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特許7586376金属AM銅合金粉末および積層造形物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】金属AM銅合金粉末および積層造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20241112BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20241112BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20241112BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20241112BHJP
   B22F 10/64 20210101ALI20241112BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20241112BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241112BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241112BHJP
   B22F 9/08 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F1/052
B22F10/34
B22F10/28
B22F10/64
C22C9/06
B33Y70/00
B33Y10/00
B22F9/08 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024513174
(86)(22)【出願日】2023-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2023038396
(87)【国際公開番号】W WO2024090449
(87)【国際公開日】2024-05-02
【審査請求日】2024-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2022169921
(32)【優先日】2022-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】平野 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】大久保 清之
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 訓
(72)【発明者】
【氏名】加藤 純
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕明
(72)【発明者】
【氏名】峰 和久
(72)【発明者】
【氏名】二田 伸康
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/181924(WO,A1)
【文献】特開2016-023366(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239655(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/123433(WO,A1)
【文献】特開2020-186429(JP,A)
【文献】国際公開第2021/261591(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00- 9/10
B22F 1/00- 1/18
B22F 10/00-12/90
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属AMに用いられる金属AM用銅合金粉末であって、
合金元素としてCrとSiとNiを含有する銅合金からなり、Crの含有量が0.1質量%以上0.8質量%以下の範囲内、Siの含有量が0.4質量%以上0.8質量%以下の範囲内、Niの含有量が1.8質量%以上3.0質量%以下の範囲内、その他が銅及び不純物からなる組成とされており、
粉末を構成する銅合金粒子の表面にSi濃化層が連続的に形成されていることを特徴とする金属AM用銅合金粉末。
【請求項2】
前記合金元素以外の添加元素および不純物元素としてZr,Mg,Ti,Al,Zn,Ca,Sn,Pb,Fe,Mn,Te,Nb,P,Co,Sb,Bi,Ag,Ta,W及びMoの群から選択される少なくとも一種の元素を、総量で0.07mass%以下含んでいることを特徴とする請求項1に記載の金属AM用銅合金粉末。
【請求項3】
前記Si濃化層が酸素を含有していることを特徴とする請求項1に記載の金属AM用銅合金粉末。
【請求項4】
レーザー回折・散乱法にて測定された体積基準の50%累積粒子径D50が5μm以上120μm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の金属AM用銅合金粉末。
【請求項5】
レーザー回折・散乱法にて測定された体積基準の10%累積粒子径D10が1μm以上80μm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の金属AM用銅合金粉末。
【請求項6】
レーザー回折・散乱法にて測定された体積基準の90%累積粒子径D90が10μm以上150μm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の金属AM用銅合金粉末。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の金属AM用銅合金粉末を準備する準備工程と、
前記金属AM用銅合金粉末を含む粉末床を形成する第1工程と前記粉末床において所定位置の前記金属AM用銅合金粉末を固化させて造形床を形成する第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程と、
を備えることを特徴とする積層造形物の製造方法。
【請求項8】
前記造形工程後に300℃以上純銅の融点以下の温度範囲で熱処理する熱処理工程を備えていることを特徴とする請求項7に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項9】
前記造形工程後に800℃以上純銅の融点以下の温度範囲で熱処理を行う第一熱処理工程と、前記第一熱処理後に300℃以上800℃未満の温度範囲で熱処理を行う第二熱処理工程と、を備えていることを特徴とする請求項7に記載の積層造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属アディティブ・マニュファクチャリング(金属AM)技術に最適な金属AM用銅合金粉末、および、積層造形物の製造方法に関する。
本願は、2022年10月24日に、日本に出願された特願2022-169921号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な立体形状を有する金属部品を製造する手法として、主に原料として粉を用いて金属3Dプリンターで製品を造形する金属AM技術が実用化されている。金属粉末を用いた主な金属AM技術としては、電子ビームやレーザー光を用いた粉末床溶融法(パウダー・ベッド・フュージョン:PBF)、バインダジェット法等が挙げられる。
ここで、銅合金は、導電性、熱伝導性、機械的特性、耐摩耗性、耐熱性など工業的な応用に適した多数の基本的性質を有しており、各種部材の素材として利用されている。そこで、近年、宇宙、電気部品応用など様々な分野において、銅合金粉末を用いた金属AMにより、様々な形状の部材を形成することが試行され、金属AMで製造された銅及び銅合金の部品のニーズが高まっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、CrとSiのいずれかを有する銅合金粉末を用いて、金属AMによる積層造形物を作成する技術が提案されている。
また、特許文献2には、CrとZrを有する銅合金粉末を用いて、金属AMによる積層造形物を作成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-211062号公報
【文献】特開2019-070169号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Y. M. Arisoy et. al., "Influence of scan strategy and process parameters on microstructure and its optimization in additively manufactured nickel alloy 625 via laser powder bed fusion", The International Journal of Advanced Manufacturing Technology, Volume 90, p.p. 1393-1417 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属AMにより造形される金属構造体は、様々な用途に応じて何らかの構造部材として用いられることになるため、積層造形体の中にボイドが存在する場合や金属材料としての微細構造が不均一である場合には、熱機械的また電気的な信頼性の点で問題となる。
現在、金属AMで最も多く使用されている造形方式はレーザーPBFであり、銅及び銅合金においても、レーザーPBFによる造形が試みられてきている。
ところで、レーザー光や電子線を照射する方法で積層造形する際には、まず薄い粉末の層を形成し(粉末床)、続いてこの粉末床にレーザーや電子線を局所的に照射して材料を溶融凝固させる。しかし、銅及び銅合金においては、鉄、チタン、ニッケル系などの他の金属材料と比較して、銅そのものが可視、赤外域の光に対する反射率が高いことなどが原因となり、レーザーPBFの過程で銅合金粉末の溶融挙動が不安定となり、作製された積層造形物の内部にボイドが発生しやすく、レーザーPBFで製造した造形体の品質が安定しない、生産性が悪いなどの課題が山積しており、レーザーPBFにより製造された銅及び銅合金の生産性及び品質の改善が求められてきている。
【0007】
現在、最も広く使用されている金属AM用原料の形態は粉末である。例えば、レーザーPBFを用いた金属AMにおいては、原料粉末を構成する各粒子の表面層の電磁波とのカップリング・相互作用による粒子の電磁波の吸収特性が、原料粉末の溶融挙動に影響を及ぼし、部品の生産性や部品の欠陥密度を含む品質に大きく影響する。例えば、粉末床を用いる金属AMプロセスにおいては、一回の積層過程で形成される粉末床の厚みは例えば数10μm程度であり(非特許文献1)、収束した電磁波をこのような比較的薄い粉末床に照射することにより原料粉末を溶融させ、更に数多くの積層と溶融凝固を繰り返すことにより所望の造形構造を実現する。粉末床を用いるこのような積層造形の素過程に大きな影響を及ぼすのが固体の電磁波の吸収特性であり、例えば、固体の電磁波の吸収特性は材料組成により影響されるため、粉末の材料組成や微細構造の均一性を高めることは、積層造形物全体において安定した品質を実現することや高い生産性の実現において極めて重要となる。
【0008】
ここで、銅及び銅合金における電磁波の吸収特性は、例えば、単純に銅以外の成分として、目的のレーザー波長の吸収率が高い物質を添加することで改善可能である。しかしながら、過去の多くの冶金研究が示すように、銅及び銅合金をある応用に供する場合、その応用に必要な特性は、銅に添加される元素の種類とその添加量が適切に選択されることにより初めて実現される。従って、銅や銅合金の金属AM造形体の生産性や品質改善のために、言い換えると、銅や銅合金の原料粉末のレーザー吸収の改善のために、最適化された組成の銅や銅合金にレーザー吸収率の高い各種異元素を添加したり、その添加量を増加させたりするなどの単純なアプローチは、各種応用に必要な銅合金の性能を悪化させる可能性がある。従って、各種応用に必要な銅合金の性能を十分に確保することが可能な材料組成を維持しながら、レーザー吸収特性が改善された金属AM用銅合金粉末を実現することが求められてきた。
【0009】
粉末のレーザー吸収特性の改善のための一つの重要なアプローチは、粉末を構成する各粒子表面の表面改質により各粒子のレーザー吸収能を改善することである。この表面改質のためには、所望の銅合金組成を有する粉末の各粒子の表面に、金属AMで使用するレーザー波長に対し高い吸収率を示す物質のコーティングを施すことが考えられる。このような粒子表面のコーティングのアプローチとして、所望のコーティング材料を湿式や気相プロセスを用いて粒子表面に形成することがあり得る。しかしながら、このようなコーティングプロセスでは、各粒子でのコーティング層の厚みの制御だけではなく、粉末全体でのコーティング厚みやコーティング材料の均質性の再現性の問題が付きまとい、結果として造形体の生産性や品質において数々の課題が発生することになる。
【0010】
また、銅合金においては、過去の様々な研究開発の結果、高い導電性を維持しながら高い機械強度を実現した材料や、耐熱性に優れる材料などが既に開発されており、金属AMにおいても、既存のこのような高性能銅合金材料を用いて所望の形状を有する金属AM部品を実現したい社会的要請がある。
しかし、コーティングにより形成した特定成分の量を制御しながら、最終造形物の銅合金の材料組成を制御することは、大きな製造工程の負荷となるだけでなく、組成ばらつきや微細構造のばらつきに起因する造形部品の性能の悪化、部品の量産性の悪化、また部品の品質の維持の面など、多数の大きな問題を抱える懸念があった。
【0011】
また、金属AM造形体の構造欠陥の原因となる一つの因子として、ガスなどの巻き込みに起因するボイドの発生がある。従来の銅合金粉末を用いてPBF法で積層造形した場合、粉末溶融時に、銅合金粉末に内包される不純物が原因となりガスが発生し、溶融した銅合金や凝固した銅合金がガス成分をトラップし、作製された積層造形物の内部にボイドが生じることがあり、安定して高品質な積層造形物を作製することができないおそれがあった。
【0012】
また、原料の粉末床にレーザー光や電子線を照射して積層造形する場合、レーザー光などが照射される各場所の粉末粒子の組成再現性を含む原料粉末に関わる微細構造の再現性が欠如している場合、粉末の溶融挙動が不均一となり、その結果、造形体内部にボイドなどの構造欠陥の発生を誘発したり、造形体の金属組成の不均一性による機械特性の悪化を生じさせたりするおそれがあった。
【0013】
また、このような原料粉末の微細構造の再現性は、粉末の材料組成の再現性を含み、バインダジェット法など他の金属AMの工法においても同様な問題となっていた。銅合金の金属AMにおいては、このような各種の原料の課題のため生産性の改善が大きな課題であった。
【0014】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、金属AMにより作製した造形体の微細構造の再現性が高く、ボイド等の構造欠陥が少ない高品質な積層造形物を安定して製造可能な金属AM用銅合金粉末、および、積層造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題を解決するために、実応用に必要な銅合金組成を有しながらも、金属AMプロセスを用いて高性能で高品質な銅合金部品を高い生産性で実現するための銅合金粉末を製造するための研究開発を行った。その結果、高純度の銅合金を原料として用いて粉末化処理を行った場合、銅合金粉末全体としては不純物が少なくかつ均一な組成を維持しながら、銅合金粉末中の個別の粒子表面に着目すると、レーザーが照射されることになる銅合金粒子表面に薄層が形成されていることが見いだされた。更に、この銅合金粒子表面に形成された薄層においては、バルクの銅合金粒子内部と比較し、銅よりも高いレーザー吸収を示す粉末構成元素が高頻度で存在するという特徴ある構造が、粉末への個別のコーティングプロセスや付加的なプロセスを経ることなく、銅合金原料からの直接的な粉末化プロセスにおいて自発的に生成することが見出された。
【0016】
このような銅合金粒子表面の構造的特徴に加えて、高純度の銅合金原料に由来した銅合金粉末であることにより、ガス成分につながる不純物が少ないことで溶融時のガス発生を抑制することにより、高い熱的、電気的、機械的特性を有しながら、緻密な銅合金造形体を実現し、更にこのような高い性能を示す銅合金造形体の高い生産性と高い品質を実現することが可能な金属AM用銅合金粉末が製造できることを見出した。
【0017】
不純物が少ない銅原料に由来し、Siが添加された銅合金をアトマイズ処理することにより作製した銅合金粉末において、銅合金の溶湯を噴霧するアトマイズ工程における急速な微細化と温度変化に誘起される微細構造変化により、銅合金粉末を構成する粒子表面にSi濃化層を自己形成的かつ連続的に形成させることに成功した。
このような特徴的な表面構造を有する粒子から成る金属AM用銅合金粉末を用いて銅合金を積層造形した場合には、積層造形物中のボイドの発生を大幅に削減可能であり、緻密な銅合金の積層造形物を作製することが可能であるとの知見を得た。このような造形性に優れる銅合金粉末は従来の銅合金粉末よりも高い生産性を実現すると考えられる。
【0018】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の態様1の金属AM用銅合金粉末は、金属AMに用いられる金属AM用銅合金粉末であって、合金元素としてCrとSiとNiを含有する銅合金からなり、Crの含有量が0.1質量%以上0.8質量%以下の範囲内、Siの含有量が0.4質量%以上0.8質量%以下の範囲内、Niの含有量が1.8質量%以上3.0質量%以下の範囲内、その他が銅及び不純物からなる組成とされており、粉末を構成する銅合金粒子の表面にSi濃化層が連続的に形成されていることを特徴としている。
前記合金元素以外の添加元素および不純物元素としてZr,Mg,Ti,Al,Zn,Ca,Sn,Pb,Fe,Mn,Te,Nb,P,Co,Sb,Bi,Ag,Ta,W及びMoの群から選択される少なくとも一種の元素を、総量で0.07mass%以下含んでいてもよい。
【0019】
本発明の態様1の金属AM用銅合金粉末によれば、Siを含有する銅合金からなり、粉末を構成する銅合金粒子の表面にSi濃化層が連続的に形成されていることにより、金属AMにより作製した造形体の微細構造の再現性が高く、ボイド等の構造欠陥が少ない高品質な積層造形物を安定して製造することが可能となる。
【0020】
本発明の態様2は、態様1の金属AM用銅合金粉末において、前記銅合金はCrを含有していることが好ましい。
本発明の態様2の金属AM用銅合金粉末によれば、CrとSiを含有する銅合金からなり、銅合金粒子の表面にSi濃化層が連続的に形成されていることにより、金属AMにより作製した造形体の微細構造の再現性が高く、ボイド等の構造欠陥が少ない高品質な積層造形物を安定して製造することが可能となる。
【0021】
本発明の態様3は、態様1または態様2の金属AM用銅合金粉末において、前記Si濃化層が酸素を含有していることが好ましい。
本発明の態様3の金属AM用銅合金粉末によれば、銅合金粒子の表面に形成された前記Si濃化層が酸素を含有していることから、金属AM用銅合金粉末の変質を抑制でき、金属AMにより作製した造形体の微細構造の再現性が高く、ボイド等の構造欠陥が少ない高品質な積層造形物をさらに安定して製造することが可能となる。
【0023】
本発明の態様4は、態様1から態様3のいずれか一つの金属AM用銅合金粉末において、レーザー回折・散乱法にて測定された体積基準の50%累積粒子径D50が5μm以上120μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
本発明の態様4の金属AM用銅合金粉末によれば、レーザー回折・散乱法にて測定された体積基準の50%累積粒子径D50が5μm以上120μm以下の範囲内とされているので、金属AMに適した粒度分布を有しており、積層造形物を安定して製造することが可能となる。
【0024】
本発明の態様5は、態様1から態様3のいずれか一つの金属AM用銅合金粉末において、レーザー回折・散乱法にて測定された体積基準の10%累積粒子径D10が1μm以上80μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
本発明の態様5の金属AM用銅合金粉末によれば、レーザー回折・散乱法にて測定された体積基準の10%累積粒子径D10が1μm以上80μm以下の範囲内とされているので、金属AMに適した粒度分布を有しており、積層造形物を安定して製造することが可能となる。
【0025】
本発明の態様6は、態様1から態様3のいずれか一つの金属AM用銅合金粉末において、レーザー回折・散乱法にて測定された体積基準の90%累積粒子径D90が10μm以上150μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
本発明の態様8の金属AM用銅合金粉末によれば、レーザー回折・散乱法にて測定された体積基準の90%累積粒子径D90が10μm以上150μm以下の範囲内とされているので、金属AMに適した粒度分布を有しており、積層造形物を安定して製造することが可能となる。
【0026】
本発明の態様7の積層造形物の製造方法は、態様1から態様6のいずれか一つの金属AM用銅合金粉末を準備する準備工程と、前記金属AM用銅合金粉末を含む粉末床を形成する第1工程と、前記粉末床において所定位置の前記金属AM用銅合金粉末を固化させて造形床を形成する第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程と、を備えることが好ましい。
【0027】
本発明の態様7の積層造形物の製造方法によれば、態様1から態様6のいずれか一つの金属AM用銅合金粉末を用いているので、積層造形により作製した造形体の微細構造の再現性が高く、ボイド等の構造欠陥が少ない高品質な積層造形物を安定して製造することが可能となる。
【0028】
本発明の態様8の積層造形物の製造方法は、態様7の積層造形物の製造方法において、前記造形工程後に300℃以上純銅の融点以下の温度範囲で熱処理する熱処理工程を備えていることが好ましい。
作製した積層造形物の応用に応じた適切な熱処理を施すことにより、造形された銅合金の微細構造を制御することが可能となり、所望の機械特性や導電特性を実現することが可能となる。本発明の態様8の製造方法の温度範囲で熱処理することで、適切に微細構造が制御された銅合金の造形体が実現される。
【0029】
本発明の態様9の積層造形物の製造方法は、態様7の積層造形物の製造方法において、前記造形工程後に800℃以上純銅の融点以下の温度範囲で熱処理を行う第一熱処理工程と、前記第一熱処理後に300℃以上800℃未満の温度範囲で熱処理を行う第二熱処理工程と、を備えていることが好ましい。
このような温度条件による二段階熱処理を行うことによっても所望の微細構造を有する銅合金が実現可能である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、金属AMにより作製した造形体の微細構造の再現性が高く、ボイド等の構造欠陥が少ない高品質な積層造形物を安定して製造可能な金属AM用銅合金粉末、および、積層造形物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施形態である金属AM用銅合金粉末を構成する銅合金粒子の概略説明図である。
図2】本実施形態である金属AM用銅合金粉末の製造方法のフロー図である。
図3】本実施形態である金属AM用銅合金粉末を製造する際に用いられる連続鋳造装置の概略説明図である。
図4】本実施形態である積層造形物の製造方法のフロー図である。
図5】本実施形態である金属AM用銅合金粉末を製造する際に用いられる他の連続鋳造装置の概略説明図である。
図6A】本実施形態である金属AM用銅合金粉末を構成する粒子の最表面近傍のオージェ電子分光分析結果を示す図であり、粒子表面の二次電子像である。
図6B】本実施形態である金属AM用銅合金粉末を構成する粒子の最表面近傍のオージェ電子分光分析結果を示す図であり、粒子表面の元素マッピング像である。
図7A】本実施形態である金属AM用銅合金粉末を構成する粒子の最表面近傍のオージェ電子分光分析結果を示すグラフの一例であり、Oの強度デプスプロファイルを示す。
図7B】本実施形態である金属AM用銅合金粉末を構成する粒子の最表面近傍のオージェ電子分光分析結果を示すグラフの一例であり、Siの強度デプスプロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、添付した図面を参照して、本発明の一実施形態である金属AM用銅合金粉末、および、積層造形物の製造方法について説明する。
本実施形態である金属AM用銅合金粉末は、金属AMに用いられる銅合金粉末である。なお、本実施形態である金属AM用銅合金粉末においては、レーザーPBF法に特に適したものとされている。
【0033】
本実施形態である金属AM用銅合金粉末は、Siを含有する銅合金で構成されている粒子の集合体であり、金属AM用銅合金粉末を構成する銅合金粒子の表面にはSi濃化層が連続的に形成されている。すなわち、本実施形態である金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50においては、図1に示すように、Siを含有する銅合金からなる粒子本体(銅合金粒子)51と、この粒子本体51の表面(或いは表層)に形成されたSi濃化層52と備えたものとされている。なお、本実施形態において、金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子の表面(粒子表面)(或いは表層)は、粒子の最表面から深さ100nmまでの領域である。
【0034】
Si濃化層52とは、以下で定義するSi強度倍率因子(Si intensity amplification factor)が2以上である部分が、粒子本体51の表面に対するオージェ電子分光分析の結果から解析される層である。この解析方法を以下に説明する。
アルバック・ファイ株式会社製走査型オージェ電子分光分析装置PHI700xiを用い、分析目的の粒子本体51の表面のオージェ電子信号計測開始から30秒毎に、計測時間(t)に伴うSi元素の信号強度(IAES(t))を測定する。
【0035】
オージェ電子分光分析によるSi濃化層52の同定は以下のように行う。分析目的の粒子表面のオージェ電子信号計測開始から30秒毎に、計測時間(t)に伴うSi元素の信号強度(IAES(t))を測定する。そして、Si元素に関するIAES(t)が概ね一定になる領域を6点以上確認し、これらのIAES(t)が一定となる領域において、IAES(t)の平均値を算出する。この平均値を平均バックグラウンド強度(IAES,BG AVE)と定義する。次に、取得した全てのtにおけるIAES(t)をIAES,BG AVEで除した数値を求める。この数値をIAES, NORM(t)と定義する。IAES, NORM(t)は以下の式(1)により表される。
IAES, NORM(t) = IAES(t) / IAES,BG AVE 式(1)
【0036】
t- IAES,NORM(t)関係において、Si濃化層52では計測時間の低下と共にIAES,NORM(t)が連続的に増大する。このIAES,NORM(t)の連続的な増加が観測される領域の開始時間をSi濃化層の末端となる時間ts0と定義する。
例えば、実施例において(後述の表5を参照)、ts0は概ね2minとなる。また、式(1)により算出するIAES, NORM(t)を、Si強度倍率因子(Si intensity amplification factor)とよぶ。表5によれば、Si濃化層52が存在する実施例において、Si強度倍率因子が2を超える数値が明確に観測され、Si信号強度がバックグラウンド強度に対して明らかに強くなる状況が確認される。
【0037】
そこで本実施形態では、粒子本体51の表面にSi強度倍率因子が2以上、好ましくは2を超えている部分が複数観察される場合、粒子本体51の表面にSi濃化層52が存在すると定義とした。
なお、Si濃化層52では、図7Bで示すようにSi濃度の傾斜が観察されることから、Si濃化層52の一部に、Si強度倍率因子が2未満~1.7等の箇所が観察されてもよい。
【0038】
本実施形態では、金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50の粒子本体51の表面に形成されたSi濃化層52が酸素(O)を含むものとされていることが好ましい。
また、粒子本体51の表面に形成されたSi濃化層52の厚みは、1nm以上100nm以下となっていることが好ましい。
Si濃化層52の厚みは、1nm以上が好ましく、5nm以上であってもよく、10nm以上であってもよく、20nm以上であってもよく、30nm以上であってもよく、50nm以上であってもよい。また、Cr化合物層52の厚みは、100nm以下であることが好ましく、95nm以下であってもよく、90nm以下であってもよく、80nm以下であってもよく、70nm以下であってもよい。
【0039】
Si濃化層52の厚みは、SiOからなる粒子表面をイオンエッチング法で、エッチングレート1.08nm/分でエッチングを行う条件を基準の条件とし、この基準のエッチング条件で、金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50の表面をエッチングして、金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50の表面を、アルバック・ファイ株式会社製走査型オージェ電子分光分析装置PHI700xiを用いたオージェ電子分光法によって分析し、Si化合物を示すSiマッピング像を得て、ケイ素(Si)の強度デプスプロファイル(図7Bに示す、強度-エッチング時間の関係を示すグラフ)を得て、ケイ素(Si)の強度(cps)が、減少しなくなるまで又は所定の値以下となる時間から算出できる。
すなわち、ケイ素(Si)の強度(cps)が所定の値以下となる時間(分)×基準の条件のエッチングレート1.08nm/分=Cr化合物層52の厚み、として算出できる。
【0040】
本実施形態である金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50を構成する銅合金は、合金元素としてCrを含有することが好ましい。これは、銅合金にCrが添加されることにより、銅合金中にCrとSiの化合物が生成し、特に銅合金粒子の表面に存在するCrとSiの化合物がレーザー吸収率を改善するのに貢献するためである。
【0041】
本実施形態である金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50を構成する銅合金は、合金元素としてNiを含有することが好ましい。これは、銅合金にNiが添加されることによりNiがCu結晶粒内に固溶し、銅合金粒子中のCu結晶粒のレーザー吸収率を改善するのに貢献するためである。ここで、合金元素として含有するNiの含有量は、3.0質量%以下が好ましい。
また、本実施形態である金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50を構成する銅合金は、合金元素として、Crを0.1質量%以上0.8質量%以下の範囲内、Siを0.4質量%以上0.8質量%以下の範囲内、Niを1.8質量%以上3.0質量%以下の範囲内で含み、その他が銅及び不純物からなる組成とされていることが好ましい。すなわち、本実施形態である金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50を構成する銅合金は、C18000に相当する組成とされていることが好ましい。
【0042】
本実施形態において、合金元素とは、Cr、Si、及びNiをいう。また、ここで不純物とは、後述する不純物元素とO,H,S,及びNを含む成分である。
金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50を構成する銅合金の組成において、数字の精度の誤差は±10%である(O,H,S,及びNを除く)。
【0043】
なお、Crの含有量の下限は0.2質量%以上であることがさらに好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。Crの含有量の上限は0.8質量%以下であることがさらに好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましい。
Siの含有量の下限は0.45質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。Siの含有量の上限は0.7質量%以下であることがさらに好ましく、0.6質量%以下であることがより好ましい。
Niの含有量の下限は1.9質量%以上であることがさらに好ましく、2.0質量%以上であることがより好ましい。Niの含有量の上限は2.9質量%以下であることがさらに好ましく、2.8質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
また、金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50を構成する銅合金は、合金元素以外の添加元素および不純物元素(O,H,S,及びNを除く)を含んでいてもよい。
本実施形態において添加元素とは、本実施形態の金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50に意図的に添加される元素である。一方、不純物元素(O,H,S,及びNを除く)とは、本実施形態の金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50に意図せずに混入するものであり、製造工程中のコンタミネーションや原料に微量に含有される不純物に由来する。不純物元素は不可避不純物であってもよい。
【0045】
金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50を構成する合金元素以外の添加元素および不純物元素(O,H,S,及びNを除く)としては、例えば、Zr、Mg、Ti、Al、Zn、Ca、Sn、Pb、Fe、Mn、Te、Nb,P、Co、Sb、Bi、Ag,Ta,W,及びMo等を挙げることができる。なお、合金元素以外の添加元素および不純物元素(O,H,S,及びNを除く)は、Zr、Mg、Ti、Al、Zn、Ca、Sn、Pb、Fe、Mn、Te、Nb,P、Co、Sb、Bi、及びAg,Ta,W,及びMo等の群から選択される少なくとも一種の元素を含んでいてもよい。
ここで、金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50を構成する合金元素以外の添加元素および不純物元素(O,H,S,及びNを除く)は、総量で0.07mass%以下であってもよく、0.06mass%以下であってもよく、0.05mass%以下であってもよく、0.04mass%以下とすることが好ましく、0.03mass%以下とすることがさらに好ましく、0.02mass%以下とすることがより好ましく、さらには0.01mass%以下とすることが好ましい。
また、金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子50を構成する合金元素以外の添加元素および不純物元素(O,H,S,及びNを除く)のそれぞれの含有量の上限は、30massppm以下とすることが好ましく、20massppm以下とすることがさらに好ましく、15massppm以下とすることがより好ましい。
【0046】
本実施形態である金属AM用銅合金粉末においては、レーザー回折・散乱法にて測定された体積基準の50%累積粒子径D50が5μm以上120μm以下の範囲内、10%累積粒子径D10が1μm以上80μm以下の範囲内、90%累積粒子径D90が10μm以上150μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0047】
なお、50%累積粒子径D50の下限は10μm以上であることがさらに好ましく、15μm以上であることがより好ましい。50%累積粒子径D50の上限は100μm以下であることがさらに好ましく、90μm以下であることがより好ましい。
また、10%累積粒子径D10の下限は5μm以上であることがさらに好ましく、10μm以上であることがより好ましい。10%累積粒子径D10の上限は70μm以下であることがさらに好ましく、60μm以下であることがより好ましい。
さらに、90%累積粒子径D90の下限は20μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることがより好ましい。90%累積粒子径D90の上限は140μm以下であることがさらに好ましく、120μm以下であることがより好ましい。
【0048】
本実施形態である金属AM用銅合金粉末の製造方法の一例について、図2のフロー図を用いて説明する。なお、本実施形態では、レーザーPBF法に適した銅合金粉末を製造するものである。
本実施形態である金属AM用銅合金粉末の製造方法は、銅合金鋳塊を得る溶解・鋳造工程S01と、得られた銅合金鋳塊を線棒材に加工して銅合金原料とする銅合金原料作製工程S02と、銅合金原料を粉末に加工する粉末加工工程S03と、を備えている。
【0049】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、所定組成の銅合金鋳塊を製造する。溶解・鋳造工程S01においては、溶解工程、合金元素添加工程、連続鋳造工程を有している。ここで、本実施形態においては、図3に示す連続鋳造装置10を用いて銅合金鋳塊1を製造する。
この連続鋳造装置10は、溶解炉11と、溶解炉11の下流に配置されたタンディシュ12と、溶解炉11とタンディシュ12とをつなぐ連結樋13と、タンディシュ12において合金元素を添加する添加部14と、タンディッシュ12の下流側に配設された連続鋳造用鋳型15と、タンディッシュ12から連続鋳造用鋳型15へと銅合金溶湯を注入する注湯ノズル16と、を備えている。
【0050】
溶解炉11においては、非酸化性雰囲気(不活性ガス雰囲気または還元性雰囲気)で、銅原料を溶解して銅溶湯3を得る(溶解工程)。
ここで、溶解炉11において溶解する銅原料は、銅の純度が99.99mass%以上の高純度銅(例、高純度の電気銅や無酸素銅)とされている。なお、溶解する銅原料は、4Nグレード(99.99mass%)以上の高純度銅であるが、5Nグレード(99.999mass%)以上の高純度銅であることがより好ましく、6N(99.9999mass%)以上の高純度銅であることがさらに好ましい。また、得られる銅溶湯3は無酸素銅溶湯であることが好ましい。
【0051】
連結樋13においては、得られた銅溶湯3を、非酸化性雰囲気(不活性ガス雰囲気または還元性雰囲気)を維持した状態で、タンディッシュ12に供給する。連結樋13は溶解炉11とタンディッシュ12との間に配置され、銅溶湯3は非酸化性雰囲気の連結樋13内を通過する。
また、タンディッシュ12内においては、非酸化性雰囲気(不活性ガス雰囲気または還元性雰囲気)にて、銅溶湯3を保持する。
なお、溶解炉11、連結樋13、タンディッシュ12が、非酸化性雰囲気(不活性ガス雰囲気または還元性雰囲気)とされていることから、銅溶湯3中のガス成分(O,H)が低減されることになる。
【0052】
そして、タンディッシュ12においては、銅溶湯3に対して添加部14を用いて合金元素(Cr、Si、及びNi等)を適宜添加する(合金元素添加工程)。また、ここで添加元素を適宜添加してもよい。
ガス成分(O,H)が十分低減された銅溶湯3に対して合金元素を添加することにより、合金元素の添加歩留が良いので、合金元素の使用量を低減でき、銅合金の製造コストを低減することができる。
また、タンディッシュ12内を流動している銅溶湯3に対して合金元素を添加することにより、合金元素を均一に溶解して、成分値が安定した銅合金溶湯を連続的に製造することができる。
【0053】
得られた銅合金溶湯を、注湯ノズル16を介して連続鋳造鋳型15に注入し、銅合金鋳塊1を連続的に製造する(連続鋳造工程)。
なお、本実施形態では、断面円形の銅合金鋳塊を製造するものとしている。
【0054】
ここで、本実施形態では、得られた銅合金鋳塊1においては、O濃度が10massppm以下、H濃度が5massppm以下とされている。
なお、得られた銅合金鋳塊1においては、S濃度が15massppm以下とされていることが好ましい。
さらに、得られた銅合金鋳塊1においては、Cuと合金元素以外の不純物元素の含有量は合計で0.04mass%以下であることが好ましい。
また、得られた銅合金鋳塊1においては、O濃度とH濃度とS濃度の合計が20massppm以下とされていることが好ましい。
【0055】
(銅合金原料作製工程S02)
次に、溶解・鋳造工程S01で得られた銅合金鋳塊を線棒材に加工して、銅合金原料を製造する。銅合金原料作製工程S02においては、押出工程と、引抜工程と、切断工程と、を備えている。
この銅合金原料作製工程S02においては、まず、断面円形の銅合金鋳塊を加熱し、熱間押出加工によって、所定の直径の棒材とする(押出工程)。
なお、本実施形態においては、熱間押出加工時の加熱温度を700℃以上1000℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0056】
次に、得られた棒材に対して引抜加工を行って、所定の直径の線材とする(引抜工程)。なお、引抜加工の温度には特に制限はないが、冷間または温間圧延となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。
【0057】
そして、得られた線材を所定の長さに切断し、銅合金原料とする(切断工程)。
ここで、得られた銅合金原料におけるO濃度が10massppm以下、H濃度が5massppm以下であることが好ましい。
また、得られた銅合金原料におけるS濃度が15massppm以下であることが好ましい。
さらに、得られた銅合金原料におけるCuと合金元素以外の不純物元素(O,H,及びSを除く)の含有量は合計で0.04mass%以下であることが好ましい。
【0058】
(粉末加工工程S03)
次に、銅合金原料作製工程S02で得られた銅合金原料を用いて、アトマイズ処理することにより、金属AM用銅合金粉末を製造する。
この粉末加工工程S03においては、溶解工程と、アトマイズ処理工程と、分級工程と、を備えている。
この溶解工程では、銅合金原料を加熱して溶解して合金溶湯を得る。ここで、本実施形態では、溶解時の雰囲気は非酸化雰囲気とすることが好ましい。
アトマイズ処理工程では、例えばガスアトマイズ法によって粉末を得る。すなわち、溶解工程で得られた合金溶湯を、高圧ガス噴霧して合金溶湯の液滴を急冷することで、球状または球状に類似する形状の粉末を製造する。ガスアトマイズ法に用いられるガスとしては、アルゴン、窒素などの不活性ガスを利用可能である。
分級工程では、得られた粉末を分級処理し、所定の粒度分布を有する銅合金粉末を得る。ガスアトマイズ処理における銅合金原料の溶解温度(ガスアトマイズ処理時の溶解温度)は銅の融点以上、1500℃以下であることが好ましい。ガスアトマイズ処理時の溶解温度は、1085℃以上、1500℃以下であってもよい。
【0059】
上述の各工程により、本実施形態である金属AM用銅合金粉末が製造される。なお、本実施形態である金属AM用銅合金粉末においては、O濃度が1000massppm以下、H濃度が5massppm以下であることが好ましい。また、S濃度が10massppm以下であることが好ましい。
詳しくは、O濃度は2700massppm以下程度であってもよく、1000massppm以下であると好ましく、900massppm以下であることがより好ましい。また、O濃度の下限値は特に限定されないが、0を含まない値で(又は0を超える値)あってよい。
O濃度が高いと造形体に酸素や酸化物などの形で異物が残存し、造形体の各種特性を悪化させる可能性がある。
H濃度は90massppm以下であってもよく、60massppm以下であってもよく、5massppm以下であることが好ましい。また、H濃度の下限値は特に限定されないが、0を含まない値で(又は0を超える値)あってよい。
S濃度は、90massppm以下であってもよく、60massppm以下であってもよく、30massppm以下であると好ましい。更に、金属AM用銅合金粉末におけるS濃度が10massppm以下 であることがより好ましい。また、S濃度の下限値は特に限定されないが、0を含まない値で(又は0を超える値)あってよい。
また、アトマイズ処理など、有限の圧力下で実施される工程において、大気中もしくは工程中に含まれる雰囲気成分が原因となり、粉末に雰囲気成分が含まれることが生じ得る。例えば、粉末に雰囲気成分に由来する窒素が含まれることが生じ得る。本実施形態である金属AM用銅合金粉末においては、窒素濃度(N濃度)が、30massppmであることが望ましく、20massppmであることがより望ましく、10massppm以下であることが更に望ましい。また、本実施形態である金属AM用銅合金粉末においては、窒素濃度(N濃度)が5massppm以下であることがさらに望ましい。また、N濃度の下限値は特に限定されないが、0を含まない値で(又は0を超える値)あってよい。
【0060】
なお、金属AM用銅合金粉末は、合金元素以外の添加元素および不純物元素は、特性に影響を与えない範囲で含有されていてもよい。
ここで、合金元素以外の添加元素および不純物元素(O,H,S,及びNを除く)は、総量で0.07mass%以下であってもよく、0.06mass%以下であってもよく、0.05mass%以下であってもよく、0.04mass%以下とすることが好ましく、0.03mass%以下とすることがさらに好ましく、0.02mass%以下とすることがより好ましく、さらには0.01mass%以下とすることが好ましい。
また、合金元素以外の添加元素および不純物元素(O,H,S,及びNを除く)のそれぞれの含有量の上限は、30massppm以下とすることが好ましく、20massppm以下とすることがさらに好ましく、15massppm以下とすることがより好ましい。
【0061】
次に、本実施形態である積層造形物の製造方法について、図4のフロー図を用いて説明する。
本実施形態である積層造形物の製造方法は、上述の金属AM用銅合金粉末を準備する準備工程S101と、金属AM用銅合金粉末を含む粉末層を形成する第1工程S121と粉末層において所定位置の前記金属AM用銅合金粉末を固化させて造形層を形成する第2工程S122とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程S102と、を備えている。
このような工程により、所定の形状の積層造形物が製造される。この積層造形物においては、本実施形態である金属AM用銅合金粉末を用いていることから、ボイドなどの構造欠陥が少なく、機械的特性に優れている。
【0062】
以上のような構成とされた本実施形態である金属AM用銅合金粉末は、Siを含有する銅合金粒子50で構成され、金属AM用銅合金粉末を構成する銅合金粒子50の表面にはSiが偏析しており、粒子本体51の外表面にSi濃化層52が形成されているので、積層造形により作製した造形体の微細構造の再現性が高く、ボイド等の構造欠陥が少ない高品質な積層造形物を安定して製造することが可能となる。
【0063】
ここで、本実施形態である金属AM用銅合金粉末において、粒子本体51の表面に形成されたSi濃化層52がSiとOを含む酸化層とされている場合には、金属AM用銅合金粉末の変質を抑制することができ、積層造形により作製した造形体の微細構造の再現性が高く、ボイド等の構造欠陥が少ないさらに高品質な積層造形物をさらに安定して製造することが可能となる。
【0064】
また、本実施形態である金属AM用銅合金粉末において、銅合金粒子50を構成する銅合金が、Crを0.1質量%以上0.8質量%以下の範囲内、Siを0.4質量%以上0.8質量%以下の範囲内、Niを1.8質量%以上3.0質量%以下の範囲内で含み、その他が銅及び不純物からなる組成とされている場合には、この金属AM用銅合金粉末を用いて作製された積層造形物に対して適切な熱処理を施すことにより、化合物を析出させることができ、導電性、熱伝導性、強度に優れた積層造形物を製造することが可能となる。
【0065】
また、本実施形態である金属AM用銅合金粉末において、レーザー回折・散乱法にて測定された体積基準の50%累積粒子径D50が5μm以上120μm以下の範囲内とされている場合には、金属AMに適した粒度分布を有しており、積層造形物を安定して製造することが可能となる。
【0066】
また、本実施形態である金属AM用銅合金粉末において、レーザー回折・散乱法にて測定された体積基準の10%累積粒子径D10が1μm以上80μm以下の範囲内とされている場合には、金属AMに適した粒度分布を有しており、積層造形物を安定して製造することが可能となる。
【0067】
また、本実施形態である金属AM用銅合金粉末において、レーザー回折・散乱法にて測定された体積基準の90%累積粒子径D90が10μm以上150μm以下の範囲内とされている場合には、金属AMに適した粒度分布を有しており、積層造形物を安定して製造することが可能となる。
【0068】
本実施形態である積層造形物の製造方法においては、本実施形態である金属AM用銅合金粉末を用いているので、積層造形により作製した造形物の微細構造の再現性が高く、ボイド等の構造欠陥が少ない高品質な積層造形物を安定して製造することが可能となる。
【0069】
以上、本発明の実施形態である金属AM用銅合金粉末、および、積層造形物の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、ガスアトマイズ法によって金属AM用銅合金粉末を製造するものとして説明したが、これに限定されることはなく、水アトマイズ法、遠心力アトマイズ法、プラズマアトマイズ法などによって、金属AM用銅合金粉末を製造してもよい。
【0070】
また、上述のように得られた金属AM用銅合金粉末に対し、雰囲気を制御して適宜熱処理を施して組織の安定化などを図ってもよい。
さらに、本実施形態では、レーザーPBF法に適した金属AM用銅合金粉末を製造するものとして説明したが、これに限定されることはなく、その他の積層造形法に適用する金属AM用銅合金粉末であってもよい。
【0071】
さらに、造形工程S102の後に、300℃以上純銅の融点以下の温度で熱処理する熱処理工程を実施してもよい。また、造形工程S102の後に、800℃以上純銅の融点以下の温度範囲で熱処理する第一熱処理工程と、この第一熱処理工程の後に、300℃以上800℃以下の温度範囲で熱処理を行う第二熱処理工程を実施してもよい。
また、本実施形態では、図3に示す連続鋳造装置を用いて銅合金鋳塊を製造するものとして説明したが、これに限定されることはなく、その他の鋳造装置を用いてもよい。
【0072】
例えば、図5に示す連続鋳造装置101を用いてもよい。この連続鋳造装置101は、最上流部に配置された無酸素銅供給手段(銅溶湯供給部)102と、その下流に配置された加熱炉103と、加熱炉103の下流に配置されて銅溶湯が供給されるタンディシュ104と、無酸素供給手段102から加熱炉103までをつなぐ溶湯供給路105a,105b,105cと、加熱炉103とタンディシュ104とをつなぐ樋106と、非酸化性雰囲気で合金元素を添加する添加手段(添加部)107,108と、連続鋳造鋳型142と、を備えている。なお、無酸素銅供給手段102、加熱炉103、タンディッシュ104、溶湯供給路105a,105b,105cおよび樋106は、それぞれの内部を非酸化性雰囲気としている。
【0073】
無酸素銅供給手段102は、銅原料を溶解する溶解炉121と、溶解炉121で溶解されて得られた溶銅を一時保持する保持炉122と、溶銅中の酸素および水素を除去する脱ガス処理装置124と、これらをつなぐ溶湯供給路105a,105b,105cと、で構成されている。
【0074】
脱ガス処理装置124は、その内部で溶銅が攪拌されるように攪拌手段としてガスバブリング装置を有しており、例えば不活性ガスによるバブリング等を行うことにより、溶銅から酸素および水素を除去する。
溶湯供給路105a、105b、105cは、溶銅および無酸素銅溶湯が酸化されるのを防止するために、その内部を非酸化性雰囲気としている。この非酸化性雰囲気は、例えば、窒素と一酸化炭素の混合ガスやアルゴン等の不活性ガスを溶湯供給路内に吹き込むことにより形成される。
【0075】
合金元素を添加する添加手段として、加熱炉103に配設された第1の添加手段107と、タンディシュ104に配設された第2の添加手段108と、を備えている。
加熱炉103に設けられた第1の添加手段107から合金元素を連続的にまたは間欠的に装入すると、加熱炉103内に貯留された無酸素銅溶湯中に合金元素が添加される。ここで、貯留部に貯留された無酸素銅溶湯は、高周波誘導コイルによって加熱され、添加された合金元素の溶解が促進されることになる。
また、タンディシュ104に設けられた第2の添加手段108から合金元素を連続的にまたは間欠的に装入すると、タンディシュ104内を流れる無酸素銅溶湯中に合金元素が添加される。ここで、タンディッシュ104内を流れる無酸素銅溶湯は、加熱炉103で加熱されて高温であるとともにタンディッシュ104内を流動していることから、添加された合金元素の溶解が促進されることになる。
【実施例
【0076】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0077】
(本発明例)
まず、実施形態に記載した製造方法により、4Nグレードの高純度銅からなる銅原料を用いて、表1に示す組成のC18000の鋳塊を作製した。
次に、作製したC18000の鋳塊を原料として、アルゴンガスを用いるガスアトマイズ法によって、表2に示す組成の金属AM用銅合金粉末を作製し、金属AMの粉末床に適する粒度に分級した。ガスアトマイズ処理時の溶解温度は1400℃の条件で行った。
本発明例の金属AM用銅合金粉末について、マイクロトラック社製MT3300EXIIを用いた粒径分布測定を行った結果、体積基準の10%累積粒子径が15μm、50%累積粒子径が24μm、90%累積粒子径が38μmの粒度分布となった。本発明例の金属AM用銅合金粉末では、後述する通り、銅合金粒子の表面にはSi濃化層が観察された。
そして、本発明例の金属AM用C18000粉末を用い、市販のレーザーPBF装置を用いてエネルギー密度を13J/mmの条件で、積層造形物の小片を作製した。
【0078】
(比較例)
比較例として、本発明例とは異なり、粒子表面にSi濃化層が形成されていないC18000の組成を有する金属AM用銅合金粉末を準備した。
比較例の金属AM用銅合金粉末について、マイクロトラック社製MT3300EXIIを用いた粒径分布測定を行った結果、体積基準の10%累積粒子径が16μm、50%累積粒子径が28μm、90%累積粒子径が45μmの粒度分布となった。
そして、比較例のC18000の組成を有する金属AM用銅合金粉末と、市販のレーザーPBF装置を用いて、積層厚みを含め、本発明例と同じ造形条件にて積層造形物の小片を作製した。
【0079】
(金属AM用銅合金粉末の表面構造)
本発明例および比較例の金属AM用銅合金粉末の粒子の微細構造を、オージェ電子分光分析法を用いて評価した。結果を図6A及び図6B,並びに図7A及び図7Bに示す。なお、図7A及び図7Bにおいて、実線が本発明例の金属AM用銅合金粉末の分析結果であり、点線が比較例の金属AM用銅合金粉末の分析結果である。
【0080】
(Si濃化層の有無)
本発明例および比較例の金属AM用銅合金粉末について、アルバック・ファイ株式会社製走査型オージェ電子分光分析装置PHI700xiを用い、分析目的の粒子本体について、表面のオージェ電子信号計測開始から30秒毎に、計測時間(t)に伴うSi元素の信号強度(IAES(t))を測定した。
そして、このIAES(t)の一つに対して、Si元素に関するIAES(t)が概ね一定になる領域を6点以上確認し、これらのIAES(t)が一定となる領域において、IAES(t)の平均値を算出した。この平均値を平均バックグラウンド強度(IAES,BG AVE)と定義した。次に、取得した全てのtにおけるIAES(t)をIAES,BG AVEで除した数値を求めた。この数値をIAES, NORM(t)と定義した。IAES, NORM(t)は以下の式(1)により表した。
IAES, NORM(t) = IAES(t) / IAES,BG AVE 式(1)
【0081】
t- IAES,NORM(t)関係において、Si濃化層では計測時間の低下と共にIAES,NORM(t)が連続的に増大していた。このIAES,NORM(t)の連続的な増加が観測される領域の開始時間をSi濃化層の末端となる時間ts0と定義した。
本発明例では、ts0は約2minであった。また、IAES, NORM(t)を、Si強度倍率因子(Si intensity amplification factor)とした。
以上の測定及び計算で得た、本発明例の金属AM用銅合金粉末の、計測時間(t)、Si元素の信号強度(IAES(t))、Si強度倍率因子IAES, NORM(t)を表5に示した。なお、本発明例において平均バックグラウンド強度(IAES,BG AVE)は、2847.57であった。
表5では、Si濃化層が存在する本発明例では、Si強度倍率因子が2を超える数値が明確に観測され、Si信号強度がバックグラウンド強度に対して明らかに強くなる状況が確認された。従って、本発明例の金属AM用銅合金粉末の粒子本体にはSi濃化層が存在すると確認された。
一方、比較例では、Si強度倍率因子が2を超える数値が観測されず、金属AM用銅合金粉末の粒子本体にはSi濃化層が存在しなかったと考えられた。
【0082】
(鋳塊および金属AM用銅合金粉末の組成)
表1に示す鋳塊、および、本発明例の金属AM用銅合金粉末、比較例の金属AM用銅合金粉末におけるO濃度は不活性ガス融解―赤外線吸収法、H濃度は不活性ガス融解―熱伝導度法、S濃度は燃焼―赤外線吸収法で求めた。また、銅を除き、これらの物質以外の成分の濃度は、蛍光X線分析法、グロー放電質量分析法、誘導結合プラズマ質量分析法を組み合わせて求めた。評価結果を表1,2に示す。
【0083】
(造形物密度)
作製した積層造形物の断面と、積層造形物の断面において観測されるボイドが占有する面積から、積層造形物の密度を評価した。本明細書においては、この密度を造形物密度と定義する。
造形物密度の評価は、造形物断面において計測対象の断面積を定義した後(これを評価断面積と呼ぶ。3.4mm四方。)、この計測断面積の内部にあるボイド箇所を確認した後、評価断面積におけるボイドの占有面積を算出した。そして、(評価断面積-ボイド占有面積)/評価断面積を造形物密度と定義した。造形物密度の評価結果を表3に示す。
【0084】
(造形物の機械的特性および電気伝導度の評価)
作製した積層造形物の機械的特性として、室温においてビッカース硬度(HV単位)をJISZ2244:2009に準じて測定した。ビッカース硬度の測定荷重は10kgfとした。また、作製した積層造形物の%IACS単位の導電率を過流式導電率測定により室温において計測した。評価結果を表4に示す。
【0085】
【表1】
(表1で示す不純物は不純物からO,H,Sを除く。)
【0086】
【表2】
(表2で示す不純物は不純物からO,H,S,Nを除く。)
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
図6A及び図6Bは、本発明例の金属AM用銅合金粉末の粒子表面のオージェ電子分光分析の結果を示す。図6A及び図6Bに示すように、本発明例の金属AM用銅合金粉末の銅合金粒子の表面(或いは表層)にはSi濃化層が存在し、粒子表面が全体的にSi濃化層で覆われていることが確認された。
【0091】
さらに、図7A及び図7Bは、本発明の金属AM用銅合金粉末の粒子表面のオージェ電子分光分析により得られたSi及びOの強度デプスプロファイルを示す。本オージェ電子分光分析の実験系における本発明例の銅合金粉末の粒子表面における各構成元素単体や各構成元素により生じる化合物のエッチングレートは定かではないが、本オージェ電子分光分析の実験系におけるSiOのエッチングレートは1.08nm/分であることから、7分間のイオンエッチングは概ね10nmの厚みをエッチングした後の構造であると考えられる。
【0092】
図7Bに示すように、本発明例の金属AM用銅合金粉末においては、粉末の表面側のSi濃度が高く、粉末の表面にSi濃化層が形成されていることが確認された。この結果から、Si濃化層の厚みは、概ね1nmから100nm程度の範囲になると考えられる。一方、図7Bに示すように、比較例の金属AM用銅合金粉末においては、粉末の表面にSiは偏析しておらず、粉末の表面にSi濃化層は形成されていないと認められる。
【0093】
また、図7Aに示すように、本発明例の金属AM用銅合金粉末においては、粉末の表面側のO濃度が高く、粉末の表面に形成されたSi濃化層が酸素(O)を含有していることが確認された。すなわち、本発明例の金属AM用銅合金粉末におけるSi濃化層は、SiとOを含む層で構成されていると考えられる。このように、本発明例の金属AM用銅合金粉末においては、Si濃化層において酸素も同時に検出され、銅合金粉末の表面変質を比較的抑制できると考えられる。
本質的に、本発明の金属AM用銅合金粉末は、銅合金としての酸素を含むため、粒子本体には一定量の酸素が存在し、これが粒子本体の酸素濃度のバックグラウンド濃度を構成するものと考えられる。一方、粒子表面においては、主として粉末化の工程によって、上記のSi濃化層の厚みのオーダーにおいて酸素濃度の勾配が生じ得ると考えられる。
【0094】
そして、表3に示すように、粒子表面にSiが濃化したSi濃化層が形成された本発明例の金属AM用銅合金粉末を用いて造形した場合、造形物密度は99.6%となった。
一方、Si濃化層が形成されていない金属AM用銅合金粉末を用いて造形した場合、比較例に示すように、充填密度は99%となった。
これらの結果から、本発明例のSi濃化層を有する金属AM用銅合金粉末においては、実使用に重要となるボイドの発生を顕著に抑制された高品位な積層造形物を製造可能であることが確認された。
また、表4に示すように、本発明の積層造形物を、表4に示す条件で熱処理を施すことにより、実用性の高い特性を有する銅合金造形体を提供できることを確認した。
【符号の説明】
【0095】
50 金属AM用銅合金粉末を構成する銅合金粒子
51 粒子本体
52 Si濃化層
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B