下、より好ましくは4W+0.3(mm)以下とされる。また、溝8のピッチPは、例えば、各クラブ内では一定とされる。また、溝8のピッチPは、セットの中で一定であっても良いし、変化しても良い。後者の場合、後述する第4実施形態の態様に従って、変化させることが望ましい。
【0083】
第3実施形態のセットにおいて、各ゴルフクラブ1の溝8の幅Wについては、特に限定されるものではなく、慣例に従って適宜定めることができる。好ましい態様では、溝8の幅Wは、0.5~0.9mmの範囲、より好ましくは0.6~0.9mmの範囲から適宜選択される。また、溝8の幅Wは、セットの中で一定であっても良いし、変化しても良い。
【0084】
好ましい態様では、ゴルフクラブセットは、複数の低番手ゴルフクラブ1L、複数の中番手ゴルフクラブ1M及び複数の高番手ゴルフクラブ1Sを含むことができる。これまでのロフト角と番手との慣例に従った形態では、本実施形態のセットは、例えば、3番アイアン~9番アイアン、ピッチングウエッジ、アプローチウエッジ及びサンドウエッジ等から選択される複数本で構成されることが望ましい。
【0085】
好ましい態様では、セットは、複数の低番手ゴルフクラブ1Lと、複数の中番手ゴルフクラブ1Mと、複数の高番手ゴルフクラブ1Sとを含むことができる。この場合、全ての高番手ゴルフクラブ1Sの溝8の深さDは、全ての中番手ゴルフクラブ1Mの溝8の深さDよりも大きく構成され、全ての中番手ゴルフクラブ1Mの溝8の深さDは、全ての低番手ゴルフクラブ1Lの溝8の深さDよりも大きく構成される。
【0086】
表6には、前記好ましい態様を満たすセットの例4が示される。
【0087】
【表6】
【0088】
[第4実施形態のセット]
第4実施形態のセットでは、少なくとも1本の高番手ゴルフクラブ1Sのフェース3の溝8のピッチPは、少なくとも1本の中番手ゴルフクラブ1Mのフェース3の溝8のピッチPよりも小さく、少なくとも1本の中番手ゴルフクラブ1Mのフェース3の溝8のピッチPは、少なくとも1本の低番手ゴルフクラブ1Lのフェース3の溝8のピッチPよりも小さく構成されている。
【0089】
第4実施形態では、前記知見(1)ないし(3)を前提として、溝8のピッチPは、ロフト角αが大きいゴルフクラブ1ほど、小さくなるように変化している。これにより、高番手ゴルフクラブ1Sの低摩擦打撃状況において、ボールがより多くの溝8と接触し、バックスピン量の著しい低下を抑制することができる。また、低番手ゴルフクラブ1Lの低摩擦打撃状況において、ボールがより少ない溝8と接触し、バックスピン量の増加を抑制することができる。さらに、中番手ゴルフクラブ1Mの溝8のピッチPには、低番手ゴルフクラブ1L及び高番手ゴルフクラブ1Sの溝8の中間的な特性が与えられるので、様々な打球条件でのバックスピン量が安定する。したがって、第4実施形態のセットは、溝8のピッチPをロフト角αに応じてより細かく異ならせることで、ゴルフ場で想定される様々な打撃状況において、打球のバックスピン量のばらつきを抑え、ひいては打球の飛距離を安定させることができる。
【0090】
好ましい態様では、低番手ゴルフクラブ1Lの溝8のピッチPは、3.40mm以上とされ、より好ましくは3.45mmとされても良い。これにより、低番手ゴルフクラブ1Lにおいて、打撃状況が異なっていても打球のバックスピン量の変化をより小さく抑制し、さらに打球の飛距離を安定させることができる。
【0091】
好ましい態様では、高番手ゴルフクラブ1Sの溝8のピッチPは、3.30mm以下とされ、より好ましくは3.25mm以下とされる。これにより、高番手ゴルフクラブ1Sにおいて、打撃状況が異なっていても打球のバックスピン量の変化をより小さく抑制し、さらに打球の飛距離を安定させることができる。
【0092】
好ましい態様では、中番手ゴルフクラブ1Mの溝8のピッチPは、前記の低番手ゴルフクラブ1L及び高番手ゴルフクラブ1Sの溝8のピッチPの間の寸法として、3.30mmよりも大きく、かつ、3.40mmよりも小さく構成される。
【0093】
第4実施形態のセットにおいて、各ゴルフクラブ1の溝8の深さDについては、特に限定されるものではなく、慣例に従って適宜定めることができる。好ましい態様では、溝8の深さDは、0.15~0.50mmの範囲、より好ましくは0.20~0.50mmの範囲から適宜選択される。また、溝8の深さDは、例えば、クラブ内で一定とされる。また、溝8の深さDは、セットの中で一定であっても良いし、変化しても良い。後者の場合、前述の第3実施形態の態様に従って、変化させることが望ましい。
【0094】
第4実施形態のセットにおいて、各ゴルフクラブ1の溝8の幅Wについては、特に限定されるものではなく、慣例に従って適宜定めることができる。好ましい態様では、溝8の幅Wは、0.5~0.9mmの範囲、より好ましくは0.6~0.9mmの範囲から適宜選択される。また、溝8の幅Wは、例えば、各クラブ内では一定とされる。また、溝8の幅Wは、セットの中で一定であっても良いし、変化しても良い。
【0095】
好ましい態様では、ゴルフクラブセットは、複数の低番手ゴルフクラブ1L、複数の中番手ゴルフクラブ1M及び複数の高番手ゴルフクラブ1Sを含むことができる。この場合、全ての高番手ゴルフクラブ1Sの溝8のピッチPは、全ての中番手ゴルフクラブ1Mの溝8のピッチPよりも小さく構成され、全ての中番手ゴルフクラブ1Mの溝8のピッチPは、全ての低番手ゴルフクラブ1Lの溝8のピッチPよりも大きく構成される。
【0096】
また、これまでのロフト角と番手との慣例に従った形態では、本実施形態のセットは、例えば、3番アイアン~9番アイアン、ピッチングウエッジ、アプローチウエッジ及びサンドウエッジ等から選択される複数本で構成されることが望ましい。
【0097】
表7には、前記好ましい態様を満たすセットの例5が示される。
【0098】
【表7】
【0099】
[第5実施形態のセット]
第5実施形態のセットは、第3及び第4実施形態で説明された溝8の深さD及びピッチPを組み合わせて構成される形態である。
【0100】
この実施形態では、溝8の深さD及びピッチPの両方をロフト角αに応じてより細かく異ならせることで、ゴルフ場で想定される様々な打撃状況において、打球のバックスピン量のばらつきを抑え、ひいては打球の飛距離を安定させることができる。
【0101】
表8には、前記好ましい態様を満たすセットの例8が示される。
【0102】
【表8】
【0103】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の態様に変更しうるのは言うまでもない。特に、各実施形態は、相互に独立したものとして厳格に解されるべきではない。例えば、ある実施形態の一部の要素を、他の実施形態に記載された要素に置換して得られる態様は、本発明の開示の範囲として理解されるべきである。
【符号の説明】
【0104】
1 ゴルフクラブ
1A 第1ゴルフクラブ
1B 第2ゴルフクラブ
1L 低番手ゴルフクラブ
1M 中番手ゴルフクラブ
1S 高番手ゴルフクラブ
2 ヘッド
3 フェース
8 溝
P 溝のピッチ
W 溝の幅
α ロフト角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8