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特許7555559油調時間短縮剤及び食感改善剤並びにこれらを利用したバッター組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】油調時間短縮剤及び食感改善剤並びにこれらを利用したバッター組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/00 20160101AFI20240917BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20240917BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20240917BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20240917BHJP
   A23L 7/113 20160101ALI20240917BHJP
   A23L 7/157 20160101ALI20240917BHJP
【FI】
A23L29/00
A23G3/34 108
A23L5/10 E
A23L7/109 A
A23L7/113
A23L7/157
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020065830
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021159016
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-11-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390022301
【氏名又は名称】株式会社武蔵野化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 麻美
(72)【発明者】
【氏名】根地嶋 典子
(72)【発明者】
【氏名】村上 敦也
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-039477(JP,A)
【文献】国際公開第2013/042792(WO,A1)
【文献】特開2005-328795(JP,A)
【文献】特開2000-106837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸塩を有効成分とする油調食品の油調時間短縮剤。
【請求項2】
乳酸塩が、乳酸カリウム、乳酸ナトリウム及び乳酸カルシウムよりなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載の油調時間短縮剤。
【請求項3】
乳酸塩が、乳酸カリウムまたは乳酸ナトリウムを含む請求項1または2記載の油調時間短縮剤。
【請求項4】
乳酸塩が、さらに乳酸カルシウムを含有する請求項3記載の油調時間短縮剤。
【請求項5】
油調食品が、天ぷら、フライ、唐揚げ、フリッター、菓子、麺類及び素揚げよりなる群から選ばれる請求項1~4のいずれかの項記載の油調時間短縮剤。
【請求項6】
乳酸カリウムまたは乳酸ナトリウムを有効成分とする粉末状の油調前処理用の油調食品の食感改善剤であって、粉末状のまま被処理食材に直接添加して用いるものである油調前処理用の油調食品の食感改善剤
【請求項7】
さらに乳酸カルシウムを含有する請求項6記載の食感改善剤。
【請求項8】
油調食品が、天ぷら、フライ、唐揚げ、フリッター、菓子、麺類及び素揚げよりなる群から選ばれる請求項6または7記載の食感改善剤。
【請求項9】
冷凍保存後の食感を改善するものである請求項6~8のいずれかの項記載の食感改善剤。
【請求項10】
穀粉及び乳酸塩を含有し、乳酸塩として乳酸カリウムを含む油調食品用のバッター組成物。
【請求項11】
さらに乳酸塩として乳酸ナトリウムまたは乳酸カルシウムを含む請求項10記載のバッター組成物。
【請求項12】
油調食品が、天ぷら、フライ、唐揚げ、フリッター、菓子、麺類及び素揚げよりなる群から選ばれる請求項10または11に記載のバッター組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油調食品の油調時間短縮剤及び食感改善剤に関し、より詳細には、天ぷら、唐揚げなどの油調食品の油調時間を短縮できるとともに、油調後サクサクした良好な食感(サク味)が得られ、凍結処理後再加熱してもサクサクした食感を維持できる油調時間短縮剤及び食感改善剤並びにこれらを利用した油調食品用のバッター組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
天ぷら、フライ、唐揚げなどの食品の製造においては、畜肉類、魚介類、野菜類などの食材に打ち粉や衣づけをした後、高温の食用油中で油調処理し、衣及び食品中の水分を蒸散させることによって、サクサクとした食感が得られる。この油調処理において、厚みのある食材の中心部まで加熱し、適度に硬化・乾燥したクリスピーな表面状態とするためには、一定の処理時間を要する。また一度に大量の食材を油調処理しようとすると、油温が一時的に低下するため、処理時間を延長したり、処理量を制限する必要が生じる。さらに、油調食品を製造する際、調理時間が長ければ、調理業務の生産性の低下だけでなく、油の加熱によるにおいや室温上昇等の労働環境の低下、長時間の労働力確保等、様々な問題が生じる。そのため、効率よく油調処理を行える技術が求められている。
【0003】
例えば、米粉に物理的な力を加え、膨潤度及び糊化粘度を所定の範囲に調整した改質米粉(特許文献1)や、ラクチトール、エリスリトールなどの糖アルコール(特許文献2)を衣用ミックス粉に添加することにより、油調時間を短縮できることが開示されている。しかし、これらの手法では、風味や食感に影響が出ることが懸念され、また適用できる油調食品の種類が限定されるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-104246号公報
【文献】特願2000-300198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、油調食品の製造において、油調時間を短縮し、生産効率を改善することができる油調時間短縮剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、乳酸塩を用いて、食材を前処理したり、バッター組成物中に添加することによって、油調時間を短縮できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、乳酸塩を有効成分とする油調食品の油調時間短縮剤である。
【0008】
また本発明は、乳酸塩を有効成分とする油調食品の食感改善剤である。
【0009】
また本発明は、穀粉及び乳酸塩を含有する油調食品用のバッター組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、天ぷら、唐揚げなどの油調食品の製造において、油調時間を短縮することができ、生産効率の向上を図ることができる。また油調処理後の食品はサクサクした良好な食感を有し、油調処理後時間が経過しても、また凍結処理後に再加熱しても、食感の低下が少なく、サクサクした食感を維持できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の油調時間短縮剤は、乳酸塩を有効成分として含有するものである。
【0012】
乳酸塩としては、乳酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、乳酸アルミニウム、乳酸鉄、乳酸亜鉛、乳酸マグネシウム、アシル化乳酸金属塩(ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム)などが例示され、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらのうち、油調時間短縮効果の観点から、乳酸カリウム、乳酸ナトリウムが好ましく、特に乳酸カリウムが好ましい。乳酸塩を併用する場合の比率は特に制限されないが、例えば、乳酸カリウムと乳酸カルシウムを併用する場合、油調時間の短縮効果や食感改善効果の観点から、その含有質量比(乳酸カリウム:乳酸カルシウム)は、好ましい順に、1:1.2~1.2:1、1:2~2:1、1:5~5:1、1:10~10:1、1:40~40:1、1:200~200:1である。また乳酸ナトリウムと乳酸カルシウムを併用する場合は、その含有質量比(乳酸ナトリウム:乳酸カルシウム)は、好ましい順に、1:1.2~1.2:1、1:2~2:1、1:5~5:1、1:10~10:1、1:40~40:1、1:200~200:1である。
【0013】
乳酸カリウムは、欧米では古くから使用されているが、日本では2013年5月に食品添加物として認可された比較的新しい食品添加物である。乳酸カリウムは、乳酸ナトリウムと同様に、様々な飲食品、例えば、いかくん、さきいか、いかの塩辛、魚卵、魚介類などの水産加工品、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、さつまあげなどの水産練り製品、漬物類、豆類、ハムやハンバーグなどの畜肉製品、クッキーやスポンジケーキなどの菓子類、麺類などの味の調整に使用されるほか、保湿性が強いことから、例えば麺に練り込むことにより、包装袋での結露の防止目的でも使用されている。また、食品だけでなく化粧品などにも使用されている。さらに、欧米では昔からハム・ソーセージ等のリステリア菌の増殖抑制に使用されるなど、飲食品中の微生物の増殖抑制効果もあることが知られている。
この乳酸カリウムは粉末状の化合物ではなく、通常は水溶液として流通している。本発明の出願人は、この乳酸カリウム水溶液の製造者でもあるが、乳酸カリウムを50%含有する製品を「スラックK」の商品名で、乳酸カリウムを60%含有する製品を「乳酸カリウム60F」の商品名で販売している。このように乳酸カリウムは、通常水溶液として流通しているが、この乳酸カリウム水溶液をカルシウム塩等を賦形剤として粉末化することも可能である。本発明で使用される乳酸カリウムは、水溶液の形態での使用の他に、乳酸カルシウムなどの賦形剤により粉末化したものでも良い。
【0014】
本発明の油調時間短縮剤は、上記乳酸塩の他、必要に応じて任意成分を添加することができる。このような任意成分として、例えば、デキストリン、オリゴ糖、糖類等の糖質、粉末油脂やショートニング等の油脂、卵白粉、卵黄粉、全卵粉、小麦たん白、乳たん白、大豆たん白等のたん白素材、重曹、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム等のガス発生剤、及び酒石酸、酒石酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等の酸性剤を含むベーキングパウダー等の膨張剤、食塩、グルタミン酸ナトリウム、粉末醤油等の調味料、酵母エキス、畜肉又は魚介由来エキス等のエキス類、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、大豆食物繊維等の食物繊維、色素、香料、香辛料等が挙げられる。
【0015】
上記粉末状の乳酸塩または乳酸塩水溶液を、そのまま本発明の油調時間短縮剤として用いることができる。また任意成分を使用する場合は、乳酸塩と任意成分を常法に従って混合することにより、本発明の油調時間短縮剤を製造することができ、粉体の混合物をそのまま油調時間短縮剤としてもよく、水に溶解してから噴霧乾燥処理等を施して粉末状ないし顆粒状の複合粉体としてもよい。また水溶液の形態であってもよく、その場合、乳酸塩の含有量は0.05~70質量%(以下、単に「%」と表記する)が好ましく、20~65%がより好ましい。水の含有量は30~99.5%が好ましく、35~80%がより好ましい。
【0016】
油調食品は、高温の油の中で食材を加熱調理した食品であり、例えば、天ぷら、フライ、唐揚げ、フリッター、菓子、麺類、素揚げなどが含まれる。また油調処理の対象となる被処理食材としては、各種の畜肉類、魚介類、野菜類、菓子、麺、大豆加工品、水産加工品、畜肉加工品等が含まれる。
【0017】
本発明の油調時間短縮剤は、油調の前処理として、直接被処理食材に添加、混合してもよく、後述するとおり、バッター組成物に添加して用いることもできる。前処理に用いる場合には、被処理食材の全量に対して、乳酸塩の添加量が0.1~15%、好ましくは0.25~10%となる量を被処理食材に添加し、均一になるように混合する。このように油調時間短縮剤と被処理食材を混合した状態を一定時間維持・保存することにより、油調時間短縮効果がより向上し得る。例えば、0~40℃で5分~24時間程度保存することが好ましい。
【0018】
上記前処理をした後、必要に応じ通常の油調食品と同様にして、打ち粉、衣づけなどの処理をし、油調を行う。油調は通常の食用油脂を用いて、油調食品の種類に応じた通常の条件で行うことができる。本発明の油調時間短縮剤を使用した場合、これを使用しない場合と比較して、同一の油調温度において、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下に油調時間を短縮することができる。
【0019】
本発明の油調の食感改善剤は、乳酸塩を有効成分として含有するものである。
【0020】
乳酸塩としては、乳酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、乳酸アルミニウム、乳酸鉄、乳酸亜鉛、乳酸マグネシウム、アシル化乳酸金属塩(ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム)などが例示され、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらのうち、食感改善効果の観点から、乳酸カリウム、乳酸ナトリウムが好ましく、さらに乳酸カルシウムを併用すると、より良好な食感を得ることができる。乳酸塩を併用する場合の比率は特に制限されないが、例えば、乳酸カリウムと乳酸カルシウムを併用する場合、食感改善効果の観点から、その含有質量比(乳酸カリウム:乳酸カルシウム)は、好ましい順に、1:1.2~1.2:1、1:2~2:1、1:5~5:1、1:10~10:1、1:40~40:1、1:200~200:1である。また乳酸ナトリウムと乳酸カルシウムを併用する場合は、その含有質量比(乳酸ナトリウム:乳酸カルシウム)は、好ましい順に、1:1.2~1.2:1、1:2~2:1、1:5~5:1、1:10~10:1、1:40~40:1、1:200~200:1である。
【0021】
本発明の食感改善剤は、上記乳酸塩の他、必要に応じて任意成分を添加することができる。このような任意成分として、例えば、デキストリン、オリゴ糖、糖類等の糖質、粉末油脂やショートニング等の油脂、卵白粉、卵黄粉、全卵粉、小麦たん白、乳たん白、大豆たん白等のたん白素材、重曹、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム等のガス発生剤、及び酒石酸、酒石酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等の酸性剤を含むベーキングパウダー等の膨張剤、食塩、グルタミン酸ナトリウム、粉末醤油等の調味料、酵母エキス、畜肉又は魚介由来エキス等のエキス類、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、大豆食物繊維等の食物繊維、色素、香料、香辛料等が挙げられる。
【0022】
上記粉末状の乳酸塩または乳酸塩水溶液を、そのまま本発明の食感改善剤とすることができる。また任意成分を使用する場合は、乳酸塩と任意成分を常法に従って混合すればよい。粉体の混合物をそのまま食感改善剤としてもよく、水に溶解してから噴霧乾燥処理等を施して粉末状ないし顆粒状の複合粉体としてもよい。また水溶液の形態であってもよく、その場合、乳酸塩の含有量は0.05~70%が好ましく、20~65%がより好ましい。水の含有量は30~95.5%が好ましく、35~85%がより好ましい。
【0023】
油調食品としては、天ぷら、フライ、唐揚げ、フリッター、菓子、麺類、素揚げなどが含まれる。また油調処理の対象となる被処理食材としては、各種の畜肉類、魚介類、野菜類、菓子、麺、大豆加工品、水産加工品、畜肉加工品等が含まれる。
【0024】
本発明の食感改善剤は、そのまま被処理食材に油調の前処理として直接添加してもよく、後述するとおり、バッター組成物に添加して用いることもできる。前処理に用いる場合には、被処理食材の全量に対して、乳酸塩の添加量が0.1~15%、好ましくは0.25~10%となる量を被処理食材に添加し、均一になるように混合する。このように油調時間短縮剤と被処理食材を混合した状態を一定時間維持・保存することにより、食感改善効果がより向上し得る。例えば、0~40℃で5分~24時間程度保存することが好ましい。
【0025】
上記前処理をした後、必要に応じ通常の油調食品と同様にして、打ち粉、衣づけなどの処理をし、油調を行う。油調は通常の食用油脂を用いて、油調食品の種類に応じた通常の条件で行うことができる。このようにして、本発明の食感改善剤を使用した油調食品は、サクサクした良好な食感を有し、油調後時間が経過してもその良好な食感を維持し、凍結処理した後、再加熱して、食感の低下が少なく、なおサクサクした食感を維持できるものである。
【0026】
本発明の油調食品用バッター組成物(以下、「バッター組成物」という)は、穀粉を主成分とし、油調処理前に被処理食材に付着させて用いるものであり、打ち粉として粉体の状態で被処理食材にまぶす等して付着させるバッター粉と、液状で被処理食材を浸漬する等して付着ないし被覆させるバッター液とを包含する。
【0027】
本発明のバッター組成物は、穀粉と乳酸塩とを含有するものである。穀粉としては、薄力粉、中力粉、強力粉等の小麦粉、馬鈴薯、米粉、とうもろこし、甘薯等が挙げられ、これらから得られた澱粉や加工処理した加工澱粉を含み、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらのうち、小麦粉が好適に用いられる。
【0028】
乳酸塩としては、乳酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、乳酸アルミニウム、乳酸鉄、乳酸亜鉛、乳酸マグネシウム、アシル化乳酸金属塩(ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム)などが例示され、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらのうち、油調時間短縮効果及び食感改善効果の観点から、乳酸カリウム、乳酸ナトリウムが好ましく、特に乳酸カリウムは油調短縮効果に優れるため好ましい。乳酸カリウムと乳酸カルシウムを併用すると、さらに優れた食感改善効果が得られる。乳酸カリウムと乳酸カルシウムを併用する場合、その含有質量比(乳酸カリウム:乳酸カルシウム)は、好ましい順に、1:1.2~1.2:1、1:2~2:1、1:5~5:1、1:10~10:1、1:40~40:1、1:200~200:1である。
【0029】
本発明のバッター組成物における乳酸塩の含有量は特に制限されるものではないが、油調時間短縮効果及び食感改善効果の観点から、0.1~15%が好ましく、0.25~10%がより好ましい。バッター組成物は、打ち粉等としてそのまま用いる態様のほか、加水してバッター液として、天ぷら、フライ、フリッターなどの衣付け等に用いることができる。バッター液とする場合、バッター組成物の全量を基準として、水を20~300%、好ましくは30~200%加水すればよい。
【0030】
バッター組成物には、他に任意成分として、例えば、デキストリン、オリゴ糖、糖類等の糖質、粉末油脂やショートニング等の油脂、卵白粉、卵黄粉、全卵粉、小麦たん白、乳たん白、大豆たん白等のたん白素材、重曹、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム等のガス発生剤、及び酒石酸、酒石酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等の酸性剤を含むベーキングパウダー等の膨張剤、食塩、グルタミン酸ナトリウム、粉末醤油等の調味料、酵母エキス、畜肉又は魚介由来エキス等のエキス類、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、大豆食物繊維等の食物繊維、色素、香料、香辛料等が挙げられる。
【0031】
本発明のバッター組成物は、穀粉、乳酸塩及び必要に応じて配合される任意成分を公知の方法に従って混合することによって製造することができる。
【0032】
本発明のバッター組成物を用いて製造される油調食品としては、天ぷら、フライ、唐揚げ、フリッター、菓子、麺類、素揚げなどが含まれる。また油調処理の対象となる被処理食材としては、各種の畜肉類、魚介類、野菜類、菓子、麺、大豆加工品、水産加工品、畜肉加工品等が含まれる。
【0033】
上記バッター組成物を被処理食材に適用する方法は特に限定されるものではなく、例えば、バッター粉の場合は、被処理食材にまぶしたり、振りかけるなどして、表面に付着させればよい。またバッター粉を適宜加水して、バッター液として使用することもできる。バッター液の場合は、被処理食材をバッター液にくぐらせたり、浸漬するなどして、被処理食材にバッター液を付着ないし被覆すればよい。製造する油調食品の種類に応じて、さらに、パン粉等の副材料を付着させることもできる。
【0034】
上記のようにしてバッター組成物を付着させた後、被処理食材を油調する。油調は通常の食用油脂を用いて、油調食品の種類に応じた通常の条件で行うことができる。本発明のバッター組成物を使用しない場合と比較して、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下の時間に油調時間を短縮することができる。
【実施例
【0035】
以下、実施例等を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制約されるものではない。なお、以下では「%」の表記は質量%を意味する。
【0036】
試験例1
バッター液を用いたかぼちゃの天ぷらの油調時間及び食感:
表2~5に示す配合組成で試験区1~28の各バッター液を調製した。バッター液に、約5mmにカットしたかぼちゃを浸漬した後、170~175℃で油調し、かぼちゃの天ぷらを作製した。かぼちゃを油に投入してから油面に浮き上がるまでを油調時間とした。かぼちゃの天ぷらを-25℃で5日間冷凍保存した。油調後、及び5日間冷凍保存後200℃のオーブンで5分間加熱して解凍したかぼちゃの天ぷらについて、熟練したパネラー10人で、試験区1(対照区)を基準として、下記表1に示す7段階評価でサク味(サクサクした食感)の比較官能試験を行った。各試験区について、官能評価の総得点をパネラー数で割り、平均点を算出した。結果を表2~5に併せて示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウムのいずれも油調時間短縮効果が確認されたが、乳酸カリウムと乳酸ナトリウムがより効果が高く、乳酸カリウムが特に短縮効果に優れることが示された。乳酸カルシウムはサク味の向上効果に優れ、乳酸カリウム又は乳酸ナトリウムと併用すると油調時間が短縮されるとともにサク味の向上効果が得られる。
【0043】
試験例2
バッター粉を用いた唐揚げの油調時間:
表6に示す配合組成で試験区29~34の各バッター粉を調製した。チャック式付きポリ袋中で、各バッター粉に鶏の生肉6個(300g)を加え、30秒間よく混合した後、170℃で油調し、鶏の唐揚げを作製した。生肉を油に投入してから油面に浮き上がり、さらに大きな音をたてて勢いよく出ていた泡が、パチパチと高い音に変わるまでを油調時間とし、6個の平均値を求めた。また生肉の重量に対する油調後の唐揚げの重量の割合({(唐揚げの重量)×100}/(生肉の重量))から歩留まり(%)を求めた。結果を表6に併せて示す。
【0044】
【表6】
【0045】
乳酸カルシウム、乳酸カリウム、乳酸ナトリウムのいずれも油調時間短縮効果が確認されたが、乳酸カリウム、乳酸ナトリウムが油調時間短縮効果がより高く、ほぼ同等の効果を示した。乳酸カリウムまたは乳酸ナトリウムを乳酸カルシウムと併用すると、サク味が向上した。
【0046】
試験例3
前処理による唐揚げの油調時間:
表7に示す配合組成で試験区35~40の油調時間短縮剤を調製した。チャック付きポリ袋中で、鶏の生肉6個(300g)に、各油調時間短縮剤粉を添加し、30秒間よく混合した後、3℃で一晩保存した。その後、チャック式付きポリ袋に、保存後の生肉と小麦粉60gを入れ、30秒間混合した後、170℃で油調し、鶏の唐揚げを作製した。生肉を油に投入してから油面に浮き上がり、さらに大きな音をたてて勢いよく出ていた泡が、パチパチと高い音に変わるまでを油調時間とし、6個の平均値を求めた。また生肉の重量に対する油調後の唐揚げの重量の割合({(唐揚げの重量)×100}/(生肉の重量))から歩留まり(%)を求めた。結果を表7に併せて示す。
【0047】
【表7】
【0048】
乳酸カルシウム、乳酸カリウム、乳酸ナトリウムのいずれも油調時間短縮効果が確認され、特に乳酸カリウムと乳酸ナトリウムの効果が高く、ほぼ同等の効果を示した。乳酸カリウムまたは乳酸ナトリウムを乳酸カルシウムと併用すると、油調時間短縮に加えサク味向上効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、油調時間を短縮し、その食感を改善することができるため、油調食品用のバッター組成物等として好適に利用できる。