(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】銅張積層板、樹脂付銅箔、および、それらを用いた回路基板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20241101BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20241101BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241101BHJP
C08F 299/00 20060101ALI20241101BHJP
C08F 299/02 20060101ALI20241101BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20241101BHJP
C25D 3/56 20060101ALI20241101BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
B32B15/08 U
B32B15/20
B32B27/00 103
C08F299/00
C08F299/02
C23C28/00 B
C23C28/00 D
C25D3/56 101
H05K1/03 610H
(21)【出願番号】P 2021519493
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2020019351
(87)【国際公開番号】W WO2020230870
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019092354
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】北井 佑季
(72)【発明者】
【氏名】幸田 征士
(72)【発明者】
【氏名】星野 泰範
(72)【発明者】
【氏名】和田 淳志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幹男
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181842(WO,A1)
【文献】特開2018-039995(JP,A)
【文献】特開2006-210689(JP,A)
【文献】特開2018-062568(JP,A)
【文献】国際公開第2000/044805(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08F 299/00ー299/08
C08L 1/00-101/14
H05K 1/03,1/09,
3/10-3/26,
3/38
C23C 26/00- 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層の片面又は両面に表面処理銅箔とを備える銅張積層板であって、
前記樹脂組成物が、分子中に下記式(1)で表される構造単位を有する重合体を含むこと、
【化1】
(式(1)中、Zは、アリーレン基を示し、R
1~R
3は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、R
4~R
6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。)
並びに、
前記表面処理銅箔が、
銅箔と、銅の微細粗化粒子処理層と、ニッケルを含む耐熱処理層と、少なくともクロムを含む防錆処理層と、シランカップリング剤処理層とを備え、
前記銅箔の少なくとも一方の面側に銅の微細粗化粒子処理層を有
し、
前記微細粗化粒子処理層が粒子径40~200nmの微細銅粒子で構成されており、
前記微細粗化粒子処理層上に
前記耐熱処理層を有し、
前記耐熱処理層上に
前記防錆処理層を有し、
前記防錆処理層上に
前記シランカップリング剤処理層を有し、かつ、
前記耐熱処理層中のニッケル付着量が30~60mg/m
2であることを特徴とする、
銅張積層板。
【請求項2】
前記式(1)で表される構造単位が、下記式(2)で表される構造単位を含む、請求項1に記載の銅張積層板。
【化2】
(式(2)中、R
4~R
6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し、R
7は、炭素数6~12のアリーレン基を示す。)
【請求項3】
前記式(2)で表される構造単位が、下記式(3)で表される構造単位を含む、請求項2に記載の銅張積層板。
【化3】
(式(3)中、R
4~R
6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【請求項4】
前記重合体が、下記式(4)で表される構造単位を分子中にさらに有する重合体を含む、請求項1~3のいずれかに記載の銅張積層板。
【化4】
(式(4)中、R
8~R
10は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し、R
11は、アリール基を示す。)
【請求項5】
前記式(4)で表される構造単位におけるアリール基が、炭素数1~6のアルキル基を有するアリール基を含む、請求項4に記載の銅張積層板。
【請求項6】
前記重合体の重量平均分子量が、1500~40000である、請求項1~5のいずれかに記載の銅張積層板。
【請求項7】
前記重合体の、前記式(1)で表され、R
1~R
3が水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量が、250~1200である、請求項1~6のいずれかに記載の銅張積層板。
【請求項8】
前記樹脂組成物が、さらに、下記式(5)または(6)で末端を変性された、変性ポリフェニレンエーテル化合物を含む、請求項1~7のいずれかに記載の銅張積層板。
【化5】
(式(5)中、sは0~10の整数を示す。また、Zはアリーレン基を示す。また、R
12~R
14は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示す)
【化6】
(式(6)中、R
15は、水素原子又はアルキル基を示す)
【請求項9】
樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、前記樹脂層の片面に表面処理銅箔とを備える樹脂付銅箔であって、
前記樹脂組成物が、分子中に下記式(1)で表される構造単位を有する重合体を含むこと、
【化7】
(式(1)中、Zは、アリーレン基を示し、R
1~R
3は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、R
4~R
6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。)
並びに、
前記表面処理銅箔が、
銅箔と、銅の微細粗化粒子処理層と、ニッケルを含む耐熱処理層と、少なくともクロムを含む防錆処理層と、シランカップリング剤処理層とを備え、
前記銅箔の少なくとも一方の面側に銅の微細粗化粒子処理層を有
し、
前記微細粗化粒子処理層が粒子径40~200nmの微細銅粒子で構成されており、
前記微細粗化粒子処理層上に
前記耐熱処理層を有し、
前記耐熱処理層上に
前記防錆処理層を有し、
前記防錆処理層上に
前記シランカップリング剤処理層を有し、かつ、
前記耐熱処理層中のニッケル付着量が30~60mg/m
2であることを特徴とする、
樹脂付銅箔。
【請求項10】
請求項1~
8のいずれかに記載の銅張積層板または請求項
9に記載の樹脂付銅箔
を用いた回路基板であって、表面に回路としての導体パターンを有する、回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板、樹脂付銅箔、および、それらを用いた回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波対応の高速信号伝送基板には、導体として各種の金属箔、特に銅箔が使用されているが、将来的には、現在よりもさらに高い周波数の信号を使用する5GやWiGig(Wireless Gigabit)等に対応する必要がある。そのため、基板の伝送損失をより低減することが求められている。
【0003】
このような問題において、伝送損失を低減するためには、基板を構成する樹脂基材と銅箔を改良する必要がある。つまり、樹脂基材の誘電体に起因する伝送損失を小さくし、さらに銅箔の導体損失を小さくすることが必要となっている。
【0004】
このうち銅箔側の改良については、従来、表面粗さを小さくする等によって導体損失の低減を図ってきた。しかし、表面粗さを小さくすると、基板に用いられる銅箔の基本特性として必須である樹脂との密着性や耐熱性が下がり、表面粗さを大きくすると伝送損失が大きくなるという問題があり、伝送特性と基本特性を両立させるのは難しいとされていた。これは、粗度を小さくすると樹脂との接着面積が減りアンカー効果による密着が得られにくくなって、その結果、ピール強度が低くなり耐熱も悪くなり、粗度を大きくすると銅箔表面を流れる電流の抵抗が大きくなり、伝送損失が大きくなるためと考えられる。
【0005】
その他にも、高周波信号伝送回路形成用表面処理銅箔としては、伝送特性に影響を及ぼす粗化処理層について、従来の金属銅ではなく不導体の銅複合化合物で構成することで電気が流れないようにして粗化処理による導電損失を低減することが報告されている(特許文献1)。
【0006】
また、プリント配線板用表面処理銅箔において、伝送特性に影響を及ぼすシランカップリング剤層の粗化粒子の平均高さを調節したり、ニッケルを含む金属処理層のニッケル元素量を調節したりすることも知られている(特許文献2)。
【0007】
一方、樹脂基材の側面からは、変性ポリフェニレンエーテル化合物を含む樹脂を用いることにより、低誘電特性を改善できることが報告されている(特許文献3)。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1記載の技術では、バリア処理やクロメート処理等を行わないため、特に耐熱性に劣るという問題がある。
【0009】
一方、上記特許文献2記載の技術では、バリア処理層として機能する金属処理層の処理量が少ないため、高い温度域(例えば、150℃以上)では耐熱性の確保が困難になるという問題がある。
【0010】
さらに、樹脂基材についてもより優れた伝送特性を得るために、より低い誘電正接を有する化合物を含む樹脂が模索されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第6110581号公報
【文献】特許第6182584号公報
【文献】特開2013-23517号公報
【発明の概要】
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、高速信号伝送基板の伝送損失を低減させることができ、かつ、密着性と耐熱性に優れる銅張積層板、樹脂付銅箔、並びにそれらを用いた信頼性の高い回路基板を提供することを目的とする。
【0013】
本発明の一態様に係る銅張積層板は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層の片面又は両面に表面処理銅箔とを備える銅張積層板であって、前記樹脂組成物が分子中に下記式(1)で表される構造単位を有する重合体を含むこと、
【化1】
(式(1)中、Zは、アリーレン基を示し、R
1~R
3は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、R
4~R
6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。)
並びに、前記表面処理銅箔が、銅箔の少なくとも一方の面側に銅の微細粗化粒子処理層を有する表面処理銅箔であって、前記微細粗化粒子処理層が粒子径40~200nmの微細銅粒子で構成されており、前記微細粗化粒子処理層上にニッケルを含む耐熱処理層を有し、前記耐熱処理層上に少なくともクロムを含む防錆処理層を有し、前記防錆処理層上にシランカップリング剤層を有し、かつ、前記耐熱処理層中のニッケル付着量が30~60mg/m
2であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の他の局面に係る樹脂付銅箔は、樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、前記樹脂層の片面に表面処理銅箔とを備える樹脂付銅箔であって、前記樹脂組成物が、分子中に上記式(1)で表される構造単位を有する重合体を含むこと、並びに、前記表面処理銅箔が、銅箔の少なくとも一方の面側に銅の微細粗化粒子処理層を有する表面処理銅箔であって、前記微細粗化粒子処理層が粒子径40~200nmの微細銅粒子で構成されており、前記微細粗化粒子処理層上にニッケルを含む耐熱処理層を有し、前記耐熱処理層上に少なくともクロムを含む防錆処理層を有し、前記防錆処理層上にシランカップリング剤層を有し、かつ、前記耐熱処理層中のニッケル付着量が30~60mg/m2であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る表面処理銅箔の構成を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る金属張積層板の構成を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る配線基板の構成を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る樹脂付き銅箔の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一態様に係る銅張積層板は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層の片面又は両面に表面処理銅箔とを備える銅張積層板である。また、本発明の別の態様に係る樹脂付銅箔は、樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、前記樹脂層の片面に表面処理銅箔とを備える樹脂付銅箔である。
【0017】
本発明によれば、高速信号伝送基板の伝送損失を低減させることができ、かつ、密着性と耐熱性に優れる銅張積層板、樹脂付銅箔、および、それらを用いた信頼性の高い回路基板を提供することができる。
【0018】
以下、本実施形態に係る銅張積層板および樹脂付銅箔の各構成について、具体的に説明する。なお、以下の説明において、各符号は:1 銅箔、2 微細粗化粒子処理層、3 耐熱処理層、4 防錆処理層、5 シランカップリング剤層、11 銅張積層板、12、32 絶縁層、13 表面処理銅箔、14 配線、21 配線基板、31 樹脂付き銅箔、を示す。
【0019】
<銅張積層板>
本実施形態の銅張積層板11は、
図2に示すように、以下に説明する樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、前記絶縁層12の片面又は両面に、以下に説明する銅箔(表面処理銅箔)13とを備えることを特徴とする。このような構成により、密着性や耐熱性を備えつつ、伝送損失が低減された、信頼性の高い銅張積層板を提供することができる。
【0020】
<絶縁層>
まず、本実施形態において、樹脂組成物の硬化物とは硬化反応が進行し、樹脂が架橋することにより、加熱しても溶融しない状態となったもののことをさす。また、樹脂組成物の半硬化物とは、樹脂組成物を、さらに硬化しうる程度に途中まで硬化された状態のものである。すなわち、半硬化物は、樹脂組成物を半硬化した状態の(Bステージ化された)ものである。例えば、樹脂組成物は、加熱すると、最初、粘度が徐々に低下し、その後、硬化が開始し、粘度が徐々に上昇する。このような場合、半硬化としては、粘度が上昇し始めてから、完全に硬化する前の間の状態等が挙げられる。
【0021】
本実施形態の銅張積層板が備える絶縁層は、下記で説明する樹脂組成物の硬化物を含む。さらに、絶縁層が後述するガラス基材を含んでいてもよい。絶縁層の厚みは、特に限定されないが、20~800μm程度である。
【0022】
本実施形態の絶縁層を構成する樹脂組成物は、分子中に下記式(1)で表される構造単位を有する重合体を含むことを特徴とする樹脂組成物である。
【0023】
【化2】
式(1)中、Zは、アリーレン基を示す。R
1~R
3は、それぞれ独立している。すなわち、R
1~R
3は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R
1~R
3は、水素原子又はアルキル基を示す。R
4~R
6は、それぞれ独立している。すなわち、R
4~R
6は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R
4~R
6は、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。
【0024】
本発明者等は、従来の樹脂組成物、例えば、特許文献1に記載の樹脂組成物と比較して、耐熱性及び低誘電特性により優れた樹脂組成物を提供するために種々検討した。具体的には、本発明者等は、前記重合体、すなわち、分子中に下記式(1)で表される構造単位を有する重合体に着目し、これを硬化して得られた硬化物は、耐熱性及び低誘電特性に優れることを見出した。
【0025】
以上のことから、前記樹脂組成物は、誘電特性が低く、かつ、耐熱性の高い硬化物が得られる樹脂組成物である。
【0026】
(重合体)
前記重合体は、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体であれば、特に限定されない。また、前記重合体は、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体であれば、前記式(1)で表される構造単位以外の構造単位を有していてもよい。また、前記重合体は、前記式(1)で表される構造単位が繰り返し結合した繰り返し単位を含んでもよいし、前記式(1)で表される構造単位が繰り返し結合した繰り返し単位と前記式(1)で表される構造単位以外の構造単位が繰り返し結合した繰り返し単位とが、ランダムに結合した重合体であってもよい。すなわち、前記式(1)で表される構造単位以外の構造単位を有する場合、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0027】
前記式(1)における前記アリーレン基は、特に限定されない。このアリーレン基としては、例えば、フェニレン基等の単環芳香族基や、芳香族が単環ではなく、ナフタレン環等の多環芳香族である多環芳香族基等が挙げられる。また、このアリーレン基には、芳香族環に結合する水素原子が、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換された誘導体も含む。
【0028】
前記式(1)においてR1~R3で示される前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0029】
前記式(1)においてR4~R6で示される前記炭素数1~6のアルキル基は、特に限定されず、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、及びヘキシル基等が挙げられる。
【0030】
前記重合体は、前記式(1)で表される構造単位として、炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に2つ結合した2官能芳香族化合物に由来の構造単位を有する芳香族重合体を含むことが好ましい。なお、前記2官能芳香族化合物に由来の構造単位は、前記2官能芳香族化合物を重合して得られる構造単位である。また、本明細書において、前記芳香族重合体は、ジビニル芳香族重合体とも称する。
【0031】
前記2官能芳香族化合物は、炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に2つ結合した2官能芳香族化合物であれば、特に限定されない。前記2官能芳香族化合物としては、例えば、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、1,2-ジイソプロペニルベンゼン、1,3-ジイソプロペニルベンゼン、1,4-ジイソプロペニルベンゼン、1,3-ジビニルナフタレン、1,8-ジビニルナフタレン、1,4-ジビニルナフタレン、1,5-ジビニルナフタレン、2,3-ジビニルナフタレン、2,7-ジビニルナフタレン、2,6-ジビニルナフタレン、4,4’-ジビニルビフェニル、4,3’-ジビニルビフェニル、4,2’-ジビニルビフェニル、3,2’-ジビニルビフェニル、3,3’-ジビニルビフェニル、2,2’-ジビニルビフェニル、2,4-ジビニルビフェニル、1,2-ジビニル-3,4-ジメチルベンゼン、1,3-ジビニル-4,5,8-トリブチルナフタレン、及び2,2’-ジビニル-4-エチル-4’-プロピルビフェニル等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記2官能芳香族化合物は、これらの中でも、m-ジビニルベンゼン及びp-ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼンが好ましく、p-ジビニルベンゼンがより好ましい。
【0032】
前記芳香族重合体は、前記2官能芳香族化合物に由来の構造単位を有するだけでなく、他の構造単位を有していてもよい。この他の構造単位としては、例えば、炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に1つ結合した単官能芳香族化合物に由来の構造単位、炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に3つ結合した3官能芳香族化合物に由来の構造単位、インデン類に由来の構造単位、及びアセナフチレン類に由来の構造単位等が挙げられる。なお、前記単官能芳香族化合物に由来の構造単位は、前記単官能芳香族化合物を重合して得られる構造単位である。前記3官能芳香族化合物に由来の構造単位は、前記3官能芳香族化合物を重合して得られる構造単位である。インデン類に由来の構造単位は、インデン類を重合して得られる構造単位である。また、アセナフチレン類に由来の構造単位は、アセナフチレン類を重合して得られる構造単位である。
【0033】
前記単官能芳香族化合物は、炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に1つ結合していればよく、芳香族環には、炭素-炭素不飽和二重結合以外の基が結合されていてもよい。前記単官能芳香族化合物としては、例えば、炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に1つ結合し、この炭素-炭素不飽和二重結合以外の基が結合されていない単官能芳香族化合物、及び、炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に1つ結合し、さらにエチル基等のアルキル基を芳香族環に結合した単官能芳香族化合物等が挙げられる。
【0034】
炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に1つ結合し、この炭素-炭素不飽和二重結合以外の基が結合されていない単官能芳香族化合物としては、例えば、スチレン、2-ビニルビフェニル、3-ビニルビフェニル、4-ビニルビフェニル、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、及びα-アルキル置換スチレン等が挙げられる。また、α-アルキル置換スチレンとしては、例えば、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン、α-プロピルスチレン、α-n-ブチルスチレン、α-イソブチルスチレン、α-t-ブチルスチレン、α-n-ペンチルスチレン、α-2-メチルブチルスチレン、α-3-メチルブチル-2-スチレン、α-t-ブチルスチレン、α-t-ブチルスチレン、α-n-ペンチルスチレン、α-2-メチルブチルスチレン、α-3-メチルブチルスチレン、α-t-ペンチルスチレン、α-n-ヘキシルスチレン、α-2-メチルペンチルスチレン、α-3-メチルペンチルスチレン、α-1-メチルペンチルスチレン、α-2,2-ジメチルブチルスチレン、α-2,3-ジメチルブチルスチレン、α-2,4-ジメチルブチルスチレン、α-3,3-ジメチルブチルスチレン、α-3,4-ジメチルブチルスチレン、α-4,4-ジメチルブチルスチレン、α-2-エチルブチルスチレン、α-1-エチルブチルスチレン、α-シクロヘキシルスチレン、及びα-シクロヘキシルスチレン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に1つ結合し、さらにアルキル基を芳香族環に結合した単官能芳香族化合物としては、例えば、核アルキル置換芳香族化合物及びアルコキシ置換スチレン等が挙げられる。
【0036】
前記核アルキル置換芳香族化合物としては、例えば、芳香族環に結合されるアルキル基がエチル基であるエチルビニル芳香族化合物、芳香族環としてのスチレンにアルキル基が結合した核アルキル置換スチレン、及び、前記エチルビニル芳香族化合物及び前記核アルキル置換スチレン以外の核アルキル置換芳香族化合物(他の核アルキル置換芳香族化合物)等が挙げられる。
【0037】
前記エチルビニル芳香族化合物としては、例えば、o-エチルビニルベンゼン、m-エチルビニルベンゼン、p-エチルビニルベンゼン、2-ビニル-2’-エチルビフェニル、2-ビニル-3’-エチルビフェニル、2-ビニル-4’-エチルビフェニル、3-ビニル-2’-エチルビフェニル、3-ビニル-3’-エチルビフェニル、3-ビニル-4’-エチルビフェニル、4-ビニル-2’-エチルビフェニル、4-ビニル-3’-エチルビフェニル、4-ビニル-4’-エチルビフェニル、1-ビニル-2-エチルナフタレン、1-ビニル-3-エチルナフタレン、1-ビニル-4-エチルナフタレン、1-ビニル-5-エチルナフタレン、1-ビニル-6-エチルナフタレン、1-ビニル-7-エチルナフタレン、1-ビニル-8-エチルナフタレン、2-ビニル-1-エチルナフタレン、2-ビニル-3-エチルナフタレン、2-ビニル-4-エチルナフタレン、2-ビニル-5-エチルナフタレン、2-ビニル-6-エチルナフタレン、2-ビニル-7-エチルナフタレン、及び2-ビニル-8-エチルナフタレン等が挙げられる。
【0038】
前記核アルキル置換スチレンとしては、例えば、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-プロピルスチレン、p-プロピルスチレン、m-n-ブチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、m-n-ヘキシルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、m-シクロヘキシルスチレン、及びp-シクロヘキシルスチレン等が挙げられる。
【0039】
前記他の核アルキル置換芳香族化合物としては、例えば、2-ビニル-2’-プロピルビフェニル、2-ビニル-3’-プロピルビフェニル、2-ビニル-4’-プロピルビフェニル、3-ビニル-2’-プロピルビフェニル、3-ビニル-3’-プロピルビフェニル、3-ビニル-4’-プロピルビフェニル、4-ビニル-2’-プロピルビフェニル、4-ビニル-3’-プロピルビフェニル、4-ビニル-4’-プロピルビフェニル、1-ビニル-2-プロピルナフタレン、1-ビニル-3-プロピルナフタレン、1-ビニル-4-プロピルナフタレン、1-ビニル-5-プロピルナフタレン、1-ビニル-6-プロピルナフタレン、1-ビニル-7-プロピルナフタレン、1-ビニル-8-プロピルナフタレン、2-ビニル-1-プロピルナフタレン、2-ビニル-3-プロピルナフタレン、2-ビニル-4-プロピルナフタレン、2-ビニル-5-プロピルナフタレン、2-ビニル-6-プロピルナフタレン、2-ビニル-7-プロピルナフタレン、及び2-ビニル-8-プロピルナフタレン等が挙げられる。
【0040】
前記アルコキシ置換スチレンとしては、例えば、o-エトキシスチレン、m-エトキシスチレン、p-エトキシスチレン、o-プロポキシスチレン、m-プロポキシスチレン、p-プロポキシスチレン、o-n-ブトキシスチレン、m-n-ブトキシスチレン、p-n-ブトキシスチレン、o-イソブトキシスチレン、m-イソブトキシスチレン、p-イソブトキシスチレン、o-t-ブトキシスチレン、m-t-ブトキシスチレン、p-t-ブトキシスチレン、o-n-ペントキシスチレン、m-n-ペントキシスチレン、p-n-ペントキシスチレン、α-メチル-o-ブトキシスチレン、α-メチル-m-ブトキシスチレン、α-メチル-p-ブトキシスチレン、o-t-ペントキシスチレン、m-t-ペントキシスチレン、p-t-ペントキシスチレン、o-n-ヘキソキシスチレン、m-n-ヘキソキシスチレン、p-n-ヘキソキシスチレン、α-メチル-o-ペントキシスチレン、α-メチル-m-ペントキシスチレン、α-メチル-p-ペントキシスチレン、o-シクロヘキソキシスチレン、m-シクロヘキソキシスチレン、p-シクロヘキソキシスチレン、o-フェノキシスチレン、m-フェノキシスチレン、及びp-フェノキシスチレン等が挙げられる。
【0041】
前記単官能芳香族化合物は、前記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記単官能芳香族化合物としては、前記例示の化合物の中でも、スチレン及びp-エチルビニルベンゼンが好ましい。
【0042】
炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に3つ結合した3官能芳香族化合物としては、例えば、1,2,4-トリビニルベンゼン、1,3,5-トリビニルベンゼン、1,2,4-トリイソプロペニルベンゼン、1,3,5-トリイソプロペニルベンゼン、1,3,5-トリビニルナフタレン、及び3,5,4’-トリビニルビフェニル等が挙げられる。前記3官能芳香族化合物は、前記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
前記インデン類としては、例えば、インデン、アルキル置換インデン、及びアルキコシインデン等が挙げられる。前記アルキル置換インデンとしては、例えば、メチルインデン、エチルインデン、プロピルインデン、ブチルインデン、t-ブチルインデン、sec-ブチルインデン、n-ペンチルインデン、2-メチル-ブチルインデン、3-メチル-ブチルインデン、n-ヘキシルインデン、2-メチル-ペンチルインデン、3-メチル-ペンチルインデン、4-メチル-ペンチルインデン等が挙げられる。前記アルキコシインデンとしては、例えば、メトキシインデン、エトキシインデン、プトキシインデン、ブトキシインデン、t-ブトキシインデン、sec-ブトキシインデン、n-ペントキシインデン、2-メチル-ブトキシインデン、3-メチル-ブトキシインデン、n-ヘキトシインデン、2-メチル-ペントキシインデン、3-メチル-ペントキシインデン、4-メチル-ペントキシインデン等のアルキコシインデン等が挙げられる。前記インデン類は、前記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
前記アセナフチレン類としては、例えば、アセナフチレン、アルキルアセナフチレン類、ハロゲン化アセナフチレン類、及びフェニルアセナフチレン類等が挙げられる。前記アルキルアセナフチレン類としては、例えば、1-メチルアセナフチレン、3-メチルアセナフチレン、4-メチルアセナフチレン、5-メチルアセナフチレン、1-エチルアセナフチレン、3-エチルアセナフチレン、4-エチルアセナフチレン、5-エチルアセナフチレン等が挙げられる。前記ハロゲン化アセナフチレン類としては、例えば、1-クロロアセナフチレン、3-クロロアセナフチレン、4-クロロアセナフチレン、5-クロロアセナフチレン、1-ブロモアセナフチレン、3-ブロモアセナフチレン、4-ブロモアセナフチレン、5-ブロモアセナフチレン等が挙げられる。前記フェニルアセナフチレン類としては、例えば、1-フェニルアセナフチレン、3-フェニルアセナフチレン、4-フェニルアセナフチレン、5-フェニルアセナフチレン等が挙げられる。前記アセナフチレン類は、前記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
前記芳香族重合体は、前記2官能芳香族化合物に由来の構造単位を有するだけでなく、他の構造単位を有する場合、前記2官能芳香族化合物に由来の構造単位と、前記単官能芳香族化合物に由来の構造単位等の、他の構造単位との共重合体である。この共重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0046】
前記重合体は、上述したように、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体であれば、特に限定されない。そして、前記式(1)で表される構造単位は、下記式(2)で表される構造単位を含むことが好ましい。すなわち、前記重合体は、分子中に下記式(2)で表される構造単位を有する重合体であることが好ましい。
【0047】
【化3】
式(2)中、R
4~R
6は、式(1)中のR
4~R
6と同様である。具体的には、R
4~R
6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。R
7は、炭素数6~12のアリーレン基を示す。
【0048】
前記式(2)における前記炭素数6~12のアリーレン基は、特に限定されない。このアリーレン基としては、例えば、フェニレン基等の単環芳香族基や、芳香族が単環ではなく、ナフタレン環等の二環芳香族である二環芳香族基等が挙げられる。また、このアリーレン基には、芳香族環に結合する水素原子が、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換された誘導体も含む。
【0049】
前記式(2)で表される構造単位は、下記式(3)で表される構造単位を含むことが好ましい。すなわち、前記式(2)で表される構造単位において、R7が、フェニレン基であることが好ましい。また、前記フェニレン基の中でも、p-フェニレン基がより好ましい。
【0050】
【化4】
式(3)中、R
4~R
6は、式(1)中のR
4~R
6と同様である。具体的には、R
4~R
6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。
【0051】
前記重合体は、下記式(4)で表される構造単位を分子中にさらに有する重合体を含むことが好ましい。すなわち、前記重合体は、下記式(4)で表される構造単位として、前記炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に1つ結合した単官能芳香族化合物に由来の構造単位を含むことが好ましい。よって、前記重合体は、前記式(1)で表される構造単位と下記式(4)で表される構造単位とを分子中に有する重合体であることが好ましい。すなわち、前記重合体は、分子中に前記式(1)で表される構造単位と下記式(4)で表される構造単位とを有する重合体であれば、前記式(1)で表される構造単位及び下記式(4)で表される構造単位以外の構造単位((1)及び(4)以外の構造単位)を有していてもよい。また、前記重合体は、前記(1)及び(4)以外の構造単位を含んでもよいし、前記式(1)で表される構造単位が繰り返し結合した繰り返し単位と下記式(4)で表される繰り返し結合した繰り返し単位と前記(1)及び(4)以外の構造単位が繰り返し結合した繰り返し単位とが、ランダムに結合した重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0052】
【化5】
式(4)中、R
8~R
10は、それぞれ独立している。すなわち、R
8~R
10は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R
8~R
10は、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。R
11は、アリール基を示す。
【0053】
前記式(4)においてR8~R10で示される前記炭素数1~6のアルキル基は、特に限定されず、前記式(1)においてR4~R6で示される前記炭素数1~6のアルキル基と同様であってもよい。前記式(4)においてR8~R10で示される前記炭素数1~6のアルキル基は、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、及びヘキシル基等が挙げられる。
【0054】
前記式(4)における前記アリール基は、特に限定されず、無置換のアリール基であってもよいし、芳香族環に結合する水素原子がアルキル基等で置換されたアリール基であってもよい。また、前記無置換のアリール基としては、芳香族環1個を有する芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた基であってもよいし、独立した芳香族環2個以上を有する芳香族炭化水素(例えば、ビフェニル等)から水素原子1個を除いた基であってもよい。前記式(4)における前記アリール基は、例えば、炭素数6~12の無置換のアリール基、及び炭素数6~12のアリール基の水素原子が炭素数1~6のアルキル基で置換された炭素数6~18のアリーレン基等が挙げられる。また、前記炭素数6~12の無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、及びビフェニリル基等が挙げられる。前記式(4)における前記アリール基、すなわち、R11は、より具体的には、下記表1及び表2に記載のアリール基等が挙げられる。
【0055】
【0056】
【0057】
前記重合体の重量平均分子量が、1500~40000であることが好ましく、1500~35000であることがより好ましい。前記重量平均分子量が低すぎると、耐熱性等が低下する傾向がある。また、前記重量平均分子量が高すぎると、成形性等が低下する傾向がある。よって、前記樹脂組成物の重量平均分子量が上記範囲内であると、耐熱性及び成形性に優れたものとなる。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0058】
前記重合体において、前記重合体における構造単位の合計を100モル%とするとき、前記式(1)で表される構造単位のモル含有率は、上記重合平均分子量の範囲内になるモル含有率であることが好ましく、具体的には、2~95モル%であることが好ましく、8~81モル%であることがより好ましい。また、前記式(2)で表される構造単位のモル含有率や前記式(3)で表される構造単位のモル含有率は、前記式(1)で表される構造単位のモル含有率と同様であり、具体的には、2~95モル%であることが好ましく、8~81モル%であることがより好ましい。また、前記重合体が、前記式(1)で表される構造単位と下記式(4)で表される構造単位とを分子中に有する重合体の場合、前記式(1)で表される構造単位のモル含有率は、2~95モル%であることが好ましく、8~81モル%であることがより好ましく、前記式(4)で表される構造単位のモル含有率は、5~98モル%であることが好ましく、19~92モル%であることがより好ましい。
【0059】
前記重合体において、前記式(1)で表される構造単位の平均数は、上記重合平均分子量の範囲内になる数であることが好ましく、具体的には、1~160であることが好ましく、3~140であることがより好ましい。また、前記式(2)で表される構造単位の平均数や前記式(3)で表される構造単位の平均数は、前記式(1)で表される構造単位の平均数と同様であり、具体的には、1~160であることが好ましく、3~140であることがより好ましい。また、前記重合体が、前記式(1)で表される構造単位と下記式(4)で表される構造単位とを分子中に有する重合体の場合、前記式(1)で表される構造単位の平均数は、1~160であることが好ましく、3~140であることがより好ましく、前記式(4)で表される構造単位の平均数は、2~350であることが好ましく、4~300であることがより好ましい。
【0060】
前記重合体の具体例としては、分子中に下記式(8)で表される構造単位を含み、下記式(7)で表される構造単位及び下記式(9)で表される構造単位のうちの少なくとも一方をさらに含む重合体が挙げられる。この重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
分子中に前記式(8)で表される構造単位を含み、前記式(7)で表される構造単位及び前記式(9)で表される構造単位のうちの少なくとも一方をさらに含む重合体では、前記式(7)で表される構造単位、前記式(8)で表される構造単位、及び前記式(9)で表される構造単位のモル含有率が、それぞれ、0~92モル%、8~54モル%、及び0~89モル%であることが好ましい。また、前記式(7)で表される構造単位の平均数は、0~350であることが好ましく、前記式(8)で表される構造単位の平均数は、1~160であることが好ましく、前記式(9)で表される構造単位の平均数は、0~270であることが好ましい。
【0065】
前記重合体の、前記式(1)で表され、R1~R3が水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量が、250~1200であることが好ましく、300~1100であることがより好ましい。前記当量が小さすぎると、前記ビニル基が多くなりすぎ、反応性が高くなりすぎて、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。前記当量が小さすぎる樹脂組成物を用いると、流動性不足等により、例えば、多層成形時にボイドが発生する等の成形不良が発生し、信頼度の高い配線板が得られにくいという成形性の問題が発生するおそれがある。また、前記当量が大きすぎると、前記ビニル基が少なくなりすぎ、硬化物の耐熱性が不充分になる傾向がある。よって、前記当量が上記範囲内であると、耐熱性及び成形性に優れたものとなる。なお、前記式(1)で表され、R1~R3が水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量は、いわゆるビニル当量である。
【0066】
(変性PPE化合物)
本実施形態の樹脂組成物は、上記重合体に加えて、さらに、下記式(5)または(6)で表される基で末端を変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物を含んでいてもよい。
【0067】
【0068】
【0069】
それによって、より低い誘電率と誘電正接という優れた低誘電特性を有する積層板を得ることができ、各種電子材料として非常に有用であると考えられる。
【0070】
前記式(5)中、sは0~10の整数を示す。また、Zは、アリーレン基を示す。また、R12~R14は、それぞれ独立している。すなわち、R12~R14は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R12~R14は、水素原子又はアルキル基を示す。
【0071】
なお、式(6)において、pが0である場合は、Zがポリフェニレンエーテルの末端に直接結合していることを示す。
【0072】
このアリーレン基は、特に限定されない。このアリーレン基としては、例えば、フェニレン基等の単環芳香族基や、芳香族が単環ではなく、ナフタレン環等の多環芳香族である多環芳香族基等が挙げられる。また、このアリーレン基には、芳香族環に結合する水素原子が、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換された誘導体も含む。また、前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0073】
式(6)中、R15は、水素原子又はアルキル基を示す。前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。また、前記式(6)で表される置換基としては、例えば、アクリレート基及びメタクリレート基等が挙げられる。
【0074】
また、前記ビニルベンジル基を含む置換基としては、例えば、下記式(10)で表される置換基等が挙げられる。
【0075】
【0076】
前記式(10)で示される基としては、より具体的には、p-エテニルベンジル基及びm-エテニルベンジル基等のビニルベンジル基(エテニルベンジル基)、ビニルフェニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基等が挙げられる。
【0077】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物は、ポリフェニレンエーテル鎖を分子中に有しており、例えば、下記式(11)で表される繰り返し単位を分子中に有していることが好ましい。
【0078】
【化12】
式(11)において、tは、1~50を示す。また、R
16~R
19は、それぞれ独立している。すなわち、R
16~R
19は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R
16~R
19は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0079】
R16~R19において、挙げられた各官能基としては、具体的には、以下のようなものが挙げられる。
【0080】
アルキル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0081】
アルケニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルケニル基が好ましく、炭素数2~10のアルケニル基がより好ましい。具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、及び3-ブテニル基等が挙げられる。
【0082】
アルキニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキニル基がより好ましい。具体的には、例えば、エチニル基、及びプロパ-2-イン-1-イル基(プロパルギル基)等が挙げられる。
【0083】
アルキルカルボニル基は、アルキル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキルカルボニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、及びシクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
【0084】
アルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びクロトノイル基等が挙げられる。
【0085】
アルキニルカルボニル基は、アルキニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルキニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルキニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、プロピオロイル基等が挙げられる。
【0086】
本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。具体的には、500~5000であることが好ましく、800~4000であることがより好ましく、1000~3000であることがさらに好ましい。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。また、変性ポリフェニレンエーテル化合物が、前記式(8)で表される繰り返し単位を分子中に有している場合、tは、変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内になるような数値であることが好ましい。具体的には、tは、1~50であることが好ましい。
【0087】
変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、ポリフェニレンエーテルの有する優れた低誘電特性を有し、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものとなる。このことは、以下のことによると考えられる。通常のポリフェニレンエーテルでは、その重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。この点、本実施形態に係る変性ポリフェニレンエーテル化合物は、末端に不飽和二重結合を1つ以上有するので、硬化物の耐熱性が充分に高いものが得られると考えられる。また、変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、成形性にも優れると考えられる。よって、このような変性ポリフェニレンエーテル化合物は、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものが得られると考えられる。
【0088】
また、本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物における、変性ポリフェニレンエーテル1分子当たりの、分子末端に有する、前記置換基の平均個数(末端官能基数)は、特に限定されない。具体的には、1~5個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましく、1.5~3個であることがさらに好ましい。この末端官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。すなわち、このような変性ポリフェニレンエーテルを用いると、流動性不足等により、例えば、多層成形時にボイドが発生する等の成形不良が発生し、信頼性の高いプリント配線板が得られにくいという成形性の問題が生じるおそれがあった。
【0089】
なお、変性ポリフェニレンエーテル化合物の末端官能基数は、変性ポリフェニレンエーテル化合物1モル中に存在する全ての変性ポリフェニレンエーテル化合物の1分子あたりの、前記置換基の平均値を表した数値等が挙げられる。この末端官能基数は、例えば、得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数を測定して、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分を算出することによって、測定することができる。この変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分が、末端官能基数である。そして、変性ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数の測定方法は、変性ポリフェニレンエーテル化合物の溶液に、水酸基と会合する4級アンモニウム塩(テトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を添加し、その混合溶液のUV吸光度を測定することによって、求めることができる。
【0090】
また、本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度は、特に限定されない。具体的には、0.03~0.12dl/gであればよいが、0.04~0.11dl/gであることが好ましく、0.06~0.095dl/gであることがより好ましい。この固有粘度が低すぎると、分子量が低い傾向があり、低誘電率や低誘電正接等の低誘電性が得られにくい傾向がある。また、固有粘度が高すぎると、粘度が高く、充分な流動性が得られず、硬化物の成形性が低下する傾向がある。よって、変性ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度が上記範囲内であれば、優れた、硬化物の耐熱性及び成形性を実現できる。
【0091】
なお、ここでの固有粘度は、25℃の塩化メチレン中で測定した固有粘度であり、より具体的には、例えば、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計で測定した値等である。この粘度計としては、例えば、Schott社製のAVS500 Visco System等が挙げられる。
【0092】
より具体的な変性ポリフェニレンエーテル化合物としては、例えば、下記式(12)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物、及び下記式(13)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。また、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物としては、これらの変性ポリフェニレンエーテル化合物を単独で用いてもよいし、この2種の変性ポリフェニレンエーテル化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
【0094】
【0095】
式(12)及び式(13)中、R20~R27並びにR28~R35は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。X1及びX2は、それぞれ独立して、前記式(5)または(6)で表される基である。A及びBは、それぞれ、下記式(14)及び下記式(15)で表される繰り返し単位を示す。また、式(13)中、Yは、炭素数20以下の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素を示す。
【0096】
【0097】
【0098】
式(14)及び式(15)中、m及びnは、それぞれ、0~20を示す。R36~R39並びにR40~R43は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。
【0099】
前記式(12)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物、及び前記式(13)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物は、上記構成を満たす化合物であれば特に限定されない。具体的には、前記式(12)及び前記式(13)において、R20~R27並びにR28~R35は、上述したように、それぞれ独立している。すなわち、R20~R27並びにR28~R35は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R20~R27並びにR28~R35は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0100】
また、式(14)及び式(15)中、m及びnは、それぞれ、上述したように、0~20を示すことが好ましい。さらに、m及びnは、mとnとの合計値が、1~30となる数値を示すことが好ましい。よって、mは、0~20を示し、nは、0~20を示し、mとnとの合計は、1~30を示すことがより好ましい。また、R36~R39並びにR40~R43は、それぞれ独立している。すなわち、R36~R39並びにR40~R43は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R36~R39並びにR40~R43は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0101】
R20~R43は、上記式(11)におけるR16~R19と同じである。
【0102】
前記式(13)中において、Yは、上述したように、炭素数20以下の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素である。Yとしては、例えば、下記式(16)で表される基等が挙げられる。
【0103】
【0104】
前記式(16)中、R44及びR45は、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。また、式(16)で表される基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、及びジメチルメチレン基等が挙げられ、この中でも、ジメチルメチレン基が好ましい。
【0105】
前記式(12)及び前記式(13)中において、X1及びX2は、それぞれ独立して、前記式(5)または式(6)で表される基である。なお、前記式(12)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記式(13)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物において、X1及びX2は、同一の置換基であってもよいし、異なる置換基であってもよい。
【0106】
前記式(12)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物のより具体的な例示としては、例えば、下記式(17)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0107】
【0108】
前記式(13)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物のより具体的な例示としては、例えば、下記式(18)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物、下記式(19)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0109】
【0110】
【0111】
上記式(17)~式(19)において、m及びnは、上記式(14)及び上記式(15)におけるm及びnと同じである。また、上記式(17)及び上記式(18)において、R12~R14及びsは、上記式(5)におけるR12~R14及びsと同じである。また、上記式(18)及び上記式(19)において、Yは、上記式(13)におけるYと同じである。また、上記式(19)において、R15は、上記式(6)におけるR15と同じである。
【0112】
また、本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物における、変性ポリフェニレンエーテル1分子当たりの、分子末端に有する、前記置換基の平均個数(末端官能基数)としては、上述した範囲が挙げられるが、例えば、上記式(17)~式(19)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物の場合は、具体的には、1~2個であることが好ましく、1.5~2個であることがより好ましい。
【0113】
本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、前記式(5)または(6)で表される基(以下、置換基とも称する)により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成できれば、特に限定されない。具体的には、ポリフェニレンエーテルに、前記置換基とハロゲン原子とが結合された化合物を反応させる方法等が挙げられる。
【0114】
前記置換基とハロゲン原子とが結合された化合物としては、例えば、前記式(5)~(6)で表される置換基とハロゲン原子とが結合された化合物等が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、具体的には、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及びフッ素原子が挙げられ、この中でも、塩素原子が好ましい。前記置換基とハロゲン原子とが結合された化合物としては、より具体的には、o-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレンやm-クロロメチルスチレンといったクロロメチルスチレンが挙げられる。
【0115】
原料であるポリフェニレンエーテルは、最終的に、所定の変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、2,6-ジメチルフェノールと2官能フェノール及び3官能フェノールの少なくともいずれか一方とからなるポリフェニレンエーテルやポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)等のポリフェニレンエーテルを主成分とするもの等が挙げられる。また、2官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に2個有するフェノール化合物であり、例えば、テトラメチルビスフェノールA等が挙げられる。また、3官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に3個有するフェノール化合物である。特に、本実施形態のポリフェニレンエーテル化合物は、2,6-ジメチルフェノールと2官能フェノール由来の構造を含んでいることが好ましい。
【0116】
変性ポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、上述した方法が挙げられる。具体的には、上記のようなポリフェニレンエーテルと、前記置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とを溶媒に溶解させ、攪拌する。そうすることによって、ポリフェニレンエーテルと、前記置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とが反応し、本実施形態で用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物が得られる。
【0117】
前記反応の際、アルカリ金属水酸化物の存在下で行うことが好ましい。そうすることによって、この反応が好適に進行すると考えられる。このことは、アルカリ金属水酸化物が、脱ハロゲン化水素剤、具体的には、脱塩酸剤として機能するためと考えられる。すなわち、アルカリ金属水酸化物が、ポリフェニレンエーテルのフェノール基と、前記置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とから、ハロゲン化水素を脱離させ、そうすることによって、ポリフェニレンエーテルのフェノール基の水素原子の代わりに、前記置換基が、フェノール基の酸素原子に結合すると考えられる。
【0118】
アルカリ金属水酸化物は、脱ハロゲン化剤として働きうるものであれば、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、アルカリ金属水酸化物は、通常、水溶液の状態で用いられ、具体的には、水酸化ナトリウム水溶液として用いられる。
【0119】
反応時間や反応温度等の反応条件は、前記置換基とハロゲン原子とが結合された化合物等によっても異なり、上記のような反応が好適に進行する条件であれば、特に限定されない。具体的には、反応温度は、室温~100℃であることが好ましく、30~100℃であることがより好ましい。また、反応時間は、0.5~20時間であることが好ましく、0.5~10時間であることがより好ましい。
【0120】
反応時に用いる溶媒は、ポリフェニレンエーテルと、前記置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とを溶解させることができ、ポリフェニレンエーテルと、前記置換基とハロゲン原子とが結合された化合物との反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、トルエン等が挙げられる。
【0121】
上記の反応は、アルカリ金属水酸化物だけではなく、相間移動触媒も存在した状態で反応させることが好ましい。すなわち、上記の反応は、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させることが好ましい。そうすることによって、上記反応がより好適に進行すると考えられる。このことは、以下のことによると考えられる。相間移動触媒は、アルカリ金属水酸化物を取り込む機能を有し、水のような極性溶剤の相と、有機溶剤のような非極性溶剤の相との両方の相に可溶で、これらの相間を移動することができる触媒であることによると考えられる。具体的には、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液を用い、溶媒として、水に相溶しない、トルエン等の有機溶剤を用いた場合、水酸化ナトリウム水溶液を、反応に供されている溶媒に滴下しても、溶媒と水酸化ナトリウム水溶液とが分離し、水酸化ナトリウムが、溶媒に移行しにくいと考えられる。そうなると、アルカリ金属水酸化物として添加した水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しにくくなると考えられる。これに対して、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、アルカリ金属水酸化物が相間移動触媒に取り込まれた状態で、溶媒に移行し、水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しやすくなると考えられる。このため、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、上記反応がより好適に進行すると考えられる。
【0122】
相間移動触媒は、特に限定されないが、例えば、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0123】
本実施形態で用いられる樹脂組成物は、上記重合体に加えて、変性ポリフェニレンエーテル化合物として、上記のようにして得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物を含むことが好ましい。
【0124】
なお、本実施形態の樹脂組成物には、上述したような、重合体やポリフェニレンエーテル化合物以外の熱硬化性樹脂を含めてもよい。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が使用可能なその他の熱硬化性樹脂として挙げられる。
【0125】
(その他の成分)
本実施形態に係る樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、前記重合体以外の成分(その他の成分)を含有してもよい。本実施の形態に係る樹脂組成物に含有されるその他の成分としては、例えば、硬化剤、シランカップリング剤、難燃剤、開始剤、消泡剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料、滑剤、及び無機充填材等の添加剤をさらに含んでもよい。また、前記樹脂組成物には、前記重合体以外にも、ポリフェニレンエーテル、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及び熱硬化性ポリイミド樹脂等の樹脂を含有してもよい。
【0126】
特に、硬化剤としては、前記重合体や、必要に応じて、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と反応して、前記重合体と前記硬化剤とが架橋し、前記樹脂組成物を硬化させることができる硬化剤(架橋型架橋剤)であれば、特に限定されない。前記架橋型硬化剤としては、例えば、分子中に不飽和二重結合を2個以上有する化合物、アルケニルイソシアヌレート化合物、スチレン、スチレン誘導体、分子中にアリル基少なくとも1つ以上を有するアリル化合物、分子中にマレイミド基を少なくとも2つ以上有する多官能マレイミド化合物、変性マレイミド化合物、及び分子中にアセナフチレン構造を有するアセナフチレン化合物等が挙げられる。
【0127】
また、前記分子中に不飽和二重結合を2個以上有する化合物としては、分子中にメタクリロイル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物、分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、及び分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物等が挙げられる。前記多官能ビニル化合物としては、例えば、ジビニルベンゼン、及びポリブタジエン等が挙げられる。前記アルケニルイソシアヌレート化合物としては、イソシアヌレート構造及びアルケニル基を分子中に有する化合物であればよく、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物等が挙げられる。
【0128】
前記スチレン誘導体としては、ジブロモスチレン等のブロモスチレン等が挙げられる。前記変性マレイミド化合物としては、例えば、分子中の一部がアミン変性された変性マレイミド化合物、分子中の一部がシリコーン変性された変性マレイミド化合物、及び分子中の一部がアミン変性及びシリコーン変性された変性マレイミド化合物等が挙げられる。
【0129】
前記アリル化合物としては、分子中にアリル基を1個有する単官能アリル化合物、及び分子中にアリル基を2個以上有する多官能アリル化合物が挙げられる。前記多官能アリル化合物としては、例えば、ジアリルフタレート(DAP)等が挙げられる。
【0130】
前記分子中にマレイミド基を少なくとも2つ以上有する多官能マレイミド化合物としては、特に限定されないが、前記多官能マレイミド化合物としては、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド等のフェニレンビスマレイミド、ビスフェノールA ジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、ビフェニル構造を有するマレイミド化合物等が挙げられる。また、変性マレイミド化合物としては、例えば、分子中にマレイミド基を有し、分子中の一部がアミン化合物によって変性された変性マレイミド化合物、分子中の一部がシリコーン化合物によって変性された変性マレイミド化合物、及び分子中の一部がアミン化合物及びシリコーン化合物によって、アミン変性及びシリコーン変性された変性マレイミド化合物等が挙げられる。
【0131】
前記アセナフチレン化合物としては、例えば、アセナフチレン、アルキルアセナフチレン類、ハロゲン化アセナフチレン類、及びフェニルアセナフチレン類等が挙げられる。前記アルキルアセナフチレン類としては、例えば、1-メチルアセナフチレン、3-メチルアセナフチレン、4-メチルアセナフチレン、5-メチルアセナフチレン、1-エチルアセナフチレン、3-エチルアセナフチレン、4-エチルアセナフチレン、5-エチルアセナフチレン等が挙げられる。前記ハロゲン化アセナフチレン類としては、例えば、1-クロロアセナフチレン、3-クロロアセナフチレン、4-クロロアセナフチレン、5-クロロアセナフチレン、1-ブロモアセナフチレン、3-ブロモアセナフチレン、4-ブロモアセナフチレン、5-ブロモアセナフチレン等が挙げられる。前記フェニルアセナフチレン類としては、例えば、1-フェニルアセナフチレン、3-フェニルアセナフチレン、4-フェニルアセナフチレン、5-フェニルアセナフチレン等が挙げられる。前記アセナフチレン化合物としては、前記のような、分子中にアセナフチレン構造を1個有する単官能アセナフチレン化合物であってもよいし、分子中にアセナフチレン構造を2個以上有する多官能アセナフチレン化合物であってもよい。
【0132】
この中でも、前記アルケニルイソシアヌレート化合物、前記多官能アクリレート化合物、前記多官能メタクリレート化合物、及び前記多官能ビニル化合物が、前記樹脂組成物の硬化物の耐熱性をより高めることができる点で好ましい。このことは、これらの架橋型硬化剤を用いることによって、硬化反応により、前記樹脂組成物の架橋がより好適に形成されることによると考えられる。また、前記架橋型硬化剤は、例示した架橋型硬化剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記架橋型硬化剤としては、前記分子中に不飽和二重結合を2個以上有する化合物等の、上記に例示した架橋型硬化剤だけではなく、分子中に不飽和二重結合を1個有する化合物を併用してもよい。前記分子中に不飽和二重結合を1個有する化合物としては、例えば、分子中にビニル基を1個有するモノビニル化合物等が挙げられる。
【0133】
前記多官能アクリレート化合物としては、分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物が挙げられ、例えば、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等が挙げられる。
【0134】
前記多官能メタクリレート化合物としては、例えば、分子中にポリフェニレンエーテル構造及び2つ以上のメタクリロイル基を有する化合物、及びトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート等が挙げられる。前記分子中にポリフェニレンエーテル構造及び2つ以上のメタクリロイル基を有する化合物としては、ポリフェニレンエーテルの末端水酸基をメタクリル基で変性したメタクリル変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0135】
前記硬化剤は、上記硬化剤を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0136】
前記硬化剤は、重量平均分子量が100~5000であることが好ましく、100~4000であることがより好ましく、100~3000であることがさらに好ましい。前記硬化剤の重量平均分子量が低すぎると、前記硬化剤が樹脂組成物の配合成分系から揮発しやすくなるおそれがある。また、前記硬化剤の重量平均分子量が高すぎると、樹脂組成物のワニスの粘度や、加熱成形時の溶融粘度が高くなりすぎるおそれがある。よって、前記硬化剤の重量平均分子量がこのような範囲内であると、硬化物の耐熱性により優れた樹脂組成物が得られる。これは、前記重合体や変性ポリフェニレンエーテル化合物との反応により、本実施形態の樹脂組成物を好適に硬化させることができるためと考えられる。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0137】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、上述したように、シランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤は、樹脂組成物に含有してもよいし、樹脂組成物に含有されている無機充填材に予め表面処理されたシランカップリング剤として含有していてもよい。この中でも、前記シランカップリング剤としては、無機充填材に予め表面処理されたシランカップリング剤として含有することが好ましく、このように無機充填材に予め表面処理されたシランカップリング剤として含有し、さらに、樹脂組成物にもシランカップリング剤を含有させることがより好ましい。また、プリプレグの場合、そのプリプレグには、繊維質基材に予め表面処理されたシランカップリング剤として含有していてもよい。
【0138】
前記シランカップリング剤としては、例えば、ビニル基、スチリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、フェニルアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。すなわち、このシランカップリング剤は、反応性官能基として、ビニル基、スチリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、及びフェニルアミノ基のうち、少なくとも1つを有し、さらに、メトキシ基やエトキシ基等の加水分解性基を有する化合物等が挙げられる。
【0139】
前記シランカップリング剤としては、ビニル基を有するものとして、例えば、ビニルトリエトキシシラン、及びビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、スチリル基を有するものとして、例えば、p-スチリルトリメトキシシラン、及びp-スチリルトリエトキシシラン等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、メタクリロイル基を有するものとして、例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-メタクリロキシプロピルエチルジエトキシシラン等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、アクリロイル基を有するものとして、例えば、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、フェニルアミノ基を有するものとして、例えば、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン及びN-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0140】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述したように、難燃剤を含有してもよい。難燃剤を含有することによって、樹脂組成物の硬化物の難燃性を高めることができる。前記難燃剤は、特に限定されない。具体的には、臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤を使用する分野では、例えば、融点が300℃以上のエチレンジペンタブロモベンゼン、エチレンビステトラブロモイミド、デカブロモジフェニルオキサイド、及びテトラデカブロモジフェノキシベンゼンが好ましい。ハロゲン系難燃剤を使用することにより、高温時におけるハロゲンの脱離が抑制でき、耐熱性の低下を抑制できると考えられる。また、ハロゲンフリーが要求される分野では、リン酸エステル系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤、ビスジフェニルホスフィンオキサイド系難燃剤、及びホスフィン酸塩系難燃剤が挙げられる。リン酸エステル系難燃剤の具体例としては、ジキシレニルホスフェートの縮合リン酸エステルが挙げられる。ホスファゼン系難燃剤の具体例としては、フェノキシホスファゼンが挙げられる。ビスジフェニルホスフィンオキサイド系難燃剤の具体例としては、キシリレンビスジフェニルホスフィンオキサイドが挙げられる。ホスフィン酸塩系難燃剤の具体例としては、例えば、ジアルキルホスフィン酸アルミニウム塩のホスフィン酸金属塩が挙げられる。前記難燃剤としては、例示した各難燃剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0141】
本実施形態に係る樹脂組成物には、上述したように、開始剤(反応開始剤)を含有してもよい。前記樹脂組成物は、前記重合体のみからなるものであっても、硬化反応は進行し得る。しかしながら、プロセス条件によっては硬化が進行するまで高温にすることが困難な場合があるので、反応開始剤を添加してもよい。反応開始剤は、前記重合体と、必要に応じて前記変性ポリフェニレンエーテル化合物との硬化反応を促進することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、α,α’-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、過酸化ベンゾイル、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、アゾビスイソブチロニトリル等の酸化剤が挙げられる。また、必要に応じて、カルボン酸金属塩等を併用することができる。そうすることによって、硬化反応を一層促進させるができる。これらの中でも、α,α’-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンが好ましく用いられる。α,α’-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンは、反応開始温度が比較的に高いため、プリプレグ乾燥時等の硬化する必要がない時点での硬化反応の促進を抑制することができ、前記樹脂組成物の保存性の低下を抑制することができる。さらに、α,α’-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンは、揮発性が低いため、プリプレグ乾燥時や保存時に揮発せず、安定性が良好である。また、反応開始剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0142】
本実施形態に係る樹脂組成物には、上述したように、無機充填材等の充填材を含有してもよい。充填材としては、樹脂組成物の硬化物の、耐熱性及び難燃性を高めるために添加するもの等が挙げられ、特に限定されない。また、充填材を含有させることによって、耐熱性及び難燃性等をさらに高めることができる。充填材としては、具体的には、球状シリカ等のシリカ、アルミナ、酸化チタン、及びマイカ等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、タルク、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。また、充填材としては、この中でも、シリカ、マイカ、及びタルクが好ましく、球状シリカがより好ましい。また、充填材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、充填材としては、そのまま用いてもよいし、前記シランカップリング剤で表面処理したものを用いてもよい。また、充填材を含有する場合、その含有率(フィラーコンテンツ)は、前記樹脂組成物に対して、30~270質量%であることが好ましく、50~250質量%であることがより好ましい。
【0143】
本実施形態の樹脂組成物における前記重合体の含有割合は、絶縁層になり得る硬化物を形成できる割合であれば、特に限定されない。例えば、樹脂組成物の総量(100質量部)に対して、30~95質量部程度であることが好ましく、40~90質量部であることがより好ましく、50~90質量部であることがさらに好ましい。
【0144】
本実施形態の樹脂組成物がさらに変性ポリフェニレンエーテル化合物を含む場合、その含有量は、樹脂組成物の総量(100質量部)に対して、5~30質量部程度であることが好ましく、5~20質量部であることがより好ましく、10~20質量部であることがさらに好ましい。
【0145】
さらに硬化剤を含む場合、当該硬化剤の含有割合は、樹脂組成物の総量(100質量部)に対して、5~70質量部程度であることが好ましく、10~70質量部であることがより好ましく、10~50質量部であることがさらに好ましい。
【0146】
上述したような樹脂組成物は、銅張積層板を製造する際は、通常ワニス状に調製し、樹脂ワニスとして用いられることが多い。このような樹脂ワニスは、例えば、以下のようにして調製される。
【0147】
まず、重合体、必要に応じて、変性ポリフェニレンエーテル化合物や硬化剤、さらに各種添加剤等の有機溶媒に溶解できる各成分を、有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて、加熱してもよい。その後、必要に応じて、有機溶媒に溶解しない成分、無機充填材等を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状の樹脂組成物が調製される。ここで用いられる有機溶媒としては、重合体や硬化剤等を溶解させ、硬化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、トルエン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。これらは単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0148】
本実施形態の絶縁層には、上記樹脂組成物の硬化物以外に、さらにガラス基材を含有させることが好ましい。それにより、加工上のトラブル(割れ等)を抑制したり、寸法変化を小さくしたり、線膨張を小さくしたり、反りを抑制したりできるという利点がある。
【0149】
本実施形態の絶縁層がガラス基材を含む場合、上述の樹脂組成物をガラス基材に含浸させて得られるプリプレグとして使用してもよい。このようなプリプレグを製造する方法としては、例えば、上述の樹脂ワニス(ワニス状に調製された樹脂組成物)をガラス基材に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。
【0150】
樹脂ワニスのガラス基材への含浸は、浸漬及び塗布等によって行われる。この含浸は、必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂ワニスを用いて含浸を繰り返し、最終的に希望とする組成及び樹脂量に調整することも可能である。
【0151】
樹脂ワニスが含浸されたガラス基材を、所望の加熱条件、80~170℃で1~10分間加熱して、硬化前の樹脂組成物を含む樹脂層(Aステージ)又は半硬化状態の樹脂層(Bステージ)が得られる。樹脂ワニスを塗布した(プリプレグの場合は、樹脂ワニスを含浸した)後、加熱によって、ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させことができる。
【0152】
(表面処理銅箔)
本実施形態に係る表面処理銅箔は、
図1に示すように、銅箔1の少なくとも一方の面側に銅の微細粗化粒子処理層2を有する表面処理銅箔であって、前記微細粗化粒子処理層2が粒子径40~200nmの微細銅粒子で構成されており、前記微細粗化粒子処理層2上にニッケルを含む耐熱処理層3を有し、前記耐熱処理層3上に少なくともクロムを含む防錆処理層4を有し、前記防錆処理層上にシランカップリング剤処理層5を有し、かつ、前記耐熱処理層中のニッケル付着量が、30~60mg/m
2であることを特徴とする。
【0153】
このような構成により、未処理銅箔の表面に微細粗化粒子で構成される微細粗化粒子処理層を設けることで樹脂基材との密着性を高め、さらに前記微細粗化粒子のサイズと、特に耐熱処理層中のニッケル付着量を調節することによって、伝送特性と基本特性(樹脂基材との密着性および耐熱性)を両立できる。
【0154】
以下、まず本実施形態の表面処理銅箔の各構成について、具体的に説明する。
【0155】
(銅箔)
従来、リジット基板等に使用される銅箔は電解銅箔、フレキシブル基板等に使用される銅箔は圧延銅箔というのが一般的であったが、近年、特にフレキシブル基板市場の隆盛に伴い、圧延銅箔並みの特性を有する電解銅箔が開発されており、現在は、基板の種類によらず圧延銅箔や電解銅箔が使用されている。このため、本実施形態で使用する未処理銅箔は、圧延銅箔または電解銅箔に限定することは無く、何れの銅箔を使用しても良い。
【0156】
(微細粗化粒子処理層)
微細粗化粒子処理層は、上記未処理銅箔の上に形成される一層目の表面処理層であって、表面積を増やし、樹脂基材との引き剥がし強さを向上させるために設ける層であり、粒子径40~200nmの微細銅粒子で構成されている。
【0157】
本実施形態において、上記粒子径とは以下の意味で使用する。つまり、電界放射型走査電子顕微鏡FE-SEM(日本電子製JSM-7800F)を使用し、試料台を40°傾斜させながら倍率80,000倍で観察し、観察された銅粒子の高さを粒子径の値とする。そして、本実施形態の微細粗化粒子処理層における微細銅粒子の粒子径は、上記方法で観察・測定した範囲の最大値が200nm、最小値が40nmである。
【0158】
なお、本実施形態における微細銅粒子処理層は、粒子径が200nmを超える銅粒子や40nm未満の銅粒子が含まれることを除外するものではない。しかし、200nmを超える粒子が多いと伝送損失が大きくなるおそれがあり、また40nm未満の粒子が多いと十分な密着性が確保できないおそれがあり、いずれの場合も好ましくない。例えば、本実施形態における微細銅粒子処理層には、40~200nmの粒子径の銅粒子が90%以上含まれることが好ましく、更に好ましくは95%以上で含まれることが好ましい。
【0159】
前記微細粗化粒子処理層は、電解めっき法により形成することができる。
【0160】
本実施形態の微細銅粒子の粒子径は、めっき処理の浴組成の他、電解電流密度の影響を強く受ける。例えば、電解電流密度が高い場合には粗化粒子の粒子径は小さくなる傾向であり、逆に、電解電流密度が低い場合には粗化粒子の粒子径は大きくなる傾向である。このため、目的とする粒子径の粗化粒子を得るためには、電解電流密度を適切に設定しなければならない。
【0161】
以下に、銅の微細粗化粒子処理層を形成させる浴組成及び電解条件の例を挙げるが特にこれに限定されるものではない。
【0162】
(浴組成)
硫酸銅五水和物:10~70g/L(特に好ましくは30~50g/L)
ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム(以下DTPA・5Na):
50~150g/L(特に好ましくは80~120g/L)
pH:3.0~6.0(特に好ましくは3.5~5.5)
pHの調製は硫酸及び水酸化ナトリウムを使用
【0163】
(電解条件)
電流密度:0.5~10.0A/dm2(特に好ましくは1.0~6.0A/dm2)
電気量:10~130A・sec/dm2(特に好ましくは30~110A・sec/dm2)
液温:25~50℃(特に好ましくは30~45℃)
陽極:銅板。
【0164】
DTPA・5Na濃度は50~150g/Lが適当であるが、この範囲外では、50g/L未満の場合、十分な微細化効果が得られにくくなり粗化粒子が粗大化する。150g/Lを超えると電流効率の低下を招き粗化処理の析出量が極端に減少し、更に電圧も上昇し不経済である。
【0165】
また、電気量は10~130A・sec/dm2がよく、この範囲では粒子径40~200nmの銅粒子が得られ樹脂に対する密着性を確保できやすいという利点がある。逆に電気量が10A・sec/dm2未満の場合、粒子径40nm未満の銅粒子が多くなり、密着性が低下するおそれがある。また、130A・sec/dm2より多い場合は、粒子形状が樹枝状になりやすく、粒子径が粗大化しやすくなり、その結果、未処理銅箔との固着性が低くなり粉落ちが多くなる、ラミネート面の表面粗さが大きくなる等の不具合を生じる。
【0166】
(耐熱処理層)
耐熱処理層は、薬液や熱などのストレスから微細粗化粒子処理層を含めた銅箔を保護するために設けられる耐熱・防錆のための層であり、バリア処理層と呼ばれることもある。本実施形態の耐熱処理層はニッケルまたはニッケルとリンとを含み、かつ、耐熱処理層中のニッケル付着量は30~60mg/m2である。
【0167】
前記ニッケル付着量が30~60mg/m2であることにより、伝送特性と前記基本特性を両立できる。このニッケル付着量が30mg/m2未満となると耐熱性が低下し、例えば、樹脂と銅箔の界面において膨れが発生し、結果として密着性が低下するおそれがあり、60mg/m2を超えると、伝送損失が大きくなる可能性がある。より好ましいニッケル付着量の範囲は、40~50mg/m2である。
【0168】
なお、本実施形態において、「付着量」とは、銅箔の微細粗化粒子処理層側にめっき(例えば電解めっき法)によって析出したニッケルの単位面積あたりの質量のことを指す。また、付着量は被処理銅箔を硝酸等で溶解、希釈し、ICP発光分光分析装置を用いてニッケルの濃度を分析する方法によって測定可能である。
【0169】
本実施形態の耐熱処理層は、ニッケル(Ni)またはニッケル(Ni)とリン(P)とで構成されていることが好ましい。
【0170】
本実施形態の耐熱処理層は、上記の微細粗化粒子処理層を形成した後に形成する二層目の表面処理層であり、電解めっき法により形成することができる。前記ニッケル付着量は、この電解めっきを行う際の電流条件によって調製することが可能である。
【0171】
以下に、ニッケルとリンとで構成される本実施形態の耐熱処理層を形成させる浴組成及び電解条件の例を挙げるが特にこれに限定されるものではない。
【0172】
(浴組成)
硫酸ニッケル六水和物 10~100g/L(特に好ましくは20~60g/L)
酢酸ナトリウム三水和物 2~40g/L(特に好ましくは5~30g/L)
次亜リン酸ナトリウム一水和物 0.1~10g/L(特に好ましくは1.0~6.0g/L)
pH 3.0~5.5(特に好ましくは3.5~5.0)
【0173】
(電解条件)
電流密度:0.5~3.5A/dm2(特に好ましくは1.0~2.0A/dm2)
電気量:1.8~2.7A・sec/dm2(特に好ましくは2.0~2.5A・sec/dm2)
液温:25~50℃(特に好ましくは30~40℃)
陽極:白金族酸化物被覆チタン等の不溶性電極。
【0174】
ニッケルイオンの供給源としては硫酸ニッケル六水和物、塩化ニッケル六水和物、酢酸ニッケル四水和物などが使用できる。リンイオンの供給源としては亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸ニッケルなどが使用できる。また導電性の付与として硫酸ナトリウムを添加してもよい。
【0175】
(防錆処理層)
防錆処理層は、加熱時や保管時の酸化を防ぐために設けられる層である。本実施形態の防錆処理層は、少なくともクロム(Cr)を含み、クロメート処理層と呼ばれることもある。さらに、亜鉛(Zn)を含んでいてもよい。
【0176】
本実施形態の防錆処理層は上記の耐熱処理層を形成した後に形成する三層目の表面処理層であり、電解めっき法により形成することができる。
【0177】
本実施形態の防錆処理層を形成させる浴組成は公知のものでよく、例えばクロム酸、重クロム酸ナトリウム、重クロム酸カリウムなどの6価クロムを有する浴組成が挙げられる。なお、防錆処理層形成後のクロムの析出形態はCr(OH)3とCr203が混在した状態であり、人体に悪影響を及ぼす6価クロムはなく3価クロムの形態で析出している。クロム酸液はアルカリ性、酸性のどちらでもかまわない。
【0178】
また、アルカリ性クロム酸液として特公昭58-15950号にある亜鉛イオン、6価クロムイオンを含むアルカリ性ジンククロメート液を使用してもよく、本クロム酸液を使用することで、クロム単独酸液からの防錆処理層よりも防錆性を向上させる事が出来る。
【0179】
本実施形態の防錆処理層を施す電解浴及び電解条件としては、例えば、以下に示す様な浴組成、条件が挙げられるが特にこれに限定されるものではない。
【0180】
(浴組成)
重クロム酸ナトリウム:2.5~60g/L(特に好ましくは5~30g/L)
亜鉛イオン:0.25~16g/L(特に好ましくは0.5~8g/L)
水酸化ナトリウム:10~180g/L(特に好ましくは20~90g/L)
【0181】
(電解条件)
電流密度:1.5~8.0A/dm2(特に好ましくは3.0~4.0A/dm2)
電気量:4.5~6.5A・sec/dm2(特に好ましくは5.0~6.0A・sec/dm2)
液温:25~50℃(特に好ましくは30~40℃)
陽極:白金族酸化物被覆チタン等の不溶性電極。
【0182】
(シランカップリング剤処理層)
本実施形態のシランカップリング剤処理層は、上記の防錆処理層を形成した後に形成する四層目の表面処理層であり、樹脂基材との密着性をより向上させるために設けられる層である。さらにシランカップリング剤処理層を設けることにより、引き剥がし強さを向上させるのみならず、過酷試験後の引き剥がし強さの劣化も抑制する事ができ、更に防錆性も向上させ、優れた汎用性を備えた回路基板用銅箔となる。
【0183】
本実施形態のシランカップリング剤処理層は、シランカップリング剤を適量で水等に添加し、水溶液として浸漬処理又はスプレー処理などにより塗布した後、水洗、乾燥させることによって形成できる。シランカップリング剤としてはエポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、メタクリロキシ基、スチリル基等、多種の中から選択して使用することができる。しかし、それぞれ異なった特性を有し、また、基材との相性もあるため、適切に選択して使用する必要がある。
【0184】
シランカップリング剤処理層を形成する浴としては、例えば以下に示す様な組成、条件が挙げられるが特にこれに限定されるものではない。
【0185】
(浴組成、条件)
γ-アミノプロピルトリエトキシシラン:1~5mL/L(特に好ましくは2~4mL/L)
液温:25~35℃(特に好ましくは28~32℃)
浸漬時間:15秒。
【0186】
(銅張積層板の製造方法)
本実施形態の銅張積層板は、例えば、上述したような樹脂組成物を含むプリプレグを一枚または複数枚重ね、さらにその上下の両面又は片面に上述したような銅箔を、前記シランカップリング剤層がプリプレグと接するようにして重ね、これを加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面銅箔張り又は片面銅箔張りの積層板を作製することができる。
【0187】
加熱加圧条件は、製造する積層板の厚みや樹脂組成物の種類等により適宜設定することができるが、例えば、温度を170~220℃、圧力を1.5~5.0MPa、時間を60~150分間とすることができる。
【0188】
<樹脂付銅箔>
本実施形態の樹脂付銅箔31は、上述の通り、樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層32と、その樹脂層の片面に設けられた銅箔13とが積層されている構成を有する(
図4参照)。すなわち、本実施形態の樹脂付銅箔は、硬化前の樹脂組成物(Aステージの樹脂組成物)を含む樹脂層と、銅箔とを備える樹脂付銅箔であってもよいし、樹脂組成物の半硬化物(Bステージの樹脂組成物)を含む樹脂層と、銅箔とを備える樹脂付銅箔であってもよい。
【0189】
樹脂層に用いる樹脂組成物、および銅箔としては、上記銅張積層板で説明したものと同様のものを使用することができる。
【0190】
なお、本実施形態の樹脂付銅箔において、樹脂組成物またはその半硬化物は、前記樹脂組成物を乾燥または加熱乾燥したものであってもよい。
【0191】
樹脂付銅箔を製造する方法としては、例えば、上記で得られた樹脂ワニスを銅箔のシランカップリング剤層を形成した表面に塗布した後、乾燥することにより、樹脂組成物を半硬化させる方法等が挙げられる。
【0192】
樹脂付銅箔が有する樹脂層は、通常、ガラス基材を含んでいないため、樹脂ワニスの銅箔への適用は、塗布等によって行われるが、それは必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂ワニスを用いて塗布を繰り返し、最終的に希望とする組成(含有比)及び樹脂量に調整することも可能である。
【0193】
樹脂ワニスを塗布した後、半硬化状態にする場合は、所望の加熱条件、例えば、80~170℃で1~10分間加熱して、硬化前の樹脂組成物を含む樹脂層(Aステージ)又は半硬化状態の樹脂層(Bステージ)が得られる。樹脂ワニスを塗布した(プリプレグの場合は、樹脂ワニスを含浸させた)後、加熱によって、ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させことができる。
【0194】
本実施形態の樹脂付銅箔も、上述の銅張積層板と同様の効果および利点を有する。
【0195】
<回路基板>
本実施形態の銅張積層板および樹脂付銅箔は、表面の銅箔をエッチング加工等して回路形成をすることによって、
図3に示すような、表面に回路14として導体パターンを設けた回路基板21として使用することができる。回路形成する方法としては、上記記載の方法以外に、例えば、セミアディティブ法(SAP:Semi Additive Process)やモディファイドセミアディティブ法(MSAP:Modified Semi Additive Process)による回路形成等が挙げられる。本実施形態の銅張積層板および樹脂付銅箔を用いて得られる回路基板は、耐熱性を備えつつ、伝送損失が低減された、信頼性の高い回路基板である。
【0196】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下にまとめる。
【0197】
本発明の一態様に係る銅張積層板は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層の片面又は両面に表面処理銅箔とを備える銅張積層板であって、前記樹脂組成物が、分子中に下記式(1)で表される構造単位を有する重合体を含むこと、
【化21】
(式(1)中、Zは、アリーレン基を示し、R
1~R
3は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、R
4~R
6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。)
並びに、前記表面処理銅箔が、銅箔の少なくとも一方の面側に銅の微細粗化粒子処理層を有する表面処理銅箔であって、前記微細粗化粒子処理層が粒子径40~200nmの微細銅粒子で構成されており、前記微細粗化粒子処理層上にニッケルを含む耐熱処理層を有し、前記耐熱処理層上に少なくともクロムを含む防錆処理層を有し、前記防錆処理層上にシランカップリング剤層を有し、かつ、前記耐熱処理層中のニッケル付着量が30~60mg/m
2であることを特徴とする。
【0198】
このような構成により、高速信号伝送基板の伝送損失を低減させることができ、かつ、密着性と耐熱性に優れる銅張積層板を提供することができる。
【0199】
また、前記樹脂組成物において、前記式(1)で表される構造単位が、下記式(2)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0200】
【化22】
式(2)中、R
4~R
6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し、R
7は、炭素数6~12のアリーレン基を示す。
【0201】
このような構成によれば、誘電特性がより低く、かつ、耐熱性のより高い絶縁層を有する銅張積層板が得られる。
【0202】
また、前記樹脂組成物において、前記式(2)で表される構造単位が、下記式(3)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0203】
【化23】
式(3)中、R
4~R
6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。
【0204】
このような構成によれば、誘電特性がより低く、かつ、耐熱性のより高い絶縁層を有する銅張積層板が得られる。
【0205】
また、前記樹脂組成物において、前記重合体が、下記式(4)で表される構造単位を分子中にさらに有する重合体を含むことが好ましい。
【0206】
【化24】
式(4)中、R
8~R
10は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し、R
11は、アリール基を示す。
【0207】
このような構成によれば、誘電特性がより低く、かつ、耐熱性のより高い絶縁層を有する銅張積層板が得られる。
【0208】
また、前記樹脂組成物において、前記式(4)で表される構造単位におけるアリール基が、炭素数1~6のアルキル基を有するアリール基を含むことが好ましい。
【0209】
このような構成によれば、誘電特性がより低く、かつ、耐熱性のより高い絶縁層を有する銅張積層板が得られる。
【0210】
また、前記樹脂組成物において、前記重合体の重量平均分子量が、1500~40000であることが好ましい。
【0211】
このような構成によれば、誘電特性がより低く、かつ、耐熱性のより高い絶縁層を有する銅張積層板が得られる。
【0212】
また、前記樹脂組成物において、前記重合体の、前記式(1)で表され、R1~R3が水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量が、250~1200であることが好ましい。
【0213】
このような構成によれば、誘電特性がより低く、かつ、耐熱性のより高く、成型性に優れた絶縁層を有する銅張積層板が得られる。
【0214】
前記銅張積層板において、前記樹脂組成物が、上述の式(5)または(6)で表される基で末端変性された、変性ポリフェニレンエーテル化合物を含むことが好ましい。それにより、さらに優れた低誘電特性を得ることができる。
【0215】
また、前記表面処理銅箔において、前記耐熱処理層がニッケルまたはニッケルとリンとで構成されていることが好ましい。それにより、上述したような効果をより確実に得ることができる。
【0216】
本発明のさらなる態様に係る樹脂付銅箔は、上述したような樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、前記樹脂層の片面に上述の表面処理銅箔とを備えることを特徴とする。
【0217】
さらに、本発明には、上記銅張積層板または上記樹脂付銅箔を備え、その表面に回路としての導体パターンを有する回路基板も包含される。
【0218】
また、本発明には、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層の片面又は両面に表面処理銅箔とを備える銅張積層板における前記絶縁層形成用の樹脂組成物であって、分子中に下記式(1)で表される構造単位を有する重合体を含むこと、
【化25】
(式(1)中、Zは、アリーレン基を示し、R
1~R
3は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、R
4~R
6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。)
並びに、
前記表面処理銅箔が、銅箔の少なくとも一方の面側に銅の微細粗化粒子処理層を有する表面処理銅箔であって、前記微細粗化粒子処理層が粒子径40~200nmの微細銅粒子で構成されており、前記微細粗化粒子処理層上にニッケルを含む耐熱処理層を有し、
前記耐熱処理層上に少なくともクロムを含む防錆処理層を有し、前記防錆処理層上にシランカップリング剤層を有し、かつ、前記耐熱処理層中のニッケル付着量が30~60mg/m
2であることを特徴とする樹脂組成物をも包含される。
【0219】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0220】
まず、本実施例において、樹脂組成物を調製する際に用いる各成分について説明する。
【0221】
・変性PPE1
ポリフェニレンエーテルと、クロロメチルスチレンとを反応させて変性ポリフェニレンエーテル1(変性PPE1)を得た。
【0222】
具体的には、まず、温度調節器、攪拌装置、冷却設備、及び滴下ロートを備えた1リットルの3つ口フラスコに、ポリフェニレンエーテル(ポリフェニレンエーテル、SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA90、末端水酸基数2個、重量平均分子量Mw1700)200g、p-クロロメチルスチレンとm-クロロメチルスチレンとの質量比が50:50の混合物(東京化成工業株式会社製のクロロメチルスチレン:CMS)30g、相間移動触媒として、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド1.227g、及びトルエン400gを仕込み、攪拌した。そして、ポリフェニレンエーテル、クロロメチルスチレン、及びテトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイドが、トルエンに溶解するまで攪拌した。その際、徐々に加熱し、最終的に液温が75℃になるまで加熱した。そして、その溶液に、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム20g/水20g)を20分間かけて、滴下した。その後、さらに、75℃で4時間攪拌した。次に、10質量%の塩酸でフラスコの内容物を中和した後、多量のメタノールを投入した。そうすることによって、フラスコ内の液体に沈殿物を生じさせた。すなわち、フラスコ内の反応液に含まれる生成物を再沈させた。そして、この沈殿物をろ過によって取り出し、メタノールと水との質量比が80:20の混合液で3回洗浄した後、減圧下、80℃で3時間乾燥させた。そして、重量平均分子量(Mw)2300の末端ビニルベンゼン変性PPE(変性PPE1)を得た。
【0223】
得られた固体を、1H-NMR(400MHz、CDCl3、TMS)で分析した。NMRを測定した結果、5~7ppmにエテニルベンジルに由来するピークが確認された。これにより、得られた固体が、エテニルベンジル化されたポリフェニレンエーテルであることが確認できた。
【0224】
・変性PPE2
ポリフェニレンエーテルとして、後述するポリフェニレンエーテルを用い、後述の条件にしたこと以外、変性PPE1の合成と同様の方法で合成した。
【0225】
用いたポリフェニレンエーテルは、SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA120(固有粘度(IV)0.125dl/g、末端水酸基数1個、重量平均分子量Mw3100)であった。
【0226】
次に、ポリフェニレンエーテルと、クロロメチルスチレンとの反応は、前記ポリフェニレンエーテル(SA120)を200g、CMSを15g、相間移動触媒(テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド)を0.92g用い、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム20g/水20g)の代わりに、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム10g/水10g)を用いたこと以外、変性PPE1の合成と同様の方法で合成することによって、重量平均分子量(Mw)3300の末端ビニルベンゼン変性PPE(変性PPE2)を得た。
【0227】
そして、得られた固体を、1H-NMR(400MHz、CDCl3、TMS)で分析した。NMRを測定した結果、5~7ppmにエテニルベンジルに由来するピークが確認された。これにより、得られた固体が、エテニルベンジル化されたポリフェニレンエーテルであることが確認できた。
【0228】
・SA9000:SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA9000(末端メタクリル基変性PPE、重量平均分子量(Mw)2000)
【0229】
・SA90:SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA90(未変性PPE、重量平均分子量(Mw)1700)
【0230】
・重合体1:下記方法によって得られた重合体である。
【0231】
ジビニルベンゼン2.9モル(377g)、エチルビニルベンゼン1.7モル(224.4g)、スチレン10.4モル(1081.6g)、及び酢酸n-プロピル15モル(1532g)を、5.0Lの反応器内に投入し、攪拌した。この攪拌により得られた混合物を70℃まで加温した後に、600ミリモルの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を添加し、さらに、70℃で4時間攪拌することによって、ジビニルベンゼンとエチルビニルベンゼンとスチレンとを反応させた。その後、前記反応器内の反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して、前記反応を停止させた。前記添加によって分離された有機層を純水で3回洗浄した。この洗浄した有機層を60℃で減圧脱揮することによって、重合体1を得た。
【0232】
得られた重合体1は、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体[炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に2つ結合した2官能芳香族化合物に由来の構造単位を有する芳香族重合体であり、上記式(5)~(7)で表される構造単位を有する化合物、重量平均分子量Mw:26300、ビニル当量(前記式(1)で表され、R1~R3が水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量):510]であった。
【0233】
・重合体2:下記方法によって得られた重合体である。
【0234】
ジビニルベンゼン3.6モル(468g)、エチルビニルベンゼン2.2モル(290.4g)、スチレン9.2モル(956.8g)、及び酢酸n-プロピル15モル(1532g)を、5.0Lの反応器内に投入し、攪拌した。この攪拌により得られた混合物を70℃まで加温した後に、600ミリモルの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を添加し、さらに、70℃で4時間攪拌することによって、ジビニルベンゼンとエチルビニルベンゼンとスチレンとを反応させた。その後、前記反応器内の反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して、前記反応を停止させた。そして、前記添加によって分離された有機層を純水で3回洗浄した。この洗浄した有機層を60℃で減圧脱揮することによって、重合体2を得た。
【0235】
得られた重合体2は、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体[炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に2つ結合した2官能芳香族化合物に由来の構造単位を有する芳香族重合体であり、上記式(5)~(7)で表される構造単位を有する化合物、重量平均分子量Mw:31100、ビニル当量(前記式(1)で表され、R1~R3が水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量):380]であった。
【0236】
・重合体3:下記方法によって得られた重合体である。
【0237】
ジビニルベンゼン3.9モル(507g)、エチルビニルベンゼン2.3モル(303.6g)、スチレン8.8モル(915.2g)、及び酢酸n-プロピル15モル(1532g)を、5.0Lの反応器内に投入し、攪拌した。この攪拌により得られた混合物を70℃まで加温した後に、600ミリモルの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を添加し、さらに、70℃で4時間攪拌することによって、ジビニルベンゼンとエチルビニルベンゼンとスチレンとを反応させた。その後、前記反応器内の反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して、前記反応を停止させた。そして、前記添加によって分離された有機層を純水で3回洗浄した。この洗浄した有機層を60℃で減圧脱揮することによって、重合体3を得た。
【0238】
得られた重合体3は、分子中に前記式(1)で表される構造単位を有する重合体[炭素-炭素不飽和二重結合を芳香族環に2つ結合した2官能芳香族化合物に由来の構造単位を有する芳香族重合体であり、上記式(5)~(7)で表される構造単位を有する化合物、重量平均分子量Mw:39500、ビニル当量(前記式(1)で表され、R1~R3が水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量):320]であった。
【0239】
なお、重合体1~3の、前記式(1)で表され、R1~R3が水素原子である構造単位に含まれるビニル基の当量(ビニル当量)は、ウィイス法によるヨウ素価測定により算出した。具体的には、まず、測定対象物である化合物を、濃度が0.3g/35mL~0.3g/25mLとなるようにクロロホルムに溶解させた。この溶液中に存在する二重結合に対して、過剰量の塩化ヨウ素を添加した。そうすることによって、二重結合と塩化ヨウ素とが反応し、この反応が充分に進行した後、その反応後の溶液に20質量%のヨウ化カリウム水溶液を添加することによって、反応後の溶液に残存するヨウ素分がI3
-の形で水相に抽出された。このI3
-が抽出された水相を、チオ硫酸ナトリウム水溶液(0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム標準溶液)により滴定し、ヨウ素価を算出した。ヨウ素価の算出には、下記式を用いた。
【0240】
ヨウ素価=[(B-A)×F×1.269]/化合物の質量(g)
前記式中、Bは、空試験に要した0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム標準溶液の滴定量(cc)を示し、Aは、中和に要した0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム標準溶液の滴定量(cc)を示し、Fは、チオ硫酸ナトリウムの力価を示す。
【0241】
・硬化剤1:TAIC(トリアリルイソシアヌレート、日本化成株式会社製)
【0242】
・硬化剤2:アセナフチレン(JFEケミカル株式会社製)
【0243】
・硬化剤3:ジブロモスチレン(富士フィルム和光純薬株式会社製)
【0244】
・反応開始剤:パーブチルP:1,3-ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油株式会社製のパーブチルP)
【0245】
<表面処理銅箔の作成>
(表面処理銅箔1)
前処理として、100g/L硫酸水溶液中で陰極に銅板、陽極に上記未処理銅箔を使用し電流密度5A/dm2で6秒間電解を行い、未処理銅箔表面の酸化層除去及び活性化を行った。
【0246】
次いで、以下に示す浴組成、電解条件で処理することで、該未処理銅箔のラミネート面側に銅の微細粗化粒子処理層を形成させた。
【0247】
(浴組成)
硫酸銅五水和物 35g/L
ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム 100g/L
pH4.8
【0248】
(電解条件)
電流密度:6A/dm2
電気量:50A・sec/dm2
液温:30℃
電極:銅板
【0249】
得られた微細粗化粒子処理層を、電界放射型走査電子顕微鏡FE-SEM(日本電子製JSM-7800F)を使用し、試料台を40°傾斜させながら倍率80,000倍で観察した。その結果観察された銅粒子の高さを粒子径の値として、前記微細粗化粒子処理層における粗化粒子の粒子径は、最小値40nm、最大値200nmであった。
【0250】
次いで、水洗後、二層目表面処理層である耐熱処理層を、以下に示す浴組成、電解条件で処理することで形成させた。
【0251】
(浴組成)
硫酸ニッケル六水和物 30g/L
酢酸ナトリウム三水和物 10g/L
次亜リン酸ナトリウム一水和物 2.0g/L
【0252】
(電解条件)
電流密度:1.6A/dm2
電気量:2.7A・sec/dm2
pH4.5
液温:32℃
陽極:白金族酸化物被覆チタン板
【0253】
得られた耐熱処理層におけるニッケル付着量は、被処理銅箔を硝酸で溶解、希釈してICP発光分光分析装置によりニッケルの濃度を分析することによって測定した。その結果、ニッケル付着量は56mg/m2であった。
【0254】
次いで、水洗後、三層目表面処理層となる防錆処理層を、以下に示す電解浴組成、pH、電解条件で処理を施した。
【0255】
(浴組成)
重クロム酸ナトリウム:10g/L
亜鉛イオン:1.0g/L
水酸化ナトリウム:40g/L
液温:30℃
【0256】
(電解条件)
電流密度:4A/dm2
電気量:5.5A・sec/dm2
陽極:白金族酸化物被覆チタン板
【0257】
次いで、水洗後、四層目表面処理層となるシランカップリング剤処理層を、以下に示す浴組成、液温、浸漬時間で処理を施すことにより形成し、実施例1の表面処理銅箔を得た。
【0258】
(浴組成)
γ-アミノプロピルトリエトキシシラン 2mL/L
液温:30℃
浸漬時間:15秒
【0259】
(表面処理銅箔2)
二層目の耐熱処理層を、以下に示す浴組成、電解条件で処理することで形成させた以外は、表面処理銅箔1と同様にして、表面処理銅箔2を得た。得られた耐熱処理層におけるニッケル付着量は32mg/m2であった。
【0260】
(浴組成)
硫酸ニッケル六水和物 30g/L
酢酸ナトリウム三水和物 10g/L
次亜リン酸ナトリウム一水和物 2.0g/L
pH4.5
【0261】
(電解条件)
電流密度:1.0A/dm2
電気量:1.8A・sec/dm2
液温:32℃
電極:白金族酸化物被覆チタン板
【0262】
(表面処理銅箔3)
二層目の耐熱処理層を設けなかったこと以外は、表面処理銅箔1と同様にして、表面処理銅箔3を得た。得られた表面処理銅箔3におけるニッケル付着量は0mg/m2であった。
【0263】
(表面処理銅箔4)
二層目の耐熱処理層を、以下に示す浴組成、電解条件で処理することで形成させた以外は、表面処理銅箔1と同様にして、表面処理銅箔4を得た。得られた耐熱処理層におけるニッケル付着量は82mg/m2であった。
【0264】
(浴組成)
硫酸ニッケル六水和物 30g/L
酢酸ナトリウム三水和物 10g/L
次亜リン酸ナトリウム一水和物 2.0g/L
【0265】
(電解条件)
電流密度:2.1A/dm2
電気量:3.6A・sec/dm2
pH4.5
液温:32℃
陽極:白金族酸化物被覆チタン板
【0266】
(表面処理銅箔5)
福田金属箔粉工業株式会社製「T4X-SV」を、表面処理銅箔5として使用した。この表面処理銅箔の耐熱処理層におけるニッケル付着量は106mg/m2であった。
【0267】
(表面処理銅箔6)
一層目の微細粗化粒子処理層を、以下に示す浴組成、電解条件で処理することで形成させた以外は、表面処理銅箔1と同様にして、表面処理銅箔6を得た。得られた微細粗化粒子処理層における粗化粒子の粒子径は、最小値700nm、最大値1400nmであった。また、得られた耐熱処理層におけるニッケル付着量は32mg/m2であった。
【0268】
(浴組成)
浴(1) 硫酸銅五水和物 47g/L
硫酸100g/L
浴(2) 硫酸銅五水和物 200g/L
硫酸100g/L
【0269】
(電解条件)
浴(1)にて電流密度50A/dm2、電気量130A・sec/dm2、液温30℃の電解条件にて電解して微細銅粒子を付着させた後、さらに浴(2)にて電流密度5A/dm2、電気量400A・sec/dm2、液温40℃の電解条件にて電解することで微細粗化粒子処理層を形成した。
【0270】
(表面処理銅箔7)
二層目の耐熱処理層を、以下に示す浴組成、電解条件で処理することで形成させ、さらに防錆処理層を形成しなかったこと以外は、表面処理銅箔1と同様にして、表面処理銅箔7を得た。得られた耐熱処理層におけるニッケル付着量は42mg/m2であった。
【0271】
(浴組成)
硫酸ニッケル六水和物 30g/L
酢酸ナトリウム三水和物 10g/L
次亜リン酸ナトリウム一水和物 2.0g/L
【0272】
(電解条件)
電流密度:1.3A/dm2
電気量:2.3A・sec/dm2
pH4.5
液温:32℃
陽極:白金族酸化物被覆チタン板
【0273】
<実施例1~12および比較例1~8の銅張積層板の作成>
まず、開始剤以外の上記各成分を表1および2に記載の組成(質量部)で、固形分濃度が65質量%となるように、トルエンに添加し、混合させた。その混合物を60分間攪拌した。そして、開始剤である1,3-ビス(ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油株式会社製のパーブチルP)を表1に記載の配合割合で添加することによって、各実施例および比較例のワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)を得た。この樹脂ワニスを使用して、以下の評価用基板を作製した。
【0274】
(耐熱性評価用基板)
実施例および比較例で得られた樹脂ワニスをそれぞれガラス基材(♯2116タイプ、「Lガラス」(旭化成株式会社製、比誘電率4.6)に含浸させた後、130℃で約3~8分間加熱乾燥することによりプリプレグを得た。その際、ポリフェニレンエーテル、及び架橋剤等の樹脂成分の含有量(レジンコンテント)が約50質量%となるように調整した。
【0275】
そして、得られた各プリプレグを6枚重ねて積層し、それぞれ表1に示す銅箔を両面に重ねて、温度200℃、2時間、圧力3MPaの条件で加熱加圧することにより、750μmの厚みの評価用銅張積層板を得た。
【0276】
[オーブン耐熱試験]
得られた銅箔張積層板を用いて、JIS C 6481に準じて作製した試験片を、250℃、260℃、280℃、及び300℃に設定した空気循環装置付き恒温槽中で一時間処理したときに、試験片5枚中全て異常がなかったものを「PASS」、試験片5枚中1枚以上のサンプルにおいて「ふくれ」又は「はがれ」が生じたものを「NG」と判定した。本試験においては、280℃で「PASS」の評価を得たサンプルを合格とする。
【0277】
[ガラス転移温度(Tg)]
上記銅張積層板の外層銅箔を全面エッチングし、得られたサンプルについて、セイコーインスツルメンツ株式会社製の粘弾性スペクトロメータ「DMS6100」を用いて、Tgを測定した。このとき、3点曲げモードで、周波数を10Hzとして動的粘弾性測定(DMA)を行い、昇温速度5℃/分の条件で室温から320℃まで昇温した際のtanδが極大を示す温度をTgとした。
【0278】
(伝送特性評価用基板)
実施例および比較例で得られた樹脂ワニスをそれぞれガラス基材(♯1078タイプ、「Lガラス」(旭化成株式会社製、比誘電率4.6)に含浸させた後、130℃で約3~8分間加熱乾燥することによりプリプレグを得た。その際、ポリフェニレンエーテル、及び架橋剤等の樹脂成分の含有量(レジンコンテント)が約60質量%となるように調整した。
【0279】
そして、得られた各プリプレグを2枚重ねて積層し、それぞれ表1に示す銅箔を両面に重ねて、温度200℃、2時間、圧力3MPaの条件で加熱加圧することにより、150μmの厚みの評価用銅張積層板を得た。
【0280】
[伝送損失評価試験]
得られた両面板の片面を線幅100~200μmで加工した後、加工面を挟むようにさらにプリプレグ2枚を2次積層し、3層板を作製した。線幅は仕上がり後、回路の特性インピーダンスが50Ωとなるように調整した。
【0281】
得られた積層板について、伝送特性はネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー社製 N5230A)を用いて通過損失を評価した。なお、評価周波数は20GHzであった。
【0282】
以上の試験結果を表3および表4に示す。
【0283】
【0284】
【0285】
表3の結果から明らかなように、本発明の表面処理銅箔および樹脂組成物を用いた積層板では、優れた耐熱性を有し、かつ、伝送特性にも非常に優れていることが確認された。
【0286】
また、本発明の重合体と変性ポリフェニレンエーテル化合物を併用した樹脂組成物を用いた場合には、より高いTgが得られることもわかった。
【0287】
これに対し、本発明の樹脂組成物を使用しなかった比較例1~3においては、伝送損失が実施例よりも劣る結果となった。また、表面処理銅箔の耐熱処理層におけるニッケル付着量が0であった比較例4では、耐熱性を得ることができなかった。一方で、耐熱処理層におけるニッケル付着量が過剰となっていた比較例5および比較例6では、伝送特性は不十分であった。
【0288】
また、微細粗化粒子処理層における銅粒子サイズが大きかった比較例7では、伝送特性に劣り、耐熱性も十分とは言い難い結果となった。防錆処理層を形成しなかった比較例8でも十分な耐熱性を得ることはできなかった。
【0289】
この出願は、2019年5月15日に出願された日本国特許出願特願2019-092354を基礎とするものであり、その内容は本願に含まれる。
【0290】
本発明を表現するために、前述において具体例や図面等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0291】
本発明は、電子材料や電子デバイス等の技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。