(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】非接触電圧位相検出装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01R 19/00 20060101AFI20240909BHJP
G01R 31/52 20200101ALI20240909BHJP
G01R 31/58 20200101ALI20240909BHJP
G01R 25/00 20060101ALI20240909BHJP
G01R 29/18 20060101ALI20240909BHJP
G01R 15/16 20060101ALI20240909BHJP
G01R 21/00 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
G01R19/00 A
G01R31/52
G01R31/58
G01R25/00
G01R29/18 M
G01R15/16
G01R21/00 E
(21)【出願番号】P 2023097969
(22)【出願日】2023-06-14
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】500285727
【氏名又は名称】三和電気計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 賢也
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-222238(JP,A)
【文献】特開平01-257272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 19/00
G01R 31/52
G01R 31/58
G01R 25/00
G01R 29/18
G01R 15/16
G01R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相交流電源の第1の電源ラインと静電容量結合する第1の容量結合センサと、
前記多相交流電源の第2の電源ラインと静電容量結合する第2の容量結合センサと、
前記第1の容量結合センサに流れる変位電流を第1の検出電圧に変換する第1の検出回路と、
前記第2の容量結合センサに流れる変位電流を第2の検出電圧に変換する第2の検出回路と、
前記第1の検出電圧と前記第2の検出電圧との差分をとり、前記第1及び第2電源ライン間の電圧波形を出力する差動回路と、
を備えた非接触電圧位相検出装置であって、
前記第1の電源ラインと前記第1の容量結合センサとの容量結合部における第1の結合容量と、前記第2の電源ラインと前記第2の容量結合センサとの容量結合部における第2の結合容量とを一致させるように、前記第1の結合容量を調整する調整装置を備えた
ことを特徴とする、非接触電圧位相検出装置。
【請求項2】
前記調整装置は、前記第1の検出電圧と前記第2の検出電圧とが一致するように、前記第1の容量結合センサの電極と前記第1の電源ラインとの距離及び前記第2の容量結合センサの電極と前記第2の電源ラインとの距離の一方又は双方を調整するアクチュエータを備える
ことを特徴とする、
請求項1記載の非接触電圧位相検出装置。
【請求項3】
多相交流電源の第1の電源ラインと静電容量結合する第1の容量結合センサと、
前記多相交流電源の第2の電源ラインと静電容量結合する第2の容量結合センサと、
前記第1の容量結合センサに流れる変位電流を第1の検出電圧に変換する第1の検出回路と、
前記第2の容量結合センサに流れる変位電流を第2の検出電圧に変換する第2の検出回路と、
前記第1の検出電圧と前記第2の検出電圧との差分をとり、前記第1及び第2電源ライン間の電圧波形を出力する差動回路と、
を備えた非接触電圧位相検出装置であって、
前記第1の電源ラインと前記第1の容量結合センサとの容量結合部における第1の結合容量と、前記第2の電源ラインと前記第2の容量結合センサとの容量結合部における第2の結合容量との容量比を1:1に近づけるように、前記第1及び第2の検出電圧を前記容量比の逆数の増幅比で増幅させる補正回路を備えた
ことを特徴とする、非接触電圧位相検出装置。
【請求項4】
前記補正回路は、
前記多相交流電源の周波数とは異なる信号周波数を有する補正用信号を出力する発振回路と、
前記第1の検出電圧を増幅又は減少させる第1の可変増幅器と、
前記第2の検出電圧を増幅又は減少させる第2の可変増幅器と、
前記第1の検出電圧の前記信号周波数の成分の電圧と、前記第2の検出電圧の前記信号周波数の成分の電圧とを比較する比較回路と、
前記比較回路の比較結果に応じて、前記第1の検出電圧の前記信号周波数の成分の電圧と、前記第2の検出電圧の前記信号周波数の成分の電圧とが一致するように、前記第1及び第2の可変増幅器の一方又は双方の増幅率を補正する増幅率補正回路と、
を備えることを特徴とする、請求項3記載の非接触電圧位相検出装置。
【請求項5】
前記第1の検出電圧と前記第2の検出電圧とを加算する加算回路を備え、
前記比較回路は、比較結果として、前記加算回路によって加算された前記第1及び第2の検出電圧の前記信号周波数の成分の電圧の和に対する、前記差動回路によって差分をとった前記第1の検出電圧と前記第2の検出電圧の前記信号周波数の成分の電圧の差の比率を求め、
前記増幅率補正回路は、前記比率が所定値を超える場合に、前記第1及び第2の可変増幅器の一方又は双方の増幅率を補正する
ことを特徴とする、請求項
4記載の非接触電圧位相検出装置。
【請求項6】
多相交流電源の電源ラインを構成する第1の電源ラインと静電容量結合した第1の容量結合センサに流れる変位電流を第1の検出電圧に変換し、
前記多相交流電源の他の電源ラインを構成する第2の電源ラインと静電容量結合した第2の容量結合センサに流れる変位電流を第2の検出電圧に変換し、
前記第1の検出電圧と前記第2の検出電圧との差分をとり、前記第1及び第2電源ライン間の電圧波形を生成する非接触電圧位相検出方法であって、
前記第1の電源ラインと前記第1の容量結合センサとの容量結合部における第1の結合容量と、前記第2の電源ラインと前記第2の容量結合センサとの容量結合部における第2の結合容量とを一致させるように、前記第1の結合容量及び前記第2の結合容量の一方又は双方を調整する
ことを特徴とする、非接触電圧位相検出方法。
【請求項7】
多相交流電源の電源ラインを構成する第1の電源ラインと静電容量結合した第1の容量結合センサに流れる変位電流を第1の検出電圧に変換し、
前記多相交流電源の他の電源ラインを構成する第2の電源ラインと静電容量結合した第2の容量結合センサに流れる変位電流を第2の検出電圧に変換し、
前記第1の検出電圧と前記第2の検出電圧との差分をとり、前記第1及び第2電源ライン間の電圧波形を生成する非接触電圧位相検出方法であって、
前記第1の電源ラインと前記第1の容量結合センサとの容量結合部における第1の結合容量と、前記第2の電源ラインと前記第2の容量結合センサとの容量結合部における第2の結合容量との容量比を1:1に近付けるように、前記第1及び第2の検出電圧を前記容量比の逆数の増幅比で増幅させる
ことを特徴とする、非接触電圧位相検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触電圧位相検出装置及び方法に係り、より詳細には、静電容量結合した電源ラインと静電容量センサ間の結合容量を直接調整することなく、電圧波形の位相誤差を低減できる非接触電圧位相検出装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交流電源から電圧が印加されている負荷機器を通じて流れる対地漏洩電流の検出にあたり、特に漏洩電流の中に含まれる抵抗成分漏洩電流(Ior)は発熱に関わり危険であるため、抵抗成分漏洩電流(Ior)を抽出して検出することが必要となる。
【0003】
抵抗成分漏洩電流(Ior)は、以下のように表される。
単相の場合 Ior=Io COS(θ1)
三相の場合 Ior=Io COS(θ3)/COS(30)
ここで、
Io:漏洩電流総量
θ1:電源電圧と漏洩電流の位相差
Ior:抵抗成分漏洩電流
θ3:R-T間電圧と漏洩電流の位相差
【0004】
このため、抵抗成分漏洩電流(Ior)を検出するためには、漏洩電流の他に、電源電圧と漏洩電流との位相差(θ1、θ3)も測定する必要がある。電源電圧の測定にあたって、従来は電源ラインに検出端子を直接接触させて電圧を測定していた。
【0005】
しかし、活線状態の電源ラインの電圧を測定する際の安全性、作業性の向上のためには、電源ラインに検出端子を直接接触させずに、非接触で電圧と電流の位相関係を測定することが望まれる。
そのような非接触の測定方法として、静電容量結合方式が知られている。静電容量結合方式では、電源ラインに対して電線の被覆の上から容量結合センサを接近させて、容量結合センサと電線とを静電容量結合させ、容量結合部に流れる電流波形を検出することにより、非接触で電圧を測定する。
【0006】
従来の静電容量結合方式による非接触電圧計測装置の一例が特許文献1に記載されている。特許文献1の非接触電圧計測装置では、所定の周波数の信号を出力する発振器の信号を、電源ラインを挟んだ検出プローブ(容量結合センサ)のシールドされた検出電極に加えることによって、検出電極と導体との間のインピーダンスを計測するとともに、導体に印加された電圧に起因して検出電極から流出する電流を計測し、電流とインピーダンスとから導体に印加された電圧を計測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、三相交流電源のR-T間電圧波形を検出するにあたっては、R相及びT相の電源ラインをそれぞれ別個の容量結合センサと静電容量結合する。その際に、容量結合値は、例えば、電源ラインの絶縁被覆の厚みの僅かなばらつきや容量結合センサが電源ラインを挟み込む力の僅かな違いによって大きく変動するため、容量結合センサと電源ラインとの容量結合値がR相側とT相側とで異なると、R相とT相の検出電圧のピーク電圧に差が生じる。その結果、R-T間電圧波形の位相が、R相側とT相側のうち検出電圧が低い側へずれて、R-T間電圧波形に位相誤差が生じてしまう。
図6に、R-T間電圧波形に位相誤差の一例を示す。
図6(a)に示すT相側とR相側の検出電圧が等しい場合のR-T間電圧波形の位相に対して、
図6(b)に示すT相側よりもR相側の検出電圧が低い場合のR-T間電圧波形の位相がR相側へずれてしまう。その結果、出力される検出信号の電圧波形に、R-T間電圧波形に対して位相誤差が生じてしまう。
【0009】
なお、R相側とT相側の検出電圧のピーク電圧に差が生じた場合、それらピーク電圧どうしの差が無くなるように検出電圧を調整すれば、位相誤差も解消されるのではないかと思われるが、実際には、電源ケーブルと容量結合センサとの容量結合部以外にも、検出装置のGNDとアースとの間や、電源ケーブルと検出装置との間にも容量結合部が形成されており、これら容量結合部に流れる位相電流の分も検出電圧に上乗せされて検出されているため、単にR相側とT相側のピーク電圧の差を無くすように調整しただけでは、位相誤差をなくすことは容易ではない。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、電源ラインの電圧波形を、位相誤差を低減して精度良く検出できる非接触電圧位相検出装置及び方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の本発明の非接触電圧位相検出装置は、多相交流電源の第1の電源ラインと静電容量結合する第1の容量結合センサと、前記多相交流電源の第2の電源ラインと静電容量結合する第2の容量結合センサと、前記R相の容量結合センサに流れる変位電流を第1の検出電圧に変換する第1の検出回路と、前記第2の容量結合センサに流れる変位電流を第2の検出電圧に変換する第2の検出回路と、前記第1の検出電圧と前記第2の検出電圧との差分をとり、前記第1及び第2電源ライン間の電圧波形を出力する差動回路と、を備えた非接触電圧位相検出装置であって、前記第1の電源ラインと前記第1の容量結合センサとの容量結合部における第1の結合容量と、前記第2の電源ラインと前記第2の容量結合センサとの容量結合部における第2の結合容量とを一致させるように、前記第1の結合容量を調整する調整装置を備えたことを特徴としている。
【0012】
また、第3の本発明の非接触電圧位相検出方法は、多相交流電源の電源ラインを構成する第1の電源ラインと静電容量結合した第1の容量結合センサに流れる変位電流を第1の検出電圧に変換し、前記多相交流電源の他の電源ラインを構成する第2の電源ラインと静電容量結合した第2の容量結合センサに流れる変位電流を第2の検出電圧に変換し、前記第1の検出電圧と前記第2の検出電圧との差分をとり、前記第1及び第2電源ライン間の電圧波形を生成する非接触電圧位相検出方法であって、前記第1の電源ラインと前記第1の容量結合センサとの容量結合部における第1の結合容量と、前記第2の電源ラインと前記第2の容量結合センサとの容量結合部における第2の結合容量とを一致させるように、前記第1の結合容量を調整することを特徴としている。
【0013】
ところで、R相側とT相側の容量結合値を一致させれば、理論的にはR-T間電圧波形の位相誤差をなくすことができるが、容量結合センサと電源ラインとの容量結合部の結合容量をR相側とT相側で同じになるように機械的に調整する必要がある。
【0014】
本発明の発明者は、種々の検討を更に重ねた結果、R相側とT相側の結合容量を一致させなくても、実施形態において後述するように、R相側とT相側の結合容量の比率が1:1になるように、容量結合部を流れる変位電流を変換した検出電圧を後段の増幅器で調整すれば、R-T間電圧の位相を近似的に検出できることを見出した。第2及び第4の本発明は、かかる知見に基づいて成されたものである。
【0015】
第2の本発明の非接触電圧位相検出装置は、多相交流電源の第1の電源ラインと静電容量結合する第1の容量結合センサと、前記多相交流電源の第2の電源ラインと静電容量結合する第2の容量結合センサと、前記第1の容量結合センサに流れる変位電流を第1の検出電圧に変換する第1の検出回路と、前記第2の容量結合センサに流れる変位電流を第2の検出電圧に変換する第2の検出回路と、前記第1の検出電圧と前記第2の検出電圧との差分をとり、前記第1及び第2電源ライン間の電圧波形を出力する差動回路と、を備えた非接触電圧位相検出装置であって、前記第1の電源ラインと前記第1の容量結合センサとの容量結合部における第1の結合容量と、前記第2の電源ラインと前記第2の容量結合センサとの容量結合部における第2の結合容量との容量比を1:1に近づけるように、前記第1及び第2の検出電圧を前記容量比の逆数の増幅比で増幅させる補正回路を備えたことを特徴としている。
【0016】
また、第4の本発明の非接触電圧位相検出方法は、多相交流電源の電源ラインを構成する第1の電源ラインと静電容量結合した第1の容量結合センサに流れる変位電流を第1の検出電圧に変換し、前記多相交流電源の他の電源ラインを構成する第2の電源ラインと静電容量結合した第2の容量結合センサに流れる変位電流を第2の検出電圧に変換し、前記第1の検出電圧と前記第2の検出電圧との差分をとり、前記第1及び第2電源ライン間の電圧波形を生成する非接触電圧位相検出方法であって、前記第1の電源ラインと前記第1の容量結合センサとの容量結合部における第1の結合容量と、前記第2の電源ラインと前記第2の容量結合センサとの容量結合部における第2の結合容量との容量比を1:1に近付けるように、前記第1及び第2の検出電圧を前記容量比の逆数の増幅比で増幅させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
第1及び第3の本発明の非接触電圧位相検出装置及び方法によれば、第1の電源ラインと第1の容量結合センサとの容量結合部における第1の結合容量と、第2の電源ラインと第2の容量結合センサとの容量結合部における第2の結合容量とを一致させるように、第1の結合容量及び前記第2の結合容量の一方又は双方を調整する。
これにより、本発明によれば、電源ラインの電圧波形を、位相誤差を低減して精度良く検出できる。
【0018】
また、第2及び第4の本発明の非接触電圧位相検出装置及び方法においては、第1の電源ラインと第1の容量結合センサとの容量結合部における第1の結合容量と、第2の電源ラインと第2の容量結合センサとの容量結合部における第2の結合容量との容量比を1:1に近付けるように、前記第1及び第2の検出電圧を前記容量比の逆数の増幅比で増幅させる。
これにより、本発明によれば、容量結合センサと電源ラインとの容量結合部の結合容量を直接調整しなくても、容量結合部を流れる変位電流を変換した検出電圧を後段の増幅器で調整することによって、第1及び第2の電源ライン間の電圧の位相を近似的に精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】漏洩電流検出装置に接続した本発明の非接触電圧位相検出装置の概略図である。
【
図2】本発明の非接触電圧位相検出装置における補正回路を除いた基礎構成を説明するためのブロック図である。
【
図3】
図2に示す基礎構成の三相電源ライン接続時の等価回路である。
【
図5】本発明の実施形態の非接触電圧位相検出装置のブロック図である
【
図6】静電容量センサと電源ラインとの容量結合値がR相側とT相側で異なる場合のT-R間電圧の位相誤差の説明図であり、(a)は、R相側とT相側の信号レベルが同じ場合の電圧波形を示し、(b)は、R相側の信号レベルがT相側の信号レベルよりも低い場合の電圧波形を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係る非接触電圧位相検出装置及び方法の実施形態を説明する。
【0021】
図1に、漏洩電流検出装置に接続した本発明の非接触電圧位相検出装置の概略図を示す。本実施形態の非接触電圧位相検出装置は、漏洩電流検出装置500(例えば、三和電気計器株式会社製の商品名I0R500)で抵抗成分の漏洩電流を検出するためのアダプタを構成している。
【0022】
図1に示すように、アダプタは、装置本体100と、装置本体100に接続された第1及び第2の容量結合センサ210及び220とから構成されている。第1及び第2の容量結合センサ210及び220は、クリップ形状を有し、三相交流電源のR相及びT相の電源ライン10及び20をそれぞれ挟むことにより、R相及びT相の電源ラインとそれぞれ静電容量結合する。
装置本体100は、R-T間電圧の位相情報を漏洩電流検出装置500の電圧入力端子へ出力する。
【0023】
図2を参照して、本実施形態の非接触電圧位相検出装置における補正回路を除いた基礎構成を説明する。
図2に示す非接触電圧位相検出装置は、第1及び第2の容量結合センサ210及び220に加え、装置本体100に含まれる構造として、R相の容量結合センサ210に流れる変位電流をR相検出電圧に変換するR相の検出回路110と、T相の容量結合センサ220に流れる変位電流をT相検出電圧に変換するT相の検出回路120と、R相検出電圧とT相検出電圧との差分をとり、R-T間電圧波形を出力する差動回路130とを備えている。
【0024】
第1及び第2の検出回路110及び120は、互いに同じ特性値のコンデンサと抵抗で構成されたCR回路であり、実際のR-T間電圧よりも位相が進んだR相及びT相検出電圧の波形を出力する。
【0025】
図2に示す非接触電圧位相検出装置は、さらに、差動回路130から出力されたR-T間電圧波形の位相調整を行うための、可変抵抗とコンデンサで構成されたローパスフィルタ140を備えている。ローパスフィルタ140において、可変抵抗の抵抗値を変化させることによって、位相の遅れ量が調整される。
【0026】
ローパスフィルタ140から出力された電圧波形は、アンプ156で増幅されてから漏洩電流検出装置500の電圧入力端子へ出力される。
【0027】
次に、本実施形態の非接触電圧位相検出装置の補正回路の説明に先立ち、S相電源ラインを接地した三相電源のR-T間電圧の位相誤差について説明する。
図3に、B種接地した、
図2の非接触電圧位相検出装置の等価回路を示す。
図3中の各符号は以下の要素を表す。
図4は、
図3に示す等価回路の部分拡大図である。
【0028】
C1:R相の容量結合センサ
C2:T相の容量結合センサ
C3,C4:信号ATT用コンデンサ
C5:装置本体のGNDと対地間の結合容量
C6:装置本体のGNDとR相間の結合容量
C7:装置本体のGNDとT相間の結合容量
R1~R4:信号ATT用抵抗
R:R-S相間電圧
T:T-S相間電圧
VR:R相検出電圧(R相とアダプタGND間の電圧をATTした波形)
VT:T相検出電圧(T相とアダプタGND間の電圧をATTした波形)
VE:アダプタのGNDと対地間の電圧
【0029】
また、以下の説明において、B種接地抵抗はC1、C2のインピーダンスに対して十分に小さい値の為、無視(0Ω)して計算する。また、R1~R4のインピーダンスをZR1~ZR4とする。また、C1~C7のインピーダンスをZC1~ZC7とする。
なお、検出電圧及びインピーダンスはベクトル値であるが、便宜的にドット等を省略して表記する。
【0030】
(1)まず、装置本体の対地間電圧VEを算出する。
(1-1)R相
R相の検出回路用CR(R1,R2,C3)の合成インピーダンスZRATTは、以下の(1)式で算出される。
ZRATT=(ZR1+ZR2)ZC3/(ZR1+ZR2+ZC3)・・・(1)
R相とR相の容量結合センサ経由のアダプタGNDとの間(C1,R1,R2,C3)の合成インピーダンスZR'は、以下の(2)式で算出式される。
ZR'=ZC1+ZRATT・・・(2)
R相とアダプタGNDとの間(ZR',C6)の合成インピーダンスZRは、以下の(3)式で算出される。
ZR=ZR’ ZC6/(ZR’+ZC6)・・・(3)
【0031】
(1-2)T相
T相の検出回路用CR(R3,R4,C4)の合成インピーダンスZTATTは、以下の(4)式で算出式される。
ZTATT=(ZR3+ZR4)ZC4/(ZR3+ZR4+ZC4)・・・(4)
T相とアダプタGNDとの間の検出回路(C2,R3,R4,C4)の合成インピーダンスZT'は、以下の(5)式で算出される。
ZT'=ZC2+ZTATT・・・(5)
T相とアダプタGNDとの間(ZT',C6)の合成インピーダンスZTの算出式
ZT=ZR’ ZC7/(ZT’+ZC7)・・・(6)
アダプタGND対地間の合成インピーダンスZEは、以下の(7)式で算出される。
ZE=ZC5 ・・・(7)
【0032】
(1-3)対地間電圧VE
上記(3)、(6)、(7)式で算出したZR,ZT,ZEを用いて対地間電圧VEを求める。
ZR,ZT,ZEに流れる電流IR,IT,IEには、キルヒホッフの法則より以下の(8)式の関係が成り立つ。
IR+IT=IE・・・(8)
また、回路からIR,IT,IEは以下の(9)式でそれぞれ表わすことができる。
IR=(R-VE)/ZR, IT=(T-VE)/ZT, IE=VE/ZR・・・(9)
(8)式に(9)式を代入してVEを求める。
VE=(ZE ZT R+ZE ZR T)/(ZE ZT+ZE ZR+ ZT ZR)・・・(10)
【0033】
ここで、VE算出の場合、ZRにはC6の成分が含まれ、ZTにはC7の成分が含まれ、ZEにはC5の成分が含まれている。このため、第1及び第2の容量結合センサの結合容量C1,C2以外の結合容量(C5,C6,C7)によってもVEの値が変化してしまうことがわかる。
【0034】
(2)次に、アダプタが実際に検出するR,T相のATT電圧VR-VTを算出する。
VRは、R-S間電圧RからVEを差し引いた電圧をZC1とZRATTで分圧し、さらに、その値をZR1とZR2で分圧した値となり、以下の(11)式で表される。
VR=(R-VE)(ZRATT/ZR)(ZR1 ZR2/(ZR1+ZR2))・・・(11)
VTはT-S間電圧TからVEを差し引いた電圧をZC2とZTATTで分圧し、さらに、その値をZR3とZR4で分圧した値となり、以下の(12)式で表される。
VT=(T-VE)(ZRATT/ZT)(ZR3 ZR4/(ZR3+ZR4))・・・(12)
求める値はVR-VT間電圧なので、式(11)から(12)を差し引くと、
VR-VT=(R-VE)(ZRATT/ZR)(ZR1 ZR2/(ZR1+ZR2))-(T-VE)(ZRATT/ZT)(ZR3 ZR4/(ZR3+ZR4))・・・(13)
(13)式をVEでまとめると、以下の(14)式で表される。
VR-VT=(ZRATT/ZR)(ZR1 ZR2/(ZR1+ZR2))R-(ZRATT/ZT)(ZR3 ZR4/(ZR3+ZR4))T+{(ZRATT/ZT)(ZR3 ZR4/(ZR3+ZR4))-(ZRATT/ZR)(ZR1 ZR2/(ZR1+ZR2))}VE・・・(14)
【0035】
上記の式(14)から、ZC1、ZC2の値が異なると、ZR≠ZTとなるため、R、Tの分圧比が変わることとなり、正確なVR-VT間の位相が取れなくなる。
また、上記の式(14)から、ZR≠ZTの場合、VEでまとめた括弧内が0とならないため、VEが、VR―VTの位相に影響を及ぼすことになる。
特に、VEは、第1及び第2容量結合センサ以外の結合容量C5,C6,C7の影響を受けるため、位相誤差が増加してしまう。
【0036】
(2-1)ここで、第1及び第2の容量結合センサの結合容量値(C1,C2)が互いに同じ容量値の場合について説明する。
ここで仮に、第1及び第2の容量結合センサの結合容量C1,C2、及び検出回路用CRの、R1~R4、C3、C4がそれぞれすべて互いに同じ値になったと仮定すると、
以下の(15)~(17)式が成り立つ。
C1=C2(=CSとする)なので、ZC1=ZC2=ZCS ・・・(15)
R1=R2=R3=R4(=RAとする)なので、ZR1=ZR2=ZR3=ZR4=ZRA・・・(16)
C3=C4(=CAとする)なので、ZC3=ZC4=ZCA ・・・(17)
上記の(1)、(4)、(16)、(17)式から、以下の(18)式が成り立つ。
ZRATT=ZTATT(=ZATTとする)・・・(18)
(2)、(5)、(18)式から、以下の(19)式が成り立つ。
ZR=ZT(=ZAとする) ・・・(19)
式(15)~(19)を式(14)に代入すると、以下の(20)式が成り立つ。
VR―VT=(ZATT/ZA)(ZRA ZRA/(ZRA+ZRA))R-(ZATT/ZA)(ZRA ZRA/(ZRA+ZRA))T+{(ZATT/ZA)(ZRA ZRA/(ZRA+ZRA))-(ZATT/ZA)(ZRA ZRA/(ZRA+ZRA))}VE・・・(20)
これを整理すると、以下の式(21)となる。
VR-VT=(ZATT/ZA)(ZRA ZRA/(ZRA+ZRA))(R-T)・・・(21)
【0037】
上記の(21)式からVR-VTの検出波形は、VEの影響を受けなくなる。R-T電圧は、容量結合センサの結合容量と検出回路用の抵抗及び容量の関係性のみで決まる。
ここで、検出回路用の抵抗及び容量は既知の定数とできるので、検出回路用CRの定数をR相とT相とで同じ値とし、かつ容量結合センサの結合容量をR相とT相とで同じ容量値にできれば、R-T間の電圧位相を正確に検知できることがわかる。
【0038】
このように、R相とT相の容量結合センサの結合容量が同じであれば、R相とT相の信号レベルが同じになり、R-T間電圧と検出信号の位相誤差がなくなる。また、装置本体のGNDとアース間、R相、T相との結合容量により流れる位相電流による誤差も理論上なくなる。
【0039】
しかし、R相とT相の容量結合センサの結合容量が同じになるように調整を行わなくとも、R相とT相の容量結合センサの容量比率が1:1となるような係数kを後段のアンプ(ここでは、R相側)に乗ずることによって、近似値が得られることを以下説明する。
【0040】
(2-2)センサ結合容量値(C1,C2)が異なる場合に、後段で検出信号のレベル調整をした場合について説明する。
まず、検出用CRがR相とT相とで同じ定数であるが、第1及び第2の容量結合センサの結合容量がC1≠C2と異なる場合に、R相側の回路で
ZC1=k ZC2・・・(22)
となるような係数kをVRの信号にかける。これは、実際の回路上では、VR信号をアンプでk倍に増幅することになる。
【0041】
一方、数式上では、(11)式に係数kをかけることに相当する。この場合、検出回路用CRが、R相とT相とで同じ定数なので、式(16)、(18)式よりZATT、ZRAを代入すると、以下の(23)式が得られる。
VR=(R-VE)(ZATT/ZR)(ZRA ZRA/ZRA+ZRA)・・・(23)
また、VTについても(12)式で算出した式について、検出用CRがR相とT相とで同じ定数なので、(16)、(18)式より、ZATT,ZRAを代入すると、以下の(24)式が得られる。
VT=(T-VE)(ZATT/ZT)(ZRA ZRA/ZRA+ZRA)・・・(24)
(23)、(24)式で、VR-VTとすると、以下の(25)式が得られる。
VR-VT=(ZRA ZRA/ZRA+ZRA){(ZATT/ZR)kR-(ZATT/ZT)T+((ZATT/ZT)-(ZATT/ZR)k)VE}・・・(25)
また、(2)、(5)式について、検出回路用CRがR相とT相とで同じ定数なので、式(18)より、以下の(26)式が得られる。
ZR=ZC1+ZATT・・・(26)
ZT=ZC2+ZATT・・・(27)
上記の(26)、(27)式を(25)式に代入すると、以下の(28)式が得られる。
VR-VT=(ZRA ZRA/(ZRA+ZRA)){(ZATT/(ZC1+ZATT))kR-(ZATT/(ZC2+ZATT))T+((ZATT/(ZC2+ZATT))-(ZATT/(ZC1+ZATT))k)VE}・・・(28)
【0042】
ここで分母のZC1+ZATT, ZC2+ZTATT については実使用上ZATTの値がZC1及びZC2の値に比べて無視できるほど小さいため、以下の(29)、(30)式のように近似できる。
ZC1+ZATT≒ZC1・・・(29)
ZC2+ZATT≒ZC2・・・(30)
上記の(29)、(30)式を(28)式に代入すると、以下の(31)式が得られる。
VR-VT≒(ZRA ZRA/(ZRA+ZRA)){(ZATT/ZC1)kR-(ZATT/ZC2)T+((ZATT/ZC2-(ZATT/ZC1)k)VE}・・・(31)
さらに、(22)式:ZC1=kZC2を式(31)のZC1に代入すると、以下の(32)式が得られる。
VR-VT≒(ZRA ZRA/(ZRA+ZRA)){(ZATT/kZC2)kR-(ZATT/ZC2)T+((ZATT/ZC2-(ZATT/k ZC2)k)VE}・・・(32)
上記の(32)式において、係数kが分子と分母でキャンセルされて無くなり、VEも差し引かれて0になるので、これを整理すると、以下の(33)式が得られる。
VR-VT≒(ZRA ZRA/(ZRA+ZRA))(ZATT/ZC2)(R-T)・・・(33)
【0043】
上記の(33)式から、VR-VTの電圧波形は、VEの影響を受けなくなり、電圧波形は容量結合センサの結合容量と検出回路用の抵抗、容量との関係性のみで決まる。また、検出回路用の抵抗、容量は、既知の定数とできる。
よって、検出回路用CRの定数をR相とT相とで同じ値とし、かつ、第1及び第2の容量結合センサの結合容量の比率をR相及びT相の一方又は双方でGAIN調整すればR-T間の電圧位相を近似値として検知できる。
【0044】
上記の知見に基づいて、
図5に示すように、本実施形態の非接触電圧位相検出装置は、
図2に示した構成に加えて、
図1に示した装置本体に、補正回路を備えている。補正回路は、R相電源ライン10とR相の容量結合センサ210との容量結合部における第1の結合容量と、T相電源ライン20とT相の容量結合センサ220との容量結合部における第2の結合容量との容量比を1:1に近づけるように、第1及び第2の検出電圧を容量比の逆数の増幅比で増幅させる。例えば、容量比がX:Yの場合には、第1の検出電圧の増幅比:第2の検出電圧をY:Xの増幅比で増幅させる。
【0045】
本実施形態では、R相及びT相の容量結合センサ210及び220の静電結合容量の容量比を調べるため、補正回路により、三相交流電源の商用周波数とは異なる検出用の信号周波数の信号の信号を出力し、アース及びR相、T相の電源ライン10及び20を介して戻る信号電流を測定する。
【0046】
そのために、補正回路は、多相交流電源の周波数(50Hz又は60Hz)とは異なる信号周波数(例えば、500Hz~1kHz)を有する信号電流を、アースを介して、R相及びT相の電源ライン10及び20にそれぞれ出力する発振回路310と、R相の検出電圧を増幅又は減少させる第1の可変増幅器321と、T相の検出電圧を増幅又は減少させる第2の可変増幅器322と、R相の検出電圧の信号周波数の成分の電圧と、T相の検出電圧の信号周波数の成分の電圧とを比較する比較回路330と、比較回路330の比較結果に応じて、第1の検出電圧の信号周波数の成分の電圧と、第2の検出電圧の信号周波数の成分の電圧とが一致するように、第1及び第2の可変増幅器321及び322の一方又は双方の増幅率を補正する増幅率補正回路350とを備えている。
【0047】
これにより、上記の知見に基づき、R相及びT相の容量結合センサ210及び220の容量比そのものを直接調整するのではなく、後段の第1及び第2の可変増幅器321及び322の一方又は双方の増幅率を調整することによって、R-T検出電圧の位相誤差を補正する。
なお、信号周波数は、電源周波数と異なる周波数であれば特に限定されないが、電源周波数と分離して抽出できる程度に電源周波数から離れていることが好ましい。
【0048】
ところで、信号周波数の戻り信号の電圧は周囲の条件で変化する。このため、本実施形態では、信号総量(R相とT相の検出電圧の信号周波数の成分の電圧の和)に対する、差分(R相とT相の検出電圧の信号周波数の成分の電圧の差)の比率によって、容量比が一致しているか否かを判定する。
【0049】
そのために、補正回路は、第1の検出電圧と第2の検出電圧とを加算する加算回路340を更に備えている。
比較回路330は、加算回路340によって加算された第1及び第2の検出電圧の信号周波数の成分の電圧の和に対して、差動回路によって差分をとった第1の検出電圧と第2の検出電圧の信号周波数の成分の電圧の差の比率を比較結果として求める。増幅率補正回路350は、比率が所定値を超える場合に、R相及びT相の可変増幅器321及び322の一方又は双方の増幅率を補正する。
【0050】
以下、本実施形態の非接触電圧位相検出装置の動作例を説明する。
発振回路310は、三相交流電源の周波数(50Hz又は60Hz)とは異なる信号周波数を有する信号電流を、アンプ311で±40V程度に増幅し、装置本体100内に設置された銅板312から出力する。
出力された信号は、対地等と容量結合し、アース又はR相及びT相の電源ライン10及び20容量結合し、信号電流が流れる。
なお、信号電流は、アースを介さずに、出力回路を電源ラインと容量結合させて位相電流を流してもよい。
【0051】
R相及びT相の電源ライン10及び20を流れる信号電流は、R相及びT相の容量結合センサ210及び220を経由して、装置本体100(
図1参照)に戻ってくる。装置本体100内の第1及び第2の検出回路110及び120の検出用抵抗及びコンデンサによって、R相及びT相の信号電流は、それぞれR相及びT相の検出電圧に変換される。
【0052】
R相の検出電圧とT相の検出電圧が同レベルであれば、R相及びT相の容量結合センサの容量値が同レベルとみなせる。すなわち、R相の検出電圧とT相の検出電圧の差が0になれば、R相及びT相の容量結合センサの容量値が同レベルとみなせる。
【0053】
ところで、戻り信号の電圧は周囲の条件で変化する。その結果、例えば、R相とT相の検出電圧の信号周波数の成分の電圧の差分が同じ0.1mVの場合であっても、戻り信号周波数成分の総量が10mVならば、容量比がほぼ同レベルとみなせるが、R相の検出電圧とT相の検出電圧の和(総量)が0.2mVの場合は、容量比が同レベルとはみなせない。
【0054】
そこで、本実施形態では、容量値が一致しているか否かの判定にあたり、信号総量(R相とT相の検出電圧の成分の電圧の和)に対する、差分(R相とT相の検出電圧の信号周波数の成分の電圧の差)の比率によって、容量比が一致しているか否かを判定する。
【0055】
そのために、本実施形態では、差動アンプ130により、R相の検出電圧とT相の検出電圧との差分を求め、検波回路342で信号周波数成分のみを検出して、差分の信号周波数成分を直流電圧値に変換して比較回路330へ出力する。また、加算回路340によって、R相とT相の検出電圧の信号周波数の成分の電圧の和(総量)を求め、検波回路344により総量の信号周波数成分を直流電圧値に変換して比較回路330へ出力する。
【0056】
比較回路330では、加算回路340で算出した総量に対して、差動アンプ130で算出した差分の比率が所定値(例えば10%)以下であれば、R相とT相の容結合容量の容量比が一致していると判定する。一方、比率が所定値(例えば10%)を超えている場合には、容量比が一致していないと判定する。
【0057】
比較回路330で容量比が一致していないと判定した場合には、比較回路330から出力される比較結果としての容量比に応じて、増幅率補正回路350が、R相及びT相の可変増幅器(アンプ)321及び322の一方又は双方の増幅率(GAIN)を、トリガー発振回路360(13Hz)のトリガー周期で補正する。
例えば、R相側の信号強度が小さいときは、信号強度比が1:1になるように、即ち、R相及びT相の検出電圧の信号周波数成分の出力がほぼ一致するように、R相の可変増幅器の増幅率を増加させる。一方、R相側の信号強度が大きいときは、信号強度比が1:1に近付くように、R相の可変増幅器の増幅率を減少させる。
【0058】
これにより、R相及びT相の容量結合センサの容量を直接調整するのではなく、後段のR相及びT相の増幅器321及び322で、信号強度比が1:1に近付くように調整することによって、R-T間電圧の位相誤差を近似的に補正することができる。
【0059】
次に、
図7を参照して、本発明の第2実施形態を説明する。
図7は、第1の容量結合センサ210の部分拡大模式図である。
本実施形態の非接触電圧位相検出装置は、
図2に示した基礎構成に加えて、R相電源ライン10と第1の容量結合センサ210との容量結合部における第1の結合容量と、T相電源ラインと第2の容量結合センサ220の容量結合部における第2の結合容量とを一致させるように、第1の結合容量を調整する調整装置を備えている。ここでは、
図2に示した基礎構成の説明を省略する。
調整装置は、第1の検出電圧と第2の検出電圧とが一致するように、第1の容量結合センサ210の内部電極211とR相電源ライン10との距離を調整するアクチュエータ212を備えている。アクチュエータ212には、
図2に示す差動回路130の出力が入力され、入力電圧に応じて、アクチュエータが内部電極211を変位させる。その結果、フィードバッグがかかり、第1の検出電圧と第2の検出電圧が一致するように、内部電極211の位置が調整される。これにより、電源ラインの電圧波形を、位相誤差を低減して精度良く検出することができる。
【0060】
以上、本発明の漏洩電流検出装置及び対地漏洩電流検出方法の実施形態について説明したが、本発明に係る漏洩電流検出装置及び対地漏洩電流検出方法は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能である。
例えば、上述した実施形態では、三相電源のR-T間電圧の位相誤差を補正する例を説明したが、本発明では、三相電源以外にも適用することができる。
また、上述した実施形態では、2つの容量結合センサを用いた例を説明したが、本発明は、3つ以上の容量結合センサを用いる場合にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、対地漏洩電流の検出にあたり、特に漏洩電流の中に含まれる抵抗成分漏洩電流(Ior)の測定の他、電力計における有効電力、無効電力、力率の測定においても利用でき、また、検相器においても利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
10 R相電源ライン
20 T相電源ライン
100 装置本体
130 差動回路
140、141、142 ローパスフィルタ
143 切替スイッチ
152 クランプ回路
154 コンパレータ
156 アンプ
210 R相の容量結合センサ
211 内部電極
212 アクチュエータ
220 T相の容量結合センサ
310 発振回路
311 アンプ
312 銅板
321 第1の可変増幅器
322 第2の可変増幅器
330 比較回路
340 加算回路
341,343 バンドパスフィルタ(BPF)
342,344 検波回路
350 増幅率補正回路(デジタルポジションメータ)
500 漏洩電流検出装置
【要約】
【課題】電源ラインの電圧波形を、位相誤差を低減して精度良く検出できる非接触電圧位相検出装置の提供。
【解決手段】三相交流電源のR相及びT相の電源ライン10,20とそれぞれ容量結合するR相及びT相の容量結合センサと210,220と、R相及びT相の容量結合センサ210,220に流れる変位電流を第1及び第2の検出電圧にそれぞれ変換するR相及びT相の検出回路310,320と、第1及び第2の検出電圧の差分をとり、R-T間電圧波形を出力する差動回路130と、を備え、R相の電源ライン10とR相の容量結合センサ210との容量結合部におけるR相の結合容量と、第T相の電源ライン20とT相の容量結合センサ220との容量結合部におけるT相の結合容量との容量比を1:1に近づけるように、R相及びT相の検出電圧を容量比の逆数の増幅比で増幅させる補正回路を備える。
【選択図】
図5