(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】能動騒音制御装置及び車両
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20241107BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
G10K11/178 100
B60R11/02 M
B60R11/02 S
(21)【出願番号】P 2021007148
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】坂本 浩介
【審査官】齊田 寛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165252(JP,A)
【文献】特開2011-013403(JP,A)
【文献】特開2019-215701(JP,A)
【文献】特開平04-358775(JP,A)
【文献】国際公開第2005/101894(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
B60R 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車室内の騒音を低減させるために、制御信号に基づいた相殺音をアクチュエータから出力させる能動騒音制御装置であって、
前記騒音に応じた参照信号に対してフィルタリング処理を行うことにより前記制御信号を生成する第1適応フィルタを含む制御信号生成部と、
前記アクチュエータのインピーダンスの周波数特性であるインピーダンス周波数特性におけるピーク周波数を同定する同定部と、
初期の前記インピーダンス周波数特性における前記ピーク周波数である初期ピーク周波数を記憶するピーク周波数記憶部と、
前記同定部によって今回同定された前記ピーク周波数と、前記ピーク周波数記憶部に記憶された前記初期ピーク周波数との相違が閾値以上であるか否かを判定する第1判定部と、
前記相違が前記閾値以上であることが前記第1判定部によって判定された場合に、前記制御信号生成部において生成される前記制御信号の特性を変更する制御部と、
を備える、能動騒音制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の能動騒音制御装置において、
前記同定部は、前記アクチュエータに印加される電圧の時間波形信号である電圧信号を検出する電圧検出部と、前記アクチュエータにおいて消費される電流の時間波形信号である電流信号を検出する電流検出部と、前記電圧信号と前記電流信号とに基づいて前記インピーダンス周波数特性を算出するインピーダンス周波数特性算出部と、前記インピーダンス周波数特性を周波数解析することにより前記ピーク周波数を同定するピーク周波数同定部と、を備える、能動騒音制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の能動騒音制御装置において、
前記同定部は、前記アクチュエータのインピーダンス特性を算出するインピーダンス特性同定部を備え、
前記インピーダンス特性同定部は、前記第1適応フィルタによって行われる前記フィルタリング処理とは異なるフィルタリング処理を、前記アクチュエータにおいて消費される電流の時間波形信号である電流信号に対して行うことにより模擬電圧信号を出力する第2適応フィルタと、前記アクチュエータに印加される電圧の時間波形信号である電圧信号と前記模擬電圧信号との差分が最小になるように前記第2適応フィルタにおけるフィルタ係数を更新する第2フィルタ係数更新部とを備え、
前記同定部は、前記第2適応フィルタ
におけるフィルタ係数に対してフーリエ変換を行うことにより前記インピーダンス周波数特性を取得するフーリエ変換部と、前記フーリエ変換部により得られた前記インピーダンス周波数特性を周波数解析することにより前記ピーク周波数を同定するピーク周波数同定部とを更に備える、能動騒音制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の能動騒音制御装置において、
前記ピーク周波数が予め決められた周波数範囲内であるか否かを判定する第2判定部を更に備え、
前記ピーク周波数が前記周波数範囲内でないことが前記第2判定部によって判定された場合、前記制御部は、前記制御信号生成部による前記制御信号の生成を中止させる、能動騒音制御装置。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の能動騒音制御装置において、
前記ピーク周波数が予め決められた周波数範囲内であるか否かを判定する第2判定部と、
前記ピーク周波数が前記周波数範囲内でないことが前記第2判定部によって判定された場合に、前記アクチュエータの特性に異常が生じていることを示す情報を記憶する異常情報記憶部と、
を更に備える、能動騒音制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の能動騒音制御装置において、
前記ピーク周波数が前記周波数範囲内でないことが前記第2判定部によって判定された場合、前記制御部は、前記アクチュエータの特性に異常が生じていることを示す情報を、前記車両に備えられた情報表示器に表示させる、能動騒音制御装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の能動騒音制御装置において、
前記アクチュエータの特性に異常が生じていることを示す情報を故障診断機に通知するための出力部を更に備える、能動騒音制御装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の能動騒音制御装置において、
各々の前記ピーク周波数に応じた複数の音響特性を含むテーブルと、
前記テーブルに含まれた複数の前記音響特性のうちのいずれかに応じたフィルタリング処理を前記参照信号に対して行うことによって前記参照信号を補正する音響特性フィルタと、
前記騒音と前記相殺音との干渉による残留騒音をマイクロフォンによって検出することによって得られる誤差信号と、前記音響特性フィルタによって補正された前記参照信号とに基づいて、前記第1適応フィルタにおけるフィルタ係数を更新する第1フィルタ係数更新部と、を更に備え、
前記制御部は、前記音響特性フィルタにおいて適用される前記音響特性を前記ピーク周波数に応じて切り替えることによって、前記制御信号生成部において生成される前記制御信号の特性を変更する、能動騒音制御装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の能動騒音制御装置において、
前記アクチュエータは、スピーカである、能動騒音制御装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の能動騒音制御装置を備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、能動騒音制御装置及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、能動消音装置が開示されている。特許文献1に開示された能動消音装置には、被消音空間内に配設した音発生装置と、被消音空間内に配設した音検出センサと、被消音空間に伝搬する複数の振動の各加振源にそれぞれ設けた振動センサとが備えられている。特許文献1の能動消音装置には、複数の振動センサの出力信号に基づいて、音検出センサで検出された音とは逆位相の振動信号を生成する振動信号生成手段と、振動信号に基づいて音発生装置を駆動する駆動手段とが更に備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、音発生装置の特性に変化が生じた場合には、騒音を必ずしも良好に低減し得ない。
【0005】
本発明の目的は、騒音を良好に低減し得る能動騒音制御装置及び車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による能動騒音制御装置は、車両の車室内の騒音を低減させるために、制御信号に基づいた相殺音をアクチュエータから出力させる能動騒音制御装置であって、前記騒音に応じた参照信号に対してフィルタリング処理を行うことにより前記制御信号を生成する第1適応フィルタを含む制御信号生成部と、前記アクチュエータのインピーダンスの周波数特性であるインピーダンス周波数特性におけるピーク周波数を同定する同定部と、初期の前記インピーダンス周波数特性における前記ピーク周波数である初期ピーク周波数を記憶するピーク周波数記憶部と、前記同定部によって今回同定された前記ピーク周波数と、前記ピーク周波数記憶部に記憶された前記初期ピーク周波数との相違が閾値以上であるか否かを判定する第1判定部と、前記相違が前記閾値以上であることが前記第1判定部によって判定された場合に、前記制御信号生成部において生成される前記制御信号の特性を変更する制御部と、を備える。
【0007】
本発明の他の態様による車両は、上記のような能動騒音制御装置を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、騒音を良好に低減し得る能動騒音制御装置及び車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】一実施形態による能動騒音制御装置が備えられた車両の一部を示すブロック図である。
【
図3】制御信号生成部の例を示すブロック図である。
【
図5】アクチュエータのインピーダンス周波数特性の例を示すグラフである。
【
図7】インピーダンス特性同定部の例を示すブロック図である。
【
図9】一実施形態による能動騒音制御装置の動作の例を示すフローチャートである。
【
図10】一実施形態による能動騒音制御装置の動作の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による能動騒音制御装置及び車両について、好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。
【0011】
[一実施形態]
一実施形態による能動騒音制御装置及び車両について
図1~
図10を用いて説明する。
図1は、能動騒音制御の概要を示す図である。
【0012】
能動騒音制御装置10は、車両12の車室14内の騒音、即ち、振動騒音を低減させるための相殺音をアクチュエータ16から出力させるものである。
【0013】
車室14内の騒音には、例えば、ロードノイズ等が含まれ得る。ロードノイズは、路面から受ける力によって車輪が振動し、車輪の振動がサスペンションを介して車体に伝わることで、車室14内の乗員に伝わる騒音である。
【0014】
車両12には、車両12の振動を検出する振動センサ、即ち、加速度センサ18が備えられている。加速度センサ18によって検出される信号r、即ち、振動を示す信号は、参照信号rとして、能動騒音制御装置10に供給される。加速度センサ18によって検出される信号が参照信号rとして用いられる場合が
図1には示されているが、これに限定されるものではない。車両12の振動に相関のある信号、即ち、騒音に応じた信号が、参照信号rとして適宜用いられ得る。
【0015】
車室14内には、マイクロフォン20が更に備えられている。マイクロフォン20は、アクチュエータ16から出力される相殺音と騒音との干渉による残留騒音(相殺誤差騒音)を検出する。マイクロフォン20によって検出される残留騒音、即ち、誤差信号eは、能動騒音制御装置10に供給される。
【0016】
能動騒音制御装置10は、マイクロフォン20によって検出される誤差信号eと、参照信号rとに基づいて、アクチュエータ16から相殺音を出力させるための制御信号uを生成する。より具体的には、能動騒音制御装置10は、マイクロフォン20によって検出される誤差信号eが最小となるような制御信号uを生成する。マイクロフォン20によって検出される誤差信号eが最小となるような制御信号uに基づいてアクチュエータ16が相殺音を出力するため、車室14内の騒音が当該相殺音によって良好に相殺され得る。こうして、能動騒音制御装置10は、車室14内の乗員に伝わる騒音を低減することができる。
【0017】
ところで、経年変化等によってアクチュエータ16の特性に変化が生じた場合には、車室14内の騒音を必ずしも良好に相殺し得ない。本願発明者は鋭意検討した結果、以下のような能動騒音制御装置10を想到した。
【0018】
図2は、本実施形態による能動騒音制御装置が備えられた車両の一部を示すブロック図である。
【0019】
図2に示すように、能動騒音制御装置10には、演算部22と、記憶部30と、出力部32とが備えられている。
【0020】
演算部22は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサによって構成され得るが、これに限定されるものではない。ダイレクト・デジタル・シンセサイザ(DDS、Direct Digital Synthesizer)、デジタル制御発振器(DCO:Digitally Controlled Oscillator)等が演算部22に含まれ得る。また、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等が演算部22に含まれ得る。
【0021】
記憶部30は、不図示の揮発性メモリと、不図示の不揮発性メモリとによって構成され得る。揮発性メモリとしては、例えばRAM等が挙げられ得る。不揮発性メモリとしては、例えばROM、フラッシュメモリ等が挙げられ得る。データ等が、例えば揮発性メモリに記憶され得る。プログラム、テーブル、マップ等が、例えば不揮発性メモリに記憶され得る。記憶部30には、ピーク周波数記憶部70と、異常情報記憶部72と、テーブル74とが備えられ得る。
【0022】
出力部32は、出力インターフェース回路等によって構成され得る。
【0023】
演算部22には、制御信号生成部34と、同定部24と、第1判定部26と、第2判定部27と、制御部28とが備えられている。制御信号生成部34と、同定部24と、第1判定部26と、第2判定部27と、制御部28とは、記憶部30に記憶されているプログラムが演算部22によって実行されることによって実現され得る。
【0024】
能動騒音制御装置10には、参照信号rが供給され得る。参照信号rは、例えば、加速度センサ18(
図1参照)から供給され得るが、これに限定されるものではない。上述したように、車両12の振動に相関のある信号、即ち、騒音に応じた信号が、参照信号rとして適宜用いられ得る。
【0025】
上述したように、車室14(
図1参照)内には、騒音と相殺音との干渉による残留騒音、即ち、誤差信号eを検出するマイクロフォン20が備えられている。
【0026】
また、上述したように、車室14(
図1参照)には、制御信号uに基づいた相殺音を出力するアクチュエータ16が備えられている。アクチュエータ16としては、例えばスピーカが挙げられ得る。
【0027】
図3は、制御信号生成部の例を示すブロック図である。
【0028】
制御信号生成部34、即ち、フィルタ部には、適応フィルタ36と、音響特性フィルタ38と、フィルタ係数更新部40とが備えられている。
【0029】
適応フィルタ(第1適応フィルタ)36は、参照信号rに対してフィルタリング処理を行うことによって制御信号uを生成する。適応フィルタ36としては、例えばFIR(Finite Impulse Response)フィルタ等が用いられ得るが、これに限定されるものではない。適応フィルタ36のフィルタ係数Wは、後述するようにフィルタ係数更新部40によって更新される。FIRフィルタは、参照信号rに対して畳み込み演算を行うことによって制御信号uを生成する。
【0030】
音響特性フィルタ38は、アクチュエータ16からマイクロフォン20までの音響特性(伝達特性)に応じたフィルタリング処理を参照信号rに対して行うことによって参照信号rを補正する。アクチュエータ16からマイクロフォン20までの音響特性、即ち、伝達特性C^は、予め取得されている。
【0031】
フィルタ係数更新部40は、残留騒音をマイクロフォン20によって検出することによって得られる誤差信号eと、音響特性フィルタ38によって補正された参照信号rとに基づいて、適応フィルタ36におけるフィルタ係数Wを更新する。より具体的には、フィルタ係数更新部40は、残留騒音をマイクロフォン20によって検出することによって得られる誤差信号eが最小となるように、適応フィルタ36におけるフィルタ係数Wを更新する。フィルタ係数Wの更新においては、例えば、Filtered-X LMSアルゴリズムが用いられ得るが、これに限定されるものではない。
【0032】
こうして、騒音に応じた参照信号rに対して適応フィルタ36によるフィルタリング処理が行われることによって制御信号uが生成される。制御信号生成部34によって生成される制御信号uは、
図2に示すように、パワーアンプ15を介してアクチュエータ16に供給される。
【0033】
同定部24は、アクチュエータ16のインピーダンスの周波数特性であるインピーダンス周波数特性におけるピーク周波数f0、即ち、共振周波数を同定する。
【0034】
【0035】
図4に示す同定部24には、電圧検出部46と、電流検出部48と、インピーダンス周波数特性算出部50と、ピーク周波数同定部52とが備えられている。
【0036】
電圧検出部46は、アクチュエータ16に印加される電圧の時間波形信号である電圧信号Vspkを検出する。
図2に示すように、パワーアンプ15からアクチュエータ16に供給される電圧の時間波形信号、即ち、電圧信号Vspkが、能動騒音制御装置10にも供給されるようになっている。電圧検出部46は、こうして供給される電圧信号Vspkを検出する。
【0037】
電流検出部48は、アクチュエータ16において消費される電流の時間波形信号である電流信号Ispkを検出する。
図2に示すように、アクチュエータ16には、当該アクチュエータ16において消費される電流を検出する電流検出器17が接続されている。電流検出器17は、アクチュエータ16において消費される電流を検出し、当該電流の時間波形信号である電流信号Ispkを能動騒音制御装置10に供給する。電流検出部48は、電流検出器17から供給される電流信号Ispkを検出する。
【0038】
インピーダンス周波数特性算出部50は、電圧信号Vspkと電流信号Ispkとに基づいてアクチュエータ16のインピーダンス周波数特性を算出する。より具体的には、インピーダンス周波数特性算出部50は、フーリエ変換を行うことによって、アクチュエータ16のインピーダンス周波数特性を算出する。
【0039】
図5は、アクチュエータのインピーダンス周波数特性の例を示すグラフである。
図5における横軸は周波数であり、
図5における縦軸はアクチュエータ16のインピーダンスである。
図5における実線は、初期におけるアクチュエータ16のインピーダンス周波数特性の例を示しており、
図5における点線は、経年変化が生じた後におけるアクチュエータ16のインピーダンス周波数特性の例を示している。
【0040】
ピーク周波数同定部52は、インピーダンス周波数特性算出部50によって算出されたインピーダンス周波数特性を周波数解析することによってピーク周波数f0を同定する。即ち、ピーク周波数同定部52は、インピーダンス周波数特性算出部50によって算出されたインピーダンス周波数特性に対して走査を行い、アクチュエータ16のインピーダンスが最も大きくなる周波数を、ピーク周波数f0と同定する。こうして、アクチュエータ16のインピーダンス周波数特性におけるピーク周波数f0が同定される。
【0041】
【0042】
図6に示す同定部24には、インピーダンス特性同定部54と、フーリエ変換部56と、ピーク周波数同定部52とが備えられている。
【0043】
インピーダンス特性同定部54は、アクチュエータ16におけるインピーダンス特性を同定する。
【0044】
図7は、インピーダンス特性同定部の例を示すブロック図である。
【0045】
インピーダンス特性同定部54には、適応フィルタ60と、フィルタ係数更新部62と、演算器64とが備えられている。
【0046】
適応フィルタ(第2適応フィルタ)60は、アクチュエータ16において消費される電流の時間波形信号である電流信号Ispkに対してフィルタリング処理を行うことにより模擬電圧信号Vspk′を出力する。適応フィルタ60におけるフィルタ係数Wspkと、上述した適応フィルタ36におけるフィルタ係数Wとは異なることとなる。このため、適応フィルタ60において行われるフィルタリング処理と、上述した適応フィルタ36において行われるフィルタリング処理とは異なることとなる。
【0047】
演算器64は、アクチュエータ16に印加される電圧の時間波形信号である電圧信号Vspkと、模擬電圧信号Vspk′との差分を算出する。演算器64による演算結果は、フィルタ係数更新部62に供給される。
【0048】
フィルタ係数更新部62は、アクチュエータ16に印加される電圧の時間波形信号である電圧信号Vspkと、模擬電圧信号Vspk′との差分が最小になるように適応フィルタ60におけるフィルタ係数Wspkを更新する。
【0049】
こうして、適応フィルタ60におけるフィルタ係数Wspkは、アクチュエータ16におけるインピーダンス特性に応じた値となる。即ち、アクチュエータ16におけるインピーダンス特性がインピーダンス特性同定部54によって同定される。
【0050】
フーリエ変換部56は、適応フィルタ60に対してフーリエ変換を行うことにより、アクチュエータ16におけるインピーダンス周波数特性を取得する。即ち、フーリエ変換部56は、アクチュエータ16におけるインピーダンス特性に応じたフィルタ係数Wspkを有する適応フィルタ60に対してフーリエ変換を行うことにより、アクチュエータ16におけるインピーダンス周波数特性を取得する。
【0051】
ピーク周波数同定部52は、フーリエ変換部56によって取得されたインピーダンス周波数特性を周波数解析することによってピーク周波数f0を同定する。即ち、ピーク周波数同定部52は、フーリエ変換部56によって算出されたインピーダンス周波数特性に対して走査を行い、アクチュエータ16のインピーダンスが最も大きくなる周波数を、ピーク周波数f0と同定する。こうして、アクチュエータ16のインピーダンス周波数特性におけるピーク周波数f0が同定される。このように、適応フィルタ60を用いて、インピーダンス周波数特性におけるピーク周波数f0を求めるようにしてもよい。
【0052】
ピーク周波数記憶部70には、初期のインピーダンス周波数特性におけるピーク周波数である初期ピーク周波数f0orgが予め記憶されている。初期とは、経年変化がアクチュエータ16に生じる前の時期であり、具体的には、例えば、能動騒音制御装置10が車両12に取り付けられた時期等が該当し得るが、これに限定されるものではない。初期ピーク周波数f0orgは、能動騒音制御装置10が車両12に取り付けられた時期等において測定され得るが、これに限定されるものではない。
【0053】
第1判定部26は、同定部24によって今回同定されたピーク周波数f0と、ピーク周波数記憶部70に記憶された初期ピーク周波数f0orgとの相違が閾値TH以上であるか否かを判定する。
【0054】
制御部28は、同定部24によって今回同定されたピーク周波数f0と、ピーク周波数記憶部70に記憶された初期ピーク周波数f0orgとの相違が閾値TH以上であることが第1判定部26によって判定された場合に、以下のような制御を行う。即ち、このような場合、制御信号生成部34において生成される制御信号uの特性を変更する。
【0055】
制御信号uの特性は、音響特性フィルタ38において適用される音響特性C^を切り替えることによって行われ得るが、これに限定されるものではない。
【0056】
図8は、テーブルの例を示す図である。
図8に示すように、テーブル74には、各々のピーク周波数f0に応じた複数の音響特性C^が格納されている。C^0は、ピーク周波数がf00である際の音響特性である。C^1は、ピーク周波数がf01である際の音響特性である。C^nは、ピーク周波数がf0nである際の音響特性である。ピーク周波数一般について説明する際には、符号f0を用い、個々のピーク周波数について説明する際には、符号f00~f0nを用いる。音響特性一般について説明する際には、符号C^を用い、個々の音響特性について説明する際には、符号C^0~C^nを用いる。
【0057】
制御部28は、音響特性フィルタ38において適用される音響特性C^をピーク周波数f0に応じて適宜切り替えることによって、制御信号生成部34において生成される制御信号uの特性を変更し得る。即ち、制御部28は、現在のピーク周波数f0に応じた音響特性C^をテーブル74から読み出し、テーブル74から読み出した音響特性C^を音響特性フィルタ38に適用させる。こうして、制御信号生成部34において生成される制御信号uの特性が変更されることとなる。
【0058】
第2判定部27は、ピーク周波数f0が予め決められた周波数範囲内であるか否かを判定し得る。
【0059】
ピーク周波数f0が予め決められた周波数範囲内でないことが第2判定部27によって判定された場合、即ち、ピーク周波数f0が著しく変化した場合には、制御部28は、制御信号生成部34による制御信号uの生成を中止させる。
【0060】
ピーク周波数f0が予め決められた周波数範囲内でないことが第2判定部27によって判定された場合、制御部28は、アクチュエータ16の特性に異常が生じていることを示す情報を異常情報記憶部72に記憶する。
【0061】
ピーク周波数f0が予め決められた周波数範囲内でないことが第2判定部27によって判定された場合、制御部28は、アクチュエータ16の特性に異常が生じていることを示す情報を、車両12に備えられた情報表示器68に表示させる。
【0062】
出力部32は、アクチュエータ16の特性に異常が生じていることを示す情報を故障診断機66に通知するためのものである。故障診断機66が車両12に接続された際、制御部28は、アクチュエータ16の特性に異常が生じていることを示す情報を、出力部32を介して故障診断機66に通知する。
【0063】
図9は、本実施形態による能動騒音制御装置の動作の例を示すフローチャートである。
【0064】
ステップS1において、同定部24は、アクチュエータ16のインピーダンス周波数特性におけるピーク周波数f0を同定する。この後、ステップS2に遷移する。
【0065】
ステップS2において、第1判定部26は、同定部24によって今回同定されたピーク周波数f0と、ピーク周波数記憶部70に記憶された初期ピーク周波数f0orgとの相違が閾値TH以上であるか否かを判定する。かかる相違が閾値TH以上である場合(ステップS2においてYES)、ステップS3に遷移する。かかる相違が閾値TH未満である場合(ステップS2においてNO)、
図9に示す処理が完了する。
【0066】
ステップS3において、制御部28は、制御信号uの特性を変更する。制御信号uの特性の変更は、上述したように、音響特性フィルタ38において適用される音響特性C^が切り替えられることによって行われ得るが、これに限定されるものではない。こうして、
図9に示す処理が完了する。
【0067】
図10は、本実施形態による能動騒音制御装置の動作の例を示すフローチャートである。
【0068】
ステップS11において、第2判定部27は、ピーク周波数f0が予め決められた周波数範囲内であるか否かを判定する。ピーク周波数f0が予め決められた周波数範囲内で
ない場合(ステップS11において
NO)、ステップS12に遷移する。ピーク周波数f0が予め決められた周波数範囲内で
ある場合(ステップS11において
YES)、
図10に示す処理が完了する。
【0069】
ステップS12において、制御部28は、制御信号生成部34による制御信号uの生成を中止させる。この後、ステップS13に遷移する。
【0070】
ステップS13において、制御部28は、アクチュエータ16の特性に異常が生じていることを示す情報を異常情報記憶部72に記憶する。この後、ステップS14に遷移する。
【0071】
ステップS14において、制御部28は、アクチュエータ16の特性に異常が生じていることを示す情報を、車両12に備えられた情報表示器68に表示させる。こうして、
図10に示す処理が完了する。
【0072】
このように、本実施形態では、同定部24によって今回同定されたピーク周波数f0と、ピーク周波数記憶部70に記憶された初期ピーク周波数f0orgとの相違が閾値TH以上であるか否かが判定される。そして、かかる相違が閾値TH以上であると判定された場合には、制御信号生成部34において生成される制御信号uの特性が変更される。このため、本実施形態によれば、経年変化等によってアクチュエータ16の特性に変化が生じた場合であっても、車室14内の騒音を良好に相殺することができ、ひいては、騒音を良好に低減し得る能動騒音制御装置10を提供することができる。
【0073】
本発明についての好適な実施形態を上述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。
【0074】
上記実施形態をまとめると以下のようになる。
【0075】
能動騒音制御装置(10)は、車両(12)の車室(14)内の騒音を低減させるために、制御信号(u)に基づいた相殺音をアクチュエータ(16)から出力させる能動騒音制御装置であって、前記騒音に応じた参照信号(r)に対してフィルタリング処理を行うことにより前記制御信号を生成する第1適応フィルタ(36)を含む制御信号生成部(34)と、前記アクチュエータのインピーダンスの周波数特性であるインピーダンス周波数特性におけるピーク周波数(f0)を同定する同定部(24)と、初期の前記インピーダンス周波数特性における前記ピーク周波数である初期ピーク周波数(f0org)を記憶するピーク周波数記憶部(70)と、前記同定部によって今回同定された前記ピーク周波数と、前記ピーク周波数記憶部に記憶された前記初期ピーク周波数との相違が閾値(TH)以上であるか否かを判定する第1判定部(26)と、前記相違が前記閾値以上であることが前記第1判定部によって判定された場合に、前記制御信号生成部において生成される前記制御信号の特性を変更する制御部(28)と、を備える。このような構成によれば、かかる相違が経年変化等によって閾値以上になった場合に、制御信号生成部において生成される制御信号の特性が変更される。このため、このような構成によれば、経年変化等によってアクチュエータの特性に変化が生じた場合であっても、車室内の騒音を良好に相殺することができ、ひいては、騒音を良好に低減し得る能動騒音制御装置を提供することができる。
【0076】
前記同定部は、前記アクチュエータに印加される電圧の時間波形信号である電圧信号(Vspk)を検出する電圧検出部(46)と、前記アクチュエータにおいて消費される電流の時間波形信号である電流信号(Ispk)を検出する電流検出部(48)と、前記電圧信号と前記電流信号とに基づいて前記インピーダンス周波数特性を算出するインピーダンス周波数特性算出部(50)と、前記インピーダンス周波数特性を周波数解析することにより前記ピーク周波数を同定するピーク周波数同定部(52)と、を備えるようにしてもよい。このような構成によれば、インピーダンス周波数特性に基づいてピーク周波数を同定し得る。
【0077】
前記同定部は、前記アクチュエータのインピーダンス特性を算出するインピーダンス特性同定部(54)を備え、前記インピーダンス特性同定部は、前記第1適応フィルタによって行われる前記フィルタリング処理とは異なるフィルタリング処理を、前記アクチュエータにおいて消費される電流の時間波形信号である電流信号に対して行うことにより模擬電圧信号(Vspk′)を出力する第2適応フィルタ(60)と、前記アクチュエータに印加される電圧の時間波形信号である電圧信号と前記模擬電圧信号との差分が最小になるように前記第2適応フィルタにおけるフィルタ係数(Wspk)を更新する第2フィルタ係数更新部(62)とを備え、前記同定部は、前記第2適応フィルタに対してフーリエ変換を行うことにより前記インピーダンス周波数特性を取得するフーリエ変換部(56)と、前記フーリエ変換部により得られた前記インピーダンス周波数特性を周波数解析することにより前記ピーク周波数を同定するピーク周波数同定部とを更に備えるようにしてもよい。
【0078】
前記ピーク周波数が予め決められた周波数範囲内であるか否かを判定する第2判定部(27)を更に備え、前記ピーク周波数が前記周波数範囲内でないことが前記第2判定部によって判定された場合、前記制御部は、前記制御信号生成部による前記制御信号の生成を中止させるようにしてもよい。このような構成によれば、アクチュエータのインピーダンス周波数特性におけるピーク周波数が著しく変化した場合に制御信号の生成が中止されるため、アクチュエータの故障、異常等に起因する騒音の増大等を防止することができる。
【0079】
前記ピーク周波数が予め決められた周波数範囲内であるか否かを判定する第2判定部と、前記ピーク周波数が前記周波数範囲内でないことが前記第2判定部によって判定された場合に、前記アクチュエータの特性に異常が生じていることを示す情報を記憶する異常情報記憶部(72)と、を更に備えるようにしてもよい。このような構成によれば、アクチュエータに異常が生じていることを示す情報が、故障診断等の際に用いられ得る。
【0080】
前記ピーク周波数が前記周波数範囲内でないことが前記第2判定部によって判定された場合、前記制御部(28)は、前記アクチュエータの特性に異常が生じていることを示す情報を、前記車両に備えられた情報表示器(68)に表示させるようにしてもよい。このような構成によれば、アクチュエータの特性に異常が生じていることを示す情報が情報表示器において表示され得るため、ユーザは、アクチュエータの特性に異常が生じていることを情報表示器の表示に基づいて把握し得る。
【0081】
前記アクチュエータの特性に異常が生じていることを示す情報を故障診断機(66)に通知するための出力部(32)を更に備えるようにしてもよい。このような構成によれば、アクチュエータの特性に異常が生じていることを示す情報が故障診断機に供給され得るため、的確な故障診断が故障診断機によって行われ得る。
【0082】
各々の前記ピーク周波数に応じた複数の音響特性(C^)を含むテーブル(74)と、前記テーブルに含まれた複数の前記音響特性のうちのいずれかに応じたフィルタリング処理を前記参照信号に対して行うことによって前記参照信号を補正する音響特性フィルタ(38)と、前記騒音と前記相殺音との干渉による残留騒音をマイクロフォン(20)によって検出することによって得られる誤差信号(e)と、前記音響特性フィルタによって補正された前記参照信号とに基づいて、前記第1適応フィルタにおけるフィルタ係数(W)を更新する第1フィルタ係数更新部(40)と、を更に備え、前記制御部は、前記音響特性フィルタにおいて適用される前記音響特性を前記ピーク周波数に応じて切り替えることによって、前記制御信号生成部において生成される前記制御信号の特性を変更するようにしてもよい。このような構成によれば、ピーク周波数に応じて音響特性フィルタにおける音響特性が切り替えられるため、複雑な信号処理を要することなく、制御信号の特性を的確に変更し得る。即ち、このような構成によれば、騒音の振動の制御が不安定になるのを防止することができ、騒音を良好に低減することができる。
【0083】
前記アクチュエータは、スピーカであるようにしてもよい。
【0084】
車両は、上記のような能動騒音制御装置を備える。
【符号の説明】
【0085】
10:能動騒音制御装置 12:車両
14:車室 15:パワーアンプ
16:アクチュエータ 17:電流検出器
18:加速度センサ 20:マイクロフォン
22:演算部 24:同定部
26:第1判定部 27:第2判定部
28:制御部 30:記憶部
32:出力部 34:制御信号生成部
36、60:適応フィルタ 38:音響特性フィルタ
40、62:フィルタ係数更新部 46:電圧検出部
48:電流検出部 50:インピーダンス周波数特性算出部
52:ピーク周波数同定部 54:インピーダンス特性同定部
56:フーリエ変換部 64:演算器
66:故障診断機 68:情報表示器
70:ピーク周波数記憶部 72:異常情報記憶部
74:テーブル C^:伝達特性、音響特性
Ispk:電流信号 Vspk:電圧信号
Vspk′:模擬電圧信号 W、Wspk:フィルタ係数
e:誤差信号 f0:ピーク周波数
f0org:初期ピーク周波数 r:参照信号
u:制御信号