(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】全固体電池システム
(51)【国際特許分類】
B60L 58/16 20190101AFI20241112BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B60L58/16
H01M10/48 P
(21)【出願番号】P 2021170222
(22)【出願日】2021-10-18
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】宮島 貴之
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-016521(JP,A)
【文献】特開2019-036422(JP,A)
【文献】特開2017-050270(JP,A)
【文献】特開2019-204800(JP,A)
【文献】特開2020-123488(JP,A)
【文献】特開2012-222981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
B60R 21/00-21/13
21/34-21/38
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G01C 21/00-21/36
23/00-25/00
G08G 1/00-99/00
H01M 10/05-10/0587
10/36-10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載される全固体電池システムであって、
前記全固体電池システムは、
全固体電池と、
前記全固体電池の充放電を制御する制御ユニットと、
を備え、
前記制御ユニットは、前記移動体の走行状況を取得する取得部と、
前記取得部が取得した走行状況に基づき、前記全固体電池に伝わる振動値を予測する予測部と、
前記予測部が予測した振動値が閾値以上であるか否か判定する、判定部と、
前記判定部が閾値以上であると判定した場合に、前記全固体電池の
充電を抑制的に制御する、制御部と、を有する全固体電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極層および負極層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。また、車両等の移動体に搭載された電池の劣化を抑制する技術が知られている。全固体電池に関する技術ではないが、例えば、特許文献1では、振動強度を車両の位置情報を用いて取得し、適切なタイミングでハイレート劣化抑制制御を行う二次電池システムが開示されている。また、全固体電池に関する技術ではないが、特許文献2では、二次電池における振動強度に基づき、二次電池の劣化状態を算出して制御を行う、二次電池の制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-016521号公報
【文献】特開2015-122151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全固体電池では、電極層等に割れが生じると、電導パスが切断されて電池性能が劣化する恐れがある。また、全固体電池を車両等の移動体に搭載した場合には、振動等の物理的衝撃が加わるため、割れの発生が促進される恐れがある。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、全固体電池の劣化を抑制できる全固体電池システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本開示においては、移動体に搭載される全固体電池システムであって、上記全固体電池システムは、全固体電池と、上記全固体電池の充放電を制御する制御ユニットと、を備え、上記制御ユニットは、上記移動体の走行状況を取得する取得部と、上記取得部が取得した走行状況に基づき、上記全固体電池に伝わる振動値を予測する予測部と、上記予測部が予測した振動値が閾値以上であるか否か判定する、判定部と、上記判定部が閾値以上であると判定した場合に、上記全固体電池の充放電を制限する、制御部と、を有する全固体電池システムを提供する。
【0006】
本開示によれば、全固体電池に加わる振動の予測値が閾値以上である場合に全固体電池の充放電を制限するため、全固体電池の劣化を抑制できる。
【発明の効果】
【0007】
本開示においては、全固体電池の劣化を抑制できる全固体電池システムを提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示における全固体電池システムが搭載された車両の全体構成を概略的に例示する模式図である。
【
図2】全固体電池が劣化する要因について説明する図である。
【
図3】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
【
図4】本開示における取得部が、路面形状を取得する方法を例示する図である。
【
図5】本開示における予測部が、路面傾斜および車速から振動値を予測する方法を例示する図である。
【
図6】本開示における決定部が、SOCから閾値を決定する方法を例示する図である。
【
図7】本開示における制御ユニットが実行する処理を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示における全固体電池システムについて、詳細に説明する。
【0010】
図1は、本開示における電池システムが搭載された車両の全体構成を概略的に例示する模式図である。車両200は、全固体電池システム100と、パワーコントロールユニット(PCU:Power Control Unit)110と、モータジェネレータ(MG:Motor Generator)120と、駆動輪130とを備える。電池システム100は、全固体電池10と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)20とを備える。
【0011】
また、ECU20は、車両200の各種電子制御を行うが、全固体電池10の制御ユニットとしても機能する。制御ユニットは、その機能を実現するための処理ブロックとして、取得部、予測部、判定部および制御部を有し、予測部が予測した振動値が閾値以上であった場合に、全固体電池の充放電を制限する。
【0012】
本開示によれば、全固体電池に加わる振動の予測値が閾値以上である場合に全固体電池の充放電を制限するため、全固体電池の劣化を抑制できる。
【0013】
ここで、
図2(a)に示すように、全固体電池において、活物質等の材料は固固界面接合されている。また、全固体電池が充放電されると活物質が膨張縮小する。そのため、
図2(b)に示すように、全固体電池が充放電されている状態で、さらに外部から機械振動が加わると、固固界面および電極層内で割れの発生が促進されると考えられる。その結果、導電パスが切れて、電池抵抗が増加すると考えられる。
【0014】
本開示においては、閾値以上の振動が加わると判定された場合に、全固体電池の充放電を制御することで、全固体電池の劣化を抑制することができる。
【0015】
1.全固体電池
本開示における全固体電池システムは、全固体電池を備える。全固体電池は単電池であってもよく組電池であってもよい。例えば
図1において、全固体電池10は、MG120を駆動するための電力を蓄え、PCU110を通じてMG120へ電力を供給する。また、全固体電池10は、MG120の発電時にPCU110を通じて発電電力を受けて充電される。
【0016】
図3は、本開示における全固体電池の一例を示す概略断面図である。
図3に示す全固体電池10では、正極集電体4、正極層1、固体電解質層3、負極層2および負極集電体5をこの順に有し、これらの部材が外装体6に収納されている。
【0017】
正極集電体、正極層、固体電解質、負極層、負極集電体および外装体は、従来の全固体電池に用いられる部材とすることができる。
【0018】
また、全固体電池は、通常、充放電が可能な二次電池である。また、全固体電池はリチウムイオン電池であることが好ましい。
【0019】
2.制御ユニット
(1)制御ユニットの構成
本開示における電池システムは、制御ユニットを備える。制御ユニットは、取得部が取得した走行状況に基づき、全固体電池に伝わる振動値を予測し、予測した振動値が閾値以上であった場合に、全固体電池の充放電を制限するよう構成されている。例えば
図1において、ECU20は本開示における制御ユニットとして機能し、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、各種信号を入出力するための入出力ポートとを含む。メモリは、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、および、書き換え可能な不揮発性メモリを含む。メモリに記憶されているプログラムをCPUが実行することで、各種制御が実行される。ECUが行なう各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
【0020】
制御ユニットは、その機能を実現するための処理ブロックとして、取得部、予測部、判定部および制御部を有する。
【0021】
取得部は、移動体の走行状況を取得する。走行状況としては、例えば、通過予定の路面形状、移動体の速度が挙げられる。取得部は、例えば、レーザー機器、カメラ、ネットワーク通信装置、速度計等の装置から、移動体の走行状況を取得することが好ましい。レーザー機器を用いた場合、例えば、LiDAR(light detection and ranging)によって路面形状を取得することができる。カメラを用いた場合、例えば、カメラが撮影した路面画像から路面形状を取得できる。また、ネットワーク通信装置を用いた場合、例えば、車車間通信によって、また、サーバ通信によって、路面形状および交通状況の少なくとも一方を取得できる。
【0022】
図4を用いて、制御ユニットが路面形状を取得する方法の一例を説明する。例えば、制御ユニットは、
図4(a)に示すように、取得部が、移動体(車両200)の進行方向において、路面の傾斜の有無、移動体から傾斜までの距離を検知できるよう構成される。例えば、路面に傾斜があることを検知した場合、
図4(b)に示すように、傾斜の高低差hおよび高低距離dから、傾斜の大きさ(路面傾斜θ)を算出することができる。なお、路面傾斜θは、h/dで求められるSinθとして算出される。
【0023】
また、制御ユニットは、全固体電池の電流値および電圧値から充電状態(SOC)を算出する算出部を有し、取得部は、上記算出部からSOCを取得してもよい。この場合、例えば、全固体電池システムは、全固体電池の状態を監視する監視ユニットを有することが好ましい。監視ユニットとしては、例えば、電流センサ、電圧センサ、温度センサが挙げられる。
【0024】
予測部は、上記走行状況から全固体電池に加わる振動値を予測するように設定されている。例えば、
図5に示すように、予め路面傾斜(θ)と振動(g)との関係を移動体の速度(車速v)毎に学習させた学習データと、取得部が取得した走行状況の値とを照合して振動値を予測する。予測値についての学習データは、例えばメモリに記録されている。なお、予測値についての学習データにおいては、移動体の重量を考慮してもよい。
【0025】
判定部は、予測部が予測した振動値が、閾値以上であるか否か判定するように設定されている。ここで、閾値は予め設定された値であってもよく、取得部が取得した全固体電池の充電状態(SOC)に基づき決定された値であってもよい。後者の場合、制御ユニットは、取得部が取得した全固体電池の充電状態(SOC)に基づき、振動値の閾値を決定する決定部を有していてもよい。
【0026】
決定部は、例えば、
図6に示すように、予め全固体電池のSOCと振動値との関係を学習した学習データと、取得部が取得したSOCとを照合することで、振動値の閾値を決定することができる。閾値についての学習データは、例えばメモリに記録されている。ここで、
図6に示されるように、全固体電池のSOCが高い状態の場合、通電による電極体積の変化は小さく、振動による電池性能の劣化への影響は小さい。よって、この場合には、閾値を大きくする。一方、全固体電池のSOCが低い状態の場合、通電による電極体積の変化は大きく、振動による電池性能の劣化への影響は大きい。よって、この場合には、閾値を小さくする。
【0027】
制御部は、判定部が閾値以上であると判定した場合に、全固体電池の充放電を制限するように設定されている。本開示において「充放電を制限する」とは、放電および放電の少なくとも一方を制限することをいう。例えば全固体電池の放電中(例えば、移動体の加速中)に、判定部が閾値以上であると判定した場合、制御部は、放電を抑制的に制御するため、例えば、出力を低下させたり、放電を中止させたりすることができる。一方、例えば、全固体電池の充電中(例えば、移動体の減速による回生充電中)に、判定部が閾値以上であると判定した場合、制御部は、充電を抑制的に制御するため、例えば、充電を中止させたりすることができる。また、判定部が閾値以上であると判定した場合に、制御部は、全固体電池の放電および放電の両方を、抑制的に制御してもよい。
【0028】
また、制御部は、例えば、全固体電池に振動が加わっている間、全固体電池の放電または充電を、継続的に制限してもよい。また、全固体電池に加わる振動がおさまった後、制御部は、上記制限を解除してもよい。なお、制御部は、取得部が取得した走行状況に基づき、予め振動が加わる時間を算出して、全固体電池の充放電を制限する時間を設定してもよい。また、制御部は、例えば、移動体がハイブリッド自動車(HEV)またはプラグインハイブリッド車(PHEV)である場合、振動が加わっている間の走行をエンジン走行に切り替えるよう指令をだすことができる。
【0029】
(2)制御ユニットが行う処理
図7は、本開示における制御ユニットが行う処理を例示するフローチャートである。
図7に示すように、ステップS1では、取得部が、路面傾斜(θ)、車速(v)、および全固体電池の充電状況(SOC)を取得する。ステップS2では、予測部が、路面傾斜(θ)および車速(v)から、全固体電池に加わる振動値(予測値g)を予測する。次いで、ステップS3では、決定部が、全固体電池のSOCに基づき、閾値(glimit)を決定する。なお、ステップS3は、ステップS2の前に行ってもよく、ステップ2と同時に行ってもよい。次いで、ステップS4では、判定部が、予測値(g)が閾値(glimit)以上か否かを判定する。予測値が閾値未満であれば、ステップS1に戻る。一方、予測値が閾値以上であれば、ステップS5に進み、制御部が全固体電池の充放電を制限する。そして、ステップS6では、振動が通過した後に充放電の制限を解除し、ステップS1に戻る。
【0030】
3.全固体電池システム
本開示における全固体電池システムは、移動体に搭載される。移動体としては、車両および車両以外の移動体が挙げられる。車両としては、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車が挙げられる。車両以外の移動体としては、例えば鉄道、船舶および航空機が挙げられる。
【0031】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【0032】
[参考例]
図2に示されるような全固体電池を作製した。作製した全固体電池に対して、振動のみを加えた条件、通電のみを加えた条件、振動と通電を加えた条件で、耐久試験を実施した。振動は3軸振動とした。なお、正極集電体としてはAl箔を用い、正極活物質としては酸化物活物質(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)を用い、負極活物質としてはSiを用い、固体電解質としては硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75Li
2S・0.25P
2S
5)を用い、負極集電体としてはCu箔を用い、外装体としてはラミネートフィルムを用いた。結果を
図8に示す。
【0033】
図8に示すように、通電と振動の両方を加えた条件で最も抵抗増加率が大きく、振動のみを加えた条件では抵抗増加率が最も小さかった。このことから、振動が加わる際に、全固体電池の充放電を制限することで、全固体電池の劣化を抑制できることが示唆された。
【符号の説明】
【0034】
10 …全固体電池
20 …ECU
100 …全固体電池システム