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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20240910BHJP
   H01F 27/32 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F27/32 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022578103
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2021044983
(87)【国際公開番号】W WO2022163141
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2021014489
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】星野 悠太
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098372(JP,A)
【文献】特開2005-317748(JP,A)
【文献】特開2009-302129(JP,A)
【文献】特開2014-036056(JP,A)
【文献】国際公開第2011/13437(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/241122(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00 -21/12
H01F 27/00
H01G 4/00
H01G 13/00 -17/00
H01C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu元素を含むセラミックの素体と、前記素体の表面の少なくとも一部を覆う、ガラスを含む絶縁膜と、Cu元素を含むCu偏析物と、を備え、
前記Cu偏析物は、前記素体と前記絶縁膜との界面において、前記素体と前記絶縁膜とに接している、電子部品。
【請求項2】
前記Cu偏析物の形状が、前記Cu偏析物の一部が前記素体側に突出する楔状である、請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
前記Cu偏析物の、前記素体と前記絶縁膜との界面が延びる方向における長さをLa、これに直交する方向における長さをLbとしたときに、前記Cu偏析物の形状が、前記長さLbに対する前記長さLaの比[La/Lb]が3以下となる粒状である、請求項1に記載の電子部品。
【請求項4】
前記Cu偏析物の直上に接する前記絶縁膜の厚さは、0.5μm未満である、請求項2又は3に記載の電子部品。
【請求項5】
前記Cu偏析物の、前記素体と前記絶縁膜との界面が延びる方向における長さをLa、これに直交する方向における長さをLbとしたときに、前記Cu偏析物の形状が、前記長さLbに対する前記長さLaの比[La/Lb]が3を超える層状である、請求項1に記載の電子部品。
【請求項6】
前記Cu偏析物の直上に接する前記絶縁膜の厚さは、0.5μm以上である請求項5に記載の電子部品。
【請求項7】
前記素体と前記絶縁膜の界面には、前記Cu偏析物が複数存在している、請求項1~6のいずれか1項に記載の電子部品。
【請求項8】
前記素体の直上に接する前記絶縁膜の厚さが、前記Cu偏析物の直上に接する前記絶縁膜の厚さよりも厚い、請求項1~7のいずれか1項に記載の電子部品。
【請求項9】
前記素体の表面は、複数の前記絶縁膜によって覆われている、請求項1~8のいずれか1項に記載の電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結体からなる素体の表面に、ガラスを含む絶縁膜を形成した積層コイル部品が知られている。
【0003】
特許文献1には、フェライト焼結体からなる素体と、素体内に併置されている複数の内部導体が電気的に接続されて構成されたコイルとを備え、素体の表面がガラスを含む絶縁層で覆われた積層コイル部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-204565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された積層コイル部品においては、素体と絶縁層(絶縁膜)との密着性が低く、密着性を向上させる余地があった。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、素体と絶縁膜との密着性が高い電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電子部品の一実施形態は、Cu元素を含むセラミックの素体と、上記素体の表面の少なくとも一部を覆う、ガラスを含む絶縁膜と、Cu元素を含むCu偏析物と、を備え、上記Cu偏析物は、上記素体と上記絶縁膜との界面において、上記素体と上記絶縁膜とに接している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、素体と絶縁膜との密着性が高い電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係る電子部品の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1におけるII-II線断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る電子部品の別の一例を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、図3におけるIV-IV線断面図である。
図5図5は、本発明の電子部品の一実施形態における、素体と絶縁膜との界面の状態の一例を模式的に示す断面図である。
図6図6は、本発明の電子部品の一実施形態における、素体と絶縁膜との界面の状態の別の一例を模式的に示す断面図である。
図7図7は、本発明の電子部品の一実施形態における、素体と絶縁膜との界面の状態のさらに別の一例を模式的に示す断面図である。
図8図8は、実施例2に係る電子部品の、素体と絶縁膜との界面のCuの元素マッピング画像である。
図9図9は、実施例2に係る電子部品の、素体と絶縁膜との界面のCuの元素マッピング画像である。
図10図10は、実施例2に係る電子部品の、素体と絶縁膜との界面のCuの元素マッピング画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の電子部品について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0011】
以下に示す各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもない。第二実施形態以降では、第一実施形態と共通の事項についての記述は省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態毎には逐次言及しない。
【0012】
以下に示す図面は模式的なものであり、その寸法や縦横比の縮尺などは実際の製品とは異なる場合がある。
【0013】
本発明の電子部品の一実施形態は、Cu元素を含むセラミックの素体と、上記素体の表面の少なくとも一部を覆う、ガラスを含む絶縁膜と、Cu元素を含むCu偏析物と、を備え、上記Cu偏析物は、上記素体と上記絶縁膜との界面において、上記素体と上記絶縁膜とに接している。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る電子部品の一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示す電子部品1は、素体10と、素体10の表面の一部を覆う絶縁膜20とを備える。
素体10は、長さ方向Lに対向する第1端面10a及び第2端面10bと、長さ方向Lに直交する幅方向Wに対向する第1側面10c及び第2側面10dと、長さ方向L及び幅方向Wに直交する厚さ方向Tに対向する上面10e及び底面10fと、を有する略直方体形状である。
絶縁膜20は、素体10の第2側面10dの全部と、第1端面10a、第2端面10b、上面10e及び底面10fの一部を覆う絶縁膜20aと、素体10の第1側面10cの全部と、第1端面10a、第2端面10b、上面10e及び底面10fの一部を覆う絶縁膜20bを備える。
素体10の上面10e及び底面10fにおいて、絶縁膜20aと絶縁膜20bは一部が重なって設けられている。
なお、素体の表面を覆う絶縁膜の数は1つであってもよく、3つ以上であってもよい。例えば、後述する導体層が素体の表面に露出している部分を除いて、素体の表面の全てが1つまたは複数の絶縁膜で覆われていてもよい。
【0015】
素体10の表面には、外部電極50が設けられている。
外部電極50は、素体10の第1端面10a及び第2端面10bをそれぞれ覆うように設けられている。素体10の第1端面10aを覆う外部電極50の一部は、素体10の第1側面10c、第2側面10d、上面10e、底面10fの一部に回り込んで形成されている。また、素体10の第2端面10bを覆う外部電極50の一部は、素体10の第1側面10c、第2側面10d、上面10e、底面10fの一部に回り込んで形成されている。
素体10の表面の一部は絶縁膜20(20a、20b)によって覆われており、素体10の表面のうち絶縁膜20で覆われていない部分は、外部電極50によって覆われている。従って、素体10の表面は露出していない。ただし、素体の表面の一部が絶縁膜及び外部電極に覆われておらず、露出していてもよい。
【0016】
図2は、図1におけるII-II線断面図である。
図2に示すように、素体10は、内部に導体層40を有している。導体層40は、素体10の第1端面10a及び第2端面10bに露出しており、外部電極50と電気的に接続されている。また、導体層40は全体としてコイルを形成している。導体層40により形成されたコイルのコイル軸は、長さ方向Lに平行である。
【0017】
図3は、本発明の実施形態に係る電子部品の別の一例を模式的に示す斜視図である。
図3に示す電子部品2は、素体11と、素体11の表面の一部を覆う絶縁膜20とを備える。素体11の形状は、巻線43が巻回された柱状の巻芯部60と、巻芯部60の長さ方向Lの両端部にそれぞれ接続された鍔部61を有するバーベル形状である。巻線43は素体11の巻芯部60に巻回されている。
【0018】
図4は、図3におけるIV-IV線断面図である。
図4に示すように、絶縁膜20は、素体11の鍔部61の全部と、巻芯部60の全部を覆っている。素体11の表面の全てが絶縁膜20で覆われているため、巻線43は、素体11と接触していない。なお、図示していないが、巻線43の端部は外部電極50に接続されている。
図3及び図4に示す電子部品2において、素体11の全ての表面は絶縁膜20に覆われており、巻線43は、素体11と接触していない。なお、素体の表面を覆う絶縁膜の数は特に限定されず、素体の表面が2個以上の絶縁膜により覆われていてもよい。
【0019】
[素体]
本発明の電子部品の一実施形態において、素体は、Cu元素を含むセラミックである。
【0020】
Cu元素を含むセラミックとしては、例えば、フェライト、アルミナ、チタン酸バリウム、Zn系セラミック等の公知のセラミックにCu元素を含有させたもの等が挙げられる。
Cu元素を含むセラミックは、Mn、Co、SnO、Bi、SiO等の添加剤を含んでいてもよい。
【0021】
素体におけるCu元素の含有量は、6mol%以上、10mol%以下であることが好ましい。
なお、素体におけるCu元素の含有量には、素体の表面に偏析するCu偏析物を構成するCu元素を考慮から除外するものとする。
素体におけるCu元素の含有量は、研磨により素体の表面から10μm以上素体の内側に入った断面を露出させ、φ1μm以上のスポット径で波長分散型蛍光X線(WD-XRF)測定することで、偏析の影響を排除した値として測定することができる。なお、測定箇所によるばらつきをさらに低減するために、5個程度のサンプルでWD-XRF測定を行ってもよい。
【0022】
素体におけるFe元素の含有量は、Fe換算で40mol%以上、49.5mol%以下であることが好ましい。
【0023】
素体におけるNi/Znモル比は特に限定されないが、1.8以上、2.8以下であることが好ましい。
【0024】
素体の形状は、特に限定されないが、例えば、立方体形状、直方体形状、バーベル形状、H形状、I形状、環状形状等が挙げられる。
素体の外形寸法については特に限定されないが、より小型であるほど、素体と絶縁膜との接触面積が小さくなるため、素体と絶縁膜の密着性を向上させにくくなるという問題が顕著となる。
例えば、素体の外形寸法は、長さ5.7mm以下×幅5.0mm以下×高さ5.0mm以下であることが好ましく、長さ1.6mm以下×幅0.8mm以下×高さ0.8mm以下であることが特に好ましい。
【0025】
素体は、内部に導体層を有していてもよい。
素体の内部に形成された導体層は、コイル、コンデンサ、抵抗、サーミスタ等の受動素子を形成していてもよい。受動素子は、素体の内部に複数形成されていてもよい。
素体内に形成された受動素子の向きは任意である。従って、素体内に形成されたコイルのコイル軸は、電子部品の実装面に対して水平であってもよいし、垂直であってもよい。また、素体内に形成されたコイルの数は1つであってもよく、複数であってもよい。
素体内にコイルが形成されている場合の本発明の電子部品の例としては、積層コイル部品が挙げられるが、導体層が形成する受動素子の種類によって、積層コンデンサ部品、積層抵抗部品、積層サーミスタ部品等であってもよい。
【0026】
素体は、内部に導体層を有していなくてもよい。
この場合、素体は、周囲に巻線を巻きつけて、巻線コアとして使用することもできる。
素体の周囲に巻線が巻きつけられている場合の本発明の電子部品の例としては、巻線コイル部品が挙げられる。素体の周囲に巻線を巻きつけることで構成されるコイルの数は、1つであってもよく、複数であってもよい。
【0027】
[絶縁膜]
本発明の電子部品の一実施形態において、絶縁膜は、素体の表面の少なくとも一部を覆っている。
【0028】
絶縁膜は、ガラスを含んでいる。
絶縁膜を構成するガラスとしては、B-Si系ガラス、Ba-B-Si系ガラス、B-Si-Zn系ガラス、B-Si-Zn-Ba系ガラス、B-Si-Zn-Ba-Ca-Al系ガラス等を使用することができる。これらの他にも、Na-Si系ガラス、K-Si系ガラス、Li-Si系ガラス等のアルカリ金属系ガラス、Mg-Si系ガラス、Ca-Si系ガラス、Ba-Si系ガラス、Sr-Si系ガラス等のアルカリ土類金属系ガラス、Ti-Si系ガラス、Zr-Si系ガラス、Al-Si系ガラス等を使用することもできる。
ガラスは、結晶性ガラスであってもよい。
【0029】
絶縁膜に占めるガラスの重量割合は、特に限定されないが、90重量%以上であることが好ましい。
【0030】
絶縁膜の厚さは特に限定されないが、0.005μm以上、10.000μm以下であることが好ましく、0.030μm以上、1.500μm以下であることがさらに好ましい。なお、絶縁膜の厚さを10μm以下とすることで、電子部品の特性に与える影響を大きく低減できる。
絶縁膜の厚さは、絶縁膜を厚さ方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより測定することができる。
【0031】
絶縁膜は、ガラスの他に、顔料、シリコーン系難燃剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などの表面処理剤、帯電防止剤等を含有していてもよい。
【0032】
[Cu偏析物]
本発明の電子部品の一実施形態において、Cu元素を含むCu偏析物は、素体と絶縁膜との界面において、素体と絶縁膜とに接している。
【0033】
素体と絶縁膜との界面に、Cu偏析物が存在していることにより、素体と絶縁膜との密着性が高まる。
Cu偏析物は、素体上のどこに存在していてもよいが、素体のセラミックの粒界上に存在していたほうが好ましい。素体のセラミックの粒界は、素体の表面で凹形状となっているため、Cu偏析物が当該凹形状となる粒界上に存在することで、アンカー効果が発生し、Cu偏析物と素体の密着性がより向上する。
【0034】
Cu偏析物の組成は特に限定されないが、少なくともCu元素を含んでいればよく、例えば、Cu、CuO、CuO等が挙げられる。また、Cu偏析物は、ガラスを含んでいてもよい。
【0035】
素体と絶縁膜との界面には、複数個のCu偏析物が存在していてもよい。素体と絶縁膜との界面に複数個のCu偏析物が存在していると、素体と絶縁膜との密着性をより高めることができる。
【0036】
素体と絶縁膜との界面にCu偏析物が存在しているかどうかは、電子部品を切断した切断面において、素体と絶縁膜との界面を走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光分析(SEM-EDX)で観察することにより確認することができる。
SEM-EDXにより得られた素体と絶縁膜との界面近傍の元素マッピング画像から、Cu元素の濃度分布を確認することによって、素体と絶縁膜との界面近傍に存在するCu偏析物の形状を特定することができる。
素体がフェライトの場合、素体はFe元素が主成分となり、Cu偏析物はCu元素が主成分となり、絶縁膜はSi元素が主成分となる。従って、元素マッピング画像において、Fe元素、Cu元素及びSi元素の濃度を比較することにより、元素マッピング画像における素体、Cu偏析物及び絶縁膜を区別することができる。
また、素体がフェライト以外のセラミックの場合には、セラミックの主成分の元素と、Cu元素と、Si元素の濃度を比較することで、元素マッピング画像における素体、Cu偏析物及び絶縁膜を区別することができる。例えば、素体がアルミナの場合にはAl元素を、素体がコンデンサ用のチタン酸バリウムである場合にはTi元素又はBa元素を、素体がサーミスタ用のZn系セラミックである場合にはZn元素を、それぞれセラミックの主成分とすればよい。
【0037】
Cu偏析物の形状は特に限定されないが、粒状、楔状、層状であってもよい。
Cu偏析物の形状は、アスペクト比の値、及び、Cu偏析物が素体側に突出しているかの判定により決定することができる。
Cu偏析物のアスペクト比は、素体と絶縁膜との界面が延びる方向におけるCu偏析物の長さをLa、これに直交する方向におけるCu偏析物の長さをLbとしたときに、長さLbに対する長さLaの比[La/Lb](以下、アスペクト比ともいう)で表される。なお、長さLbは、Cu偏析物の、素体に最も近い地点と、素体から最も遠い地点とを認定した上で、該地点を通り、かつ、素体と絶縁膜との界面が延びる方向に平行な線分をそれぞれ仮定した際の、2つの線分間の距離に相当する。
【0038】
Cu偏析物の形状が、素体側に突出する形状である場合、Cu偏析物のアスペクト比に関係なく、楔状とする。
Cu偏析物の形状が楔状でない場合、上記アスペクト比が3以下となる形状が、粒状であり、上記アスペクト比が3を超える形状が、層状である。
Cu偏析物の形状が楔形である場合、素体側に突出する部分を除くCu偏析物の形状は、粒状であってもよく、層状であってもよい。
なお、層状のCu偏析物は、素体と絶縁膜との界面の一部分のみに存在しており、素体と絶縁膜の界面全体を覆うものではない。
【0039】
図5は、本発明の電子部品の一実施形態における、素体と絶縁膜との界面の状態の一例を模式的に示す断面図である。
図5に示すように、素体10と絶縁膜20の界面には、Cu偏析物30(31、32)が存在しており、素体10と絶縁膜20とに接している。Cu偏析物30が存在しない部分における絶縁膜20の厚さ(素体10の直上に接する絶縁膜20の厚さ)は、両矢印Tで示される長さである。なお、絶縁膜20の厚さTは、場所ごとに異なっていてもよい。
図5では、1つの絶縁膜20と素体10との界面に、Cu偏析物が複数存在しているといえる。
【0040】
素体10と絶縁膜20との界面が延びる方向(以下、横方向ともいう)における、Cu偏析物31の長さは、両矢印Laで示される長さである。また、横方向に直交する方向(以下、縦方向ともいう)におけるCu偏析物31の長さは、両矢印Lbで示される長さである。Cu偏析物31のアスペクト比[La/Lb]は約1.4である。従って、Cu偏析物31の形状は、粒状である。
Cu偏析物31の厚さは、両矢印Lbで示される長さであり、Cu偏析物31の直上に接する絶縁膜20の厚さは、両矢印Tで示される長さである。
Cu偏析物31は、素体10側に突出していない形状である。図5では、Cu偏析物31の厚さLbとCu偏析物31の直上に接する絶縁膜20の厚さTの合計が、絶縁膜20の厚さTと一致する。
また、絶縁膜20の厚さTは、Cu偏析物31の直上に接する絶縁膜20の厚さTよりも厚い。絶縁膜20の厚さTが、Cu偏析物31の直上に接する絶縁膜20の厚さTよりも厚いと、Cu偏析物が存在することにより生じる絶縁膜の表面の凹凸が小さくなり、絶縁膜の表面の平滑性が向上する。
【0041】
Cu偏析物32は、素体10側に突出する突出部32aを有している。従って、Cu偏析物32の形状は、アスペクト比とは無関係に、楔状であるといえる。
なお、Cu偏析物が素体側に突出しているかどうかは、素体の表面のうちCu偏析物が存在していない部分の素体表面の形状から、Cu偏析物が存在している部分にCu偏析物が存在しなかった場合の素体表面の形状を推定し、推定された素体表面よりも内側(素体側)にCu偏析物が位置している場合に、Cu偏析物が素体側に突出しているとみなす。
Cu偏析物は、素体側ではなく絶縁膜側に突出していてもよい。ただし、素体側ではなく絶縁膜側のみに突出したCu偏析物は、アスペクト比によって、粒状又は層状のいずれの形状に該当するか判断する。
【0042】
図6は、本発明の電子部品の一実施形態における、素体と絶縁膜との界面の状態の別の一例を模式的に示す断面図である。
Cu偏析物33の横方向の長さは両矢印Laで示される長さであり、縦方向の長さは両矢印Lbで示される長さである。アスペクト比[La/Lb]は約10である。従って、Cu偏析物33の形状は、層状である。
なお、層状のCu偏析物は、素体と絶縁膜との界面の一部分のみに存在しており、素体と絶縁膜との界面全体を覆うものではない。
Cu偏析物33の厚さは、両矢印Lbで示される長さであり、Cu偏析物33の直上に接する絶縁膜20の厚さは、両矢印Tで示される長さである。
Cu偏析物33は、素体10側に突出していない形状である。図6では、Cu偏析物33の厚さLbとCu偏析物33の直上に接する絶縁膜20の厚さTの合計が、絶縁膜20の厚さTと一致する。
また、絶縁膜20の厚さTは、Cu偏析物33の直上に接する絶縁膜20の厚さTよりも厚い。
【0043】
Cu偏析物の形状は、Cu偏析物の直上に接する絶縁膜の厚さと関連がある。
Cu偏析物の直上に接する絶縁膜の厚さが0.5μm未満の場合、Cu偏析物の形状は、粒状または楔状となりやすい。
一方、Cu偏析物の直上に接する絶縁膜の厚さが0.5μm以上の場合、Cu偏析物の形状は、層状となりやすい。
なお、Cu偏析物の形状を特定するにあたっては、Cu偏析物が絶縁膜を構成するガラスと混合している部分もCu偏析物の一部とみなす。従って、Cu偏析物が絶縁膜を構成するガラスと混合している部分も含めて、1つのCu偏析物として形状を特定する。Cu偏析物と絶縁膜との境界は、SEM-EDXによってSi元素及びCu元素の元素マッピングを行うことにより確認することができる。
【0044】
Cu偏析物の形状及びアスペクト比、並びに、Cu偏析物の直上に接する絶縁膜の厚さは、SEM-EDXにより測定することができる。
Cu偏析物の形状及びアスペクト比は、個々のCu偏析物ごとに決定される。Cu偏析物の直上に接する絶縁膜の厚さは、Cu偏析物及び絶縁膜が一視野中に収まるように撮影されたSEM-EDX画像より、個々のCu偏析物ごとの、Cu偏析物の上面の一点からその縦方向直上にある絶縁膜の天面の一点までの長さの最小値とする。Cu偏析物が存在しない部分における絶縁膜の厚さは、3箇所で測定された、素体の表面から絶縁膜の天面までの長さの平均値とする。上記の3箇所は、目視において、素体の表面から絶縁膜の天面までの長さが最も長くなる地点、最も短くなる地点、及び、これらの中間の長さとなる地点を選択する。
【0045】
素体の表面は、複数の絶縁膜により覆われていてもよい。図1及び図2に示した素体10及び図3及び図4に示した素体11はいずれも、複数の絶縁膜で覆われている例である。
複数の絶縁膜は、組成が異なっていてもよく、同じであってもよい。
【0046】
素体の表面が複数の絶縁膜で覆われている場合、各絶縁膜と素体との界面には、それぞれCu偏析物が存在していてもよい。また、Cu偏析物の一部は、絶縁膜により覆われていなくてもよい。このようなCu偏析物は、素体の表面に露出している状態となる。
【0047】
絶縁膜は、素体の表面に点在していてもよい。
絶縁膜が素体の表面に点在している場合の例を、図7を用いて説明する。
図7は、本発明の電子部品の一実施形態における、素体と絶縁膜との界面の状態のさらに別の一例を模式的に示す断面図である。
図7に示す素体10の表面には、2つの絶縁膜20a、20bが設けられている。絶縁膜20a、20bと素体10との界面には、それぞれ、Cu偏析物34a、34bが存在している。
素体10の表面には絶縁膜20によって覆われていない部分が存在し、この部分は素体10の表面が露出している。Cu偏析物34cは素体10の表面が絶縁膜20によって覆われていない部分に存在する。従って、Cu偏析物34cは素体10の表面に露出している。
【0048】
本発明の電子部品を構成する素体の表面には、Cu偏析物が存在しているため、めっき成長が起こりやすい。Cu偏析物を絶縁膜により覆うことで、Cu偏析物によるめっき成長の促進を阻害して、素体の表面の意図しない領域におけるめっき成長を抑制することができる。
上記の観点から、めっきを行う外部電極の周辺に、Cu偏析物を覆う絶縁膜が形成されていることが好ましい。めっきを行う外部電極の周囲に絶縁膜が形成されていると、絶縁膜が形成されている領域におけるめっきの形成を抑制することができる。
【0049】
[外部電極]
本発明の電子部品の一実施形態は、外部電極を有するが、その形態は特に限定されない。
外部電極としては、例えば、下地電極層とその表面に形成された被覆層の組み合わせや、金属板、リード端子等が挙げられる。下地電極層は、ガラスと導体とを含むガラスペーストを素体の表面に塗布し、焼き付けることで形成された電極であってもよく、スパッタやめっきにより素体の表面に直接形成された電極であってもよい。
【0050】
下地電極層に含まれるガラスとしては、絶縁膜を構成するガラスと同様のものを好適に用いることができる。
下地電極層は、導体を含む導体部と、ガラスを含むガラス部とを有していることが好ましい。
導体部は、導体として、Ni元素、Sn元素、Pd元素、Au元素、Ag元素、Pt元素、Bi元素、Cu元素及びZn元素からなる群から選択され少なくとも1種の金属元素を含むことが好ましい。また、これらの元素を含む導電性粒子を含むことが好ましい。
導体部は、導体としてAg元素を含むことが好ましい。Ag元素は導電性が高い。また、導体としてAg元素を含む下地電極層は、形成が容易である。
【0051】
導電性粒子の平均粒子径は特に限定されないが、0.5μm以上、10μm以下であることが好ましい。
【0052】
下地電極層に占める導電性粒子の重量割合は、特に限定されないが、71重量%以上、98重量%以下であることが好ましい。
【0053】
下地電極層に占めるガラスの重量割合は、2重量%以上、15重量%以下であることが好ましい。
下地電極層に占めるガラスの重量割合が15重量%以下であると、下地電極層の抵抗値が大きくなりすぎない。また下地電極層に占めるガラスの重量割合が2重量%以上であると、下地電極層の緻密性を高くすることができ、めっき液及び湿気が下地電極層の内部へ侵入すること、及び、めっき液及び湿気が下地電極層を通じて素体内に侵入することを防止することができる。
【0054】
被覆層は、例えば、下地電極層の表面に設けられためっき層であることが好ましい。
めっき層は、Cu、Ni、Sn、Pd、Au、Ag、Pt、Bi及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。めっき層は、1層であってもよく、2層以上あってもよい。めっき層としては、下地電極層の上に設けられたNiめっき層とSnめっき層とを有する層であることがより好ましい。Niめっき層によって素体中への水の浸入を防ぎ、Snめっき層によって、電子部品の実装性を向上させることができる。
【0055】
素体と下地電極層との界面(好ましくは、素体とガラス部との界面)には、Cu偏析物が存在していてもよい。
素体と下地電極層との界面にCu偏析物が存在していることにより、素体と下地電極層との密着性が高まる。
【0056】
本実施形態の電子部品は、素体と絶縁膜との密着性に優れている。本実施形態の電子部品は積層コイル部品や巻線コイル部品に限られず、Cu元素を含むセラミックが素体として用いられるものであればよい。
【0057】
[電子部品の製造方法]
(第一実施形態)
本発明の電子部品の製造方法の第一実施形態は、Cu元素を含むセラミック原料をシート状に成形したセラミックシートを準備するセラミックシート準備工程と、セラミックシートにビアホール及びコイルパターンとなる導体パターンを形成する導体パターン形成工程と、セラミックシートを積層した積層体を得る積層体準備工程と、積層体を焼成してセラミックの素体を得る焼成工程と、素体の表面にガラスを含む絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程とを含む。
【0058】
[セラミックシート準備工程]
セラミックシート準備工程では、Cu元素を含むセラミック原料をシート状に成形する。
セラミック原料としてフェライト原料を使用する場合、粉末状のフェライト原料は、例えば、Fe、ZnO、CuO、及び、NiOを所定の比率になるように秤量して湿式で混合した後、粉砕、乾燥及び仮焼成することによって得ることができる。
【0059】
続いて、セラミック原料と、ポリビニルブチラール系樹脂等の有機バインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、等を混合した後、粉砕することにより、セラミックスラリーを作製する。次に、セラミックスラリーをドクターブレード法等で所定の厚みのシート状に成形した後、所定の形状に打ち抜くことにより、セラミックシートを作製する。
【0060】
セラミック原料中のCu元素の含有量は、6mol%以上、10mol%以下であることが好ましい。
セラミック原料中のCu元素の含有量が多いほど、素体の表面にCu偏析物が生じやすい。
【0061】
セラミックシートに含まれる有機バインダの含有量は、25重量%以上、35重量%以下であることが好ましい。
セラミックシートに含まれる有機バインダは炭素を含むため、焼成時に雰囲気中の酸素と結合して酸素濃度を低下させる。そのため、有機バインダの含有量が多いほど、焼成工程において酸素濃度が低くなりやすく、その結果、素体の表面にCu偏析物が生じやすくなる。
【0062】
セラミックシートの厚さは特に限定されないが、15μm以上、50μm以下であることが好ましい。
【0063】
[導体パターン形成工程]
導体パターン形成工程では、Agペースト等の導電性ペーストをスクリーン印刷法等で各セラミックシートに塗工することにより、導体パターンを形成する。ビア導体となる導体パターンを形成する際には、セラミックシートの所定の箇所にレーザー照射を行うことによりビアホールを予め形成しておき、そのビアホールに導電性ペーストを充填する。
【0064】
[積層体準備工程]
セラミックシートを積層したあと、温間等方圧プレス(WIP)処理等で圧着することにより、積層体を作製する。
セラミックシートの積層数は特に限定されないが、30層以上、100層以下であることが好ましい。
【0065】
[焼成工程]
焼成工程では、積層体を焼成して素体を得る。
焼成条件は、素体の表面に、Cu偏析物が析出する条件とする。
素体の表面にCu偏析物が生じるかどうかは、セラミック原料の組成だけでなく、積層体に含まれる炭素量、焼成温度(最高温度)、昇温速度、焼成雰囲気、焼成炉の材質、等が影響する。これらの条件を適切に選択した場合に、素体の表面にCu偏析物が析出する。
すなわち、焼成条件が適当でないと、たとえセラミック原料の組成が同じであっても、素体の表面にCu偏析物が析出しない。
【0066】
焼成工程における焼成温度(最高温度)は、1000℃以上、1300℃以下であることが好ましい。
焼成工程における焼成温度(最高温度)が1000℃以上であると、素体の表面にCu偏析物が生じやすい。
【0067】
焼成工程における酸素濃度は、15体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であることがより好ましい。焼成雰囲気における酸素含有量が15体積%以下であると、素体の表面にCu偏析物が生じやすい。
焼成工程におけるバランスガスは、窒素又はアルゴンが好ましい。
【0068】
焼成工程における昇温速度は、10℃/min以下であることが好ましい。
焼成温度まで到達するまでの時間が短いほど、素体の表面にCu偏析物が生じやすい。
【0069】
焼成工程において積層体を焼成する焼成炉を構成する炉材は、アルミナとケイ素の混合物等の、密度の高い材料であることが好ましい。
焼成炉を構成する炉材が密度の高い材料で構成されていると、Cu偏析物が生じやすい。
【0070】
[絶縁膜形成工程]
絶縁膜形成工程では、焼成工程により得られた素体の表面に、ガラスを含む絶縁膜を形成する。
【0071】
絶縁膜は、ガラスを含むペースト(以下、ガラスペーストという)を、素体の表面に塗布し、焼成(焼き付け)することで形成することができる。
ガラスペーストにはガラスの他に、樹脂及び分散媒が含まれていてもよい。
【0072】
ガラスとしては、B-Si系ガラス、Ba-B-Si系ガラス、B-Si-Zn系ガラス、B-Si-Zn-Ba系ガラス、B-Si-Zn-Ba-Ca-Al系ガラス等を使用することができる。これらの他にも、Na-Si系ガラス、K-Si系ガラス、Li-Si系ガラス等のアルカリ金属系ガラス、Mg-Si系ガラス、Ca-Si系ガラス、Ba-Si系ガラス、Sr-Si系ガラス等のアルカリ土類金属系ガラス、Ti-Si系ガラス、Zr-Si系ガラス、Al-Si系ガラス等を使用することもできる。
ガラスは、結晶性ガラスであってもよい。
【0073】
ガラスペーストを構成するガラスの平均粒子径は特に限定されないが、0.01μm以上、4.00μm以下であることが好ましい。
【0074】
ガラスペーストを構成するガラスの平均粒子径が大きいほど、焼き付け時のガラスペーストの流動性が低く、絶縁膜の厚さが厚くなりやすい。そのため、層状のCu偏析物が形成されやすい。
一方、ガラスペーストを構成するガラスの平均粒子径が小さいほど、焼き付け時のガラスペーストの流動性が高く、絶縁膜の厚さが薄くなりやすい。そのため、粒状または楔状のCu偏析物が形成されやすい。
【0075】
素体の表面に塗布されたガラスペーストを乾燥させる。乾燥条件は特に限定されないが、150℃で30分ほど加熱すればよい。
素体の表面にガラスペーストを複数回塗布する場合には、ガラスペーストの塗布と乾燥を、繰り返すことが好ましい。また、ガラスペーストの塗布と乾燥に加えて、後述する焼き付けを1セットとして、これを1セット以上繰り返す方法によっても、絶縁膜を形成することができる。
【0076】
絶縁膜を形成する際の温度(焼き付け温度)は、特に限定されないが、750℃以上、900℃以下であることが好ましい。
焼き付け温度が750℃以上、900℃以下であると、素体の表面にさらにCu偏析物が生じやすい。また、Cu偏析物と絶縁膜に含まれるガラスとが混合物を形成しやすくなり、素体と絶縁膜との密着性を向上させることができる。
また焼き付けは、非酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。
焼き付けを非酸化性雰囲気中、825℃以上で行うことにより、素体の表面におけるCuの偏析を促すことができる。そのため、素体と絶縁膜との密着性をさらに向上させることができる。
【0077】
素体の表面に絶縁膜を形成する方法は、上記のガラスペーストを塗布し焼成する方法に限られず、例えば、スパッタ法、電子ビーム蒸着法、熱CVD法、プラズマCVD法、スプレー法、ディップ法、ディップスピンコート法、ゾルゲル法等が挙げられ、これらを2種以上組み合わせてもよい。
【0078】
素体を製造する方法は、上述したシート積層工法以外の方法であってもよい。
シート積層工法以外の方法としては、例えば、印刷積層方法(ビルドアップ法)が挙げられる。また、シート表面に配線やビアを形成する方法には、上述した方法のほかに、フォトリソグラフィを用いる方法を用いることもできる。
なお、上記工程に続いて、素体の表面に外部電極を形成する外部電極形成工程を行ってもよい。
【0079】
[外部電極形成工程]
外部電極形成工程では、素体の表面に外部電極を形成する。
外部電極形成工程としては、例えば、素体の表面にNiめっき及びSnめっきをこの順で行って、Ni/Snめっき層を形成する方法が挙げられる。
【0080】
外部電極形成工程では、めっき層を形成する工程の前に、ガラス及び導電性粒子を含むガラスペーストを素体の表面に塗布し、焼成(焼き付け)することで下地電極層を形成し、この層の表面に被覆層となるNi/Snめっき層を形成してもよい。
【0081】
以上の工程により、例えば、図1及び図2に示すような、素体の内部に導体層を有する電子部品を製造することができる。
【0082】
(第二実施形態)
本発明の電子部品の製造方法の第二実施形態は、Cu元素を含むセラミック原料を成形してセラミックの素体を準備する素体準備工程と、素体の表面に絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、素体の表面にコイルとなる巻線を巻きつけるコイル形成工程と、を含む。
【0083】
[素体準備工程]
素体準備工程において用いられるセラミック原料としては、本発明の電子部品の製造方法の第一実施形態において用いられるセラミック原料と同様のものを好適に用いることができる。
【0084】
セラミック原料を所定の形状に成形する方法としては、従来公知の粉末の成形方法を用いることができる。このとき、セラミック原料には、必要に応じて、樹脂やバインダ等を添加してもよい。セラミック原料を成形して得られる成形体を焼成することで、素体となる。このとき、素体の表面にCu偏析物が生じる条件で成形体を焼成する。
上記方法で得られる素体は、内部に導体層を含まない素体である。
【0085】
[絶縁膜形成工程]
絶縁膜形成工程では、焼成工程により得られた素体の表面に絶縁膜を形成する。
本発明の電子部品の製造方法の第二実施形態における絶縁膜形成工程は、本発明の電子部品の第一実施形態における絶縁膜形成工程と同様である。
【0086】
[コイル形成工程]
コイル形成工程では、素体の表面にコイルとなる巻線を巻きつける。
巻線の巻数(ターン数)及び巻線の直径は、電子部品に求められる特定に応じて適宜変更すればよい。
【0087】
上記工程により、本発明の実施形態に係る電子部品が製造される。
なお、本発明の電子部品の製造方法の第二実施形態では、素体の表面に外部電極を形成する外部電極形成工程を行ってもよい。
本発明の電子部品の製造方法の第二実施形態における外部電極形成工程は、本発明の電子部品の製造方法の第一実施形態における外部電極形成工程と同様である。
この場合、外部電極形成工程は、コイル形成工程よりも前に行い、コイル形成工程において、コイルとなる巻線の両端を外部電極と接続すればよい。
コイルとなる巻線と外部電極との接続方法は特に限定されないが、例えば、熱圧着により接合する方法が挙げられる。
【0088】
以上の工程により、例えば、図3及び図4に示すような、素体の周囲にコイルとなる巻線が巻回された電子部品を製造することができる。
【実施例
【0089】
以下、本発明の電子部品の一実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0090】
(実施例1)
[素体準備工程]
Fe量を一定とし、Ni/Znモル比が2.3となるように、かつ、Cu含有量が8mol%、となるように調製したフェライト原料を、巻線部と鍔部とを有するバーベル形状に成形して成形体を得た。
【0091】
成形体を1100℃で1時間焼成することによりセラミックの素体を得た。
焼成時の雰囲気は、常圧、酸素分圧10体積%とした。
得られた素体の形状は、図1及び図2に示すように、長さ方向に対向する第1端面及び第2端面、幅方向に対向する第1側面及び第2側面、並びに、厚さ方向に対向する上面及び底面を備える略直方体形状であった。
【0092】
[絶縁膜形成工程]
ガラスフリット(ホウケイ酸ガラス)と溶媒(テルピネオール)とを混合したガラスペーストを調製し、素体の第1側面を下に向けてガラスペーストに素体の幅方向の半分の位置まで浸漬させた後、150℃で30分乾燥させた。その後、素体の向きを上下逆となるように変更し、素体の第2側面を下に向けてガラスペーストに素体の幅方向の半分の位置まで浸漬させた後、150℃で30分乾燥させた。最後に、650℃で10分間焼き付けを行い、絶縁膜を形成して、実施例1に係る電子部品を製造した。なお、焼き付けは高温とするほど、Cu偏析物の偏析量が生じやすいため、750℃以上が好ましく、850℃以上にすることにより、Cu偏析物の流動性自体も向上する。
実施例1に係る電子部品を構成する素体の表面には、図1と同様に、素体の第1側面の全部に加えて素体の第1端面、第2端面、上面及び底面の一部を覆う絶縁膜と、素体の第2側面の全部に加えて素体の第1端面、第2端面、上面及び底面の一部を覆う絶縁膜とが形成されていた。
【0093】
(実施例2、比較例1~3)
フェライト原料中のFe量及びNi/Znモル比を変えずに、Cu含有量を6mol%、4mol%、1mol%、0mol%に変更したほかは、実施例1と同様の手順で、実施例2及び比較例1~3に係る電子部品を製造した。各実施例及び比較例の素体の焼結密度は、実施例1と同程度であった。
【0094】
(比較例4)
フェライト原料の組成を変えずに、成形体の焼成温度(最高温度)を950℃以下に変更したほかは、実施例1と同様の手順で、比較例4に係る電子部品を製造した。比較例4の素体の焼結密度は、実施例1と同程度であった。
【0095】
[素体のCu含有量の測定]
前述したWD-XRFによって素体のCu元素の含有量を測定したところ、いずれも、フェライト原料におけるCu元素の含有量と同じであった。
【0096】
[SEM-EDXによる観察]
実施例2に係る電子部品について、素体と絶縁膜の界面近傍をSEM-EDXにより3箇所で観察し、Cuの元素マッピングを行った。結果を図8図9及び図10に示す。
なお、実施例1及び比較例1~4に係る電子部品についても、素体と絶縁膜の界面近傍をSEM-EDXで観察したところ、実施例1に係る電子部品については、素体と絶縁膜との界面において、素体と絶縁膜とに接しているCu偏析物が確認できたが、比較例1~4に係る電子部品については、いずれも、Cu偏析物を確認できなかった。
【0097】
図8は、実施例2に係る電子部品の、素体と絶縁膜との界面のCuの元素マッピング画像である。
図8の結果より、実施例2に係る電子部品では、素体10と絶縁膜20との界面に、Cu元素の濃度が高い領域(Cu偏析物31)が存在していることを確認した。Cu偏析物31のアスペクト比は、2.0であった。従って、図8に示すSEM-EDX元素マッピング画像には、粒状のCu偏析物31が存在していることを確認した。なお、Cu偏析物31の直上に接する絶縁膜20の厚さは、0.03μmであった。
【0098】
図9は、実施例2に係る電子部品の、素体と絶縁膜との界面のCuの元素マッピング画像である。図9におけるSEM-EDXを測定する位置は、図8におけるSEM-EDXを測定する位置とは異なる位置である。
図9の結果より、実施例2に係る電子部品では、素体10と絶縁膜20との界面に、Cu元素の濃度が高い領域(Cu偏析物32)が存在していることを確認した。Cu偏析物32は素体10側に突出している。従って、図9に示すSEM-EDX元素マッピング画像には、楔状のCu偏析物32が存在していることを確認した。なお、Cu偏析物32の直上に接する絶縁膜20の厚さは、0.13μmであった。
【0099】
図10は、実施例2に係る電子部品の、素体と絶縁膜との界面のCuの元素マッピング画像である。図10におけるSEM-EDXを測定する位置は、図8におけるSEM-EDXを測定する位置及び図9におけるSEM-EDXを測定する位置とは異なる位置である。
図10の結果より、実施例2に係る電子部品では、素体10と絶縁膜20との界面に、層状のCu偏析物33が存在していることを確認した。なお、Cu偏析物33の直上に接する絶縁膜20の厚さは、0.5μmであった。
また、図8図9及び図10の結果より、同一の電子部品において、絶縁膜と素体との界面に、形状が異なる複数のCu偏析物が存在していることを確認した。
【0100】
[耐荷重の測定(スクラッチ試験)]
超薄膜スクラッチ試験機(CSR5000 株式会社レスカ製)を用いて、ダイヤモンド製圧子(先端R:5μm)を所定の荷重で各素体の絶縁膜に押し付けた状態で150μm移動させた際の絶縁膜の剥がれの有無を確認した。荷重は5mNから60mNまで5mN刻みで増加させた。剥がれが生じなかった最も高い荷重を耐荷重として表1に示す。なお、耐荷重が40mN以上であれば、素体と絶縁膜との密着性が充分に高いと判断できる。
【0101】
【表1】
【0102】
表1の結果より、本発明の実施形態に係る電子部品は、素体と絶縁膜の密着性が高いことを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の実施形態に係る電子部品は、インダクタ、アンテナ、ノイズフィルタ、電波吸収体、コンデンサと組み合わせたLCフィルタ、巻線コア等の部品として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0104】
1、2 電子部品
10、11 素体
10a 素体の第1端面
10b 素体の第2端面
10c 素体の第1側面
10d 素体の第2側面
10e 素体の上面
10f 素体の底面
20、20a、20b 絶縁膜
30、31、32、33、34a、34b、34c Cu偏析物
32a Cu偏析物が素体側に突出している突出部
40 導体層
43 巻線
50 外部電極
60 巻芯部
61 鍔部
L 長さ方向
La、La Cu偏析物の横方向の長さ
Lb、Lb Cu偏析物の縦方向の長さ
T 厚さ方向
絶縁膜の厚さ
、T Cu偏析物の直上に接する絶縁膜の厚さ
W 幅方向

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10