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特許7582727チョウザメ卵を含む混合物の高圧処理物からなる組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】チョウザメ卵を含む混合物の高圧処理物からなる組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/98 20060101AFI20241106BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20241106BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 35/60 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A61K8/98
A61K8/34
A61Q19/08
A61K35/60
A61P29/00
A61P17/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024101665
(22)【出願日】2024-06-25
【審査請求日】2024-06-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504406014
【氏名又は名称】株式会社粧薬研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100145126
【弁理士】
【氏名又は名称】金丸 清隆
(72)【発明者】
【氏名】若命 浩二
(72)【発明者】
【氏名】小山 直文
(72)【発明者】
【氏名】瀬崎 卓也
(72)【発明者】
【氏名】野中 佐智子
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-127328(JP,A)
【文献】特開2009-256223(JP,A)
【文献】特開2014-159493(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0126316(KR,A)
【文献】韓国登録特許第1211652(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 35/60
A61P 29/00
A61P 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョウザメ卵と1,3-ブチレングリコールとの混合物の高圧処理物からなる組成物であって、下記の(a)、(b)および(c)からなる群より選択される1または2以上の組成物;
(a)抗炎症組成物、
(b)美肌促進組成物、
(c)育毛組成物。
【請求項2】
化粧料組成物である、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョウザメ卵を含む混合物の高圧処理物からなる組成物に関し、詳細には、チョウザメ卵と1,3-ブチレングリコールとの混合物の高圧処理物からなる組成物であって、抗炎症組成物、美肌促進組成物および育毛組成物からなる群より選択される1または2以上の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
チョウザメとは、チョウザメ(Acipenser)属、ダウリアチョウザメ(Huso)属、シャベルノーズスタージョン(Scaphirhynchus)属およびプセウドスカフィリンクス(Pseudoscaphirhynchus)属を含む、チョウザメ(Acipenseridae)科の多数の魚種についての慣用名である。高級食材として重宝されているキャビアは、一般には、チョウザメ(Acipenser)属またはダウリアチョウザメ(Huso)属に属する雌のチョウザメの卵巣からの無精卵または卵を塩漬けしたものを指す。
【0003】
昨今、魚卵を原料とする化粧料が用いられている。その多くは、加水分解物や有機溶媒を用いた抽出物である。そのような魚卵としては、高級食材の原料となるチョウザメの卵も利用されており、例えば、1,3-ブチレングリコールと水との混合溶媒を用いて抽出したチョウザメ卵抽出物や、30℃で水に任意の割合では相溶しない有機溶媒を用いてリン脂質を除いた後に1,3-ブチレングリコールを用いて抽出したチョウザメ卵抽出液が存在する(特許文献1,2)。また、魚卵を原料とする化粧料ではないものの、胎盤を高圧処理して得られたプラセンタエキスが存在する(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5210513号
【文献】特許第5561912号
【文献】特許第6117456号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2には、1,3-ブチレングリコールのみを溶媒として用いて抽出したチョウザメ卵抽出物やチョウザメ卵抽出液については、比較例としてすら開示されておらず、示唆もない。従って、特許文献1または特許文献2と特許文献3とを組み合わせたとしても、チョウザメ卵と1,3-ブチレングリコールとの混合物の高圧処理物からなる組成物に想到することはできない。
【0006】
本発明は、チョウザメ卵と1,3-ブチレングリコールとの混合物の高圧処理物からなる組成物であって、マクロファージ増殖促進組成物、抗炎症組成物、ヒト線維芽細胞増殖促進組成物、ヒト表皮ケラチノサイト増殖促進組成物、美肌促進組成物および育毛組成物からなる群より選択される1または2以上の組成物、ならびに化粧料組成物を提供することを目的とし、特に、チョウザメ卵と1,3-ブチレングリコールとの混合物の高圧処理物からなる組成物であって、マクロファージの増殖を促進させるとともに、炎症性サイトカインおよび/またはNO合成酵素が起因する炎症を抑制する抗炎症組成物;ヒト線維芽細胞あるいはヒト表皮ケラチノサイトの増殖を促進させるとともに、表皮や真皮においてヒアルロン酸の合成を促し、皮膚の張りを保ち、皮膚の結合力を強固にし、皮膚のバリア機能を向上させ、皮膚表面の強度や保水機能を高め、あるいは、皮膚の抗老化を促す美肌促進組成物;ヒト表皮ケラチノサイトの増殖を促進させるとともに、皮膚表面の強度を向上させ、育毛を促す育毛組成物;ならびにそれらの化粧料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、チョウザメ卵と1,3-ブチレングリコールとの混合物の高圧処理物からなる組成物が、マクロファージ増殖促進効果、抗炎症効果、ヒト線維芽細胞増殖促進効果、ヒト表皮ケラチノサイト増殖促進効果、美肌促進効果、あるいは育毛効果を奏することを見いだし、下記の各発明を完成した。
【0008】
(1)チョウザメ卵と1,3-ブチレングリコールとの混合物の高圧処理物からなる組成物であって、下記の(a)、(b)および(c)からなる群より選択される1または2以上の組成物;
(a)抗炎症組成物、
(b)美肌促進組成物、
(c)育毛組成物。
【0009】
(2)チョウザメ卵と1,3-ブチレングリコールとの混合物の高圧処理物からなる組成物であって、下記の(d)、(e)および(f)からなる群より選択される1または2以上の組成物;
(d)マクロファージ増殖促進組成物、
(e)ヒト線維芽細胞増殖促進組成物、
(f)ヒト表皮ケラチノサイト増殖促進組成物。
【0010】
(3)化粧料組成物である、(1)または(2)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る高圧処理物からなる組成物や化粧料組成物によれば、マクロファージ、ヒト線維芽細胞、あるいは、ヒト表皮ケラチノサイトの増殖を促進させることができるとともに、特に炎症性サイトカインおよび/またはNO合成酵素が起因する炎症を抑制し、表皮や真皮においてヒアルロン酸の合成を促し、皮膚の張りを保ち、皮膚の結合力を強固にし、皮膚のバリア機能を向上させ、皮膚表面の強度や保水機能を高め、皮膚の抗老化を促し、あるいは、皮膚表面の強度を向上させるとともに育毛を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】コントロール、ならびに、高圧処理物である(1)試料1、(2)試料2、(3)試料3および(4)試料4についての、マクロファージ(RAW264.7細胞)の増殖率(%)を示す棒グラフ図である。
図1B】コントロール、ならびに、高圧処理物である(1)試料5および(2)試料6についての、マクロファージ(RAW264.7細胞)の増殖率を示す棒(%)グラフ図である。
図2】コントロール、ならびに、高圧処理物ではない(1)試料7、(2)試料8および(3)試料9についての、マクロファージ(RAW264.7細胞)の増殖率を示す棒グラフ図である。
図3】コントロール、試料2、試料3および試料5についての、それらの濃度(μg/mL)とマクロファージの増殖率(%)との関係を示す折れ線グラフ図である。
図4】コントロール、LPS(lipopolysaccharide;大腸菌由来リポ多糖)、試料2、試料3、試料5、LPS+試料2、LPS+試料3、LPS+試料5についての、マクロファージ(RAW264.7細胞)における(1)TNF-αmRNAの発現量、(2)iNOSmRNAの発現量および(3)IL-6mRNAの発現量を示す棒グラフ図である。
図5】コントロール、試料2、試料3および試料5についての、それらの濃度(μg/mL)とヒト線維芽細胞の増殖率(%)との関係を示す折れ線グラフ図である。
図6】コントロール、試料2、試料3および試料5についての、ヒト線維芽細胞における(1)HAS1mRNAの発現量および(2)HAS3mRNAの発現量を示す棒グラフ図である。
図7】コントロール、試料2、試料3および試料5についての、ヒト線維芽細胞における(1)COL1A1mRNAの発現量および(2)COL7A1mRNAの発現量を示す棒グラフ図である。
図8】コントロール、試料2、試料3および試料5についての、それらの濃度(μg/mL)とヒト表皮ケラチノサイトの増殖率(%)との関係を示す折れ線グラフ図である。
図9】コントロール、試料2、試料3および試料5についての、ヒト表皮ケラチノサイトにおける(1)OCLNmRNAの発現量および(2)FLGmRNAの発現量を示す棒グラフ図である。
図10】コントロール、試料2、試料3および試料5についての、ヒト表皮ケラチノサイトにおける(1)AQP3mRNAの発現量および(2)TGM1mRNAの発現量を示す棒グラフ図である。
図11】コントロール、試料2、試料3および試料5についての、ヒト表皮ケラチノサイトにおけるSIRT1mRNAの発現量を示す棒グラフ図である。
図12】コントロール、試料2、試料3および試料5についての、ヒト表皮ケラチノサイトにおけるCOL17A1mRNAの発現量を示す棒グラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る剤について詳細に説明する。本発明に係る組成物は、チョウザメ卵と1,3-ブチレングリコールとの混合物の高圧処理物からなる組成物であって、マクロファージ増殖促進組成物、抗炎症組成物、ヒト線維芽細胞増殖促進組成物、ヒト表皮ケラチノサイト増殖促進組成物、美肌促進組成物および育毛組成物からなる群より選択される1または2以上の組成物である。
【0014】
本発明において用いられるチョウザメ卵は、チョウザメ目のチョウザメ科に分類される魚の卵であればよく、例えば、チョウザメ(Acipenser)属、ダウリアチョウザメ(Huso)属、シャベルノーズスタージョン(Scaphirhynchus)属およびプセウドスカフィリンクス(Pseudoscaphirhynchus)属に属する魚の卵を挙げることができ、天然か養殖かを問わないが、ワシントン条約遵守の観点から養殖が好ましい。また、チョウザメからどのような手法により取り出された卵であるかは問われず、チョウザメを切開して取り出された卵やチョウザメから搾取された卵等、当業者において適宜選択可能な手法により取り出された卵であればよい。さらに、本発明に係る組成物の調製には、チョウザメから取り出された卵をそのまま用いてもよく、生理食塩水等で洗浄した卵や、本発明の特徴や効果を損なわない範囲で加工した卵を用いてもよい。あるいはそれらの卵を冷凍して保存した後、解凍して用いてもよい。
【0015】
本発明において用いられる1,3-ブチレングリコール(1,3-Butylene Glycol)は、別名を1,3-ブタンジオール(1,3-Butanediol)または1,3-ジヒドロキシブタン(1,3-Dihydroxybutane)といい、「BG」と略されることがある二価アルコールである。分子式はC10であり、アセトアルデヒドから合成することができる。1,3-ブチレングリコールは化粧品や医薬品(外用剤)に用いられており、化粧品用途の目的としては、角層水分量増加による保湿や防腐補助、溶剤としての使用を挙げることができ、医薬品(外用剤)用途の目的としては、基剤としての使用、抗酸化、湿潤、粘稠、溶剤としての使用、溶解補助を挙げることができる。
【0016】
本発明において、「チョウザメ卵と濃度が100%(v/v)の1,3-ブチレングリコールとの混合物」は、チョウザメ卵と濃度が100%(v/v)の1,3-ブチレングリコールとを混合してなる混合物(チョウザメ卵と濃度が100%(v/v)の1,3-ブチレングリコールとからなる混合物)の他、チョウザメ卵と、濃度が100%(v/v)の1,3-ブチレングリコールと、本発明の特徴や効果を損なわない範囲で添加可能な物質との混合物が含まれることが好ましい。そのような場合の、本発明の特徴や効果を損なわない範囲で添加可能な物質としては特に限定されないが、例えば、エタノール、ブタノール、プロパノール等の1価アルコール類;プロピレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,4-ペンタンジオール等の2価アルコール類;グリセリン等の多価アルコール類;水分等が考えられる。
【0017】
本発明において、「高圧処理物」とは、上述した所定の混合物が高圧処理された物質をいう。本発明における「高圧処理」とは高圧を加える処理をいい、本発明における「高圧」は50MPa以上の圧力であれば特に限定されないが、50MPa以上400MPa以下の圧力であることが好ましく、60MPa以上300MPa以下の圧力であることがより好ましく、70MPa以上250MPa以下の圧力であることがさらに好ましく、80MPa以上200MPa以下の圧力であることがよりさらに好ましく、90MPa以上150MPa以下の圧力であることがもっとも好ましい。なお、本願明細書実施例においては、100MPaの圧力を好適な圧力として選択している。
【0018】
また、「高圧処理」における温度条件としては、常温以上であって、かつ、タンパク質が凝集して不可逆とならない温度条件であれば特に限定されないが、30℃以上80℃未満の温度条件であることが好ましく、35℃以上75℃以下の温度条件であることがより好ましく、40℃以上70℃以下の温度条件であることがさらに好ましく、45℃以上65℃以下の温度条件であることがよりさらに好ましく、50℃以上60℃以下の温度条件であることがもっとも好ましい。なお、本願明細書実施例においては、55℃の温度条件を好適な温度条件として選択している。
【0019】
また、「高圧処理」に要する時間は、処理の対象である混合物の量や得られる処理物の量の設定に応じて、適宜選択することができる。
【0020】
「抗炎症組成物」とは、炎症を抑制する組成物をいい、本発明においては特に、炎症性サイトカインおよび/またはNO合成酵素が起因する炎症を抑制する組成物をいう。そのような抗炎症組成物としては、マクロファージの増殖を促進し、マクロファージにおいてTNF-α(Tumor Necrosis Factor-α)mRNA、iNOS(inducible Nitric Oxide Synthase;NOS2)mRNAおよびIL-6(Interleukin-6)mRNAからなる群から選択される1または2以上のmRNAの発現を抑制し、TNF-α、iNOS(NOS2)およびIL-6からなる群から選択される1または2以上のサイトカインおよび/またはNO合成酵素が起因する炎症を抑制し得る組成物を挙げることができる。
【0021】
「美肌促進組成物」とは、美肌の維持や美肌の形成を促進する組成物をいい、本発明においては特に、表皮や真皮においてヒアルロン酸の合成を促す組成物、皮膚の張りを保つ組成物、皮膚の結合力を強固にする組成物、皮膚のバリア機能を向上させる組成物、皮膚表面の強度を高める組成物、皮膚の保水機能を高める組成物および皮膚の抗老化を促す組成物からなる群から選択される1または2以上の組成物に該当する組成物をいう。また、そのような組成物は、例えば、顔面のしみ、そばかす、くま、くすみを軽減または予防するといった効果を奏する組成物であってもよい。そのような美肌促進組成物としては、ヒト線維芽細胞の増殖を促進し、ヒト線維芽細胞においてHAS1(Hyaluronan Synthase I)mRNA、HAS3(Hyaluronan Synthase III)mRNA、COL1A1(Collagen Type I Alpha 1)mRNAおよびCOL7A1(Collagen Type VII Alpha 1)mRNAからなる群から選択される1または2以上のmRNAの発現を促進し、HAS1、HAS3、COL1A1およびCOL7A1からなる群から選択される1または2以上のヒアルロン酸合成酵素および/またはコラーゲンを皮膚において産生し得る組成物を挙げることができる他、ヒト表皮ケラチノサイトの増殖を促進し、ヒト表皮ケラチノサイトにおいてOCLN(Occludin)mRNA、FLG(Filaggrin)mRNA、AQP3(Aquaporin III)mRNA、TGM1(Transglutaminase I)mRNAおよびSIRT1(Silent Information Regulator I)mRNAからなる群から選択される1または2以上のmRNAの発現を促進し、OCLN、FLG、AQP3、TGM1およびSIRT1からなる群から選択される1または2以上のタンパク質および/または酵素を皮膚において産生し得る組成物を挙げることができる。
【0022】
「育毛組成物」とは、産毛を含め、既存の毛を成長させる組成物、あるいは、既存の毛を維持する組成物の他、新しい毛の生成を促進する組成物や既存の毛が抜けることを予防する組成物をいう。本発明においては特に、皮膚表面の強度を向上させるとともに育毛を促す組成物をいう。そのような育毛組成物としては、ヒト表皮ケラチノサイトの増殖を促進し、ヒト毛包ケラチノサイトにおいてCOL17A1(Collagen Type XVII Alpha 1)mRNAの発現を促進し、COL17A1を皮膚において産生し得る組成物を挙げることができる。
【0023】
「マクロファージ増殖促進組成物」、「ヒト線維芽細胞増殖促進組成物」、「ヒト表皮ケラチノサイト増殖促進組成物」とは、それぞれ、マクロファージの増殖を促進する組成物、ヒト線維芽細胞の増殖を促進する組成物、ヒト表皮ケラチノサイトの増殖を促進する組成物をいう。
【0024】
本発明における化粧料組成物は、本発明の特徴を損なわない範囲で、化粧品の分野において通常用いられる添加成分を適宜配合して用いることができ、そのような添加成分としては、例えば、保湿剤、防腐剤、真珠光沢材料、酸化防止剤、色素、増粘剤およびpH調整剤から選択される1種または2種以上の添加成分を挙げることができる。また、芳香剤、抗菌剤、各種の油性成分、紫外線吸収剤、活性酸素除去剤、抗酸化剤、抗微生物剤、ミネラル、アミノ酸などを添加して用いることができ、さらには、公知の美白成分を添加して用いてもよい。
【0025】
本発明に係る組成物の製造方法は、(i)チョウザメ卵と1,3-ブチレングリコールとを混合して混合物を調製する工程(混合物調製工程)、(ii)混合物調製工程(i)において調製した混合物を高圧処理して高圧処理物を調製する工程(高圧処理物調製工程)、(iii)高圧処理物調製工程(ii)において調製した高圧処理物をろ過して残渣を除去してろ液を得る工程(ろ過工程)の、以上(i)~(iii)の工程を備える。
【0026】
混合物調製工程(i)におけるチョウザメ卵と1,3-ブチレングリコールとの混合は、当業者において適宜可能な手法により行うことができ、また、所望に応じ、本発明の特徴や効果を損なわない範囲で添加可能な物質を添加して混合することができる。
【0027】
高圧処理物調製工程(ii)における高圧処理は、混合物調製工程(i)において調製した混合物について、上述した圧力条件や温度条件の下、当業者において適宜可能な手法により行うことができる。そのような高圧処理は、高圧処理装置を用いて行うのが一般であり、そのような高圧処理装置としては、例えば、各種まるごとエキス装置((株)東洋高圧)を挙げることができる。
【0028】
ろ過工程(iii)におけるろ過は、高圧処理物調製工程(ii)において調製した高圧処理物について、当業者において適宜可能な手法により行うことができる。そのようなろ過は、ろ過器具を用いて行うのが一般であり、そのようなろ過器具としては、例えば、ストッキングタイプ水切り袋や各種メッシュを挙げることができる。
【0029】
なお、出願時において本願発明に係る組成物を、その構造または特性により直接特定するためには、まず、チョウザメ卵と1,3-ブチレングリコールとの混合物の高圧処理物を分画しなければならないが、例えば、クロマトグラフィーによる分画においては、多大な時間と費用を要して、極めて多種類の分離樹脂と展開溶媒の中から適切な分離樹脂と展開溶媒を選択しなければならず、そのうえで、多種類の分画液から抗炎症作用、美肌促進作用、育毛作用、マクロファージ増殖促進作用、ヒト線維芽細胞増殖促進作用および/またはヒト表皮ケラチノサイト増殖促進作用を指標として有効成分を含有する分画液を特定しなければならない。さらに、前記作用を指標にした目的分画液の取得を行う実験を、目的有効成分を純品として単離するまで繰り返さなければならない。この点、有効成分は単一でなく、複数種類にのぼる場合があることから、当該実験には多大な労力を要する。
【0030】
たとえ、有効成分の単離に成功した場合であっても、その化学構造をNMRやIR、Mass、化学分解反応等を駆使して、おおよそでも有効成分の構造決定を行わなければならず、さらにその決定した化学構造を、本願発明に係るの中から選択するのではなく、全く異なる手段によって当該想定される化合物を化学合成し、その純品を単離しなければならない。
【0031】
そしてさらには、当該高圧処理物から得られる単離された純品と、当該化学合成された純品であって当該高圧処理物から得られる単離された純品と化学構造が同じ純品とが、抗炎症作用、美肌促進促進作用、育毛作用、マクロファージ増殖促進作用、ヒト線維芽細胞増殖促進作用および/またはヒト表皮ケラチノサイト増殖促進作用の程度において完全に同一であることに到達して、初めて目的とする当該高圧処理物の化学構造が決定されることになるのである。
【0032】
上述した実験は、一人の有能な当業者であっても、通常、数年を必要とするのであるが、これは現実的でない回数の実験等を行うことを要するものであって、著しく過大な経済的支出を伴うものである(特許・実用新案審査ハンドブック 第II部 第2章 特許請求の範囲の記載要件「2205 物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合の審査における『不可能・非実際的事情』についての判断」の第16ページ最下行~第17ページ第1~4行目を参照)。すなわち、当該高圧処理物をその構造または特性により直接特定するためには、出願時において、当業者は採算的に現実的でない時間と費用を要することとなり、そのような特定作業を要求することは、先願主義の下、一日も早い出願日を追い求める出願人にとって、技術の急速な進展と国際規模での競争の激しい特許取得の場面においては余りにも酷なことある(最高裁平成24年(受)1204号の第10ページ、または最高裁平成24年(受)2658号の第10~11ページ等)。
【実施例
【0033】
以下、本発明に係る高圧処理物からなる組成物について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される実施態様に限定されない。
【0034】
1.試料および試験用サンプルの調製
[1-1]高圧処理したチョウザメ卵と各種溶媒との混合物
チョウザメ卵(中国産、冷凍品)と、溶媒として70%(v/v、以下すべて同じ)エタノール、100%の1,3-ブチレングリコール(以下、「100%BG」という。)、50%の1,3-ブチレングリコール(以下、「50%BG」という。)、純水(イオン交換水)または酵素水を、各々レトルト袋に入れて密封、脱気して混合物を得た後、55℃、100MPaの条件下で24時間高圧処理した。チョウザメ卵と酵素水との混合物については、配合が異なる二種類を用意し、いずれについても、高圧処理後に85~90℃で10分間湯煎して酵素を失活させた。それら酵素水に用いた酵素としてタンパク質分解複合酵素(まるごと酵素PrE;(株)超臨界技術研究所)を、それら酵素水に用いた水として純水(イオン交換水)を、各々の高圧処理には、まるごとエキス装置TFS-100((株)東洋高圧)を、それぞれ用いた。
【0035】
計6種類の混合物を高圧処理した後、ストッキングタイプ水切り袋(DCM(株))を用いて各々の混合物をろ過して大半の残渣を除去した。続いて、200μmメッシュを用いてさらにろ過し、残った残渣を除去して各々のろ液を得た。得られたろ液を1.5mLチューブに小分けし、-20℃の条件にて保存した。
【0036】
保存した6種類のろ液を試験に用いる際、解凍した各々のろ液を300μL滴下した5mLシャーレ(60×15mm)を2枚ずつ、計12枚作成して乾燥機に入れ、72℃の条件下で48時間乾燥させた後、ろ液の滴下前、滴下後および乾燥後のシャーレの重さから固形分含量(%)を算出し、得られた固形分含量(%)に基づき、各々のろ液が11000μg/mLとなるように高圧蒸気滅菌水(以下、「DDW」という。)を用いて希釈した。それら6種類のろ液を、0.45μmフィルターを用いてろ過滅菌し、試料1~6とした後、それぞれについてDDWを用いて10μg/mL、100μg/mLおよび300μg/mLに希釈したものを調製し、試験用サンプルとした。試料1~6の配合等を下掲の表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
[1-2]高圧処理しないチョウザメ卵と各種溶媒との混合物
チョウザメ卵(中国産、冷凍品)と、純水(イオン交換水)、100%BGまたは酵素水を、各々レトルト袋に入れて密封、脱気し、高圧処理せずに24時間静置した後、チョウザメ卵と酵素水との混合物については高圧処理物と同様に、85~90℃で10分間湯煎することにより酵素を失活させた。それぞれの混合物について、ストッキングタイプ水切り袋(DCM(株))を用いてろ過し、大半の残渣を除去した後、200μmメッシュを用いてさらにろ過し、残った残渣を除去して各々のろ液を得た。得られた各々のろ液を300μL滴下した5mLシャーレ(60×15mm)を2枚ずつ、計6枚作成して乾燥機に入れ、72℃の条件下で48時間乾燥させた後、ろ液の滴下前、滴下後および乾燥後のシャーレの重さから固形分含量(%)を算出し、得られた固形分含量(%)に基づき、各々のろ液が11000μg/mLとなるようにDDWを用いて希釈した。それら3種類のろ液を、0.45μmフィルターを用いてろ過滅菌し、試料7~9とした後、細胞実験をする際には培地中の最終濃度が10μg/mL、100μg/mLおよび300μg/mLとなるように適時濃度を調整したものを試験用サンプルとした。試料7~9の配合等を下掲の表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
2.試験
[2-1]マクロファージにおける増殖活性試験
上述した[1-1]および[1-2]において調製した試料1~9から得られた、計27の試験用サンプルについて、それぞれマクロファージ(RAW264.7細胞;以下、「RAW細胞」という。)と72時間共培養した後、MTT法によって細胞の生存率(%)を求めた。
【0041】
具体的には、RAW細胞を96ウェルプレートに100μL/wellずつ播種し(n=3)、COインキュベーター(37℃、COが5%濃度)内にて24時間培養した後、上記試料1~9から得られた計27の試験用サンプルをそれぞれ10μL/wellずつ添加し、COインキュベーター内にてさらに72時間培養した。培地は、2%のFetal Bovine Serum(以下、「FBS」という。)および1%のペニシリンを含むD-MEM(高グルコース)培地を用いた。それらの培養上清を除去し、細胞培養用試薬であるPBS(-)(富士フイルム和光純薬(株))を50μL/wellずつと、CellTiter試薬(CellTiter 96(R) AQueous One Solution Cell Proliferation Assay;プロメガ(株))を10μL/wellずつを添加して、COインキュベーター内にて3時間培養した後、マイクロプレートリーダーを用いて波長490nmの吸光度を測定した。続いて、試験用サンプルを添加しなかった細胞の波長490nmの吸光度をコントロールとし、細胞増殖率を算出し、Dunnett testによって統計計算を実施し、コントロール対して*P<0.05、**P<0.01を有意差ありとした。それらの結果を図1A図1Bおよび図2に示す。
【0042】
図1Aおよび図1Bは、試料1~6の試験用サンプルの結果を、図2は、試料7~9の試験用サンプルの結果をそれぞれ示す。図1A図1Bおよび図2に示す通り、コントロールと比較して有意にマクロファージの増殖が認められたのは、試料2の10μg/mL希釈、100μg/mL希釈および300μg/mL希釈の各試験用サンプル、試料3の300μg/mL希釈の試験用サンプル、および、試料5の100μg/mL希釈および300μg/mL希釈の各試験用サンプルであった。これらのことから、試料2すなわちチョウザメ卵と100%BGとの混合物の高圧処理物からなる組成物、試料3すなわちチョウザメ卵と50%BGとの混合物の高圧処理物からなる組成物、および、試料5すなわちチョウザメ卵とタンパク質分解複合酵素水溶液との混合物の高圧処理物からなる組成物は、マクロファージの増殖活性を有することが明らかとなった。そのため、以後の各種細胞における増殖活性試験および遺伝子発現試験は、試料2、試料3および試料5を用いて実施することとした。
【0043】
[2-2]マクロファージにおける増殖活性試験および遺伝子発現試験
(1)増殖活性試験
マクロファージにおける増殖活性試験については、上述した[2-1]の結果の通りであり、試料2すなわちチョウザメ卵と100%BGとの混合物の高圧処理物からなる組成物、試料3すなわちチョウザメ卵と50%BGとの混合物の高圧処理物からなる組成物、および、試料5すなわちチョウザメ卵とタンパク質分解複合酵素水溶液との混合物の高圧処理物からなる組成物は、マクロファージの増殖活性を有する。それらについて図3に示す。図3は、それら試料2、試料3および試料5についての、マクロファージの増殖率(%)を示す折れ線グラフ図である。なお、図3では、Dunnett testによって統計計算を実施し、コントロール対して*P<0.05、**P<0.01を有意差ありとした。
【0044】
(2)遺伝子発現試験
マクロファージすなわちRAW細胞を6ウェルプレートに3mL/wellずつ播種して2日間培養後、最終濃度100μg/mLの試料2、試料3および試料5を、それぞれ2ウェルプレートに対し300μLずつ添加して2時間培養した。各試料の最終濃度を100μg/mLとなるようにした後、RAW細胞に炎症性サイトカイン(TNF-α(Tumor Necrosis Factor-α)、NO合成酵素iNOS(inducible Nitric Oxide Synthase;NOS2)、炎症性サイトカインIL-6(Interleukin-6))の産生を促進させるため、最終濃度が0.1μg/mLになるようにLPS(lipopolysaccharide;大腸菌由来リポ多糖,富士フイルム和光純薬(株))を添加し、4時間培養した。培養後、RNA抽出キット(RNeasy Mini KitおよびQIAshredder(QIAGEN))を用いて、測定遺伝子であるTNF-α、iNOS(NOS2)およびIL-6のRNAを抽出した。抽出したRNAからHigh-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems)を用いてcDNAを作製した後、mRNAの発現量を、TaqMan(R) Fast Advanced Master Mix(Applied Biosystems)5mLとStep One Real-time PCR System(Applied Biosystems)を用いて測定し、比較定量法(比較Ct法/△△Ct法)により相対値を算出した。コントロール(ハウスキーピング遺伝子)にはGAPDHを用いた。その結果を図4に示し、Real-time PCRにおいて用いたプライマーを下記に示す。なお、図4では、Student T.test によって統計計算を実施し、†P<0.5、*P<0.05、**P<0.01を有意差ありとした。
【0045】
<Real-time PCRにおいて用いたプライマー>
いずれも、TaqMan(R) Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific)のものであり、TaqMan(R) Gene Expression Assaysの、下記のIDにより特定される。
TNF-αmRNA
GAPDH:Mm99999915_g1
TNF-α:Mm00443258_m1
iNOSmRNA
GAPDH:Mm99999915_g1
iNOS:Mm0044052_m1
IL-6mRNA
GAPDH:Mm99999915_g1
IL-6:Mm00446190_m1
【0046】
RAW細胞をLPSで刺激すると、炎症性サイトカインであるTNF-α、NO合成酵素であるiNOS(NOS2)、炎症性サイトカインであるIL-6を産生するところ、図4に示す通り、試料2、試料3および試料5は、RAW細胞におけるTNF-αmRNA、iNOS(NOS2)mRNAおよびIL-6mRNAの発現を抑制することが明らかとなり、特に、試料2すなわちチョウザメ卵と100%BGとの混合物の高圧処理物からなる組成物が、RAW細胞におけるそれらmRNAの発現抑制について、最も高い活性を示した。ここで、測定遺伝子が関与する機能等を下掲の表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
(3)結論
上述した(1)および(2)のマクロファージにおける増殖活性試験結果および遺伝子発現試験結果により、試料2すなわちチョウザメ卵と100%BGとの混合物の高圧処理物からなる組成物は、マクロファージの増殖活性を有するとともに、マクロファージにおいて、炎症性サイトカインであるTNF-α、NO合成酵素であるiNOS(NOS2)、炎症性サイトカインであるIL-6のmRNAの発現を明確に抑制することから、チョウザメ卵とBGとの混合物の高圧処理物からなる組成物は、抗炎症組成物であるといえる。
【0049】
[2-3]ヒト線維芽細胞における増殖活性試験および遺伝子発現試験
(1)増殖活性試験
上述した[1-1]において調製した試料2、試料3および試料5について、2%FBSおよび1%ペニシリンを含むD-MEM(高グルコース)培地に代えて2%FBSおよび1%ペニシリンを含む線維芽細胞培地(PromoCell)を用いたことと、培養細胞の剥離回収にトリプシン-EDTA(富士フイルム和光純薬(株))を用いたことを除いては、上述した[2-1]と同様に手法により、ヒト線維芽細胞における増殖活性試験を行った。その結果を図5に示す。なお、図5では、Dunnett testによって統計計算を実施し、コントロール対して*P<0.05、**P<0.01を有意差ありとした。
【0050】
図5に示す通り、コントロールと比較して有意にヒト線維芽細胞の増殖が認められたのは、試料2を培地に添加した際の終濃度10μg/mLサンプルおよび試料3を培地に添加した際の終濃度10μg/mLサンプルであった。これらのことから、試料2すなわちチョウザメ卵と100%BGとの混合物の高圧処理物からなる組成物、および、試料3すなわちチョウザメ卵と50%BGとの混合物の高圧処理物からなる組成物は、ヒト線維芽細胞の増殖活性を有することが明らかとなった。
【0051】
(2)遺伝子発現試験
上述した[1-1]において調製した試料2、試料3および試料5について、LPSを添加せずに培養したことと、測定遺伝子であるHAS1(Hyaluronan Synthase I)、HAS3(Hyaluronan Synthase III)、COL1A1(Collagen Type I Alpha 1)およびCOL7A1(Collagen Type VII Alpha 1)のRNAを抽出したことと、測定遺伝子に応じてReal-time PCRにおいて用いたプライマーを変更したことを除いては、上述した[2-2](2)と同様の手法により、ヒト線維芽細胞における遺伝子発現試験を行った。その結果を図6および図7に示し、Real-time PCRにおいて用いたプライマーを下記に示す。なお、図6および図7では、Dunnett testによって統計計算を実施し、コントロール対して*P<0.05、**P<0.01を有意差ありとした。
【0052】
<Real-time PCRにおいて用いたプライマー>
いずれも、TaqMan(R) Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific)のものであり、TaqMan(R) Gene Expression Assaysの、下記のIDにより特定される。
HAS1mRNA
GAPDH:Hs02786624_g1
HAS1:Hs00758053_m1
HAS3mRNA
GAPDH:Hs02786624_g1
HAS3:Hs00193436_m1
COL1A1mRNA
GAPDH:Hs02786624_g1
COL1A1:Hs00164004_m1
COL7A1mRNA
GAPDH:Hs02786624_g1
COL7A1:Hs00164310_m1
【0053】
図6および図7に示す通り、試料2を培地に添加した際の終濃度100μg/mLサンプルは、コントロールと比較して、ヒト線維芽細胞において有意に、HAS1mRNA、HAS3mRNA、COL1A1mRNAおよびCOL7A1mRNAを多く発現させることが明らかとなった。ここで、測定遺伝子が関与する機能等を下掲の表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
(3)結論
上述した(1)および(2)のヒト線維芽細胞における増殖活性試験結果および遺伝子発現試験結果により、試料2すなわちチョウザメ卵と100%BGとの混合物の高圧処理物からなる組成物は、ヒト線維芽細胞の増殖活性を有するとともに、ヒト線維芽細胞において、ヒアルロン酸合成酵素であって表皮に多く存在するHAS1のmRNA、ヒアルロン酸合成酵素であって真皮に多く存在するHAS3のmRNA、I型コラーゲンであって皮膚の張りを保つCOL1A1のmRNAおよびVII型コラーゲンであって皮膚の結合力を強固にするCOL7A1のmRNAの発現を促進することから、チョウザメ卵とBGとの混合物の高圧処理物からなる組成物は、美肌促進組成物であるといえる。
【0056】
[2-4]ヒト表皮ケラチノサイトにおける増殖活性試験、ならびに、ヒト表皮ケラチノサイトおよびヒト毛包ケラチノサイトにおける遺伝子発現試験
(1)増殖活性試験
上述した[1-1]において調製した試料2、試料3および試料5について、培養細胞の剥離回収にトリプシン-EDTA(富士フイルム和光純薬(株))を用いたことを除いては、上述した[2-1]と同様に手法により、ヒト表皮ケラチノサイトにおける増殖活性試験を行った。その結果を図8に示す。なお、図8では、Dunnett testによって統計計算を実施し、コントロール対して*P<0.05、**P<0.01を有意差ありとした。
【0057】
図8に示す通り、コントロールと比較して有意にヒト表皮ケラチノサイトの増殖が認められたのは、試料2を培地に添加した際の終濃度10μg/mLサンプル、100μg/mLサンプルおよび300μg/mLサンプル、ならびに、試料3を培地に添加した際の終濃度100μg/mLサンプルであった。これらのことから、試料2すなわちチョウザメ卵と100%BGとの混合物の高圧処理物からなる組成物、および、試料3すなわちチョウザメ卵と50%BGとの混合物の高圧処理物からなる組成物は、ヒト表皮ケラチノサイトの増殖活性を有することが明らかとなった。
【0058】
(2)遺伝子発現試験
上述した[1-1]において調製した試料2、試料3および試料5について、LPSを添加せずに培養したことと、測定遺伝子であるOCLN(Occludin)、FLG(Filaggrin)、AQP3(Aquaporin III)、TGM1(Transglutaminase I)、SIRT1(Silent Information Regulator I)およびCOL17A1(Collagen Type XVII Alpha 1)のRNAを抽出したことと、測定遺伝子に応じてReal-time PCRにおいて用いたプライマーを変更したことを除いては、上述した[2-2](2)と同様に手法により、ヒト表皮ケラチノサイトおよびヒト毛包ケラチノサイトにおける遺伝子発現試験を行った。その結果を図9~12に示し、Real-time PCRにおいて用いたプライマーを下記に示す。なお、図9~12では、Dunnett testによって統計計算を実施し、コントロール対して*P<0.05、**P<0.01を有意差ありとした。
【0059】
<Real-time PCRにおいて用いたプライマー>
いずれも、TaqMan(R) Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific)のものであり、TaqMan(R) Gene Expression Assaysの、下記のIDにより特定される。
OCLNmRNA
GAPDH:Hs02786624_g1
OCLN:Hs05465837_g1
FLGmRNA
GAPDH:Hs02786624_g1
FLG:Hs00856927_g1
AQP3mRNA
GAPDH:Hs02786624_g1
AQP3:Hs00185020_m1
TGM1mRNA
GAPDH:Hs02786624_g1
TGM1:Hs00165929_m1
SIRT1mRNA
GAPDH:Hs02786624_g1
SIRT1:Hs01009006_m1
COL17A1mRNA
GAPDH:Hs02786624_g1
COL17A1:Hs00990036_m1
【0060】
図9~11に示す通り、試料2を培地に添加した際の終濃度100μg/mLサンプルは、コントロールと比較して、ヒト表皮ケラチノサイトにおいて有意に、OCLNmRNA、FLGmRNA、AQP3mRNA、TGM1mRNAおよびSIRT1mRNAを多く発現させること、ならびに、試料3を培地に添加した際の終濃度100μg/mLサンプルおよび試料5を培地に添加した際の終濃度100μg/mLサンプルは、コントロールと比較して、ヒト表皮ケラチノサイトにおいて有意にSIRT1mRNAを多く発現させることが明らかとなった。また、図12に示す通り、試料2を培地に添加した際の終濃度100μg/mLサンプルは、コントロールと比較して有意に、ヒト毛包ケラチノサイトにおいてCOL17A1mRNAを多く発現させることが明らかとなった。ここで、測定遺伝子が関与する機能等を下掲の表5および表6に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
(3)結論
上述した(1)および(2)のヒト表皮ケラチノサイトにおける増殖活性試験結果、ならびに、ヒト表皮ケラチノサイトおよびヒト毛包ケラチノサイトにおける遺伝子発現試験結果により、試料2すなわちチョウザメ卵と100%BGとの混合物の高圧処理物からなる組成物は、ヒト表皮ケラチノサイトの増殖活性を有するとともに、ヒト表皮ケラチノサイトにおいて、タイトジャンクション構成タンパク質であってバリア機能を有するOCLNのmRNA、角層構成タンパク質であって保湿機能を有するFLGのmRNA、水チャネルタンパク質であって皮膚の水分保持や弾力維持に関わるとともにバリア機能を向上させるAQP3のmRNA、タンパク質架橋に働く表皮酵素であって皮膚表面の強度や保水機能を高めるTGM1のmRNAおよびNAD依存性脱アセチル化酵素であって抗老化の機能を有するSIRT1のmRNAの発現を促進することから、チョウザメ卵とBGとの混合物の高圧処理物からなる組成物は、美肌促進組成物であるといえる。
【0064】
また、試料2すなわちチョウザメ卵と100%BGとの混合物の高圧処理物からなる組成物、および、試料3すなわちチョウザメ卵と50%BGとの混合物の高圧処理物からなる組成物は、ヒト表皮ケラチノサイトの増殖活性を有するとともに、ヒト毛包ケラチノサイトにおいて、XVII型コラーゲンであって皮膚表面の強度を向上させるとともに育毛機能を有するCOL17A1のmRNAの発現を促進することから、チョウザメ卵とBGとの混合物の高圧処理物からなる組成物は、育毛組成物であるといえる。
【要約】
【課題】 マクロファージの増殖を促進させるとともに、炎症性サイトカインおよび/またはNO合成酵素が起因する炎症を抑制する抗炎症組成物;ヒト線維芽細胞あるいはヒト表皮ケラチノサイト細胞の増殖を促進させるとともに、表皮や真皮においてヒアルロン酸の合成を促し、皮膚の張りを保ち、皮膚の結合力を強固にし、皮膚のバリア機能を向上させ、皮膚表面の強度や保水機能を高め、あるいは、皮膚の抗老化を促す美肌促進組成物;ヒト表皮ケラチノサイト細胞の増殖を促進させるとともに、皮膚表面の強度を向上させ、育毛を促す育毛組成物;ならびにそれらの化粧料組成物を提供する。
【解決手段】 チョウザメ卵と1,3-ブチレングリコールとの混合物の高圧処理物からなる組成物である。
【選択図】 図3
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12