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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/34 20060101AFI20250107BHJP
   F02D 41/06 20060101ALI20250107BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
F02D41/34
F02D41/06
F02P5/15 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021127625
(22)【出願日】2021-08-03
(65)【公開番号】P2023022640
(43)【公開日】2023-02-15
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】宮地 和哉
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-198324(JP,A)
【文献】特開2009-121255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 -45/00
F02P 5/145- 5/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内を往復運動するピストンと、前記気筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁と、前記気筒内の混合気に点火を行う点火プラグと、前記気筒からの排気が流れる排気通路と、前記排気通路に設けられている触媒と、を備える内燃機関に適用され、
前記点火プラグの点火時期を圧縮上死点よりも遅角側とすることにより前記触媒の暖機を促進する触媒暖機処理と、
1回の燃焼に供される燃料の量を要求噴射量としたとき、前記要求噴射量を前記筒内噴射弁から噴射するのに要する噴射回数を決定するとともに、各回の燃料の噴射時期を決定する噴射制御処理と、を実行し、
前記噴射制御処理で決定される最終回の燃料の噴射時期を最終噴射時期としたとき、
前記噴射制御処理では、
前記触媒暖機処理中に前記点火時期が前記圧縮上死点よりも遅角側の時期として予め規定された規定時期よりも遅角側になり、且つ、前記噴射回数として複数回が決定された場合には、前記規定時期以後で前記点火時期以前の時期に、前記最終噴射時期を設定する
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記噴射制御処理では、前記最終噴射時期を前記点火時期と同じ時期に決定する
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記噴射制御処理では、前記最終噴射時期を前記規定時期と同じ時期に決定する
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関の冷却水温が低いほど前記規定時期を進角側の時期に決定する規定処理をさらに実行する
請求項に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されている内燃機関は、気筒内を往復運動するピストンと、気筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁と、気筒内の混合気に点火を行う点火プラグと、気筒からの排気が流れる排気通路と、を備えている。そして、特許文献1に記載されている内燃機関の制御装置は、1回の燃焼に供される燃料の量である要求噴射量を算出する。また、制御装置は、要求噴射量を噴射する際の燃料の噴射回数として複数回を決定可能である。噴射回数として複数回が決定されたとき、筒内噴射弁は、要求噴射量を複数回に分割して噴射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-024682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関において、排気通路に設けられている触媒を暖機する触媒暖機処理を実行する技術が知られている。また、この触媒暖機処理では、当該処理の一環で、点火時期を圧縮上死点よりも遅角側の時期とする。この触媒暖機処理を、特許文献1の内燃機関に適用した場合、燃料の分割噴射処理と触媒暖機処理とが共に実行されることがあり得る。この場合、複数の燃料噴射のうちの最終回の噴射の噴射時期を、点火時期に合わせて圧縮上死点よりも遅角側の時期とすることが好ましい。このように点火時期に合わせて最終回の噴射を行うことで、燃焼の安定化が図られる。
【0005】
上記のように、触媒暖機処理中に、点火時期に合わせて最終回の噴射の噴射時期を定めた場合、点火時期が上死点に近い時期に、最終回の燃料噴射がされることがある。この場合、筒内噴射弁が噴射した燃料がピストンに直接的に付着してしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、気筒内を往復運動するピストンと、前記気筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁と、前記気筒内の混合気に点火を行う点火プラグと、前記気筒からの排気が流れる排気通路と、前記排気通路に設けられている触媒と、を備える内燃機関に適用され、前記点火プラグの点火時期を圧縮上死点よりも遅角側とすることにより前記触媒の暖機を促進する触媒暖機処理と、1回の燃焼に供される燃料の量を要求噴射量としたとき、前記要求噴射量を前記筒内噴射弁から噴射するのに要する噴射回数を決定するとともに、各回の燃料の噴射時期を決定する噴射制御処理と、を実行し、前記噴射制御処理で決定される最終回の燃料の噴射時期を最終噴射時期としたとき、前記噴射制御処理では、前記触媒暖機処理中に前記点火時期が前記圧縮上死点よりも遅角側の時期として予め規定された規定時期よりも遅角側になり、且つ、前記噴射回数として複数回が決定された場合には、前記規定時期以後で前記点火時期以前の時期に、前記最終噴射時期を設定する内燃機関の制御装置である。
【0007】
上記構成によれば、触媒暖機処理によって点火時期が規定時期よりも遅角側となった場合であっても、最終噴射時期は、規定時期以後で点火時期以前の時期に設定される。規定時期よりも遅角側の時期には、ピストンの位置は、上死点の位置から相当に離れている。そのため、最終回の噴射による燃料がピストンに直接的に付着することを抑制できる。
【0008】
上記内燃機関の制御装置において、前記噴射制御処理では、前記最終噴射時期を前記点火時期と同じ時期に決定してもよい。
上記構成によれば、最終回の噴射は、規定時期以後で点火時期以前の時期のち、ピストンの位置が上死点から最も離れたタイミングで行われる。よって、最終回の噴射による燃料が、ピストンに直接的に付着することをより好適に抑制できる。
【0009】
上記内燃機関の制御装置において、前記噴射制御処理では、前記最終噴射時期を前記規定時期と同じ時期に決定してもよい。
上記構成によれば、最終噴射時期から点火時期までに、最終回の噴射で噴射された燃料を点火プラグの先端の近傍に届けるまでに十分な時間を確保できる。よって、点火プラグで点火するときに、点火プラグの先端の近傍において、点火に適した燃料濃度の混合気が生じやすい。
【0010】
上記内燃機関の制御装置において、前記内燃機関の冷却水温が低いほど前記規定時期を進角側の時期に決定する規定処理をさらに実行してもよい。
上記構成では、冷却水温が低いほど、気筒内の燃焼は不安定になる。上記実施形態によれば、規定処理によって、冷却水温が低いほど、規定時期を進角側の時期に規定している。つまり、最終噴射時期を規定時期以後で点火時期以前の時期に設定する処理が実行されやすくなっている。したがって、冷却水温が低い場合に、最終回の噴射により噴射された燃料がピストンに付着して気筒内の燃焼が不安定になることを防げる。また、最終噴射時期が点火時期に相当に近いため、点火プラグによる燃料の点火が過度に不安定化することもない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、内燃機関を示す概略図である。
図2図2は、内燃機関の始動時制御の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示すように、内燃機関20は、シリンダブロック21と、シリンダヘッド22と、ピストン23と、気筒24と、を有している。気筒24は、シリンダブロック21の内部に区画されている円柱状の空間である。気筒24の中心軸に沿う方向における両端は、シリンダブロック21の外部に開口している。ピストン23は、気筒24内に配置されている。ピストン23は、気筒24内を往復運動する。ピストン23の頂面は、気筒24の中心軸に沿う方向の第1端を向いている。シリンダヘッド22は、シリンダブロック21に連結している。シリンダヘッド22は、凹部25を有している。凹部25は、シリンダヘッド22の外面で窪んでいる。凹部25は、気筒24の中心軸に沿う方向で、気筒24と向かい合っている。気筒24を区画するシリンダブロック21の壁面、凹部25の壁面、及びピストン23の頂面は、燃焼室Rを区画している。
【0013】
内燃機関20は、コネクティングロッド26と、クランク軸27と、を有している。コネクティングロッド26は、ピストン23に連結している。コネクティングロッド26は、ピストン23を挟んでシリンダヘッド22とは反対方向に延びている。クランク軸27は、コネクティングロッド26に連結している。コネクティングロッド26及びクランク軸27は、ピストン23の往復直線運動を回転運動に変換する。
【0014】
内燃機関20は、吸気ポート28を有している。吸気ポート28は、シリンダヘッド22の内部に区画されている空間である。吸気ポート28の第1端は、凹部25に向けて開口している。吸気ポート28の第2端は、シリンダヘッド22の外部に向けて開口している。
【0015】
内燃機関20は、排気ポート29を有している。排気ポート29は、シリンダヘッド22の内部に区画されている空間である。排気ポート29の第1端は、凹部25に向けて開口している。排気ポート29の第2端は、シリンダヘッド22の外部に向けて開口している。
【0016】
内燃機関20は、吸気バルブ30と、排気バルブ31と、を備えている。吸気バルブ30は、吸気ポート28の第1端を開閉する弁である。排気バルブ31は、排気ポート29の第1端を開閉する弁である。
【0017】
なお、図1では、燃焼室Rと、当該燃焼室Rに関連する構成と、を1組のみ図示しているが、内燃機関20は、これらの構成を複数組備えている。
内燃機関20は、外気を吸入するための吸気通路41を備えている。吸気通路41は、吸気ポート28の第2端に接続している。吸気通路41は、スロットルバルブ42を収容している。スロットルバルブ42は、弁開度の変更を通じて、吸気通路41を流れる空気の流量である吸入空気量GAを調整する。吸気通路41から吸入された空気は、吸気ポート28を介して、燃焼室Rに流れ込む。
【0018】
内燃機関20は、筒内噴射弁44を備えている。筒内噴射弁44は、シリンダヘッド22に取り付けられている。筒内噴射弁44の先端は、燃焼室Rに位置している。筒内噴射弁44は、吸気ポート28を介することなく直接的に燃焼室Rに燃料を噴射する。
【0019】
内燃機関20は、点火プラグ45を備えている。点火プラグ45は、シリンダヘッド22に取り付けられている。点火プラグ45は、吸気ポート28と排気ポート29との間に位置している。点火プラグ45の先端は、筒内噴射弁44の先端の近傍に位置している。点火プラグ45は、燃焼室Rに導入された混合気をスパークにより点火する。すなわち、点火プラグ45は、気筒24内の混合気に点火を行う。
【0020】
内燃機関20は、燃焼室Rでの燃焼により生じた排気が流通する排気通路51を備えている。すなわち、排気通路51には、気筒24からの排気が流れる。また、排気通路51は、排気ポート29の第2端に接続している。
【0021】
内燃機関20は、触媒52を備えている。触媒52は、排気通路51の途中に設けられている。触媒52は、三元触媒であり、排気中に含まれる炭化水素、一酸化炭素及び窒素酸化物を浄化する。また、触媒52は、酸素吸蔵能力を有している。
【0022】
内燃機関20は、フィルタ53を備えている。フィルタ53は、排気通路51のうちの触媒52から視て下流側に位置している。フィルタ53は、排気中に含まれる粒子状物質を捕集する。
【0023】
内燃機関20を搭載する車両は、クランク角センサ91を備えている。クランク角センサ91は、クランク軸27の近傍に位置している。クランク角センサ91は、クランク軸27の回転位相SCを検出する。
【0024】
車両は、エアフロメータ92を備えている。エアフロメータ92は、吸気通路41におけるスロットルバルブ42から視て上流側に位置している。エアフロメータ92は、吸気通路41を流通する空気の流量である吸入空気量GAを検出する。
【0025】
車両は、冷却水温度センサ93を備えている。冷却水温度センサ93は、内燃機関20を冷却する冷却水の温度である冷却水温TWを検出する。
車両は、運転スイッチ94を備えている。運転スイッチ94は、内燃機関20の駆動を開始させるときにオン操作されるとともに、内燃機関20の駆動を停止させるときにオフ操作さるスイッチである。
【0026】
上記の内燃機関20を搭載している車両は、制御装置100を備えている。制御装置100は、内燃機関20を制御対象としている。制御装置100は、クランク軸27の回転位相SCを示す信号を、クランク角センサ91から取得する。制御装置100は、吸入空気量GAを示す信号を、エアフロメータ92から取得する。制御装置100は、冷却水温TWを示す信号を冷却水温度センサ93から取得する。制御装置100は、内燃機関20の駆動を開始させるオン信号及び内燃機関20の駆動を停止させるオフ信号を、運転スイッチ94から取得する。
【0027】
制御装置100は、CPU101、周辺回路102、ROM103、記憶装置104、及びバス105を備えている。バス105は、CPU101、周辺回路102、ROM103、及び記憶装置104を互いに通信可能に接続している。周辺回路102は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路、リセット回路等を含む。ROM103は、CPU101が各種の制御を実行するための各種のプログラムを予め記憶している。CPU101は、ROM103に記憶された各種のプログラムを実行することにより、内燃機関20を制御対象として、特に筒内噴射弁44及び点火プラグ45を制御する。
【0028】
(点火時期制御について)
制御装置100は、点火プラグ45を制御対象として、点火時期制御を実行する。点火時期制御では、CPU101は、機関負荷KL、機関回転速度NEに基づいて、内燃機関20の点火時期TAを算出する。そして、CPU101は、点火時期TAにおいて点火プラグ45による点火作動が行われるように、点火プラグ45の作動を制御する。なお、本実施形態では、機関負荷KLとして、吸入空気量GAを機関回転速度NEによって除算した値が用いられる。CPU101は、クランク角センサ91から取得した回転位相SCに基づいて機関回転速度NEを算出する。
【0029】
本実施形態では、CPU101は、点火時期制御として、通常処理と、触媒暖機処理と、を実行する。なお、以下では、圧縮上死点を「0」として、圧縮上死点前に設定される点火時期TAを正の値とし、圧縮上死点後に設定される点火時期TAを負の値とする。したがって、進角側に設定されるほど点火時期TAの値は大きくなる。
【0030】
CPU101は、触媒暖機処理を実行しない場合、通常処理を実施する。通常処理では、CPU101は、機関負荷KL及び機関回転速度NEに基づいて、基本点火時期TBを算出する。そして、CPU101は、基本点火時期TBを、点火時期TAとして算出する。
【0031】
CPU101は、内燃機関20の冷間始動時において、点火プラグ45の点火時期TAを圧縮上死点よりも遅角側とすることにより触媒52の暖機を促進する触媒暖機処理を実行する。CPU101は、始動時の冷却水温TWが規定温度以下の場合、冷間始動時であるとして、触媒暖機処理を実行する。
【0032】
触媒暖機処理では、CPU101は、先ず、機関負荷KL及び機関回転速度NEに基づいて、基本点火時期TBを算出する。次に、CPU101は、基本点火時期TBに、予め規定されている遅角補正量ARを加算して点火時期TAを算出する。遅角補正量ARは、負の値でありその値が小さくなるほど、つまり絶対値が大きくなるほど補正後の点火時期TAはより遅角側の時期に設定される。そのため、触媒暖機処理では、通常処理の場合と比べて、算出される点火時期TAが遅角側の時期に設定される。さらに、遅角補正量ARは、基本点火時期TBに加算して算出した点火時期TAが圧縮上死点よりも遅角側の時期となるように設定されている。そのため、触媒暖機処理において算出される点火時期TAは、圧縮上死点よりも遅角側の時期として算出される。
【0033】
そして、触媒暖機処理では、CPU101は、遅角補正量ARを加算して算出した点火時期TAに点火するように、点火プラグ45を操作する。これにより、点火プラグ45の点火時期TAを圧縮上死点よりも遅角側とすることにより、触媒52の暖機を促進する。
【0034】
(噴射制御処理について)
制御装置100は、筒内噴射弁44を制御対象として、噴射制御処理を実行する。噴射制御処理では、CPU101は、先ず、1回の燃焼に供される燃料の量である要求噴射量を算出する。CPU101は、機関負荷KL及び機関回転速度NEに基づいて要求噴射量を算出する。
【0035】
次に、CPU101は、要求噴射量を筒内噴射弁44から噴射するのに要する噴射回数を決定するとともに、各回の燃料の噴射時期を決定する。本実施形態では、CPU101は、ROM103に予め記憶されている複数回噴射、又は1回噴射を選択することで、噴射回数及び噴射時期を決定する。
【0036】
1回噴射の噴射回数は1回である。そのため、1回噴射の1回目の噴射における噴射量は、要求噴射量である。1回噴射の1回目の噴射の噴射時期は、圧縮上死点よりも前の時期、例えば圧縮上死点前160度である。なお、上述したとおり、1回噴射の場合には、触媒暖機中か否かで点火時期TAが変更される。
【0037】
複数回噴射の噴射回数は2回であり、各回の噴射量及び噴射時期は、以下のように定められている。1回目の噴射における噴射量は、要求噴射量の97%の量である。1回目の噴射の噴射時期は、圧縮上死点前160度である。2回目、すなわち最終回の噴射における噴射量は、要求噴射量の3%の量である。2回目の噴射の時期である最終噴射時期は、予め規定された規定時期ST以後で点火時期TA以前の時期に定められている。この実施形態では、最終噴射時期は、点火時期TAと同じ時期である。なお、規定時期STは、圧縮上死点よりも遅角側の時期として定められた時期であり、詳細は後述する。
【0038】
(始動時制御について)
以下、制御装置100の内燃機関20の始動時における点火時期制御処理及び噴射制御処理について説明する。CPU101は、運転スイッチ94からオン信号を取得すると、図2に示す一連の始動時制御を開始する。
【0039】
図2に示すように、CPU101は、始動時制御を開始すると、先ず、CPU101は、ステップS11の処理を実行する。ステップS11では、CPU101は、触媒暖機条件を満たしているか否かを判定する。具体的には、CPU101は、冷却水温TWを予め規定された規定温度と比較する。規定温度は、例えば数℃~十数℃である。そして、CPU101は、冷却水温TWが規定温度以下である場合、冷間始動時である、すなわち触媒暖機条件を満たしていると判定する。CPU101は、冷却水温TWが規定温度を超えている場合、触媒暖機条件を満たしていないと判定する。この場合(S11:NO)、今回の始動時制御においては触媒暖機処理を行わないとして、処理を、ステップS21に進める。
【0040】
ステップS21では、CPU101は、点火時期TAを算出する。ステップS21では、通常処理を選択することによって、点火時期TAを算出する。すなわち、上述したように、CPU101は、機関負荷KL及び機関回転速度NEに基づいて、基本点火時期TBを算出する。そして、CPU101は、基本点火時期TBを、点火時期TAとして算出する。その後、CPU101は、処理をステップS22に進める。
【0041】
ステップS22では、CPU101は、噴射制御処理として、1回噴射を選択する。これにより、CPU101は、1回噴射の噴射回数及び噴射時期を決定する。つまり、この場合の噴射回数は1回であり、噴射時期は160度である。その後、CPU101は、今回の始動時制御における一連の処理を終了する。
【0042】
一方で、CPU101は、冷却水温TWが規定温度以下であり、触媒暖機条件を満たしていると判定する場合(S11:YES)、処理を、ステップS12に進める。
ステップS12では、CPU101は、噴射制御処理として、点火時期TAを算出する。CPU101は、触媒暖機処理を選択することによって、点火時期TAを算出する。すなわち、上述したように、CPU101は、基本点火時期TBに、予め規定されている遅角補正量ARを加算して点火時期TAを算出する。その後、処理をステップS13に進める。
【0043】
ステップS13では、CPU101は、規定時期STを算出する規定処理を実行する。規定処理では、CPU101は、冷却水温TWに基づいて、圧縮上死点よりも遅角側の時期として規定時期STを算出する。CPU101は、冷却水温TWが低いほど、進角側の時期となるように規定時期STを算出する。本実施形態では、冷却水温TWに拘わらず、規定時期STは、圧縮上死点後15度以上遅角側の時期として算出される。つまり、規定時期STの最大値は、-15度である。その後、CPU101は、処理をステップS14に進める。
【0044】
ステップS14では、CPU101は、点火時期TAが規定時期STよりも遅角側か否かを判定する。点火時期TAが規定時期STよりも遅角側である場合(S14:YES)、CPU101は、処理をステップS15に進める。
【0045】
ステップS15では、CPU101は、噴射制御処理として、複数回噴射を選択する。複数回噴射が選択された場合には、CPU101は、筒内噴射弁44及び点火プラグ45を制御することで、筒内噴射弁44及び点火プラグ45は、複数回噴射を行う。つまり、CPU101は、触媒暖機中に、点火時期TAが規定時期STよりも遅角側になったことを条件に、噴射回数として複数回を決定する。
【0046】
具体的には、CPU101は、噴射回数を2回と設定する。CPU101は、1回目の噴射について、噴射時期を圧縮上死点前160度とするとともに、噴射量を要求噴射量の97%の量とする。また、CPU101は、2回目、すなわち最終回の噴射について、噴射時期を規定時期ST以後で点火時期TA以前の時期とするとともに、噴射量を要求噴射量の3%の量とする。特に、CPU101は、最終回の噴射の時期である最終噴射時期が点火時期TAと同じ時期となるように、筒内噴射弁44を操作する。なお、最終回の噴射による燃料が、点火プラグ45の先端付近で放電の誘因となるように、CPU101は、筒内噴射弁44を操作する。
【0047】
一方で、点火時期TAが規定時期STよりも遅角側でない場合(S14:NO)、CPU101は、処理をステップS16に進める。
ステップS16では、CPU101は、噴射制御処理として、1回噴射を選択する。そして、CPU101は、筒内噴射弁44及び点火プラグ45を制御することで、筒内噴射弁44及び点火プラグ45は、1回噴射を行う。
【0048】
具体的には、CPU101は、噴射回数を1回と設定する。CPU101は、噴射時期を圧縮上死点前160度とするとともに、噴射量を要求噴射量として、筒内噴射弁44を操作する。そして、CPU101は、点火時期TAに点火するように、点火プラグ45を操作する。なお、このときの点火時期TAは、ステップS12で決定した点火時期TA、すなわち、基本点火時期TBに遅角補正量ARを加算した時期である。このように、本実施形態の始動時制御においては、ステップS12における点火時期TAの算出と、ステップS15又はステップS16の点火プラグ45の操作と、が触媒暖機処理を構成している。
【0049】
CPU101は、ステップS15の処理が完了後、又はステップS16の処理が完了後、処理をステップS17に進める。ステップS17では、CPU101は、触媒暖機終了条件を満たしているか否かを判定する。触媒暖機終了条件は、触媒52の温度が十分に高くなったか否かを示す条件である。触媒暖機終了条件は、例えば、触媒52の温度が規定温度以上になったことや、規定回数だけS15の複数回噴射の処理を行ったことである。
【0050】
触媒暖機終了条件を満たしていない場合(S17:NO)、CPU101は、処理をステップS12に戻す。一方で、触媒暖機終了条件を満たしている場合(S17:YES)、CPU101は、今回の始動時制御の一連の処理を終了する。つまり、触媒暖機中とは、図2に示す一連の始動時制御において、ステップS11で肯定判定してから、ステップS17で肯定判定されるまでの間の状態をいう。
【0051】
(実施形態の作用について)
複数回噴射によれば、最終回の噴射による少量の燃料が、点火プラグ45近傍に位置している状態で、点火プラグ45が点火する。そのため、最終回の噴射による燃料が火種となって燃焼が燃焼室Rに伝播していく。つまり、複数回噴射によれば、燃焼室Rにおける燃焼が安定する。
【0052】
一方で、最終回の噴射による燃料は、点火されるまでの時間が相当に短い。なお且つ、最終噴射時期におけるピストン23の位置が、圧縮上死点に近い。そのため、噴射された燃料がピストン23に直接的に付着することがある。ピストン23が燃料で濡れた状態で燃焼が始まると、煤等の粒子状物質が増加してしまう。
【0053】
(実施形態の効果について)
(1)上記実施形態によれば、制御装置100は、触媒暖機処理によって、点火時期TAが規定時期STよりも遅角側の時期となった場合に、複数回噴射を選択する。そのため、点火時期TAが規定時期STよりも遅角側の時期となった場合には、噴射回数として複数回が決定される。そして、複数回噴射における最終噴射時期は、規定時期ST以後で点火時期TA以前の時期と設定される。
【0054】
仮に、ピストン23の位置が規定時期STでの位置よりも上死点側であると、ピストン23の頂面と筒内噴射弁44との距離が近い。そのため、筒内噴射弁44から噴射された燃料がピストン23の頂面に付着しやすい。上記実施形態によれば、複数回噴射における最終回の噴射が行われるタイミングでは、規定時期STよりも遅角側の時期である。そのため、ピストン23の位置は、筒内噴射弁44から相当に離れている。よって、上記実施形態によれば、複数回噴射における最終回の噴射による燃料が、ピストン23に直接的に付着することを抑制できる。
【0055】
(2)上記実施形態によれば、CPU101は、最終噴射時期を点火時期TAと同じ時期に決定している。そのため、複数回噴射における最終の噴射は、規定時期ST以後で点火時期TA以前の時期のうち、ピストン23の位置が最も上死点から離れたタイミングで行われる。よって、最終回の噴射による燃料が、ピストン23に直接的に付着することをより好適に抑制できる。
【0056】
(3)内燃機関20においては、冷却水温TWが低いほど、燃料の霧化及び揮発が起こりにくくなること等に起因して、燃焼室Rにおける燃焼が不安定になる。上記実施形態では、規定処理によって、冷却水温TWが低いほど、規定時期STを進角側の時期に規定している。つまり、冷却水温TWが低いほど、上述したステップS15の複数回噴射が実行されやすくなる。複数回噴射が実行されると、噴射回数として2回が決定され、且つ、最終噴射時期が点火時期TAと同じ時期に決定される。このように最終噴射時期を点火時期TAに合わせることで、冷却水温TWが低い状態でも、安定して燃料を燃焼できる。
【0057】
(4)上記実施形態によれば、規定時期STは、圧縮上死点後15度以上遅角側の時期である。そのため、規定時期STにおいて、ピストン23の位置が上死点の位置から相当に離れている。そのため、最終回の噴射による燃料がピストン23に付着することをより確実に抑制できる。
【0058】
(5)上記実施形態によれば、最終回の噴射の噴射量は、要求噴射量の3%以下の噴射量である。そのため、最終回の噴射の噴射量は、相当に少ない。よって最終回の噴射による燃料が少ないことで、ピストン23に付着する燃料の量を抑えやすくなる。
【0059】
<その他の実施形態>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0060】
・噴射制御処理における最終回の噴射における噴射量は、上記実施形態の例に限られない。最終回の噴射の噴射量は、要求噴射量の10%以下であれば、最終の噴射による噴射量を相当に少なくすることで、ピストン23に直接的に付着する量を抑えやすい。また、最終回の噴射の噴射量は、要求噴射量の10%より多くてもよい。さらに、最終回の噴射の噴射量は、要求噴射量の量に拘わらず、一定値として定められていてもよい。
【0061】
・規定時期STは、圧縮上死点よりも遅角側であればよい。つまり、規定時期STは、-15度より大きくてもよい。規定時期STが進角側となるほど、CPU101が、複数回噴射を選択できる機会が増える。そのため、触媒暖機中の燃焼を安定化させるためには、規定時期STは「0」に近い方が好ましい。
【0062】
・規定処理は省かれてもよい。この場合、規定時期STは、冷却水温TWに拘わらず一定に定められていてもよい。例えば、規定時期STは、冷却水温TWに拘わらず圧縮上死点よりも17度遅角側の時期として定められていてもよい。
【0063】
・点火時期TAが規定時期ST以前の時期である場合(ステップS14:NO)に、燃料の噴射回数として複数回を決定してもよい。ただし、この場合であっても、ピストン23に燃料が付着するのを防ぐために、最終噴射時期を、ピストン23が圧縮上死点に位置する時期から規定時期STまでの時期以外の時期に決定する必要がある。つまり、この変更例の場合、例えば、最終噴射時期を、ピストン23が圧縮上死点に位置する時期よりも進角側の時期に定めればよい。
【0064】
・噴射制御処理において、最終噴射時期は、点火時期TAと同じ時期でなくてもよい。最終噴射時期は、規定時期ST以後で点火時期TA以前の時期に決定すればよい。例えば、噴射制御処理では、最終噴射時期を規定時期STと同じ時期に決定してもよい。この場合、最終噴射時期は、規定時期ST以後で点火時期TA以前の時期のうち、最も進角側となる。そのため、噴射時期から点火時期TAまでに、最終回の噴射における燃料を点火プラグ45の先端の近傍に届けるまでに十分な時間を確保できる。よって、複数回噴射の最終回の噴射における火種を安定的に発生させやすい。
【0065】
・上記実施形態において、複数回噴射は、要求噴射量を筒内噴射弁44から噴射するのに要する噴射回数を2回としているが、噴射回数は3回以上であっても構わない。噴射回数が3回以上であっても、最終回の噴射における噴射時期である最終噴射時期が規定時期ST以後で点火時期TA以前の時期であればよい。
【0066】
・触媒暖機条件は、上記実施形態の例に限られない。触媒暖機条件は、例えば、触媒52の温度が予め定められた温度以下であることとしてもよい。この場合であっても、触媒52を暖機する必要があることを判定できる。
【0067】
・触媒暖機終了条件は、上記実施形態の例に限られない。触媒暖機終了条件は、例えば、内燃機関20の始動後の吸入空気量GAの積算値が、所定量に達することや、内燃機関20の始動後の経過時間が所定時間に達したこととしてもよい。これらの場合には、触媒52が暖機されたと推定できるため、触媒暖機処理を終了する条件として設定できる。
【0068】
・上記実施形態では、始動時制御を例として、触媒暖機処理及び噴射制御処理について説明したが、触媒暖機処理及び噴射制御処理は、内燃機関20の再始動時に行われてもよい。
【0069】
・制御装置100としては、CPU101とROM103とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、制御装置100は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【符号の説明】
【0070】
20…内燃機関
23…ピストン
24…気筒
44…筒内噴射弁
45…点火プラグ
51…排気通路
52…触媒
100…制御装置
図1
図2