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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】冗長システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
G08G1/16 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022566601
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2020045205
(87)【国際公開番号】W WO2022118459
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 泰久
(72)【発明者】
【氏名】武田 文紀
(72)【発明者】
【氏名】網代 圭悟
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-97352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律的に走行可能な車両に搭載され、少なくとも第1電源系統及び前記第1電源系統とは異なる第2電源系統を有する冗長システムであって、
前記車両を自律的に走行させるための処理を実行する運転制御用メイン制御装置と、
前記運転制御用メイン制御装置に関する異常が検知された場合、前記運転制御用メイン制御装置の代わりとして用いられる運転制御用サブ制御装置と、
前記車両の周囲の情報を検出し、検出結果を前記運転制御用メイン制御装置及び前記運転制御用サブ制御装置に出力するセンサを備え、
前記運転制御用メイン制御装置は、前記第1電源系統に接続され、前記第2電源系統に接続されておらず、
前記運転制御用サブ制御装置及び前記センサは、前記第2電源系統に接続され、前記第1電源系統に接続されていない
冗長システム。
【請求項2】
請求項1に記載の冗長システムであって、
前記運転制御用メイン制御装置を含むメイン制御系に関する異常を検知する検知用制御装置を備え、
前記メイン制御系に関する異常は、前記運転制御用メイン制御装置に関する異常、前記第1電源系統の異常、及び前記センサに関する異常のうち少なくともいずれか一つを含む
冗長システム。
【請求項3】
請求項2に記載の冗長システムであって、
前記センサは、前記車両の周囲の情報として、前記車両が走行する車線と前記車線以外との境界である車線境界線を検出し、
前記運転制御用サブ制御装置は、前記検知用制御装置が前記メイン制御系に関する異常を検知する前後で、前記車両と前記車線境界線との相対的な位置関係を維持するための処理を実行する
冗長システム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の冗長システムであって、
前記センサは、前記車両の周囲の情報として、前記車両が走行する車線と同一車線で前記車両の前方を走行する先行車両を検出し、
前記運転制御用サブ制御装置は、前記検知用制御装置が前記メイン制御系に関する異常を検知する前後で、前記車両と前記先行車両との相対的な位置関係を維持するための処理を実行する
冗長システム。
【請求項5】
請求項2~4のいずれかに記載の冗長システムであって、
前記運転制御用メイン制御装置は、
前記運転制御用メイン制御装置による過去の演算結果を記憶する記憶装置を有し、
前記検知用制御装置が前記センサに関する異常を検知した場合、前記記憶装置に記憶された前記演算結果に基づいて、前記車両が走行する車線上での前記車両の位置を推定する
冗長システム。
【請求項6】
請求項2~5のいずれかに記載の冗長システムであって、
前記第1電源系統と前記第2電源系統を導通又は遮断する切換装置を備え、
前記運転制御用サブ制御装置は、前記検知用制御装置が前記第1電源系統の異常を検知した場合、前記切換装置を制御することで前記第1電源系統と前記第2電源系統の間を遮断させる
冗長システム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の冗長システムであって、
前記運転制御用メイン制御装置又は前記運転制御用サブ制御装置から入力される目標操舵値に基づき、前記車両のステアリングを制御する操舵制御用メイン制御装置と、
前記操舵制御用メイン制御装置に関する異常が検知された場合、前記操舵制御用メイン制御装置の代わりとして用いられる操舵制御用サブ制御装置を備え、
前記操舵制御用メイン制御装置は、前記第2電源系統に接続され、前記第1電源系統に接続されておらず、
前記操舵制御用サブ制御装置は、前記第1電源系統に接続され、前記第2電源系統に接続されていない
冗長システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか記載の冗長システムであって、
前記第1電源系統の状態を監視する第1監視装置を備え、
前記運転制御用メイン制御装置は、前記第1監視装置が前記第1電源系統に電力が供給されていると判定した場合、前記車両を自律的に走行させるための前記処理を開始する
冗長システム。
【請求項9】
請求項8に記載の冗長システムであって、
前記第2電源系統の状態を監視する第2監視装置を備え、
前記運転制御用メイン制御装置は、前記第1監視装置が前記第1電源系統には電力が供給されていないと判定し、かつ、前記第2監視装置が前記第2電源系統には電力が供給されていないと判定するまで、前記車両を自律的に走行させるための前記処理を実行する
冗長システム。
【請求項10】
自律的に走行可能な車両に搭載され、少なくとも第1電源系統及び前記第1電源系統とは異なる第2電源系統を有する冗長システムであって、
前記車両を自律的に走行させるための処理を実行する運転制御用メイン制御装置と、
前記運転制御用メイン制御装置に関する異常が検知された場合、前記運転制御用メイン制御装置の代わりとして用いられる運転制御用サブ制御装置と、
前記運転制御用メイン制御装置又は前記運転制御用サブ制御装置から入力される目標操舵値に基づき、前記車両のステアリングを制御する操舵制御用メイン制御装置と、
前記操舵制御用メイン制御装置に関する異常が検知された場合、前記操舵制御用メイン制御装置の代わりとして用いられる操舵制御用サブ制御装置を備え、
前記運転制御用メイン制御装置及び前記操舵制御用サブ制御装置は、前記第1電源系統に接続され、前記第2電源系統に接続されておらず、
前記運転制御用サブ制御装置及び前記操舵制御用メイン制御装置は、前記第2電源系統に接続され、前記第1電源系統に接続されていない
冗長システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律走行可能な車両に搭載される冗長システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転支援システムを備える自動車両に関して、いわゆる「条件付き自動化」システムのためのアーキテクチャが知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載のアーキテクチャは、メインコンピュータと、メインコンピュータに関連する障害が発生した場合、メインコンピュータの代わりとして用いられるバックアップコンピュータと、メインコンピュータ及びバックアップコンピュータに給電する主電源を備える。また特許文献1に記載のアーキテクチャには、主電源の代わりとして用いられるバックアップ電源が設けられ、バックアップ電源は、メインコンピュータ及びバックアップコンピュータに接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2018-504309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のアーキテクチャでは、メインコンピュータ及びバックアップコンピュータのそれぞれが主電源及びバックアップ電源という複数の異なる電源に接続されるため、コンピュータと電源の間の接続関係が複雑になり、システムの設計規模が増大する、という問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、システムの設計規模を縮小できる冗長システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、自律的な走行が可能な車両に搭載され、少なくとも第1電源系統及び第2電源系統を有する冗長システムであって、運転制御用メイン制御装置と、運転制御用サブ制御装置を備える。運転制御用メイン制御装置は、車両を自律的に走行させるための処理を実行する。運転制御用サブ制御装置は、運転制御用メイン制御装置に関する異常が検知された場合、運転制御用メイン制御装置の代わりとして用いられる運転制御用メイン制御装置は、第1電源系統に接続され、第2電源系統に接続されておらず、運転制御用サブ制御装置は、第2電源系統に接続され、第1電源系統に接続されていないことで、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、運転制御用メイン制御装置は、第1電源系統に接続され、第2電源系統に接続されておらず、運転制御用サブ制御装置は、第2電源系統に接続され、第1電源系統に接続されていないため、制御装置と電源系統との間の接続関係を簡易化することができ、システムの設計規模を縮小することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る冗長システムの電源系統図である。
図2】本実施形態に係る冗長システムのブロック図である。
図3】メイン制御系に異常が発生していない場合の動作を示す説明図である。
図4】運転制御用メインECUに異常が発生した場合の動作を示す説明図である。
図5】第1電源系統に異常が発生した場合の動作を示す説明図である。
図6】センサに異常が発生した場合の動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以降の説明において、「第1」、「第2」という表現は、識別を目的とした表現であって、「第1」の表現を含む名称の装置が「第2」の表現を含む名称の装置よりも優先される、反対に「第2」の表現を含む名称の装置が「第1」の表現を含む名称の装置よりも優先される等、優劣の規定を目的とした表現ではない。
【0010】
図1は、電気自動車に搭載された、本実施形態に係る冗長システム100の電源系統図である。本実施形態では、冗長システム100を電気自動車に搭載した場合を例に挙げて説明するが、冗長システム100は車両に搭載されたシステムであればよく、車両の駆動源は特に限定されない。例えば、冗長システム100は、ハイブリッド自動車やガソリン自動車に搭載されてもよい。
【0011】
本実施形態に係る電気自動車は、自律走行制御機能を備えており、運転支援レベルに応じた自動運転モードによって走行することができる。運転支援レベルとは、運転支援装置が自律走行制御機能によって車両の運転を支援する際の介入の程度を示すレベルである。運転支援レベルが高くなるほど、車両の運転に対するドライバの寄与度は低くなる。具体的には、運転支援レベルは、米国自動車技術会(SAE:Society of Automotive Engineers)のSAE J3016に基づく定義等を用いて設定することができる。本実施形態では、運転支援装置が実現する運転支援レベルを運転支援レベル3として説明する。運転支援レベル3では、システムが全ての運転タスクを実行するが、ドライバは、システムから要求があった場合に、運転の制御を取り戻し、手動により運転する準備をする必要がある。また運転支援レベル3では、システムに異常が発生した場合であっても、異常が発生していない残されたシステムで自律走行を継続する冗長機能が求められる。冗長機能を有するシステム(以降、冗長システムという)としては、例えば、完全冗長システムが挙げられる。完全冗長システムでは、車両の自律走行に必要な装置、例えば、運転支援装置、駆動制御装置、及びセンサは、通常用とバックアップ用が設けられる。完全冗長システムの場合、車両に搭載する装置数が増えるため、車両のコストに影響を与える。また、装置が車両内のスペースを占有する割合が増えるため、車両内部のレイアウトにも影響を与える。完全冗長システムにおける上記問題点に鑑み、本実施形態に係る冗長システム100では、以降に説明する構成によって、動作安全性能を損なうことなく、コストを低減し、またレイアウトの自由度を高めることができる。
【0012】
図1を用いて、電気自動車の電源系統について説明する。電気自動車は、駆動源として駆動用バッテリ1を備えている。図1に示すように、駆動用バッテリ1は、DCDCコンバータ2を介して、第1電源系統3及び第2電源系統4と接続されている。
【0013】
DCDCコンバータ2には、駆動用バッテリ1の電圧が入力される。DCDCコンバータ2は、駆動用バッテリ1の電圧を降圧するコンバータである。DCDCコンバータ2により降圧された電圧は、第1電源系統3に接続される第1バッテリ5と、第2電源系統4に接続される第2バッテリ6に出力される。第1バッテリ5及び第2バッテリ6は、駆動用バッテリ1からの電力により充電される。
【0014】
本実施形態の冗長システム100は、第1電源系統3及び第2電源系統4を有する。第1電源系統3及び第2電源系統4のそれぞれは、互いに異なる単一の電源で構成された電源系統である。以降の説明では、第1電源系統3の電圧と第2電源系統4の電圧が同一電圧として説明するが、第1電源系統3の電圧と第2電源系統4の電圧は異なる電圧であってもよい。また、冗長システム100が有する電源系統の数は少なくとも2つあればよく、冗長システム100は、第1電源系統3及び第2電源系統4の他、その他の電源系統を有していてもよい。
【0015】
第1電源系統3は、第1バッテリ5を電源として構成された電源系統である。第1電源系統3には、第1バッテリ5及び第1車載機器群8が接続されている。第1車載機器群8は、第1電源系統3に接続されており、第2電源系統4に接続されていない。第1電源系統3は、第1バッテリ5と第1車載機器群8を接続する配線(第1電源系統の電源供給ラインともいう)含む。
【0016】
第1バッテリ5は、第1車載機器群8に電力を供給する蓄電池である。第1バッテリ5としては、例えば、12Vの電圧を出力可能な鉛蓄電池が挙げられるが、第1バッテリ5はその他の蓄電池であってもよい。第1車載機器群8については後述する。
【0017】
第2電源系統4は、第2バッテリ6を電源に構成された電源系統である。第2電源系統4は、第1電源系統3とは異なる電源系統である。第2電源系統4には、第2バッテリ6及び第2車載機器群9が接続されている。第2車載機器群9は、第2電源系統4に接続されており、第1電源系統3に接続されていない。第2電源系統4は、第2バッテリ6と第2車載機器群9を接続する配線(第2電源系統の電源供給ラインともいう)含む。
【0018】
第2バッテリ6は、第2車載機器群9に電力を供給する蓄電池である。第2バッテリ6としては、例えば、12Vの電圧を出力可能なリチウムイオン電池が挙げられるが、第2バッテリ6はその他の蓄電池であってもよい。第2車載機器群9については後述する。
【0019】
また本実施形態では、第1電源系統3と第2電源系統4は、切換装置7を介して接続されている。切換装置7は、第1電源系統3と第2電源系統4の間を導通又は遮断する装置である。切換装置7は、後述する第1電源監視用ECU14又は第2電源監視用ECU24から入力される制御信号に応じて動作する。切換装置7は、制御信号が入力された場合、第1電源系統3と第2電源系統4の間を遮断させる。一方、切換装置7は、制御信号が入力されない場合、第1電源系統3と第2電源系統4の間を導通させる。切換装置7としては、例えば、半導体スイッチが挙げられる。なお、切換装置7は、半導体スイッチに限られず、第1電源系統3の電源供給ラインと第2電源系統4の電源供給ラインを電気的に接続及び遮断可能な装置であればよい。
【0020】
次に、図2を用いて冗長システム100の構成について説明する。図2は、本実施形態に係る冗長システム100のブロック図である。図2に示すように、冗長システム100は、メイン制御系として、センサ10と、運転制御用メインECU11と、制動制御用メインECU12と、操舵制御用メインECU13を備える。ECUとは、Electronic Control Unitの略称である。以降の説明では、センサ10、運転制御用メインECU11、制動制御用メインECU12、及び操舵制御用メインECU13を含む制御系をメイン制御系と称して説明する。なお、メイン制御系を構成するECUの数は限定されず、メイン制御系には、図2に示すECU以外のECUが含まれていてもよい。
【0021】
また、冗長システム100は、サブ制御系として、運転制御用サブECU21、制動制御用サブECU22、操舵制御用サブECU23を備える。以降の説明では、運転制御用サブECU21、制動制御用サブECU22、及び操舵制御用サブECU23を含む制御系をサブ制御系と称して説明する。サブ制御系は、少なくとも運転制御用サブECU21を含むものとする。なお、サブ制御系を構成するECUの数は限定されず、サブ制御系には、図2に示すECU以外のECUが含まれていてもよい。
【0022】
さらに、冗長システム100は、第1電源系統3の電圧を監視する第1電源監視用ECU14と、第2電源系統4の電圧を監視する第2電源監視用ECU24を備える。加えて、冗長システム100は、センサ10、検知用ECU31、及び選択用ECU32を備える。
【0023】
図2に示す各装置は、相互に情報の送受信を行うために、例えばCAN(Controller Area Network)その他の車載ネットワーク(イーサネットなど)によって接続されている。なお、冗長システム100において、車載ネットワークの種別は特に限定されない。また、図2では、各装置の接続関係を実線で示しているが、各装置は実線で示されていない箇所においても接続されており、相互に情報の送受信が可能なものとする。
【0024】
センサ10は、第2バッテリ6の電力で動作し、車両の周囲情報を検出するセンサである。センサ10を構成するセンサの種類及びその個数は特に限定されない。例えば、センサ10は、一種類又は複数種類のセンサで構成されてもよい。またセンサ10は、同一種類のセンサが一つ又は複数で構成されてもよい。さらにセンサ10は、複数種類のセンサが複数で構成されてもよい。センサ10が複数種類のセンサ、同一種類の複数のセンサ又はこれらの組み合わせで構成される場合、以降の説明では、「センサ10」を「センサ群10」と置き換えることができる。
【0025】
本実施形態では、センサ10は、車両の前方を撮像する前方カメラ、電波により車両から車両前方の先行車両や障害物までの距離を検出する前方レーダ、及びレーザ光により車両から車両前方の先行車両や障害物までの距離を検出する前方Lidarのうち少なくとも何れか一つを含む。センサ10は、少なくとも車両の前方に設けられた上記センサを含んでいればよい。例えば、センサ10は、車両の前方に設けられたセンサの他に、車両の側方に設けられたセンサ(側方カメラ、側方レーダ、側方Lidar)や車両の後方に設けられたセンサ(後方カメラ、後方レーダ、後方Lidar)を含んでいてもよい。センサ10により検出された車両の周囲情報は、車線境界線や道路形状などの道路に関する情報、信号や道路標識などの交通規則に関する情報、先行車両や対向車、自転車、歩行者などの車両の走行の障害になるものに関する情報を含む。車両の周囲情報は、所定の時間間隔で、運転制御用メインECU11及び運転制御用サブECU21に出力される。
【0026】
図2に示す複数の装置のうちECUの名称を有する装置は、それぞれの制御を実行するためのプログラムを格納したROM(Read Only Memory)と、このROMに格納されたCPU(Central Processing Unit)と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)とから構成される。各ECUは、いわゆるコンピュータであり、以降の説明において、各ECUの名称のうち「ECU」の部分を、「制御装置」、「コントローラ」、「コントロールユニット」、又は「プロセッサ」と読み替えてもよい。運転制御用メインECU11を例に挙げると、「運転制御用メインECU11」という表現は、「運転制御用メイン制御装置11」、「運転制御用メインコントローラ11」、「運転制御用メインコントロールユニット11」、又は「運転制御用メインプロセッサ11」という表現と同義とする。その他のECUについては、運転制御用メインECU11を用いた説明と同様のため、その説明を援用する。
【0027】
運転制御用メインECU11は、第1バッテリ5の電力で動作し、自律運転制御機能を備えるメインコンピュータである。運転制御用メインECU11は、自律的に走行する車両を運転する主体である。運転制御用メインECU11が備える自律運転制御機能は、例えば、車線中央付近を走行するようにステアリングを制御する車線中央維持機能、同一車線を走行するように横位置を制御するレーンキープ機能、走行中の車線から他の車線へ移動する車線変更支援機能、前方の他車両の横(隣接車線)を通過して前方へ移動する追い越し支援機能、目的地に至るルートを辿るために自律的に車線を変更するルート走行支援機能、及び同一車線上で自車両の前方を走行する先行車両と自車両との車間距離を所定の距離に維持しながら走行する先行車両追従機能などを含む。
【0028】
運転制御用メインECU11には、センサ10の検出結果が入力される。運転制御用メインECU11は、自律運転制御機能により、センサ10の検出結果に基づき、車両を所定の目標軌道に沿って走行させるための処理を実行する。なお、所定の目標軌道は、運転制御用メインECU11により演算された目標軌道であってもよいし、図示されていないその他のECUにより演算された目標軌道であってもよい。
【0029】
例えば、運転制御用メインECU11は、自律運転制御機能により、センサ10の検出結果に基づき、車両の横位置を演算し、車線と車線境界線との相対的な位置関係を把握する。車両の横位置とは、車両の左右に存在する車線境界線に対する車両の相対的な位置であって、車両の進行方向と直交する方向に沿った車両の位置である。運転制御用メインECU11は、車両の横位置に基づき、同一車線を走行するための目標制動値及び目標操舵値を演算する。同一車線とは、車両が走行中の車線と同一であることを意味する。車線境界線とは、車両が走行する車線と当該車線以外とを区別する境界である。車線境界線の形態は特に限定されず、車線境界線は、路面上の白線、ガードレール、縁石、及び中央分離帯を含む。
【0030】
また例えば、運転制御用メインECU11は、自律運転制御機能により、センサ10の検出結果に基づき、車両の縦位置を演算し、車両と先行車両との相対的な位置関係を把握する。車両の縦位置とは、同一車線上の先行車両に対する車両の相対的な位置であって、車両の進行方向に沿った車両の位置である。運転制御用メインECU11は、車両の縦位置に基づき、先行車両との車間距離を所定の距離に維持するための目標制動値及び目標操舵値を演算する。運転制御用メインECU11により演算された目標制動値及び目標操舵値は、選択用ECU32に出力される。なお、本実施形態において、先行車両とは、同一車線で車両の前方を走行する車両である。
【0031】
また運転制御用メインECU11は、運転制御用メインECU11による過去の演算結果を記憶するための記憶装置11aを備えている。記憶装置11aに記憶された過去の演算結果が使用される場面については後述する。記憶装置11aとしては、揮発性の記憶媒体であるRAM、ROM、HDD(Hard Disk Drive)や、不揮発性の記憶媒体であるフラッシュメモリ(Flash Memory)などが挙げられる。記憶装置11aの種別は、特に限定されない。運転制御用メインECU11は、車両の横位置、車両の縦位置、目標制動値、目標操舵値などを演算結果として所定の周期で記憶装置11aに記憶させる。
【0032】
制動制御用メインECU12は、第1バッテリ5の電力で動作し、自律制動制御機能を備えるメインコンピュータである。制動制御用メインECU12には、選択用ECU32を介して、運転制御用メインECU11又は運転制御用サブECU21から目標制動値が入力される。制動制御用メインECU12は、目標制動値に基づきブレーキアクチュエータの動作を制御することで、車両のブレーキを制御する。なお、制動制御用メインECU12は、車両の加減速及び車速を調整するための駆動機構の動作(電気自動車の場合、走行用モータの動作)を制御する機能を備えていてもよい。
【0033】
操舵制御用メインECU13は、第2バッテリ6の電力で動作し、自律操舵制御機能を備えるメインコンピュータである。操舵制御用メインECU13には、選択用ECU32を介して、運転制御用メインECU11又は運転制御用サブECU21から目標操舵値が入力される。操舵制御用メインECU13は、目標操舵値に基づきステアリングアクチュエータの動作を制御することで、車両の操舵を制御する。
【0034】
第1電源監視用ECU14は、第1電源系統3に電力が供給されていることを監視するためのコンピュータである。具体的には、第1電源監視用ECU14は、第1電源系統3に接続される電圧センサ(図示しない)の検出結果に基づき、第1バッテリ5の出力電圧を監視する。第1バッテリ5の出力電圧とは、第1電源系統3の電源供給ラインの電圧である。
【0035】
第1電源監視用ECU14は、第1電源系統3の電源供給ラインの電圧が所定の範囲内の場合、第1電源系統3が正常であることを示す信号を運転制御用メインECU11及び運転制御用サブECU21に出力する。一方、第1電源監視用ECU14は、第1電源系統3の電源供給ラインの電圧が所定の範囲外の場合、第1電源系統3に異常が発生したことを示す信号を運転制御用メインECU11、運転制御用サブECU21、及び検知用ECU31に出力する。第1電源系統3の電源供給ラインの電圧が所定の範囲外となる場合は、第1電源系統3と接続するDCDCコンバータ2の出力端子又は第1電源系統3の電源供給ラインを構成するワイヤーハーネスがグランドとショートした場合(Short Fail)、DCDCコンバータ2の出力端子と第1電源系統3との間が電気的に遮断された場合(Open Fail)、DCDCコンバータ2の出力電圧が所定の範囲外となる場合を含む。なお、所定の範囲とは、第1バッテリ5の電圧や車両の動作安全性に関する規定に基づき設定された範囲である。
【0036】
運転制御用サブECU21は、第2バッテリ6の電力で動作し、自律運転制御機能を備えるサブコンピュータである。運転制御用サブECU21は、検知用ECU31によって運転制御用メインECU11に関する異常が検知された場合、運転制御用メインECU11の代わりとして用いられるバックアップ用のECUである。運転制御用サブECU21は、検知用ECU31によって運転制御用メインECU11に関する異常が検知された場合、ドライバに運転の制御を取り戻すよう要求してから、ドライバが運転の制御を取り戻すまでの間、運転制御用メインECU11の代わりに、車両を運転する主体になる。運転制御用サブECU21が備える自律運転制御機能は、運転制御用メインECU11が備える自律運転制御機能と完全同一又は同程度であってもよいし、運転制御用メインECU11が備える自律運転制御機能の一部であってもよい。なお、運転制御用メインECU11と運転制御用サブECU21は、互いに影響を受けることなく独立して動作する。
【0037】
運転制御用サブECU21には、センサ10の検出結果が入力される。運転制御用サブECU21は、センサ10の検出結果に基づき、車両を自律的に走行させるための処理を実行する。例えば、運転制御用サブECU21は、自律運転制御機能により、後述する検知用ECU31がメイン制御系に関する異常を検知する前後で、車両と車線境界線との相対的な位置関係を維持するための処理を実行する。運転制御用サブECU21は、センサ10の検出結果に基づき、車両の横位置を演算し、車両と車線境界線との相対的な位置関係を把握する。運転制御用サブECU21は、車両の横位置に基づき、同一車線を走行するための目標制動値及び目標操舵値を演算する。
【0038】
また例えば、運転制御用サブECU21は、自律運転制御機能により、後述する検知用ECU31がメイン制御系に関する異常を検知する前後で、車両と先行車両との相対的な位置関係を維持するための処理を実行する。運転制御用サブECU21は、センサ10の検出結果に基づき、車両の縦位置を演算し、車両と先行車両との相対的な位置関係を把握する。運転制御用サブECU21は、車両の縦位置に基づき、先行車両との車間距離が所定の距離を維持するための目標制動値及び目標操舵値を演算する。運転制御用サブECU21により演算された目標制動値及び目標操舵値は、選択用ECU32に出力される。
【0039】
制動制御用サブECU22は、第2バッテリ6の電力で動作し、自律制動制御機能を備えるサブコンピュータである。制動制御用サブECU22は、検知用ECU31によって制動制御用メインECU12に関する異常が検知された場合、制動制御用メインECU12の代わりとして用いられるバックアップ用のECUである。
【0040】
制動制御用サブECU22には、選択用ECU32を介して、運転制御用メインECU11又は運転制御用サブECU21から目標制動値が入力される。制動制御用サブECU22は、自律制動制御機能により、目標制動値に基づきブレーキアクチュエータを制御する。制動制御用サブECU22が備える自律制動制御機能は、制動制御用メインECU12が備える自律制動制御機能と完全同一であることが好ましい。
【0041】
操舵制御用サブECU23は、第1バッテリ5の電力で動作し、自律操舵制御機能を備えるサブコンピュータである。操舵制御用サブECU23は、検知用ECU31によって操舵制御用メインECU13に関する異常が検知された場合、操舵制御用メインECU13の代わりとして用いられるバックアップ用のECUである。
【0042】
操舵制御用サブECU23には、選択用ECU32を介して、運転制御用メインECU11又は運転制御用サブECU21から目標操舵値が入力される。操舵制御用サブECU23は、自律操舵制御機能により、目標操舵値に基づきステアリングアクチュエータを制御する。操舵制御用サブECU23が備える自律操舵制御機能は、操舵制御用メインECU13が備える自律操舵制御機能と完全同一であることが好ましい。
【0043】
第2電源監視用ECU24は、第2電源系統4に電力が供給されていることを監視するためのコンピュータである。具体的には、第2電源監視用ECU24は、第2電源系統4に接続される電圧センサ(図示しない)の検出結果に基づき、第2バッテリ6の出力電圧を監視する。第2バッテリ6の出力電圧とは、第2電源系統4の電源供給ラインの電圧である。
【0044】
第2電源監視用ECU24は、第2電源系統4の電圧が所定の範囲内の場合、第2電源系統4が正常であることを示す信号を運転制御用メインECU11及び運転制御用サブECU21に出力する。一方、第2電源監視用ECU24は、第2電源系統4の電圧が所定の範囲外の場合、第2電源系統4に異常が発生したことを示す信号を運転制御用メインECU11、運転制御用サブECU21、及び検知用ECU31に出力する。第2電源系統4の電圧が所定の範囲外となる場合の説明は、第1電源監視用ECU14で説明した内容に対して、「第1電源系統3」を「第2電源系統4」と置き換えることができるため、その説明を援用する。
【0045】
検知用ECU31は、第2バッテリ6の電力で動作し、メイン制御系に関する異常を検知するためのコンピュータである。メイン制御系に関する異常は、センサ10に関する異常、運転制御用メインECU11に関する異常、制動制御用メインECU12に関する異常、及び操舵制御用メインECU13に関する異常を含む。
【0046】
センサ10に関する異常は、センサ10の異常、センサ10に接続される車載ネットワークの異常、及び第2電源系統4の異常を含む。運転制御用メインECU11に関する異常は、運転制御用メインECU11の異常、当該ECUに接続される車載ネットワークの異常、及び第1電源系統3の異常を含む。制動制御用メインECU12に関する異常は、制動制御用メインECU12の異常、当該ECUに接続される車載ネットワークの異常、及び第1電源系統3の異常を含む。操舵制御用メインECU13に関する異常は、操舵制御用メインECU13の異常、当該ECUに接続される車載ネットワークの異常、及び第2電源系統4の異常を含む。なお、車載ネットワークの異常は、通信不良、及びネットワークの物理的な接続不良を含む。
【0047】
検知用ECU31は、運転制御用メインECU11から、運転制御用メインECU11、制動制御用メインECU12、及び操舵制御用メインECU13のうち少なくとも何れか一つのECUの異常を示す信号又はこれらのECUと接続される車載ネットワークの異常を示す信号によりメイン制御系に異常が発生したと判定する。また、検知用ECU31は、第1電源監視用ECU14から、第1電源系統3の異常を示す信号が入力された場合、又は第2電源監視用ECU24から、第2電源系統4の異常を示す信号が入力された場合、メイン制御系に異常が発生したと判定する。また、検知用ECU31は、センサ10から、センサ10の異常を示す信号又はセンサ10に接続される車載ネットワークの異常を示す信号が入力された場合、メイン制御に異常が発生したと判定する。検知用ECU31は、メイン制御系に異常が発生したと判定した場合、メイン制御系によって車両の運転制御を継続することが困難又は不可能であることを示す信号を選択用ECU32に出力する。また検知用ECU31は、選択用ECU32が異常の種別を判別可能な信号を選択用ECU32に出力する。
【0048】
一方、検知用ECU31は、運転制御用メインECU11、第1電源監視用ECU14、第2電源監視用ECU24、及びセンサ10から上記信号が入力されない場合、メイン制御系に異常は発生していないと判定する。
【0049】
選択用ECU32は、動作対象のECUを選択するためのコンピュータである。また選択用ECU32は、動作対象のECUに転送する目標制動値及び目標操舵値を選択するためのコンピュータである。選択用ECU32は、検知用ECU31から入力された信号に基づき、動作対象の制動制御用ECUを選択し、動作対象の操舵制御用ECUを選択する。さらに選択用ECU32は、検知用ECU31から入力された信号に基づき、動作対象の制動制御用ECUに転送する目標制動値を選択し、動作対象の操舵制御用ECUに転送する目標操舵値を選択する。一方、選択用ECU32は、検知用ECU31から信号が入力されない場合、運転制御用メインECU11により演算された目標制動値を制動制御用メインECU12に転送し、運転制御用メインECU11により演算された目標操舵値を操舵制御用メインECU13に転送する。選択用ECU32の動作については、後述する。
【0050】
次に、図3図6を用いて、メイン制御系に異常が発生していない場合の冗長システム100の動作と、メイン制御系に異常が発生した場合の冗長システム100の動作を説明する。図3図6において、図2に示す装置に対応する装置は、図2に示す符号と同様の符号を付している。
【0051】
図3は、メイン制御系に異常が発生していない場合の冗長システム100の動作を示す説明図である。図3に示すように、運転制御用メインECU11及び運転制御用サブECU21には、センサ10から周囲情報が入力される。
【0052】
運転制御用メインECU11は、センサ10の検出結果に基づき、車両の横位置及び縦位置を演算し、演算した車両の横位置及び縦位置に基づき、目標制動値及び目標操舵値を演算する。また運転制御用メインECU11は、演算結果を記憶装置11aに記憶させる。運転制御用メインECU11は、目標制動値及び目標操舵値を選択用ECU32に出力する。
【0053】
運転制御用サブECU21は、センサ10の検出結果に基づき、車両の横位置及び縦位置を演算し、演算した車両の横位置及び縦位置に基づき、目標制動値及び目標操舵値を演算する。運転制御用サブECU21は、目標制動値及び目標操舵値を選択用ECU32に出力する。
【0054】
検知用ECU31からメイン制御系に異常が発生したことを示す信号が出力されていないため、選択用ECU32は、運転制御用メインECU11により演算された目標制動値を制動制御用メインECU12に転送し、運転制御用メインECU11により演算された目標操舵値を操舵制御用メインECU13に転送する。制動制御用メインECU12は、入力される目標制動値に基づきブレーキアクチュエータを制御する。また操舵制御用メインECU13は、入力される目標操舵値に基づきステアリングアクチュエータを制御する。
【0055】
図3に示す冗長システム100の動作は所定の周期ごとに実行される。これにより、車両は所定の目標軌道に沿って自律的に走行することができ、運転支援レベル3に応じた自動運転を実現することができる。
【0056】
図4は、運転制御用メインECU11に異常が発生した場合の冗長システム100の動作を説明する説明図である。運転制御用メインECU11に何らかの異常が発生した場合、運転制御用メインECU11は、自己診断機能により、運転制御用メインECU11の異常を示す信号を検知用ECU31に出力する。検知用ECU31は、メイン制御系に異常が発生したことを示す信号を選択用ECU32に出力する。このとき、運転制御用メインECU11は、メイン制御系に異常が発生したことをドライバに報知するとともに、ドライバに運転の制御を取り戻すよう要求する(テイクオーバーリクエストともいう)。例えば、運転制御用メインECU11は、インストルメントパネルの所定の位置に警告灯を表示させることで、ドライバに対してテイクオーバーリクエストを行う。
【0057】
運転制御用サブECU21は、センサ10の検出結果に基づき、車両の横位置及び縦位置を演算し、演算した車両の横位置及び縦位置に基づき、目標制動値及び目標操舵値を演算する。運転制御用サブECU21は、目標制動値及び目標操舵値を選択用ECU32に出力する。運転制御用サブECU21により演算された目標制動値及び目標操舵値は、ドライバにテイクオーバーリクエストを行ってからドライバが運転の制御を取り戻すまでの間、車両が車線から逸脱しないための目標制動値及び目標操舵値である。また同一車線上に先行車両が存在する場合、運転制御用サブECU21により演算された目標制動値及び目標操舵値は、ドライバにテイクオーバーリクエストを行ってからドライバが運転の制御を取り戻すまでの間、車両と先行車両との車間距離を所定の距離に維持するための目標制動値及び目標操舵値である。
【0058】
選択用ECU32は、検知用ECU31から入力された信号が運転制御用メインECU11の異常を示す信号の場合、動作対象の制動制御用ECUとして制動制御用メインECU12を選択するとともに、動作対象の操舵制御用ECUとして操舵制御用メインECU13を選択する。また選択用ECU32は、運転制御用サブECU21により演算された目標制動値を制動制御用メインECU12に転送するとともに、運転制御用サブECU21により演算された目標操舵値を操舵制御用メインECU13に転送する。制動制御用メインECU12は、入力された目標制動値に基づきブレーキアクチュエータを制御する。また操舵制御用メインECU13は、入力された目標操舵値に基づきステアリングアクチュエータを制御する。
【0059】
なお、図4に示す冗長システム100の動作は、運転制御用メインECU11に異常が発生した場合だけでなく、運転制御用メインECU11に接続される車載ネットワークに異常が発生した場合にも用いることができる。この場合、検知用ECU31には、運転制御用メインECU11から、運転制御用メインECU11に接続される車載ネットワークに異常が発生したことを示す信号が入力される。
【0060】
図5は、第1電源系統3に異常が発生した場合の冗長システム100の動作を説明する説明図である。第1電源系統3に異常が発生した場合、第1バッテリ5の電力で駆動する運転制御用メインECU11、制動制御用メインECU12、及び操舵制御用サブECU23は正常に動作できないものとして説明する。すなわち、第1電源系統3に異常が発生した場合、運転制御用メインECU11、制動制御用メインECU12、及び操舵制御用サブECU23のそれぞれは、異常が発生した場合と同様の状態となる。
【0061】
第1電源系統3に何らかの異常が発生した場合、第1電源監視用ECU14は、第1電源系統3の異常を示す信号を検知用ECU31に出力する。検知用ECU31は、メイン制御系に異常が発生したことを示す信号を選択用ECU32に出力する。このとき、運転制御用メインECU11に代わり、運転制御用サブECU21がドライバに対してテイクオーバーリクエストを行う。なお、運転制御用メインECU11が動作可能な場合、運転制御用メインECU11がドライバに対してテイクオーバーリクエストを行ってもよい。
【0062】
また第1電源監視用ECU14は、第1電源系統3に異常が発生した場合、切換装置7に制御信号を出力する。切換装置7は、第1電源監視用ECU14から制御信号が入力された場合、第1電源系統3と第2電源系統4との間を遮断させる。
【0063】
第1電源系統3と第2電源系統4の間が切換装置7によって遮断されると、第1バッテリ5は、充電残量に応じた電力を第1車載機器群8に供給し、第2バッテリ6は、充電残量に応じた電力を第2車載機器群9に供給する。これにより、ドライバにテイクオーバーリクエストを行ってからドライバが運転の制御を取り戻すまでの間、車両の運転制御は、少なくとも第2車載機器群9によって継続される。
【0064】
運転制御用サブECU21の動作は、図4に示す運転制御用サブECU21の動作と同様のため、図4での説明を援用する。
【0065】
選択用ECU32は、検知用ECU31からの信号が第1電源系統3の異常を示す信号の場合、動作対象の制動制御用ECUとして制動制御用サブECU22を選択するとともに、動作対象の操舵制御用ECUとして操舵制御用メインECU13を選択する。また選択用ECU32は、運転制御用サブECU21により演算された目標制動値を制動制御用サブECU22に転送するとともに、運転制御用サブECU21により演算された目標操舵値を操舵制御用メインECU13に転送する。制動制御用サブECU22は、入力された目標制動値に基づきブレーキアクチュエータを制御する。また操舵制御用メインECU13は、入力された目標操舵値に基づきステアリングアクチュエータを制御する。
【0066】
図6は、センサ10に異常が発生した場合の冗長システム100の動作を説明する説明図である。センサ10に何らかの異常が発生した場合、センサ10は、センサ10の異常を示す信号を検知用ECU31に出力する。検知用ECU31は、センサ10の異常を示す信号を選択用ECU32に出力する。このとき、運転制御用メインECU11は、ドライバに対してテイクオーバーリクエストを行う。
【0067】
運転制御用メインECU11は、センサ10に異常が発生した場合、記憶装置11aに記憶された過去の演算結果に基づき、車両の横位置及び縦位置を演算する。例えば、運転制御用メインECU11は、記憶装置11aに記憶された車両の横位置及び縦位置を時系の順に並び変えることで、センサ10に異常が発生する前における車両に対する車線境界線の位置や車両に対する先行車両の位置を推定する。運転制御用メインECU11は、推定した車線境界線の位置及び先行車両の位置に基づき、目標制動値及び目標操舵値を演算する。例えば、運転制御用サブECU21により演算された目標制動値は、ドライバにテイクオーバーリクエストを行ってからドライバが運転の制御を取り戻すまでの間、車両が緩やかに減速するための目標制動値である。運転制御用メインECU11は、目標制動値及び目標操舵値を選択用ECU32に出力する。
【0068】
選択用ECU32は、検知用ECU31からの信号がセンサ10の異常を示す信号の場合、動作対象の制動制御用ECUとして制動制御用メインECU12を選択するとともに、動作対象の操舵制御用ECUとして操舵制御用メインECU13を選択する。また選択用ECU32は、運転制御用メインECU11により演算された目標制動値を制動制御用メインECU12に転送するとともに、運転制御用メインECU11により演算された目標操舵値を操舵制御用メインECU13に転送する。制動制御用メインECU12は、入力された目標制動値に基づきブレーキアクチュエータを制御する。また操舵制御用メインECU13は、入力された目標操舵値に基づきステアリングアクチュエータを制御する。
【0069】
このように、本実施形態に係る冗長システム100では、メイン制御系のセンサに異常が発生した場合であっても、センサを用いることなく、ドライバにテイクオーバーリクエストを行ってからドライバが運転の制御を取り戻すまでの間、車両の自律的な走行を継続することができる。つまり、冗長システム100では、バックアップ用のセンサを設けなくても、バックアップ用のセンサを設けた場合と同等の動作安全性能を維持することができる。また、冗長システム100では、バックアップ用のセンサを設けるためのスペースが不要になり、レイアウトの自由度を高めることができる。また車両に搭載する装置数を減らすことができるため、コストの低減化を図ることができる。
【0070】
以上のように、本実施形態に係る冗長システム100は、自律的に走行可能な車両に搭載され、第1電源系統3及び第2電源系統4を有する。また冗長システム100は、車両を自律的に走行させるための処理を実行する運転制御用メインECU11と、運転制御用メインECU11に関する異常が検知された場合、運転制御用メインECU11の代わりとして用いられる運転制御用サブECU21とを備える。本実施形態では、運転制御用メインECU11は、第1電源系統3に接続され、第2電源系統4に接続されておらず、運転制御用サブECU21は、第2電源系統4に接続され、第1電源系統3に接続されていない。運転制御用メインECU11及び運転制御用サブECU21のそれぞれは、単一の電源系統である第1電源系統3又は第2電源系統4に接続されるため、運転制御用ECUと電源系統との間の接続関係を簡易化することができ、システムの設計規模を縮小することができる。
【0071】
また、本実施形態に係る冗長システム100は、車両の周囲の情報を検出し、検出結果を運転制御用メインECU11及び運転制御用サブECU21に出力するセンサ10を備える。センサ10は、第2電源系統4に接続され、第1電源系統3に接続されていない。図4及び図5を用いて説明したように、メイン制御系に異常が発生すると、制動制御用ECUに入力される目標制動値が運転制御用メインECU11により演算された目標制動値から運転制御用サブECU21により演算された目標制動値に切り替わる場合がある。操舵制御用ECUに入力される目標操舵値についても同様である。運転制御用メインECU11により演算された車両の横位置及び縦位置と、運転制御用サブECU21により演算された車両の横位置及び縦位置とは必ずしも一致しない場合がある。このような場合、メイン制御系に異常が発生する前後で、車両の横位置及縦位置に誤差が生じるため、運転制御用サブECU21は、車両の横位置及び縦位置の連続性を保つために、センサ10の検出結果に基づき車両の横位置及び縦位置を補正する必要がある。本実施形態では、センサ10が第2電源系統4に接続されているため、第1電源系統3に異常が発生した場合でも、運転制御用サブECU21は、センサ10の検出結果に基づき車両の横位置及び縦位置を補正することができる。その結果、ドライバにテイクオーバーリクエストを行ってからドライバが運転の制御を取り戻すまでの間、車線境界線と車両との相対的な位置関係を継続することができるため、車両が車線から逸脱するのを防止することができる。
【0072】
さらに、本実施形態に係る冗長システム100は、メイン制御系に関する異常を検知する検知用ECU31を備える。メイン制御系に関する異常は、運転制御用メインECU11に関する異常、第1電源系統3に関する異常、センサ10に関する異常のうち少なくともいずれか一つを含む。これにより、メイン制御系に何らかの異常が発生した場合、ドライバにテイクオーバーリクエストを行うことができる。
【0073】
加えて、本実施形態では、センサ10は、車両の周囲の情報として、車両が走行する車線と当該車線以外との境界である車線境界線を検出する。また、運転制御用サブECU21は、検知用ECU31がメイン制御系に関する異常を検知する前後で、車両と車線境界線との相対的な位置関係を維持するための処理を実行する。これにより、ドライバにテイクオーバーリクエストを行ってからドライバが運転の制御を取り戻すまでの間、車両は車線から逸脱しないように走行することができる。
【0074】
また、本実施形態では、センサ10は、車両の周囲の情報として、車両が走行する車線と同一車線で車両の前方を走行する先行車両を検出する。また、運転制御用サブECU21は、検知用ECU31がメイン制御系に関する異常を検知する前後で、車両と先行車両との相対的な位置関係を維持するための処理を実行する。これにより、ドライバにテイクオーバーリクエストを行ってからドライバが運転の制御を取り戻すまでの間、車両は先行車両との車間距離を維持しながら走行することができる。
【0075】
さらに、本実施形態では、運転制御用メインECU11は、運転制御用メインECU11による過去の演算結果を記憶する記憶装置11aを有する。運転制御用メインECU11は、検知用ECU31がセンサ10に関する異常を検知した場合、記憶装置11aに記憶された演算結果に基づいて、車線上における車両の位置を演算する。これにより、センサ10の異常により、センサ10を用いて車線境界線の位置を検出できない場合であっても、ドライバにテイクオーバーリクエストを行ってからドライバが運転の制御を取り戻すまでの間、車両は車線から逸脱しないように走行することができる。
【0076】
加えて、本実施形態に係る冗長システム100は、第1電源系統3と第2電源系統4を導通又は遮断する切換装置7を備える。運転制御用サブECU21は、検知用ECU31が第1電源系統3の異常を検知した場合、切換装置7を制御することで前記第1電源系統と前記第2電源系統の間を遮断させる。これにより、第1電源系統3で発生した異常が第2電源系統4まで波及するのを防ぐことができ、ドライバにテイクオーバーリクエストを行ってからドライバが運転の制御を取り戻すまでの間、第2車載機器群9により車両の自律的な走行を継続することができる。
【0077】
また、本実施形態に係る冗長システム100は、運転制御用メインECU11の制御又は運転制御用サブECU21から入力される目標操舵値に基づき、車両のステアリングを制御する操舵制御用メインECU13と、操舵制御用メインECU13に関する異常が検知された場合、操舵制御用メインECU13の代わりとして用いられる操舵制御用サブECU23を備える。操舵制御用メインECU13は、第2電源系統4に接続され、第1電源系統3に接続されておらず、操舵制御用サブECU23は、第1電源系統3に接続され、第2電源系統4に接続されていない。これにより、第1電源系統3に異常が発生した場合でも、操舵制御用メインECU13による車両の操舵制御が継続される。第1電源系統3に異常が発生した前後において、操舵制御のジャークを抑制することができる。
【0078】
なお、以上に説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0079】
例えば、本実施形態では、第1電源監視用ECU14及び第2電源監視用ECU24について、第1電源系統3の異常又は第2電源系統4の異常を検知する装置として説明したが、第1電源監視用ECU14及び第2電源監視用ECU24は他の用途に用いてもよい。
【0080】
第1電源監視用ECU14は、運転制御用メインECU11による制御の開始を判定するために用いてもよい。例えば、車両のイグニッションがオンし、第1電源系統3の電圧が上昇した場面において、運転制御用メインECU11は、第1電源監視用ECU14が第1電源系統3に電力が供給されていると判定した場合、車両を自律的に走行させるための処理を開始してもよい。この場合、車両のイグニッションがオンした後、運転制御用メインECU11には、第1電源監視用ECU14から、第1電源系統3が正常であることを示す信号が初めて入力される。運転制御用メインECU11は、第1バッテリ5から十分な電力が供給された状態で処理を開始することができるため、イグニッションがオンした後、車両の挙動が急変する可能性を低減することができる。
【0081】
また第1電源監視用ECU14及び第2電源監視用ECU24は、運転制御用メインECU11による制御の終了を判定するために用いてもよい。例えば、車両のイグニッションがオフし、第1電源系統3の電圧及び第2電源系統4の電圧が下降した場面において、運転制御用メインECU11は、第1電源監視用ECU14が第1電源系統3に電力が供給されていないと判定し、かつ、第2電源監視用ECU24が第2電源系統4に電力が供給されていないと判定するまで、車両を自律的に走行させるための処理を実行してもよい。この場合、車両のイグニッションがオフした後、運転制御用メインECU11には、第1電源監視用ECU14から、第1電源系統3の異常を示す信号が初めて入力され、また第2電源監視用ECU24から、第2電源系統4の異常を示す信号が初めて入力される。運転制御用メインECU11は、第1電源系統3及び第2電源系統4のいずれにも電力が供給されていない状態になるまで処理を継続することができる。また第1電源系統3に異常が発生しても、運転制御用メインECU11が処理を停止することを防ぐことができる。
【0082】
また例えば、本実施形態では、操舵制御用メインECU13を第2電源系統4側に設け、操舵制御用サブECU23を第1電源系統3側に設ける冗長システム100の構成を例に挙げて説明したが、冗長システム100は、操舵制御用メインECU13は第1電源系統3側に設け、操舵制御用サブECU23を第2電源系統4側に設ける構成であってもよい。
【0083】
また例えば、本実施形態では、運転支援レベル3を実現可能な車両に冗長システム100を搭載した場合を例に挙げて説明したが、冗長システム100は、運転支援レベル2を実現可能な車両に搭載してもよい。例えば、ドライバがステアリングに触れることなく車両が自律的に走行するモード(ハンズオフモードともいう)を搭載した運転支援レベル2の車両であっても、運転支援レベル3を実現可能な車両で得られた効果と同様の効果を得ることができる。
【0084】
また本実施形態では、メイン制御系に異常が発生した場合を例に挙げて説明したが、サブ制御系に異常が発生した場合について説明する。例えば、第2電源系統4に異常が発生し、第2車載機器群9が正常に動作できない状態であっても、冗長システム100、運転制御用メインECU11、制動制御用メインECU12、及び操舵制御用サブECU23により、車両は自律的な走行を継続することができる。この場合、運転制御用メインECU11は、センサ10に異常が発生した場合の例と同様に、センサ10を用いることなく車両の横位置及び縦位置を推定する。
【0085】
また本実施形態では、記憶装置11aに記憶された過去の演算結果を用いて車両の横位置及び縦位置の推定する構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、運転制御用メインECU11は、現在の車輪速や現在のヨーレートに基づき、車両の横位置及び縦位置を推定してもよい。また車両の横位置及び縦位置を推定する際に用いる情報は、運転制御用メインECU11によって演算された過去の車両の横位置及び縦位置に限られず、運転制御用メインECU11によって演算された過去の車両の目標制動値や目標操舵値であってもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…駆動用バッテリ
2…DCDCコンバータ
3…第1電源系統
4…第2電源系統
5…第1バッテリ
6…第2バッテリ
7…切換装置
8…第1車載機器群
11…運転制御用メインECU
12…制動制御用メインECU
14…第1電源監視用ECU
23…操舵制御用サブECU
9…第2車載機器群
10…センサ
13…操舵制御用メインECU
21…運転制御用サブECU
22…制動制御用サブECU
24…第2電源監視用ECU
31…検知用ECU
32…選択用ECU
図1
図2
図3
図4
図5
図6