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特許7576225面状ヒータ、定着装置、画像形成装置、及び、面状ヒータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】面状ヒータ、定着装置、画像形成装置、及び、面状ヒータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20241024BHJP
   H05B 3/10 20060101ALI20241024BHJP
   H05B 3/02 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
G03G15/20 515
H05B3/10 A
H05B3/02 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021032600
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133736
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100117215
【弁理士】
【氏名又は名称】北島 有二
(72)【発明者】
【氏名】足立 知哉
(72)【発明者】
【氏名】古市 祐介
(72)【発明者】
【氏名】染矢 幸通
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-204067(JP,A)
【文献】特開2017-156635(JP,A)
【文献】特開2020-030274(JP,A)
【文献】特開2008-204719(JP,A)
【文献】特開2001-100616(JP,A)
【文献】特開2000-277241(JP,A)
【文献】国際公開第2019/068120(WO,A1)
【文献】特開平04-261571(JP,A)
【文献】特開2013-174652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0074442(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108530021(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 13/20
G03G 15/20
H05B 3/02- 3/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が絶縁性材料からなる基材と、
前記基材の表面に形成された抵抗体パターンと、
前記基材の表面に形成されて、前記抵抗体パターンに電気的に接続された導体パターンと、
前記導体パターンに電気的に接続された給電用電極と、
を備え、
前記基材の表面とは異なる材料にて、視認可能な識別情報を印字するための下地パターンを前記基材の表面に形成し、
前記給電用電極と前記下地パターンとは、同じ銀系材料で形成されて、互いに電気的に接続されていないことを特徴とする面状ヒータ。
【請求項2】
前記下地パターンは、白色又は白色に近い色にてスクリーン印刷されたものであって、
濃色インクにて前記識別情報が前記下地パターンに印刷されたことを特徴とする請求項1に記載の面状ヒータ。
【請求項3】
前記給電用電極と前記下地パターンとは、いずれも幅方向一端側に配置されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の面状ヒータ。
【請求項4】
前記識別情報が印刷された前記下地パターンを覆うカバー部材が設置されたことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の面状ヒータ。
【請求項5】
前記基材は、絶縁性材料で形成されたもの、又は、導電性材料で形成された基材主部の表面に絶縁層が形成されたものであることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の面状ヒータ。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか記載の面状ヒータと、
前記面状ヒータによって加熱されて、トナー像を加熱してシートの表面に定着する定着ベルトと、
前記定着ベルトを介して前記面状ヒータに圧接することでシートが搬送されるニップ部を形成する加圧回転体と、
を備えたことを特徴とする定着装置。
【請求項7】
前記面状ヒータを保持する保持部材と、
前記保持部材の幅方向両端部をそれぞれ保持するとともに、前記定着ベルトの幅方向両端部を一対のフランジ部材を介してそれぞれ保持する筐体と、
を備え、
前記面状ヒータは、前記下地パターンが前記筐体に対して幅方向外側に位置するように設置されたことを特徴とする請求項6に記載の定着装置。
【請求項8】
面状ヒータと、
前記面状ヒータによって加熱されて、トナー像を加熱してシートの表面に定着する定着ベルトと、
前記定着ベルトを介して前記面状ヒータに圧接することでシートが搬送されるニップ部を形成する加圧回転体と、
前記面状ヒータを保持する保持部材と、
前記保持部材の幅方向両端部をそれぞれ保持するとともに、前記定着ベルトの幅方向両端部を一対のフランジ部材を介してそれぞれ保持する筐体と、
を備え、
前記面状ヒータは、
少なくとも表面が絶縁性材料からなる基材と、
前記基材の表面に形成された抵抗体パターンと、
前記基材の表面に形成されて、前記抵抗体パターンに電気的に接続された導体パターンと、
前記導体パターンに電気的に接続された給電用電極と、
を具備するとともに、前記基材の表面とは異なる材料にて、視認可能な識別情報を印字するための下地パターンを前記基材の表面に形成し、
前記面状ヒータは、前記下地パターンが前記筐体に対して幅方向外側に位置するように設置されたことを特徴とする定着装置。
【請求項9】
前記幅方向外側の位置は、当該定着装置が前記筐体に組み立てられた状態で視認可能な位置であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の定着装置。
【請求項10】
請求項6~請求項9のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
面状ヒータの製造方法であって、
少なくとも表面が絶縁性材料からなる基材の表面に、抵抗体パターンと、前記抵抗体パターンに電気的に接続される導体パターンと、を形成する工程と、
前記導体パターンに電気的に接続される給電用電極を形成するとともに、前記基材の表面とは異なる材料にて視認可能な識別情報を印字するための下地パターンを前記基材の表面に形成する工程と、
を備えたことを特徴とする面状ヒータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、抵抗体パターンを有する面状ヒータと、それを備えた定着装置と、それを備えた複写機、プリンタ、ファクシミリ、又は、それらの複合機等の画像形成装置と、面状ヒータの製造方法と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、プリンタ等の画像形成装置における定着装置おいて、
定着ベルトを加熱する加熱手段として面状ヒータ(発熱抵抗体体)を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
詳しくは、特許文献1の定着装置は、定着ベルト(定着スリーブ)、加圧ローラ(加圧回転体)、定着ベルトを介して加圧ローラに圧接する面状ヒータ(抵抗発熱体)、などで形成されている。
そして、駆動手段によって加圧ローラが回転駆動されて、ニップ部における加圧ローラとの摩擦抵抗によって、定着ベルトも加圧ローラの回転にともない従動回転(連れ回り)することになる。
そして、面状ヒータによって定着ベルトが加熱されて、ニップ部に向けて搬送されるシート上のトナー像が、ニップ部にて熱と圧力とを受けてシート上に定着されることになる。
【0004】
一方、特許文献1には、定着スリーブ(定着ベルト)の弾性層表面に、レーザーマーキング処理によってロット番号等のマーキングを施す技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術は、面状ヒータの製造ロットや抵抗特性などを識別するための識別情報を視認しにくかった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、識別情報を視認しやすい、面状ヒータ、定着装置、画像形成装置、及び、面状ヒータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明における面状ヒータは、少なくとも表面が絶縁性材料からなる基材と、前記基材の表面に形成された抵抗体パターンと、前記基材の表面に形成されて、前記抵抗体パターンに電気的に接続された導体パターンと、前記導体パターンに電気的に接続された給電用電極と、を備え、前記基材の表面とは異なる材料にて、視認可能な識別情報を印字するための下地パターンを前記基材の表面に形成し、前記給電用電極と前記下地パターンとは、同じ銀系材料で形成されて、互いに電気的に接続されていないものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、識別情報を視認しやすい、面状ヒータ、定着装置、画像形成装置、及び、面状ヒータの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】この発明の実施の形態における画像形成装置を示す全体構成図である。
図2】定着装置を示す構成図である。
図3】定着装置を幅方向にみた上面図である。
図4】定着ベルトとガイド部材とを幅方向に示す概略図である。
図5】面状ヒータを示す図である。
図6】面状ヒータが製造される工程を示す図である。
図7】定着装置に設置された状態の面状ヒータを示す図である。
図8】変形例としての、面状ヒータが製造される工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0011】
まず、図1にて、画像形成装置1における全体の構成・動作について説明する。
図1に示すように、本実施の形態における画像形成装置1は、タンデム型カラープリンタである。画像形成装置本体1の上方にあるボトル収容部101には、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した4つのトナーボトル102Y、102M、102C、102Kが着脱可能(交換可能)に設置されている。
ボトル収容部101の下方には中間転写ユニット85が配設されている。その中間転写ユニット85の中間転写ベルト78に対向するように、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した作像部4Y、4M、4C、4Kが並設されている。
【0012】
各作像部4Y、4M、4C、4Kには、それぞれ、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kが配設されている。また、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの周囲には、それぞれ、帯電部75、現像部76、クリーニング部77、除電部、等が配設されている。そして、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面で、作像プロセス(帯電工程、露光工程、現像工程、転写工程、クリーニング工程)がおこなわれて、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面に各色の画像が形成されることになる。
【0013】
感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kは、モータによって図1の時計方向に回転駆動される。そして、帯電部75の位置で、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面が一様に帯電される(帯電工程である。)。
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、露光部3から発せられたレーザ光Lの照射位置に達して、この位置での露光走査によって各色に対応した静電潜像が形成される(露光工程である。)。
【0014】
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、現像部76との対向位置に達して、この位置で静電潜像が現像されて、各色のトナー像が形成される(現像工程である。)。
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、中間転写ベルト78及び第1転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kとの対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上のトナー像が中間転写ベルト78上に転写される(1次転写工程である。)。このとき、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面には、僅かながら未転写トナーが残存する。
【0015】
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、クリーニング部77との対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上に残存した未転写トナーがクリーニング部77のクリーニングブレードによって機械的に回収される(クリーニング工程である。)。
最後に、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、除電部との対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上の残留電位が除去される。
こうして、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上でおこなわれる、一連の作像プロセスが終了する。
【0016】
その後、現像工程を経て各感光体ドラム上に形成した各色のトナー像を、中間転写ベルト78の表面に重ねて転写する。こうして、中間転写ベルト78上にカラー画像が形成される。
ここで、中間転写ユニット85は、中間転写ベルト78、4つの1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79K、2次転写バックアップローラ82、クリーニングバックアップローラ83、テンションローラ84、中間転写クリーニング部80、等で構成される。中間転写ベルト78は、3つのローラ82~84によって張架・支持されるとともに、1つのローラ82の回転駆動によって図1中の矢印方向に無端移動される。
【0017】
4つの1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kは、それぞれ、中間転写ベルト78を感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kとの間に挟み込んで1次転写ニップを形成している。そして、1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kに、トナーの極性とは逆の転写バイアスが印加される。
そして、中間転写ベルト78は、矢印方向に走行して、各1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kの1次転写ニップを順次通過する。こうして、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上の各色のトナー像が、中間転写ベルト78上に重ねて1次転写される。
【0018】
その後、各色のトナー像が重ねて転写された中間転写ベルト78は、2次転写ローラ89との対向位置に達する。この位置では、2次転写バックアップローラ82が、2次転写ローラ89との間に中間転写ベルト78を挟み込んで2次転写ニップを形成している。そして、中間転写ベルト78上に形成された4色のトナー像は、この2次転写ニップの位置に搬送されたシートP上に転写される。このとき、中間転写ベルト78には、シートPに転写されなかった未転写トナーが残存する。
その後、中間転写ベルト78は、中間転写クリーニング部80の位置に達する。そして、この位置で、中間転写ベルト78上の未転写トナーが回収される。
こうして、中間転写ベルト78上でおこなわれる、一連の転写プロセスが終了する。
【0019】
ここで、2次転写ニップの位置に搬送されるシートPは、装置本体1の下方に配設された給紙部12から、給紙ローラ97やレジストローラ対98(タイミングローラ対)等を経由して搬送されるものである。
詳しくは、給紙部12には、用紙等のシートPが複数枚重ねて収納されている。そして、給紙ローラ97が図1の反時計方向に回転駆動されると、一番上のシートPがレジストローラ対98のローラ間に向けて給送される。
【0020】
レジストローラ対98に搬送されたシートPは、回転駆動を停止したレジストローラ対98のローラニップの位置で一旦停止する。そして、中間転写ベルト78上のカラー画像にタイミングを合わせて、レジストローラ対98が回転駆動されて、シートPが2次転写ニップに向けて搬送される。こうして、シートP上に、所望のカラー画像が転写される。
【0021】
その後、2次転写ニップの位置でカラー画像が転写されたシートPは、定着装置20の位置に搬送される。そして、この位置で、定着ベルト21及び加圧ローラ31による熱と圧力とにより、表面に転写されたカラー画像がシートP上に定着される(定着工程である)。
その後、シートPは、排紙ローラ対99のローラ間を経て、装置外へと排出される。排紙ローラ対99によって装置外に排出されたシートPは、出力画像として、スタック部100上に順次スタックされる。
こうして、画像形成装置における、一連の画像形成プロセスが完了する。
【0022】
次に、図2図4等を用いて、画像形成装置本体1に設置される、定着装置20の構成・動作について詳述する。
定着装置20は、シートP(未定着状態のトナーが担持されたシートである。)を加熱しながら搬送する装置である。
図2図4等を参照して、定着装置20は、定着回転体としての定着ベルト21、補強部材30、加熱手段(加熱体)としての面状ヒータ24、加圧回転体としての加圧ローラ31、温度検知センサ40(温度検知手段)、等で構成される。
なお、定着装置20は、画像形成装置本体1の開閉カバー110(図1参照)をヒンジ110aを中心に開閉させて、画像形成装置本体1に対して着脱することができる。
【0023】
ここで、定着ベルト21は、加圧ローラ31に外接して、加圧ローラ31の回転にともない従動回転する無端状のベルト部材である。定着ベルト21は、薄肉で可撓性を有する無端状ベルトであって、図2の矢印方向(反時計方向)に回転(従動回転)する。定着ベルト21は、内周面(面状ヒータ24との摺接面である。)側から、基材層、弾性層、離型層が順次積層されていて、その全体の厚さが1mm以下に設定されている。
定着ベルト21の基材層は、層厚が30~50μmであって、ニッケル、ステンレス等の金属材料やポリイミド等の樹脂材料で形成されている。
定着ベルト21の弾性層は、層厚が100~300μmであって、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム、フッ素ゴム、等のゴム材料で形成されている。弾性層を設けることで、ニップ部における定着ベルト21表面の微小な凹凸が形成されなくなり、シートP上のトナー像Tに均一に熱が伝わりユズ肌画像の発生が抑止される。
定着ベルト21の離型層は、層厚が5~50μmであって、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、PES(ポリエーテルサルフォン)、等の材料で形成されている。離型層を設けることで、トナーT(トナー像)に対する離型性(剥離性)が担保される。
【0024】
定着ベルト21の内側(内周面側)には、面状ヒータ24、保持部材23、補強部材30、等が設置されている。
ここで、面状ヒータ24は、定着ベルト21の内側(内周面側)において定着ベルト21を介して加圧ローラ31に圧接して、シートPが搬送されるニップ部(定着ニップ)を形成している。すなわち、面状ヒータ24は、定着ベルト21の内周面に摺接するように設置されている。そして、面状ヒータ24が定着ベルト21を介して加圧ローラ31に圧接することで、シートPが搬送されるニップ部が形成される。このように、面状ヒータ24は、ニップ部(定着ニップ)を形成する部材(ニップ部形成部材)として機能することになる。なお、面状ヒータ24には、定着ベルト21との摺動抵抗を減ずるために、その表面に、PTFE等の低摩擦材料からなるシート状部材を覆設したり表面層を設けたりすることができる。
さらに、面状ヒータ24は、定着ベルト21の内周面に摺接する部分に、抵抗体パターン26(図5等参照)が形成されている。そして、不図示の電源部から抵抗体パターン26(発熱抵抗体)に電力が供給されて、抵抗体パターン26がその抵抗によって発熱することで定着ベルト21が加熱されることになる。このように、面状ヒータ24は、定着ベルト21を加熱する加熱手段(加熱体)としても機能することになる。
【0025】
本実施の形態において、面状ヒータ24は、保持部材23(ホルダ)に保持されている。そして、図3に示すように、面状ヒータ24を保持した保持部材23は、その幅方向(図2の紙面垂直方向であって、図3の左右方向である。)の両端部が定着装置20の筐体43に保持されている。
なお、面状ヒータ24については、後で図5図7等を用いてさらに詳しく説明する。
【0026】
このように、定着ベルト21は、その内部に設置された面状ヒータ24(抵抗体パターン26)により直接的に加熱される。そして、加熱された定着ベルト21の表面からシートP上のトナー像Tに熱が加えられる。
なお、面状ヒータ24の出力制御は、定着ベルト21表面に対向するサーモパイル、サーミスタ等の温度検知センサ40(温度検知手段)によるベルト表面温度の検知結果に基いておこなわれる。また、このような面状ヒータ24の出力制御によって、定着ベルト21の温度(定着温度)を所望の温度に設定することができる。
【0027】
図4を参照して、一対のフランジ部材42(ガイド部材)は、定着ベルト21の略筒状の姿勢が保持されるように定着ベルト21の幅方向両端部を内周面側からそれぞれガイドするものである。
詳しくは、2つのフランジ部材42は、耐熱性樹脂材料等で形成されていて、定着装置20の筐体43の幅方向両端部にそれぞれ嵌め込まれている。フランジ部材42には、定着ベルト21の略円筒の姿勢を維持しながら定着ベルト21を保持するためのガイド部29aや、定着ベルト21の幅方向の移動(ベルト寄り)を規制するためのストッパ部、等が設けられている。
また、本実施の形態では、図3に示すように、定着ベルト21(及び、面状ヒータ24、保持部材23)がフランジ部材42を介して圧縮スプリング52(付勢部材)の付勢力によって、加圧ローラ31に圧接するように構成されている。
なお、フランジ部材42は、面状ヒータ24によるニップ部の形成を妨げないように、ニップ部を除く周方向の範囲であって、幅方向両端に配置されている。
このように、本実施の形態において、定着ベルト21の内周面に接触する部材は、幅方向両端でルーズに接触するフランジ部材42と、面状ヒータ24と、のみであって、それ以外に内周面に接触して定着ベルト21の回転をガイドするような部材(ベルトガイド)は存在しない。
【0028】
ここで、本実施の形態では、面状ヒータ24(及び、保持部材23)及び定着ベルト21を介して加圧ローラ31に当接するように、補強部材30が定着ベルト21の内側に設置されている。補強部材30は、ニップ部を形成する面状ヒータ24(及び、保持部材23)の強度を補強するものであって、ネジ締結などにより筐体43に設置されている。
そして、補強部材30が面状ヒータ24(及び、保持部材23)及び定着ベルト21を介して加圧ローラ31に当接することで、ニップ部において面状ヒータ24(及び、保持部材23)が加圧ローラ31の加圧力を受けて大きく変形する不具合を抑止している。この補強部材30は、上述した機能を満足するために、ステンレスや鉄等の機械的強度が高い金属材料で形成することが好ましい。
【0029】
なお、保持部材23を形成する材料としては、樹脂材料や金属材料を用いることができるが、加圧ローラ31による加圧力を受けても大きく撓むことがない程度の剛性があり、熱性と断熱性とを有する樹脂材料(液晶ポリマー(LCP)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等である。)が好適である。本実施の形態では、保持部材23の材料として、液晶ポリマー(LCP)を用いている。
【0030】
図2を参照して、加圧回転体としての加圧ローラ31は、芯金32(軸部)上に弾性層33が設けられたものであって、不図示の駆動モータによって所定方向(図2の時計方向である。)に回転駆動されるものである。
加圧ローラ31の芯金32は、金属材料で形成された中空構造体である。加圧ローラ31の弾性層33は、発泡性シリコーンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の材料で形成されている。なお、弾性層33の表層にPFA、PTFE等からなる薄肉の離型層を設けることもできる。加圧ローラ31は定着ベルト21に圧接して、双方の部材間に所望のニップ部を形成する。また、図3を参照して、加圧ローラ31には駆動モータ(不図示)の駆動ギアに噛合するギア45が設置されていて、加圧ローラ31は図2中の矢印方向(時計方向)に回転駆動される。また、加圧ローラ31は、その幅方向両端部が定着装置20の筐体43に軸受を介して回転可能に支持されている。
【0031】
以下、上述のように構成された定着装置20の通常時の動作について簡単に説明する。
装置本体1の電源スイッチが投入されると、面状ヒータ24に電力が供給されるとともに、加圧ローラ31の図2中の矢印方向の回転駆動が開始される。これにより、ニップ部における加圧ローラ31との摩擦力によって、定着ベルト21も図2中の矢印方向に従動回転(連れ回り)する。
その後、給紙部12からシートPが給送されて、2次転写ローラ89の位置で、シートP上に未定着のカラー画像が担持(転写)される。未定着画像T(トナー像)が担持されたシートPは、ガイド板に案内されながら図2の矢印Y10方向に搬送されて、圧接状態にある定着ベルト21及び加圧ローラ31のニップ部に送入される。
そして、面状ヒータ24によって加熱された定着ベルト21による加熱と、補強部材30によって補強された面状ヒータ24(及び、保持部材23)と加圧ローラ31との押圧力とによって、シートPの表面にトナー像Tが定着される。その後、ニップ部から送出されたシートPは、矢印Y11方向に搬送される。
【0032】
以下、本実施の形態における面状ヒータ24(定着装置20)において、特徴的な構成・動作について、詳しく説明する。
本実施の形態における面状ヒータ24は、基材25(ベース部)、抵抗体パターン26(発熱抵抗体)、導体パターン27(中継部)、給電用電極28(端子部)、下地パターン29(識別情報印刷部)、などで形成されている。
【0033】
基材25は、少なくとも表面(ニップ部において定着ベルト21の内周面に対向する側の表面である。)が絶縁性材料からなるものである。本実施の形態では、基材25として、その全部が、絶縁性材料(本実施の形態では、窒化アルミニウム(AIN)である。)で形成されたものを用いている。窒化アルミニウムは、濃色系の材料であり、そのまま識別情報を視認性良く印刷するのには適さない材料である。
【0034】
抵抗体パターン26は、基材25の表面に形成されている。同様に、導体パターン27も、基材25の表面に形成されている。
抵抗体パターン26は、そこに電流が流れることで(通電されることで)、その抵抗によって発熱する発熱抵抗体として機能するものである。抵抗体パターン26は、所望の抵抗値に調合されたペーストをスクリーン印刷などによって基材25の表面に塗工後に焼成してパターン化したものである。
導電パターン27は、抵抗体パターン26(及び、給電用電極28)に電気的に接続されたものであって、給電用電極28から入力された電流を抵抗体パターン26に流す中継部として機能するものである。導体パターン27は、導電性の高い材料からなるペーストをスクリーン印刷などによって基材25の表面に塗工後に焼成してパターン化したものである。
【0035】
給電用電極28は、導体パターン27に電気的に接続されていて、外部端子56(図7参照)に接続可能に形成されている。したがって、面状ヒータ24の表面の全域に絶縁性や低摩擦性を有する表面層が形成されるような場合であっても、給電用電極28だけは、その表面層から給電可能に露呈することになる。
給電用電極28は、通電による発熱を軽減するために、銀(Ag)、銀パラジウム(AgPd)などの銀系材料で形成されている。本実施の形態において、給電用電極28は、スクリーン印刷によって基材25の表面に印刷した後に焼成して形成したものである。
【0036】
下地パターン29は、基材25の表面とは異なる材料(本実施の形態では、窒化アルミニウム以外の材料であって、給電用電極28と同じ銀系材料である。)で形成されている。
この下地パターン29は、視認可能な識別情報M(図5図7参照)を印字するためのものであって、基材25の表面に形成されている。具体的に、本実施の形態において、下地パターン29は、白色又は白色に近い色にてスクリーン印刷によって基材25の表面に印刷した後に焼成して形成したものである。
ここで、下地パターン29に印刷される識別情報Mは、製造された面状ヒータ24の特性などを特定(識別)するための情報である。
面状ヒータ24は、印刷のバラツキなどによって抵抗体パターン26の抵抗値がバラツキやすいため、その製造時に全数の総抵抗値や部分抵抗値を測定してロット管理や固体管理する必要がある。
また、面状ヒータ24が設置される定着装置20(画像形成装置1)は、その仕向地(国)の使用電圧に対応するため、使用電圧ごとに種類の異なるものを使用している。
したがって、面状ヒータ24は、それ自体がどの使用電圧に対応したものか、どのロットで製造されたものか、抵抗値がどの程度のものなのか、などを紐づけして管理するために、それらを識別可能な識別情報Mを面状ヒータ24に視認性良くマーキングする必要がある。
【0037】
これに対して、本実施の形態では、濃色系の材料からなる基材25上に白色系の下地パターン29を形成して、その白色系の下地パターン29上に黒色などの濃色インクにて識別情報Mを印刷している。
そのため、面状ヒータ24の製造ロットや抵抗特性などを識別するための識別情報Mが視認しやすくなる。したがって、面状ヒータ24自体の製造工程や、定着装置20に面状ヒータ24を組み付ける組付け工程などにおいて、人による検査はもちろんのこと、カメラなどの自動検査装置による検査もミスなく容易になり、面状ヒータ24や定着装置20の品質が良好に安定することになる。
なお、識別情報Mは、面状ヒータ24が製造された後に、抵抗値特性などを検査した後に、その検査結果に基づいてインクジェットプリンタなどで印刷するこが可能なものである。
【0038】
特に、図3を参照して、面状ヒータ24を定着装置20(又は、定着ベルト21などとモジュール化されたサブユニット)に組付けた後であっても、面状ヒータ24の識別情報Mを視認しやすくなる。これにより、面状ヒータ24が組み立てられた定着装置20(又はサブユニット)の検査工程において、識別情報Mをカメラなどで自動認識して、その認識結果を定着装置20(又はサブユニット)に搭載された記憶装置やディップスイッチなどを用いて記憶させるようなことも可能になる。
【0039】
ここで、本実施の形態において、面状ヒータ24は、給電用電極28と下地パターン29とが、同じ銀系材料で形成されている。そのため、基材25上に、給電用電極28と下地パターン29とを同時に形成することが可能になり、スクリーン印刷に必要なスクリーンマスクが減少されたり、印刷や焼成にかかる工程が短縮されたりして、製造時間やコストが低減されることになる。
また、面状ヒータ24は、給電用電極28と下地パターン29とが、互いに電気的に接続されていない。そのため、給電用電極28を介して抵抗体パターン26に供給されるべき電流が下地パターン29に無駄に流れてしまうような不具合も生じない。
【0040】
ここで、本実施の形態における面状ヒータ24は、図5に示すように、給電用電極28と下地パターン29とが、いずれも幅方向一端側(長手方向一端側であって、図5の下方であって、図3の左方である。)に配置されている。
これは、図3を参照して、面状ヒータ24を定着装置20に装着した状態で、外部から外部端子56(図7参照)を給電用電極28に接続する作業と、下地パターン29に印刷された識別情報Mを視認する作業と、につながりをもたせるためである。すなわち、給電用電極28と下地パターン29とが同じ側に形成されていることで、作業者は、識別情報Mを確認しながら、部端子56(図7参照)を給電用電極28に接続する作業をおこなうことが可能になる。
【0041】
ここで、先に図3等を用いて説明したように、本実施の形態における定着装置20は、面状ヒータ24を保持する保持部材23の幅方向両端部をそれぞれ保持するとともに、定着ベルト21の幅方向両端部を一対のフランジ部材42を介してそれぞれ保持する筐体43が設けられている。
そして、図3に示すように、本実施の形態において、面状ヒータ24は、下地パターン29(及び、給電用電極28)が筐体43に対して幅方向外側に位置するように設置されている。この「幅方向外側の位置」は、定着装置20が筐体43に組み立てられた状態で視認可能な位置である。
これにより、外部から下地パターン29に印刷された識別情報Mを視認しやすくなるとともに、外部から外部端子56(図7参照)を給電用電極28に接続する作業がしやすくなる。
なお、本実施の形態では、図3に示すように、下地パターン29や給電用電極28が非駆動側(ギア45が設けられていない側である。)に配置されている。これにより、駆動側に配置される部材によって、識別情報Mが視認しにくくなったり、給電用のハーネス57(図7参照)がギアに巻き込まれたりする不具合が抑止される。
【0042】
ここで、図7を参照して、本実施の形態における面状ヒータ24には、識別情報Mが印刷された下地パターン29や給電用電極28を覆うカバー部材55が設置されている。
先に説明したように下地パターン29や給電用電極28は銀系材料で形成されていて、腐食しやすい。したがって、腐食による識別情報Mの視認性の低下や、腐食による給電不良を防止するために、PPSやPAIなどの耐熱性樹脂材料からなるカバー部材55で、下地パターン29(識別情報M)や給電用電極28を覆っている。
なお、面状ヒータ24は、LCPなどからなる保持部材23に保持されてユニット化された状態で定着装置20に組付けられ、給電用電極28に外部端子56が接続される。そして、画像形成装置本体1に設置された電源から、ハーネス57(ACハーネス)、外部端子56を介して、給電用電極28(面状ヒータ24)に通電されることになる。
【0043】
このように、本実施の形態における面状ヒータ24は、次のような製造方法によって製造されることになる。
(1)少なくとも表面が絶縁性材料からなる基材25の表面に、抵抗体パターン26と、抵抗体パターン26に電気的に接続される導体パターン27と、を形成する工程(図6(A)参照)
(2)導体パターン27に電気的に接続される給電用電極28を形成するとともに、基材25の表面とは異なる材料にて視認可能な識別情報Mを印字するための下地パターン29を基材25の表面に形成する工程(図6(B)参照)
なお、これらの工程がおこなわれた後に、給電用電極28にマスキングなどを施して給電用電極28が露呈するように、それ以外の表面に絶縁層や低摩擦層などを形成する工程を実施することもできる。
【0044】
<変形例>
図8に示すように、変形例における面状ヒータ24は、基材25が、ステンレスなどの導電性材料で形成された基材主部25aの表面に、ガラスなどからなる絶縁層25bが形成されたものとなっている。
ステンレスは焼成することで濃色系の色となるため、透明のガラスからなる絶縁層25bの表面に、識別情報Mを濃色系のインクで直接的に印刷しても、識別情報Mの視認性が悪くなってしまう。
これに対して、変形例では、本実施の形態のものと同様に、基材25(絶縁層25b)の表面に白色系の下地パターン29を形成して、その白色系の下地パターン29上に黒色などの濃色インクにて識別情報Mを印刷している。
そのため、面状ヒータ24の製造ロットや抵抗特性などを識別するための識別情報Mが視認しやすくなる。
【0045】
以上説明したように、本実施の形態における面状ヒータ24は、少なくとも表面が絶縁性材料からなる基材25と、基材25の表面に形成された抵抗体パターン26と、基材25の表面に形成されて抵抗体パターン26に電気的に接続された導体パターン27と、導体パターン27に電気的に接続された給電用電極28と、が設けられている。そして、基材25の表面とは異なる材料にて、視認可能な識別情報Mを印字するための下地パターン29を基材25の表面に形成している。
これにより、面状ヒータ24における識別情報Mが視認しやすくなる。
【0046】
なお、本実施の形態において、定着装置20における面状ヒータ24や定着ベルト21のメンテナンス性を向上させるために、面状ヒータ24や定着ベルト21やフランジ部材42、圧縮スプリング52、筐体43の一部、などをサブユニット化して、定着装置20に対して着脱可能に構成することもできる。
また、本実施の形態では、下地パターン29と給電用電極28とをどちらも幅方向一端側に配置したが、下地パターン29を幅方向一端側に設けて、給電用電極28を幅方向他端側に設けることもできる。そのような場合には、下地パターン29と給電用電極28との絶縁性を確保しやすくなる。
また、本実施の形態では、定着装置20に設置される面状ヒータ24について本発明を適用したが、面状ヒータ24が設置される装置はこれに限定されることはない。
そして、このような場合にも、本実施の形態のものと同様の効果を得ることができる。
【0047】
なお、本発明が本実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、本実施の形態の中で示唆した以外にも、本実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、前記構成部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。
【0048】
なお、本願明細書等において、「幅方向」とは、シートの搬送方向に対して直交する方向であって、定着ベルトや加圧ローラの回転軸方向と同じ方向であるものと定義する。
【符号の説明】
【0049】
1 画像形成装置(画像形成装置本体)、
20 定着装置、
21 定着ベルト(定着回転体)、
23 保持部材(ホルダ)、
24 面状ヒータ(加熱体)、
25 基材、
25a 基材主部、 25b 絶縁層、
26 抵抗体パターン、
27 導体パターン、
28 給電用電極、
29 下地パターン、
31 加圧ローラ(加圧回転体)、
42 フランジ部材、
43 筐体、
55 カバー部材、
M 識別情報、
P シート(記録媒体)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0050】
【文献】特開2005-338350号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8