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  • 特許-ベアリングケージとその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-20
(45)【発行日】2025-01-06
(54)【発明の名称】ベアリングケージとその使用
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20241223BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20241223BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
【請求項の数】 5
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020121993
(22)【出願日】2020-07-16
(65)【公開番号】P2021017981
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】201910644247.X
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】508282993
【氏名又は名称】アクティエボラゲット・エスコーエッフ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ホンユアン・アン
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-070422(JP,A)
【文献】特開2001-027249(JP,A)
【文献】特開2008-190629(JP,A)
【文献】米国特許第04225199(US,A)
【文献】中国実用新案第205478924(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/41
F16C 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略環状のバックボーン(10)および前記バックボーン(10)から一方の軸方向側に延在する垂下部(20)を備える一方向スナップインベアリングケージ(1)であって、前記垂下部(20)は、円周方向に間隔をあけて配置されるとともに球状ローラー(21)を収容するために使用されるポケット(22)と、隣接するポケット(22)を接続するポケット接続部(24)とを備え、
前記ポケット(22)がトロイダル面の形状を有し、該トロイダル面の断面円の半径Rtが前記ローラー(21)の半径Rwの1.08~10倍であることを特徴とする、一方向スナップインベアリングケージ(1)。
【請求項2】
前記トロイダル面の断面円の半径Rtが前記ローラーの半径Rwの1.15~5倍であることを特徴とする、請求項に記載の一方向スナップインベアリングケージ(1)。
【請求項3】
前記トロイダル面の断面円の半径Rtが前記ローラーの半径Rwの1.25~1.6倍であることを特徴とする、請求項に記載の一方向スナップインベアリングケージ(1)。
【請求項4】
前記ポケットの開口側内壁の径方向内縁の近くが、前記ポケットの他の部分と共に異なる曲面間の円弧状の移行部を形成することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の一方向スナップインベアリングケージ(1)。
【請求項5】
内レースと、外レースと、前記内レースおよび前記外レースの間に配置された少なくとも一列のローラーを備えるローラーベアリングであって、
請求項1~のいずれか一項に記載の一方向スナップインベアリングケージ(1)が前記少なくとも1列のローラー上に配置されていることを特徴とするローラーベアリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向スナップインベアリングケージ、およびそのようなケージを使用するローラーベアリングに関する。
【背景技術】
【0002】
一方向スナップインケージは、低コストおよび設置の容易さのために、ローラーベアリングにおける従来の構成となっている。図1および図2に示すように、典型的な一方向スナップインケージ1は、略環状のバックボーン10と、バックボーン10から軸方向の一方の側に延びる垂下部20とに軸方向に分割される。垂下部20は、周方向に間隔をあけて配置され、球状ローラー21を収容するためのポケット22と、隣接するポケット同士を接続するポケット接続部24とを備える。従来のケージは球面ローラーに対応し、ローラーより少し大きい球形のポケットを採用しており、ポケットとローラーがカバー付きすきまばめになっている。このはめあいは、ローラーのはめあいを容易にするだけでなく、ポケットとローラーの間に安定した潤滑油膜を形成するのにも役立つ。ポケット22は、その開口側でプロング26を形成し、プロングは、ポケット接続部24を超えて軸方向に突出している。言い換えれば、ポケット接続部24は、プロング26の先端範囲より軸方向に「後退」している。これにより、垂下部の質量を低減でき、遠心力の作用を低減できる。
【0003】
スナップインケージ固有の欠点は、回転速度が増加するにつれて、垂下部が遠心力の作用下で外側に拡張することにより変形する傾向があり、いわゆる「傘効果」を形成することである。傘効果により、ポケットとローラーの整合関係が崩れ、ポケットとローラーの干渉が生じ、ケージが局部的に過熱し、局部的に溶けてしまう。さらに深刻なことに、ケージの開口側内壁の径方向内縁28で干渉が発生しやすく、この位置での接触力がケージ全体の変形を引き起こしやすい。深刻なケースでは、これによりケージがローラーから外れてしまう。
【0004】
上記の技術的問題を解決するために、既存の解決策は、一般にポケットの直径を拡大して、ポケットの内面とローラーの間の間隙を増やし、それによってケージ(特に、プロングの径方向内縁)とローラー間の干渉を回避することである。しかし、このタイプの解決策には、次のような多くの悪影響がある。ケージとローラーの間の嵌合のゆるみにより、ケージがローラーから簡単に外れる。ベアリングの軸方向のスペースが限られている場合、ポケットの直径を大きくすると、バックボーンの軸方向の寸法が「圧縮」され、バックボーンの全体的な剛性が弱まる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、傘効果の作用下で一方向スナップインベアリングケージとローラーとの間に生じる干渉の技術的問題に向けられている。上記の問題を解決するために、本発明は、略環状のバックボーンと、バックボーンから一方の軸方向側に延びる垂下部とを含む、一方向スナップインケージを提供する。垂下部は、円周方向に間隔をあけて配置された球状ローラーを収納するポケットと、隣接するポケット同士を接続するポケット接続部を備える。ポケットは、少なくとも開口側内壁の径方向内縁近傍に、ローラー面からの離隔性を確保した拡張設計を採用している。傘効果が発生した場合、この拡張構造により、ポケットの開口側内壁の下縁部とローラーとの干渉をある程度回避でき、従来の傘効果による様々な問題を回避できる。
【0006】
上述のケージに基づいて、本発明はさらに、内レース、外レース、および内レースと外レースの間に配置された少なくとも1列のローラーを含むローラーベアリングを提供する。ケージは、少なくとも1列のローラーに配置される。上記のケージを採用したローラーベアリングは、高速回転に対応でき、同一回転数条件下での温度上昇効果を大幅に低減できるため、回転数の優位性が高く、良好な用途が見込める。
【0007】
本発明の様々な実施形態および有益な効果を、図面と併せて以下で詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】従来の球面ポケットケージの立体斜視図である。
図2図1の領域Aの部分拡大図である。
図3a】トロイダル表面の形成のメカニズムを示す幾何学的概略図である。
図3b】トロイダル表面の形成のメカニズムを示す幾何学的概略図である。
図4】本発明のトロイダル面ポケットケージの半径方向斜視図である。
図5】本発明のトロイダル面ポケットケージの半径方向断面図である。
図6図5の領域Bの部分拡大図である。
図7図5の領域Cの部分拡大図である。
図8】ケージのすべてのポケットの幾何学的中心によって決定される平面の断面図である。
図9図8の領域Bの部分拡大図である。
図10図8の領域Cの部分拡大図である。
図11図4のF-F方向に沿ったケージの断面図である。
図12図11の領域Bの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
説明の便宜上、本発明におけるベアリングの軸が示す方向(図1および図4の点線)を「軸方向」と定義し、軸に垂直な方向を「半径方向」と定義する。さらに、図面では、ローラーのボール中心がポケットの幾何学的中心にあるように示されている。これは、本発明の観察を容易にするためになされ、本発明においてベアリングが動作状態にある場合に、ローラーが常にポケットの幾何学的中心に配置されることを意図的に示すものではない。本発明の様々な実施形態は、図面と併せて以下で詳細に説明され、すべての同一または類似の構成要素には、同一の参照ラベルが与えられている。
【0010】
上述のように、ケージとローラーとの干渉が最も発生しやすい場所は、ポケットの開口側内壁の径方向内縁の近くである。これは、図面ではラベル28でマークされており、以下では「内壁下縁部」とも呼ばれる。これは、バックボーンに拘束され、ポケットの開口側の方がバックボーン付近よりもケージの垂下部の外方への膨張による変形量が大きいため、ポケットおよびローラーの干渉位置がポケットの開口側内壁下縁部付近に比較的集中するからである。理論的には、内壁下縁部がベアリングの軸方向と半径方向の両方で特定の範囲をカバーする。これは、傘効果がベアリングの回転速度と正の相関があるためである。回転速度が異なると、ローラーとポケットの開口側内壁との接触位置が完全に一致しない。したがって、干渉領域は、ポケットの内壁が傘効果の下で実際にローラーと干渉する位置のセットである必要があり、これらの位置は、ポケットの開口側内壁下縁部の位置の近くに比較的集中している。
【0011】
ポケット内壁の半径方向内縁とローラーとの間の干渉の悪影響を排除するために、本発明の設計は、トロイダル面ポケットケージを使用する。トロイダル面は、幾何学的な概念であり、具体的には、平面上の円を円周上の弦を中心に1回転させて得られる空間の曲面である。図3aおよび図3bは、トロイダル面の形成のメカニズムを示す幾何学的概略図である。図からわかるように、形成されたトロイダル面は2つの部分に分割できる。1つは、弦Lを中心とする半円より短い弧長の短弧a1の回転によって形成され、ラグビーボールに似た形状である。他の部分は、弦Lを中心とする半円よりも大きい弧長の主弧a2の回転によって形成され、カボチャに似た形状をしている。本発明のトロイダル面ポケットは、前者の形状のトロイダル面を使用している。トロイダル面を形成する円が本発明において「断面円」として定義され、弦Lは、本発明において「回転軸」として定義される。
【0012】
図4は、本発明のトロイダル面ポケットケージを半径方向から見た三次元斜視図である。図5図7は、本発明のケージの径方向の断面図、およびそのそれぞれの部分拡大図である。トロイダル面ポケットと球面ポケットの違いを示すために、ローラー、球面ポケット、トロイダル面ポケットのそれぞれの(仮想)プロファイルまたは表面Pw、Ps、Ptを図6および図7に同時に表示する。図から、トロイダル面ポケットの表面プロファイルPtは、球面ポケット表面プロファイルPsよりも大きい半径の断面円Sを回転軸Lの周りに回転させることによって形成されていることがわかる。回転軸Lは、ポケットの幾何学的中心c1(図ではローラーのボール中心と一致するように示されている)を半径方向に通過するが、断面円の円中心c2を通過していない。図7からもわかるように、トロイダル面ポケットの表面プロファイルPtと、バックボーン側の径方向内縁28のローラー表面Pwの間の距離d1は、従来の球面ポケットの表面プロファイルPsと同じ位置のローラー表面Pwとの間の距離d2よりも大きい。
【0013】
ローラーの周りのポケット内壁の他の径方向内縁位置にも同じ状況が存在する。図8図10は、軸方向から見たトロイダル面ポケットの断面図および部分拡大図である。断面は、すべてのポケットの幾何学的中心によって共同で決定されている。ポケットの径方向内縁とローラー表面の距離d1が、従来の球面ポケットとローラーの間隙d2よりもはるかに大きいことが図からわかる。図11および図12は、図4のF-Fのケージの断面図および部分拡大図である。同様に、ローラー表面とその開口側径方向内縁におけるトロイダル面ポケットとの間の距離は、従来の球面ポケットとローラーとの間の距離よりもはるかに大きいことがわかる(図にはマークされていない)。
【0014】
図4図12は、異なる角度および位置から、ポケットの内壁、少なくとも径方向内縁がどのようにローラー表面からの離隔を達成する拡張構造を形成するかを示しており、それによってそれ自体とローラー表面との間の間隙を増加させ、間隙は、少なくとも従来の球面ポケットとローラーの間の距離よりも大きくなる。傘効果が発生すると、ポケットの内壁下縁部が半径方向上方に移動し、ローラーの表面に近付き、さらに、ポケットの開口側に近付くと、近くに押す効果がより顕著になる(不図示)と想像するのは難しくないだろう。トロイダル面のポケットは、球面ポケットに比べて全体的に外側に広がる形状であり、ローラー面との距離がどんどん大きくなるように設計されているため、傘効果が発生すると、その径方向内縁が従来の球面ポケットに比べ、ローラー表面に接触しにくい。このように、トロイダル面設計のポケットは、傘効果のもとで従来の球面ポケットとローラーとの間に発生する干渉の問題、およびそこから生じるさまざまな悪影響を効果的に回避できる。
【0015】
図6および図9からもわかるように、トロイダル面ポケットを形成する断面円Sが大きいほど、ポケットの径方向内縁とローラーとの間の間隙d1が大きくなり、傘効果によって引き起こされる干渉の問題が起こりにくくなる。それにもかかわらず、トロイダル面のポケットを形成する断面の円が大きいほど良いとは限らない。これは、断面円の直径が大きくなるにつれて、トロイダル面ポケットとローラーの形状の嵌合度合いが徐々に小さくなり、潤滑効果が損なわれやすくなり、振動騒音が増加するからである。したがって、トロイダル面ポケットを形成する断面円は、適切な範囲を持つ必要がある。この範囲であれば、断面円が大きすぎてポケットとローラーのはめあいを損なうことなく、傘効果に起因する数多くの問題を効果的に克服できる。
【0016】
実験により、トロイダル面ポケットを形成する断面円の半径Rs(図6および図9を参照)は、ローラー半径Rwの1.08~10倍の範囲内である必要があることが示されている。好ましい実施形態では、断面円の半径Rsは、ローラー半径Rwの1.15~5倍の範囲内である必要がある。さらに好ましい実施形態では、断面円の半径Rsは、ローラー半径Rwの1.25~1.6倍の範囲内である必要がある。上記のサイズ範囲のトロイダル面ポケットは、傘効果の異なる程度に対応でき、放熱性も良く、特に中高速回転のローラーベアリングに適している。
【0017】
上述のケージポケットの内面は、全体的にトロイダル面の設計を採用しており、その核となる考えは、従来の球面ポケットに比べてポケットの径方向内縁をローラー面から遠ざけることである。それによって傘効果が引き起しうる干渉の問題を克服する。トロイダル面のポケットが全体的に使用されている実施形態に限定されることなく、他の異なる技術的解決策が同じアイデアから導き出される可能性があることを理解することは難しくないだろう。例えば、径方向内縁近くに局部的に外方に広がる形の構造を形成するように、球面やトロイダル面をはじめ、様々な形状のポケットを局部的に修正することで、ローラー表面から局所的に離れるという技術的効果をいずれの場合にも達成することができる。まとめると、ポケット曲面の形状は、径方向内縁に近い領域がポケット曲面の他の部分よりもローラー面から離れていれば、本発明の目的を達成することができる。
【0018】
具体的には、曲面のこの部分がポケット面の他の部分よりもローラー面から離れており、面の他の部分の効果的な連続を形成する限り、ポケットの径方向内縁は、円錐面、トロイダル面、または拡大形状の球面、または他の任意の形状の曲面を特徴とする設計を局所的に採用することができる。球面形状を例にとると、ポケットは、曲率半径が大きい球面ポケットの下縁部を備え、曲率半径が小さい残りのポケット曲面の前方連続を形成し(断面は通常2つの内部接線円として示される)、任意の曲率半径を有し、ポケット曲面の残りの部分の逆の連続を形成する球面ポケットの下縁部をさらに備える(断面は通常2つの外部接線円として示される)。上記の方法は、ポケットの径方向内縁が局所的に外側に拡張する形状を形成するだけでなく、異なる曲面間のスムーズな移行も実現し、特に応力集中の排除に役立ち、それにより材料の摩耗を防ぐ。
【0019】
当業者は、上述の本発明の様々な技術的特徴が、特定の実施形態に限定されることなく、独立して実施され得るか、または組み合わせて使用され得ることを理解するはずである。上述のケージおよびケージを使用するローラーベアリングの変更または改良は、添付の請求項の定義に準拠している限り、本発明の保護範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0020】
1 一方向スナップインベアリングケージ
10 バックボーン
20 垂下部
21 球状ローラー
22 ポケット
28 径方向内縁
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12