(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】内燃機関のオイルレベル検知装置
(51)【国際特許分類】
F01M 11/12 20060101AFI20250107BHJP
F01M 1/20 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
F01M11/12 H
F01M1/20 A
(21)【出願番号】P 2021090026
(22)【出願日】2021-05-28
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂口 卓弥
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/041243(WO,A2)
【文献】実開昭61-181811(JP,U)
【文献】特開2005-188434(JP,A)
【文献】特開2018-204539(JP,A)
【文献】特開2013-029061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 11/12
F01M 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関が備えるオイルパン内に貯留されたオイルを汲み出し、前記オイルの温度と前記内燃機関の回転数との組み合わせによって吐出圧が定まるオイルポンプの前記吐出圧を検出する油圧センサと、
前記油圧センサの検出値が前記オイルパン内のオイル量不足を検知するための値として設定された第1の油圧値よりも低下していると判定することで前記オイルパン内のオイル量が不足していることを検知するオイルレベル低下検知部と、
前記内燃機関の回転数が、前記オイルポンプに前記油圧センサの前記検出値に含まれることが想定される誤差の見積値である第2の油圧値を前記第1の油圧値に加算して得られる第3の油圧値を出力させる回転数であって前記オイルの温度に応じて定まる回転数よりも低い状態のときに、前記オイルレベル低下検知部によるオイルレベルの低下の検知を停止する
とともに、前記オイルの温度が所定の下限値よりも低い状態のとき、及び、前記オイルの温度が所定の上限値よりも高い状態のときに、前記オイルレベル低下検知部によるオイルレベルの低下の検知を停止する制御部と、
を備えた内燃機関のオイルレベル検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のオイルレベル検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オイルポンプの吐出圧を油圧センサで検出し、検出した値に基づいてリリーフ弁の開弁圧を切り替えて油圧低下に起因する機関運転の不安定化を抑制する技術が知られている。(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、油圧低下の一因としてオイルポンプによるエアの吸い込みが挙げられている。オイルパン内のオイル量が不足し、オイルレベルが低下した場合にもオイルポンプがエアを吸い込むことがあるため、オイルポンプの吐出圧を油圧センサで検出することでオイルパン内のオイルレベルを検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、圧力センサの検出値には、各種の原因による誤差が含まれることがある。検出値は、例えば、圧力センサの周囲の環境によって生じるノイズの影響を受けることがある。また、検出値は圧力センサ自体の品質のばらつきの影響を受けることがある。さらに、圧力センサが検出値を大気圧基準で示すゲージ圧センサである場合、検出値は車両の位置する標高の変化に起因する大気圧の変化の影響を受けることがある。これらは、いずれも検出値に誤差を生じさせる原因となり得る。検出値がこれらの誤差を含むと、実吐出圧はオイル量不足を判定するオイルレベル低下検知油圧値よりも高いにも拘らず、検出値がオイルレベル低下検知油圧値よりも低い値を示し、オイルレベルが低下したとの誤検知が起こる。誤検知が起こると、実際にはオイルレベルが低下していないにもかかわらず、警告灯が点灯したり、エラーログが記録されたりする不都合が生じる。
【0005】
そこで、本明細書開示の内燃機関のオイルレベル検知装置は、油圧センサの検出値に含まれることが想定される誤差に起因するオイルレベルの誤検知を回避することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書開示の内燃機関のオイルレベル検知装置は、内燃機関が備えるオイルパン内に貯留されたオイルを汲み出し、前記オイルの温度と前記内燃機関の回転数との組み合わせによって吐出圧が定まるオイルポンプの前記吐出圧を検出する油圧センサと、前記油圧センサの検出値が前記オイルパン内のオイル量不足を検知するための値として設定された第1の油圧値よりも低下していると判定することで前記オイルパン内のオイル量が不足していることを検知するオイルレベル低下検知部と、前記内燃機関の回転数が、前記オイルポンプに前記油圧センサの前記検出値に含まれることが想定される誤差の見積値である第2の油圧値を前記第1の油圧値に加算して得られる第3の油圧値を出力させる回転数であって前記オイルの温度に応じて定まる回転数よりも低い状態のときに、前記オイルレベル低下検知部によるオイルレベルの低下の検知を停止する制御部と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本明細書に開示された内燃機関のオイルレベル検知装置は、油圧センサの検出値に含まれることが想定される誤差に起因するオイルレベルの誤検知を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は実施形態のオイルレベル検知装置が組み込まれたオイル循環システムの構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は実施形態のオイルレベル検知装置で実行されるオイルレベル検知制御の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3(A)は実施形態のオイルレベル検知装置における第1の油圧、第2の油圧及び第3の油圧の関係を示すグラフであり、
図3(B)はオイルレベルの誤検知が生じる状態の一例を示すグラフである。
【
図4】
図4は実施形態のオイルレベル検知装置が組み込まれたオイル循環システムにおけるエンジン回転数別の油温と吐出圧(油圧)との関係の一例を示すグラフである。
【
図5】
図5はオイルレベルの低下の検知を停止するマスク領域の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。ただし、図面中、各部の寸法、比率等は、実際のものと完全に一致するようには図示されていない場合がある。また、図面によっては細部が省略されて描かれている場合もある。
【0010】
(実施形態)
[オイル循環システム]
まず、
図1を参照して、実施形態の内燃機関のオイルレベル検知装置(以下、単に「検知装置」という)101が組み込まれているオイル循環システム100の概略構成について説明する。
【0011】
オイル循環システム100は、エンジンオイル(以下、単に「オイル」という)を貯留するオイルパン10、メインギャラリ11、オイルストレーナ12、オイルフィルタ15及びオイルクーラ16を含む。また、オイル循環システム100は、油温油圧センサ20、可変バルブタイミング機構(以下、「油圧VVT」という)30及び内燃機関(以下、「エンジン」という)各部40にオイルを供給する流路を含む。エンジン各部40には、例えば、クランクジャーナルやカムジャーナルが含まれる。さらに、オイル循環システム100は、エンジンが備えるピストン(不図示)に向けてオイルを噴射し、ピストンを冷却するピストンオイルジェット41、可変容量オイルポンプ50及びOCV(Oil Control Valve)51を含む。また、オイル循環システム100は、ECU70を備える。
【0012】
メインギャラリ11には可変容量オイルポンプ50が作動することによってオイルパン10内から汲み上げられたオイルが送られる。メインギャラリ11からは油路が枝分かれしている。枝分かれした油路の先には油圧VVT30、エンジン各部40及びピストンオイルジェット41が設けられており、これらに対してメインギャラリ11を通じてオイルが供給される。オイルストレーナ12はオイルパン10内に設置され、可変容量オイルポンプ50によってオイルが汲み上げられるときに、オイル内の異物が吸い込まれないようにする。メインギャラリ11から枝分かれして各部に供給されたオイルは、再びオイルパン10内に戻される。オイルは、オイル循環システム100によってこのような循環を繰り返す。
【0013】
オイルフィルタ15はオイルストレーナ12とメインギャラリ11とを接続する油路61に設置されており、メインギャラリ11に向かうオイルを濾過し不純物を取り除く。オイルクーラ16は油路61のオイルフィルタ15の下流側(メインギャラリ11に近い側)に設置されており、メインギャラリ11に向かうオイルを冷却する。
【0014】
油温油圧センサ20は、メインギャラリ11に設置されており、可変容量オイルポンプ50から吐出されたオイルの温度(以下、「油温」という)及び吐出圧(油圧)を検出する。後に説明するように、油温油圧センサ20は、オイルパン10内のオイルレベル低下の検知に用いられる。油温油圧センサ20の油圧を検出する部分は、ゲージ圧センサとされている。なお、本実施形態では、油温及び吐出圧を検出する油温油圧センサ20を採用しているが、油温センサと油圧センサとが別個に配置され、油温と吐出圧を検出する態様としてもよい。
【0015】
油圧VVT30は、可変容量オイルポンプ50が発生させる油圧により、図示しないエンジンの機関バルブ(吸気弁及び排気弁)のバルブタイミングを可変とする油圧式の可動弁機構である。オイルは油圧VVT30の作動油となる。
【0016】
可変容量オイルポンプ50はエンジンが備えるクランクシャフト(不図示)と機械的に連結され、クランクシャフトの回転によって回転駆動される。本実施形態の可変容量オイルポンプ50はギヤを介してクランクシャフトに駆動されるが、チェーンやベルトによる駆動としてもよい。可変容量オイルポンプ50はメインギャラリ11とオイルストレーナ12とを接続する油路61、より具体的には、オイルストレーナ12とオイルフィルタ15との間に配置されている。本実施形態における可変容量オイルポンプ50は、公知の可変容量型のオイルポンプである。可変容量オイルポンプ50は、吐出量を可変とするための機構の一例として、トロコイド式のポンプに制御室、インナーロータ及びとアウターロータ(いずれも、不図示)を備える。そして、OCV51によって制御室内の油圧を制御することで、インナーロータに対するアウターロータの偏心量を調整し、オイルの吐出量を連続的に制御する。このような容量可変機構を備えるオイルポンプの詳細は、例えば、特開2017-190681号公報に開示されているため、ここではその詳細な説明は省略する。
【0017】
可変容量オイルポンプ50には、可変容量オイルポンプ50とメインギャラリ11とを接続する油路61から分岐した油路61aが接続されている。OCV51は、この油路61aに設けられている。OCV51は後述するECU(Electronic Control Unit)70の制御により開閉する。OCV51の開閉によって可変容量オイルポンプ50の制御室に導入されるオイル流量(油圧)が変更される。これにより、可変容量オイルポンプ50の容量が変更され、オイルの吐出量が変更される。可変容量オイルポンプ50のオイルの吐出量が変更されると、これに伴ってその吐出圧も変化する。
【0018】
可変容量オイルポンプ50の吐出圧は、油温とエンジンの回転数(以下、「エンジン回転数」という)との組み合わせによって定まる。
【0019】
なお、本実施形態ではOCV51との組み合わせによって吐出圧を変化させる可変容量オイルポンプ50が採用されているが、オイルポンプの形式はこれに限定されず、従来公知の他の形式のオイルポンプを採用することもできる。
【0020】
ECU70は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、バックアップRAM及びその他の記憶装置を備える。ECU70は、CPU、ROMやその他の記憶装置に記憶されたプログラムやマップに基づいて演算処理や各種制御を実行する。RAMは、CPUによる演算結果や各種センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMは内燃機関の停止時などにおいて保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0021】
ECU70には油温油圧センサ20の他、クランクシャフトの回転角を検出するクランク角センサ21、アクセル開度センサ22や水温センサ23が電気的に接続されている。クランク角センサ21の検出値に基づいて、エンジン回転数が取得される。アクセル開度センサ22の検出値に基づいて、アクセルの開度を検出することができる。また、ECU70はOCV51と電気的に接続されており、エンジン回転数に基づいてOCV51を作動させる。水温センサ23は図示しないシリンダブロックやシリンダヘッドに設けられたウォータジャケット内を循環する冷却水の温度を検出する。
【0022】
ECU70は、オイルレベル低下検知部70a及び誤検知回避部70bを含む。誤検知回避部70bは後に詳細に説明するようにオイルレベル低下検知部70aによるオイルレベルの検知を停止する制御部に相当する。ECU70はオイルレベル低下検知部70aとして機能することで、油温油圧センサ20の検出値に基づくオイルレベル低下の検知を行う。オイルレベル低下検知部70aは油温油圧センサ20により検出された吐出圧の値に基づき、オイルパン10内のオイルレベルがオイル量の不足を判定する予め設定された所定値より低下しているか否かを判定する。ここで、オイルレベルとは、オイルパン10内のオイル量を評価するものである。また、オイルパン10内のオイルレベルがオイル量の不足を判定する予め設定された所定値は、オイルレベル低下検知油圧値であり第1の油圧P1に相当する。ECU70は誤検知回避部70bとして機能することでオイルレベルの誤検知の可能性がある場合に、オイルレベル低下の検知を停止する。これらの制御については、後に詳説する。
【0023】
[検知装置]
図1を参照すると、上述したオイル循環システム100に含まれる構成要素のうち、油温油圧センサ20、クランク角センサ21、アクセル開度センサ22、水温センサ23及びECU70が検知装置101に含まれる。以下、検知装置101におけるオイルレベルの検知、つまり、オイルパン10内のオイル量不足の検知の一例について
図2から
図5を参照しつつ説明する。
【0024】
まず、ECU70は、ステップS1においてエンジンのイグニションがオンとされたか否かを判定する。ECU70は、ステップS1で否定判定(No判定)をした場合は、ステップS1で肯定判定(Yes判定)するまでステップS1の処理を繰り返す。イグニションがオンとされると、ECU70はステップS1で肯定判定し、ステップS2へ進む。
【0025】
ステップS2では、オイルレベル低下検知部70aがオイルレベル低下検知制御を開始する。ECU70は
図3(A)や
図3(B)に示すように、予め設定された第1の油圧(オイルレベル低下検知油圧値)P1を記憶している。そして、オイルレベル低下検知部70aは油温油圧センサ20による吐出圧の検出値が第1の油圧P1よりも低くなった場合には、オイルレベルが低下していると判定し、オイルパン10内のオイル量不足を検知する。オイル量不足を検知したオイルレベル低下検知部70aは、図示しない警告灯を点灯させて、オイルパン10内のオイルレベルが低下していることを運転者に通知する。ここで、第1の油圧P1の値は、予め実施した実機による実験やシミュレーションに基づき、オイルパン10内のオイルレベルがエアを吸い込む程度まで低下した場合に油温油圧センサ20が示すことがある油圧の値として設定されている。ECU70はステップS2においてオイルレベル低下検知部70aがオイルレベル低下検知制御を開始した後、ステップS3へ進む。
【0026】
ステップS3では、誤検知回避部70bが、エンジン回転数Ne[rpm]及び油温[℃]を取得する。エンジン回転数Neは、クランク角センサ21の検出値に基づいて算出され、取得される。油温は、油温油圧センサ20によって検出された油温の検出値として取得される。ECU70はステップS3でエンジン回転数Neと油温を取得した後、ステップS4へ進む。
【0027】
ステップS4では、誤検知回避部70bが、ステップS3で取得したエンジン回転数Neと油温とに基づき、エンジンの状態がオイルレベル低下検知制御マスク領域(以下、単に「マスク領域」という)に入っているか否かを判定する。
【0028】
ここで、マスク領域について詳細に説明する。
図5を参照すると、横軸を油温[℃]とし、縦軸をエンジン回転数Ne[rpm]としたグラフ上に、ハッチングを付して示されたマスク領域が設定されている。つまり、マスク領域は、エンジン回転数Neと油温とによって規定される。マスク領域には、油温30℃を下限とし、油温110℃を上限としたオイルレベル検知実行油温範囲が設定されている。このような油温の範囲が設定されているのは、油温によってオイルの粘度が変化することを考慮した為である。つまり、油温が低過ぎるとオイルの粘度が高過ぎ、油温が高過ぎると粘度が低過ぎるため、オイルレベル低下検知を適切に実施できないことが想定される。そこで、可変容量オイルポンプ50の吐出圧に基づくオイルレベル低下検知制御はオイルレベル検知実行油温範囲内で実行される。
【0029】
マスク領域は、オイルレベル検知実行油温範囲内において、P3等油圧線によってオイルレベル低下検知制御が実行される領域と分けられている。P3等油圧線は吐出圧が第3の油圧P3となるエンジン回転数を油温毎にプロットし、これを連ねることによって描かれている。
【0030】
ここで
図3(A)及び
図3(B)を参照して第2の油圧P2及び第3の油圧P3について説明する。
図3(A)を参照すると、第3の油圧P3は、第2の油圧P2を第1の油圧P1に加算した値とされている。第3の油圧P3は、油温油圧センサ20による油圧の検出値ではなく、実吐出圧(真値)である。
【0031】
第1の油圧P1は、上述の通り、オイルレベル低下検知油圧値である。第2の油圧P2は、油温油圧センサ20による油圧の検出値に含まれることが想定される誤差の見積値である。本実施形態は、油温油圧センサ20の周囲の環境によって生じるノイズに起因する誤差、大気圧の変化によって出力値が変化することに起因する誤差、油温油圧センサ20の品質のばらつきに起因する誤差の積算値を誤差の見積値としている。本実施形態では、第2の油圧P2を30[kPa]に設定している。30[kPa]の内訳は、ノイズに起因する誤差を5[kPa]、大気圧の変化に起因する誤差を10[kPa]、品質のばらつきに起因する誤差を15[kPa]である。第2の油圧P2を30[kPa]以上とすれば、誤検知がより生じにくくなる。このため、第1の油圧P1が45[kPa]に設定されている場合、第3の油圧P3は75[kPa]となる。見積値に含まれる誤差は、これらの因子に限定されるものではなく、他の因子に基づく誤差を含めてもよい。
【0032】
第3の油圧P3は、各油温におけるマスク領域の上限の油圧である。
図3(B)に示すように実吐出圧が第3の油圧P3よりも低い場合に、検出値が第2の油圧P2分低い値を示すと、その検出値は、第1の油圧P1よりも低い値を示す。この場合、実吐出圧は第1の油圧P1よりも高いため、オイルパン10内のオイル量不足は生じておらず、オイルレベルは低下していない。ところが、検出値が第1の油圧P1よりも低いため、何らの措置も講じられない場合、オイルレベル低下検知部70aは、オイルパン10内のオイル量不足を検知する。つまり、誤検知が生じる。そこで、本実施形態では、第3の油圧P3がマスク領域の上限として設定されている。第3の油圧P3よりも高い実吐出圧であれば、検出値が第2の油圧P2分低い値を示しても、その検出値は第1の油圧P1を下回ることはなく、誤検知は生じない。
【0033】
つぎに、
図4及び
図5を参照して第3の油圧P3、エンジン回転数Ne及び油温の関係について説明する。
図4には、一例としてエンジン回転数Neが600[rpm]から2000[rpm]の範囲について、油温[℃]と油圧[kPa]との関係について示されている。
図4に示されている吐出圧は、実吐出圧である。
図4によれば、吐出圧が第3の油圧P3となる油温は、エンジン回転数Neによって異なる。例えば、エンジン回転数Neが700[rpm]のときに吐出圧が第3の油圧P3となるのは油温が概ね85[℃]のときであり、エンジン回転数Neが900[rpm]のときに吐出圧が第3の油圧P3となるのは油温が概ね100[℃]のときである。
【0034】
このように
図4において第3の油圧P3が出力されるエンジン回転数Neと油温とをプロットすることで
図5に示すP3等油圧線が描かれる。これによりマスク領域が設定される。
図5によれば、油温が100[℃]のときに第3の油圧P3となるのはエンジン回転数Neが900[rpm]のときである。このため、油温が100[℃]であるときにエンジン回転数Neが900[rpm]以下であれば、エンジンの状態はマスク領域内となるので、オイルレベル低下検知部70aによるオイルレベルの低下の検知は停止される。同様に、油温が90[℃]のときに第3の油圧P3となるのはエンジン回転数Neが800[rpm]のときである。このため、油温が90[℃]であるときにエンジン回転数Neが800[rpm]以下であれば、エンジンの状態はマスク領域内となるので、オイルレベル低下検知部70aによるオイルレベル低下の検知は停止される。
【0035】
なお、
図4に示すエンジン回転数Neが2000[rpm]である場合のように、ある程度の高回転域になると、可変容量オイルポンプ50の吐出圧は第3の油圧P3よりも高い圧力となるので、マスク領域には含まれない。つまり、マスク領域は、吐出圧が第3の油圧P3となることがあるエンジン回転数Neが低い低回転数領域に設定されている。これにより、例えば、車両が走行状態にあるときのエンジン回転数を保っているときには、オイルレベル低下の検知が実行される。
【0036】
ここで、
図5を参照して、エンジンがアイドル状態のときのオイルレベル低下の検知について説明する。
図5には、目標アイドル回転数[rpm]も併せて描かれている。目標アイドル回転数[rpm]は水温に応じて設定される。このため、
図5から目標アイドル回転数[rpm]を読み取るときの横軸は水温[℃]となる。
図5によれば、水温[℃]が高いほど目標アイドル回転数[rpm]は低い値に設定されている。このような目標アイドル回転数[rpm]は水温が概ね50[℃]以上となる範囲でマスク領域と重なる。従って、エンジンがアイドル状態のとき、水温が50[℃]以上であると、オイルレベル低下検知部70aによるオイルレベル低下の検知は停止される。
【0037】
図5に示すマスク領域を設定するために
図4に示すようなエンジン回転数Ne毎の吐出圧[kPa]のデータが収集される。この際、可変容量オイルポンプ50はOCV51によってフル吐出状態としておく。フル吐出状態を基準としてマスク領域を設定しておけば、可変容量オイルポンプ50の状態がフル吐出状態以外の状態のときにもマスク領域に入ることとなるため、誤検知が生じにくいマスク領域を設定することができる。また、第2の油圧P2についても、誤差の範囲を大きく見積もることで、誤検知が生じにくいマスク領域を設定することができる。
【0038】
なお、
図4や
図5に示された油温、油圧及びエンジン回転数Neは、いずれも例示である。
【0039】
再び
図2に戻って、ECU70は、ステップS4で肯定判定した場合ステップS5へ進み、ステップS4で否定判定した場合ステップS6へ進む。
【0040】
ステップS5において、ECU70、具体的に誤検知回避部70bはオイルレベル低下検知制御を停止する。誤検知回避部70bがステップS4で肯定判定する場合、油温油圧センサ20の油圧の検出値は、第2の油圧P2分だけ低い値を出力する可能性がある。この為、何らの措置も取られない場合、オイルレベル低下検知部70aによってオイルレベル低下が生じていると判定されることが想定される。この判定は、オイルパン10内のオイルレベルが保たれているにもかかわらず、検出値に誤差が含まれていることに起因して油温油圧センサ20の油圧の検出値が低く提示されたために生じる誤検知である。そこで、ステップS5においてオイルレベル低下検知部70aによって行われる油温油圧センサ20の検出値に基づくオイルレベル低下の検知を停止することで、誤検知を回避することができる。
【0041】
一方、ステップS6において、ECU70はオイルレベル低下検知制御を実施する。なお、既にオイルレベル低下検知制御が実施されている状態である場合、ステップS6はオイルレベル低下検知制御を継続する工程となる。これに対し、一旦、ステップS5を経由し、オイルレベル低下検知制御が停止されている場合、ステップS6はオイルレベル低下検知制御を再開する工程となる。
【0042】
ステップS5の処理が終了した後、及び、ステップS6の処理が終了した後、ECU70はステップS7へ進む。ステップS7において、ECU70はエンジンのイグニションがオフとされたか否かを判定する。ECU70は、ステップS7で否定判定をした場合、ステップS3からの処理を繰り返す。これにより、刻々と変化する油温とエンジン回転数Neとに応じてオイルレベル低下検知制御の実行と停止とが適宜切り替えられ、オイルレベル低下の誤検知を回避しつつ、オイルレベル低下検知を行うことができる。一方、ECU70はステップS7で肯定判定した場合、一連の処理を終了させる(エンド)。
【0043】
本実施形態によれば、エンジン回転数が油温油圧センサ20の検出値に含まれることが想定される誤差の見積値である第2の油圧P2を織り込み、油温に応じて設定されたマスク領域にあるときにオイルレベル低下検知を停止する。これにより、油温油圧センサ20の検出値に誤差が含まれ、その検出値がオイルレベル低下検知油圧値(第1の油圧P1)を下回る場合に、オイルレベル低下の誤検知を回避することができる。
【0044】
上記実施形態は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、更に本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。
【符号の説明】
【0045】
10 オイルパン 11 メインギャラリ
20 油温油圧センサ 21 クランク角センサ
22 アクセル開度センサ 23 水温センサ
50 可変容量オイルポンプ 51 OCV
70 ECU 70a オイルレベル低下検知部
70b 誤検知回避部 100 オイル循環システム
101 オイルレベル検知装置