IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ゴム工業株式会社の特許一覧

特許7571624弾性材料の性能評価方法及び性能評価装置
<>
  • 特許-弾性材料の性能評価方法及び性能評価装置 図1
  • 特許-弾性材料の性能評価方法及び性能評価装置 図2
  • 特許-弾性材料の性能評価方法及び性能評価装置 図3
  • 特許-弾性材料の性能評価方法及び性能評価装置 図4
  • 特許-弾性材料の性能評価方法及び性能評価装置 図5
  • 特許-弾性材料の性能評価方法及び性能評価装置 図6
  • 特許-弾性材料の性能評価方法及び性能評価装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】弾性材料の性能評価方法及び性能評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/56 20060101AFI20241016BHJP
   G01N 23/046 20180101ALI20241016BHJP
【FI】
G01N3/56 G
G01N23/046
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021034670
(22)【出願日】2021-03-04
(65)【公開番号】P2022135084
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】間下 亮
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-008329(JP,A)
【文献】特開2017-083182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/56
G01N 23/046
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能を評価するための方法であって、
前記弾性材料からなる試験片に歪を付与する歪付与工程と、
前記歪を受けた前記試験片にX線を照射して、前記試験片の投影像を取得する撮像工程と、
前記投影像に基づいて、前記試験片のうち、前記歪を受ける前よりも前記弾性材料の密度が小さくなった領域である低密度領域を検出する検出工程と、
前記低密度領域の検出結果に基づいて、前記低密度領域の密度と、前記低密度領域の頻度との関係を求める関係取得工程と、
前記関係を正規分布に近似させた際の半値全幅FWHMで特定される分布幅を計算する分布幅計算工程とを含む、
性能評価方法。
【請求項2】
前記分布幅に基づいて、前記弾性材料の性能を評価する評価工程をさらに含む、請求項1に記載の性能評価方法。
【請求項3】
前記評価工程は、前記分布幅と、予め定められた閾値とを比較する工程と、前記分布幅が前記閾値以上であるときに前記弾性材料の性能が良好であると評価する工程とを含む、請求項2に記載の性能評価方法。
【請求項4】
前記関係において、前記低密度領域の密度は、前記歪の付与前の前記弾性材料の密度に対する比率で定義されており、
前記閾値は、0.2である、請求項3に記載の性能評価方法。
【請求項5】
前記弾性材料の性能は、耐摩耗性能である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の性能評価方法。
【請求項6】
前記検出工程は、
前記投影像を用いて前記試験片の断層画像を構成する工程と、
前記断層画像から前記弾性材料の密度分布を測定する工程とを含む、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の性能評価方法。
【請求項7】
前記歪が伸張歪である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の性能評価方法。
【請求項8】
前記伸張歪が20%以上である、請求項7に記載の性能評価方法。
【請求項9】
前記弾性材料は、1種類以上の共役ジエン系化合物を用いて得られるゴムである、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の性能評価方法。
【請求項10】
前記ゴムは、タイヤ用ゴムである、請求項9に記載の性能評価方法。
【請求項11】
前記X線の輝度(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)は、1010以上である、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の性能評価方法。
【請求項12】
前記輝度は、1012以上である、請求項11に記載の性能評価方法。
【請求項13】
ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能を評価するための装置であって、
前記弾性材料からなる試験片に歪を付与する歪付与部と、
前記歪を受けた前記試験片にX線を照射して、前記試験片の投影像を取得する撮像部と、
前記投影像に基づいて、前記試験片のうち、前記歪を受ける前よりも前記弾性材料の密度が小さくなった領域である低密度領域を検出する検出部と、
前記低密度領域の検出結果に基づいて、前記低密度領域の密度と、前記低密度領域の頻度との関係を求める関係取得部と、
前記関係を正規分布に近似させた際の半値全幅FWHMで特定される分布幅を計算する分布幅計算部とを含む、
性能評価装置。
【請求項14】
前記分布幅に基づいて、前記弾性材料の性能を評価する評価部をさらに含む、請求項13に記載の性能評価装置。
【請求項15】
前記撮像部は、X線を可視光に変換するための蛍光体を有し、
前記蛍光体の減衰時間は、100ms以下である、請求項13又は14に記載の性能評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性材料の性能評価方法及び性能評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、弾性材料の性能を評価するための方法が提案されている。この方法は、弾性材料からなる試験片に歪を印加する工程と、試験片にX線を照射して、投影像を撮影する撮影工程と、投影像から測定される弾性材料の密度分布に基づいて、弾性材料の性能を評価する評価工程とを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-83182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法は、ランボーン摩耗試験機に変わる新たな評価技術として有効である一方、評価精度の向上については、さらなる改善の余地があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、弾性材料の性能を高い精度で評価することが可能な方法及び装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能を評価するための方法であって、前記弾性材料からなる試験片に歪を付与する歪付与工程と、前記歪を受けた前記試験片にX線を照射して、前記試験片の投影像を取得する撮像工程と、前記投影像に基づいて、前記試験片のうち、前記歪を受ける前よりも前記弾性材料の密度が小さくなった領域である低密度領域を検出する検出工程と、前記低密度領域の検出結果に基づいて、前記低密度領域の密度と、前記低密度領域の頻度との関係を求める関係取得工程と、前記関係を正規分布に近似させた際の半値全幅FWHMで特定される分布幅を計算する分布幅計算工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記分布幅に基づいて、前記弾性材料の性能を評価する評価工程がさらに含まれてもよい。
【0008】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記評価工程は、前記分布幅と、予め定められた閾値とを比較する工程と、前記分布幅が前記閾値以上であるときに前記弾性材料の性能が良好であると評価する工程とを含んでもよい。
【0009】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記関係において、前記低密度領域の密度は、前記歪の付与前の前記弾性材料の密度に対する比率で定義されており、前記閾値は、0.2であってもよい。
【0010】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記弾性材料の性能は、耐摩耗性能であってもよい。
【0011】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記検出工程は、前記投影像を用いて前記試験片の断層画像を構成する工程と、前記断層画像から前記弾性材料の密度分布を測定する工程とを含んでもよい。
【0012】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記歪が伸張歪であってもよい。
【0013】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記伸張歪が20%以上であってもよい。
【0014】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記弾性材料は、1種類以上の共役ジエン系化合物を用いて得られるゴムであってもよい。
【0015】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記ゴムは、タイヤ用ゴムであってもよい。
【0016】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記X線の輝度(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)は、1010以上であってもよい。
【0017】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記輝度は、1012以上であってもよい。
【0018】
本発明は、ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能を評価するための装置であって、前記弾性材料からなる試験片に歪を付与する歪付与部と、前記歪を受けた前記試験片にX線を照射して、前記試験片の投影像を取得する撮像部と、前記投影像に基づいて、前記試験片のうち、前記歪を受ける前よりも前記弾性材料の密度が小さくなった領域である低密度領域を検出する検出部と、前記低密度領域の検出結果に基づいて、前記低密度領域の密度と、前記低密度領域の頻度との関係を求める関係取得部と、前記関係を正規分布に近似させた際の半値全幅FWHMで特定される分布幅を計算する分布幅計算部とを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る前記性能評価装置において、前記分布幅に基づいて、前記弾性材料の性能を評価する評価部がさらに含まれてもよい。
【0020】
本発明に係る前記性能評価装置において、前記撮像部は、X線を可視光に変換するための蛍光体を有し、前記蛍光体の減衰時間は、100ms以下であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の弾性材料の性能評価方法は、上記の工程を採用することにより、弾性材料の性能を高い精度で評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態の弾性材料の性能評価装置の斜視図である。
図2】本実施形態のコンピュータのブロック図である。
図3】本実施形態の弾性材料の性能評価方法の処理手順を示すフローチャートである。
図4】(a)、(b)は、配合が異なる弾性材料からなる2種の試験片の断層画像である。
図5】本実施形態の検出工程の処理手順を示すフローチャートである。
図6】(a)、(b)は、配合が異なる弾性材料からなる2種の試験片について、低密度領域の密度と、低密度領域の頻度との関係を示すグラフである。
図7】本実施形態の評価工程の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0024】
本実施形態の弾性材料の性能評価方法(以下、単に「性能評価方法」ということがある。)では、ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能が評価される。弾性材料としては、適宜採用することができる。本実施形態の弾性材料は、1種類以上の共役ジエン系化合物を用いて得られるゴムが挙げられる。また、ゴム(弾性材料)は、例えば、タイヤ用ゴムが挙げられる。本実施形態の方法で評価される性能の一例としては、耐摩耗性能が挙げられる。
【0025】
[弾性材料の性能評価装置]
本実施形態の性能評価方法には、弾性材料の性能評価装置(以下、単に「性能評価装置」ということがある。)1が用いられる。図1は、本実施形態の弾性材料の性能評価装置1の斜視図である。
【0026】
性能評価装置1は、弾性材料の性能を評価するためのものである。本実施形態の性能評価装置1は、歪付与部2、撮像部3、検出部4、関係取得部5、及び、分布幅計算部6を含んで構成されている。さらに、本実施形態の性能評価装置1は、評価部7を含んで構成されている。
【0027】
[歪付与部]
本実施形態の歪付与部2は、弾性材料からなる試験片10に歪を付与するためのものである。本実施形態の歪付与部2は、試験片10が固着される一対の治具21、22と、治具21と治具22とを相対的に移動させて試験片10に歪を付与する駆動部23とを有している。
【0028】
駆動部23は、一方の治具21を固定した状態で、治具21、22が互いに離れる方向に、他方の治具22を移動させる。本実施形態の駆動部23は、他方の治具22を、円柱状の試験片10の軸心方向に移動させている。これにより、試験片10は、その軸方向に伸張されて、歪が付与される。
【0029】
試験片10に付与される歪又は荷重は、ロードセル(図示せず)等により検出される。ロードセルの位置及び形式は、任意である。このような歪付与部2により、試験片10には、予め定められた歪又は荷重が付与される。本実施形態の駆動部23は、試験片10及び治具21、22を、試験片10の軸心回りに回転可能に構成されている。
【0030】
[撮像部]
本実施形態の撮像部3は、歪を受けた試験片10にX線を照射して、試験片10の投影像を取得するためのものである。本実施形態の撮像部3は、X線を照射するX線管31と、X線を検出して電気信号に変換する検出器32とを含んで構成されている。このような撮像部3は、試験片10が軸回りに回転された状態で、複数の投影像を撮影することにより、全周にわたる試験片10の投影像を取得することができる。
【0031】
検出器32は、X線を可視光に変換するための蛍光体32aを有している。蛍光体32aの減衰時間は、適宜設定することができる。なお、蛍光体32aの減衰時間が、100msを超える場合、試験片10等を軸回りに回転させながら複数の投影像を連続して撮影する際に、先に撮影した投影像の残像が後から撮影する投影像に影響を及ぼすおそれがある。このような観点から、蛍光体32aの減衰時間は、好ましくは100ms以下であり、より好ましくは50ms以下であり、さらに好ましくは10ms以下である。
【0032】
[検出部・関係取得部・分布幅計算部・評価部]
本実施形態の検出部4、関係取得部5、分布幅計算部6及び評価部7は、コンピュータ8によって構成されている。図2は、本実施形態のコンピュータ8のブロック図である。
【0033】
本実施形態のコンピュータ8は、入力デバイスとしての入力部11と、出力デバイスとしての出力部12と、演算処理装置13とを含んで構成されている。
【0034】
入力部11としては、例えば、キーボード又はマウス等が用いられる。出力部12としては、例えば、ディスプレイ装置又はプリンタ等が用いられる。演算処理装置13は、各種の演算を行う演算部(CPU)13A、データやプログラム等が記憶される記憶部13B、及び、作業用メモリ13Cを含んで構成されている。
【0035】
記憶部13Bは、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。記憶部13Bには、データ部16、及び、プログラム部17が設けられている。
【0036】
本実施形態のデータ部16には、投影像入力部16A、検出結果入力部16B、関係入力部16C、及び、分布幅入力部16Dが含まれる。これらに入力されるデータは、後述の性能評価方法の処理手順において説明される。
【0037】
本実施形態のプログラム部17は、コンピュータプログラムとして構成されている。本実施形態のプログラム部17は、検出プログラム17A、関係取得プログラム17B、分布幅計算プログラム17C及び評価プログラム17Dが含まれている。これらのプログラム17A~17Dが、演算部13Aによって実行されることにより、コンピュータ8を、検出部4、関係取得部5、分布幅計算部6及び評価部7として機能させることができる。これらの機能は、後述の性能評価方法の処理手順において説明される。
【0038】
[弾性材料の性能評価方法]
次に、本実施形態の性能評価方法の処理手順が説明される。図3は、本実施形態の弾性材料の性能評価方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0039】
[試験片を固定する工程]
本実施形態の性能評価方法では、先ず、図1に示されるように、試験片10が治具21、22に固定される(工程S1)。本実施形態の試験片10には、一様な密度分布を有する上述の弾性材料が用いられている。試験片10は、上記特許文献1と同様に、円柱状に形成されている。なお、試験片10の詳細や、試験片10を治具21、22に固定する手順は、上記特許文献1に記載のとおりである。
【0040】
[歪付与工程]
次に、本実施形態の性能評価方法では、試験片10に歪が付与される(歪付与工程S2)。本実施形態の歪付与工程S2では、歪付与部2の駆動部23により、円柱状の試験片10の軸心方向において、歪付与部2の治具21、22が互いに離れる方向に、治具21、22を相対移動させている。これにより、歪付与工程S2では、試験片10を伸張させることができ、試験片10に伸張歪を付与することができる。
【0041】
本実施形態の歪付与工程S2では、試験片10への歪の付与によって、試験片10の内部に応力が発生し、弾性材料の密度に偏りが生じる。これにより、試験片10の内部には、低密度領域が発生する。
【0042】
図4(a)、(b)は、配合が異なる弾性材料からなる2種の試験片10A、10Bの断層画像である。これらの断層画像は、後述の撮像工程S3で取得される。これらの断層画像では、図1に示した試験片10の軸心方向に対して垂直に交差する任意の平面で、試験片10を切断した断面が示されている。低密度領域15(空隙15a、及び、低密度ゴム部15b)は、黒色で示されている。
【0043】
低密度領域15とは、試験片10のうち、歪を受ける前よりも弾性材料の密度が小さくなった領域である。本実施形態では、歪の付与前の弾性材料の密度の0.0~0.8倍の密度を有する領域が、低密度領域15として定義されている。
【0044】
本実施形態の低密度領域15は、空隙15aと、低密度ゴム部15bとを含んでいる。本実施形態の空隙15aは、歪の付与前の弾性材料の密度の0.0~0.1倍(未満)の密度を有する領域として定義される。一方、低密度ゴム部15bは、歪の付与前の弾性材料の密度の0.1~0.8倍の密度を有する領域として定義される。
【0045】
本実施形態の歪付与工程S2では、試験片10に伸張歪が付与されることにより、例えば、その他の歪(例えば、圧縮歪や、せん断歪み)が付与される場合に比べて、弾性材料(試験片10)の内部に、低密度領域15を効率よく発生させることができる。
【0046】
上記の作用を効果的に発揮させるために、伸張歪は、20%以上が望ましい。伸張歪が20%以上であることにより、弾性材料の内部に十分な体積の低密度領域15が生成され、弾性材料の性能の評価精度が高められる。一方、伸張歪が必要以上に大きくなると、試験片10が破壊するおそれがある。このため、伸張歪は、100%以下が望ましい。なお、本実施形態において、伸張歪は、歪付与後の試験片10の変形長さ(歪付与前からの伸張方向の変化分)を、歪付与前の試験片10の高さ(伸張方向の長さ)を除することで求められる比を百分率で表されたものである。
【0047】
試験片10に作用させる応力の大きさは、適宜設定されうる。なお、応力が小さいと、試験片10に低密度領域15(図4(a)、(b)に示す)を形成できないおそれがある。このような観点より、試験片10には、好ましくは0.5MPa以上の応力を作用させるのが望ましい。一方、応力が必要以上に大きくても、試験片10の損傷が大きくなるおそれがある。このような観点より、試験片10には、好ましくは2.0MPa以下の応力を作用させるのが望ましい。
【0048】
[撮像工程]
次に、本実施形態の性能評価方法では、図1に示されるように、歪を受けた試験片10にX線を照射して、試験片10の投影像が取得される(撮像工程S3)。本実施形態の撮像工程S3は、コンピュータートモグラフィー法により行われる。
【0049】
本実施形態の撮像工程S3では、先ず、図1に示されるように、X線管31から試験片10にX線が照射される。X線は、試験片10を透過して、検出器32によって検出される。検出されたX線は、電気信号に変換される。電気信号は、コンピュータ8に出力される。この電気信号が、コンピュータ8によって処理されることにより、試験片10の投影像が取得される。
【0050】
本実施形態の撮像工程S3では、試験片10を軸心回りに回転させることにより、複数の投影像(回転シリーズ像)が取得される。そして、撮像工程S3では、複数の投影像(回転シリーズ像)が、コンピュータートモグラフィー法によって再構成され、試験片10の三次元の断層画像(一例として、図4(a)に示す)が取得される。試験片10の投影像は、コンピュータ8の投影像入力部16A(図2に示す)に入力される。
【0051】
X線の輝度は、適宜設定されうる。なお、X線の輝度は、X線散乱データのS/N比に大きく関係している。X線の輝度が小さいと、X線の統計誤差よりもシグナル強度が弱くなる傾向にあり、計測時間を長くしても十分にS/N比の良いデータを得ることが困難となるおそれがある。このような観点から、X線の輝度(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)は、好ましくは1010以上であり、より好ましくは1012以上である。
【0052】
X線を可視光に変換するための蛍光体52aの減衰時間は、適宜設定されうる。蛍光体52aの減衰時間は、上記特許文献1と同様に、先に撮影した投影像の残像が、後から撮影する投影像に影響するのを防ぐ観点から、好ましくは100ms以下であり、より好ましくは50ms以下であり、さらに好ましくは10ms以下である。
【0053】
[検出工程]
次に、本実施形態の性能評価方法では、投影像に基づいて、試験片10のうち、歪を受ける前よりも弾性材料の密度が小さくなった領域である低密度領域15(図4(a)に示す)が検出される(検出工程S4)。
【0054】
本実施形態の検出工程S4では、先ず、図2に示されるように、投影像入力部16Aに入力されている試験片10の投影像(図示省略)、及び、検出プログラム17Aが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、検出プログラム17Aが、演算部13Aによって実行されることにより、コンピュータ8を、投影像に基づいて、低密度領域15(図3(a)、(b)に示す)を検出するための検出部4として機能させることができる。図5は、本実施形態の検出工程S4の処理手順を示すフローチャートである。
【0055】
[断層画像を構成]
本実施形態の検出工程S4では、先ず、投影像を用いて試験片10の断層画像33(図4(a)に示す)が構成される(工程S41)。本実施形態の工程S41では、試験片10の投影像を用いて、試験片10の軸心方向に対して垂直に交差する任意の平面で、試験片10を切断した複数の断層画像33(一例として、図4(a)に示す)が取得される。本実施形態の断層画像33は、図1に示した試験片10の軸心方向の一端(図示省略)から他端10bまでの間を、任意の間隔(例えば、10~30μm)で取得される。本実施形態で取得される断層画像33は、150~300枚である。
【0056】
[密度分布の測定]
次に、本実施形態の検出工程S4では、断層画像33(一例として、図4(a)に示す)から弾性材料の密度分布が測定される(工程S42)。本実施形態の工程S42では、先ず、各断層画像33で表示されている試験片10の領域において、断層画像33を構成する微小領域(本例では、画素)ごとに、断層画像33の輝度値が取得される。本実施形態の輝度値は、空隙15aが最も低くなっている。さらに、輝度値が高くなるほど、弾性材料の密度が大きくなっている。このように、輝度値と密度との間には、比例関係が成立している。
【0057】
次に、本実施形態の工程S42では、歪付与前の弾性材料(すなわち、低密度領域15がない部分)の輝度値を1.0とし、かつ、弾性材料が存在しない輝度値(最も低い輝度値)を0.0として、各微小領域(本例では、画素)の輝度値の比率が求められる。このような輝度値の比率は、規格化された密度(すなわち、歪の付与前の弾性材料の密度に対する比率)として定義される。
【0058】
上述したように、低密度領域15の密度は、歪の付与前の弾性材料の密度の0.0~0.8倍である。したがって、工程S42では、輝度値の比率(規格化された密度)が0.0~0.8の微小領域(画素)で表示されている領域が、低密度領域15として検出される。
【0059】
本実施形態では、輝度値の比率(規格化された密度)が0.0~0.1未満の微小領域(画素)で表示されている領域が、空隙15aとして検出される。また、輝度値の比率(規格化された密度)が0.1~0.8の微小領域(画素)で表示されている領域が、低密度ゴム部15bとして検出される。
【0060】
本実施形態の工程S42では、各断層画像33において、低密度領域15がそれぞれ検出される。低密度領域15の検出には、市販の画像処理ソフトウェア(例えば、Adobe社製のPhotoshop(登録商標))等が用いられる。低密度領域15の検出結果は、検出結果入力部16Bに入力される。
【0061】
[関係取得工程]
次に、本実施形態の性能評価方法では、低密度領域15の検出結果(一例として、図4(a)に示す)に基づいて、低密度領域15の密度と、低密度領域15の頻度との関係が求められる(関係取得工程S5)。
【0062】
本実施形態の関係取得工程S5では、先ず、図2に示されるように、検出結果入力部16Bに入力されている低密度領域15の検出結果、及び、関係取得プログラム17Bが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、関係取得プログラム17Bが、演算部13Aによって実行されることにより、コンピュータ8を、低密度領域の密度と、低密度領域の頻度との関係を求める関係取得部5として機能させることができる。
【0063】
本実施形態の関係取得工程S5では、先ず、全ての断層画像33(一例として、図4(a)に示す)に表示されている低密度領域15について、規格化された密度(輝度値の比率)ごとに、微小領域(本例では、画素)の個数が集計される。次に、関係取得工程S5では、密度が1.0となる微小領域の個数を「1.0」として、他の密度の微小領域の個数の比率が、それぞれ求められる。このような個数の比率は、規格化された頻度として定義される。
【0064】
次に、本実施形態の関係取得工程S5では、規格化された密度(輝度値の比率)を横軸とし、規格化された頻度(個数の比率)を縦軸として、規格化された密度ごとに、規格化された頻度がプロットされる。これにより、関係取得工程S5では、低密度領域の密度と、低密度領域の頻度との関係を求めることができる。
【0065】
図6(a)、(b)は、配合が異なる弾性材料からなる2種の試験片10A、10Bについて、低密度領域の密度と、低密度領域の頻度との関係Rを示すグラフである。関係Rは、関係入力部16Cに入力される。
【0066】
[分布幅計算工程]
次に、本実施形態の性能評価方法では、低密度領域の密度と、低密度領域の頻度との関係Rを、正規分布に近似させた際の半値全幅FWHMで特定される分布幅Wが計算される(分布幅計算工程S6)。
【0067】
本実施形態の分布幅計算工程S6では、先ず、図2に示されるように、関係入力部16Cに入力されている低密度領域の密度と、低密度領域の頻度との関係R、及び、分布幅計算プログラム17Cが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、分布幅計算プログラム17Cが、演算部13Aによって実行されることにより、コンピュータ8を、分布幅Wを計算するための分布幅計算部6として機能させることができる。
【0068】
本実施形態の分布幅計算工程S6は、図6(a)、(b)に示した低密度領域15の密度と、低密度領域15の頻度との関係Rを、正規分布Dに近似させる。正規分布Dの近似には、例えば、市販の数値解析ソフトウェア(例えば、The MathWorks 社製の「MATLAB」など)が用いられる。
【0069】
次に、本実施形態の分布幅計算工程S6では、関係Rに近似させた正規分布Dに基づいて、半値全幅FWHMで特定される分布幅Wが計算される。なお、図6(b)に示されるように、関係Rに近似させた正規分布Dの山形が密度0で途切れている場合には、密度0からの分布幅W(半値全幅FWHM)が求められる。分布幅W(半値全幅FWHM)の特定には、例えば、上記の数値解析ソフトウェア等が用いられる。
【0070】
半値全幅FWHMは、低密度領域15の密度の分布の広がりを示す指標である。したがって、半値全幅FWHMが大きいほど、低密度領域15の密度が広範囲に分布していることを示している。一方、半値全幅FWHMが小さいほど、低密度領域15の密度が局所的に集中していることを示している。
【0071】
発明者らの実験によれば、半値全幅FWHMで特定される分布幅Wと、弾性材料の性能(本例では、耐摩耗性能)と、一定の相関があることが判明した。すなわち、分布幅Wが大きい弾性材料は、低密度領域15の密度が広範囲に分布することで、0.0~0.1未満の密度を有する空隙15a(図4(a)に示す)の割合が少なくなり、弾性材料の性能が良好となることを知見した。
【0072】
図6(a)の試験片10Aの弾性材料の分布幅Wは、図6(b)の試験片10Bの弾性材料の分布幅Wに比べて大きくなっており、0.0~0.1未満の密度において、頻度が小さくなっている。このため、試験片10Aの弾性材料は、試験片10Bの弾性材料に比べて、性能(本例では耐摩耗性能)が高いと評価することができる。
【0073】
一方、上記特許文献1の方法では、低密度領域15の密度分布(低密度領域15の合計体積)に基づいて弾性材料の性能(耐摩耗性能)が評価されている。しかしながら、このような方法では、試験片10Aの弾性材料と、試験片10Bの弾性材料とで、密度分布(合計体積)が実質的に同一となり、性能の違いを評価できない場合がある。
【0074】
このように、本実施形態の性能評価方法では、低密度領域15の分布幅Wに基づいて、弾性材料の性能を評価することができるため、評価精度を高めることが可能となる。分布幅Wは、分布幅入力部16D(図1に示す)に入力される。
【0075】
[評価工程]
次に、本実施形態の性能評価方法では、分布幅Wに基づいて、弾性材料の性能が評価される(評価工程S7)。
【0076】
本実施形態の評価工程S7では、先ず、図2に示されるように、分布幅入力部16Dに入力されている分布幅W、及び、評価プログラム17Dが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、評価プログラム17Dが、演算部13Aによって実行されることにより、コンピュータ8を、弾性材料の性能を評価する評価部7として機能させることができる。
【0077】
図7は、本実施形態の評価工程S7の処理手順を示すフローチャートである。本実施形態の評価工程S7では、先ず、分布幅W(図6(a)に示す)と、予め定められた閾値Tとが比較される(工程S71)。閾値Tについては、例えば、弾性材料に求められる諸性能(本実施形態では、耐摩耗性能)に応じて、適宜設定することができる。本実施形態のように、図6(a)に示した関係Rにおいて、低密度領域15の密度が、歪の付与前の弾性材料の密度に対する比率(本例では、0.0~0.8)として定義される場合、0.2に設定されるのが望ましい。
【0078】
工程S71において、分布幅Wが閾値T(本例では、0.2)以上であるときに、弾性材料の性能が良好であると評価される(工程S72)。一方、工程S71において、分布幅Wが閾値T未満であるときに、弾性材料の性能が不良であると評価される(工程S73)。この場合、配合を変更した新たな弾性材料が作製され、本実施形態の性能評価方法が再度実施される。これにより、諸性能に優れる弾性材料を確実に作製することができる。
【0079】
本実施形態では、耐摩耗性能が評価されたが、このような態様に限定されない。例えば、分布幅Wに基づいて、弾性材料の耐引裂性能や、耐クラック性能が評価されてもよい。
【0080】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例
【0081】
弾性材料A乃至Cについて、本発明の方法で求められる分布幅W(半値全幅FWHM)に基づいて耐摩耗性能が評価され、実車走行試験による耐摩耗性能の評価との相関が検証された(実施例)。比較のために、上記弾性材料A乃至Cについて、ランボーン試験機を用いて耐摩耗性能が評価され、実車走行試験による耐摩耗性能の評価との相関が検証された(比較例)。
【0082】
使用試薬は以下の通りである。
1.重合体(1):(変性基1個)
2.重合体(2):(変性基2個;重合体(1)のモノマー量違い)
3.重合体(3):(変性基3個;重合体(1)のモノマー量違い)
4.SBR :STYRON製のSPRINTAN SLR6430
5.BR :宇部興産(株)製のBR150B
6.変性剤 :アヅマックス(株)製の3-(N,N-ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン
7.老化防止剤 :大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-1,3-ジメチルブチル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン)
8.ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン
9.酸化亜鉛 :東邦亜鉛(株)製の銀嶺R
10.アロマチックオイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスAH-24
11.ワックス :大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
12.硫黄 :鶴見化学(株)製の粉末硫黄
13.加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ
14.加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)製のノクセラーD
15.シリカ :デグッサ製のウルトラジルVN3
16.シランカップリング剤:デグッサ製のSi69
17.カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックLH(N326、N2SA:84m2/g)
【0083】
モノマー及び重合体(1)~(3)は、上記特許文献1の「実施例」に記載された方法と同様の手順で合成された。テスト方法は、次のとおりである。
【0084】
<分布幅W(半値全幅FWHM)>
弾性材料A乃至Cについて、直径20mm、軸方向の長さが1mmの円柱状の試験片が準備された。そして、図3に示した手順にしたがって、弾性材料の性能が評価された。歪付与工程S2では、試験片に0.5MPaの応力を作用させて、試験片の内部に複数の低密度領域(空隙及び低密度ゴム部)が形成された。次に、関係取得工程S5では、低密度領域の検出結果に基づいて、低密度領域の密度と、低密度領域の頻度との関係が求められた。次に、分布幅計算工程S6では、関係取得工程S5で求められた関係を、正規分布に近似させた際の半値全幅FWHMで特定される分布幅Wが計算された。分布幅Wが大きい程、耐摩耗性能に優れていることを示す。
【0085】
<ランボーン試験>
弾性材料A乃至Cについて、ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、負荷荷重1.0kgf、スリップ率30%の条件で摩耗量が測定され、その逆数が計算された。結果は、弾性材料Aを100とする指数であり、数値が大きい程、耐摩耗性能に優れていることを示す。
【0086】
<実車走行試験>
弾性材料A乃至Cからなるトレッド部を有するサイズ195/65R15の空気入りタイヤが作成され、国産FF車に装着され、走行距離8000kmでのトレッド部の溝深さが測定され、トレッド部の摩耗量1mmあたりの走行距離が計算された。結果は、弾性材料Aを100とする指数であり、数値が大きい程、耐摩耗性能に優れていることを示す。
テスト結果が表1に示される。
【0087】
【表1】
【0088】
テストの結果、表1から明らかなように、実施例の方法は、比較例に比べて実車走行試験との相関が良好であり、弾性材料の諸性能を高い精度で評価できることが確認できた。さらに、実施例では、分布幅Wが閾値T(0.2)以上の弾性材料B及びCは、閾値T未満の弾性材料Aに比べて、実車走行試験での評価が大幅に優れており、弾性材料の諸性能を高い精度で評価できることが確認できた。
【符号の説明】
【0089】
S2 歪付与工程
S3 撮像工程
S4 検出工程
S5 関係取得工程
S6 分布幅計算工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7