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特許7590714アルミニウム合金成形品の製造方法、及びアルミニウム合金成形品を用いた接合品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】アルミニウム合金成形品の製造方法、及びアルミニウム合金成形品を用いた接合品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/12 20060101AFI20241120BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20241120BHJP
   C25D 11/06 20060101ALI20241120BHJP
   C25D 11/18 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C25D11/12 Z
C25D11/04 302
C25D11/06 B
C25D11/18 312
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019203521
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2021075763
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】511011849
【氏名又は名称】株式会社サーテック永田
(73)【特許権者】
【識別番号】595115592
【氏名又は名称】学校法人鶴学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 教人
(72)【発明者】
【氏名】日野 実
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0250925(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109986742(CN,A)
【文献】国際公開第2015/195639(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0150771(US,A1)
【文献】米国特許第05486283(US,A)
【文献】特開2011-173413(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087516(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/12
C25D 11/04
C25D 11/06
C25D 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸を0.5~7モル/L含有し、硫酸の含有量が0.5モル/L未満である電解液を用いてアルミニウム合金基材を陽極酸化することにより第1酸化皮膜を形成した後に、硫酸を0.5~5モル/L含有する電解液を用いて該基材を陽極酸化することにより、前記アルミニウム合金基材と第1酸化皮膜の間に第2酸化皮膜を形成し、
第1酸化皮膜の厚みTが0.1~5μmであり、第2酸化皮膜の厚みTが3~25μmであり、第1及び第2酸化皮膜が、厚み方向に配向した細孔を有し、第1酸化皮膜の平均細孔径D が40~200nmであり、平均細孔径Dが第2酸化皮膜の平均細孔径Dよりも大きいことを特徴とする、アルミニウム合金成形品の製造方法。
【請求項2】
第1及び第2酸化皮膜の形成に用いられる電解液の温度がそれぞれ0~50℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法によって得られたアルミニウム合金成形品の表面の第1酸化皮膜に樹脂を接着させる、接合品の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム合金基材に第2酸化皮膜を形成してから3日以上経過後に、第1酸化皮膜に樹脂を接着させる、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂が樹脂接着剤であり、前記アルミニウム合金成形品と他の部材とを該樹脂接着剤を介して接合する、請求項3又は4に記載の接合品の製造方法。
【請求項6】
第1酸化皮膜に前記樹脂からなる部材を、インサート成形方法、プレス成形方法、ラミネート法及び加硫接着方法からなる群から選択される少なくとも一種の方法により直接接着させる、請求項3又は4に記載の接合品の製造方法。
【請求項7】
アルミニウム合金基材の表面が酸化皮膜で覆われてなるアルミニウム合金成形品であって、
前記アルミニウム合金基材の表面が第2酸化皮膜で覆われ、第2酸化皮膜の表面が第1酸化皮膜で覆われ、
第1酸化皮膜の厚みTが0.1~5μmであり、第2酸化皮膜の厚みTが5~25μmであり、
第1及び第2酸化皮膜が、厚み方向に配向した細孔を有し、第1酸化皮膜の平均細孔径Dが第2酸化皮膜の平均細孔径Dよりも大きく、
第1酸化皮膜の平均細孔径Dが40~200nmであることを特徴とする、アルミニウム合金成形品。
【請求項8】
請求項7に記載のアルミニウム合金成形品の表面の第1酸化皮膜に樹脂を接着させてなる、接合品。
【請求項9】
前記樹脂が樹脂接着剤であり、前記アルミニウム合金成形品と他の部材とが該樹脂接着剤を介して接合してなる、請求項8に記載の接合品。
【請求項10】
前記アルミニウム合金成形品の表面の第1酸化皮膜に前記樹脂からなる部材を直接接着してなるインサート成形品、プレス成形品、ラミネート又は加硫接着品である、請求項8に記載の接合品。
【請求項11】
輸送機器用、電子機器用、建築部材用、レジャー用品又は日用品である、請求項8~10のいずれかに記載の接合品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金基材の表面が酸化皮膜で覆われてなるアルミニウム合金成形品の製造方法に関する。また、当該アルミニウム合金成形品と樹脂との接合品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は合金材料のなかでも比較的高い比強度を有する。また、アルミニウム合金は放熱性にも優れる。そのため、アルミニウム合金成形品は、自動車、バイクなどの輸送機器;電子機器;建築部材;自転車、釣り具などのレジャー用品又は日用品などの分野において広く用いられている。
【0003】
近年、アルミニウム合金基材と樹脂とを接合させてなる接合品の需要が高まっている。このような接合品として、アルミニウム合金成形品と他の部材とを樹脂接着剤を介して接着させた接合品やアルミニウム合金成形品と樹脂製の部材とを直接接着させた接合品などが挙げられる。しかしながら、このような異種材料を接合させた接合品は接合強度が不十分である場合があった。
【0004】
従来から、アルミニウム合金成形品と樹脂との接合強度を向上させる方法として、電解液としてリン酸水溶液を用いてアルミニウム合金基材を陽極酸化処理する方法が知られている。しかしながら、当該方法は、接合強度が高い接合品を安定して製造することが難しく、工業的に利用するうえで問題となっていた。
【0005】
特許文献1には、リン酸及び硫酸を含有する酸性の電解液を用いてアルミニウム合金基材を陽極酸化することにより第1酸化皮膜を形成した後に、リン酸塩が溶解したアルカリ性の電解液を用いて該基材を陽極酸化することにより第2酸化皮膜を形成してから、該酸化皮膜の表面に樹脂を接着させることにより接合強度や耐食性が向上したと記載されている。しかしながら、当該接合品の接合強度や耐食性はなお不十分である場合があった。また、第1酸化皮膜の形成に用いられる電解液は高濃度であるため管理し難いうえに、第2酸化皮膜の形成に用いられる電解液は空気中の二酸化炭素を吸収することによってpH変動を生じ易く、工業的に利用するうえで問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-89964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、樹脂と接合した際に、高い接合強度を安定して得ることができ、しかも耐食性に優れたアルミニウム合金成形品の製造方法を提供する。また、こうして得られるアルミニウム合金成形品と樹脂とを接合する接合品の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、リン酸を0.5~7モル/L含有し、硫酸の含有量が0.5モル/L未満である電解液を用いてアルミニウム合金基材を陽極酸化することにより第1酸化皮膜を形成した後に、硫酸を0.5~5モル/L含有する電解液を用いて該基材を陽極酸化することにより第2酸化皮膜を形成する、アルミニウム合金成形品の製造方法を提供することによって解決される。
【0009】
このとき、前記アルミニウム合金基材の表面に第1酸化皮膜を形成した後に、前記アルミニウム合金基材と第1酸化皮膜の間に第2酸化皮膜を形成することが好適である。第1及び第2酸化皮膜の形成に用いられる電解液の温度がそれぞれ0~50℃であることも好適である。第1酸化皮膜の厚みTが0.1~5μmであり、第2酸化皮膜の厚みTが1~25μmであることも好適である。第1及び第2酸化皮膜が、厚み方向に配向した細孔を有し、第1酸化皮膜の平均細孔径Dが第2酸化皮膜の平均細孔径Dよりも大きいことも好適である。
【0010】
上記課題は、上記製造方法によって得られたアルミニウム合金成形品の表面の第1又は第2酸化皮膜に樹脂を接着させる、接合品の製造方法を提供することによっても解決される。
【0011】
このとき、前記アルミニウム合金基材に第2酸化皮膜を形成してから3日以上経過後に、第1又は第2酸化皮膜に樹脂を接着させることが好適である。
【0012】
上記課題は、アルミニウム合金基材の表面が酸化皮膜で覆われてなるアルミニウム合金成形品であって、前記アルミニウム合金基材の表面が第2酸化皮膜で覆われ、第2酸化皮膜の表面が第1酸化皮膜で覆われ、第1酸化皮膜の厚みTが0.1~5μmであり、第2酸化皮膜の厚みTが1~25μmであり、第1及び第2酸化皮膜が、厚み方向に配向した細孔を有し、第1酸化皮膜の平均細孔径Dが第2酸化皮膜の平均細孔径Dよりも大きい、アルミニウム合金成形品を提供することによっても解決される。
【0013】
前記アルミニウム合金成形品の表面の第1又は第2酸化皮膜に樹脂を接着させてなる接合品が前記成形品の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によって得られるアルミニウム合金成形品と、樹脂との接合品は高い接合強度を有する。しかも、当該アルミニウム合金成形品は耐食性に優れるため、製造後長期間経過後に樹脂と接合した場合でも、安定して高い接合強度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例における接合品の接合強度の評価方法の概略図である。
図2】実施例1におけるアルミニウム合金成形品の断面の電子顕微鏡写真である。
図3】実施例1におけるアルミニウム合金成形品の断面を拡大した電子顕微鏡写真である。
図4】実施例1におけるアルミニウム合金成形品の表面の電子顕微鏡写真である。
図5】比較例1におけるアルミニウム合金成形品の表面の電子顕微鏡写真である。
図6】比較例3におけるアルミニウム合金成形品の表面の電子顕微鏡写真である。
図7】実施例1及び2、並びに比較例1~3及び6における、アルミニウム合金成形品の電気化学測定により得られた分極曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、リン酸を0.5~7モル/L含有し、硫酸の含有量が0.5モル/L未満である電解液を用いてアルミニウム合金基材を陽極酸化することにより第1酸化皮膜を形成した後に、硫酸を0.5~5モル/L含有する電解液を用いて該基材を陽極酸化することにより第2酸化皮膜を形成する、アルミニウム合金成形品の製造方法である。
【0017】
陽極酸化に供されるアルミニウム合金基材は特に限定されない。当該基材中のアルミニウム元素の含有量は、通常、50質量%以上であり、75質量%以上が好適である。当該基材中のアルミニウム以外の元素の合計含有量は、通常、50質量%以下であり、25質量%以下が好適である。このような元素としては、マグネシウム、亜鉛、マンガン、銅、ニッケル、シリコン、鉄、チタン、鉛、錫及びクロムなどが挙げられる。
【0018】
アルミニウム合金基材の材料のアルミニウム合金として、展伸用合金、鋳造用合金及びダイカスト用合金等が挙げられる。なかでも、展伸用合金、ダイカスト用合金が好適である。
【0019】
展伸用合金としては、Al-Mg系のアルミニウム合金、純アルミ系のアルミニウム合金、Al-Cu系のアルミニウム合金、Al-Mn系のアルミニウム合金、Al-Si系のアルミニウム合金、Al-Mg-Si系のアルミニウム合金、Al-Zn-Mg系のアルミニウム合金等が挙げられ、なかでも、Al-Mg系のアルミニウム合金、純アルミ系のアルミニウム合金が好適である。Al-Mg系のアルミニウム合金としては、JIS規格により規定されるA5052などが挙げられ、純アルミ系のアルミニウム合金としては、JIS規格により規定されるA1100及びA1050などが挙げられる。
【0020】
鋳造用合金としては、Al-Mg系のアルミニウム合金、Al-Mg-Zn系のアルミニウム合金、Al-Cu-Mg系のアルミニウム合金、Al-Si-Cu系のアルミニウム合金、Al-Si系のアルミニウム合金及びAl-Si-Mg系のアルミニウム合金等が挙げられ、なかでも、Al-Mg系のアルミニウム合金及びAl-Mg-Zn系のアルミニウム合金が好適である。Al-Mg系のアルミニウム合金としてはJIS規格により規定されるAC7A等が挙げられ、Al-Cu-Mg系のアルミニウム合金としてはJIS規格により規定されるAC1B等が挙げられ、Al-Si-Cu系のアルミニウム合金としてはJIS規格により規定されるAC2A等が挙げられ、Al-Si-Mg系のアルミニウム合金としてはAC4CH等が挙げられる。
【0021】
ダイカスト用合金としては、JIS規格により規定されるADC12等のAl-Si系のアルミニウム合金、Al-Si-Cu系のアルミニウム合金等が挙げられる。
【0022】
前記アルミニウム合金基材は、材料のアルミニウム合金を成形することにより得られる。アルミニウム合金の成形方法は特に限定されない。プレス加工、鍛造、押出し加工、圧延加工等の展伸法;重力鋳造、ダイカスト等の鋳造法;切削加工等の一般的な成形方法を適宜選択することができる。また、アルミニウム合金に、溶体化処理、時効処理などの種々の調質処理を施してもよい。
【0023】
こうして得られたアルミニウム合金基材を陽極酸化することにより第1酸化皮膜を形成する。第1酸化皮膜が形成されることにより、アルミニウム合金基材と樹脂との接合強度が向上する。
【0024】
アルミニウム合金を成形した後、脱脂、酸化皮膜の除去、スマット除去、研磨などの前処理を行った後に、陽極酸化に供することが好適である。
【0025】
第1酸化皮膜の形成には、リン酸を0.5~7モル/L含有し、硫酸の含有量が0.5モル/L未満である電解液が用いられる。当該電解液中のリン酸の含有量がこのような範囲であることにより、アルミニウム合金基材と樹脂との接合強度が向上する。リン酸の含有量は、0.8モル/L以上が好ましく、1.2モル/L以上がより好ましく、1.6モル/L以上がさらに好ましく、2モル/L以上が特に好ましく、2.4モル/L以上が最も好ましい。一方、リン酸の含有量は、6モル/L以下が好ましく、5モル/L以下がより好ましく、4モル/L以下がさらに好ましく、3.5モル/L以下が特に好ましく、3.2モル/L以下が最も好ましい。前記電解液がリン酸が縮合して得られるポリリン酸を含有する場合には、それらが加水分解して得られるリン酸根の数だけリン酸を含有しているものとする。
【0026】
第1酸化皮膜の形成に用いられる電解液中の硫酸の含有量が0.5モル/L未満である必要がある。これにより、形成される第1酸化皮膜が樹脂との接合強度に優れたものとなる。前記含有量は、0.3モル/L未満が好ましく、0.1モル/L未満がより好ましく、0.01モル/L未満がさらに好ましく、実質的に含有されていないことが特に好ましい。
【0027】
第1酸化皮膜の形成に用いられる電解液のpHは0~4が好ましい。当該電解液のpHがこのような範囲であることにより、アルミニウム合金基材と樹脂との接合強度がさらに向上する。当該pHは0.1以上がより好ましく、0.2以上がさらに好ましく、0.3以上が特に好ましく、0.4以上が最も好ましい。一方、当該pHは3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましく、1.7以下が特に好ましく、1.5以下が最も好ましい。接合強度が極めて高いアルミニウム合金成形品が得られる観点からは、前記pHは1.2以下が好ましく、0.9以下がより好ましく、0.85以下がさらに好ましい。
【0028】
前記電解液中にアルミニウム合金基材を浸漬した後に陽極酸化を行う。このときの浴温は0~50℃が好ましい。浴温がこのような範囲であることにより、接合強度がさらに向上する。前記浴温は5℃以上がより好ましく、10℃以上がさらに好ましく、15℃以上が特に好ましい。一方、前記浴温は40℃以下がより好ましく、35℃以下がさらに好ましく、30℃以下が特に好ましい。
【0029】
第1酸化皮膜を形成する際の電解時間は、通常0.1~60分である。前記電解時間は、1分以上が好ましく、5分以上がより好ましい。一方、前記電解時間は、45分以下が好ましく、30分以下がより好ましい。陽極酸化する際に印加する電圧は5~50Vが好ましい。前記電圧は10V以上がより好ましい。一方、前記電圧は40V以下がより好ましく、30V以下がさらに好ましい。
【0030】
第1酸化皮膜を形成した後に、第2酸化皮膜を形成する。第2酸化皮膜の形成には、硫酸を0.5~5モル/L含有する電解液を使用する。このような電解液を用いて第2酸化皮膜を形成することによりアルミニウム合金成形品の耐食性が向上する。
【0031】
従来から、アルミニウム合金成形品と樹脂との接合強度を向上させる方法として、電解液としてリン酸水溶液を用いてアルミニウム合金基材を陽極酸化処理する方法が知られている。しかしながら、当該方法は、接合強度が高い接合品を安定して製造することが難しく、工業的に利用するうえで問題となっていた。また、リン酸及び硫酸を含有する酸性の電解液を用いてアルミニウム合金基材を陽極酸化することにより第1酸化皮膜を形成した後に、リン酸塩が溶解したアルカリ性の電解液を用いて該基材を陽極酸化することにより第2酸化皮膜を形成してから、該酸化皮膜の表面に樹脂を接着させる方法によれば、接合強度や耐食性が改善されるものの、なお十分ではなかった。さらに、第1酸化皮膜の形成に用いられる電解液は高濃度であるため管理し難いうえに、第2酸化皮膜の形成に用いられる電解液は空気中の二酸化炭素を吸収することによってpH変動を生じ易く、工業的に利用するうえで問題となっていた。
【0032】
これらの問題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、リン酸水溶液を用いて形成された陽極酸化皮膜の耐食性が極めて低いことが、接合強度が高い接合品を安定して得られない原因であることを発見した。そして、所定量のリン酸を含み、かつ硫酸の含有量が少ない電解液を用いて第1酸化皮膜を形成した後に、硫酸を含有する電解液を用いて第2酸化皮膜を形成することにより、優れた接合強度と耐食性とが両立されたアルミニウム合金成形品が得られることを見出した。しかも、使用される各電解液は取り扱い易く、工業的な応用にも適している。接合強度と耐食性とが両立される理由は明らかではないが、2種類の電解液を組み合わせて使用することにより、高い接合強度を有する第1酸化皮膜とアルミニウム合金基材との間に、耐食性の良好な第2酸化皮膜が比較的厚く形成されることが一因であると考えられる。そして、耐食性が向上することにより、安定して高い接合強度が得られるものと考えられる。
【0033】
第2酸化皮膜の形成に用いられる電解液中の硫酸の含有量が0.5~5モル/Lであることにより、アルミニウム合金成形品の耐食性が向上する。前記含有量は、1モル/L以上が好ましく、1.5モル/L以上がより好ましく、2モル/L以上がさらに好ましく、2.5モル/L以上が特に好ましく、3モル/L以上が最も好ましい。一方、前記含有量は、4.5モル/L以下が好ましく、4モル/L以下がより好ましい。
【0034】
耐食性がさらに向上する点から、第2酸化皮膜の形成に用いられる電解液中のリン酸根の含有量は0.5モル/L未満が好ましく、0.1モル/L未満がより好ましく、0.01モル/L未満がさらに好ましく、実質的に含有されていないことが特に好ましい。
【0035】
アルミニウム合金成形品の耐食性がさらに向上する観点から、第2酸化皮膜の形成に使用される電解液のpHは4未満が好ましい。当該pHは3未満がより好ましく、2未満がさらに好ましく、1未満が特に好ましく、0未満が最も好ましい。
【0036】
第1酸化皮膜が形成されたアルミニウム合金基材を上記電解液に浸漬した後に陽極酸化を行う。このときの浴温は0~50℃が好ましい。このように比較的低温で電解を行うことによって第2酸化皮膜を形成することにより耐食性がさらに向上する。前記浴温は、45℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましく、35℃以下が特に好ましく、30℃以下が最も好ましい。一方、前記浴温が0℃未満の場合、第2酸化皮膜が十分形成されないおそれがある。前記浴温は10℃以上がより好ましく、15℃以上がさらに好ましい。
【0037】
第2酸化皮膜を形成する際の電解時間は、通常0.1~60分である。前記電解時間は、1分以上が好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上がさらに好ましく、15分以上が特に好ましく、20分以上が最も好ましい。一方、前記電解時間は、45分以下が好ましい。陽極酸化する際に印加する電圧は3~20Vが好ましい。第2酸化皮膜の表面の第1酸化皮膜中の細孔の細孔径は比較的大きいため、このような比較的低い電圧により、効率的に第2酸化皮膜が形成される。前記電圧は、18V以下がより好ましく、15V以下がさらに好ましい。一方、前記電圧は5V以上がより好ましく、10V以上がさらに好ましい。また、第1酸化皮膜を形成する際に印加する電圧が、第2酸化皮膜を形成する際に印加する電圧よりも大きいことが好ましい。
【0038】
こうして得られるアルミニウム合金成形品は、アルミニウム合金基材の表面が第2酸化皮膜で覆われ、第2酸化皮膜の表面が第1酸化皮膜で覆われたものである。第2酸化皮膜はアルミニウム合金基材の表面に形成される。すなわち、アルミニウム合金基材と第1酸化皮膜の間に第2酸化皮膜が形成される。これにより、アルミニウム合金成形品の耐食性が向上する。
【0039】
第1酸化皮膜は厚み方向に配向した細孔を有する。アルミニウム合金成形品にこのような細孔を有する第1酸化皮膜が形成されることにより、当該成形品と樹脂との接合強度が向上する。また、第1酸化皮膜が細孔を有することにより、陽極酸化した際に第2酸化皮膜が形成されやすくなると考えられる。接着強度がさらに向上する点や第2酸化皮膜がさらに効率よく形成される点から、当該細孔のうち、少なくとも一部がアルミニウム合金成形品の表面に対して垂直方向に貫通していることが好ましい。
【0040】
第1酸化皮膜中の細孔の平均細孔径Dは特に限定されないが、20~200nmが好ましい。平均細孔径Dが20nm未満の場合には、第2酸化皮膜が形成されにくくなったり、接着強度が低下したりするおそれがある。平均細孔径Dは30nm以上がより好ましく、35nm以上がさらに好ましく、40nm以上が特に好ましい。一方、平均細孔径Dが200nmを超える場合には、接合強度が低下するおそれがある。平均細孔径Dは150nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましく、80nm以下が特に好ましく、70nm以下が最も好ましい。各皮膜に形成される細孔の平均細孔径はアルミニウム合金成形品の表面又は断面の電子顕微鏡写真から求めることができる。
【0041】
接合強度がさらに向上する点から、第1酸化皮膜の厚みTは0.1~5μmが好ましい。厚みTは、0.2μm以上がより好ましく、0.3μm以上がさらに好ましく、0.4μm以上が特に好ましい。一方、厚みTは4μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましく、2μm以下が特に好ましく、1μm以下が最も好ましい。各皮膜の厚みはアルミニウム合金成形品の断面の電子顕微鏡写真から求めることができる。
【0042】
第2酸化皮膜は厚み方向に配向した細孔を有する。接合強度及び耐食性がさらに向上する点から、第2酸化皮膜中の細孔の平均細孔径Dは、2~100nmが好ましい。平均細孔径Dは5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましく、15nm以上が特に好ましく、20nm以上が最も好ましい。一方、平均細孔径Dは80nm以下がより好ましく、60nm以下がさらに好ましく、50nm以下が特に好ましく、45nm以下が最も好ましい。接合強度と耐食性とのバランスが特に優れる点からは、平均細孔径Dは40nm以下が好ましい。
【0043】
耐食性がさらに向上する点から、第2酸化皮膜の厚みTは1~25μmが好ましい。厚みTは、2μm以上がより好ましく、3μm以上がさらに好ましく、4μm以上が特に好ましく、5μm以上が最も好ましい。一方、厚みTは20μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましく、12μm以下が特に好ましく、9μm以下が最も好ましい。
【0044】
本発明のアルミニウム合金成形品において、第1酸化皮膜中の細孔の平均細孔径Dが第2酸化皮膜の平均細孔径Dよりも大きいことが好ましい。これにより、陽極酸化することにより、第2酸化皮膜が形成されやすくなるとともに、接合強度及び耐食性もさらに向上するものと考えられる。第2酸化皮膜の平均細孔径Dに対する第1酸化皮膜の平均細孔径Dの比(D/D)は1.1以上がより好ましく、1.2以上がさらに好ましく、1.5以上が特に好ましい。
【0045】
耐食性がさらに向上する点から、第2酸化皮膜が第1酸化皮膜よりも厚いことも好ましい。第1酸化皮膜の厚みTに対する第2酸化皮膜の厚みTの比(T/T)は1.2以上がより好ましく、1.5以上がさらに好ましく、2以上が特に好ましく、5以上が最も好ましい。
【0046】
本発明のアルミニウム合金成形品において、第1及び第2酸化皮膜が形成された部分の腐食電位(自然電位)は-0.55V以上が好ましく、-0.52V以上がより好ましく、-0.50V以上がさらに好ましい。当該腐食電位は、第1及び第2酸化皮膜が形成された部分を電気化学測定して得られるアノード分極曲線から求められ、具体的には後述する実施例に記載された方法により求められる。
【0047】
アルミニウム合金基材の表面が酸化皮膜で覆われてなるアルミニウム合金成形品であって、前記アルミニウム合金基材の表面が第2酸化皮膜で覆われ、第2酸化皮膜の表面が第1酸化皮膜で覆われ、第1酸化皮膜の厚みが0.1~5μmであり、第2酸化皮膜の厚みが1~25μmであり、第1及び第2酸化皮膜が、厚み方向に配向した細孔を有し、第1酸化皮膜の平均細孔径Dが第2酸化皮膜の平均細孔径Dよりも大きい、アルミニウム合金成形品が本発明の好適な実施態様である。
【0048】
こうして得られるアルミニウム合金成形品の表面の第1酸化皮膜又は第2酸化皮膜の表面に樹脂を接着させる接合品の製造方法もまた本発明の好適な実施態様である。当該方法により製造される接合品は、前記アルミニウム合金成形品に形成された第1酸化皮膜又は第2酸化皮膜の表面に樹脂が直接接合したものである。当該接合品として、例えばアルミニウム合金成形品と他の部材とが樹脂接着剤を介して接合した接合品やアルミニウム合金成形品に樹脂からなる部材が直接接着した接合品が挙げられる。
【0049】
前記接合品の製造方法において、前記アルミニウム合金基材に第2酸化皮膜を形成してから3日以上経過後に、第1又は第2酸化皮膜に樹脂を接着させることが好ましい。本発明のアルミニウム合金成形品は上述のとおり、優れた耐食性を有する。そのため、製造後長期間経過後に樹脂と接合した場合でも高い接合強度が得られ、工業的に利用し易い。第1又は第2酸化皮膜に樹脂を接着させるのは、前記アルミニウム合金基材に第2酸化皮膜を形成してから5日以上経過後がより好ましく、7日以上経過後がさらに好ましい。
【0050】
前記アルミニウム合金成形品に接着させる樹脂は特に限定されず、接合品の用途などにより適宜選択すればよい。例えば、エポキシ樹脂;ポリウレタン;ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリアセタール;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル樹脂;ポリカーボネート;ポリ塩化ビニル;ポリスチレンやABSなどのスチレン系樹脂;フロロポリマー;ポリフェニレンサルファイド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリフェニレンエーテル;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリイミド;ポリエーテルイミド;エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレン-プロピレン共重合ゴム、アクリルゴム、ヒドリンゴム、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、イソブチレン-イソプレン共重合体ゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ウレタン系ゴム、シリコーン系ゴム及びフッ素系ゴムなどのゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0051】
前記アルミニウム合金成形品に接着させる樹脂は、樹脂以外の他の成分を含む樹脂組成物であっても構わない。他の成分としては、架橋剤、可塑剤、充填剤、顔料などが挙げられる。本発明の効果を阻害しない範囲であれば他の成分の含有量は特に限定されない。さらに接合強度が向上する点からは、他の成分の含有量は50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0052】
前記アルミニウム合金成形品に接着させる樹脂接着剤は、特に限定されず、接合品の用途、前記アルミニウム合金成形品に対して接合させる部材の種類などにより適宜選択すればよい。樹脂接着剤として、ホットメルト接着剤、溶剤揮発型接着剤、硬化剤混合型接着剤、熱硬化型接着剤、紫外線硬化型接着剤、湿気硬化型接着剤、嫌気硬化型接着剤、エマルジョン型接着剤などが挙げられる。
【0053】
ホットメルト接着剤に用いられる樹脂としては、ポリオレフィン、ポリウレタン、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリエステル、熱可塑性エラストマー、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体などが挙げられる。また、反応性ホットメルト接着剤であっても構わない。反応性ホットメルト接着剤には、エポキシ樹脂などが用いられる。
【0054】
溶剤揮発型接着剤に用いられる樹脂としては、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂などが挙げられる。硬化剤混合型接着剤としては、エポキシ樹脂系のものやシリコーンゴム系のものが挙げられる。
【0055】
アルミニウム合金成形品に樹脂からなる部材を直接接着させる方法は特に限定されない。例えば、インサート成形方法、プレス成形方法、ラミネート法、加硫接着方法などが挙げられる。
【0056】
本発明の製造方法によれば、高い接合強度を有するアルミニウム合金成形品と樹脂との接合品が得られる。前記アルミニウム合金成形品の表面の第1又は第2酸化皮膜に樹脂を接着させてなる接合品が前記接合品の製造方法の好適な実施態様である。このような接合品は、自動車、バイクなどの輸送機器;電子機器;建築部材;自転車、釣り具などのレジャー用品又は日用品などの分野において有用である。
【実施例
【0057】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0058】
(1)アルミニウム合金成形品の表面及び断面の電子顕微鏡観察
日本電子株式会社製電界放射型走査電子顕微鏡「JXA-8230電子プローブマイクロアナライザ」を用いて電子顕微鏡写真を撮影した。なお、断面観察用の試験片は、以下のとおり作製した。アルミニウム合金成形品をエポキシ樹脂に包埋した後に、成形品表面に対して垂直方向に切断した。成形品の切断にはダイヤモンドカッターを用いた。日本電子株式会社製クロスセッションポリッシャー「IB-09010CP」を用いて成形品の切断面を加工することにより断面観察用の試験片を得た。
【0059】
(2)アルミニウム合金成形品の電気化学測定
北斗電工株式会社製の電気化学測定装置「HZ-7000」を用い、pH6.5の5質量%塩化ナトリウム水溶液中でアノード分極曲線を得た。試験片は15mm×15mmで、測定面積は1cm2とした。参照電極には銀-塩化銀電極を、対極にはPt電極を用いた。測定中温度は20℃に保持し、等速電位走査による電流-電位曲線を測定した。電位走査速度は40mV/minとした。得られた分極曲線の極小値から陽極酸化皮膜及び基材の腐食電位(自然電位)を得た。
【0060】
(3)接合品の接合強度測定
図1に接合強度の評価方法の概略図を示す。図1に示されるとおり、アルミニウム合金成形品1の間に、縦20mm、横20mm、厚み50μmのポリアミド系のホットメルトシート(日本マタイ株式会社製「エルファンNT」)を挟んだ後、3層が積層された部分に対して荷重(19.6N)を印加しながら、155℃にて60秒間保持した。島津製作所製「オートグラフ」(せん断速度0.5mm/sec)を用いて、得られた接合品の引張試験を行うことにより、せん断剥離強度を求めた。1種類の接合品につき2~3回引張試験を行い、せん断剥離強度の平均値を用いて接合品の接合強度を評価した。
【0061】
実施例1
アルミニウム合金基材として、JIS H4000により規定された展伸材であるA5052Pを用いた。当該展伸材を切断して、縦100mm、横20mm、厚み2mmのアルミニウム合金基材を得た。
【0062】
前処理として、前記アルミニウム合金基材を、バフ研磨機を用いて研磨(♯240の耐水研磨紙を用いて研磨した後に、♯600の耐水研磨紙を用いて研磨した)した後に、水酸化ナトリウム系脱脂液に5分間浸漬して脱脂を行い、さらに、5%硝酸に10秒間浸漬してスマットを除去した。前処理したアルミニウム合金基材を25℃のリン酸水溶液中(リン酸1.46モル/L、pH1.0)で15Vにて20分間陽極電解することにより第1酸化皮膜を形成した。第1酸化皮膜が形成されたアルミニウム合金基材を20~23℃の硫酸水溶液中(硫酸3.67モル/L、pH<0)で12.5Vにて30分間陽極電解することにより第2酸化皮膜を形成した。処理後の基材を水洗した後、乾燥させた。こうして、第1及び第2酸化皮膜が形成されたアルミニウム合金成形品を得た。
【0063】
得られたアルミニウム合金成形品の断面の電子顕微鏡観察(第1及び第2酸化皮膜の膜厚の測定)、及び表面の電子顕微鏡観察(細孔径の測定)を行った。得られたアルミニウム合金成形品1の断面の電子顕微鏡写真を図2に示す。また、前記アルミニウム合金成形品の断面を拡大した電子顕微鏡写真を図3に示す。図2において、アルミニウム合金基材3の上に存在する層が第2酸化皮膜4である。そして、第2酸化皮膜4の表面の薄い層が第1酸化皮膜5である。断面の電子顕微鏡写真から測定された第1酸化皮膜5の厚みTは0.6μmであり、第2酸化皮膜3の厚みTは7.1μmであった。評価結果を表1にも示す。
【0064】
アルミニウム合金成形品の表面の電子顕微鏡写真を図4に示す。図4において、白い網目状の部分が第1酸化皮膜5である。そして、第1酸化皮膜5の細孔内に見られる黒点が第2酸化皮膜4に形成された細孔6である。アルミニウム合金成形品の表面の電子顕微鏡写真から求めた第1酸化皮膜5における細孔の平均細孔径Dは60nmであった。ここで、細孔の最も離れた2点間の距離を細孔直径とした。細孔直径を10ヶ所測定し、それを平均することにより平均細孔径Dを算出した。第2酸化皮膜4に形成された細孔6の平均細孔径Dは30nmであった。平均細孔径Dは、平均細孔径Dと同様にして求めた。評価結果を表1にも示す。アルミニウム合金成形品(第1及び第2酸化皮膜が形成された部分)の電気化学測定により得られた分極曲線を図7に示す。
【0065】
第2酸化皮膜4を形成したアルミニウム合金成形品1を水洗して乾燥させた後、大気中で7日間放置した。放置後のアルミニウム合金成形品1を用いて接合品を製造し、接合強度を評価した。引張試験を3回行うことにより、せん断剥離強度の平均値を求めたところ、5.6kNであった。評価結果を表1にも示す。
【0066】
実施例2
リン酸水溶液のリン酸濃度を2.89モル/L(pH0.7)に変更した以外は実施例1と同様にして第1及び第2酸化皮膜が形成されたアルミニウム合金成形品の製造及び評価を行った。評価結果(電子顕微鏡写真は省略)を表1及び図7に示す。
【0067】
比較例1
第2酸化皮膜を形成しなかった以外は実施例1と同様にして、第1酸化皮膜のみが形成されたアルミニウム合金成形品の製造及び評価を行った。得られたアルミニウム合金成形品の表面の電子顕微鏡写真を図5に示す(断面の電子顕微鏡写真は省略)。また、第2酸化皮膜を形成しなかった以外は実施例1と同様にして、第1酸化皮膜のみが形成されたアルミニウム合金成形品を製造した。7日間大気中で放置することなく、引き続き当該成形品を用いて接合品を製造した後、接合強度を測定した。これらの結果を表1及び図7に示す。
【0068】
比較例2
第2酸化皮膜を形成しなかったこと、リン酸水溶液のリン酸濃度を2.89モル/L(pH0.7)に変更した以外は実施例1と同様にして、第1酸化皮膜のみが形成されたアルミニウム合金成形品の製造及び評価を行った(電子顕微鏡写真は省略)。結果を表1及び図7に示す。
【0069】
比較例3
第1酸化皮膜を形成しなかった以外は実施例1と同様にして、第2酸化皮膜のみが形成されたアルミニウム合金成形品の製造及び評価を行った。結果を表1及び図7に示す。得られたアルミニウム合金成形品の表面の電子顕微鏡写真を図6に示す(断面の電子顕微鏡写真は省略)。
【0070】
比較例4
第1酸化皮膜を形成する際に、電解液としてリン酸11.69モル/L及び硫酸3.67モル/Lを含有する水溶液(pH<0)を用いたこと及び表1に示すとおりに電解条件を変更したこと以外は実施例1と同様にしてアルミニウム合金成形品の製造及び評価を行った(電子顕微鏡写真は省略)。結果を表1に示す。なお、アルミニウム合金成形品の電気化学測定は実施しなかった。
【0071】
比較例5
第1酸化皮膜を形成する際に、電解液としてリン酸11.69モル/L及び硫酸3.67モル/Lを含有する水溶液(pH<0)を用いたこと、第2酸化皮膜を形成する際に、電解液としてリン酸三ナトリウム2.47モル/L(リン酸根換算)を含有する水溶液(pH12.3)を用いたこと、及び表1に示すとおりに第1及び第2酸化皮膜を形成する際の電解条件を変更したこと以外は実施例1と同様にして、2種類の酸化皮膜を形成した。陽極酸化後のアルミニウム合金基材を20℃の5%硝酸水溶液に10秒間浸漬した。処理後の成形品を水洗した後、乾燥させた。こうして得られたアルミニウム合金成形品の評価を行った(電子顕微鏡写真は省略)。結果を表1に示す。なお、アルミニウム合金成形品の電気化学測定は実施しなかった。
【0072】
比較例6
第1及び第2酸化皮膜を形成しなかった以外は実施例1と同様にしてアルミニウム合金成形品の製造、接合強度の測定及び電気化学測定を行った。結果を表1及び図7に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
リン酸を含有する電解液を用いて第1酸化皮膜を形成した後に、硫酸を含有する電解液を用いて第2酸化皮膜を形成して得られたアルミニウム合金成形品(実施例1、2)は7日間大気中で放置した後に、樹脂と接着した場合でもせん断剥離強度が高かった。そして、表面に形成された陽極酸化皮膜の腐食電位(自然電位)は、酸化皮膜が形成されていないアルミニウム合金成形品(比較例6)や、第1酸化皮膜のみが形成されたアルミニウム合金成形品(比較例1、2)よりも貴であり(図7)、優れた耐食性を有していた。
【0075】
一方、リン酸を含有する電解液を用いて第1酸化皮膜のみを形成して得られたアルミニウム合金成形品(比較例1、2)は、第2酸化皮膜を形成した直後に接合した場合(比較例1)のせん断剥離強度は高かったものの、7日間大気中で放置した後に接合した場合には、接合強度が大きく低下したうえに、陽極酸化皮膜の腐食電位(自然電位)が第1及び第2酸化皮膜が形成されたアルミニウム合金成形品(実施例1、2)よりも卑であり、耐食性が低かった。また、リン酸と硫酸とを含む電解液を用いて第1酸化皮膜を形成したアルミニウム合金成形品(比較例4、5)や第2酸化皮膜のみを形成して得られたアルミニウム合金成形品(比較例3)はせん断剥離強度が低かった。
【符号の説明】
【0076】
1 アルミニウム合金成形品
2 ホットメルトシート
3 アルミニウム合金基材
4 第2酸化皮膜
5 第1酸化皮膜
6 細孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7