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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】電極用成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20241016BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20241016BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20241016BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04 A
H01G11/86
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023142887
(22)【出願日】2023-09-04
(62)【分割の表示】P 2021527795の分割
【原出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2023171728
(43)【公開日】2023-12-05
【審査請求日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2019122367
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 英二郎
(72)【発明者】
【氏名】福永 昭人
(72)【発明者】
【氏名】殿原 浩二
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/064842(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/194163(WO,A1)
【文献】特開昭63-029445(JP,A)
【文献】特開昭59-103371(JP,A)
【文献】特開2000-277129(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102694149(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01G 11/80-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質を含む電極材料を準備する工程と、
前記電極材料を収容する空間部を画定する枠状の側壁部を有し、かつ、成形型の底面上に第1の支持体が配置された成形型であって、搬送用ベルト上に配置された前記成形型に前記電極材料を供給する工程と、
前記成形型の内部形状に沿って前記電極材料を成形する工程と、
前記成形型から前記電極材料を取り出す工程と、
をこの順で含み、
前記電極材料を供給する工程と前記電極材料を成形する工程との間、又は前記電極材料を成形する工程と前記電極材料を取り出す工程との間のいずれかに、前記成形型に供給された前記電極材料の上に第2の支持体を配置する工程を含み、
前記第2の支持体が、集電体である
電極用成形体の製造方法。
【請求項2】
電極活物質を含む電極材料を準備する工程と、
前記電極材料を収容する空間部を画定する枠状の側壁部を有し、かつ、成形型の底面上に第1の支持体が配置された成形型であって、搬送用ベルト上に配置された前記成形型に前記電極材料を供給する工程と、
前記成形型の内部形状に沿って前記電極材料を成形する工程と、
前記成形型から前記電極材料を取り出す工程と、
をこの順で含み、
前記成形型に供給された前記電極材料の上に第2の支持体を配置する工程を含み、前記第2の支持体を配置する工程と前記電極材料を成形する工程とを同時に実施し、
前記第2の支持体が、集電体である
電極用成形体の製造方法。
【請求項3】
搬送用ベルトの表面が前記成形型の底面である請求項1又は請求項2に記載の電極用成形体の製造方法。
【請求項4】
前記電極材料を成形する工程において、前記電極材料と成形部材とを直接的に又は間接的に接触させることで、前記電極材料を成形する請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の電極用成形体の製造方法。
【請求項5】
前記電極材料を成形する工程と前記電極材料を取り出す工程との間に、前記第1の支持体と前記電極材料との位置関係を変えることによって、鉛直方向において前記第1の支持体より下方に前記電極材料を配置する工程を含む請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の電極用成形体の製造方法。
【請求項6】
前記電極材料を取り出す工程において、前記成形型から、前記電極材料、及び前記第1の支持体を取り出す請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の電極用成形体の製造方法。
【請求項7】
前記電極材料を成形する工程と前記電極材料を取り出す工程との間、又は前記電極材料を取り出す工程の後に、前記電極材料を加圧する工程を含む請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の電極用成形体の製造方法。
【請求項8】
前記電極材料を加圧する工程において、複数のロールを用いて、前記電極材料を段階的に加圧する請求項7に記載の電極用成形体の製造方法。
【請求項9】
前記電極材料の供給を制御する開閉機構を有する吐出口から前記電極材料を吐出することによって、前記成形型に前記電極材料を供給する請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の電極用成形体の製造方法。
【請求項10】
前記吐出口と前記成形型とを相対的に移動させながら、前記成形型に前記電極材料を供給する請求項9に記載の電極用成形体の製造方法。
【請求項11】
前記電極材料における液体成分の含有量が、前記電極材料の全質量に対して、30質量%以下である請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の電極用成形体の製造方法。
【請求項12】
前記電極材料が、導電助剤を含む請求項1~請求項11のいずれか1項に記載の電極用成形体の製造方法。
【請求項13】
前記第1の支持体が、離型材である請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の電極用成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極用成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の電池に含まれる電解質としては、通常、電解液が用いられる。近年においては、安全性(例えば、液漏れの防止)の観点から、電解液を固体電解質に置き換えた全固体電池の開発が検討されている。
【0003】
上記のような電池に適用される電極の製造においては、通常、活物質等の電極材料、及び溶剤を含む塗布液が用いられる(例えば、国際公開第2017/104405号、及び特許第3743706号公報)。
【0004】
電気二重層コンデンサの分極性電極の製造においては、活性炭粉末、カーボンブラック、及びバインダーを乾式で混練し、そして、分極性電極をシート状に圧延成形する技術が知られている(例えば、特開平4-67610号公報)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塗布液を用いて電極を形成する方法(例えば、国際公開第2017/104405号、及び特許第3743706号公報)においては、通常、塗布液を乾燥することが必要である。乾燥が十分でない場合、電極に溶剤が残留することによって電池性能(例えば、放電容量、及び出力特性)が低下する可能性がある。特に、全固体電池においては、電極に残留する溶剤は少ないことが好ましい。
【0006】
一方、塗布液を用いずに電極を成形する方法(例えば、特開平4-67610号公報)では、得られる電極の密度分布(すなわち、質量分布)が不均一となる傾向にあるため、成形性において改善の余地がある。不均一な密度分布を有する電極は、電池性能の低下を招く可能性がある。上記した課題は、乾燥した電極材料を用いる場合に限られず、湿った電極材料を用いる場合においても発生し得る。また、電極の成形性は、電極を形成するための成分が多くなるほど低下する傾向にある。
【0007】
本開示は、上記の事情に鑑みてなされたものである。
本開示の一実施形態は、溶剤の含有量が少ない電極材料を成形する場合において成形性に優れる電極用成形体を得ることができる電極用成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> 電極活物質を含む電極材料を準備する工程と、上記電極材料を収容する空間部を画定する枠状の側壁部を有し、かつ、成形型の底面上に第1の支持体が配置された成形型に上記電極材料を供給する工程と、上記成形型の内部形状に沿って上記電極材料を成形する工程と、上記成形型から上記電極材料を取り出す工程と、をこの順で含む電極用成形体の製造方法。
<2> 上記電極材料を成形する工程において、上記電極材料と成形部材(Forming member)とを直接的に又は間接的に接触させることで、上記電極材料を成形する<1>に記載の電極用成形体の製造方法。
<3> 上記電極材料を供給する工程と上記電極材料を成形する工程との間に、上記成形型に供給された上記電極材料の上に第2の支持体を配置する工程を含む<1>又は<2>に記載の電極用成形体の製造方法。
<4> 上記電極材料を成形する工程と上記電極材料を取り出す工程との間に、上記成形型に供給された上記電極材料の上に第2の支持体を配置する工程を含む<1>又は<2>に記載の電極用成形体の製造方法。
<5> 上記成形型に供給された上記電極材料の上に第2の支持体を配置する工程を含み、上記第2の支持体を配置する工程と上記電極材料を成形する工程とを同時に実施する<1>又は<2>に記載の電極用成形体の製造方法。
<6> 上記第2の支持体が、集電体である<3>~<5>のいずれか1つに記載の電極用成形体の製造方法。
<7> 上記電極材料を成形する工程と上記電極材料を取り出す工程との間に、上記第1の支持体と上記電極材料との位置関係を変えることによって、鉛直方向において上記第1の支持体より下方に上記電極材料を配置する工程を含む<1>~<6>のいずれか1つに記載の電極用成形体の製造方法。
<8> 上記電極材料を取り出す工程において、上記成形型から、上記電極材料、及び上記第1の支持体を取り出す<1>~<7>のいずれか1つに記載の電極用成形体の製造方法。
<9> 上記電極材料を成形する工程と上記電極材料を取り出す工程との間、又は上記電極材料を取り出す工程の後に、上記電極材料を加圧する工程を含む<1>~<8>のいずれか1つに記載の電極用成形体の製造方法。
<10> 上記電極材料を加圧する工程において、複数のロールを用いて、上記電極材料を段階的に加圧する<9>に記載の電極用成形体の製造方法。
<11> 上記電極材料の供給を制御する開閉機構を有する吐出口から上記電極材料を吐出することによって、上記成形型に上記電極材料を供給する<1>~<10>のいずれか1つに記載の電極用成形体の製造方法。
<12> 上記吐出口と上記成形型とを相対的に移動させながら、上記成形型に上記電極材料を供給する<11>に記載の電極用成形体の製造方法。
<13> 上記電極材料における液体成分の含有量が、上記電極材料の全質量に対して、30質量%以下である<1>~<12>のいずれか1つに記載の電極用成形体の製造方法。
<14> 上記電極材料が、導電助剤を含む<1>~<13>のいずれか1つに記載の電極用成形体の製造方法。
<15> 上記第1の支持体が、離型材である<1>~<14>のいずれか1つに記載の電極用成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施形態によれば、溶剤の含有量が少ない電極材料を成形する場合において成形性に優れる電極用成形体を得ることができる電極用成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示に係る電極用成形体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、本開示に係る電極用成形体の製造方法の一例を示す概略断面図である。
図3図3は、図2(a)に示す成形型の概略平面図である。
図4図4は、本開示に係る電極用成形体の製造方法の一例を示す概略断面図である。
図5図5は、実施例1における正極シートの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら制限されず、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。各図面において同一の符号を用いて示す構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。各図面において重複する構成要素、及び符号については、説明を省略することがある。図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0012】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、「工程」との用語には、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルの双方、又は、いずれか一方を意味する。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、「固形分」とは、1gの試料に対して、窒素雰囲気下、200℃で6時間乾燥処理を行った際に、揮発又は蒸発によって消失しない成分を意味する。
本開示において、序数詞(例えば、「第1」、及び「第2」)は、構成要素を区別するために使用する用語であり、構成要素の数、及び構成要素の優劣を制限するものではない。
【0013】
<電極用成形体の製造方法>
本開示に係る電極用成形体の製造方法は、電極活物質を含む電極材料を準備する工程(以下、「準備工程」ともいう。)と、上記電極材料を収容する空間部を画定する枠状の側壁部を有し、かつ、成形型の底面上に第1の支持体が配置された成形型に上記電極材料を供給する工程(以下、「供給工程」ともいう。)と、上記成形型の内部形状に沿って上記電極材料を成形する工程(以下、「成形工程」ともいう。)と、上記成形型から上記電極材料を取り出す工程(以下、「取り出し工程」ともいう。)と、をこの順で含む。本開示に係る電極用成形体の製造方法は、上記各工程を備えることで、成形性に優れる電極用成形体を得ることができる。本開示において、「成形性に優れる」とは、密度分布(すなわち、質量分布)の均一性が高いことを意味する。
【0014】
本開示に係る電極用成形体の製造方法が上記効果を奏する理由は、以下のように推察される。
成形型を用いずに電極材料を成形する場合、電極材料の移動によって電極材料の偏在が起こり得るため、電極用成形体の密度分布が不均一となる。一方、本開示に係る電極用成形体の製造方法においては、電極材料を収容する空間部を画定する枠状の側壁部を有し、かつ、成形型の底面上に第1の支持体が配置された成形型に電極材料を供給し、そして、成形型の内部形状に沿って電極材料を成形することで、成形過程において生じ得る電極材料の偏在を抑制できる。すなわち、成形型の内部形状(例えば、枠状の側壁部)による物理的な制約が生じた状態で電極材料を成形することで、電極材料の移動によって電極用成形体の密度分布が不均一になることを抑制できる。よって、本開示に係る電極用成形体の製造方法によれば、成形性に優れる電極用成形体を得ることができる。
【0015】
また、本開示に係る電極用成形体の製造方法においては、成形型を用いることで、電極材料を所望の形状に成形できる。本開示に係る電極用成形体の製造方法は、電極用成形体を所望の形状に加工すること(例えば、裁断加工)を必ずしも必要としないため、上記加工に起因する形状不良(例えば、裁断面の崩落)の発生を抑制することもできる。
【0016】
本開示に係る電極用成形体の製造方法について、図面を参照して説明する。図1は、本開示に係る電極用成形体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0017】
S110において、電極活物質を含む電極材料を準備する(準備工程)。電極材料は、予め調製されてもよく、又はS110において調製されてもよい。
【0018】
S120において、成形型に電極材料を供給する(供給工程)。S120において、成形型は、電極材料を収容する空間部を画定する枠状の側壁部を有し、かつ、成形型の底面上に第1の支持体が配置されている。
【0019】
S130において、成形型の内部形状に沿って電極材料を成形する(成形工程)。S120における工程を実施しながら、S130における工程を実施してもよい。
【0020】
S140において、成形型から電極材料を取り出す(取り出し工程)。
【0021】
以下、本開示に係る電極用成形体の製造方法の各工程について具体的に説明する。
【0022】
<<準備工程>>
本開示に係る電極用成形体の製造方法は、電極活物質を含む電極材料を準備する工程(準備工程)を含む。本開示において、「電極材料を準備する」とは、電極材料を使用可能な状態にすることを意味し、特に断りのない限り、電極材料を調製することを含む。すなわち、準備工程においては、予め調製した電極材料若しくは市販されている電極材料を準備してもよく、又は電極材料を調製してもよい。
【0023】
[電極材料]
電極材料は、電極活物質を含む。電極材料は、必要に応じて、電極活物質以外の成分を含んでいてもよい。以下、電極材料の成分について説明する。
【0024】
(電極活物質)
電極活物質は、周期律表における第1族、又は第2族に属する金属元素のイオンを挿入、及び放出することが可能な物質である。電極活物質としては、例えば、正極活物質、及び負極活物質が挙げられる。
【0025】
-正極活物質-
正極活物質としては、制限されず、正極に用いられる公知の活物質を利用できる。正極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できる正極活物質であることが好ましい。
【0026】
正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、及びリチウムと複合化できる元素(例えば、硫黄)が挙げられる。上記の中でも、正極活物質は、遷移金属酸化物であることが好ましい。
【0027】
遷移金属酸化物は、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Fe(鉄)、Mn(マンガン)、Cu(銅)、及びV(バナジウム)からなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属元素(以下、「元素Ma」という。)を含む遷移金属酸化物であることが好ましい。
【0028】
遷移金属酸化物がLi、及び元素Maを含む場合、元素Maに対するLiのモル比(Liの物質量/元素Maの物質量)は、0.3~2.2であることが好ましい。本開示において「元素Maの物質量」とは、元素Maに該当する全ての元素の総物質量をいう。
【0029】
また、遷移金属酸化物は、リチウム以外の第1族の元素、第2族の元素、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)、In(インジウム)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(スズ)、Pb(鉛)、Sb(アンチモン)、Bi(ビスマス)、Si(ケイ素)、P(リン)、及びB(ホウ素)からなる群より選択される少なくとも1種の遷移金属元素(以下、「元素Mb」という。)を含んでいてもよい。元素Mbの含有量(すなわち、元素Mbに該当する全ての元素の総含有量)は、元素Maの物質量に対して、0mol%~30mol%であることが好ましい。
【0030】
遷移金属酸化物としては、例えば、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物、リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物、及びリチウム含有遷移金属ケイ酸化合物が挙げられる。
【0031】
層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物としては、例えば、LiCoO(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi(ニッケル酸リチウム)、LiNi0.85Co0.10Al0.05(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])、及びLiNi0.5Mn0.5(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
【0032】
スピネル型構造を有する遷移金属酸化物としては、例えば、LiCoMnO、LiFeMn、LiCuMn、LiCrMn、及びLiNiMnが挙げられる。
【0033】
リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、オリビン型リン酸鉄塩(例えば、LiFePO、及びLiFe(PO)、ピロリン酸鉄塩(例えば、LiFeP)、リン酸コバルト塩(例えば、LiCoPO)、及び単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩(例えば、Li(PO(リン酸バナジウムリチウム))が挙げられる。
【0034】
リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、フッ化リン酸鉄塩(例えば、LiFePOF)、フッ化リン酸マンガン塩(例えば、LiMnPOF)、及びフッ化リン酸コバルト塩(例えば、LiCoPOF)が挙げられる。
【0035】
リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、LiFeSiO、LiMnSiO、及びLiCoSiOが挙げられる。
【0036】
遷移金属酸化物は、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物であることが好ましく、LiCoO(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi0.85Co0.10Al0.05(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、及びLiNi1/3Co1/3Mn1/3(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることがより好ましい。
【0037】
正極活物質は、市販品であってもよく、又は公知の方法(例えば、焼成法)によって製造された合成品であってもよい。例えば焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、又は有機溶剤を用いて洗浄されてもよい。
【0038】
正極活物質の組成は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法を用いて測定する。
【0039】
正極活物質の形状は、制限されないが、取扱性の観点から、粒子状であることが好ましい。
【0040】
正極活物質の体積平均粒子径は、制限されず、例えば、0.1μm~50μmとすることができる。正極活物質の体積平均粒子径は、0.3μm~40μmであることが好ましく、0.5μm~30μmであることがより好ましい。正極活物質の体積平均粒子径が0.3μm以上であることで、電極材料の集合体を容易に形成することができ、また、取り扱いの際に電極材料が飛散することを抑制できる。正極活物質の体積平均粒子径が40μm以下であることで、電極用成形体の厚さを容易に調節することができ、また、成形過程において空隙の発生を抑制することができる。
【0041】
正極活物質の体積平均粒子径は、以下の方法により測定する。正極活物質と溶剤(例えば、ヘプタン、オクタン、トルエン、又はキシレン)とを混合することによって、0.1質量%の正極活物質を含む分散液を調製する。1kHzの超音波を10分間照射した分散液を測定試料とする。レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、株式会社堀場製作所製のLA-920)を用いて、温度25℃の条件下でデータの取り込みを50回行い、体積平均粒子径を求める。測定用のセルには、石英セルを用いる。上記測定を5つの試料を用いて行い、測定値の平均を正極活物質の体積平均粒子径とする。その他の詳細な条件については、必要に応じて、「JIS Z 8828:2013」を参照する。
【0042】
正極活物質の粒子径を調整する方法としては、例えば、粉砕機、又は分級機を用いる方法が挙げられる。
【0043】
電極材料は、1種単独の正極活物質を含んでいてもよく、又は2種以上の正極活物質を含んでいてもよい。
【0044】
正極活物質の含有量は、電極材料の全固形分質量に対して、10質量%~95質量%であることが好ましく、30質量%~90質量%であることより好ましく、50質量%~85質量であることさらに好ましく、70質量%~80質量%であること特に好ましい。
【0045】
-負極活物質-
負極活物質としては、制限されず、負極に用いられる公知の活物質を利用できる。負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できる負極活物質であることが好ましい。
【0046】
負極活物質としては、例えば、炭素質材料、金属酸化物(例えば、酸化スズ)、酸化ケイ素、金属複合酸化物、リチウム単体、リチウム合金(例えば、リチウムアルミニウム合金)、及びリチウムと合金を形成可能な金属(例えば、Sn、Si、及びIn)が挙げられる。上記の中でも、負極活物質は、信頼性の観点から、炭素質材料、又はリチウム複合酸化物であることが好ましい。
【0047】
炭素質材料は、実質的に炭素からなる材料である。炭素質材料としては、例えば、石油ピッチ、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)、黒鉛(例えば、天然黒鉛、及び人造黒鉛(例えば、気相成長黒鉛))、ハードカーボン、及び合成樹脂(例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、及びフルフリルアルコール樹脂)を焼成してなる炭素質材料が挙げられる。炭素質材料としては、例えば、炭素繊維(例えば、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維、及び活性炭素繊維)も挙げられる。黒鉛としては、例えば、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー、及び平板状の黒鉛も挙げられる。本開示において、「平板状」とは、互いに反対方向を向く2つの主平面を有する形状を意味する。
【0048】
金属複合酸化物としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な金属複合酸化物であることが好ましい。リチウムを吸蔵及び放出可能な金属複合酸化物は、高電流密度充放電特性の観点から、チタン、及びリチウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。
【0049】
金属酸化物、及び金属複合酸化物は、特に非晶質酸化物であることが好ましい。ここで、「非晶質」とは、CuKα線を用いたX線回折法において、2θ値で20°~40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有する物質を意味する。非晶質酸化物は、結晶性の回折線を有してもよい。非晶質酸化物において、2θ値で40°~70°の領域に観察される結晶性の回折線のうち最も強い強度は、2θ値で20°~40°の領域に観察されるブロードな散乱帯の頂点の回折線強度の100倍以下であることが好ましく、5倍以下であることがより好ましい。非晶質酸化物は、結晶性の回折線を有しないことが特に好ましい。
【0050】
金属酸化物、及び金属複合酸化物は、カルコゲナイドであることも好ましい。カルコゲナイドは、金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物である。
【0051】
非晶質酸化物、及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物、及びカルコゲナイドが好ましく、周期律表における第13族~15族の元素、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb、及びBiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物、並びにカルコゲナイドがより好ましい。
【0052】
非晶質酸化物、及びカルコゲナイドの好ましい例としては、Ga、SiO、GeO、SnO、SnO、PbO、PbO、Pb、Pb、Pb、Sb、Sb、SbBi、SbSi、Bi、SnSiO、GeS、SnS、SnS、PbS、PbS、Sb、Sb、及びSnSiSが挙げられる。また、上記した化合物は、リチウムとの複合酸化物(例えば、LiSnO)であってもよい。
【0053】
負極活物質は、チタンをさらに含むことも好ましい。リチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、そして、電極の劣化が抑制されることでリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる観点から、チタンを含む負極活物質は、LiTi12(チタン酸リチウム[LTO])であることが好ましい。
【0054】
負極活物質は、市販品であってもよく、又は公知の方法(例えば、焼成法)によって製造された合成品であってもよい。例えば焼成法によって得られた負極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、又は有機溶剤を用いて洗浄されてもよい。
【0055】
負極活物質は、例えば、CGB20(日本黒鉛工業株式会社)として入手可能である。
【0056】
負極活物質の組成は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法を用いて測定する。
【0057】
負極活物質の形状は、制限されないが、取り扱い易く、そして、量産の際に均一性を管理しやすいという観点から、粒子状であることが好ましい。
【0058】
負極活物質の体積平均粒子径は、0.1μm~60μmであることが好ましく、0.3μm~50μmであることがより好ましく、0.5μm~40μmであることが特に好ましい。負極活物質の体積平均粒子径が0.1μm以上であることで、電極材料の集合体を容易に形成することができ、また、取り扱いの際に電極材料が飛散することを抑制できる。負極活物質の体積平均粒子径が60μm以下であることで、電極用成形体の厚さを容易に調節することができ、また、成形過程において空隙の発生を抑制することができる。負極活物質の体積平均粒子径は、上記正極活物質の体積平均粒子径の測定方法に準ずる方法により測定する。
【0059】
負極活物質の粒子径を調整する方法としては、例えば、粉砕機、又は分級機を用いる方法が挙げられる。上記方法においては、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル、又は篩が好適に用いられる。負極活物質の粉砕においては、水、又は有機溶剤(例えば、メタノール)を用いる湿式粉砕も必要に応じて行うことができる。所望の粒子径に調整する方法は、分級であることが好ましい。分級においては、例えば、篩、又は風力分級機を用いることができる。分級は、乾式であってもよく、又は湿式であってもよい。
【0060】
負極活物質として、Sn、Si、又はGeを含む非晶質酸化物を用いる場合、上記非晶質酸化物と併用することができる好ましい負極活物質としては、例えば、リチウムイオン又はリチウム金属を吸蔵及び放出できる炭素材料、リチウム、リチウム合金、及びリチウムと合金可能な金属が挙げられる。
【0061】
電極材料は、1種単独の負極活物質を含んでいてもよく、又は2種以上の負極活物質を含んでいてもよい。
【0062】
負極活物質の含有量は、電極材料の全固形分質量に対して、10質量%~80質量%であることが好ましく、20質量%~80質量%であることがより好ましく、30質量%~80質量%であることがさらに好ましく、40質量%~75質量%であることが特に好ましい。
【0063】
正極活物質、及び負極活物質の表面は、表面被覆剤で被覆されていてもよい。表面被覆剤としては、例えば、Ti、Nb、Ta、W、Zr、Si、又はLiを含む金属酸化物が挙げられる。上記金属酸化物としては、例えば、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、及びニオブ酸リチウム系化合物が挙げられる。具体的な化合物としては、例えば、LiTi12、LiTaO、LiNbO、LiAlO、LiZrO、LiWO、LiTiO、Li、LiPO、LiMoO、及びLiBOが挙げられる。
【0064】
(無機固体電解質)
電極材料は、電池性能(例えば、放電容量、及び出力特性)の向上という観点から、無機固体電解質を含むことが好ましい。ここで、「固体電解質」とは、内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質を意味する。
【0065】
無機固体電解質は、主たるイオン伝導性材料として有機物を含む電解質ではないことから、有機固体電解質(例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)に代表される高分子電解質、及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)に代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は、定常状態では固体であるため、カチオン若しくはアニオンに解離又は遊離していない。よって、電解液、及びポリマー中でカチオン若しくはアニオンに解離又は遊離している無機電解質塩(例えば、LiPF、LiBF、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、及びLiCl)とも明確に区別される。
【0066】
無機固体電解質は、周期律表における第1族又は第2族に属する金属元素のイオンの伝導性を有する無機固体電解質であれば制限されず、電子伝導性を有しないことが一般的である。
【0067】
本開示に係る電極用成形体の製造方法によって得られる電極用成形体がリチウムイオン電池に用いられる場合、無機固体電解質は、リチウムイオンのイオン伝導性を有することが好ましい。
【0068】
無機固体電解質としては、例えば、硫化物系無機固体電解質、及び酸化物系無機固体電解質が挙げられる。上記の中でも、無機固体電解質は、活物質と無機固体電解質との間に良好な界面を形成できるという観点から、硫化物系無機固体電解質であることが好ましい。
【0069】
-硫化物系無機固体電解質-
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子(S)を含み、周期律表における第1族又は第2族に属する金属元素のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有することが好ましい。
【0070】
硫化物系無機固体電解質は、少なくともLi、S、及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有することがより好ましい。硫化物系無機固体電解質は、必要に応じて、Li、S、及びP以外の元素を含んでいてもよい。
【0071】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(A)で示される組成を有する無機固体電解質が挙げられる。
【0072】
a1b1c1d1e1 :式(A)
【0073】
式(A)中、Lは、Li、Na、及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表し、Liであることが好ましい。
【0074】
式(A)中、Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al、及びGeからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表し、B、Sn、Si、Al、又はGeであることが好ましく、Sn、Al、又はGeであることがより好ましい。
【0075】
式(A)中、Aは、I、Br、Cl、及びFからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表し、I、又はBrであることが好ましく、Iであることがより好ましい。
【0076】
式(A)中、a1は、1~12を表し、1~9であることが好ましく、1.5~4であることがより好ましい。
【0077】
式(A)中、b1は、0~1を表し、0~0.5であることがより好ましい。
【0078】
式(A)中、c1は、1を表す。
【0079】
式(A)中、d1は、2~12を表し、3~7であることが好ましく、3.25~4.5であることがより好ましい。
【0080】
式(A)中、e1は、0~5を表し、0~3であることが好ましく、0~1であることがより好ましい。
【0081】
式(A)中、b1、及びe1が0であることが好ましく、b1、及びe1が0であり、かつ、a1、c1、及びd1の比(すなわち、a1:c1:d1)が、1~9:1:3~7であることがより好ましく、b1、及びe1が0であり、かつ、a1、c1、及びd1の比(すなわち、a1:c1:d1)が、1.5~4:1:3.25~4.5であることが特に好ましい。
【0082】
各元素の組成比は、例えば、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0083】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であってもよく、結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、又は一部のみが結晶化していてもよい。上記のような硫化物系無機固体電解質としては、例えば、Li、P、及びSを含有するLi-P-S系ガラス、並びにLi、P、及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスが挙げられる。上記の中でも、硫化物系無機固体電解質は、Li-P-S系ガラスであることが好ましい。
【0084】
硫化物系無機固体電解質のリチウムイオン伝導度は、1×10-4S/cm以上であることが好ましく、1×10-3S/cm以上であることがより好ましい。硫化物系無機固体電解質のリチウムイオン伝導度の上限は、制限されない。硫化物系無機固体電解質のリチウムイオン伝導度は、例えば、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0085】
硫化物系無機固体電解質は、例えば、(1)硫化リチウム(LiS)と硫化リン(例えば、五硫化二燐(P))との反応、(2)硫化リチウムと単体燐及び単体硫黄の少なくとも一方との反応、又は(3)硫化リチウムと硫化リン(例えば、五硫化二燐(P))と単体燐及び単体硫黄の少なくとも一方との反応により製造できる。
【0086】
Li-P-S系ガラス、及びLi-P-S系ガラスセラミックスの製造における、LiSとPとのモル比(LiS:P)は、65:35~85:15であることが好ましく、68:32~77:23であることがより好ましい。LiSとPとのモル比を上記範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度をより高めることができる。
【0087】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、LiSと、第13族~第15族の元素の硫化物とを含む原料組成物を用いてなる化合物が挙げられる。原料組成物としては、例えば、LiS-P、LiS-LiI-P、LiS-LiI-LiO-P、LiS-LiBr-P、LiS-LiO-P、LiS-LiPO-P、LiS-P-P、LiS-P-SiS、LiS-P-SnS、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiS-GeS-ZnS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、及びLi10GeP12が挙げられる。上記の中でも、原料組成物は、高いリチウムイオン伝導度の観点から、LiS-P、LiS-GeS-Ga、LiS-SiS-P、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、LiS-LiI-LiO-P、LiS-LiO-P、LiS-LiPO-P、LiS-GeS-P、又はLi10GeP12であることが好ましく、LiS-P、Li10GeP12、又はLiS-P-SiSであることがより好ましい。
【0088】
上記した原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を製造する方法としては、例えば、非晶質化法が挙げられる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、及び溶融急冷法が挙げられる。上記の中でも、常温での処理が可能となり、また、製造工程の簡略化を図ることができる観点から、メカニカルミリング法が好ましい。
【0089】
-酸化物系無機固体電解質-
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子(O)を含み、周期律表における第1族又は第2族に属する金属元素のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有することが好ましい。
【0090】
酸化物系無機固体電解質のイオン伝導度は、1×10-6S/cm以上であることが好ましく、5×10-6S/cm以上であることがより好ましく、1×10-5S/cm以上であることが特に好ましい。酸化物系無機固体電解質のイオン伝導度の上限は、制限されない。酸化物系無機固体電解質のイオン伝導度は、例えば、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0091】
酸化物系無機固体電解質としては、例えば、LixaLayaTiO(以下、「LLT」という。xaは0.3≦xa≦0.7を満たし、yaは0.3≦ya≦0.7を満たす。); LixbLaybZrzbbb mbnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In、及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。xbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。); Lixcyccc zcnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In、及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。xcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。); Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(xdは1≦xd≦3を満たし、ydは0≦yd≦1を満たし、zdは0≦zd≦2を満たし、adは0≦ad≦1を満たし、mdは1≦md≦7を満たし、ndは3≦nd≦13を満たす。); Li(3-2xe)ee xeeeO(xeは0≦xe≦0.1を満たし、Meeは2価の金属原子を表し、Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。); LixfSiyfzf(xfは1≦xf≦5を満たし、yfは0<yf≦3を満たし、zfは1≦zf≦10を満たす。); Lixgygzg(xgは1≦xg≦3を満たし、ygは0<yg≦2を満たし、zgは1≦zg≦10を満たす。); LiBO; LiBO-LiSO; LiO-B-P; LiO-SiO; LiBaLaTa12; LiPO(4-3/2w)(wはw<1を満たす。); LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO; ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO; NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12; Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyh3-yh12(xhは0≦xh≦1を満たし、yhは0≦yh≦1を満たす。); 及びガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(以下、「LLZ」という。)が挙げられる。
【0092】
酸化物系無機固体電解質としては、Li、P、及びOを含むリン化合物も好ましい。Li、P、及びOを含むリン化合物としては、例えば、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、及びLiPOD1(D1は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、及びAuからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。)が挙げられる。
【0093】
酸化物系無機固体電解質としては、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C、及びGaからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。)も好ましい。
【0094】
上記の中でも、酸化物系無機固体電解質は、LLT、LixbLaybZrzbbb mbnb(Mbb、xb、yb、zb、mb、及びnbは、上記のとおりである。)、LLZ、LiBO、LiBO-LiSO、又はLixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(xd、yd、zd、ad、md、及びndは、上記のとおりである。)であることが好ましく、LLT、LLZ、LAGP(Li1.5Al0.5Ge1.5(PO)、又はLATP([Li1.4TiSi0.42.612]-AlPO)であることがより好ましく、LLZであることが特に好ましい。
【0095】
無機固体電解質は、粒子状であることが好ましい。
【0096】
無機固体電解質の体積平均粒子径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。無機固体電解質の体積平均粒子径は、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0097】
無機固体電解質の体積平均粒子径の測定は、以下の方法により測定する。無機固体電解質と水(水に不安定な物質の体積平均粒子径を測定する場合はヘプタン)とを混合することによって、1質量%の無機固体電解質を含む分散液を調製する。1kHzの超音波を10分間照射した分散液を測定試料とする。レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、株式会社堀場製作所製のLA-920)を用いて、温度25℃の条件下でデータの取り込みを50回行い、体積平均粒子径を求める。測定用のセルには、石英セルを用いる。上記測定を5つの試料を用いて行い、測定値の平均を無機固体電解質の体積平均粒子径とする。その他の詳細な条件については、必要に応じて、「JIS Z 8828:2013」を参照する。
【0098】
電極材料は、1種単独の無機固体電解質を含んでいてもよく、又は2種以上の無機固体電解質を含んでいてもよい。
【0099】
電極材料が無機固体電解質を含む場合、無機固体電解質の含有量は、界面抵抗の低減、及び電池特性維持効果(例えばサイクル特性の向上)の観点から、電極材料の全固形分質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。同様の観点から、無機固体電解質の含有量は、電極材料の全固形分質量に対して、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。
【0100】
(バインダー)
電極材料は、電極材料同士の密着性の向上という観点から、バインダーを含むことが好ましい。バインダーとしては、有機ポリマーであれば制限されず、電池材料の正極又は負極において結着剤として用いられる公知のバインダーを利用できる。バインダーとしては、例えば、含フッ素樹脂、炭化水素系熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、及びウレタン樹脂が挙げられる。
【0101】
含フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニレンジフルオリド(PVdF)、及びポリビニレンジフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合物(PVdF-HFP)が挙げられる。
【0102】
炭化水素系熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素添加スチレンブタジエンゴム(HSBR)、ブチレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエン、及びポリイソプレンが挙げられる。
【0103】
アクリル樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸イソプロピル、ポリ(メタ)アクリル酸イソブチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸ヘキシル、ポリ(メタ)アクリル酸オクチル、ポリ(メタ)アクリル酸ドデシル、ポリ(メタ)アクリル酸ステアリル、ポリ(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸ベンジル、ポリ(メタ)アクリル酸グリシジル、ポリ(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、及び上記樹脂を形成するモノマーの共重合体が挙げられる。
【0104】
バインダーとしては、ビニル系モノマーの共重合体も挙げられる。ビニル系モノマーの共重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル-スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-アクリロニトリル共重合体、及び(メタ)アクリル酸ブチル-アクリロニトリル-スチレン共重合体が挙げられる。
【0105】
バインダーの重量平均分子量は、10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、50,000以上であることが特に好ましい。バインダーの重量平均分子量は、1,000,000以下であることが好ましく、200,000以下であることがより好ましく、100,000以下であることが特に好ましい。
【0106】
バインダーにおける水分濃度は、質量基準で、100ppm以下であることが好ましい。
【0107】
バインダーにおける金属濃度は、質量基準で、100ppm以下であることが好ましい。
【0108】
電極材料は、1種単独のバインダーを含んでいてもよく、又は2種以上のバインダーを含んでいてもよい。
【0109】
電極材料がバインダーを含む場合、バインダーの含有量は、界面抵抗の低減性、及びその維持性の観点から、電極材料の全固形分質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが特に好ましい。バインダーの含有量は、電池性能の観点から、電極材料の全固形分質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。
【0110】
電極材料が、電極活物質、無機固体電解質、及びバインダーを含む場合、バインダーの質量に対する活物質及び無機固体電解質の合計質量の比([活物質の質量+無機固体電解質の質量]/[バインダーの質量])は、1,000~1であることが好ましく、500~2であることがより好ましく、100~10であることが特に好ましい。
【0111】
(導電助剤)
電極材料は、活物質の電子導電性の向上という観点から、導電助剤を含むことが好ましい。導電助剤としては、制限されず、公知の導電助剤を利用できる。特に、電極材料が正極活物質を含む場合、電極材料は、導電助剤を含むことが好ましい。
【0112】
導電助剤としては、例えば、黒鉛(例えば、天然黒鉛、及び人造黒鉛)、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、及びファーネスブラック)、無定形炭素(例えば、ニードルコークス)、炭素繊維(例えば、気相成長炭素繊維、及びカーボンナノチューブ)、他の炭素質材料(例えば、グラフェン、及びフラーレン)、金属粉(例えば、銅粉、及びニッケル粉)、金属繊維(例えば、銅繊維、及びニッケル繊維)、及び導電性高分子(例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリフェニレン誘導体)が挙げられる。
【0113】
上記の中でも、導電助剤は、炭素繊維、及び金属繊維からなる群より選択される少なくとも1種の導電助剤であることが好ましい。
【0114】
導電助剤の形状としては、例えば、繊維状、針状、筒状、ダンベル状、円盤状、及び楕円球状が挙げられる。上記の中でも、導電助剤の形状は、活物質の電子導電性の向上という観点から、繊維状であることが好ましい。
【0115】
導電助剤のアスペクト比は、1.5以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。導電助剤のアスペクト比が1.5以上であることで、電極活物質の電子伝導性を向上できるため、電池の出力特性を向上できる。
【0116】
導電助剤のアスペクト比は、10,000以下であることが好ましく、5,000以下であることがより好ましく、1,000以下であることが特に好ましい。さらに、導電助剤のアスペクト比は、500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、100以下であることが特に好ましい。導電助剤のアスペクト比が10,000以下であることで、導電助剤の分散性を向上でき、導電助剤が電極用成形体を突き抜けることによる短絡を効率的に防止できる。
【0117】
導電助剤のアスペクト比は、以下の方法により測定する。走査型電子顕微鏡(SEM)(例えば、PHILIPS社製XL30)を用いて1000倍~3000倍の観察倍率で撮影した任意の3視野のSEM像を、BMP(ビットマップ)ファイルに変換する。画像解析ソフト(例えば、旭エンジニアリング株式会社製のIP-1000PCの統合アプリケーションである「A像くん」)を用いて50個の導電助剤の画像を取り込む。各導電助剤が重なることなく観察される状態で、各導電助剤の長さの最大値と最小値とを読み取る。「導電助剤の長さの最大値」とは、導電助剤の外周のある点から他の点までの線分のうち、長さが最大となる線分の長さ(すなわち長軸長)を意味する。「導電助剤の長さの最小値」とは、導電助剤の外周のある点から他の点までの線分であって、上記最大値を示す線分と直交する線分のうち、長さが最小となる線分の長さ(すなわち短軸長)を意味する。50個の各導電助剤の長さの最大値(長軸長)のうち、上位5点及び下位5点を除く40点の平均値(A)を求める。次に、50個の各導電助剤の長さの最小値(短軸長)のうち、上位5点及び下位5点を除く40点の平均値(B)を求める。平均値(A)を平均値(B)で除することによって、導電助剤のアスペクト比を算出する。
【0118】
導電助剤の短軸長は、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。
【0119】
導電助剤の短軸長は、1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることが特に好ましい。
【0120】
導電助剤の短軸長は、導電助剤のアスペクト比の測定方法において算出される50個の各導電助剤の長さの最小値である。
【0121】
導電助剤の短軸長の平均値は、8μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることが特に好ましい。
【0122】
導電助剤の短軸長の平均値は、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることが特に好ましい。
【0123】
導電助剤の短軸長の平均値は、導電助剤のアスペクト比の測定方法において算出される50個の各導電助剤の長さの最小値(短軸長)のうち、上位1割(すなわち上位5点)及び下位1割(すなわち下位5点)を除いた各導電助剤の短軸長の平均値である。
【0124】
電極材料は、1種単独の導電助剤を含んでいてもよく、又は2種以上の導電助剤を含んでいてもよい。
【0125】
電極材料が導電助剤を含む場合、導電助剤の含有量は、活物質の電子導電性の向上という観点から、電極材料の全固形分質量に対して、0質量%を超え10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%~8質量%であることがより好ましく、1質量%~7質量%であることが特に好ましい。
【0126】
(リチウム塩)
電極材料は、電池性能の向上の観点から、リチウム塩を含むことが好ましい。リチウム塩としては、制限されず、公知のリチウム塩を利用できる。
【0127】
リチウム塩としては、特開2015-088486号公報の段落0082~段落0085に記載のリチウム塩が好ましい。
【0128】
電極材料は、1種単独のリチウム塩を含んでいてもよく、又は2種以上のリチウム塩を含んでいてもよい。
【0129】
電極材料がリチウム塩を含む場合、リチウム塩の含有量は、電極材料の全固形分質量に対して、0.1質量%~10質量%であることが好ましい。
【0130】
(分散剤)
電極材料は、分散剤を含むことが好ましい。電極材料が分散剤を含むことで、電極活物質、及び無機固体電解質のいずれか一方の濃度が高い場合における凝集を抑制できる。
【0131】
分散剤としては、制限されず、公知の分散剤を利用できる。分散剤としては、分子量が200以上3,000未満の低分子又はオリゴマーからなり、下記官能基群(I)で示される官能基と、炭素数が8以上のアルキル基又は炭素数が10以上のアリール基と、を同一分子内に有する化合物が好ましい。
【0132】
官能基群(I)は、酸性基、塩基性窒素原子を有する基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、アルコキシシリル基、エポキシ基、オキセタニル基、イソシアネート基、シアノ基、スルファニル基、及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であり、酸性基、塩基性窒素原子を有する基、アルコキシシリル基、シアノ基、スルファニル基、及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であることが好ましく、カルボキシ基、スルホン酸基、シアノ基、アミノ基、及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であることがより好ましい。
【0133】
電極材料は、1種単独の分散剤を含んでいてもよく、又は2種以上の分散剤を含んでいてもよい。
【0134】
電極材料が分散剤を含む場合、分散剤の含有量は、凝集防止と電池性能との両立の観点から、電極材料の全固形分質量に対して、0.2質量%~10質量%であることが好ましく、0.5質量%~5質量%であることがより好ましい。
【0135】
(液体成分)
電極材料は、液体成分を含んでいてもよい。液体成分としては、例えば、電解液が挙げられる。
【0136】
電解液としては、制限されず、公知の電解液を利用できる。電解液としては、例えば、リチウム塩化合物と、カーボネート化合物と、を含む電解液が挙げられる。
【0137】
リチウム塩化合物としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウムが挙げられる。電解液は、1種単独のリチウム塩化合物を含んでいてもよく、又は2種以上のリチウム塩化合物を含んでいてもよい。
【0138】
カーボネート化合物としては、例えば、炭酸エチルメチル、炭酸エチレン、及び炭酸プロピレンが挙げられる。電解液は、1種単独のカーボネート化合物を含んでいてもよく、又は2種以上のカーボネート化合物を含んでいてもよい。
【0139】
電極材料における電解液の含有量は、電極材料の全質量に対して、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。電極材料における電解液の含有量が30質量%以下であることで、電極材料を成形した際に電解液が滲み出ることを抑制することができる。
【0140】
電極材料における電解液の含有量は、電池性能の向上の観点から、電極材料の全質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。
【0141】
電極材料は、液体成分として、電解液の成分として含まれる溶剤以外の溶剤(以下、単に「溶剤」ともいう。)を含んでいてもよい。溶剤としては、例えば、アルコール化合物溶剤、エーテル化合物溶剤、アミド化合物溶剤、アミノ化合物溶剤、ケトン化合物溶剤、芳香族化合物溶剤、脂肪族化合物溶剤、及びニトリル化合物溶剤が挙げられる。
【0142】
アルコール化合物溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ソルビトール、キシリトール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,3-ブタンジオール、及び1,4-ブタンジオールが挙げられる。
【0143】
エーテル化合物溶剤としては、例えば、アルキレングリコールアルキルエーテル(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、及びジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、及びジオキサンが挙げられる。
【0144】
アミド化合物溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、1-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、2-ピロリジノン、ε-カプロラクタム、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、及びヘキサメチルホスホリックトリアミドが挙げられる。
【0145】
アミノ化合物溶剤としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、及びトリブチルアミンが挙げられる。
【0146】
ケトン化合物溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノンが挙げられる。
【0147】
芳香族化合物溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、及びキシレンが挙げられる。
【0148】
脂肪族化合物溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、及びデカンが挙げられる。
【0149】
ニトリル化合物溶剤としては、例えば、アセトニトリル、プロピロニトリル、及びイソブチロニトリルが挙げられる。
【0150】
溶剤は、ニトリル化合物溶剤、芳香族化合物溶剤、及び脂肪族化合物溶剤からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤であることが好ましく、イソブチロニトリル、トルエン、及びヘプタンからなる群より選択される少なくとも1種の溶剤であることがより好ましく、トルエン、及びヘプタンからなる群より選択される少なくとも1種の溶剤であることが特に好ましい。
【0151】
溶剤の沸点は、常圧(すなわち1気圧)において、50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。溶剤の沸点は、250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることがより好ましい。
【0152】
電極材料は、1種単独の溶剤を含んでいてもよく、又は2種以上の溶剤を含んでいてもよい。
【0153】
電極材料における溶剤(電解液の成分として含まれる溶剤を含む。以下、本段落において同じ。)の含有量は、電極材料の全質量に対して、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。電極材料における溶剤の含有量が30質量%以下であることで、電池性能の劣化を抑制することができ、また、電極材料を成形した際に溶剤が滲み出ることを抑制することができる。電極材料における溶剤の含有量の下限は、制限されない。電極材料における溶剤の含有量は、0質量%以上であってもよく、又は0質量%を超えてもよい。
【0154】
電極材料における液体成分の含有量は、電極材料の全質量に対して、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。電極材料における液体成分の含有量が30質量%以下であることで、電極材料を成形した際に液体成分が滲み出ることを抑制することができる。また、液体成分が溶剤を含む場合には、電池性能の劣化を抑制することができる。電極材料における液体成分の含有量の下限は、制限されない。電極材料における液体成分の含有量は、0質量%以上であってもよく、又は0質量%を超えてもよい。
【0155】
上記の他、電極材料としては、例えば、以下の材料を用いることもできる。
(1)特開2017-104784号公報の段落0029~段落0037に記載の造粒体。
(2)特開2016-059870号公報の段落0054に記載の正極合剤塗料。
(3)特開2016-027573号公報の段落0017~段落0070に記載の複合粒子。
(4)特許第6402200号公報の段落0020~段落0033に記載の複合粒子。
(5)特開2019-046765号公報の段落0040~段落0065に記載の電極組成物。
(6)特開2017-054703号公報の段落0080~段落0114に記載の材料(例えば、活物質、正極スラリー、及び負極スラリー)。
(7)特開2014-198293号公報に記載の粉体。
(8)特開2016-062654号公報の段落0024~段落0025、段落0028、及び段落0030~段落0032に記載の活物質、バインダー、及び複合粒子。
【0156】
(電極材料の調製方法)
電極材料は、例えば、電極活物質と、必要に応じて、電極活物質以外の上記成分と、を混合することによって調製できる。混合方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、プラネタリミキサー、ブレードミキサー、ロールミル、ニーダー、又はディスクミルを用いる方法が挙げられる。
【0157】
<<供給工程>>
本開示に係る電極用成形体の製造方法は、電極材料を収容する空間部を画定する枠状の側壁部を有し、かつ、成形型の底面上に第1の支持体が配置された成形型に電極材料を供給する工程(供給工程)を含む。成形型に供給された電極材料は、成形型において第1の支持体上に配置される。
【0158】
供給工程の一例について、図面を参照して説明する。例えば、図2(a)~(c)に示すように、搬送用ベルト10A上に配置された成形型20に電極材料40を供給する。図3は、図2(a)に示す成形型の概略平面図である。
【0159】
図2(a)は、搬送用ベルト10A上に配置された成形型20を示す。
【0160】
搬送用ベルト10Aは、成形型20を搬送できる。搬送用ベルト10Aの表面は、成形型20の底面としても機能する。
【0161】
図2(a)には図示していないが、搬送用ベルト10Aは、ベルトコンベアのベルトとして、ベルトコンベアの両端部に配置されたヘッドプーリー、及びテールプーリーの外周に沿って輪状に配置されている。
【0162】
成形型20は、電極材料を成形するための型である。図3に示すように、成形型20は、搬送用ベルト10Aの長手方向にベルト状(すなわち帯状)に配置されている。図3に示す矢印は、搬送方向を示す。図3に示す矢印は、搬送用ベルト10Aの長手方向に対して平行である。
【0163】
成形型20は、吸着によって搬送用ベルト10Aに固定されている。成形型20は、接着材を用いることによって搬送用ベルト10Aに固定されていてもよい。
【0164】
成形型20は、電極材料を収容する空間部(凹部)を画定する枠状の側壁部20Aを有する。成形型の空間部は、成形型20の側壁部20A、及び搬送用ベルト10Aによって画定される。
【0165】
図3に示すように、成形型20には複数の空間部が設けられている。成形型20における空間部の数は、1つであってもよい。
【0166】
図2(b)は、成形型20の底面上に配置された第1の支持体30を示す。第1の支持体30は、少なくとも成形型20に電極材料40が供給される前に、成形型20に配置されていればよい。
【0167】
図2(c)は、成形型20に供給された電極材料40を示す。成形型20に供給された電極材料40は、第1の支持体30上に配置される。
【0168】
供給工程は、図4(a)~(c)に示される工程を経て実施してもよい。図4(a)~(c)は、成形型20の代わりに、枠状の側壁部21Aと、底部21Bと、を有する成形型21を用いたこと以外は、図2(a)~(c)と同様の工程を示す。
【0169】
以下、供給工程について具体的に説明する。
【0170】
[成形型]
成形型は、電極材料を成形するための型であり、電極材料を収容可能な空間部を画定する枠状の側壁部を有する(例えば、図2(a)参照)。
【0171】
本開示において、「枠状」とは、成形型を平面視した場合に、空間部の周縁に沿って内壁面が配置されている状態を意味する(例えば、図3参照)。
【0172】
空間部の形状(成形型の内部形状をいう。以下同じ。)は、制限されず、目的とする電極用成形体の形状に応じて決定すればよい。例えば、電極材料を平板状に成形する場合、空間部の形状は、平板状であることが好ましい。
【0173】
平面視した場合における空間部の形状としては、例えば、矩形状、及び円状が挙げられる。例えば、電極材料を矩形状に成形する場合、平面視した場合における空間部の形状は、矩形状であることが好ましい。
【0174】
平面視した場合における空間部の幅は、制限されず、目的とする電極用成形体の幅に応じて決定すればよい。平面視した場合における空間部の幅は、例えば、50mm~2,000mmの範囲で適宜決定すればよい。
【0175】
平面視した場合における空間部の長さは、制限されず、目的とする電極用成形体の長さに応じて決定すればよい。平面視した場合における空間部の長さは、例えば、100mm~2,000mmの範囲で適宜決定すればよい。
【0176】
空間部の高さは、制限されず、目的とする電極用成形体の高さ(すなわち厚さ)に応じて決定すればよい。空間部の高さは、例えば、0mmを超え5mm以下の範囲で適宜決定すればよい。
【0177】
成形型は、1つの空間部を有していてもよく、又は2つ以上の空間部を有していてもよい(例えば、図3参照)。
【0178】
枠状の側壁部は、成形型に供給された電極材料の偏在を抑制するための物理的な制約として機能できる。例えば、枠状の側壁部は、電極用成形体の密度分布の不均一化を引き起こす電極材料の移動を規制できる。枠状の側壁部を有する成形型を用いることで、成形性に優れる電極用成形体を得ることができる。
【0179】
側壁部の材料としては、例えば、樹脂、及び金属が挙げられる。
【0180】
金属としては、例えば、ステンレス鋼、銅、及びアルミニウムが挙げられる。
【0181】
樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、及びポリエチレンが挙げられる。
【0182】
側壁部の材料は、成形性の向上の観点から、樹脂であることが好ましい。側壁部の材料は、電極材料の離型性の向上、成形型の汚れ防止、及び成形型の耐久性の向上という観点から、フッ素樹脂、又はシリコン樹脂であることが好ましく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又はテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)であることがより好ましく、ポリテトラフルオロエチレンであることが特に好ましい。
【0183】
平面視した場合における側壁部の内周形状は、枠状であれば制限されず、目的とする電極用成形体の形状に応じて決定すればよい。平面視した場合における側壁部の内周形状としては、例えば、矩形状、及び円状が挙げられる。例えば、電極材料を矩形状に成形する場合、平面視した場合における側壁部の内周形状は、矩形状であることが好ましい。換言すると、側壁部は、隣り合う面が互いに直角に交わる4つの内壁面を有することが好ましい。
【0184】
側壁部の構造は、電極材料を収容可能な空間部を画定できる限り、分離可能であってもよく、又は分離不可能(例えば、一体化した構造)であってもよい。また、側壁部は、単一の部材から構成されていてもよく、又は複数の部材から構成されていてもよい。
【0185】
成形型は、側壁部のみを有していてもよく、又は側壁部に加えて、底部を有していてもよい。具体的に、成形型は、電極材料を収容可能な空間部を画定する、底部と、枠状の側壁部と、を有していてもよい(例えば、図4(a)参照)。
【0186】
成形型が底部を有する場合、側壁部は、底部に接して配置されていることが好ましく、底部に接し、かつ、底部に対して直交する方向に配置されていることがより好ましい。
【0187】
成形型が底部を有する場合、底部は、電極材料を収容可能な空間部を画定できる限り、側壁部から分離可能な部分であってもよく、又は側壁部から分離不可能な部分(例えば、側壁部と一体化された部分)であってもよい。
【0188】
底部の材料としては、例えば、側壁部の材料として用いられる樹脂、及び金属が挙げられる。底部の好ましい材料は、側壁部の好ましい材料と同様である。底部の材料は、側壁部の材料と同一であることが好ましい。
【0189】
底部の形状は、制限されず、例えば、目的とする電極用成形体の形状に応じて決定すればよい。例えば、電極材料を平板状に成形する場合、底部の形状は、平面状であることが好ましい。
【0190】
成形型の厚さは、制限されず、例えば、0mm~5mmの範囲で適宜決定すればよい。成形型の厚さは、成形性と製品の厚みによる性能の観点から、0.01mm~2mmの範囲であることが好ましく、0.1mm~1mmの範囲であることがより好ましく、0.2mm~1.0mmの範囲であることが特に好ましい。
【0191】
成形型の形状は、ベルト状(すなわち帯状)であることが好ましい(例えば、図3参照)。成形型の形状がベルト状であることで、生産性を向上できる。ベルト状の成形型は、2つ以上の空間部を有することが好ましい。ベルト状の成形型が2つ以上の空間部を有する場合、各空間部の間に、凹部が配置されていることが好ましい。各空間部の間に凹部が配置されることで、余分な電極材料を回収することができるため、電極材料の飛散による汚染を防止できる。
【0192】
成形型の製造方法としては、制限されず、公知の方法を利用できる。成形型の製造方法としては、例えば、鋳造、及び射出成型が挙げられる。また、成形型の母材から空間部に対応する部分を除去することによって、成形型を得ることもできる。複数の部材を互いに接合して組み合わせることによって、成形型を得ることもできる。
【0193】
[第1の支持体]
第1の支持体は、成形型の底面上に配置されている。第1の支持体を用いることで、成形性を向上でき、さらに、取り出し工程において成形型から電極材料を容易に取り出すことができる。
【0194】
本開示において、「成形型の底面」とは、成形型における空間部の底面を画定できる部材の表面を意味する。成形型の底面は、成形型において空間部を画定できる限り、成形型(具体的には側壁部)とは独立した部材の表面であってもよく、又は成形型の一部(例えば、底部)の表面であってもよい。つまり、本開示のある実施形態においては、成形型において空間部を画定できる限り、成形型とは独立した部材の表面を成形型の底面とみなす。例えば、図2(a)に示すように、成形型20とは独立した部材である搬送用ベルト10Aの表面は、成形型20の底面とみなす。また、例えば、図4(a)に示すように、成形型21の一部である底部21Bの表面は、成形型21の底面である。
【0195】
第1の支持体としては、例えば、離型材が挙げられる。離型材としては、例えば、離型紙、表面処理が施された金属(例えば、アルミニウム、及びステンレス鋼(一般的に「SUS」と称される。)、被覆層を有するフィルム、及び被覆層を有する紙が挙げられる。被覆層は、例えば、シリコンコーティング、又はフッ素コーティングによって形成できる。
【0196】
第1の支持体は、電極材料の離型性の向上という観点から、離型材であることが好ましく、離型紙であることがより好ましい。
【0197】
第1の支持体の形状は、成形型の底面及び電極材料に対する形状追従性の観点から、平板状であることが好ましい。
【0198】
第1の支持体の平均厚さは、形状追従性の観点から、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが特に好ましい。第1の支持体の平均厚さは、柔軟性、及び軽量性の観点から、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることが特に好ましい。第1の支持体の平均厚さは、断面観察によって測定される3か所の厚さの算術平均とする。断面観察においては、公知の顕微鏡(例えば、走査型電子顕微鏡)を用いることができる。
【0199】
第1の支持体の大きさは、制限されず、成形型の底面の大きさに応じて決定すればよい。平面視した場合における第1の支持体の大きさは、成形型の底面の大きさよりも小さいことが好ましい。第1の支持体の大きさが成形型の底面の大きさより小さいことで、取り出し工程において成形型から電極材料を容易に取り出すことができる。同様の観点から、平面視した場合における、成形型の底面の面積に対する第1の支持体の面積の比率は、99.9%~90%であることが好ましく、99.8%~95%であることがより好ましく、99.5%~97%であることが特に好ましい。
【0200】
[供給方法]
成形型に電極材料を供給する方法としては、制限されず、公知の方法を利用できる。成形型に電極材料を供給する方法としては、例えば、供給装置を用いる方法が挙げられる。
【0201】
供給装置としては、例えば、スクリューフィーダー、ディスクフィーダー、ロータリーフィーダー、及びベルトフィーダーが挙げられる。
【0202】
成形型に電極材料を供給する方法としては、吐出口から電極材料を吐出することによって、成形型に電極材料を供給する方法も挙げられる。供給装置を用いる場合、供給装置を用いて吐出口から電極材料を吐出してもよい。
【0203】
供給工程において、吐出口は、電極材料の飛散による汚染を防止する観点から、電極材料の供給を制御する開閉機構を有することが好ましい。ここで、「開閉機構」とは、電極材料の流路を開閉できる可動機構を意味する。開閉機構に用いられる弁体としては、例えば、板状の弁体、及び球状の弁体が挙げられる。
【0204】
供給装置を用いて電極材料を供給する場合、開閉機構は、供給装置から吐出口までの流路に配置されることも好ましい。
【0205】
供給工程において、吐出口と成形型とを相対的に移動させながら、成形型に電極材料を供給することが好ましい。上記方法によって電極材料を供給することで、成形型における電極材料の分散性を向上できるため、成形性に優れる電極用成形体を得ることができる。
【0206】
本開示において、「吐出口と成形型とを相対的に移動させる」とは、成形型に対して吐出口を移動させること、吐出口に対して成形型を移動させること、及び吐出口と成形型とをそれぞれ移動させることを含む。吐出口と成形型とをそれぞれ移動させる場合、例えば、同一の方向軸に沿って互いに離間する方向に、吐出口と成形型とをそれぞれ移動させてもよい。また、吐出口と成形型とをそれぞれ移動させる場合、吐出口と成形型とを互いに直交する方向に移動させてもよい。例えば、成形型の幅方向(例えば、TD:Transverse Direction)に吐出口を移動させることと、成形型の幅方向に直交する方向(例えば、MD:Machine Direction)に成形型を移動させることと、を組み合わせることができる。
【0207】
供給工程においては、生産性の向上の観点から吐出口に対して成形型を移動させることが好ましい。
【0208】
供給工程において成形型を移動させる場合、成形型の搬送手段としては、制限されず、公知の搬送手段を利用できる。成形型の搬送手段としては、例えば、ベルトコンベア、リニアモーションガイド、及びクロスローラーテーブルが挙げられる。
【0209】
電極材料の供給量は、安定性の観点から、0.01kg/分~100kg/分であることが好ましく、0.1kg/分~10kg/分であることがより好ましく、0.5kg/分~5kg/分であることが特に好ましい。
【0210】
<<成形工程>>
本開示に係る電極用成形体の製造方法は、成形型の内部形状に沿って電極材料を成形する工程(以下、「成形工程」ともいう。)を含む。本開示に係る電極用成形体の製造方法が成形工程を含むことで、電極材料の密度分布を均一にできるため、成形性に優れる電極用成形体を得ることができる。
【0211】
成形工程の一例について、図面を参照して説明する。例えば、図2(d)に示すように、第2の支持体50を介して電極材料40を加圧することによって、成形型20の内部形状に沿って電極材料40を成形できる。
【0212】
図2(d)において、例えば、成形部材としてロール(不図示)を第2の支持体50に接触させることによって、第2の支持体50を介して電極材料40を加圧できる。第2の支持体50を用いずに、電極材料40を直接加圧してもよい。
【0213】
図4(d)は、成形型20の代わりに成形型21を用いたこと以外は、図2(d)と同様の工程を示す。
【0214】
以下、成形工程について具体的に説明する。
【0215】
本開示において、「成形型の内部形状に沿って電極材料を成形する」とは、成形型の内面、換言すると成形型における空間部の形状に対応する形状に電極材料を形づくることを意味する。
【0216】
電極材料を成形する方法としては、成形型の内部形状に沿って電極材料を成形できる方法であれば制限されず、公知の方法を利用できる。電極材料を成形する方法としては、例えば、成形型における電極材料に対して外力を加える方法が挙げられる。成形型における電極材料に対して外力を加えることで、成形型の内部形状に沿って電極材料を成形できる。
【0217】
電極材料を成形する方法の具体例としては、電極材料の深さ方向に圧力を加える方法、電極材料を振動させる方法、及び電極材料の表面を平らにする方法が挙げられる。
【0218】
成形工程においては、電極材料と成形部材とを直接的に又は間接的に接触させることで、電極材料を成形することが好ましい。ここで、「電極材料と成形部材とを間接的に接触させる」とは、電極材料と成形部材との間に配置された他の部材(例えば、後述する第2の支持体)を介して、電極材料と成形部材とを接触させることを意味する。
【0219】
成形部材は、電極材料を成形するための部材である。成形部材は、成形型の内部形状に沿って電極材料を成形できる部材であれば制限されない。成形部材は、例えば、機器の一部であってもよく、又は単独で使用可能な物であってもよい。成形部材は、電極材料に接触する面を有する部材であることが好ましい。ここで、電極材料と成形部材とを間接的に接触させる場合における「電極材料に接触する面」とは、電極材料と成形部材との間に配置された他の部材に接触する面を意味する。成形部材としては、例えば、ロール、プレス、スクレーパー、及び板状の部材(例えば、スキージ)が挙げられる。上記の中でも、成形部材は、連続性の観点から、ロールであることが好ましい。
【0220】
成形部材は、振動手段を有することが好ましい。成形部材が振動手段を有することで、成形性を向上できる。振動手段としては、例えば、一般的な加振装置が挙げられる。
【0221】
成形部材の表面は、凹凸形状を有することが好ましい。成形部材の表面が凹凸形状を有することで、成形性を向上できる。
【0222】
成形部材は、1種単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0223】
成形部材を用いて電極材料を成形する場合、成形部材は、電極材料のみに接触してもよく、又は電極材料及び成形型の両方に接触してもよい。
【0224】
成形部材を用いて電極材料を成形する場合、成形部材を用いて電極材料を加圧してもよく、又は電極材料と成形部材とを接触させながら、電極材料の表面に沿って成形部材を移動させてもよい。電極材料と成形部材とを接触させながら、電極材料を移動させてもよい。
【0225】
成形部材を用いて電極材料を加圧する場合、圧力は、1MPa~1GPaであることが好ましく、5MPa~500MPaであることがより好ましく、10MPa~300MPaであることが特に好ましい。
【0226】
成形部材を用いて電極材料を成形する場合、電極材料と成形部材とを直接的に又は間接的に接触させながら、成形部材と成形型とを相対的に移動させることによって、電極材料を成形することが好ましい。上記方法によって電極材料を成形することで、成形性に優れる電極用成形体を得ることができ、また、生産性を向上できる。上記方法によって電極材料を成形する場合、電極材料を加圧成形することも好ましい。
【0227】
本開示において、「成形部材と成形型とを相対的に移動させる」とは、成形型に対して成形部材を移動させること、成形部材に対して成形型を移動させること、及び成形部材と成形型とをそれぞれ移動させることを含む。生産性の向上の観点から、成形部材に対して成形型を移動させることが好ましい。成形部材と成形型とをそれぞれ移動させる場合、同一の方向軸に沿って互いに離間する方向に、成形部材と成形型とをそれぞれ移動させることが好ましい。
【0228】
成形工程は、供給工程を行いながら実施してもよい。すなわち、本開示に係る電極用成形体の製造方法においては、成形型に電極材料を供給しながら、成形型の内部形状に沿って電極材料を成形してもよい。
【0229】
<<被覆工程>>
本開示に係る電極用成形体の製造方法は、成形型に供給された電極材料の上に第2の支持体を配置する工程(以下、「被覆工程」ともいう。)を含むことが好ましい。本開示に係る電極用成形体の製造方法が被覆工程を含むことで、成形性を向上でき、さらに、電極材料の飛散による汚染も防止できる。
【0230】
被覆工程の一例について、図面を参照して説明する。例えば図1において、被覆工程は、S120とS130との間に実施されてもよく、S130とS140との間に実施されてもよく、又はS130と同時に実施されてもよい。
【0231】
例えば、図2(d)に示すように、成形型20に供給された電極材料40の上に第2の支持体50を配置できる。
【0232】
図4(d)は、成形型20の代わりに成形型21を用いたこと以外は、図2(d)と同様の工程を示す。
【0233】
以下、被覆工程について具体的に説明する。
【0234】
本開示に係る電極用成形体の製造方法は、成形性の向上、及び電極材料の飛散による汚染の防止の観点から、電極材料を供給する工程(供給工程)と電極材料を成形する工程(成形工程)との間に、成形型に供給された電極材料の上に第2の支持体を配置する工程(被覆工程)を含むことが好ましい。
【0235】
本開示に係る電極用成形体の製造方法は、成形性の向上、及び電極材料の飛散による汚染の防止の観点から、電極材料を成形する工程(成形工程)と電極材料を取り出す工程(取り出し工程)との間に、成形型に供給された電極材料の上に第2の支持体を配置する工程(被覆工程)を含むことも好ましい。
【0236】
本開示に係る電極用成形体の製造方法は、成形性の向上、電極材料の飛散による汚染の防止、及び生産性の向上の観点から、成形型に供給された電極材料の上に第2の支持体を配置する工程(被覆工程)を含み、第2の支持体を配置する工程(被覆工程)と電極材料を成形する工程(成形工程)とを同時に実施することも好ましい。ここで、「被覆工程と成形工程とを同時に実施する」とは、成形型に供給された電極材料の上に第2の支持体を配置しながら、成形型の内部形状に沿って電極材料を成形することを意味する。上記方法においては、第2の支持体を介して電極材料を成形できる。
【0237】
第2の支持体の材料としては、例えば、樹脂、金属、及び紙が挙げられる。
【0238】
第2の支持体は、集電体であることが好ましい。第2の支持体が集電体であることで、電極材料を集電体上に容易に配置することができ、さらに、生産性も向上できる。
【0239】
集電体としては、制限されず、公知の集電体を利用できる。
【0240】
正極集電体としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル、及びチタンが挙げられる。正極集電体は、アルミニウム、又はアルミニウム合金であることが好ましい。正極集電体は、表面にカーボン、ニッケル、チタン、若しくは銀を含む被覆層を有する、アルミニウム、又はステンレス鋼であることも好ましい。
【0241】
負極集電体としては、例えば、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、及びチタンが挙げられる。負極集電体は、アルミニウム、銅、銅合金、又はステンレス鋼であることが好ましく、銅、又は銅合金であることがより好ましい。負極集電体は、表面にカーボン、ニッケル、チタン、若しくは銀を含む被覆層を有する、アルミニウム、銅、銅合金、又はステンレス鋼であることも好ましい。
【0242】
集電体としては、アルミニウム箔、又は銅箔であることが好ましい。アルミニウム箔は、通常、正極における集電体として利用される。銅箔は、通常、負極における集電体として利用される。
【0243】
第2の支持体は、メッシュ加工されていてもよく、又はパンチ加工されていてもよい。また、第2の支持体は、多孔質体、発泡体、又は繊維群の成形体であってもよい。第2の支持体の表面は、表面処理による凹凸を有していてもよい。
【0244】
第2の支持体の形状は、平板状であることが好ましい。
【0245】
第2の支持体の平均厚さは、自己支持性、搬送性、及び貫通耐性の観点から、1μm~500μmであることが好ましく、3μm~300μmであることがより好ましく、5μm~200μmであることが特に好ましい。第2の支持体の平均厚さは、断面観察によって測定される3か所の厚さの算術平均とする。断面観察においては、公知の顕微鏡(例えば、走査型電子顕微鏡)を用いることができる。
【0246】
<<変位工程>>
本開示に係る電極用成形体の製造方法は、第1の支持体と電極材料との位置関係を変える工程(以下、「変位工程」ともいう。)を含むことが好ましい。本開示に係る電極用成形体の製造方法が変位工程を含むことで、成形型から電極材料を容易に取り出すことができる位置に電極材料を配置できる。
【0247】
変位工程の一例について、図面を参照して説明する。例えば図1において、変位工程は、S130とS140との間に実施されることが好ましい。
【0248】
例えば、図2(e)に示すように、第1の支持体30と電極材料40とを上下に反転することによって、第1の支持体と電極材料との位置関係を変えることができる。例えば、ベルトコンベア(不図示)の端部において、搬送用ベルト10の搬送方向をU字状に180度反転させることによって、第1の支持体30と電極材料40とを上下に反転できる。
【0249】
図4(e)は、成形型20の代わりに成形型21を用いたこと以外は、図2(e)と同様の工程を示す。
【0250】
以下、変位工程について具体的に説明する。
【0251】
本開示において、「第1の支持体と電極材料との位置関係を変える」とは、任意の座標系(例えば、3次元の直交座標系)において、第1の支持体と電極材料との位置関係を変えることを意味する。
【0252】
本開示に係る電極用成形体の製造方法は、成形性の向上、及び電極材料の離型性の向上の観点から、電極材料を成形する工程(成形工程)と電極材料を取り出す工程(取り出し工程)との間に、変位工程を含むことが好ましい。
【0253】
本開示に係る電極用成形体の製造方法が被覆工程を含む場合、本開示に係る電極用成形体の製造方法は、成形性の向上、及び電極材料の離型性の向上の観点から、被覆工程と取り出し工程との間に変位工程を含むことが好ましい。
【0254】
変位工程においては、第1の支持体と電極材料との位置関係を変えることによって、鉛直方向において第1の支持体より下方に電極材料を配置することが好ましい。鉛直方向において第1の支持体より下方に電極材料を配置することで、取り出し工程において成形型から電極材料を容易に取り出すことができる。
【0255】
本開示において、「鉛直方向において第1の支持体より下方に電極材料を配置する」とは、水平面に直交する断面図において、第1の支持体の下面より下に電極材料を配置すること、換言すると、第1の支持体、及び電極材料に対して鉛直方向(すなわち重力方向)に仮想線を引いた場合に、鉛直方向にのびる上記仮想線が、第1の支持体、及び電極材料をこの順で通過する位置に、第1の支持体と電極材料とを配置することを意味する。例えば、図2(e)において下方向を鉛直方向とした場合、電極材料40は、鉛直方向において第1の支持体より下方に配置されている。図2(e)において、例えば、第1の支持体30と電極材料40とを1度~89度の範囲で回転させた位置関係についても、電極材料40は、鉛直方向において第1の支持体より下方に配置されているといえる。
【0256】
第1の支持体と電極材料との位置関係を変える方法としては、制限されず、公知の方法を利用できる。搬送部材(例えば、ベルト、及びロール)上に成形型が配置されている場合、搬送部材の搬送方向を変えることによって、第1の支持体と電極材料との位置関係を変えることができる。また、成形型を回転させることによって、第1の支持体と電極材料との位置関係を変えることもできる。
【0257】
<<加圧工程>>
本開示に係る電極用成形体の製造方法は、電極材料を加圧する工程(以下、「加圧工程」ともいう。)を含むことが好ましい。本開示に係る電極用成形体の製造方法が加圧工程を含むことで、電極材料の密度分布をより均一にできるため、成形性に優れる電極用成形体を得ることができる。また、加圧工程は、圧密工程も兼ねることで、得られる電極用成形体の密度を大きくすることもできる。
【0258】
加圧工程の一例について、図面を参照して説明する。例えば図1において、加圧工程は、S130とS140との間に実施されてもよく、又はS140の後に実施されてもよい。
【0259】
例えば、図2(f)に示すように、搬送用ベルト10Aと搬送用ベルト10Bとを用いて電極材料40を加圧できる。
【0260】
図2(f)においては、搬送用ベルト10A、及び搬送用ベルト10Bの代わりに一対のロール(不図示)を用いて電極材料40を加圧してもよく、又は搬送用ベルト10Bの代わりにロール(不図示)を用いて電極材料40を加圧してもよい。
【0261】
図4(f)は、成形型20の代わりに成形型21を用いたこと以外は、図2(f)と同様の工程を示す。
【0262】
以下、加圧工程について具体的に説明する。
【0263】
加圧工程は、取り出し工程の前に行ってもよく、又は取り出し工程の後に行ってもよい。本開示に係る電極用成形体の製造方法は、成形工程と取り出し工程との間、又は取り出し工程の後に、加圧工程を含むことが好ましい。
【0264】
本開示に係る電極用成形体の製造方法が被覆工程を含む場合、本開示に係る電極用成形体の製造方法は、被覆工程と取り出し工程との間に加圧工程を含むことが好ましい。
【0265】
電極材料を加圧する方法としては、制限されず、公知の方法を利用できる。電極材料を加圧する方法としては、例えば、加圧部材を用いる方法が挙げられる。
【0266】
加圧部材としては、例えば、ロール、ベルト、及びプレスが挙げられる。
【0267】
加圧部材は、1種単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。加圧工程においては、例えば、1対のロールを用いてもよく、ロールとベルトとを組み合わせて用いてもよく、又は2つのベルトを用いてもよい。
【0268】
加圧工程において、複数のロールを用いて、電極材料を段階的に加圧することが好ましい。複数のロールを用いて電極材料を段階的に加圧することで、電極材料の密度分布をより均一にできるため、成形性に優れる電極用成形体を得ることができる。例えば、ロール間の隙間を段階的に狭く調整した複数のロールを用いることで、電極材料を段階的に加圧できる。
【0269】
圧力は、1MPa~1GPaであることが好ましく、5MPa~500MPaであることがより好ましく、10MPa~300MPaであることが特に好ましい。
【0270】
加圧工程においては、成形性の向上の観点から、加熱条件下で電極材料を加圧することが好ましい。
【0271】
<<取り出し工程>>
本開示に係る電極用成形体の製造方法は、成形型から電極材料を取り出す工程(以下、「取り出し工程」ともいう。)を含む。
【0272】
取り出し工程の一例について、図面を参照して説明する。例えば、図2(g)に示すように、成形型20から電極材料を取り出すことによって、電極用成形体60を得ることができる。
【0273】
図2(g)に示すように、成形型20から取り出される電極材料を受ける部材(後述する受け部材)として、搬送用ベルト10Bを用いることができる。
【0274】
例えば、図2(f)において、搬送用ベルト10Aの方向から電極材料40を加圧してもよい。図2(f)において、搬送用ベルト10Bの方向へ電極材料を吸着してもよい。上記した各方法によって、搬送用ベルト10Aと第1の支持体30とを容易に離間させることができるため、成形型から電極材料を容易に取り出すことができる。
【0275】
図4(g)は、成形型20の代わりに成形型21から電極材料を取り出したこと以外は、図2(g)と同様の工程を示す。
【0276】
以下、取り出し工程について具体的に説明する。
【0277】
本開示において、「成形型から電極材料を取り出す」とは、成形型と電極材料とを離して電極材料を取得することを意味し、成形型に収容された電極材料を成形型の外へ出すことに限られない。例えば、取り出し工程においては、成形型から電極材料を離してもよく、又は電極材料から成形型を離してもよい。成形型から電極材料を取り出す方法としては、制限されず、公知の方法を利用できる。成形型から電極材料を取り出す方法としては、例えば、電極材料の自重を利用する方法、電極材料を押し出す方法、及び工具(例えば、ヘラ)を用いる方法が挙げられる。また、成形型を分解することで、成形型から電極材料を取り出してもよい。
【0278】
電極材料を押し出す方法としては、例えば、成形型に空気を送り出すことによって電極材料を押し出す方法が挙げられる。
【0279】
取り出し工程において、第1の支持体を基準にして電極材料が配置される方向に、成形型から電極材料を取り出すことが好ましい。上記方法によって、電極材料を容易に取り出すことができる。ここで、「第1の支持体を基準にして電極材料が配置される方向に、成形型から電極材料を取り出す」とは、電極材料のみを取り出すことに限られず、本開示に係る電極用成形体の製造方法において第2の支持体を用いる場合には、電極材料、及び第2の支持体を取り出すことを含む。
【0280】
取り出し工程において、成形型から、電極材料、及び第1の支持体を取り出すことが好ましい。成形型から、電極材料、及び第1の支持体を取り出すことで、電極材料の離型性を向上でき、さらに、電極材料を取り出す過程において電極材料の表面を保護できるため、成形性に優れる電極用成形体を得ることできる。本開示に係る電極用成形体の製造方法において第2の支持体を用いる場合、成形型から、電極材料、第1の支持体、及び第2の支持体を取り出すことが好ましい。
【0281】
成形型から、電極材料、及び第1の支持体を取り出した場合、取り出し工程後における第1の支持体は、第2の支持体を裁断する際の保護体、又はいわゆる合紙として用いられてもよい。また、取り出し工程後、適宜、第1の支持体を剥離してもよい。
【0282】
取り出し工程において、成形型から電極材料を取り出し、上記電極材料を受け部材上に配置することが好ましい。電極材料を受け部材上に配置することで、電極材料の飛散を防止でき、そして、成形性に優れる電極用成形体を得ることができる。ここで、「電極材料を受け部材上に配置する」とは、受け部材に接して電極材料を配置することに限られず、本開示に係る電極用成形体の製造方法において第2の支持体を用いる場合には、受け部材上に、第2の支持体、及び電極材料をこの順で配置することを含む。
【0283】
受け部材は、成形型から取り出される電極材料を配置できる部材であれば制限されない。受け部材としては、例えば、樹脂フィルム、金属箔、及び金属板が挙げられる。また、例えば、図2(g)、及び図4(g)に示すように、搬送部材を受け部材として用いることもできる。
【0284】
取り出し工程において、電極材料(第2の支持体を用いる場合には第2の支持体をいう。)を受け部材に吸引又は吸着させることによって、成形型から電極材料を取り出すことも好ましい。上記方法によって、成形型から電極材料を容易に取り出すことができる。ここで、「電極材料を受け部材に吸引又は吸着させる」とは、電極材料を受け部材に直接的に吸引又は吸着させることに限られず、本開示に係る電極用成形体の製造方法において第2の支持体を用いる場合には、第2の支持体を介して電極材料を受け部材に間接的に吸引又は吸着させることを含む。
【0285】
取り出し工程において、第1の支持体を基準にして電極材料が配置される方向に電極材料を押し出すこと、又は電極材料を受け部材に吸引若しくは吸着させることによって、成形型から電極材料を取り出すことが好ましく、第1の支持体を基準にして電極材料が配置される方向に電極材料を押し出すこと、及び電極材料を受け部材に吸引又は吸着させることによって、成形型から電極材料を取り出すことがより好ましい。
【0286】
<<搬送方法>>
本開示に係る電極用成形体の製造方法において、成形型を搬送する方法としては、例えば、搬送部材を用いる方法が挙げられる。例えば、成形型を搬送部材上に配置することで、成形型を搬送しながら、上記各工程を実施できる。
【0287】
本開示に係る電極用成形体の製造方法において、成形型は搬送部材上に配置されていることが好ましい。搬送部材上に配置された成形型を用いて上記各工程を実施することで、生産性を向上できる。搬送部材上に配置された成形型を用いる場合、例えば、搬送方向に沿って上記各工程を実施することによって、電極用成形体を得ることができる。
【0288】
搬送部材としては、例えば、ベルト、及びロールが挙げられる。
【0289】
搬送部材は、1種単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0290】
<<電極用成形体>>
本開示に係る電極用成形体の製造方法によって得られる電極用成形体は、成形性に優れるため、種々の電極として用いることができる。電極用成形体は、全固体二次電池の電極用成形体であることが好ましい。
【0291】
電極用成形体の形状は、制限されず、用途に応じて適宜決定すればよい。電極用成形体の形状は、平板状であることが好ましい。
【0292】
電極用成形体の平均厚さは、電池性能(例えば、放電容量、及び出力特性)の向上の観点から、0.01m~2mmであることが好ましく、0.05mm~1.5mmであることがより好ましく、0.1mm~1mmであることが特に好ましい。電極用成形体の平均厚さは、断面観察によって測定される3か所の厚さの算術平均とする。断面観察においては、公知の顕微鏡(例えば、走査型電子顕微鏡)を用いることができる。
【実施例
【0293】
以下、実施例により本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらに制限されるものではない。
【0294】
<硫化物系無機固体電解質(Li-P-S系ガラス)の調製>
硫化物系無機固体電解質は、「T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235、及びA.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873」を参考にして調製した。
【0295】
具体的には、アルゴン雰囲気下(露点:-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(LiS、Aldrich社製、純度:>99.98%)2.42g、五硫化二リン(P、Aldrich社製、純度:>99%)3.9gをそれぞれ秤量した後、上記硫化リチウム、及び上記五硫化二リンを、メノウ製乳鉢を用いて、5分間混合した。なお、LiSとPとのモル比(LiS:P)は、75:25とした。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66個投入し、次いで、上記硫化リチウムと上記五硫化二リンとの混合物の全量を投入した後、アルゴン雰囲気下で容器を完全に密閉した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)に容器を取り付け、温度25℃、回転数510rpm(revolutions per minute)で20時間メカニカルミリングを行うことによって、黄色粉体の硫化物固体電解質材料(Li-P-S系ガラス)6.2gを得た。以上の工程を10回繰り返し、62gの固体電解質材料を得た。
【0296】
<実施例1>
[正極用電極材料(P-1)の調製]
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、次いで、調製した上記Li-P-S系ガラス3.0gを投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7に容器を取り付け、温度25℃、回転数300rpmで2時間混合した。次に、活物質としてLCO(LiCoO、日本化学工業株式会社製)6.8g、及び導電助剤として株式会社デンカ製のLi-100(0.2g)を容器に投入し、次いで、遊星ボールミルP-7に容器を取り付け、温度25℃、回転数100rpmで10分間混合を行うことによって、正極用電極材料(P-1)を得た。以上の工程を10回繰り返し、必要量の正極電極材料を得た。
【0297】
[負極用電極材料(N-1)の調製]
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、次いで、調製した上記Li-P-S系ガラス4.0gを投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7に容器を取り付け、温度25℃、回転数300rpmで2時間混合した。次に、活物質としてCGB20(商品名、日本黒鉛工業株式会社製)5.0g、及び調製した上記導電助剤1.0gを容器に投入し、次いで、遊星ボールミルP-7に容器を取り付け、温度25℃、回転数200rpmで15分間混合を行うことによって、負極用電極材料(N-1)を得た。以上の工程を10回繰り返し、必要量の負極電極材料を得た。
【0298】
[正極シートの作製]
正極用電極材料(P-1)を、スクリューフィーダー(アズワン株式会社製粉体計量供給機(スクリュータイプ)、PSF-100SA)の粉受け口に投入した(図5におけるS210)。次に、吸着ができる多孔質のステンレス製ベルトコンベアに巻かれたフッ素樹脂製の枠ベルト(成形型、厚さ:1.0mm、くり抜き枠(以下、単に「枠」という。)の内寸45mm×50mm)の中に、44.9mm×49.9mmの大きさに予め裁断した離型紙(第1の支持体)を配置した。離型紙は、減圧によりベルトコンベアに吸着されている。
【0299】
ベルトコンベアを用いて枠ベルトを搬送しながら、スクリューフィーダーを稼働し、枠ベルトにおける枠の中に、厚さが0.6mmとなるように正極用電極材料(P-1)を供給した(図5におけるS220)。
【0300】
枠ベルト上に厚さ20μmのアルミニウム箔(第2の支持体、集電体)を配置し、次いで、φ90mmのステンレスロール、及びNBR(ニトリルブタジエンゴム)製のゴムロールを用いて、アルミ箔を介して正極用電極材料(P-1)を押し均すことによって、枠内に正極用電極材料(P-1)を隙間無く押し固めた(図5におけるS230、及びS240)。
【0301】
ベルトコンベアの端部において搬送方向をU字状に180度反転させることによって、離型紙、及び正極用電極材料(P-1)を上下に反転させた(図5におけるS250)。反転過程においては、ベルトコンベアの上面から下面に至るまで、ニップをしながら正極用電極材料(P-1)を搬送した。
【0302】
反転後、圧空をベルトコンベアの内側から送風し、離型紙を枠から押し出すことによって、平板状の正極用電極材料(P-1)をアルミニウム箔上に押し出した(図5におけるS260)。
【0303】
余分なアルミニウム箔をトムソン刃で切り取った後、10MPa、1分間プレスすることによって、正極シート(電極用成形体)を得た(図5におけるS270)。正極シートの層構造は、正極層/アルミニウム箔である。
【0304】
[負極シートの作製]
正極用電極材料(P-1)を負極用電極材料(N-1)に変更したこと、及びアルミニウム箔(第2の支持体、集電体)を厚さ20μmの銅箔(第2の支持体、集電体)に変更したこと以外は、上記正極シートと同様の方法によって、負極シート(電極用成形体)を作製した。負極シートの層構造は、負極層/銅箔である。
【0305】
[固体電解質シートの作製]
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、次いで、調製した上記Li-P-S系ガラス1.0g、及びイソブチロニトリル1.5gを投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7に容器を取り付け、温度25℃、回転数300rpmで2時間撹拌を行うことによって、固体電解質組成物を得た。アプリケーターを用いて、得られた固体電解質組成物を20μmのアルミニウム箔上に塗布した後、80℃で1時間、次いで、120℃で1時間乾燥させることによって、固体電解質シートを得た。固体電解質シートの層構造は、固体電解質層/アルミニウム箔である。固体電解質層が十分に固まったのちに、アルミニウム箔を剥離することによって固体電解質層のみを取り出した。固体電解質層の厚みは30μmであった。
【0306】
[全固体二次電池の作製]
固体電解質層を、負極シートにおける負極層に対向して配置し、10MPa、1分間プレスすることによって、固体電解質付き負極シートを作製した。
【0307】
スペーサーとワッシャーとを有する任意の大きさのステンレス製ケースの中に、正極シートにおける正極層と、固体電解質付き負極シートにおける固体電解質層とが互いに向かい合うように、正極シート、及び固体電解質付き負極シートを配置した。以上の操作によって、全固体二次電池を得た。得られた全固体二次電池の層構造は、銅箔/負極層/固体電解質層/正極層/アルミニウム箔である。
【0308】
<実施例2>
電解液としては、アルドリッチ社製のヘキサフルオロリン酸リチウム溶液(1.0M LiPF in EC/EMC=50/50(v/v))を用いた。「EC」とは、炭酸エチレンを意味する。「EMC」とは、炭酸エチルメチルを意味する。
【0309】
正極用電極材料として、正極用電極材料(P-1)と電解液(添加量:得られる正極用電極材料(P-2)の全質量に対して10質量%となる量)とを混練することによって調製した正極用電極材料(P-2)を用いたこと、及び負極用電極材料として、負極用電極材料(N-1)と電解液(添加量:得られる負極用電極材料(N-2)の全質量に対して25質量%となる量)とを混練することによって調製した負極用電極材料(N-2)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法によって、正極シート、負極シート、固体電解質シート、及び全固体二次電池をそれぞれ作製した。
【0310】
<比較例1>
正極シート、及び負極シートの製造において、フッ素樹脂製の枠ベルト(成形型)を用いず、かつ、トムソン刃を用いて端部を裁断することによって成形したこと以外は、実施例1と同様の方法によって、正極シート、負極シート、固体電解質シート、及び全固体二次電池をそれぞれ作製した。
【0311】
<評価>
[電極層の質量分布]
1cm角に切り出した正極シート(20枚)の質量を、電子天秤を用いて測定することによって、正極シートにおける正極層の質量のバラツキ(σ)を評価した。上記と同様の方法によって、負極シートにおける負極層の質量のバラツキ(σ)を評価した。評価結果を表1に示す。バラツキ(σ)の値が小さいほど、成形性に優れることを意味する。
【0312】
【表1】
【0313】
表1の「成形型」の欄において、「-」は、成形型を使用していないことを意味する。
【0314】
表1より、正極層の質量分布、及び負極層の質量分布に関して、実施例1~2は、比較例1に比べて、バラツキが小さいことがわかった。この結果は、実施例1~2の成形性が、比較例1に比べて、優れることを示している。
【0315】
2019年6月28日に出願された日本国特許出願2019-122367号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記載された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5