(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】動態画像解析装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20240101AFI20241126BHJP
A61B 6/46 20240101ALI20241126BHJP
A61B 6/50 20240101ALI20241126BHJP
【FI】
A61B6/00 550C
A61B6/00 530A
A61B6/46 506Z
A61B6/50 500C
(21)【出願番号】P 2021012548
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 謙太
(72)【発明者】
【氏名】松谷 哲嗣
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-075123(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0114772(US,A1)
【文献】特開2019-180899(JP,A)
【文献】特開2018-043068(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0189320(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線による動態撮影により得られた胸部の動態画像を取得する取得部と、
前記動態画像における肺領域の体軸方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出する導出部と、
前記導出された前記癒着に関する情報を出力する出力部と、
を備える動態画像解析装置。
【請求項2】
放射線による動態撮影により得られた胸部の動態画像を取得する取得部と、
前記動態画像における肺領域の特定方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出する導出部と、
前記導出された前記癒着に関する情報を出力する出力部と、
を備え、
前記癒着に関する情報は、前記動態画像における肺領域の小領域ごとの前記動き量を含む、動態画像解析装置。
【請求項3】
前記導出部は、前記動態画像を解析することにより前記動態画像における肺領域の動き方向を前記特定方向とし、前記特定方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出する請求項2に記載の動態画像解析装置。
【請求項4】
前記導出部は、ユーザー操作により指定された方向を前記特定方向とし、前記特定方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出する請求項2に記載の動態画像解析装置。
【請求項5】
前記癒着に関する情報は、前記癒着の有無を示す情報、前記癒着の強度を示す情報、前記癒着の尤度を示す情報の少なくとも一つを含む請求項1~4のいずれか一項に記載の動態画像解析装置。
【請求項6】
前記癒着に関する情報は、前記動態画像における肺領域の小領域ごとの前記動き量を含む、請求項
1に記載の動態画像解析装置。
【請求項7】
前記導出部は、前記動態画像における肺領域の小領域ごとの前記動き量に基づいて、前記小領域ごとの前記癒着に関する情報を導出し、
前記出力部は、前記動態画像における前記小領域ごとの前記癒着に関する情報を出力する請求項1~6のいずれか一項に記載の動態画像解析装置。
【請求項8】
前記小領域ごとの前記癒着に関する情報は、前記肺領域の小領域ごとの前記動き量が所定の閾値以下であるか否かの情報を含む請求項7に記載の動態画像解析装置。
【請求項9】
前記出力部は、前記動態画像の代表フレーム画像の前記小領域ごとに前記癒着に関する情報に応じた色を付加した画像を出力する請求項7に記載の動態画像解析装置。
【請求項10】
前記出力部は、前記動態画像の代表フレーム画像の前記小領域ごとに前記動き量を示すベクトルを表示した画像を出力する請求項7に記載の動態画像解析装置。
【請求項11】
前記出力部は、前記動態画像の代表フレーム画像の前記小領域ごとに前記動き量に応じた色を付加した画像を出力する請求項7に記載の動態画像解析装置。
【請求項12】
前記導出部は、前記動態画像における各肺領域の垂直方向の位置ごとに、その垂直方向の位置にある小領域ごとの前記動き量の代表値を導出し、
前記出力部は、前記動態画像の代表フレーム画像の各肺領域の近傍に、前記各肺領域の垂直方向の位置ごとの前記代表値に応じた色を付した画像を出力する請求項11に記載の動態画像解析装置。
【請求項13】
前記導出部は、前記動態画像における左右肺ごとに前記癒着に関する情報を導出し、
前記出力部は、前記左右肺ごとの前記癒着に関する情報を出力する請求項1~12のいずれか一項に記載の動態画像解析装置。
【請求項14】
前記導出部が左右肺ごとに導出する前記癒着に関する情報は、前記肺領域における前記動き量が所定の閾値以下の動き低下領域に関する数値を含む請求項13に記載の動態画像解析装置。
【請求項15】
前記導出部が左右肺ごとに導出する前記癒着に関する情報は、前記肺領域における前記動き量が予め定められた第1の値以下の領域と前記第1の値よりも大きい第2の値以上の領域との距離、または前記肺領域における前記動き量が所定の閾値以下の領域から所定範囲内の領域における最大の前記動き量の少なくとも一つを含む請求項13又は14に記載の動態画像解析装置。
【請求項16】
前記導出部は、さらに、前記動態画像における横隔膜の動き量に基づいて、前記癒着に関する情報を導出する請求項1~15のいずれか一項に記載の動態画像解析装置。
【請求項17】
前記出力部は、前記動態画像における横隔膜の動き量が所定の閾値以下の場合に、前記癒着に関する情報の確度が低いことを警告する情報を出力する請求項1~16のいずれか一項に記載の動態画像解析装置。
【請求項18】
前記特定方向が胸郭の特定点における動き方向である場合、前記出力部は、前記動態画像における前記特定点の動き量が所定の閾値以下の場合に、前記癒着に関する情報の確度が低いことを警告する情報を出力する請求項2~4のいずれか一項に記載の動態画像解析装置。
【請求項19】
コンピューターを、
放射線による動態撮影により得られた胸部の動態画像を取得する取得部、
前記動態画像における肺領域の体軸方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出する導出部、
前記導出された前記癒着に関する情報を出力する出力部、
として機能させるためのプログラム。
【請求項20】
コンピューターを、
放射線による動態撮影により得られた胸部の動態画像を取得する取得部、
前記動態画像における肺領域の特定方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出する導出部、
前記導出された前記癒着に関する情報を出力する出力部、
として機能させ
、
前記癒着に関する情報は、前記動態画像における肺領域の小領域ごとの前記動き量を含む、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動態画像解析装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
手術前などに生体組織間の癒着の有無や癒着箇所を評価する技術として、例えば、特許文献1には、CT装置によって吸気時と呼気時の2時相の静止画像を収集し、収集した2時相の静止画像を用いて胸膜癒着を評価する技術が記載されている。また、例えば、特許文献2には、経時的に収集した3次元CT画像データ(4Dデータ)における物理的に密接する肺表面の内側と外側の各ボクセルのペアについて、3次元の動きベクトルを求めて滑り度を算出し、滑り度に基づいて肺領域の輪郭線上の領域において動いている部分と動いていない部分を抽出することが記載されている。また、例えば、特許文献3には、超音波画像における物理的にも画像位置的にも密接する2つの構造物の動きベクトルを求め、2つの構造物間の癒着度を算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-67832号公報
【文献】特開2019-180899号公報
【文献】特開2019-88565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、CT装置や4D-CTは、装置のコストの点から一般の医療施設には導入しづらく、また、撮影手続きの煩雑さや被ばく量の観点から、一般の術前患者には適用しにくいという問題がある。また、超音波診断装置は、局所撮影のため被写体の全体が概観できず、全体を撮影しようとすると撮影時間が膨大となる。また、撮影手技も難しい。そのため、同様に、一般の術前患者には適用しにくいという問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、胸膜の癒着に関する情報を少ない被ばく量で簡易に取得できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の動態画像解析装置は、
放射線による動態撮影により得られた胸部の動態画像を取得する取得部と、
前記動態画像における肺領域の体軸方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出する導出部と、
前記導出された前記癒着に関する情報を出力する出力部と、
を備える。
【0007】
請求項2に記載の発明の動態画像解析装置は、
放射線による動態撮影により得られた胸部の動態画像を取得する取得部と、
前記動態画像における肺領域の特定方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出する導出部と、
前記導出された前記癒着に関する情報を出力する出力部と、
を備え、
前記癒着に関する情報は、前記動態画像における肺領域の小領域ごとの前記動き量を含む。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、
前記導出部は、前記動態画像を解析することにより前記動態画像における肺領域の動き方向を前記特定方向とし、前記特定方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出する。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、
前記導出部は、ユーザー操作により指定された方向を前記特定方向とし、前記特定方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出する。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1~4のいずれか一項に記載の発明において、
前記癒着に関する情報は、前記癒着の有無を示す情報、前記癒着の強度を示す情報、前記癒着の尤度を示す情報の少なくとも一つを含む。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記癒着に関する情報は、前記動態画像における肺領域の小領域ごとの前記動き量を含む。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1~6のいずれか一項に記載の発明において、
前記導出部は、前記動態画像における肺領域の小領域ごとの前記動き量に基づいて、前記小領域ごとの前記癒着に関する情報を導出し、
前記出力部は、前記動態画像における前記小領域ごとの前記癒着に関する情報を出力する。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、
前記小領域ごとの前記癒着に関する情報は、前記肺領域の小領域ごとの前記動き量が所定の閾値以下であるか否かの情報を含む。
【0014】
請求項9に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、
前記出力部は、前記動態画像の代表フレーム画像の前記小領域ごとに前記癒着に関する情報に応じた色を付加した画像を出力する。
【0015】
請求項10に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、
前記出力部は、前記動態画像の代表フレーム画像の前記小領域ごとに前記動き量を示すベクトルを表示した画像を出力する。
【0016】
請求項11に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、
前記出力部は、前記動態画像の代表フレーム画像の前記小領域ごとに前記動き量に応じた色を付加した画像を出力する。
【0017】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の発明において、
前記導出部は、前記動態画像における各肺領域の垂直方向の位置ごとに、その垂直方向の位置にある小領域ごとの前記動き量の代表値を導出し、
前記出力部は、前記動態画像の代表フレーム画像の各肺領域の近傍に、前記各肺領域の垂直方向の位置ごとの前記代表値に応じた色を付した画像を出力する。
【0018】
請求項13に記載の発明は、請求項1~12のいずれか一項に記載の発明において、
前記導出部は、前記動態画像における左右肺ごとに前記癒着に関する情報を導出し、
前記出力部は、前記左右肺ごとの前記癒着に関する情報を出力する。
【0019】
請求項14に記載の発明は、請求項13に記載の発明において、
前記導出部が左右肺ごとに導出する前記癒着に関する情報は、前記肺領域における前記動き量が所定の閾値以下の動き低下領域に関する数値を含む。
【0020】
請求項15に記載の発明は、請求項13又は14に記載の発明において、
前記導出部が左右肺ごとに導出する前記癒着に関する情報は、前記肺領域における前記動き量が予め定められた第1の値以下の領域と前記第1の値よりも大きい第2の値以上の領域との距離、または前記肺領域における前記動き量が所定の閾値以下の領域から所定範囲内の領域における最大の前記動き量の少なくとも一つを含む。
【0021】
請求項16に記載の発明は、請求項1~15のいずれか一項に記載の発明において、
前記導出部は、さらに、前記動態画像における横隔膜の動き量に基づいて、前記癒着に関する情報を導出する。
【0022】
請求項17に記載の発明は、請求項1~16のいずれか一項に記載の発明において、
前記出力部は、前記動態画像における横隔膜の動き量が所定の閾値以下の場合に、前記癒着に関する情報の確度が低いことを警告する情報を出力する。
【0023】
請求項18に記載の発明は、請求項2~4のいずれか一項に記載の発明において、
前記特定方向が胸郭の特定点における動き方向である場合、前記出力部は、前記動態画像における前記特定点の動き量が所定の閾値以下の場合に、前記癒着に関する情報の確度が低いことを警告する情報を出力する。
【0024】
請求項19に記載の発明のプログラムは、
コンピューターを、
放射線による動態撮影により得られた胸部の動態画像を取得する取得部、
前記動態画像における肺領域の体軸方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出する導出部、
前記導出された前記癒着に関する情報を出力する出力部、
として機能させる。
【0025】
請求項20に記載の発明のプログラムは、
コンピューターを、
放射線による動態撮影により得られた胸部の動態画像を取得する取得部、
前記動態画像における肺領域の特定方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出する導出部、
前記導出された前記癒着に関する情報を出力する出力部、
として機能させ、
前記癒着に関する情報は、前記動態画像における肺領域の小領域ごとの前記動き量を含む。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、胸膜の癒着に関する情報を少ない被ばく量で簡易に取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態における動態解析システムの全体構成を示す図である。
【
図2】
図1の撮影用コンソールの制御部により実行される撮影制御処理を示すフローチャートである。
【
図3】
図1の診断用コンソールの制御部により実行される癒着情報導出処理を示すフローチャートである。
【
図4】呼吸運動における胸郭、横隔膜、肺の動きを模式的に示す図である。
【
図5】
図3のステップS12で実行される動き量MAP作成処理を示すフローチャートである。
【
図6】
図5のステップS121で実行される前処理を説明するための図である。
【
図7】動きベクトルのマージを説明するための図である。
【
図8】癒着を判定するための閾値を説明するための図である。
【
図9】動き低下領域の肺内面積率の算出の一例を説明するための図である。
【
図10】横隔膜動き量と動き低下領域の肺内面積率の組み合わせによる動き低下領域(癒着)の計測不可領域と、横隔膜の動き量に応じた癒着有無の判定のための肺内面積率の閾値を示した図である。
【
図12】小領域ごとの動き量を示すサマリ画像の例を示す図である。
【
図13】癒着強度を示すサマリ画像の例を示す図である。
【
図14】胸郭の動き方向を特定方向として指定する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0029】
〔動態解析システム100の構成〕
まず、本実施形態の構成を説明する。
図1に、本実施形態における動態解析システム100の全体構成例を示す。
図1に示すように、動態解析システム100は、撮影装置1と、撮影用コンソール2とが通信ケーブル等により接続され、撮影用コンソール2と、診断用コンソール3とがLAN(Local Area Network)等の通信ネットワークNTを介して接続されて構成されている。動態解析システム100を構成する各装置は、DICOM(Digital Image and Communications in Medicine)規格に準じており、各装置間の通信は、DICOMに則って行われる。
【0030】
〔撮影装置1の構成〕
撮影装置1は、例えば、呼吸運動に伴う肺の膨張及び収縮の形態変化、心臓の拍動等の、周期性(サイクル)を持つ胸部の動態を撮影する撮影手段である。動態撮影とは、被写体に対し、X線等の放射線をパルス状にして所定時間間隔で繰り返し照射するか(パルス照射)、もしくは、低線量率にして途切れなく継続して照射する(連続照射)ことで、被写体の動態を示す複数の画像を取得することをいう。動態撮影により得られた一連の画像を動態画像と呼ぶ。動態画像は、すなわち、時間軸を含む3次元の画像である。また、動態画像を構成する複数の画像のそれぞれをフレーム画像と呼ぶ。なお、以下の実施形態では、パルス照射により胸部正面の動態撮影を行う場合について説明する。
【0031】
放射線源11は、被写体Mを挟んで放射線検出部13と対向する位置に配置され、放射線照射制御装置12の制御に従って、被写体Mに対し放射線(X線)を照射する。
放射線照射制御装置12は、撮影用コンソール2に接続されており、撮影用コンソール2から入力された放射線照射条件に基づいて放射線源11を制御して放射線撮影を行う。撮影用コンソール2から入力される放射線照射条件は、例えば、パルスレート、パルス幅、パルス間隔、1撮影あたりの撮影フレーム数、X線管電流の値、X線管電圧の値、付加フィルター種等である。パルスレートは、1秒あたりの放射線照射回数であり、後述するフレームレートと一致している。パルス幅は、放射線照射1回当たりの放射線照射時間である。パルス間隔は、1回の放射線照射開始から次の放射線照射開始までの時間であり、後述するフレーム間隔と一致している。
【0032】
放射線検出部13は、FPD(Flat Panel Detector)等の半導体イメージセンサーにより構成される。FPDは、例えば、ガラス基板等を有しており、基板上の所定位置に、放射線源11から照射されて少なくとも被写体Mを透過した放射線をその強度に応じて検出し、検出した放射線を電気信号に変換して蓄積する複数の検出素子(画素)がマトリックス状に配列されている。各画素は、例えばTFT(Thin Film Transistor)等のスイッチング部を備えて構成されている。FPDにはX線をシンチレーターを介して光電変換素子により電気信号に変換する間接変換型、X線を直接的に電気信号に変換する直接変換型があるが、何れを用いてもよい。
放射線検出部13は、被写体Mを挟んで放射線源11と対向するように設けられている。
【0033】
読取制御装置14は、撮影用コンソール2に接続されている。読取制御装置14は、撮影用コンソール2から入力された画像読取条件に基づいて放射線検出部13の各画素のスイッチング部を制御して、当該各画素に蓄積された電気信号の読み取りをスイッチングしていき、放射線検出部13に蓄積された電気信号を読み取ることにより、画像データを取得する。この画像データがフレーム画像である。そして、読取制御装置14は、取得したフレーム画像を撮影用コンソール2に出力する。画像読取条件は、例えば、フレームレート、フレーム間隔、画素サイズ、画像サイズ(マトリックスサイズ)等である。フレームレートは、1秒あたりに取得するフレーム画像数であり、パルスレートと一致している。フレーム間隔は、1回のフレーム画像の取得動作開始から次のフレーム画像の取得動作開始までの時間であり、パルス間隔と一致している。
【0034】
ここで、放射線照射制御装置12と読取制御装置14は互いに接続され、互いに同期信号をやりとりして放射線照射動作と画像の読み取りの動作を同調させるようになっている。
【0035】
〔撮影用コンソール2の構成〕
撮影用コンソール2は、放射線照射条件や画像読取条件を撮影装置1に出力して撮影装置1による放射線撮影及び放射線画像の読み取り動作を制御するとともに、撮影装置1により取得された動態画像を撮影技師等の撮影実施者によるポジショニングの確認や診断に適した画像であるか否かの確認用に表示する。
撮影用コンソール2は、
図1に示すように、制御部21、記憶部22、操作部23、表示部24、通信部25を備えて構成され、各部はバス26により接続されている。
【0036】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory
)等により構成される。制御部21のCPUは、操作部23の操作に応じて、記憶部22に記憶されているシステムプログラムや各種処理プログラムを読み出してRAM内に展開し、展開されたプログラムに従って後述する撮影制御処理を始めとする各種処理を実行し、撮影用コンソール2各部の動作や、撮影装置1の放射線照射動作及び読み取り動作を集中制御する。
【0037】
記憶部22は、不揮発性の半導体メモリーやハードディスク等により構成される。記憶部22は、制御部21で実行される各種プログラムやプログラムにより処理の実行に必要なパラメーター、或いは処理結果等のデータを記憶する。例えば、記憶部22は、
図2に示す撮影制御処理を実行するためのプログラムを記憶している。また、記憶部22は、検査対象部位及び撮影方向に対応付けて放射線照射条件及び画像読取条件を記憶している。各種プログラムは、読取可能なプログラムコードの形態で格納され、制御部21は、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。
【0038】
操作部23は、カーソルキー、数字入力キー、及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードに対するキー操作やマウス操作により入力された指示信号を制御部21に出力する。また、操作部23は、表示部24の表示画面にタッチパネルを備えても良く、この場合、タッチパネルを介して入力された指示信号を制御部21に出力する。
【0039】
表示部24は、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)等のモニターにより構成され、制御部21から入力される表示信号の指示に従って、操作部23からの入力指示やデータ等を表示する。
【0040】
通信部25は、LANアダプターやモデムやTA(Terminal Adapter)等を備え、通信ネットワークNTに接続された各装置との間のデータ送受信を制御する。
【0041】
〔診断用コンソール3の構成〕
診断用コンソール3は、撮影用コンソール2から胸部の動態画像を取得し、取得した動態画像に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を算出し出力する動態画像解析装置である。
診断用コンソール3は、
図1に示すように、制御部31、記憶部32、操作部33、表示部34、通信部35を備えて構成され、各部はバス36により接続されている。
【0042】
制御部31は、CPU、RAM等により構成される。制御部31のCPUは、操作部33の操作に応じて、記憶部32に記憶されているシステムプログラムや、各種処理プログラムを読み出してRAM内に展開し、展開されたプログラムに従って、後述する癒着情報導出処理を始めとする各種処理を実行し、診断用コンソール3の各部の動作を集中制御する。制御部31は、癒着情報導出処理を実行することにより、取得部、導出部として機能する。
【0043】
記憶部32は、不揮発性の半導体メモリーやハードディスク等により構成される。記憶部32は、制御部31で癒着情報導出処理を実行するためのプログラムを始めとする各種プログラムやプログラムによる処理の実行に必要なパラメーター、或いは処理結果等のデータを記憶する。これらの各種プログラムは、読取可能なプログラムコードの形態で格納され、制御部31は、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。
【0044】
操作部33は、カーソルキー、数字入力キー、及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、ユーザーによるキーボードに対するキー操作やマウス操作により入力された指示信号を制御部31に出力する。また、操作部33は、表示部34の表示画面にタッチパネルを備えても良く、この場合、タッチパネルを介して入力された指示信号を制御部31に出力する。
【0045】
表示部34は、LCDやCRT等のモニターにより構成され、制御部31から入力される表示信号の指示に従って、各種表示を行う。表示部34は、出力部として機能する。
【0046】
通信部35は、LANアダプターやモデムやTA等を備え、通信ネットワークNTに接続された各装置との間のデータ送受信を制御する。
【0047】
〔動態解析システム100の動作〕
次に、本実施形態における上記動態解析システム100の動作について説明する。
【0048】
(撮影装置1、撮影用コンソール2の動作)
まず、撮影装置1、撮影用コンソール2による撮影動作について説明する。
図2に、撮影用コンソール2の制御部21において実行される撮影制御処理を示す。撮影制御処理は、制御部21と記憶部22に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0049】
まず、撮影実施者により撮影用コンソール2の操作部23が操作され、被検者(被写体M)の患者情報、検査情報の入力が行われる(ステップS1)。
【0050】
次いで、放射線照射条件が記憶部22から読み出されて放射線照射制御装置12に設定されるとともに、画像読取条件が記憶部22から読み出されて読取制御装置14に設定される(ステップS2)。
【0051】
次いで、操作部23の操作による放射線照射の指示が待機される(ステップS3)。ここで、撮影実施者は、被写体Mを放射線源11と放射線検出部13の間に配置してポジショニングを行う。撮影準備が整った時点で、操作部23を操作して放射線照射指示を入力する。
【0052】
操作部23により放射線照射指示が入力されると(ステップS3;YES)、放射線照射制御装置12及び読取制御装置14に撮影開始指示が出力され、動態撮影が開始される(ステップS4)。即ち、放射線照射制御装置12に設定されたパルス間隔で放射線源11により放射線が照射され、放射線検出部13によりフレーム画像が取得される。動態撮影中、撮影実施者は、例えば「息を吸って」「息を止めて」「息を吐いて」等の呼吸誘導を行う。なお、撮影装置1が音声出力部や表示部を備え、撮影開始指示が出力されると、「息を吸って」「息を止めて」「息を吐いて」等の呼吸誘導や息止め指示の音声や表示を行うこととしてもよい。
【0053】
操作部23により放射線照射終了指示が入力されると、制御部21により放射線照射制御装置12及び読取制御装置14に撮影終了の指示が出力され、撮影動作が停止される。
【0054】
撮影により取得されたフレーム画像は順次撮影用コンソール2に入力され、撮影順を示す番号(フレーム番号)と対応付けて記憶部22に記憶されるとともに(ステップS5)、表示部24に表示される(ステップS6)。撮影実施者は、表示された動態画像によりポジショニング等を確認し、撮影により診断に適した画像が取得された(撮影OK)か、再撮影が必要(撮影NG)か、を判断する。そして、操作部23を操作して、判断結果を入力する。
【0055】
操作部23の所定の操作により撮影OKを示す判断結果が入力されると(ステップS7;YES)、動態撮影で取得された一連のフレーム画像のそれぞれに、動態画像を識別するための識別IDや、患者情報、検査情報、放射線照射条件、画像読取条件、撮影順を示す番号(フレーム番号)等の情報が付帯され(例えば、DICOM形式で画像データのヘッダ領域に書き込まれ)、通信部25を介して診断用コンソール3に送信される(ステップS8)。そして、本処理は終了する。一方、操作部23の所定の操作により撮影NGを示す判断結果が入力されると(ステップS7;NO)、記憶部22に記憶された一連のフレーム画像が削除され(ステップS9)、本処理は終了する。この場合、再撮影が必要となる。
【0056】
(診断用コンソール3の動作)
次に、診断用コンソール3における動作について説明する。
診断用コンソール3においては、通信部35を介して撮影用コンソール2から胸部の動態画像の一連のフレーム画像が受信されると、制御部31と記憶部32に記憶されているプログラムとの協働により、
図3に示す癒着情報導出処理が実行される。
【0057】
ここで、
図4に示すように、胸郭(
図4において符号Tで示す)や横隔膜(
図4において符号Dで示す)は、柔らかい肺(
図4においてLで示す)の入れ物であり、呼吸をしたい場合には、胸郭や横隔膜を動かすことにより、内圧変化で肺が膨張収縮し、空気の出入りを行う。呼吸運動では、横隔膜の上下動や胸郭の広がり狭まりにより肺が膨張収縮する。一般的には、横隔膜の上下動が支配的である。
通常、胸郭と肺は分離されているが、炎症などにより、壁側胸膜と肺胸膜の癒着(胸膜の癒着)が起こると、その箇所では胸郭と肺が強くくっついた状態になってしまう。そのため、胸膜の癒着の判別方法としては、外力に対して、どのように肺が動いたかを観察する、すなわち、外力がある状態において肺と近傍の胸郭との相対的位置関係が固定されているか否かを観察することで、判別できる。しかし、動態画像は透過画像であるため、肺や胸郭や横隔膜の奥行方向の位置が正確にわからず、相対的位置関係も正確に把握できず、従来の癒着判別方法では判別が難しいという課題があった。
そこで、本願発明者は、胸膜の癒着のある人とない人について、胸部の動態画像を解析して肺領域の体軸方向の動き量を計測した。その結果、胸膜の癒着がある場合、癒着箇所に対応する肺領域の体軸方向の動き量がある閾値以下となることがわかった。すなわち、外力を呼吸中の肺全体の支配的な動きである横隔膜の動きとし、動き量の計測を横隔膜の動き方向すなわち体軸方向の動き量の計測とすることで、動態画像においても、正確に癒着の判別できることを見出した。また、肺と近傍の胸郭との相対的位置関係を、肺領域の絶対位置により代替できることを見出した。これにより、動態画像においても癒着の判別が可能となった。そこで、
図3に示す癒着情報導出処理では、動態画像の肺領域の体軸方向の動き量を計測して胸膜の癒着に関する情報の導出に用いている。
体軸方向の動きを計測するため、本発明は正面撮影に限らず、側面や斜位など、体軸方向と概ね垂直な方向から撮影すればよい。また、撮影は立位であれば重力方向と体軸方向が一致するため、安定的な計測が可能となるが、座位または臥位でもよい。
なお、体軸方向とは人または動物の頭尾方向であるが、正確に頭尾位置を計測する必要はなく、正しい姿勢で撮影することにより、放射線検出部13(FPD)や画像の所定方向であるものとして処理して構わない。また、脊椎角度が大幅に傾いている場合には、脊椎角度に対応させるなど、撮影画像に則して体軸方向を規定しなおしてもよい。
【0058】
以下、
図3を参照して癒着情報導出処理について説明する。
まず、制御部31は、通信部35により受信した動態画像を取得する(ステップS11)。
次いで、制御部31は、取得した動態画像に対し、動き量MAP作成処理を実施する(ステップS12)。
動き量MAP作成処理は、動態画像におけるフレーム画像間で肺の小領域ごとの対応点を抽出し、対応点の位置の変化から肺の小領域ごとの動きベクトルを抽出する処理である。なお、本実施形態では、小領域を画素とするが、複数の画素からなる画素ブロックごととしてもよい。
【0059】
図5は、ステップS12において実行される動き量MAP作成処理の流れを示すフローチャートである。動き量MAP作成処理は、制御部31と記憶部32に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
まず、制御部31は、動態画像に対し、前処理を実施する(ステップS121)。
【0060】
前処理において、制御部31は、動態画像の中から解析対象となる(胸膜の癒着に関する情報の導出に用いる)区間のフレーム画像を取得する。
【0061】
例えば、制御部31は、呼気期間(例えば、最大吸気位から最大呼気位まで)のフレーム画像を解析対象となる区間のフレーム画像として取得する。呼気期間のフレーム画像は、例えば、動態画像の各フレーム画像から肺領域を認識し、認識した肺領域の面積が最大(極大)から最小(極小)までのフレーム画像を抽出することで取得することができる。または、動態画像の各フレーム画像から肺尖部と横隔膜との距離を計測し、肺尖部と横隔膜との距離が最大(極大)から最小(極小)までの区間のフレーム画像を呼気期間のフレーム画像として取得してもよい。または、動態画像の肺領域の濃度(平均濃度)が最大(極大)から最小(極小)までの区間のフレーム画像を吸気期間のフレーム画像として取得することとしてもよい。ユーザーに解析対象となる区間を指定してもらうこととしてもよい。
【0062】
次いで、まず、制御部31は、
図6に示すように、取得した各フレーム画像(オリジナル画像)に対し、骨領域を認識して骨の信号成分を減弱する骨減弱処理(Bone Suppression処理(BS処理))を施して骨減弱画像(BS画像)を生成し、生成したBS画像に周波数強調処理を施して周波数強調画像を得る。
ここで、胸部の動態画像の各フレーム画像では肺だけでなく肋骨など様々な構造物が1枚の画像上に表現されている。そのため、肺の動きベクトルを抽出するために、単純に画像上の模様の対応点を算出すると、肺と異なる動きをする骨の対応点と混在してしまう。そこで、オリジナル画像に骨減弱処理を施しておくことで、後段の処理で精度よく肺の対応点を算出することができる。さらに、動態画像で見える肺領域の模様は主に肺血管であり、高周波成分から構成され、肺外の臓器や脂肪・筋肉などは低周波成分に特徴が現れることから、肺血管に相当する特定の高周波成分を強調する周波数強調処理を事前に行っておくことが望ましい。また、外胸郭辺縁の骨の模様をさらに減弱するために、肺野領域の外部や境界部にノイズを付与してもよい。このとき用いる肺野領域の外部には、骨の模様の存在しない縦郭や横隔膜下部の領域は含まない。
【0063】
次いで、制御部31は、前処理済みの、解析対象の区間のフレーム画像について、時間方向に隣接するフレーム画像間(以下、隣接するフレーム画像間)でオプティカルフローを実行し、小領域ごとに、隣接するフレーム画像間で対応点を求めて動きベクトル算出する(ステップS122)。
例えば、dense型のオプティカルフローにより、小領域ごとに隣接するフレーム画像間の動きベクトル算出する。なお、ここでは、隣接するフレーム画像間での動きベクトル算出することとしているが、nフレーム先(nは正の整数)のフレーム画像との動きベクトルを算出することとしてもよい。また、心拍起因での動きの計測誤差を軽減するため、nを一心拍周期のフレーム数としてもよい。なお、動きベクトルの算出は、少なくとも肺領域の各小領域に対して行えばよい。
【0064】
次いで、制御部31は、小領域ごとに、ステップS122で得られた複数の動きベクトルをマージ(統合)する(ステップS123)。
【0065】
図7は、ステップS123のマージ処理を説明するための図である。ここでは、開始フレームから終了フレームまでの動きベクトルを算出する。
図7に示すように、ステップS123では、まず、ステップS122において開始フレーム(フレーム1)と開始フレーム隣接フレーム(フレーム1+n)とから得られた動きベクトルと開始フレーム隣接フレーム(フレーム1+n)と開始フレーム次隣接フレーム(フレーム2+n)とから得られた動きベクトルの和(
図7において太い矢印で示す)を算出する。次いで、算出した動きベクトルの和と、次の動きベクトルの和を算出する。これを、算出された動きベクトルの全てが加算されるまで行う。
これにより、解析対象の開始フレーム画像から終了フレーム画像までの動きを表す動きベクトルを算出することができる。この動きベクトルを、ベクトル始点座標もしくはベクトル終点座標に保存する。例えば、後述する代表フレーム画像が最大呼気位のフレーム画像であれば、ベクトル終点座標に動きベクトルを保存すればよい。
【0066】
なお、上記の動きベクトルの算出手法は一例であり、最終的に呼気期間の開始フレーム画像から終了フレーム画像までの小領域ごとの動きベクトルが算出できれば、その手法は特に限定されない。ただし、深呼吸期間(5秒程度)においては、呼吸に伴う肺の位置移動や変形が大きいため、画像の見えの変化が激しく、画像上の対応点を算出することが非常に難しい。そこで、上記したように、例えば、時間方向に隣接するフレーム画像間など、短い時間単位で対応点を算出して動きベクトルを算出し、それらをマージすることで、呼気期間の動きベクトルを精度よく算出することができる。
また、動きベクトル算出結果の後処理として、ノイズ除去のため、ガウシアンフィルター等の各種フィルター処理を行っても良い。
【0067】
そして、制御部31は、算出された動きベクトルに基づいて、小領域ごとの体軸方向(上方向)の動き量(体軸方向(上方向)の動きベクトルの長さ)を算出し、小領域ごとの体軸方向の動き量を示す動き量MAPを作成し(ステップS124)、
図3のステップS13に移行する。動き量MAPを作成する際には、小領域ごとの動きベクトルのうち肺野領域外を対象外として除去してもよい。肺野領域の抽出は、既存の肺野認識処理を用いればよい。
【0068】
なお、動態画像は透過画像のため、腹~背の奥行方向に構造物(主として動きの異なる肺血管)が複数重なり得る。そこで、ステップS12においては、各小領域において、奥行き方向に重なる肺血管のそれぞれの動きベクトルを算出し、体軸方向(上方向)の動き量(体軸方向(上方向)の動きベクトルの長さ)が最も小さいものをその小領域の体軸方向の動き量として採用して動き量MAPを作成することとしてもよい。
例えば、上述の前処理を行った後、解析対象となる区間のフレーム画像に対して、角度(方向)の異なる複数のガボールフィルター等を用いて、複数の角度方向に走行する肺血管をそれぞれ強調した画像を作成し、各角度方向の肺血管が強調された画像ごとに、上述のステップS121~S123の処理を実施することによって動きベクトルを算出する。そして、各角度方向の肺血管が強調された画像の小領域ごとに体軸方向(上方向)の動き量(体軸方向(上方向)の動きベクトルの長さ)を算出し、各小領域で最も小さいものをその小領域の体軸方向の動き量として採用し動き量MAPを作成することとしてもよい。
【0069】
図3に戻り、ステップS13において、制御部31は、作成された動き量MAPに基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出する(ステップS13)。
胸膜の癒着に関する情報は、動態画像の小領域ごとに導出してもよいし、左右肺ごとに導出してもよい。以下、それぞれについて説明する。なお、以下の説明において、癒着とは胸膜の癒着を指す。
【0070】
(1)小領域ごとの癒着に関する情報
小領域ごとの癒着に関する情報とは、例えば、癒着の有無を示す情報、癒着尤度(癒着らしさ)を示す情報、癒着強度を示す情報、体軸方向の動き量を示す情報、の少なくとも一つを含む。
癒着有無を示す情報は、小領域ごとに、動きベクトルの体軸方向(上方向)の長さ(すなわち、体軸方向(上方向)の動き量)と所定の閾値とを比較し、比較結果に基づいて導出される情報である。例えば、動きベクトルの体軸方向の長さが所定の閾値以下の場合は癒着あり、所定の閾値を超える場合は癒着なしと判定し、判定結果を癒着の有無を示す情報とする。
癒着強度を示す情報は、動きベクトルの体軸方向(上方向)の長さの閾値を複数用意し、小領域ごとに、動きベクトルの体軸方向(上方向)の長さを複数の閾値と比較し、比較結果に基づいて導出される情報である。例えば、第1の閾値と第2の閾値を設け(第1の閾値>第2の閾値)、動きベクトルの体軸方向(上方向)の長さが第1の閾値を超えている場合は癒着なし、第2の閾値を超えているが第1の閾値以下の場合は弱い癒着、第2の閾値以下は強い癒着と判定し、判定結果を癒着強度を示す情報とする。
癒着尤度を示す情報は、小領域ごとに、所定の閾値と動きベクトルの体軸方向(上方向)の長さの差(
図8の矢印参照)に基づいて導出される情報である。例えば、所定の閾値から動きベクトルの体軸方向(上方向)の長さを引いた差を算出し、算出した差が0以下のときを癒着尤度0、動きベクトルの体軸方向(上方向)の長さが0のときの差を癒着尤度1として算出した値を癒着尤度を示す情報とする。
【0071】
癒着の有無、癒着尤度、癒着強度を導出するための閾値は、実験的又は経験的に求められた値であり、
図8に示すように、固定値であってもよいし(TH1)、小領域の肺尖からの距離が大きいほど大きくしてもよいし(TH2)、小領域の肺尖からの距離×横隔膜の動き量が大きいほど大きくしてもよい(TH3)。肺尖付近は癒着がなくても動きが小さく、また、横隔膜の動きが小さい場合には癒着が無くても肺の動きが小さくなるためである。また、癒着尤度については、閾値固定で算出した癒着尤度に対し、肺尖からの距離に応じた係数を掛ける、又は、横隔膜の動き量に応じた係数を掛ける等してもよい。
【0072】
ここで、癒着の有無を判定するための閾値としては、例えば、参照文献1のgrade2以上に該当する強固な癒着を「癒着あり」と判定する閾値を用いることが好ましい(参照文献1;Junko Tokuno et al, ”Preoperative detection of pleural adhesions by respiratory dynamic computed tomography”, World Journal of Surgical Oncology 15,2017)。参照文献1のgrade2以上の強固な癒着は、手術時に癒着部をはがす高度な手技が必要となり、出血させてしまうリスクが高まる癒着であり、手術の作業性を上げるために胸腔鏡ではなく開胸手術をした方が望ましくなる。このような強固な癒着の有無に関する情報をユーザーである医師に提供することで、医師が手術の手技を選択する際の支援とすることができる。
また、癒着強度を判定するための閾値としては、例えば、参照文献1のgrade2以上に該当する強固な癒着を「強い癒着」、grade1のband癒着を「弱い癒着」、grade0を「癒着なし」と判定する閾値を用いることが好ましい。
例えば、閾値が固定値の場合、弱い癒着を判定するための閾値(第1の閾値)は6mm、強い癒着を判定するための閾値(第2の閾値)は1mmとすることができる。
【0073】
なお、癒着有無を示す情報及び癒着強度を示す情報は、癒着尤度を示す情報と閾値との比較結果に基づいて導出されることとしてもよい。例えば、癒着尤度が所定の閾値(上記の動きベクトルの体軸方向の長さの閾値とは異なる)以上の場合は癒着あり、癒着尤度が所定の閾値を下回る場合は癒着なしとなる。
また、小領域ごとの癒着に関する情報は、体軸方向の動き量そのものであってもよく、動きベクトルの体軸方向の長さが所定の閾値以下であるかを判定した、動き低下の判定結果であってもよい。動き低下の判定結果をもとに、動き低下領域を算出することができる。
動き低下領域の算出にあたっては、後処理としてモルフォロジーフィルター等の各種フィルター処理を行い、微小なノイズ領域を除去してもよい。
【0074】
このように、動態画像の肺領域における小領域ごとに癒着の有無を示す情報を導出することで、胸膜の癒着があるか否か、ある場合はどこに癒着があるのかをユーザーである医師が把握することが可能となる。また、動態画像の肺領域における小領域ごとに癒着尤度を示す情報を導出することで、肺の局所領域ごとの癒着らしさを医師が把握することが可能となる。また、動態画像の肺領域における小領域ごとに癒着強度を示す情報を導出することで、胸膜の癒着があるか否か、ある場合は、手術の手技の選択に影響する強固な癒着の有無及びその場所を医師が把握することが可能となる。
【0075】
(2)左右肺ごとの癒着に関する情報
左右肺ごとの癒着に関する情報とは、例えば、左右肺ごとの癒着の有無を示す情報、癒着尤度(癒着らしさ)を示す情報、癒着強度を示す情報、動き低下領域の面積を示す情報、動き小領域と動き大領域の近接度に関する情報、動き低下領域の下端位置、動き低下領域の左右対称性、特定の位置の動き低下の有無、の少なくとも一つを含む。
【0076】
上述のように、肺の手術にあたっては、癒着の有無を事前に医師が把握しておくことは重要となるが、中でも広範囲の場合、癒着部をはがす際の手技の難度・時間が増すため、胸腔鏡ではなく開胸を選択する必要性が高まる。そこで、左右肺ごとに、動き低下領域を算出してその肺内面積率を算出し、算出した動き低下領域の肺内面積率に基づいて、左右肺ごとの癒着の有無を示す情報を導出する。例えば、小領域ごとに、動きベクトルの体軸方向(上方向)の長さを所定の閾値と比較し、所定の閾値以下の小領域を動き低下領域とする。そして、動き低下領域の肺内面積率が所定の閾値以上である場合は癒着あり、所定の閾値未満である場合は癒着なしと判定し、判定結果を左右肺ごとの癒着の有無を示す情報とする。動き低下領域を判定するための閾値は、例えば、上述の小領域ごとの癒着有無を示す情報を導出する際に用いたものと同様のものを用いることができる。また、左右肺ごとの癒着判定に用いる所定の閾値(肺内面積率の閾値)としては、例えば、1/3や0.5等を用いることができる。これは、手術にあたって把握しておきたい癒着サイズの代表例が胸膜1/3程度であること、これまで実験的に癒着が大きい例は肺の半分程度の動きが低下していること、による。
【0077】
なお、立位で横隔膜を動かしたとき、重力影響により上肺は癒着がなくとも動きが小さい。そのため、上肺(例えば、
図9に示すように、肺の上から1/3の領域)は動き低下領域の肺内面積率の計算範囲から除外することとしてもよい。例えば、
図9において動き低下領域と判定された領域が太枠で囲んだ領域であった場合、中下肺領域全体(
図9においては間隔の異なる2つのハッチング領域を合わせた領域)に対する中下肺領域内の動き低下領域(
図9においては細かいハッチングの領域)の割合を肺内面積率として算出することとしてもよい。また、肺尖から横隔膜頂点(下端)までの位置を0~1で正規化した際に1/3以上などの所定閾値以上の領域において動き低下領域がある場合に、左右肺ごとの癒着の有無の情報を導出してもよい。癒着は上から下に広がって進むことから、下で癒着がある場合は広範囲に癒着が広がっていると判断できるためである。
【0078】
また、左右肺ごとの癒着に関する情報としては、上述の小領域ごとの癒着に関する情報に基づいて導出することとしてもよい。
例えば、小領域ごとの癒着の有無を示す情報に基づいて、左右肺ごとの癒着の有無に関する情報を導出することとしてもよい。例えば、小領域ごとの癒着の有無に関する情報に基づいて、左右肺ごとに、癒着ありの領域の肺内面積率を算出し、肺内面積率が所定の閾値以上である場合は癒着あり、所定の閾値未満である場合は癒着なしと判定し、判定結果を左右肺ごとの癒着の有無を示す情報とする。また、左右肺ごとの癒着判定に用いる所定の閾値(肺内面積率の閾値)としては、例えば、上述のように1/3や0.5等を用いることができる。
【0079】
また、例えば、小領域ごとの癒着強度を示す情報に基づいて、左右肺ごとの癒着強度に関する情報を導出することとしてもよい。例えば、小領域ごとの癒着強度に関する情報に基づいて、左右肺ごとに、強い癒着と判定された領域の肺内面積率、弱い癒着と判定された領域の肺内面積率、癒着なしと判定された領域の肺内面積率をそれぞれ算出し、算出結果を左右肺ごとの癒着強度に関する情報として算出してもよい。あるいは、強い癒着と判定された領域の肺内面積率が所定の閾値以上である場合に、強い癒着ありと判定し、強い癒着と判定された領域の肺内面積率が所定の閾値未満で弱い癒着と判定された領域の肺内面積率が所定の閾値以上である場合に、弱い癒着ありと判定し、判定結果を左右肺ごとの癒着強度に関する情報としてもよい。左右肺ごとの癒着強度の判定に用いる所定の閾値(肺内面積率の閾値)としては、例えば、上述のように1/3や0.5等を用いることができる。
【0080】
また、例えば、小領域ごとの癒着尤度を示す情報に基づいて、左右肺ごとの癒着尤度に関する情報を導出することとしてもよい。
左右肺ごとの癒着尤度に関する情報は、例えば、以下の(式1)により求めることができる。
左右肺ごとの癒着尤度=(小領域ごとの癒着尤度)の平均値・・・(式1)
あるいは、以下の(式2)~(式4)のいずれかにより左右肺ごとの癒着尤度に関する情報を求めることとしてもよい。
左右肺ごとの癒着尤度=(小領域ごとの癒着尤度)の最大値・・・(式2)
左右肺ごとの癒着尤度=(小領域ごとの癒着尤度)の2乗の平均値・・・(式3)
左右肺ごとの癒着尤度={MAX(0, 1 - log_a (小領域ごとの癒着尤度) )} の平均値・・・(式4)
例えば、領域が小さい癒着であっても高い癒着尤度を左右肺ごとの癒着尤度に反映させたい場合は、(式2)を用いることが好ましい。
また、例えば、領域が大きな癒着の癒着尤度を左右肺ごとの癒着尤度に反映させたい場合は、(式3)又は(式4)を用いることが好ましい。(式3)又は(式4)では、小領域ごとの癒着尤度が低い場合の重みを下げることができる。例えば、(式4)では、低aを、例えば0.6などにすることで、小領域ごとの癒着尤度が0.6以上の場合に左右肺ごとの癒着尤度の計算に寄与する設計とすることができる。
【0081】
ここで、上述のように、正常な肺は横隔膜の動きに伴って体軸方向に動くため、横隔膜の動き量が大きいほど肺の動き量は大きくなり、横隔膜の動き量が小さければ、肺の動き量も小さくなる。すなわち、
図10に示すように、縦軸を動き低下領域の肺内面積率、横軸を横隔膜の動き量としたグラフにおいて、横隔膜の動き量がほとんどない領域(
図10において横隔膜の動き量がTHで示す閾値以下)では、癒着があってもなくても肺の動き量は小さく、肺が動かせているのか否かを正確に判定することができない。そこで、横隔膜の動き量を算出し、横隔膜の動き量が所定の閾値TH以下の場合、導出した癒着に関する情報の確度が低いことを示す警告を出力(例えば、表示部34に表示)することが好ましい。例えば、「警告:横隔膜の動きが小さいため、癒着による動き低下が充分に計測できません」等のメッセージを出力することが好ましい。
なお、
図10の横隔膜の動き量は、例えば、動態画像からエッジ検出等の画像処理により横隔膜を認識し、認識した横隔膜の代表点(例えば、横隔膜の頂点(上端)や、ある計測線上の点(固定のx座標位置(画像の横方向の座標位置))等)の動き量を横隔膜の動き量とする。
【0082】
また、左右肺ごとの癒着の有無や癒着強度を判定する際の肺内面積率の閾値は、
図10の曲線lに示すように、横隔膜の動き量に基づいて変更してもよい。具体的には、横隔膜の動き量が大きいほど閾値を小さくする。癒着がなければ横隔膜の動き量が大きいほど肺の動きも大きくなるため、動き低下領域や癒着ありと判定される領域が小さくなるためである。
なお、左右肺ごとの動き低下領域の肺内面積率を左右肺ごとの癒着に関する情報として算出してもよい。
【0083】
また、左右肺ごとの癒着に関する情報として、以下の情報を導出してもよい。
・動き小領域と動き大領域の近接度に関する情報
体軸方向の動き量が小さい領域と、体軸方向の動き量が大きい領域の近接度に関する情報を算出し、左右肺ごとの癒着に関する情報として表示してもよい。例えば上記近接度に関する情報を算出する1つの方法としては、体軸方向の動き量が所定値(第1の値)以下(例えば1cm以下)の領域と、体軸方向の動き量が所定値(第2の値)以上(例えば4cm以上)の領域との距離を2領域間距離として算出し、2領域間距離が所定の閾値以下(例えば3cm以内)であれば癒着有りの可能性が高いことから、2領域間距離そのものや2領域間距離が所定の閾値以下であるか否かを上記近接度に関する情報として導出、出力するとよい。他の方法としては、体軸方向の動き量が所定値以下(例えば1mm以下)の領域の近傍領域(例えば周辺3cm以内の範囲の領域)の最大の動き量を算出する。最大動き量が大きいほど癒着有りの可能性が高いことから、最大動き量そのものや最大動き量が所定の閾値以上(例えば3cm以上)であるか否かの判定結果を上記近接度に関する情報として出力するとよい。ここで上述の2領域間距離や上述の近傍を規定する距離は、上述の2手法いずれも、体軸方向に計測した距離であることが望ましい。
・動き低下領域の下端位置
例えば、肺尖から横隔膜上端又は肺領域下端までの距離を1.0とし、動き低下領域の下端位置を0~1.0で表した数値を算出する。
立位で横隔膜を動かしたときの重力影響や、癒着が上肺から進む傾向があることから、動き低下領域の下端位置を求めることで、癒着の範囲の推定に役立てることができるためである。
・動き低下領域の左右対称性
横隔膜の動きが小さいために肺の動きが小さい場合は、左右対称に動きが小さくなるが、左右方向で動き低下領域の下端位置が大きく異なる場合(動き低下領域が左右非対称の場合)は癒着の可能性があると考えられるためである。
・特定の位置(特定の肺血管又は気管支の位置)の動き低下の有無
胸膜付近にあることが解剖学的にわかっている肺血管又は気管支(例えば、右肺動脈のA3bなど)の動き(体軸方向の動き)が低下していた場合、その箇所は癒着していると考えられるためでる。
例えば、右肺動脈のA3bは、胸部正面の画像ではX線照射方向に走行しているために肺結節のように丸く目立って見える。そこで、例えば、動態画像における右肺の肺門付近において、Hessianフィルター等を用いて5mm角程度の円形検出を行うことで右肺動脈のA3bを認識し、認識した右肺動脈のA3bの体軸方向の動き量(例えば、呼気期間の上方向の動き量)が所定の閾値以下である場合に、動きの低下があると判定し、閾値を超える場合に、動きの低下なしと判定する。なお、右肺動脈のA3bは一例であり、胸膜付近にあることが解剖学的にわかっている他の肺血管又は気管支について、例えば、動態画像の肺領域の特定の位置において、A3bと同様の手法により認識し、その体軸方向の動き量が所定の閾値以下である場合に、動きの低下があると判定し、閾値を超える場合に、動きの低下なしと判定してもよい。
【0084】
癒着に関する情報の導出が終了すると、制御部31は、癒着に関する情報が表示された解析結果画面341を表示部34により表示(出力)する(ステップS14)。
【0085】
図11は、解析結果画面341の一例を示す図である。
図11に示すように、解析結果画面341には、動画表示領域341a、サマリ画像表示領域341b、横隔膜動き量表示領域341c等が設けられている。
【0086】
動画表示領域341aには、撮影により取得された動態画像が動画表示される。動態画像を動画表示することにより、医師が横隔膜や肺の動きやその関連性を直接観察することが可能となる。ここで、上述のように、X線画像において、肺は肺血管などの高周波成分から構成され、肺外の臓器や脂肪、筋肉などは低周波成分に特徴が現れることから、表示する動態画像には、特定の高周波成分を強調する画像処理もしくは特定の低周波成分を減弱する画像処理を事前に行っておくことが望ましい。また、動態画像上には、操作部33の操作によりステップS13で導出された動き低下領域を囲んで示すオーバーレイ表示(
図11においてAで示す)のON/OFFが切替可能となっている。動き低下領域をオーバーレイ表示することで、医師が動き低下領域の内外での動きの違いを対比的に集中して癒着らしさを観察することが可能となる。なお、動き低下領域の表示は、体動が少なければ全フレーム画像に同じものを流用しても問題はない。
【0087】
サマリ画像表示領域341bには、動画表示領域341aに表示された動態画像を解析することにより導出された解析結果を示すサマリ画像が表示される。
サマリ画像としては、例えば、
図12(a)に示すように、動態画像の一のフレーム画像(代表フレーム画像。例えば、最大吸気位のフレーム画像。)の小領域ごとに、当該小領域の体軸方向(上方向)の動き量を示すベクトルを表示した画像(動き量MAP)を表示する。
図12(a)においては、最大吸気位のフレーム画像にベクトルをマッピング(表示)した例を示しているが、最大呼気位のフレーム画像にベクトルを表示することとしてもよい。なお、体軸方向に限らず、全方向の動き量をベクトルで表示してもよい。
または、サマリ画像として、
図12(b)に示すように、代表フレーム画像の小領域ごとに当該小領域の体軸方向(上方向)動き量(ベクトルの長さ)に応じた色を付した画像(動き量MAP)を表示してもよい。動き量と色の変換テーブルとしては、例えば、黒(R,G,B=0,0,0) を基点として、動き量に所定の係数を掛け算した値をR,G,Bいずれかに割り付ければよい。例えば、正の動き量をG、負の動き量をB、というように正負で色を分けると視認性がよく望ましい。負の動きは胸式呼吸による肺の絶対位置の変化を表すことが多いため、非表示(黒のまま)としてもよい。動き量の増加に応じて、R,G,Bいずれかの値を線形に増加させても良く、非線形に増加させてもよい。表現能を上げるため、動き量0~+1cmをG:0~255に割り当て、動き量+1cm~+4cmをR:0~255(G=255固定)に割り当てるなど、異なる色を複数割り当ててもよい。医師の使用モニターは高精細なモノクロモニタであることも多いため、モノクロ(R=G=B)で動き量0~+4cmを0~255に割り当ててもよい。動き低下に着目するため、限りある色域のうち、例えば動き量1cm以下などの小さな動きの表現能を上げることが望ましく、例えば動き量4cm以上などの大きな動きは固定値とするなど表現能を下げることが望ましい。所定の色で塗りつぶしを行うものであるが、透過色で表示しても良い。
表示する体軸方向の動き量MAPは、観察すべき対象である肺野領域に限定して表示することが望ましい。これにより、肺野外は動態画像そのものを観察しやすくなり、位置関係が把握しやすくなるという効果もある。肺野領域は通常は右肺と左肺との2領域で構成されるが、縦郭領域や横隔膜下部領域を含むこととしてもよい。また、ユーザー入力を可能とし、ユーザーが入力した肺野領域を採用することとしてもよい。
表示する動態画像は、動画表示領域341aと同様に、特定の高周波成分を強調する画像処理もしくは特定の低周波成分を減弱する画像処理を事前に行っておくことが望ましい。
また、動態画像における各肺の垂直方向の位置ごとに、その垂直方向の位置に存在する小領域の体軸方向(上方向)の動き量の代表値(例えば、最小値、平均値、中央値、又は最大値)を算出し、代表フレーム画像の各肺領域の近傍に、各肺領域の垂直方向の位置ごとに前記代表値に応じた色を付した画像である垂直方向グラデーションバー342を表示することとしてもよい。垂直方向グラデーションバー342には、動き低下領域の下端位置(
図12(b)においてEで示す)を識別可能に表示してもよい。
または、サマリ画像として、
図12(c)に示すように、各肺の垂直方向の位置ごとに、その垂直方向の位置に存在する小領域の体軸方向(上方向)の動き量の代表値(例えば、最小値、平均値、中央値、又は最大値)を算出し、算出した代表値に応じた色を動態画像の代表フレーム画像の肺領域上に短冊状に表示することとしてもよい。
【0088】
また、
図12(b)に示す表示方法において、代表フレーム画像の各小領域に、体軸方向の動き量の代わりに当該小領域の癒着尤度に応じた色を付してもよい。また、癒着尤度の垂直方向グラデーションバーを表示してもよい。また、癒着有無(動き低下領域)については、
図13(a)に示すように、代表フレーム画像の癒着ありと判定された領域(動き低下領域)にのみ色を付すこととしてもよい。また、癒着強度については、
図13(b)に示すように、代表フレーム画像の癒着ありと判定された小領域についてのみ、その小領域の癒着の強度に応じた色を付すこととしてもよい。
また、サマリ画像と併せて、左右肺ごとの癒着に関する情報(癒着有無、癒着強度、癒着尤度、癒着確度、動き低下領域の面積率、動き低下領域の下端位置、動き低下領域の左右対称性、動き小領域と動き大領域の近接度に関する情報、特定の位置の動き低下の有無のうち少なくとも一つ等)を表示してもよい。
なお、
図12(a)~(c)、
図13(a)、(b)においては、片肺のみに対して表示を行っているが、実際には両肺に対して表示が行われる。また、どのサマリ画像をサマリ画像表示領域341bに表示するかは、操作部33の操作によりユーザーが設定可能である。
【0089】
このように、サマリ画像の表示により、肺領域の小領域ごとの体軸方向の動き量、癒着有無、癒着強度、癒着尤度、動き低下領域の分布等を表示することができるので、医師が癒着の分布状況を容易に把握することが可能となり、読影のアシストをすることができ、読影の性能及び効率を向上させることができる。また、癒着の情報が集約されたサマリ画像をPACSに予め送信するなどしておけば、医師が動態画像を詳細に読影する必要があるか否かを判断するトリガとすることもできる。また、サマリ画像上に動き低下領域と体軸方向の動き量MAPとを重ねて表示しておくことで、動画表示領域341aの動態画像にオーバーレイ表示した「動き低下領域」の抽出方法について、体軸方向の動き量MAPから抽出されていることを目視で確認でき、医師への説明性を確保することができることができる。
【0090】
また、例えば、サマリ画像表示領域341bには、左右肺ごとの胸膜の癒着に関する情報を表示することで、医師が左右肺ごとの胸膜癒着について容易に把握することが可能となり、読影の性能及び効率を向上させることができる。
【0091】
横隔膜動き量表示領域341cには、動態画像における横隔膜の動き量(例えば、横隔膜の代表点の動き量)の時間変化を示すグラフが表示される。グラフ上には、動画表示領域341aにおける動態画像の再生位置343が表示されるとともに、解析対象となったフレーム画像の範囲344が識別可能に(例えば、囲んで)表示される。これにより、医師は、動態画像を動画表示(再生)しながら、再生されているフレーム画像と横隔膜の動きとを対比させることが可能となる。また、解析対象としたフレーム画像を把握することが可能となる。なお、横隔膜の動き量の算出に用いた代表点の位置を動画表示領域341aに表示される動態画像に示すこととしてもよい。
【0092】
なお、上記説明では、動態画像の呼気期間を解析対象とした例について説明したが、吸気期間を解析対象としてもよい。この場合は、上記説明の体軸方向(上方向)の代わりに、体軸方向(下方向)の動きベクトルを算出し、体軸方向(下方向)の動き量に基づいて、癒着に関する情報を導出し出力する。また、複数回の呼気期間、吸気期間ごとに解析しても構わない。
【0093】
(変形例)
以下、上記実施形態の変形例について説明する。
一般的に、呼吸をすると肺は主に体軸方向に動くため、上記実施形態では、肺領域の体軸方向の動き量に基づいて癒着に関する情報を導出する場合を例にとり説明したが、まれに、呼吸により肺が斜め方向に動く患者も存在する。例えば、片方の肺にブラがある場合、左右の肺が不均等となり、呼吸をすると肺が体軸方向から少し角度がついた斜め方向に動いてしまうケースがある。このような場合は、肺の動き方向である斜め方向の動き量に基づいて癒着に関する情報を導出することが望ましい。
そこで、制御部31は、例えば、動態画像を解析して肺の動き方向のトレンドを取得し、取得した方向を特定方向として、肺領域の特定方向の動き量に基づいて癒着に関する情報を導出することとしてもよい。例えば、動態画像の解析対象区間のフレーム画像の小領域ごとにオプティカルフロー等により動きベクトルを求め、例えば、最も多くのベクトルが向いている方向を肺の動き方向とし、この肺の動き方向を特定方向として、肺領域における特定方向の動き量に基づいて癒着に関する情報を導出することとしてもよい。あるいは、ユーザーに操作部33の操作により肺の動き方向を指定させ、指定された方向を特定領域として、肺領域における特定方向の動き量に基づいて、癒着に関する情報を導出することとしてもよい。例えば、表示部34に動態画像を動画表示し、操作部33によりユーザーに動き方向を指定させることとしてもよい。あるいは、動態画像の解析対象区間のフレーム画像の小領域ごとにオプティカルフロー等により動きベクトルを求めて動きベクトルを表示し、肺領域における操作部33により選択されたベクトルが向いている方向を特定方向としてもよい。また、上肺野や肺尖部の癒着を判別したい場合には、上肺野や肺尖部の横隔膜による動きが小さいことから、観察したい肺野周辺の胸郭の動き方向を前記特定方向としてもよい。例えば、
図14に示すように、呼吸に伴い動く胸郭のうち外胸郭辺縁ET上の1点を特定点Pとしてユーザーが指定し、特定点Pの吸気時の動きを抽出し、その動き方向を特定方向とする。肺尖部に癒着がある場合、肺尖部で特定方向の動き量が低下していることが観察され、特定方向の動き量が所定の閾値以下の領域(動き低下領域)として肺尖部が検出できる。一方、前記特定点Pの(特定方向の)動き量が所定の閾値(例えば3mm)以下の場合、外力である胸郭が充分に動いていないことから、導出された癒着に関する情報の確度が低いことを警告する情報を出力(例えば、表示部34に表示)することが望ましい。ここでは、ユーザーが特定点Pを指定したが、これによらず、左右肺ごとに胸郭の動き量を抽出し、動き量が最大の点を特定点Pとしてもよい。なお、癒着に関する情報を導出する方法は、上記実施形態で説明した方法の体軸方向を上述の特定方向とすればよい。そして、導出された癒着に関する情報を解析結果画面341に表示することとしてもよい。
【0094】
このように、肺領域の特定方向の動き量に基づいて癒着に関する情報を導出することで、疾患により肺が体軸方向に動かない患者についての癒着に関する情報についても精度よく導出することが可能となる。
【0095】
以上説明したように、本実施形態における診断用コンソール3の制御部31は、放射線による動態撮影により得られた胸部の動態画像を取得し、取得した動態画像における肺領域の体軸方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出し、導出した胸膜の癒着に関する情報を表示部34により表示出力する。
また、本実施形態の変形例における診断用コンソール3の制御部31は、放射線による動態撮影により得られた胸部の動態画像を取得し、取得した動態画像における肺領域の特定方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出し、導出した癒着に関する情報を表示部34により表示出力する。
したがって、放射線による動態撮影により得られた胸部の動態画像を用いて胸膜の癒着に関する情報を取得することができるので、従来のように、装置のコストの点から一般の医療施設には導入しづらく、また、撮影手続きの煩雑さや被ばく量の多さなどが問題となる4D-CTや、局所撮影のため被写体の全体が概観できず、全体を撮影しようとすると撮影時間が膨大となり、撮影手技も難しい超音波診断装置を用いることなく、胸膜の癒着に関する情報を少ない被ばく量で簡易に取得することが可能となる。その結果、一般の医療施設において、コストが高く大掛かりな装置を導入することなく、少ない被ばく量で手術前の患者の胸膜の癒着に関する情報を容易に取得することが可能となる。
【0096】
例えば、制御部31は、前記胸膜の癒着に関する情報として、癒着の有無を示す情報、癒着の強度を示す情報、又は癒着の尤度を示す情報を含めることができる。したがって、医師は、患者の胸膜の癒着有無、癒着強度、癒着尤度を把握することが可能となる。
【0097】
また、例えば、制御部31は、動態画像における肺領域の小領域ごとの前記動き量に基づいて、前記癒着に関する情報を導出するので、精度よく胸膜の癒着に関する情報を導出することができる。さらに、動態画像の横隔膜の動き量に基づいて癒着に関する情報を導出することで、より精度よく胸膜の癒着に関する情報を導出することができる。
【0098】
また、例えば、制御部31は、動態画像における肺領域の小領域ごとの前記動き量に基づいて、小領域ごとの胸膜の癒着に関する情報を導出し、表示部34に表示出力するので、医師が胸膜の癒着の分布状況を容易に把握することが可能となり、読影の性能及び効率を向上させることができる。
【0099】
例えば、動態画像の代表フレーム画像の肺領域の小領域ごとに導出した胸膜の癒着に関する情報に応じた色を付加した画像を出力することで、医師が一瞥して胸膜の癒着の分布状況を把握することが可能となり、読影の性能及び効率を向上させることができる。
【0100】
また、例えば、動態画像の代表フレーム画像の肺領域の小領域ごとに体軸方向(又は特定方向)の動き量を示すベクトルを表示した画像を出力することで、医師が一瞥して肺領域の小領域ごとの体軸方向(又は特定方向)の動き量を把握することが可能となり、読影の性能及び効率を向上させることができる。
【0101】
また、動態画像の代表フレーム画像の肺領域の小領域ごとに小領域ごとの体軸方向(又は特定方向)の動き量に応じた色を付加した画像を出力することで、医師が一瞥して肺領域の小領域ごとの体軸方向(又は特定の方向)の動き量を把握することが可能となり、読影の性能及び効率を向上させることができる。
【0102】
また、動態画像における各肺領域の垂直方向の位置ごとに、その垂直方向の位置にある小領域ごとの体軸方向(又は特定方向)の動き量の代表値を導出し、動態画像の代表フレーム画像の各肺領域の近傍に、各肺領域の垂直方向の位置ごとの前記代表値に応じた色を付した画像を出力することで、医師が一瞥して垂直方向の位置ごとの体軸方向(又は特定方向)の動き量を把握することができ、読影の性能及び効率を向上させることができる。
【0103】
また、動態画像における左右肺ごとに胸膜の癒着に関する情報を導出し、左右肺ごとの前記癒着に関する情報を出力することで、医師が左右肺ごとの胸膜癒着について容易に把握することが可能となり、読影の性能及び効率を向上させることができる。
【0104】
また、動態画像における肺領域の小領域ごとの動き量に基づいて、動き低下領域を導出し、導出された動き低下領域を示す表示をオーバーレイして動態画像を動画表示することで、医師が動き低下領域の内外での動きの違いを対比的に集中して観察することが可能となる。
【0105】
また、動態画像における横隔膜の動き量が所定の閾値以下の場合に、癒着に関する情報の確度が低いことを警告する情報を出力することで、医師が癒着に関する情報の確度が低いことを認識することが可能となる。
【0106】
なお、上記実施形態及び変形例における記述内容は、本発明の好適な一例であり、これに限定されるものではない。
【0107】
例えば、上記実施形態においては、胸部正面の動態画像における肺領域の体軸方向又は特定方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出する場合を例にとり説明したが、胸部側面の動態画像における肺領域の体軸方向又は特定方向の動き量に基づいて、胸膜の癒着に関する情報を導出することとしてもよい。
【0108】
また、上記実施形態においては、表示部34を出力部として、胸膜の癒着に関する情報を表示部34に表示する場合を例にとり説明したが、例えば、出力部を通信部35として胸膜の癒着に関する情報を通信部35により外部装置に出力し、外部装置において胸膜の癒着に関する情報を表示することとしてもよい。また、診断用コンソール3に印刷部を備える構成とし、胸膜の癒着に関する情報を印刷部により用紙に出力することとしてもよい。
【0109】
また、上記の説明では、本発明に係るプログラムのコンピューター読み取り可能な媒体としてハードディスクや半導体の不揮発性メモリー等を使用した例を開示したが、この例に限定されない。その他のコンピューター読み取り可能な媒体として、CD-ROM等の可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウエーブ(搬送波)も適用される。
【0110】
その他、移動型放射線撮影装置を構成する各装置の細部構成及び細部動作に関しても、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0111】
100 動態解析システム
1 撮影装置
11 放射線源
12 放射線照射制御装置
13 放射線検出部
14 読取制御装置
2 撮影用コンソール
21 制御部
22 記憶部
23 操作部
24 表示部
25 通信部
26 バス
3 診断用コンソール
31 制御部
32 記憶部
33 操作部
34 表示部
35 通信部
36 バス