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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
A63B37/00 432
A63B37/00 342
A63B37/00 618
A63B37/00 216
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020182743
(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公開番号】P2022073004
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】井上 英高
(72)【発明者】
【氏名】神野 一也
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-118950(JP,A)
【文献】特開2011-183137(JP,A)
【文献】特開2018-099482(JP,A)
【文献】特開2006-187601(JP,A)
【文献】実開昭59-064165(JP,U)
【文献】特開2012-115503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00 - 47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアを被覆する少なくとも一層の中間層と、前記中間層を被覆するカバーと、前記カバーを被覆する塗膜を有するゴルフボールであって、
前記ゴルフボールの表面は、第1色の第1領域と、第2色の第2領域とを有し、前記第1領域よび前記第2領域は、それぞれ、半球状であり、
中間層の最外層の表面とゴルフボール表面の第1領域との色差をΔEms1、
中間層の最外層の表面とゴルフボール表面の第2領域との色差をΔEms2としたときに、ΔEms2/ΔEms1≧4.0であり、
ΔEms1≦20であることを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】
ゴルフボール表面の第1領域と、ゴルフボール表面の第2領域との色差をΔEs1s2としたときに、ΔEs1s2≧50である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
前記中間層の最外層の表面色は、白、黄、オレンジ、青、赤、ピンク、緑、黒よりなる群から選択される色である請求項1または2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
前記第1色および前記第2色は、それぞれ、白、黄、オレンジ、青、赤、ピンク、緑、黒よりなる群から選択される色である請求項1~3のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項5】
記塗膜は、樹脂成分とフィラーとを含有する請求項1~4のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項6】
記塗膜は、クリアー塗膜である請求項1~4のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項7】
前記第1領域と前記第2領域は、それぞれ、着色されたカバーにより形成されている請求項1~6のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項8】
前記第1領域と前記第2領域は、それぞれ、着色された塗膜により形成されている請求項1~6のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項9】
前記第1領域と前記第2領域の一方は、着色されたカバーにより形成され、前記第1領域と前記第2領域の他方は、着色された塗膜により形成されている請求項1~6のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項10】
前記中間層は、樹脂成分を含有する組成物から形成されたものである請求項1~9のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関し、特にカラーゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ゴルフボールは白色である。雨、曇り、霧および薄暗い条件などの悪天候の場合には、白色ゴルフボールの弾道を追って、ゴルフボールの落下地点を視認することが困難である。また、白色のゴルフボールが枯れた芝生の上に止まっている場合には、ゴルフボールの近くにいても、ゴルフボールを見つけることが難しい。また、最近、ゴルフボールにファッション性を求めるゴルフプレーヤーも増加している。このような状況下、ファッション性を有する外観、悪天候での視認性などの要求を満足するために、カラーゴルフボールが提案されている。
【0003】
特許文献1には、半球状の凹部を有する下側モールドの該凹部内に装入された第1の半球殼及びコアに、該第1の半球殼とは異色の第2の半球殼を被せて球状となし、これに上側モールドを被せ加熱加圧成形するツートンカラーゴルフボールの製造方法において、前記第1の半球殼の開口端面近傍に、下側モールド凹部の縁部への水平係止用の突部を設けたことを特徴とするゴルフボールの製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、コアとカバーとを備えており、このカバーが、第一半球と第二半球とからなり、第一半球の仕様が第二半球の仕様と異なっているゴルフボールが開示されている。前記第一半球が、第一樹脂組成物からなり、前記第二半球が第二樹脂組成物からなり、前記第一樹脂組成物の組成と前記第二樹脂組成物の組成とが異なっていてもよい。
【0005】
特許文献3には、少なくとも1層を有するコアと、少なくとも1層を有するカバーとを具備するゴルフボールにおいて、前記コアの最外層は、ゴム組成物から形成された互いに異なる色調の2つの半球部を有し、且つ前記半球部同士の境界が色の境界線として、該コアの最外層の大円に沿って設けられ、前記半球部の少なくとも一方は、蛍光着色剤又は光輝剤を含み、前記カバーは、透明又は半透明の熱可塑性樹脂組成物から形成され、前記カバーの少なくとも1層は、蛍光増白剤、蛍光着色剤、光輝剤の少なくとも1つを含むことを特徴とするゴルフボールが開示されている。
【0006】
特許文献4には、内核の表面を色彩の異なる複数の外殻で被覆して外殻層を形成し、該外殻層の色彩の相違により外表面を区画するように構成したことを特徴とするゴルフボールが開示されている。
【0007】
特許文献5には、第1材料と第2材料とをそれぞれ射出成型することにより得られたマルチカラー層を有するゴルフボールが開示されている。
【0008】
特許文献6には、少なくとも2層を有するゴルフボールであって、各層は、少なくとも2色の異なる領域を有することにより、ゴルフボール全体の外観が、マルチカラーとなるゴルフボールが開示されている。
【0009】
特許文献7には、第1半球カバーと第2半球カバーの色調が異なるゴルフボールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭63-38476号公報
【文献】特開2013-183833号公報
【文献】特開2017-118950号公報
【文献】公開実用昭59-64165号公報
【文献】米国特許第7862760公報
【文献】米国特許第8915802公報
【文献】米国特許第9067105公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、視認性が高く、ショット時の方向付けがしやすいゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決することができた本発明のゴルフボールは、コアと、前記コアを被覆する少なくとも一層の中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有するゴルフボールであって、
前記ゴルフボールの表面は、第1色の第1領域と、第2色の第2領域とを有し、
中間層の最外層の表面とゴルフボール表面の第1領域との色差をΔEms1、
中間層の最外層の表面とゴルフボール表面の第2領域との色差をΔEms2としたときに、ΔEms2/ΔEms1≧4.0であり、
ΔEms1≦20であることを特徴とする。
【0013】
本発明は、ゴルフボール表面に中間層の色調と近い色調の第1領域と、中間層の色調とは異なる色調を有する第2領域とを設けるところに特徴がある。ゴルフボール表面の第1領域は、ゴルフボール表面の発色性を高める。また、ゴルフボール表面の第2領域は、中間層との色調が大きく異なることで、外観が目立つようになる。これらの相互作用の結果、ゴルフボール全体の視認性が向上する。また、ゴルフボール表面に異なる色調を有する領域が設けられることにより、ショット時の方向付けがしやすくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、視認性が高く、ショット時の方向付けがしやすいゴルフボールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るゴルフボールを説明する正面図。
図2】本発明の一実施形態に係るゴルフボールを説明する平面図。
図3】本発明の一実施形態に係るゴルフボールを説明する正面図。
図4】本発明の一実施形態に係るゴルフボールを説明する平面図。
図5】本発明の一実施形態に係るゴルフボールが示された一部切り欠き断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のゴルフボールは、コアと、前記コアを被覆する少なくとも一層の中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有するゴルフボールであって、
前記ゴルフボールの表面は、第1色の第1領域と、第2色の第2領域とを有し、
中間層の最外層の表面とゴルフボール表面の第1領域との色差をΔEms1、
中間層の最外層の表面とゴルフボール表面の第2領域との色差をΔEms2としたときに、ΔEms2/ΔEms1≧4.0であり、ΔEms1≦20であることを特徴とする。
【0017】
本発明のゴルフボールの表面は、第1色の第1領域と、第1色とは異なる第2色の第2領域とを有する。前記第1領域と第2領域は、それぞれ、単一色からなる領域であることが好ましい。
【0018】
第1領域の第1色は、特に限定されないが、白、黄、オレンジ、青、赤、ピンク、緑、黒よりなる群から選択される色であることが好ましい。第2領域の第2色は、第1領域の第1色とは異なる色であれば、特に限定されず、白、黄、オレンジ、青、赤、ピンク、緑、黒よりなる群から選択される色であることが好ましい。
【0019】
ゴルフボール表面における前記1領域の面積は、ゴルフボール表面積の10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
ゴルフボール表面における前記第2領域の面積は、ゴルフボール表面積の10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。
【0021】
前記第1領域と第2領域の面積比は、特に限定されないが、20/80以上が好ましく、30/70以上がより好ましく、50/50が特に好ましく、80/20以下が好ましく、70/30以下がより好ましい。
【0022】
前記1領域および第2領域の形状は、特に限定されず、例えば、平面視において、三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形状、台形、円、楕円などの形状を挙げることができる。なお、一般にゴルフボール表面に設けられる商品名、ボール番号などの文字列は、本発明の第1領域および第2領域には相当しない。
【0023】
前記第1領域および第2領域は、それぞれ、ゴルフボール表面に1箇所のみ設けられていてもよいし、複数設けられていてもよい。
【0024】
本発明において、ゴルフボール表面が、第1領域および第2領域のみから形成される場合、例えば、第1領域が特定の形状を有する場合、第2領域は、第1領域以外の領域である。例えば、第1領域が、平面視において、三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形状、台形、円、楕円などの形状であれば、第2領域は、ゴルフボール表面において、第1領域以外の領域である。
【0025】
また、本発明の好ましい態様では、前記第1領域および第2領域は、それぞれ、ゴルフボール表面の第1極点と第2極点とを結ぶ2つの境界線で囲まれた領域であって、第1極点から第2極点まで連続している領域である。ここで、第1極点と第2極点は、それぞれ、ゴルフボールの中心を通る中心軸とゴルフボール表面との交点である。前記第1領域よび第2領域は、それぞれ、半球状であることが好ましい。
【0026】
図1は、第1領域および第2領域について、本発明の好ましい態様を説明する説明図である。ゴルフボール1は、ゴルフボールの中心を通る軸が、ゴルフボール表面と交わる第1極点P1と、第2極点P2とを有する。図1は、第1極点P1と第2極点P2を上下方向に配置し、第1領域を正面に配置した正面図である。図2は、第1極点P1からみた平面図である。前記第1領域S1および第2領域S2は、それぞれ、ゴルフボール表面の第1極点P1と第2極点P2とを結ぶ2つの境界線L1、L2で囲まれた領域であって、第1極点から第2極点まで連続している領域である。図1および図2の態様では、第1領域S1がゴルフボール表面の3分の1の領域を形成し、第2領域S2がゴルフボール表面の3分の2の領域を形成している。
【0027】
図3は、第1領域および第2領域について、本発明の別の好ましい態様を説明する説明図である。図3は、第1極点P1と第2極点P2を上下方向に配置し、第1領域S1と第2領域S2の境界線L1を正面に配置した正面図である。図4は、第1極点P1からみた平面図である。前記ゴルフボール表面は、第1領域S1および第2領域S2とからなり、前記第1領域S1よび第2領域S2は、それぞれ半球状である。
【0028】
前記第1領域と第2領域は、それぞれ、着色された塗膜により形成されてもよいし、あるいは、着色されたカバーにより形成されていてもよい。例えば、前記第1領域と第2領域とが、着色されたカバーにより形成されている態様、前記第1領域と第2領域とが、着色された塗膜により形成されている態様、または、前記第1領域と第2領域の一方は、着色されたカバーにより形成され、前記第1領域と第2領域の他方は、着色された塗膜により形成されている態様などを挙げることができる。
【0029】
本発明のゴルフボールは、少なくとも一層の中間層を有し、中間層の最外層の表面は、第3色を有することが好ましい。第3色は、第1領域の第1色と同じであっても良いし、異なっていても良い。また、第3色は、第2領域の第2色とは異なる。
【0030】
本発明のゴルフボールは、CIELAB表色系において、中間層の最外層の表面とゴルフボール表面の第1領域との色差をΔEms1、中間層の最外層の表面とゴルフボール表面の第2領域との色差をΔEms2としたときに、ΔEms2/ΔEms1が、4.0以上であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましく、6.0以上であることがさらに好ましく、20.0以下であることが好ましく、18.0以下であることがより好ましく、15.0以下であることがさらに好ましい。前記ΔEms2/ΔEms1が前記範囲内であれば、2つの領域の区別が容易にでき、かつ発色性も保てるからである。
【0031】
本発明のゴルフボールは、CIELAB表色系において、中間層の最外層の表面とゴルフボール表面の第1領域との色差ΔEms1が、20以下であることが好ましく、18以下であることがより好ましく、15以下であることがさらに好ましい。前記ΔEms1は、0以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、4以上であることがさらに好ましい。ΔEms1が、前記範囲内であれば、発色性が良く、ディンプルの輪郭が目立たない外観となるからである。
【0032】
本発明のゴルフボールは、CIELAB表色系において、中間層の最外層の表面とゴルフボール表面の第2領域との色差ΔEms2が、30以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましく、60以上であることがさらに好ましく、160以下であることが好ましく、140以下であることがより好ましく、120以下であることがさらに好ましい。前記ΔEms2が、前記範囲内であれば、カバーの色味を認識しやすく、中間層の色味の影響を受けにくい外観となるからである。
【0033】
本発明のより好ましい態様では、ゴルフボール表面の第1領域と、ゴルフボール表面の第2領域との色差をΔEs1s2としたときに、ΔEs1s2は、50以上であることが好ましく、60以上であることがより好ましく、70以上であることがさらに好ましく、180以下であることが好ましく、160以下であることがより好ましく、140以下であることがさらに好ましい。ΔEs1s2が、前記範囲内であれば、2つの領域の区別が容易に可能となり、それぞれの色味が認識しやすくなるからである。
【0034】
本発明のゴルフボール表面および中間層の最外層の色は、CIELAB表色系において、L*値、a*値、b*値により定めることができる。CIELAB表色系におけるL*値、a*値、b*値は、JIS-Z-8701又はJIS-Z-8728に従って測定することができる。測定には、刺激値直読方法を採用しているミノルタ製の色差計CR-221を用いるのが好適である。三刺激値X,Y,Zは、以下のようにL*、a*、b*に換算される。
L*=116(Y/YN)1/3-16
a*=500[(X/XN)1/3-(Y/YN)1/3
b*=200[(Y/YN)1/3-(Z/ZN)1/3
XN,YN,ZN:完全拡散反射面のX,Y,Z系における三刺激値
【0035】
L*値は明度の指標となるもので、L*値が大きいほど明るい。a*値とb*値は、色相の指標となるもので、a*値が大きくなると赤方向の色となり、小さくなると緑方向の色となる。またb*値が大きくなると黄方向の色となり、小さくなると青方向の色となる。
【0036】
a*値が、-20未満の場合、ゴルフボールの色は、例えば、グリーン系若しくはイェローグリーン系の色になり、a*値が、30超の場合には、例えば、赤系、オレンジ系、ピンク系の色となる。ゴルフボールがピンク系の色の場合、b*値は、10超となりやすい。さらに、ゴルフボールが、イェロー、イェローグリーン、オレンジ系の色を有する場合、b*値は、30超となりやすい。
【0037】
なお、二色間の色差ΔE*は、以下のように定義される。
ΔE*=[(ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)1/2
【0038】
[ゴルフボール材料]
本発明のゴルフボールは、コアと、前記コアを被覆する少なくとも一層の中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有する。以下、ゴルフボールの各構成要素を構成する材料について説明する。
【0039】
[中間層およびカバー]
本発明のゴルフボールの中間層およびカバーは、樹脂成分を含有する組成物から形成される。なお、本発明において、中間層を形成する樹脂組成物を中間層用組成物と称し、カバーを形成する樹脂組成物をカバー用組成物と称する場合がある。前記樹脂成分としては、例えば、アイオノマー樹脂、BASFジャパン(株)から商品名「エラストラン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、三菱ケミカル(株)から商品名「テファブロック」で市販されている熱可塑性スチレンエラストマーなどが挙げられる。
【0040】
前記アイオノマー樹脂としては、例えば、オレフィンと炭素数3~8個のα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、オレフィンと炭素数3~8個のα,β-不飽和カルボン酸とα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、あるいは、これらの混合物を挙げることができる。前記オレフィンとしては、炭素数が2~8個のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等を挙げることができ、特にエチレンが好ましい。前記炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また、α,β-不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n-ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。これらのなかでも、前記アイオノマー樹脂としては、エチレン-(メタ)アクリル酸二元共重合体の金属イオン中和物、エチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル三元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。
【0041】
本発明のゴルフボールの中間層またはカバーを構成する樹脂組成物は、樹脂成分として、熱可塑性ポリウレタンエラストマーまたはアイオノマー樹脂を含有することが好ましい。アイオノマー樹脂を使用する場合には、熱可塑性スチレンエラストマーを併用することも好ましい。樹脂組成物の樹脂成分中のポリウレタンまたはアイオノマー樹脂の含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
【0042】
本発明の好ましい態様では、中間層をアイオノマー樹脂を含有する組成物から形成し、カバーを熱可塑性ウレタンエラストマーを含有する組成物から形成する。
【0043】
[染料および/または顔料]
本発明のゴルフボールの中間層および/またはカバーは、染料および/または顔料を含有することが好ましく、蛍光染料および/または蛍光顔料を含有することがより好ましい。蛍光染料は、有機系または無機系のいずれであっても良く、市販されているいずれの蛍光染料であってもよい。前記蛍光染料としては、例えば、チオキサンテン誘導体、サンテン誘導体、ペリレン誘導体、ペリレンイミド誘導体、クマリン誘導体、チオインジゴ誘導体、ナフタルイミド誘導体、及び、メチン誘導体などを挙げることができる。
【0044】
好ましい態様では、蛍光染料および/または蛍光顔料の融点は、180℃以下であり、より好ましくは175℃以下であり、さらに好ましくは170℃以下であり、少なくとも135℃以上が好ましく、より好ましくは140℃以上であり、さらに好ましくは145℃以上である。蛍光染料および/または蛍光顔料の融点が上記範囲内であれば、蛍光染料及び/または蛍光顔料を樹脂成分に混合し分散させるのを比較的低温で行うことができる。加工中の高温による変色が起こりにくくなるため、所望の色調が容易に得られる。
【0045】
前記蛍光染料としては、特に限定されないが、具体例を商品名で例示すると、Lumogen F Orange.TM. 240 (BASF社製); Lumogen F Yellow.TM. 083 (BASF社製); Hostasol Yellow.TM. 3G (Hoechst-Celanese社製); Oraset Yellow.TM. 8GF (Ciba-Geigy社製); Fluorol 088.TM. (BASF社製); Thermoplast F Yellow.TM. 084 (BASF社製); Golden Yellow.TM. D-304 (DayGlo社製); Mohawk Yellow.TM. D-299 (DayGlo社製); Potomac Yellow.TM. D-838 (DayGlo社製); Polyfast Brilliant Red.TM. SB (Keystone社製)などの黄色系蛍光染料を挙げることができる。
【0046】
蛍光顔料には、例えば、蛍光染料をポリマー材料に分散させた顔料や、蛍光染料を粒子状に成形した顔料などがある。前記蛍光顔料としては、特に限定されないが、例えば、デイグロカラー社製のZQ-11, ZQ-12, ZQ-13, ZQ-14, ZQ-15, ZQ-16, ZQ-17-N, ZQ-18, ZQ-19, ZQ-21, GPL-11, GPL-13, GPX-14, GPL-15, GPX-17, GPL-19, GPL-21、及び、シンロイヒ社製のFZ-2000シリーズ、FZ-5000シリーズ、FZ-6000シリーズ、FZ-3040シリーズ、FX-300シリーズなどを挙げることができる。
【0047】
蛍光染料を分散させるポリマー材料としては、例えば、ベンゾグアナミン樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0048】
好ましい態様では、カバーおよび少なくとも一層の中間層が、樹脂成分100質量部に対して、染料および/または顔料を、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上、さらに好ましくは0.7質量部以上、好ましくは7質量部以下、より好ましくは6質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは4質量部以下含有する。前記含有量が多すぎると、ゴルフボールの色が深くなりすぎて、くすんだ色調になり、含有量が少なすぎると、所望の色調が得られない。
【0049】
前記蛍光染料および/または蛍光顔料は、光安定性が低いため、紫外線吸収剤または光安定剤を使用することが好ましい。前記紫外線吸収剤または光安定剤としては、特に限定されず、市販のいずれの製品であってもよい。例えば、サリチル酸誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、シアノアクリレート誘導体、トリアジン誘導体及びニッケル錯体等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン誘導体等の光安定剤が挙げられる。
【0050】
サリチル酸誘導体の紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート、p-t-ブチルフェニルサリシレート、p-オクチルフェニルサリシレート等;ベンゾフェノン誘導体の紫外線吸収剤としては、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクチロキシベンゾフェノン、2,2-ジヒドロキシ-4,4’-メトキシベンゾフェノン等;ベンゾトリアゾール誘導体の紫外線吸収剤としては、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α’-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等;シアノアクリレート誘導体の紫外線吸収剤としては、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、エチル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート等;トリアジン誘導体の紫外線吸収剤としては、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチロキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-{[2-ヒドロキシ-3-(2’-エチル)ヘキシル]オキシ}-2-ヒドロキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。具体的には、住友化学社製の「スミソープ130」、「スミソープ 140」(いずれもベンゾフェノン系の紫外線吸収剤)、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「チヌビン(TINUVIN) 234」、「チヌビン 900」、「チヌビン 326」、「チヌビン P」(いずれもベンゾトリアゾール系)、BASF社製の「Uvinul N-35」(シアノアクリレート系)、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「チヌビン 1577」、「チヌビン 460」、「チヌビン 405」(トリアジン系)等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤は1種類を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本発明において使用可能な紫外線吸収剤はこれらに限定されるものではなく、従来公知の紫外線吸収剤はいずれも使用可能である。
【0051】
ヒンダードアミン誘導体等の光安定剤としては、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル){[3,5-ビス(1,1’-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル}ブチルマロネート、1-{2-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等が挙げられる。具体的には、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「サノールLS-2626」、「チヌビン 144」等が挙げられる。
【0052】
前記紫外線吸収剤の含有量は、中間層またはカバーの樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.02質量部以上、より好ましくは0.04質量部以上であって、2質量部以下が好ましく、より好ましくは1質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が上記範囲内であれば、太陽光に曝されることによる変色を効果的に抑制することができる。
【0053】
(酸化チタン)
中間層および/またはカバーは、酸化チタンを含有しても良い。蛍光顔料と少量の酸化チタンとを組み合わせることにより、鮮やかな色を有する半透明のカバーが得られる。前記酸化チタンは隠蔽性が高いので、酸化チタンの含有量は、樹脂成分100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、0.002質量部以上がより好ましく、0.005質量部以上がさらに好ましく、0.7質量部以下が好ましく、0.5質量部以下が好ましく、さらに0.4質量部以下が好ましい。酸化チタンの含有量が0.001質量部以上であれば、鮮やかな色を有する半透明のカバーが得られ、酸化チタンの含有量が0.7質量部超になると、カバーが隠蔽性を示す傾向がある。
【0054】
中間層および/またはカバーの隠蔽性を高くして、白色の度合いを強くする場合には、酸化チタンの含有量を多くすることもできる。この場合、酸化チタンの含有量は、中間層および/またはカバーを構成する樹脂成分100質量部に対して、0.7質量部超が好ましく、より好ましくは1質量部以上であって、10質量部以下が好ましく、より好ましくは8質量部以下である。酸化チタンの含有量を0.7質量部超とすることによって、中間層および/またはカバーの隠蔽性を高めることができる。また、酸化チタンの含有量が10質量部超になると、得られる中間層および/またはカバーの耐久性が低下する場合があるからである。
【0055】
(他の成分)
中間層および/またはカバーは、上述した成分のほか、酸化亜鉛、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの質量調整材、分散剤、老化防止剤、蛍光増白剤、滑剤、光安定剤などを、中間層および/またはカバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
【0056】
本発明のゴルフボールは、カバーを被覆する塗膜を有することが好ましい。本発明のゴルフボールが塗膜を有する場合、ゴルフボール表面の色は、ゴルフボール表面に設けられた塗膜表面を測定することにより得られる。前記塗膜としては、例えば、無色透明のクリアー塗膜、有色の不透明塗膜、あるいは、マット調の塗膜などを挙げることができる。
【0057】
ゴルフボールが、無色透明のクリアー塗膜を有する場合、ゴルフボール表面の第1領域の第1色と第2領域の第2色は、カバーの色が反映される。ゴルフボールが、有色の不透明塗膜またはマット調塗膜を有する場合、ゴルフボール表面の色調は、塗膜の影響を受ける。
【0058】
有色の不透明塗膜は、例えば、樹脂成分と染料および/または顔料を含有することが好ましい。マット調塗膜は、例えば、樹脂成分とフィラーとを含有することが好ましい。
【0059】
前記塗膜を構成する樹脂成分は、特に限定されず、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、セルロース系樹脂などを使用できるが、後述する二液硬化型ポリウレタンを使用することが好ましい。二液硬化型ポリウレタンを使用すると、耐久性に一層優れた塗膜層が得られるからである。
【0060】
(ポリウレタン)
前記二液硬化型ポリウレタンとしては、ポリオール組成物を主剤とし、ポリイソシアネート組成物を硬化剤とする二液硬化型ウレタン塗料を例示することができる。
【0061】
(ポリオール組成物)
前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物を含有する。前記ポリオール化合物としては、分子中にヒドロキシ基を2つ以上有する化合物が挙げられる。前記ポリオール化合物としては、分子の末端にヒドロキシ基を有する化合物、分子の末端以外にヒドロキシ基を有する化合物が挙げられる。前記ポリオール化合物は、単独で、あるいは、2種以上を混合して使用しても良い。
【0062】
前記分子の末端にヒドロキシ基を有する化合物としては、分子量が500未満の低分子量ポリオールや数平均分子量が500以上の高分子量ポリオールを挙げることができる。前記低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。前記高分子量のポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ウレタンポリオール、アクリルポリオール、ポリロタキサンなどが挙げられる。前記ポリエーテルポリオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)などが挙げられる。前記ポリエステルポリオールとしては、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などが挙げられる。前記ポリカプロラクトンポリオールとしては、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)などが挙げられる。前記ポリカーボネートポリオールとしては、ポリヘキサメチレンカーボネートなどが挙げられる。
【0063】
前記ポリオール成分を含有する主剤には、さらに以下に示すような特定のウレタンポリオールが含まれることが好ましい。ウレタンポリオールは、ポリイソシアネートとポリオールとの反応により合成される。ウレタンポリオールの合成に使用するポリイソシアネートとしては、イソシアネート基を2以上有するものであれば特に限定されず、例えば、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ビトリレン-4,4’-ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)等の芳香族ポリイソシアネート;4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(HXDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)等の脂環式ポリイソシアネートまたは脂肪族ポリイソシアネート等のうちの1種または2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち、耐候性の観点から、非黄変性のポリイソシアネート(TMXDI、XDI、HDI、HXDI、IPDI、H12MDI、NBDIなど)が好ましく使用される。
【0064】
ウレタンポリオールの製造に使用されるポリオールとしては、水酸基を複数有するものであれば特に限定されず、例えば、低分子量のポリオールや高分子量のポリオールなどを挙げることができる。低分子量のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。高分子量のポリオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリエーテルポリオール;ポリエチレンアジぺート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などの縮合系ポリエステルポリオール;ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)のようなラクトン系ポリエステルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリカーボネートポリオール;およびアクリルポリオールなどが挙げられる。以上のようなポリオールのうち、重量平均分子量50~2,000を有するもの、特に100~1,000程度のポリオールが好ましく用いられる。尚、これらのポリオールは、1種または2種以上混合して用いてもよい。
【0065】
前記ウレタンポリオールとは、上記ポリイソシアネートとポリオールとが反応してウレタン結合を形成し、末端に水酸基を有するポリオールである。ここで、ウレタンポリオール中のウレタン結合の比率は、ウレタンポリオール1g中0.1mmol~5mmolであることが好ましい。ウレタン結合の比率は、形成される塗膜の剛性と関係があり、0.1mmol/g未満では、形成される塗膜中のウレタン濃度が低いため耐擦過傷性不足になる場合がある。一方、5mmol/gを上回ると、塗膜が硬くなりすぎてゴルフボール本体の変形に対する追随性が低下し、ひび割れを起こし易くなるからである。
【0066】
また、ウレタンポリオールの重量平均分子量は、4,000以上が好ましく、より好ましくは4,500以上で、10,000未満が好ましく、より好ましくは9,000以下である。4,000未満では乾燥に時間がかかって作業性、生産性が低下するからである。一方、10,000以上の高分子量のウレタンポリオールでは、相対的にウレタンポリオールの水酸基価が小さくなり、塗布後の反応量が少なくなって下地との密着性が低下するからである。また、重量平均分子量が9,000以下であれば、水に濡れるような状態にあっても密着性の低下が少ない緻密な塗膜(またはクリアーペイント層)を形成できるからである。
【0067】
ウレタンポリオールの水酸基価は15mgKOH/g以上であることが好ましく、25mgKOH/g以上であることがより好ましく、130mgKOH/g以下であることが好ましく、120mgKOH/g以下であることがより好ましい。15mgKOH/g未満では、硬化剤との反応量が不足するため、ボール本体との密着強度が得られ難くなる場合がある。一方、130mgKOH/gを上回ると、硬化剤との反応に時間がかかり、乾燥時間が長くなって生産性が低下するとともに、インパクト時に割れを起こし易くなるからである。
【0068】
以上のようなウレタンポリオールは、原料となるポリオールとポリイソシアネートとを、ポリオール成分のヒドロキシル基がポリイソシアネート成分のイソシアネート基に対してモル比で過剰になるような割合で、反応させることにより得られる。上記反応に際しては、溶剤やウレタン化反応に公知の触媒(ジブチル錫ジラウリレートなど)を使用することができる。尚、ウレタン結合の比率は、原料となるポリオールの分子量、ポリオールとポリイソシアネートとの配合比率などを調整することにより行うことができる。
【0069】
前記主剤を構成するポリオール成分は、上記特定のウレタンポリオールそのものであること、すなわち主剤が実質的に上記特定のウレタンポリオールであることが好ましいが、前記ウレタンポリオール以外にもウレタンポリオールと相溶可能でウレタン結合を有しないポリオールが含まれていても良い。この場合のウレタン結合を有しないポリオールは、特に限定されず、上述したウレタンポリオール合成用の原料ポリオールを使用することができる。また、主剤中にウレタン結合を有しないポリオールが含まれる場合には、主剤中のウレタンポリオールの含有率が、50質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上となるようにすることが好ましい。主剤中のウレタンポリオールの含有率が50質量%未満では、相対的にウレタンポリオールの含有率が少なくなるため、乾燥時間が長くなるからである。
【0070】
(ポリイソシアネート組成物)
ポリイソシアネート組成物のポリイソシアネート成分としては、例えば、イソシアネート基を少なくとも2つ有する化合物を挙げることができる。前記ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ビトリレン-4,4’-ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)などの芳香族ポリイソシアネート;4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)などの脂環式ポリイソシアネートまたは脂肪族ポリイソシアネート;およびこれらのポリイソシアネートの誘導体が挙げられる。本発明では、前記ポリイソシアネートとして、2種以上のポリイソシアネートを使用してもよい。
【0071】
前記ポリイソシアネートの誘導体としては、例えば、ジイソシアネートと多価アルコールとを反応させて得られるアダクト変性体;ジイソシアネートのイソシアヌレート変性体;ビュレット変性体;アロハネート変性体などが挙げられ、遊離ジイソシアネートが除去されているものがより好ましい。
【0072】
有色の塗膜は、塗膜を構成する樹脂成分100質量部に対して、染料および/または顔料を、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上、さらに好ましくは0.7質量部以上、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下、さらに好ましくは2.2質量部以下、さらに好ましくは2.0質量部以下の量を含有する。前記含有量が多すぎると、ゴルフボールの色が深くなりすぎて、くすんだ色調になり、含有量が少なすぎると、所望の色調が得られない。
【0073】
有色の不透明塗膜は、隠蔽性を高めるために酸化チタンを含有してもよい。この場合、酸化チタンの含有量は、塗膜を構成する樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1質量部以上であって、10質量部以下が好ましく、より好ましくは8質量部以下である。酸化チタンの含有量を0.5質量部以上とすることによって、塗膜に隠蔽性を付与することができる。また、酸化チタンの含有量が10質量部超になると、得られる塗膜の耐久性が低下する場合があるからである。
【0074】
本発明のゴルフボールの塗膜は、フィラーを含有することが好ましい。フィラーを含有する場合、塗膜の外観がマット調になる場合がある。
【0075】
前記フィラーとしては、塗料で一般に使用されるフィラーを用いることができる。前記フィラーとしては、例えば、シリカ(例えば、溶融シリカ(フューズドシリカ)、乾式シリカ(ヒュームドシリカ)、沈降シリカ、シリカゲル、コロイダルシリカなどの湿式シリカ)、珪藻土、ゼオライト、パーライト、マイカ、ガラス、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノトライト、石膏、アルミボレート、二硫化モリブデン、アラミド、結晶セルロース、アルミナ、カーボン、金属粒子、金属酸化物粒子などを挙げることができる。
【0076】
前記フィラーとして、多孔質フィラーを使用することも好ましい。前記多孔質フィラーは、多数の細孔を有する。前記多孔質フィラーが有する細孔の形状は特に限定されない。前記多孔質フィラーが有する細孔の孔径は特に限定されないが、0.1nm~500nmが好ましい。前記多孔質フィラーは、その種類によって細孔の孔径が異なるが、例えば、ゼオライト系は0.1nm~2nm、珪藻土は約300nmである。
【0077】
前記多孔質フィラーとしては、珪藻土、ゼオライト、パーライトなどが挙げられる。珪藻土は、プランクトンの一種である珪藻の遺骸が海底や湖底に体積し化石化した泥土で、シリカを主成分とし、各粒子には微細機構が多数存在する。パーライトは、黒曜石、真珠岩、松脂願岩などのガラス質火山石を高熱処理することにより、火山石に含まれる水分が蒸発してできる多孔質体である。ゼオライトは、結晶性多孔質アルミノケイ酸塩である。ゼオライトの構造としては、例えば、A型、フェリエライト、ZSM-5、モルデナイト、ベータ、X型、または、Y型などを挙げることができる。なお、ゼオライトには、多孔質シリカライトも含まれる。前記多孔質フィラーは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0078】
前記フィラーの体積平均粒子径は、0.5μm以上が好ましく、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは2.0μm以上であり、30μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。なお、レーザー回折により体積粒度分布を測定し、体積粒度分布における50%積算粒子径(D50)を体積平均粒子径とする。
【0079】
塗膜中のフィラーの含有量は、樹脂成分100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは8質量部以上であり、200質量部以下が好ましく、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは120質量部以下である。前記フィラーの含有量が、3質量部以上であれば、外観がマット調であり、200質量部以下であれば外観が良好となり、かつ、汚れの付着を低減することができる。
【0080】
前記塗膜には、更に、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、ブロッキング防止剤などの、一般にゴルフ用ペイントに含有され得る添加剤が含まれていてもよい。中間層および/カバーに配合できるものとして例示した紫外線吸収剤および光安定剤も、塗膜に使用することができる。
【0081】
[コア]
本発明のゴルフボールのコアには、公知のゴム組成物(以下、単に「コア用ゴム組成物」という場合がある)を用いることができ、例えば、基材ゴム、共架橋剤および架橋開始剤を含むゴム組成物を加熱プレスして成形することができる。
【0082】
前記基材ゴムとしては、特に、反発に有利なシス結合が40質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。前記共架橋剤としては、炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸またはその金属塩が好ましく、アクリル酸の金属塩またはメタクリル酸の金属塩がより好ましい。金属塩の金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムが好ましく、より好ましくは亜鉛である。共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して20質量部以上50質量部以下が好ましい。前記共架橋剤として炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸を使用する場合、金属化合物(例えば、酸化マグネシウム)を配合することが好ましい。架橋開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。架橋開始剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、5質量部以下が好ましく、より好ましくは3質量部以下である。
【0083】
また、前記コア用ゴム組成物は、さらに、有機硫黄化合物を含有してもよい。前記有機硫黄化合物としては、ジフェニルジスルフィド類、チオフェノール類、チオナフトール類を好適に使用することができる。有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.0質量部以下である。前記コア用ゴム組成物は、さらにカルボン酸および/またはその塩を含有してもよい。カルボン酸および/またはその塩としては、炭素数が1~30のカルボン酸および/またはその塩が好ましい。前記カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸(安息香酸など)のいずれも使用できる。カルボン酸および/またはその塩の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上、40質量部以下である。
[ゴルフボールの製造方法]
【0084】
本発明のゴルフボールのコアは、例えば、コア用ゴム組成物を加熱プレスすることに成形される。前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成型条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常は130℃~200℃、圧力2.9MPa~11.8MPaで10分間~60分間で行われる。例えば、前記コア用ゴム組成物を130℃~200℃で10分間~60分間加熱するか、あるいは、130℃~150℃で20分間~40分間加熱した後、160℃~180℃で5分間~15分間の2段階で加熱することが好ましい。
【0085】
中間層用組成物およびカバー用組成物は、例えば、樹脂成分、染料および/または顔料、ならびに、必要に応じて配合される添加剤をドライブレンドすることにより得られる。また、ドライブレンドした混合物を、押出してペレット化してもよい。ドライブレンドには、例えば、ペレット状の原料を配合できる混合機を用いるのが好ましく、より好ましくはタンブラー型混合機を用いる。押出は、一軸押出機、二軸押出機、二軸一軸押出機など公知の押出機を使用することができる。
【0086】
中間層を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、中間層用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに成形し、それを2枚用いて球状コアを包み、加圧成形する方法、または、中間層用組成物を球状コア上に射出成形して球状コアを包み込む方法などを挙げることができる。
【0087】
中間層用組成物を球状コア上に射出成形して中間層を成形する場合、成形用上下金型としては、半球状キャビティを有しているものを使用することが好ましい。射出成形による中間層の成形は、ホールドピンを突き出し、球状コアを投入してホールドさせた後、加熱溶融された中間層用組成物を注入して、冷却することにより中間層を成形することができる。
【0088】
圧縮成形法により中間層を成形する場合、ハーフシェルの成形は、圧縮成形法または射出成形法のいずれの方法によっても行うことができるが、圧縮成形法が好適である。中間層用組成物を圧縮成形してハーフシェルに成形する条件としては、例えば、1MPa以上、20MPa以下の圧力で、中間層用組成物の流動開始温度に対して、-20℃以上、+70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みをもつハーフシェルを成形できる。ハーフシェルを用いて中間層を成形する方法としては、例えば、球状コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法を挙げることができる。ハーフシェルを圧縮成形して中間層に成形する条件としては、例えば、0.5MPa以上、25MPa以下の成形圧力で、中間層用組成物の流動開始温度に対して、-20℃以上、+70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みを有する中間層を成形できる。
【0089】
なお、成形温度とは、型締めから型開きの間に、下型の凹部の表面が到達する最高温度を意味する。また組成物の流動開始温度は、島津製作所の「フローテスター CFT-500」を用いて、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、プランジャー面積:1cm2、DIE LENGTH:1mm、DIE DIA:1mm、荷重:588.399N、開始温度:30℃、昇温速度:3℃/分の条件で測定することができる。
【0090】
カバー用組成物を用いてカバーを成形する態様は、特に限定されないが、カバー用組成物を中間層上に直接射出成形する態様、あるいは、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、中間層が形成された球体を複数のシェルで被覆して圧縮成形する態様(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、中間層が形成された球体を2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)を挙げることができる。カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、マークを形成することもできる。
【0091】
本発明では、例えば、第1色を有する中空殻状の第1シェルと、第2色を有する中空殻状の第2シェルを作製し、中間層が形成された球体を複数の第1シェルと第2シェルで被覆して圧縮成形することにより、第1領域と第2領域が、ゴルフボール表面に形成される。また、第1色を有する中空殻状のハーフシェルと、第2色を有する中空殻状のハーフシェルを成形し、中間層が形成された球体をこれら2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形することにより、半球状の第1色を有する第1領域と、半球状の第2色を有する第2領域とがゴルフボール表面に形成される。
【0092】
本発明のゴルフボールのカバーにはディンプルが形成されることが好ましい。カバーに形成されるディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0093】
カバーが成形されたゴルフボールは、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、塗膜やマークを形成することもできる。
【0094】
本発明のゴルフボールの塗膜は、ゴルフボール本体表面に塗料を塗布することで形成できる。塗料の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができ、例えば、スプレー塗装、静電塗装などを挙げることができる。
【0095】
第1色を有する第1領域または第2色を有する第2領域を着色された塗膜で形成する場合、例えば、第1領域または第2領域の所望の形状に塗料を塗布することにより形成することができる。
【0096】
塗料として二液硬化型ウレタン塗料を用いてスプレー塗装する場合には、ポリイソシアネート組成物とポリオール組成物とをそれぞれのポンプで供給して、エアーガン直前に配置されたラインミキサーで連続的に混合し、得られた混合物をスプレー塗装してもよいし、混合比制御機構を備えたエアースプレーシステムを用いて、ポリオールとポリイソシアネートとを別々にスプレー塗装してもよい。塗装は、1回でスプレー塗布しても良いし、複数回重ね塗りをしても良い。
【0097】
ゴルフボール本体に塗布された塗料は、例えば、30℃~70℃の温度で1時間~24時間乾燥することにより塗膜を形成することができる。
【0098】
[ゴルフボールの構造]
本発明のゴルフボールの構造は、コアと、前記コアを被覆する少なくとも一層の中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有するものであれば特に限定されない。ゴルフボールの構造としては、例えば、球状コアと前記球状コアを被覆する1層の中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有するスリーピースゴルフボール;球状コアと前記球状コアを被覆する2層以上の中間層と前記中間層を被覆するカバーとを有するマルチピースゴルフボール;などが挙げられる。
【0099】
中間層が複数ある場合、中間層の最外層の色調を測定する。
【0100】
本発明のゴルフボールのコアは、球状であることが好ましい。球状コアの直径は、34.8mm以上が好ましく、より好ましくは36.8mm以上、さらに好ましくは38.8mm以上であり、42.2mm以下が好ましく、41.8mm以下がより好ましく、さらに好ましくは41.2mm以下であり、最も好ましくは40.8mm以下である。前記球状コアの直径が34.8mm以上であれば、カバーの厚みが厚くなり過ぎず、反発性がより良好となる。一方、球状コアの直径が42.2mm以下であれば、カバーが薄くなり過ぎず、カバーの機能がより発揮される。
【0101】
前記中間層の厚みは、0.8mm以上が好ましく、より好ましくは0.9mm以上、さらに好ましくは1.0mm以上であり、2.2mm以下が好ましく、より好ましくは2.0mm以下、さらに好ましくは1.8mm以下である。中間層の厚みが、0.8mm以上であれば、中間層の成形がより容易となり、2.2mm以下であれば相対的にコアの直径を大きくできるため、ゴルフボールの反発性能が向上する。中間層が複数ある場合には、複数の中間層の合計厚みが前記範囲内であることが好ましい。
【0102】
本発明のゴルフボールのカバーは、単層であることが好ましい。前記カバーの厚みは、0.3mm以上が好ましく、より好ましくは0.4mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であり、2.0mm以下が好ましく、より好ましくは1.5mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下である。カバーの厚みが0.3mm以上であればカバーの成形がより容易となり、2.0mm以下であれば相対的にコアの直径を大きくできるため、ゴルフボールの反発性能が向上する。
【0103】
塗膜の膜厚は、特に限定されないが、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。膜厚が5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、膜厚が50μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するからである。
【0104】
本発明のゴルフボールの直径は、40mmから45mmが好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。また、ゴルフボールの質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
【0105】
図5は、本発明の一実施形態に係るゴルフボール1が示された一部切り欠き断面図である。ゴルフボール1は、球状コア2と、球状コアを被覆する中間層3と、前記中間層を被覆するカバー4とを有する。このカバーの表面には、多数のディンプル31が形成されている。このゴルフボールの表面のうち、ディンプル31以外の部分は、ランド32である。このゴルフボールは、カバーの外側にペイント層5を備えている。
【実施例
【0106】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0107】
[評価方法]
(1)色調
中間層およびゴルフボール表面の色調は、色差計(コニカミノルタ社製、「CM-3500d」)を用いて測定した。ゴルフボールの色調は、ゴルフボール本体に塗膜を形成した状態で測定した。
【0108】
(2)ラフでの見つけやすさ
各ゴルフボールをラフ(芝長さ5~10cm)に沈めた状態にして、被験者から1m~10mの距離で、1m置きにそれぞれ確認し、そのボールの色の組み合わせを正答できる最長距離を算出した。被験者20名にて評価し、平均距離を算出した。
【0109】
(3)ショット時の方向付け
被験者20名に対し、ゴルフボールの半球状の第1領域と半球状の第2領域が分かれるように置き、ドライバーを持ってアドレスしてもらい、第一半球と第二半球との境界線の方向がはっきりとわかると答えるかどうかの集計を取った。
◎:17~20名、
〇:13~16名、
△:9~12名、
×:8名以下
【0110】
[ゴルフボールの作製]
(1)コアの作製
表1に示す配合のゴム組成物を混練ロールにより混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で170℃、20分間加熱プレスすることにより直径39.7mmの球状コアを得た。硫酸バリウムは、得られるゴルフボールの質量が45.3gとなるように調整した。
【0111】
【表1】
【0112】
表1で使用した原料は以下の通りである。
ポリブタジエンゴム:JSR社製、ハイシスポリブタジエン「BR730」(シス-1,4-結合含有量=96質量%、1,2-ビニル結合含有量=1.3質量%、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))=55、分子量分布(Mw/Mn)=3)
アクリル酸亜鉛:日触テクノファインケミカル社製、「ZNDA-90S」
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺R」
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
PBDS:川口化学工業社製ビス(ペンタブロモジフェニル)ジスルフィド
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
【0113】
(2)中間層の成形
表2に示した配合材料を、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状の中間層用樹脂組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160~230℃に加熱された。得られた中間層用樹脂組成物を、前述のようにして得た球状コア上に射出成形することにより、厚み1mmの中間層を成形した。
【0114】
【表2】
【0115】
ハイミラン1605:三井デュポンポリケミカル社製のナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ハイミランAM7329:三井デュポンポリケミカル社製の亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
酸化チタン:石原産業社製「A220」
FX305:シンロイヒ社製 レモンイエロー(Lemon Yellow)
GPX-17:デイグロ社製サターン・イエロー
GPL-15:デイグロ社製ブレイズ・オレンジ
【0116】
(3)カバーの成形
表3に示す材料をドライブレンドし、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状のカバー(ハーフシェル)用組成物を得た。押出は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35で行った。配合物は、押出機のダイの位置で150~230℃に加熱された。
【0117】
ハーフシェルの圧縮成形は、得られたペレット状のカバー用樹脂組成物をハーフシェル成形用金型の下型の凹部ごとに1つずつ投入し、加圧してハーフシェルを成形した。圧縮成形は、成形温度170℃、成形時間5分、成形圧力2.94MPaの条件で行った。
前記で得られた中間層を形成した球状コアを、異なる色調を有する2枚のハーフシェルA、ハーフシェルBで同心円状に被覆して、圧縮成形によりカバーを成形した。圧縮成形は、成形温度150℃、成形時間2分、成形圧力9.8MPaの条件で行った。カバーの厚みは、0.5mmとした。
【0118】
【表3】
【0119】
表3で使用した原料は以下の通りである。
ウレタン樹脂:エラストラン(登録商標)NY80A:BASFジャパン社製、ポリウレタンエラストマー(ポリオール成分;ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリイソシアネート成分;ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、鎖延長剤;1,4-ブタンジオール)(ショアA硬度80)
JF-90:城北化学工業社製、光安定剤
酸化チタン:石原産業社製、「A220」
エポカラーFP3000:UKSEUNG CHEMICAL CO.,LTD.製(ベンゾグアナミン樹脂(ベンゾグアナミンとホルムアルデヒドとの縮合物)に蛍光染料を分散させ、固着させた蛍光顔料)
FX305:シンロイヒ社製 レモンイエロー(Lemon Yellow)
FX-327:シンロイヒ社製 マゼンタ(Mazenta)
GPX-17:デイグロ社製サターン・イエロー
GPL-15:デイグロ社製ブレイズ・オレンジ
ZQ-14:デイグロ社製(ポリエステル樹脂に蛍光染料を分散させ、固着させた蛍光顔料)ファイヤー・オレンジ
ZQ―17:デイグロ社製(ポリエステル樹脂に蛍光染料を分散させ、固着させた蛍光顔料)サターン・イエロー
ZQ-18:デイグロ社製(ポリエステル樹脂に蛍光染料を分散させ、固着させた蛍光顔料)シグナルグリーン
FP113:UKSEUNG CHEMICAL CO., LTD.製 赤(RED)
FP1050:UKSEUNG CHEMICAL CO., LTD.製 青(BLUE)
【0120】
(4)塗料用組成物の調製
[ポリオール組成物No.1(ウレタンポリオール)]
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、数平均分子量650)及びトリメチロールプロパン(TMP)を混合溶剤(トルエン/メチルエチルケトン、質量比:15/85)に溶解した。モル比(PTMG:TMP)は、1.8:1.0であった。この溶液に、触媒として、主剤全量に対して0.1質量%のジブチル錫ジラウレートを添加した。このポリオール溶液を80℃に保持しながら、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を滴下混合した。この混合液のモル比(NCO/OH)は、0.6であった。滴下後、混合液中のイソシアネート成分がなくなるまで攪拌を続け、その後常温で冷却することにより、ウレタンポリオールを含むポリオール組成物No.1を、主剤として得た。ポリオール組成物No.1の固形分含量は、30質量%であり、PTMGの含有率は67質量%であり、固形分の水酸基価は67.4mgKOH/gであり、ウレタンポリオールの重量平均分子量は4867であった。フィラーを配合する場合には、前記ポリオール組成物に添加した。配合量は、塗膜を構成するポリオール組成物100質量部に対して45質量部とした。
【0121】
[ポリイソシアネート組成物No.1]
30質量部のヘサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(旭化成ケミカルズ社の商品名「デュラネートTKA-100」、NCO含有率:21.7質量%)、30質量部のヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体(旭化成ケミカルズ社の商品名「デュラネート21S-75E」、NCO含有率:15.5質量%)、及び40質量部のイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(BAYER社の商品名「デスモジュールZ4470」、NCO含有率:11.9質量%)を混合した。この混合物に、溶媒として、メチルエチルケトン、酢酸n-ブチル及びトルエンを添加して混合することにより、ポリイソシアネート組成物No.1を、硬化剤として得た。この組成物におけるポリイソシアネート成分の濃度は、60質量%であった。
【0122】
表4に示した配合比でポリオール組成物とポリイソシアネート組成物を混合して、塗料組成物を調製した。前記で得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、スプレーガンで塗料を塗布し、40℃のオーブンで24時間塗料を乾燥させ、直径42.7mm、質量45.3gのゴルフボールを得た。
【0123】
【表4】
【0124】
シリカ:Evonik製CARPLEX FPS-1(湿式シリカ、体積平均粒子径:7.0μm)
【0125】
塗装は、プロングを備えた回転体にゴルフボール本体を載置し、回転体を300rpmで回転させ、ゴルフボール本体からエアーガンを吹き付け距離(7cm)だけ離間させて上下方向に移動させながら行った。重ね塗りの各回のインターバルを1.0秒とした。エアーガンの吹付条件は、重ね塗り;2回、吹付エアー圧;0.15MPa、圧送タンクエアー圧;0.10MPa、1回の塗布時間;1秒、雰囲気温度;20℃~27℃、雰囲気湿度;65%以下の条件で塗装とした。得られたゴルフボールについて評価した結果を併せて表5に示した。
【0126】
【表5】
【0127】
表5から、ゴルフボールの表面が、第1色の第1領域と、第2色の第2領域とを有し、中間層の最外層の表面とゴルフボール表面の第1領域との色差をΔEms1、中間層の最外層の表面とゴルフボール表面の第2領域との色差をΔEms2としたときに、ΔEms2/ΔEms1≧4.0であり、ΔEms1≦20であるゴルフボールは、視認性が高く、ショット時の方向付けがしやすいことが分かる。
【符号の説明】
【0128】
1:ゴルフボール、2:球状コア、3:中間層、4:カバー、5:塗膜、31:ディンプル、32:ランド
図1
図2
図3
図4
図5