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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】電波吸収体
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20240911BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20240911BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20240911BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H01Q17/00
B32B7/025
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021047357
(22)【出願日】2021-03-22
(62)【分割の表示】P 2020514630の分割
【原出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021103785
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2018241069
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018241074
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 勝紀
(72)【発明者】
【氏名】中尾 幸子
(72)【発明者】
【氏名】林 秀樹
【審査官】鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098367(JP,A)
【文献】特開2003-198179(JP,A)
【文献】特開2018-056562(JP,A)
【文献】特開2015-152821(JP,A)
【文献】特開2003-096413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01Q 17/00
B32B 7/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(特性A)45°入射のTM偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上である、及び
(特性B)45°入射のTE偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上である、
電波吸収体。
【請求項2】
抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有する、請求項に記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記誘電体層が粘着剤層を含む、請求項に記載の電波吸収体。
【請求項4】
(特性A)45°入射のTM偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上であり、且つ前記抵抗膜の抵抗値が175~360Ω/□である、請求項又は3に記載の電波吸収体。
【請求項5】
(特性B)45°入射のTE偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上であり、且つ前記抵抗膜の抵抗値が355~690Ω/□である、請求項又は3に記載の電波吸収体。
【請求項6】
(特性A)45°入射のTM偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上であり、且つ式(1A):700≦d×√ε≦1150(式中、dは誘電体層の厚み(μm)を示し、εは誘電体層の比誘電率を示す。)を満たす、請求項のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項7】
(特性B)45°入射のTE偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上であり、且つ式(1B):682≦d×√ε≦960(式中、dは誘電体層の厚み(μm)を示し、εは誘電体層の比誘電率を示す。)を満たす、請求項又は5のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項8】
前記誘電体層の比誘電率が1~10である、請求項のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項9】
前記抵抗膜がバリア層を含む、請求項のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項10】
前記抵抗膜がモリブデンを含有する、請求項のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項11】
前記抵抗膜がさらにニッケル及びクロムを含有する、請求項10に記載の電波吸収体。
【請求項12】
前記反射層の誘電体層側の表面における表面粗さ(Rz)が1μm以上10μm以下である、請求項11のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項13】
さらに支持体を有し、電波吸収体の支持体側最表面の表面張力が35dyn/cm以上である、請求項12のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項14】
前記支持体の全光線透過率が30%以下である、請求項13に記載の電波吸収体。
【請求項15】
抵抗膜及び誘電体層を有し、且つ、
(特性A)厚さ10μmのアルミニウム板を誘電体層の他方の面に積層した際の45°入射のTM偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上となる、及び
(特性B)厚さ10μmのアルミニウム板を誘電体層の他方の面に積層した際の45°入射のTE偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上となる、
λ/4型電波吸収体用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収体等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やスマートフォン等の携帯通信機器の普及が急速に進んでおり、また自動車等において多くの電子機器が搭載されるようになり、これらから発生する電波・ノイズを原因とする電波障害、他の電子機器の誤動作等の問題が多発している。このような電波障害、誤動作等を防止する方策として、各種の電波吸収体が検討されている。例えば、特許文献1には、60~90GHzの周波数帯域において、電磁波吸収量が20dB以上である周波数帯域の帯域幅が2GHz以上である電磁波吸収体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開第2018-098367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電波吸収体の用途によっては、電波吸収体を電波が法線方向から入射するように配置できない場合がある。このような場合には、斜め入射に対する電波吸収性が重要となる。本発明者はこの点に着目して研究を進めていたところ、従来の電波吸収体では、法線方向から入射する電波には対応できるが、斜め入射の電波を十分に吸収することができないことを見出した。
【0005】
そこで、本発明は、斜め入射に対する電波吸収性が良好な電波吸収体を提供することを課題とする。特に、79GHz付近の電波の斜め入射に対する電波吸収性が良好な電波吸収体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、研究を進める中で、45度入射時の特性を最適化することにより、様々な角度からの入射に対して良好な電波吸収性を発揮することを見出した。そして、この知見に基づいて一層鋭意研究を進めた結果、本発明者は、(特性A)45°入射のTM偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上である、及び/又は(特性B)45°入射のTE偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上である、電波吸収体、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. (特性A)45°入射のTM偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上である、及び/又は
(特性B)45°入射のTE偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上である、
電波吸収体。
【0009】
項2. 抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有する、項1に記載の電波吸収体。
【0010】
項3. 前記特性Aを備え、且つ前記抵抗膜の抵抗値が175~360Ω/□である、項2記載の電波吸収体。
【0011】
項4. 前記特性Bを備え、且つ前記抵抗膜の抵抗値が355~690Ω/□である、項2記載の電波吸収体。
【0012】
項5. 前記特性Aを備え、且つ式(1A):700≦d×√ε≦1150(式中、dは誘電体層の厚み(μm)を示し、εは誘電体層の比誘電率を示す。)を満たす、項2又は3に記載の電波吸収体。
【0013】
項6. 前記特性Bを備え、且つ式(1B):682≦d×√ε≦960(式中、dは誘電体層の厚み(μm)を示し、εは誘電体層の比誘電率を示す。)を満たす、項2又は4に記載の電波吸収体。
【0014】
項7. 前記誘電体層の比誘電率が1~10である、項2~6のいずれかに記載の電波吸収体。
【0015】
項8. 前記抵抗膜がバリア層を含む、項2~7のいずれかに記載の電波吸収体。
【0016】
項9. 前記抵抗膜がモリブデンを含有する、項2~8のいずれかに記載の電波吸収体。
【0017】
項10. 前記抵抗膜がさらにニッケル及びクロムを含有する、項9に記載の電波吸収体。
【0018】
項11. 前記反射層の誘電体層側の表面における表面粗さ(Rz)が1μm以上10μm以下である、項2~10のいずれかに記載の電波吸収体。
【0019】
項12. さらに支持体を有し、電波吸収体の支持体側最表面の表面張力が35dyn/cm以上である、項2~11いずれかに記載の電波吸収体。
【0020】
項13. 前記支持体の全光線透過率が30%以下である、項12記載の電波吸収体。
【0021】
項14. 抵抗膜及び誘電体層を有し、且つ、
(特性A)厚さ10μmのアルミニウム板を誘電体層の他方の面に積層した際の45°入射のTM偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上となる、及び/又は
(特性B)厚さ10μmのアルミニウム板を誘電体層の他方の面に積層した際の45°入射のTE偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上となる、
λ/4型電波吸収体用部材。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、斜め入射、特に79GHz付近の電波の斜め入射に対する電波吸収性が良好な電波吸収体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の電波吸収体の一例を示す概略断面図である。
図2】上方の図は、本発明の電波吸収体用部材の一例を示す概略断面図である。下方は、該部材が接するように配置される、反射層として機能し得る被着体の一例を示す概略断面図である。
図3】本発明の電波吸収体の用途の一例(粘着剤を介して筐体上に配置されてなる形態の一例)を示す概略断面図である
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0025】
本発明は、その一態様において、(特性A)45°入射のTM偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上である、及び/又は(特性B)45°入射のTE偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上である、電波吸収体(本明細書において、「本発明の電波吸収体」と示すこともある。)、に関する。以下に、これについて説明する。なお、特性Aを備える本発明の電波吸収体を「本発明の電波吸収体A」と示し、特性Bを備える本発明の電波吸収体を「本発明の電波吸収体B」と示すこともある。
【0026】
<1.特性>
本発明の電波吸収体は、(特性A)45°入射のTM偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上である、及び/又は(特性B)45°入射のTE偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上である、という特性(本明細書において、「本発明の特性」と示すこともある。)を備える。この特性を備えることにより、様々な角度からの入射に対して良好な電波吸収性を発揮することが可能である。
【0027】
「周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲」とは、換言すれば、周波数帯域75~85GHz中、吸収性能15dB以上(=反射減衰量が-15dB以下)を示す周波数帯域の幅(単位GHz)である。
【0028】
上記吸収範囲は、以下の方法により測定することができる。
【0029】
PNAマイクロ波ネットワーク・アナライザN5227A(キーサイト社製)、PNA-Xシリーズ2ポート用ミリ波コントローラN5261A(キーサイト社製)、ホーンアンテナFSS-07(HVS社製)を用いて電波吸収測定装置を構成する。この電波吸収測定装置を用いて、電波吸収体のEバンド(60~90GHz)での電波吸収量をJIS R1679に基づいて測定する。
【0030】
測定は測定試料前面に対して45°で電波を入射させ、測定試料面心の垂線に対して,ホーンアンテナを等しい角度で設置して反射減衰量を測定する。また、特性Aの測定の際は、入射波は電界が入射面に水平(TM波)になるような状態で測定する。また、特性Bの測定の際は、入射波は電界が入射面に垂直(TE波)になるような状態で測定する。反射減衰量の絶対値を吸収性能とする。
【0031】
上記吸収範囲は、好ましくは5GHz以上、より好ましくは6GHz以上、さらに好ましくは8GHz以上、よりさらに好ましくは9.5GHz以上である。上記吸収範囲は、周波数帯域75~85GHzにおける範囲であるので、その上限は10GHzである。
【0032】
<2.構成>
本発明の電波吸収体の構成は、上記本発明の特性を備えるものである限り特に制限されず、例えば電波吸収体の公知の構成を採用することができる。一実施形態において、本発明の電波吸収体は、抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有する、という構成を備える。すなわち、一実施形態において、本発明の電波吸収体は、λ/4型電波吸収体である。以下に、この実施形態について説明する。
【0033】
<2-1.抵抗膜>
抵抗膜は、電波吸収体において抵抗層として機能し得る層を含む限り特に制限されない。
【0034】
抵抗膜の抵抗値は、本発明の特性を満たし得るものである限り特に制限されない。抵抗膜の抵抗値を調節することにより、本発明の特性における吸収範囲を調節することが可能である。
【0035】
本発明の電波吸収体Aにおいて、抵抗膜の抵抗値は、例えば160~370Ω/□である。該範囲の中でも、さらに好ましくは175Ω/□以上、よりさらに好ましくは200Ω/□以上、特に好ましくは230Ω/□以上である。該範囲の中でもさらに好ましくは360Ω/□以下、よりさらに好ましくは320Ω/□以下、特に好ましくは290Ω/□以下である。
【0036】
本発明の電波吸収体Bにおいて、抵抗膜の抵抗値は、例えば320~720Ω/□である。該範囲の中でも、さらに好ましくは355Ω/□以上、よりさらに好ましくは400Ω/□以上、特に好ましくは440Ω/□以上、最も好ましくは460Ω/□以上である。該範囲の中でも、さらに好ましくは690Ω/□以下、よりさらに好ましくは600Ω/□以下、特に好ましくは540Ω/□以下である。
【0037】
抵抗膜の抵抗値は、表面抵抗計(MITSUBISHI CHEMICALANALYTECH社製、商品名「Loresta-EP」)を用いて、4端子法により測定することができる。
【0038】
抵抗膜の厚みは、本発明の特性を満たし得る抵抗値となるものである限り特に制限されない。抵抗膜の厚みは、例えば1nm以上200nm以下、好ましくは2nm以上100nm以下、より好ましくは2nm以上50nm以下である。
【0039】
抵抗膜の層構成は特に制限されない。抵抗膜は、1種単独の層から構成されるものであってもよいし、2種以上の層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0040】
<2-1-1.抵抗層>
<2-1-1-1.ITO含有抵抗層>
抵抗層としては、例えば酸化インジウムスズ(以下「ITO」とする)が用いられる。なかでも、非晶質構造が極めて安定であり、高温多湿の環境下においても抵抗層のシート抵抗の変動を抑えることができる点から、1~40重量%のSnO2、より好ましくは2~35重量%のSnO2を含有するITOを含有するものが好ましく用いられる。上記ITOの含有量は抵抗層中、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0041】
<2-1-1-2.モリブデン含有抵抗層>
抵抗層としては、耐久性、シート抵抗の調整が容易である観点から、モリブデンを含有する抵抗層が好ましく用いられる。モリブデンの含有量の下限は特に限定されないが、より耐久性を高める観点から、5重量%が好ましく、7重量%がより好ましく、9重量%が更に好ましく、11重量%がより更に好ましく、13重量%が特に好ましく、15重量%が非常に好ましく、16重量%が最も好ましい。また、上記モリブデンの含有量の上限は、表面抵抗値の調整の容易化の観点から、70重量%が好ましく、30重量%がより好ましく、25重量%が更に好ましく、20重量%が更により好ましい。
【0042】
上記抵抗層は、モリブデンを含有している場合、さらにニッケル及びクロムを含有することがより好ましい。抵抗層にモリブデンに加えてニッケル及びクロムを含有することでより耐久性に優れた電波吸収体とすることができる。ニッケル、クロム及びモリブデンを含有する合金としては、例えば、ハステロイB-2、B-3、C-4、C-2000、C-22、C-276、G-30、N、W、X等の各種グレードが挙げられる。
【0043】
上記抵抗層がモリブデン、ニッケル及びクロムを含有する場合、モリブデンの含有量が5重量%以上、ニッケルの含有量が40重量%以上、クロムの含有量が1重量%以上であることが好ましい。モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量が上記範囲であることで、より耐久性に優れた電波吸収体とすることができる。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が7重量%以上、ニッケル含有量が45重量%以上、クロム含有量が3重量%以上であることがより好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が9重量%以上、ニッケル含有量が47重量%以上、クロム含有量が5重量%以上であることが更に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が11重量%以上、ニッケル含有量が50重量%以上、クロム含有量が10重量%以上であることがより更に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が13重量%以上、ニッケル含有量が53重量%以上、クロム含有量が12重量%以上であることが特に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が15重量%以上、ニッケル含有量が55重量%以上、クロム含有量が15重量%以上であることが非常に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が16重量%以上、ニッケル含有量が57重量%以上、クロム含有量が16重量%以上であることが最も好ましい。また、上記ニッケルの含有量は、80重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましく、65重量%以下であることが更に好ましい。上記クロム含有量の上限は、50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましく、35重量%以下であることが更に好ましい。
【0044】
上記抵抗層は、上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属を含有してもよい。そのような金属としては、例えば、鉄、コバルト、タングステン、マンガン、チタン等が挙げられる。上記抵抗層がモリブデン、ニッケル及びクロムを含有する場合、上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属の合計含有量の上限は、抵抗層の耐久性の観点から、好ましくは45重量%、より好ましくは40重量%、更に好ましくは35重量%、より更に好ましくは30重量%、特に好ましくは25重量%、非常に好ましくは23重量%である。上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属の合計含有量の下限は、例えば1重量%以上である。
【0045】
上記抵抗層が鉄を含有する場合、抵抗層の耐久性の観点から、含有量の好ましい上限は25重量%、より好ましい上限は20重量%、更に好ましい上限は15重量%であり、好ましい下限は1重量%である。上記抵抗層がコバルト及び/又はマンガンを含有する場合、抵抗層の耐久性の観点から、それぞれ独立して、含有量の好ましい上限は5重量%、より好ましい上限は4重量%、更に好ましい上限は3重量%であり、好ましい下限は0.1重量%である。上記抵抗層がタングステンを含有する場合、抵抗層の耐久性の観点から、含有量の好ましい上限は8重量%、より好ましい上限は6重量%、更に好ましい上限は4重量%であり、好ましい下限は1重量%である。
【0046】
上記抵抗層は、ケイ素及び/又は炭素を含有してもよい。抵抗層がケイ素及び/又は炭素を含有する場合、上記ケイ素及び/又は炭素の含有量は、それぞれ独立して、1重量%以下であることが好ましく0.5重量%以下であることがより好ましい。また、抵抗層がケイ素及び/又は炭素を含有する場合、上記ケイ素及び/又は炭素の含有量は、0.01重量%以上であることが好ましい。
【0047】
抵抗層の抵抗値は、本発明の特性を満たし得るものである限り特に制限されない。抵抗層の抵抗値を調節することにより、本発明の特性における吸収範囲を調節することが可能である。
【0048】
本発明の電波吸収体Aにおいて、抵抗層の抵抗値は、例えば160~370Ω/□である。該範囲の中でも、さらに好ましくは175~360Ω/□、よりさらに好ましくは200~320Ω/□、特に好ましくは230~290Ω/□である。
【0049】
本発明の電波吸収体Bにおいて、抵抗層の抵抗値は、例えば320~720Ω/□である。該範囲の中でも、さらに好ましくは355~690Ω/□、よりさらに好ましくは400~600Ω/□、特に好ましくは440~540Ω/□である。
【0050】
抵抗層の厚みは、本発明の特性を満たし得る抵抗値となるものである限り特に制限されない。抵抗層の厚みは、例えば1nm以上200nm以下、好ましくは2nm以上100nm以下、より好ましくは2nm以上50nm以下である。
【0051】
抵抗層の層構成は特に制限されない。抵抗層は、1種単独の抵抗層から構成されるものであってもよいし、2種以上の抵抗層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0052】
<2-1-2.バリア層>
耐久性の観点から、抵抗膜はバリア層を含むことが好ましい。バリア層は、抵抗層の少なくとも一方の表面上に配置される。バリア層について以下に詳述する。
【0053】
バリア層は、抵抗層を保護し、その劣化を抑えることができる層である限り、特に制限されない。バリア層の素材としては、例えば金属化合物、半金属化合物、好ましくは金属又は半金属の酸化物、窒化物、窒化酸化物等が挙げられる。バリア層は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、上記素材以外の成分が含まれていてもよい。その場合、バリア層中の上記素材量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0054】
バリア層が含む金属元素としては、例えばチタン、アルミニウム、ニオブ、コバルト、ニッケル等が挙げられる。バリア層が含む半金属元素としては、例えばケイ素、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス等が挙げられる。
【0055】
上記酸化物としては、例えばMO[式中、Xは式:n/100≦X≦n/2(nは金属又は半金属の価数である)を満たす数であり、Mは金属元素又は半金属元素である。]で表される化合物が挙げられる。
【0056】
上記窒化物としては、例えばMN[式中、Yは式:n/100≦Y≦n/3(nは金属又は半金属の価数である)を満たす数であり、Mは金属元素又は半金属元素である。]で表される化合物が挙げられる。
【0057】
上記窒化酸化物としては、例えばMO[式中、XとYは、n/100≦X、n/100≦Y、かつ、X+Y≦n/2(nは金属又は半金属の価数である)であり、Mは金属元素又は半金属元素である。]で表される化合物が挙げられる。
【0058】
上記酸化物又は窒化酸化物の酸化数Xに関しては、例えばMO又はMOを含む層の断面を、FE-TEM-EDX(例えば、日本電子社製「JEM-ARM200F」)により元素分析し、MOx又はMOを含む層の断面の面積当たりのMとOとの元素比率からXを算出することにより、酸素原子の価数を算出することができる。
【0059】
上記窒化物又は窒化酸化物の窒素化数Yに関しては、例えばMNy又はMOxNyを含む層の断面を、FE-TEM-EDX(例えば、日本電子社製「JEM-ARM200F」)により元素分析し、MNy又はMOxNyを含む層の断面の面積当たりのMとNとの元素比率からYを算出することにより、窒素原子の価数を算出することができる。
【0060】
バリア層の素材の具体例としては、SiO、SiO、Al、MgAl、CuO、CuN、TiO、TiN、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)等が挙げられる。
【0061】
バリア層の厚みは、特に制限されない。バリア層の厚みは、例えば1nm以上200nm以下、好ましくは1nm以上100nm以下、より好ましくは1nm以上20nm以下である。
【0062】
バリア層の層構成は特に制限されない。バリア層は、1種単独のバリア層から構成されるものであってもよいし、2種以上のバリア層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0063】
<2-2.誘電体層>
誘電体層は、電波吸収体において目的の波長に対して誘電体として機能し得るものである限り、特に制限されない。誘電体層としては、特に制限されないが、例えば樹脂シート、粘着剤等が挙げられる。
【0064】
樹脂シートは、樹脂を素材として含むシート状のものである限り、特に制限されない。樹脂シートは、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、樹脂以外の成分が含まれていてもよい。その場合、樹脂シート中の樹脂の合計量は、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0065】
樹脂としては、特に制限されず、例えばエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩化ビニル、ウレタン、アクリル、アクリルウレタン、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、エポキシ等の合成樹脂や、ポリイソプレンゴム、ポリスチレン・ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン・プロピレンゴムおよびシリコーンゴム等の合成ゴム材料を樹脂成分として用いることが好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上の組合せで使用することができる。
【0066】
誘電体層は、発泡体や粘着剤であってもよい。
【0067】
誘電体層は、粘着性を備えるものであってもよい。このため、粘着性を有しない誘電体を粘着剤層により他の層に積層させる場合、該誘電体と粘着剤層とを合わせたものが「誘電体層」となる。隣接する層と積層し易いという観点から、誘電体層は、好ましくは粘着剤層を含む。
【0068】
誘電体層の比誘電率は、本発明の特性を満たし得るものである限り特に制限されない。誘電体層の比誘電率を調節することにより(特に、それにより後述の式(1)の値を調節することにより)、本発明の特性における吸収範囲を調節することが可能である。誘電体層の比誘電率は、例えば1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~5である。
【0069】
誘電体層の厚みは、本発明の特性を満たし得るものである限り特に制限されない。誘電体層の厚みを調節することにより(特に、それにより後述の式(1)の値を調節することにより)、本発明の特性における吸収範囲を調節することが可能である。
【0070】
本発明の電波吸収体Aにおいて、誘電体層の厚みは、例えば300~1300μm、好ましくは470~760μm、より好ましくは520~680μmである。
【0071】
本発明の電波吸収体Bにおいて、誘電体層の厚みは、例えば200~1200μm、好ましくは420~620μm、より好ましくは470~590μmである。
【0072】
誘電体層については、特性Aにおける吸収範囲を調節する一手段として、式(1):700≦d×√ε≦1150(式中、dは誘電体層の厚み(μm)を示し、εは誘電体層の比誘電率を示す。)を満たすことが、好ましい。d×√εは、好ましい下限は750、より好ましい下限は820、特に好ましい下限は880である。d×√εの好ましい上限は1150、より好ましい上限は1050、特に好ましい上限は980である。
【0073】
また、誘電体層については、特性Bにおける吸収範囲を調節する一手段として、式(1):682≦d×√ε≦960(式中、dは誘電体層の厚み(μm)を示し、εは誘電体層の比誘電率を示す。)を満たすことが、好ましい。d×√εの好ましい下限は720、より好ましい下限は750、特に好ましい下限は770であり、最も好ましい下限は775である。d×√εの好ましい上限は930、より好ましい上限は900、特に好ましい上限は870である。
【0074】
誘電体層が複数の層からなる場合は、それぞれの層についての値を出して合算して算出する。例えば、誘電体層が、誘電体層1及び誘電体層2(例えば粘着テープ等)からなる場合は、「d×√ε」は、「誘電体層1の厚み×(誘電体層1の比誘電率)0.5」と「誘電体層2の厚み×(誘電体層2の比誘電率)0.5」とを合算して算出する。
【0075】
誘電体層の厚みは、Nikon DIGIMICROSTANDMS-11C+Nikon DIGIMICRO MFC-101によって測定することができる。
【0076】
誘電体層の比誘電率は、ネットワークアナライザー、空洞共振器などを用いて10GHzにおける比誘電率を空洞共振器摂動法により測定することができる。
【0077】
誘電体層の層構成は特に制限されない。誘電体層は、1種単独の誘電体層から構成されるものであってもよいし、2種以上の誘電体層が複数組み合わされたものであってもよい。例えば、粘着性を有しない誘電体とその両面に配置された粘着剤層とからなる3層構造の誘電体層、粘着性を有する誘電体からなる1層構造の誘電体層等が挙げられる。
【0078】
<2-3.反射層>
反射層は、電波吸収体において電波の反射層として機能し得るものである限り、特に制限されない。反射層としては、特に制限されないが、例えば金属膜が挙げられる。
【0079】
金属膜は、金属を素材として含む層である限り、特に制限されない。金属膜は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、金属以外の成分が含まれていてもよい。その場合、金属膜中の金属の合計量は、例えば30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、非常に好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0080】
金属としては、特に制限されず、例えばアルミニウム、銅、鉄、銀、金、クロム、ニッケル、モリブデン、ガリウム、亜鉛、スズ、ニオブ、インジウム等が挙げられる。また、金属化合物、例えばITO等も、金属膜の素材として使用することができる。これらは1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0081】
反射層の厚みは、特に制限されない。反射層の厚みは、例えば1μm以上500μm以下、好ましくは2μm以上200μm以下、より好ましくは5μm以上100μm以下である。
【0082】
本発明の好ましい一態様においては反射層の誘電体層側の表面における表面粗さ(Rz)が1μm以上10μm以下であることが好ましい。この範囲であることにより、誘電体層と反射層との良好な密着性を発揮し、かつ、より良好な電波吸収性を発揮することができる。該表面粗さ(Rz)は、好ましくは1μm以上8μm以下、より好ましくは1μm以上5μm以下である。
【0083】
本発明の好ましい一態様においては、反射層の誘電体層側とは反対側の表面の表面粗さ(Rz)が1μm以上である。これにより、反射層の誘電体層側とは反対側に積層される層(例えば、粘着剤層)との良好な密着性を発揮することができ、本発明の電波吸収体を、他の部材(例えば、自動車内のデバイス等)により容易に取り付けることが可能になる。該表面粗さ(Rz)は、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは2μm以上15μm以下である。
【0084】
反射層の表面粗さ(Rz)は次のようにして測定することができる。カラー3Dレーザー顕微鏡(VK8710(キーエンス社製)又はその同等品)により反射層表面の凹凸の測定を行い表面粗さ(Rz)を見積もることができる。具体的には、JIS B0601:2001に準じて、対物レンズ50倍を用いて、10μm×10μm範囲でのRzを反射層表面の任意の5か所で測定し、その平均値より求めることができる。
【0085】
反射層の表面粗さ(Rz)は、表面粗さを調整する公知の調整方法に従って又は準じて調節することが可能である。例えば、金属めっき技術による微細な金属粒子の付与や物理的・化学的手法により表面を削る方法等により調整することができる。
【0086】
反射層の層構成は特に制限されない。反射層は、1種単独の反射層から構成されるものであってもよいし、2種以上の反射層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0087】
<2-4.支持体>
本発明の電波吸収体が抵抗膜を有する場合、さらに支持体を有することが好ましい。これにより、抵抗膜を保護することができ、電波吸収体としての耐久性を高めることが可能である。支持体は、シート状のものである限り、特に制限されない。支持体としては、特に制限されないが、例えば樹脂基材が挙げられる。
【0088】
樹脂基材は、樹脂を素材として含む基材であって、シート状のものである限り、特に制限されない。樹脂基材は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、樹脂以外の成分が含まれていてもよい。例えば、比誘電率を調整する観点から酸化チタン等が含まれていてもよい。その場合、樹脂基材中の樹脂の合計量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0089】
樹脂としては、特に制限されず、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上の組合せで使用することができる。
【0090】
これらの中でも、生産性や強度の観点から、好ましくはポリエステル系樹脂、より好ましくはポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0091】
支持体の比誘電率は、特に制限されない。支持体の比誘電率は、例えば1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~5である。
【0092】
支持体の厚みは、特に制限されない。支持体の厚みは、例えば5μm以上500μm以下、好ましくは10μm以上300μm以下、より好ましくは20μm以上300μm以下である。
【0093】
本発明の好ましい一態様においては、電波吸収体の支持体側最表面(通常、支持体の抵抗膜側とは反対側の表面)の表面張力が35dyn/cm以上であることが好ましい。表面張力がこのような値を採る場合、優れた防汚性を発揮することができる。この結果、汚れをふき取った後であっても、電波吸収性に優れる。該表面張力は36dyn/cm以上であることがより好ましい。
該表面張力の上限は、特に制限されないが、製造時に支持体同士のブロッキングを抑える観点から、好ましくは60dyn/cm以下、より好ましくは57dyn/cm以下、さらに好ましくは55dyn/cm以下である。
【0094】
表面張力は、JIS K 6768「プラスチック-フィルム及びシート-ぬれ張力試験方法」に準じ、ぬれ張力試験用液(和光純薬製、ぬれ張力試験用混合液)を用いて測定することができる。上記した表面張力は支持体の材料の選択、光反射剤や光吸収剤等の添加剤の配合により調整することができる。
【0095】
本発明の好ましい一態様においては、支持体の全光線透過率は30%以下であることが好ましい。支持体の全光線透過率がこのような値を採る場合、優れた耐光性を発揮することができる。該全光線透過率のより好ましい上限は20%、さらに好ましい上限は16%である。該全光線透過率の下限は、特に制限されず、例えば0.01%以上、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上である。
【0096】
全光線透過率は、ヘーズメーター(日本電飾社製「NDH-4000」、又はその同等品)を用いて、JIS K7105に基づいて、測定することができる。
上記した全光線透過率は、支持体の材料の選択、光反射剤や光吸収剤等の添加剤の配合により調整することができる。
【0097】
支持体は、上記した表面張力及び全光線透過率の範囲を充足させるために、光反射剤を含有することが好ましい。光反射剤は、支持体材料(上記樹脂等)と混合された状態であってもよいし、支持体表面を構成するコーティング層に含まれていてもよい。好ましくは、光反射剤は、支持体材料(上記樹脂等)と混合された状態である。
【0098】
光反射剤としては、紫外線や可視光等(特に紫外線)を反射、散乱等可能なものであって、且つ支持体に含まれていても本発明の電波吸収体の電波吸収特性を著しく低下させない限り特に制限されず、例えば、無機粉体を使用することができる。
【0099】
無機粉体の平均粒子径は、上記した表面張力及び全光線透過率の範囲を充足させる観点から、好ましくは50~400nm、より好ましくは60~390nm、さらに好ましくは70~380nmである。
【0100】
無機粉体としては、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物が挙げられる。これらの中でも、屈折率が大きく光の散乱が大きい為、全光線透過率を調整しやすいという観点から、二酸化チタンが好ましい。
【0101】
光反射剤として適用される酸化亜鉛の平均粒子径は、上記した表面張力及び全光線透過率の範囲を充足させる観点から、好ましくは50~400nm、より好ましくは60~390nm、さらに好ましくは70~380nmである。
【0102】
光反射剤として適用される酸化亜鉛の市販品の例としては、MZ-300(表面処理剤なし、粒径30~40nm、テイカ(株))、MZ-303S(メチコン処理、粒径30~40nm、テイカ(株))、MZ-303M(ジメチコン処理、粒径30~40nm、テイカ(株))、MZ-500(表面処理剤なし、粒径20~30nm、テイカ(株))、MZ-505S(メチコン処理、粒径20~30nm、テイカ(株)製)、MZ-505M(ジメチコン処理、粒径20~30nm、テイカ(株))、MZ-700(表面処理剤なし、粒径10~20nm、テイカ(株))、MZ-707S(メチコン処理、粒径10~20nm、テイカ(株))、FINEX-25(表面処理剤なし、粒径60nm、堺化学(株)製)、FINEX-25LP(ジメチコン処理、粒径60nm、堺化学(株))、FINEX-50(表面処理剤なし、粒径20nm、堺化学(株))、FINEX-50LP(ジメチコン処理、粒径20nm、堺化学(株))、FINEX-75(表面処理剤なし、粒径10nm、堺化学(株)製)などが挙げられる。
【0103】
光反射剤として適用される二酸化チタンの平均粒子径は、上記した表面張力及び全光線透過率の範囲を充足させる観点から、好ましくは50~400nm、より好ましくは60~390nm、さらに好ましくは70~380nmである。
【0104】
光反射剤として適用される二酸化チタンの具体例として、タイペークCR-50(酸化アルミニウム処理、粒径25nm、石原産業(株)製)、バイエルチタンR-KB-1(酸化亜鉛処理、酸化アルミニウム処理、二酸化ケイ素処理、粒径30nm~40nm、バイエル社製)、タイペークTTO-M-1(酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム処理、粒径10nm~25nm、石原産業(株)製)、タイペークTTO-D-1(酸化ジルコニウム処理、酸化アルミニウム処理、粒径20nm~30nm、石原産業(株)製)、ソラベールCT-100、ソラベールCT-200、ソラベールCT-300、ソラベールCT-434クローダージャパン(株)製)、STR-100シリーズ、STR-40(堺化学(株)製)が挙げられる。但し、これら例示に限定されるものでない。
【0105】
上述の表面張力及び全光線透過率を調整する方法としては、上記した光反射剤を配合する以外にも、例えば光吸収剤を含有する塗料により支持体表面を塗工する等の方法が挙げられる。また上述の表面張力を調整する方法としては、対象面に、コロナ放電処理、
外線照射処理、オゾン処理及びプラズマ処理等の処理を行う方法、コーティング剤を塗布する方法等が挙げられる。
【0106】
支持体の層構成は特に制限されない。支持体は、1種単独の支持体から構成されるものであってもよいし、2種以上の支持体が複数組み合わされたものであってもよい。
【0107】
<2-5.層構成>
本発明の電波吸収体が抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有する場合、各層は、電波吸収性能を発揮することができる順に配置される。一例として、抵抗膜、誘電体層、及び反射層は、この順に配置される。
【0108】
さらに、本発明の電波吸収体が支持体を有する場合、一例として、支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層は、この順に配置される。
【0109】
本発明の電波吸収体においては、支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層以外に、他の層を含むものであってもよい。他の層は、支持体、抵抗膜、誘電体層、及び反射層それぞれの層の、どちらか一方の表面上に配置され得る。
【0110】
<3.斜め入射に対する電波吸収性>
本発明の電波吸収体は、本発明の特性(45度入射時の特定の特性)を備えるので、様々な角度からの入射(特性Aを備える場合は、特に、TM偏波の入射であり、特性Bを備える場合は、特に、TE偏波の入射)、特に79GHz付近(例えば、75~85GHz)の電波の斜め入射(特性Aを備える場合は、特に、TM偏波の入射であり、特性Bを備える場合は、特に、TE偏波の入射)に対して良好な電波吸収性を発揮することが可能である。
【0111】
本発明の電波吸収体の電波吸収性の具体例は以下の通りである。
【0112】
なお、以下の具体例における吸収範囲は、以下の方法により測定することができる。
【0113】
PNAマイクロ波ネットワーク・アナライザN5227A(キーサイト社製)、PNA-Xシリーズ2ポート用ミリ波コントローラN5261A(キーサイト社製)、ホーンアンテナFSS-07(HVS社製)を用いて電波吸収測定装置を構成する。この電波吸収測定装置を用いて、電波吸収体のEバンド(60~90GHz)での電波吸収量をJIS R1679に基づいて測定する。
【0114】
測定は測定試料前面に対して20°又は60°で電波を入射させ、測定試料面心の垂線に対して,ホーンアンテナを等しい角度で設置して反射減衰量を測定する。また、特性Aの測定の際は、入射波は電界が入射面に水平(TM波)になるような状態で測定する。また、特性Bの測定の際は、入射波は電界が入射面に垂直(TE波)になるような状態で測定する。反射減衰量の絶対値を吸収性能とする。
【0115】
本発明の電波吸収体Aは、好ましくは、20°入射のTM偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能10dB以上(好ましくは15dB以上)の吸収範囲が2GHz以上である、という電波吸収性(電波吸収性1A)を発揮する。電波吸収性1Aにおける吸収範囲は、好ましくは4GHz以上、より好ましくは6GHz以上、さらに好ましくは8以上、よりさらに好ましくは9.5以上である。
【0116】
本発明の電波吸収体Aは、好ましくは、60°入射のTM偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能10dB以上(好ましくは15dB以上)の吸収範囲が2GHz以上である、という電波吸収性(電波吸収性2A)を発揮する。電波吸収性2Aにおける吸収範囲は、好ましくは4GHz以上、より好ましくは6GHz以上、さらに好ましくは8以上、よりさらに好ましくは9.5以上である。
【0117】
本発明の電波吸収体Bは、好ましくは、20°入射のTE偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能10dB以上(好ましくは15dB以上)の吸収範囲が4GHz以上である、という電波吸収性(電波吸収性1B)を発揮する。電波吸収性1Bにおける吸収範囲は、好ましくは6GHz以上、より好ましくは8GHz以上、さらに好ましくは9GHz以上、よりさらに好ましくは9.5GHz以上である。
【0118】
本発明の電波吸収体Bは、好ましくは、60°入射のTE偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能10dB以上(好ましくは15dB以上)の吸収範囲が4GHz以上である、という電波吸収性(電波吸収性2B)を発揮する。電波吸収性2Bにおける吸収範囲は、好ましくは6GHz以上、より好ましくは8GHz以上、さらに好ましくは9GHz以上、よりさらに好ましくは9.5GHz以上である。
【0119】
上記吸収範囲は、周波数帯域75~85GHzにおける範囲であるので、その上限は10GHzである。
【0120】
<4.製造方法>
本発明の電波吸収体は、その構成に応じて、様々な方法、例えば公知の製造方法に従って又は準じて得ることができる。例えば、本発明の電波吸収体が抵抗膜、誘電体層、及び反射層を有する場合であれば、支持体上に抵抗膜、誘電体層、及び反射層を順に積層させる工程を含む方法により、得ることができる。
【0121】
積層方法は特に制限されない。
【0122】
抵抗膜は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、パルスレーザーデポジション法等により行うことができる。これらの中でも、膜厚制御性の観点から、スパッタリング法が好ましい。スパッタリング法としては、特に限定されないが、例えば、直流マグネトロンスパッタ、高周波マグネトロンスパッタ及びイオンビームスパッタ等が挙げられる。また、スパッタ装置は、バッチ方式であってもロール・ツー・ロール方式であってもよい。
【0123】
誘電体層や反射層は、例えば誘電体層が有する粘着性を利用して、積層することができる。
【0124】
<5.λ/4型電波吸収体用部材>
本発明は、その一態様において、抵抗膜及び誘電体層を有し、且つ、(特性A)厚さ10μmのアルミニウム板を誘電体層の他方の面に積層した際の45°入射のTM偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上となる、及び/又は(特性B)厚さ10μmのアルミニウム板を誘電体層の他方の面に積層した際の45°入射のTE偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲が4GHz以上となる、λ/4型電波吸収体用部材に関する。なお、厚さ10μmのアルミニウム板は、誘電体層と接する表面における表面粗さ(Rz)が4μmであるアルミニウム板を用いる。
【0125】
λ/4型電波吸収体用部材は、抵抗膜、誘電体層をこの順に有し、誘電体層を金属等の反射層として機能しうる被着体に接するように配置することによりλ/4型電波吸収体を形成するための部材である。λ/4型電波吸収体用部材は、更に支持体を有しても良く、その場合、λ/4型電波吸収体用部材は、支持体、抵抗膜、誘電体層をこの順に有する。支持体、抵抗被膜、誘電体層、本発明の特性、その他の構成については、本発明の電波吸収体に関する説明と同様である。
【0126】
<6.用途>
本発明の電波吸収体は、不要な電波を吸収する性能を有するため、例えば自動車、道路、人の相互間で情報通信を行う高度道路交通システム(ITS)や自動車衝突防止システムに用いるミリ波レーダー等の、電波干渉抑制やノイズ低減の目的として好適に利用できる。また、その他の用途として光トランシーバや、次世代移動通信システム(5G)、近距離無線転送技術等における電波対策部材としても用いることができる。
【0127】
また、本発明の電波吸収体は、斜め入射に対して良好な電波吸収性を発揮するので、吸収対象の電波の入射方向に対して斜めに(例えば10~80度、20~60度)に配置するために、好適に使用することができる。
【0128】
本発明の電波吸収体が対象とする電波の周波数は、75~85GHzが好適である。
【実施例
【0129】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0130】
本発明の電波吸収体Aに関する実施例は以下の通りである。
【0131】
(1A)電波吸収体の製造
(実施例1A)
支持体として、厚み125μmの酸化チタン(平均粒径 200μm)を練りこんだポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(比誘電率3.4、TiO;10重量%)を用意した。
【0132】
上記PETフィルム上に抵抗値260Ω/□の抵抗膜(バリア層1/抵抗層/バリア層2)を次の通りに形成した。まず、DCパルススパッタリングによりArとO2の比率を1:1に調整したがガスを導入して、0.2Paになるように調整してSiO2層(バリア層1:厚さ10nm)を成膜した。続いて、バリア層1上に、DCパルススパッタリングにより抵抗値255Ω/□の抵抗層を形成した。スパッタリングは合金(組成:モリブデン16.4重量%、ニッケル55.2重量%、クロム18.9重量%、鉄5.5重量%、タングステン3.5重量%、シリカ0.5重量%)をターゲットに用い、出力0.4kW、Arガス流量100sccmで導入して圧力0.12Paとなるように調整して行った。最後に、バリア層1と同様にしてバリア層2(厚さ5nm)を形成した。
【0133】
次いで、形成したバリア層2上に厚み600μm且つ比誘電率2.4のアクリル両面粘着テープからなる誘電体を積層し、更に誘電体上に厚さ10μmのアルミニウム(Rz=4.0μm)からなる反射層を積層して電波吸収体を得た。
【0134】
(実施例2A~5A、7A~11A、比較例1A~4A)
抵抗膜の抵抗値及び/又は誘電体の厚みを表1及び表2のとおりに変更する以外は、実施例1Aと同様にして電波吸収体を得た。
【0135】
(実施例6A)
バリア層を形成しない(抵抗層=抵抗膜とする)以外は、実施例1Aと同様にして電波吸収体を得た。
【0136】
(実施例12A)
反射層を、厚さ10μmである銅板(Rz=0.9μm)に変更する以外は、実施例5Aと同様にして電波吸収体を得た。
【0137】
(実施例13A)
反射層を、厚さ10μmである銅板(Rz=12μm)に変更する以外は、実施例5Aと同様にして電波吸収体を得た。
【0138】
(実施例14A)
支持体をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(比誘電率3.2、表面張力36dyn/cm)に変更する以外は、実施例5Aと同様にして電波吸収体を得た。なお大気圧プラズマ装置(積水化学工業株式会社製、「AP/TO2」、ダイレクト電極タイプ)にNガスを処理ガスとして導入し、投入電力900W(140V-6.4A)でプラズマガスを発生させ、15m/分の速度で搬送し、プラズマ処理を行うことで、支持体表面の表面張力を調整した。なお、プラズマ処理を行うスリット面積は200mm(フィルムの幅方向に200mmかつ長さ方向に1mm)とした。
【0139】
(実施例15A)
酸化チタン(平均粒径 200μm)を練りこんだ厚み125μmポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(TiO2;7重量%)を用意した。支持体の抵抗層と接する面とは反対の面に液状のハードコート用材料をバーコーターで塗布し、さらにその塗工膜を、ドライヤーオーブンを用いて、100℃×1分の条件で加熱乾燥した。次いで、乾燥後の塗工膜に対して紫外線を照射することにより(照射量:300mJ/cm)、支持体上に厚さ2μmのハードコート層を配置した。ハードコート材料としては光重合剤含有アクリル系オリゴマーに、トルエンとメチルイソブチルケトン(MIBK)とを5:5(重量比)の割合にて混合してなる混合溶媒を加えて、液状のハードコート用材料(固形分濃度:40重量%)を調製したものを用いた。作製したハードコート層付きPETフィルム(比誘電率3.4、表面張力32dyn/cm)を支持体として用いる以外は、実施例5Aと同様にして電波吸収体を得た。
【0140】
(2A)特性の測定
45°入射のTM偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲を測定した。具体的には以下のようにして測定したPNAマイクロ波ネットワーク・アナライザN5227A(キーサイト社製)、PNA-Xシリーズ2ポート用ミリ波コントローラN5261A(キーサイト社製)、ホーンアンテナFSS-07(HVS社製)を用いて電波吸収測定装置を構成した。この電波吸収測定装置を用いて、得られた電波吸収体のEバンド(60~90GHz)での電波吸収量をJIS R1679に基づいて測定した。
【0141】
測定は測定試料前面に対して45°で電波を入射させ、測定試料面心の垂線に対して,ホーンアンテナを等しい角度で設置して反射減衰量を測定した。また、入射波は電界が入射面に水平(TM波)になるような状態で測定した。反射減衰量の絶対値を吸収性能とした。
【0142】
(3A)斜め入射に対する電波吸収性評価
斜め入射に対する電波吸収性を評価した。具体的には次のようにして行った。測定方法は、TM波の入射角とホーンアンテナの角度とをそれぞれ変更した以外は、45°入射のTM波測定と同様にして行った。周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能10dB以上の吸収範囲を測定した。
【0143】
(4A)粘着力(誘電体層/反射層)の評価
得られた実施例5A,12A及び13Aに係る電波吸収体を10mm幅の短冊状に裁断して試験片を作製し、誘電体層の反射層に面する側とは反対側を露出させた。露出した面を、両面粘着テープ(9708、3M社製)により、測定装置の台座に固定した。この試験サンプルの反射層をJIS Z0237に準じて、剥離速度300mm/分で180°方向の引張試験を行い、180°粘着力(N/10mm)を測定した。誘電体層/反射層間の粘着力が5N/10mm以上を〇、5N/10mm未満を×とした。
【0144】
(5A)防汚性評価(油汚れふき取り後の電波吸収性)
電波吸収体の支持体の抵抗膜に面する側とは反対の表面にサラダ油をスポイトで1滴滴下した後、リグロインを含ませたワイパー(商品名:クリーンワイパー SF30C クラレ社製)で20往復ラビングした。その後、(2A)特性の測定と同様にして測定した、45°入射における79GHzでの電波吸収量の変化量が5dB以内の場合を○、それ以上の場合を×とした。
【0145】
(6A)耐光性の評価
電波吸収体をサンシャインウエザーメーター(S-80、スガ試験機(株)製)を用いて、サンシャインカーボンアーク灯、相対湿度60%の条件下、1000時間の露光を行った。その後、(2A)特性の測定と同様にして測定した、45°入射における79GHzでの電波吸収量の変化量が5dB以内の場合を○、それ以上の場合を×とした。
【0146】
結果を表1~4に示す。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
【表3】
【0150】
【表4】
本発明の電波吸収体Bに関する実施例は以下の通りである。
【0151】
(1B)電波吸収体の製造
(実施例1B)
支持体として、厚み125μmの酸化チタン(平均粒径 200μm)を練りこんだポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(比誘電率3.4、TiO;10重量%)を用意した。
【0152】
上記PETフィルム上に抵抗値490Ω/□の抵抗膜(バリア層1/抵抗層/バリア層2)を次の通りに形成した。まず、DCパルススパッタリングによりArとO2の比率を1:1に調整したがガスを導入して、0.2Paになるように調整してSiO2層(バリア層1:厚さ10nm)を成膜した。続いて、バリア層1上に、DCパルススパッタリングにより抵抗値485Ω/□の抵抗層を形成した。スパッタリングは合金(組成:モリブデン16.4重量%、ニッケル55.2重量%、クロム18.9重量%、鉄5.5重量%、タングステン3.5重量%、シリカ0.5重量%)をターゲットに用い、出力0.4kW、Arガス流量100sccmで導入して圧力0.12Paとなるように調整して行った。最後に、バリア層1と同様にしてバリア層2(厚さ5nmを形成した。
【0153】
次いで、形成したバリア層2上に厚み530μm且つ比誘電率2.4のアクリル粘着テープからなる誘電体を積層し、更に誘電体上に厚さ10μmのアルミニウム(Rz=4.0μm)からなる反射層を積層して電波吸収体を得た。
【0154】
(実施例2B~5B、7B~12B、比較例1B~4B)
抵抗膜の抵抗値及び/又は誘電体の厚みを表1及び表2のとおりに変更する以外は、実施例1Bと同様にして電波吸収体を得た。
【0155】
(実施例6B)
バリア層を形成しない(抵抗層=抵抗膜とする)以外は、実施例1Bと同様にして電波吸収体を得た。
【0156】
(実施例13B)
反射層を、厚さ10μmである銅板(Rz=0.9μm)に変更する以外は、実施例4Bと同様にして電波吸収体を得た。
【0157】
(実施例14B)
反射層を、厚さ10μmである銅板(Rz=12μm)に変更する以外は、実施例4Bと同様にして電波吸収体を得た。
【0158】
(実施例15B)
支持体をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(比誘電率3.2、表面張力36dyn/cm)に変更する以外は、実施例4Bと同様にして電波吸収体を得た。なお大気圧プラズマ装置(積水化学工業株式会社製、「AP/TO2」、ダイレクト電極タイプ)にNガスを処理ガスとして導入し、投入電力900W(140V-6.4A)でプラズマガスを発生させ、15m/分の速度で搬送し、プラズマ処理を行うことで、支持体表面の表面張力を調整した。なお、プラズマ処理を行うスリット面積は200mm(フィルムの幅方向に200mmかつ長さ方向に1mm)とした。
【0159】
(実施例16B)
酸化チタン(平均粒径 200μm)を練りこんだ厚み125μmポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(TiO2;7重量%)を用意した。支持体の抵抗層と接する面とは反対の面に液状のハードコート用材料をバーコーターで塗布し、さらにその塗工膜を、ドライヤーオーブンを用いて、100℃×1分の条件で加熱乾燥した。次いで、乾燥後の塗工膜に対して紫外線を照射することにより(照射量:300mJ/cm2)、支持体上に厚さ2μmのハードコート層を配置した。ハードコート材料としては光重合剤含有アクリル系オリゴマーに、トルエンとメチルイソブチルケトン(MIBK)とを5:5(重量比)の割合にて混合してなる混合溶媒を加えて、液状のハードコート用材料(固形分濃度:40重量%)を調製したものを用いた。作製したハードコート層付きPETフィルム(比誘電率3.4、表面張力32dyn/cm)を支持体として用いる以外は、実施例4Bと同様にして電波吸収体を得た。
【0160】
(2B)特性の測定
45°入射のTE偏波測定において、周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能15dB以上の吸収範囲を測定した。具体的には以下のようにして測定したPNAマイクロ波ネットワーク・アナライザN5227A(キーサイト社製)、PNA-Xシリーズ2ポート用ミリ波コントローラN5261A(キーサイト社製)、ホーンアンテナFSS-07(HVS社製)を用いて電波吸収測定装置を構成した。この電波吸収測定装置を用いて、得られた電波吸収体のEバンド(60~90GHz)での電波吸収量をJIS R1679に基づいて測定した。
【0161】
測定は測定試料前面に対して45°で電波を入射させて測定試料面心の垂線に対して,ホーンアンテナを等しい角度で設置して反射減衰量を測定した。この時、入射波は電界が入射面に垂直(TE波)になるような状態で測定した。反射減衰量の絶対値を吸収性能とした。
【0162】
(3B)斜め入射に対する電波吸収性評価
斜め入射に対する電波吸収性を評価した。具体的には次のようにして行った。測定方法は、TE波の入射角とホーンアンテナの角度とをそれぞれ変更した以外は、45°入射のTE偏波測定と同様にして行った。周波数帯域75~85GHzにおける吸収性能10dB以上の吸収範囲を測定した。
【0163】
(4B)粘着力(誘電体層/反射層)の評価
得られた実施例4B,13B及び14Bに係る電波吸収体を10mm幅の短冊状に裁断して試験片を作製し、誘電体層の反射層に面する側とは反対側を露出させた。露出した面を、両面粘着テープ(9708、3M社製)により、測定装置の台座に固定した。この試験サンプルの反射層をJIS Z0237に準じて、剥離速度300mm/分で180°方向の引張試験を行い、180°粘着力(N/10mm)を測定した。誘電体層/反射層間の粘着力が5N/10mm以上を〇、5N/10mm未満を×とした。
【0164】
(5B)防汚性評価(油汚れふき取り後の電波吸収性)
電波吸収体の支持体の抵抗膜に面する側とは反対の表面にサラダ油をスポイトで1滴滴下した後、リグロインを含ませたワイパー(商品名:クリーンワイパー SF30C クラレ社製)で20往復ラビングした。その後、(2B)特性の測定と同様にして測定した、45°入射における79GHzでの電波吸収量の変化量が5dB以内の場合を○、それ以上の場合を×とした。
【0165】
(6B)耐光性の評価
電波吸収体をサンシャインウエザーメーター(S-80、スガ試験機(株)製)を用いて、サンシャインカーボンアーク灯、相対湿度60%の条件下、1000時間の露光を行った。その後、(2B)特性の測定と同様にして測定した、45°入射における79GHzでの電波吸収量の変化量が5dB以内の場合を○、それ以上の場合を×とした。
【0166】
結果を表5~8に示す。
【0167】
【表5】
【0168】
【表6】
【0169】
【表7】
【0170】
【表8】
【符号の説明】
【0171】
1 支持体
2 抵抗膜
3 誘電体層
4 反射層
5 粘着剤層
6 筐体
図1
図2
図3