(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】磁石挿入治具
(51)【国際特許分類】
H02K 15/035 20250101AFI20250107BHJP
H02K 1/2791 20220101ALI20250107BHJP
【FI】
H02K15/02 K
H02K1/2791
(21)【出願番号】P 2021119226
(22)【出願日】2021-07-20
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 秀樹
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-187627(JP,A)
【文献】特開2017-163684(JP,A)
【文献】特開2016-092906(JP,A)
【文献】特開2016-208695(JP,A)
【文献】特開2007-060836(JP,A)
【文献】特開2013-093919(JP,A)
【文献】特開2005-304287(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0159281(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110798031(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第102018121062(DE,A1)
【文献】中国特許出願公開第108702048(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107251372(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアの磁石配置面の上に磁石を配置するための磁石挿入治具であって、
前記ロータコアの周方向に対応する前記磁石の幅方向の両側の端部を、前記ロータコアの中心軸方向に前記磁石配置面に向けて移動可能に支持する両側のガイド部位と、
前記
両側のガイド部位の一方
のみに設けられた支持部材であって、前記磁石配置面側の端部において、前記磁石配置面に向かうにつれて高さが低くなるテーパを有する支持部材と、
を備える、磁石挿入治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロータコアの磁石配置面に向けて磁石を挿入して、磁石配置面上に磁石を配置するための磁石挿入治具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ロータのヨークに磁石を接着する際に、ヨークと磁石とを接着する接着剤層に、ヨークに設けられた接着剤注入用の貫通孔を介して接着剤を注入することが開示されている。この場合、磁石の挿入により接着剤層の接着剤が引き摺られても、接着剤が注入されることにより、接着剤の量が不足しないようにできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、貫通孔のないヨークに比べてヨークのコストが増加し、ロータのコストの増加を招く。また、接着剤の使用量が多くなり、ロータのコストの増加を招く。さらにまた、貫通孔が存在する部分では、ヨークを通過する磁束の磁路が欠損することになるので、貫通孔のないヨークに比べて発生する磁界強度が弱くなってロータの性能低下を招く。
【0005】
そこで、ロータのコストの増加及び性能低下を招くことなく、ヨークとなるロータコアと磁石の接着面積を確保することが可能な技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
本開示の一形態によれば、ロータコアの磁石配置面の上に磁石を配置するための磁石挿入治具が提供される。この磁石挿入治具は、前記ロータコアの周方向に対応する前記磁石の幅方向の両側の端部を、前記ロータコアの中心軸方向に前記磁石配置面に向けて移動可能に支持する両側のガイド部位と、前記両側のガイド部位の一方のみに設けられた支持部材であって、前記磁石配置面側の端部において、前記磁石配置面に向かうにつれて高さが低くなるテーパを有する支持部材と、を備える。
なお、本開示は以下の形態としても実現できる。
【0007】
本開示の一形態によれば、ロータコアの磁石配置面の上に磁石を配置するための磁石挿入治具が提供される。この磁石挿入治具は、前記ロータコアの周方向に対応する前記磁石の幅方向の両側の端部を、前記ロータコアの中心軸方向に前記磁石配置面に向けて移動可能に支持する両側のガイド部位と、前記ガイド部位の一方に設けられた支持部材であって、前記磁石配置面側の端部において、前記磁石配置面に向かうにつれて高さが低くなるテーパを有する支持部材と、を備える。
この形態の磁石挿入治具では、磁石がロータコアの中心軸に沿ってロータコアの磁石配置面の上に移動される直前まで、磁石の一方の端部側が磁石配置面に接触しない状態を維持することができる。これにより、磁石配置面に塗布された接着剤が磁石の挿入により引き摺られないようにすることができるので、接着剤の量が不足しないようにできる。また、従来技術のようなロータの構造を変更しなくてよいので、ロータのコストの増加及び性能低下を招くこともない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態としての磁石挿入治具の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】磁石挿入治具によって実行する磁石挿入の概要を示す説明図である。
【
図3】
図1の磁石ガイド部を拡大して示す斜視図である。
【
図4】左側のガイド部位から右側のガイド部位を見た状態を示す側面図である。
【
図5】磁石が載置されたガイド部位を手前側から見た状態を示す正面図である。
【
図6】
図1の磁石送部を拡大して示す斜視図である。
【
図7】磁石が磁石配置面上に移動する途中の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は一実施形態としての磁石挿入治具10の概略構成を示す斜視図である。
図1に示すx,y,zは、互いに直交する三方向を示している。z方向は磁石挿入治具10の上下方向に対応し、x方向は磁石挿入治具10の左右方向に対応し、y方向は磁石挿入治具10の前後方向で後述する中心軸Xcに沿う方向に対応する。なお、以降で示す各図においても、x,y,zの各関係については同様である。
【0010】
図2は、磁石挿入治具10によって実行する磁石挿入の概要を示す説明図である。磁石挿入治具10は、以下で説明するように、磁石30を、ロータコア20の中心軸の方向オ(y方向)に沿って、ロータコア20の磁石配置面204に向けて移動させて、磁石配置面204上に載置するための治具である。なお、ロータコア20は、内周面に周方向に沿って複数の磁石配置面204を有している(
図1参照)。各磁石配置面204は、リブ202で区分されている。各磁石配置面204の周方向の中央部には、接着剤Eadが充填される接着溝206が設けられている。
【0011】
図1に示すように、磁石挿入治具10は、基台110と、磁石ガイド部120と、磁石送部130と、ロータコア設置部140と、を備えている。磁石ガイド部120、磁石送部130、及びロータコア設置部140は、それぞれ、基台110上に設けられている。
【0012】
ロータコア設置部140は、治具の前後方向(y方向)において基台110の後側に設置されている。ロータコア設置部140は、支持体142と、ロータコア設置体144と、を備えている。支持体142は、基台110から上方向(+z方向)に延びる柱状体である。支持体142は、y方向に沿う中心軸Xcを回転中心としてロータコア設置体144を回転可能に支持する。ロータコア設置体144は、磁石挿入治具10の前後方向の前側から-y方向に沿う正面視において、中心軸Xcを中心とする円盤形状を有しており、円盤形状の外周端縁に沿って円環状に設けられたリブ145を有している。リブ145の内壁面は、ロータコア20が設置されるコア設置面146を構成する。ロータコア設置体144には、不図示のガイドに従ってコア設置面146にロータコア20が挿入されることによって、コア設置面146にロータコア20が固定される。固定されたロータコア20の中心軸はロータコア設置体144の中心軸Xcに一致する。以下では、ロータコア設置体144の中心軸Xcをロータコア20の中心軸として説明する場合もある。
【0013】
磁石ガイド部120は、前後方向において基台110の手前側、具体的には、ロータコア設置部140の手前側に設置されている。磁石ガイド部120は、ロータコア設置部140に設置されたロータコア20の内周面の最も下の位置にある磁石配置面204に向けて中心軸Xcの方向(y方向)に沿って磁石30を移動可能に支持するためのガイド治具である。
【0014】
図3は、
図1の磁石ガイド部120を拡大して示す斜視図である。磁石ガイド部120は、左右方向(x方向)の両側の上端部に設けられたガイド部位122,123を備えている。
【0015】
左側のガイド部位122は、磁石ガイド部120の左右方向(以下、「幅方向」とも呼ぶ)の内側の支持面124と、支持面124の外側の壁状のガイド面125と、で構成される。また、右側のガイド部位123は、磁石ガイド部120の幅方向の内側の支持面126と、支持面126の外側の壁状のガイド面127と、で構成される。左側の支持面124及びガイド面125と、右側の支持面126及びガイド面127とは、磁石ガイド部120の前後方向(y方向、以下、「長手方向」とも呼ぶ)の前側から後側に向かうようにy方向に沿って延びている。
【0016】
左側の支持面124と右側の支持面126は、載置される磁石30の幅方向の両側の端部を支持する支持部である。左側のガイド面125と右側のガイド面127は、支持面124,126で支持された磁石30の移動を、磁石ガイド部120の幅方向について規制し、長手方向にのみ可能とするガイド部である。なお、磁石30を最初に載置する位置は、
図4にハッチングで示されている。
【0017】
図4は、左側のガイド部位122の側から右側のガイド部位123を見た状態を拡大して示す側面図である。右側のガイド部位123の支持面126上には、長手方向に沿って支持部材150が設置されている。
【0018】
図5は、磁石30が載置されたガイド部位122,123を磁石ガイド部120の前後方向(y方向)の手前側から見た状態を示す正面図である。左側の支持面124の上に支持部材150が設けられているので、磁石30は、左側の支持面124の上に配置される左側の端部に対して、右側の支持面126上に配置される右側の端部が高くなるように傾斜して支持される。
【0019】
また、支持部材150は、
図4に示すように、前側(+y方向側)の端部に、下方(-z方向)に突出して磁石ガイド部120の前面に係合される係合部152を有している。係合部152は、後述するように、磁石30が支持部材150に押圧されつつロータコア20の方向(-y方向)に移動される際に、-y方向を向く力が支持部材150に加わり、支持部材150がずれてしまうことを防止するための部分である。
【0020】
また、支持部材150は、
図4に示すように、後側(-y方向側)の端部に、磁石30を移動させる方向(-y方向)に向かって高さが低くなるテーパ154を有している。テーパ154は、後述するように、磁石30が支持部材150に押圧されつつロータコア20の方向(-y方向)に移動される際に、磁石30とロータコア20の磁石配置面204との間隔を徐々に狭くするための部分である。
【0021】
磁石送部130は、
図1に示すように、左右方向において基台110の左側、具体的には、磁石ガイド部120の左側(+z方向側)に設置されている。磁石送部130は、磁石ガイド部120に載置された磁石30を、ロータコア20の磁石配置面204に向けて中心軸Xcの方向(y方向)に沿って移動させるための部分である。
【0022】
図6は、
図1の磁石送部130を拡大して示す斜視図である。磁石送部130は、磁石送蓋131と、磁石送機構134と、を備えている。
【0023】
磁石送機構134は、磁石送スクリュー136と、磁石送スクリュー136を回す回転ハンドル135と、を備えている。磁石送スクリュー136には、磁石送蓋131が磁石送スクリュー136を中心軸として回転可能に取り付けられている。操作者が磁石ガイド部120に載置された磁石30に向けて磁石送蓋131を回転させることで、磁石ガイド部120の上部を磁石送蓋131で蓋することができる。この際、磁石30は、磁石送蓋131からの加重により、ガイド部位122,123に向けて上から押しつけられる。この点については後述する。
【0024】
操作者が回転ハンドル135を「送」方向に回した場合、磁石ガイド部120の前側(+y方向側)から後側(-y方向側)に向けて、y方向(中心軸Xcの方向)に沿って磁石送蓋131を移動させることができる。反対に、操作者が回転ハンドル135を「戻」方向に回した場合、磁石ガイド部120の後側から前側に向けて、y方向に沿って磁石送蓋131を移動させることができる。
【0025】
磁石送蓋131の磁石30側を向く面には、磁石送蓋131の回転により磁石30の前側(+y方向側)の端部に係合する凸部132と、磁石30の後側(-y方向側)の端部に係合する凸部133と、が設けられている。このため、操作者が回転ハンドル135を「送」方向に回すことで、磁石送蓋131によって左側の支持面124及び右側の支持部材150に磁石30を押圧しつつ、磁石送蓋131の移動に従って、ロータコア20の磁石配置面204に向けてy方向(中心軸Xcの方向)に沿って磁石30を移動させることができる。
【0026】
なお、支持部材150は、磁石30の磁力によって磁石30が支持部材150に張り付いて、磁石30の移動が阻害されないように、非磁性材料で構成されることが好ましい。また、磁石ガイド部120及び磁石送蓋131も、同様に、非磁性材料で構成されることが好ましい。
【0027】
以上説明した磁石挿入治具10では、磁石ガイド部120に載置された磁石30を、磁石送部130によってy方向(中心軸Xcの方向)に沿って、ロータコア20の最も下端に位置する磁石配置面204に向けて移動させて、その磁石配置面204上に載置することができる。これにより、磁石配置面204上に載置された磁石30を、接着溝206に予め充填された接着剤Eadで磁石配置面204に接着することができる。なお、他の磁石配置面204については、磁石30が載置されていない磁石配置面204をロータコア設置体144を回転させて最下端の位置に移動させることで、同様に磁石30を載置することができる。
【0028】
図7は、磁石30が磁石配置面204上に移動する途中の状態を示す説明図である。上記したように、磁石送蓋131から磁石30への加重により、磁石30の右側(-x方向側)の端部は、右側のガイド部位123の支持面126に設けられた支持部材150に向けて上から押しつけられる。また、図示は省略するが、磁石30の左側(+x方向側)の端部は、左側のガイド部位122(
図3,
図5参照)の支持面124に向けて上から押しつけられる。このため、磁石30は、
図7に示すように、移動によって支持部材150に支持されていない部分が発生しても、支持部材150に押しつけられる圧力によって、磁石30の磁力によって磁石配置面204との間に発生する引力に逆らって、磁石配置面204との間隔Dsを保った状態を保ったまま、移動可能となる。これにより、磁石30が磁石配置面204に配置される直前まで、磁石30が接着溝206の接着剤Eadに接触しない状態を維持することができる。このため、接着剤Eadが磁石30の挿入により引き摺られないようにして、磁石30の接着のために必要な接着剤Eadの量が不足しないようにできる。
【0029】
また、支持部材150のテーパ154によって、テーパ154上を移動する磁石30の磁石配置面204との間隔Dsを徐々に狭くすることができるので、磁石30の磁石配置面204への接触を滑らかに行なうことができる。これにより、磁石30が磁石配置面204に接触する際に、磁石30の磁力による引力により磁石30に加わる衝撃を抑制することができ、磁石30に割れや欠け等が発生しないようにできる。
【0030】
また、磁石挿入治具10によって磁石30が挿入されるロータコア20は、従来技術のようなロータコアの構造を変更したものではないので、コストの増加及び性能低下を招かないようにできる。
【0031】
B.他の実施形態:
(B1)上記実施形態で説明した磁石挿入治具10の磁石ガイド部120、磁石送部130、及びロータコア設置部140は、それぞれ上記した構造に限定されるものではない。
【0032】
磁石ガイド部120は、磁石配置面204に配置される磁石30のロータコア20の周方向に対応する幅方向の両側の端部を、それぞれ、磁石30をロータコア20の中心軸Xcの方向に沿って磁石配置面204に向けて移動可能に支持する両側のガイド部位122,123を備える構造であればよい。そして、一方のガイド部位123に支持部材150が設けられており、支持部材150の磁石配置面204側の端部において、磁石配置面204に向かうにつれて高さが低くなるテーパ154を有する構造であればよい。なお、支持部材150は、ガイド部位123と別部材として説明したが、ガイド部位123と一体に構成される構造であってもよい。
【0033】
磁石送部130は、磁石ガイド部120上に載置された磁石30を、一方のガイド部位123に設けられた支持部材150及び他方のガイド部位122に向けて上から押しつけつつ、ロータコア20の磁石配置面204に向けてロータコア20の中心軸方向に沿って移動させることが可能な構造であればよい。
【0034】
ロータコア設置部140は、ロータコア20の中心軸を回転中心として回転可能に支持することができる構造であればよい。
【0035】
(B2)上記実施形態の磁石挿入治具10は、ロータコア20の内周面に磁石配置面204を有するアウターロータに対応する構成を例に説明した。しかしながら、これに限定されるものではなく、ロータコア20の外周面に磁石配置面204を有するインナーロータに対しても適用可能である。但し、
図1に示すように、アウターロータの場合は、ロータコア20の内周面の最も下端にある磁石配置面204に対して磁石30を挿入する構成であるのに対して、インナーロータの場合は、ロータコアの外周面の最も上端にある磁石配置面に対して磁石を挿入する構造とすればよい。
【0036】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
10…磁石挿入治具、20…ロータコア、30…磁石、110…基台、120…磁石ガイド部、122…ガイド部位、123…ガイド部位、124…支持面、125…ガイド面、126…支持面、127…ガイド面、130…磁石送部、131…磁石送蓋、132…凸部、133…凸部、134…磁石送機構、135…回転ハンドル、136…磁石送スクリュー、140…ロータコア設置部、142…支持体、144…ロータコア設置体、145…リブ、146…コア設置面、150…支持部材、152…係合部、154…テーパ、202…リブ、204…磁石配置面、206…接着溝、Ead…接着剤、Xc…中心軸