IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】高帯電防止塗り床材および塗り床
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/12 20060101AFI20241008BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20241008BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241008BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
E04F15/12 M
C09D7/41
C09D7/61
C09D201/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020139804
(22)【出願日】2020-08-21
(65)【公開番号】P2022035463
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】佐野 紀文
(72)【発明者】
【氏名】平山 善男
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-280450(JP,A)
【文献】特表2012-502144(JP,A)
【文献】特開2014-185436(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107652845(CN,A)
【文献】特開2016-113890(JP,A)
【文献】特開2020-019924(JP,A)
【文献】特開平08-107913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/00- 15/22
C09D 1/00- 10/00
C09D 101/00-201/10
H01B 1/00- 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温硬化型樹脂であるエポキシ樹脂と、単層カーボンナノチューブ(但し、表面がカルボキシル化された変性単層カーボンナノチューブ及びカーボンナノチューブを水性樹脂中に分散させた後、水性樹脂を析出させて表面を樹脂にて処理したカーボンナノチューブを除く)と、フタロシアニン系顔料と、を含有し、
前記フタロシアニン系顔料が、配位金属として銅を含有するフタロシアニングリーンまたは配位金属として銅を含有するフタロシアニンブルーである塗り床材。
【請求項2】
前記フタロシアニン系顔料の含有量が、0.03質量%以上1.00質量%以下である、請求項1に記載の塗り床材。
【請求項3】
前記単層カーボンナノチューブの含有量が、0.010質量%以上0.040質量%以下である、請求項1または2に記載の塗り床材。
【請求項4】
前記単層カーボンナノチューブが、前記常温硬化型樹脂と反応性を有する希釈剤中に予備分散されたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の塗り床材。
【請求項5】
前記フタロシアニン系顔料が、フタロシアニングリーンである、請求項1~4のいずれか1項に記載の塗り床材。
【請求項6】
酸化鉄系顔料をさらに含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の塗り床材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の塗り床材を塗工する工程を含む、塗り床の形成方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性能が高められた塗り床材に関する。本発明はまた、当該塗り床材の硬化塗膜を含む塗り床に関する。
【背景技術】
【0002】
工場を始めとする生産施設等の床には、エポキシ樹脂等の硬化型樹脂を用いた塗り床が多く採用されている。しかし、塗り床に用いる硬化型樹脂は電気的には絶縁性であるため、施工された塗り床上での作業で静電気による障害が発生するという問題が生じる。そこで、塗り床に帯電防止性能を付与するために、硬化型樹脂に導電性フィラーを添加することが行われている。例えば、特許文献1には、導電性フィラーとして導電性酸化チタン粉末と炭素繊維とを用いることが記載されている。特許文献2には、導電性フィラーとして炭素繊維を用いることが記載されている。特許文献3には、導電性フィラーとして導電性酸化亜鉛等の導電性金属酸化物とステンレス繊維とを用いることが記載されている。
【0003】
人体に帯電した静電気を、塗り床を通してアースする際の漏洩抵抗は10Ω程度であればよいと言われている。そのため、帯電防止性の塗り床は、印加電圧500Vで測定した際に、抵抗が10Ω以下となる導電性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-40446号公報
【文献】特開2017-48333号公報
【文献】特開2016-223252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、生産施設等においては、低電圧での電子部品の破壊のような静電気障害も起こり得る。これに対し、従来技術の塗り床は、硬化性樹脂を海相、導電性フィラーを島相とする海島構造を有している。海島構造においては、海相を挟んでの島相間での通電となるため、導電のためには一定以上の電圧が必要となる。このため、従来技術の塗り床は、500Vよりもはるかに低い低電圧においては導電性を示さず、このような低電圧での静電気障害を防止することができない。そのため、低電圧でも導電性を示す塗り床の開発が望まれている。
【0006】
かかる事情に鑑み、本発明は、硬化塗膜が低電圧においても導電性を示す塗り床材を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、常温硬化型樹脂と、単層カーボンナノチューブと、フタロシアニン系顔料と、を含有する塗り床材である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硬化塗膜が低電圧においても高い導電性を示す塗り床材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の塗り床材は、常温硬化型樹脂と、単層カーボンナノチューブと、フタロシアニン系顔料と、を含有する。以下、本発明の塗り床材の各成分について詳細に説明する。
【0010】
〔常温硬化型樹脂〕
常温硬化型樹脂は、施工環境温度である常温(例えば0℃~40℃、特に5℃~35℃)において硬化させることができる樹脂であり、塗り床材用途において公知のものを用いることができる。常温硬化型樹脂としては、2液硬化型タイプ、湿気硬化型タイプ、ラジカル重合性タイプ等のものを用いることができ、なかでも2液硬化型タイプが好ましい。常温硬化型樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等が挙げられ、なかでもエポキシ樹脂が好ましい。
【0011】
エポキシ樹脂としては、塗り床材用途において公知のものを使用することができ、常温で液状を示し、硬化剤との反応によって硬化する2液硬化型タイプのものが好ましい。
【0012】
エポキシ樹脂の例としては、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の脂環式エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノールとエピハロヒドリン類とから誘導されるビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ビフェニルノボラック樹脂等のノボラック樹脂のエポキシ化物;水素化ビスフェノールF、水素化ビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体等の二価アルコールとエピハロヒドリン類とから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ハイドロキノン、カテコール等の多価フェノールとエピハロヒドリン類とから誘導されるエポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、ビスフェノール型エポキシ樹脂(特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)が好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
硬化剤としては、塗り床材用途において公知のものを使用することができる。その具体例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン等の脂肪族アミン類またはその変成品;m-フェニレンジアミン、m-キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族アミン類またはその変成品;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソフォロンジアミン等の脂環式アミン類またはその変性品;無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸無水物、ピロメリット酸無水物等の酸無水物類;ポリサルファイド;酸アミド;チオコール等が挙げられる。なかでも、脂環式アミン類、芳香族アミン類、およびこれらの変性品が好ましい。変性品としては、マンニッヒ変性品、アダクト変性品等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
エポキシ樹脂と硬化剤との混合量は、従来と同様に、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基のモル量と硬化剤に含まれる活性水素のモル量とが、略等しくなるように設定すればよい。なお、後述の反応性希釈剤を使用する場合には、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基および反応性希釈剤に含まれるエポキシ基の合計モル量と硬化剤に含まれる活性水素のモル量とが、略等しくなるように設定すればよい。
【0015】
〔単層カーボンナノチューブ〕
本発明においては、導電性フィラーとして単層カーボンナノチューブ(SWNT)が用いられる。SWNTは、1枚のグラフェンシートが円筒状に巻かれた構造を有する。単層カーボンナノチューブは、アームチェア型、ジグザグ型、およびカイラル型のいずれであってもよい。塗り床材中に容易に分散させることができることから、単層カーボンナノチューブとして、予備分散されたものを用いることが好ましく、特に、常温硬化型樹脂と反応性を有する希釈剤中に予備分散されたものを用いることが好ましい。単層カーボンナノチューブは、公知方法に従い合成することができ、市販品としても入手可能である。予備分散された単層カーボンナノチューブとして好適には、OCSIAL社製「TUBALL MATRIX201」が挙げられる。この「TUBALL MATRIX201」は、反応性希釈剤として、脂肪酸グリシジルエステルを含む。したがって、常温硬化型樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合には、脂肪酸グリシジルエステルが、エポキシ樹脂と共に硬化剤と反応することができる。
【0016】
塗り床材中の単層カーボンナノチューブの含有量は、特に限定されないが、少な過ぎると導電性が不十分となるおそれがある。そのため、塗り床材中(すなわち、塗り床材の全質量に対して;常温硬化型樹脂が2液型の場合には硬化剤の質量も含む塗り床材の全質量に対して)の単層カーボンナノチューブの含有量は、好ましくは0.010質量%以上、より好ましくは0.015質量%以上、さらに好ましくは0.020質量%以上である。一方、塗り床材中の単層カーボンナノチューブの含有量が多過ぎると、塗り床材の増粘を招き仕上がり性を損なうおそれがある。そのため、塗り床材中の単層カーボンナノチューブの含有量は、好ましくは0.040質量%以下、より好ましくは0.035質量%以下、さらに好ましくは0.030質量%以下である。また、単層カーボンナノチューブの含有量が0.040質量%以下である場合には、単層カーボンナノチューブの有する色による、塗り床材の硬化塗膜の色への影響がほとんど見られない。
【0017】
〔フタロシアニン系顔料〕
本明細書において「フタロシアニン系顔料」とは、フタロシアニン骨格を有する顔料のことをいう。単層カーボンナノチューブは、高い導電性を有する一方で、非常に凝集を起こしやすい。そのため、導電性向上のために導電性フィラーとして単層カーボンナノチューブを塗り床材に添加しても、単層カーボンナノチューブの凝集が起こる。その結果、塗り床材を用いて形成される硬化塗膜において、例えば100V、さらには25Vといったような低電圧では導電パスが形成されず導電性が得られない。そこで、本発明においては、単層カーボンナノチューブと、フタロシアニン系顔料とを組み合わせて使用する。フタロシアニン系顔料のフタロシアニン骨格により、単層カーボンナノチューブを安定に分散させることができ、これにより、塗り床材を用いて形成される硬化塗膜において、低電圧でも導電パスが形成され、高い導電性を発現することができる。このフタロシアニン系顔料による単層カーボンナノチューブの分散安定化効果は長期にわたって発揮され、これにより塗り床材の貯蔵安定性も高くなる。また、塗り床材に、新たな種類の添加剤を用いる場合、他の成分に悪影響を及ぼすことが起こり得る。しかしながら、顔料は、塗り床材に通常含有される成分であるため、非常に多種類ある顔料の中の1種の顔料であるフタロシアニン系顔料によって、単層カーボンナノチューブを安定に分散させて低電圧での導電性を達成できることは、他の成分への悪影響が防がれているため有利である。
【0018】
フタロシアニン骨格(特に、フタロシアニン環)は、無置換であっても、置換されていてもよい。フタロシアニン骨格が置換されている場合、置換基の例としては、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)などが挙げられ、なかでも、塩素原子が好ましい。また、フタロシアニン系顔料は、配位金属を有していてもよいし、有していなくてもよい。より高い導電性の観点から、フタロシアニン系顔料は、配位金属を有していることが好ましい。配位金属の例としては、銅(Cu)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。配位金属として好ましくは、銅(Cu)である。
【0019】
フタロシアニン系顔料の好適な例としては、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー等が挙げられる。より高い導電性の観点から、これらのうち、フタロシアニングリーンが好ましい。フタロシアニン系顔料の具体例としては、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン38、C.I.ピグメントグリーン58、C.I.ピグメントグリーン59、C.I.ピグメントグリーン62、C.I.ピグメントグリーン63、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:6、C.I.ピグメントブルー16等が挙げられる。フタロシアニン系顔料は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
塗り床材中のフタロシアニン系顔料の含有量は、特に限定されないが、少な過ぎると導電性が不十分となるおそれがある。そのため、塗り床材中のフタロシアニン系顔料の含有量は、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.10質量%以上である。一方、フタロシアニン系顔料は少量でも十分に着色できるため、塗り床材中のフタロシアニン系顔料の含有量は、好ましくは1.00質量%以下、より好ましくは、0.80質量%以下、さらに好ましくは0.60質量%以下である。
【0021】
〔酸化鉄〕
本発明の塗り床材は、酸化鉄系顔料を含有していてもよい。酸化鉄系顔料は、酸化鉄系顔料は組成と結晶構造の違いにより赤色,黄色および黒色のさまざまな色相を呈する。本発明の塗り床材は、フタロシアニン系顔料を含有することによって、フタロシアニン系顔料の呈する色調を備える。そこに、酸化鉄系顔料を配合することによって、この色調を整えることができる。また、酸化鉄系顔料は、無機粒子であるため、硬化塗膜の強度等を向上させることができる。酸化鉄系顔料の例としては、赤色酸化鉄顔料(べんがら)、黒色酸化鉄顔料(鉄黒)、黄色酸化鉄顔料(黄鉄)等が挙げられる。酸化鉄系顔料は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
塗り床材中の酸化鉄系顔料の含有量は、特に限定されず、所望の色調に応じて適宜決定すればよい。塗り床材中の酸化鉄系顔料の含有量は、例えば、3質量%以上20質量%以下である。
【0023】
〔レベリング剤〕
本発明の塗り床材は、仕上がり性を向上させるために、レベリング剤を含有していてもよい。レベリング剤としては、塗り床材に用いられている公知のものを用いてよい。レベリング剤の例としては、アクリル系ポリマー等が挙げられる。レベリング剤として、共栄社化学社製の「ポリフロー」シリーズを用いてよい。レベリング剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
塗り床材中のレベリング剤の含有量は、特に限定されないが、少な過ぎると仕上がり性が低下するおそれがある。そのため、塗り床材中のレベリング剤の含有量は、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.07質量%以上である。一方、塗り床材中のレベリング剤の含有量が多過ぎると、導電性が不十分となるおそれがある。そのため、塗り床材中のレベリング剤の含有量は、好ましくは0.17質量%以下、より好ましくは0.15質量%以下、さらに好ましくは0.13質量%以下である。
【0025】
〔消泡剤〕
本発明の塗り床材は、仕上がり性を向上させるために、消泡剤を含有していてもよい。消泡剤としては、塗り床材に用いられている公知のものを用いてよい。消泡剤の例としては、アクリル系ポリマー、ビニルエーテル系ポリマー、およびこれらの混合物等が挙げられる。消泡剤として、共栄社化学社製の「フローレン」シリーズを用いてよい。消泡剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
塗り床材中の消泡剤の含有量は、特に限定されないが、少な過ぎると仕上がり性が低下するおそれがある。そのため、塗り床材中の消泡剤の含有量は、好ましくは0.25質量%以上、より好ましくは0.30質量%以上、さらに好ましくは0.35質量%以上である。一方、塗り床材中の消泡剤の含有量が多過ぎると、導電性が不十分となるおそれがある。そのため、塗り床材中の消泡剤の含有量は、好ましくは0.55質量%以下、より好ましくは0.50質量%以下、さらに好ましくは0.45質量%以下である。
【0027】
本発明の塗り床材は、色調の調整等を目的として、上記以外の顔料をさらに含有していてもよい。顔料としては、塗り床材に用いられている公知のものを用いてよい。顔料の含有量は、顔料の種類と所望の色調等に応じて適宜設定すればよい。
【0028】
本発明の塗り床材は、強度向上、着色性向上等を目的として、絶縁性充填材を含有していてもよい。絶縁性充填材としては、塗り床材に用いられている公知のものを用いてよい。その例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ、カオリン、タルク、マイカ、ガラスビーズ、ガラスマイクロバルーン、ガラス繊維等が挙げられ、なかでも炭酸カルシウム(特に、重質炭酸カルシウム)が好ましい。絶縁性充填材の含有量は、所望の強度等に応じて適宜設定すればよい。
【0029】
本発明の塗り床材は、粘度調整等を目的として、反応性希釈剤、非反応性希釈剤等を含有していてもよい。反応性希釈剤としては、例えば、常温硬化型樹脂と同種の反応性基を1つ以上有する化合物が挙げられる。具体的に例えば、常温硬化型樹脂がエポキシ樹脂である場合には、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ基を有する化合物を用いることができる。非反応性希釈剤としては、例えば、常温硬化型樹脂と同種の反応性基を有しない化合物が挙げられる。具体的に例えば、常温硬化型樹脂がエポキシ樹脂である場合には、ベンジルアルコール等を用いることができる。これらの含有量は、所望の粘度等に応じて適宜設定すればよい。
【0030】
本発明の塗り床材は、本発明の効果を顕著に阻害しない範囲内で、上記以外の成分をさらに含有していてもよい。
【0031】
本発明の塗り床材の調製方法には特に制限はなく、公知方法に従い調製することができる。例えば、本発明の塗り床材の各成分を、施工現場等において一度に配合して調製するようにしてもよい。例えば、本発明の塗り床材は、硬化剤以外の成分を含有する主剤と、硬化剤とに分けた2液タイプであって、施工現場等で主剤と硬化剤とを混ぜて使用するタイプとして調製してもよい。例えば、2液タイプとして準備し、主剤成分として、絶縁性充填材を配合しないもの、または少な目に配合したものを用意しておき、例えば施工現場等において、下地の状況や塗り床に求められる特性等を考慮して求めた配合量となるように、主剤に絶縁性充填材を追加するようにしてもよい。
【0032】
本発明の塗り床材は、公知方法に従い施工して用いることができる。例えば、施工される床に流し延べ工法によって、本発明の塗り床材を塗工し、その後、所定時間静置して、乾燥およびエポキシ樹脂の硬化を行うことにより塗り床を形成することができる。施工される塗り床は、本発明の塗り床材によって形成される層(すなわち、本発明の塗り床材の硬化塗膜の層)の単層であってもよいし、本発明の塗り床材によって形成される層と、プライマー層とを組み合わせた複層構造であってもよい。
【0033】
本発明の塗り床材によれば、単層カーボンナノチューブとフタロシアニン系顔料とを組み合わせることによって、硬化塗膜が、500Vよりもはるかに低い電圧(例えば100V、さらには25V)においても高い導電性を示す。特に、その硬化塗膜は、25Vにおける抵抗値が10Ω未満となるような導電性を示し得る。よって、本発明の塗り床材は、従来よりも帯電防止性能がはるかに高くなっており(よって「高帯電防止塗り床材」と呼ぶことができる)、従来の帯電防止のみならず、低電圧での電子部品の破壊のような静電気障害も防止することができる。また、本発明の塗り床材は、良好な貯蔵安定性も有している。
【0034】
そこで本発明は、別の観点から、上記の塗り床材の硬化塗膜を備える塗り床である。当該塗り床は、プライマー層を有していてもよい。上記の塗り床材の硬化塗膜の厚さは、特に限定されないが、例えば1.0mm以上3.0mm以下、好ましくは1.0mm以上2.0mm以下である。本発明の塗り床は、25Vにおいても高い導電性を示す。よって、低電圧での電子部品の破壊のような静電気障害を防止することができる。本発明の塗り床は、各種建物において用いることができ、特に電子部品の研究施設および生産施設に好適である。
【実施例
【0035】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0036】
〔試験例1:従来品との比較〕
実施例1および比較例1
表1に記載の各成分を混合して、主剤と硬化剤とからなる2液型の塗り床材を作製した。具体的には、実施例1では、エポキシ樹脂を計量して撹拌容器に加えた。非反応性希釈剤を計量し、当該撹拌容器に加え、1500rpmで撹拌した。さらに、炭酸カルシウムを計量し、当該撹拌容器に加え、1500rpmで撹拌した。一方で、顔料と、カーボンナノチューブ分散液と、少量のエポキシ樹脂と、反応性希釈剤との混合物を、当該撹拌容器に加え、1500rpmで撹拌した。レベリング剤および消泡剤を当該撹拌容器に加え、1500rpmで撹拌した。その後、さらに20分間撹拌して主剤を得た。この主剤と硬化剤とを5:1の質量比で混合して塗料を作製した。なお、表1の各成分に対する値は質量部を示す。主剤と硬化剤との合計は、約120質量部である。
【0037】
〔導電性評価〕
プライマー層および導電性プライマー層(抵抗:約10Ω)を形成した平板上に、各実施例および各比較例の塗り床材を塗工し、24時間以上放置してエポキシ樹脂を硬化させて、試験サンプルを作製した。この試験サンプルに対し、NFPA法およびJIS A1454:2016に準じて、絶縁抵抗計を用いて印加電圧を500Vおよび25Vとした場合の抵抗を測定した。なお、電極として2.25kgの鉄製円柱を用い、電極間距離は3フィート(約91cm)とした。測定結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
ポリフロー#85:共栄社化学社製のレベリング剤「ポリフロー#85」
フローレンAC324:共栄社化学社製の消泡剤「フローレンAC324」
MATRIX201:OCSIAL社製「TUBALL MATRIX201」(単層カーボンナノチューブ:脂肪酸グリシジルエステル(反応性希釈剤)=1:9の質量比で含有)
【0040】
比較例1は、導電性フィラーとして導電性亜鉛華、金属繊維、および炭素繊維を用いた従来技術に該当する例である。表1の結果が示すように、従来技術に該当する比較例1では、500Vでは抵抗値が10Ωと低く導電性を示すが、25Vでは抵抗値が10Ωと高く導電性を示さない。これに対し、本発明の一例である実施例1では、25Vにおいても抵抗値が10Ωと低く導電性を有していることがわかる。したがって、本発明によれば、硬化塗膜が低電圧(特に25V)においても高い導電性を示す塗り床材が実現できていることがわかる。
【0041】
さらに、実施例1の塗り床材を調製後、2週間放置してから上記の導電性評価を行ったところ、25Vにおいて10Ωの抵抗値を示し、導電性が低下していないことが確認できた。このことから、本発明の塗り床材においては、単層カーボンナノチューブの良好な分散状態が長期にわたって保たれており、貯蔵安定性にも優れることがわかる。
【0042】
〔試験例2:フタロシアニン系顔料の検討〕
実施例2~10
表2に記載の各成分を混合して、主剤と硬化剤とからなる2液型の塗り床材を作製した。具体的には、実施例1では、エポキシ樹脂塗料を計量して撹拌容器に加えた。カーボンナノチューブ分散液を計量し、当該撹拌容器に加え、4000rpmで撹拌した。得られた混合物を小分けし、さらに、T16とフタロシアニン系顔料とを計量して撹拌して主剤を得た。この主剤と硬化剤とを5:1の質量比で混合して塗料を作製した。なお、表2の各成分に対する値は質量部を示す。この塗り床材に対して、上記の導電性評価を行った。ただし、評価の際の電圧は100Vとした。
【0043】
【表2】
【0044】
C450A:無着色塗料(住友ゴム工業社製エポキシ樹脂塗料「C450A」の顔料無配合物;エポキシ樹脂、反応性希釈剤、非反応性希釈剤、重質炭酸カルシウム、レベリング剤、消泡剤、分散剤、および沈降防止剤を含有する塗料)
T16:酸化鉄系顔料
H506SA:住友ゴム工業社製変性ポリアミン系硬化剤「H506SA」
【0045】
実施例2~9のいわゆる「銅フタロシアニン」は、配位金属として銅を含有するフタロシアニン顔料であり、実施例10のいわゆる「無金属フタロシアニン」は、配位金属を含有していないフタロシアニン顔料を意味する。これらの比較より、フタロシアニン顔料が、配位金属として銅を含有する場合に、低電圧においてより高い導電性が得られることがわかる。また、フタロシアニングリーンを用いた方がフタロシアニンブルー用いるよりも、概して、高い導電性が得られることがわかる。