IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 下田 一喜の特許一覧 ▶ 株式会社エイディーディーの特許一覧

特許7560053保冷剤、保冷具、貨物、輸送機器、輸送方法及び保冷方法
<>
  • 特許-保冷剤、保冷具、貨物、輸送機器、輸送方法及び保冷方法 図1
  • 特許-保冷剤、保冷具、貨物、輸送機器、輸送方法及び保冷方法 図2
  • 特許-保冷剤、保冷具、貨物、輸送機器、輸送方法及び保冷方法 図3
  • 特許-保冷剤、保冷具、貨物、輸送機器、輸送方法及び保冷方法 図4
  • 特許-保冷剤、保冷具、貨物、輸送機器、輸送方法及び保冷方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】保冷剤、保冷具、貨物、輸送機器、輸送方法及び保冷方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20240925BHJP
   F25D 3/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C09K5/06 J
F25D3/00 E
F25D3/00 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020194153
(22)【出願日】2020-11-24
(65)【公開番号】P2022082954
(43)【公開日】2022-06-03
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504139846
【氏名又は名称】下田 一喜
(73)【特許権者】
【識別番号】501376338
【氏名又は名称】株式会社エイディーディー
(74)【代理人】
【識別番号】100135828
【弁理士】
【氏名又は名称】飯島 康弘
(72)【発明者】
【氏名】勝間田 創太朗
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 健太
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-281593(JP,A)
【文献】米国特許第05355684(US,A)
【文献】特開平04-116364(JP,A)
【文献】特開2003-306671(JP,A)
【文献】特開2005-241232(JP,A)
【文献】特開2000-144123(JP,A)
【文献】特開2004-101064(JP,A)
【文献】特開平01-223190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/06 - 5/10
F25D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノールと水とを含んでいる保冷剤であって、
前記水及び前記メタノールの質量に占める前記メタノールの質量が40%以上55%以下であり、
当該保冷剤の質量に占める前記水及び前記メタノールの質量が90%以上であり、
-100℃以下の所定温度にされてメタノール水溶液が固体になっており、
仮に前記所定温度の状態から吸熱していった場合、-100℃以上-95℃以下の範囲で潜熱の吸収によって温度が一定になる現象を示す
保冷剤
【請求項2】
キサンタンガムを更に含んでいる
請求項に記載の保冷剤。
【請求項3】
吸水性ポリマーを更に含んでいる、
請求項に記載の保冷剤。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の保冷剤と、
前記保冷剤が封入されている封入容器と、
を有している保冷具。
【請求項5】
請求項に記載の保冷具と、
保冷対象物と、
前記保冷具と前記保冷対象物とを共に収容している収容容器と、
を有している貨物。
【請求項6】
請求項に記載の保冷具と、
保冷対象物と、
前記保冷具と前記保冷対象物とを共に収容している収容容器と、
を有している輸送機器。
【請求項7】
請求項に記載の保冷具と保冷対象物とを共に収容容器に収容するステップと、
前記保冷具及び前記保冷対象物を共に収容している前記収容容器を移送するステップと、
を有している輸送方法。
【請求項8】
前記収容するステップにおいて前記保冷具の温度が-100℃以下である
請求項に記載の輸送方法。
【請求項9】
請求項に記載の保冷具と保冷対象物とを共に収容容器に収容するステップ
を有している保冷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、保冷剤、保冷具、貨物、輸送機器、輸送方法及び保冷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等を保冷した状態で輸送することに利用される保冷剤(蓄冷剤又はアイスパック等と呼称されることもある。)が知られている(例えば特許文献1)。なお、慣用的に、保冷剤の語は、保冷剤だけでなく、保冷剤を封入している容器を含む全体を指す場合があるが、本開示においては、保冷剤は、保冷剤自体を指し、保冷剤及び当該保冷剤を封入している容器の全体については、保冷具と呼称するものとする。
【0003】
一般に市販されている保冷具において、保冷剤は、水に種々の添加剤を添加して構成されている。添加剤としては、例えば、防腐剤、凝固点降下剤、増粘剤、不凍液及び着色剤が挙げられる。保冷具は、例えば、冷凍庫によって保冷剤が凍らされ、保冷対象物(例えば食品)とともに梱包される。冷凍庫の温度は、一般には、-20℃~-10℃とされており、ひいては、保冷剤は、使用開始時において-20℃~-10℃の温度とされる。
【0004】
特許文献1は、水と、塩化リチウム及び塩化ナトリウムとを含む保冷剤を開示している。この保冷剤は、融解温度(融点と呼称することがある。)が-74℃であり、この温度付近において潜熱を利用して保冷を行うことを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-128622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、極低温(例えば-70℃以下)でのワクチンの輸送が必要になるなど、極低温での保冷の需要が高まっている。従って、極低温における保冷に利用可能な保冷剤の豊富化が図られることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る保冷剤は、メタノールを含んでいる。
【0008】
一例において、前記保冷剤は、水を更に含んでおり、前記水及び前記メタノールの質量に占める前記メタノールの質量が40%以上である。
【0009】
一例において、前記水及び前記メタノールの質量に占める前記メタノールの質量が60%以下である。
【0010】
一例において、上記保冷剤の質量に占める前記水及び前記メタノールの質量が90%以上である。
【0011】
一例において、上記保冷剤はキサンタンガムを更に含んでいる。
請求項1~4のいずれか1項に記載の保冷剤。
【0012】
一例において、上記保冷剤は吸水性ポリマーを更に含んでいる。
【0013】
本開示の一態様に係る保冷具は、上記保冷剤と、前記保冷剤が封入されている封入容器と、を有している。
【0014】
本開示の一態様に係る貨物は、上記の保冷具と、保冷対象物と、前記保冷具と前記保冷対象物とを共に収容している収容容器と、を有している。
【0015】
本開示の一態様に係る輸送機器は、上記の保冷具と、保冷対象物と、前記保冷具と前記保冷対象物とを共に収容している収容容器と、を有している。
【0016】
本開示の一態様に係る輸送方法は、上記の保冷具と保冷対象物とを共に収容容器に収容するステップと、前記保冷具及び前記保冷対象物を共に収容している前記収容容器を移送するステップと、を有している。
【0017】
一例において、前記収容するステップにおいて前記保冷具の温度が-80℃以下又は-100℃以下である。
【0018】
本開示の一態様に係る保冷方法は、上記の保冷具と保冷対象物とを共に収容容器に収容するステップを有している。
【発明の効果】
【0019】
上記の構成又は手順によれば、例えば、極低温における保冷が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る保冷剤における温度変化をメタノールの濃度別に示す図。
図2】実施形態に係る保冷剤における温度変化をメタノールの濃度別に示す他の図。
図3】実施形態に係る保冷剤における温度変化をメタノールの濃度別に示す更に他の図。
図4】実施形態に係る保冷剤における温度変化を増粘剤の種類別に示す図。
図5図5(a)、図5(b)及び図5(c)は保冷剤の応用例を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(保冷剤の概要)
本開示の実施形態に係る保冷剤は、メタノール(図において「MeOH」と略すことがある。)を含んでいる。このような保冷剤としては、例えば、以下の保冷剤を挙げることができる。
(1)メタノールのみからなる保冷剤、
(2)メタノール水溶液のみからなる保冷剤、及び
(3)上記(1)又は(2)の保冷剤に対して他の成分を加えた保冷剤。
【0022】
メタノール水溶液は、水と、メタノールとを含んでいる。なお、便宜上、本実施形態の説明において、メタノール水溶液の用語は、特に断りが無い限り、水及びメタノールのみからなる水溶液を指すものとする。すなわち、メタノール水溶液は、水及びメタノール以外の成分を含まない。
【0023】
メタノール水溶液又は保冷剤におけるメタノールの濃度は、適宜に設定されてよい。本実施形態の説明における濃度は、特に断りが無い限り、質量パーセントであるものとする。上記のように、本実施形態の説明では、メタノール水溶液の用語は、水及びメタノールのみを含むものを指すから、メタノール水溶液におけるメタノールの濃度は、水及びメタノールの質量(合計質量)に占めるメタノールの質量の割合を指す。便宜上、メタノールをメタノールの濃度が100%のメタノール水溶液として表現することがある。
【0024】
上記(1)~(3)の保冷剤が含むメタノール水溶液におけるメタノールの濃度は、例えば、10%以上100%以下、30%超100%以下、30%超70%未満、又は40%以上60%以下(又は55%以下)とされてよい。これらの濃度の範囲の例は、保冷剤におけるメタノールの濃度(保冷剤の質量に占めるメタノールの質量)の範囲に適用されても構わない。
【0025】
上記(3)の保冷剤における他の成分としては、例えば、1種以上の添加剤を挙げることができる。添加剤としては、例えば、増粘剤、防腐剤及び着色剤を挙げることができる。増粘剤としては、例えば、キサンタンガム、吸水性ポリマー及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を挙げることができる。
【0026】
上記(3)の保冷剤において、メタノール水溶液の質量は、例えば、保冷剤の質量に対して、50%以上、90%以上又は95%以上とされてよい。例えば、増粘剤の質量は、保冷剤の質量に対して、0.5%以上5%以下、1%以上3%以下、又は1.5%以上2%以下とされてよい。防腐剤の質量は、保冷剤の質量に対して、0.005%以上0.02%以下とされてよい。着色剤の質量は、保冷剤の質量に対して、0.05%以上0.2%以下とされてよい。
【0027】
なお、本実施形態の説明において、小数を含まない数値は、小数第1位を四捨五入した値を含むものとする。例えば、40%以上という範囲は、39.5%を含む。60%以下という範囲は、60.4%を含む。少数を含む数値は、値が示された最も小さい桁よりも1つ小さい桁の値を四捨五入した値を含むものとする。例えば、0.5%以上という範囲は、0.45%を含む。
【0028】
(メタノール水溶液の温度変化)
凍結させたメタノール水溶液(別の観点では上記(1)及び(2)の保冷剤)の温度変化を調べる実験を行った。その結果、メタノール水溶液が保冷剤として有用であることを確認できた。具体的には、以下のとおりである。
【0029】
実験方法は、以下のとおりである。種々の濃度のメタノール水溶液を用意した。濃度別に、400gのメタノール水溶液を可撓性の樹脂フィルムからなる袋に封入した。メタノール水溶液が封入された袋を-130℃に維持された冷凍庫内に十分な時間に亘って配置した。これにより、メタノール水溶液を凍結させるとともに、メタノール水溶液の温度を冷凍庫内の温度と同等にした。その後、冷凍庫からメタノール水溶液が封入された袋を取り出し、室温下に置かれた発泡性の容器に収容した。容器は、内寸が300mm×200mm×120mmであり、メタノール水溶液が封入された袋を収容した後に略密閉された。そして、メタノール水溶液が封入された袋に対して下方から接触している熱電対によって、メタノール水溶液の温度(容器内の雰囲気温度ではない)を継続的に計測した。
【0030】
なお、メタノールの濃度が100%の場合については、25gの炭素をメタノール水溶液に添加しており、合計で425gの保冷剤が袋に封入された。従って、メタノール水溶液におけるメタノールの濃度は100%であるが、保冷剤におけるメタノールの濃度は、約94%(=400/425)である。この炭素は、過冷却が生じる蓋然性を低減する発核剤として添加されている。
【0031】
図1図3は、計測結果を示す図である。これらの図において、横軸tは、経過時間を示し、単位は、時(h)及び分である。縦軸Tは、温度(単位:℃)を示している。図中の複数の線は、計測によって得られた、時間経過とメタノール水溶液の温度との関係を示している。
【0032】
凡例によって示されているように、図1では、メタノールの濃度が10%、20%及び30%のメタノール水溶液についての結果が示されている。図2では、メタノールの濃度が40%、45%、50%及び55%のメタノール水溶液についての結果が示されている。図3では、メタノールの濃度が60%、65%、70%及び100%のメタノール水溶液についての結果が示されている。
【0033】
メタノールの濃度が50%のメタノール水溶液については、2つの計測対象を用意した。このことから、図2では、「MeOH 50% (A)」と、「MeOH 50% (B)」との2つの計測結果が示されている。この2つは、基本的に同じ条件とされることが意図されているが、冷凍庫内の位置等の条件が異なるものである。すなわち、この2つは、今回の計測結果における誤差を考慮することに利用できる。
【0034】
時間tが0から少し過ぎた付近で、一旦、温度が急激に上昇している。これは、メタノール水溶液が封入された袋を冷凍庫から容器へ移しかえるときの計測値であり、熱電対が袋から一時的に離れたことによる。従って、この時間t付近の温度変化は無視されたい。
【0035】
図1図3に示されているように、いずれの濃度においても、0℃以下の温度が3時間以上に亘って保持されている。このことから、メタノール水溶液を保冷剤として利用可能であることが確認できた。
【0036】
図1に示されているように、メタノールの濃度が30%以下では、濃度が高くなるほど、メタノール水溶液の温度が所定の温度(例えば、-60℃、-70℃又は-80℃)以下に保たれる時間(以下、「所定温度維持時間」ということがある。)が長い。別の観点では、濃度が高くなるほど、同一時点における温度が低い。
【0037】
図1図2との比較から理解されるように、メタノールの濃度が30%から40%になると、所定温度維持時間が更に長くなる。別の観点では、同一時点における温度が更に低くなる。
【0038】
図2に示されているように、メタノールの濃度が40%以上55%以下である場合においては、基本的に(時間tが0~2時間30分までの範囲においては)、濃度が50%又は55%のときに、所定温度維持時間(例えば-60℃、-70℃以下又は-80℃以下の温度が維持される時間)が最も長い。別の観点では、後述する融解温度付近を除いて、基本的に、濃度が50%又は55%のときに、同一時点における温度が最も低い。
【0039】
図2図3との比較から理解されるように、メタノールの濃度が55%から60%になると、所定温度維持時間(例えば-60℃、-70℃以下又は-80℃以下の温度が維持される時間)が短くなる。別の観点では、同一時点における温度が高くなる。
【0040】
図3に示されているように、メタノールの濃度が60%以上90%以下である場合においては、濃度が高くなるほど、所定温度維持時間(例えば-60℃、-70℃以下又は-80℃以下の温度が維持される時間)が短い。別の観点では、後述する融解温度付近を除いて、濃度が高くなるほど、同一時点における温度が高くなる。また、メタノールの濃度が100%の場合は、メタノールの濃度が60%以上90%以下の場合と、概略、同様の結果が得られている。
【0041】
図2の領域R1において示されているように、メタノールの濃度が40%以上55%以下の場合においては、メタノール水溶液の温度が概ね一定に維持される現象が生じている。この現象は、固体から液体に変化するときの潜熱をメタノール水溶液が吸収することからである。このときの温度は、概ね-100℃以上-90℃以下(より詳細には-95℃以下)となっている。なお、メタノールの融点は、概ね-96℃である。メタノールの凝固点は、概ね-65℃である。
【0042】
図3に示されているように、メタノールの濃度が60%の場合及び100%の場合においては、図2に示した結果と同様に、メタノール水溶液の温度が-100℃以上-90℃以下の範囲で概ね一定に維持される現象が生じている。ただし、メタノールの濃度が60%の場合は、図2(濃度が40%以上55%以下)に比較すると、-100℃以上-90℃以下の範囲において温度が若干変化しており、また、一定に保たれる温度が高い。
【0043】
図1に示されているように、メタノールの濃度が30%以下の場合においては、温度が一定に維持される現象が現れていない。また、図3に示されているように、メタノールの濃度が65%の場合及び70%の場合においても、温度が一定に維持される現象が現れていない。ただし、30%の場合、65%の場合及び70%の場合においては、-90℃以下の範囲において温度が上昇するときの変化率は、その後の変化率よりも小さく、潜熱が影響していることが分かる。
【0044】
図2(及び他の図)に示されているように、メタノール水溶液の温度が-100℃以上-95℃以下の範囲において概ね一定の温度に保たれる時間長さは、メタノールの濃度が50%の場合が最も長く、次いで、55%の場合が長い。上記一定の温度の高低については、メタノールの濃度が40%以上55%以下の範囲では、大きな差異は認められない。
【0045】
(増粘剤の影響)
メタノール水溶液に増粘剤を添加した保冷剤(既述の(3)の保冷剤)を作製して、図1図3の実験と同様の実験を行った。その結果、増粘剤を添加しても、メタノール水溶液の保冷剤としての機能を維持可能であることを確認できた。具体的には、以下のとおりである。
【0046】
計測対象の保冷剤として、以下の3つを用意した。
(i)メタノールの濃度が50%のメタノール水溶液、
(ii)上記(i)のメタノール水溶液に対して増粘剤としてのキサンタンガムを添加した保冷剤、及び
(iii)上記(i)のメタノール水溶液に対して増粘剤としての吸水性ポリマーを添加した保冷剤。
【0047】
キサンタンガムの添加量は、上記(ii)の保冷剤(メタノール水溶液+キサンタンガム)の質量の2%とした。すなわち、袋に封入される400gの保冷剤のうち8g(=400g×2%)はキサンタンガムである。また、保冷剤におけるメタノールの濃度は、49%(=392g×50%/400g)である。
【0048】
吸水性ポリマーの添加量は、上記(iii)の保冷剤(メタノール水溶液+吸水性ポリマー)の質量の1.5%とした。すなわち、袋に封入される400gの保冷剤のうち6gは吸水性ポリマーである。また、保冷剤におけるメタノールの濃度は、約49%(=394g×50%/400g)である。吸水性ポリマーとして、ハイモ株式会社製の商品名「ハイモロックSS-120」を用いた。この吸水性ポリマーは、ポリアクリルアミド系かつアニオン性のものである。
【0049】
図4は、計測結果を示す図であり、図1図3と同様の図である。
【0050】
この図に示されているように、キサンタンガム又は吸水性ポリマーを一般的な添加量(例えば保冷剤の質量の5%以下)で添加した保冷剤においても、メタノール水溶液の温度変化と同様の温度変化が生じており、メタノール水溶液の保冷剤としての機能の低下は確認されなかった。なお、今回の実験では、吸水性ポリマーを用いた場合においては、保冷剤としての機能が向上した。
【0051】
なお、保冷剤の主成分がメタノール水溶液である場合においては、増粘剤は、どのような増粘剤であってもよいわけではない。本願発明者の実験では、種々の増粘剤を試した結果、増粘作用を十分に得られない増粘剤も存在した。これは、メタノール水溶液のpHに起因するものと考えられる。しかし、少なくとも上記において例示した増粘剤であれば、増粘作用を得ることができる。また、メタノール水溶液のpHは7であり、メタノール水溶液は中性である。従って、例えば、pHが6~8の水溶液を対象とした増粘剤を用いてよい。
【0052】
(保冷剤の作用)
以上のとおり、本実施形態に係る保冷剤は、メタノールを含んでいる。
【0053】
メタノールの融点は、例えば、水(氷)の融点よりも十分に低い。従って、水の融点よりも低い温度域における潜熱を利用して、水の融点よりも低い温度域における保冷の時間を長くすることができる。水を比較対象として挙げたが、水に塩を添加した保冷剤に対しても同様である。
【0054】
氷(水)が保冷の対象とする温度域よりも低い温度域での保冷に利用される保冷剤としては、ドライアイスが挙げられる。ドライアイスは、通常、袋などの容器に封入されることなく、剥き出しで用いられる。そして、ドライアイスは、保冷対象物のうちドライアイスが接触している部分の温度を昇華温度(約-79℃)に保冷することができる。
【0055】
しかし、ドライアイスは、昇華温度よりも低い-80℃以下の保冷を行うことはできない。また、ドライアイスは、昇華によって二酸化炭素を発生させる。従って、保冷対象物とドライアイスとを共に密閉された容器に収容すると、容器内の圧力が上昇してしまう。このことから、保冷対象物を収容する容器を密閉することはできない。また、昇華によって生じた二酸化炭素は、ドライアイス及び保冷対象物の周囲の雰囲気(例えば空気)を追い出す。その結果、ドライアイスによって保冷対象物の周囲の雰囲気を継続的に保冷することはできない。ひいては、保冷対象物は、ドライアイスが接触している部分と、接触していない部分との温度差が大きくなりやすい。
【0056】
一方、本実施形態におけるメタノールを含む保冷剤であれば、上記のようなドライアイスを用いた場合に生じる不都合を低減できる。例えば、メタノールの融点は-80℃よりも低いから、-80℃以下において潜熱を利用した保冷を行うことができる。メタノールを含む保冷剤は、容器に封入されてよい(剥き出しでなくてよい)。メタノールを含む保冷剤は、保冷対象物と共に密閉された容器内に収容されてよい。メタノールを含む保冷剤は、保冷剤及び保冷対象物の周囲の雰囲気を継続的に保冷して、保冷対象物を均一に保冷することができる。
【0057】
また、エタノール等の他のアルコールを含む水溶液と比較した場合においては、比較的低い濃度で保冷効果を発揮することができる。その結果、例えば、取扱いに関して法令上の制限が生じる濃度(例えば60%)よりも低い濃度で保冷剤を作製することができる。
【0058】
保冷剤は、水を更に含んでよい。水及びメタノールの質量に占めるメタノールの質量は40%以上とされてよい。換言すれば、保冷剤中のメタノール水溶液におけるメタノールの濃度は40%以上とされてよい。
【0059】
この場合、例えば、濃度が40%未満の場合に比較して、保冷剤の温度を所定の温度(例えば-60℃、-70℃又は-80℃)以下に維持する時間が長くなる。また、潜熱の利用によって、保冷剤の温度を極めて低い温度(例えば-90℃以下)に保持することが容易化される。
【0060】
保冷剤において、水及びメタノールの質量に占めるメタノールの質量は40%以上60%以下とされてよい。換言すれば、保冷剤中のメタノール水溶液におけるメタノールの濃度は40%以上60%以下とされてよい。
【0061】
この場合、例えば、潜熱の利用によって、保冷剤の温度を極めて低い温度(例えば-90℃以下)に保持することができる。この効果は、他の濃度に比較した顕著な効果である。
【0062】
保冷剤の質量に占める水及びメタノールの質量は90%以上(又は95%以上)とされてよい。
【0063】
この場合、例えば、保冷剤の温度変化は、メタノール水溶液の温度変化に対する依存性が高いから、上述した効果が確実に奏される。
【0064】
保冷剤は、キサンタンガムを更に含んでよい。及び/又は、保冷剤は、吸水性ポリマーを更に含んでよい。
【0065】
この場合、メタノール水溶液の保冷に係る性質を損なうことなく、メタノール水溶液を主成分とする保冷剤に十分な粘度を付与することができる。なお、既述のように、どのような増粘剤であってもメタノール水溶液に十分な粘度を付与することができるわけではない。
【0066】
保冷剤の温度は、(使用開始時及び/又は使用中において。少なくとも一時的に)、-80℃以下とされてよい。
【0067】
-80℃は、ドライアイスの昇華温度よりも低く、ひいては、ドライアイスに接している保冷対象物が保冷される温度よりも低い。従って、保冷剤は、-80℃よりも低い温度にされることによって、ドライアイスでは実現できない保冷を行うことができる。
【0068】
保冷剤の温度は、(使用開始時及び/又は使用中において。少なくとも一時的に)、-100℃以下とされてよい。
【0069】
図2から理解されるように、保冷剤が-100℃以下にされると、潜熱を利用して保冷を行うことができる。その結果、保冷対象物の温度を極めて低い温度(例えば-70℃、-80℃又は-90℃以下)に保持できる時間が長くなる。
【0070】
(保冷剤の応用例)
以下、本実施形態に係る保冷剤の応用例について説明する。具体的には、保冷剤を利用している保冷具、貨物、輸送機器、輸送方法及び保冷方法について説明する。
【0071】
図5(a)は、保冷剤1を利用している保冷具3の一例を示している斜視図である。なお、保冷具3の一部は破断して示されている。
【0072】
保冷具3は、保冷剤1と、保冷剤1が封入されている封入容器5とを有している。保冷剤1は、本実施形態に係る保冷剤であり、メタノールを含むものである。保冷具3は、繰り返し使用されるタイプのものであってもよいし、使い捨てタイプのものであってもよい。なお、封入容器5には、保冷剤1と共に気体(例えば空気)が封入されていても構わない。
【0073】
封入容器5の大きさ、形状及び材料は、適宜に設定されてよい。例えば、封入容器5として、公知の種々の保冷具の封入容器が利用されてよい。具体的には、例えば、封入容器5は、可撓性の材料(樹脂等)によって構成された袋状のものであってもよいし、可撓性を有さない材料(樹脂等)によって構成されたハードタイプ容器(図示の例)であってもよい。また、例えば、封入容器5は、注入口を有さない(封入容器5の破壊無しでは保冷剤1を取り出すことができない)ものであってもよいし、図示の例のようにキャップによって塞がれた注入口を有するものであってもよい。また、例えば、封入容器5の形状は、概略直方体状であってもよいし(図示の例)、用途に応じた特異な形状を有していてもよい。また、例えば、封入容器5の容積(可撓性の場合は最大容積)は、10ml以上1リットル以下とされてよい。
【0074】
図5(b)は、保冷剤1を利用している貨物11の一例を示している断面図である。
【0075】
貨物11は、例えば、1以上の保冷対象物13と、1以上の保冷具3と、これらを共に収容している箱15とを有している。なお、箱15は、収容容器の一例である。
【0076】
保冷対象物としては、例えば、食品を挙げることができる。食品としては、例えば、冷凍食品、冷凍菓子、生菓子、乳製品及び生鮮食品を挙げることができる。冷凍食品は、長期保存を目的に冷凍されている食品であり、冷凍前において、無加熱のもの、加熱されたもの、調理前のもの、調理後のものなどがある。冷凍菓子としては、例えば、アイスクリームを挙げることができる。生菓子としては、例えば、ケーキを挙げることができる。乳製品としては、例えば、ヨーグルトを挙げることができる。生鮮食品としては、例えば、鮮魚(魚介類)、精肉(肉類)及び青果を挙げることができる。図5(b)では、保冷対象物13として、カップ入りのアイスクリームを例示している。
【0077】
保冷対象物としては、食品・飲料の他、例えば、移植用臓器及びワクチン(移植用臓器又はワクチンが封入された容器)を挙げることができる。ワクチンとしては、近年、極めて低い温度(例えば-70℃以下)に保持されることが必要なコロナワクチンが話題となっており、当該コロナワクチンが保冷対象物とされてよい。保冷の語は、一般に食料品に用いられるが、前記の例示から理解されるように、本開示では、保冷対象物は食料品に限られない。
【0078】
箱15の大きさ、形状及び材料は、適宜に設定されてよく、例えば、公知の種々の箱が適用されてよい。代表的なものとしては、例えば、発泡スチロール又は段ボールからなる比較的小型(例えば1m以下×1m以下×1m以下)の箱が挙げられ、また、プラスチックケースに断熱材を組み合わせたクーラーボックス(アイスボックス)が挙げられる。なお、箱15の材料は、比較的断熱性が高いものであってもよいし、断熱性が低いものであってもよい。
【0079】
箱15内における保冷対象物13及び保冷具3の配置位置も適宜に設定されてよい。例えば、保冷具3は、保冷対象物13に対して、側方に位置していてもよいし(図示の例)、上に位置していてもよいし、下に位置していてもよいし、これらの2以上の組み合わせで配置されてもよい。なお、保冷対象物13の種類、その包装及び/又は箱15の構成等によっては、保冷具3を箱15に収容するのではなく、保冷剤1を直接に(封入容器5に封入せずに)箱15に収容することも可能である。
【0080】
図5(c)は、保冷剤1を利用している輸送機器21の一例を示している側面図である。
【0081】
輸送機器21は、例えば、1以上の貨物11と、当該貨物11を収容している1以上のコンテナ23とを有している。なお、コンテナ23も、箱15と同様に、収容容器の一例である。
【0082】
輸送機器21としては、例えば、自動車(図示の例)、航空機、列車、船舶及び二輪車を挙げることができる。図5(c)では、備え付けのコンテナ23を有する保冷車又は冷凍車が図示されている。
【0083】
コンテナ23内における貨物11の配置は適宜に設定されてよい。また、貨物11をコンテナ23に収容するのではなく、保冷対象物13及び保冷具3が直接に(箱15に収容されずに)コンテナ23に収容されていてもよい。なお、保冷対象物13の種類、その包装及び/又はコンテナ23の構成等によっては、保冷剤1を直接に(封入容器5に封入せずに)コンテナ23に収容することも可能である。
【0084】
ここでは、箱15及びその内容物を貨物11として説明している。換言すれば、1人又は少人数で(人力で)運搬できるような比較的小型のものを貨物として例示した。ただし、貨物は、そのような大きさのものよりも大きくてもよい。例えば、図5(c)では、コンテナ23は、自動車に備え付けのものとしたが、コンテナ船、トラック及び/又は列車に積みおろしされるものであってもよく、このコンテナ及びその内容物が貨物と捉えられてもよい。
【0085】
収容容器(箱15若しくはコンテナ23)は、単に断熱されているだけであってもよいし、チラー等の冷却装置によって積極的に低温に保たれてもよい。後者の場合、保冷対象物の温度は、例えば、冷却装置の目標温度と、当該目標温度よりも低い保冷剤の温度との中間の温度に維持される。
【0086】
図5(a)~図5(c)は、実施形態に係る輸送方法及び保冷方法も示している。輸送方法は、保冷具3を冷却するステップ(図5(a))と、保冷具3と保冷対象物13とを共に箱15に収容するステップ(図5(b))と、保冷具3及び保冷対象物13を共に収容している箱15を移送するステップ(図5(c))とを有している。また、保冷方法は、保冷具3を冷却するステップ(図5(a))と、保冷具3と保冷対象物13とを共に箱15に収容するステップ(図5(b))とを有している。保冷方法では、輸送せずに単に保冷を行うだけであってもよい。
【0087】
保冷具3(保冷剤1)は、例えば、保冷具3の冷却完了時において、又は保冷具3の使用開始時(例えば保冷対象物13と共に梱包された時)若しくはその直前(例えば使用開始時の10分以内)において適宜な温度とされてよい。例えば、保冷具3の温度は、-50℃以下、-70℃以下、-80℃以下、メタノールの融点未満、-100℃以下又は-130℃以下の温度とされてよい。
【0088】
保冷具3を極めて低い温度まで冷却するには、例えば、株式会社エイディーディー社製の「超低温チラー コールドウェーブ」を用いてよい。この超低温チラーは、多段蒸発器及び混合冷媒を用いることによって、供給された気体(例えば、空気、フロンガス、液体窒素又はアルゴンガス)を-130℃程度の温度まで冷却することができる。そして、例えば、保冷具3の周囲に前記のチラーによって冷却された気体を供給することによって、保冷具3(保冷剤1)を上記に例示した種々の温度まで冷却することができる。
【0089】
確認的に記載すると、チラーは、フリーザの概念を含むものである。また、特に図示しないが、チラーは、例えば、基本的な構成として、冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を冷却する凝縮器、冷却された冷媒の圧力を下げて送る膨張弁及び圧力が下げられた冷媒によって冷却対象(保冷剤又は保冷剤の周囲に供給される気体)を冷却する蒸発器を有している。チラーは、例えば、保冷対象物が生産若しくは卸される場所に設置されたり、宅配を担う業者の各営業所に設置されたりしてよい。
【0090】
本開示に係る技術は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0091】
実施形態では、メタノール水溶液におけるメタノールの濃度として、10%以上100%以下を例示した。ただし、メタノールの濃度は、10%未満であってもよい。この場合であっても、例えば、水よりも融点が低いメタノールが多少なりとも保冷剤に含まれることによって、水のみからなる保冷剤に比較して保冷の作用が向上する。
【符号の説明】
【0092】
1…保冷剤、3…保冷具、5…封入容器、11…貨物、13…保冷対象物、21…輸送機器。
図1
図2
図3
図4
図5