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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】印刷インキ組成物、積層体及び包装材
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/10 20140101AFI20250106BHJP
【FI】
C09D11/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024050199
(22)【出願日】2024-03-26
【審査請求日】2024-04-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100209347
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】水間 友磨
(72)【発明者】
【氏名】冨山 亮太
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-087626(JP,A)
【文献】特開2023-087437(JP,A)
【文献】特開2022-166508(JP,A)
【文献】特開2024-006199(JP,A)
【文献】特開2017-171910(JP,A)
【文献】特開2020-175539(JP,A)
【文献】特開2019-123782(JP,A)
【文献】国際公開第2019/082801(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂(A)と、ウレタン樹脂ビーズ(B)と、有機溶剤(C)と、を含有する印刷インキ組成物(ただし、水性インキ組成物を除く)であって、
前記バインダー樹脂(A)が、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体及び(メタ)アクリル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも2種を含有し、
前記ウレタン樹脂ビーズ(B)の平均粒子径が1.5~16μm、ガラス転移温度が-20~25℃であり、
前記ウレタン樹脂ビーズ(B)の質量/前記バインダー樹脂(A)の固形分換算での質量で表される比が0.1~1.5であり、
前記バインダー樹脂(A)の固形分換算での含有量が、前記印刷インキ組成物の固形分に対して20~58質量%である印刷インキ組成物。
【請求項2】
前記バインダー樹脂(A)の固形分換算での含有量が、前記印刷インキ組成物の総質量に対して5~30質量%である請求項1に記載の印刷インキ組成物。
【請求項3】
プラスチックフィルム上に前記印刷インキ組成物を用いて印刷層を形成した印刷物の印刷面同士の静摩擦係数が、1.0以上である請求項1に記載の印刷インキ組成物。
【請求項4】
さらに炭化水素ワックスを含有する請求項1に記載の印刷インキ組成物。
【請求項5】
さらにシリカを含有し、前記シリカの含有量が、前記印刷インキ組成物の固形分に対して1~10質量%である請求項1に記載の印刷インキ組成物。
【請求項6】
さらに脂肪酸アマイドを含有し、前記脂肪酸アマイドの含有量が、前記印刷インキ組成物の固形分に対して0.5~5質量%である請求項1に記載の印刷インキ組成物。
【請求項7】
さらにテルペン系樹脂を含有し、前記テルペン系樹脂の含有量が、前記印刷インキ組成物の固形分に対して0.5~10質量%である請求項1に記載の印刷インキ組成物。
【請求項8】
さらに硬化剤を含有する請求項1に記載の印刷インキ組成物。
【請求項9】
前記有機溶剤(C)が、エステル系溶剤、ケトン系溶剤及びアルコール系溶剤からなる群より選ばれる少なくとも2種を含有する請求項1に記載の印刷インキ組成物。
【請求項10】
グラビア印刷用である請求項1に記載の印刷インキ組成物。
【請求項11】
プラスチックフィルムと、
前記プラスチックフィルム上に設けられた、請求項1~10のいずれか1項に記載の印刷インキ組成物から形成された印刷層と、
を備える積層体。
【請求項12】
請求項11に記載の積層体を備える包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷インキ組成物、積層体及び包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルム等の基材を用いて包装材を製造する場合、基材の装飾や必要物性の担保のために、グラビアインキ等の印刷インキによる印刷が施される。
包装材に用いられる印刷インキには、基材に対する密着性、耐ブロッキング性、耐熱性、耐摩擦性といった諸物性に優れる印刷層を形成できることが求められる。また、近年、商品陳列時の荷崩れ防止や、輸送時の作業性向上、消費者が商品を手に取った時の滑り止め効果などのため、ノンスリップ性を有する印刷インキが要望されている。
【0003】
特許文献1には、インキ組成物に特定のバインダー樹脂と針入度が7以上の炭化水素ワックスとを含有させることで、形成される印刷層の防滑性を高められることが報告されている。また、特許文献1では、インキ組成物にさらに樹脂ビーズを含有させることで、版調転移をより良好にできることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-166508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のインキ組成物から形成される印刷層は必ずしも、ノンスリップ性、耐ブロッキング性及び耐熱性に優れたものではない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ノンスリップ性、耐ブロッキング性及び耐熱性に優れた印刷層を形成できる印刷インキ組成物、これを用いた積層体及び包装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]バインダー樹脂(A)と、ウレタン樹脂ビーズ(B)と、有機溶剤(C)と、を含有する印刷インキ組成物であって、
前記バインダー樹脂(A)が、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体及び(メタ)アクリル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも2種を含有し、
前記ウレタン樹脂ビーズ(B)の平均粒子径が1.5~16μm、ガラス転移温度が-20~25℃であり、
前記ウレタン樹脂ビーズ(B)の質量/前記バインダー樹脂(A)の固形分換算での質量で表される比が0.1~1.5である印刷インキ組成物。
[2]前記バインダー樹脂(A)の固形分換算での含有量が、前記印刷インキ組成物の総質量に対して5~30質量%である前記[1]に記載の印刷インキ組成物。
[3]プラスチックフィルム上に前記印刷インキ組成物を用いて印刷層を形成した印刷物の印刷面同士の静摩擦係数が、1.0以上である前記[1]又は[2]に記載の印刷インキ組成物。
[4]さらに炭化水素ワックスを含有する前記[1]~[3]のいずれかに記載の印刷インキ組成物。
[5]さらにシリカを含有する前記[1]~[4]のいずれかに記載の印刷インキ組成物。
[6]さらに脂肪酸アマイドを含有する前記[1]~[5]のいずれかに記載の印刷インキ組成物。
[7]さらにテルペン系樹脂を含有する前記[1]~[6]のいずれかに記載の印刷インキ組成物。
[8]さらに硬化剤を含有する前記[1]~[7]のいずれかに記載の印刷インキ組成物。
[9]前記有機溶剤(C)が、エステル系溶剤、ケトン系溶剤及びアルコール系溶剤からなる群より選ばれる少なくとも2種を含有する前記[1]~[8]のいずれかに記載の印刷インキ組成物。
[10]グラビア印刷用である前記[1]~[9]のいずれかに記載の印刷インキ組成物。
[11]プラスチックフィルムと、
前記プラスチックフィルム上に設けられた、前記[1]~[10]のいずれかに記載の印刷インキ組成物から形成された印刷層と、
を備える積層体。
[12]前記[11]に記載の積層体を備える包装材。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ノンスリップ性、耐ブロッキング性及び耐熱性に優れた印刷層を形成できる印刷インキ組成物、これを用いた積層体及び包装材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの実施形態にのみ限定することは意図されない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な態様で実施することが可能である。
本明細書中でのバインダー樹脂の含有量は、すべて固形分換算である。
「固形分」は、不揮発分である。「不揮発分」は、有機溶剤等の揮発する媒体を除いた成分を指し、最終的に印刷層(インキ層)を形成することになる成分である。不揮発分は具体的には、JIS K 5601-1-2:2008に準拠して測定される。
本明細書において、「印刷層」とは、印刷インキ組成物により形成される層を意味する。
本明細書において、「印刷塗膜」とは、印刷層からウレタン樹脂ビーズ(B)を除いた部分を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び「メタクリル」の両方が含まれることを意味する。
【0009】
〔印刷インキ組成物〕
本発明の一実施形態に係る印刷インキ組成物(以下、単に「インキ組成物」ともいう。)は、バインダー樹脂(A)と、ウレタン樹脂ビーズ(B)と、有機溶剤(C)と、を含有する。
インキ組成物は、必要に応じて、バインダー樹脂(A)、ウレタン樹脂ビーズ(B)及び有機溶剤(C)以外の成分(以下、「任意成分」ともいう。)をさらに含有してもよい。
【0010】
<バインダー樹脂(A)>
バインダー樹脂(A)は、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体及び(メタ)アクリル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも2種のバインダー樹脂を含有する。各樹脂については後で詳しく説明する。
【0011】
ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体及び(メタ)アクリル系樹脂のうち少なくとも2種のバインダー樹脂を組み合わせることで、各種塗膜物性のバランスに優れた印刷塗膜を形成できる。
少なくとも2種のバインダー樹脂の組み合わせとしては、ポリウレタン樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との組み合わせ、又は(メタ)アクリル系樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との組み合わせが好ましい。
【0012】
バインダー樹脂(A)の含有量(固形分換算)は、インキ組成物の総質量に対しては、5~30質量%が好ましく、6~27質量%がより好ましく、7~25質量%が特に好ましい。バインダー樹脂(A)の含有量(固形分換算)は、インキ組成物の固形分に対しては、20~58質量%が好ましく、22~56質量%がより好ましく、25~54質量%が特に好ましい。バインダー樹脂(A)の含有量が上記下限値以上であると、基材に対する密着性、インク組成物の印刷適性がより優れる。バインダー樹脂(A)の含有量が上記上限値以下であると、耐ブロッキング性がより優れる。
【0013】
ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体及び(メタ)アクリル系樹脂の合計の含有量(固形分換算)は、バインダー樹脂(A)の総質量(固形分換算)に対し、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が特に好ましい。上限は特に限定されず、100質量%であってもよい。
【0014】
バインダー樹脂(A)がポリウレタン樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体とを含有する場合、ポリウレタン樹脂の質量(固形分換算)/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の質量(固形分換算)で表される比(以下、「ポリウレタン樹脂/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体比」とも記す。)は、0.5~8が好ましく、1~7がより好ましく、1.5~6が特に好ましい。ポリウレタン樹脂/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体比が上記下限値以上であると、基材に対する密着性がより優れる。ポリウレタン樹脂/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体比が上記上限値以下であると、耐ブロッキング性、耐熱性がより優れる。
【0015】
バインダー樹脂(A)が(メタ)アクリル系樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体とを含有する場合、(メタ)アクリル系樹脂の質量(固形分換算)/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の質量(固形分換算)で表される比(以下、「(メタ)アクリル系樹脂/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体比」とも記す。)は、0.5~8が好ましく、1~7がより好ましく、1.5~6が特に好ましい。(メタ)アクリル系樹脂/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体比が上記下限値以上であると、基材に対する密着性がより優れる。(メタ)アクリル系樹脂/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体比が上記上限値以下であると、耐ブロッキング性がより優れる。
【0016】
(ポリウレタン樹脂)
バインダー樹脂(A)におけるポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる、有機溶剤に可溶な熱可塑性のポリウレタン樹脂が挙げられる。ポリウレタン樹脂は、公知の方法によって製造することができる。例えば、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させ、必要に応じて、それらの反応物(ウレタンプレポリマー)に鎖伸長剤及び反応停止剤を反応させることでポリウレタン樹脂が得られる。
【0017】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4-ジフェニルエーテルジイソシアネート、2-ニトロジフェニル-4,4-ジイソシアネート、2,2-ジフェニルプロパン-4,4-ジイソシアネート、3,3-ジメチルジフェニルメタン-4,4-ジイソシアネート、4,4-ジフェニルプロパンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ナフチレン-1,4-ジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、及び3,3-ジメトキシジフェニル-4,4-ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;並びにイソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、水添化トリレンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、及び水添化ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等を挙げることができる。ポリウレタン樹脂には、ポリイソシアネート化合物の1種が単独で用いられていてもよく、2種以上の組み合わせが用いられていてもよい。
【0018】
ポリオール化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオール等を挙げることができる。ポリウレタン樹脂には、ポリオール化合物の1種が単独で用いられていてもよく、2種以上の組み合わせが用いられていてもよい。
【0019】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、多価カルボン酸類と、多価アルコール類又は第2~3級アミン類との脱水重縮合反応で得られる、ポリエステルポリオール又はポリエステルアミドポリオールを挙げることができる。多価カルボン酸類の具体例としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロオルソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸、及びトリメリット酸等のポリカルボン酸、並びにそれらの酸エステル、及びそれらの酸無水物等を挙げることができ、これらのうちの1種以上を用いることができる。多価アルコール類の具体例としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物、トリメチロールプロパン、グリセリン、及びペンタエリスリトール等の低分子アルコール化合物;並びにモノエタノールアミン及びジエタノールアミン等の低分子アミノアルコール化合物等を挙げることができ、これらのうちの1種以上を用いることができる。第2~3級アミン類の具体例としては、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、及びイソホロンジアミン等の低分子アミン化合物等を挙げることができ、これらのうちの1種以上を用いることができる。
また、ポリエステルポリオールとしては、例えば、低分子アルコール化合物及び低分子アミノアルコール化合物等を開始剤として、ε-カプロラクトン及びγ-バレロラクトン等の環状エステル(ラクトン)モノマーを開環重合して得られるラクトン系ポリエステルポリオールを挙げることができる。
【0020】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、低分子アルコール化合物とホスゲンとの脱塩酸反応で得られるもの;低分子アルコール化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応で得られるもの;を挙げることができる。低分子アルコール化合物としては、ポリエステルポリオールの合成に用いられるものと同様のものを挙げることができる。炭酸ジエステルとしては、例えば、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びジフェニルカーボネート等を挙げることができる。
【0021】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、低分子アルコール化合物、低分子アミン化合物、低分子アミノアルコール化合物及びフェノール類からなる群から選ばれる少なくとも1種を開始剤として、環状エーテル(例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン等のアルキレンオキシド)を開環重合させたもの(例えば、ポリオキシエチレンポリオール、ポリオキシプロピレンポリオール、ポリテトラメチレンエーテルポリオール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール等)を挙げることができる。低分子アルコール化合物、低分子アミン化合物、低分子アミノアルコール化合物としては、ポリエステルポリオールの合成に用いられるものと同様のものを挙げることができる。さらに、前述のポリエステルポリオールやポリカーボネートポリオールを開始剤とするポリエステルエーテルポリオールを挙げることができる。
【0022】
鎖伸長剤としては、分子内にイソシアネート基と反応可能な官能基(アミノ基、水酸基等)を2以上有する化合物を用いることができる。鎖伸長剤としては、例えば、エチレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,4-ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、及び2-エチルアミノエチルアミン等のジアミン化合物;ジエチレントリアミン、及びトリエチレンテトラミン等のポリアミン化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、及びトリエチレングリコール等の低分子ジオール化合物;アミノエチルエタノールアミン、並びにアミノプロピルエタノールアミン等を挙げることができる。ポリウレタン樹脂には、鎖伸長剤の1種が単独で用いられていてもよく、2種以上の組み合わせが用いられていてもよい。
【0023】
反応停止剤としては、例えば、n-プロピルアミン及びn-ブチルアミン等のモノアルキルアミン;ジ-n-ブチルアミン等のジアルキルアミン;モノエタノールアミン及びジエタノールアミン等のアルカノールアミン;並びにメタノール及びエタノール等のモノアルコール等を挙げることができる。ポリウレタン樹脂には、反応停止剤の1種が単独で用いられていてもよく、2種以上の組み合わせが用いられていてもよい。
【0024】
ポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、-70~0℃が好ましく、-60~-10℃がより好ましく、-50~-20℃が特に好ましい。ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が上記下限値以上であると、耐ブロッキング性、耐熱性がより優れる。ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が上記上限値以下であると、基材に対する密着性がより優れる。
本明細書において、ガラス転移温度は、JIS K 7121に準拠し、示差走査熱量計を用い、試料10mgを-100℃から160℃まで、20℃/分の条件で昇温させて得られる曲線(DSC曲線)におけるベースラインと吸熱カーブの接線との交点から求められる。
【0025】
ポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、10000~100000が好ましく、15000~90000がより好ましく、20000~80000が特に好ましい。ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が上記下限値以上であると、耐ブロッキング性、耐熱性がより優れる。ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が上記上限値以下であると、基材に対する密着性がより優れる。
本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求められる標準ポリスチレン換算の値をとる。
【0026】
ポリウレタン樹脂の水酸基価は、50mgKOH/g以下が好ましく、30mgKOH/g以下がより好ましく、20mgKOH/g以下が特に好ましい。ポリウレタン樹脂の水酸基価が上記上限値以下であると、耐ブロッキング性、インキ組成物の安定性がより優れる。
本明細書において、水酸基価は、JIS K 1557-1に準拠して測定される値である。
【0027】
ポリウレタン樹脂のアミン価は、10mgKOH/g以下が好ましく、5mgKOH/g以下がより好ましく、3mgKOH/g以下が特に好ましい。ポリウレタン樹脂のアミン価が上記上限値以下であると、印刷適性がより優れる。
本明細書において、アミン価は、JIS K 7237に準拠して、塩酸を用いた中和滴定にて測定される値である。
【0028】
ポリウレタン樹脂の温度100℃、周波数11Hzにおける貯蔵弾性率(E’;動的貯蔵弾性率)は、20以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下が特に好ましい。ポリウレタン樹脂の貯蔵弾性率が上記上限値以下であると、基材に対する密着性がより優れる。
本明細書において、貯蔵弾性率は、試料の乾燥膜(フィルム状試料)について、動的粘弾性測定装置を用いて、温度100℃及び周波数11Hzの条件で動的粘弾性を測定して得られる値である。
【0029】
(塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体)
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体は、塩化ビニルと酢酸ビニルとを含む重合性単量体が重合した重合体であり、塩化ビニル単位と酢酸ビニル単位とを含む。
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体は必要に応じて、塩化ビニル単位及び酢酸ビニル単位以外の重合性単量体(他の重合性単量体)単位を含んでいてもよい。他の重合性単量体は、塩化ビニル及び酢酸ビニルと共重合可能であれば特に限定されない。
【0030】
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体としては、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル共重合体、及び塩化ビニル-酢酸ビニル-不飽和ジカルボン酸共重合体等を挙げることができる。これらの中でも、塩化ビニル-酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合体が好ましい。塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
塩化ビニル単位の含有量は、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の総質量に対して50~98質量%が好ましく、70~98質量%がより好ましく、80~95質量%が特に好ましい。塩化ビニル単位の含有量が上記下限値以上であると、耐ブロッキング性がより優れる。塩化ビニル単位の含有量が上記上限値以下であると、基材に対する密着性、耐もみ性がより優れる。
【0032】
酢酸ビニル単位の含有量は、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の総質量に対して0.1~20質量%が好ましく、0.3~10質量%がより好ましく、0.5~5質量%が特に好ましい。酢酸ビニル単位の含有量が上記下限値以上であると、基材に対する密着性、耐もみ性がより優れる。酢酸ビニル単位の含有量が上記上限値以下であると、耐ブロッキング性がより優れる。
【0033】
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体のガラス転移温度は、40~110℃が好ましく、50~100℃がより好ましく、60~90℃が特に好ましい。塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体のガラス転移温度が上記下限値以上であると、耐ブロッキング性、耐熱性がより優れる。塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体のガラス転移温度が上記上限値以下であると、基材に対する密着性がより優れる。
【0034】
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の数平均分子量は、10000~100000が好ましく、15000~80000がより好ましく、20000~50000が特に好ましい。塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の数平均分子量が上記下限値以上であると、耐ブロッキング性、耐熱性がより優れる。塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の数平均分子量が上記上限値以下であると、基材に対する密着性がより優れる。
本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求められる標準ポリスチレン換算の値をとる。
【0035】
((メタ)アクリル系樹脂)
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルを含む重合性単量体が重合した重合体であり、(メタ)アクリル酸エステル単位を含む。
(メタ)アクリル系樹脂は必要に応じて、(メタ)アクリル酸エステル単位以外の重合性単量体(他の重合性単量体)単位を含んでいてもよい。他の重合性単量体は、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能であれば特に限定されない。
(メタ)アクリル系樹脂は変性されていてもよい。
【0036】
(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体;複数種の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体;(メタ)アクリル酸エステル、及び(メタ)アクリル酸エステルと他の単量体との共重合体;ウレタン変性(メタ)アクリル系樹脂;並びにシリコーン変性(メタ)アクリル系樹脂等を挙げることができる。(メタ)アクリル系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、及び(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル及び(メタ)アクリル酸ナフチル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等を挙げることができるが、これらに限られない。上記の(メタ)アクリル酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
他の重合性単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、及びそれらの誘導体等のスチレン系単量体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びクロトン酸等の不飽和カルボン酸系単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、及びメタクリロニトリル等を挙げることができるが、これらに限られない。上記の他の重合性単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
(メタ)アクリル系樹脂は、水酸基を有することが好ましく、(メタ)アクリルポリオールであることが好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂の水酸基価は、1~130mgKOH/gが好ましく、10~120mgKOH/gがより好ましく、50~110mgKOH/gが特に好ましい。(メタ)アクリル系樹脂の水酸基価が上記下限値以上であると、基材に対する密着性がより優れる。(メタ)アクリル系樹脂の水酸基価が上記上限値以下であると、耐ブロッキング性、インキ組成物の安定性がより優れる。
【0040】
(メタ)アクリル系樹脂の酸価は、30mgKOH/g以下が好ましく、20mgKOH/g以下がより好ましく、10mgKOH/g以下が特に好ましい。(メタ)アクリル系樹脂の酸価が上記上限値以下であると、インキ組成物の安定性がより優れる。
本明細書において、酸価は、JIS K 1557に準拠して測定される値である。
【0041】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は、5~100℃が好ましく、10~70℃がより好ましく、15~40℃が特に好ましい。(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度が上記下限値以上であると、耐ブロッキング性、耐熱性がより優れる。(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度が上記上限値以下であると、基材に対する密着性がより優れる。
【0042】
(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10,000~300,000が好ましく、20,000~280,000がより好ましく、40,000~250,000が特に好ましい。(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)が上記下限値以上であると、耐ブロッキング性、耐熱性がより優れる。(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)が上記上限値以下であると、基材に対する密着性がより優れる。
【0043】
<ウレタン樹脂ビーズ(B)>
ウレタン樹脂ビーズ(B)は、ポリウレタン樹脂をビーズ状に成形したものである。
本実施形態においては、インキ組成物を用いて印刷層を形成したときに、印刷塗膜の表面からウレタン樹脂ビーズ(B)が露出する。露出したウレタン樹脂ビーズ(B)同士が干渉することにより、印刷物同士が滑りにくくなり、ノンスリップ性が発現する。
【0044】
ウレタン樹脂ビーズ(B)の平均粒子径は、1.5~16μmであり、2~12μmが好ましく、2.5~8μmが特に好ましい。ウレタン樹脂ビーズ(B)の平均粒子径が上記下限値以上であると、ノンスリップ性に優れる。ウレタン樹脂ビーズ(B)の平均粒子径が上記上限値以下であると、耐熱性、耐ブロッキング性、耐摩擦性、基材に対する密着性、印刷適性が優れる。
本明細書において、ウレタン樹脂ビーズ(B)の平均粒子径は、体積基準の粒度分布における積算値50%(D50)での粒子径を意味し、レーザー回析・散乱法によって求めることができる。
【0045】
ウレタン樹脂ビーズ(B)のガラス転移温度は、-20~25℃であり、-17~20℃が好ましく、-15~10℃が特に好ましい。ウレタン樹脂ビーズ(B)のガラス転移温度が上記下限値以上であると、耐熱性、耐ブロッキング性が優れる。ウレタン樹脂ビーズ(B)のガラス転移温度が上記上限値以下であると、ノンスリップ性が優れる。
【0046】
ウレタン樹脂ビーズ(B)の質量/バインダー樹脂(A)の固形分換算での質量で表される比(以下、「(B)/(A)」ともいう。)は、0.1~1.5であり、0.3~1.2が好ましく、0.5~1が特に好ましい。(B)/(A)が上記下限値以上であると、ノンスリップ性が優れる。(B)/(A)が上記上限値以下であると、耐熱性、印刷適性が優れる。
【0047】
<有機溶剤(C)>
有機溶剤(C)としては、ウレタン樹脂ビーズ(B)を溶解しないものであればよく、公知の有機溶剤のなかから適宜選択することができる。例えば、ケトン系溶剤、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、及びアルコール系溶剤等を挙げることができ、それらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノン等を挙げることができる。
炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;n-ヘキサン、n-ヘプタン、及びn-オクタン等の脂肪族炭化水素系溶剤;並びにシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、及びシクロオクタン等の脂環族炭化水素系溶剤等を挙げることができる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、及び酢酸イソブチル等を挙げることができる。
エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、及びメチルエチルエーテル等を挙げることができる。
グリコールエーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル等を挙げることができる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、及びn-ブタノール等の1価アルコール;並びにエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリン等の多価アルコール等を挙げることができる。
【0049】
有機溶剤(C)は、環境面から、トルエンを実質的に含有しないことが好ましく、芳香族炭化水素系溶剤を実質的に含有しないことが特に好ましい。すなわち、インク組成物は、トルエンを実質的に含有しないことが好ましく、芳香族炭化水素系溶剤を実質的に含有しないことが特に好ましい。「実質的に含有しない」とは、意図的に配合されていないことを意味する。インキ組成物はトルエン等の芳香族炭化水素系溶剤を、原料のコンタミ等によって微量に含有してもよいが、含有しないことが好ましい。
【0050】
有機溶剤(C)は、インキ組成物の安定性の点から、エステル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤及びアルコール系有機溶剤からなる群より選ばれる少なくとも2種を含有することが好ましい。
少なくとも2種の有機溶剤の組み合わせとしては、エステル系有機溶剤とアルコール系有機溶剤との組み合わせ、又はエステル系有機溶剤とケトン系有機溶剤とアルコール系有機溶剤との組み合わせが好ましい。
【0051】
有機溶剤(C)が、エステル系溶剤、ケトン系溶剤及びアルコール系溶剤からなる群より選ばれる少なくとも2種を含有する場合、エステル系有機溶剤の含有量は、有機溶剤(C)の総質量に対して、5~80質量%が好ましい。ケトン系有機溶剤の含有量は、有機溶剤(C)の総質量に対して、5~80質量%が好ましい。アルコール系有機溶剤の含有量は、有機溶剤(C)の総質量に対して、0~50質量%が好ましい。
【0052】
インキ組成物中の有機溶剤(C)の含有量は、インキ組成物の固形分の含有量を考慮して適宜設定できる。
インキ組成物の固形分の含有量は、インキ組成物の総質量に対して、例えば20~60質量%である。
【0053】
<任意成分>
任意成分としては、例えば、炭化水素ワックス、シリカ、脂肪酸アマイド、テルペン系樹脂、硬化剤、顔料、顔料誘導体、体質顔料、セルロース系樹脂、ロジン誘導体、キレート剤、塩素化ポリオレフィン、沈降防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、可塑剤、分散剤、安定剤等を挙げることができる。これらの任意成分は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
インキ組成物は、顔料を含有しない、いわゆるメヂウムであってもよい。
【0054】
(炭化水素ワックス)
耐摩擦性をさらに向上させる目的で、インキ組成物に炭化水素ワックスを含有させることができる。
炭化水素ワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、フィッシャー・トロプシュ・ワックス、パラフィンワックス、マイクロスタリンワックス、ポリプロピレンワックス等を挙げることができる。なかでも、ポリエチレンワックス及びフィッシャー・トロプシュ・ワックスが好ましい。ポリエチレンワックスとしては、高密度重合ポリエチレン、低密度重合ポリエチレン、酸化ポリエチレン、酸変性ポリエチレン、及び特殊モノマー変性ポリエチレン等を挙げることができる。フィッシャー・トロプシュ・ワックスは、一酸化炭素と水素を原料とし、フィッシャー・トロプシュ法により製造されたワックスであり、ほぼ飽和の、分枝を有しない直鎖の分子構造を有する。これらの炭化水素ワックスは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0055】
炭化水素ワックスの25℃における針入度(硬度)は、0.1~30が好ましく、0.1~28がより好ましく、0.1~25が特に好ましい。炭化水素ワックスの針入度(硬度)が上記上限値以下であると、耐摩擦性がより優れる。
本明細書において、針入度(硬度)は、JIS K 2207に準拠して測定される値である。
【0056】
炭化水素ワックスの融点は、50~160℃が好ましく、80~150℃がより好ましく、100~140℃が特に好ましい。炭化水素ワックスの融点が上記下限値以上であると、耐熱性、耐ブロッキング性がより優れる。炭化水素ワックスの融点が上記上限値以下であると、耐摩擦性がより優れる。
【0057】
インキ組成物が炭化水素ワックスを含有する場合、炭化水素ワックスの含有量は、インキ組成物の固形分に対して、0.3~10質量%が好ましく、1~8質量%がより好ましく、2~5質量%が特に好ましい。炭化水素ワックスの含有量が上記下限値以上であると、耐摩擦性がより優れる。炭化水素ワックスの含有量が上記上限値以下であると、印刷適性、耐熱性がより優れる。
【0058】
(シリカ)
マット感の付与や、耐ブロッキング性をさらに向上させる目的で、インキ組成物にシリカを含有させることができる。
シリカは、天然産及び合成品のいずれでもよい。合成品の合成法としては、乾式法及び湿式法のいずれでもよい。乾式法としては、燃焼法及びアーク法、湿式法としては、沈降法及びゲル法が知られており、いずれの方法で合成されたものでもよい。また、シリカは、結晶性及び非結晶性のいずれであってもよく、疎水性及び親水性のいずれであってもよい。これらのシリカは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0059】
シリカの平均粒子径は、0.1~10μmが好ましく、1~8μmがより好ましく、2~6μmが特に好ましい。シリカの平均粒子径が上記下限値以上であると、マット感の付与効果や、耐ブロッキング性のさらなる向上効果が得られやすい。シリカの平均粒子径が上記上限値以下であると、印刷適性がより優れる。
本明細書において、シリカの平均粒子径は、体積基準の粒度分布における積算値50%(D50)での粒子径を意味し、レーザー回析・散乱法によって求めることができる。
【0060】
インキ組成物がシリカを含有する場合、シリカの含有量は、インキ組成物の固形分に対して、1~10質量%が好ましく、1.5~8質量%がより好ましく、2~5質量%が特に好ましい。シリカの含有量が上記下限値以上であると、マット感の付与効果や、耐ブロッキング性のさらなる向上効果が得られやすい。シリカの含有量が上記上限値以下であると、インキ流動性、印刷適性がより優れる。
【0061】
(脂肪酸アマイド)
離型性、耐ブロッキング性をさらに向上させる目的で、インキ組成物に脂肪酸アマイドを含有させることができる。
脂肪酸アマイドとしては、例えば、ラウリン酸アマイド、パルチミン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、N-ステアリルステアリン酸アマイド等の飽和脂肪酸モノアマイド;N-オレイルパルチミン酸アマイド、N-ステアリルオレイン酸アマイド、N-オレイルステアリン酸アマイド等の不飽和脂肪酸モノアマイド;メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスカプリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アマイド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アマイド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アマイド、N,N’-ジステアリルセバシン酸アマイド等の飽和脂肪酸ビスアマイド;エチレンビスオレイン酸アマイド、エチレンビスエルカ酸アマイド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アマイド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アマイド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アマイド等の不飽和脂肪酸ビスアマイド等を挙げることができる。これらの脂肪酸アマイドは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0062】
インキ組成物が脂肪酸アマイドを含有する場合、脂肪酸アマイドの含有量は、インキ組成物の固形分に対して、0.5~5質量%が好ましく、0.8~4質量%がより好ましく、1~3質量%が特に好ましい。脂肪酸アマイドの含有量が上記下限値以上であると、離型性、耐ブロッキング性がより優れる。脂肪酸アマイドの含有量が上記上限値以下であると、低温でのインキ組成物の安定性がより優れる。
【0063】
(テルペン系樹脂)
基材に対する密着性をさらに向上させる目的で、インキ組成物にテルペン系樹脂を含有させることができる。
テルペン系樹脂としては、例えば、ポリテルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、及びテルペンフェノール樹脂等を挙げることができる。ポリテルペン樹脂は、テルペンモノマーに由来する構成単位を主成分とする樹脂である。芳香族変性テルペン樹脂は、ポリテルペン樹脂を芳香族モノマーで変性した樹脂である。テルペンフェノール樹脂は、テルペンモノマーとフェノールを共重合した樹脂である。これらのテルペン系樹脂は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0064】
テルペン系樹脂の軟化点は、80~200℃が好ましく、90~190℃がより好ましく、100~180℃が特に好ましい。テルペン系樹脂の軟化点が上記下限値以上であると、耐ブロッキング性、耐熱性がより優れする。テルペン系樹脂の軟化点が上記上限値以下であると、基材に対する密着性がより優れる。
本明細書において、軟化点は、JIS K 2207に準拠して測定される値である。
【0065】
テルペン系樹脂の酸価は、10~150mgKOH/gが好ましく、20~100mgKOH/gがより好ましく、30~80mgKOH/gが特に好ましい。テルペン系樹脂の酸価が上記下限値以上であると、基材に対する密着性がより優れる。テルペン系樹脂の酸価が上記上限値以下であると、インキ組成物の安定性がより優れる。
【0066】
インキ組成物がテルペン系樹脂を含有する場合、テルペン系樹脂の含有量は、インキ組成物の固形分に対して、0.5~10質量%が好ましく、1~8質量%がより好ましく、2~5質量%が特に好ましい。テルペン系樹脂の含有量が上記下限値以上であると、基材に対する密着性がより優れる。テルペン系樹脂の含有量が上記上限値以下であると、耐ブロッキング性、耐熱性がより優れる。
【0067】
(硬化剤)
基材に対する密着性、耐熱性、耐摩擦性をさらに向上させる目的で、インキ組成物に硬化剤を含有させることができる。
【0068】
硬化剤としては、イソシアネート系硬化剤が好ましい。イソシアネート系硬化剤は、1分子中にイソシアネート基を2以上有する化合物である。イソシアネート系硬化剤としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,2’-MDI、2,4’-MDI、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-TDI、m-キシリレンジイソシアネート(XDI)、及び1,4-フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(水添XDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、及び1-メチルシクロヘキサン-2,4-ジイソシアナート(水添TDI)等の脂環族ジイソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、及び2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;並びに各種ジイソシアネートのアダクト体、各種ジイソシアネートのイソシアヌレート体、HDIのビウレット体、及びHDIのアロファネート体等のイソシアネートプレポリマー;等を挙げることができる。これらのイソシアネート系硬化剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0069】
インキ組成物が硬化剤を含有する場合、硬化剤の含有量は、インキ組成物の固形分に対して、1~10質量%が好ましく、2~9質量%がより好ましく、3~8質量%が特に好ましい。硬化剤の含有量が上記下限値以上であると、基材に対する密着性、耐熱性、耐摩擦性がより優れる。硬化剤の含有量が上記上限値以下であると、耐ブロッキング性、インキ組成物の安定性がより優れる。
【0070】
<静摩擦係数>
本実施形態のインキ組成物は、プラスチックフィルム上に本実施形態のインキ組成物を用いて印刷層を形成した印刷物の印刷面同士の静摩擦係数が、1.0以上であることが好ましく、1.1以上であることがより好ましく、1.2以上であることが特に好ましい。静摩擦係数の上限は特に限定されないが、例えば2.0である。静摩擦係数が上記下限値以上であると、ノンスリップ性が求められる用途に有用である。
本明細書において、静摩擦係数は、JIS K 7125に準拠して測定される。
なお、ノンスリップ性の指標としては、静摩擦係数のほか、動摩擦係数や滑り角があるが、静摩擦係数が特に重要である。
【0071】
<製造方法>
本実施形態のインキ組成物は、例えばバインダー樹脂(A)と、ウレタン樹脂ビーズ(B)と、有機溶剤(C)と、必要に応じて任意成分と、を混合し、必要に応じて分散処理することで得られる。
各成分の混合方法は特に限定されず、種々の方法により各成分を混合することができる。
分散処理の方法としては特に制限されず、公知の分散機を用いて行うことができる。分散機としては、例えば、ペイントシェーカー、ボールミル、アトライター、サンドミル、ビーズミル、ダイノミル、ロールミル、超音波ミル、高圧衝突分散機等を挙げることができる。このとき、1種の分散機を使用して1回又は複数回分散処理してもよいし、2種以上の分散機を併用して複数回分散処理してもよい。
インキ組成物が硬化剤を含有する場合、硬化剤以外の成分を予め混合し、得られた混合物と硬化剤とを、インキ組成物を基材(プラスチックフィルム等)に塗布する直前に混合してインキ組成物とすることが好ましい。混合物と硬化剤とを混合してからインキ組成物を基材に塗布するまでの時間は、硬化剤の種類によっても異なるが、例えば6時間以内である。
【0072】
<作用効果>
以上説明した本実施形態のインキ組成物は、上述したバインダー樹脂(A)と、ウレタン樹脂ビーズ(B)と、有機溶剤(C)と、を含有し、(B)/(A)が0.1~1.5であるので、ノンスリップ性、耐ブロッキング性及び耐熱性耐摩擦性に優れた印刷層を形成できる。また、印刷層の基材に対する密着性及び耐摩擦性、インキ組成物の印刷適性にも優れる。
【0073】
<用途>
本実施形態のインキ組成物は、基材上に印刷層を形成するために用いられる。
例えば、インキ組成物を、必要に応じて有機溶剤で希釈し、基材上に塗布し、乾燥することで、印刷層を形成できる。
【0074】
基材としては、ノンスリップ性を付与できることの有用性が高い点で、プラスチックフィルムが好ましい。
プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリオレフィン(例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等)フィルム、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等)フィルム、ポリスチレン(PS)フィルム、延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、ポリアミド(NY)フィルム等を挙げることができる。これらのプラスチックフィルムは1種を単独で用いてもよく2種以上を貼り合わせて使用してもよい。
【0075】
インキ組成物の希釈に用いる有機溶剤は、インキ組成物中の有機溶剤(C)と同じものが好ましい。
インキ組成物やその希釈物の塗布方法は、公知の方法であってよく、例えばグラビア印刷、フレキソ印刷、ハケ塗り、グラビアコーター法、ダイコーター法、バーコーター法、スプレーコート法、フローコート法、ディップコート法、スピンコート法及びカーテンコート法等が挙げられる。これらのうち、グラビア印刷が好適である。
乾燥方法としては、インキ組成物中の有機溶剤(C)を除去できればよく、例えば加熱乾燥、自然乾燥が挙げられる。加熱乾燥の加熱温度は、例えば40~70℃である。
【0076】
本実施形態のインキ組成物中のウレタン樹脂ビーズ(B)の平均直径は、通常、インキ組成物を用いて形成される印刷層の印刷塗膜の厚さよりも大きい。印刷塗膜の厚さは、塗布方法によっても異なるが、例えばグラビア印刷の場合、1~3μm程度である。印刷層の厚さは、ウレタン樹脂ビーズ(B)の分、印刷塗膜の厚さよりも厚くなり、例えば2~8μmである。
本明細書において、印刷層の厚さは、株式会社ミツトヨ製、商品名「高精度デジマチックマイクロメータ MDH-25MB」を用いて10か所測定した平均値である。
印刷層は、基材の片面に設けられてもよく両面に設けられてもよい。また、印刷層は、基材の全体を覆うように設けられてもよく、基材の一部を覆うように設けられてもよい。
【0077】
プラスチックフィルム上に本実施形態のインキ組成物を用いて印刷層を形成した積層体は、例えば、包装材、特に軟包装材として用いることができる。
ここで、「軟包装」とは、柔軟性を有する材料で構成されている包装材、すなわちフレキシブルパッケージのことであり、食品や日用品等の包装に用いられる。
積層体が包装材である場合、プラスチックフィルムにノンスリップ性を付与することの有用性の観点から、包装材の表面に、本実施形態のインキ組成物から形成された印刷層が位置することが好ましい。ここで、包装材の表面は、包装材で被包装物を包装して包装体としたときに、被包装物と接する面(裏面)と反対側の面である。
【実施例
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。実施例14~15は参考例である。
【0079】
〔使用原料〕
原料として以下のものを用いた。
<バインダー樹脂(A)>
・A1-1:ポリウレタン樹脂(サンノプコ株式会社製、商品名「サンプレンIB」、ガラス転移温度:-38℃、水酸基価:4.2mgKOH/g)。
・A1-2:ポリウレタン樹脂(サンノプコ株式会社製、商品名「サンプレンIB」、ガラス転移温度:-45℃、水酸基価:11.1mgKOH/g)。
・A2-1:(メタ)アクリル系樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名「ダイヤナールAL」、ガラス転移温度:25℃、水酸基価:100mgKOH/g)。
・A3-1:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(日信化学工業株式会社。商品名「ソルバイン」、ガラス転移温度:78℃)。
・A3-2:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(日信化学工業株式会社。商品名「ソルバイン」、ガラス転移温度:76℃)。
【0080】
<樹脂ビーズ(B)>
・B-1:ウレタン樹脂ビーズ(根上工業株式会社製、商品名「アートパールC-1000T」、平均粒子径:3μm、ガラス転移温度:-13℃)。
・B-2:ウレタン樹脂ビーズ(根上工業株式会社製、商品名「アートパールC-800T」、平均粒子径:6μm、ガラス転移温度:-13℃)。
・B-3:ウレタン樹脂ビーズ(根上工業株式会社製、商品名「アートパールC-400T」、平均粒子径:15μm、ガラス転移温度:-13℃)。
・B-4:ウレタン樹脂ビーズ(根上工業株式会社製、商品名「アートパールMM-120T」、平均粒子径:2μm、ガラス転移温度:22℃)。
・B-5:ウレタン樹脂ビーズ(根上工業株式会社製、商品名「アートパールMM-110SMA」、平均粒子径:1μm)。
・B-6:ウレタン樹脂ビーズ(根上工業株式会社製、商品名「アートパールC-300T」、平均粒子径:22μm、ガラス転移温度:-13℃)。
・B-7:ウレタン樹脂ビーズ(根上工業株式会社製、商品名「アートパールP-800T」、平均粒子径:6μm、ガラス転移温度:-34℃)。
・B-8:ウレタン樹脂ビーズ(根上工業株式会社製、商品名「アートパールCE-800T」、平均粒子径:6μm、ガラス転移温度:34℃)。
・B-9:架橋メタクリル酸メチル樹脂ビーズ(積水化成品工業株式会社製、商品名「テクポリマーMBX―5」、平均粒子径:5μm)。
・B-10:ベンゾクアナミン・ホルムアルデヒド縮合物樹脂ビーズ(株式会社日本触媒製、商品名「エポスターM05」、平均粒子径:5μm)。
【0081】
<有機溶剤(C)>
・C-1:酢酸エチル:メチルエチルケトン:イソプロパノール=2:2:1(質量比)の混合溶剤。
・C-2:酢酸エチル:イソプロパノール=4:1(質量比)の混合溶剤。
【0082】
<任意成分>
・炭化水素ワックス:三井化学株式会社製、商品名「ハイワックス220P」、針入度:13、融点:110℃。
・シリカ:東ソー・シリカ株式会社製、商品名「ニップシールE-220」、平均粒子径:4.9μm。
・脂肪酸アマイド:日油株式会社製、商品名「アルフローS-10」。
・テルペン系樹脂:荒川化学工業株式会社製、商品名「タマノル803L」、軟化点:150℃、酸価:50mgKOH/g。
・硬化剤:ポリイソシアネート(三井化学株式会社製、商品名「タケネートD-160N」)。
・体質顔料:炭酸カルシウム(白石工業株式会社製、商品名「Homocal-D」)。
【0083】
〔実施例1~16、比較例1~11〕
<インキ組成物の調製>
表1~5に示す組成にしたがって、バインダー樹脂(A)、樹脂ビーズ(B)、有機溶剤(C)、任意成分(硬化剤を除く)を混合した後、得られた混合物をペイントシェーカーで練肉し、さらに硬化剤を混合して、インキ組成物を得た。硬化剤は、次の印刷物の作製において希釈する直前に混合した。
表1~5中、有機溶剤(C)以外の成分の含有量は固形分換算である。空欄はその成分が配合されていないことを示す。
【0084】
<印刷物の作製>
基材として、片面がコロナ放電処理されたPETフィルム(東洋紡株式会社製、商品名「E5102」、厚さ:25μm)を用意した。
調製したインキ組成物を、ザーンカップ#3を用いて測定される25℃における粘度が17秒となるように、インキ組成物に配合した有機溶剤(C)と同じものを用いて希釈した。希釈したインキ組成物を、網175線/inch(33μm)グラビア彫刻版を備えたグラビア印刷機(松尾産業株式会社製、商品名「Kプリンティングプルーファー」)を使用し、基材のコロナ放電処理面に塗布し、80℃で10秒間熱風乾燥して印刷層(厚さ:2~8μm)を形成し、印刷物(積層体)を得た。その後、40℃で48時間エージングを行った。
【0085】
<摩擦係数の評価>
エージング後の印刷物の印刷面同士を重ね合わせ、JIS K 7125に準拠して、200g荷重、100mm/分の条件にて印刷物同士を滑らせることにより、静摩擦係数及び動摩擦係数の測定を行った。
静摩擦係数の好ましい値は上述のとおりである。動摩擦係数は、0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましい。
【0086】
<滑り角の評価>
エージング後の印刷物の印刷面同士を重ね合わせ、摩擦測定機(株式会社東洋精機社製、製品名「摩擦測定機AN」)を使用し、JIS P 8147:2010「8 傾斜法」に準拠して、滑り角の測定を行った。
滑り角は、30°以上が好ましく、35°以上がより好ましい。
【0087】
<基材に対する密着性の評価>
エージング後の印刷物の印刷面に、セロハンテープ(ニチバン株式会社製)を貼り付けた後、このセロハンテープを速やかに剥がし、基材上に残った印刷層の状態を目視にて確認し、以下に示す評価基準にしたがって基材に対する密着性を評価した。
5:印刷層の総面積に対して、剥離した印刷層の面積の割合が0%以上、5%未満である。
4:印刷層の総面積に対して、剥離した印刷層の面積の割合が5%以上、20%未満である。
3:印刷層の総面積に対して、剥離した印刷層の面積の割合が20%以上、50%未満である。
2:印刷層の総面積に対して、剥離した印刷層の面積の割合が50%以上、80%未満である。
1:印刷層の総面積に対して、剥離した印刷層の面積の割合が80%以上、100%以下である。
【0088】
<耐ブロッキング性の評価>
作製直後(エージング前)の印刷物の印刷面と、同じ印刷物の非印刷面とを重ね合わせて4kg/cmの荷重をかけ、40℃の恒温機内で24時間保管した。その後、印刷面と非印刷面とを剥離し、非印刷面への印刷層の付着(インキ取られ)の状態を目視にて確認し、以下に示す評価基準にしたがって耐ブロッキング性を評価した。
5:非印刷面へのインキ取られが、印刷層の総面積に対して、0%以上、10%未満である。
4:非印刷面へのインキ取られが、印刷層の総面積に対して、10%以上、20%未満である。
3:非印刷面へのインキ取られが、印刷層の総面積に対して、20%以上、50%未満である。
2:非印刷面へのインキ取られが、印刷層の総面積に対して、50%以上、80%未満である。
1:非印刷面へのインキ取られが、印刷層の総面積に対して、80%以上、100%以下である。
【0089】
<耐熱性の評価>
エージング後の印刷物の印刷面と、軟質のアルミニウム箔とを重ね合わせ、アルミニウム箔上からヒートシールテスター(テスター産業株式会社製、製品名「TP-701-C ヒートシールテスター」)を用いて、140~180℃、2kg/cmの条件で1秒間加熱した。その後、印刷面とアルミニウム箔とを剥離し、アルミニウム箔へのインキ取られの状態を目視にて確認し、以下に示す評価基準にしたがって耐熱性を評価した。
5:180℃で加熱してもインキ取られがなかった。
4:170℃まで加熱してもインキ取られがなかったが、180℃で加熱するとインキ取られがあった。
3:160℃まで加熱してもインキ取られがなかったが、170℃で加熱するとインキ取られがあった。
2:150℃まで加熱してもインキ取られがなかったが、160℃で加熱するとインキ取られがあった。
1:150℃未満の加熱でインキ取られがあった。
【0090】
<耐摩擦性の評価>
エージング後の印刷物の印刷面を、学振型摩擦堅牢度試験機(テスター産業株式会社製、製品名「AB-301」)を用いて、200gfの荷重をかけた黒布(綿3-1号:金巾3号)で100往復擦る摩擦試験を行った。その後、印刷層の外観を目視にて確認し、以下に示す評価基準にしたがって耐摩擦性を評価した。
5:黒布(金巾3号)側に移行した印刷層の面積の割合が、0%以上、10%未満である。
4:黒布(金巾3号)側に移行した印刷層の面積の割合が、10%以上、20%未満である。
3:黒布(金巾3号)側に移行した印刷層の面積の割合が、20%以上、50%未満である。
2:黒布(金巾3号)側に移行した印刷層の面積の割合が、50%以上、80%未満である。
1:黒布(金巾3号)側に移行した印刷層の面積の割合が、80%以上、100%以下である。
【0091】
<印刷適性の評価>
調製したインキ組成物を、ザーンカップ#3を用いて測定される25℃における粘度が17秒となるように、インキ組成物に配合した有機溶剤(C)と同じものを用いて希釈した。希釈したインキ組成物を、市販品のスチール製ドクターブレードと、非画線部のみの版とを備えた5色グラビア印刷機(富士機械工業社製)のインキパンに供給し、150m/minの条件で30分間、版の空転を行った。その後、版面に発生する筋状の汚れ(ドクター筋)を目視で確認し、以下に示す評価基準にしたがって印刷適性を評価した。
5:ドクター筋がない、又は薄いドクター筋が1~2本確認された。
4:薄いドクター筋が3~5本確認された。
3:薄いドクター筋が6本以上、又は濃いドクター筋が1~2本確認された。
2:濃いドクター筋が3~5本確認された。
1:濃いドクター筋が6本以上確認された。
【0092】
評価結果を表1~5に示した。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
【表5】
【0098】
上記結果に示すとおり、実施例1~16のインキ組成物から形成された印刷層は、ノンスリップ性(静摩擦係数、動摩擦係数、滑り角)、基材に対する密着性、耐ブロッキング性、耐熱性及び耐摩擦性に優れていた。また、これらのインキ組成物は、印刷適性にも優れていた。
一方、ウレタン樹脂ビーズ(B)の平均粒子径が1.5μm未満の比較例1は、ノンスリップ性に劣っていた。
ウレタン樹脂ビーズ(B)の平均粒子径が16μm超の比較例2は、基材に対する密着性、耐ブロッキング性、耐熱性、耐摩擦性、印刷適性に劣っていた。
ウレタン樹脂ビーズ(B)のガラス転移温度が-20℃未満の比較例3は、耐ブロッキング性、耐熱性に劣っていた。
ウレタン樹脂ビーズ(B)のガラス転移温度が25℃超の比較例4は、ノンスリップ性に劣っていた。
ウレタン樹脂ビーズ以外の樹脂ビーズを用いた比較例5、6は、ノンスリップ性に劣っていた。
ウレタン樹脂ビーズ(B)を含まなかった比較例7は、ノンスリップ性に劣っていた。
(B)/(A)が0.1未満の比較例8、10は、ノンスリップ性に劣っていた。
(B)/(A)が1.5超の比較例9、11は、基材に対する密着性、耐ブロッキング性、耐熱性、耐摩擦性、印刷適性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の印刷インキ組成物は、ノンスリップ性、基材に対する密着性、耐ブロッキング性、耐熱性及び耐摩擦性に優れた印刷層を形成できる。また、本発明の印刷インキ組成物は、印刷適性にも優れる。
本発明の印刷インキ組成物は特に、グラビア印刷用として有用である。
【要約】
【課題】ノンスリップ性、耐ブロッキング性及び耐熱性に優れた印刷層を形成できる印刷インキ組成物を提供する。
【解決手段】バインダー樹脂(A)と、ウレタン樹脂ビーズ(B)と、有機溶剤(C)と、を含有する印刷インキ組成物であって、前記バインダー樹脂(A)が、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体及び(メタ)アクリル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも2種を含有し、前記ウレタン樹脂ビーズ(B)の平均粒子径が1.5~16μm、ガラス転移温度が-20~25℃であり、前記ウレタン樹脂ビーズ(B)の質量/前記バインダー樹脂(A)の固形分換算での質量で表される比が0.1~1.5である印刷インキ組成物。
【選択図】なし